(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】回転慣性質量ダンパー
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20240219BHJP
F16F 7/10 20060101ALI20240219BHJP
F16H 25/20 20060101ALI20240219BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20240219BHJP
E04H 9/02 20060101ALN20240219BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F7/10
F16H25/20 E
F16H25/22 Z
E04H9/02 341A
(21)【出願番号】P 2020107640
(22)【出願日】2020-06-23
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 充
(72)【発明者】
【氏名】石井 大吾
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-037005(JP,A)
【文献】特開2010-090926(JP,A)
【文献】特開2011-106515(JP,A)
【文献】特開2001-193312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00-15/36
F16F 7/00-7/14
F16H 19/00-37/16
F16H 49/00
E04H 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに近接離反する方向に相対変位する2部材の間に設置され、前記2部材の間に生じる相対加速度により力を生じる回転慣性質量ダンパーにおいて、
外周面にねじが形成されるとともに、前記2部材のうちいずれか一方の部材に固定されたボールねじと、
前記ボールねじのねじに同軸に螺合して回転すると共に、前記2部材のうち他方の部材に対して回転可能に支持されたボールナットと、
前記ボールナットと共に前記ボールねじの軸線を回転軸として回転する回転錘と、を有し、
前記回転錘は、
所定の質量を有する第1錘部と、
前記第1錘部と連結され、前記回転錘の質量を付加可能な第2錘部と、を有
し、
前記第2錘部は、空洞部が形成され、
前記空洞部には、前記回転錘の質量を付加する質量調整材を設置可能に構成されていることを特徴とする回転慣性質量ダンパー。
【請求項2】
前記第1錘部は、鋼製であり、
前記質量調整材は、前記空洞部に充填可能なコンクリートであることを特徴とする請求項
1に記載の回転慣性質量ダンパー。
【請求項3】
前記第1錘部は、前記ボールナットと同軸となる円筒状に形成され、
前記空洞部は、前記ボールナットと同軸となる円筒状に形成されていることを特徴とする請求項
1または
2に記載の回転慣性質量ダンパー。
【請求項4】
互いに近接離反する方向に相対変位する2部材の間に設置され、前記2部材の間に生じる相対加速度により力を生じる回転慣性質量ダンパーにおいて、
外周面にねじが形成されるとともに、前記2部材のうちいずれか一方の部材に固定されたボールねじと、
前記ボールねじのねじに同軸に螺合して回転すると共に、前記2部材のうち他方の部材に対して回転可能に支持されたボールナットと、
前記ボールナットと共に前記ボールねじの軸線を回転軸として回転する回転錘と、を有し、
前記回転錘は、
所定の質量を有する第1錘部と、
前記第1錘部と連結され、前記回転錘の質量を付加可能な第2錘部と、を有
し、
前記第1錘部と、前記第2錘部と、が前記軸線に沿って並んで配置されていることを特徴とする回転慣性質量ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転慣性質量ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
回転慣性質量ダンパーは、ねじ軸(ボールねじ)とボールナットからなるボールねじ機構、および回転錘等から構成される質量系の制振装置(制振ダンパー)である(例えば、特許文献1参照)。回転慣性質量ダンパーの特徴は、ボールねじ機構により軸方向運動が軸まわりの回転運動に変換される時の回転慣性質量により、錘実質量の4,500~7,000倍の等価慣性質量が得られることである。
回転慣性質量ダンパーが大きな等価慣性質量を発揮することを利用し、回転慣性質量ダンパーに軸ばね装置を組み合わせ、シアリンクブレース等の取付け部材を介し、建物の層間に設置することで、主架構とは別の付加振動系を形成することができる。この付加振動系の固有周期を主架構の水平固有周期に同調させることで、制振効果を発揮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、主架構の水平固有周期は、竣工後建物の供用が開始され、積載荷重が作用して初めて実際の値の算出が可能となる。特に鉄筋コンクリート造では、コンクリートの経年変化に伴い供用中に水平固有周期の値は変動(主に長周期化)する。従って、設計段階で定めた回転慣性質量の値のままでは主架構の水平固有周期と必ずしも同調せず、適切にチューニングを行うことが望ましい。
