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特許7438913モータ駆動制御装置およびモータ駆動制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】モータ駆動制御装置およびモータ駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/22 20160101AFI20240219BHJP
   H02P 6/08 20160101ALI20240219BHJP
   H02P 6/28 20160101ALI20240219BHJP
【FI】
H02P21/22
H02P6/08
H02P6/28
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020175520
(22)【出願日】2020-10-19
(65)【公開番号】P2022066913
(43)【公開日】2022-05-02
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】小久保 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 進士
(72)【発明者】
【氏名】増田 重巳
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-129600(JP,A)
【文献】特開2009-303448(JP,A)
【文献】特開2019-037125(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0154524(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/22
H02P 6/08
H02P 6/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動させるための駆動制御信号を出力する制御回路と、
前記制御回路から出力された前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動する駆動回路と、を備え、
前記制御回路は、
前記モータのコイルの駆動電流値を取得する駆動電流値取得部と、
前記モータのロータの回転角度を取得する回転角度取得部と、
前記ロータの回転速度を取得する回転速度取得部と、
前記駆動電流値取得部によって取得した前記駆動電流値と、前記回転角度取得部によって取得した前記ロータの回転角度とに基づいて、2相の回転座標系のq軸電流値を算出するq軸電流値算出部と、
前記モータの動作の目標状態を指示する値に基づいて、前記2相の回転座標系のq軸電流の指令値を算出するq軸電流指令値算出部と、
前記q軸電流指令値算出部によって算出した前記q軸電流の指令値と前記q軸電流値算出部によって算出した前記q軸電流値との差が小さくなるように、前記2相の回転座標系の電圧指令値を算出する電圧指令値算出部と、
前記q軸電流値算出部によって算出した前記q軸電流値と、前記回転速度取得部によって取得した前記ロータの回転速度とに基づいて、前記2相の回転座標系のd軸電流値がゼロになる進角値を算出する進角制御部と、
前記進角制御部によって算出した前記進角値と前記ロータの回転角度とを加算した角度と、前記電圧指令値算出部によって算出された前記電圧指令値とに基づいて、空間ベクトル変換を行って、前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部と、を有する
モータ駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動制御装置において、
前記2相の回転座標系のd軸電流値がゼロになる進角値は、前記電圧指令値のベクトルのd軸方向の成分が前記d軸電流値がゼロであるときのd軸電圧値に一致するときの、前記電圧指令値のベクトルのq軸に対する角度に基づく値である
モータ駆動制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータ駆動制御装置において、
前記進角制御部は、前記ロータの回転速度と、前記q軸電流値と、前記進角値との対応関係を示す対応関係情報を有し、前記対応関係情報に基づいて前記進角値を算出する
モータ駆動制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のモータ駆動制御装置において、
前記対応関係情報は、前記ロータの回転速度と前記q軸電流値の組み合わせ毎に前記進角値を対応付けたテーブルである
モータ駆動制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載のモータ駆動制御装置において、
前記電圧指令値をVref、前記ロータの回転速度をω、q軸インダクタンスをLq、前記q軸電流値をIq、前記電圧指令値のベクトルのq軸に対する角度をφとしたとき、前記対応関係情報は、下記式(A)で表される関数を含む
モータ駆動制御装置。
【数1】
【請求項6】
請求項2乃至5の何れか一項に記載のモータ駆動制御装置において、
前記進角制御部は、前記電圧指令値のベクトルのq軸に対する角度にπ/2を加算して前記進角値を算出する
モータ駆動制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載のモータ駆動制御装置において、
前記モータの動作の目標状態を指示する値は、前記モータの回転速度の目標値であって、
前記q軸電流指令値算出部は、前記モータの回転速度の目標値と前記回転速度取得部によって取得した前記ロータの回転速度との差が小さくなるように、前記q軸電流の指令値を算出する
モータ駆動制御装置。
【請求項8】
請求項1乃至6の何れか一項に記載のモータ駆動制御装置において、
前記モータの動作の目標状態を指示する値は、前記モータのトルクの目標値である
モータ駆動制御装置。
【請求項9】
モータのロータの回転角度を取得する第1ステップと、
前記ロータの回転速度を取得する第2ステップと、
前記モータのコイルの駆動電流値を取得する第3ステップと、
前記第3ステップによって取得した前記駆動電流値と、前記第1ステップによって取得した前記ロータの回転角度とに基づいて、2相の回転座標系のq軸電流値を算出する第4ステップと、
前記モータの動作の目標状態を指示する値に基づいて、前記2相の回転座標系のq軸電流の指令値を算出する第5ステップと、
前記第5ステップによって算出した前記q軸電流の指令値と前記第4ステップによって算出されたq軸電流値との差が小さくなるように、前記2相の回転座標系の電圧指令値を算出する第6ステップと、
前記第4ステップによって算出した前記q軸電流値と、前記第2ステップによって取得した前記ロータの回転速度とに基づいて、前記2相の回転座標系のd軸電流値がゼロになる進角値を算出する第7ステップと、
