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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】抽出用フィルター
(51)【国際特許分類】
   A47J 31/06 20060101AFI20240219BHJP
   D21H 13/24 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
A47J31/06
D21H13/24
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020124652
(22)【出願日】2020-07-21
(65)【公開番号】P2022021193
(43)【公開日】2022-02-02
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 大昭
(72)【発明者】
【氏名】豊田 純也
【審査官】木村 麻乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-177148(JP,A)
【文献】特開2011-157661(JP,A)
【文献】特開平10-216435(JP,A)
【文献】特開2008-303512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 31/06
D21H 13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ繊維20~80質量%と、ポリブチレンサクシネート樹脂を含むバインダー繊維20~80質量%と、125℃以上の融点を有する樹脂繊維0~45質量%とを含有する原料繊維により形成されるヒートシール層を有し、 坪量が10.0~60.0g/mであり、引張強度(縦方向)が0.30kN/m以上であり、透気度が0.30~6.0秒であることを特徴とする、抽出用フィルター。
【請求項2】
前記バインダー繊維がポリブチレンサクシネート樹脂単一繊維、又は、芯部がポリブチレンサクシネート繊維よりも融点が10℃以上高い樹脂からなり鞘部がポリブチレンサクシネート樹脂からなる芯鞘構造繊維である、請求項1に記載の抽出用フィルター。
【請求項3】
前記バインダー繊維の繊度が1.0~4.8dtexであり、繊維長が1.0~10.0mmである、請求項1又は請求項2に記載の抽出用フィルター。
【請求項4】
引張強度の横/縦比(%)が、15.0~80.0%である、請求項1~3のいずれかに記載の抽出用フィルター。
【請求項5】
抽出用フィルターのヒートシール層同士を重ね合わせて、160℃、圧力3kg/cmの条件で2秒間ヒートシールしたときのヒートシール強度が、0.05kN/m以上である、請求項1~4のいずれかに記載の抽出用フィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶、コーヒー、出汁等の抽出に用いる抽出用フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
麦茶パックや出汁パックに用いられるフィルター用紙には、袋状に加工するため、ヒートシール性が求められる。ヒートシール性を有するフィルター用紙の先行技術文献として、例えば、特許文献1~3がある。特許文献1には、天然系繊維を主成分とする表層と、ヒートシール性を有する合成繊維を主成分とする裏層とを積層したヒートシール性の包装用袋用紙が記載されている。特許文献2には、クラフトパルプ繊維と合成繊維との混合物を湿式抄紙したヒートシール紙が記載されている。また、特許文献3には、熱溶着性を有する合成繊維を抄紙した抽出用フィルター用不織布が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-285491号公報
【文献】特開2017-036521号公報
【文献】特開2019-013345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3に記載されるフィルター用紙には、ヒートシール性を付与する成分として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等の熱可塑性樹脂からなる合成繊維が用いられている。
【0005】
