(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】無電解メッキ抑制組成物及びメッキ部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/18 20060101AFI20240219BHJP
【FI】
C23C18/18
(21)【出願番号】P 2020214991
(22)【出願日】2020-12-24
(62)【分割の表示】P 2020539863の分割
【原出願日】2020-03-04
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019039701
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100174285
【氏名又は名称】小宮山 聰
(72)【発明者】
【氏名】土畑 美由喜
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 敦
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 朗子
(72)【発明者】
【氏名】臼杵 直樹
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-226890(JP,A)
【文献】特開2017-160518(JP,A)
【文献】国際公開第2014/042215(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解メッキ抑制組成物であって、
アミド基及びアミノ基の少なくとも一方を有する化合物である触媒活性妨害剤と、
グリコールエーテルを含む溶剤と、を含み、
前記触媒活性妨害剤が、前記アミド基及び前記アミノ基の少なくとも一方を含む側鎖を有する分岐ポリマーであ
り、
前記触媒活性妨害剤が式(1)で表されるハイパーブランチポリマーである、無電解メッキ抑制組成物。
【化1】
式(1)において、A
1
が式(2)で表される基であり;
【化2】
A
2
が式(3)で表される基であって、R
1
が単結合であり、R
2
が水素であり、R
3
がイソプロピル基であり;
【化3】
A
3
が式(4)で表されるジチオカルバメート基であり、R
4
及びR
5
がエチル基であり、R
0
がビニル基又はエチル基であり、
【化4】
m1は0.4~11であり、n1は5~100である。
【請求項2】
前記溶剤が、更に、アルコールを含む、請求項1に記載の無電解メッキ抑制組成物。
【請求項3】
前記無電解メッキ抑制組成物中において、前記グリコールエーテルの配合量(X)の、前記アルコールの配合量(Y)に対する重量比(X/Y)が、(X/Y)=2/98~80/20である、請求項2に記載の無電解メッキ抑制組成物。
【請求項4】
前記アルコールが、エタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノール、1‐ブタノール、2‐ブタノール、1‐ペンタノール、1‐ヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、及び1,2-ヘキサンジオールからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項2又は3に記載の無電解メッキ抑制組成物。
【請求項5】
前記グリコールエーテルが、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びエチレングリコールジメチルエーテルからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1~4のいずれか一項に記載の無電解メッキ抑制組成物。
【請求項6】
前記触媒活性妨害剤の重量平均分子量が1,000~1,000,000である、請求項1~5のいずれか一項に記載の無電解メッキ抑制組成物。
【請求項7】
前記触媒活性妨害剤が、ハイパーブランチポリマーである、請求項1~6のいずれか一項に記載の無電解メッキ抑制組成物。
【請求項8】
前記触媒活性妨害剤の配合量の、前記グリコールエーテルの配合量に対する重量比が、0.4重量%~25.0重量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の無電解メッキ抑制組成物。
【請求項9】
前記無電解メッキ抑制組成物中において、前記触媒活性妨害剤の配合量が、0.2重量%~5.0重量%である、請求項1~8のいずれか一項に記載の無電解メッキ抑制組成物。
【請求項10】
メッキ部品の製造方法であって、
基材の表面に、請求項1~9のいずれか一項に記載の前記無電解メッキ抑制組成物を付与することと、
前記基材の表面の一部を加熱又は光照射することと、
加熱又は光照射した前記基材の表面に無電解メッキ触媒を付与することと、
前記無電解メッキ触媒を付与した前記基材の表面に無電解メッキ液を接触させ、前記表面の加熱部分又は光照射部分に無電解メッキ膜を形成することとを含むメッキ部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解メッキ抑制組成物及びメッキ部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、三次元成形回路部品(MID:Molded Interconnected Device)が、スマートフォン等で実用化されており、今後、自動車分野での応用拡大が期待されている。MIDは、樹脂成形体の表面に金属膜で回路を形成したデバイスであり、製品の軽量化、薄肉化及び部品点数削減に貢献できる。
【0003】
樹脂成形体等の絶縁性基材の表面に配線パターン(電気回路)を形成する方法として、例えば、以下に説明する方法が提案されている。まず、基材の表面全体に金属層を形成する。次に、形成した金属層をフォトレジストでパターニングし、その後、エッチングにより配線パターン以外の部分の金属層を除去する。これにより、基材表面に残された金属層によって配線パターンを形成できる。
【0004】
また、フォトレジストを使用しない配線パターン(電気回路)の形成方法としては、レーザー光を使用する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。まず、配線パターンを形成したい部分にレーザー光を照射して基材を粗化する。そして、基材全体に無電解メッキ触媒を付与すると、レーザー光照射部分には、他の部分と比較して無電解メッキ触媒が強固に付着する。次に、基材を洗浄すると、レーザー光照射部分のみに無電解メッキ触媒が残り、他の部分の触媒は容易に除去できる。レーザー光照射部分のみに無電解メッキ触媒が付着した基材に無電解メッキを施すことで、レーザー光照射部分、即ち、所定の配線パターンのみにメッキ膜を形成できる。レーザー光を利用した配線パターンの形成方法は、フォトマスク等を製造するコストや手間が省けるため、配線パターンの変更が容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1で提案されているレーザー光を利用した配線パターン(電気回路)の形成方法では、基材の種類や表面状態によっては、無電解メッキ膜の形成を予定していない部分、即ち、配線パターン以外の部分にも無電解メッキ膜が生成する場合があった。例えば、無電解メッキ触媒が付着し易いフィラーを含有する基材、表面粗さが大きい基材、空隙を有する基材等は、無電解メッキ触媒が付着し易いため、洗浄しても無電解メッキ触媒が除去できずに残存し易い。また、無電解メッキ触媒の種類や基材の種類によっては、無電解メッキ触媒が基材の内部に浸透する場合があり、基材に浸透した無電解メッキ触媒を洗浄によって除去することは困難であった。このように所定の配線パターン以外の部分に無電解メッキ触媒が残存した基材に無電解メッキを施すと、当然に配線パターン以外の部分に無電解メッキ膜が生成してしまう。したがって、所定のパターン以外の部分において、より確実に、無電解メッキ膜の生成を抑制できる技術が求められていた。
