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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】汚染水処理方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/12 20060101AFI20240219BHJP
   G21F 9/00 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
G21F9/12 501J
G21F9/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020154735
(22)【出願日】2020-09-15
(65)【公開番号】P2022048741
(43)【公開日】2022-03-28
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大村 恒雄
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】三澤 玲菜
(72)【発明者】
【氏名】澤田 紘子
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 直希
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-203678(JP,A)
【文献】特開2015-001447(JP,A)
【文献】特開2015-040826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/12
G21F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性核種のイオンを吸着する吸着材が充填された既設吸着塔を複数有し、前記複数の既設吸着塔が直列に配列されている汚染水処理システムにおいて、放射性核種のイオンを含む汚染水を前記複数の既設吸着塔に順次通水することによって、前記汚染水から前記放射性核種のイオンを除去する汚染水処理方法であって、
前記汚染水処理システムに流入する前記汚染水の放射性核種濃度が変化する場合に、前記放射性核種のイオンを吸着した使用済吸着材が充填された使用済吸着塔を、前記汚染水処理システムに配置して使用する、使用済吸着塔配置工程
を有し、
前記汚染水処理システムに流入する前記汚染水の放射性核種濃度が増加する場合、前記使用済吸着塔配置工程では、下記式(A1)および式(A2)に示す関係を満たす前記使用済吸着塔を、前記複数の既設吸着塔のうち最上流に位置する既設吸着塔よりも上流に位置するように配置して使用する、
汚染水処理方法。
X31<M31 ・・・(A1)
X21<X31 ・・・(A2)
(式(A1)および式(A2)において、
X31は、前記使用済吸着塔配置工程の実施前に前記使用済吸着塔が放射性核種のイオンを既に吸着した吸着量であり、
X21は、前記汚染水処理システムに流入する汚染水の放射性核種濃度が増加する前に、複数の既設吸着塔のうち最上流に位置する既設吸着塔が放射性核種のイオンを吸着した吸着量であり、
M31は、前記汚染水処理システムに流入する前記汚染水の放射性核種濃度が増加したときに、前記使用済吸着塔が前記放射性核種のイオンを吸着可能な飽和吸着量である。)
【請求項2】
前記汚染水処理システムに流入する前記汚染水の放射性核種濃度が増加した場合、前記使用済吸着塔を通過した前記汚染水を、少なくとも前記複数の既設吸着塔のうち最下流に位置する既設吸着塔に通水させない、
請求項1に記載の汚染水処理方法。
【請求項3】
前記汚染水処理システムに流入する前記汚染水の放射性核種濃度が増加した場合において、前記使用済吸着塔を通過した前記汚染水の放射性核種濃度が目標値以下である場合には、前記使用済吸着塔を通過した前記汚染水を、前記複数の既設吸着塔に通水させない、
請求項1に記載の汚染水処理方法。
【請求項4】
前記汚染水処理システムに流入する前記汚染水の放射性核種濃度が増加した場合において、前記使用済吸着塔を通過した前記汚染水の放射性核種濃度が目標値を超える場合には、前記複数の既設吸着塔のうち、放射性核種濃度の増加前に流入していた前記汚染水の放射性核種濃度が前記使用済吸着塔を通過した前記汚染水の放射性核種濃度よりも高い既設吸着塔に、前記使用済吸着塔を通過した前記汚染水を通水させない、
請求項1に記載の汚染水処理方法。
【請求項5】
前記汚染水処理システムに流入する前記汚染水の放射性核種濃度が減少する場合、前記使用済吸着塔配置工程では、下記式(B1)に示す関係を満たす前記使用済吸着塔を、前記複数の既設吸着塔のうち最下流に位置する既設吸着塔よりも下流に位置するように配置して使用すると共に、
前記複数の既設吸着塔のうち、前記汚染水の放射性核種濃度の減少前に前記放射性核種のイオンを吸着した吸着量が、前記汚染水の放射性核種濃度の減少後に前記放射性核種のイオンを吸着可能な飽和吸着量よりも大きい既設吸着塔には、前記汚染水を通水させない、
請求項1から4のいずれかに記載の汚染水処理方法。
X31<X23 ・・・(B1)
(式(B1)において、
