(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】放射線検出システムおよび放射線検出方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/17 20060101AFI20240219BHJP
G01T 1/20 20060101ALI20240219BHJP
G01T 1/24 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
G01T1/17 F
G01T1/20 F
G01T1/20 B
G01T1/24
(21)【出願番号】P 2020141007
(22)【出願日】2020-08-24
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久米 直人
(72)【発明者】
【氏名】前川 立行
(72)【発明者】
【氏名】牧野 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】大島 雄志
(72)【発明者】
【氏名】菊地 賢太郎
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/128905(WO,A1)
【文献】特開2014-215142(JP,A)
【文献】Pramoth Chandrikamohan and Timothy A. DeVol,Comparison of Pulse Shape Discrimination Methods for Phoswich and CsI:Tl Detectors,IEEE Transactions on Nuclear Science,2007年,Vol.54,p.398-403
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00-1/16
G01T 1/167-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射される放射線の種類に応じて特性が異なるパルス信号を出力する検出部と、
前記パルス信号の増幅と前記パルス信号の波形の整形を行う信号増幅部と、
前記信号増幅部で整形された前記波形を取得する波形データ取得部と、
前記波形データ取得部で取得された前記波形の時間変化量を求める時間変化算出部と、
少なくとも前記時間変化算出部で取得されたデータに基づいて、前記放射線の種類を判定するデータ判定部と、
を備え、
前記時間変化算出部は、前記波形の時間推移の変化を算出するフィルタを用いて前記時間変化量を求める、
放射線検出システム。
【請求項2】
入射される放射線の種類に応じて特性が異なるパルス信号を出力する検出部と、
前記パルス信号の増幅と前記パルス信号の波形の整形を行う信号増幅部と、
前記信号増幅部で整形された前記波形を取得する波形データ取得部と、
前記波形データ取得部で取得された前記波形の時間変化量を求める時間変化算出部と、
少なくとも前記時間変化算出部で取得されたデータに基づいて、前記放射線の種類を判定するデータ判定部と、
を備え、
前記放射線の種類は、第1エネルギーのβ線と、前記第1エネルギーよりも高い第2エネルギーのβ線と、γ線である、
放射線検出システム。
【請求項3】
入射される放射線の種類に応じて特性が異なるパルス信号を出力する検出部と、
前記パルス信号の増幅と前記パルス信号の波形の整形を行う信号増幅部と、
前記信号増幅部で整形された前記波形を取得する波形データ取得部と、
前記波形データ取得部で取得された前記波形の時間変化量を求める時間変化算出部と、
少なくとも前記時間変化算出部で取得されたデータに基づいて、前記放射線の種類を判定するデータ判定部と、
を備える放射線検出システムであって、
前記検出部は、
前記放射線との相互作用で発光するシンチレータと、
前記シンチレータの発光を検出する光検出器と、
を備え、
前記放射線が入射される開口が形成された筐体の内部に、互いに積層されるとともに種類が異なる複数の前記シンチレータが設けられており、
前記シンチレータの種類に応じて発光の態様が異なるとともに前記光検出器が出力する前記パルス信号の特性が異なり、
前記データ判定部は、
前記パルス信号がいずれの前記シンチレータの発光に基づくものであるかを特定する発生箇所特定部と、
前記発生箇所特定部で特定された前記シンチレータの種類と前記パルス信号の最大波高値に基づいて、前記放射線のエネルギー情報を取得するエネルギー情報取得部と、
を備える、
放射線検出システム。
【請求項4】
入射される放射線の種類に応じて特性が異なるパルス信号を出力する検出部と、
前記パルス信号の増幅と前記パルス信号の波形の整形を行う信号増幅部と、
前記信号増幅部で整形された前記波形を取得する波形データ取得部と、
前記波形データ取得部で取得された前記波形の時間変化量を求める時間変化算出部と、
少なくとも前記時間変化算出部で取得されたデータに基づいて、前記放射線の種類を判定するデータ判定部と、
を備える放射線検出システムであって、
前記検出部は、
前記放射線との相互作用で発光するシンチレータと、
前記シンチレータの発光を検出する光検出器と、
を備え、
前記放射線が入射される開口が形成された筐体の内部に、互いに積層されるとともに種類が異なる複数の前記シンチレータが設けられており、
前記シンチレータの種類に応じて発光の態様が異なるとともに前記光検出器が出力する前記パルス信号の特性が異なり、
前記信号増幅部が前記パルス信号の積分および微分を行う機能を有しており、
それぞれの前記シンチレータで発光が生じてから完全に消滅するまでの蛍光減衰時間のうちの最小値と最大値の間に、前記信号増幅部の積分時定数の値が存在する、
放射線検出システム。
【請求項5】
入射される放射線の種類に応じて特性が異なるパルス信号を出力する検出部と、
前記パルス信号の増幅と前記パルス信号の波形の整形を行う信号増幅部と、
前記信号増幅部で整形された前記波形を取得する波形データ取得部と、
前記波形データ取得部で取得された前記波形の時間変化量を求める時間変化算出部と、
少なくとも前記時間変化算出部で取得されたデータに基づいて、前記放射線の種類を判定するデータ判定部と、
を備える放射線検出システムであって、
前記検出部は、
前記放射線との相互作用で発光するシンチレータと、
前記シンチレータの発光を検出する光検出器と、
を備え、
前記放射線が入射される開口が形成された筐体の内部に、互いに積層されるとともに種類が異なる複数の前記シンチレータが設けられており、