長周期側にチューニングを行う場合、ばねの剛性を減少させるか慣性質量を増大させる必要があるが、一般的に軸ばね装置は皿ばね等の並列配置で構成されるため、ばねの剛性の減少は耐力の減少を伴う。よって、慣性質量を増大させることが望ましいが、従来の回転慣性質量ダンパーではその慣性質量の値を変更するためにはダンパーを取り換える必要があり、コスト・手間がかかるという問題がある。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、容易かつ安価にチューニングを行うことができる回転慣性質量ダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る回転慣性質量ダンパーは、互いに近接離反する方向に相対変位する2部材の間に設置され、前記2部材の間に生じる相対加速度により力を生じる回転慣性質量ダンパーにおいて、外周面にねじが形成されるとともに、前記2部材のうちいずれか一方の部材に固定されたボールねじと、前記ボールねじのねじに同軸に螺合して回転すると共に、前記2部材のうち他方の部材に対して回転可能に支持されたボールナットと、前記ボールナットと共に前記ボールねじの軸線を回転軸として回転する回転錘と、を有し、前記回転錘は、所定の質量を有する第1錘部と、前記第1錘部と連結され、前記回転錘の質量を付加可能な第2錘部と、を有し、前記第2錘部は、空洞部が形成され、前記空洞部には、前記回転錘の質量を付加する質量調整材を設置可能に構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明では、回転錘は、回転錘の質量を付加可能な第2錘部を有していることにより、第2錘部を設置することで回転錘の質量を調整することができる。
このため、建物の水平固有周期が設計段階と建物の供用後とで異なる場合にも、回転錘の質量を調整することで回転慣性質量ダンパーの固有周期を、供用後の建物の水平固有周期に同調するようにチューニングすることができる。また、建物の経年変化に伴い、建物の水平固有周期が変動した場合(特に長周期化した場合)にも、回転錘の質量を調整することで回転慣性質量ダンパーの固有周期を建物の水平固有周期に同調するようにチューニングすることができる。
このように、回転慣性質量ダンパーを交換したり、ばねなどの部材を追加したりせずに回転慣性質量ダンパーの固有周期を建物の水平固有周期に同調させることができるため、回転慣性質量ダンパーのチューニングを容易かつ安価に行うことができる。
【0008】
また、第2錘部の空洞部に質量調整材を設置することで回転錘の質量を容易に調整することができる。
【0009】
また、本発明に係る回転慣性質量ダンパーでは、前記第1錘部は、鋼製であり、前記質量調整材は、前記空洞部に充填可能なコンクリートであってもよい。
このような構成とすることにより、第1錘部よりも比重の軽いコンクリートの質量調整材を空洞部に充填するため、チューニングを行う際に回転錘の質量の細かい調整を行うことができる。
【0010】
また、本発明に係る回転慣性質量ダンパーでは、前記第1錘部は、前記ボールナットと同軸となる円筒状に形成され、前記空洞部は、前記ボールナットと同軸となる円筒状に形成されていてもよい。
このような構成とすることにより、回転錘を、回転慣性質量ダンパーの回転方向(径方向)に質量の偏在が無い構造とすることができる。
本発明に係る回転慣性質量ダンパーは、互いに近接離反する方向に相対変位する2部材の間に設置され、前記2部材の間に生じる相対加速度により力を生じる回転慣性質量ダンパーにおいて、外周面にねじが形成されるとともに、前記2部材のうちいずれか一方の部材に固定されたボールねじと、前記ボールねじのねじに同軸に螺合して回転すると共に、前記2部材のうち他方の部材に対して回転可能に支持されたボールナットと、前記ボールナットと共に前記ボールねじの軸線を回転軸として回転する回転錘と、を有し、前記回転錘は、所定の質量を有する第1錘部と、前記第1錘部と連結され、前記回転錘の質量を付加可能な第2錘部と、を有し、前記第1錘部と、前記第2錘部と、が前記軸線に沿って並んで配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、容易かつ安価に回転慣性質量ダンパーのチューニングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態による回転慣性質量ダンパーの軸線に沿った断面図である。
【
図3】回転慣性質量ダンパーの諸元を示す表である。
【