X23は、前記汚染水処理システムに流入する前記汚染水の放射性核種濃度が減少する前に、前記複数の既設吸着塔のうち最下流に位置する既設吸着塔が前記放射性核種のイオンを吸着した吸着量である。)
【請求項6】
放射性核種のイオンを吸着する吸着材が充填された既設吸着塔を複数有し、前記複数の既設吸着塔が直列に配列されている汚染水処理システムにおいて、放射性核種のイオンを含む汚染水を前記複数の既設吸着塔に順次通水することによって、前記汚染水から前記放射性核種のイオンを除去する汚染水処理方法であって、
前記汚染水処理システムに流入する前記汚染水の放射性核種濃度が変化する場合に、前記放射性核種のイオンを吸着した使用済吸着材が充填された使用済吸着塔を、前記汚染水処理システムに配置して使用する、使用済吸着塔配置工程
を有し、
前記汚染水処理システムに流入する前記汚染水の放射性核種濃度が減少する場合、前記使用済吸着塔配置工程では、下記式(B1)に示す関係を満たす前記使用済吸着塔を、前記複数の既設吸着塔のうち最下流に位置する既設吸着塔よりも下流に位置するように配置して使用すると共に、
前記複数の既設吸着塔のうち、前記汚染水の放射性核種濃度の減少前に前記放射性核種のイオンを吸着した吸着量が、前記汚染水の放射性核種濃度の減少後に前記放射性核種のイオンを吸着可能な飽和吸着量よりも大きい既設吸着塔には、前記汚染水を通水させない、
汚染水処理方法。
X31<X23 ・・・(B1)
(式(B1)において、
X31は、前記使用済吸着塔配置工程の実施前に前記使用済吸着塔が放射性核種のイオンを既に吸着した吸着量であり、
X23は、前記汚染水処理システムに流入する前記汚染水の放射性核種濃度が減少する前に、前記複数の既設吸着塔のうち最下流に位置する既設吸着塔が前記放射性核種のイオンを吸着した吸着量である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、汚染水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性核種のイオンを含む汚染水から放射性核種のイオンを除去する際には、一般に、固定層吸着方法が用いられている。固定層吸着方法では、たとえば、放射性核種のイオンを選択的に吸着する吸着材が充填された吸着塔に汚染水を通過させることで、汚染水から放射性核種のイオンを除去している。
【0003】
汚染水の通水を開始したときには、吸着塔の入口側において多くの放射性核種が吸着するので、入口から出口へ向けて、汚染水の放射性核種濃度が低下する。そして、汚染水の通水を更に進めるに伴って、吸着塔の出口における放射性核種濃度が高まる。その結果で、汚染水の放射性核種濃度は、入口と出口との間において差が小さくなり、吸着塔における放射性核種の吸着量が飽和吸着量に近づく。つまり、吸着塔において放射性核種の吸着ができない状態に近づく。このため、吸着塔の吸着量が飽和吸着量に近い状態になったときには、その吸着塔を未使用な新品の吸着塔に交換している。
【0004】
下記の式(1)では、核種分配係数Kd(L/kg-吸着材質量)と、飽和吸着量Mm(Bq/kg-吸着材質量)と、吸着塔の入口における汚染水の入口放射性核種濃度Cin(Bq/L)との関係を示している。飽和吸着量Mmは、特定の入口放射性核種濃度Cin(Bq/L)である汚染水が通水されたときに、その汚染水に含まれる放射性核種を最大に吸着することが可能な量である。ここでは、放射性核種が一つの化学種であって、汚染水の入口放射性核種濃度Cinと汚染水の出口放射性核種濃度Coutとが同じ場合(つまり、Cout/Cin=1)の関係を示している。
【0005】
Kd=Mm/Cin …式(1)
【0006】
下記の式(2)では、汚染水の放射性核種濃度C(Bq/L)と放射性核種吸着量M(Bq/kg-吸着材質量)との関係を示している。式(2)に示すように、汚染水の放射性核種濃度Cと放射性核種吸着量Mとの間は、通常、Henry則が成立し、放射性核種吸着量Mは、汚染水の放射性核種濃度Cとヘンリー定数H(L/kg-吸着材質量)との積に相当する。
【0007】
M=H・C …式(2)
【0008】
汚染水の放射性核種濃度Cに関して、入口放射性核種濃度Cinと出口放射性核種濃度Coutとが同じ場合(つまり、Cout/Cin=1)には、式(2)の各因子は、下記の式(3)~式(5)に示す関係になる。このため、式(2)~式(5)から判るように、上記した式(1)が成立する。
【0009】
M=Mm …式(3)
C=Cin …式(4)
H=Kd …式(5)
【0010】
ヘンリー定数Hは、一定であるので、Henry則が成立する範囲では、核種分配係数Kdも一定である。それゆえ、式(1)に示すように、入口放射性核種濃度Cinに応じて、飽和吸着量Mmが決定される。つまり、汚染水の入口放射性核種濃度Cinの増加に伴って飽和吸着量Mmが増加し、汚染水の入口放射性核種濃度Cinの減少に伴って飽和吸着量Mmが減少する。
【0011】
吸着塔における放射性核種吸着量Mの経時変化は、一般に、汚染水の水質や、汚染水を処理した後の処理水の放射性核種濃度から推定される。また、吸着破過曲線によって、放射性核種吸着量Mを予測することができる。
【0012】
