(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】クレーン、及びクレーンの制御方法
(51)【国際特許分類】
B66C 13/22 20060101AFI20240219BHJP
【FI】
B66C13/22 M
(21)【出願番号】P 2020209997
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】桃井 康行
(72)【発明者】
【氏名】小田井 正樹
(72)【発明者】
【氏名】家重 孝二
(72)【発明者】
【氏名】及川 裕吾
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-90332(JP,A)
【文献】特開2018-2391(JP,A)
【文献】米国特許第5219420(US,A)
【文献】特開昭55-80681(JP,A)
【文献】特開平9-40362(JP,A)
【文献】国際公開第2005/012155(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00-15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロープの巻上巻下げにより吊荷を上下方向に移動させる巻上装置と、
前記巻上装置を取り付け、前記吊荷を水平方向に移動させる水平移動装置と、
前記吊荷の目標速度を入力する操作入力装置と、
前記水平移動装置の速度指令値を生成する速度指令値演算装置と、
前記水平移動装置の速度指令値にしたがい前記水平移動装置の速度を制御する制御装置とを有するクレーンであって、
前記速度指令値演算装置は、
前記吊荷の目標速度とロープ回転中心から吊荷重心までのロープ長とから前記吊荷の振れを抑制するための前記水平移動装置の速度指令値を出力する荷振れ抑制制御装置を有し、
前記荷振れ抑制制御装置における前記吊荷の目標速度から前記水平移動装置の速度指令値までの伝達関数G(s)は、
G(s)=ωc^2/ωr^2・(s^2+2ζr・ωr・s+ωr^2)/
(s^2+2ζc・ωc・s+ωc^2)の関係式で与えられ、
ここで、「ωc」、「ζc」は制御パラメータ、「ωr=sqrt(g/L)」、「ζr=vl/(g/L)」、「g」は重力加速度、「L」はロープ回転中心から吊荷重心までの距離、「vl」は巻上速度であり、「^」はべき乗、「sqrt」は平方根を表している、
更に、前記関係式のωr、ζr、ωc、ζcが、δ=ωc/ωr、ζc=δ・ζr/2+sqrt((δ・ζr/2)^2+1/2)の関係を満たしている
ことを特徴とするクレーン。
【請求項2】
請求項1記載のクレーンにおいて、
ζrは0と見なし、ζcをsqrt(1/2)とする
ことを特徴とするクレーン。
【請求項3】
ロープの巻上巻下げにより吊荷を上下方向に移動させる巻上装置と、
前記巻上装置を取り付け、前記吊荷を水平方向に移動させる水平移動装置と、
前記吊荷の目標速度を入力する操作入力装置と、
前記水平移動装置の速度指令値を生成する速度指令値演算装置と、
前記水平移動装置の速度指令値にしたがい前記水平移動装置の速度を制御する制御装置とを有するクレーンであって、
前記速度指令値演算装置は、
前記吊荷の目標速度とロープ回転中心から吊荷重心までのロープ長とから前記吊荷の振れを抑制するための前記水平移動装置の速度指令値を出力する荷振れ抑制制御装置を有し、
前記荷振れ抑制制御装置における前記吊荷の目標速度から前記水平移動装置の速度指令値までの伝達関数G(s)は、
G(s)=ωc^2/ωr^2・(s^2+2ζr・ωr・s+ωr^2)/
(s^2+2ζc・ωc・s+ωc^2)/DM(s)の関係式で与えられ、
ここで、「ωc」、「ζc」は制御パラメータ、「ωr=sqrt(g/L)」、「ζr=vl/(g/L)」、「g」は重力加速度、「L」はロープ回転中心から吊荷重心までの距離、「vl」は巻上速度、DM(s)は前記水平移動装置の速度指令値から速度までの伝達関数であり、「^」はべき乗、「sqrt」は平方根を表している、
更に、前記関係式のωr、ζr、ωc、ζcが、δ=ωc/ωr、ζc=δ・ζr/2+sqrt((δ・ζr/2)^2+1/2)の関係を満たしている
ことを特徴とするクレーン。
【請求項4】
ロープの巻上巻下げにより吊荷を上下方向に移動させる巻上装置と、
前記巻上装置を取り付け、前記吊荷を水平方向に移動させる水平移動装置と、
