(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】新規な抗体分子、その調製方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240219BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240219BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240219BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240219BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240219BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240219BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240219BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240219BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240219BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240219BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240219BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240219BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
C07K16/46
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K45/00
A61P29/00
A61P31/00
A61P35/00
A61P37/02
(21)【出願番号】P 2020545187
(86)(22)【出願日】2019-03-26
(86)【国際出願番号】 CN2019079671
(87)【国際公開番号】W WO2019184909
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-15
(31)【優先権主張番号】201810259102.3
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201910196438.4
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518049935
【氏名又は名称】イノベント バイオロジックス (スウツォウ) カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】リウ、ジュンジャン
(72)【発明者】
【氏名】ミャオ、シャオニウ
(72)【発明者】
【氏名】クアン、チフイ
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/014855(WO,A1)
【文献】特表2016-514098(JP,A)
【文献】国際公開第2016/200835(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体分子であって、(i)単一ドメイン抗原結合部位VHHと、(ii)抗原結合Fab断片と、(iii)前記単一ドメイン抗原結合部位VHHのC末端に位置する免疫グロブリンFcドメインとを含み、前記単一ドメイン抗原結合部位VHHは前記抗原結合Fab断片の免疫グロブリンCH1ドメインのC末端に位置し、前記単一ドメイン抗原結合部位VHH及び前記抗原結合Fab断片はそれぞれ抗原PD-L1及びOX40と結合し、かつ、前記単一ドメイン抗原結合部位VHHと前記抗原結合Fab断片との間に接続ペプチドを有するかもしくは有さず、
前記単一ドメイン抗原結合部位VHHがPD-L1分子と特異的に結合し、配列番号3で表されるCDR1と、配列番号4で表されるCDR2と、配列番号5で表されるCDR3とを含み、かつ、
前記抗原結合Fab断片がOX40と特異的に結合し、配列番号11及び7で表される対となる重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列における全ての6つの重鎖CDR及び軽鎖CDRを含む、抗体分子。
【請求項2】
前記単一ドメイン抗原結合部位VHHが、ラクダ科の種に天然に存在する重鎖抗体の重鎖可変ドメイン、及びヒト化ラクダ科抗体の重鎖可変ドメインから選択される、請求項1に記載の抗体分子。
【請求項3】
前記免疫グロブリンがIgG1免疫グロブリン、IgG2免疫グロブリン又はIgG4免疫グロブリンである、請求項1に記載の抗体分子。
【請求項4】
前記Fcドメインが免疫グロブリンの定常部分にヒンジ領域を含み、かつ、前記抗体分子の重鎖が前記ヒンジ領域においてジスルフィド結合を介して互いに安定的に会合する、請求項1に記載の抗体分子。
【請求項5】
前記抗体分子の重鎖のFcドメインは、それぞれKabatのEU番号方式に基づくY349C及びS354C、又はS354C及びY349Cをさらに含み、それによって前記抗体分子の重鎖がFc領域において鎖間ジスルフィド結合をさらに形成する、請求項4に記載の抗体分子。
【請求項6】
前記Fcドメインが抗体のエフェクター機能に影響を与える突然変異をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体分子。
【請求項7】
前記Fcドメインが抗体のエフェクター機能に影響を与えるLALA突然変異をさらに含む、請求項6に記載の抗体分子。
【請求項8】
前記抗体分子の重鎖のFcドメインが、それぞれ突起又は空洞を含み、かつ、一方の重鎖のFcドメインにおける前記突起又は空洞はそれぞれ他方の重鎖のFcドメインにおける空洞又は突起に位置することができ、それによって前記抗体分子の重鎖が互いにノブ-イン-ホールの安定的な会合を形成する、請求項1に記載の抗体分子。
【請求項9】
前記免疫グロブリンCH1ドメイン及び軽鎖定常ドメインCLがそれぞれ突起又は空洞を含み、かつ、CH1ドメインにおける前記突起又は空洞がそれぞれ軽鎖定常ドメインCLにおける空洞又は突起に位置することができ、それによって前記抗体分子の重鎖と軽鎖とが互いにノブ-イン-ホールの安定的な会合を形成する、請求項1に記載の抗体分子。
【請求項10】
前記単一ドメイン抗原結合部位VHHと前記抗原結合Fab断片との間に接続ペプチドを有して、かつ、前記接続ペプチドがアミノ酸配列(Gly4Ser)nを含み、nが1~7の正の整数である、請求項1に記載の抗体分子。
【請求項11】
前記接続ペプチドがアミノ酸配列(Gly4Ser)nを含み、nが2である、請求項10に記載の抗体分子。
【請求項12】
前記単一ドメイン抗原結合部位VHHが配列番号1又は配列番号2で表される抗PD-L1 VHHアミノ酸配列、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上同一である配列を含み、かつ、前記抗原結合Fab断片が配列番号11及び7で表される対となる重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列、又は対となる前記重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の配列同一性を有する配列を含む、請求項1に記載の抗体分子。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体分子をコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項13に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項15】
請求項13に記載のポリヌクレオチド又は請求項14に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項16】
前記宿主細胞が哺乳動物細胞である、請求項15に記載の宿主細胞。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体分子の製造方法であって、(i)前記抗体分子の発現に適する条件で請求項15に記載の宿主細胞を培養する工程と、(ii)前記宿主細胞又は前記宿主細胞の培地から前記抗体分子を回収する工程とを含む、製造方法。
【請求項18】
請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体分子と薬学的に許容可能なベクターとを含む、医薬組成物。
【請求項19】
少なくとも1種の他の有効成分をさらに含む、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体分子と、前記抗体分子と複合する1つ以上の異種分子とを含む免疫複合体であって前記1つ以上の異種分子が細胞傷害剤である、免疫複合体。
【請求項21】
請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体分子、請求項18又は19に記載の医薬組成物、及び請求項20に記載の免疫複合体の、適用対象における疾患を治療及び/又は予防するための医薬品
を調製し、又は疾患の診断
試薬を調製するための使用。
【請求項22】
前記適用対象が哺乳類である、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記適用対象がヒトである、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
前記疾患は自己免疫疾患、急性または慢性炎症性疾患、感染性疾患、及び腫瘍から選択される、請求項21に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体的には、免疫学及び抗体工学の分野に関する。具体的には、本発明は人工的に設計された複数種の新規な抗体分子、前記抗体分子をコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、前記ポリヌクレオチドもしくはベクターを含む宿主細胞、前記抗体分子を含む免疫複合体及び医薬組成物、並びに疾患の免疫治療、予防及び/又は診断における前記抗体分子の使用を開示する。
【背景技術】
【0002】
抗体分子は、対応する抗原と標的特異的に結合することができ、さまざまな疾患(例えば、がん、自己免疫疾患、炎症性疾患、感染性疾患など)の重要な治療剤、予防剤及び/又は診断剤になってきている。しかしながら、臨床利用において、1つの標的だけに対する単一特異性抗体には限界がある。患者が単一特異性抗体による治療を受けた後、薬剤耐性が生じたり、非応答者になったりすることがある。がんや他のさまざまな疾患についての研究により、複数種のシグナル伝達経路が疾患の発生と発展に関与する場合が多く、単一の標的による免疫療法が多くの疾患に対しては一般に治療作用を果たすのに不十分であることが分かった。
【0003】
多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)は異なる抗原と特異的に結合できるため、一方の抗原が特定の免疫細胞に位置し、他方の抗原が疾患細胞に位置する場合は、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)は特定の免疫細胞を疾患細胞にリダイレクトすることによって、疾患細胞に対する免疫細胞の殺滅作用を強化できる。また、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)も、2種以上の異なる媒体に同時に作用するシグナル伝達経路として設計されてもよい。これらの利点により、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)の幅広い応用に将来性が期待できる。
【0004】
抗体工学により想像力に満ちた数多くの多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)の形態が開発されており、疾患への利用に関するそれらの適用性も研究されている(Brinkmann U.&Kontermann R.E.,The making of bispecific antibodies,Mabs,2017,9(2):182-212)。現在、市販品として承認された2種の二重特異性抗体製品は、それぞれMicromet社及びAmgen社によって開発されたBlinatumomab、及びTrion Pharma社によって開発されたCatumaxomabである。Blinatumomabは米国で初めて市販品として承認されたB細胞非ホジキンリンパ腫(NHL)及び前駆B急性リンパ芽球性白血病リンパ腫(ALL)を治療するための分子量が約55KDaの単鎖二重特異性抗体であり、それぞれCD19分子及びCD3分子をターゲットとする2種の単鎖Fv分子が可動性リンカーを介して融合してなり、ほぼ全てのB細胞リンパ腫において発現されるCD19及びT細胞において発現されるCD3を用いて、T細胞と標的細胞(腫瘍細胞)を緊密に結合させ、T細胞がパーフォリン及びテロメラーゼをシナプス間隙に放出して、腫瘍細胞に一連の化学反応を引き起こすことによって、腫瘍細胞を殺滅する(Nagorsen D.&Baeuerle P.A.,Immunomodulatory therapy of cancer with T cell-engaging BiTE antibody blinatumomab,Exp Cell Res,2011,317:1255-1260)。Catumaxomabは、それぞれ親マウスIgG2aアイソタイプ及びラットIgG2bアイソタイプに由来する2つの半抗体からなるキメラであり、それぞれの半抗体は1本の軽鎖と1本の重鎖とを有し、抗CD3ラットIgG2b半抗体はT細胞を認識し、抗腫瘍細胞表面抗原EpCAM(上皮細胞接着分子)のマウスIgG2a半抗体は腫瘍細胞を認識するために用いられる(CheliusD et al.,Structural and functional characterization of the trifunctional antibody catumaxomab,MAbs,2010,2:309-319)。Catumaxomab(Removab(登録商標))は2009年4月に欧州でEpCAM陽性の上皮性転移性腫瘍が引き起こす悪性腹水の治療用許可を取っていた。
【0005】
多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)は、その構成部分及び構築方式によって多くの種類に分けることができる。例えば、多重特異性抗体構造の左右対称性によって、対称構造及び非対称構造に分けられ、多重特異性抗体におけるIgGのFc領域の有無によって、Fc領域を持つ抗体の形態及びFc領域を持たない抗体の形態に分けられ、多重特異性抗体における抗原結合部位の数量によって、二価、三価、四価又はそれ以上の多価抗体などに分けることができる。
【0006】
従来技術による多重特異性抗体の形態はその調製においても利用においてもそれぞれ利点と欠点があり、例えば、Blinatumomabは、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を組換えることによって大規模に培養して製造できるが、凝集物が形成されやすく、インビボ半減期が非常に短く、実際に使用する時は連続輸液装置を別途設ける必要があり、Catumaxomabは製造プロセスが複雑であり、しかもマウスヘテロ抗体が人体で免疫原性関連の問題を引き起こしやすい。
【0007】
したがって、本分野では選択可能で特性的に改善されている多重特異性抗体の形態が求められる。本発明は、新規な多重特異性抗体の形態を提供する。前記抗体形態は分子量が小さくかつ安定性が高い単一ドメイン抗原結合部位を構築モジュールとして使用し、Fab断片のN末端又はC末端に接続させており、このように得た接続物をFc領域に接続させると、インビトロで培養細胞において効果的に発現されやすく、複雑な製造プロセスを必要としない。また、本発明の抗体形態においてFc領域の存在により、培養細胞において本発明の抗体が発現された後、ワンステップアフィニティークロマトグラフィーを用いると精製された抗体を得ることができ、しかも本発明の抗体はインビボで血清半減期が比較的長く、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食作用(ADCP)及び補体依存性細胞傷害作用(CDC)のようなエフェクター機能を引き起こすことができる。本発明の多重特異性抗体の形態は、該多重特異性抗体における各抗原結合部位の対応する異なるエピトープとの結合親和力を保持でき、かつ異なるエピトープと結合する場合は互いに立体障害による干渉が生じいため、ドラッガブルである。さらに、本発明の多重特異性抗体の形態は、物理的・生物学的に安定しており、このため該抗体にはより良好な生産性と将来性が期待できる。
【発明の概要】
【0008】
本出願は、抗体工学的方法によって構築された新規な抗体分子を開示する。前記抗体分子は、高親和力と高特異性で1種又は複数種の抗原と結合し、好ましくは、2種以上の抗原と結合することができる。さらに本発明は、前記抗体をコードする核酸分子、前記抗体分子を産生するための発現ベクター、宿主細胞及び方法を提供する。さらに本発明は、本発明の抗体分子を含む免疫複合体及び医薬組成物を提供する。本出願で開示されている抗体分子は、単独で、又は他の医薬品もしくは他の治療方式と組み合わせて、自己免疫疾患、急性または慢性炎症性疾患、感染性疾患(例えば、慢性感染症又は敗血症)、腫瘍などの疾患を治療、予防及び/又は診断することができる。
【0009】
このため、1つの様態において、本発明は、以下に示される1つ又は複数の特性を有する抗体分子を提供する:
(a)高親和力、例えば少なくとも約107M-1、好ましくは約108M-1、より好ましくは約109M-1又はそれよりも高い親和力定数で1種又は複数種の抗原と特異的に結合する;
(b)インビトロで培養細胞において発現されやすく、かつ抗体分子の各鎖同士が正確にカップリング又はペアリングすることができる;
(c)良好な物理的安定性を有し、特に、良好な長期的熱安定性を有し、かつ長期間にわたって生物学的活性を保持できる;かつhttp://en.wikipedia.org/wiki/CD80、
(d)1種又は複数種の抗原と特異的に結合すると、各抗原が関与するシグナル伝達経路を調節(例えば、抑制又は作動)することによって生物学的機能を発揮する;
(e)1種又は複数種の抗原と特異的に結合すると、Fc領域によってエフェクター機能を発揮する。
【0010】
1つの実施形態において、本発明の抗体分子は(i)単一ドメイン抗原結合部位と、(ii)抗原結合Fab断片とを含み、前記単一ドメイン抗原結合部位は前記抗原結合Fab断片の軽鎖可変ドメイン(VL)のN末端もしくは前記抗原結合Fab断片の軽鎖定常領域(CL)のC末端に位置し、又は、前記単一ドメイン抗原結合部位は前記抗原結合Fab断片の重鎖可変ドメイン(VH)のN末端もしくは免疫グロブリンCH1ドメインのC末端に位置し、前記単一ドメイン抗原結合部位及び前記抗原結合Fab断片は同じ又は異なる抗原と結合し、かつ、前記単一ドメイン抗原結合部位と前記抗原結合Fab断片との間に、接続ペプチドを有するかもしくは有さない、本発明の抗体分子は前記単一ドメイン抗原結合部位及び前記抗原結合Fab断片のC末端に位置する(iii)免疫グロブリンFcドメインをさらに含む。
【0011】
1つの実施形態において、本発明の抗体分子は少なくとも4つの抗原結合部位を含み、それぞれは少なくとも2つの単一ドメイン抗原結合部位及び少なくとも2つのFab断片における抗原結合部位であり、少なくとも4種、3種、2種の異なる抗原と結合し、又は1種の同じ抗原と結合する。結合対象となる各種の抗原に対して、本発明の抗体分子における抗原結合部位が結合するのは、抗原分子における同じ又は異なるエピトープである。1つの実施形態において、本発明の抗体分子は4つの抗原結合部位を含み、そのうち、2つの単一ドメイン抗原結合部位は第1抗原における同じ又は異なるエピトープと結合し、2つのFab断片は第2抗原における同じ又は異なるエピトープと結合し、前記第1抗原は前記第2抗原と異なる。
【0012】
1つの実施形態において、本発明の抗体分子における単一ドメイン抗原結合部位と抗原結合Fab断片との間には、接続ペプチドとして、単独で又は組み合わせて使用されたグリシン及び/又はセリン残基を有する。例えば、前記接続ペプチドはアミノ酸配列(Gly4Ser)nを含み、ここでnは1以上の正の整数であり、例えば、nは1~7の正の整数であり、nは2、3、4、5、6である。
【0013】
1つの実施形態において、本発明の抗体分子における単一ドメイン抗原結合部位が重鎖可変ドメイン(VH)、軽鎖可変ドメイン(VL)、天然の軽鎖欠如抗体の重鎖可変ドメイン(例えば、ラクダ科(Camelidae)種で天然に存在する重鎖抗体の重鎖可変ドメイン)、魚類免疫グロブリンにおけるVH様単一ドメイン(新規抗原受容体又はNAR、例えば、サメの血清で天然に存在するIgNARと呼ばれる)、及びこれらから誘導される組換え単一ドメイン抗原結合部位(例えば、ラクダ化ヒトVHドメイン、ヒト化ラクダ科抗体の重鎖可変ドメイン)から選択される。1つの好ましい実施形態において、本発明の抗体分子における前記単一ドメイン抗原結合部位は、ラクダ科で天然に存在する重鎖抗体の重鎖可変ドメイン、ラクダ化ヒトVHドメイン、及びヒト化ラクダ科抗体の重鎖可変ドメインから選択される。本出願において天然の軽鎖欠如重鎖抗体から誘導される重鎖可変ドメインは、四本鎖免疫グロブリンにおける通常のVH領域と区別するために、VHHとも呼ばれる。このようなVHH分子は、ラクダ科の種(例えばラクダ、アルパカ、ヒトコブラクダ、リャマ、グアナコ)で産生する抗体から誘導されてもよい。ラクダ科以外の種も天然の軽鎖欠如重鎖抗体を産生でき、このようなVHHも本発明の範囲内である。
【0014】
1つの実施形態において、本発明は、4本のポリペプチド鎖を含む抗体分子であって、第1ポリペプチド鎖及び第3ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖は免疫グロブリン軽鎖と、前記免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)のN末端に位置する単一ドメイン抗原結合部位、例えばVHHとを含み、第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖は免疫グロブリン重鎖を含む抗体分子を提供する。好ましくは、前記免疫グロブリンがIgG1免疫グロブリン、IgG2免疫グロブリン又はIgG4免疫グロブリンであり、より好ましくは、前記免疫グロブリンはヒトIgG1免疫グロブリンである。
【0015】
1つの実施形態において、本発明は、4本のポリペプチド鎖を含む抗体分子であって、第1ポリペプチド鎖及び第3ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖は免疫グロブリン軽鎖と、前記免疫グロブリン軽鎖定常領域(CL)のC末端に位置する単一ドメイン抗原結合部位、例えばVHHとを含み、第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖は免疫グロブリン重鎖を含む抗体分子を提供する。好ましくは、前記免疫グロブリンがIgG1免疫グロブリン、IgG2免疫グロブリン又はIgG4免疫グロブリンであり、より好ましくは、前記免疫グロブリンはヒトIgG1免疫グロブリンである。
【0016】
1つの実施形態において、本発明は、4本のポリペプチド鎖を含む抗体分子であって、第1ポリペプチド鎖及び第3ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖は免疫グロブリン軽鎖を含み、第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖は免疫グロブリン重鎖と、前記免疫グロブリン重鎖のN末端に位置する単一ドメイン抗原結合部位、例えばVHHとを含む抗体分子を提供する。好ましくは、前記免疫グロブリンがIgG1免疫グロブリン、IgG2免疫グロブリン又はIgG4免疫グロブリンであり、より好ましくは、前記免疫グロブリンはヒトIgG1免疫グロブリンである。
