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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】作業機
(51)【国際特許分類】
   F15B 21/0427 20190101AFI20240219BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20240219BHJP
   F15B 21/045 20190101ALI20240219BHJP
【FI】
F15B21/0427
E02F9/22 Z
F15B21/045
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020180868
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071747
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2022-12-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】福田 祐史
(72)【発明者】
【氏名】長尾 昂平
(72)【発明者】
【氏名】濱本 亮太
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕朗
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-002991(JP,A)
【文献】特開2013-117254(JP,A)
【文献】特開2000-074011(JP,A)
【文献】特開2016-148446(JP,A)
【文献】米国特許第5666807(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/22
F15B 21/0427
F15B 21/045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機と、
走行装置と、
前記走行装置に伝達される動力を出力可能であり、当該出力する動力の回転速度を第1速度と前記第1速度よりも速い第2速度とに切換可能な走行モータと、
前記原動機の動力によって駆動して、且つ前記走行モータに作動油を供給する走行ポンプと、
前記走行ポンプと前記走行モータとを接続する循環油路と、
前記走行モータの前記回転速度を前記第1速度に設定する第1状態と、前記第2速度に設定する第2状態とに切り換え可能な走行切換弁と、
前記走行モータを制動する制動状態と、当該制動状態を解除する解除状態とに変化可能な制動装置と、
前記走行ポンプを制御する作動油のパイロット圧を変更可能な作動弁と、
前記走行切換弁、前記制動装置及び前記作動弁を制御可能な暖機モードを有する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記暖機モードである場合、前記制動装置を前記制動状態にし、且つ、前記走行切換弁を前記第2状態に切換えた状態で、前記作動弁から出力する作動油の圧力を零よりも大きい暖機用の所定圧に設定する作業機。
【請求項2】
前記制御装置は、前記暖機モードと異なる通常モードを有し、
前記通常モードである場合、前記原動機の実回転数と目標回転数との差であるドロップ量に応じて、前記作動弁の出力する作動油の圧力を低下するよう前記作動弁を制御し、
前記暖機モードである場合、前記作動弁から出力する作動油の圧力を前記所定圧に設定する請求項1に記載の作業機。
【請求項3】
前記走行切換弁を操作するための操作具と、
前記制御装置のモードを前記通常モードと前記暖機モードとに切り換えるためのモード選択操作具と、
を備え、
前記制御装置は、
前記通常モードである場合、前記操作具の操作に応じて前記走行切換弁を前記第1状態又は前記第2状態に切り換え、且つ前記制動装置を前記制動状態と前記解除状態とに変更自在であり、
前記暖機モードである場合、前記走行切換弁を前記第2状態に切換え、前記制動装置を前記制動状態にする請求項2に記載の作業機。
【請求項4】
前記制御装置は、前記原動機を始動する際に、前記制動装置を前記制動状態に維持前記原動機の実回転数が所定回転数以上になると、前記走行切換弁を前記第2状態に切換える切換えとを行い、且つ前記暖機モードに切り換わる請求項1~3のいずれか1項に記載の作業機。
【請求項5】
前記制御装置は、前記暖機モードを解除する場合には、前記作動弁から出力する作動油の圧力を前記所定圧未満にし、前記走行切換弁を前記第2状態から前記第1状態に切り換えた後、前記制動装置を前記制動状態から前記解除状態にする請求項1~のいずれかに記載の作業機。
【請求項6】
前記制御装置は、前記暖機モードである場合、前記所定圧を前記走行ポンプが作動する作動圧以上に設定する請求項1~のいずれかに記載の作業機。
【請求項7】
前記作動油の温度を検出可能な測定装置を備え、
前記制御装置は、前記測定装置で測定した作動油の温度が所定以下になった場合に、前記暖機モードに切り換える請求項1~のいずれかに記載の作業機。
【請求項8】
前記制御装置は、前記作動油の温度に応じて前記作動弁を制御し、前記作動油の温度が低くなるほど、前記所定圧を大きく設定する請求項1~のいずれかに記載の作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、スキッドステアローダ、コンパクトトラックローダ、バックホー等の作業機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、作業機において暖機を行う技術として特許文献1に示されているものがある。特許文献1の作業機は、ポンプから吐出されて供給対象に送られるパイロット油の圧力を制御するパイロット圧制御弁と、パイロット圧制御弁が組み込まれた弁ボディとを備え、弁ボディに該弁ボディを貫通するヒートアップ油路を形成し、ヒートアップ油路の一端側ポートをポンプの吐出ポートに連通し、ヒートアップ油路の下流側に、パイロット油が低温の時には弁ボディをヒートアップするようにヒートアップ油路から流出するパイロット油を作動油タンクに流し、パイロット油が所定温度以上に温まった時には弁ボディが必要以上にヒートアップしないようにヒートアップ油路から作動油タンクに流れるパイロット油の流れを制限するヒートアップ弁を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-117254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の作業機では、作業機の暖機を行うために、ボディにヒートアップ油路を形成しなければならず、構成が複雑になり、簡単に暖機を行うことができないのが実情である。
本発明は、上記したような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、作業機の暖機をスムーズに行うことができる作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