【0007】
また、スマートフォン、自動車分野等で用いられるMIDは、通常、大量生産される。このため、樹脂成形体等の表面に配線パターン(電気回路)を形成する技術にも、長時間に亘るメッキ部品の製造に対応できる安定性が求められる。
【0008】
本発明は、これらの課題を解決するものであり、基材の種類、形状及び状態に依存せずに、無電解メッキ膜の形成を予定していない部分での無電解メッキ膜の生成を抑制できる無電解メッキ抑制組成物を提供する。また、例えば、長時間の製造工程に対応できるよう、安定性の高い無電解メッキ抑制組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様に従えば、無電解メッキ抑制組成物であって、アミド基及びアミノ基の少なくとも一方を有する化合物である触媒活性妨害剤と、グリコールエーテルを含む溶剤とを含み、前記触媒活性妨害剤が、前記アミド基及び前記アミノ基の少なくとも一方を含む側鎖を有する分岐ポリマーである、無電解メッキ抑制組成物が提供される。
【0010】
前記無電解メッキ抑制組成物は、更に、アルコールを含んでもよい。前記無電解メッキ抑制組成物中において、前記グリコールエーテルの配合量(X)の、前記アルコールの配合量(Y)に対する重量比(X/Y)が、(X/Y)=2/98~80/20であってもよい。
【0011】
前記グリコールエーテルが、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びエチレングリコールジメチルエーテルからなる群から選択される少なくとも1つであってもよく、エチレングリコールモノブチルエーテル又はプロピレングリコールモノメチルエーテルであってもよい。
【0012】
前記アルコールが、エタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノール、1‐ブタノール、2‐ブタノール、1‐ペンタノール、1‐ヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、及び1,2-ヘキサンジオールからなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。
【0013】
前記触媒活性妨害剤の重量平均分子量が1,000~1,000,000であってもよい。前記触媒活性妨害剤が、ハイパーブランチポリマーであってもよい。前記触媒活性妨害剤の配合量の、前記グリコールエーテルの配合量に対する重量比が、0.4重量%~25.0重量%であってもよい。前記無電解メッキ抑制組成物中において、前記触媒活性妨害剤の配合量が、0.2重量%~5.0重量%であってもよい。
【0014】
本発明の第2に態様に従えば、メッキ部品の製造方法であって、基材の表面に、第1の態様の前記無電解メッキ抑制組成物を付与することと、前記基材の表面の一部を加熱又は光照射することと、加熱又は光照射した前記基材の表面に無電解メッキ触媒を付与することと、前記無電解メッキ触媒を付与した前記基材の表面に無電解メッキ液を接触させ、前記表面の加熱部分又は光照射部分に無電解メッキ膜を形成することとを含むメッキ部品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の無電解メッキ抑制組成物は、触媒活性妨害剤を含み、基材の種類、形状及び状態に依存せずに、無電解メッキ膜の形成を予定していない部分での無電解メッキ膜の生成を抑制できる。また、本発明の無電解メッキ抑制組成物は、触媒活性妨害剤の分散安定性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態のメッキ部品の製造方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[無電解メッキ抑制組成物]
無電解メッキ抑制組成物は、触媒活性妨害剤と、溶剤とを含む。触媒活性妨害剤は、アミド基及びアミノ基の少なくとも一方を有する化合物である。溶剤は、グリコールエーテルを含む。触媒活性妨害剤は、溶剤中に分散している。即ち、グリコールエーテルを含む溶剤は、分散媒である。無電解メッキ抑制組成物は、メッキ部品の製造方法に用いられる。例えば、無電解メッキ抑制組成物は、メッキ部品の製造方法において、基材の無電解メッキ膜の形成を予定していない部分に付与され、無電解メッキ膜の生成を抑制する。
【0018】
触媒活性妨害剤は、アミド基及びアミノ基の少なくとも一方を有する化合物であれば特に限定されないが、ポリマーであることが好ましい。触媒活性妨害剤が、アミド基及びアミノ基の少なくとも一方を有するポリマー(以下、適宜「アミド基/アミノ基含有ポリマー」と記載する)である場合、その重量平均分子量は、例えば、1,000~1,000,000であってもよい。アミド基/アミノ基含有ポリマーは、メッキ部品の製造方法において、様々な種類の基材の表面をポリマー層(以下適宜、「触媒活性妨害層」、又は「妨害層」と記載する)として均一に覆って、そこに留まることができる。これにより、基材の種類、形状及び状態に依存せずに、無電解メッキ膜の生成を抑制できる。この結果、基材の選択の幅が広がる。尚、触媒活性妨害剤の重量平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算で測定できる。
【0019】
アミド基/アミノ基含有ポリマーは、アミド基のみを有するポリマーであってもよいし、アミノ基のみを有するポリマーであってもよいし、アミド基及びアミノ基の両方を有するポリマーであってもよい。アミド基/アミノ基含有ポリマーは、任意のものを用いることができるが、無電解メッキ触媒の触媒活性を妨げる観点からは、アミド基を有するポリマーが好ましく、また、側鎖を有する分岐ポリマーが好ましい。分岐ポリマーにおいては、側鎖がアミド基及びアミノ基の少なくとも一方を含むことが好ましく、側鎖がアミド基を含むことがより好ましい。
【0020】