前記シンチレータの種類に応じて発光の態様が異なるとともに前記光検出器が出力する前記パルス信号の特性が異なり、
複数の前記シンチレータは、前記筐体の開口に設けられた第1シンチレータと、前記第1シンチレータよりも内側に設けられた第2シンチレータと、前記第2シンチレータよりも内側に設けられた第3シンチレータとを含み、
前記第2シンチレータと前記第3シンチレータの間に、光を透過しつつ一部の種類の前記放射線を遮蔽する遮蔽体が設けられる、
放射線検出システム。
【請求項6】
前記筐体は、γ線を透過しつつ前記一部の種類の前記放射線を遮蔽する、
請求項
5に記載の放射線検出システム。
【請求項7】
前記時間変化算出部は、前記波形の時間推移の変化を算出するフィルタを用いて前記時間変化量を求める、
請求項
2から請求項
6のいずれか1項に記載の放射線検出システム。
【請求項8】
前記データ判定部は、前記波形データ取得部で取得されたデータと前記時間変化算出部で取得されたデータに基づいて、前記放射線の種類を判定する、
請求項1
から請求項7のいずれか1項に記載の放射線検出システム。
【請求項9】
前記データ判定部は、前記波形が有する少なくとも2つの特徴量のそれぞれを事前に取得された前記特徴量と比較する比較評価部を備える、
請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載の放射線検出システム。
【請求項10】
前記検出部は、
前記放射線との相互作用で発光するシンチレータと、
前記シンチレータの発光を検出する光検出器と、
を備える、
請求項1
または請求項
2に記載の放射線検出システム。
【請求項11】
前記放射線が入射される開口が形成された筐体の内部に、互いに積層されるとともに種類が異なる複数の前記シンチレータが設けられており、
前記シンチレータの種類に応じて発光の態様が異なるとともに前記光検出器が出力する前記パルス信号の特性が異なる、
請求項
10に記載の放射線検出システム。
【請求項12】
前記検出部は、半導体検出器である、
請求項1
または請求項
2に記載の放射線検出システム。
【請求項13】
検出部が、入射される放射線の種類に応じて特性が異なるパルス信号を出力するステップと、
信号増幅部が、前記パルス信号の増幅と前記パルス信号の波形の整形を行うステップと、
波形データ取得部が、前記信号増幅部で整形された前記波形を取得するステップと、
時間変化算出部が、前記波形データ取得部で取得された前記波形の時間変化量を求めるステップと、
データ判定部が、少なくとも前記時間変化算出部で取得されたデータに基づいて、前記放射線の種類を判定するステップと、
を含
み、
前記時間変化算出部は、前記波形の時間推移の変化を算出するフィルタを用いて前記時間変化量を求める、
放射線検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射線検出技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電離箱サーベイメータでは、1度目の測定をした後にβ線の入射を阻止するキャップをプローブの先端に装着してγ線のみの測定をし、1度目と2度目の測定値の差でβ線の値を得るようにしている。つまり、β線とγ線のそれぞれの値を得るために同一箇所で必ず2回の測定を行う必要があり、作業手順が複雑になるばかりか、1度目と2度目の差分を得る処理を行うため、測定誤差が大きくなる。そこで、フォスイッチ検出器というものがある。このフォスイッチ検出器は、放射線の種類によって異なる透過力を利用した検出器である。例えば、2層のシンチレータが配置され、1層目で検出された値と、1層目と2層目で同時に検出された値で放射線の種類を特定することができる。ここで、パルス信号の積分結果を比較することで放射線の種類を判定する技術が知られている。さらに、3層からなるシンチレータでα線、β線、γ線を判定する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5027124号公報
【文献】特開2012-242369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、異なる種類のシンチレータで異なる放射線を測定するため、シンチレータごとに波高値の大きさが異なっている。これらシンチレータに由来するパルス信号の減衰時間を評価することで放射線が反応したシンチレータを特定している。しかしながら、パルス信号の大きさが異なることによる誤差などによって、データの判定を誤る可能性がある。
【0005】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、放射線の種類の判定精度を向上させることができる放射線検出技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係る放射線検出システムは、入射される放射線の種類に応じて特性が異なるパルス信号を出力する検出部と、前記パルス信号の増幅と前記パルス信号の波形の整形を行う信号増幅部と、前記信号増幅部で整形された前記波形を取得する波形データ取得部と、前記波形データ取得部で取得された前記波形の時間変化量を求める時間変化算出部と、少なくとも前記時間変化算出部で取得されたデータに基づいて、前記放射線の種類を判定するデータ判定部と、を備え、前記時間変化算出部は、前記波形の時間推移の変化を算出するフィルタを用いて前記時間変化量を求める。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態により、放射線の種類の判定精度を向上させることができる放射線検出技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態の放射線検出システムを示す構成図。
【
図2】シンチレータの蛍光減衰時間の違いによるパルス信号の波形の違いを示すグラフ。
【
図3】波形データ取得部で取得した波形と時間変化算出部の出力値の一例を示すグラフ。
【
図4】波形データ取得部で取得した波形と時間変化算出部の出力値の他の例を示すグラフ。
【
図5】シンチレータの蛍光減衰時間の違いによる時間変化算出部の出力態様の違いの一例を示すグラフ。
【
図6】シンチレータの蛍光減衰時間の違いによる時間変化算出部の出力態様の違いの他の例を示すグラフ。
【
図8】第2実施形態の放射線検出システムを示す構成図。
【