前記吊荷の目標速度を入力する操作入力装置と、
前記水平移動装置の速度指令値を生成する速度指令値演算装置と、
前記水平移動装置の速度指令値に従い前記水平移動装置の速度を制御する制御装置とを有するクレーンの制御方法であって、
前記速度指令値演算装置は、
前記吊荷の目標速度とロープ回転中心から吊荷重心までのロープ長とから前記吊荷の振れを抑制するための前記水平移動装置の速度指令値を演算し、
前記吊荷の目標速度から前記水平移動装置の速度指令値までの伝達関数G(s)は、
G(s)=ωc^2/ωr^2・(s^2+2ζr・ωr・s+ωr^2)/
(s^2+2ζc・ωc・s+ωc^2)の関係式で与えられ、
ここで、「ωc」、「ζc」は制御パラメータ、「ωr=sqrt(g/L)」、「ζr=vl/(g/L)」、「g」は重力加速度、「L」はロープ回転中心から吊荷重心までの距離、「vl」は巻上速度であり、「^」はべき乗、「sqrt」は平方根を表している、
更に、前記関係式のωr、ζr、ωc、ζcが、δ=ωc/ωr、ζc=δ・ζr/2+sqrt((δ・ζr/2)^2+1/2)の関係を満たしていることを特徴とするクレーンの制御方法。
【請求項5】
ロープの巻上巻下げにより吊荷を上下方向に移動させる巻上装置と、
前記巻上装置を取り付け、前記吊荷を水平方向に移動させる水平移動装置と、
前記吊荷の目標速度を入力する操作入力装置と、
前記水平移動装置の速度指令値を生成する速度指令値演算装置と、
前記水平移動装置の速度指令値に従い前記水平移動装置の速度を制御する制御装置とを有するクレーンの制御方法であって、
前記速度指令値演算装置は、
前記吊荷の目標速度とロープ回転中心から吊荷重心までのロープ長とから前記吊荷の振れを抑制するための前記水平移動装置の速度指令値を演算し、
前記吊荷の目標速度から前記水平移動装置の速度指令値までの伝達関数G(s)は、
G(s)=ωc^2/ωr^2・(s^2+2ζr・ωr・s+ωr^2)/
(s^2+2ζc・ωc・s+ωc^2)/DM(s)の関係式で与えられ、
ここで、「ωc」、「ζc」は制御パラメータ、「ωr=sqrt(g/L)」、「ζr=vl/(g/L)」、「g」は重力加速度、「L」はロープ回転中心から吊荷重心までの距離、「vl」は巻上速度、DM(s)は前記水平移動装置の速度指令値から速度までの伝達関数であり、「^」はべき乗、「sqrt」は平方根を表している、
更に、前記関係式のωr、ζr、ωc、ζcが、δ=ωc/ωr、ζc=δ・ζr/2+sqrt((δ・ζr/2)^2+1/2)の関係を満たしている
ことを特徴とするクレーンの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊荷を吊下げて搬送するクレーン、及びクレーンの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、クレーンの熟練作業者の高齢化や、クレーン設置台数の増加による人手不足に伴い、経験の浅い未習熟作業者がクレーンを運転(操作)する場合が増加している。未習熟作業者は、特に吊荷の振れを抑制する振れ止め操作が不得手であり、吊荷の振れによる衝突や挟まれなどの事故のリスクが高く、また、吊荷の振れが収まるまでに時間を要し作業時間が長くなる。
【0003】
そこで、より安全で、かつ、作業効率を向上させるために、自動で吊荷の振れを抑制する技術として、例えば以下に示す、「特許文献1」、及び「非特許文献1」、「非特許文献2」に示された技術が知られている。
【0004】
「特許文献1」には、ロープの巻上巻下げにより吊荷を上下方向に移動させる巻上装置と、巻上装置を取り付けた吊荷を水平方向に移動させる水平移動装置と、水平移動装置に取り付けロープを介して吊り下げられる巻上装置と、吊荷の目標速度を入力する操作入力装置を有するクレーンにおいて、吊荷の水平方向の目標速度とクレーンのモデルに基づき吊荷のモデル速度を演算し、吊荷の目標速度とモデル速度とが一致、又は近づくように、水平移動装置の速度指令値を演算して制御する荷振れ抑制制御が開示されている。
【0005】
また、「非特許文献1」、及び「非特許文献2」には、DMM法(Dual Model Matching法)により設計された制御器により、吊荷の目標速度とモデル速度とが一致、又は近づくように、水平移動装置の速度指令値を演算して制御する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】張・他2名、IDCSによる長さの変化するクレーンシステムの運動と振動の制御、第54回自動制御連合講演会論文集(2011)
