(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】ディーゼルエンジン
(51)【国際特許分類】
F02B 19/08 20060101AFI20240219BHJP
F02B 19/14 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
F02B19/08 C
F02B19/08 E
F02B19/08 H
F02B19/14 A
(21)【出願番号】P 2020217118
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2022-12-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】末廣 貴一
(72)【発明者】
【氏名】尾曽 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】宮田 雄介
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 明
(72)【発明者】
【氏名】藤田 健介
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-152858(JP,A)
【文献】実開昭60-192222(JP,U)
【文献】実開昭59-181219(JP,U)
【文献】実開昭56-161126(JP,U)
【文献】特開昭60-116816(JP,A)
【文献】実開昭49-15305(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 1/00-23/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主燃焼室と、主燃焼室から偏心した箇所に設けられる副室とが噴孔を介して連通され、前記噴孔は、前記副室から前記主燃焼室の中央部に向かう傾斜孔に形成され、
前記副室の噴孔周縁部の壁面における渦流の流れ方向で下流側となる壁面に、前記噴孔に近づくに連れて周囲の壁面よりも盛り上がるガイド面が
形成され、
前記ガイド面は、前記副室で生じる渦流のうちの前記ガイド面で案内される被案内渦流が、前記噴孔から前記副室に入ってくる空気流の向きに沿って又は近づいて円滑に合流される状態となる凹状湾曲面に
形成され、
前記ガイド面の先端部は、前記ガイド面の先端縁に近づくにつれて前記副室の中心側に近づけられ、前記ガイド面の幅方向を横方向として、前記噴孔の前記副室側の開口の横方向両側に一対の補助噴孔の前記副室側の開口が形成されている、ディーゼルエンジン。
【請求項2】
前記噴孔の壁面のうちの前記ガイド面に対応した箇所であるガイド側噴孔壁面と前記ガイド面
の先端の接線とで定まる尖り角度が、10~30度に設定されている請求項
1に記載のディーゼルエンジン。
【請求項3】
前記噴孔は、主噴孔と、前記主噴孔の両サイドに形成される一対の副噴孔とが連なる複葉形状の孔に形成されている請求項1
又は2に記載のディーゼルエンジン。
【請求項4】
前記ガイド面は、前記主噴孔にのみ対応する状態で設けられている請求項
3に記載のディーゼルエンジン。
【請求項5】
前記副室に臨むインジェクタは、当該インジェクタによる噴射燃料が前記噴孔に向かう状態となるように配置されている請求項1~
4の何れか一項に記載のディーゼルエンジン。
【請求項6】
前記ガイド面を備えたガイド壁が前記噴孔周縁部から隆起形成され、前記ガイド壁の先端縁は、
前記横方向の中央部が低くなる凹状湾曲縁となる状態に構成されている請求項1~
5の何れか一項に記載のディーゼルエンジン。
【請求項7】
前記主燃焼室に隣り合う状態でシリンダ
ヘッド壁に嵌着される口金が設けられ、
前記口金に、前記副室を形成するための副室形成用凹部が形成される胴部と、前記噴孔とが形成されている請求項1~
6の何れか一項に記載のディーゼルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主燃焼室に噴孔を介して連なる副室が設けられた構造のディーゼルエンジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
