(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】目地寸法の計測方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/02 20060101AFI20240219BHJP
【FI】
G01B11/02 Z
(21)【出願番号】P 2020133914
(22)【出願日】2020-08-06
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】松尾 隆士
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-191546(JP,A)
【文献】特開昭62-075203(JP,A)
【文献】特開平07-113616(JP,A)
【文献】特開2014-219256(JP,A)
【文献】特表2013-517542(JP,A)
【文献】特開2010-90691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G01S 7/00、17/00
E06B 3/54-3/88
E04C 1/42、2/54
E04B 2/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガラス部材の表面に、前記表面の周縁に沿って所定幅を有する有彩色領域を設ける有彩色領域形成工程と、
前記複数のガラス部材が互いに隙間をあけて目地を形成して配置されている状態で、前記複数のガラス部材のうち少なくとも2つのガラス部材同士の間の前記目地と前記目地を挟んで両側の前記有彩色領域とを含む測定範囲を前記表面に向き合う所定方向から3次元スキャナで測定する3次元測定工程と、
前記3次元スキャナで測定した前記測定範囲の3次元座標の測定値から前記目地に関する寸法を計測する目地寸法計測工程と、
を備える、
目地寸法の計測方法。
【請求項2】
前記所定幅は、前記3次元スキャナの受光位置と前記測定範囲の基準位置との離間距離において前記3次元スキャナによって見分けられる最小寸法の4倍以上である、
請求項1に記載の目地寸法の計測方法。
【請求項3】
前記有彩色領域形成工程において、
前記周縁に沿って前記表面に前記所定幅を有する有彩色のテープ材を貼ることによって、前記表面に前記有彩色領域を設け、
前記所定方向から見たときに前記テープ材の側縁を前記ガラス部材の周縁と重ねる、
請求項1又は2に記載の目地寸法の計測方法。
【請求項4】
前記目地寸法計測工程において、
前記3次元座標の測定値のうち輝度差が閾値以上になる所定位置を前記有彩色領域と前記目地との境界と判定し、
前記境界間の3次元座標上の長さを実空間の距離に換算し、前記実空間の距離を目地幅として計測する、
請求項1から3の何れか一項に記載の目地寸法の計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目地寸法の計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、板状のガラス部材を金属部材等で部分的に支持するガラス構法は、透明性と機能性を高めた空間表現ができる構法として、建物の外装に広く用いられている。ガラス構法を用いた建物において、外装の目地寸法(即ち、目地幅や目地深さ等の目地に関する寸法全般)は、建物の性能上及び意匠上の重要な施工管理項目である。
【0003】
従来、目地寸法は、定規やノギスを用いて直接測定されていた。しかしながら、直接測定する方法では、測定範囲内の数カ所の測定値を代表値とするため、外装全体で、或いは外装の任意の位置で目地寸法が所定の許容範囲内であるか否かということを正確にとらえて品質管理を行うことは難しい。また、直接測定する方法では、複数カ所の測定を行うのに手間と時間を要する。このような状況をふまえ、外装の目地寸法を従来よりも正確に捉えて管理することを目的とし、目地寸法の測定方法の提案及び工夫がなされている。例えば、特許文献1には、複数の板状の建材を目地幅程度の間隔をあけて支持及び接続した被測定部材にレーザー光を照射し、CCDカメラ等の撮像装置によって得た画像から目地寸法を算出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法では、被測定部材がベルトコンベヤにて搬送され、搬送方向で所定の位置に設けられたレーザー光照射装置の照射範囲及び撮像装置の撮像範囲を通過することによって、目地寸法を算出するための画像を取得する。そのため、特許文献1に開示されている方法は、施工される前の建材が作られる工場や被計測部材の品質が検査される検査場において実施され、現場では実施し難い。また、被計測部材を工場や検査場から現場まで搬送する途中、或いは現場で外装として施工された際に、目地寸法が工場や検査場での計測値からずれてしまうと、施工後の建物の性能や意匠に影響を及ぼす虞があった。