【文献】森・他4名、フィードバック制御シミュレーションに基づく水平2軸実機天井クレーンのセンサレス振れ止め制御、日本機械学会Dynamics and Design Conference2016USB論文集(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した先行技術文献によれば、荷振れ検出センサを用いることなく、巻上げ操作によりロープ長が変化しても、トロリが停止した後の荷振れ(残留荷振れ)を抑制できる。
【0009】
しかしながら、上述した制御を行うと、残留荷振れを抑制するための制御により、トロリが停止するまでの距離(制動距離)が増加し、操作性が低下するという新たな課題が発生する。
【0010】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、荷振れ抑制制御による制動距離の増加を低減し、操作性を向上させることが可能なクレーン及びクレーンの制御方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、その一例を挙げると、
ロープの巻上巻下げにより吊荷を上下方向に移動させる巻上装置と、
巻上装置が取り付けられ、吊荷を水平方向に移動させる水平移動装置と、
吊荷の目標速度を入力する操作入力装置と、
水平移動装置の速度指令値を生成する速度指令値演算装置と、
速度指令値に従い水平移動装置の速度を制御する制御装置を有するクレーンであって、
速度指令値演算装置は、吊荷の目標速度とロープ長とから吊荷の振れを抑制するための水平移動装置の速度指令値を出力する荷振れ抑制制御装置を有し、荷振れ抑制制御装置における吊荷の目標速度から水平移動装置の速度指令値までの伝達関数G(s)が、
G(s)=ωc^2/ωr^2・(s^2+2ζr・ωr・s+ωr^2)/
(s^2+2ζc・ωc・s+ωc^2)の関係式で与えられ、
ここで、「ωc」、「ζc」は制御パラメータ、「ωr=sqrt(g/L)」、「ζr=vl/(g/L)」、「g」は重力加速度、「L」はロープ回転中心から吊荷重心までの距離、「vl」は巻上速度であり、「^」はべき乗、「sqrt」は平方根を表している、
また、上述の関係式のωr、ζr、ωc、ζcが、δ=ωc/ωr、ζc=δ・ζr/2+sqrt((δ・ζr/2)^2+1/2)の関係を有している
ことを特徴とするクレーンである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、荷振れ抑制制御による制動距離の増加を低減し、操作性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の対象となるクレーンの構成を示す構成図である。
【
図2】本発明が適用されるクレーンの制御ブロックの構成を示すブロック図である。
【
図3】操作入力装置により生成される吊荷目標速度指令値を説明する説明図である。
【
図5】荷振れ抑制制御を行わない場合のクレーンの時間応答の例を示す説明図である。
【
図6】先行技術の制御ブロックの構成を示すブロック図である。
【
図8】本発明の制御ブロックの構成を示すブロック図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態における制御ブロックの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【0015】
ここで、本発明は、吊荷を水平方向に移動可能なクレーン全般に有効であり、トロリ、及びガーダにより吊荷を横行、及び走行させるクレーン(例えば、天井クレーン)はもちろん、横行、又は走行のみを行うクレーン(例えば、アンローダ)においても適用できるものである。つまり、以下で述べる「クレーン」という用語は、吊荷を水平方向に移動可能な全ての種類のクレーンを含むものである。
【0016】
また、クレーンで搬送する荷物(吊荷)は、ロープやチェーン等により吊り下げられて搬送されるが、本発明においては荷物の吊り下げに用いることができる吊り具であれば限定されるものではなく、材質や形状等もその種類を問わないものである。そのため、上述したように、「ロープ」という用語は、荷物の吊り下げに用いる吊り具を総称する用語として用いている。すなわち、「ロープ」には、いわゆるロープだけでなく、チェーン、ベルト、ワイヤー、ケーブル、紐、縄等が含まれる。