主燃焼室(主室)の他に副燃焼室(副室)を設けたディーゼルエンジン、即ち副室(IDI:Indirect Injection)式ディーゼルエンジンは、副室内に燃料を噴射して着火させ、副室の燃焼ガスが噴孔(絞り)を通じて主室内に噴出して燃焼が完了する。IDIでは、燃焼室表面積が大きいため、絞り損失と熱損失が大きいという弱点があるため、近年では直噴(DI:Direct Injection)式ディーゼルエンジンに置き換えられてきている。
【0003】
しかしながら、IDIは、限られた副室内で燃料を噴射するので、火炎の流速を高くできて低圧の噴射弁でも確実に着火できる良さがある。また、副室内は空気量が少なく燃焼圧と燃焼温度が低いため、DIに比べて、ディーゼルノックが発生しづらく、NOx生成量が少ないという利点もある。従って、IDIは低速型のエンジンに適したシステムであることから、農機や建機、発電機、或いは後進国向けの各種産業機器などには、まだまだニーズがあると考えられる。
【0004】
IDI型のディーゼルエンジンにおいては、実質的に燃焼室となる副室での渦流を如何に効率よく発生させるかが重要なポイントである。例えば、特許文献1において、渦流を弱めることなく始動性の改善が可能となる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、さらなる鋭意研究により、渦流が促進されてより燃焼効率に優れるように改善されるIDI型(副室型)のディーゼルエンジンを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ディーゼルエンジンにおいて、
主燃焼室と、主燃焼室から偏心した箇所に設けられる副室とが噴孔を介して連通され、前記噴孔は、前記副室から前記主燃焼室の中央部に向かう傾斜孔に形成され、
前記副室の噴孔周縁部の壁面における渦流の流れ方向で下流側となる壁面に、前記噴孔に近づくに連れて周囲の壁面よりも盛り上がるガイド面が形成され、
前記ガイド面は、前記副室で生じる渦流のうちの前記ガイド面で案内される被案内渦流が、前記噴孔から前記副室に入ってくる空気流の向きに沿って又は近づいて円滑に合流される状態となる凹状湾曲面に形成され、
前記ガイド面の先端部は、前記ガイド面の先端縁に近づくにつれて前記副室の中心側に近づけられ、前記ガイド面の幅方向を横方向として、前記噴孔の前記副室側の開口の横方向両側に一対の補助噴孔の前記副室側の開口が形成されている、ディーゼルエンジン。
【0009】
本発明に関して、上述した構成(手段)以外の特徴構成や手段ついては、請求項2~7を参照のこと。
【発明の効果】
【0010】
副室式(過流式)のディーゼルエンジンにおいては、主燃焼室から噴孔を通過して副室に入ってくる空気流により、副室で渦流(タンブル)が生じるが、副室内での渦流は、噴孔から新たに副室に入ってくる空気流にぶつかるようになる。そこで、本発明では、副室の噴孔周縁部の壁面における渦流の流れ方向で下流側となる壁面に、噴孔に近づくに連れて周囲の壁面よりも盛り上がるガイド面が形成されている。
【0011】
故に、副室の内部で生じる渦流は、ガイド面による案内作用により、噴孔から入ってくる空気流に沿った又は沿う流れに近い緩い角度で円滑に合流するようになる。従って、副室での渦流(タンブル)が従来のものよりも強化され、圧縮空気と噴射燃料との混合が促進されるようになり、その結果、燃費改善やスモーク低減に寄与できる効果が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】産業用ディーゼルエンジンの副室付近の構造を示す要部の断面図
【
図2】副室形成用の口金を示し、(A)は平面図、(B)は断面図
【
図3】(A)口金を示す斜視図、(B)渦流の流れを示す口金の断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明によるディーゼルエンジンの実施の形態を、農用トラクタなどに適用される産業用ディーゼルエンジンの場合について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1に過流式の産業用ディーゼルエンジンの副室周辺部の断面図が示されている。1はシリンダ(シリンダブロック)、2はシリンダヘッド、3はインジェクタ、4はグロープラグ、5は主燃焼室(主室)、6は副室(副燃焼室)、7は副室形成用の口金、8はピストン、9は口金7に形成された噴孔、10はウォータジャケット(冷却水の通路)、22はガスケットである。なお、ピストンの圧縮上死点においては主燃焼室5の体積は殆どないため、副室6が実質的に燃焼室である、といってもよい。
【0015】