【0017】
1つの実施形態において、本発明は、4本のポリペプチド鎖を含む抗体分子であって、第1ポリペプチド鎖及び第3ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖は免疫グロブリン軽鎖を含み、第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで免疫グロブリン重鎖可変領域と、免疫グロブリンCH1ドメインと、単一ドメイン抗原結合部位(例えばVHH)と、免疫グロブリンCH2、CH3ドメインと、必要に応じてCH4ドメインとを含む抗体分子を提供する。好ましくは、前記免疫グロブリンがIgG1免疫グロブリン、IgG2免疫グロブリン又はIgG4免疫グロブリンであり、より好ましくは、前記免疫グロブリンはヒトIgG1免疫グロブリンである。
【0018】
1つの実施形態において、本発明は、4本のポリペプチド鎖を含む抗体分子であって、第1ポリペプチド鎖及び第3ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで単一ドメイン抗原結合部位(例えばVHH)と、免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)と、免疫グロブリン軽鎖定常領域(CL)とを含み、第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)と、免疫グロブリンCH1、CH2、CH3ドメインと、必要に応じてCH4ドメインとを含む抗体分子を提供する。好ましくは、前記免疫グロブリンがIgG1免疫グロブリン、IgG2免疫グロブリン又はIgG4免疫グロブリンであり、より好ましくは、前記免疫グロブリンはヒトIgG1免疫グロブリンである。
【0019】
1つの実施形態において、本発明は、4本のポリペプチド鎖を含む抗体分子であって、第1ポリペプチド鎖及び第3ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)と、免疫グロブリン軽鎖定常領域(CL)と、単一ドメイン抗原結合部位(例えばVHH)とを含み、第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)と、免疫グロブリンCH1、CH2、CH3ドメインと、必要に応じてCH4ドメインとを含む抗体分子を提供する。好ましくは、前記免疫グロブリンがIgG1免疫グロブリン、IgG2免疫グロブリン又はIgG4免疫グロブリンであり、より好ましくは、前記免疫グロブリンはヒトIgG1免疫グロブリンである。
【0020】
1つの実施形態において、本発明は、4本のポリペプチド鎖を含む抗体分子であって、第1ポリペプチド鎖及び第3ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)と、免疫グロブリン軽鎖定常領域(CL)とを含み、第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで単一ドメイン抗原結合部位(例えばVHH)と、免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)と、免疫グロブリンCH1、CH2、CH3ドメインと、必要に応じてCH4ドメインとを含む抗体分子を提供する。好ましくは、前記免疫グロブリンがIgG1免疫グロブリン、IgG2免疫グロブリン又はIgG4免疫グロブリンであり、より好ましくは、前記免疫グロブリンはヒトIgG1免疫グロブリンである。
【0021】
1つの実施形態において、本発明は、4本のポリペプチド鎖を含む抗体分子であって、第1ポリペプチド鎖及び第3ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)と、免疫グロブリン軽鎖定常領域(CL)とを含み、第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)と、免疫グロブリンCH1ドメインと、単一ドメイン抗原結合部位(例えばVHH)と、免疫グロブリンCH2、CH3ドメインと、必要に応じてCH4ドメインとを含む抗体分子を提供する。好ましくは、前記免疫グロブリンがIgG1免疫グロブリン、IgG2免疫グロブリン又はIgG4免疫グロブリンであり、より好ましくは、前記免疫グロブリンはヒトIgG1免疫グロブリンである。
【0022】
1つの実施形態において、本発明は、4本のポリペプチド鎖を含む抗体分子であって、第1ポリペプチド鎖及び第3ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで単一ドメイン抗原結合部位(例えばVHH)と、免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)と、免疫グロブリンCH1ドメインとを含み、第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)と、免疫グロブリン軽鎖定常領域(CL)と、免疫グロブリンCH2、CH3ドメインと、必要に応じてCH4ドメインとを含む抗体分子を提供する。好ましくは、前記免疫グロブリンがIgG1免疫グロブリン、IgG2免疫グロブリン又はIgG4免疫グロブリンであり、より好ましくは、前記免疫グロブリンはヒトIgG1免疫グロブリンである。
【0023】
1つの実施形態において、本発明は、4本のポリペプチド鎖を含む抗体分子であって、第1ポリペプチド鎖及び第3ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)と、免疫グロブリンCH1ドメインと、単一ドメイン抗原結合部位(例えばVHH)とを含み、第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)と、免疫グロブリン軽鎖定常領域(CL)と、免疫グロブリンCH2、CH3ドメインと、必要に応じてCH4ドメインとを含む抗体分子を提供する。好ましくは、前記免疫グロブリンがIgG1免疫グロブリン、IgG2免疫グロブリン又はIgG4免疫グロブリンであり、より好ましくは、前記免疫グロブリンはヒトIgG1免疫グロブリンである。
【0024】
1つの実施形態において、本発明は、4本ポリペプチド鎖を含む抗体分子であって、第1ポリペプチド鎖及び第3ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)と、免疫グロブリンCH1ドメインとを含み、第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで単一ドメイン抗原結合部位(例えばVHH)と、免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)と、免疫グロブリン軽鎖定常領域(CL)と、免疫グロブリンCH2、CH3ドメインと、必要に応じてCH4ドメインとを含む抗体分子を提供する。好ましくは、前記免疫グロブリンがIgG1免疫グロブリン、IgG2免疫グロブリン又はIgG4免疫グロブリンであり、より好ましくは、前記免疫グロブリンはヒトIgG1免疫グロブリンである。
【0025】
1つの実施形態において、本発明は、4本のポリペプチド鎖を含む抗体分子であって、第1ポリペプチド鎖及び第3ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)と、免疫グロブリンCH1ドメインとを含み、第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖の各ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)と、免疫グロブリン軽鎖定常領域(CL)と、単一ドメイン抗原結合部位(例えばVHH)と、免疫グロブリンCH2、CH3ドメインと、必要に応じてCH4ドメインとを含む抗体分子を提供する。好ましくは、前記免疫グロブリンがIgG1免疫グロブリン、IgG2免疫グロブリン又はIgG4免疫グロブリンであり、より好ましくは、前記免疫グロブリンはヒトIgG1免疫グロブリンである。
【0026】
本発明に係る4本のポリペプチド鎖を含む抗体分子において、発明者は抗体の分子構造を安定化させるとともに各鎖同士間の正確なカップリング又はペアリングを容易にするためにアミノ酸残基を設計している。例えば、抗体分子の第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖のFcドメインには、「CPPC」アミノ酸残基を有するヒンジ領域が含まれ、それによって前記第2ポリペプチド鎖と第4ポリペプチド鎖は互いに前記ヒンジ領域のアミノ酸残基の間に形成されたジスルフィド結合によって安定的に会合する。1つの実施形態において、本発明の抗体分子の第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖はそれぞれのFcドメインにそれぞれY349C及びS354Cが含まれ、又はそれぞれS354C及びY349Cが含まれ(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)のEUインデックスに基づいて番号を付け、以下「EU番号方式」という)、それによって、第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖はFc領域でさらに鎖間のジスルフィド結合を形成することによって、第2ポリペプチド鎖と第4ポリペプチド鎖の正確なペアリングを安定化させる。
【0027】
1つの実施形態において、本発明の抗体分子の第2ポリペプチド鎖及び/又は第4ポリペプチド鎖は、Fcドメインに抗体エフェクター機能に影響を与えるアミノ酸突然変異が含まれる。1つの特定の実施形態において、前記エフェクター機能は、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)である。1つの実施形態において、前記アミノ酸突然変異は、Fc領域のCH2ドメインに存在し、例えば、前記抗体分子は、第2ポリペプチド鎖及び/又は第4ポリペプチド鎖の第234位及び第235位(EU番号方式)のアミノ酸置換を含む。1つの特定の実施形態において、前記アミノ酸置換は、L234A及びL235Aである(以下、「LALA突然変異」という)。
【0028】
1つの実施形態において、本発明の抗体分子の第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖のそれぞれのFcドメインにはそれぞれ突起(「ノブ(kno)」)又は空洞(「ホール(hole)」)が含まれ、かつ第2ポリペプチド鎖のFcドメインにおける前記突起又は空洞は、それぞれ第4ポリペプチド鎖のFcドメインにおける前記空洞又は突起に置いてもよく、それによって前記第2ポリペプチド鎖と第4ポリペプチド鎖は互いに「ノブ-イン-ホール(knob-in-hole)」のように安定的に会合し得る。1つの実施形態において、前記第2ポリペプチド鎖と第4ポリペプチド鎖の一方の鎖にはアミノ酸置換T366Wが含まれ、かつ、前記第2ポリペプチド鎖と第4ポリペプチド鎖の他方の鎖にはアミノ酸置換T366S、L368A及びY407V(EU番号方式)が含まれる。それによって一方の鎖の突起を他方の鎖の空洞に置くことによって、第2ポリペプチド鎖と第4ポリペプチド鎖の正確なペアリングを促進することができる。
【0029】
1つの実施形態において、本発明の抗体分子の第1ポリペプチド鎖及び第2ポリペプチド鎖の免疫グロブリンCLドメイン及びCH1ドメインにはそれぞれ突起又は空洞が含まれ、かつ、CH1ドメインにおける前記突起又は空洞はそれぞれCLドメインにおける前記空洞又は突起に置くことによって、前記第1ポリペプチド鎖と第2ポリペプチド鎖も互いに「ノブ-イン-ホール」のように安定的に会合し得る。同様に、本発明の抗体分子の第3ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖の免疫グロブリンCLドメイン及びCH1ドメインにもそれぞれ突起又は空洞が含まれ、かつ、CH1ドメインにおける前記突起又は空洞はそれぞれCLドメインにおける前記空洞又は突起に置くことによって、前記第3ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖も互いに「ノブ-イン-ホール」のように安定的に会合し得る。
【0030】
1つの実施形態において、本発明の抗体分子における2つの単一ドメイン抗原結合部位は第1抗原における同じエピトープと結合し、2つのFab断片は第2抗原における同じエピトープと結合し、それによって、前記抗体分子は第1抗原及び第2抗原に対する二重特異性抗体である。
【0031】
本発明の抗体分子が特異的に結合する抗原のタイプについては特に制限がなく、抗原は、例えば、サイトカイン、成長因子、ホルモン、シグナル伝達タンパク質、炎症性メディエーター、リガンド、細胞表面受容体又はその断片であってもよい。1つの実施形態において、本発明の抗体分子が特異的に結合する抗原は、腫瘍関連抗原、免疫チェックポイント分子、血管新生因子、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーのメンバー及び免疫系における共刺激分子、並びにこれら分子のリガンド及び/又は受容体、例えば、OX40、CD47、PD1、PD-L1、PD-L2、LAG-3、4-1BB(CD137)、VEGF及びGITRから選択される。
【0032】
本発明において、下記の複数種の二重特異性抗体が例示される。
【0033】
i)1つの実施形態において、本発明の抗体分子は、抗OX40/PD-L1二重特異性抗体であり、前記抗体は、少なくとも約107M-1、好ましくは約108M-1、より好ましくは約109M-1又はそれよりも高い親和力定数で、腫瘍細胞表面で発現された腫瘍壊死因子(TNF)受容体ファミリーのメンバーOX40と結合することによって、T細胞を活性化させ、例えば、エフェクターT細胞の免疫刺激/エフェクト機能を強化させかつ/又はこれらの細胞を増殖させかつ/又は制御性T細胞の免疫抑制機能をダウンレギュレートし、さらに少なくとも約107M-1、好ましくは約108M-1、より好ましくは約109M-1又はそれよりも高い親和力定数で腫瘍細胞表面のPD-L1と結合することによって、T細胞におけるPD-1と腫瘍細胞表面のPD-L1の結合を抑制して、T細胞の活性化を誘導して抗腫瘍作用を発揮させることができる。
【0034】
1つの実施形態において、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体は左右に実質的に対称な4本のポリペプチド鎖からなり、左半分の2本のポリペプチド鎖及び右半分の2本のポリペプチド鎖は、いずれも(i)単一ドメイン抗原結合部位と、(ii)抗原結合Fab断片とを含み、前記単一ドメイン抗原結合部位は前記抗原結合Fab断片の軽鎖可変ドメイン(VL)のN末端もしくは前記抗原結合Fab断片の軽鎖定常領域(CL)のC末端に位置し、又は前記単一ドメイン抗原結合部位は前記抗原結合Fab断片の重鎖可変ドメイン(VH)のN末端もしくは免疫グロブリンCH1ドメインのC末端に位置し、前記単一ドメイン抗原結合部位及び前記抗原結合Fab断片はOX40又はPD-L1と結合し、かつ、前記単一ドメイン抗原結合部位と抗原結合Fab断片との間に、接続ペプチドを有するかもしくは有さない、左半分の2本のポリペプチド鎖及び右半分の2本のポリペプチド鎖は、前記単一ドメイン抗原結合部位及び前記抗原結合Fab断片のC末端に位置する(iii)免疫グロブリンFcドメインをさらに含む。
【0035】
1つの実施形態において、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体における単一ドメイン抗原結合部位はPD-L1と特異的に結合するVHHであり、Fab断片はOX40と特異的に結合する抗OX40抗体Fab断片である。
【0036】
1つの好ましい実施形態において、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体におけるPD-L1と特異的に結合する前記VHHは配列番号3で表されるCDR1と、配列番号4で表されるCDR2と、配列番号5で表されるCDR3とを含み、又は前記3つのCDRの1つ又は複数のCDRに対して1、2、3、4、5、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)配列であり、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体におけるOX40と特異的に結合する前記抗OX40抗体Fab断片は抗OX40抗体ADI-20112から誘導される配列番号11及び7で表される対となる重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列における全ての6つの重鎖相補性決定領域(CDR)及び軽鎖CDR、又は前記6つCDRの1つ又は複数のCDRに対して1、2、3、4、5、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)配列を含む。
【0037】
別の実施形態において、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体におけるPD-L1と特異的に結合する前記VHHは配列番号1又は配列番号2で表されるアミノ酸配列、又はそれと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上に同じ)である配列を含み、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体におけるOX40と特異的に結合する前記抗OX40抗体Fab断片は、抗OX40抗体ADI-20112から誘導される配列番号11及び7で表される対となる重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列、又は対となる前記重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の配列同一性を有する配列を含む。
【0038】
別の好ましい実施形態において、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体は左右に実質的に対称な4本のポリペプチド鎖からなり、前記抗体分子の左半分の2本のポリペプチド鎖はそれぞれ配列番号6で表される第1ポリペプチド鎖と、配列番号10で表される第2ポリペプチド鎖とを含み、それぞれ配列番号14で表される第1ポリペプチド鎖と、配列番号10で表される第2ポリペプチド鎖とを含み、それぞれ配列番号15で表される第1ポリペプチド鎖と、配列番号16で表される第2ポリペプチド鎖とを含み、それぞれ配列番号15で表される第1ポリペプチド鎖と、配列番号17で表される第2ポリペプチド鎖とを含み、又は前記配列のいずれかと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上に同じ)である配列を含み、これに対応して、前記抗体分子の右半分の2本のポリペプチド鎖はそれぞれ配列番号6で表される第3ポリペプチド鎖と、配列番号10で表される第4ポリペプチド鎖とを含み、それぞれ配列番号14で表される第3ポリペプチド鎖と、配列番号10で表される第4ポリペプチド鎖とを含み、それぞれ配列番号15で表される第3ポリペプチド鎖と、配列番号16で表される第4ポリペプチド鎖とを含み、それぞれ配列番号15で表される第3ポリペプチド鎖と、配列番号17で表される第4ポリペプチド鎖とを含み、又は前記配列のいずれかと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上に同じ)である配列を含む。
【0039】
ii)1つの実施形態において、本発明の抗体分子は抗VEGF/GITR二重特異性抗体であり、前記抗体は少なくとも約107M-1、好ましくは約108M-1、より好ましくは約109M-1又はそれよりも高い親和力定数で血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Cell Growth Factor、VEGF)と結合することによって、VEGFとその受容体VEGFRの結合を遮断して、VEGFRが活性化できないようにし、それによって抗血管新生作用を発揮し、例えば、抗腫瘍血管新生作用を発揮し、腫瘍の成長を抑制する。かつ、少なくとも約107M-1、好ましくは約108M-1、より好ましくは約109M-1又はそれよりも高い親和力定数でCD4+及びCD8+T細胞におけるグルココルチコイドによって誘導された腫瘍壊死因子受容体(GITR)と結合し、それによって制御性T細胞(Treg)の抑制作用を逆転するとともにエフェクターT細胞の共刺激と活性化により抗腫瘍作用を発揮する。
【0040】
1つの実施形態において、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体は左右に実質的に対称な4本のポリペプチド鎖からなり、左半分の2本のポリペプチド鎖及び右半分の2本のポリペプチド鎖は、いずれも(i)単一ドメイン抗原結合部位と、(ii)抗原結合Fab断片とを含み、前記単一ドメイン抗原結合部位は前記抗原結合Fab断片の軽鎖可変ドメイン(VL)のN末端もしくは前記抗原結合Fab断片の軽鎖定常領域(CL)のC末端に位置し、又は前記単一ドメイン抗原結合部位は前記抗原結合Fab断片の重鎖可変ドメイン(VH)のN末端もしくは免疫グロブリンCH1ドメインのC末端に位置し、前記単一ドメイン抗原結合部位及び前記抗原結合Fab断片はVEGF又はGITRと結合し、前記単一ドメイン抗原結合部位と前記抗原結合Fab断片との間に、接続ペプチドを有するかもしくは有さない、左半分の2本のポリペプチド鎖及び右半分の2本のポリペプチド鎖は、前記単一ドメイン抗原結合部位及び前記抗原結合Fab断片のC末端に位置する(iii)免疫グロブリンFcドメインをさらに含む。
【0041】
1つの実施形態において、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体における単一ドメイン抗原結合部位はGITRと特異的に結合するVHHであり、Fab断片はVEGFと特異的に結合する抗VEGF抗体Fab断片である。
【0042】
1つの好ましい実施形態において、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体におけるGITRと特異的に結合する前記VHHはGFAFGSS(配列番号25)で表されるCDR1と、SGGGFGD(配列番号26)で表されるCDR2と、ATDWRKP(配列番号27)で表されるCDR3とを含み、又は前記3つのCDRの1つ又は複数のCDRに対して1、2、3、4、5、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)配列であり、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体におけるVEGFと特異的に結合する前記抗VEGF抗体Fab断片は抗VEGF抗体Avastinから誘導される配列番号22/20で表される対となる重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列における全ての6つの重鎖相補性決定領域(CDR)及び軽鎖CDR、又は前記6つCDRの1つ又は複数のCDRに対して1、2、3、4、5、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)配列を含む。
【0043】
別の実施形態において、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体におけるGITRと特異的に結合する前記VHHは配列番号24で表される抗GITR VHHから誘導されるアミノ酸配列、又はそれと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上に同じ)である配列を含み、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体におけるVEGFと特異的に結合する前記抗VEGF抗体Fab断片は、抗VEGF抗体Avastinから誘導される配列番号22/20で表される対となる重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列、又は対となる前記重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の配列同一性を有する配列を含む。