【実施例1】
【0017】
次に、本発明の第1の実施形態になるクレーンの構成と、その動作について説明する。尚、各図面において、同一機器(装置、部品)には同一の参照符号を付し、以下の説明では既出の機器の説明は省略する場合がある。
【0018】
図1は、天井クレーンの概略の構成を示している。尚、本発明が天井クレーンに限定されないことは上述したとおりである。
【0019】
図1において、クレーン1は、工場等の建屋(図示せず)の両側の壁に沿って設けられたランウェイ2と、このランウェイ2の上面を移動するガーダ3と、ガーダ3の下面に沿って移動するトロリ4から構成される。ガーダ3とトロリ4には電動モータで駆動される車輪が設けられており、この車輪によってガーダ3とトロリ4は移動可能である。
【0020】
また、トロリ4の下部には図示しない巻上装置(ホイスト)が設けられており、これを用いてロープ5を巻き上げ、または、巻き下げることにより、ロープ5の先端のフック6を昇降させる。このフック6に直接、或いはワイヤー7を介して吊荷8を吊り下げており、フック6の昇降に伴い、吊荷8が昇降する。
【0021】
すなわち、クレーン1は、ガーダ3の水平方向の移動(以下、単に「走行」と称する)と、トロリ4の水平方向の移動(以下、単に「横行」と称する)により吊荷8を水平方向に移動させ、巻上装置により吊荷8を垂直方向(上下方向)に昇降させることができる。本実施形態では、このトロリ4による横行、ガーダ3による走行により水平方向移動が行われる。
【0022】
図1では、トロリ4とガーダ3が「水平移動装置」に該当するが、トロリ4、或いはガーダ3の一方でも「水平移動装置」とすることもできる。本実施形態は吊荷を水平方向に移動させる動作に関係するので、本実施形態に関する以下の説明は「横行」と「走行」による水平方向移動の動作を中心に説明する。尚、以下の説明において、吊荷の移動とは、トロリ4を駆動した移動(横行)、ガーダ3を駆動した移動(走行)のいずれか、あるいは両方を示すものである。
【0023】
図2は、本実施形態になるクレーンの制御ブロックを示している。尚、
図2では説明を簡単にするために、トロリ4により横行するクレーン1を示しており、ガーダ3による走行は
図2では省略している。また、トロリ4とガーダ3を移動するための電動モータ等の駆動部は省略している。
【0024】
図2はクレーンの制御ブロックを示しており、水平移動装置(ガーダ3とトロリ4)の速度指令値を演算する速度指令値演算装置100と、電動モータ制御装置300から構成されている。速度指令値演算装置100からの速度指令値401は、電動モータ制御装置300に与えられ、電動モータ制御装置300によって速度指令値401に対応した電力が、ガーダ3とトロリ4の電動モータに与えられる。
【0025】
速度指令値演算装置100は汎用の計算機を使用したものが主流であり、内蔵しているプログラムやデータ等を用いて、速度指令値401を生成するなどの演算処理を実行するマイクロプロセッシングユニット(MPU)101、先のプログラムやデータ等を記憶するメモリ102、外部からのデータ、信号の入力や、MPU101が演算処理した信号等を外部に出力するための入出力制御部103から構成されている。MPU101、メモリ102、入出力制御部103は、信号やデータの授受を行うためのバスライン104で接続されている。これらの構成は、コンピュータシステムとして良く知られている。
【0026】
入出力制御部103には、吊荷目標速度指令値400を生成する操作入力装置200が接続されている。操作入力装置200には、操作者が操作する操作端末装置201が備えられており、操作端末装置201には、吊荷の移動方向である「前方」、「後方」、「右方」、「左方」、「上方」、及び「下方」の各方向に対応した操作ボタン202が設けられ、押された操作ボタンに対応して吊荷目標速度指令値400が生成され、速度指令値演算装置100へ出力される。
【0027】
図3は、操作入力装置200による吊荷目標速度指令値400の生成の例を示している。時刻(t1)で操作ボタン202が押される(ONになる)と、押された操作ボタンの方向に対応する吊荷目標速度指令値は増加していき、操作ボタン202が継続して押されている間は定速移動速度値を維持し、その後の時刻(t2)で操作ボタン202が離される(OFFになる)と、吊荷目標速度指令値は減少していき、最終的に「0」となる。