技術的課題を解決するために本発明が講じた技術的手段は、以下の通りである。
作業機は、原動機と、走行装置と、前記走行装置に伝達される動力を出力可能であり、当該出力する動力の回転速度を第1速度と前記第1速度よりも速い第2速度とに切換可能な走行モータと、前記原動機の動力によって駆動して、且つ前記走行モータに作動油を供給する走行ポンプと、前記走行ポンプと前記走行モータとを接続する循環油路と、前記走行モータの前記回転速度を前記第1速度に設定する第1状態と、前記第2速度に設定する第2状態とに切り換え可能な走行切換弁と、前記走行モータを制動する制動状態と、当該制動状態を解除する解除状態とに変化可能な制動装置と、前記走行ポンプを制御する作動油のパイロット圧を変更可能な作動弁と、前記走行切換弁、前記制動装置及び前記作動弁を制御可能な暖機モードを有する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記暖機モードである場合、前記制動装置を前記制動状態にし、且つ、前記走行切換弁を前記第2状態に切換えた状態で、前記作動弁から出力する作動油の圧力を零よりも大きい暖機用の所定圧に設定する。
【0006】
前記制御装置は、前記暖機モードと異なる通常モードを有し、前記通常モードである場合、前記原動機の実回転数と目標回転数との差であるドロップ量に応じて、前記作動弁の出力する作動油の圧力を低下するよう前記作動弁を制御し、前記暖機モードである場合、前記作動弁から出力する作動油の圧力を前記所定圧に設定する。
作業機は、前記走行切換弁を操作するための操作具と、前記制御装置のモードを前記通常モードと前記暖機モードとに切り換えるためのモード選択操作具と、を備え、前記制御装置は、前記通常モードである場合、前記操作具の操作に応じて前記走行切換弁を前記第1状態又は前記第2状態に切り換え、且つ前記制動装置を前記制動状態と前記解除状態とに変更自在であり、前記暖機モードである場合、前記走行切換弁を前記第2状態に切換え、前記制動装置を前記制動状態にする。
前記制御装置は、前記原動機を始動する際に、前記制動装置を前記制動状態に維持前記原動機の実回転数が所定回転数以上になると、前記走行切換弁を前記第2状態に切換える切換えとを行い、且つ前記暖機モードに切り換わる。
【0007】
前記制御装置は、前記暖機モードを解除する場合には、前記作動弁から出力する作動油の圧力を前記所定圧未満にし、前記走行切換弁を前記第2状態から前記第1状態に切り換えた後、前記制動装置を前記制動状態から前記解除状態にする。
前記制御装置は、前記暖機モードである場合、前記所定圧を前記走行ポンプが作動する作動圧以上に設定する。
【0008】
作業機は、前記作動油の温度を検出可能な測定装置を備え、前記制御装置は、前記測定装置で測定した作動油の温度が所定以下になった場合に、前記暖機モードに切り換える
前記制御装置は、前記作動油の温度に応じて前記作動弁を制御し、前記作動油の温度が低くなるほど、前記所定圧を大きく設定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、作業機の暖機をスムーズに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】作業機の油圧システム(油圧回路)を示す図である。
図2】走行一次圧と原動機の回転数との関係を示す図である。
図3】操作弁と作動弁とを兼用化した場合の変形例を示す図である。
図4図3とは異なる変形例を示す図である。
図5】作業機の一例であるトラックローダを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る作業機の油圧システム及びこの油圧システムを備えた作業機の好適な実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。
図5は、本発明に係る作業機の側面図を示している。図5では、作業機の一例として、コンパクトトラックローダを示している。但し、本発明に係る作業機はコンパクトトラックローダに限定されず、例えば、スキッドステアローダ等の他の種類のローダ作業機であってもよい。また、ローダ作業機以外の作業機であってもよい。
【0012】
作業機1は、図5に示すように、作業機1は、機体2と、キャビン3と、作業装置4と、一対の走行装置5L、5Rとを備えている。本発明の実施形態において、作業機1の運転席8に着座した運転者の前側(図5の左側)を前方、運転者の後側(図5の右側)を後方、運転者の左側(図5の手前側)を左方、運転者の右側(図5の奥側)を右方として説明する。また、前後の方向に直交する方向である水平方向を機体幅方向として説明する。機体2の中央部から右部或いは左部へ向かう方向を機体外方として説明する。言い換えれば、機体外方とは、機体幅方向であって、機体2から離れる方向である。機体外方とは反対の方向を、機体内方として説明する。言い換えれば、機体内方とは、機体幅方向であって、機体2に近づく方向である。
【0013】
キャビン3は、機体2に搭載されている。このキャビン3には運転席8が設けられている。作業装置4は機体2に装着されている。一対の走行装置5L、5Rは、機体2の外側に設けられている。機体2内の後部には、原動機32が搭載されている。
作業装置4は、ブーム10と、作業具11と、リフトリンク12と、制御リンク13と、ブームシリンダ14と、バケットシリンダ15とを有している。
【0014】
ブーム10は、キャビン3の右側及び左側に上下揺動自在に設けられている。作業具11は、例えば、バケットであって、当該バケット11は、ブーム10の先端部(前端部)に上下揺動自在に設けられている。リフトリンク12及び制御リンク13は、ブーム10が上下揺動自在となるように、ブーム10の基部(後部)を支持している。ブームシリンダ14は、伸縮することによりブーム10を昇降させる。バケットシリンダ15は、伸縮することによりバケット11を揺動させる。
【0015】
左側及び右側の各ブーム10の前部同士は、異形の連結パイプで連結されている。各ブーム10の基部(後部)同士は、円形の連結パイプで連結されている。
リフトリンク12、制御リンク13及びブームシリンダ14は、左側と右側の各ブーム10に対応して機体2の左側と右側にそれぞれ設けられている。
リフトリンク12は、各ブーム10の基部の後部に、縦向きに設けられている。このリフトリンク12の上部(一端側)は、各ブーム10の基部の後部寄りに枢支軸16(第1枢支軸)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。また、リフトリンク12の下部(他端側)は、機体2の後部寄りに枢支軸17(第2枢支軸)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。第2枢支軸17は、第1枢支軸16の下方に設けられている。
【0016】