【0044】
別の好ましい実施形態において、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体は左右に実質的に対称な4本のポリペプチド鎖からなり、前記抗体分子の左半分の2本のポリペプチド鎖はそれぞれ配列番号18で表される第1ポリペプチド鎖と、配列番号21で表される第2ポリペプチド鎖とを含み、それぞれ配列番号18で表される第1ポリペプチド鎖と、配列番号28で表される第2ポリペプチド鎖とを含み、又は前記配列のいずれかと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上に同じ)である配列を含み、これに対応して、前記抗体分子の右半分の2本のポリペプチド鎖はそれぞれ配列番号18で表される第3ポリペプチド鎖と、配列番号21で表される第4ポリペプチド鎖とを含み、それぞれ配列番号18で表される第3ポリペプチド鎖と、配列番号28で表される第4ポリペプチド鎖とを含み、又は前記配列のいずれかと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上に同じ)である配列を含む。
【0045】
第2の態様において、本発明は、本発明の抗体分子におけるいずれか1本又は複数本のポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0046】
第3の態様において、本発明は、本発明の抗体分子におけるいずれか1本又は複数本のポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドを含むベクター、好ましくは発現ベクターを提供する。
【0047】
第4の態様において、本発明は、本発明のポリヌクレオチド又はベクターを含む宿主細胞を提供する。例えば、前記宿主細胞は、哺乳動物細胞であり、好ましくはCHO細胞、HEK293細胞であり、前記宿主細胞は、原核細胞、好ましくは大腸菌細胞である。
【0048】
第5の態様において、本発明は、本発明の抗体分子の産生方法を提供する。前記方法は、(i)前記抗体分子の発現に適する条件において本発明の宿主細胞を培養する工程と、(ii)前記宿主細胞又は前記培地から前記抗体分子を回収する工程とを含む。
【0049】
第6の態様において、本発明は、本発明の抗体分子を含む免疫複合体及び医薬組成物を提供する。本出願で開示されている抗体分子は、単独で、又は他の医薬品もしくは他の治療方式と組み合わせて、自己免疫疾患、急性または慢性炎症性疾患、感染性疾患(例えば、慢性感染症又は敗血症)、腫瘍などの疾患を治療、予防及び/又は診断することができる。
【0050】
第7の態様において、本発明は、本発明の抗体分子、免疫複合体及び医薬組成物の使用を提供し、対象における疾患を治療及び/又は予防するための医薬品又は疾患の診断ツールとして用いられる。好ましくは、前記対象は、哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。1つの実施形態において、前記疾患は、自己免疫疾患、急性または慢性炎症性疾患、感染性疾患(例えば、慢性感染症又は敗血症)、腫瘍である。
【0051】
特に断らない限り、本出願で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明の当業者が理解している通常の意味を有する。本出願に言及される全ての刊行物、特許出願、特許又は他の参照文献は引用によりその全体が組み込まれる。また、本出願に記載の材料、方法及び例は、説明用のものであり、制限することが意図されない。本発明の他の特徴、目的及び利点は、本明細書と図面、添付された特許請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
以下の図面を参照して閲覧すれば、次に詳細に説明される本発明の好ましい実施形態をよりよく理解できる。本発明を説明するために、図面に好ましい実施形態が示されている。しかしながら、本発明は図面に示される実施形態の特定の配置又は手段に制限されていないことは理解できる。
【
図2】
図2A-
図2Dは、それぞれサイズ排除クロマトグラフィー(size exclusion chromatography、SEC)を利用して検出された、本発明によって調製された4種の構造の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体Bi-110-112HC、Bi-113-112HC、Bi-119-112LC及びBi-122-112LCの純度を示す。
【
図3】
図3は、FACSにより検出された、抗OX40/PD-L1二重特異性抗体Bi-119-112LC、及び対照である抗PD-L1ヒト化Nb-Fc抗体とPD-L1を過剰発現させたCHO細胞の結合を示す。図中、横軸は抗体濃度を示し、縦軸は平均蛍光強度(MFI)を示す。
【
図4】
図4は、FACSにより検出された、抗OX40/PD-L1二重特異性抗体Bi-119-112LC、及び陽性対照である抗OX40抗体ADI-20112とOX40を過剰発現させたCHO-S細胞の結合を示す。図中、横軸は抗体濃度を示し、縦軸は平均蛍光強度(MFI)を示す。
【
図5】
図5は、OX40を過剰発現させたCHO細胞及びPD-L1を過剰発現させたCHO細胞に対する抗OX40/PD-L1二重特異性抗体の同時結合作用を示す。
【
図6】
図6は、ヒトPD-1とPD-L1に対する本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体の結合作用を示し、本発明の二重特異性抗体Bi-119-112LCによるヒトPD-1とPD-L1の結合の遮断を証明している。さらに対照である抗PD-L1ヒト化Nb-Fc及びIgG1の作用を検出している。
【
図7】
図7は、PD1/PD-L1の相互作用によるNFATシグナル伝達経路の遮断効果に対する本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体Bi-119-112LCの効果的な解消を示し、蛍光信号を得ている。さらに対照である抗PD-L1ヒト化Nb-Fc及びIgG1の作用を検出している。
【
図8】
図8は、PD-L1依存性OX40介在性シグナル伝達経路に対する本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体Bi-119-112LCの作用を示す。さらに抗PD-L1ヒト化Nb-Fc、ADI-20112、抗PD-L1ヒト化Nb-Fc+ADI-20112及びIgG1の作用を検出している。
【
図9】
図9は、示差走査蛍光測定法(DSF)により測定された本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体Bi-119-112LCのT
m値の結果を示す。
【
図10】
図10は、ヒトT細胞に対する本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体Bi-119-112LCの活性化作用を示す。さらに抗PD-L1ヒト化Nb-Fc、ADI-20112及びIgG1の作用を検出している。
【
図12】
図12A-
図12BはそれぞれSECを利用して検出された、本発明によって調製されたVEGF/GITR二重特異性抗体Bi-2-50及びBi-2-51の純度を示す。
【
図13】
図13は、FACSにより検出された、抗VEGF/GITR二重特異性抗体Bi-2-50及びBi-2-51とGITRを過剰発現させたCHO細胞の結合を示す。図中、横軸は抗体濃度を示し、縦軸は平均蛍光強度(MFI)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
I.定義
用語「約」は数値と共に使用されるとき、下限として記載数値より5%小さく上限として記載数値より5%大きい範囲内の数値を含むことを意味する。
【0054】
本明細書に用いられるように、用語「包含する」又は「含む」とは、前記要素、整数又はステップを含むが、任意の他の要素、整数又はステップを排除しないことを意味する。
【0055】
用語「抗体」は、本出願において最も広い意味で使用されており、抗原結合部位を含むタンパク質を意味し、さまざまな構造の天然抗体及び人工抗体を含み、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、単鎖抗体、完全な抗体及び抗体断片を含むが、これらに限定されない。
【0056】
用語「全抗体」、「全長抗体」、「完全抗体」及び「完全な抗体」は、本出願において入れ替えて使用され、ジスルフィド結合を介して互いに接続された少なくとも2本の重鎖(H)と2本の軽鎖(L)とを含む天然に存在する糖タンパク質を指す。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略される)と重鎖定常領域からなる。重鎖定常領域は、CH1、CH2及びCH3の3つのドメインからなる。各軽鎖は軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略される)と軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLからなる。VH領域及びVL領域は、さらに分けられると、超可変領域(相補性決定領域(CDR)と、その間に挿入されているより保存的な領域(フレームワーク領域(FR))がある。VH及びVLのそれぞれは、3つのCDRと4つのFRとからなり、アミノ末端からカルボキシル末端までは、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順に配列される。定常領域は、抗体と抗原の結合に直接関与しないが、さまざまなエフェクター機能を示している。
【0057】
用語「抗原結合断片」は、完全な抗体又は完全抗体のアミノ酸残基の数よりも少ない完全な抗体又は完全抗体の一部又は1つの断片であり、抗原に結合し又は完全な抗体(即ち、抗原結合断片が由来する完全な抗体)と競争的に抗原と結合できる。抗原結合断片は、組換えDNA技術、又は酵素もしくは化学的手段により完全な抗体を切断することによって調製することができる。抗原結合断片は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、単鎖Fv、ダイアボディー(diabody)、単一ドメイン抗体(sdAb)を含むが、これらに限定されない。前記Fab断片は、VL、VH、CLとCH1ドメインとからなる一価の断片であり、例えば、Fab断片はパパインで完全抗体を消化することによって得られる。また、ペプシンを用いてヒンジ領域のジスルフィド結合の下方で完全抗体を消化して産生されたF(ab’)2は、Fab’の二量体であり、二価の抗体断片である。F(ab’)2は、中性条件でヒンジ領域におけるジスルフィド結合を破壊することによって還元でき、これによってF(ab’)2二量体はFab’単量体に変換される。Fab’単量体は、基本的にはヒンジ領域を有するFab断片である(他の抗体断片に関する詳細な説明は、基礎免疫学(Fundamental Immunology),W.E.Paul編集,Raven Press,N.Y.(1993)が参照される)。前記Fv断片は、抗体のシングルアームVL及びVHドメインからなる。また、Fv断片の2つのドメインVL及びVHは独立した遺伝子によってコードされるものの、組換え法により、この2つのドメインを1本のタンパク質鎖として産生できる合成接続ペプチドによってこれらを接続することができ、前記1本のタンパク質鎖においてVL領域とVH領域がペアリングして単鎖Fvを形成する。前記抗体断片は化学的方法、DNA組換え法又はタンパク質酵素消化法により得られる。
【0058】
用語「単一ドメイン抗体」(sdAb)又は「単一可変ドメイン(SVD)抗体」は一般に、単一の可変ドメイン(例えば、重鎖可変ドメイン(VH)又は軽鎖可変ドメイン(VL)、ラクダ科の重鎖抗体から誘導される重鎖可変ドメイン、魚類IgNARから誘導されるVH様単一ドメイン(v-NAR))が抗原結合を付与できるような抗体を指す。即ち、該単一の可変ドメインは、標的抗原を認識するために別の可変ドメインと相互作用する必要がない。単一ドメイン抗体の例は、ラクダ科(アメリカラクダ及びラクダ)及び軟骨魚類(例えばコモリザメ)に由来する単一ドメイン抗体(WO2005/035572)を含む。
【0059】
用語「ラクダ化ヒトVHドメイン」は、ラクダ科VHHに由来する主要エレメントをヒトVHドメインに導入することによってヒトVHドメインが標的抗原を認識するためにVLドメインとペアリングする必要がなく、ラクダ化ヒトVHドメインは単独でも抗原に結合特異性を付与できることを指す。
【0060】
本出願で使用される用語「結合部位」又は「抗原結合部位」は、抗体分子における抗原と実際に結合する領域を指し、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)と抗体重鎖可変ドメイン(VH)からなるVH/VL対、ラクダ科の重鎖抗体から誘導される重鎖可変ドメイン、サメ科動物のIgNARに由来するVH様単一ドメイン(v-NAR)、ラクダ化ヒトVHドメイン、ヒト化ラクダ科抗体の重鎖可変ドメインを含む。本発明の1つの実施形態において、本発明の抗体分子は、少なくとも4つの抗原結合部位を含み、例えば、2つの単一ドメイン抗原結合部位(例えば、VHH)と、2つのFab断片においてVH/VL対によって形成された抗原結合部位とを含む。
【0061】
用語「単一ドメイン抗原結合部位」は、単一の可変ドメイン(例えば、重鎖可変ドメイン(VH)、軽鎖可変ドメイン(VL)、ラクダ科の重鎖抗体から誘導される重鎖可変ドメイン、サメ科動物のIgNARに由来するv-NAR、ラクダ化ヒトVHドメイン、ヒト化ラクダ科抗体の重鎖可変ドメイン、及びこれらの組換えによる単一ドメイン)をもって抗原と実際に結合する抗体分子の領域を示す。本発明の1つの実施形態において、本発明の抗体分子は、それぞれ同じ又は異なる抗原と結合する2つの単一ドメイン抗原結合部位を含む。本発明の別の実施形態において、本発明の抗体分子は、それぞれ同じ又は異なる抗原エピトープと結合する2つの単一ドメイン抗原結合部位を含む。
【0062】
本出願で使用される用語「単一特異性」抗体とは、1つ又は複数の結合部位を有する抗体を指し、前記部位のそれぞれは、同じ抗原の同じエピトープと結合する。
【0063】
本出願で使用される用語「多重特異性」抗体とは、少なくとも2つの抗原結合部位を有する抗体を指し、前記少なくとも2つの抗原結合部位の各抗原結合部位は、同じ抗原の異なるエピトープ又は異なる抗原の異なるエピトープと結合する。本出願に係る抗体は一般に多重特異性抗体であり、例えば、二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原エピトープに対して結合特異性を有する抗体である。1つの実施形態において、本出願は、第1抗原及び第2抗原に対する結合特異性を有する二重特異性抗体を提供する。
【0064】
用語「免疫グロブリン分子」とは、天然に存在する抗体の構造を有するタンパク質を指す。例えば、IgG類免疫グロブリンは、ジスルフィド結合を介して結合された2本の軽鎖と2本の重鎖とからなる約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端まで、各本の免疫グロブリン重鎖は、重鎖可変ドメインとも呼ばれる1つの重鎖可変領域(VH)を有し、それに続くのは3つの重鎖定常ドメイン(CH1、CH2、CH3)である。同様に、N末端からC末端まで、各本の免疫グロブリン軽鎖は、軽鎖可変ドメインとも呼ばれる1つの軽鎖可変領域(VL)を有し、それに続くのは1つの軽鎖定常ドメイン(CL)である。免疫グロブリンの重鎖は、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)又はμ(IgM)と称される5つのクラスのいずれかに分類できる。そのうち、一部のクラスはさらに例えば、γ1(IgG1)、γ2(IgG2)、γ3(IgG3)、γ4(IgG4)、α1(IgA1)とα2(IgA2)などのサブクラスに分けられる。免疫グロブリンの軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列によって、κ及びλと呼ばれる2つのタイプのいずれかに分類できる。免疫グロブリンは基本的に、免疫グロブリンヒンジ領域を介して接続された2つのFab分子と1つのFcドメインとからなる。
【0065】
用語「Fcドメイン」又は「Fc領域」は、本出願において、少なくとも一部の定常領域を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するように使用される。該用語は、天然配列Fc領域及び変異体Fc領域を含む。天然の免疫グロブリン「Fcドメイン」は、2つ又は3つの定常ドメイン、即ちCH2ドメイン、CH3ドメインを含み、必要に応じてCH4ドメインを含んでもよい。例えば、天然抗体において、免疫グロブリンFcドメインは、IgG、IgA及びIgD類抗体の2本の重鎖に由来する第2及び第3定常ドメイン(CH2ドメイン及びCH3ドメイン)を含み、又はIgM及びIgE類抗体の2本の重鎖に由来する第2、第3及び第4定常ドメイン(CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメイン)を含む。本出願において、特に断らない限り、Fc領域又は重鎖定常領域におけるアミノ酸残基の番号は、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interes,第5版,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991に記載のEU番号システム(EUインデックスともいう)に基づいて番号が付けられる。
【0066】
用語「エフェクター機能」は、免疫グロブリンアイソタイプによって変化する免疫グロブリンFc領域に直結する生物学的活性を指す。免疫グロブリンのエフェクター機能の例は、C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC)、Fc受容体結合作用、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食作用(ADCP)、サイトカイン分泌、免疫複合体介在性抗原提示細胞による抗原の取り込み、細胞表面受容体(例えばB細胞受容体)のダウンレギュレート及びB細胞活性化を含む。
【0067】
用語「キメラ抗体」は、(a)定常領域又はその一部を変化、置換又は交換することによって、抗原結合部位が異なる又は変化したタイプ、エフェクター機能及び/又は生物種の定常領域又はキメラ抗体に新しい性能を付与する完全に異なる分子(例えば、酵素、毒素、ホルモン、成長因子、医薬品)などに接続され、又は(b)可変領域又はその一部を、異なる又は変化した抗原特異性を有する可変領域によって変化、置換又は交換させた抗体分子を指す。例えば、マウス抗体は、その定常領域をヒト免疫グロブリンに由来する定常領域に変更することによって修飾できる。ヒト定常領域に変更したため、該キメラ抗体は、抗原認識についてのその特異性を保持するとともに、元のマウス抗体と比べて、ヒトにおいて低下した抗原性を有する。
【0068】
「ヒト化抗体」は、非ヒト抗体(例えばマウスモノクローナル抗体)の抗原特異性反応性を保留するとともに、治療薬としてヒトに投与する場合に免疫原性が低い抗体である。ヒト化抗体は、例えば、非ヒト抗原結合部位を保留するとともに、抗体の残りの部分をこれらに対応するヒト由来の部分(即ち、定常領域及び可変領域における結合に関与しない部分はヒト抗体の対応する部分である)に変更することによって実現できる。例えばPadlan,Anatomy of the antibody molecule,Mol.Immun.,1994,31:169-217が参照される。ヒト抗体工学技術の他の例は、US5,766,886に開示されているXoma技術を含むが、これに限定されない。
【0069】
用語「・・・価」抗体とは、抗体分子に存在する抗原結合部位の数を指す。「二価」、「三価」及び「四価」抗体とは、抗体分子にそれぞれ2つの抗原結合部位、3つの結合部位及び4つの結合部位が存在することを意味する。1つの実施形態において、本出願で報道された二重特異性抗体は「四価」のものである。
【0070】
用語「左右に実質的に対称な4本のポリペプチド鎖からなる」抗体とは、抗体分子が4本のポリペプチド鎖からなり、抗体分子の左側の2本のポリペプチド鎖と右側の2本のポリペプチド鎖とを含み、かつ、抗体分子の左側の2本のポリペプチド鎖の配列と右側の2本のポリペプチド鎖の配列は100%の同一性を有し、又は少なくとも95%もしくは少なくとも99%の同一性を有する。
【0071】
用語「可動性リンカー」又は「接続ペプチド」は、アミノ酸からなる接続ペプチドを指し、例えば単独で又は組み合わせて使用されるグリシン及び/又はセリン残基であり、抗体の各可変ドメインを接続するために用いられる。1つの実施形態において、可動性リンカーは、アミノ酸配列(Gly4Ser)nを含むGly/Ser接続ペプチドであり、ここで、nは1以上の正の整数であり、例えば、nは1~7の正の整数である。1つの実施形態において、前記可動性リンカーは(Gly4Ser)2(配列番号9)である。WO2012/138475に記載の接続ペプチドも本発明の範囲に含まれており、前記文献は引用により本出願に組み込まれる。
【0072】
本出願で使用される用語「結合」又は「特異性結合」とは、結合作用が抗原に対して選択的であり、かつ好ましくない又は非特異的な相互作用と区別できることを意味する。特定の抗原に対する抗原結合部位の結合能力は、酵素結合免疫吸着測定(ELISA)又は本分野で公知の通常の結合測定法により測定できる。
【0073】
「親和力」又は「結合親和力」は、結合対のメンバー同士間の相互作用を反映する固有結合の親和力を指す。その作用対象Yに対する分子Xの親和力は一般に解離定数(KD)で示し、解離定数は解離速度定数と会合速度定数(それぞれkdis、kon)の比である。親和力は、本分野で公知の通常の方法により測定できる。親和力を測定するための具体的な方法の1つは、本出願に記載のForteBio動力学的結合測定法である。
【0074】
用語「抗原」は、免疫応答を引き起こす分子を指す。このような免疫応答は、抗体の産生又は特異性免疫細胞の活性化に関係しており、又は両方に関係する可能性がある。当業者が理解できるように、ほぼ全てのタンパク質又はペプチドを含む大分子は、いずれも抗原として利用できる。また、抗原は組換えDNA又はゲノムDNAから誘導されるものであってもよい。本出願のいくつかの実施形態において、第1抗原、第2抗原、第3抗原は3種の異なる抗原である。
【0075】
用語「腫瘍関連抗原」又は「がん抗原」は入れ替えて使用され、正常な細胞よりも、好ましくはがん細胞の表面において完全なもの又は断片(例えば、MHC/ペプチド)として発現された分子(一般にタンパク質、炭水化物又は脂質)を意味し、前記分子は、薬剤に用いられると優先的にがん細胞を標的とする。いくつかの実施形態において、腫瘍関連抗原は、正常な細胞よりも腫瘍細胞で過剰発現された、例えば、正常な細胞よりも1倍に過剰発現された、2倍に過剰発現された、3倍に過剰発現された又はそれ以上の倍数に過剰発現された細胞表面分子である。いくつかの実施形態において、腫瘍関連抗原は、腫瘍細胞において合成された問題がある細胞表面分子であり、例えば、正常な細胞において発現された分子に対して欠失、添加又は突然変異を含む分子である。いくつかの実施形態において、腫瘍関連抗原は、腫瘍細胞の細胞表面においてのみ完全に発現され又は断片として発現され、しかも正常な細胞の表面には合成又は発現されない。従来技術には、例えば、上皮成長因子受容体変異体III(EGFRvIII)、腫瘍関連糖タンパク質72(TAG72)、がん胎児性抗原(CEA)、上皮細胞接着分子(EPCAM)、インターロイキン11受容体α(IL-11Ra)、血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2)、上皮成長因子受容体(EGFR)、神経細胞接着分子(NCAM)、インスリン様成長因子1受容体(IGF-I受容体)、黒色腫関連抗原1(MAGE-A1)、CD72、CD47など、さまざまな腫瘍関連抗原が開示されている。