しかしながら、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルは、自然界で安定な樹脂であり分解されにくいため、これらの樹脂を用いた抽出用フィルターは、使用後に焼却されずに廃棄された場合、フィルターの形態で自然界に長期間残留することが懸念される。
【0006】
それ故に、本発明は、環境に残留しにくい抽出用フィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る抽出用フィルターは、パルプ繊維20~80質量%と、ポリブチレンサクシネート樹脂を含むバインダー繊維20~80質量%と、125℃以上の融点を有する樹脂繊維0~45質量%とを含有する原料繊維により形成されるヒートシール層を有し、坪量が10.0~60.0g/mであり、引張強度(縦方向)が0.30kN/m以上であり、透気度(20枚重ね)が0.30~6.0秒であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、環境に残留しにくい抽出用フィルターを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態に係る抽出用フィルター(フィルター用紙)は、パルプ繊維と合成繊維とを含有する原料繊維を混抄したヒートシール層を備えており、ヒートシール層の原料繊維が、ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂を含むバインダー繊維を所定の割合で含有することを特徴とする。本実施形態に係る抽出用フィルターは、単層のヒートシール層からなる混抄紙であっても良いし、ヒートシール層に原料繊維の構成が異なる他の層が積層された積層体であっても良い。ヒートシール層に用いる合成繊維として、生分解性に優れたPBS樹脂を含むバインダー繊維を用いることにより、抽出用フィルターが使用後に焼却訳されずに廃棄されても、環境中でバインダー繊維のPBS樹脂が生分解されることにより抽出用フィルターが解れやすいため、抽出用フィルターの形態で環境中に残留しにくい。以下、実施形態に係る抽出用フィルターの詳細を説明する。
【0010】
(ヒートシール層)
ヒートシール層は、パルプ繊維と、PBS樹脂を含むバインダー繊維と、必要に応じてその他の樹脂繊維とを含有する原料繊維を湿式抄紙することにより形成される。
【0011】
(パルプ繊維)
パルプ繊維としては、木材パルプ、非木材パルプ、これらのパルプを組み合わせたものを使用することができる。
【0012】
木材パルプとしては、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ;ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ(MP)を、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0013】
非木材パルプとしては、例えば、ケナフパルプ、アバカパルプ、コットンリンターパルプ、ワラパルプ、タケパルプ等を使用することができる。
【0014】
パルプ繊維の配合量は、ヒートシール層を構成する原料繊維の20~80質量%である。パルプ繊維の配合量がヒートシール層を構成する原料繊維の20質量%未満の場合、パルプ繊維に対するバインダー繊維の配合割合が相対的に多くなり、抄紙した抽出用フィルターが乾燥工程又は熱カレンダー工程においてドライヤーやカレンダーロールに貼り付いたり、シートが断紙などを起こしたりして生産性を低下させる可能性があるため好ましくない。また、パルプ繊維の配合量がヒートシール層を構成する原料繊維の80質量%を超える場合、抽出用フィルターの目が詰まりすぎて、抽出性(濾過性)が低下するため好ましくない。
【0015】
(バインダー繊維)
バインダー繊維は、パルプ繊維や必要に応じて配合される他の樹脂繊維を相互に接着すると共に、ヒートシール層のヒートシール性を発現する成分である。バインダー繊維としては、PBS樹脂を含む繊維(PBS樹脂がバインダー成分である繊維)を使用する。PBS樹脂は、大気中では化学的に安定である一方、生分解性にも優れる合成樹脂である。したがって、バインダー繊維としてPBS樹脂を含む繊維を配合してヒートシール層を構成すると、焼却されず廃棄された場合でも、土壌等の環境中でPBS樹脂が生分解されて他の繊維が解れて分散することにより、ヒートシール層のシート形態が消失しやすい。したがって、バインダー繊維としてPBS樹脂を含む繊維を用いることにより、抽出用フィルターの形態で残留しにくく、環境負荷を低減した抽出用フィルターを得ることができる。