前記第7ステップによって算出した前記進角値と前記ロータの回転角度とを加算した角度と前記第6ステップによって算出された前記電圧指令値とに基づいて空間ベクトル変換を行って、前記モータの駆動を制御するための駆動制御信号を生成する第8ステップと、を含む
モータ駆動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動制御装置及びモータ駆動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスDCモータとしての永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)は、永久磁石の配置によって、回転子の表面に永久磁石を張り付けた表面磁石型同期モータ(SPMSM:Surface Permanent Magnet Synchronous Motor)と回転子の内部に永久磁石を埋め込んだ埋め込み磁石型同期モータ(IPMSM:Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)とに大別される。
【0003】
一般に、永久磁石同期モータ(PMSM)のトルクは、以下の式で表されることが知られている。
【0004】
【数1】
【0005】
上記式(1)において、Teは発生トルク、Pは極対数、Ψは永久磁石(ロータ)の磁束、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、Idはd軸電流値、Iqはq軸電流値、ΨIqはマグネットトルク、“(Ld-Lq)Id×Iq”はリラクタンストルクである。
【0006】
ここで、埋め込み磁石型同期モータ(IPMSM)の場合、q軸インダクタンスLqとd軸インダクタンスLdが等しくない。そのため、式(1)から理解されるように、d軸電流値Idを制御してリラクタンストルクの値を調整することにより、モータの効率を最大にすることができる。
【0007】
一方、表面磁石型同期モータ(SPMSM)の場合、d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqとが等しい(Ld=Lq)ため、リラクタンストルクが発生しない。したがって、式(1)から理解されるように、d軸電流値Idをゼロにしたときに、モータの効率を最大にすることができる。
【0008】
従来、ベクトル制御によってブラシレスDCモータを駆動するモータ駆動制御装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2012-130100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
例えば、特許文献1に開示されたモータ駆動制御装置では、一般的なベクトル制御演算を行う際に、d軸電流の指令値を常にゼロに設定している。すなわち、特許文献1に係るモータ駆動制御技術では、モータの各相に流れる電流から2相の回転座標系のq軸電流値とd軸電流値を夫々算出し、d軸電流値が常にゼロになるように制御するため、演算が複雑になる。そのため、d軸電流値を常にゼロに設定してベクトル制御演算を行う従来のモータ駆動制御装置では、複雑な演算を高速で実行できる処理能力の高いプログラム処理装置(例えば、マイクロコントローラ)が必要となり、システム全体のコストアップの一因となっている。
【0011】
本発明は、上述した課題を解消するためのものであり、d軸電流値をゼロにするベクトル制御演算の負荷を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置は、モータを駆動させるための駆動制御信号を出力する制御回路と、前記制御回路から出力された前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動する駆動回路とを備え、前記制御回路は、前記モータのコイルの駆動電流値を取得する駆動電流値取得部と、前記モータのロータの回転角度を取得する回転角度取得部と、前記ロータの回転速度を取得する回転速度取得部と、前記駆動電流値取得部によって取得した前記駆動電流値と、前記回転角度取得部によって取得した前記ロータの回転角度とに基づいて、2相の回転座標系のq軸電流値を算出するq軸電流値算出部と、前記モータの動作の目標状態を指示する値(Sc)に基づいて、前記2相の回転座標系のq軸電流の指令値を算出するq軸電流指令値算出部と、前記q軸電流指令値算出部によって算出した前記q軸電流の指令値と前記q軸電流値算出部によって算出した前記q軸電流値との差が小さくなるように、前記2相の回転座標系の電圧指令値を算出する電圧指令値算出部と、前記q軸電流値算出部によって算出した前記q軸電流値と、前記回転速度取得部によって取得した前記ロータの回転速度とに基づいて、前記2相の回転座標系のd軸電流値がゼロになる進角値を算出する進角制御部と、前記進角制御部によって算出した前記進角値と前記ロータの回転角度とを加算した角度と、前記電圧指令値算出部によって算出された前記電圧指令値とに基づいて、空間ベクトル変換を行って、前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、d軸電流値をゼロにするベクトル制御演算の負荷を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の形態に係るモータ駆動制御装置を備えたモータユニットの構成を示す図である。
図2】本実施の形態に係るモータ駆動制御装置における制御回路の機能ブロック構成を示す図である。
図3A】3相(U,V,W)の固定座標系と2相(d,q)の回転座標系との関係を示す図である。
図3B】モータのコイルの印加電圧に対する電流の遅れを説明するための図である。
図4】進角値の算出方法を説明するための図である。
図5】対応関係情報201としての、回転速度ωとq軸電流値Iqの組み合わせ毎に進角値δを対応付けたテーブルの一例を示す図である。
図6】本実施の形態に係るモータ駆動制御装置による駆動制御信号の生成処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7】本実施の形態に係る制御回路の比較例としての、従来のベクトル制御演算を行う制御回路の構成の一例を示す図である。
図8】本発明の別の実施の形態に係るモータ駆動制御装置における制御回路の機能ブロック構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【0016】