吸着塔の入口に流入する汚染水の入口放射性核種濃度Cinが減少した場合、その入口放射性核種濃度Cinの減少に伴って、吸着塔の飽和吸着量Mmが低下する。このため、吸着塔では、入口放射性核種濃度Cinの減少前に吸着された放射性核種が、入口放射性核種濃度Cinの減少に伴って、脱離する場合がある。したがって、汚染水の入口放射性核種濃度Cinが減少した場合には、通常、その吸着塔を未使用な新品の吸着塔に交換している。
【0013】
この他に、複数の吸着塔が直列に並ぶように配列している場合には、たとえば、放射性核種の脱離が生ずる最上流の吸着塔の使用を停止し、放射性核種の脱離が生じない新品の吸着塔を最下流に配置して使用すること等が行われている。
【0014】
既に放射性核種の吸着で使用された使用済吸着塔に充填されている使用済吸着材は、通常、放射性廃棄物として処分される。ここでは、放射性廃棄物の量を低減させるために、放射性核種が付着した使用済みの吸着材から放射性核種を脱離させ、その放射性核種が脱離された吸着材を再利用することなどが行われている。たとえば、酸処理によって、放射性核種を脱離させる処理が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特許第6204096号
【非特許文献】
【0016】
【文献】J.B. Rosen, J. of Chem. Phys. vol.20-3.(1952)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記のように、使用していた既設の吸着塔を新品の吸着塔に交換して使用する場合には、その交換後の吸着塔に充填された吸着材を放射性廃棄物として処分する必要があるので、放射性廃棄物量が増加する。
【0018】
また、吸着材から放射性核種を脱離させるために酸処理などを行う場合には、その脱離された放射性核種を含む汚染水が発生するので、汚染水について処理することが必要になる。その他、酸処理のための機器や薬品が必要になる。このため、コストが増加する場合がある。
【0019】
上記のような事情により、汚染水から放射性核種を除去する処理を効率的に実施することが困難な場合がある。
【0020】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、放射性廃棄物の削減やコストの低減等が可能であって、汚染水から放射性核種を除去する処理を効率的に実施可能な汚染水処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
実施形態の汚染水処理方法は、放射性核種のイオンを吸着する吸着材が充填された既設吸着塔を複数有し、複数の既設吸着塔が直列に配列されている汚染水処理システムにおいて、放射性核種のイオンを含む汚染水を複数の既設吸着塔に順次通水することによって、汚染水から放射性核種のイオンを除去する。実施形態の汚染水処理方法は、汚染水処理システムに流入する汚染水の放射性核種濃度が変化する場合に、放射性核種のイオンを吸着した使用済吸着材が充填された使用済吸着塔を、汚染水処理システムに配置して使用する、使用済吸着塔配置工程を有する。汚染水処理システムに流入する汚染水の放射性核種濃度が増加する場合、使用済吸着塔配置工程では、下記式(A1)および式(A2)に示す関係を満たす使用済吸着塔を、複数の既設吸着塔のうち最上流に位置する既設吸着塔よりも上流に位置するように配置して使用する。
X31<M31 ・・・(A1)
X21<X31 ・・・(A2)
(式(A1)および式(A2)において、X31は、使用済吸着塔配置工程の実施前に使用済吸着塔が放射性核種のイオンを既に吸着した吸着量であり、X21は、汚染水処理システムに流入する汚染水の放射性核種濃度が増加する前に、複数の既設吸着塔のうち最上流に位置する既設吸着塔が放射性核種のイオンを吸着した吸着量であり、M31は、汚染水処理システムに流入する汚染水の放射性核種濃度が増加したときに、使用済吸着塔が放射性核種のイオンを吸着可能な飽和吸着量である。)
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、第1実施形態の汚染水処理方法で使用する汚染水処理システム1を模式的に示している。
図2図2は、第1実施形態の汚染水処理方法で使用する汚染水処理システム1を模式的に示している。
図3図3は、第1実施形態の変形例の汚染水処理方法で使用する汚染水処理システム1を模式的に示している。
図4図4は、第1実施形態の変形例の汚染水処理方法で使用する汚染水処理システム1を模式的に示している。
図5図5は、第2実施形態の汚染水処理方法で使用する汚染水処理システム1を模式的に示している。
図6図6は、第2実施形態の汚染水処理方法で使用する汚染水処理システム1を模式的に示している。
図7図7は、第2実施形態の汚染水処理方法で使用する汚染水処理システム1を模式的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1実施形態>
[A]汚染水処理方法
第1実施形態では、汚染水処理システム1に流入する汚染水L1の放射性核種濃度が増加する場合に関して説明する。
【0024】
図1および図2は、第1実施形態の汚染水処理方法で使用する汚染水処理システム1を模式的に示している。
【0025】