図9】第3実施形態の放射線検出システムを示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、放射線検出システムおよび放射線検出方法の実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態の放射線検出システムについて
図1から
図7を用いて説明する。
【0010】
図1の符号1は、第1実施形態の放射線検出システムである。この放射線検出システム1は、α線、β線、γ線、X線などの電離放射線を検出するものである。例えば、検出作業を行う作業者は、プローブとしての検出部2を把持し、この検出部2を所定の放射線源に近づけることで放射線の検出を行う。特に、放射線検出システム1は、過酷事故を起こした原子力発電所の作業環境および作業場所における線量を測定するために用いられる。
【0011】
核燃料が破損するような事象が発生した場合には、α線、β線を放射する核種が発生する。このような過酷事故を起こした原子力発電所では、溶け落ちた核燃料物質または核分裂生成物が、付着または露出した区域、機器、部品などが放射線管理の対象となる。
【0012】
例えば、核燃料物質であるウラン、プルトニウム、アメリシウムから放射されるα線の管理が必要になる。さらに、核分裂生成物については、Sr-90/Y-90から放射される高エネルギーで高強度のβ線の管理が必要になる。
【0013】
α線の空気中飛程は、4cm程度であるため、α線による外部被ばくよりも、汚染物の付着、拡大、空気中拡散に起因する内部被ばくの防止に取り組む必要がある。そのため、表面汚染密度、汚染物質の空気中濃度の監視が重要である。
【0014】
一方、核種から放射されるβ線の空気中の最大飛程は、1m程度あるため、内部被ばくの防止は勿論のこと、外部被ばくの防止も重要になる。特に、放射線業務従事者の眼の水晶体に受ける等価線量限度は、年間50mSv、かつ5年間で100mSvと定められている。そのため、作業環境および作業場所のβ線の線量当量率の測定および把握が必要になる。そこで、第1実施形態の放射線検出システム1を用いる。
【0015】
放射線検出システム1は、検出部2と信号増幅部3と波形データ取得部4と時間変化算出部5とデータ判定部6とを備える。
【0016】
検出部2は、入射される放射線の種類に応じて特性が異なるパルス信号を出力する。
【0017】
信号増幅部3は、検出部2から出力されたパルス信号の増幅と、このパルス信号の波形の整形を行う。この信号増幅部3は、所謂アンプであり、検出部2から出力されたパルス信号を測定可能なレベルまで増幅する。例えば、チャージアンプ方式、カレントアンプ方式を用いることができる。なお、信号増幅部3では、検出部2から出力されるパルス信号の減衰過程に依存する波形を増幅できる周波数応答が必要となる。
【0018】
波形データ取得部4は、信号増幅部3で増幅および整形されたパルス信号の波形を取得する。なお、波形データ取得部4には、パルス信号の波形について、時間別の波高値の情報を測定可能なものを用いる。
【0019】
時間変化算出部5は、波形データ取得部4で取得された波形の時間変化量を求める。例えば、時間変化算出部5は、波形データ取得部4で測定した波高値の時間推移の時間変化を算出する。時間変化算出部5は、少なくとも数値演算処理が可能であれば良い。
【0020】
また、時間変化算出部5は、波形の時間推移の変化を算出するフィルタを用いて時間変化量を求める。このようにすれば、パルス信号の波形の時間推移の変化を算出することができる。
【0021】
時間変化算出部5は、直近の複数のデータに対して任意の関数の近似曲線を求めて微分する方法、単純な時間当たりの変化量を算出する手法、Savitzky-Golay(SG)法、平坦化微分手法、移動平均法、荷重移動平均法などを用いて演算処理を行うことができる。例えば、時間変化算出部5が用いるフィルタには、微分フィルタ、SGフィルタなどを用いることができる。なお、SGフィルタは、デジタル平滑化多項式フィルタ、または最小二乗平滑化フィルタなどとも称される。以下の説明では、SGフィルタを用いる形態を例示する。
【0022】
データ判定部6は、波形データ取得部4で取得されたデータと時間変化算出部5で取得されたデータに基づいて、放射線の種類を判定する。なお、データ判定部6は、時間変化算出部5で取得されたデータのみに基づいて、放射線の種類を判定することもできる。
【0023】
データ判定部6は、パルス信号の波形または時間変化算出部5が出力した波形から、特徴的な値を識別することで、データの種類を識別する。データ判定部6は、少なくとも数値演算または比較演算により、データの評価が可能であれば良い。
【0024】
データ判定部6は、比較評価部7と発生箇所特定部8とエネルギー情報取得部9とを備える。これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
【0025】
本実施形態の少なくともデータ判定部6は、CPU、ROM、RAM、HDDなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態の放射線検出方法は、各種プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0026】
第1実施形態の検出部2は、光検出器10と第1シンチレータ11と第2シンチレータ12と第3シンチレータ13と遮蔽体14とこれらを収容する筐体15とを備える。
【0027】
シンチレータ11,12,13は、板状を成す部材である。これらシンチレータ11,12,13は、放射線との相互作用で発光する。また、光検出器10は、シンチレータ11,12,13の発光を検出する。光検出器10は、発光の検出に応じてパルス信号を出力する。このようにすれば、シンチレータ11,12,13と光検出器10で放射線を検出する検出部2を構成できる。
【0028】
なお、検出部2には、放射線によって発生するパルス信号の波形が変わるように、パルス信号の減衰時間が異なるものを用いる。
【0029】
光検出器10には、光の感度が高く口径の選択肢が豊富にある光電子増倍管を用いることができる。また、光検出器10には、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、Silicon photomultiplier(SiPMT)、Multi-Pixel Photon Counter(MPPC)などの各種光検出デバイスを用いることもできる。この光検出器10には、シンチレータ11,12,13の発光波長などが合致するものであれば、いずれのデバイスを用いても良い。