ブームシリンダ14の上部は、枢支軸18(第3枢支軸)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。第3枢支軸18は、各ブーム10の基部であって、当該基部の前部に設けられている。ブームシリンダ14の下部は、枢支軸19(第4枢支軸)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。第4枢支軸19は、機体2の後部の下部寄りであって
第3枢支軸18の下方に設けられている。
【0017】
制御リンク13は、リフトリンク12の前方に設けられている。この制御リンク13の一端は、枢支軸20(第5枢支軸)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。第5枢支軸20は、機体2であって、リフトリンク12の前方に対応する位置に設けられている。制御リンク13の他端は、枢支軸21(第6枢支軸)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。第6枢支軸21は、ブーム10であって、第2枢支軸17の前方で且つ第2枢支軸17の上方に設けられている。
【0018】
ブームシリンダ14を伸縮することにより、リフトリンク12及び制御リンク13によって各ブーム10の基部が支持されながら、各ブーム10が第1枢支軸16回りに上下揺動し、各ブーム10の先端部が昇降する。制御リンク13は、各ブーム10の上下揺動に伴って第5枢支軸20回りに上下揺動する。リフトリンク12は、制御リンク13の上下揺動に伴って第2枢支軸17回りに前後揺動する。
【0019】
ブーム10の前部には、バケット11の代わりに別の作業具が装着可能とされている。別の作業具としては、例えば、油圧圧砕機、油圧ブレーカ、アングルブルーム、アースオーガ、パレットフォーク、スイーパー、モア、スノウブロア等のアタッチメント(予備アタッチメント)である。
左側のブーム10の前部には、接続部材50が設けられている。接続部材50は、予備アタッチメントに装備された油圧機器と、ブーム10に設けられたパイプ等の第1管材とを接続する装置である。具体的には、接続部材50の一端には、第1管材が接続可能で、他端には、予備アタッチメントの油圧機器に接続された第2管材が接続可能である。これにより、第1管材を流れる作動油は、第2管材を通過して油圧機器に供給される。
【0020】
バケットシリンダ15は、各ブーム10の前部寄りにそれぞれ配置されている。バケットシリンダ15を伸縮することで、バケット11が揺動される。
一対の走行装置5L、5Rのうち、走行装置5Lは機体2の左側に設けられ、走行装置5Rは機体2の右側に設けられている。一対の走行装置5L、5Rは、本実施形態ではクローラ型(セミクローラ型を含む)の走行装置が採用されている。なお、前輪及び後輪を有する車輪型の走行装置を採用してもよい。以下、説明の便宜上、走行装置5Lのことを左走行装置5L、走行装置5Rのことを右走行装置5Rということがある。
【0021】
原動機32は、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン等の内燃機関、電動モータ等である。この実施形態では、原動機32は、ディーゼルエンジンであるが限定はされない。
次に、作業機の油圧システムについて説明する。
図1に示すように、作業機の油圧システムは、第1油圧ポンプP1と、第2油圧ポンプP2とを備えている。第1油圧ポンプP1は、原動機32の動力によって駆動するポンプであって、定容量型のギヤポンプによって構成されている。第1油圧ポンプP1は、タンク22に貯留された作動油を吐出可能である。特に、第1油圧ポンプP1は、主に制御に用いる作動油を吐出する。説明の便宜上、作動油を貯留するタンク22のことを作動油タンクということがある。また、第1油圧ポンプP1から吐出した作動油のうち、制御用として用いられる作動油のことをパイロット油、パイロット油の圧力のことをパイロット圧ということがある。
【0022】
第2油圧ポンプP2は、原動機32の動力によって駆動するポンプであって、定容量型のギヤポンプによって構成されている。第2油圧ポンプP2は、タンク22に貯留された作動油を吐出可能であって、例えば、作業系の油路に作動油を供給する。例えば、第2油圧ポンプP2は、ブーム10を作動させるブームシリンダ14、バケットを作動させるバケットシリンダ15、予備油圧アクチュエータを作動させる予備油圧アクチュエータを制御する制御弁(流量制御弁)に作動油を供給する。
【0023】
また、作業機の油圧システムは、一対の走行モータ36L、36Rと、一対の走行ポンプ53L、53Rと、を備えている。一対の走行モータ36L、36Rは、一対の走行装置5L、5Rに動力を伝達するモータである。一対の走行モータ36L、36Rのうち、一方の走行モータ36Lは、走行装置(左走行装置)5Lに回転の動力を伝達し、他方の走行モータ36Rは、走行装置(右走行装置)5Rに回転の動力を伝達する。
【0024】
一対の走行ポンプ53L、53Rは、原動機32の動力によって駆動するポンプであって、例えば、斜板形可変容量アキシャルポンプである。一対の走行ポンプ53L、53Rは、駆動することによって、一対の走行モータ36L、36Rのそれぞれに作動油を供給する。一対の走行ポンプ53L、53Rのうち、一方の走行ポンプ53Lは、走行ポンプ53Lに作動油を供給し、他方の走行ポンプ53Rは、走行ポンプ53Rに作動油を供給する。
【0025】
以下、説明の便宜上、走行ポンプ53Lのことを左走行ポンプ53L、走行ポンプ53Rのことを右走行ポンプ53R、走行モータ36Lのことを左走行モータ36L、走行モータ36Rのことを右走行モータ36Rということがある。
左走行ポンプ53L及び右走行ポンプ53Rには、第1油圧ポンプP1からの作動油(パイロット油)の圧力(パイロット圧)が作用する受圧部53aと受圧部53bとを有している、受圧部53a、53bに作用するパイロット圧によって斜板の角度が変更される。斜版の角度を変更することによって、左走行ポンプ53L及び右走行ポンプ53Rの出力(作動油の吐出量)や作動油の吐出方向を変えることができる。
【0026】
左走行ポンプ53Lと左走行モータ36Lとは、接続油路(第1循環油路)57hによって接続され、左走行ポンプ53Lが吐出した作動油が左走行モータ36Lに供給される。右走行ポンプ53Rと右走行モータ36Rとは、接続油路(第2循環油路)57iによって接続され、右走行ポンプ53Rが吐出した作動油が右走行モータ36Rに供給される。
【0027】
左走行モータ36Lは、左走行ポンプ53Lから吐出した作動油により回転が可能であり、作動油の流量によって、回転速度(回転数)を変更することができる。左走行モータ36Lには、斜板切換シリンダ37Lが接続され、当該斜板切換シリンダ37Lを一方側或いは他方側に伸縮させることによっても左走行モータ36Lの回転速度(回転数)を変更することができる。即ち、斜板切換シリンダ37Lを収縮した場合には、左走行モータ36Lの回転数は低速(第1速度)に設定され、斜板切換シリンダ37Lを伸長した場合には、左走行モータ36Lの回転数は高速(第2速度)に設定される。つまり、左走行モータ36Lの回転数は、低速側である第1速度と、高速側である第2速度とに変更が可能である。