図1では、放射性核種濃度が増加する前の汚染水L1を処理する状態を示している。そして、図2では、放射性核種濃度が増加した後の汚染水L1を処理する状態を示している。つまり、図1においては、第1の放射性核種濃度C1である汚染水L1を処理する状態を例示しており、図2においては、第1の放射性核種濃度C1よりも高い第2の放射性核種濃度C2である汚染水L1を処理する状態を例示している。図2において、汚染水L1の処理で使用しない吸着塔については破線で示している。
【0026】
[A-1]放射性核種濃度の増加前
まず、放射性核種濃度が増加する前の汚染水L1(第1の放射性核種濃度C1)を処理する状態に関して、図1を用いて説明する。
【0027】
図1に示すように、第1の放射性核種濃度C1である汚染水L1の処理を行う際には、汚染水処理システム1を使用する。ここでは、汚染水処理システム1は、たとえば、第1の既設吸着塔21と第2の既設吸着塔22と第3の既設吸着塔23とを有する。
【0028】
第1の既設吸着塔21、第2の既設吸着塔22、および、第3の既設吸着塔23のそれぞれは、放射性核種のイオンを吸着する吸着材が充填されている。また、第1の既設吸着塔21、第2の既設吸着塔22、および、第3の既設吸着塔23は、直列に配列されており、放射性核種のイオンを含む汚染水L1が、順次、各部を通過する。
【0029】
具体的には、第1の放射性核種濃度C1の汚染水L1は、第1の既設吸着塔21において上方に設けられた入口から導入され、下方に設けられた出口から処理水L21として排出される。つぎに、第1の既設吸着塔21から排出された処理水L21は、第2の既設吸着塔22において上方に設けられた入口から導入され、下方に設けられた出口から処理水L22として排出される。つぎに、第2の既設吸着塔22から排出された処理水L22は、第3の既設吸着塔23において上方に設けられた入口から導入され、下方に設けられた出口から処理水L23として排出される。
【0030】
これにより、第1の既設吸着塔21、第2の既設吸着塔22、および、第3の既設吸着塔23のそれぞれにおいて、汚染水に含まれる放射性核種のイオンが吸着され、汚染水から放射性核種のイオンが除去される。放射性核種濃度は、汚染水L1、第1の既設吸着塔21から排出された処理水L21、第2の既設吸着塔22から排出された処理水L22、第3の既設吸着塔23から排出された処理水L23の順で低下する。
【0031】
そして、第1の既設吸着塔21で放射性核種が吸着された放射性核種吸着量M21、第2の既設吸着塔22で放射性核種が吸着された放射性核種吸着量M22、および、第3の既設吸着塔23で放射性核種が吸着された放射性核種吸着量M23は、下記式(b)に示す関係になる。すなわち、第1の既設吸着塔21、第2の既設吸着塔22、および、第3の既設吸着塔23のそれぞれにおける放射性核種吸着量は、汚染水L1の流れ方向において、順次、低下する。
【0032】
M21>M22>M23 …式(b)
【0033】
上記の放射性核種吸着量は、汚染水L1の放射性核種濃度の経時変化、既設吸着塔21~23の各出口から排出される処理水L21~L23の放射性核種濃度の経時変化、および、汚染水L1の量の経時変化に基づいて求めることができる。また、放射性核種吸着量は、たとえば、既設吸着塔21~23のそれぞれにおいて外表面に設置された放射能測定装置を用いて推定されてもよい。この他に、解析プログラムによって予測された吸着破過曲線から放射性核種吸着量を推定してもよい。
【0034】
[A-2]放射性核種濃度の増加後
つぎに、放射性核種濃度が増加した後の汚染水L1(第2の放射性核種濃度C2;C2>C1)を処理する状態に関して、図2を用いて説明する。
【0035】
汚染水L1が第1の放射性核種濃度C1から第2の放射性核種濃度C2に増加する場合には、図2に示すように、使用済吸着塔31を汚染水処理システム1に配置して使用する。
【0036】
使用済吸着塔31は、放射性核種のイオンを吸着した使用済吸着材が内部に充填されている。本実施形態では、使用済吸着塔31は、複数の既設吸着塔21~23のうち最上流に位置する第1の既設吸着塔21よりも上流に配列される。
【0037】
このとき、本実施形態では、使用済吸着塔31を通過した汚染水を、複数の既設吸着塔21~23のうち最下流に位置する第3の既設吸着塔23に通水させない。本実施形態では、たとえば、第3の既設吸着塔23を撤去し、その第3の既設吸着塔23が撤去された領域に、使用済吸着塔31を設置する。
【0038】
本実施形態において、第1の放射性核種濃度C1から第2の放射性核種濃度C2に増加した汚染水L1は、使用済吸着塔31において上方に設けられた入口から導入され、下方に設けられた出口から処理水L31として排出される。つぎに、使用済吸着塔31から排出された処理水L31は、第1の既設吸着塔21において上方に設けられた入口から導入され、下方に設けられた出口から処理水L21として排出される。つぎに、第1の既設吸着塔21から排出された処理水L21は、第2の既設吸着塔22において上方に設けられた入口から導入され、下方に設けられた出口から処理水L22として排出される。
【0039】
本実施形態では、使用済吸着塔31は、下記の式(A1)および式(A2)を満たすものが用いられる。