【0030】
筐体15の内部で複数のシンチレータ11,12,13が互いに積層される。複数のシンチレータ11,12,13は、互いに種類が異なるものである。これらシンチレータ11,12,13の種類に応じて発光の態様が異なるとともに光検出器10が出力するパルス信号の特性が異なる。このようにすれば、放射線の種類に応じて特性が異なるパルス信号を出力する検出部2を構成できる。
【0031】
筐体15は、円筒形状を成す部材であり、その一端に開口16が形成されている。この開口16は、薄膜17で閉塞されている。この薄膜17は、放射線の透過性を有しつつ、遮光性と電磁シールド性を有する。この開口16から放射線が入射され、シンチレータ11,12,13に当たる。
【0032】
複数の互いに積層されたシンチレータ11,12,13のうち、第1シンチレータ11は、筐体15の開口16に最も近接した位置に設けられている。第2シンチレータ12は、第1シンチレータ11よりも内側に設けられている。第3シンチレータ13は、第2シンチレータ12よりも内側に設けられている。このようにすれば、放射線の種類に応じて進入距離が異なるため、放射線の種類に応じて特性が異なるパルス信号を出力する検出部2を構成できる。
【0033】
第1実施形態では、第1シンチレータ11が第2シンチレータ12より薄く形成されている。第2シンチレータ12が第3シンチレータ13より薄く形成されている。さらに、第1シンチレータ11と第2シンチレータ12を合わせた厚さよりも、第3シンチレータ13は厚く形成されている。
【0034】
遮蔽体14は、板状を成す部材である。この遮蔽体14は、第2シンチレータ12と第3シンチレータ13の間に設けられている。遮蔽体14は、光を透過しつつ一部の種類の放射線を遮蔽する。遮蔽体14は、シンチレータ11,12の発光波長に対して透明な材質で形成されている。例えば、ガラス、アクリルなどで形成されている。なお、第1シンチレータ11と第2シンチレータ12を合わせた厚さよりも、遮蔽体14は厚く形成されている。
【0035】
筐体15は、γ線を透過しつつ一部の種類の放射線を遮蔽する。例えば、筐体15は、α線およびβ線といった透過力の低い放射線を遮蔽する。これら透過力の低い放射線は、開口16に面する入射方向18から入射される。つまり、α線、β線の入射は、筐体15の開口16に限定される。一方、透過力の高いγ線は、開口16から入射されるとともに、筐体15の側方の入射方向19からも入射される。このようにすれば、透過力の低いα線およびβ線と、透過力の高いγ線とが区別され易くなるため、特にγ線の検出精度を向上させることができる。
【0036】
なお、筐体15は、一部の種類の放射線の遮蔽効果が得られれば、いずれの材料で形成されても良い。さらに、筐体15は、電磁シールドを兼ねても良い。
【0037】
γ線と所定の物質との反応は、β線などとは異なるが、γ線が物質と反応して発生する散乱電子は、物理的にはβ線と同じものになる。γ線の影響を抑えるためには、第1シンチレータ11と第2シンチレータ12を薄くすることが好ましい。しかし、第1シンチレータ11と第2シンチレータ12を薄くすると、γ線の感度が下がることに加え、筐体15の側方の入射方向19から入射されたγ線に対する感度が変わってしまう。そのため、第1実施形態では、γ線の検出用に第3シンチレータ13を設けている。さらに、遮蔽体14も設けている。
【0038】
例えば、第1シンチレータ11と第2シンチレータ12で検出対象のβ線などの荷電粒子の最大エネルギーを想定する。そして、これらの荷電粒子の最大飛程よりも厚い遮蔽体14を設けるようにする。このようにすれば、仮にβ線が第2シンチレータ12を通過しても第3シンチレータ13まで届かないようになる。そのため、第3シンチレータ13では、γ線に基づく発光のみが生じるようになる。
【0039】
第1実施形態の検出部2では、検出対象であるβ線によるエネルギーが得られる条件の範囲内であれば、第2シンチレータ12を薄くすることができる。このようにすれば、γ線が、第1シンチレータ11と第2シンチレータ12と反応する事象(確率)を減らしつつ、第3シンチレータ13でγ線を検出することができる。
【0040】
放射線検出システム1では、第1エネルギーのβ線と、第1エネルギーよりも高い第2エネルギーのβ線と、γ線の少なくとも3つの種類の放射線を検出することができる。この放射線検出システム1では、1度の検出作業でいずれの種類の放射線を検出したかを弁別することができる。以下の説明では、第1エネルギーのβ線を低エネルギーβ線と称する。第2エネルギーのβ線を高エネルギーβ線と称する。
【0041】
次に、放射線検出システム1の動作によって受動的に生じる作用効果を含めて説明する。
【0042】
例えば、荷電粒子であるα線またはβ線の場合、透過力が低く筐体15によって遮蔽されるため、筐体15の開口16のみから入射される。そして、開口16から入射したα線またはβ線がシンチレータ11,12に当たる。
【0043】
筐体15の内部にα線またはβ線が入射された場合には、複数のシンチレータ11,12,13のうち、開口16に最も近い第1シンチレータ11にエネルギーを与えて発光が生じる。この発光に基づいて光検出器10がパルス信号を発生させる。
【0044】
入射された放射線の透過力が低い場合、第1シンチレータ11に全てのエネルギーを与えて止まるようになる。しかし、放射線の透過力が高い場合は、第2シンチレータ12にもエネルギーを与えて発光が生じ、光検出器10がパルス信号を発生させる。つまり、必ず、第1シンチレータ11に起因したパルス信号が発生する。
【0045】
一方、光、つまり電磁波の1種であるγ線またはX線の場合には、筐体15または第1シンチレータ11と必ず反応するものではなく、そのエネルギーまたは第1シンチレータ11の材質などに依存する所定の確率で反応する。そのため、第1シンチレータ11の発光に基づくパルス信号が発生しない場合もあり得る。
【0046】
ここで、第1シンチレータ11の材質とサイズを、γ線が反応し難いものに設定することで、透過力の弱い放射線(α線、β線)と、透過力の高い放射線(γ線、X線)を区別することができる。
【0047】
例えば、β線とγ線を区別することを目的とした場合において、第1シンチレータ11には、密度が低いプラスチックシンチレータを用いる。さらに、第1シンチレータ11の厚みは、例えば、0.3mm程度にする。さらに、第3シンチレータ13にも、密度が低いプラスチックシンチレータを用いる。また、第2シンチレータ12の材料としては、ユウロピウムを添加したフッ化カルシウム(CaF2(Eu))を用いる。なお、第3シンチレータ13は、第1シンチレータ11よりも蛍光減衰時間が長いものにする。