【0028】
右走行モータ36Rは、右走行ポンプ53Rから吐出した作動油により回転が可能であり、作動油の流量によって、回転速度(回転数)を変更することができる。右走行モータ36Rには、斜板切換シリンダ37Rが接続され、当該斜板切換シリンダ37Rを一方側或いは他方側に伸縮させることによっても右走行モータ36Rの回転速度(回転数)を変更することができる。即ち、斜板切換シリンダ37Rを収縮した場合には、右走行モータ36Rの回転数は低速(第1速度)に設定され、斜板切換シリンダ37Rを伸長した場合には、右走行モータ36Rの回転数は高速(第2速度)に設定される。つまり、右走行モータ36Rの回転数は、低速側である第1速度と、高速側である第2速度とに変更が可能である。
【0029】
図1に示すように、作業機の油圧システムは、走行切換弁34を備えている。走行切換弁34は、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)の回転速度(回転数)を第1速度にする第1状態と、第2速度にする第2状態とに切換可能である。走行切換弁34は、第1速度切換弁71L、71Rと、第2速度切換弁72と、を有している。
第1速度切換弁71Lは、左走行モータ36Lの斜板切換シリンダ37Lに油路を介して接続されていて、第1位置71L1及び第2位置71L2に切り換わる二位置切換弁である。第1速度切換弁71Lは、第1位置71L1である場合、斜板切換シリンダ37Lを収縮し、第2位置71L2である場合、斜板切換シリンダ37Lを伸長する。
【0030】
第1速度切換弁71Rは、右走行モータ36Rの斜板切換シリンダ37Rに油路を介して接続されていて、第1位置71R1及び第2位置71R2に切り換わる二位置切換弁である。第1速度切換弁71Rは、第1位置71R1である場合、斜板切換シリンダ37Rを収縮し、第2位置71R2である場合、斜板切換シリンダ37Rを伸長する。
第2速度切換弁72は、第1速度切換弁71L及び第1速度切換弁71Rを切り換える
電磁弁であって、励磁により第1位置72aと第2位置72bとに切り換え可能な二位置切換弁である。第2速度切換弁72、第1速度切換弁71L及び第1速度切換弁71Rは、油路41により接続されている。第2速度切換弁72は、第1位置72aである場合に第1速度切換弁71L及び第1速度切換弁71Rを第1位置71L1、71R1に切り換え、第2位置72bである場合に第1速度切換弁71L及び第1速度切換弁71Rを第2位置71L2、71R2に切り換える。
【0031】
つまり、第2速度切換弁72が第1位置72a、第1速度切換弁71Lが第1位置71L1、第1速度切換弁71Rが第1位置71R1である場合に、走行切換弁34は第1状態になり、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)の回転速度を第1速度にする。第2速度切換弁72が第2位置72b、第1速度切換弁71Lが第2位置71L2、第1速度切換弁71Rが第2位置71R2である場合に、走行切換弁34は第2状態になり、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)の回転速度を第2速度にする。
【0032】
したがって、走行切換弁34によって、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)を低速側である第1速度と、高速側である第2速度とに切り換えることができる。
操作装置(走行操作装置)54は、走行操作部材59を操作したときに、走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)の受圧部53a、53bに作動油を作用させる装置であり、走行ポンプの斜板の角度(斜板角度)を変更可能である。操作装置54は、走行操作部材59と、複数の操作弁55とを含んでいる。
【0033】
走行操作部材59は、操作弁55に支持され、左右方向(機体幅方向)又は前後方向に揺動する操作レバーである。即ち、走行操作部材59は、中立位置Nを基準とすると、中立位置Nから右方及び左方に操作可能であると共に、中立位置Nから前方及び後方に操作可能である。言い換えれば、走行操作部材59は、中立位置Nを基準に少なくとも4方向に揺動することが可能である。尚、説明の便宜上、前方及び後方の双方向、即ち、前後方向のことを第1方向という。また、右方及び左方の双方向、即ち、左右方向(機体幅方向)のことを第2方向ということがある。
【0034】
また、複数の操作弁55は、共通、即ち、1本の走行操作部材59によって操作される。複数の操作弁55は、走行操作部材59の揺動に基づいて作動する。複数の操作弁55には、吐出油路40が接続され、当該吐出油路40を介して、第1油圧ポンプP1からの作動油(パイロット油)が供給可能である。複数の操作弁55は、操作弁55A、操作弁55B、操作弁55C及び操作弁55Dである。
【0035】
操作弁55Aは、前後方向(第1方向)のうち、走行操作部材59を前方(一方)に揺動した場合(前操作した場合)に、前操作の操作量(操作)に応じて出力する作動油の圧力が変化する。操作弁55Bは、前後方向(第1方向)のうち、走行操作部材59を後方(他方)に揺動した場合(後操作した場合)に、後操作の操作量(操作)に応じて出力する作動油の圧力が変化する。左右方向(第2方向)のうち、操作弁55Cは、走行操作部材59を右方(一方)に揺動した場合(右操作した場合)に、右操作の操作量(操作)に応じて出力する作動油の圧力が変化する。操作弁55Dは、左右方向(第2方向)のうち、走行操作部材59を、左方(他方)に揺動した場合(左操作した場合)に、左操作の操作量(操作)に応じて出力する作動油の圧力が変化する。
【0036】
複数の操作弁55と、走行ポンプ(左走行ポンプ53L,右走行ポンプ53R)とは、走行油路45によって接続されている。言い換えれば、走行ポンプ(左走行ポンプ53L,右走行ポンプ53R)は、操作弁55(操作弁55A、操作弁55B、操作弁55C、操作弁55D)から出力した作動油によって作動可能な油圧機器である。
走行油路45は、第1走行油路45a、第2走行油路45b、第3走行油路45c、第4走行油路45dと、第5走行油路45eとを有している。第1走行油路45aは、左走行ポンプ53Lの受圧部(第1受圧部)53aに接続された油路であり、走行操作部材59を操作したときに受圧部(第1受圧部)53aに作用する作動油を通過させる油路である。第2走行油路45bは、左走行ポンプ53Lの受圧部(第2受圧部)53bに接続さ