【0016】
PBS樹脂を含むバインダー繊維は、PBS樹脂のみからなる合成繊維であっても良いし、PBS樹脂と他の樹脂との複合繊維であっても良い。PBS樹脂と他の樹脂の複合繊維としては、芯部を鞘部が覆った芯鞘構造を有する芯鞘構造繊維を好適に使用することができる。バインダー繊維として芯鞘型複合繊維を用いる場合、鞘部の材質がPBS樹脂であれば、芯部の材質は特に限定されないが、PBS樹脂の融点115℃よりも融点が10℃以上高い材質を用いる。芯部の材質として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、
ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、3-ヒドロキシ酪酸-3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体(PHBH)、ナイロン、アクリルからなる群から選ばれる何れかの熱可塑性樹脂を用いることができる。芯部及び鞘部は同じ樹脂であっても良いし、異なる樹脂であっても良い。また、芯部の材質が異なる2種以上の芯鞘型複合繊維を混合して用いても良い。
【0017】
バインダー繊維として芯鞘型複合繊維を用いる場合、芯部の材質も生分解性樹脂であることが環境負荷を低減する上でより好ましい。例えば、バインダー繊維が、芯部がポリ乳酸(PLA)樹脂からなり、鞘部がPBS樹脂からなる芯鞘構造繊維を好適に使用することができる。
【0018】
バインダー繊維の配合量は、ヒートシール層を構成する原料繊維の20~80質量%である。バインダー繊維の配合量がヒートシール層を構成する原料繊維の20質量%未満の場合、ヒートシール層のヒートシール強度が不十分となり、麦茶パックや出汁パック等の用途に適さないため好ましくない。また、バインダー繊維の配合量がヒートシール層を構成する原料繊維の80質量%を超える場合、抄紙した抽出用フィルターが乾燥工程又は熱カレンダー工程においてドライヤーやカレンダーロールに貼り付いたり、シートが断紙を起こしたりして生産性を低下させる可能性があるため好ましくない。
【0019】
バインダー繊維の繊度は、1.0~4.8dtexであることが好ましく、バインダー繊維の平均繊維長は、1.0~10.0mmであることが好ましい。バインダー繊維の繊度及び平均繊維長がこれらの範囲内であれば、抽出用フィルターに求められる抽出性と、生産性(湿式抄紙の容易性)とが良好となるため好ましい。
【0020】
(その他の樹脂繊維)
原料繊維には、パルプ繊維及びバインダー繊維に加えて、融点が125℃以上であるその他の樹脂繊維を配合しても良い。融点の上限としては、例えば160℃とすることができる。その他の樹脂繊維の材質は、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリビニルアルコール、レーヨン、PLA、PBS、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、3-ヒドロキシ酪酸-3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体(PHBH)、ナイロン、アクリルからなる群から選ばれる何れかの熱可塑性樹脂を用いることができる。また、その他の樹脂繊維として、芯鞘構造繊維を配合しても良く、例えば、芯部がPETからなり、鞘部が低融点PETからなる芯鞘構造繊維や、芯部及び鞘部がPPからなる芯鞘構造繊維、芯部がPPからなり、鞘部がPEからなる芯鞘構造繊維等を使用できる。
【0021】
その他の樹脂繊維の配合量は、原料繊維の全量の0~45質量%とすることが好ましい。
【0022】
また、繊維原料には、例えば顔料、界面活性剤、ワックス、サイズ剤、填料、防錆剤、導電剤、消泡剤、分散剤、粘性調整剤、凝集剤、凝結剤、紙力向上成分、湿潤紙力向上剤、歩留まり向上剤、紙粉脱落防止剤、嵩高剤、増粘剤等の内添剤を内添させることができる。
【0023】
(外層)