【0006】
また、上述の特許文献1に開示されている方法では、例えば建材がガラスのように入射する可視波長域のレーザー光を略透過させる材料で形成され、目地に黒色又は反射の弱い色のシーリング材が配置されていると、被計測部材から撮像装置に届く反射光が弱く、画像から目地寸法を正確に算出できない場合が考えられる。
【0007】
さらに、上述の特許文献1に開示されている方法では、被計測部材を所定の方向から2次元で撮像するため、目地寸法として目地幅を算出できるが、目地深さの算出は難しい。被計測部材が湾曲或いは屈折していて複雑な形状を有する場合は、算出された目地寸法と実際の目地寸法とのずれが大きくなり、目地寸法の計測の精度が低下する虞があった。
【0008】
本発明は、ガラス構法を用いて施工された建物の外装の目地寸法を容易且つ高精度に計測可能な目地寸法の計測方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る目地寸法の計測方法は、複数のガラス部材の表面に、前記表面の周縁に沿って所定幅を有する有彩色領域を設ける有彩色領域形成工程と、前記複数のガラス部材が互いに隙間をあけて目地を形成して配置されている状態で、前記複数のガラス部材のうち少なくとも2つのガラス部材同士の間の前記目地と前記目地を挟んで両側の前記有彩色領域とを含む測定範囲を前記表面に向き合う所定方向から3次元スキャナで測定する3次元測定工程と、前記3次元スキャナで測定した前記測定範囲の3次元座標の測定値から前記目地に関する寸法を計測する目地寸法計測工程と、を備える。
【0010】
上述の目地寸法の計測方法によれば、有彩色領域形成工程においてガラス部材の周縁に有彩色領域を設けるので、ガラス部材が可視波長域の光に対して透明であってガラス部材からの3次元スキャナへの反射光が極めて弱くても、3次元測定工程において有彩色領域からの反射光を3次元スキャナで受光し、有彩色領域を含む測定範囲の3次元座標の測定値を取得できる。目地寸法計測工程では、有彩色領域の3次元座標の測定値に基づいて互いに隣り合う有彩色領域の端同士のデータ上の距離を実空間の寸法に変換することによって目地に関する寸法を計測できる。したがって、上述の目地寸法の計測方法によれば、ガラス構法を用いて施工された外装の目地寸法(目地に関する寸法)を現場で容易に、且つ3次元スキャナの空間分解能に応じて高精度に計測できる。また、上述の目地寸法の計測方法によれば、測定範囲内を3次元スキャナで一括して取得できるので、目地に関する寸法及びガラス構法を用いた外装の品質を良好に管理できる。
【0011】
本発明に係る目地寸法の計測方法において、前記3次元スキャナの受光位置と前記測定範囲の略中心位置との離間距離において前記3次元スキャナによって見分けられる最小寸法の4倍以上であってもよい。
【0012】
上述の目地寸法の計測方法によれば、有彩色領域の幅が24mm以上であるため、3次元座標の測定値から有彩色領域の範囲及び両端を精度良く決定できる。
【0013】
本発明に係る目地寸法の計測方法では、前記有彩色領域形成工程において、前記周縁に沿って前記表面に前記所定幅を有する有彩色のテープ材を貼ることによって、前記表面に前記有彩色領域を設け、前記所定方向から見たときに前記テープ材の側縁を前記ガラス部材の周縁と重ねてもよい。
【0014】
上述の目地寸法の計測方法によれば、有彩色のテープ材をガラス部材の周縁に沿って貼ると共にテープ材の側縁をガラス部材の周縁に重ねることによって、ガラス部材に対して容易に有彩色領域を設けることができる。
【0015】
本発明に係る目地寸法の計測方法では、前記目地寸法計測工程において、前記3次元座標の測定値のうち輝度差が閾値以上になる所定位置を前記有彩色領域と前記目地との境界と判定し、前記境界間の3次元座標上の長さを実空間の距離に換算し、前記実空間の距離を目地幅として計測してもよい。
【0016】
上述の目地寸法の計測方法によれば、3次元スキャナによって得られる3次元座標の測定値のうち反射光の輝度に起因する輝度差に着目することで、反射光の輝度が高い有彩色領域と反射光の輝度が低い目地及びガラス部材の非有彩色領域との境界を精度良く判定し、目地寸法の計測精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガラス構法を用いて施工された建物の外装の目地寸法を容易且つ高精度に計測可能な目地寸法の計測方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る一実施形態の目地寸法の計測方法の計測対象である外装の一部分の正面図である。