図4】空洞率と同調可能周期倍率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態による回転慣性質量ダンパーについて、
図1-
図4に基づいて説明する。
図1に示す本実施形態による回転慣性質量ダンパー1は、建物の柱と梁との間など、互いに近接離反する方向に相対変位する2部材の間に設置されている。回転慣性質量ダンパー1は、2部材の間に生じる相対加速度により力を生じる装置である。2部材のうちの回転慣性質量ダンパー1の軸線方向(図の矢印Aの方向)の一方側(
図1の右側)に位置する部材を第1部材11とし、回転慣性質量ダンパー1の軸線方向の他方側(
図1の左側)に位置する部材を第2部材12とする。回転慣性質量ダンパー1は、その軸線方向が第1部材11と第2部材12とが相対変位する方向となるように設置される。
【0014】
回転慣性質量ダンパー1は、外筒2と、ボールねじ3と、ボールナット4と、回転錘5と、を有している。
外筒2は、円筒状に形成され、内部にボールねじ3、ボールナット4および回転錘5が配置される。外筒2、ボールねじ3、ボールナット4および回転錘5は、同軸に配置される。これらの軸線が延びる方向が回転慣性質量ダンパー1の軸線方向となっている。
外筒2は、軸線方向の他方側の端部が軸受け部材6を介して第2部材12に固定されている。
【0015】
ボールねじ3は、棒状に形成され、外周面にねじが形成されたねじ軸31と、ねじ軸31のねじに沿って配置された複数のボール32と、を有している。ねじ軸31は、軸線方向の一方側が外筒2の外部に配置され、軸線方向の他方側が外筒2の内部に配置されている。ねじ軸31は、軸線方向の一方側の端部が第1部材11に固定されている。
ボールナット4は、ボールねじ3が挿通され、ボールねじ3のねじ軸31にボール32を介して螺合している。ボールナット4は、ボールねじ3の軸線(ねじ軸31の軸線)を回転軸として回転可能に構成されている。ボールナット4は、外筒2に対しても回転可能に構成されている。
【0016】
回転錘5は、円筒状に形成され、ボールねじ3が挿通されている。回転錘5は、ボールねじ3の軸線を回転軸として回転可能に構成されている。回転錘5は、外筒2に対しても回転可能に構成されている。回転錘5は、ボールナット4と連結されていて、ボールナット4とともにボールねじ3の軸線を回転軸として回転する。
回転錘5は、回転錘ケージ51、と第1錘部52と、第2錘部53と、を有している。
回転錘ケージ51は、円筒状に形成されている。回転錘ケージ51は、外筒2と同軸に配置される。回転錘ケージ51は、外周板部511と、内周板部512と、第1端板部513と、第2端板部514と、を有している。
【0017】
外周板部511は、円筒状に形成された板材で、回転錘ケージ51の外周部となる。内周板部512は、外周板部511よりも小径の円筒状に形成された板材で、外周板部511の内側に間隔をあけて外周板部511と同軸に配置されている。内周板部512は、回転錘ケージ51の内周部となる。
第1端板部513は、外周板部511および内周板部512の軸線方向の一方側の端部に接合され、外周板部511と内周板部512との間を塞いでいる。第2端板部514は、外周板部511および内周板部512の軸線方向の他方側の端部に接合され、外周板部511と内周板部512との間を塞いでいる。
回転錘ケージ51には、外周板部511、内周板部512、第1端板部513および第2端板部514に囲まれた錘収容部54が形成されている。
【0018】
錘収容部54には、第1錘部52および第2錘部53が収容されている。第1錘部52は、第2錘部53の軸線方向の他方側に配置されている。回転錘ケージ51、第1錘部52および第2錘部53は、一体に回転するように構成されている。第1錘部52と第2錘部53とは、直接または回転錘ケージ51を介して連結されている。
第1錘部52は、円筒状に形成され、ボールねじ3が挿通されている。第1錘部52は、鋼製で所定の質量を有している。
【0019】
第2錘部53は、錘収容部54における第1錘部52よりも軸線方向の一方側の領域(第2錘部設置領域541とする)に設けられている。
第2錘部53は、第2錘部設置領域541を軸線方向に3つに仕切る第1仕切り板部531および第2仕切り板部532を有している。
第1仕切り板部531および第2仕切り板部532は、それぞれ中心に内周板部512と略同じ径の孔部を有し、外形が外周板部511と略同じ径の円形の環状の板材である。
【0020】
第1仕切り板部531は、第2仕切り板部532よりも軸線方向の一方側に間隔をあけて配置されている。第1仕切り板部531は、第1端板部513の軸線方向の他方側に間隔をあけて設けられている。第2仕切り板部532は、第1錘部52の軸線方向の一方側に間隔をあけて設けられている。第1仕切り板部531および第2仕切り板部532は、外縁部が外周板部511に接合され、内縁部が内周板部512に接合されている。
【0021】