抽出用フィルターを複数の湿式抄紙の積層体として構成する場合、ヒートシール層に積層する層(表層)は、原料繊維として天然パルプ繊維を用いて抄紙した紙であり、PBSやPLA樹脂等の生分解性樹脂、レーヨン繊維等の再生繊維、その他繊維にはPET、オレフィン(PP,PE等)、アクリル、PVA、ビニロン、ナイロン繊維等(ただし、その他繊維には融点が125℃の樹脂からなる繊維)を含む原料繊維を抄紙した混抄紙のいずれかの紙層であれば良い。また、ヒートシール層には、これらの紙層の1種類または複数種類を複数層積層しても良い。ヒートシール層に積層する層をパルプ繊維及び樹脂繊維の混抄紙とする場合、バインダー繊維及びその他の樹脂繊維として、ヒートシール層で説明した材料を使用することができ、パルプ繊維、バインダー繊維及びその他の樹脂繊維の配合割合は、ヒートシール層で説明した範囲内であれば良い。紙層の天然パルプは木材由来の木材パルプ、アバカやバガスやケナフ、竹、コットン等の非木材繊維も使用できる。
【0024】
(製造方法)
抽出用フィルターを単層のヒートシール層で構成する場合、上述した原料繊維を湿式抄紙し、得られた湿紙を乾燥させることにより抽出用フィルターを製造することができる。また、抽出用フィルターをヒートシール層と1層以上の紙層との積層体として構成する場合、上述した原料繊維を湿式抄紙したヒートシール層と、ヒートシール層とは別に湿式抄紙した紙層とを重ね合わせてプレスし、乾燥させることにより抽出用フィルターを製造することができる。
【0025】
乾燥工程の後、カレンダー処理を行っても良い。カレンダー処理は、例えば、一対の金属ロール、あるいは、金属ロールと樹脂ロール、あるいは金属ロールの表面をフッ素樹脂加工したロールを用いて、乾燥後の混抄紙を加熱あるいは加熱加圧処理し、紙表面の平滑性を向上させると共に、PBS樹脂を含むバインダー繊維を融着させることができる処理である。
【0026】
カレンダー工程における加熱温度は、85℃以上であることが好ましい。温度が85℃未満の場合、PBS樹脂が溶融しないためフィルターとしての強度が不十分となる可能性がある。また、ロールの表面温度は高い方が好ましく、200℃を超えても良い。ただし、芯鞘繊維の芯部に使用している材質が生分解性素材でない場合は、ロールの表面温度は芯部材質の融点を超えてはならない。芯部材質が生分解素材でなく、ロールの表面温度が芯部材質の融点を超える場合、抽出用フィルターが生分解処理された後でもシートが解れにくくなるためである。
【0027】
カレンダー工程における加熱処理は、加熱ロールに加圧せずに加熱のみして接触させる処理でも良いし、加熱加圧処理しても良い。加圧する場合は、線圧30kg/cm以上350kg/cm以下であることが好ましい。抽出用フィルターの強度と抽出性の観点から、カレンダー工程で加圧しないか、あるいは、加圧しても線圧を30kg/cm以上150kg/cm以下とすることが好ましい。カレンダー工程の線圧が350kg/cmを超える場合、フィルターの目が詰まり抽出性を低下させる。
【0028】
(坪量)
本実施形態に係る抽出用フィルターの坪量(米坪)は、10.0~60.0g/mである。坪量は、「紙及び板紙-坪量の測定方法」JIS P8124(2011)に準拠して測定した値である。坪量が、10.0g/m未満の場合、抽出用フィルターに求められる強度が得られない可能性がある。また、坪量が60.0g/mを超える場合、抽出用フィルターの目が詰まりすぎ、フィルターとしての要求性能を満たさなくなる。尚、坪量は、抽出用フィルターの全体の値である。すなわち、抽出用フィルターが単層のヒートシール層からなる場合は、抽出用フィルターの坪量は、当該単層のヒートシール層の坪量であり、抽出用フィルターがヒートシール層と他の層(例えば、外層)との積層体である場合は、抽出用フィルターの坪量は、当該積層体全体の坪量である。
【0029】
本実施形態に係る抽出用フィルターの縦方向における引張強度は、0.30kN/m以上である。縦方向の引張強度が0.30kN/m以上であれば、抽出用フィルターに要求される強度を満たすことができる。また、本実施形態に係る抽出用フィルターの横方向における引張強度と縦方向における引張強度の比(横/縦比)は、15.0~80.0%であることが好ましい。横/縦比が15.0%を下回る場合は、横方向に破れやすくなる。80.0%を超える場合、縦方向の強度が弱くなり加工適正が悪くなる。尚、引張強度は、「紙及び板紙-引張特性の試験方法」JIS P 8113(2006)に基づいて測定した数値である。
【0030】