れ油路であり、走行操作部材59を操作したときに受圧部(第2受圧部)53bに作用する作動油を通過させる油路である。第3走行油路45cは、右走行ポンプ53Rの受圧部(第3受圧部)53aに接続され油路であり、走行操作部材59を操作したときに受圧部(第3受圧部)53aに作用する作動油を通過させる油路である。第4走行油路45dは、右走行ポンプ53Rの受圧部(第4受圧部)53bに接続され油路であり、走行操作部材59を操作したときに受圧部(第4受圧部)53bに作用する作動油を通過させる油路である。第5走行油路45eは、操作弁55、第1走行油路45a、第2走行油路45b、第3走行油路45c、第4走行油路45dを接続する油路である。
【0037】
走行操作部材59を前方(図1図2では矢印A1方向)に揺動させると、操作弁55Aが操作されて該操作弁55Aからパイロット圧が出力される。このパイロット圧は、第1走行油路45aを介して左走行ポンプ53Lの受圧部53aに作用すると共に第3走行油路45cを介して右走行ポンプ53Rの受圧部53aに作用する。これにより、左走行ポンプ53L及び右走行ポンプ53Rの斜板角度が変更され、左走行モータ36L及び右走行モータ36Rが正転(前進回転)して作業機1が前方に直進する。
【0038】
また、走行操作部材59を後方(図1図2では矢示A2方向)に揺動させると、操作弁55Bが操作されて該操作弁55Bからパイロット圧が出力される。このパイロット圧は、第2走行油路45bを介して左走行ポンプ53Lの受圧部53bに作用すると共に第4走行油路45dを介して右走行ポンプ53Rの受圧部53bに作用する。これにより、左走行ポンプ53L及び右走行ポンプ53Rの斜板角度が変更され、左走行モータ36L及び右走行モータ36Rが逆転(後進回転)して作業機1が後方に直進する。
【0039】
また、走行操作部材59を右方(図1図2では矢示A3方向)に揺動させると、操作弁55Cが操作されて該操作弁55Cからパイロット圧が出力される。このパイロット圧は、第1走行油路45aを介して左走行ポンプ53Lの受圧部53aに作用すると共に第4走行油路45dを介して右走行ポンプ53Rの受圧部53bに作用する。これにより、左走行ポンプ53L及び右走行ポンプ53Rの斜板角度が変更され、左走行モータ36Lが正転し且つ右走行モータ36Rが逆転して作業機1が右側にスピンターン(超信地旋回)する。
【0040】
また、走行操作部材59を左方(図1図2では矢示A4方向)に揺動させると、操作弁55Dが操作されて該操作弁55Dからパイロット圧が出力される。このパイロット圧は第3走行油路45cを介して右走行ポンプ53Rの受圧部53aに作用すると共に第2走行油路45bを介して左走行ポンプ53Lの受圧部53bに作用する。これにより、左走行ポンプ53L及び右走行ポンプ53Rの斜板角度が変更され、左走行モータ36Lが逆転し且つ右走行モータ36Rが正転して作業機1が左側にスピンターン(超信地旋回)する。
【0041】
また、走行操作部材59を斜め方向(図2では矢示A5方向)に揺動させると、受圧部53aと受圧部53bとに作用するパイロット圧の差圧によって、左走行モータ36L及び右走行モータ36Rの回転方向及び回転速度が決定され、作業機1が前進又は後進しながら右へ信地旋回又は左へ信地旋回する。
すなわち、走行操作部材59を左斜め前方に揺動操作すると該走行操作部材59の揺動角度に対応した速度で作業機1が前進しながら左旋回し、走行操作部材59を右斜め前方に揺動操作すると該走行操作部材59の揺動角度に対応した速度で作業機1が前進しながら右旋回し、走行操作部材59を左斜め後方に揺動操作すると該走行操作部材59の揺動角度に対応した速度で作業機1が後進しながら左旋回し、走行操作部材59を右斜め後方に揺動操作すると該走行操作部材59の揺動角度に対応した速度で作業機1が後進しながら右旋回する。
【0042】
図1に示すように、作業機1は、制御装置60を備えている。制御装置60は、作業機1の様々な制御を行うもので、CPU、MPU等の半導体、電気電子回路等から構成されている。制御装置60には、アクセル65と、モードスイッチ66と、速度切換スイッチ67、測定装置68と、回転検出装置62とが接続されている。
アクセル65は、運転席8の近傍に設けられ、原動機32の目標回転数を設定すること
が可能である。アクセル65は、揺動自在に支持されたアクセルレバー、揺動自在に支持されたアクセルペダル、回転自在に支持されたアクセルボリューム、スライド自在に支持されたアクセルスライダー等である。なお、アクセル65は、上述した例に限定されない。
【0043】
回転検出装置62は、原動機32の実回転数を検出する。回転検出装置62によって、制御装置60は、原動機32の実回転数を把握することができる。制御装置60は、アクセル65の操作量に基づいて、目標回転数を設定して、設定した目標回転数になるように実回転数を制御する。
測定装置68は、作動油の温度を測定するセンサであって、制御装置60は、当該測定装置68で測定した作動油の温度を取得することができる。
【0044】
制御装置60は、速度切換スイッチ67の操作に応じて、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)を第1速度及び第2速度のいずれかに切り換える手動切換制御を行う。手動切換制御では、速度切換スイッチ67が第1速度側に切り換えられた場合は、第2速度切換弁72のソレノイドを消磁することで、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)を第1速度にする。また、手動切換制御では、速度切換スイッチ67が第2速度側に切り換えられた場合は、第2速度切換弁72のソレノイドを励磁することで、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)を第2速度にする。
【0045】
モードスイッチ66は、手動操作によって、第1モードにするスイッチである。例えば、モードスイッチ66は、ON/OFFに切り換え可能なスイッチであり、ONである場合に第1モードにして、OFFである場合には第1モードを無効にして第2モードにする。即ち、制御装置60は、第1モードと、第1モードとは異なる第2モードとに切換え可能である。第1モードとは、通常の運転時のモード(第2モード)とは異なるモードであって、例えば、油圧回路内において作動油を循環により当該作動油の温度を上昇させるモード(暖機モード)である。なお、モードスイッチ66のON/OFFに関わらず、自動的に第1モードになってもよい。
【0046】
制御装置60は、走行切換弁34を制御することが可能であり、第2速度切換弁72のソレノイドを消磁する制御信号を出力して当該第2速度切換弁72を第1位置72aに切換え、第2速度切換弁72のソレノイドを励磁する制御信号を出力して当該第2速度切換弁72を第2位置72bに切り換える。
図1に示すように、作業機の油圧システムは、制動装置30、制動切換弁31、走行切換弁34及び作動弁69によって、作業機1を制動しながら暖機を行うことができるシステムである。
【0047】