【
図3】
図1に示すIII-III線で矢視した外装の断面図である。
【
図4】本発明に係る一実施形態の目地寸法の計測方法を説明するための斜視図である。
【
図5】実施例において
図1に示す検出範囲AのX方向の座標値に対するZ方向の座標値を表すグラフである。
【
図6】実施例において
図1に示す検出範囲AのX方向の座標値に対するレーザー反射強度を表すグラフである。
【
図7】実施例において
図1に示す検出範囲AのX方向の座標値及びレーザー反射強度の近似曲線を示す図である。
【
図8】実施例において
図1に示す検出範囲AのX方向の座標値に対するRGB値を表すグラフである。
【
図9】比較例において
図1に示す検出範囲AのX方向の座標値に対するZ方向の座標値を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る目地寸法の計測方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の目地寸法の計測方法は、ガラス構法を用いて施工された建物の外装5における目地20に関する寸法を計測する方法である。外装5では、複数のガラス部材10が互いに間隔をあけて配置されている。以下では、複数のガラス部材10が配置され且つ不図示の地面に直交する施工面において、水平方向をX方向とし、鉛直方向をY方向とする。X方向及びY方向に直交する奥行き方向をZ方向とする。Z方向前方は屋外側を表し、Z方向後方は室内側を表す。
【0021】
各々のガラス部材10は、複層ガラスであり、Z方向で互いに隙間をあけて配置された2枚のガラス板14-1、14-2を有する。ガラス板14-2は、ガラス板14-1よりもZ方向後方に配置されている。1つのガラス部材10のガラス板14-1、14-2の板面に向き合う方向から見た形状は、互いに揃っている。ガラス板14-1、14-2の形状は、複数のガラス部材10同士で互いに揃っていてもよく、建物のデザイン等に合わせて
図1に例示するように複数のガラス部材10同士で違いがあってもよく、特定の形状に限定されない。ガラス板14-1、14-2は、Z方向で所定の厚みを有する。ガラス板14-1、14-2は、例えば強化ガラス等で形成され、可視波長域の光を略透過する。
【0022】
図1、
図2及び
図3に示すように、複数のガラス部材10のうち、施工面で互いに隣り合う少なくとも2つ以上のガラス部材10同士の間には、隙間が空き、目地20が形成されている。目地20には、シーリング材40が設けられている。シーリング材40は、第1層41と、第1層41とZ方向で隣接し且つ第1層41よりもZ方向後方に設けられた第2層42と、を有する。第1層41及び第2層42は、例えばJIS A 5758の規格を満たす建築用シーリング材で形成されている。
図3では、一例として、
図1に示す複数のガラス部材10のうち、2つのガラス部材10-1、10-2の各々においてY方向に延びる目地20-1側の部分、及びガラス部材10-1、10-2同士の間のシーリング材40-1が示されている。
【0023】
図3に示すように、シーリング材40のZ方向前方の表面40aは、Y方向に沿って見たとき、X方向に沿って直線状に延び、ガラス部材10-1のZ方向前方且つX方向前方の端(周縁)10pとガラス部材10-2のZ方向前方且つX方向後方の端(周縁)10qとを結んだ線と重なっている。ガラス部材10-1のZ方向前方の表面10aは、Y方向に沿って見たとき、端10pからX方向後方に移動するに従って二点鎖線で示す表面40aの延長線からZ方向後方に離れている。ガラス部材10-2のZ方向前方の表面10aは、Y方向に沿って見たとき、端10qからX方向前方に移動するに従って表面40aの延長線からZ方向後方に離れている。つまり、
図3には、X方向で隣り合うガラス部材10-1、10-2の取り付け時にZ方向の取り付け誤差ΔZが生じ、ガラス部材10-1の表面10aの延長線とガラス部材10-2の表面10aとが互いに重ならずにずれている場合を例示している。
【0024】
Y方向に沿って見たとき、シーリング材40の第1層41と第2層42との接続面40x及びシーリング材40のZ方向後方の表面40bは、表面40aに略平行になっている。第1層41と第2層42との接続面40xは、ガラス板14-1、14-2同士の隙間よりもZ方向後方に位置し、且つガラス部材10-1、10-2のZ方向後方の表面10bよりもZ方向前方に位置している。シーリング材40の表面40bは、Y方向に沿って見たとき、ガラス部材10-1のZ方向後方且つX方向前方の端(周縁)10rとガラス部材10-2のZ方向後方且つX方向後方の端(周縁)10sとを結んだ線と重なっている。
【0025】