〔1〕本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置(10,10A)は、モータ(3)を駆動させるための駆動制御信号(Sd)を出力する制御回路(1)と、前記制御回路から出力された前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動する駆動回路(2)とを備え、前記制御回路(1)は、前記モータのコイル(Lu,Lv,Lw)の駆動電流値(Iu,Iv,Iw)を取得する駆動電流値取得部(14)と、前記モータのロータ(31)の回転角度(θ)を取得する回転角度取得部(12)と、前記ロータの回転速度(ω)を取得する回転速度取得部(13)と、前記駆動電流値取得部によって取得した前記駆動電流値と、前記回転角度取得部によって取得した前記ロータの回転角度とに基づいて、2相の回転座標系のq軸電流値(Iq)を算出するq軸電流値算出部(15)と、前記モータの動作の目標状態を指示する値(ωref,Tref)に基づいて、前記2相の回転座標系のq軸電流の指令値(Iqref)を算出するq軸電流指令値算出部(17)と、前記q軸電流指令値算出部によって算出した前記q軸電流の指令値と前記q軸電流値算出部によって算出した前記q軸電流値との差が小さくなるように、前記2相の回転座標系の電圧指令値(Vref)を算出する電圧指令値算出部(19)と、前記q軸電流値算出部によって算出した前記q軸電流値と、前記回転速度取得部によって取得した前記ロータの回転速度とに基づいて、前記2相の回転座標系のd軸電流値(Id)がゼロになる進角値(δ)を算出する進角制御部(20)と、前記進角制御部によって算出した前記進角値と前記ロータの回転角度とを加算した角度と、前記電圧指令値算出部によって算出された前記電圧指令値とに基づいて、空間ベクトル変換を行って、前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部(22)と、を有することを特徴とする。
【0017】
〔2〕上記〔1〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記2相の回転座標系のd軸電流値がゼロになる進角値(δ)は、前記電圧指令値のベクトルのd軸方向の成分が前記d軸電流値(Id)がゼロであるときのd軸電圧値(Vd)に一致するときの、前記電圧指令値のベクトルのq軸に対する角度(φ)に基づく値であってもよい。
【0018】
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記進角制御部は、前記ロータの回転速度(ω)と、前記q軸電流値(Iq)と、前記進角値(φ,δ)との対応関係を示す対応関係情報(201)を有し、前記対応関係情報に基づいて前記進角値を算出してもよい。
【0019】
〔4〕上記〔3〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記対応関係情報は、前記ロータの回転速度と前記q軸電流値の組み合わせ毎に前記進角値を対応付けたテーブルであってもよい。
【0020】
〔5〕上記〔3〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記電圧指令値をVref、前記ロータの回転速度をω、q軸インダクタンスをLq、前記q軸電流値をIq、前記電圧指令値のベクトルのq軸に対する角度をφとしたとき、前記対応関係情報は、後述する式(5)で表される関数を含んでもよい。
【0021】
〔6〕上記〔2〕乃至〔5〕の何れか一項に記載のモータ駆動制御装置において、前記進角制御部は、前記電圧指令値のベクトルのq軸に対する角度にπ/2を加算して前記進角値を算出してもよい。
【0022】
〔7〕上記〔1〕乃至〔6〕の何れか一項に記載のモータ駆動制御装置(10)において、前記モータの動作の目標状態を指示する値は、前記モータの回転速度の目標値であって、前記q軸電流指令値算出部は、前記モータの回転速度の目標値と前記回転速度取得部によって取得した前記ロータの回転速度との差が小さくなるように、前記q軸電流の指令値を算出してもよい。
【0023】
〔8〕上記〔1〕乃至〔6〕の何れか一項に記載のモータ駆動制御装置(10A)において、前記モータの動作の目標状態を指示する値は、前記モータのトルクの目標値であってもよい。
【0024】
〔9〕本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御方法は、モータ(3)のロータ(31)の回転角度(θ)を取得する第1ステップ(S2)と、前記ロータの回転速度を取得する第2ステップ(S3)と、前記モータのコイルの駆動電流値を取得する第3ステップ(S4)と、前記第3ステップによって取得した前記駆動電流値と、前記第1ステップによって取得した前記ロータの回転角度とに基づいて、2相の回転座標系のq軸電流値を算出する第4ステップ(S5)と、前記モータの動作の目標状態を指示する値に基づいて、前記2相の回転座標系のq軸電流の指令値を算出する第5ステップ(S6)と、前記第5ステップによって算出した前記q軸電流の指令値と前記第4ステップによって算出されたq軸電流値との差が小さくなるように、前記2相の回転座標系の電圧指令値を算出する第6ステップ(S7)と、前記第4ステップによって算出した前記q軸電流値と、前記第2ステップによって取得した前記ロータの回転速度とに基づいて、前記2相の回転座標系のd軸電流値がゼロになる進角値を算出する第7ステップ(S8)と、前記第7ステップによって算出した前記進角値と前記ロータの回転角度とを加算した角度と前記第6ステップによって算出された前記電圧指令値とに基づいて空間ベクトル変換を行って、前記モータの駆動を制御するための駆動制御信号を生成する第8ステップ(S9)と、を含んでもよい。
【0025】
2.実施の形態の具体例
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。
【0026】
図1は、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10を備えたモータユニット100の構成を示す図である。
【0027】
図1に示すように、モータユニット100は、モータ3と、モータ3の回転位置を検出するための回転位置検出器4(4u,4v,4w)と、モータ3の回転を制御するモータ駆動制御装置10と、を備えている。モータユニット100は、例えばファン等の、モータを駆動源として用いる種々の機器に適用することができる。
【0028】
モータ3は、例えば、ブラシレスモータである。本実施の形態において、モータ3は、例えば、3相のコイルLu,Lv,Lwを有する表面磁石型同期モータ(SPMSM)である。コイルLu,Lv,Lwは、例えば、互いにY結線されている。
【0029】
モータ駆動制御装置10は、例えば、モータ3に正弦波駆動信号を与えることにより、モータ3の3相のコイルLu,Lv,Lwに周期的に正弦波状の駆動電流を流してモータ3のロータ31(図3A参照)を回転させる。
【0030】
モータ駆動制御装置10は、制御回路1と駆動回路2を有している。
なお、図1に示されているモータ駆動制御装置10の構成要素は、全体の一部であり、モータ駆動制御装置10は、図1に示されたものに加えて、他の構成要素を有していてもよい。
【0031】