アミド基/アミノ基含有ポリマーが無電解メッキ触媒の触媒活性を妨げるメカニズムは定かではないが、以下のように推測される。アミド基及び/又はアミノ基は、無電解メッキ触媒に吸着、配位、反応等して複合体を形成し、これにより無電解メッキ触媒は、アミド基/アミノ基含有ポリマーにトラップされる。特に、分岐ポリマーの側鎖に含まれるアミド基及び/又はアミノ基は自由度が高く、また、分岐ポリマー1分子中には、多数のアミド基及び/又はアミノ基を含むことができる。このため、分岐ポリマーは、複数のアミド基及び/又はアミノ基により、無電解メッキ触媒を効率的且つ強力にトラップできる。例えば、分岐ポリマーは多座配位子として作用し、複数のアミド基及び/又はアミノ基が無電解メッキ触媒に配位してキレート構造を形成できる。この様にトラップされた無電解メッキ触媒は、触媒活性を発揮できない。例えば、パラジウム等の金属が無電解メッキ触媒として妨害層上に付与されると、分岐ポリマーのアミド基及び/又はアミノ基がパラジウムをパラジウムイオンの状態でトラップする。パラジウムイオンは無電解メッキ液中に含まれる還元剤によって還元されて金属パラジウムとなり、無電解メッキ触媒活性を発揮する。しかし、分岐ポリマーにトラップされたパラジウムイオンは、無電解メッキ液中に含まれる還元剤によっても還元されず、触媒活性を発揮できない。これにより、触媒活性妨害層か形成された基材の表面では、無電解メッキ膜の形成が抑制される。ただし、このメカニズムは推定に過ぎず、本発明はこれに限定されない。
【0021】
アミド基/アミノ基含有ポリマーに含まれるアミド基は、特に限定されず、1級アミド基、2級アミド基、3級アミド基のいずれであってもよく、アミド基/アミノ基含有ポリマーに含まれるアミノ基は、特に限定されず、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基のいずれであってもよい。これらのアミド基及びアミノ基は、ポリマー内に1種類のみが含まれてもよいし、2種類以上が含まれてもよい。
【0022】
アミド基/アミノ基含有ポリマーとして分岐ポリマーを用いる場合、無電解メッキ触媒の触媒活性を効率的に妨害する観点から、分岐ポリマーに含まれるアミド基は、2級アミド基であることが好ましく、また、アミド基の窒素には、イソプロピル基が結合していることが好ましい。また、分岐ポリマーに含まれるアミノ基は、1級アミノ基(‐NH2)又は2級アミノ基(‐NH‐)が好ましい。
【0023】
分岐ポリマーの側鎖は、アミド基及びアミノ基の少なくとも一方を有し、更に硫黄を含む基を有してもよい。硫黄を含む基は、上述のアミド基及びアミノ基と同様に無電解メッキ触媒を吸着等する傾向がある。これにより、分岐ポリマーが無電解メッキ触媒の触媒活性を妨げる効果が促進される。硫黄を含む基は、特に限定されず、例えば、スルフィド基、ジチオカルバメート基、チオシアン基であり、好ましくは、ジチオカルバメート基である。これらの硫黄を含む基は、分岐ポリマーの側鎖に1種類のみが含まれてもよいし、2種類以上が含まれてもよい。
【0024】
分岐ポリマーは、デンドリティックポリマーであることが好ましい。デンドリティックポリマーとは、頻繁に規則的な分岐を繰り返す分子構造で構成されたポリマーであり、デンドリマーとハイパーブランチポリマーに分類される。デンドリマーは、核となる分子を中心に、規則正しく完全に樹状分岐した構造をもつ、直径数nmの球形のポリマーであり、ハイパーブランチポリマーは、完全な樹状構造をもつデンドリマーとは異なり、不完全な樹状分岐をもつポリマーである。デンドリティックポリマーの中でも、ハイパーブランチポリマーは、比較的合成が容易で且つ安価であるため、本実施形態の分岐ポリマーとして好ましい。
【0025】
デンドリティックポリマーは、自由度の高い側鎖部分が多いため、無電解メッキ触媒に吸着し易く、効率的に無電解メッキ触媒の触媒活性を妨害できる。このため、デンドリティックポリマーは、薄膜化しても触媒活性妨害剤として効率よく作用する。また、デンドリティックポリマーの分散液は高濃度でも低粘度であるため、複雑形状の基材に対しても、均一な膜厚の妨害層を形成できる。更に、デンドリティックポリマーは耐熱性が高い。このため、ハンダリフロー耐性を要求されるメッキ部品に好適である。
【0026】
デンドリティックポリマーは、アミド基及び/又はアミノ基に加えて、基材との親和性が高い官能基を含んでもよい。これにより、基材と触媒活性妨害層との密着性を強められる。基材との親和性が高い官能基は、基材の種類により適宜選択できる。例えば、基材がポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー等の芳香環を有する材料である場合、デンドリティックポリマーは芳香環を含むことが好ましい。基材がガラスである場合、デンドリティックポリマーは、ガラスと親和性の高いシラノール基を含むことが好ましい。
【0027】
本実施形態のデンドリティックポリマーは、例えば、国際公開第2018/131492号に記載されている下記式(1)で表されるポリマーであることが好ましい。下記式(1)で表されるポリマーは、触媒活性妨害剤として効率よく作用する。また、式(1)で表されるポリマーは、グリコールエーテルに分散し易く(初期の分散性が良好)、更にその分散性を長期間維持し易い(分散安定性が良好)。
【0028】
【化1】
式(1)において、A
1は芳香環を含む基であり、A
2はアミド基を含む基であり、A
3は硫黄を含む基であり、R
0は、水素又は炭素数1~10個の置換若しくは無置換の炭化水素基であり、m1は0.4~11であり、n1は5~100である。m1は0.5~11が好ましい。
【0029】
A
1は、芳香環を含む基であれば、任意のものを用いることができるが、例えば、下記式(2)で表される基であることが好ましい。
【化2】
【0030】
A1が、式(2)で表される基である場合、本実施形態のハイパーブランチポリマーのハイパーブランチ構造は、スチレン骨格を有する。ハイパーブランチ構造がスチレン骨格を有すると、ハイパーブランチポリマーの耐候性、耐熱性が向上する。
【0031】
ハイパーブランチポリマーは、複数の末端基を有する。上記式(1)で表されるハイパーブランチポリマーの末端基において、A2は、アミド基を含む基であり、A3は、硫黄を含む基である。また、m1は、各末端基におけるアミド基を含む基(A2)の数(繰り返し数)mの平均値である。したがって、m1は整数でなくてもよい。本実施形態のハイパーブランチポリマーは、平均値であるm1が0.4~11であればよく、アミド基を含む基(A2)を有さない末端基を有してもよい。m1は0.5~11が好ましい。各末端基におけるアミド基を含む基(A2)の数(繰り返し数)mは、例えば、0~11である。式(1)のm1は、分子内におけるアミド基を含む基(A2)の総数(分子内におけるmの合計)を末端基の数で除した商である。m1の値は、NMR法や元素分析法により定量できる。
【0032】
上記式(1)において、A2はアミド基を含む基であれば特に限定されず、また、A2に含まれるアミド基は、1級アミド基、2級アミド基、3級アミド基のいずれであってもよい。また、A2は、アミド基を1個含む基であってもよいし、2個以上含む基であってもよい。A2は下記式(3)で表される基であることが好ましい。A2が下記式(3)で表される基であると、本実施形態のハイパーブランチポリマーは、金属捕捉能力がより向上する。これにより、無電解メッキ抑制効果がより高まる。
【0033】
【化3】
式(3)において、R
1は炭素数が1~5である置換若しくは無置換のアルキレン基、又は単結合であり、R
2及びR
3は、それぞれ、炭素数が1~10である置換若しくは無置換のアルキル基又は水素である。また、式(3)において、R
1は単結合であることが好ましく、R
2は水素であることが好ましく、R
3はイソプロピル基であることが好ましい。
【0034】