【0076】
用語「免疫チェックポイント」とは、末梢組織における免疫反応の持続性及び強度を調節することによって組織の損傷を避け、自体の抗原に対する耐性の維持に関与する免疫系に存在する抑制性シグナル分子を指す(Pardoll DM.,The blockade of immune checkpoints in cancer immunotherapy.Nat Rev Cancer,2012,12(4):252-264)。研究して判明したのは、腫瘍細胞がインビボの免疫系から回避して制御不能に増殖できる原因の1つは、免疫チェックポイントの抑制性シグナル伝達経路を利用して、Tリンパ球の活性を抑制することによって、Tリンパ球が腫瘍に対する殺傷効果を効果的に発揮できないことである(Yao S,Zhu Y&Chen L.,Advances in targeting cell surface signaling molecules for immune modulation.Nat Rev Drug Discov,2013,12(2):130-146)。免疫チェックポイント分子は、プログラム細胞死1(PD-1)、PD-L1、PD-L2、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)、LAG-3及びTIM-3を含むが、これらに限定されない。
【0077】
用語「共刺激分子」とは、共刺激リガンドと特異的に結合してT細胞の共刺激反応(例えば、増殖が挙げられるが、これに限定されない)を介在するT細胞上の対応する結合作用対象である。共刺激分子は、抗原受容体又はそのリガンド以外の、有効免疫応答に寄与する細胞表面分子である。共刺激分子は、MHCクラスI分子、TNF受容体タンパク質、免疫グロブリン様タンパク質、サイトカイン受容体、インテグリン、シグナル伝達リンパ球活性化分子(SLAMタンパク質)、活性化NK細胞受容体、OX40、CD40、GITR、4-1BB(即ちCD137)、CD27及びCD28を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、「共刺激分子」は、OX40、GITR、4-1BB(即ちCD137)、CD27及び/又はCD28である。
【0078】
用語「サイトカイン」は、細胞集団から放出されて、細胞間メディエーターとして別の細胞に作用するタンパク質の通称である。このようなサイトカインの例は、リンホカイン、モノカイン、インターロイキン(IL)、例えばIL-1、IL-1α、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-11、IL-12、IL-15、腫瘍壊死因子、例えばTNF-α又はTNF-β、及びLIF、kitリガンド(KL)とγ-インターフェロンを含む他のポリペプチド性サイトカインが挙げられる。本出願で使用される用語「サイトカイン」は、天然由来の又は組換え細胞培養物に由来するタンパク質及び天然配列サイトカインの生物学的活性を有する同等物を含み、この同等物は、人工合成により産生された小分子実体、及びその薬学的に許容される誘導体と塩を含む。
【0079】
「免疫複合体」は、1つ又は複数の異種分子(細胞傷害剤を含むが、これに限定されない)と複合する抗体である。
【0080】
本出願で使用される用語「細胞傷害剤」は、細胞機能を抑制又は阻止でき、かつ/又は細胞の死亡又は破壊を引き起こす物質である。細胞傷害剤は、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212及びLuの放射性同位体)、化学療法薬もしくは医薬品(例えば、メトトレキサート、アドリアマイシン、ビンブラスチン類アルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ゾルビシンもしくは他のインターカレーター)、成長阻害剤、酵素及びその断片、例えば核酸分解酵素、抗生物質、細菌由来、真菌由来、植物由来もしくは動物由来の低分子毒素もしくは酵素活性毒素(その断片及び/又は変異体を含む)などの毒素、及び以下に記載されているさまざまな抗腫瘍剤もしくは抗がん剤を含むが、これらに限定されない。
【0081】
アミノ酸配列の「同一性百分率(%)」とは、候補配列と本明細書に示される具体的なアミノ酸配列を比較し、かつ必要に応じて最大の配列同一性百分率を実現するためにギャップを導入し、いずれの保存的置換も配列同一性の一部と考慮されない場合、本明細書に示される具体的なアミノ酸配列のアミノ酸残基と一致するアミノ酸残基の候補配列における百分率を指す。
【0082】
ポリペプチド配列の場合、「保存的修飾」は、ポリペプチド配列に対する置換、欠失又は添加を含み、それによって特定のアミノ酸は化学的に類似するアミノ酸に置換される。機能的に類似するアミノ酸の保存的置換表は、本分野で公知の内容として提供される。このような保存的に修飾された変異体は、本発明の多型変異体、種間ホモログ及び対立遺伝子に対しては、付加的なものであり、それらが排除されない。以下は、互いに保存的置換となる8組のアミノ酸である。1)アラニン(A)、グリシン(G);2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);4)アルギニン(R)、リジン(K);5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);7)セリン(S)、トレオニン(T);8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton,Proteins(1984)参照)。いくつかの実施形態において、用語「保存的配列修飾」は、アミノ酸配列を含む抗体の結合特徴に明らかな影響がない又は結合特徴を変えないアミノ酸修飾である。
【0083】
用語「N末端」は、N末端の最後のアミノ酸を指し、用語「C末端」は、C末端の最後のアミノ酸を指す。
【0084】
用語「宿主細胞」は、既に外因性ポリヌクレオチドが導入された細胞を指し、かかる細胞の子孫を含む。宿主細胞は、「形質転換体」及び「形質転換された細胞」を含み、「形質転換体」と「形質転換された細胞」は、初代より形質転換された細胞及びこれらより誘導された子孫を含む。宿主細胞は、本発明の抗体分子を産生するために用いられる任意のタイプの細胞系であってもよく、真核細胞、例えば、哺乳動物細胞、昆虫細胞、酵母細胞と、原核細胞、例えば、大腸菌細胞とを含む。宿主細胞は、培養された細胞を含み、遺伝子組換え動物、遺伝子組換え植物又は培養された植物組織もしくは動物組織の内部の細胞を含む。
【0085】
用語「発現ベクター」は、組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指し、発現されるヌクレオチド配列に有効に接続された発現制御配列を含む。発現ベクターは、発現するのに十分なシス作用エレメントを含み、発現用の別のエレメントは、宿主細胞により提供されるか、又はインビトロ発現系にあるものであってもよい。発現ベクターは、本分野で公知の全てのものを含み、これらは、組換えポリヌクレオチドが組み込まれたコスミド、プラスミド(例えば、ヌードなるもの又はリポソームに含まれるもの)、ウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス)を含む。
【0086】
用語「個体」又は「対象」は、哺乳動物を指すように入れ替えて使用される。哺乳動物は、家畜化された動物(例えば、乳牛、ヒツジ、ネコ、イヌとウマ)、霊長類(例えば、ヒトとサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、げっ歯類(例えば、マウスとラット)を含むが、これらに限定されない。特に、対象はヒトを指す。
【0087】
用語「治療」とは、治療を受けている対象における疾患の自然的過程を変えるための臨床的介入を指す。求められる治療効果は、疾患の発生又は再発の防止、症状の軽減、疾患の任意の直接的又は間接的な病理学的結果の減少、転移の防止、疾患の進行速度の低減、疾患状態の改善又は寛解、及び予後の緩和又は改善を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子は、疾患の発展又は疾患の進行を遅延させるために用いられる。
【0088】
用語「抗腫瘍作用」は、さまざまな手段により表示できる生物学的効果であり、例えば、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞数の減少、腫瘍細胞増殖の低減又は生存する腫瘍細胞の減少を含むが、これらに限定されない。用語「腫瘍」及び「がん」は、本出願において、固形腫瘍と液性腫瘍を含むように入れ替えて使用される。
【0089】
用語「がん」及び「がん性」は、一般に、細胞の成長が調節できないことを特徴とする哺乳動物の生理障害を指し又はこれを説明する。がんの例は、がん、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、白血病又はリンパ系悪性腫瘍を含むが、これらに限定されない。上記のがんのより具体的な例は、扁平上皮がん(例えば、上皮系扁平上皮がん)、肺がん(小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺腺がん、肺扁平上皮がんを含む)、腹膜がん、肝細胞がん、胃がん(胃腸がん、消化管間質がんを含む)、膵臓がん、神経膠芽腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、尿道がん、肝臓がん、乳がん、結腸がん、直腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がんもしくは子宮がん、唾液腺がん、腎臓がん、前立腺がん、外陰がん、甲状腺がん、肝がん、肛門がん、陰茎がん、黒色腫、表在拡大型黒色腫、悪性黒子型黒色腫、末端黒子型黒色腫、結節型黒色腫、多発性骨髄腫とB細胞リンパ腫、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病(ALL)、有毛細胞白血病、慢性骨髄性白血病、移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、及びファコマトーシス(phakomatoses)、水腫(脳腫瘍関連など)、メーグス(Meigs)症候群に関連する異常な血管増殖、脳腫瘍と脳がん、及び頭頸部がん、関連する転移を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、本発明の抗体による治療に適するがんは、肺がん(例えば非小細胞肺がん)、肝がん、胃がん又は結腸がんを含み、これらのがんの転移をも含む。
【0090】
用語「腫瘍」は、悪性か良性かに関らず、全ての腫瘍性(neoplastic)の細胞の成長及び増殖、全ての前がん(pre-cancerous)及びがん性の細胞と組織を含む。用語「がん」、「がん性」及び「腫瘍」は、本出願で言及される場合に互いに排他的ではない。
【0091】
用語「感染性疾患」は病原体が引き起こす疾患を指し、例えばウイルス感染、細菌感染、寄生虫感染又は真菌感染を含む。
【0092】
II.本発明の抗体分子
本発明は、さまざまな疾患の免疫治療、予防及び/又は診断に用いられる新規な抗体分子を提供する。本発明の抗体分子は、少なくとも4つの抗原結合部位を含み、単一特異性抗体又は多重特異性(例えば二重特異性)抗体として機能でき、好ましくは、多重特異性(例えば二重特異性)抗体として機能できる。
【0093】
複数本のポリペプチド鎖を有する単一特異性又は多重特異性(例えば二重特異性)抗体を産生する場合、一般には望ましくない鎖間のミスマッチ、抗体親和力の低下、安定性低下などの問題が生じる。本出願によって構築される抗体分子は、これらのよく生じる問題を避けることができる。
【0094】
本出願によって構築される抗体分子は(i)単一ドメイン抗原結合部位と、(ii)抗原結合Fab断片とを含み、前記単一ドメイン抗原結合部位は前記抗原結合Fab断片の軽鎖可変ドメイン(VL)のN末端もしくは前記抗原結合Fab断片の軽鎖定常領域(CL)のC末端に位置し、又は、前記単一ドメイン抗原結合部位は前記抗原結合Fab断片の重鎖可変ドメイン(VH)のN末端もしくは免疫グロブリンCH1ドメインのC末端に位置し、前記単一ドメイン抗原結合部位及び前記抗原結合Fab断片は同じ又は異なる抗原と結合し、かつ、前記単一ドメイン抗原結合部位と前記抗原結合Fab断片との間に、接続ペプチドを有するかもしくは有さない、本出願によって構築される抗体分子は前記単一ドメイン抗原結合部位及び前記抗原結合Fab断片のC末端に位置する(iii)免疫グロブリンFcドメインをさらに含む。
【0095】
1つの実施形態において、本発明の抗体分子は、2つの単一ドメイン抗原結合部位と、2つのFab断片と、Fc領域とを含む4本のポリペプチド鎖を有する。
【0096】
別の実施形態において、本発明の抗体分子の単一ドメイン抗原結合部位とFab断片との間には、接続ペプチドがない。
【0097】
別の実施形態において、本発明の抗体分子の単一ドメイン抗原結合部位とFab断片との間には、接続ペプチドがある。前記接続ペプチドのタイプについては特に制限されない。実施形態において、前記接続ペプチドは、長さが1~100個、特に1~50個、好ましくは1~20個のアミノ酸のアミノ酸配列を有するペプチドである。いくつかの実施形態において、前記接続ペプチドは、(GxS)n又は(GxS)nGmであり、ここでG=グリシン、S=セリンであり、かつ、x=1~4の整数で、n=1~7の整数で、m=0~3の整数である。1つの特定の実施形態において、前記接続ペプチドは、(G4S)2(配列番号9)である。
【0098】
本発明の抗体分子における単一ドメイン抗原結合部位は、高親和力で標的抗原のエピトープと特異的に結合できる単一の可変ドメイン、例えば、重鎖可変ドメイン(VH)、軽鎖可変ドメイン(VL)、ラクダ科の重鎖抗体から誘導される重鎖可変ドメイン、サメ科動物のIgNARに由来するv-NAR、ラクダ化ヒトVHドメイン、ヒト化ラクダ科抗体の重鎖可変ドメイン、これらによる組換え単一ドメインである。1つの実施形態において、本発明の抗体分子における単一ドメイン抗原結合部位は、ラクダ科の重鎖抗体から誘導される重鎖可変ドメイン、ラクダ化ヒトVHドメイン及び/又はヒト化ラクダ科抗体の重鎖可変ドメインである。
【0099】
従来技術において、ラクダ科の種(例えばラクダ、アルパカ、ヒトコブラクダ、リャマ、グアナコ)から得られた抗体タンパク質の大きさ、構造及びヒト対象に対する抗原性のキャラクタリゼーションがすでに完成されている。自然界でラクダ科哺乳動物ファミリーに由来する一部のIgG抗体は、軽鎖が欠如しており、そのため構造的には他の動物に由来する2本の重鎖と2本の軽鎖とを有する一般的な四鎖抗体の構造とは異なる。PCT/EP93/02214(1994年3月3日に開示されたWO94/04678)が参照される。
【0100】
標的抗原に対する高親和力を有するラクダ科の重鎖抗体の重鎖可変ドメイン(該領域はVHHとも呼ばれる)は遺伝子工学的方法により得られる。1998年6月2日に登録された米国特許第5,759,808号が参照される。他の非ヒト抗体断片と同様に、ラクダ科VHHのアミノ酸配列は、組換えにより変化させることによってヒト配列により類似する配列とすることができ、これは即ち「ヒト化」であり、それによってヒトに対するラクダ科VHHの抗原性が低減する。また、ラクダ科VHHから誘導される主要エレメントをヒトVHドメインに移すことによって、ラクダ化ヒトVHドメインを得ることもできる。本発明の1つの実施形態において、本発明の抗体分子における単一ドメイン抗原結合部位は配列番号1及び/又は配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するPD-L1に対するヒト化VHHである。本発明の別の実施形態において、本発明の抗体分子における単一ドメイン抗原結合部位は配列番号24で表されるアミノ酸配列を有するGITRに対するVHHである。
【0101】
VHHは、ヒトIgG分子に対して分子量がその十分の一であり、しかも物理的直径はわずか数ナノメートルである。VHH自体は優れた熱安定性を有し、極端なpH及びタンパク質の酵素分解消化に対して安定的でかつ抗原性が低いため、本発明の抗体の1つの実施形態において、構築モジュールとしてVHHを含むことによって本発明の抗体分子の安定性にも、ヒト対象における低抗原性にも寄与する。
【0102】
本発明の抗体分子におけるFab断片は比較的高い親和力で標的抗原エピトープと特異的に結合できる。1つの実施形態において、前記Fab断片は免疫グロブリンのFab断片であり、免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)と免疫グロブリン軽鎖定常領域(CL)とからなるペプチドを含み、かつ、免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)と免疫グロブリン重鎖定常領域1(CH1)とからなるペプチドを含み、前記CL領域とCH1領域は必要に応じて、ジスルフィド結合を介して共有接続されることによってFab断片をヘテロ二量体化させる。1つの実施形態において、前記Fab断片は免疫グロブリンFab断片の軽鎖可変領域(VL)と重鎖可変領域(VH)が交換したFab断片であり、免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)と重鎖定常領域(CH1)とからなるペプチドを含み、かつ、免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)と軽鎖定常領域(CL)とからなるペプチドを含み、前記CL領域とCH1領域は必要に応じて、ジスルフィド結合を介して共有接続されることによってFab断片をヘテロ二量体化させる。別の実施形態において、前記Fab断片は免疫グロブリンFab断片の軽鎖定常領域(CL)と重鎖定常領域(CH1)が交換したFab断片であり、免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)と軽鎖定常領域(CL)とからなるペプチドを含み、かつ、免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)と重鎖定常領域(CH1)とからなるペプチドを含み、前記CL領域とCH1領域は必要に応じて、ジスルフィド結合を介して共有接続されることによってFab断片をヘテロ二量体化させる。
【0103】
当業者が熟知しているように、Fab断片のCL領域とCH1領域との間にジスルフィド結合を設けることが好ましいが、機能的には必ずしもそうするとは限らない(Orcutt KDet al.,A modular IgG-scFv bispecific antibody topology,Protein Eng Des Sel.2010,23(4):221-228)。そのため、いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子におけるFab断片はジスルフィド結合を含まない。これに関しては、Fab断片の2本の鎖は、ジスルフィド結合がなくても安定的に相互作用できるように、次の方式で改変してもよい。例えば、いくつかの実施形態において、Fab断片の2本の鎖を改変させてシステイン残基を除去してもよく、それでいながらFab断片の2本の鎖はなおも安定的に相互作用し、しかもFabのように機能を発揮できる。1つの実施形態において、Fab断片の2本の鎖に対して、該2本の鎖同士における安定的な相互作用を促進できるために、突然変異を行う。例えば、「ノブ-イン-ホール」という遺伝的改変メソッド(例えば、John B.B.Ridgway et al.,‘Knobs-into-holes’engineering of antibody CH3 domains for heavy chain heterodimerization.Protein Engineering,1996.9(7):p.617-21;Shane Atwell et al.,Stable heterodimers form remodeling the domain interface of a homodimer using a phage display library.J.Mol.Biol,1997.270:p.26-35が参照される)を用いて、Fab断片の2本の鎖同士におけるヘテロ二量体化を促進してもよい。該メソッドを用いる場合は、相互作用するドメイン同士間のインターフェースで大きなアミノ酸側鎖で小さなアミノ酸側鎖を置換することによって「ノブ」構造を産生する。これに対応して、相互作用する分子同士間のインターフェースで小さな側鎖で大きな側鎖を置換することによって「ホール」構造を実現する。したがって、本出願で使用されるFab断片は、例えば、CH1及び/又はCLの定常ドメインにおけるアミノ酸変化、ジスルフィド結合の除去などのように、特定の目的に応じて変異を設計しているものであってもよい。
【0104】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子におけるFab断片はモノクローナル抗体に由来し、しかもIgA、IgM、IgD、IgG、IgE及びこれらのサブタイプ、例えば、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む任意のタイプの抗体に由来するものであってもよい。軽鎖ドメインはκ鎖又はλ鎖に由来してもよい。また、本出願で使用されるFab断片は組換えにより調製されてもよい。いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子のFab断片におけるCH1ドメイン、CLドメインは、いずれもヒト免疫グロブリンの対応する部分に由来し、又はそれらと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上に同じ)である配列を有する。
【0105】
本発明の抗体分子における免疫グロブリンFcドメインは、本発明の抗体のインビボ半減期を延長させエフェクター機能を付与することができる。例えば、国際公開第WO98/23289号、国際公開第WO97/34631号、米国特許第6,277,375号が参照される。
【0106】
1つの特定の実施形態において、本発明の抗体分子の第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖のFcドメインはそれぞれ「CPPC」アミノ酸残基を有するヒンジ領域を含み、かつ/又はそれぞれY349CとS354Cと(Kabatの「EU番号方式」に基づく)を含み、それによって、本発明の抗体分子の第2ポリペプチド鎖と第4ポリペプチド鎖はFc領域で鎖間ジスルフィド結合を形成し、これは本発明の抗体分子の第2ポリペプチド鎖と第4ポリペプチド鎖の正確なペアリングに寄与する。
【0107】
1つの実施形態において、本発明の抗体分子の免疫グロブリンFcドメインにおいても「ノブ-イン-ホール」技術が用いられ、該技術は本発明の抗体分子の異なる鎖同士の間にインターフェースを改変させることによって、本発明の抗体分子の各本の鎖の正確な会合を促進できる。一般に、該技術は突起が空洞に配置できるように、一方の鎖のインターフェースに「突起」を、それとペアリングする他方の鎖のインターフェースに対応する「空洞」を導入することに関する。第1の好ましいインターフェースは、一方の鎖の重鎖定常ドメインのCH3ドメインとそれとペアリングする他方の鎖の重鎖定常ドメインのCH3ドメインとを含む。一方の鎖に由来する重鎖定常ドメインのCH3ドメインのインターフェースの小さなアミノ酸側鎖を比較的大きな側鎖(例えばチロシン又はトリプトファン)に置き換えることで突起を構築できる。大きなアミノ酸側鎖を比較的小さな側鎖(例えばアラニン又はトレオニン)に置き換えることによって、ペアリングされる他方の鎖の重鎖定常ドメインのCH3ドメインのインターフェースで、大きさが突起と同じ又は類似する補償用空洞が構築される。第2の好ましいインターフェースは、上記のFab断片のように軽鎖のCLドメインと重鎖のCH1ドメインとを含み、突起-空洞の相互作用を構築することによってFab断片の2本の鎖同士間に正確なヘテロ二量体化が行われるように促進する。
【0108】