【0028】
速度指令値演算装置100には、操作入力装置200による吊荷目標速度指令値以外にも、生産管理システムなどの上位制御系から、吊荷の移動計画に基づき生成された吊荷目標速度指令値が入力されるようにしても良い。
【0029】
電動モータ制御装置300は、速度指令値演算装置100から出力される速度指令値401を入力して、トロリ4の水平方向移動(横行)速度を制御する。電動モータ制御装置300の具体的な構成は図示していないが、速度指令値演算装置100と同様に汎用の計算機、及びインバータ回路等により構成できる。また、電動モータ制御装置300は、速度指令値演算装置100と同一の筐体に搭載しても良い。
【0030】
尚、
図2では省略しているが、速度指令値演算装置100は、トロリ4だけでなく、走行制御する場合にはガーダ3の水平方向移動(走行)速度を制御する速度指令値も出力する。ガーダ3側では、この速度指令値により吊荷の水平方向移動(走行)速度が制御される。また、速度指令値演算装置100には、図示しないロープ長検出器の出力であるロープ長が入力される。
【0031】
次に、吊荷の振れ(荷振れ)を抑制する荷振れ抑制制御を説明する。
図4にクレーンの模式図を示している。ここでは、トロリ4が移動する横行を例にする。ガーダが移動する走行も同様であり、横行方向と走行方向の荷振れはそれぞれ独立した振れと考えればよい。
【0032】
図4からクレーン(トロリ4に吊り下げられたロープ5及び吊荷8)の運動方程式は次式のようになる。
L・x1’’(t)+2vl・x1’(t)+g・x1(t)
+L・x0’’(t)=0…(1)
ここで、「x0(t)」はトロリの位置の時間関数、「x1(t)」は吊荷の振れ(荷振れ)の時間関数、「L」はロープの回転中心から吊荷重心までの距離(振子長)、「vl」は巻上速度、「g」は重力加速度である。また、「’」は時間微分を表しており、以下の式でも同様である。
【0033】
そして、この関係式をラプラス変換すると、次式を得る。
(s^2+2ζr・ωr・s+ωr^2)・X1(s)=s^2・X0(s)…(2)
ここで、ωr=sqrt(g/L)、ζr=vl/sqrt(g・L)であり、「s」はラプラス演算子、「X0(s)」はトロリ位置のラプラス変換、「X1(s)」は荷振れのラプラス変換である。また、「^」はべき乗、「sqrt」は平方根(ルート)を表しており、以下の式においても同様である。
【0034】
この関係式からトロリ速度V0(s)(=s・X0(s))に対する荷振れX1(s)の伝達関数P(s)は次式になる。
P(s)=X1(s)/V0(s)=X1(s)/(s・X0(s))
=-s/(s^2+2ζr・ωr・s+ωr^2)…(3)
関係式(3)に対して、
図3に示した吊荷目標速度指令値である台形速度波形を与えた時の荷振れの時間応答を求める。ここでは、加速時の荷振れを求めるが、減速・停止時も同様に求めることができる。加速時の吊荷目標速度指令値vpref(t)は次式で与えられる。
vpref(t)=V・(u1(0)-u1(Ta))…(4)
ここで、「V」はトロリの定速移動速度、「Ta」は加速時間、「u1」は単位ランプ関数である。
【0035】
これをラプラス変換すると、次式を得る。
Vpref(s)=V/Ta・(1-exp(-s・Ta))/s^2…(5)
ここで、「Vpref(s)」は吊荷目標速度指令値vpref(t)のラプラス変換である。吊荷目標速度指令値Vpref(s)がトロリ4の電動モータ制御装置300に入力され、トロリ4はその速度指令値に追従する。
【0036】
すなわち、V0(s)=Vpref(s)とすれば、荷振れX1(s)は次式のようになる。
X1(s)=P(s)・V0(s)
=-V・(1-exp(-s・Ta))/
(s・Ta・(s^2+2ζr・ωr・s+ωr^2))…(6)
これを逆ラプラス変換すると、加速時の荷振れの時間応答が得られる。
【0037】
図5は、得られたトロリ速度と荷振れの時間応答の例を示している。このように、トロリ4に台形波速度指令を与えると、伝達関数P(s)の分母が零となる極である角周波数ωr(周波数ωr/2π)の荷振れが発生する。
【0038】
次に、この荷振れを抑制するための荷振れ抑制制御装置について説明する。