【0040】
X31<M31 ・・・式(A1)
X21<X31 ・・・式(A2)
【0041】
式(A1)および式(A2)において、X31は、使用済吸着塔31が汚染水処理システム1に配置される前に、使用済吸着塔31が放射性核種のイオンを既に吸着した吸着量である。
【0042】
X21は、汚染水処理システム1に流入する汚染水L1の放射性核種濃度が増加する前に、複数の既設吸着塔21~23のうち最上流に位置する第1の既設吸着塔21が放射性核種のイオンを吸着した吸着量である。つまり、X21は、第1の放射性核種濃度C1から第2の放射性核種濃度C2へ変化する前の汚染水L1に含まれる放射性核種のイオンを、第1の既設吸着塔21が吸着した吸着量である。
【0043】
M31は、汚染水処理システム1に流入する汚染水L1の放射性核種濃度が増加したときに、使用済吸着塔31が放射性核種のイオンを吸着可能な飽和吸着量である。つまり、M31は、第1の放射性核種濃度C1から第2の放射性核種濃度C2へ変化した後の汚染水L1に含まれる放射性核種のイオンを、使用済吸着塔31が吸着可能な飽和吸着量である。
【0044】
式(A1)に示すように、使用済吸着塔31が放射性核種のイオンを既に吸着した吸着量X31は、第2の放射性核種濃度C2の汚染水L1に含まれる放射性核種のイオンを使用済吸着塔31が吸着可能な飽和吸着量M31よりも少ない。このため、使用済吸着塔31は、使用済吸着材が内部に充填されているが、第2の放射性核種濃度C2の汚染水L1に含まれる放射性核種のイオンを更に吸着可能である。
【0045】
式(A2)に示すように、使用済吸着塔31が放射性核種のイオンを既に吸着した吸着量X31は、放射性核種濃度の増加前に第1の既設吸着塔21が既に吸着した吸着量よりも多い。これにより、使用済吸着塔31から排出された処理水L31が第1の既設吸着塔21に導入されて通過する際に、第1の既設吸着塔21において吸着している放射性核種のイオンが脱離することを抑制可能である。
【0046】
[A-3]まとめ
以上のように、本実施形態では、汚染水処理システム1に流入する汚染水L1の放射性核種濃度が増加する場合に、放射性核種のイオンを吸着した使用済吸着材が充填された使用済吸着塔31を、複数の既設吸着塔21~23のうち最上流に位置する第1の既設吸着塔21よりも上流に位置するように汚染水処理システム1に配置して使用する。使用済吸着塔31は、上記した式(A1)および式(A2)に示す関係を満たすものが選択されて使用される。このため、本実施形態では、上記したように、使用済吸着塔31を用いた場合であっても汚染水L1の放射性核種が除去可能であって、使用済吸着塔31の下流で使用する既設吸着塔21,22において吸着された放射性核種が脱離することを抑制可能である。したがって、本実施形態においては、使用済吸着塔31に充填された使用済吸着材を再利用するので、放射性廃棄物の削減やコストの低減等が可能であって、汚染水から放射性核種を除去する処理を効率的に実施可能である。
【0047】
[B]実施例
上記した第1本実施形態の実施例について具体的に説明する。
【0048】
第1本実施形態の実施例では、放射性核種が放射性セシウム(Cs-134;Kd=1.0E+04[L/kg])であって、第1の既設吸着塔21、第2の既設吸着塔22、および、第3の既設吸着塔23のそれぞれに質量mが1000[kg]である吸着材が充填されている。第1の放射性核種濃度C1は、1.0E+07[Bq/L]である。このとき、第1の既設吸着塔21、第2の既設吸着塔22、および、第3の既設吸着塔23のそれぞれにおいて、放射性核種のイオンを吸着可能な飽和吸着量Mmは、下記式(1A)に示す値になる。
【0049】
Mm=Kd・C1・m=1.0E+04[L/kg]×1.0E+07[Bq/L]×1000[kg]= 1.0E+14[Bq] …(1A)
【0050】
そして、第1の放射性核種濃度C1である汚染水L1を10000m通水した場合に、それぞれの既設吸着塔21~23で放射性核種が吸着された放射性核種吸着量は、下記式(a1)から式(a3)に示す値になった。式(a1)では、第1の既設吸着塔21で放射性核種が吸着された放射性核種吸着量X21を示している。式(a2)では、第2の既設吸着塔22で放射性核種が吸着された放射性核種吸着量X22を示している。式(a3)では、第3の既設吸着塔23で放射性核種が吸着された放射性核種吸着量X23を示している。
【0051】
X21=8.0E+13[Bq] …式(a1)
X22=1.9E+13[Bq] …式(a2)
X23=1.1E+13[Bq] …式(a3)
【0052】
その後、第1の放射性核種濃度C1から第2の放射性核種濃度C2に増加する汚染水L1について処理するために、使用済吸着塔31を選択した。
【0053】
本実施例では、使用済吸着塔31は、第1の既設吸着塔21、第2の既設吸着塔22、および、第3の既設吸着塔23と同様に、質量mが1000[kg]である吸着材が充填されている。第2の放射性核種濃度C2は、5.0E+07[Bq/L]である。このとき、使用済吸着塔31において、放射性核種のイオンを吸着可能な飽和吸着量M31は、下記式(1B)に示す値になる。
【0054】