駆動回路2は、後述する制御回路1から出力された駆動制御信号Sdに基づいてモータ3を駆動する。駆動回路2は、インバータ回路2a及びプリドライブ回路2bを有する。
【0032】
インバータ回路2aは、直流電源Vccとグラウンド電位との間に配置され、入力された駆動制御信号Sdに基づいて、負荷としてのモータ3のコイルLu,Lv,Lwを駆動する回路である。具体的には、インバータ回路2aは、直列に接続された2つの駆動用トランジスタを含むスイッチングレグを3つ有し、入力された駆動制御信号Sdに基づいて、2つの駆動用トランジスタが交互にオン・オフ動作(スイッチング動作)を行うことにより、負荷としてのモータ3を駆動する。
【0033】
より具体的には、インバータ回路2aは、モータ3のU相、V相、およびW相にそれぞれ対応するスイッチングレグを有する。図1に示すように、各相に対応するスイッチングレグは、直流電源Vccとグラウンド電位との間に電流検出回路2cを介して直列に接続された2つの駆動用トランジスタQ1とQ2,Q3とQ4,Q5とQ6を有している。
【0034】
ここで、駆動用トランジスタQ1,Q3,Q5は、例えば、Pチャネル型のMOSFETであり、駆動用トランジスタQ2,Q4,Q6は、例えば、Nチャネル型のMOSFETである。なお、駆動用トランジスタQ1~Q6は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の他の種類のパワートランジスタであってもよい。
【0035】
例えば、U相に対応するスイッチングレグは、互いに直列に接続された駆動用トランジスタQ1,Q2を有する。駆動用トランジスタQ1と駆動用トランジスタQ2とが共通に接続される点は、負荷としてのコイルLuの一端に接続されている。V相に対応するスイッチングレグは、互いに直列に接続された駆動用トランジスタQ3,Q4を有する。駆動用トランジスタQ3と駆動用トランジスタQ4とが共通に接続される点は、負荷としてのコイルLvの一端に接続されている。W相に対応するスイッチングレグは、互いに直列に接続された駆動用トランジスタQ5,Q6を有する。駆動用トランジスタQ5と駆動用トランジスタQ6とが共通に接続される点は、負荷としてのコイルLwの一端に接続されている。
【0036】
プリドライブ回路2bは、制御回路1から出力された駆動制御信号Sdに基づいて、インバータ回路2aを駆動するための駆動信号を生成する。
【0037】
駆動制御信号Sdは、モータ3の駆動を制御するための信号であり、例えばPWM(Pulse Width Modulation)信号である。具体的には、駆動制御信号Sdは、インバータ回路2aを構成する各スイッチ素子のオン/オフの状態によって定まるモータ3のコイルLu,Lv,Lwの通電パターンを切り替えるための信号である。より具体的には、駆動制御信号Sdは、インバータ回路2aの各駆動用トランジスタQ1~Q6に対応する6種類のPWM信号を含む。
【0038】
プリドライブ回路2bは、制御回路1から供給された駆動制御信号Sdとしての6種類のPWM信号に基づいて、インバータ回路2aの各駆動用トランジスタQ1~Q6の制御電極(ゲート電極)を駆動するのに十分な電力を供給可能な6種類の駆動信号Vuu,Vul,Vvu,Vvl,Vwu,Vwlを生成する。
【0039】
これらの駆動信号Vuu,Vul,Vvu,Vvl,Vwu,Vwlがインバータ回路2aの各駆動用トランジスタQ1~Q6の制御電極(ゲート電極)に入力されることにより、各駆動用トランジスタQ1~Q6がオン・オフ動作(スイッチング動作)を行う。例えば、各相に対応するスイッチングレグの上側アームの駆動用トランジスタQ1,Q3,Q5と下側アームの駆動用トランジスタQ2,Q4,Q6は、交互にオン・オフ動作を行う。これにより、モータ3の各相に直流電源Vccから電力が供給され、モータ3が回転する。
【0040】
電流検出回路2cは、モータ3のコイルLu,Lv,Lwの駆動電流を検出するための回路である。電流検出回路2cは、例えば、電流検出素子としての抵抗(シャント抵抗)を含む。抵抗は、例えば、直流電源Vccとグラウンド電位との間にインバータ回路2aと直列に接続されている。本実施の形態において、電流検出回路2cとしての抵抗は、例えば、インバータ回路2aの負側(グラウンド側)に接続されている。電流検出回路2cは、モータ3のコイルLu,Lv,Lwに流れる電流を上記抵抗によって電圧に変換し、その電圧を電流検出信号Vmとして制御回路1に入力する。
【0041】
回転位置検出器4は、モータ3のロータ31の回転位置を検出するための装置である。回転位置検出器4は、例えば、ホール素子である。図1には、一例として、モータ3のU相、V相、およびW相毎に、回転位置検出器4u,4v,4wとしてのホール素子が設けられた場合が示されている。以下、回転位置検出器4u,4v,4wを「ホール素子4u,4v,4w」とも称する。
【0042】
ホール素子4u,4v,4wは、例えば、互いに略等間隔(例えば、隣り合うものと120度の間隔)にモータ3のロータ(回転子)31の周囲に配置されている。ホール素子4u,4v,4wは、それぞれ、ロータ31の磁極を検出し、ロータ31の回転に応じて電圧が変化するホール信号を回転位置検出信号Hu,Hv,Hwとして出力する。回転位置検出信号Hu,Hv,Hwは、制御回路1に入力される。
【0043】
なお、制御回路1には、このようなホール信号に代えて、モータ3のロータ31の回転位置に対応する他の信号が回転位置検出信号として入力されるように構成されていてもよい。例えば、エンコーダやレゾルバ等を設け、その検出信号が制御回路1に入力されるようにしてもよい。
【0044】
制御回路1は、例えば外部から入力される、モータ3の動作の目標状態を指示する駆動指令信号Scに基づいて、モータ3を駆動させるための駆動制御信号Sdを生成して、モータ3の駆動を制御する。制御回路1は、電流検出回路2cからの電流検出信号Vm、および回転位置検出器4u,4v,4wからの回転位置検出信号Hu,Hv,Hwに基づいて、モータ3のロータ31の回転速度やトルク等の情報を得ることでモータ3の回転状態を監視するとともに、モータ3が駆動指令信号Scによって指定された動作状態となるように駆動制御信号Sdを生成して、駆動回路2に与える。
【0045】
本実施の形態において、制御回路1は、例えば、CPU等のプロセッサと、RAM,ROM等の各種記憶装置と、カウンタ(タイマ)、A/D変換回路、D/A変換回路、クロック発生回路、および入出力I/F回路等の周辺回路とが、バスや専用線を介して互いに接続された構成を有するプログラム処理装置(例えばマイクロコントローラ)である。
【0046】
なお、モータ駆動制御装置10は、制御回路1の少なくとも一部と駆動回路2の少なくとも一部とが一つの集積回路装置(IC)としてパッケージ化された構成であってもよいし、制御回路1と駆動回路2がそれぞれ個別の集積回路装置として夫々パッケージ化された構成であってもよい。
【0047】