【0048】
ここで、シンチレータ11,12,13の蛍光減衰時間とは、蛍光パルス(シンチレータ11,12,13の発光)の初期光強度の値が1/eになるまで減衰する時間を表す定数である。なお、蛍光パルスは、その発生した瞬間(初期値I(0))の光強度が最大の値となっている。ここで、初期光強度とは、この発生した瞬間の光強度の値である。蛍光パルスは瞬時に発生して指数関数的に減衰(減光)するので、時刻tにおける減衰された光強度I(t)は、時刻t=0での初期値I(0)を用いて、I(t)=I(0)・exp(-t/τ)の形で表現することができる。このτが蛍光減衰時間であり、指数減衰応答の時定数でもある。
【0049】
約250keV以下の低エネルギーβ線は、第1シンチレータ11で止まる。この低エネルギーβ線が入射された場合には、第1シンチレータ11の蛍光減衰時間に応じたパルス信号が出力される。
【0050】
250keVを超える高エネルギーβ線は、第1シンチレータ11を通過し、第2シンチレータ12まで到達する。この高エネルギーβ線が入射された場合には、第1シンチレータ11と第2シンチレータ12の蛍光減衰時間に応じたパルス信号が出力される。
【0051】
さらに、高エネルギーβ線よりもエネルギーが高いγ線は、第1シンチレータ11と第2シンチレータ12を通過し、第3シンチレータ13まで到達する。さらに、筐体15の側方の入射方向19からも入射され、第3シンチレータ13に到達する。このγ線が入射された場合には、第1シンチレータ11と第2シンチレータ12と第3シンチレータ13の蛍光減衰時間に応じたパルス信号が出力される。
【0052】
ここで、CaF2(Eu)の第2シンチレータ12は、プラスチックの第1シンチレータ11と比較して、密度が高く、厚くすることができる。そのため、第2シンチレータ12で発生するイベント(発光およびパルス信号の出力)を相対的に増加させることができる。つまり、低エネルギーβ線、高エネルギーβ線、γ線によって異なる特性のパルス信号の波形を取得することができる。
【0053】
検出部2で出力したパルス信号は、信号増幅部3で増幅される。ここで、シンチレータの消光時間より長い積分時間を有するチャージアンプ方式の信号増幅部3(アンプ)を用いた場合には、パルス信号の波長(時間方向の幅)が短いほど、信号増幅部3から出力される波形の立ち上がり時間が短くなる。そして、波形の立ち上がり時間に、シンチレータの蛍光減衰時間の情報が現れる。つまり、シンチレータの消光時間より信号増幅部3の積分時間が長い場合は、波形の立ち上がり部分の形状がシンチレータの蛍光減衰時間に応じて変化する。
【0054】
これに対して、シンチレータの消光時間より短い積分時間のアンプを用いて、シンチレータで発生したパルス信号をそのまま増幅した場合には、波形の立ち下がり時間に、シンチレータの蛍光減衰時間の情報が現れる。つまり、シンチレータの消光時間より信号増幅部3の積分時間が短い場合は、波形の立ち下がり部分の形状がシンチレータの蛍光減衰時間に応じて変化する。
【0055】
例えば、
図2のグラフにおいて、グラフG1は、蛍光減衰時間が24nsecのシンチレータの発光によるパルス信号の波形である。グラフG2は、蛍光減衰時間が285nsecのシンチレータの発光によるパルス信号の波形である。グラフG3は、蛍光減衰時間が940nsecのシンチレータの発光によるパルス信号の波形である。グラフG4は、蛍光減衰時間が24nsecのシンチレータの発光と蛍光減衰時間が940nsecのシンチレータの発光が合成された場合のパルス信号の波形である。これらのグラフG1~G4に示すように、シンチレータの蛍光減衰時間に応じて、信号増幅部3から出力される波形の立ち上がり部分と立ち下り部分の形状に差があることが分かる。
【0056】
波形を測定する場合は、高速デジタイザーなどを用いて測定が可能である。しかし、いずれのシンチレータの発光に基づく信号であるか判定するためには、データごとの比較を行い判定することが必要になる。例えば、パルス信号の波形全体のデータを用いて判定する場合には、データの転送速度またはデータ処理速度などの観点で装置が非常に大掛かりになる。そのため、実際の判定には、波形の特徴量を使用する。
【0057】
従来技術では、波形の立ち上がり時間、または2区間の積分値の比(2ゲート法)などが用いられている。しかし、例えば、2層のシンチレータを使う場合、1層目のシンチレータ単独の発光、2層目のシンチレータ単独の発光、1層目と2層目の同時の発光の合計3種類の発光を判定する必要がある。さらに、得られる波高値は毎回異なるため、立ち上がり時間または積分値の比などの1つの指標で判定する場合には、判定が困難になる。
【0058】
そこで、評価に使用できる指標を増やすことが考えられる。波形の特徴量は、信号増幅部3のタイプにも依存するが、パルス信号の波形の立ち上がり部分、または立ち下り部分に特徴が発生する。第1実施形態では、波形データ取得部4で、波高値をサンプリングし数値演算によって信号の傾きを算出する。
【0059】
例えば、パルス信号の波形を100Mspsなどのサンプリングレートで測定する。そして、直近5回分の波高値Dnを測定する。過去5回の波高値のデータD1~D5で、以下の数式に基づく演算を行う。ここでは、5段のSGフィルタ処理を実施し、このSGフィルタ処理後のデータSGを時間変化量として記録する。
【0060】
SG=-2D1-D2+D4+2D5
【0061】
なお、本実施形態では、過去5回の波高値のデータD1~D5で波高値を測定しているが、その他の態様であっても良い。例えば、過去6回以上の波高値で測定しても良い。
【0062】
次に、波形データ取得部4で取得した波形を、時間変化算出部5で処理することで出力される出力値の結果を
図3から
図4を参照して説明する。例えば、
図3のグラフにおいて、グラフG5は、波形データ取得部4で取得した波形の一例である。グラフG6は、この波形に基づいて時間変化算出部5から出力される出力値である。また、
図4のグラフにおいて、グラフG7は、波形データ取得部4で取得した波形の他の例である。グラフG8は、この波形に基づいて時間変化算出部5から出力される出力値である。
【0063】
時間変化算出部5で処理することで、波形の時間当たりの増加量が大きい場合には、時間変化算出部5の出力値が大きくなる。一方、波形の時間当たりの減少量が大きい場合には、時間変化算出部5の出力値が負の値になる。または、時間変化量(波形の形状)が線形に近くなるとゼロ付近の出力値が時間変化算出部から出力される。