第2錘部設置領域541には、第1仕切り板部531と第1端板部513との間の第1空洞部533aと、第1仕切り板部531と第2仕切り板部532との間の第2空洞部533bと、第2仕切り板部532と第1錘部52との間の第3空洞部533cが形成されている。第1空洞部533a、第2空洞部533bおよび第3空洞部533cは、それぞれ回転錘5の質量を付加するための質量調整材534を設置可能に構成されている。以下では、第1空洞部533a、第2空洞部533bおよび第3空洞部533cを合わせて空洞部533と表記することがある。
質量調整材534は、コンクリートやモルタルなどの流動性を有する材料で構成され、回転錘5の質量を付加する場合に第1空洞部533a、第2空洞部533bおよび第3空洞部533cの何れか1つ以上に充填される。質量調整材534は、第1空洞部533a、第2空洞部533bおよび第3空洞部533cそれぞれに対して、全体に充填されてもよいし、各空洞部の体積よりも少ない量だけ充填されてもよい。
【0022】
図2に第2空洞部533bを示す。第2空洞部533bを形成している部分の外周板部511には、第2空洞部533bに質量調整材534を注入するための注入口551と、余剰の質量調整材534を吐出するための吐出口552と、注入口551および吐出口552を閉塞するための閉塞部材553と、を有している。注入口551は、外周板部511の下部側に設けられ、吐出口552は、外周板部511の上部側に設けられている。第2空洞部533b全体に質量調整材534を設置する際には、注入口551から質量調整材534を充填し、吐出口552から質量調整材534が吐出することを確認する。図示していないが、第1空洞部533aおよび第3空洞部533cにも、第2空洞部533bの注入口551および吐出口552と同様の注入口および吐出口が設けられている。
【0023】
図1に戻り、回転慣性質量ダンパー1を第1部材11と第2部材12との間に設置する初期状態では、回転錘5の錘収容部54に第1錘部52を設置し、第2錘部53の空洞部533には質量調整材534を充填(設置)していない状態とする。この初期状態の回転慣性質量ダンパー1の固有周期は、建物の設計段階で定めた構造物の水平固有周期と同調するように設定される。
建物の積載荷重の変化や、建物の経年変化(例えば、コンクリートの経年変化)に伴い、建物の水平固有周期が変動した場合(特に長周期化した場合)には、第2錘部53の第1空洞部533a、第2空洞部533bおよび第3空洞部533cの何れか1つ以上に質量調整材534を充填して回転錘5の質量を調整する。回転錘5の質量は、回転慣性質量ダンパー1の固有周期が、変動した後の構造物の水平固有周期と同調するように設定される。
【0024】
上述しているように、回転錘5には、鋼製の第1錘部52と、空洞部533が形成された第2錘部53とが配置されている。そして、第2錘部53の空洞部533は、初期状態では空いたままとなり、回転慣性質量ダンパー1のチューニングを行う際にコンクリートやモルタルなどの質量調整材534を充填している。これにより、回転錘ケージ51には、質量(慣性力)の偏在による曲げモーメントが作用することが想定される。このため、回転錘5は、上記の曲げモーメントを考量して設計することが好ましい。また、回転慣性質量ダンパー1は、想定される最大質量に対応するように設計される必要がある。
【0025】
回転錘5に対する空洞部533の体積率を空洞率とする。空洞率は、100%以下とし、チューニングを想定する周期により適切に設定する。本実施形態では、第1錘部52は、鋼製であり、空洞部533に充填される質量調整材534のコンクリートに比べ比重が重いため、空洞率が小さい方が効率的である。
【0026】
ここで、空洞率と回転錘の質量調整についての検討を行う。
検討では、回転錘の質量を調整可能な本実施形態の回転慣性質量ダンパーと、回転錘の質量を調整できない従来の回転慣性質量ダンパーとを比較する。
図3にそれぞれの回転慣性質量ダンパーの諸元を示す。
等価慣性質量は、回転錘が回転することにより増幅される見かけ上の質量を示している。設計では等価慣性質量が使用される。本実施形態の回転慣性質量ダンパーと、従来の回転慣性質量ダンパーとは同一の外形とする。
【0027】
本実施形態の回転慣性質量ダンパーの第1錘部(初期錘)を回転錘の体積の70%、第2錘部(将来錘)の空洞部を回転錘の体積の30%とする。また、第1錘部は、鉄で、比重を7.85g/cm3とする。第2錘部、コンクリートで、比重2.3g/cm3とする。なお、回転錘ケージ、第1仕切り板部および第2仕切り板部の体積は無視した。
本実施形態による回転慣性質量ダンパー(空洞率30%)の等価慣性質量は、同型の従来の回転慣性質量ダンパーに対し70%となるが、本実施形態による回転慣性質量ダンパーの同調可能周期は、初期の設定周期の√M倍である1.06倍に対応可能である。
【0028】
本実施形態による回転慣性質量ダンパーにおける空洞率と同調可能周期倍率との関係を
図4に示す。
空洞率30%の場合,調整に必要となるコンクリート量はダンパー1台当たり77.4kg(0.034m