本実施形態に係る抽出用フィルターの透気度は、0.30~6.0秒である。透気度は、JIS P8117(2009)(低圧法)に準拠して、抽出用フィルターを20枚重ねて測定した値である。透気度が0.30秒未満の場合、抽出用フィルターの空隙が大きくなり、抽出時に内容物が漏れやすくなる。また、透気度が6.0秒を超える場合、抽出用フィルターの目が粗くなり、被抽出物の粉末が抽出用フィルターを通過しやすくなるため好ましくない。
【0031】
本実施形態に係る抽出用フィルターのヒートシール強度は、0.05kN/m以上であることが好ましい。ヒートシール強度は、JIS Z0238(1998)に準拠して測定した値であって、ヒートシール層同士を重ね合わせて、160℃、圧力3kg/cm、シール時間2秒でヒートシールした抽出用フィルターを測定した値である。ヒートシール強度が0.05kN/m未満の場合、抽出用フィルターの製袋加工時や使用時にシール箇所が剥離してしまう可能性があるため好ましくない。
【0032】
尚、上記の坪量、引張強度、引張強度の横/縦比、透気度及びヒートシール強度は、抽出用フィルター全体の測定値である。
【0033】
以上説明したように、本実施形態に係る抽出用フィルターは、パルプ繊維とPBS樹脂を含むバインダー繊維とを含有する原料繊維を抄紙してなるヒートシール層を備える。バインダー繊維がPBS樹脂を含むため、抽出用フィルターの使用後に環境中に廃棄された場合、PBS樹脂が生分解されることによりヒートシール層が解れて他の繊維が分散し、ヒートシール層の抄紙時の形態が消失する。したがって、本実施形態によれば、環境に残留しにくい抽出用フィルターを実現できる。また、坪量が10.0~60.0g/mであり、引張強度(縦方向)が0.30kN/m以上であり、透気度(20枚重ね)が0.30~6.0秒であることにより、抽出用フィルターに要求される抽出性や強度に優れる。
【実施例
【0034】
以下、本発明に係る抽出用フィルターを具体的に実施した実施例を説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない
【0035】
(実施例1-1~1-17、比較例1-1~1-6)
表1に示す配合の原料繊維を湿式抄紙し、乾燥させることにより、単層のヒートシール層からなる抽出用フィルターを作製した。尚、以下において、「(材質1)/(材質2)」の表記は、芯部が材質1からなり鞘部が材質2からなる芯鞘構造繊維を表す。また、以下において、「PET(mpX℃)」は、融点がX℃のPETを表す。表中の「-」は、未配合であることを示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表2に、得られた抽出用フィルターの坪量、厚み、密度、引張強度(縦方向(T)、横方向(Y)、横縦(Y/T)比)、透気度、ヒートシール強度、生分解後の分散性を併せて示す。表中の「-」は、未評価であることを示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示す評価値は以下の通りに測定した。
(1)坪量は、JIS P 8124(2011)に準拠して測定した。
(2)厚さは、JIS P 8118(2014)に準拠し、測定圧100kPaにて測定した。
(3)密度は、JIS P 8118(2014)に準拠して測定した。
(4)引張強度は、JIS P 8113(2006)に準拠して測定した。
(5)透気度は、JIS P8117(2009)(低圧法)に準拠して、抽出用フィルターを20枚重ねて測定した。
(6)ヒートシール強度は、JIS Z 0238(1998)に準拠し、抽出用フィルターのヒートシール層同士を重ね合わせて、160℃、圧力3kg/cmの条件で2秒間ヒートシールして得られたサンプルを用いて測定した。
(7)生分解後の分散性は、抽出用フィルターを土壌中に90日間放置した後、残ったシートを目視で観察し、抽出用フィルターが複数に解れて分散している場合を「○」、抽出用フィルターが抄紙時の形態を維持していて解れない場合を「×」と評価した。
【0040】
実施例1-1~1-17に係る抽出用フィルターは、パルプ繊維、PBSを含むバインダー繊維及びその他の樹脂繊維を、上述した配合割合の範囲内で配合した原料繊維を用いて抄紙したものであり、坪量、引張強度(縦方向)及び透気度がいずれも適切な範囲内であり、抽出用フィルターに求められる抽出性と強度とを備えていた。また、実施例1-1~1-17に係る抽出用フィルターは、ヒートシール強度も良好であり、PBS樹脂を含むバインダー繊維を用いたことにより、環境中で解れやすく、抽出用フィルターの形態で残留しにくいことが確認された。