【0064】
このように、時間変化算出部5の出力値の最大値は、時間変化量が増加したときの最大の変化を示す。一方、時間変化算出部5の出力値の最小値は、時間変化量が減少した時の最大の変化を示す。つまり、時間変化算出部5の出力値が、正であるか負であるかによって、パルス信号の立ち上がり時間に相当するか、立ち下がり時間に相当するかが判定できる。
【0065】
従来技術では、波形データ取得部4で取得した波形で、これらの時間変化を評価していた。そして、異なる時間の値を評価することで対応していることが多かった。しかし、パルス信号の大きさ(最大波高値)が変わることにより、評価誤差が生じることが多かった。
【0066】
第1実施形態では、波形データ取得部4で取得した波形の時間変化量を時間変化算出部5で解析し、この時間変化量に着目して判定をしているため、波高値の影響を抑えることができる。さらに、波形データ取得部4で得られる波形を用いることで、さらに波高値の影響を抑えることも可能であり、精度よくパルス信号を分離することができる。
【0067】
次に、シンチレータの蛍光減衰時間の違いによる時間変化算出部5の出力態様の違いを
図5から
図6を参照して説明する。
【0068】
図5は、時間変化算出部5の出力値が正の値だった数のヒストグラムである。グラフG9は、蛍光減衰時間が2.4nsec程度のプラスチックシンチレータのグラフである。グラフG10は、蛍光減衰時間が300nsec程度のプラスチックシンチレータのグラフである。グラフG11は、蛍光減衰時間が900nsec程度のCaF2(Eu)シンチレータのグラフである。
【0069】
図6は、時間変化算出部5の出力値の最大値と波形データ取得部4で得られた最大値の比を蛍光減衰時間ごとに示したヒストグラムである。グラフG12は、蛍光減衰時間が2.4nsec程度のプラスチックシンチレータのグラフである。グラフG13は、蛍光減衰時間が300nsec程度のプラスチックシンチレータのグラフである。グラフG14は、蛍光減衰時間が900nsec程度のCaF2(Eu)シンチレータのグラフである。
【0070】
図5から
図6のグラフに示すように、シンチレータごとにグラフが変化することが分かる。これらのグラフの違い基づいて判定用のパラメータを予め設定することで、いずれのシンチレータの発光に基づくパルス信号であるかが判定可能となる。例えば、
図5の時間変化算出部5の出力値が正の値だった数を第1パラメータとして用いて判定しても良いし、
図6の時間変化算出部5の出力値の最大値と波形データ取得部4で得られた最大値の比を第2パラメータとして用いて判定しても良い。さらに、第1パラメータと第2パラメータを合わせて判定用に用いても良い。このようにすれば、信号増幅部3の形式によらず、かつパルス信号の大きさに依存せずに、精度の高い判定を行うことができる。
【0071】
図1に示すように、比較評価部7は、パルス信号の波形が有する少なくとも2つの特徴量のそれぞれを事前に取得された特徴量と比較する。例えば、第1パラメータと第2パラメータを合わせて判定を行う。第1パラメータの判定結果と第2パラメータの判定結果の論理式を立てて評価する。第1パラメータの正の数が第1閾値以上であり、第2パラメータの最大値の数が第2閾値以上である場合には、所定のシンチレータの発光であると判定する。このようにすれば、波形の評価精度を向上させることができる。
【0072】
第1実施形態の信号増幅部3は、検出部2から出力されたパルス信号の積分および微分を行う機能を有している。さらに、それぞれのシンチレータ11,12,13の蛍光減衰時間のうちの最小値と最大値の間に、信号増幅部3の積分時定数(信号減衰時間)の値が存在するように、信号増幅部3を構成する。このようにすれば、シンチレータ11,12,13の種類に基づいて生じる最大波高値の差を軽減することができる。
【0073】
ここで、信号増幅部3の信号減衰時間とは、パルス信号(電気信号)の最大値が1/eになるまで減衰する時間を表す定数である。は、その波形が立ち上がってから最大値になり、その後に指数関数的に減衰(減少)するので、時刻tにおける減衰された値S(t)は、最大値S(max)を用いて、S(t)=S(max)・exp(-t/τS)の形で表現することができる。このτSが信号減衰時間であり、指数減衰応答の時定数でもある。
【0074】
例えば、第1シンチレータ11の蛍光減衰時間をτ1とし、第2シンチレータ12の蛍光減衰時間をτ2とし、第3シンチレータ13の蛍光減衰時間をτ3とし、信号増幅部3の信号減衰時間をτSとした場合に以下の式が成り立つ。
【0075】
τ1<τ3<τS<τ2
【0076】
信号増幅部3として、積分時間を充分に長くしたチャージアンプ方式を使用した場合において、パルス信号の波形の波高値は、それぞれのシンチレータ11,12,13に付与されたエネルギーとシンチレータ11,12,13の材料に依存する発光量で決まる。
【0077】
一般的に、プラスチックシンチレータは密度が低く、γ線の影響を受け難いという特徴がある。一方、プラスチックシンチレータはCaF2(Eu)シンチレータなどの無機シンチレータより発光量が小さい。
【0078】
また、第1シンチレータ11のように薄い場合には、γ線から付与されるエネルギー量も小さくなり、全体的に波高値の最大値が小さくなる。つまり、プラスチックシンチレータの場合は、CaF2(Eu)シンチレータのパルス信号と比較して波高値が小さくなる。そのため、波形データ取得部4では、広範囲の電圧を入力できるようにする必要がある。
【0079】
また、それぞれのパルス信号の差が波形の立ち上がり部分に現れる場合において、プラスチックシンチレータのような数nsec程度の早い時間変化量を評価するために、非常に高速なA/Dコンバータなどが必要になる。そのため、放射線検出システム1の構成が複雑化する。
【0080】
そこで、第1実施形態では、信号増幅部3の信号減衰時間τSを、CaF2(Eu)の蛍光減衰時間τ2よりも小さくすることで、CaF2(Eu)シンチレータの発光量の全てを波高値に変換しないようにする。つまり、シンチレータ11,12,13の種類差による最大波高値の差を軽減する。また、パルス信号の波形の立ち下り部分にも、シンチレータ11,12,13の蛍光減衰時間の差の影響が現れるようになる。そのため、パルス信号の波形の立ち上がり部分、立ち下り部分の特徴の双方に基づいて、データの判定を行うことができる。
【0081】
また、時間変化算出部5の出力値が正の値だったデータ数(