シーリング材40のZ方向前方且つX方向後方の端40qは、Y方向から見たとき、ガラス部材10-1の端10pと重なっている。シーリング材40のZ方向前方且つX方向前方の端40pは、Y方向から見たとき、ガラス部材10-2の端10qと重なっている。シーリング材40のZ方向後方且つX方向後方の端40sは、Y方向から見たとき、ガラス部材10-1の端10rと重なっている。シーリング材40のZ方向後方且つX方向前方の端40rは、Y方向から見たとき、ガラス部材10-1の端10sと重なっている。
【0026】
外装5において、ガラス部材10-1の端10pとガラス部材10-2の端10qとの間のX方向での大きさを目地幅20Wと称する。また、ガラス部材10-1の端10pと端10rとの間のX方向での大きさ、及びガラス部材10-2の端10qと端10sとの間のX方向での大きさを目地厚さ(目地に関する寸法)20Tと称する。詳しくは後述の実施例の記載を参照できる。
【0027】
ガラス部材10-1、10-2の各々におけるX方向で目地20-1側且つZ方向で後端の部分、即ち屋内側の外周端部12は、Z方向の後方から構造接着剤52を介してガラス部材の支持機構50によって支持されている。
【0028】
Y方向から見たとき、外装5の複数のガラス部材10の表面10aに対して屋外側から略直交する方向(所定方向)を測定方向Dと称する。測定方向Dに沿って見る場合を、単に「正面視」という場合がある。測定方向Dから見たとき、ガラス部材10の各々における表面10aの外周端部12に、有彩色領域100が設けられている。有彩色であるとは、例えば青色、黄色、赤色等であること、後述する3次元スキャナ200に対して光の3原色のRGB及び輝度(又は明るさ)の定量値で感度を有する反射光を反射可能であることを意味する。また、シーリング材40は通常黒色或いは灰色等の反射性に乏しい色を有することが多いが、シーリング材40が有彩色を含む場合は、有彩色領域100の色は、シーリング材40とは異なる有彩色であり、シーリング材40の色の反対色、補色であることが好ましい。
【0029】
有彩色領域100は、ガラス部材10の表面10aの端10p、10qを含む周縁10eに対して所定幅100Rを有する。つまり、周縁10eに沿った方向に直交する方向で有彩色領域100の大きさは、所定幅100Rである。所定幅100Rは、後述する3次元スキャナ200で測定された際に複数の点像データで示される必要があるため、3次元スキャナ200の受光位置205と測定範囲210の中心位置(基準位置)215との離間距離LL(
図4参照)において3次元スキャナ200によって見分けられる最小寸法の4倍以上であることが好ましい。即ち、所定幅100Rは、離間距離LLにおける3次元スキャナ200の空間分解能の少なくとも2倍以上、且つ好ましくは4倍以上であることが好ましい。所定幅100Rは、測定方向Dにおける離間距離LL及び3次元スキャナ200の空間分解能によって適切に設定される。一例として、市販の3次元スキャナ(製品名;Focus
S 350、製造元;FARO社)を用いて離間距離LLが10mである場合、所定幅100Rは24mm以上であることが好ましい。
【0030】
図3に示すように、測定方向Dから見た正面視では、ガラス部材10-1の有彩色領域100-1のX方向前方の端100pは、ガラス部材10-1の端10p、10r(即ち、ガラス部材10-1のX方向前方の周縁10e)と重なっている。ガラス部材10-2の有彩色領域100-2のX方向後方の端100qは、ガラス部材10-2の端10q、10s(即ち、ガラス部材10-2のX方向後方の周縁10e)と重なっている。
図1に示すように、有彩色領域100は、ガラス部材10の周縁10eに沿って設けられている。
【0031】
有彩色領域100は、所定幅100Rを有する有彩色のテープ材110によって形成されている。測定方向Dから見たとき、テープ材110において貼付するガラス部材10の周縁側の側縁110fは、周縁10eと重なっている。テープ材110は、例えば有彩色のマスキングテープ、養生テープ、ガムテープ等であるが、有彩色を有し且つガラス部材10に着脱可能であって、剥がした際に外装5の意匠性を劣化させないテープ材であれば、特に限定されない。
【0032】
本実施形態の目地寸法の計測方法は、上述の外装5の少なくともガラス構法で施工された測定範囲210における目地20に関する寸法を計測する方法であり、有彩色領域形成工程と、3次元測定工程と、目地寸法計測工程と、を備える。
【0033】
有彩色領域形成工程では、
図4に示すように、複数のガラス部材10の屋外側に向けられる表面10aに、周縁10eに対して所定幅100Rを有する有彩色領域100を設ける。詳しくは、複数のガラス部材10の各々の周縁10eに、有彩色のテープ材110の外側の側縁110fを重ねるようにして、テープ材110を貼る。なお、