上記式(1)において、A3は、硫黄を含む基であれば特に限定されず、例えば、ジチオカルバメート基、トリチオカーボネート基、スルフィド基、チオシアン基等が挙げられ、中ででも、ジチオカルバメート基であることが好ましい。A3がジチオカルバメート基であると、本実施形態のハイパーブランチポリマーは、合成が容易となり、また、金属捕捉能力が向上する。更に、A3は、下記式(4)で表される基であることが好ましい。
【0035】
【化4】
式(4)において、R
4及びR
5は、それぞれ、炭素数が1~5である置換若しくは無置換のアルキル基、又は水素である。また、式(4)において、R
4及びR
5はエチル基であることが好ましい。
【0036】
上記式(1)において、R0は、水素又は炭素数1~10個の置換若しくは無置換の炭化水素基であれば、任意の炭化水素基を用いることができる。上記炭化水素基は、鎖状若しくは環状の飽和脂肪族炭化水素基、鎖状若しくは環状の不飽和脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基であってもよい。R0が、置換の炭化水素基である場合の置換基は、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、ビニル基、アリル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アミノ基、イミノ基、ニトロ基、シリル基又はエステル基等であってもよい。また、R0は、無置換の炭化水素基であってもよく、例えば、ビニル基又はエチル基であってもよい。
【0037】
本実施形態のハイパーブランチポリマーは、式(1)において、R0が異なるハイパーブランチポリマーの混合物であってもよい。例えば、R0が不飽和結合を有する場合、ハイパーブランチポリマーの合成過程において、不飽和結合の一部に何らかの付加反応が生じて飽和結合となる場合がある。この場合、上記式(1)において、R0が不飽和炭化水素基のハイパーブランチポリマーと、R0が飽和炭化水素基のハイパーブランチポリマーとの混合物が得られる。本実施形態のハイパーブランチポリマーは、上記式(1)において、R0がビニル基のハイパーブランチポリマーと、R0がエチル基のハイパーブランチポリマーとの混合物であってもよい。
【0038】
本実施形態のハイパーブランチポリマーは、数平均分子量が、3,000~30,000であり、重量平均分子量が、10,000~300,000であることが好ましく、数平均分子量が、5,000~30,000であり、重量平均分子量が、14,000~200,000であることがより好ましい。数平均分子量又は重量平均分子量が上記範囲内であれば、無電解メッキ抑制組成物中における分散性及び分散安定性、並びにメッキ抑制効果がより向上する。尚、ハイパーブランチポリマーの重量平均分子量及び数平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算で測定できる。
【0039】
本実施形態のハイパーブランチポリマーの合成方法は、特に限定されず、任意の方法により合成できる。例えば、市販のハイパーブランチポリマーを出発物質として、本実施形態のハイパーブランチポリマーを合成してもよい。また、モノマーの合成、モノマーの重合、末端基修飾等を順に行って、本実施形態のハイパーブランチポリマーを合成してもよい。尚、本実施形態のハイパーブランチポリマーの重量平均分子量及び数平均分子量、式(1)中のm1及びn1は、合成に用いる試薬の比率、合成条件等を任意の方法で調整することにより、所定の範囲内に調整できる。
【0040】
無電解メッキ抑制組成物中における、触媒活性妨害剤の配合量は、特に限定されないが、触媒活性妨害剤の分散性、分散安定性、及びメッキ抑制効果のバランスを取る観点から、上記配合量は、0.2重量%~5.0重量%が好ましく、0.3重量%~2.0重量%がより好ましい。また、触媒活性妨害剤の分散安定性向上の観点からは、上記配合量は0.2重量%~2.0重量%がより好ましく、メッキ抑制効果の向上の観点からは、0.3重量%~5.0重量%がより好ましい。
【0041】
溶剤に含まれるグリコールエーテルは、2価アルコールのモノエーテル、又は、2価アルコールのジエーテルであれば、特に限定されない。例えば、触媒活性妨害剤の分散性向上の観点からは、下記式(G)で表される化合物が好ましい。
【0042】
【化5】
式(G)において、
R
11は、炭素数1~4個である、直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、
R
12は、エチレン基又はプロピレン基であり、
R
13は、水素原子又は、炭素数1~4個である、直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、
R
11とR
13は、同一の基であっても異なる基であってもよく、
nは、1又は2である。
【0043】
式(G)において、R13が水素原子であってもよい。この場合、式(G)で表されるグリコールエーテルは、モノエーテルである。また、式(G)において、R13が水素原子ではなく、アルキル基であってもよい。この場合、式(G)で表されるグリコールエーテルは、ジエーテルである。式(G)で表されるグリコールエーテルがジエーテルである場合、触媒活性妨害剤の分散性向上の観点から、式(G)中に含まれる炭素数は少ない方が好ましい。例えば、式(G)で表されるグリコールエーテルがジエーテルである場合、R11及びR13は、それぞれ、メチル基又はエチル基であり、nは1であることが好ましい。
【0044】
また、メッキ部品の製造方法において、無電解メッキ抑制組成物は、基材上に付与されて、その後、乾燥して、触媒活性妨害層を形成する。無電解メッキ抑制組成物の乾燥性向上の観点からは、式(G)において、nは1であることが好ましい。
【0045】
グリコールエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテルが挙げられ、中でも、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。これらのグリコールエーテルを用いることで、触媒活性妨害剤の分散性が更に向上する。これらのグリコールエーテルは、単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0046】
溶剤は、更に、アルコールを含んでもよい。溶剤に含まれるアルコールは、上述したグリコールエーテルとは異なる化合物である。溶剤がグリコールエーテルと共にアルコールを含むことにより、触媒活性妨害剤の分散安定性が向上する。また、メッキ部品の製造方法における、無電解メッキ抑制組成物の乾燥性向上の観点からは、アルコールに含まれる炭素数は、2~6個が好ましい。同様の観点から、アルコールは、1価アルコール又は2価アルコールであることが好ましく、1価のアルコールであることがより好ましい。
【0047】
アルコールは、炭化水素基と水酸基とから構成されてもよい。この場合、アルコールは、水酸基に含まれる酸素原子以外に酸素原子を含まず、例えば、エーテル結合を含まない。アルコールに含まれる炭化水素基は、直鎖でもよいし、分岐鎖でもよい。炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。
【0048】