図5)に加えて、時間変化算出部5の出力値が負の値だったデータ数、または、時間変化算出部5の出力の最大値または最小値などにも、判定に用いることができる特徴が現れることとなる。
【0082】
第1実施形態では、3種類のシンチレータ11,12,13を組み合わせているため、発生するイベント(発光およびパルス信号の出力)は、2の3条通りある。
【0083】
例えば、第1シンチレータ11の発光の場合、第2シンチレータ12の発光の場合、第3シンチレータ13の発光の場合、第1シンチレータ11と第2シンチレータ12の発光の場合、第2シンチレータ12と第3シンチレータ13の発光の場合、第1シンチレータ11と第3シンチレータ13の発光の場合、全てのシンチレータ11,12,13の発光の場合、発光無しの場合の合計8通りである。
【0084】
それぞれの条件に応じた測定を事前に行う。そして、放射線と特徴量との相関を取得して記録しておく。これらの記録と実際の条件を比較することで、より詳細なデータの識別も可能になる。これらの比較には、一般的な条件式による判定フローを用いても、機械学習などを用いて判定してもよい。
【0085】
さらに、第1実施形態の放射線検出システム1では、いずれのシンチレータ11,12,13に基づくイベントかを判定できた場合には、そのエネルギー情報を所得することもできる。
【0086】
ここで、発生箇所特定部8は、パルス信号がいずれのシンチレータ11,12,13の発光に基づくものであるかを特定する。例えば、第3シンチレータ13の発光に基づくパルス信号であるか否かを特定する。
【0087】
また、エネルギー情報取得部9は、発生箇所特定部8で特定されたシンチレータ11,12,13の種類とパルス信号の最大波高値に基づいて、放射線のエネルギー情報を取得する。このようにすれば、放射線の種類に加えて、放射線のエネルギー情報についても1度の検出作業で取得することができる。
【0088】
例えば、第3シンチレータ13で検出されたγ線の場合には、その波高値の情報を得ることでγ線のエネルギー情報(エネルギー分布)を得ることができる。このエネルギー情報は、核種別の強度の測定に用いることができるばかりか、1cm線量当量の評価に用いることができる。
【0089】
また、第1シンチレータ11と第2シンチレータ12を通過する高エネルギーのγ線の場合には、第1シンチレータ11と第2シンチレータ12に与えられるエネルギーが小さくなる。そのため、第1シンチレータ11または第2シンチレータ12で止まる低エネルギーのγ線と、高エネルギーのγ線とを区別することができる。
【0090】
第1実施形態の検出部2の構成では、γ線の測定を行いつつ、γ線の影響を受け難いα線またはβ線の測定を行うことができる。
【0091】
次に、放射線検出システム1が実行する放射線検出処理について
図7のフローチャートを用いて説明する。この放射線検出システム1の動作によって受動的に生じる作用効果を含めて説明する。なお、
図1に示す構成図を適宜参照する。以下のステップは、放射線検出処理に含まれる少なくとも一部の処理であり、他のステップが放射線検出処理に含まれても良い。
【0092】
図7に示すように、まず、ステップS11において、検出部2が、入射される放射線の種類に応じて特性が異なるパルス信号を出力する。
【0093】
次のステップS12において、信号増幅部3が、検出部2が出力したパルス信号の増幅とパルス信号の波形の整形を行う。
【0094】
次のステップS13において、波形データ取得部4が、信号増幅部3で増幅および整形された波形を取得する。
【0095】
次のステップS14において、時間変化算出部5が、波形データ取得部4で取得された波形の時間変化量を求める。
【0096】
次のステップS15において、比較評価部7が、波形データ取得部4で取得された波形が有する少なくとも2つの特徴量のそれぞれを事前に取得された特徴量と比較する。
【0097】
次のステップS16において、データ判定部6が、波形データ取得部4で取得されたデータと時間変化算出部5で取得されたデータに基づいて、放射線の種類を判定する。
【0098】
次のステップS17において、発生箇所特定部8が、検出部2が出力したパルス信号がいずれのシンチレータ11,12,13の発光に基づくものであるかを特定する。
【0099】
次のステップS18において、エネルギー情報取得部9が、発生箇所特定部8で特定されたシンチレータ11,12,13の種類とパルス信号の最大波高値に基づいて、放射線のエネルギー情報を取得する。
【0100】
そして、放射線検出システム1が放射線検出処理を終了する。
【0101】
なお、第1実施形態では、遮蔽体14よりも開口16側に第1シンチレータ11と第2シンチレータ12の2枚が設けられ、遮蔽体14よりも奥側に第3シンチレータ13の1枚が設けられているが、シンチレータの枚数は適宜調整しても良い。例えば、遮蔽体14よりも開口16側に3枚のシンチレータを設けて、合計4枚のシンチレータで検出部2を構成しても良い。
【0102】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の放射線検出システム1Aおよび放射線検出方法について
図8を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0103】
第2実施形態の検出部2Aでは、光検出器10と第1シンチレータ11と第2シンチレータ12とこれらを収容する筐体15とを備える。つまり、第2実施形態の検出部2Aでは、第1実施形態の第3シンチレータ13と遮蔽体14が省略されている。
【0104】
第1シンチレータ11には、密度が低いプラスチックシンチレータを用いる。さらに、第1シンチレータ11の厚みは、例えば、0.3mm程度にする。また、第2シンチレータ12の材料としては、ユウロピウムを添加したフッ化カルシウム(CaF2(Eu))を用いる。なお、第2シンチレータ12は、第1シンチレータ11よりも蛍光減衰時間が長いものにする。このようにすれば、少なくともβ線とγ線を区別することができる放射線検出システム1Aを構成できる。
【0105】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の放射線検出システム1Bおよび放射線検出方法について
図9を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0106】
第3実施形態の検出部2Bは、半導体検出器である。このようにすれば、半導体検出器で検出部2Bを構成できるため、第1実施形態の検出部2と比較して部品点数を低減させることができる。