M31=Kd・C2・m=1.0E+04[L/kg]×5.0E+07[Bq/L]×1000[kg]=5.0E+14[Bq] …(1B)
【0055】
このため、本実施例では、上記した式(A1)および式(A2)を満たすように、吸着量X31が1.5E+14[Bq]である使用済吸着塔31を選択した。そして、第3の既設吸着塔23を撤去し、その第3の既設吸着塔23が撤去された領域に、使用済吸着塔31を設置した。
【0056】
[C]変形例
上記した第1実施形態では、第3の既設吸着塔23を撤去する場合について例示したが、これに限らない。必要に応じて、第3の既設吸着塔23を撤去せずに用いてもよい。
【0057】
また、上記した第1実施形態では、放射性核種濃度の増加前および増加後のそれぞれにおいて、3つの吸着塔を用いる場合について説明したが、これに限らない。汚染水L1の処理内容に応じて、使用する吸着塔の数は、適宜、設定可能である。
【0058】
図3および図4は、第1実施形態の変形例の汚染水処理方法で使用する汚染水処理システム1を模式的に示している。図3および図4では、図2と同様に、第1の放射性核種濃度C1よりも高い第2の放射性核種濃度C2である汚染水L1を処理する状態を例示している。
【0059】
上記した第1実施形態では、第2の放射性核種濃度C2である汚染水L1を処理する際に、複数の既設吸着塔21~23のうち第1の既設吸着塔21と第2の既設吸着塔22とを用いる場合について示したが、これに限らない。
【0060】
図3に示すように、第2の放射性核種濃度C2である汚染水L1を処理する際に、複数の既設吸着塔21~23の全てを用いなくてもよい。具体的には、汚染水処理システム1に流入する汚染水L1の放射性核種濃度が増加した場合において、使用済吸着塔31を通過した処理水L31の放射性核種濃度が目標値以下である場合には、使用済吸着塔31を通過した処理水L31を、複数の既設吸着塔21~23に通水させない。
【0061】
また、図4に示すように、第2の放射性核種濃度C2である汚染水L1を処理する際に、複数の既設吸着塔21~23のうち、第2の既設吸着塔22のみを用いてもよい。
【0062】
具体的には、汚染水処理システム1に流入する汚染水L1の放射性核種濃度が増加した場合において、使用済吸着塔31を通過した処理水L31の放射性核種濃度が目標値を超える場合には、複数の既設吸着塔21~23のうち、放射性核種濃度の増加前に流入していた汚染水L1(処理水L21,L22)の放射性核種濃度が、使用済吸着塔31を通過した処理水L31の放射性核種濃度よりも高い既設吸着塔(ここでは、第1の既設吸着塔21)に、使用済吸着塔31を通過した処理水L31を通水させない。
【0063】
放射性核種濃度が下記の式(b1)から式(b4)に示す値である場合について例示する。式(b1)では、汚染水L1の放射性核種濃度が増加した場合に使用済吸着塔31を通過した処理水L31の放射性核種濃度C31を示している。式(b2)では、汚染水L1の放射性核種濃度が増加する前に第1の既設吸着塔21に流入していた汚染水L1の放射性核種濃度C1(つまり、第1の放射性核種濃度)を示している。式(b3)では、汚染水L1の放射性核種濃度が増加する前に第2の既設吸着塔22に流入していた処理水L21の放射性核種濃度C21を示している。式(b4)では、汚染水L1の放射性核種濃度が増加する前に第3の既設吸着塔23に流入していた処理水L22の放射性核種濃度C22を示している。
【0064】
C31=2.0E+06[Bq/L] …式(b1)
C1=1.0E+07[Bq/L] …式(b2)
C21=1.0E+06[Bq/L] …式(b3)
C22=1.0E+05[Bq/L] …式(b4)
【0065】
この場合には、C31<C1であるため、使用済吸着塔31を通過した処理水L31を第1の既設吸着塔21に導入した場合、第1の既設吸着塔21で吸着された放射性核種のイオンが脱離しやすい。C31>C21であるため、使用済吸着塔31を通過した処理水L31を第2の既設吸着塔22に導入した場合であっても、第2の既設吸着塔21で吸着された放射性核種のイオンが脱離しにくい。したがって、図4に示すように、使用済吸着塔31を通過した処理水L31は、第1の既設吸着塔21に導入させずに、第2の既設吸着塔22に導入することが好ましい。
【0066】
<第2実施形態>
[A]汚染水処理方法
本実施形態では、第1実施形態の場合と異なり、汚染水処理システム1に流入する汚染水L1の放射性核種濃度が減少する場合に関して説明する。
【0067】
図5図6、および、図7は、第2実施形態の汚染水処理方法で使用する汚染水処理システム1を模式的に示している。
【0068】
図5図6、および、図7では、第1の放射性核種濃度C1よりも低い第3の放射性核種濃度C3である汚染水L1を処理する状態を例示している。図5図6、および、図7において、汚染水L1の処理で使用しない吸着塔については破線で示している。
【0069】
[A-1]放射性核種濃度の減少前
放射性核種濃度が変動前の第1の放射性核種濃度C1である汚染水L1について放射性核種のイオンを除去する処理を実行する際には、第1実施形態において図1を用いて説明したように、第1の既設吸着塔21と第2の既設吸着塔22と第3の既設吸着塔23とに順次通水する。
【0070】