アルコールは、例えば、エタノール、1‐プロパノール(n‐プロパノール)、2‐プロパノール(イソプロピルアルコール)、1‐ブタノール(n‐ブタノール)、2‐ブタノール、1‐ペンタノール(n‐ペンタノール)、1‐ヘキサノール(n‐ヘキサノール)、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオールが挙げられ、中でも、エタノール、2‐プロパノール、n‐ブタノールが好ましい。これらのアルコールを用いることで、触媒活性妨害剤の分散安定性が更に向上する。これらのアルコールは、単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0049】
無電解メッキ抑制組成物中において、グリコールエーテルの配合量(X)の、前記アルコールの配合量(Y)に対する重量比(X/Y)は特に限定されないが、触媒活性妨害剤の分散性、分散安定性及びメッキ抑制効果のバランスを取る観点からは、重量比(X/Y)=2/98~100/0、2/98~80/20、5/95~80/20、又は、5/95~49/51が好ましい。また、触媒活性妨害剤の分散性向上の観点からは、重量比(X/Y)=5/95~100/0がより好ましく、触媒活性妨害剤の分散安定性向上の観点からは、重量比(X/Y)=2/98~49/51がより好ましい。また、メッキ部品の製造方法において、溶剤による基材の変形を抑制し、基材選択の幅を広げる観点からは、例えば、重量比(X/Y)=40/60~60/40が好ましい。
【0050】
また、触媒活性妨害剤の分散性向上の観点からは、触媒活性妨害剤の配合量(Z)の、グリコールエーテルの配合量(X)に対する重量比は、例えば、(Z/X)×100=0.4重量%~25.0重量%が好ましく、1.02重量%~10.0重量%がより好ましい。
【0051】
溶剤は、グリコールエーテルのみから構成されてもよいし、グリコールエーテル及びアルコールのみから構成されてもよいし、本実施形態の効果を阻害しない範囲で、グリコールエーテル及びアルコールに加えて他の有機溶剤等を含んでもよい。また、無電解メッキ抑制組成物中における、グリコールエーテルの配合量(X)又は、グリコールエーテルとアルコールとの合計配合量(X+Y)は、例えば、90重量%~99重量%、又は、95重量%~99重量%である。
【0052】
本実施形態の無電解メッキ抑制組成物は、触媒活性妨害剤及び溶剤のみから構成されてもよい。また、本実施形態の無電解メッキ抑制組成物は、触媒活性妨害剤及び溶剤に加えて、濡れ性調整剤等、汎用の添加剤を含んでもよい。
【0053】
本実施形態の無電解メッキ抑制組成物は、汎用の方法により調製できる。例えば、無電解メッキ抑制組成物は、撹拌機、超音波分散機、ミキサー等汎用の装置を用いて、触媒活性妨害剤と、グリコールエーテルを含む溶剤と、必要により、その他の添加剤とを混合して調製できる。
【0054】
本実施形態の無電解メッキ抑制組成物は、例えば、以下の効果を奏する。無電解メッキ抑制組成物は、触媒活性妨害剤を含む。メッキ部品の製造方法において、基材の無電解メッキ膜の形成を予定していない部分に、本実施形態の無電解メッキ抑制組成物を付与することにより、基材の種類、形状及び状態に依存せずに、無電解メッキ膜の形成を予定していない部分での無電解メッキ膜の生成を抑制できる。これにより、メッキ膜を有する部分と、メッキ膜を有さない部分とのコントラストが明確なメッキ部品を製造できる。
【0055】
また、無電解メッキ抑制組成物は、触媒活性妨害剤を分散する分散媒として、グリコールエーテルを含む溶剤を用いる。グリコールエーテルは、触媒活性妨害剤を良好に分散する良分散媒である。また、例えば、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル等の溶剤は、多くの種類の樹脂基材を侵食するが、グリコールエーテルは、樹脂基材を侵食し難い。したがって、グリコールエーテルを分散媒とすることで、基材の選択の幅が広がる。
【0056】
本実施形態の無電解メッキ抑制組成物は、溶剤として、更にアルコールを含んでもよい。アルコールも、樹脂基材を侵食し難い。また、グリコールエーテルに加えてアルコールを含むことで、触媒活性妨害剤の分散安定性が更に向上し、長期間、安定に分散状態を維持できる。このメカニズムは、次のように推測される。グリコールエーテルは、触媒活性妨害剤を分散し易い溶剤(良分散媒)であるが、良分散媒中において触媒活性妨害剤は広がり易いため、時間経過と共に凝集が生じる虞がある。一方、アルコールは、触媒活性妨害剤を分散しない又は分散し難い溶剤(貧分散媒)である。即ち、アルコールに対する触媒活性妨害剤の分散性(初期の分散性)は不良である。発明者らは、良分散媒であるグリコールエーテルと、貧分散媒であるアルコールを混合することで、分散性と分散安定性を両立できることを見出した。これは、混合溶剤中において、グリコールエーテルにより分散している触媒活性妨害剤の広がりが、貧分散媒であるアルコールにより適度に抑制されるためだと推測される。ただし、このメカニズムは推定に過ぎず、本発明はこれに限定されない。
【0057】
触媒活性妨害剤の分散性及び分散安定性をより高める観点から、アルコールは、エタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノール、1‐ブタノール、2‐ブタノール、1‐ペンタノール、1‐ヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、及び1,2-ヘキサンジオールからなる群から選択される少なくとも1つであり、且つ、グリコールエーテルは、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びエチレングリコールジメチルエーテルからなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。また、同様の観点から、触媒活性妨害剤は、ポリマーであり、触媒活性妨害剤の重量平均分子量が1,000~1,000,000であることが好ましく、無電解メッキ抑制組成物中において、触媒活性妨害剤の配合量が、0.2重量%~5.0重量%であることが好ましい。更に、上述した特定のアルコール及び特定のグリコールを含む溶剤と、上述した特定の配合量の、特定の重量平均分子量を有するポリマーである触媒活性妨害剤とを組み合わせることで、触媒活性妨害剤の分散性及び分散安定性を更により高めることができる。
【0058】
本実施形態の無電解メッキ抑制組成物は、触媒活性妨害剤の分散安定性が高い。このため、例えば、メッキ部品の製造方法において、無電解メッキ抑制組成物を長時間に亘って使用しても、無電解メッキ抑制組成物中に凝集や沈殿が生じ難く、触媒活性妨害剤の濃度を均一に維持し易い。したがって、本実施形態の無電解メッキ抑制組成物は、例えば、メッキ部品の大量生産に使用可能である。
【0059】
[メッキ部品の製造方法]
図1に示すフローチャートに従って、本実施形態のメッキ部品の製造方法について説明する。本実施形態で製造するメッキ部品は、選択的にメッキ膜が形成されたメッキ部品であり、基材の表面の一部(所定パターン、所定部分)に無電解メッキ膜が形成されており、それ以外の部分には無電解メッキ膜が形成されていない。
【0060】
まず、基材の表面に、上述した本実施形態の無電解メッキ抑制組成物を付与する(