【0041】
これに対して、比較例1-1に係る抽出用フィルターは、原料繊維がパルプ繊維のみであるため、ヒートシール性がなく、透気度も高いことから、お茶パックや出汁パック等に用いる抽出用フィルターとしての用途に適していなかった。
【0042】
比較例1-2では、原料繊維に配合されるバインダー繊維が多すぎるため、ドライヤーや熱カレンダー加工時にドライヤーやカレンダーロールに貼り付いたり、シートが断紙したりしてしまい、安定して生産を行うことができなかった。
【0043】
比較例1-3に係る抽出用フィルターは、その他の樹脂繊維として、融点が125℃未満である低密度ポリエチレン(LDPE)が配合されているため、乾燥工程においてLDPEによりパルプ繊維及びバインダー繊維が相互に接着され、PBS樹脂の生分解後も抽出用フィルターが解れず、環境中で分散しなかった。
【0044】
比較例1-4に係る抽出用フィルターは、パルプ繊維が多すぎ、かつ、バインダー繊維が少なすぎるため、透気度が高く、ヒートシール強度が低くなり、お茶パックや出汁パック等に用いる抽出用フィルターとしての用途に適していなかった。
【0045】
比較例1-5に係る抽出用フィルターは、坪量が小さすぎることにより、縦方向及び横方向の引張強度が小さく、抽出用フィルターに求められる強度を備えていなかった。
【0046】
比較例1-6に係る抽出用フィルターは、坪量が大きすぎることにより、目が詰まり、透気度が高くなり、抽出用フィルターに求められる抽出性が不十分であった。
【0047】
(実施例2-1~2-14、比較例2-1~2-5)
表3に示す配合の原料繊維を湿式抄紙して得た表層及びヒートシール層を積層し、乾燥させることにより、ヒートシール層の一面に表層が積層された2層構成の抽出用フィルターを作製した。尚、表3における「PET(mpX℃)」は、融点がX℃のPETを表す。また、表層及びヒートシール層のそれぞれの坪量を表3に併せて示す。
【0048】
【表3】
【0049】
表4に、得られた抽出用フィルターの坪量、厚み、密度、引張強度(縦方向(T)、横方向(Y)、横縦(Y/T)比)、透気度、ヒートシール強度、生分解後の分散性を併せて示す。各評価値の測定方法及び生分解後の分散性の評価基準は、表2と同様であり、表中の「-」は、未評価であることを示す。
【0050】
【表4】
【0051】
実施例2-1~2-14に係る抽出用フィルターは、パルプ繊維、PBSを含むバインダー繊維及びその他の樹脂繊維を、上述した配合割合の範囲内で配合した原料繊維を用いて抄紙したヒートシール層を含むものであり、抽出用フィルター全体の坪量、引張強度(縦方向)及び透気度がいずれも適切な範囲内であり、抽出用フィルターに求められる抽出性と強度とを備えていた。また、実施例2-1~2-14に係る抽出用フィルターは、ヒートシール強度も良好であり、PBS樹脂を含むバインダー繊維を用いたことにより、環境中で解れやすく、抽出用フィルターの形態で残留しにくいことが確認された。
【0052】
これに対して、比較例2-1及び2-2に係る抽出用フィルターは、バインダー繊維として、芯部及び鞘部がPETからなる芯鞘構造繊維を配合したため、環境中でバインダー繊維が生分解されず、抽出用フィルターが環境中で分散しなかった。
【0053】
比較例2-3に係る抽出用フィルターは、坪量が小さすぎることにより、縦方向及び横方向の引張強度が小さく、抽出用フィルターに求められる強度を備えていなかった。
【0054】
比較例2-4に係る抽出用フィルターは、その他の樹脂繊維として、鞘部が低融点PET(融点が110℃未満である)からなる芯鞘構造繊維が配合されているため、乾燥工程において、その他の樹脂繊維の鞘部によりパルプ繊維及びバインダー繊維が相互に接着され、PBS樹脂の生分解後も抽出用フィルターが解れず、環境中で分散しなかった。
【0055】
比較例2-5に係る抽出用フィルターは、坪量が大きすぎることにより、目が詰まり、透気度が高くなり、抽出用フィルターに求められる抽出性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、麦茶パックや出汁パック等に用いられるヒートシール性を有する抽出用フィルターとして利用できる。