1つの実施形態において、本発明の抗体分子のFc領域は、Fc受容体に対する結合親和力の修飾を含む。1つの実施形態において、前記Fc受容体は、Fcγ受容体であり、特にヒトFcγ受容体である。1つの実施形態において、前記Fc受容体は、活性化Fc受容体である。1つの実施形態において、前記修飾は、本発明の抗体分子のエフェクター機能を低減させる。1つの特定の実施形態において、前記エフェクター機能は、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)である。1つの実施形態において、前記修飾は、前記免疫グロブリン分子のFc領域内に位置し、特にそのCH2領域内に位置する。1つの実施形態において、前記免疫グロブリン分子は、免疫グロブリン重鎖の第329位(EU番号方式)のアミノ酸置換を含む。1つの特定の実施形態において、前記アミノ酸置換はP329Gである。1つの実施形態において、本発明の抗体分子は、免疫グロブリン重鎖の第234位及び第235位(EU番号方式)のアミノ酸置換を含む。1つの特定の実施形態において、前記アミノ酸置換は、L234A及びL235A(LALA突然変異)である(Armour KL et al.,Recombinant human IgG molecules lacking Fcgamma receptor I binding and monocyte triggering activities.Eur J Immunol,1999.29(8):2613-24)。1つの実施形態において、本発明の抗体分子は、免疫グロブリンの重鎖の第234位、第235位及び第329位(EU番号方式)のアミノ酸置換を含む。1つの特定の実施形態において、前記免疫グロブリン分子は、免疫グロブリン重鎖におけるアミノ酸置換L234A、L235A及びP329G(EU番号方式)を含む。
【0109】
本発明の抗体分子における少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合部位(例えば、2つの単一ドメイン抗原結合部位)及び少なくとも1つのFab断片は少なくとも1種の抗原と特異的に結合できる。好ましくは、本発明の抗体分子は2種又はそれ以上の抗原と結合し、したがって、本発明の抗体分子は多重特異性抗体分子であり、例えば、二重特異性抗体分子である。前記抗原は、サイトカイン、成長因子、ホルモン、シグナル伝達タンパク質、炎症性メディエーター、リガンド、細胞表面受容体又はその断片を含むが、これらに限定されない。
【0110】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子は複数種(例えば、2種)の免疫チェックポイント分子のシグナル伝達経路を抑制する。例えば、本発明の抗体分子はPD-L1に対する第1結合特異性及びTIM-3、LAG-3、PD-1又はPD-L2に対する第2結合特異性を有する二重特異性抗体分子であり、前記免疫チェックポイント分子のシグナル伝達経路を抑制することによって作用を発揮する。
【0111】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子は免疫チェックポイント分子のシグナル伝達経路を抑制し共刺激分子のシグナル伝達経路を作動させる。例えば、本発明の抗体分子はPD-L1、TIM-3、LAG-3、PD-1又はPD-L2に対する第1結合特異性及びOX40、GITR、4-1BB、CD27又はCD28に対する第2結合特異性を有する二重特異性抗体分子であり、前記免疫チェックポイント分子のシグナル伝達経路を抑制し前記共刺激分子のシグナル伝達経路を作動させることによって作用を発揮する。
【0112】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子は免疫チェックポイント分子のシグナル伝達経路を抑制し異常な血管新生を抑制する。例えば、本発明の抗体分子はPD-L1、TIM-3、LAG-3、PD-1又はPD-L2に対する第1結合特異性及びVEGF又はVEGF受容体に対する第2結合特異性を有する二重特異性抗体分子であり、前記免疫チェックポイント分子のシグナル伝達経路を抑制しVEGF、VEGF受容体のシグナル伝達経路を抑制することによって作用を発揮する。
【0113】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子は複数種(例えば、2種)の共刺激分子のシグナル伝達経路を作動させる。例えば、本発明の抗体分子はOX40に対する第1結合特異性及びGITR、4-1BB、CD27又はCD28に対する第2結合特異性を有する二重特異性抗体分子であり、前記共刺激分子のシグナル伝達経路を作動させることによって作用を発揮する。
【0114】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子は共刺激分子のシグナル伝達経路を作動させ異常な血管新生を抑制する。例えば、本発明の抗体分子はOX40、GITR、4-1BB、CD27又はCD28に対する第1結合特異性及びVEGF又はVEGF受容体に対する第2結合特異性を有する二重特異性抗体分子であり、前記共刺激分子のシグナル伝達経路を作動させVEGF、VEGF受容体のシグナル伝達経路を抑制することによって作用を発揮する。
【0115】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子は異常な血管新生を抑制し、免疫チェックポイント分子のシグナル伝達経路を抑制し共刺激分子のシグナル伝達経路を作動させる。例えば、本発明の抗体分子はVEGF又はVEGF受容体に対する第1結合特異性、PD-L1、TIM-3、LAG-3、PD-1又はPD-L2に対する第2結合特異性及びOX40、GITR、4-1BB、CD27又はCD28に対する第3結合特異性を有する三重特異性抗体分子であり、VEGF、VEGF受容体のシグナル伝達経路を抑制し、前記免疫チェックポイント分子のシグナル伝達経路を抑制し前記共刺激分子のシグナル伝達経路を作動させることによって作用を発揮する。
【0116】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子は明細書の
図1A-
図1Dに例示されるいずれかの構造を有する。
【0117】
図1Aの模式図に示されるように、本発明の例示的な抗体分子は4鎖抗体分子であり、2つFab断片と、それぞれ各Fab断片の軽鎖定常領域(CL)のC末端に位置する単一ドメイン抗原結合部位と、本発明の抗体分子のC末端となる免疫グロブリンFcドメインとを含み、Fab断片の軽鎖定常領域(CL)のC末端と単一ドメイン抗原結合部位との間には、接続ペプチドがあり又は接続ペプチドがない。
【0118】
図1Bの模式図に示されるように、本発明の例示的な抗体分子は4鎖抗体分子であり、2つのFab断片と、それぞれ各Fab断片の軽鎖可変ドメイン(VL)のN末端に位置する単一ドメイン抗原結合部位と、本発明の抗体分子のC末端となる免疫グロブリンFcドメインとを含み、Fab断片の軽鎖可変ドメイン(VL)のN末端と単一ドメイン抗原結合部位との間には、接続ペプチドがあり又は接続ペプチドがない。
【0119】
図1Cの模式図に示されるように、本発明の例示的な抗体分子は4鎖抗体分子であり、、2つのFab断片と、それぞれ各Fab断片のCH1ドメインのC末端に位置する単一ドメイン抗原結合部位と、本発明の抗体分子のC末端となる免疫グロブリンFcドメインとを含み、Fab断片のCH1ドメインのC末端と単一ドメイン抗原結合部位との間には、接続ペプチドがあり又は接続ペプチドがない。
【0120】
図1Dの模式図に示されるように、本発明の例示的な抗体分子は4鎖抗体分子であり、2つのFab断片と、それぞれ各Fab断片の重鎖可変ドメイン(VH)のN末端に位置する単一ドメイン抗原結合部位と、本発明の抗体分子のC末端となる免疫グロブリンFcドメインとを含み、Fab断片の重鎖可変ドメイン(VH)のN末端と単一ドメイン抗原結合部位との間には、接続ペプチドがあり又は接続ペプチドがない。
【0121】
次に、いくつかの本発明の抗体分子及び本発明の抗体分子の、その特異的に結合する抗原が関与するシグナル伝達経路に対する調節作用を例示する。
【0122】
i)1つの実施形態において、本発明の抗体分子は抗OX40/PD-L1二重特異性抗体又は多重特異性抗体である。
【0123】
OX40(CD134、TNFRSF4及びACT35とも呼ばれる)は細胞表面糖タンパク質及び腫瘍壊死因子(TNF)受容体スーパーファミリーのメンバーであり、Tリンパ球において発現され、活性化されたT細胞の増殖と生存に共刺激信号を提供する。OX40は最初にラットCD4 T細胞上のT細胞活性化マーカー(Paterson DJ et al.,Antigens of activated rat T lymphocytes including a molecule of 50,000 Mr detected only on CD4 positive T blasts.Mol Immunol.1987;24:1281-1290)として知られ、その後TCR試験でアップレギュレーションされることが判明している(Mallett S. et al.,Characterization of the MRC OX40 antigen of activated CD4positive T lymphocytes-a molecule related to nerve growth factor receptor.EMBO J.1990;9:1063-1068)。既にCD4+T細胞、CD8+T細胞、NK細胞、NKT細胞及び好中球においてOX40が同定されている(Paterson D. J.et al.,Antigens of activated Rat T lymphocytes including a molecule of 50,000 M(r) detected only on CD4 positive T blasts,Molecular Immunology,1987,24(12):1281-1290)。OX40シグナル伝達はT細胞に対する共刺激信号を促進し、細胞増殖、生存、エフェクター機能及び移行の強化につながる(Gramaglia I et al.,Ox-40 ligand:a potent costimulatory molecule for sustaining primary CD4 T cell responses.J Immunol.1998;161:6510-6517;Gramaglia I et al.,The OX40 costimulatory receptor determines the development of CD4 memory by regulating primary clonal expansion.J Immunol.2000;165:3043-3050)。
【0124】
従来技術においてOX40アゴニストとして抗OX40抗体が開示されている。例えば、WO2012/027328において抗OX40抗体mAb 106-222及びヒト化106-222(Hu106)の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列、抗OX40抗体mAb 119-122及びヒト化119-122(Hu119)の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列が開示されている。米国特許第7,959,925号、PCT公開第WO2006/121810号及び中国特許出願第201710185399.9号にもOX40アゴニストとなる抗OX40抗体が開示されている。前記抗OX40抗体はOX40を活性化させることによって、効果Tリンパ球の増殖を誘導し、腫瘍関連抗原(TAA)を発現する腫瘍細胞に対する免疫応答を促進することができる。
【0125】
PD-L1(表面抗原分類274(CD274)又はB7ホモログ1(B7-H1)とも呼ばれる)は、40kDaのI型膜貫通タンパク質である。http://en.wikipedia.org/wiki/Transmembrane_proteinPD-L1は、活性化したT細胞に存在するその受容体PD-1と結合して、T細胞の活性化をダウンレギュレートする(Latchman et al.,2001 Nat Immunol 2:261-8;Carter et al.,2002 Eur J Immunol 32:634-43)。ヒト肺がん、卵巣がん、結腸がん、多数の骨髄腫など、多くのがんでPD-L1発現が認められ、しかもPD-L1発現はがんの予後不良に関係する場合が多い(Iwai et al.(2002) PNAS 99:12293-7;Ohigashi et al.,(2005)Clin Cancer Res11:2947-53;Okazaki et al.,(2007)Intern.Immun.19:813-24;Thompson et al.,(2006)Cancer Res.66:3381-5)。PD1とPD-L1の局所的相互作用を抑制することによって一部の腫瘍患者において免疫抑制を逆転することが提案されている。
【0126】
エフ・ホフマン・ラ・ロシュ(Roche)社によって研究・開発された抗PD-L1抗体Atezolizumab、独メルク社(Merck KGaA)及び米ファイザー社(Pfizer)が共同で開発した抗PD-L1抗体Avelumab、アストラゼネカ社によって研究・開発されたDurvalumabは一部の腫瘍患者に治療効果を表している。他の抗PD-L1抗体は、YW243.55.S70(重鎖及び軽鎖の可変領域は、WO2010/077634に記載の配列番号20及び21で表されている)及びWO2007/005874に開示されている抗PD-L1抗体などを含む。
【0127】
本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体又は多重特異性抗体は、少なくともOX40とPD-L1を同時に標的とする抗体であり、そのFab断片及び単一ドメイン抗原結合部位はそれぞれOX40又はPD-L1分子と結合することによって、抑制性PD-1/PD-L1シグナル伝達経路を遮断しT細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞におけるOX40/OX40リガンドシグナル伝達経路を活性化させて、疾患に対する免疫応答を促進することができる。
【0128】
1つの実施形態において、本発明の抗体分子はPD-L1と特異的に結合する単一ドメイン抗原結合部位と、OX40と特異的に結合するFab断片とを含む。1つの実施形態において、本発明の抗体分子はOX40と特異的に結合する単一ドメイン抗原結合部位と、PD-L1と特異的に結合するFab断片とを含む。
【0129】
前記PD-L1又はOX40と特異的に結合するFab断片に関しては、従来技術で報告されていた任意の抗PD-L1抗体(例えば、前述した抗PD-L1抗体)及び将来に研究・開発される抗PD-L1抗体のVH/VL対から誘導される6つのCDR、又は前記6つのCDRの1つ又は複数のCDRに対して1、2、3、4、5、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)配列を含み、又は従来技術で報告された任意の抗OX40抗体(例えば、上述した抗OX40抗体)及び将来に研究・開発される抗OX40抗体のVH/VL対から誘導される6つのCDR又は前記6つのCDRの1つ又は複数のCDRに対して1、2、3、4、5、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)配列を含む。1つの実施形態において、抗OX40抗体はADI-20112であり、配列番号10で表される重鎖アミノ酸配列と、配列番号15で表される軽鎖アミノ酸配列とを有する。
【0130】
PD-L1又はOX40と特異的に結合する前記単一ドメイン抗原結合部位に関しては、PD-L1又はOX40と特異的に結合する重鎖可変ドメイン(VH)と、軽鎖可変ドメイン(VL)と、ラクダ科の血清に由来し天然に軽鎖を含まず2本の重鎖だけからなるラクダ抗体の重鎖可変ドメインと、サメ科動物のIgNARに由来するVH様単一ドメインと、ラクダ化ヒトVHドメインと、ヒト化ラクダ科抗体の重鎖可変ドメインとを含む。
【0131】
1つの実施形態において、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体はOX40と特異的に結合する2つのFab断片と、PD-L1と特異的に結合する2つの単一ドメイン抗原結合部位(例えばVHH)とを含み、それぞれ
図1A-
図1Dで例示されるいずれかの構造を有する。OX40と特異的に結合する前記2つのFab断片は、OX40分子上の同じエピトープ又は異なるエピトープと特異的に結合し、PD-L1と特異的に結合する前記2つの単一ドメイン抗原結合部位はPD-L1分子上の同じエピトープ又は異なるエピトープと特異的に結合する。
【0132】
1つの実施形態において、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体におけるOX40と特異的に結合する前記Fab断片は、抗OX40抗体ADI-20112から誘導される配列番号11及び7の対となる重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列に含まれている全ての6つの重鎖相補性決定領域(CDR)と軽鎖CDR、又は前記6つのCDRの1つ又は複数のCDRに対して1、2、3、4、5、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)配列を含む。
【0133】
1つの実施形態において、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体におけるOX40と特異的に結合する前記Fab断片は、抗OX40抗体ADI-20112から誘導される配列番号11及び7の対となる重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列、又は対となる前記重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上の配列同一性を有する配列を含む。
【0134】
1つの実施形態において、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体におけるPD-L1と特異的に結合する単一ドメイン抗原結合部位は、配列番号3で表されるCDR1と、配列番号4で表されるCDR2と、配列番号5で表されるCDR3と、又は前記3つのCDRの1つ又は複数のCDRに対して1、2、3、4、5、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)配列を含む。
【0135】
別の実施形態において、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体におけるPD-L1と特異的に結合する前記単一ドメイン抗原結合部位は、配列番号1及び/又は配列番号2で表されるアミノ酸配列、又はこれらの配列と実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上に同じ)である配列を含む。
【0136】
本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体における重鎖定常領域のCH1ドメイン及びFc領域(CH2ドメイン、CH3ドメインと、必要に応じてCH4ドメインとを含む)のタイプについては特に制限がなく、好ましくはIgG1、IgG2又はIgG4免疫グロブリンの重鎖定常領域の対応するドメインから、又はそれと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上に同じ)である配列から誘導される。より好ましくは、前記重鎖定常領域のCH1ドメイン及びFc領域は、ヒトIgG1免疫グロブリンの重鎖定常領域のCH1ドメイン及びFc領域から、又はそれと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上に同じ)である配列から誘導される。
【0137】
1つの実施形態において、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体は、IgG4(例えば、ヒトIgG4)の重鎖定常領域のCH1ドメインとFc領域とを含む。1つの実施形態において、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体は、IgG1(例えば、ヒトIgG1)の重鎖定常領域のCH1ドメインとFc領域とを含む。別の実施形態において、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体はIgG4(例えば、ヒトIgG4)重鎖定常領域のCH1ドメインと、IgG1(例えば、ヒトIgG1)重鎖定常領域のFc領域とを含み、又はIgG1(例えば、ヒトIgG1)重鎖定常領域のCH1ドメインと、IgG4(例えば、ヒトIgG4)重鎖定常領域のFc領域とを含む。
【0138】
1つの実施形態において、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体の第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖のFcドメインは、それぞれ「CPPC」アミノ酸残基を有するヒンジ領域を含み、かつ/又はそれぞれY349C及びS354Cを含み(KabatのEU番号方式に基づく)、それによって、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体の第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖は、Fc領域で鎖間ジスルフィド結合を形成して、第2ポリペプチド鎖と第4ポリペプチド鎖の正確なペアリングを安定化させる。
【0139】
1つの実施形態において、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体の第2ポリペプチド鎖及び/又は第4ポリペプチド鎖は、Fcドメインにおいて抗体エフェクター機能に影響を与えるアミノ酸突然変異が含まれる。1つの特定の実施形態において、前記アミノ酸置換は、LALA突然変異である。
【0140】
別の実施形態において、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体は、κ軽鎖定常領域及び/又はλ軽鎖定常領域、例えば、ヒトκ軽鎖定常領域及び/又はヒトλ軽鎖定常領域を含む。1つの実施形態において、軽鎖定常領域は、配列番号8で表されるアミノ酸配列、又はそれと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上に同じ)である配列に含まれる。
【0141】
1つの実施形態において、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体の第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖は、それぞれのFcドメインに「ノブ-イン-ホール」である安定的な会合が含まれる。1つの実施形態において、前記第2ポリペプチド鎖と第4ポリペプチド鎖の一方の鎖にはアミノ酸置換T366Wが含まれ、かつ、前記第2ポリペプチド鎖と第4ポリペプチド鎖の他方の鎖にはアミノ酸置換T366S、L368A及びY407V(EU番号方式)が含まれる。それによって一方の鎖の突起を他方の鎖の空洞に置くことによって、第2ポリペプチド鎖と第4ポリペプチド鎖の正確なペアリングを促進することができる。
【0142】
1つの実施形態において、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体の免疫グロブリンCH1ドメイン及びCLドメインにはそれぞれ突起又は空洞が含まれ、かつ、CH1ドメインにおける前記突起又は空洞はそれぞれCLドメインにおける前記空洞又は突起に置くことができるため、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体の第1ポリペプチド鎖と第2ポリペプチド鎖も互いに「ノブ-イン-ホール」である安定的な会合を形成する。
【0143】