図1のステップS1)。
【0061】
基材の材料は特に限定されないが、表面に無電解メッキ膜を形成する観点から絶縁体が好ましく、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、セラミックス及びガラス等を用いることができる。中でも、成形の容易性から、基材は、樹脂から形成される樹脂基材が好ましい。
【0062】
熱可塑性樹脂としては、ナイロン6(PA6)、ナイロン66(PA66)、ナイロン12(PA12)、ナイロン11(PA11)、ナイロン6T(PA6T)、ナイロン9T(PA9T)、10Tナイロン、11Tナイロン、ナイロンMXD6(PAMXD6)、ナイロン9T・6T共重合体、ナイロン6・66共重合体等のポリアミドを用いることができる。ポリアミド以外の樹脂としては、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート(PC)、アモルファスポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ABS樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミドイミド、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、液晶ポリマー(LCP)、シクロオレフィンポリマー等を用いることができる。中でも、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、液晶ポリマー(LCP)、ナイロン6(PA6)は、汎用性が高く、また、本実施形態の無電解メッキ抑制組成物の溶剤は、これらの熱可塑性樹脂を含む基材を変形させる虞が少ないため、基材の材料として好ましい。尚、これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0063】
熱硬化性樹脂としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができる。透明な熱硬化性樹脂を用いることで、透明でハンダリフロー耐性を有するデバイス(メッキ部品)を製造できる。光硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド等を用いることができる。また、セラミックスとしては、アルミナ、窒化アルミ、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム、シリコンウエハ等を用いることができる。
【0064】
本実施形態で用いる基材は、市販品であってもよいし、市販の材料から成形等により製造してもよい。また、本実施形態で用いる基材は、内部に発泡セルを有する発泡成形体であってもよい。
【0065】
基材上に付与された無電解メッキ抑制組成物は、基材上で触媒活性妨害層(妨害層)を形成することが好ましい。妨害層は、基材の耐熱性等の物性や誘電率等の電気特性に影響を与えないように、薄い方が好ましい。妨害層の厚みは、例えば、5000nm以下が好ましく、1000nm以下がより好ましく、300nm以下が更により好ましい。一方で、無電解メッキ触媒の触媒活性を妨害する観点からは、例えば、10nm以上が好ましく、30nm以上がより好ましく、50nm以上が更により好ましい。尚、所定パターン以外での無電解メッキ膜の生成を抑制する観点から、妨害層は、後述する無電解メッキ工程において、少なくとも無電解メッキ液と接触する基材表面の領域に形成することが好ましく、基材の表面全面に形成することがより好ましい。
【0066】
基材の表面に妨害層を形成する方法は、特に限定されない。例えば、無電解メッキ抑制組成物を基材に塗布してもよいし、無電解メッキ抑制組成物に基材を浸漬してもよい。具体的な形成方法としては、ディップコート、スクリーンコート、スプレーコート等が挙げられる。中でも、形成される妨害層の均一性と作業の簡便性の観点から、無電解メッキ抑制組成物に基材を浸漬する方法(ディップコート)が好ましい。
【0067】
無電解メッキ抑制組成物に基材を浸漬するときの無電解メッキ抑制組成物の温度及び浸漬時間は特に限定されず、触媒活性妨害剤の種類、形成される妨害層の膜厚等を考慮して適宜決定できる。無電解メッキ抑制組成物の温度は、例えば、0℃~100℃、又は10℃~50℃であり、浸漬時間は、例えば、1秒~10分、又は5秒~2分である。
【0068】
次に、無電解メッキ抑制組成物を付与した基材の表面の一部を加熱又は光照射する(
図1のステップS2)。光を照射する方法は、特に限定されず、例えば、レーザー光を基材の表面に所定パターンに従って照射する方法(レーザー描画)や、光を照射しない部分をマスクした後に、基材の表面全体に光を照射する方法等が挙げられる。基材の表面の一部に光を照射することにより、光が熱に変換され、基材の表面は加熱されると推測される。また、基材の表面に光を照射せずに基材の表面を加熱する方法としては、凸部によりパターンが形成された簡易金型等で基材の表面を直接、熱プレスする方法が挙げられる。作業の簡便性及び加熱部分の選択性に優れていること、更に、パターンの変更及び微細化が容易であることから、レーザー描画により基材を加熱することが好ましい。
【0069】
レーザー光は、例えば、CO2レーザー、YVO4レーザー、YAGレーザー等のレーザー装置を用いて照射でき、これらのレーザー装置は、妨害層に用いる触媒活性妨害剤の種類に応じて適宜選択できる。
【0070】
加熱又は光照射された基材の表面の一部(加熱部分)において、妨害層は除去される。ここで、「妨害層の除去」とは、例えば、加熱部分の妨害層が、蒸発により消失することを意味する。妨害層が付与された基材の表面に、所定パターンのレーザー描画を行うことにより、所定パターンの妨害層除去部分と、妨害層が残存している妨害層残存部分とを形成できる。尚、加熱部分である妨害層除去部分では、妨害層と共に基材の表層部分が蒸発して消失してもよい。また、「妨害層の除去」とは、妨害層が完全に消失するだけでなく、後工程の無電解メッキ処理の進行に影響がない程度に妨害層が残存する場合も含む。妨害層が残存していても、後工程の無電解メッキ処理に影響なければ、無電解メッキ触媒の触媒活性を妨害する作用が消失したことになる。更に、本実施形態では、妨害層の加熱部分が変性又は変質して妨害層として作用しなくなる場合も、「妨害層の除去」に含める。例えば、触媒活性妨害剤がアミド基/アミノ基含有ポリマーである場合、アミド基及び/又はアミノ基が変性又は変質し、その結果、アミド基/アミノ基含有ポリマーが無電解メッキ触媒をトラップできない場合が挙げられる。この場合、妨害層の加熱部分は完全に消失するのではなく、変性物(変質物)が残存する。この変性物は、触媒活性を妨害しない。このため、妨害層が変性又は変質した部分も、妨害層が消失した妨害層除去部分と同様の作用を生じる。
【0071】
次に、加熱又は光照射した基材の表面に無電解メッキ触媒を付与する(
図1のステップS3)。無電解メッキ触媒を基材の表面に付与する方法は、特に限定されない。例えば、センシタイザー・アクチベータ法、キャタライザー・アクセラレータ法等、汎用の方法により、無電解メッキ触媒を基材に付与してもよい。また、例えば、特開2017-036486号公報に開示されている塩化パラジウム等の金属塩を含むメッキ触媒液を用いて、基材の表面に無電解メッキ触媒を付与してもよい。尚、金属塩を含むメッキ触媒液としては、市販のアクチベータ処理液を用いてもよい。