シリンダヘッド2にはインジェクタ3が貫通装備され、インジェクタ3の先端噴射部3aが副室6に臨むように配置されている。副室6は、シリンダ1内に形成される主燃焼室5に、その主燃焼室5の偏心箇所に設けられる噴孔9を介して連通されている。噴孔9は、副室6の壁面(内周面)hの略接線方向で、かつ、主燃焼室5の中央部(ピストン8の軸心8P)に向かう傾斜孔に形成されている。インジェクタ3は、先端噴射部3aからの噴射燃料gが噴孔9に向かう状態となるように配置されている。
【0016】
図1に示されるように、シリンダヘッド2におけるピストン8の軸心8Pからシリンダ周壁側に偏心した位置に、シリンダ1に開口する状態の副室形成穴2Aが形成され、副室形成穴2Aには副室形成用の口金(チャンバー)7が収容されている。副室形成穴2Aは、シリンダヘッド2の主燃焼室5に臨むヘッド底面2aから順に、大径の開口部12と、小径の胴部収容部13と、胴部収容部13よりも奥に位置する空洞部14とを有して構成されている。
【0017】
開口部12には、カップ状に形成された口金7の底部7Aが収容されている。胴部収容部13は、口金7の胴部7Bが収容される箇所であって開口部12よりも小径である。空洞部14は半球よりも少し大きい略半球形に凹んだ箇所に形成され、胴部収容部13とは段付き面(符記省略)で繋がる構成とされている。
【0018】
図1~
図3(A)に示されるように、口金7は、円柱状の胴部7Bと底部7Aとを含んだ段付円柱状の金具で形成されている。底部7Aは胴部7Bの一端側を胴部7Bの外径よりも大径で周方向に張り出たフランジ状の部位として形成されている。胴部7Bの他端側には、胴部7Bの上端面から半球よりも少し小さい略半球形(又は卵球形、まゆ形)の副室形成用凹部11が形成されている。
【0019】
副室6は、空洞部14と副室形成用凹部11とで構成され、噴孔9は、副室形成用凹部11と主燃焼室5とを連通させる部位として底部7Aに形成されている。つまり、シリンダヘッド2における主燃焼室5に隣り合う状態でシリンダヘッド壁2bに嵌着される口金7には、副室6を形成するための副室形成用凹部11が形成される胴部7Bと、噴孔9とが形成されている。
【0020】
図2(A),(B)に示されるように、副室6側の開口である上噴口
(開口)9a及びシリンダ側の開口である下噴口9bを有する噴孔9は、中央の主噴孔15と、その両脇に張り出し形成された一対の副噴孔17,17とを備え、ピストン軸心8Pの方向視で三つ葉形状(複葉形状の一例)を呈する複合孔に形成されている。なお、主噴孔15の両脇に、細径の補助噴孔21,21を形成してもよい。
【0021】
図1及び
図3(B)に示されるように、副室6から噴孔9を通って
下噴口9bから主燃焼室5へ噴出するのは燃焼気流w(
図1に仮想線で示す矢印)であり、ピストン8の上昇移動による圧縮工程時には、主燃焼室5から噴孔9を通って副室6へ圧縮された空気流(圧縮空気流)eが流れ込む。副室6に流れ込む空気流eにより、副室6ではその壁面に沿って流れる縦向きの渦流(タンブル)uが生じる構成とされている。
【0022】
次に、副室6での渦流uを促進させる構造について説明する。
図2、
図3に示されるように、副室6の噴孔周縁部(副室6を形成する壁のうちの噴孔9周りの壁)16の壁面hにおける渦流uの流れ方向で下流側となる裏壁面19に、噴孔9に近づくに連れて周囲の壁面19aよりも盛り上がるガイド面20aが形成されている。副室6の噴孔周縁部16における噴孔9のピストン軸心8P側となる箇所が隆起されてガイド壁20が形成されており、その表面(上面)がガイド面20aとされている。
【0023】
なお、ガイド面20aの定義は、次のように表現することもできる。即ち、副室6の噴孔周縁部16の壁面hにおける噴孔9の向き方向(噴孔9の噴孔軸心pの方向)に対向する側となる対向壁面18の噴孔9に対して反対側となる裏壁面19に、噴孔9に近づくに連れて周囲の壁面19aよりも盛り上がるガイド面20aが形成されている。
【0024】
ガイド壁20(ガイド面20a)の先端縁20bは、ガイド壁20の幅方向で中央部が低くなる凹状湾曲縁となる状態に構成されている。ガイド壁20は、噴孔9(主噴孔15)を形成する壁でもあり、噴孔9を型成形する際の中子(ピン型)の抜き取りにより成形される。図示しない中子は、その断面が三つ葉形状を呈する柱状の部材であるため、製品としての口金7においては、ガイド壁20の先端縁20bが凹状に湾曲している。ガイド面20a(ガイド壁20)の左右幅(噴孔軸心p方向に対する左右幅)は、主噴孔15の幅とほぼ同じ幅に設定されている。