1つの特定の実施形態において、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体は左右に実質的に対称な4本のポリペプチド鎖からなり、前記抗体分子の左半分の2本のポリペプチド鎖はそれぞれ配列番号6で表される第1ポリペプチド鎖と、配列番号10で表される第2ポリペプチド鎖とを含み、それぞれ配列番号14で表される第1ポリペプチド鎖と、配列番号10で表される第2ポリペプチド鎖とを含み、それぞれ配列番号15で表される第1ポリペプチド鎖と、配列番号16で表される第2ポリペプチド鎖とを含み、それぞれ配列番号15で表される第1ポリペプチド鎖と、配列番号17で表される第2ポリペプチド鎖とを含み、又は前記配列のいずれかと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上に同じ)である配列を含み、これに対応して、前記抗体分子の右半分の2本のポリペプチド鎖はそれぞれ配列番号6で表される第3ポリペプチド鎖と、配列番号10で表される第4ポリペプチド鎖とを含み、それぞれ配列番号14で表される第3ポリペプチド鎖と、配列番号10で表される第4ポリペプチド鎖とを含み、それぞれ配列番号15で表される第3ポリペプチド鎖と、配列番号16で表される第4ポリペプチド鎖とを含み、それぞれ配列番号15で表される第3ポリペプチド鎖と、配列番号17で表される第4ポリペプチド鎖とを含み、又は前記配列のいずれかと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上に同じ)である配列を含む。
【0144】
本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体は、PD-L1及びOX40タンパク質と同時に結合でき、かつ親抗体の親和力定数を維持しているため、PD-1/PD-L1シグナル伝達経路を遮断するとともにT細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞におけるOX40/OX40リガンドのシグナル伝達経路を活性化させることができる。本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体は、前記シグナル伝達経路に関連する疾患の治療、予防又は診断に用いることができる。
【0145】
ii)1つの実施形態において、本発明の抗体分子は抗VEGF/GITR二重特異性抗体又は多重特異性抗体である。
【0146】
血管内皮増殖因子(Vascular endothelial growth factor、VEGF)は最初に血管透過性亢進因子(vascular permeability factor、VPF)と呼ばれ(Senger,DR et al.,Tumor cells secrete a vascular permeability factor that promotes accumulation of ascites fluid,Science,1983,219(4587):983-985)、血管を刺激して形成させた細胞によって産生されたシグナルタンパク質である。VEGFは成長因子のサブファミリーであり、血管新生に関与する1種の重要なシグナル伝達タンパク質である。正常な組織に血管内皮増殖因子及び血管内皮増殖抑制因子が同時に存在し、かつ相対的なバランスを保ち、このようなバランスにより人体の血管が正常に新生又は分化することができる。しかしながら、疾患の場合、例えば、腫瘍が成長する過程で、VEGFファミリー分子の数量が激増し、血管新生抑制因子との間の調節はバランスが崩れ、それによって、血管内皮細胞の分裂・増殖と移行が大いに促進され、血管透過性が増し、腫瘍細胞アポトーシスが抑制されるため、腫瘍の成長と転移に好適な微小環境を提供している(Lapeyre-Prost Aet al.,Immunomodulatory Activity ofVEGFin Cancer,Int Rev Cell Mol Biol.2017;330:295-342)。VEGFファミリーは密接に関連する6種類のポリペプチドを含み、いずれも高度に保存的なホモ二量体糖タンパク質であり、VEGF-A、-B、-C、-D、-E、胎盤増殖因子(placental growth factor(PLGF))という6つのサブタイプがあり、分子量は35から44kDaである。VEGF-A(そのスプライソソーム、例えばVEGF165を含む)の発現は一部の固形腫瘍における微小血管密度と関連性があり、しかも組織におけるVEGF-Aの濃度は乳がん、肺がん、前立腺がん、結腸がん等の固形腫瘍の予後に関係している。VEGFファミリーメンバーのぞれぞれはその生物学的活性が細胞表面VEGF受容体(VEGFR)ファミリーの1種又は複数種によって介在され、前記VEGFRファミリーはVEGFR1(Flt-1とも呼ばれる)、VEGFR2(KDR、Flk-1とも呼ばれる)、VEGFR3(Flt-4とも呼ばれる)等を含み、そのうちVEGFR1、VEGFR2は血管新生と密接に関連し、VEGF-C/D/VEGFR3はリンパ管の新生と密接に関連している。
【0147】
臨床研究により、抗VEGFモノクローナル抗体を用いるとVEGFとその受容体の結合を遮断できることが判明している。ジェネンテック(Genentech)社によって研究・開発されたベバシズマブ(Bevacizumab、商品名Avastin)は組換えヒト-マウス抗VEGFキメラ抗体であり、VEGF-AとVEGFRの結合を遮断することによって、VEGFRを活性化できないようにし、それによって抗血管新生の作用を発揮する。現在、ベバシズマブは転移性の結腸・直腸がんの一次治療に用いられ、将来には転移性の肺がん、乳がん、膵臓がん、腎臓がん等の疾患の治療にも用いるであろう。またベバシズマブは今までに開発されている抗体類薬物のうち比較的効果的な1つでもある。
【0148】
グルココルチコイドによって誘導される腫瘍壊死因子受容体(英表記はglucocorticoid induced tumor necrosis factor receptorで、略号はGITRであり、TNFRSF18、活性化誘導型TNFRファミリーメンバー(AITR)、CD357及びGITR-Dとも呼ばれる)は、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor、TNF)受容体スーパーファミリーの18番目のメンバーである。デキサメタゾン(dexamethasone)で処理されたネズミ由来T細胞系から最初に同定されていた(Nocentini G et al.,A new member of the tumor necrosis factor/nerve growth factor receptor family inhibits T cell receptor-induced apoptosis,Proc Natl Acad Sci U S A.1997;94(12):6216-21)。TNF受容体スーパーファミリーの他のメンバーはCD40、CD27、4-1BB及びOX40を含む。初代CD4+及びCD8+細胞でGITRの発現量は少ないが、それが制御性T細胞において構成的発現されている(Tone M et al.,Mouse glucocorticoid-induced tumor necrosis factor receptor ligand is costimulatory for T cells,Proc Natl Acad Sci U S A.2003;100(25):15059-64)。しかしながら、エフェクターT細胞においてGITRの発現を誘導する場合は、エフェクターT細胞の活性化、増殖及びサイトカイン産生を促進している。CD4+CD25+制御性T細胞(Treg)に関しては、Shimizuが混合培養阻害分析を行って、GITR活性化によりTregの機能が阻害されることを報告している(Shimizu J et al.,Stimulation of CD25(+)CD4(+)regulatory T cells through GITR breaks immunological self-tolerance,Nature Immunology 2002;3:135-42)。さまざまな腫瘍モデルにおいて、抗GITR抗体DTA-1が介在するGITR刺激は抗腫瘍免疫を促進している(Cohen AD et al.,Agonist anti-GITR monoclonal antibody induces melanoma tumor immunity in mice by altering regulatory T cell stability and intra-tumor accumulation,PLoS One.2010;5(5):e10436;Coe D et al.,Depletion of regulatory T cells by anti-GITR mAb as a novel mechanism for cancer immunotherapy,Cancer Immunol Immunother,2010;59(9):1367-77)。
【0149】
GITRがGITRリガンド(GITRL)と結合すると活性化され、前記リガンドは主にAPCで発現され、GITRは活性化されると腫瘍及びウイルス感染に対する耐性を高め、自己免疫反応/炎症性反応に関与し、白血球の血管外遊出を調節することができる(Cohen AD et al.,同上;CuzzocreaS et al.,Genetic and pharmacological inhibition of GITR-GITRL interaction reduces chronic lung injury induced by bleomycin instillation,FASEB J.2007,21(1):117-129)。
【0150】
次の文献には抗GITR抗体について説明している。米国特許第7,025,962号、欧州特許第1947183B1号、米国特許第7,812,135号、米国特許第8,388,967、米国特許第8,591,886号、欧州特許第EP1866339号、PCT公開第WO2011/028683号、米国特許第8,709,424号、PCT公開第WO2013/039954号、国際公開第WO2013/039954号、米国特許公開第US2014/0072566号、国際公開第WO2015/026684号、PCT公開第WO2005/007190号、PCT公開第WO2007/133822号、PCT公開第WO2005/055808号、PCT公開第WO99/40196号、PCT公開第WO2001/03720号、PCT公開第WO99/20758号、米国特許第6,689,607号、PCT公開第WO2006/083289号、PCT公開第WO2005/115451号、米国特許第7,618,632号、PCT公開第WO2011/051726号、国際公開第WO2004060319号及び国際公開第WO2014012479号。
【0151】
本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体又は多重特異性抗体は、少なくとも同時にVEGF及びGITRを標的とし、そのFab断片及び単一ドメイン抗原結合部位はVEGF又はGITR分子とそれぞれ結合することによって、VEGFファミリーシグナル伝達経路を遮断するとともにエフェクターT細胞を活性化させTregの機能を阻害することができる。
【0152】
1つの実施形態において、本発明の抗体分子はGITRと特異的に結合する単一ドメイン抗原結合部位と、VEGFと特異的に結合するFab断片とを含む。1つの実施形態において、本発明の抗体分子はVEGFと特異的に結合する単一ドメイン抗原結合部位と、GITRと特異的に結合するFab断片とを含む。
【0153】
GITR又はVEGFと特異的に結合する前記Fab断片に関しては、従来技術において報告されていた任意の抗GITR抗体(例えば、前述した抗GITR抗体)及び将来に研究・開発される抗GITR抗体のVH/VL対から誘導される6つのCDR、又は前記6つのCDRの1つ又は複数のCDRに対して1、2、3、4、5、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)配列を含み、又は従来技術において報告されていた任意の抗VEGF抗体(例えば、上述した抗VEGF抗体)及び将来に研究・開発される抗VEGF抗体のVH/VL対から誘導される6つのCDR又は前記6つのCDRの1つ又は複数のCDRに対して1、2、3、4、5、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)配列を含む。1つの実施形態において、抗VEGF抗体はAvastinであり、配列番号19で表される重鎖アミノ酸配列と、配列番号18で表される軽鎖アミノ酸配列とを有する。
【0154】
GITR又はVEGFと特異的に結合する前記単一ドメイン抗原結合部位に関しては、GITR又はVEGFと特異的に結合する重鎖可変ドメイン(VH)と、軽鎖可変ドメイン(VL)と、ラクダ科の血清に由来し天然に軽鎖を含まず2本の重鎖だけからなるラクダ抗体の重鎖可変ドメインと、サメ科動物のIgNARに由来するVH様単一ドメインと、ラクダ化ヒトVHドメインと、ヒト化ラクダ科抗体の重鎖可変ドメインとを含む。
【0155】
1つの実施形態において、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体はVEGFと特異的に結合する2つのFab断片と、GITRと特異的に結合する2つの単一ドメイン抗原結合部位(例えば、VHH)とを含み、それぞれ
図1A、
図1B、
図1D、
図11A及び
図11Bで例示されるいずれかの構造を有する。VEGFと特異的に結合する前記2つのFab断片はVEGF分子上の同じエピトープ又は異なるエピトープと特異的に結合し、GITRと特異的に結合する前記2つの単一ドメイン抗原結合部位はGITR分子上の同じエピトープ又は異なるエピトープと特異的に結合する。
【0156】
1つの実施形態において、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体におけるVEGFと特異的に結合する前記Fab断片は、抗VEGF抗体Avastinから誘導される配列番号22/20の対となる重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列に含まれている全ての6つの重鎖相補性決定領域(CDR)と軽鎖CDR、又は前記6つのCDRの1つ又は複数のCDRに対して1、2、3、4、5、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)配列を含む。
【0157】
1つの実施形態において、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体におけるVEGFと特異的に結合する前記Fab断片は、抗VEGF抗体Avastinから誘導される配列番号22/20の対となる重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列、又は対となる前記重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上の配列同一性を有する配列を含む。
【0158】
1つの実施形態において、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体におけるGITRと特異的に結合する前記単一ドメイン抗原結合部位は、GFAFGSS(配列番号25)で表されるCDR1と、SGGGFGD(配列番号26)で表されるCDR2と、ATDWRKP(配列番号27)で表されるCDR3と、又は前記3つのCDRの1つ又は複数のCDRに対して1、2、3、4、5、6個又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠失)配列を含む。
【0159】
別の実施形態において、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体におけるGITRと特異的に結合する前記単一ドメイン抗原結合部位は、配列番号24で表されるアミノ酸配列、又はそれと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上に同じ)である配列を含む。
【0160】
本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体における重鎖定常領域のCH1ドメイン及びFc領域(CH2ドメイン、CH3ドメイン、必要に応じてCH4ドメインを含む)のタイプについては特に制限がなく、好ましくはIgG1、IgG2又はIgG4免疫グロブリンの重鎖定常領域の対応するドメインから、又はそれと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上に同じ)である配列から誘導される。より好ましくは、前記重鎖定常領域のCH1ドメイン及びFc領域は、ヒトIgG1免疫グロブリンの重鎖定常領域のCH1ドメイン及びFc領域から、又はそれと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上に同じ)である配列から誘導される。
【0161】
1つの実施形態において、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体は、IgG4(例えば、ヒトIgG4)の重鎖定常領域のCH1ドメインとFc領域とを含む。1つの実施形態において、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体は、IgG1(例えば、ヒトIgG1)の重鎖定常領域のCH1ドメインとFc領域とを含む。別の実施形態において、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体は、IgG4(例えば、ヒトIgG4)の重鎖定常領域のCH1ドメインと、IgG1(例えば、ヒトIgG1)の重鎖定常領域のFc領域とを含み、又はIgG1(例えば、ヒトIgG1)の重鎖定常領域のCH1ドメインと、IgG4(例えば、ヒトIgG4)の重鎖定常領域のFc領域とを含む。
【0162】
1つの実施形態において、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体の第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖のFcドメインは、それぞれ「CPPC」アミノ酸残基を有するヒンジ領域を含み、かつ/又はそれぞれY349C及びS354Cを含み(KabatのEU番号方式に基づく)、それによって、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体の第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖は、Fc領域で鎖間ジスルフィド結合を形成して、第2ポリペプチド鎖と第4ポリペプチド鎖の正確なペアリングを安定化させる。
【0163】
1つの実施形態において、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体の第2ポリペプチド鎖及び/又は第4ポリペプチド鎖は、Fcドメインにおいて抗体エフェクター機能に影響を与えるアミノ酸突然変異が含まれる。1つの特定の実施形態において、前記アミノ酸置換は、LALA突然変異である。
【0164】
別の実施形態において、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体は、κ軽鎖定常領域及び/又はλ軽鎖定常領域、例えば、ヒトκ軽鎖定常領域及び/又はヒトλ軽鎖定常領域を含む。1つの実施形態において、軽鎖定常領域は、配列番号8で表されるアミノ酸配列、又はそれと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上に同じ)である配列に含まれる。
【0165】
1つの実施形態において、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体の第2ポリペプチド鎖及び第4ポリペプチド鎖は、それぞれのFcドメインに「ノブ-イン-ホール」である安定的な会合が含まれる。1つの実施形態において、前記第2ポリペプチド鎖と第4ポリペプチド鎖の一方の鎖にはアミノ酸置換T366Wが含まれ、かつ、前記第2ポリペプチド鎖と第4ポリペプチド鎖の他方の鎖にはアミノ酸置換T366S、L368A及びY407V(EU番号方式)が含まれる。それによって一方の鎖の突起を他方の鎖の空洞に置くことによって、第2ポリペプチド鎖と第4ポリペプチド鎖の正確なペアリングを促進することができる。
【0166】
1つの実施形態において、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体の免疫グロブリンCH1ドメイン及びCLドメインにそれぞれ突起又は空洞が含まれ、かつ、CH1ドメインにおける前記突起又は空洞はそれぞれCLドメインにおける前記空洞又は突起に置くことができるため、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体の第1ポリペプチド鎖と第2ポリペプチド鎖も互いに「ノブ-イン-ホール」である安定的な会合を形成する。
【0167】
特定の実施形態において、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体は左右に実質的に対称な4本のポリペプチド鎖からなり、前記抗体分子の左半分の2本のポリペプチド鎖はそれぞれ配列番号18で表される第1ポリペプチド鎖と、配列番号21で表される第2ポリペプチド鎖とを含み、それぞれ配列番号18で表される第1ポリペプチド鎖と、配列番号28で表される第2ポリペプチド鎖とを含み、又は前記配列のいずれかと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上に同じ)である配列を含み、これに対応して、前記抗体分子の右半分の2本のポリペプチド鎖はそれぞれ配列番号18で表される第3ポリペプチド鎖と、配列番号21で表される第4ポリペプチド鎖とを含み、それぞれ配列番号18で表される第3ポリペプチド鎖と、配列番号28で表される第4ポリペプチド鎖とを含み、又は前記配列のいずれかと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上に同じ)である配列を含む。
【0168】
本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体は、GITR及びVEGFタンパク質と同時に結合でき、かつ親抗体の親和力定数を維持しているため、VEGFファミリーのシグナル伝達経路を遮断するとともにT細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞におけるGITR/GITRリガンドのシグナル伝達経路を活性化させることができる。本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体は、前記シグナル伝達経路に関連する疾患の治療、予防又は診断に用いることができる。
【0169】
III.本発明の抗体分子の変異体
いくつかの実施形態において、本出願で例示される二重特異性抗体のアミノ酸配列変異体が提案される。これは、例えば、二重特異性抗体の結合親和力及び/又は他の生物学的特性を改善するためである。二重特異性抗体をコードするヌクレオチド配列への適切な修飾の導入又はペプチド合成により二重特異性抗体のアミノ酸配列変異体を調製できる。このような修飾は、例えば、抗体のアミノ酸配列からの残基の欠失及び/又は前記アミノ酸配列への残基の挿入及び/又は前記アミノ酸配列の残基の置換を含む。欠失、挿入と置換の任意の組み合わせを生じることによって最終構築体を得ることができ、ただし、前記最終構築体は所望の特徴、例えば抗原結合作用を有することが前提である。
【0170】
表1には、「保存的置換」列に保存的置換が示される。表1には、「例示的置換」列にアミノ酸側鎖の種類を示しこれを参照して下記のとおりにより明らかな変化を説明している。アミノ酸置換を目標抗体に導入し、かつ、産物に対して、所望の活性、例えば、保留/改善された抗原結合作用又は低下した免疫原性を選別することができる。
【0171】
【表1】
アミノ酸は、一般的な側鎖特性によって分けることができる。
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu;Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn;Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖方向に影響がある残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0172】