図1及び
図4に示すように、1つの連続する周縁10eに沿って1本のテープ材110を隙間なく貼ってもよく、複数本のテープ材110を周縁10eに沿う方向で隙間をあけて貼ってもよい。隙間をあけて貼る場合は、1つのテープ材110の周縁10eに沿う方向の長さは、少なくとも推定される目地幅20Wよりも長く、目地幅20Wの2倍以上であることが好ましく、後述するようにガラス部材10の表面10aを決める際に近似曲線又は近似直線を精度良く求めることができる寸法を有する。また、隙間はテープ材110の所定幅100Rよりも小さいことが好ましい。このことによって、隙間による目地20に関する寸法の推定時のばらつきや誤差が抑えられる。
【0034】
本実施形態の目地寸法の計測方法では、施工面に沿ってガラス構法で施工した後の複数のガラス部材10の各々に上述のように有彩色領域100を設けてもよく、施工前の複数のガラス部材10の各々に上述のように有彩色領域100を設けた後に複数のガラス部材10を施工面に沿ってガラス構法で施工してもよい。以下では、施工後の外装5の複数のガラス部材10の各々に有彩色領域100を設けるものと想定する。
【0035】
次に、3次元測定工程では、外装5において少なくともガラス構法が用いられている領域を測定範囲210として、測定範囲210のX方向、Y方向及びZ方向を軸とする3次元座標の各座標について得られた測定値(3次元座標の測定値、以下単に3次元座標の値という場合がある)を測定方向D(即ち、外装5から屋外側に所定の距離離れた位置から測定範囲210の略中心に向かう方向)から3次元スキャナ200で測定する。3次元スキャナ200の受光位置205と測定範囲210の中心位置215との離間距離LLは、現場の状況や外装5を備える建物の大きさ等を勘案して適宜設定すればよい。なお、測定範囲210の基準位置として中心位置215を例示しているが、基準位置は本実施形態の目地寸法の計測方法において基準となり得る位置であればよい。本実施形態の目地寸法の計測方法では、測定範囲210の3次元座標の値を1回のスキャンで測定してもよく、測定範囲210を分割して複数回のスキャンで測定してもよい。スキャンの回数は、3次元スキャナ200の撮影可能範囲及び空間分解能等を勘案して適宜設定できる。
【0036】
3次元スキャナ200は、不図示の支持機構に支持されている。3次元スキャナ200は、例えば直接操作可能又は遠隔操作可能な自走式移動ロボット、クレーン装置等に設けられていてもよい。外装5が曲線状や複雑な形状で形成されていて複数回のスキャンを行う場合は、前述のように3次元スキャナ200が自走式移動ロボット、クレーン装置等に設けられていると、3次元スキャナ200を用いた測定を円滑に進めることができる。
【0037】
次に、目地寸法計測工程では、3次元スキャナ200で測定した測定範囲210の3次元座標の値から目地20に関する寸法を計測する。目地20に関する寸法とは、前述の目地幅20W及び目地深さ(目地に関する寸法)20T等、目地20に関する寸法を全て含む。目地20に関する寸法は、広義には、目地20を構成する目地20両側のガラス部材10、10同士のZ方向の取り付け誤差ΔZ及び各方向のずれ等を含む。
【0038】
3次元スキャナ200は、ケーブル202又は無線によってパーソナルコンピュータ等の計算機220に接続されている。なお、計算機220は、3次元スキャナ200に内蔵されていてもよい。3次元スキャナ200で取得された測定範囲210の3次元座標の値は、計算機220に出力される。計算機220は、入力された値に基づいて、次に説明する処理及び計算を行い、目地20に関する寸法を計測する。
【0039】
3次元スキャナ200で取得した値には、3次元座標、即ちX方向、Y方向、Z方向の各座標値におけるガラス部材10、テープ材110及びシーリング材40の値が3次元データとして含まれている。3次元座標の値には、各座標値におけるRGBの各色の測定値及び輝度の測定値(以下、RGB値及び輝度値と記載する)が含まれる。
【0040】
先ず、3次元座標の値において有彩色であることを示すデータ範囲を有彩色領域100即ちテープ材110の領域として抽出し、テープ材110の3次元座標の値に基づいてテープ材110の表面の近似曲線(又は近似直線、以下まとめて近似曲線と記載する)を求める。近似曲線は、3次元座標の点群データ(値)から例えば線形近似、対数近似、多項式近似、累計近似、或いは指数近似等から適切な近似を採用して決定できる。続いて、近似曲線の端を、テープ材110において目地20に隣接する端(即ち、側縁110f)として決定する。例えば、目地幅20Wは、隣り合うテープ材110の近似曲線から求めた側縁110f同士の間で目地20の幅方向(X方向又はY方向)の座標値を一定としたときの間隔から算出され、データ上で隣り合うテープ材110の側縁110f同士の間隔を実空間の寸法に換算することによって、換算後の寸法を計測できる。