制御回路1は、モータ3の駆動効率を最大化するために、従来技術のように、d軸電流値を算出して、d軸電流値がゼロになるようにベクトル制御を行うのではなく、d軸電流値Idがゼロになるように進角制御を行うことにより、駆動制御信号Sdを生成する。以下、制御回路1による駆動制御信号Sdの生成手法について詳細に説明する。
【0048】
図2は、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10における制御回路1の機能ブロック構成を示す図である。
【0049】
図2に示すように、制御回路1は、進角制御に基づいて駆動制御信号Sdを生成するための機能ブロックとして、駆動指令取得部11、回転角度取得部12、回転速度取得部13、駆動電流値取得部14、q軸電流値算出部15、誤差算出部16,18、q軸電流指令値算出部17、電圧指令値算出部19、進角制御部20、加算部21、および駆動制御信号生成部22を有する。
【0050】
これらの機能ブロックは、例えば、制御回路1としてのプログラム処理装置において、プロセッサが、メモリに記憶されたプログラムに従って各種演算処理を実行するとともに、カウンタやA/D変換回路等の周辺回路を制御することによって実現される。
【0051】
駆動指令取得部11は、外部から駆動指令信号Scを受信し、受信した駆動指令信号Scを解析することにより、駆動指令信号Scで指定されたモータ3の目標となる動作状態を指定する値を取得する。
【0052】
駆動指令信号Scは、モータ3の動作の目標状態を指示する値を含む。駆動指令信号Scは、例えば、モータ駆動制御装置10の外部に設けられた、モータユニット100を制御するための上位装置から出力される信号である。
【0053】
本実施の形態において、駆動指令信号Scは、例えば、モータ3のロータ31の回転速度を指定する速度指令信号Sc1である。駆動指令信号Scは、モータ3のロータ31の目標となる回転速度(目標回転速度)の値ωrefを含んでいる。以下、本実施の形態では、駆動指令信号Scが速度指令信号Sc1であるとして説明する。
【0054】
速度指令信号Sc1は、例えば、指定する目標回転速度ωrefに応じたデューティ比を有するPWM信号である。駆動指令取得部11は、例えば、速度指令信号Sc1としてのPWM信号のデューティ比を計測し、計測したデューティ比に応じた回転速度を目標回転速度ωrefとして出力する。
【0055】
回転角度取得部12は、モータ3のロータ31の回転角度の計測値を取得する機能部である。回転角度取得部12は、例えば、回転位置検出器4u,4v,4wから出力された回転位置検出信号Hu,Hv,Hwに基づいて、モータ3のロータ31の回転角度(回転位置)θを算出する。
【0056】
なお、モータ駆動制御装置10が回転位置検出器4u,4v,4wを有しない場合(センサレス方式の場合)には、回転角度取得部12は、位置センサレス方式に係る公知の演算により、モータの回転角度θを算出してもよい。
【0057】
本実施の形態では、回転速度取得部13は、モータ3のロータ31の回転角度の計測値を取得する機能部である。回転速度取得部13は、例えば、回転角度取得部12によって算出された回転角度θに基づいてモータ3のロータ31の回転速度ωを算出する。
【0058】
駆動電流値取得部14は、モータ3のコイルLu,Lv,Lwの駆動電流値Iu,Iv,Iwの計測値を取得する機能部である。駆動電流値取得部14は、例えば、電流検出回路2cから出力された電流検出信号Vmに基づいて、U相のコイルLuに流れる電流の計測値(駆動電流値Iu)、V相のコイルLvに流れる電流の計測値(駆動電流値Iv)、およびW相のコイルLwに流れる電流の計測値(駆動電流値Iw)をそれぞれ算出する。
【0059】
q軸電流値算出部15は、駆動電流値取得部14によって取得した各相の駆動電流値(相電流)Iu,Iv,Iwと、回転角度取得部12によって取得したロータ31の回転角度θとに基づいて、回転座標系のq軸電流値Iqを算出する機能部である。
【0060】
具体的には、q軸電流値算出部15は、クラーク変換部151およびパーク変換部152を有する。クラーク変換部151は、駆動電流値取得部14によって取得した3相(U,V,W)の固定座標系の駆動電流値Iu,Iv,Iwをクラーク変換することにより、2相の直交座標(固定座標)系(α,β)の電流Iα,Iβを算出する。パーク変換部152は、回転角度取得部12によって取得した回転角度θ(sinθおよびcosθ)を用いて2相の固定座標系の電流Iα,Iβをパーク変換することにより、2相(d,q)の回転座標系(d,q)のq軸電流値Iqを算出する。q軸電流値Iqはモータ3のトルクに対応する電流(トルク電流)の値である。
【0061】
なお、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10では、パーク変換部152によってd軸電流値Idを生成しなくてもよい。
【0062】
誤差算出部16は、駆動指令取得部11から出力された目標回転速度ωrefと回転速度取得部13によって取得したモータ3の実際の回転速度ωとの差(ωref‐ω)を算出する機能部である。
【0063】
q軸電流指令値算出部17は、モータ3の目標回転速度ωrefと回転速度ωとの差が小さくなるように、q軸電流の指令値Iqrefを算出する機能部である。q軸電流指令値算出部17は、例えば、PI制御演算により、誤差算出部16によって算出した誤差(ωref‐ω)がゼロになるように、モータ3の制御量としてのq軸電流の指令値Iqrefを算出する。
【0064】
誤差算出部18は、q軸電流指令値算出部17によって算出したq軸電流の指令値Iqrefとq軸電流値算出部15によって算出したq軸電流値Iqとの差(Iqref‐Iq)を算出する機能部である。
【0065】
電圧指令値算出部19は、q軸電流指令値算出部17によって算出したq軸電流の指令値Iqrefとq軸電流値算出部15によって算出したq軸電流値Iqとの差が小さくなるように、回転座標系(d,q)の電圧指令値Vrefを算出する機能部である。電圧指令値算出部19は、例えば、PI制御演算により、誤差算出部18によって算出した誤差(Iqref‐Iq)がゼロになるように、モータ3の制御量としての電圧指令値Vrefを算出する。
【0066】
進角制御部20は、モータ3の進角制御を行う機能部である。
進角制御部20は、q軸電流値算出部15によって算出したq軸電流値Iqと、回転速度取得部13によって取得したロータ31の回転速度ωとに基づいて、各コイルLu,Lv,Lwの印加電圧(相印加電圧)の位相進み角度(進角値φ)を算出する。具体的に、進角制御部20は、回転座標系(d,q)のd軸電流値Idがゼロになる進角値δを算出する。以下、本実施の形態に係る進角値δの算出方法について、詳細に説明する。
【0067】
図3Aは、3相(U,V,W)の固定座標系と2相(d,q)の回転座標系との関係を示す図である。
【0068】