また非保存的置換により、特定の種類に分類されているものを別の種類に変更することができる。
【0173】
IV.免疫複合体
本発明の抗体分子は、異種タンパク質又はポリペプチドへの組換え融合又は化学的複合(共有結合性複合及び非共有結合性複合を含む)により融合タンパク質を産生できる。タンパク質、ポリペプチド又はペプチドを抗体に融合又は複合させる方法は、本分野で知られている内容である。例えば、米国特許第5,336,603号、第5,622,929号及び欧州特許第EP367,166号が参照される。
【0174】
また、本発明の抗体分子は、標識された配列(例えば、ペプチド)に融合することによって精製しやすくなる。好ましい実施形態において、標識されたアミノ酸配列は、ヘキサヒスチジンペプチド、例えばpQEベクター(QIAGEN,Inc.,9259 Eton Avenue,Chatsworth,CA,91311)などにおいて提供された標識であり、そのほとんどは市販品として得ることができる。Gentz et al.,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:821-824に記載のとおり、ヘキサヒスチジンは融合タンパク質を精製しやすくできる。他の精製用ペプチド標識は、ヘマグルチニン(「HA」)標識を含むが、これに限定されない。それはインフルエンザウイルスヘマグルチニンタンパク質に由来するエピトープ(Wilson et al.,1984,Cell 37:767)及び「flag」標識に対応する。
【0175】
他の実施形態において、本発明の抗体分子は診断剤又は検出可能な試薬と複合する。このような抗体は、臨床検査方法の一部(例えば、特定の療法の効果を確認するため)として、疾患又は病症の発生、成立、進行及び/又はその重症度を監視又は予測することができる。このような診断及び検査は、抗体と検出可能な物質をカップリングさせることによって実現でき、前記検出可能な物質は、さまざまな酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、放射性物質、各種の陽電子放出断層撮影法で使用される陽電子放出性金属及び非放射性の常磁性金属イオンを含み、前記酵素としては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ又はアセチルコリンエステラーゼを含むが、これらに限定されない。前記補欠分子族としては、例えば、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチンを含むが、これらに限定されない。前記蛍光物質としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロフルオレセイン、ダンシルクロリド又はフィコエリスリンを含むが、これらに限定されない。前記発光物質としては、ルミノールを含むが、これに限定されない。前記生物発光物質としては、ルシフェラーゼ、フルオレセイン、イクオリンを含むが、これらに限定されない。前記放射性物質としては、ヨウ素(131I、125I、123I及び121I)、炭素(14C)、硫黄(35S)、トリチウム(3H)、インジウム(115In、113In、112In及び111In)、テクネチウム(99Tc)、タリウム(201Ti)、ガリウム(68Ga、67Ga)、パラジウム(103Pd)、モリブデン(99Mo)、キセノン(133Xe)、弗素(18F)、153Sm、177Lu、159Gd、149Pm、140La、175Yb、166Ho、90Y、47Sc、186Re、188Re、142Pr、105Rh、97Ru、68Ge、57Co、65Zn、85Sr、32P、153Gd、169Yb、51Cr、54Mn、75Se、113Sn及び117Tinを含むが、これらに限定されない。
【0176】
本発明はさらに、治療用部分と複合する抗体分子の使用を含む。抗体分子は、治療用部分、例えば、細胞毒素(例えば、細胞成長阻害剤又は細胞殺滅剤)、治療剤、又はαエミッターなどの放射性金属イオンと複合できる。用語「細胞毒素」又は「細胞傷害剤」は、細胞に害を与える任意の物質を含む。
【0177】
また、本発明の抗体分子は所定の生物学的反応を調節する治療用部分又は薬物部分と複合できる。治療用部分又は薬物部分は、古典的な化学療法薬に制限されると解釈できない。例えば、薬物部分は、所望の生物学的活性を有するタンパク質、ペプチド又はポリペプチドであってもよい。このようなタンパク質は、例えば、アブリン、リシンA、シュードモナス外毒素、コレラ毒素、ジフテリア毒素などの毒素、腫瘍壊死因子、α-インターフェロン、β-インターフェロン、神経成長因子、血小板由来成長因子、組織プラスミノーゲン活性化因子、アポトーシス剤、抗血管新生剤などのタンパク質、又はリンホカインなどの生物学的応答調節物質を含んでもよい。
【0178】
また、本発明の抗体分子は、治療用部分、例えば、213Biなどのα-エミッターをはじいめとする放射性金属イオンと複合でき、又は放射金属イオン(131In、131LU、131Y、131Ho、131Smを含むが、これらに限定されない)をポリペプチドと複合させる大環状キレート剤として用いることができる。いくつかの実施形態において、前記大環状キレート剤は、リンカー分子を介して抗体に付着する1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸(DOTA)である。このようなリンカー分子は、本分野で公知の内容であり、Denardo et al.,1998, Clin Cancer Res.4(10):2483-90にも記載されている。前記文献はそれぞれ引用によりその全体が組み込まれる。
【0179】
治療用部分と抗体を複合させる技術は公知の内容であり、例えば、Arnon et al.,「Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy」(Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy, Reisfeld et al.(編集),p243-256(Alan R.Liss, Inc.1985)より一部抜粋)が参照される。
【0180】
抗体は、固相支持物に接続されてもよく、前記支持物は特に免疫測定法又は標的抗原の精製に用いられる。このような固相支持物は、ガラス、セルロース、ポリアクリルアミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル又はポリプロピレンを含むが、これらに限定されない。
【0181】
V.本発明の抗体分子の製造及び精製
本発明の抗体分子は、例えば、固相ペプチド合成(例えば、Merrifield固相合成)又は組換えにより製造できる。組換え製造において、宿主細胞でクローニング及び/又は発現するために、前記抗体分子のいずれか1本のポリペプチド鎖及び/又は複数本のポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドを単離し、1つ又は複数のベクターに挿入する。通常の方法を用いて、前記ポリヌクレオチドを簡易に単離してシーケンシングすることができる。1つの実施形態において、本発明の1種又は複数種のポリヌクレオチドを含むベクター、好ましくは発現ベクターを提供する。
【0182】
当業者が公知する方法を用いて発現ベクターを構築することができる。発現ベクターは、ウイルス、プラスミド、コスミド、λファージ又は酵母人工染色体(YAC)を含むが、これらに限定されない。
【0183】
本発明の1種又は複数種のポリヌクレオチドを含む発現用の発現ベクターを調製できたら、発現ベクターを適切な宿主細胞にトランスフェクション又は導入できる。この目的を達成させるためには、例えば、プロトプラスト融合、リン酸カルシウム共沈殿、エレクトロポレーション、レトロウイルス形質導入、ウイルストランスフェクション、パーティクルガン、リポソームに基づくトランスフェクション又は他の一般的な技術など、さまざまな技術を利用できる。
【0184】
1つの実施形態において、本発明のポリヌクレオチドを含む1種又は複数種の宿主細胞を提供する。いくつかの実施形態において、本発明の発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。本出願で使用される用語「宿主細胞」は、工学的手法により本発明の抗体分子を産生できる任意の種類の細胞系を指す。複製及び本発明の抗体分子の発現をサポートするのに適する宿主細胞は、本分野で公知する事項である。必要に応じて、このような細胞は特定の発現ベクターを用いてトランスフェクション又は形質導入することができ、しかもベクターを含む多くの細胞を培養して大型の発酵槽に接種して、臨床用として十分な量の本発明の抗体分子を得ることができる。適切な宿主細胞は、大腸菌などの原核微生物、糸状真菌もしくは酵母などの真核微生物、又は、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、昆虫細胞などのさまざまな真核細胞を含む。懸濁培養に適する哺乳動物細胞系を用いることができる。使用可能な哺乳動物宿主細胞系の例としては、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7);ヒト胎児腎臓株(HEK 293又は293F細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、サル腎臓細胞(CV1)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76)、ヒト子宮頸がん細胞(HELA)、犬腎臓細胞(MDCK)、バッファローラット肝細胞(BRL 3A)、ヒト肺細胞(W138)、ヒト肝臓細胞(Hep G2)、CHO細胞、NSO細胞、骨髄腫細胞株、例えばYO、NS0、P3X63及びSp2/0などが挙げられる。タンパク質の産生に適する哺乳動物宿主細胞系に関する概要は、例えば、Yazaki&Wu,Methods in Molecular Biology,第248巻(B.K.C.Lo編集,Humana Press,Totowa,NJ),p255-268(2003)が参照される。1つの好ましい実施形態において、前記宿主細胞はCHO、HEK293又はNSO細胞である。
【0185】
本分野において、これらの宿主細胞系で外来遺伝子を発現させる標準技術は公知する内容である。1つの実施形態において、本発明の抗体分子の産生方法を提供し、前記方法は、前記抗体の発現に適する条件で、前記抗体分子をコードするポリヌクレオチドを含む本出願に係る宿主細胞を培養することと、宿主細胞(又は宿主細胞培地)から前記抗体を回収することとを含む。
【0186】
本出願に記載のとおり調製された抗体分子は、高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーなど、既知の従来技術により精製できる。特定のタンパク質を精製するための実際の条件は、正味電荷、疎水性、親水性などの因素にも依存し、これは当業者にとって公知する内容である。
【0187】
本発明の抗体分子の純度は、さまざまな公知する分析方法のいずれかにより決定でき、前記公知する分析方法は、サイズ排除クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、高速液体クロマトグラフィーなどを含む。本出願に係る抗体分子の物理的/化学的特性及び/又は生物学的活性は、本分野の公知するさまざまな測定法により、同定、選別し又はその特性評価を行うことができる。
【0188】
VI.医薬組成物及びキット
別の態様において、本発明は、組成物、例えば、医薬組成物を提供し、前記組成物は、薬学的に許容可能なベクターと配合される本出願に記載の抗体分子を含む。本出願で使用される「薬学的に許容可能なベクター」は、生理学的に適合性がある溶剤、分散媒体、等張剤、吸収遅延剤などのいずれか又はその全てを含む。本発明の医薬組成物は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、非経口投与、直腸投与、脊髄投与又は表皮投与(例えば、注射又は輸注)に適する。
【0189】
本出願はさらに、本出願に記載の抗体分子と1種以上の治療剤とを組み合わせた組成物を開示し、前記治療剤は、以下のカテゴリ(i)~(iii)の1つ、2つ又は全てから選択される。(i)抗原提示(例えば、腫瘍抗原提示)を強化させる医薬品、(ii)エフェクター細胞反応(例えば、B細胞及び/又はT細胞活性化及び/又は動員)を強化させる医薬品、又は(iii)免疫抑制を低減させる医薬品。
【0190】
本発明の組成物は、さまざまな形態で存在することができる。これらの形態は、液体、半固体及び固体の剤型、例えば、液体溶液剤(例えば、注射用溶液剤、輸注用溶液剤)、分散体剤もしくは懸濁剤、リポソーム剤及び坐剤を含む。好ましい形態は、所望の投与モードと治療用途によって決定する。一般的に好ましくは、組成物が注射用溶液剤、輸注用溶液剤の形態である。好ましい投与モードは、非経口(例えば、静脈内、皮下、腹腔内(i.p.)、筋肉内)注射である。1つの好ましい実施形態において、抗体分子は静脈内輸注又は注射により投与される。別の好ましい実施形態において、抗体分子は筋肉内、腹腔内又は皮下注射により投与される。
【0191】
本出願で使用される用語「非経口投与」及び「非経口方式投与」は、経腸投与及び局所投与以外の投与モードを指し、一般には注射して投与されるが、静脈内、筋肉内、動脈内、皮内、腹腔内、経気管、皮下注射、輸注を含むが、これらに限定されない。
【0192】
治療用組成物は一般に、滅菌されたものであり、しかもその製造・保管条件において安定している。組成物は溶液、マイクロエマルション、分散体、リポソーム又は凍結乾燥物の形態として調製することができる。活性化合物(即ち抗体分子)を所定の量で適切な溶剤に加え、次に濾過・消毒することによって、滅菌された注射用溶液剤を調製することができる。一般には、前記活性化合物を滅菌溶媒に混入することによって分散体を調製し、前記滅菌溶媒は基礎となる分散媒体と他の成分を含む。レシチンなどのコーティング剤を用いることができる。分散体である場合は、界面活性剤を用いて溶液剤に適切な流動性を維持できる。吸収を遅延させる物質、例えばモノステアレート、ゼラチンを組成物に含有させることによって注射用組成物の吸収を引き伸ばすことができる。
【0193】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子は経口投与され、例えば、不活性希釈剤又は食用可能ベクターとともに経口投与される。本発明の抗体分子は、ハードゼラチンカプセル又はソフトゼラチンカプセルに封入されるか、錠剤に圧縮されてもよいし、又はそのまま対象の食事に混入されてもよい。経口投与して治療に使用される場合は、前記化合物は、賦形剤とともに混入され、摂取される錠剤、頬錠、トローチ剤(troche)、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハ剤(wafer)などの形態で使用されてもよい。本発明の抗体分子を非経口経路で投与するためには、前記抗体分子をその不活性化を防ぐ材料でコーティングするか、又は当該材料とともに投与する場合がある。さらに治療用組成物は、本分野で公知する医療機器を用いて投与できる。
【0194】
本発明の医薬組成物は、「治療的有効量」又は「予防的有効量」の本発明に記載の抗体分子を含んでもよい。「治療的有効量」とは、所定の期間に亘って所定の用量で所望の治療結果を達成するために有効な量を指す。治療的有効量は、病状、個体の年齢、性別、体重などの多くの要因によって異なる。治療的有効量は、毒性又は害が治療による有益な効果に及ばないような任意の量である。治療を受けていない対象と比べ、「治療的有効量」は、測定可能なパラメータ(例えば、腫瘍成長率)を好ましくは少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約40%、さらに好ましくは少なくとも約60%、一層好ましくは少なくとも約80%抑制する。前記測定可能なパラメータ(例えば、腫瘍体積)に対する本発明の抗体分子の抑制能力は、ヒト腫瘍における効果を示すための動物モデルシステムにおいて評価できる。
【0195】
「予防的有効量」は、所定の期間に亘って所定の用量で所望の予防結果を達成するために有効な量を指す。一般には、予防的用量は疾患の早期より前に又は比較的初期の段階で対象に使用されるため、予防的有効量は治療的有効量を下回る。
【0196】
本出願に記載の抗体分子を含むキットも本発明の範囲内である。キットは、1つ又は複数の他の要素を含んでもよく、例えば、取扱説明書、マーカー又はカップリング用試薬などの他の試薬、薬学的に許容可能なベクター、対象への投与のための装置もしくは他の材料を含む。
【0197】
VII.抗体分子の使用
本出願で開示されている抗体分子は、インビトロ・インビボ診断用途、及び治療的・予防的用途を有する。例えば、これらの分子は、インビトロ又はエキソビボ培養細胞、又は対象、例えば、ヒト対象に投与されて、がん、自己免疫疾患、急性または慢性炎症性疾患、感染性疾患(例えば、慢性感染症又は敗血症)などのさまざまな抗原関連疾患を治療、予防及び/又は診断することができる
【0198】
1つの態様において、本発明は、血清、精液、尿又は組織生検サンプル(例えば、過剰増殖性又はがん性の病巣に由来する)などの生体サンプル中の関連抗原の存在をインビトロ又はインビボで検出する診断方法を提供する。該診断方法は、(i)相互作用が生じることが認められる条件において、サンプル(必要に応じて、対照サンプル)を本出願に記載の抗体分子と接触させ、又は対象に前記抗体を投与することと、(ii)前記抗体とサンプル(必要に応じて、対照サンプル)による複合物の形成を検出することとを含む。複合物が形成される場合、関連抗原が存在することを示し、本出願に記載の治療及び/又は予防の適合性又はその必要性も示唆される。
【0199】
いくつかの実施形態において、治療前、例えば、治療を開始する前、又は治療間隔がある場合は、治療を再開する前に関連抗原を検出する。利用可能な検出方法は、免疫組織化学、免疫細胞化学、FACS、ELISAアッセイ、PCR技術(例えば、RT-PCR)又はインビボイメージング技術を含む。一般には、インビトロ又はインビボ検出方法に使用される抗体分子は、結合された又は未結合のコンジュゲートを検出しやすくするために、検出可能な物質で直接的又は間接的に標識される。適切な検出可能な物質は、さまざまな生物活性酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、常磁性(例えば、核磁気共鳴活性)物質、及び放射性物質を含む。
【0200】
いくつかの実施形態において、関連抗原のレベル及び/又は分布をインビボで決定し、例えば、検出可能な物質で標識された本発明の抗体分子を、非侵襲的方式(例えば、適切なイメージング技術(例えば、ポジトロン断層法(PET)による走査)により検出する。1つの実施形態において、例えば、PET試薬(例えば、18F-フルオロデオキシグルコース(FDG))を用いて検出可能な方式で標識された本発明の抗体分子を検出することによって、関連抗原のレベル及び/又は分布をインビボで測定する。
【0201】
1つの実施形態において、本発明は、本出願に記載の抗体分子と、取扱説明書とを含む診断キットを提供する。
【0202】
別の態様において、本発明は、本発明に記載の抗体分子を用いて、免疫応答の調節が必要な対象の疾患をインビボで治療又は予防し、それによってがん性腫瘍、自己免疫疾患、急性または慢性炎症性疾患、感染性疾患(例えば、慢性感染症又は敗血症)などの関連する疾患の発生又は再発を抑制又は減少する。本発明の抗体分子は単独で使用できる。必要に応じて、抗体分子は、他のがん治療剤/予防剤と組み合わせて投与されてもよい。本発明の抗体分子が1種又は複数種の他の医薬品と組み合わせて投与される場合は、任意の順番でこの組み合わせで投与してもよいし又は同時に投与してもよい。
【0203】
したがって、1つの実施形態において、本発明は、対象における免疫応答を調節する方法を提供し、前記方法は、本出願に記載の抗体分子を治療的有効量で対象に投与することを含む。別の実施形態において、本発明は、対象における疾患の発生又は再発を防止する方法を提供し、前記方法は本出願に記載の抗体分子を予防的有効量で対象に投与することを含む。
【0204】
いくつかの実施形態において、抗体分子を用いて治療及び/又は予防するがんは、固形腫瘍、血液がん(例えば、白血病、リンパ腫、骨髄腫、例えば、多発性骨髄腫)及び転移性病巣を含むが、これらに限定されない。1つの実施形態において、前記がんは固形腫瘍である。固形腫瘍の例は、悪性腫瘍、例えば、複数の臓器系の肉腫もしくはがん、例えば肺、乳房、卵巣、リンパ系、消化管(例えば、結腸)、肛門、性器及び尿生殖路(例えば、腎臓、膀胱上皮、膀胱細胞、前立腺)、咽頭、CNS(例えば、脳、神経細胞又はグリア細胞)、頭頸部、皮膚(例えば、黒色腫)、鼻咽頭(例えば、分化型又は未分化型の転移性又は局所再発性鼻咽頭がん)又は膵臓を侵襲するがん、及び腺がん、例えば、結腸がん、直腸がん、腎細胞がん、肝がん、非小細胞肺がん、小腸がん及び食道がんなどの悪性腫瘍を含む。がんは、早期、中期又は末期にあるがん又は転移性がんであってもよい。
【0205】
いくつかの実施形態において、前記がんは、黒色腫、乳がん、結腸がん、食道がん、消化管間質腫瘍(GIST)、腎臓がん(例えば、腎細胞がん)、肝がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、頭頸部腫瘍、胃がん、血液悪性疾患(例えば、リンパ腫)から選択される。
【0206】
いくつかの実施形態において、抗体分子を用いて治療及び/又は予防する感染性疾患は、効果的なワクチンがない病原体、又は一般的なワクチンでは十分な効果が得られないような病原体を含む。これらの病原体は、HIV、(A型、B型及びC型)肝炎、インフルエンザ、疱疹、ジアルジア属(Giardia)、マラリア、リーシュマニア(Leishmania)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を含むが、これらに限定されない。本発明で例示される抗体分子によるPD-L1遮断作用は、感染が発展するに伴い、変異抗原が生じる病原体(例えばHIV)が引き起す感染には特に利用できる。これらの変異抗原は、抗ヒトPD-L1抗体が投与されると、外来抗原とみなされ、それによって、本発明で例示される抗体分子は、負のシグナルにより抑制されない強烈なT細胞反応をPD-L1を介して活性化させることができる。
【0207】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子を用いて炎症性・自己免疫性疾患及び移植片対宿主病(GvHD)を治療及び/又は予防し、免疫系をダウンレギュレートする。本発明の抗体分子を投与することで治療及び/又は予防できる自己免疫性疾患の例は、円形脱毛症、強直性脊椎炎、自己免疫性肝炎、限局性回腸炎、エリテマトーデス、潰瘍性結腸炎、ぶどう膜炎などを含むが、これらに限定されない。本発明の抗体分子を投与することで治療及び/又は予防できる炎症性疾患の例は、喘息、脳炎、炎症性腸疾患、アレルギー性疾患、敗血症性ショック、肺線維症、関節炎、ウイルスもしくは細菌の慢性感染による慢性炎症を含むが、これらに限定されない。
【0208】
次に、本発明に対する一層の理解のために、実施例を用いて説明する。これらの実施例は本発明の保護範囲を制限するものとは解釈されず、何らかの形でそのような示唆をするためのものでもない
【実施例】
【0209】
実施例1. 抗OX40/PD-L1二重特異性抗体の構築、発現、精製及び性質同定
実施例1.1. 抗OX40/PD-L1二重特異性抗体の構築
本実施例において、4種の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体が構築され、それぞれ(1)構造模式図が
図1Aに示される二重特異性抗体Bi-110-112HCと、(2)構造模式図が
図1Bに示される二重特異性抗体Bi-113-112HCと、(3)構造模式図が
図1Cに示される二重特異性抗体Bi-119-112LCと、(4)構造模式図が
図1Dに示される二重特異性抗体Bi-122-112LCと命名される。次に上記4種の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体についてそれぞれ説明する。