【0072】
次に、基材の表面に無電解メッキ液を接触させる(
図1のステップS4)。基材表面には、妨害層が残存している妨害層残存部分と、加熱等により妨害層が除去された、所定パターンの妨害層除去部分が存在する。この基材表面に無電解メッキ触媒を付与して、無電解メッキ液を接触させることにより、所定パターンの妨害層除去部分のみに、無電解メッキ膜を形成できる。
【0073】
無電解メッキ液としては、目的に応じて任意の汎用の無電解メッキ液を使用しできるが、触媒活性が高く液が安定であるという点から、無電解ニッケルリンメッキ液、無電解銅メッキ液、無電解ニッケルメッキ液が好ましい。
【0074】
無電解メッキ膜上には、更に、異なる種類の無電解メッキ膜を形成してもよいし、電解メッキにより電解メッキ膜を形成してもよい。基材上のメッキ膜の総厚みを厚くすることにより、所定パターンのメッキ膜を電気回路として用いた場合に電気抵抗を小さくできる。メッキ膜の電気抵抗を下げる観点から、無電解メッキ膜上に積層するメッキ膜は、無電解銅メッキ膜、電解銅メッキ膜、電解ニッケルメッキ膜等が好ましい。また、電気的に孤立した回路には電解メッキを行えないため、このような場合は、無電解メッキにより、基材上のメッキ膜の総厚みを厚くすることが好ましい。また、ハンダリフローに対応できるようメッキ膜パターンのハンダ濡れ性を向上させるために、錫、金、銀等のメッキ膜をメッキ膜パターンの最表面に形成してもよい。
【0075】
本実施形態のメッキ部品の製造方法は、無電解メッキ抑制組成物を用いることにより、基材の種類、形状及び状態に依存せずに、無電解メッキ膜の形成を予定していない部分での無電解メッキ膜の生成を抑制できる。本実施形態のメッキ部品の製造方法は、メッキ膜を有する部分と、メッキ膜を有さない部分とのコントラストが明確なメッキ部品を製造できる。
【0076】
本実施形態のメッキ部品の製造方法で用いる無電解メッキ抑制組成物は、触媒活性妨害剤の分散安定性が高い。このため、長時間に亘って使用しても、無電解メッキ抑制組成物内において、凝集や沈殿は生じ難く、触媒活性妨害剤の濃度を均一に維持し易い。したがって、本実施形態のメッキ部品の製造方法は、メッキ部品の大量生産に適している。
【0077】
尚、上述したメッキ部品の製造方法では、基材に無電解メッキ抑制組成物を付与し(
図1のステップS1)、その後、基材の表面の一部を加熱又は光照射する(
図1のステップS2)。しかし、本実施形態は、これに限定されず、基材の表面の一部を加熱又は光照射し(
図1のステップS2)、その後、基材に無電解メッキ抑制組成物を付与してもよい。例えば、レーザー描画(光照射)した基材の表面は粗化されるため、その上に無電解メッキ抑制組成物を付与しても、無電解メッキを抑制するのに十分な妨害層が形成されない。このため、レーザー描画部分にのみ、選択的にメッキ膜を形成できる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例及び比較例により制限されない。
【0079】
以下に説明する方法により、試料1~28(無電解メッキ抑制組成物)を調製した。試料1~28の組成を表1~5に示す。また、試料1~6及び8~28の無電解メッキ抑制組成物は本発明の実施例に相当し、試料7は本発明の比較例に相当する。
【0080】
[試料1]
触媒活性妨害剤として、下記式(5)で表されるハイパーブランチポリマーを、国際公開第2018/131492号に開示される方法により合成した。
【0081】
【0082】
式(5)で表されるハイパーブランチポリマーは、式(1)で表されるポリマーであり、式(1)において、A1が式(2)で表される基であり;A2が式(3)で表される基であって、R1が単結合であり、R2が水素であり、R3がイソプロピル基であり;A3が式(4)で表されるジチオカルバメート基であり、R4及びR5がエチル基であり、R0がビニル基又はエチル基である。
【0083】
合成したハイパーブランチポリマーの分子量をGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)で測定した。分子量は、数平均分子量(Mn)=9,946、重量平均分子量(Mw)=24,792であり、ハイパーブランチ構造独特の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)とが大きく異なった値であった。
【0084】
合成した式(5)で表されるハイパーブランチポリマー、濡れ性調整剤、グリコールエーテルを表1に示す組成比率で混合した後、混合物をアズワン社製トルネード撹拌機を用いて約30分、攪拌分散し、試料1(無電解メッキ抑制組成物)を調製した。
【0085】
[試料2~6]
試料2~6は、更にアルコールを含むこと、グリコールエーテルの配合量(X)の、アルコールの配合量(Y)に対する重量比(X/Y)を表1に示す値としたこと以外は、試料1と同様の方法により調製した。
【0086】
[試料7]
試料7は、グリコールエーテルを含まず、代わりにアルコールを含むこと以外は、試料1と同様の方法により調製した。
【0087】
[試料8~23]
試料8~23は、更にアルコールを含むこと、グリコールエーテル及びアルコールとして、表2及び表3に示す化合物を用いたこと以外は、試料1と同様の方法により調製した。
【0088】
[試料24~28]
試料24~28は、更にアルコールを含むこと、グリコールエーテル及び触媒活性妨害剤の配合量を表4に示す値としたこと以外は、試料1と同様の方法により調製した。
【0089】
[評価方法]
試料1~28について、以下の評価を行った。評価結果を表1~表5に示す。尚、試料4の評価結果は、表1、表4及び表5に重複して示す。
【0090】
(1)分散性
調製した試料1~28(無電解メッキ抑制組成物)に含まれる触媒活性妨害剤の平均粒子径を粒度分布測定装置(BECKMAN COULTER製、N4 Plus)を用いて測定した。試料の分散性を以下の評価基準に基づいて評価した。尚、測定された平均粒子径が小さい程、試料における触媒活性妨害剤の分散性は良好であると判断できる。
【0091】
<分散性の評価基準>
○:触媒活性妨害剤の平均粒子径が150nm未満であった。
△:触媒活性妨害剤の平均粒子径が150nm以上、250nm未満であった。
×:触媒活性妨害剤の平均粒子径が、250nm以上であった。
【0092】
(2)分散安定性
調製した試料1~28(無電解メッキ抑制組成物)を密閉容器にそれぞれ収容し、密閉容器ごと60℃の恒温槽に1ヶ月保存した。保存前と保存後に、それぞれ、分散性の評価と同様の方法により各試料に含まれる触媒活性妨害剤の平均粒子径を測定した。保存前後における、触媒活性妨害剤の平均粒子径の変化率R(%)を以下の式により計算した。試料の分散安定性を以下の評価基準に基づいて評価した。尚、触媒活性妨害剤の平均粒子径の変化率R(%)が小さい程、試料の保存安定性は良好であると判断できる。
R(%)=(A-B)/B×100
A:保存後の触媒活性妨害剤の平均粒子径(nm)
B:保存前の触媒活性妨害剤の平均粒子径(nm)
【0093】
<分散安定性の評価基準>