制動装置30は、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)の制動を行う装置である。制動装置30は、第1油圧ポンプP1から吐出されたパイロット油(作動油)によって、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)を制動する制動状態と、制動を解除する解除状態とに変化する。
例えば、制動装置30は、左走行モータ36L、右走行モータ36Rの出力軸に設けられた第1ディスクと、移動可能な第2ディスクと、第2ディスクが第1ディスクに接触する側へ付勢するバネとを備えている。また、制動装置30は、第1ディスク、第2ディスク及びバネを収容する収容部(収容ケース)38を備えている。
【0048】
制動装置30と制動切換弁31とは、油路100を介して接続されている。制動切換弁31は、制動装置30における制動及び制動の解除(制動解除)を行う電磁弁であって、第1位置31aと第2位置31bとに切り換え可能な二位置切換弁である。制動切換弁31は、第1位置31aである場合、制動装置30に作用させるパイロット圧(収容部38に作用する圧力)を当該制動装置30が制動する圧力に設定することで、制動装置30を制動状態にする。また、制動切換弁31は、第2位置31bである場合、パイロット圧を制動解除する圧力に設定することで、制動装置30を解除状態にする。
【0049】
制動切換弁31の切換は、制御装置60の制御により行う。例えば、制御装置60には、制動切換弁31のソレノイドを消磁する制御信号を出力して当該制動切換弁31を第1位置31aにする。また、制御装置60は、制動切換弁31のソレノイドを励磁する制御
信号を出力して当該制動切換弁31を第2位置31bにする。また、制御装置60から制動切換弁31への制御信号の出力は、例えば、スイッチを設けておき、スイッチを手動で操作することにより行っても良いし、制御装置60が作業機の運転状況を判断して自動的に行ってもよい。
【0050】
したがって、制動切換弁31が第1位置31aである場合、収容部38の格納部のパイロット油が排出され、第2ディスクが制動の方向に動き、制動装置30における制動を行うことができる。また、制動切換弁31が第2位置31bである場合、収容部38の格納部にパイロット油が供給され、第2ディスクが制動とは反対側(バネの付勢方向とは反対側)に動き、制動装置30における制動解除を行うことができる。
【0051】
作動弁69は、走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)に作用する作動油(パイロット油)の圧力(パイロット圧)を変更可能な弁である。この実施形態では、作動弁69は、操作装置54の上流側で吐出油路40の油路40aを介して接続された弁である。
作動弁69は、開度を変更することによって、走行ポンプ(左走行ポンプ53L,右走行ポンプ53R)を作動させるパイロット油のパイロット圧(受圧部53a、53bに作用する作動パイロット圧)を変更する。例えば、作動弁69は、制御装置60の制御信号(例えば、電圧、電流)に基づいて開度が変更可能な電磁比例弁である。作動弁69は、制御信号の値(制御値)が大きくなるにしたがって開度が大きくなり、制御値が小さくなるにしたがって開度が小さくなる弁である。
【0052】
制御装置60は、制御信号を作動弁69に出力して、当該作動弁69のソレノイドを励磁することによって、作動弁69から操作装置54へ向かうパイロット圧(走行一次圧)を変更する。これにより、走行ポンプ(左走行ポンプ53L,右走行ポンプ53R)を作動させるパイロット圧は変更することになる。
図2は、アンチストールにおける走行一次圧と原動機の回転数との関係を示す制御マップの一例を示す図である。図2に示す制御マップにおいて、走行一次圧は、作動弁69の開度に対応して決まることから、走行一次圧と作動弁69に出力する制御信号の大きさとは相関性があり、走行一次圧を制御信号に置き換えることができる。即ち、制御マップの縦軸の走行一次圧は、制御信号と読み替えることができる。制御マップは、記憶部63に記憶されている。
【0053】
制御装置60は、アクセル65で設定された目標回転数と回転検出装置62で検出した実回転数との差であるドロップ量を演算する。制御装置60は、ドロップ量が閾値未満である場合には、制御マップのラインL1に一致するように、原動機の回転数(目標回転数又は実回転数)に応じて、制御信号で示す制御値を設定する。
一方で、制御装置60は、ドロップ量が閾値以上である場合には、制御マップのラインL2に一致するように、原動機の回転数(目標回転数又は実回転数)に応じて、制御信号の制御値を設定する。即ち、制御装置60は、制御マップに基づいて、電流値、電圧値等の制御値を設定する。
【0054】
したがって、アンチストール制御では、ラインL2に基づいて、制御値を設定して、当該制御値を示す制御信号を作動弁69に出力することにより、操作弁55に入るパイロット油のパイロット圧(走行一次圧)を低く抑えることができる。その結果、走行ポンプ(左走行ポンプ53L,右走行ポンプ53R)の斜板角が調整され、原動機32に作用する負荷が減少し、エンジンのストールを防止することができる。なお、図2では、1本のラインL2を示しているが、ラインL2は複数であってもよい。
【0055】
制御装置60は、第1モードである場合、制動装置30を制動状態にし、且つ、走行切換弁34を第2状態に切換えた状態で、作動弁69から出力するパイロット圧を所定圧に設定する。ここで、所定圧とは、作動弁69から出力したパイロット圧が、走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)の受圧部(受圧部53a、53b)に作用したときに、当該受圧部(受圧部53a、53b)に作用したパイロット圧(作用圧)が零よりも大きくなるような圧力である。言い換えれば、作用圧とは、走行油路45に作用するパイロット圧が零よりも大きくなるような圧力のことである。この実施形態では、例え
ば、制御装置60は、第1モードである場合、作動弁69に制御信号を出力して当該作動弁69の開度を所定の開度にすることによって、作動弁69から出力するパイロット圧(所定圧)を、走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)が作動する作動圧以上に設定する。より詳しくは、制御装置60は、第1モードである場合に走行操作部材59を操作したときに、受圧部(受圧部53a、53b)に作用する作用圧が作動圧以上となるように、作動弁69から出力するパイロット圧を設定する。
【0056】
制御装置60は、原動機32を始動する際に、制動装置30を制動状態に維持と、走行切換弁34を第2状態に切換える切換えとを行う。具体的には、原動機32の始動時(イグニッションスイッチをOFFからONに切り換えた時)は、制動装置30を制動状態に維持する(制動切換弁31を第1位置31aの位置に保持する)。また、制御装置60は、原動機32の始動時に当該原動機32の回転数が所定回転数以上になると、自動的に第1モードに入り、走行切換弁34を第2状態に切換える(第2速度切換弁72を第2位置72bに切り換える)。走行切換弁34を第2状態にした後は、作動弁69から出力するパイロット圧を所定圧に設定する。