図3Aに示すように、一般に、ベクトル制御において、2相(d,q)の回転座標系におけるd軸をモータ3のロータ(回転子)31の磁石(永久磁石)の磁束(N極)方向とし、q軸をd軸から正方向に90度進んだ方向とする。この場合、回転角度取得部12によって計測されるロータ31の回転角度θは、d軸の回転角度となり、例えば、3相(U,V,W)の固定座標系におけるu軸とd軸とのなす角となる。
【0069】
図3Bは、モータのコイルの印加電圧に対する電流の遅れを説明するための図である。
一般に、モータのコイルに電圧を印加した場合、コイルのインダクタンスにより、コイルの電流は印加電圧に対して位相が遅れる。そこで、一般的な進角制御では、コイルの電流の印加電圧に対する位相の遅れ分φだけ、印加電圧の位相を進めて、電流が所望の位相となるよう制御する。この場合の印加電圧の位相の進み角度を進角値φと称する。
【0070】
上述したように、表面磁石型同期モータ(SPMSM)では、d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqとが等しい(Ld=Lq)ため、d軸電流値Idをゼロにしたとき、モータの効率が最大となる。d軸電流値Idをゼロ、すなわち、電流をq軸成分のみとするためには、印加電圧の位相をq軸に対して進角値φだけ進ませればよい。
【0071】
そこで、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10は、回転座標系のd軸電流値Idがゼロになる進角値φを算出し、その進角値φと回転座標系の電圧指令値Vrefとで表される極座標の情報に基づいて空間ベクトル変換を行うことにより、駆動制御信号Sdを生成する。
【0072】
図4は、進角値の算出方法を説明するための図である。
同図には、横軸をd軸、縦軸をq軸としたときの電圧指令値Vref(ベクトル)が示されている。
【0073】
一般に、永久磁石同期モータ(PMSM)の2相(d,q)の回転座標系におけるd軸電圧値Vdは、下記式(2)によって表される。
【0074】
【数2】
【0075】
ここで、d軸電流値Id=0としたときのd軸電圧値Vdは、上記式(2)より、下記式(3)で表すことができる。
【0076】
【数3】
【0077】
したがって、電圧指令値Vrefのベクトルのd軸方向成分が“‐ωLqIq”となるように進角値φを決定する進角制御を行うことにより、d軸電流値Idがゼロになるようにモータ3の駆動を制御することができる。
【0078】
図4に示すように、電圧指令値Vrefのベクトルとq軸とのなす角をφとしたとき、式(3)より、下記式(4)が成り立つ。
【0079】
【数4】
【0080】
上記式(4)より、d軸電流値Idをゼロにするときの進角値φは、下記式(5)で表される。
【0081】
【数5】
【0082】
本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10において、進角制御部20は、q軸電流値算出部15によって算出したq軸電流値Iqと、回転速度取得部13によって取得したロータ31の回転速度ωとに基づいて、2相(d,q)の回転座標系のd軸電流値Idがゼロになる進角値φを算出する。
【0083】
具体的には、進角制御部20は、電圧指令値Vrefのベクトルのd軸方向の成分が、d軸電流値Idがゼロであるときのd軸電圧値Vdに一致するときの、電圧指令値Vrefのベクトルのq軸に対する角度(進角値)φを算出する。
【0084】
ここで、モータ3のロータ31の回転角度θは、d軸の回転角度である。一方、図4に示すように、進角値φは、電圧指令値Vrefのベクトルのq軸に対する角度である。したがって、d軸を基準とした進角値δは、“φ+π/2”となる。進角制御部20は、進角値δ(=φ+π/2)を算出して出力する。
【0085】
具体的に、進角制御部20は、ロータ31の回転速度ωと、q軸電流値Iqと、進角値δ(φ)との対応関係を示す対応関係情報201を用いて、進角値δを算出する。対応関係情報201を用いた進角値δの算出方法としては、以下の手法を例示することができる。
【0086】
第1の手法として、進角制御部20は、対応関係情報201として、式(5)で表される進角値φの関数を有し、式(5)に基づいて進角値φを算出してもよい。例えば、式(5)で表される角度φの関数を対応関係情報201として、制御回路1内のメモリに予め記憶しておく。進角制御部20は、対応関係情報201としての式(5)をメモリから読み出して、q軸電流値算出部15によって算出したq軸電流値Iqと回転速度取得部13によって取得したロータ31の回転速度ωとを式(5)に代入することにより、d軸電流値Idがゼロになる角度φを算出する。そして、進角制御部20は、算出した角度φにπ/2を加算した値を、d軸を基準とした進角値δとして出力する。
【0087】
式(5)において、q軸インダクタンスLqは固定値である。したがって、進角制御部20は、上記式(5)を用いた演算において、q軸インダクタンスLqとして、例えば、制御回路1内のメモリに予め記憶しておいた値を用いることができる。また、進角制御部20は、上記(5)を用いた演算において、電圧指令値Vrefとして、電圧指令値算出部19によって算出された値を用いることができる。
【0088】
なお、電圧指令値Vrefは、q軸電流値Iqと回転速度ωとから算出することができるので、進角制御部20は、電圧指令値算出部19から電圧指令値Vrefの値を取得せず、q軸電流値Iqと回転速度ωとを用いて電圧指令値Vrefの値を算出してもよい。
【0089】
第2の手法として、進角制御部20は、対応関係情報201として、回転速度ωとq軸電流値Iqの組み合わせ毎に進角値δを対応付けたテーブルを有し、そのテーブルに基づいて進角値φを算出してもよい。
【0090】
図5は、対応関係情報201としての、回転速度ωとq軸電流値Iqの組み合わせ毎に進角値δを対応付けたテーブルの一例を示す図である。
【0091】
上述したように、q軸インダクタンスLqは固定値であり、電圧指令値Vrefは、q軸電流値Iqと回転速度ωから算出することができる。そこで、予め、ロータ31の回転速度ωとq軸電流値Iqを変数として、上記式(5)を用いて進角値δを算出しておく。そして、変数としての回転速度ωとq軸電流値Iqの組み合わせ毎に進角値δを対応付けたテーブルを作成し、対応関係情報201として、制御回路1内のメモリに予め記憶しておく。
【0092】
進角制御部20は、q軸電流値算出部15によって算出したq軸電流値Iqと、回転速度取得部13によって取得したロータ31の回転速度ωとを引数として、対応関係情報201としてのテーブルを参照し、その引数に対応する進角値δをテーブルから読み出して出力する。
【0093】
上述の手法によって算出された進角値δは、加算部21に入力される。加算部21は、進角制御部20から出力された進角値δと回転角度取得部12によって取得したロータ31の回転角度θとを加算し、加算した値を電圧指令値Vrefのベクトルの角度σ(=θ+δ)の情報として出力する。
【0094】