○:触媒活性妨害剤の平均粒子径の変化率Rが10%未満であった。
△:触媒活性妨害剤の平均粒子径の変化率Rが10%以上、15%未満であった。
×:触媒活性妨害剤の平均粒子径の変化率Rが15%以上であった。
【0094】
(3)メッキ抑制効果
以下に示す方法により、試料(無電解メッキ抑制組成物)のメッキ抑制効果について評価した。
【0095】
まず、汎用の射出成形機を用いてポリフェニレンサルファイド(PPS)を5cm×8cm×0.2cmの板状体に成形した。この板状体を基材として用いた。
【0096】
室温の試料1~28それぞれに、基材を1秒間浸漬し、その後、85℃乾燥機中で5分間乾燥した。これにより、試料1~23に浸漬した基材の表面に膜厚約70nmの触媒活性妨害層が形成された。試料24、25、26、27及び28に浸漬した基材の表面には、それぞれ、膜厚が約20nm、約40nm、約120nm、約250nm及び約600nmの触媒活性妨害層が形成された。触媒活性妨害層を形成した基材の表面に、市販の無電解メッキ用触媒液(奥野製薬工業製、センシタイザー、アクチベータ)を用い汎用の方法により、無電解メッキ触媒を付与した(センシタイザー・アクチベータ法)。次に、無電解メッキ触媒を付与した基材を60℃に調整した無電解ニッケルリンメッキ液(奥野製薬工業製、トップニコロンLPH-L、pH6.5)に10分間浸漬した。
【0097】
上記処理を施した基材を目視で観察し、試料のメッキ抑制効果を以下の評価基準に基づいて評価した。尚、試料4については、PPSの基材に加えて、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、液晶ポリマー(LCP)、ナイロン6(PA6)の基材、それぞれについても評価を行った。試料4のPPS基材以外のメッキ抑制効果の評価結果は、表5に示す。
【0098】
<メッキ抑制効果の評価基準>
○:基材表面に無電解メッキ膜が形成されなかった。
△:基材表面の1%未満の面積に無電解メッキ膜が形成された。
×:基材表面の1%以上の面積に無電解メッキ膜が形成された。
【0099】
表1~表5において、グリコールエーテル、アルコール及び基材の種類は、下記の省略記号を用いて記載している。
<グリコールエーテル>
BG:エチレングリコールモノブチルエーテル(SP:9.8)
PM:プロピレングリコールモノメチルエーテル(SP:10.4)
MG:エチレングリコールモノメチルエーテル(SP:11.6)
i‐PG:エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(SP:9.2)
i‐BDG:ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(SP:8.7)
MFDG:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(SP:9.6)
DMG:エチレングリコールジメチルエーテル(SP:8.6)
<アルコール>
EtOH:エタノール
NPA:1‐プロパノール(n‐プロパノール)
IPA:2‐プロパノール(イソプロピルアルコール)
NBA:1‐ブタノール(n‐ブタノール)
IBA:2‐ブタノール
PeOH:1‐ペンタノール(n‐ペンタノール)
HxOH:1‐ヘキサノール(n‐ヘキサノール)
EG:エチレングリコール
PG:プロピレングリコール
DEG:ジエチレングリコール
1,3‐BD:1,3-ブタンジオール
1,2‐HD:1,2-ヘキサンジオール
<基材>
PPS:ポリフェニレンサルファイド(帝人株式会社製、ガラス繊維強化PPS 1040G、黒色)
PC:ポリカーボネート(出光興産社製、ガラス繊維強化ポリカーボネート タフロンGZ2530)
ABS:アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(東レ社製、トヨラック)
LCP:液晶ポリマー(住友化学社製、スミカスーパー LCP)
PA6:ナイロン6(宇部興産社製、UBEナイロン(登録商標)GC1015GC9)
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
表1~表5に示すように、試料1~6及び8~28(無電解メッキ抑制組成物)は、いずれも、分散性、分散安定性、及びメッキ抑制効果の評価結果が良好であった。一方、表1に示すように、グリコールエーテルを含まない試料7は、分散性及びメッキ抑制効果の評価結果が不良であった。試料7は分散性が不良であるため、メッキ抑制効果の評価において、触媒活性妨害層中に触媒活性妨害剤が均一に分散せず、このため、メッキ膜の生成を十分に抑制できなかったと推測される。尚、試料7は、分散性が不良であったため、分散安定性の評価は行わなかった。
【0106】
表1に示す、重量比(X/Y)が異なる試料1~7を比較する。重量比(X/Y)が、2/98~100/0の範囲内である試料1~6は、いずれも、分散性、分散安定性、及びメッキ抑制効果の評価結果が良好であった。中でも、重量比(X/Y)が、5/95~100/0の範囲内である試料1~5は、重量比(X/Y)が上記範囲外である試料6及び7と比較して、触媒活性妨害剤の分散性がより良好であった。また、重量比(X/Y)が、2/98~49/51の範囲内である試料4~6は、重量比(X/Y)が上記範囲外である試料1~3及び7と比較して、分散安定性がより良好であった。また、重量比(X/Y)が、5/95~80/20の範囲内である試料3~5は、重量比(X/Y)が上記範囲外ある試料1、2、6及び7と比較して、分散性及びメッキ抑制効果がより良好であった。また、重量比(X/Y)が、2/98~80/20の範囲内である試料3~6は、重量比(X/Y)が上記範囲外である試料1~2及び7と比較して、メッキ抑制効果がより良好であった。また、重量比(X/Y)が、5/95~49/51の範囲内である試料4及び5は、重量比(X/Y)が上記範囲外である試料1~3、6及び7と比較して、分散性、分散安定性、メッキ抑制効果が全てより良好であった。
【0107】
表4に示す、触媒活性妨害剤の配合量が異なる試料24~25、4及び26~28を比較する。触媒活性妨害剤の配合量が0.2重量%~5.0重量%の範囲内である試料24~25、4及び26~28は、いずれも、分散性、分散安定性、及びメッキ抑制効果の評価結果が良好であった。中でも、触媒活性妨害剤の配合量が0.2重量%~2.0重量%の範囲内である試料24~25、4及び26~27は、触媒活性妨害剤の配合量が5.0重量%である試料28と比較して、分散安定性がより良好であった。また、触媒活性妨害剤の配合量が0.3重量%~5.0重量%の範囲内である試料25、4及び26~28は、触媒活性妨害剤の配合量が0.2重量%である試料24と比較して、メッキ抑制効果がより良好であった。また、触媒活性妨害剤の配合量が0.3重量%~2.0重量%の範囲内である試料25、4及び26~27は、触媒活性妨害剤の配合量が上記範囲外である試料24及び28と比較して、分散安定性及びメッキ抑制効果が共により良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の無電解メッキ抑制組成物は、安定性が高く、例えば、長時間の製造工程に対応できる。このため、スマートフォン、自動車分野等で用いられるMID等の大量生産されるメッキ部品の製造に利用可能である。