【0057】
制御装置60は、第1モードが無効の状態(第2モード)において、制動装置30が解除状態且つ走行切換弁34が第1状態であるときに、第2モードから第1モードに切り換わった場合、制動切換弁31を第1位置31aに保持することで、制動装置30を解除状態から制動状態にし(制動切換弁31を第2位置31bから第1位置31aに切換え)、走行切換弁34を第1状態から第2状態に切り換えた後(第2速度切換弁72を第1位置72aから第2位置72bに切り換えた後)、作動弁69から出力するパイロット圧を所定圧に設定する。
【0058】
制御装置60は、第1モードを解除する場合、例えば、原動機32の始動後、第1モードにおいて、運転者(作業者)がモードスイッチ66を操作して、第1モードを無効(第2モード)にした場合は、作動弁69から出力するパイロット圧を所定圧未満にし、走行切換弁34を第2状態から第1状態に切り換えた後(第2速度切換弁72を第2位置72bから第1位置72aに切り換えた後)、制動装置30を制動状態から解除状態にする(制動切換弁31を第1位置31aから第2位置31bに切換える)。
【0059】
なお、制御装置60は、作動油の温度に基づいて、第1モードと第2モード(第1モードが無効)とに切り換えてもよい。例えば、制御装置60は、測定装置68で測定した作動油の温度が低く、作動油の粘性が高い温度領域のときは、切換温度であるとき、第1モードにして、作動油の温度が高く、作動油の粘性が低いときは、第2モードにする。制御装置60は、第1モードであるとき、作動油の温度が低くなるほど所定圧を大きく設定してもよい。言い換えれば、制御装置60は、作動油の温度が切換温度(第2モードから第1モードに切り換わる温度)であるときの作動弁69から出力するパイロット圧を零よりも大きい最低圧力に設定し、作動油の温度が切換温度よりも小さくなるにしたがって、作動弁69から出力するパイロット圧を最低圧力から徐々に大きくする。
【0060】
上述した実施形態では、左走行モータ36L及び右走行モータ36Rは、同時に第1速度、第2速度に切り換わり、第1モードも左走行モータ36L及び右走行モータ36Rに対して同時に行われる構成であったが、少なくとも左走行モータ36L及び右走行モータ36Rのいずれかが第1速度、第2速度に切り換わり、少なくとも左走行モータ36L及び右走行モータ36Rのいずれかが第2速度になっている状態で第1モードを行ってもよい。
【0061】
なお、上述した実施形態において、第2速度切換弁72は切換弁であったが、比例弁であってもよいし、その他の弁であってもよく限定されない。
上述した実施形態では、走行操作装置54は、操作弁55によって走行ポンプ(左走行ポンプ53L,右走行ポンプ53R)に作用するパイロット圧を変更する油圧式であったが、図3に示すように、走行操作装置54は、電気的に作動する装置であってもよい。
【0062】
図3に示すように、走行操作装置54は、左右方向(機体幅方向)又は前後方向に揺動する操作部材59と、電磁比例弁から構成された操作弁55(操作弁55A、55B、55C、55D)とを備えている。制御装置60は、操作部材59の操作量及び操作方向を
検出する操作検出センサが接続されている。制御装置60は、操作検出センサが検出した操作量及び操作方向に基づいて、操作弁55(操作弁55A、55B、55C、55D)を制御する。
【0063】
制御装置60は、第2モードにおいて、操作部材59が前方(A1方向、図1参照)に操作されると、操作弁55A及び操作弁55Cに制御信号を出力し、左走行ポンプ53L及び右走行ポンプ53Rの斜板を正転(前進)の方向に揺動させる。
制御装置60は、第2モードにおいて、操作部材59が後方(A2方向、図1参照)に操作されると、操作弁55B及び操作弁55Dに制御信号を出力し、左走行ポンプ53L及び右走行ポンプ53Rの斜板を逆転(後進)の方向に揺動させる。
【0064】
制御装置60は、第2モードにおいて、操作部材59が右方(A3方向、図1参照)に操作されると、操作弁55A及び操作弁55Dに制御信号を出力し、左走行ポンプ53Lの斜板を正転の方向に揺動させ、右走行ポンプ53Rの斜板を逆転の方向に揺動させる。
制御装置60は、第2モードにおいて、操作部材59が左方(A4方向、図1参照)に操作されると、操作弁55B及び操作弁55Cに制御信号を出力し、左走行ポンプ53Lの斜板を逆転の方向に揺動させ、右走行ポンプ53Rの斜板を正転の方向に揺動させる。
【0065】
制御装置60は、第1モードにおいて、操作弁55(操作弁55A、55B、55C、55D)から出力するパイロット圧を所定圧に設定する。つまり、図3では、第1モードでは、操作弁55(操作弁55A、55B、55C、55D)は、作動弁69として作動し、第2モードでは、操作部材59の操作に応じて作動する。即ち、図3では、操作弁55と作動弁69とが兼用化されている。図3において、制動切換弁31及び第2速度切換弁72の動作は上述した実施形態と同様である。また、操作弁55(操作弁55A、55B、55C、55D)が作動弁69として作動する場合も、操作弁55(操作弁55A、55B、55C、55D)の動作は、上述した作動弁69と同じである。なお、操作弁55(操作弁55A、55B、55C、55D)が作動弁69として作動する場合は、少なくとも操作弁55A、55B、55C、55Dのうち、1つの操作弁が作動弁69として作動すればよく、操作弁55A、55B、55C、55Dの全てが作動弁69として作動する必要はない。例えば、第1モードにおいて、操作弁55Aと操作弁55Cとが作動弁69として作動し、他の操作弁55Bと操作弁55Dは作動しない(全閉状態に保持する)。
【0066】
図4は、作業機の油圧システムの変形例を示している。図4に示すように、作業機の油圧システムは、操作弁155L、155Rを備えている。
走行ポンプ(左走行ポンプ53L,右走行ポンプ53R)は、レギュレータ156L、156Rを含んでいる。レギュレータ156L、156Rは、左走行ポンプ52L、右走行ポンプ52Rの斜板の角度(斜板角度)を変更可能であって、作動油が供給可能な供給室157と、供給室157に設けられたピストンロッド158とを含んでいる。ピストンロッド158は、斜板に連結されていて、ピストンロッド158の作動によって斜板角度を変更することができる。
【0067】
操作弁155Lは、レギュレータ156Lを操作する弁、即ち、左走行ポンプ52Lに供給する作動油を制御する弁である。操作弁155Lは、電磁弁であって、制御装置60からソレノイドに付与された制御信号に基づいてスプールが移動し且つ、スプールの移動による開度が変更する。また、操作弁155Lは、第1位置159aと第2位置159bと中立位置159cとに切り換え可能である。
【0068】
操作弁155Lの第1ポートとレギュレータ156Lの供給室157とは、第1走行油路145aにより接続されている。操作弁155Lの第2ポートとレギュレータ156Lの供給室157とは、第2走行油路145bにより接続されている。