【0025】
図3(B)に示されるように、ガイド面20aは、副室6で生じる渦流uのうちのガイド面20aで案内される被案内渦流auが、噴孔9から副室6に入ってくる空気流eの向きに沿って又は近づいて円滑に合流される状態となる凹状湾曲面〔
図2(B)参照〕に形成されている。即ち、ガイド面20aの始端は、縦方向(ピストン軸心8Pの方向)で裏壁面19に滑らかに接続されており〔
図2(B)参照〕、かつ、裏壁面19におけるガイド壁20の左右に位置する脇壁面(「周囲の壁面」の一例)19a,19aに対しては急激に立ち上がっていて、発射台のような形状〔
図3(A)参照〕である。
【0026】
図2(B)に示されるように、噴孔9の壁面のうちのガイド面20aに対応した箇所であるガイド側噴孔壁面9hと、ガイド面20a先端の接線(先端縁20bを通り、噴孔軸心pとピストン軸心8Pとを結ぶ線分に沿った接線)rで定まる尖り角度θが、10~30度に設定されている。尖り角度θは、小さいほど被案内渦流auと空気流eとが円滑に合流できて好都合である〔
図3(B)参照〕が、あまり角度が小さいとガイド壁20の先端肉厚が薄くなりすぎて耐久性の点では不利になる。従って、尖り角度θは前述の角度範囲(10度≦θ≦30度)が好ましく、20度前後ならばより好ましい。
【0027】
以上のように、渦流式のディーゼルエンジンでは、副室6での渦流の強さを高めることが燃焼効率の向上に繋がることから、副室6内での渦流(タンブル)uが、下噴口9bから入ってくる空気流(圧縮空気流)eと交わる際の速度ベクトルを、空気流eに極力沿わせることが肝要であり、そのためにガイド面20aを設けている〔
図3(B)参照〕。
【0028】
ガイド面20a(ガイド壁20)が無い従来技術の場合では、副室6の内部で生じる渦流uは、噴孔9から入ってくる空気流eに直角に近い大きな角度で衝突することになり、それによって渦流uに乱れが生じ、結果的に渦流uが弱くなり、燃費や出力、あるいはスモークの点で不利な面があった。
【0029】
本発明においては、新設のガイド面20aにより、噴孔9を通過した空気流eによって副室6で生じる渦流uが、その主要部は裏壁面19及びガイド面20aに沿って流れ、空気流eとほぼ同じ向きの流れに案内されて円滑に合流される。その結果、副室6での渦流(タンブル)uが強化され、圧縮空気と噴射燃料との混合が促進されて、燃費改善やスモーク低減に寄与できる効果が得られるようになる。
【0030】
〔別実施形態〕
ガイド面20aは、幅方向の全域に亘って直線状態の先端縁20bを持つ形状でも良く、横方向視〔
図2(B)で示される断面の方向視〕で先端側〔
図2(B)で20aが付された部分〕が直線的な傾斜を持つ面でもよい。また、ガイド面20aの幅は、左右の副噴孔17,17を含む噴孔9の全幅に亘る幅や、主噴孔15の幅より多少小さい幅など、種々設定が可能である。
〔まとめ〕
この発明では、図1、3(B)に示されるように、前記ガイド面20aは、前記副室6で生じる渦流uのうちの前記ガイド面20aで案内される被案内渦流auが、前記噴孔9から前記副室6に入ってくる空気流eの向きに沿って又は近づいて円滑に合流される状態となる凹状湾曲面に形成され、図2(B),3(B)に示されるように、前記ガイド面20aの先端部20cは、前記ガイド面20aの先端縁20bに近づくにつれて前記副室6の中心側に近づけられ、図2(A),3(A)に示されるように、前記ガイド面20aの幅方向を横方向として、前記噴孔9の前記副室6側の開口9aの横方向両側に一対の補助噴孔21・21の前記副室6側の開口21a・21aが形成されている。
また、図2(A),3(A)に示されるように、前記ガイド壁20の先端縁20bは、前記横方向の中央部が低くなる凹状湾曲縁となる状態に構成されている。
【符号の説明】
【0031】
2b シリンダヘッド壁
3 インジェクタ
5 主燃焼室
6 副室
7 口金
7B 胴部
9 噴孔
9a 開口
9h ガイド側噴孔壁面
11 副室形成用凹部
15 主噴孔
16 噴孔周縁部
17 副噴孔
19 裏壁面(渦流の流れ方向で下流側となる壁面)
19a 脇壁面(周囲の壁面)
20 ガイド壁
20a ガイド面
20b 先端縁
20c 先端部
21 補助噴孔
21a 開口
e 空気流
g 噴射燃料
h 壁面(副室の壁面)
r 接線(ガイド面先端の接線)
u 渦流
au 被案内渦流
θ 尖り角度