図6に荷振れ抑制制御装置を付加した構成を示している。荷振れ抑制制御装置110は、速度指令値演算装置100に搭載され、操作入力装置200から入力された吊荷目標速度指令値400から、トロリ4の電動モータ制御装置300へ出力するトロリ4の速度指令値401を生成する。トロリ4は入力された速度指令値401に追従する、すなわち、トロリ4の速度指令値401と、トロリ4の速度402が一致するとすれば、吊荷目標速度指令値400に対するトロリ速度指令値401の伝達関数G(s)は次のようにすれば良い。
【0039】
荷振れを抑制するには、伝達関数P(s)の分母が零となる極を相殺する項として、1/ωr^2・(s^2+2ζr・ωr・s+ωr^2)を伝達関数G(s)の分子に持てば良い。更に、吊荷速度指令値vpref(s)へのトロリ4の追従性、安定性を確保するために、伝達関数G(s)の分母には分子と同じ次数となるように、1/ωc^2・(s^2+2ζc・ωc・s+ωc^2)を持てば良い。ここで、「ωc」、「ζc」は制御パラメータである。尚、制御パラメータ「ωc」は、水平移動装置の速度指令値が速度・加速度の制限値を超えない値とする。
【0040】
よって、吊荷の目標速度から水平移動装置の速度指令値までの伝達関数G(s)は次式のように表される。
G(s)=ωc^2/ωr^2・(s^2+2ζr・ωr・s+ωr^2)/
(s^2+2ζc・ωc・s+ωc^2)…(7)
上述した先行技術(非特許文献1、非特許文献2)によれば、制御パラメータωc、ζcはトロリ4の運動する周波数帯域でゲインを0dB、位相遅れを0degになるように設定するとしている。
【0041】
そして、上記の伝達関数G(s)を用いて、荷振れ抑制制御を行う場合のトロリ速度、荷振れは次式になる。
V0(s)=G(s)・Vpref(s)…(8)
X1(s)=P(s)・V0(s)
=-V・(1-exp(-s・Ta))/(s・Ta)・ωc^2/
ωr^2/(s^2+2ζc・ωc・s+ωc^2)…(9)
この式を逆ラプラス変換すると、トロリ速度と荷振れの時間応答が得られる。
図7は、得られたトロリ速度と荷振れ、減速開始時の位置を基準としたトロリ位置の時間応答の例を示している。
【0042】
この
図7に示されるように、荷振れ抑制制御により加速後及び減速・停止後の荷振れは抑制される。しかしながら、トロリ位置を見ると、減速開始時からトロリ4が停止するまでの移動距離(制動距離)は制御無に比べ増加している。このため、操作者が想定している制動距離(従来の制御無での制動距離)以上にトロリ4が移動するため、操作性が低下してしまうという課題を生じる。
【0043】
本実施形態では、制動距離の増加を低減し、操作性を向上するために、制御パラメータωc、ζcを次のように設定する。ここでは、次式で求められる吊荷の速度v01(t)に着目している。
v01(t)=v0(t)+x1’(t)…(10)
この式をラブラス変換、逆ラプラス変換すると、次式を得る。
V01(s)=V0(s)+s・X1(s)
=(1+s・P(s))・V0(s)
=V・(1-exp(-s・Ta))・ωc^2/
(s^2・Ta・ωr^2)・(2ζr・ωr・s+ωr^2)/
(s^2+2ζc・ωc・s+ωc^2)…(11)
v01(t)=α1(t)+α2(t)+α3(t)+α4(t)…(12)
ここで、
α1(t)=V/Ta・(u1(0)-u1(Ta))
α2(t)=2V/Ta・(ζr/ωr-ζc/ωc)・(u0(0)-u0(Ta))
α3(t)=-2V/Ta・(ζr/ωr-ζc/ωc)・(u0(0)・
exp(-ζc・ωc・t)・cos(sqrt(1-ζc^2)ωc・
t)-u0(Ta)・exp(-ζc・ωc(t-Ta))・
cos(sqrt(1-ζc^2)ωc(t-Ta)))
α4(t)=V/Ta(2ζc^2・ωr-2ζr・ζc・ωc-ωr)/
(sqrt(1-ζc^2)ωr・ωc)・(u0(0)・
exp(-ζc・ωc・t)・sin(sqrt(1-ζc^2)ωc・
t)-u0(Ta)・exp(-ζc・ωc(t-Ta))・
sin(sqrt(1-ζc^2)ωc(t-Ta)))
であり、u0は単位ステップ関数である。
そして、v01(t)の項を見ると、α1(t)はトロリ速度指令値そのもの、α2(t)、α3(t)は荷振れ速度であり、α4(t)が制動距離増加の原因となる余剰速度となっている。
【0044】
そこで、本実施形態においては、常にα4(t)を零とすればよく、次式を満たすようにωc、ζcを決定すればよい。つまり、次式の関係を満たすようにすればよいことを特徴としている。
V/Ta(2ζc^2・ωr-2ζr・ζc・ωc-ωr)/