【0041】
図3に例示するように、ガラス部材10-1、10-2の取り付け時にZ方向の取り付け誤差ΔZが生じた場合は、先ず、3次元座標の値に基づいてガラス部材10-1の端10pの位置と、ガラス部材10-2の端10qの位置とを決定する。続いて、端10p、10qの各々を通るX方向に平行な仮想線を引き、仮想線同士のZ方向での間隔を実空間の寸法に換算することによって、取り付け誤差ΔZを計測できる。
【0042】
また、目地20にシーリング材40を設ける前であれば目地深さ20Tを求めることができる。目地深さ20Tは、テープ材110の値に対する、3次元データ上で隣り合うテープ材110の側縁110f同士の間の領域における深さ方向の値の相対値を実空間の寸法に換算することによって計測できる。このように、テープ材110の近似曲線から求めた側縁110fの3次元座標の値に基づいて目地20に関する寸法を計測できる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の目地寸法の計測方法は、少なくとも有彩色領域形成工程と、3次元測定工程と、目地寸法計測工程と、を備える。有彩色領域形成工程では、複数のガラス部材10の表面10aに、周縁10eに沿って所定幅100Rを有する有彩色領域100を設ける。3次元測定工程では、測定範囲210の3次元座標の値をガラス部材10の表面10aに向き合う測定方向Dから3次元スキャナ200で測定する。複数のガラス部材10が互いに隙間をあけて目地20を形成して配置されている状態で、測定範囲210には、複数のガラス部材10のうち少なくとも2つのガラス部材10同士の間の目地20と目地20を挟んで両側の有彩色領域100が含まれる。目地寸法計測工程では、3次元スキャナ200で測定した測定範囲210の3次元座標の値から目地20に関する寸法を計測する。
【0044】
上述の目地寸法の計測方法によれば、有彩色領域形成工程においてガラス部材10の周縁10eに有彩色領域を設けるので、ガラス部材10からの3次元スキャナ200への反射光が極めて弱くても、3次元測定工程において有彩色領域100からの反射光を3次元スキャナ200で受光できる。このことによって、有彩色領域100を含む測定範囲210の3次元座標の値を取得できる。目地寸法計測工程では、有彩色領域100の3次元座標の値に基づいて互いに隣り合う有彩色領域100の周縁100e同士のデータ上の距離を実空間の寸法に変換することによって目地20に関する寸法を計測できる。したがって、本実施形態の目地寸法の計測方法によれば、ガラス構法を用いて施工された外装5の目地寸法(目地に関する寸法)を現場で容易に、且つ3次元スキャナ200の空間分解能に応じて高精度に計測できる。また、本実施形態の目地寸法の計測方法によれば、測定範囲210全体の3次元座標の値を一括で取得できるので、目地20に関する寸法及び外装5の品質を良好に管理できる。また、本実施形態の目地寸法の計測方法によれば、従来のように定規やノギスでは正確な計測の難しい複雑な形状を有する建物の外装において、目地20に関する寸法の計測を正確に行うことができるうえに、計測作業を大幅に省力化できる。さらに、仮設足場やゴンドラ設備がない状況であっても、遠方から非接触で目地20に関する寸法を計測できる。
【0045】
本実施形態の目地寸法の計測方法では、有彩色領域100の幅が3次元スキャナ200の受光位置205と測定範囲210の中心位置215との離間距離LLにおいて3次元スキャナ200によって見分けられる最小寸法の4倍以上であるため、3次元座標内で有彩色領域100の範囲を示す値数を確保し、有彩色領域100の範囲及び周縁100eの位置を精度良く決定できる。
【0046】
本実施形態の目地寸法の計測方法では、有彩色領域形成工程において、ガラス部材10の周縁10eに沿って表面10aに所定幅100R(即ち、有彩色領域の幅)を有する有彩色のテープ材110を貼ることによって、表面10aに有彩色領域100を設ける。また、有彩色領域形成工程において、測定方向Dから見たときにテープ材110の側縁110fをガラス部材10の周縁10eと重ねる。本実施形態の目地寸法の計測方法によれば、測定方向Dから見てテープ材110の側縁110fをガラス部材10の周縁10eに重ねてテープ材110をガラス部材10の表面10aに貼ることによって、ガラス部材10に対して容易に有彩色領域100を設けることができる。
【0047】