3)である。このように、建物供用中にも本実施形態による回転慣性質量ダンパー1のチューニングを容易にかつ安価に行うことができる。
【0029】
建物の質量のうち積載荷重の占める割合は、一般的に10%~20%程度であることが多い。ここで、積載荷重満載時から満載時の50%までを同調可能範囲に含める場合、同調可能周期倍率は1.05~1.1程度とする必要があり、
図4より空洞率は20%~40%程度と設定すればよい。また、RC建物の経年変化による固有周期の変動は竣工時の固有周期を1とすると10年後に1.18~1.27程度に変化することが報告されている(例えば、以下の文献参照)。
中村尚弘他、「振幅依存性を考慮した中低層RC,SRC造建物の水平1次振動特性」、2016年3月、日本建築学会構造系論文集第81巻第721号、p.471-481
【0030】
したがって、経年変化による固有周期の変動に対し同調可能範囲を設定する場合、
図4より空隙率は60%~70%程度と設定することが好ましい。
【0031】
次に、本実施形態による回転慣性質量ダンパー1の作用・効果について説明する。
本実施形態による回転慣性質量ダンパー1では、回転錘5は、質量調整材534を設置可能な空洞部533が設けられた第2錘部53を有していることにより、第2錘部53の空洞部533に質量調整材534を設置することで回転錘5の質量を調整することができる。
このため、建物の水平固有周期が設計段階と建物の供用後とで異なる場合にも、回転錘5の質量を調整することで回転慣性質量ダンパー1の固有周期を、供用後の建物の水平固有周期に同調するようにチューニングすることができる。また、建物の経年変化に伴い、建物の水平固有周期が変動した場合(特に長周期化した場合)にも、回転錘5の質量を調整することで回転慣性質量ダンパー1の固有周期を建物の水平固有周期に同調するようにチューニングすることができる。
このように、回転慣性質量ダンパー1を交換したり、ばねなどの部材を追加したりせずに回転慣性質量ダンパー1の固有周期を建物の水平固有周期に同調させることができるため、回転慣性質量ダンパー1のチューニングを容易かつ安価に行うことができる。
【0032】
また、本実施形態による回転慣性質量ダンパー1では、第1錘部52は、鋼製であり、第2錘部53の空洞部533に充填される質量調整材534は、コンクリートやモルタルである。
このような構成とすることにより、第1錘部52よりも比重の軽いコンクリートの質量調整材534を空洞部533に充填するため、チューニングを行う際に回転錘5の質量の細かい調整を行うことができる。
また、本実施形態による回転慣性質量ダンパー1では、第1錘部52は、ボールナット4と同軸となる円筒状に形成され、空洞部533は、ボールナット4と同軸となる円筒状に形成されている。
このような構成とすることにより、回転錘5を、回転慣性質量ダンパー1の回転方向(径方向)に質量の偏在が無い構造とすることができる。
【0033】
以上、本発明による回転慣性質量ダンパー1の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、第2錘部53の空洞部533に設置される質量調整材534は、コンクリートやモルタルである。これに対し、質量調整材534は、鋼製の材料や、塊状のコンクリートであってもよい。
また、上記の実施形態では、第1錘部52は鋼製であるが、コンクリート製など鋼製以外であってもよい。
【0034】
また、上記の実施形態では、第2錘部53は、空洞部533は、回転錘の質量を付加する質量調整材534を充填する構成であるが、回転錘5の質量を付加する際にブロック状の第2錘部53を第1錘部52に連結する構成であってもよい。
また、上記の実施形態では、第1錘部52と第2錘部53とは、回転慣性質量ダンパー1の軸線方向に配列されているが、軸線に交差する方向などに配列されていてもよい。
例えば、
図5に示す回転錘5Bのように、第1錘部52Bの外周に現場打ちまたはプレキャストコンクリート等で構成された第2錘部53Bが第1錘部52Bに接合されてもよい。
このような場合に、第1錘部52Bおよび第2錘部53Bがそれぞれコンクリート部材であり、第2錘部53Bを第1錘部52Bにあと施工アンカー7で接合するようにしてもよい。このようにあと施工アンカー7を採用する場合は、回転錘5Bの回転による慣性力にて第2錘部53Bの脱落がないように、あと施工アンカー7の定着長を確保する必要がある。
【0035】
また、上記の実施形態では、第2錘部53は、付加する質量に応じて複数の錘を設置するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 回転慣性質量ダンパー
3 ボールねじ
4 ボールナット
5,5B 回転錘
11 第1部材
12 第2部材
31 ねじ軸
32 ボール
52,52B 第1錘部
53,53B 第2錘部
533 空洞部
533a 第1空洞部
533b 第2空洞部
533c 第3空洞部
534 質量調整材