(sqrt(1-ζc^2)ωr・ωc)=0…(13)
そして、この式をζcについて解くと、次式にようになる。
ζc=δ・ζr/2+sqrt((δ・ζr/2)^2+1/2)…(14)
ここで、δ=ωc/ωrである。また、ωcは水平移動装置の速度指令値が速度・加速度の制限値を超えない値とし、これはトロリ4の性能から決定する。
【0045】
図8に本発明により決定された制御パラメータωc、ζcを用いる場合の構成を示している。また、
図9に本発明の荷振れ抑制制御を行った場合のトロリ速度、荷振れ、減速開始時の位置を基準としたトロリ位置の時間応答の例を示している。本発明の荷振れ抑制制御によっても、加速後、及び減速・停止後の荷振れは抑制されている。また、トロリ位置を見ると、本発明により制動距離は先行技術より短縮しており、より従来に近い操作性にすることができている。
【0046】
以上のように、荷振れ抑制制御の制御パラメータωc、ζcを決定することにより、荷振れを抑制しながらも制動距離を短縮し、操作性を改善することができる。尚、巻上げ、巻下げ操作の時間が短く、巻上速度による荷振れの影響が小さいと想定する場合には、ζc=sqrt(1/2)≒0.71としてもよい。
【0047】
また、横行方向の吊荷目標速度指令値と走行方向の吊荷目標速度指令値を合成した合成吊荷目標速度指令値、あるいは、任意の方向の吊荷目標速度指令値に対して本発明の荷振れ抑制制御を適用し、その結果得られた速度指令値を横行方向の速度指令値と走行方向の速度指令値に分配して、トロリとガーダを駆動するようにしてもよい。
【実施例2】
【0048】
次に、本発明の第2の実施形態を
図10に基づいて説明する。尚、上述の実施例と共通する構成、動作については、必要がない場合は重複する説明を省略する。
【0049】
図10は本発明の第2の実施形態における制御ブロックの構成を示すブロック図である。第1の実施形態では、トロリ4の速度が速度指令値に追従する、すなわち、トロリ4の速度が速度指令値に一致する、と想定している。
【0050】
しかしながら、トロリ4やガーダ3が大型、または、吊荷の重量が大きい時は、トロリ4の速度が速度指令値に追従しない場合がある。この場合には、電動モータ制御装置300、トロリ4を含めた吊荷目標速度指令値400に対するトロリ速度402の伝達関数G2(s)が荷振れを抑制する特性を持つようにする。
【0051】
すなわち、伝達関数P(s)の分母が零となる極を相殺する項として、1/ωr^2・(s^2+2ζr・ωr・s+ωr^2)を分子に持ち、吊荷目標速度指令値400へのトロリの追従性、安定性を確保するために、分母に分子と同じ次数となるように、1/ωc^2・(s^2+2ζc・ωc・s+ωc^2)を持てばよい。ここで、上述したように、「ωc」、「ζc」は制御パラメータである。
【0052】
よって、伝達関数G2(s)は次式のようにすればよい。
G2(s)=ωc^2/ωr^2・(s^2+2ζr・ωr・s+ωr^2)/
(s^2+2ζc・ωc・s+ωc^2)…(15)
このζcは、実施例1の関係式(14)により決定し、ωcは水平移動装置の速度指令値が速度・加速度の制限値を超えない値とし、トロリ4の性能から決定する。
【0053】
これより、吊荷目標速度指令値400に対する速度指令値401の伝達関数G(s)は、トロリの速度指令値401に対する速度402までの伝達関数であるDM(s)=D(s)・M(s)の逆特性を含めた次式のようにすればよい。
G(s)=G2(s)/DM(s)…(16)
ここで、D(s)は電動モータ制御装置の伝達関数、M(s)はトロリの伝達関数である。
【0054】
以上のようすれば、トロリが大型、または、吊荷の重量が大きい時にトロリの速度が速度指令値に一致しない場合でも、荷振れを抑制しながらも制動距離を短縮し、操作性を改善することができる。
【0055】
なお、本発明は上記したいくつかの実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。各実施例の構成について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0056】
1…クレーン、2…ランウェイ、3…ガーダ、4…トロリ、5…ロープ、6…フック、7…ワイヤー、8…吊荷、100…速度指令値演算装置、110…荷振れ抑制制御装置、200…操作入力装置、300…電動モータ制御装置、400…吊荷目標速度、401…トロリ速度指令値、402…トロリ速度