駆動制御信号生成部22は、進角値δとロータ31の回転角度θとを加算した角度σと電圧指令値Vrefとに基づいて、駆動制御信号Sdを生成する機能部である。駆動制御信号生成部22は、電圧指令値算出部19から出力された電圧指令値Vrefと、加算部21から出力された角度σ(=θ+δ)とによって表される極座標の情報に基づいて、空間ベクトル変換を行う。すなわち、駆動制御信号生成部22は、公知の空間ベクトル変換の演算手法により、電圧指令値Vrefと角度σ(=θ+δ)の極座標値によって表される電圧ベクトルを3相(U,V,W)の固定座標系の電圧信号(PWM信号)に変換し、駆動制御信号Sdとして出力する。
【0095】
次に、モータ駆動制御装置10による駆動制御信号Sdの生成処理の流れについて説明する。
【0096】
図6は、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10による駆動制御信号Sdの生成処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0097】
先ず、制御回路1は、例えば、上位装置から速度指令信号Sc1が入力されると、速度指令信号Sc1を解析することにより、速度指令信号Sc1によって指定されたモータ3の目標回転速度ωrefの情報を取得する(ステップS1)。
【0098】
次に、制御回路1は、モータ3のロータ31の回転角度θを取得する(ステップS2)。具体的には、上述したように、回転角度取得部12が、回転位置検出器としてのホール素子4u,4v,4wから出力された回転位置検出信号Hu,Hv,Hwに基づいてモータ3のロータ31の回転角度θを算出する。
【0099】
また、制御回路1は、モータ3の回転速度ωを取得する(ステップS3)。具体的には、上述したように、回転速度取得部13が、ステップS2で算出したロータ31の回転角度θに基づいて、モータ3のロータ31の回転速度ωを算出する。
【0100】
また、制御回路1は、モータ3の各相のコイルLu,Lv,Lwの駆動電流値Iu,Iv,Iwを取得する(ステップS4)。具体的には、上述したように、駆動電流値取得部14が電流検出回路2cから出力された電流検出信号Vmに基づいて、各相のコイルの駆動電流値Iu,Iv,Iwを算出する。
【0101】
次に、制御回路1は、ステップS4で取得した各相のコイルの駆動電流値Iu,Iv,Iwと、ステップS2で取得したロータ31の回転角度θとに基づいて、2相(d,q)の回転座標系のq軸電流値Iqを算出する(ステップS5)。具体的には、上述したように、q軸電流値算出部15が、3相(U,V,W)の固定座標系の駆動電流値Iu,Iv,Iwに対して、クラーク変換およびパーク変換を行うことにより、2相(d,q)の回転座標系のq軸電流値Iqを算出する。
【0102】
次に、制御回路1は、モータ3の目標回転速度ωrefとステップS3で取得したロータ31の回転速度ωとの差が小さくなるように、q軸電流の指令値Iqrefを算出する(ステップS6)。具体的には、上述したように、誤差算出部16によって目標回転速度ωrefとモータ3の実際の回転速度ωとの差を算出し、q軸電流指令値算出部17が誤差算出部16によって算出した差がゼロになるようにPI制御演算を行うことにより、q軸電流の指令値Iqrefを算出する。
【0103】
次に、制御回路1は、ステップS6で算出したq軸電流の指令値IqrefとステップS5で算出したq軸電流値Iqとの差が小さくなるように、2相(d,q)の回転座標系の電圧指令値Vrefを算出する(ステップS7)。具体的には、上述したように、誤差算出部18が、q軸電流の指令値Iqrefとモータ3の実際のq軸電流値Iqとの差を算出し、q軸電流指令値算出部17が、誤差算出部18によって算出した差がゼロになるようにPI制御演算を行うことにより、電圧指令値Vrefを算出する。
【0104】
次に、制御回路1は、ステップS5で算出したq軸電流値Iqと、ステップS3で取得したロータ31の回転速度ωとに基づいて、d軸電流値Idがゼロになる進角値δを算出する(ステップS8)。具体的には、進角制御部20が、対応関係情報201を用いた上述の手法により、進角値δを算出する。
【0105】
次に、制御回路1は、ステップS8で算出した進角値δとロータ31の回転角度θとを加算した角度σとステップS7で算出した電圧指令値Vrefとに基づいて、駆動制御信号Sdを生成する(ステップS9)。具体的には、上述したように、駆動制御信号生成部22が、公知の空間ベクトル変換の演算手法により、電圧指令値Vrefと角度σ(=θ+δ)の極座標値によって表される電圧ベクトルを3相(U,V,W)の固定座標系の電圧信号(PWM信号)に変換し、駆動制御信号Sdとして出力する。
【0106】
以上の処理手順で生成された駆動制御信号Sdは、駆動回路2に供給される。駆動回路2は、入力された駆動制御信号Sdに基づいて、上述した手法により、モータ3のコイルの通電を制御する。これにより、モータ3は、速度指令信号Sc1によって指定された目標回転速度ωrefで回転するように制御される。
【0107】
以上、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10は、モータ3の効率を最大化するために、d軸電流値Idがゼロになるように進角制御を行うことにより、モータ3を駆動する。これによれば、従来技術のように、d軸電流値Idを算出し、算出したd軸電流値Idがゼロになるようにベクトル制御演算を行う場合に比べて、演算の負荷を低減することが可能となる。
【0108】
図7は、本実施の形態に係る制御回路1の比較例としての、従来のベクトル制御演算を行う制御回路の構成の一例を示す図である。
【0109】
図7に示すように、従来の制御回路1xは、d軸電流値Idをゼロにするベクトル制御のために以下の演算を行う。
具体的には、制御回路1xは、座標変換部15xによって、q軸電流値Iqだけでなくd軸電流値Idを算出した上で、d軸電流の指令値Idref=0をゼロとしたときのd軸電流の誤差を誤差算出部25xによって算出する。次に、制御回路1xは、電圧指令値算出部26xによって、d軸電流の誤差に基づいてd軸電圧の指令値Vdrefを算出する。次に、制御回路1xは、座標変換部27xによって、電圧指令値算出部19が算出したq軸電圧の電圧指令値Vqrefと電圧指令値算出部26xが算出したd軸電圧の電圧指令値Vdrefを、2相(α,β)の固定座標系の電圧指令値Vα,Vβに逆パーク変換する。そして、制御回路1xは、駆動制御信号生成部22xによって、デカルト座標の電圧指令値Vα,Vβに基づいて空間ベクトル変換を行うことにより、3相の電圧信号(PWM信号)である駆動制御信号Sdを生成する。
【0110】
このように、従来のd軸電流値Idをゼロにするベクトル制御演算を行う場合には、座標変換部15xによるd軸電流値Idの算出、誤差算出部25xによるd軸電流値Idの誤差の算出、電圧指令値算出部26xによるd軸電圧の電圧指令値Vdrefの算出、および座標変換部27xによる逆パーク変換が必要となる。