[A-2]放射性核種濃度の減少後
その後、第1の放射性核種濃度C1よりも低い第3の放射性核種濃度C3である汚染水L1について放射性核種のイオンを除去する処理を実行する際には、図5図6、および、図7に示すように、少なくとも、第1の使用済吸着塔31を汚染水処理システム1に配置して使用する。
【0071】
第1の使用済吸着塔31は、放射性核種のイオンを吸着した使用済吸着材が内部に充填されている。ここでは、第1の使用済吸着塔31は、複数の既設吸着塔21~23のうち最下流に位置する第3の既設吸着塔23よりも下流に配列される。
【0072】
本実施形態では、第1の使用済吸着塔31は、下記の式(B1)に示す関係を満たすものが用いられる。
【0073】
X31<X23 ・・・(B1)
【0074】
式(B1)において、X31は、第1の使用済吸着塔31が汚染水処理システム1に配置される前に、第1の使用済吸着塔31が放射性核種のイオンを既に吸着した吸着量である。
【0075】
X23は、汚染水処理システム1に流入する汚染水の放射性核種濃度が減少する前に、複数の既設吸着塔21~23のうち最下流に位置する第3の既設吸着塔23が放射性核種のイオンを吸着した吸着量である。
【0076】
式(B1)に示すように、第1の使用済吸着塔31が放射性核種のイオンを既に吸着した吸着量X31は、放射性核種濃度の減少前に第3の既設吸着塔23が既に吸着した吸着量よりも少ない。これにより、第3の既設吸着塔23から排出された処理水L23が第1の使用済吸着塔31に導入されて通過する際に、第1の使用済吸着塔31において吸着している放射性核種のイオンが脱離し、処理水L31に混入することを抑制可能である。
【0077】
このとき、複数の既設吸着塔21~23のうち、汚染水L1の放射性核種濃度の減少前に放射性核種のイオンを吸着した吸着量X21,X22,X23が、汚染水L1の放射性核種濃度の減少後に放射性核種のイオンを吸着可能な飽和吸着量Mmよりも大きい既設吸着塔には、汚染水L1を通水させない。
【0078】
[A-2-1]X21>Mm>X22の場合
まず、第1の既設吸着塔21の吸着量X21が上記の飽和吸着量Mmよりも大きい場合であって(X21>Mm)、第2の既設吸着塔22の吸着量X22が上記の飽和吸着量Mmよりも小さい場合(X22<Mm)について説明する。
【0079】
この場合には、図5に示すように、第1の既設吸着塔21に汚染水L1を通水させない。本実施形態では、たとえば、第1の既設吸着塔21を撤去し、その第1の既設吸着塔21が撤去された領域に、上記した第1の使用済吸着塔31を設置する。そして、第2の既設吸着塔22と第3の既設吸着塔23と第1の使用済吸着塔31とに汚染水L1を、順次、通水させる。
【0080】
[A-2-2]X22>Mm>X23の場合
つぎに、第2の既設吸着塔22の吸着量X22が上記の飽和吸着量Mmよりも大きい場合であって(X22>Mm)、第3の既設吸着塔23の吸着量X23が上記の飽和吸着量Mmよりも小さい場合(X23<Mm)について説明する。
【0081】
この場合には、図6に示すように、第1の既設吸着塔21および第2の既設吸着塔22に汚染水L1を通水させない。本実施形態では、第1の使用済吸着塔31の設置の他に、たとえば、第2の既設吸着塔22を撤去し、その第2の既設吸着塔22が撤去された領域に、第2の使用済吸着塔32を設置する。そして、第3の既設吸着塔23と第1の使用済吸着塔31と第2の使用済吸着塔32とに汚染水L1を、順次、通水させる。
【0082】
ここでは、第2の使用済吸着塔32は、放射性核種のイオンを吸着した使用済吸着材が内部に充填されており、下記の式(B2)に示す関係を満たすものが用いられる。
【0083】
X32<X31 ・・・(B2)
【0084】
式(B2)において、X32は、第2の使用済吸着塔32が汚染水処理システム1に配置される前に、第2の使用済吸着塔32が放射性核種のイオンを既に吸着した吸着量である。式(B2)から判るように、第2の使用済吸着塔32としては、吸着量X32が、第1の使用済吸着塔31の吸着量X31よりも小さいものが選択されて用いられる。これにより、第1の使用済吸着塔31から排出された処理水L31が第2の使用済吸着塔32に導入されて通過する際に、第2の使用済吸着塔32において吸着している放射性核種のイオンが脱離して、処理水L32に混入することを抑制可能である。
【0085】
[A-2-3]X23>Mmの場合
最後に、第3の既設吸着塔23の吸着量X23が上記の飽和吸着量Mmよりも大きい場合(X22>Mm)について説明する。
【0086】
この場合には、図7に示すように、第1の既設吸着塔21、第2の既設吸着塔22、および、第3の既設吸着塔23に汚染水L1を通水させない。本実施形態では、第1の使用済吸着塔31および第2の使用済吸着塔32の設置の他に、たとえば、第3の既設吸着塔23を撤去し、その第3の既設吸着塔23が撤去された領域に、第3の使用済吸着塔33を設置する。そして、第1の使用済吸着塔31と第2の使用済吸着塔32と第3の使用済吸着塔33とに汚染水L1を、順次、通水させる。
【0087】
ここでは、第3の使用済吸着塔33は、放射性核種のイオンを吸着した使用済吸着材が内部に充填されており、下記の式(B3)に示す関係を満たすものが用いられる。