操作弁155Rは、レギュレータ156Rを操作する弁、即ち、右走行ポンプ52Rに供給する作動油を制御する弁である。操作弁155Rは、電磁弁であって、制御装置60からソレノイドに付与された制御信号に基づいてスプールが移動し且つ、スプールの移動による開度が変更する。また、操作弁155Rは、第1位置159aと第2位置159bと中立位置159cとに切り換え可能である。
【0069】
操作弁155Rの第1ポートとレギュレータ156Lの供給室157とは、第3走行油路145cにより接続されている。操作弁155Lの第2ポートとレギュレータ156Lの供給室157とは、第4走行油路145dにより接続されている。
操作弁155L及び操作弁155Rを第1位置159aに切り換えれば、左走行ポンプ52L、右走行ポンプ52Rは正転し、操作弁155L及び操作弁155Rを第2位置159bに切り換えれば、左走行ポンプ52L、右走行ポンプ52Rは逆転する。操作弁155Lを第1位置159aに切り換え且つ操作弁155Rを第2位置159bに切り換えれば、左走行ポンプ52Lは正転、右走行ポンプ52Rは逆転する。操作弁155Lを第2位置159bに切り換え且つ操作弁155Rを第1位置159aに切り換えれば、左走行ポンプ52Lは逆転、右走行ポンプ52Rは正転する。したがって、操作弁155L及び操作弁155Rは、左走行ポンプ52L、右走行ポンプ52Rを正転及び逆転のいずれかに切り換えることができる。操作弁155L及び操作弁155Rは、第1モードである場合に、作動弁69として作動する。制御装置60は、上述した実施形態と同様に、第1モードである場合、操作弁155L及び操作弁155Rに制御信号を出力することで、操作弁155L及び操作弁155Rから出力されるパイロット圧を所定圧に設定する。操作弁155L及び操作弁155Rが作動弁69として作動する場合は、上述した実施形態と同様な動作を行う。なお、操作弁155L及び操作弁155Rは、第2モードである場合は、操作部材59の操作に応じて作動する。
【0070】
作業機1は、原動機32と、走行装置(走行装置5L,5R)と、走行装置(走行装置5L,5R)に動力を伝達可能な走行モータ(左走行モータ36L,右走行モータ36R)と、作動油が作用したときに走行モータ(左走行モータ36L,右走行モータ36R)に作動油を供給する走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)と、走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)と走行モータ(左走行モータ36L,右走行モータ36R)とを接続する循環油路(第1循環油路57h、第2循環油路57i)と、走行モータ(左走行モータ36L,右走行モータ36R)を第1速度に対応する第1状態と、第1速度よりも速い第2速度に対応する第2状態とに切り換え可能な走行切換弁34と、走行モータ(左走行モータ36L,右走行モータ36R)を制動する制動状態と、制動状態を解除する解除状態とに変化可能な制動装置30と、走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)に作用する作動油の圧力を変更可能な作動弁69と、走行切換弁34、制動装置30及び作動弁69を制御可能で第1モードを有する制御装置60と、を備え、制御装置60は、第1モードである場合、制動装置30を制動状態にし、且つ、走行切換弁34を第2状態に切換えた状態で、作動弁69から出力する作動油の圧力を所定圧に設定する。これによれば、制動装置30を制動状態及び走行切換弁32を第2状態にすることにより、作業機1(機体2)を動かない状態にしてから、作動弁69から出力する作動油を所定圧にすることによって、より多くの作動油を循環させることができ、暖機を素早く行うことができる。
【0071】
制御装置60は、原動機32を始動する際に、制動装置30を制動状態に維持と、走行切換弁34を第2状態に切換える切換えとを行う。これによれば、原動機32を始動して作業を始める際に効率的に暖機を行うことができる。
制御装置60は、制動装置30が解除状態且つ走行切換弁34が第1状態で第1モードになった場合には、制動装置30を解除状態から制動状態にし、走行切換弁34を第1状態から第2状態に切り換えた後、作動弁69から出力する作動油の圧力を所定圧に設定する。これによれば、作業機1が走行可能な状態から当該作業機1を停止させて動かないような状態にしてから、暖機を行うことができる。即ち、作業(走行)を行っている途中で作業機1を停止させて素早く暖機を行うことができる。
【0072】
制御装置60は、第1モードを解除する場合には、作動弁69から出力する作動油の圧力を所定圧未満にし、走行切換弁34を第2状態から第1状態に切り換えた後、制動装置30を制動状態から解除状態にする。これによれば、走行ポンプが作動しないような圧力にした後に、走行切換弁34を第1状態に切り換え、制動装置30を制動状態から解除状態にしているため、暖機の解除時に走行系に負担をかけることなく素早く走行が可能な状
態に移行することができる。
【0073】
制御装置60は、第1モードである場合、所定圧を走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)が作動する作動圧以上に設定する。これによれば、作業機1(機体2)を動かない状態にしてから、作動弁69によって走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)を作動させる、即ち、走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)の斜板を中立位置から動かすことにより、暖機を行うことができる。
【0074】
作業機1は、作動油の温度を検出可能な測定装置68を備え、制御装置60は、測定装置68で測定した作動油の温度が所定以下になった場合に、第1モードになる。これによれば、作動油の温度が低く、作動油の粘性が高いときに、素早く暖機を行うことができる。
制御装置60は、作動油の温度が低くなるほど、所定圧を大きく設定する。これによれば、作動油の粘性が高くなるにつれて、暖機時の作動油の循環量を増加させることができ、暖機の時間を短くすることができる。
【0075】
なお、走行ポンプは、アキシャルピストンポンプであっても、ラジアルピストンポンプであってもよく、作動油で駆動するポンプであれば何でもよい。また。走行切換弁も、走行ポンプを作動させるであってもよく限定されない。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0076】
1 :作業機
5L :左走行装置
5R :走行装置
30 :制動装置
32 :走行切換弁
32 :原動機
34 :走行切換弁
36L :左走行モータ
36R :右走行モータ
53L :左走行ポンプ
53R :右走行ポンプ
60 :制御装置
68 :測定装置
69 :作動弁
100 :油路
図1
図2
図3
図4
図5