【0111】
これに対し、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10によれば、従来のd軸電流値をゼロにするベクトル制御演算に含まれる上述した複数の演算処理を行う代わりに、進角値δ(σ)を算出する演算処理を行えばよいので、制御回路1(プロセッサ)による演算の負荷を大幅に減らすことが可能となる。これにより、制御回路1としてのプログラム処理装置(例えば、マイクロコントローラ)に必要な処理能力を低く抑えることが可能となるので、よりコストを抑えたモータ駆動制御装置10を提供することが可能となる。
【0112】
また、モータ駆動制御装置10において、d軸電流値Idをゼロにするための進角値δ(φ)を算出する際に、ロータ31の回転速度ωと、q軸電流値Iqと、進角値δとの対応関係を示す対応関係情報201を用いることにより、制御回路1による演算の負荷を更に減らすことが可能となる。
【0113】
例えば、上述したように、式(5)で表される進角値φの関数を対応関係情報201として制御回路1のメモリに予め記憶しておくことにより、式(5)にパラメータとしてのq軸電流値Iqおよび回転速度ωを代入することにより、複雑な計算を行うことなく、進角値δを算出することが可能となる。
【0114】
また、例えば、上述したように、ロータ31の回転速度ωとq軸電流値Iqの組み合わせ毎に進角値δを対応付けたテーブルを対応関係情報201として制御回路1のメモリに予め記憶しておくことにより、進角値δのデータをテーブルから読み出すことによって、複雑な計算を行うことなく、進角値δを算出することができる。これにより、制御回路1による演算の負荷を更に減らすことが可能となる。
【0115】
≪実施の形態の拡張≫
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0116】
例えば、上記実施の形態では、駆動指令信号Scが、モータ3の回転速度の目標値(目標回転速度)を含む速度指令信号Sc1である場合を例示したが、これに限られない。例えば、駆動指令信号Scは、モータ3のトルクを指定するトルク指令信号Sc2であってもよい。
以下、駆動指令信号Scとしてトルク指令信号Sc2がモータ駆動制御装置に入力される場合における制御回路の別の一例について、説明する。
【0117】
図8は、本発明の別の実施の形態に係るモータ駆動制御装置における制御回路の機能ブロック構成を示す図である。
【0118】
同図に示される制御回路1Aは、駆動指令取得部11およびq軸電流指令値算出部17の代わりに、駆動指令取得部11Aおよびq軸電流指令値算出部17Aを有する点において、上述した実施の形態に係る制御回路1と相違し、その他の点においては、制御回路1と同様である。
【0119】
制御回路1Aには、駆動指令信号Scとして、モータ3のトルクを指定するトルク指令信号Sc2が入力される。ここで、トルク指令信号Sc2は、モータ3のトルクの目標値を示すトルク指令値Trefを含んでいる。
【0120】
駆動指令取得部11Aは、外部からトルク指令信号Sc2を受信する。駆動指令取得部11Aは、受信したトルク指令信号Sc2に含まれるトルク指令値Trefを取得して出力する。
【0121】
q軸電流指令値算出部17Aは、駆動指令取得部11Aから出力されたトルク指令値Trefに基づいて、q軸電流の指令値Iqrefを算出する。例えば、q軸電流指令値算出部17Aは、PI制御を行わず、上記式(1)においてId=0とすることによって求められる“1/(P×Ψ)”をトルク指令値Trefに乗算し、q軸電流の指令値Iqrefを算出する。
【0122】
q軸電流指令値算出部17Aによって算出されたq軸電流の指令値Iqrefは、上述した制御回路1の場合と同様に、誤差算出部18に与えられる。制御回路1Aにおける誤差算出部18以降の処理は、制御回路1と同様である。
【0123】
以上、制御回路1Aによれば、モータ3の動作の目標状態を指示する値としてトルク指令値がモータ駆動制御装置に入力される場合であっても、上述した制御回路1と同様の効果が得られる。
【0124】
例えば、上記実施の形態において、モータ3が表面磁石型同期モータ(SPMSM)である場合を説明したが、これに限られない。すなわち、モータ3が表面磁石型同期モータ(SPMSM)でない場合(例えば、モータ3がIPMSMの場合)であっても、リラクタンストルクを利用せず、d軸電流の指令値を常にゼロとするベクトル制御を行う場合には、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10を用いることができる。
【0125】
また、上記実施の形態において、制御回路1は、上述した回路構成に限定されない。制御回路1は、本発明の目的にあうように構成された、様々な回路構成を適用することができる。
【0126】
上述の実施の形態のモータ駆動制御装置により駆動されるモータの相数は、3相に限られない。また、ホール素子の数は、3個に限られない。
【0127】
モータの回転速度の検出方法は特に限定されない。例えば、ホール素子を用いず、モータの逆起電力を用いて回転速度を検出するようにしてもよい。
【0128】
上述のフローチャートは具体例であって、このフローチャートに限定されるものではなく、例えば、各ステップ間に他の処理が挿入されていてもよいし、処理が並列化されていてもよい。
【符号の説明】
【0129】
1…制御回路、2…駆動回路、2a…インバータ回路、2b…プリドライブ回路、2c…電流検出回路、3…モータ、4,4u,4v,4w…回転位置検出器(ホール素子)、10…モータ駆動制御装置、11…駆動指令取得部、12…回転角度取得部、13…回転速度取得部、14…駆動電流値取得部、15…q軸電流値算出部、16…誤差算出部、17,17A…q軸電流指令値算出部、18…誤差算出部、19…電圧指令値算出部、20…進角制御部、21…加算部、22…駆動制御信号生成部、31…ロータ(回転子)、100…モータユニット、151…クラーク変換部、152…パーク変換部、201…対応関係情報、Hu,Hv,Hw…回転位置検出信号、Iu,Iv,Iw…駆動電流値、Id…d軸電流値、Iq…q軸電流値、Iqref…q軸電流の指令値、iα,iβ…2相の直交座標(固定座標)系の電流、Lu,Lv,Lw…コイル、Q1~Q6…駆動用トランジスタ、Sc…駆動指令信号、Sc1…速度指令信号、Sc2…トルク指令信号、Sd…駆動制御信号、Vcc…直流電源、Vuu,Vul,Vvu,Vvl,Vwu,Vwl…駆動信号、Vm…電流検出信号、Vref…電圧指令値、θ…回転角度、σ…角度、φ…q軸を基準とする進角値(q軸に対する角度),δ…d軸を基準とする進角値、ω…回転速度、ωref…目標回転速度。
図1
図2
図3A
図3B
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図6
図7
図8