【0107】
本実施形態に係る放射線検出システムおよび放射線検出方法を第1実施形態から第3実施形態に基づいて説明したが、いずれか1の実施形態において適用された構成を他の実施形態に適用しても良いし、各実施形態において適用された構成を組み合わせても良い。
【0108】
なお、本実施形態において、基準値(閾値)を用いた任意の値(パラメータ)の判定は、「任意の値が基準値以上か否か」の判定でも良いし、「任意の値が基準値を超えているか否か」の判定でも良い。或いは、「任意の値が基準値以下か否か」の判定でも良いし、「任意の値が基準値未満か否か」の判定でも良い。また、基準値が固定されるものでなく、変化するものであっても良い。従って、基準値の代わりに所定範囲の値を用い、任意の値が所定範囲に収まるか否かの判定を行っても良い。また、予め装置に生じる誤差を解析し、基準値を中心として誤差範囲を含めた所定範囲を判定に用いても良い。
【0109】
なお、本実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
【0110】
本実施形態のシステムは、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスまたはキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。このシステムは、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0111】
なお、本実施形態のシステムで実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記憶されて提供するようにしても良い。
【0112】
また、このシステムで実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、このシステムは、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0113】
なお、放射線検出システム1(データ判定部6)には、機械学習を行う人工知能(AI:Artificial Intelligence)を備えるコンピュータが含まれても良い。また、放射線検出システム1には、深層学習に基づいて、複数のパターンから特定のパターンを抽出する深層学習部が含まれても良い。
【0114】
本実施形態のコンピュータを用いた解析には、人工知能の学習に基づく解析技術を用いることができる。例えば、ニューラルネットワークによる機械学習により生成された学習モデル、その他の機械学習により生成された学習モデル、深層学習アルゴリズム、回帰分析などの数学的アルゴリズムを用いることができる。また、機械学習の形態には、クラスタリング、深層学習などの形態が含まれる。
【0115】
本実施形態のシステムは、機械学習を行う人工知能を備えるコンピュータを含む。例えば、ニューラルネットワークを備える1台のコンピュータでシステムを構成しても良いし、ニューラルネットワークを備える複数台のコンピュータでシステムを構成しても良い。
【0116】
ここで、ニューラルネットワークとは、脳機能の特性をコンピュータによるシミュレーションによって表現した数学モデルである。例えば、シナプスの結合によりネットワークを形成した人工ニューロン(ノード)が、学習によってシナプスの結合強度を変化させ、問題解決能力を持つようになるモデルを示す。さらに、ニューラルネットワークは、深層学習(Deep Learning)により問題解決能力を取得する。
【0117】
例えば、ニューラルネットワークには、6層のレイヤーを有する中間層が設けられる。この中間層の各レイヤーは、300個のユニットで構成されている。また、多層のニューラルネットワークに学習用データを用いて予め学ばせておくことで、回路またはシステムの状態の変化のパターンの中にある特徴量を自動で抽出することができる。なお、多層のニューラルネットワークは、ユーザインターフェース上で、任意の中間層数、任意のユニット数、任意の学習率、任意の学習回数、任意の活性化関数を設定することができる。
【0118】
なお、学習対象となる各種情報項目に報酬関数が設定されるとともに、報酬関数に基づいて価値が最も高い情報項目が抽出される深層強化学習をニューラルネットワークに用いても良い。
【0119】
例えば、画像認識で実績のあるCNN(Convolution Neural Network)を用いる。このCNNでは、中間層が畳み込み層とプーリング層で構成される。畳み込み層は、前の層で近くにあるノードにフィルタ処理を施すことで特徴マップを取得する。プーリング層は、畳込み層から出力された特徴マップを、さらに縮小して新たな特徴マップとする。この際に特徴マップにおいて着目する領域に含まれる画素の最大値を得ることで、特徴量の位置の多少のずれも吸収することができる。
【0120】
畳み込み層は、画像の局所的な特徴を抽出し、プーリング層は、局所的な特徴をまとめる処理を行う。これらの処理では、入力画像の特徴を維持しながら画像を縮小処理する。つまり、CNNでは、画像の持つ情報量を大幅に圧縮(抽象化)することができる。そして、ニューラルネットワークに記憶された抽象化された画像イメージを用いて、入力される画像を認識し、画像の分類を行うことができる。
【0121】
なお、深層学習には、オートエンコーダ、RNN(Recurrent Neural Network)、LSTM(Long Short-Term Memory)、GAN(Generative Adversarial Network)などの各種手法がある。これらの手法を本実施形態の深層学習に適用しても良い。
【0122】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、波形データ取得部で取得された波形の時間変化量を求める時間変化算出部を備えることにより、放射線の種類の判定精度を向上させることができる。
【0123】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0124】
1(1A,1B)…放射線検出システム、2(2A,2B)…検出部、3…信号増幅部、4…波形データ取得部、5…時間変化算出部、6…データ判定部、7…比較評価部、8…発生箇所特定部、9…エネルギー情報取得部、10…光検出器、11…第1シンチレータ、12…第2シンチレータ、13…第3シンチレータ、14…遮蔽体、15…筐体、16…開口、17…薄膜、18,19…入射方向。