本実施形態の目地寸法の計測方法では、目地寸法計測工程において、3次元スキャナ200によって取得した3次元座標の値のうち、例えば輝度差が閾値以上になる位置を、有彩色領域100と目地20との境界と判定し、境界間の3次元座標上の長さを実空間の距離に換算し、換算した実空間の距離を目地幅(目地に関する寸法)20Wとして計測できる。本実施形態の目地寸法の計測方法によれば、3次元スキャナ200によって得られる3次元座標の値のうち測定範囲210からの反射光の輝度に起因する輝度差に着目し、反射光の輝度が高い有彩色領域100と反射光の輝度が低い目地20のシーリング材40及びガラス部材10の非有彩色領域102との境界を精度良く判定し、目地20に関する寸法の計測精度を高めることができる。
【0048】
本実施形態の目地寸法の計測方法では、3次元スキャナ200によって取得した3次元座標の値に基づき、例えば複数のガラス部材10同士の取り付け誤差ΔZ等を含め、目地20に関する寸法の他にも外装5に関する種々の寸法を計測し、管理項目の評価値を推定できる。
【0049】
以上、本発明に係る好ましい実施形態について詳述した。本発明は、上述の実施形態に限定されず、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、変更可能である。
【0050】
例えば、複数のガラス部材10同士の間の目地20にシーリング材40が埋設されずに、目地20の一部が空間であってもよい。施工時に用いられるガラス構法には、SSG(Structural Sealant Glazing)構法、DPG(Dot Point Glazing)構法、EPG(Edge Pointed Glazing)構法、PFG(Piece Frame Glazing)構法、ガラス方立構法(Glass Mullion System)等の種類がある。本発明に係る目地寸法の計測方法は、前述の各構法を用いた外装の測定領域に対して適用できる。その場合、複数のガラス部材の周縁に沿って且つ測定方向から見て支持部材には重ならない領域に有彩色領域を設ければよい。
【0051】
また、目地として配置されたシーリング材40がある程度の光沢を有し且つ有彩色である場合は、目地寸法計測工程において、3次元スキャナ200によって取得した3次元座標の値のうち、例えばRGB値又はRGB値から算出される相対値、或いはレーザー反射強度が閾値以上になる位置を、有彩色領域100と目地20との境界と判定し、境界間の3次元座標上の長さを実空間の距離に換算し、換算した実空間の距離を目地幅20Wとして計測できる。レーザー反射強度は、3次元スキャナ200から測定用に出射され、測定範囲210内の構造物(ガラス部材10等)に当たり且つ構造物から反射した後に3次元スキャナ200で受光されるレーザー光の強度を表す。なお、このような場合を含め、上述の目地寸法の計測方法では、少なくとも3次元測定工程を行う前に、使用する3Dスキャナで予めカラーキャリブレーションを行い、RGB値及びレーザー反射強度の閾値を算出する。
【実施例】
【0052】
本発明に係る実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0053】
本実施例では、上述の実施形態で説明した3次元スキャナ200として、市販の3次元スキャナ(製品名;Focus
S 350、製造元;FARO社)を用いて、
図1に例示したガラス部材10と幾何学的に略同様のパターンを含む建物の外装を測定した。使用した3次元スキャナには、低分解能測定モード(空間分解能;6.1mm/10m)と高分解能測定モード(空間分解能;1.5mm/10m)が用意されている。本実施例及び後述する比較例の測定では、高分解能測定モードを用いた。シーリング材40としては、一般的に市販されている黒色のシーリング材を使用した。テープ材110としては、水色の一般的に市販されているマスキングテープを使用した。マスキングテープの幅は、50mmであった。
【0054】
図5には、
図2に示す検出範囲Aにおける外装の3次元座標のうちX方向の座標値に対するZ方向の座標値のデータを示す。検出範囲Aは、目地20がY方向に沿って形成されている範囲である。また、
図6には、X方向の座標値に対するレーザー反射強度のデータを示す。
【0055】
図5に示すように、3次元スキャナによって、X方向の座標値に対する外装のZ方向の前端の位置情報がZ方向の座標値として測定された。また、
図6に示すように、3次元スキャナによって、X方向の座標値に対する外装のZ方向の前端からのレーザー反射強度が測定された。マスキングテープから反射されるレーザー光の強度はシーリング材から反射されるレーザー光の強度よりも高いと考えられる。そこで、
図6の縦軸のレーザー反射強度が所定の閾値以上であるX方向の座標域を有彩色領域として判定した。左右両側の有彩色領域同士の間で、レーザー反射強度が所定の閾値よりも小さい範囲の両端の位置(レーザー反射強度が閾値以上から閾値未満になる所定位置)を有彩色領域と目地との境界とし、境界同士の間の範囲を目地領域として決定した。閾値は、テープ材の色等によって変化するため、使用した3Dスキャナで予めカラーキャリブレーションを行った結果に基づいて設定した。本実施例では、レーザー反射強度の閾値を0.73とした。