【0088】
X33<X32 ・・・(B3)
【0089】
式(B3)において、X33は、第3の使用済吸着塔33が汚染水処理システム1に配置される前に、第3の使用済吸着塔33が放射性核種のイオンを既に吸着した吸着量である。式(B3)から判るように、第3の使用済吸着塔32としては、吸着量X33が、第2の使用済吸着塔32の吸着量X32よりも小さいものが選択されて用いられる。これにより、第2の使用済吸着塔32から排出された処理水L32が第2の使用済吸着塔33に導入されて通過する際に、第3の使用済吸着塔33において吸着している放射性核種のイオンが脱離して処理水L33に混入することを抑制可能である。
【0090】
[A-3]まとめ
以上のように、本実施形態では、汚染水処理システム1に流入する汚染水L1の放射性核種濃度が減少する場合に、放射性核種のイオンを吸着した使用済吸着材が充填された使用済吸着塔311~313を、複数の既設吸着塔21~23のうち最下流に位置する第3の既設吸着塔23よりも下流に位置するように汚染水処理システム1に配置して使用する。使用済吸着塔311~313は、上記した式(B1)から式(B3)に示す関係を満たすものが選択されて使用される。このため、本実施形態では、上記したように、使用済吸着塔311~313を用いた場合であっても汚染水L1の放射性核種が除去可能であって、各吸着塔で吸着された放射性核種が脱離することを抑制可能である。したがって、本実施形態においては、使用済吸着塔311~313に充填された使用済吸着材を再利用するので、放射性廃棄物の削減やコストの低減等が可能であって、汚染水から放射性核種を除去する処理を効率的に実施可能である。
【0091】
[B]実施例
上記した第2本実施形態の実施例について具体的に説明する。
【0092】
第2本実施形態の実施例では、第1実施形態の実施例の場合と同様に、放射性核種が放射性セシウム(Cs-134;Kd=1.0E+04[L/kg])であって、既設吸着塔21~23のそれぞれには、質量mが1000[kg]である吸着材が充填されている。
【0093】
そして、第1の放射性核種濃度C1の汚染水L1を10000m通水した場合に、それぞれの既設吸着塔21~23で放射性核種が吸着された放射性核種吸着量X21,X22,X23は、下記式(a1)から式(a3)に示す値になった。
【0094】
X21=8.0E+13[Bq] …式(a1)
X22=1.9E+13[Bq] …式(a2)
X23=1.1E+13[Bq] …式(a3)
【0095】
第1の放射性核種濃度C1から第3の放射性核種濃度C3に減少する汚染水L1について処理する際に、既設吸着塔21~23のそれぞれにおいて放射性核種のイオンを吸着可能な飽和吸着量Mmは、下記式(1C)に示す値になる。下記式(1C)では、減少後の第3の放射性核種濃度C3が5.0E+06[Bq/L]である場合を示している。
【0096】
Mm=Kd・C3・m=1.0E+04[L/kg]×5.0E+06[Bq/L]×1000[kg]=5.0E+13[Bq] …(1C)
【0097】
このため、本実施例では、第3の放射性核種濃度C3の汚染水L1を処理する際には、X21<Mm<X22が成立する。つまり、第1の既設吸着塔21は、汚染水L1の放射性核種濃度の減少前に放射性核種のイオンを吸着した放射性核種吸着量X21が、汚染水L1の放射性核種濃度の減少後に放射性核種のイオンを吸着可能な飽和吸着量Mmよりも多い。このため、本実施例では、放射性核種濃度が減少した後の汚染水L1については、第1の既設吸着塔21に通水させず、第1の既設吸着塔21を撤去した(図5参照)。
【0098】
そして、第1の既設吸着塔21を撤去した領域に、第1の使用済吸着塔31を設置した。第1の使用済吸着塔31は、上記の式(B1)に示す関係を満たすものを用いた。すなわち、第1の使用済吸着塔31が放射性核種のイオンを既に吸着した吸着量X31が、汚染水L1の放射性核種濃度の減少前に第3の既設吸着塔23が既に吸着した吸着量X23よりも少ないものを使用した(X31<X23)。たとえば、放射性核種のイオンを既に吸着した吸着量X31が、5.0E+12[Bq]である使用済吸着塔を第1の使用済吸着塔31として選択して用いた。
【0099】
[C]変形例
上記した第2実施形態では、放射性核種濃度の減少前および減少後のそれぞれにおいて、3つの吸着塔を用いる場合(図5から図7参照)について説明したが、これに限らない。汚染水L1の処理内容に応じて、使用する吸着塔の数は、適宜、設定可能である。たとえば、図6および図7に示す場合において、第1の使用済吸着塔31を通過した処理水L31の放射性核種濃度が目標値以下である場合には、第1の使用済吸着塔31を通過した処理水L31を、第2の使用済吸着塔32および第3の使用済吸着塔33に通水させなくてもよい。
【0100】
<その他>
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0101】
1:汚染水処理システム、21~23:既設吸着塔、31~33:使用済吸着塔、L1:汚染水、L21~L23:処理水、L31~L33:処理水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7