図6に示すように、X方向の座標値が凡そ2.074から2.102である範囲でレーザー反射強度が前述の閾値以下になり、この範囲を目地領域(即ち、目地の範囲)として決定した。
【0056】
図6に示す3次元データによって、紙面左右方向で2つの有彩色領域の各々のレーザー反射強度の振動方向の中心線を、
図7に示すように有彩色領域をなすマスキングテープの表面(即ち、屋外側の表面)の近似曲線とみなした。近似曲線に対して紙面上で90°をなし且つ有彩色領域と目地との境界を通る直線(
図7に示す破線)は、ガラス部材の周縁側の端面を表す。目地幅は、一方のマスキングテープの表面に沿う方向において、一方のマスキングテープの表面とその有彩色領域が設けられたガラス部材の端面との交差位置CX1と他方のマスキングテープの表面とその有彩色領域が設けられたガラス部材の端面との交差位置CX2との長さを換算した実空間の距離である。交差位置CX1を通ってX方向に平行な仮想線と交差位置CX2を通ってX方向に平行な仮想線とのZ方向の間隔でガラス部材同士の取り付け誤差ΔZを算出可能であった。図示していないが、比較のために、検出範囲AにおけるX方向及びY方向の座標値及び検出範囲Aから反射されたレーザー光のRGB値のデータを取得した。
【0057】
図8には、横軸に検出範囲Aにおける外装のX方向の座標値をとり、縦軸に外装から反射されたレーザー光のRGB値(即ち、RGBの各々の階調値)の各々の値をとったグラフを示す。レーザー反射強度の増減をふまえると、マスキングテープから反射されるレーザー光のRGB値はシーリング材から反射されるレーザー光のRGB値よりも概ね高いと考えられる。したがって、
図8の縦軸のRGB値が所定の閾値以上であるX方向の座標域を有彩色領域として判定した。閾値は、上述のレーザー反射強度による判定時と同様に使用した3Dスキャナで予めカラーキャリブレーションを行った結果に基づき、マスキングテープと同系色の青(B)の値を用いて設定した。本実施例では、RGB値(RGBの各々において0から255までの範囲)の閾値を193とした。
図8に示すように、X方向の座標値が凡そ2.071から2.103の範囲でRGB値が前述の閾値以下になり、この範囲を目地領域(即ち、目地の範囲)として決定した。
【0058】
図5、
図6及び
図8に示す実施例に対し、比較例として、ガラス部材の周縁に沿ってマスキングテープを設けなかった場合について、
図9には、横軸に検出範囲Aにおける外装のX方向の座標値をとり、縦軸に外装のZ方向の座標値をとったグラフを示す。表1には、検出範囲AのY方向の中央部で実際に定規を用いて測定した目地幅と、
図6のグラフにおいて前述の閾値に基づいて決定した目地の範囲を実空間の距離に換算した測定値<1>(「マスキングテープあり、レーザー反射強度判定」)と、
図8のグラフにおいて閾値に基づいて決定した目地の範囲を実空間の距離に換算した測定値<2>(「マスキングテープあり、RGB判定」)と、
図9のグラフにおいて閾値に基づいて決定した目地の範囲を実空間の距離に換算した測定値<3>(「マスキングテープなし、Z座標判定」)と、を示す。同じく表1に、定規で測定した目地幅に対する測定値<1>から<3>の各々の計測精度(誤差)を算出した結果を示す。
【0059】
【0060】
図5から
図8及び表1に示すように、マスキングテープをガラス部材の周縁に沿って貼ることによって、ガラス部材に有彩色領域が設けられ、目地幅を算出可能であることを確認した。レーザー反射強度判定に基づく測定値<1>の誤差が1.7%になり、RGB値判定に基づく測定値<2>の誤差14.8%よりも低く、高い計測精度を得た。一方、マスキングテープをガラス部材に貼らずに有彩色領域を設けない場合、測定範囲からの反射光が得られずにZ方向の座標値の振動が増大し、ガラス部材と目地との境界の決定が不正確であった。そのため、測定値<3>の誤差は26.3%に達し、実質的に目地寸法の計測は難しい状況であった。
【0061】
上述の結果によって、マスキングテープ等のテープ材を用いてガラス部材の周縁に沿って有彩色領域を設け、3次元スキャナによって測定範囲を測定することによって、施工後のガラス部材同士の間の目地寸法を計測可能であり、さらに3次元座標値及びレーザー反射強度に基づいて計測することによって高い計測精度が得られることを確認した。
【符号の説明】
【0062】
10、10-1、10-2 ガラス部材
100 有彩色領域
100e 周縁
110 テープ材
110f 側縁
200 3次元スキャナ