【0210】
(1)
図1Aの構造模式図に示されるように、二重特異性抗体Bi-110-112HCは左右に対称な4本のポリペプチド鎖からなり、左半分の2本のポリペプチド鎖(即ち、ペプチド鎖#1及びペプチド鎖#2)はN末端からC末端までそれぞれ配列番号6及び配列番号10で表されるアミノ酸配列を有する。具体的には、配列番号6で表されるペプチド鎖#1はN末端からC末端まで抗OX40抗体ADI-20112から誘導される配列番号7で表されるVLアミノ酸配列と、前記VLアミノ酸配列のC末端に位置する配列番号8で表されるヒトκ軽鎖定常領域(CL)アミノ酸配列と、前記ヒトκ軽鎖定常領域(CL)アミノ酸配列のC末端に位置する配列番号9で表される接続ペプチドアミノ酸配列と、前記接続ペプチドアミノ酸配列のC末端に位置する配列番号2で表される抗PD-L1 VHHアミノ酸配列とを含む。配列番号10で表されるペプチド鎖#2は、抗OX40モノクローナル抗体ADI-20112誘導される配列番号11で表されるVHアミノ酸配列と、前記VHアミノ酸配列のC末端に位置するヒトIgG1から誘導される配列番号12で表されるCH1アミノ酸配列と、前記CH1アミノ酸配列のC末端に位置するヒトIgG1から誘導される配列番号13で表されるFc領域アミノ酸配列とを含む。
【0211】
(2)
図1Bの構造模式図に示されるように、二重特異性抗体Bi-113-112HCは左右に対称な4本のポリペプチド鎖からなり、左半分の2本のポリペプチド鎖(即ち、ペプチド鎖#1及びペプチド鎖#2)はN末端からC末端までそれぞれ配列番号14及び配列番号10で表されるアミノ酸配列を有する。具体的には、配列番号14で表されるペプチド鎖#1はN末端からC末端まで配列番号2で表される抗PD-L1 VHHアミノ酸配列と、配列番号9で表される接続ペプチドアミノ酸配列と、配列番号7で表される抗OX40抗体ADI-20112から誘導されるVLアミノ酸配列と、配列番号8で表されるヒトκ軽鎖定常領域(CL)アミノ酸配列とを含む。ペプチド鎖#2は配列番号10で表されるアミノ酸配列を有する。
【0212】
(3)
図1Cの構造模式図に示されるように、二重特異性抗体Bi-119-112LCは左右に対称な4本のポリペプチド鎖からなり、左半分の2本のポリペプチド鎖(即ち、ペプチド鎖#1及びペプチド鎖#2)はN末端からC末端までそれぞれ配列番号15及び配列番号16で表されるアミノ酸配列を有する。具体的には、配列番号15で表されるペプチド鎖#1はN末端からC末端まで配列番号7で表される抗OX40抗体ADI-20112から誘導されるVLアミノ酸配列と、配列番号8で表されるヒトκ軽鎖定常領域(CL)アミノ酸配列とを含む。配列番号16で表されるペプチド鎖#2はN末端からC末端まで配列番号11で表される抗OX40モノクローナル抗体ADI-20112から誘導されるVHアミノ酸配列と、ヒトIgG1から誘導されるCH1アミノ酸配列と、配列番号2で表される抗PD-L1 VHHアミノ酸配列と、配列番号13で表されるヒトIgG1 Fc領域から誘導されるアミノ酸配列とを含む。
【0213】
(4)
図1Dの構造模式図に示されるように、二重特異性抗体Bi-122-112LCは左右に対称な4本のポリペプチド鎖からなり、左半分の2本のポリペプチド鎖(即ち、ペプチド鎖#1及びペプチド鎖#2)はN末端からC末端までそれぞれ配列番号15及び配列番号17で表されるアミノ酸配列を有し、前記ペプチド鎖#2はN末端からC末端まで配列番号2で表される抗PD-L1 VHHアミノ酸配列と、配列番号9で表される接続ペプチドアミノ酸配列と、配列番号11で表される抗OX40モノクローナル抗体ADI-20112から誘導されるVHアミノ酸配列と、配列番号12で表されるヒトIgG1から誘導されるCH1アミノ酸配列と、配列番号13で表されるヒトIgG1 Fc領域から誘導されるアミノ酸配列とを含む。
【0214】
実施例1.2. 抗OX40/PD-L1二重特異性抗体の発現、精製及び分析
本実施例において、実施例1.1で構築された抗OX40/PD-L1二重特異性抗体のペプチド鎖#1、ペプチド鎖#2をコードするヌクレオチド配列をそれぞれポリクローナルサイトによって真核発現ベクターpTT5の市販品に組み入れ、真核細胞において発現させて精製することによって、抗OX40/PD-L1二重特異性抗体Bi-110-112HC、Bi-113-112HC、Bi-119-112LC及びBi-122-112LCを得た。操作は具体的に以下のとおりである。
【0215】
二重特異性抗体Bi-110-112HC、Bi-113-112HC、Bi-119-112LC及びBi-122-112LCの上記各ペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列の合成は蘇州金唯智生物科技有限公司(Genewiz)によって実施された。適切な制限酵素とリガーゼを用いて、合成されたペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列をそれぞれベクターpTT5に接続させることによって、それぞれペプチド鎖をコードする前記ヌクレオチド配列を含む組換えベクターを得た。
【0216】
前記組換えベクターは、シーケンシングしてその正確性が確認され、後続の発現に用いる。
HEK293細胞(Invitrogen社から購入)をExpi293細胞培養液(Invitrogen社から購入)において継代培養した。トランスフェクションの1日前に細胞培養物を遠心分離して細胞ペレットを得、細胞を新鮮なExpi293細胞培養培地に懸濁し、細胞密度を1×106細胞/mlに調整した引き続きHEK293細胞を培養し、トランスフェクション当日に培養物中の細胞密度は約2×106個の細胞/mlである。HEK293細胞懸濁液の最終体積の1/10に相当するF17培地(Gibco社から購入、製品カタログ番号はA13835-01)をトランスフェクション緩衝液として用いる。1mLのトランスフェクション緩衝液当たり、上記のとおりに調製された、それぞれペプチド鎖#1又はペプチド鎖#2をコードするヌクレオチド配列を含むモル比1:1の組換えプラスミド200μgを加え、均一に混合し、次にポリエチレンイミン(polyethylenimine(PEI))(Polysciences、カタログ番号:23966)30μgを加えて、均一に混合し、室温で10分間インキュベートした後、PEI/DNA混合物をHEK293細胞懸濁液に徐々にデカントした。軽く混合させて均一になると、8%CO2、36.5℃において一晩培養した。
【0217】
一晩培養した後、培養フラスコに、トランスフェクション後の培養物の体積の1/50で濃度が200g/LのFEED(Sigma、カタログ番号:H6784-100G)と、トランスフェクション後の培養物の体積の1/50で濃度が200g/Lのグルコース溶液を追加し、軽く混合させて均一になると、8%CO2、36.5℃において引き続き培養した。20時間後に、最終濃度が2mM/LになるようVPA(Gibco、カタログ番号:11140-050)を加えた。7日目まで又は細胞活性≦60%となるまで連続的に培養すると、培養物を収集して、7500回転/分で30分間遠心分離し、細胞の上清を取り分けて、SARTOPORE(Sartorius、カタログ番号:5441307H4)で濾過した後、AKTApureシステム(GE Healthcare)においてアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。
【0218】
アフィニティークロマトグラフィーによる精製の操作ステップは具体的に以下のとおりである。MabSelect SuRe(GE Healthcare、カタログ番号:17-5438-03)アフィニティークロマトグラフィーカラムを使用し、AKTApureシステムに配置した。0.1M NaOHを用いてMabSelect SuReアフィニティークロマトグラフィーカラムが装備されたAKTApureシステムから、一晩でエンドトキシンを除去した後、カラムの体積の5倍の結合緩衝液(Tris 20mM、NaCl 150mM、pH7.2)でシステムを洗浄してカラムを平衡化した。上記のように濾過後の細胞上清はカラムに通した。カラムの体積の5~10倍の結合緩衝液で再度平衡化し、AKTApureシステムに装備された紫外線検出装置を用いてUV基線が直線となるまで監視した。次に、溶出緩衝液(クエン酸+クエン酸ナトリウム100mM、pH3.5)を用いて抗体を溶出し、紫外線吸収値に基づいてサンプルを収集した。収集液は1ml当たりに中和緩衝液(Tris-HCl 2M)80μlを加えて中和させておいた。
【0219】
サイズ排除クロマトグラフィー(size exclusion chromatography、SEC)を利用して、収集された各レベルのサブチューブ中のサンプルの純度を検出した。SEC結果はそれぞれ
図2A、
図2B、
図2C及び
図2Dに示されるように、二重特異性抗体Bi-110-112HC純度は71.40%、Bi-113-112HC純度は84.54%、Bi-119-112LC純度は99.43%、Bi-122-112LC純度は94.79%である。
【0220】
精製後の二重特異性抗体溶液に対して、15ml限外濾過遠心分離管において4500回転/分で30分間遠心分離した。PBSでタンパク質を希釈して、次に4500回転/分で30分間遠心し、該操作を2回繰り返すことによって、緩衝液を交換した。緩衝液が交換された抗体を合わせて、抗体濃度を測定した。
【0221】
後続の実験では、単一メインピーク純度が99.43%の二重特異性抗体Bi-119-112LCを選択してさらに研究した。
【0222】
実施例1.3. 抗OX40/PD-L1二重特異性抗体の解離定数の測定
Octetシステム(ForteBio社製)を用いて動力学的結合測定法により本発明の上記の例示的な抗OX40/PD-L1二重特異性抗体Bi-119-112LCがOX40及びPD-L1と結合する時の平衡解離定数(KD)を測定した。関連の文献で報告された方法(Estep,P et al.,High throughput solution Based measurement of antibody-antigen affinity and epitope binning.MAbs,2013、5(2):p270-278)に基づいてForteBio親和力測定を行った。簡単に言えば、実験開始の30分間前に、AHCセンサ(Pall、カタログ番号:1506091)をSD緩衝液(PBS 1×、BSA 0.1%、ポリソルベート20 0.05%)に浸漬して室温で平衡化した。黒色ポリスチレン製のハーフボリューム96ウェルマイクロプレート(Greiner)のウェルにそれぞれ空白対照(背景除去用)としてSD緩衝液100μlと、100nMの精製された二重特異性抗体Bi-119-112LCと、対照として抗PD-L1ヒト化Nb-Fc抗体(PCT/CN2017/095884)と、抗OX40抗体ADI-20112 (中国特許出願第201710185400.8号)と、抗原としてSD緩衝液によって希釈されたヒトPD-L1-his(100nM)とヒトOX40-his(100nM)(Acrobiosystems)の溶液100μlとを加えた。抗ヒトIgG FcバイオセンサAHCを、それぞれ前記抗体溶液を含むウェルに室温で600秒間浸漬した後、ローディングした。次に基線となるまでSD緩衝液においてセンサを洗浄し、100μlの抗原溶液を含むウェルに浸漬して、抗体と抗原の結合を監視した。次にセンサをSD緩衝液100μlを含むウェルに移して、抗体の解離を監視した。回転数は400回転/分であり、温度は30℃である。Octet分析ソフトウェア(ForteBio)を用いて、背景修正後の結合曲線と解離曲線を当てはめして、結合(kon)及び解離(kdis)の速度定数を生成し、後に平衡解離定数(KD)の算出するにこれらを用いる。表1、表2には、抗原OX40又はPD-L1に対する二重特異性抗体Bi-119-112LCのkon、kdis及びKDデータが示されている。
【0223】
【0224】
【0225】
上記のデータから分かるように、本発明の二重特異性抗体Bi-119-112LCは溶液中のPD-L1及びOX40タンパク質と同時に結合でき、しかも親抗体ADI-20112及びヒト化Nb-Fcの各抗原に対する親和力定数を維持している。
【0226】
実施例1.4. 本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体とOX40又はPD-L1を過剰発現させたCHO細胞の結合分析
FACSにより本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体Bi-119-112LCとOX40又はPD-L1を過剰発現させたCHO細胞の結合を測定した。
【0227】
簡単に言えば、ExpiCHO(商標) Expression System Kit(Invitrogen、カタログ番号:A29133)を用いて、マーカーが提供する取扱説明書に従って下記のとおりに操作した。ポリクローナルサイト(MCS)にクローニングされたヒトPD-PD-L1 cDNA(Sino Biological)を持つpCHO1.0ベクター(Invitrogen)をチャイニーズハムスター卵巣がん細胞(CHO)(Invitrogen)にトランスフェクションすることによって、ヒトPD-L1を過剰発現させたCHO細胞(CHO-PD-L1細胞)を産生した。CHO-PD-L1細胞を計数し、細胞培地を用いて1×10
6個の細胞/mlとなるよう希釈し、100μl/ウェルでU底96ウェルプレートに加えた。遠心分離機において400gで5分間遠心分離して、細胞培地を除去した。階段希釈された本発明の二重特異性抗体Bi-119-112LC 100μlと、対照としてヒト化Nb-FcとをそれぞれU底プレートに加えて細胞を再懸濁させ、氷上に30分間静置した。400gで5分間遠心分離して、上清を除去し、PBSで細胞を洗浄して、未結合の抗体を取り除いた。400gで5分間遠心分離して、PBSを除去した。各ウェルに、1:200に希釈されたPEと複合した抗ヒトFc抗体(SOUTHERN BIOTECH)100μlを加え、遮光条件で、氷上に30分間インキュベートした。400gで5分間遠心分離して、上清を除去した。PBSで細胞を洗浄して、未結合のPEと複合した抗ヒトFc抗体を取り除いた。PBS 100μlで細胞を再懸濁させ、FACSにより抗体と細胞の結合を検出した。結果は
図3に示される。
【0228】
図3から分かるように、本発明の二重特異性抗体Bi-119-112LCは細胞表面で発現されたPD-L1と結合でき、結合のEC50は2.654nMであり、細胞表面で発現されたPD-L1に対する抗PD-L1親抗体の結合能力(EC50は1.940nM)に相当する。
【0229】
同様に、ポリクローナルサイト(MCS)にクローニングされたヒトOX40 cDNA(Sino Biological)を持つpCHO1.0ベクター(Invitrogen)をチャイニーズハムスター卵巣がん細胞(CHO)(Invitrogen)にトランスフェクションすることによって、ヒトOX40を過剰発現させたCHO細胞(CHO-OX40細胞)を産生した。
【0230】
CHO-OX40に対してFACS検出を実施する際、異なる細胞を使用すること、対照抗体としてADI-20112抗体を使用すること以外、他に実験操作はいずれもCHO-PD-L1細胞に対する上記のFACS検出と同じである。
【0231】
結果は
図4に示される。
図4から分かるように、本発明の二重特異性抗体Bi-119-112LCは細胞表面で発現されたOX40と結合でき、結合のEC50は3.195nMであり、細胞表面で発現されたOX40に対する抗OX40親抗体の結合能力(EC50は2.193nM)に相当する。
【0232】
実施例1.5. 本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体と、OX40を過剰発現させたCHO細胞及びPD-L1を過剰発現させたCHO細胞の同時結合の分析
本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体Bi-119-112LCが異なる細胞に由来する標的抗原と同時に結合できるかどうかを検証するために、本実施例ではフローサイトメトリーを用いて、前記二重特異性抗体によって誘導される異なる細胞のカップリングについて検出した。実験手順は具体的に以下のとおりである。
【0233】
1)実施例1.4に記載のとおりCHO-PD-L1細胞及びCHO-OX40細胞を得て、培養した。遠心分離機においてCHO-PD-L1細胞を含む培養物及びCHO-OX40細胞を含む培養物をそれぞれ400gで5分間遠心分離して、細胞培地を除去した。PBSで洗浄して、PBSで細胞を再懸濁させた。細胞を計数して、細胞密度を2×106個の細胞/mlに調整した。CHO-PD-L1細胞及びCHO-OX40細胞にそれぞれ1:5000でCellTracker(商標)Deep Red(Thermo)及びCell Trace CFSE(Invitrogen)染料を加え、37℃で30分間静置した。遠心分離機において400gで5分間遠心分離して、上清を除去し、PBSで細胞を洗浄した。
【0234】
2)勾配希釈されたサンプル(抗OX40/PD-L1二重特異性抗体Bi-119-112LCと、抗PD-L1ヒト化Nb-Fc抗体(PCT/CN2017/095884)と、抗OX40抗体ADI-20112(中国特許出願第201710185400.8号))をそれぞれ96ウェルU底プレートに加えた。前記1)の染色後のCHO-PD-L1細胞を加え、混合させた(最終細胞密度は1.5×106個/ml)。96ウェルU底プレートを4℃で30分間静置してプレートを取り出し、400gで5分間遠心分離し、次にPBSで4回洗浄し、PBSで細胞を再懸濁させた。
【0235】
3)96ウェルU底プレート中の前記2)の細胞懸濁液に前記1)の染色後のCHO-OX40細胞を加えて、CHO-OX40細胞の最終細胞密度は1×106個/mlになると、室温で1時間静置してFACS検出を行った。チャンネル2及チャンネル4の二重陽性細胞の比率は抗OX40/PD-L1二重特異性抗体Bi-119-112LCが引き起こす細胞カップリングの状況を反映している。
【0236】
FACS検出結果は
図5に示し、抗OX40/PD-L1二重特異性抗体Bi-119-112LCがCHO-PD-L1細胞とCHO-OX40細胞のカップリングを誘導できることから、本発明の二重特異性抗体は異なる細胞表面に由来する標的抗原と同時に結合できることを示している。本実施例で使用されるIgG1陰性対照の重鎖(HC)アミノ酸配列は配列番号29で表され、IgG1陰性対照の軽鎖(LC)アミノ酸配列は配列番号30で表される。
【0237】
実施例1.6. 本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体によるPD-1とPD-L1を過剰発現させたCHO細胞の結合遮断の分析
本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体がPD-1とPD-L1を過剰発現させたCHO細胞の結合を遮断できるかどうかを検証するために、本実施例ではフローサイトメトリーを用いて、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体によるPD-1タンパク質とPD-L1を過剰発現させたCHO細胞の結合遮断を検出した。実験手順の詳細は以下のとおりである。
【0238】
1)実施例1.4に記載のとおりCHO-PD-L1細胞を得て、培養した。遠心分離機において、2.4×107個のCHO-PD-L1細胞を含む培養物を400gで5分間遠心分離して、細胞培地を除去した。PBSで洗浄して、5mlのPBSで細胞を再懸濁させた。
【0239】
2)細胞プレーティング:1)で処理されたCHO-PD-L1細胞を1ウェル当たり50μlで96ウェルU底凝集プレートに加えた。
【0240】
3)勾配濃度サンプル溶液の調製:5mlのPBSにビオチン化ヒトPD-1タンパク質(AcroBiosystems、PD1-H82F2)200μlを加え(ヒトPD-1タンパク質の濃度は0.2mg/ml)、均一に混合した。ビオチン化ヒトPD-1とPBSの混合液を用いて、被検サンプルを次のように希釈した。1000nMを開始濃度とし、それに続く11の濃度は3倍希釈して、合計で12の濃度とした。
【0241】
4)調製された勾配濃度サンプルは1ウェル当たり50μlで、2)の細胞プレーティングを終えた96ウェルU底凝集プレートに加え、均一に混合し、4℃で、30分間インキュベートして、400gで、5分間遠心分離して、上清を除去し、1ウェル当たり150μlのPBSを加え、400gで、5分間遠心分離して、上清を除去し、これを3回繰り返した。
【0242】
5)1ウェル当たり1:200希釈されたStreptavidin-R-phycoerythrin(SAPE)(THERMO、S21388)100μlを加え、4℃で、30分間静置した。
【0243】
6)各ウェル当たり150μlのPBSを加え、400gで、5分間遠心分離して、上清を除去し、これを2回繰り返し、100μlのPBSで再懸濁させ、フローサイトメーター(BD Biosciences、ACCURIC6)で検出した。
【0244】
本実施例で使用されるIgG1陰性対照は、上記の実施例1.5で使用されるIgG1陰性対照と同じである。実験結果は図6に示し、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体Bi-119-112LCはPD-1と、PD-L1を過剰発現させたCHO細胞の結合を効果的に遮断でき、しかも遮断活性は抗PD-L1ヒト化Nb-Fc抗体に相当する(抗OX40/PD-L1二重特異性抗体のIC50は3.522nMであり、抗PD-L1ヒト化Nb-Fc抗体のIC50は4.906nMである)。
【0245】
実施例1.7. ルシフェラーゼレポーター遺伝子による抗OX40/PD-L1二重特異性抗体の抗PD-L1活性の検出
抗OX40/PD-L1二重特異性抗体がNFATシグナル伝達経路に対するPD-1/PD-L1相互作用の抑制作用を解消できるかどうかを検証するために、本実施例ではルシフェラーゼレポーター遺伝子を用いて細胞株(Promega、CS187109)を検出し、ルシフェラーゼの発現検出によってPD-1/PD-L1相互作用に対する二重特異性抗体の抑制能力を示す。実験手順の詳細は以下のとおりである。
【0246】
抗体を研究する際はその作用メカニズム(mechanisms of action、MOA)の解明とその生物学的活性が基礎となることから、本実施例ではPD-1/PD-L1 Blockade Bioassay、Cell Propagation Model(Promega社)を用いて、本発明の二重特異性抗体の抗PD-L1生物学的活性を研究した。
【0247】
Promega社によるPD-1/PD-L1 Blockade Bioassayは、MOAに基づく生物学的測定法であり、PD-1/PD-L1相互作用を遮断できる抗体の効力及び安定性を測定するために用いられる。該測定法は、2種の遺伝子組み換え細胞株を用いる。
【0248】
・PD-1エフェクター細胞:ヒトPD-1を安定的に発現させ、活性化T細胞核内因子(nuclear factor of activated T cells、NFAT)によってルシフェラーゼを誘導発現させるJurkat T細胞。
【0249】
・PD-L1 aAPC/CHO-K1細胞:ヒトPD-L1を安定的に発現させるCHO-K1細胞、及び対応するTCRを非抗原依存的に活性化させる細胞表面タンパク質。
【0250】
PD-1とPD-L1の結合は、NFAT下流シグナルの伝達を遮断することによって、ルシフェラーゼの発現を抑制でき、PD-1抗体又はPD-L1抗体が加えられると、このような遮断効果が逆転され、ルシフェラーゼが発現されるため、蛍光シグナルが検出される。該検出方法は、感度、特異性、正確性がいずれも良好であり、しかも安定性が高い。
【0251】
メーカーの製品取扱説明書に従って検出した。
【0252】
1)活性検出の前日にPD-L1 aAPC/CHO-K1細胞をプレーティングする:培養上清を捨て、PBSで洗浄し、パンクレリパーゼ(Gibco、25200072)を加え、37℃で、3~5分間インキュベートし、4倍の体積となる10%FBS(HyClone、SH30084.03)含有のRPMI1640(Gibco、22400-071)培地で消化を停止させ、細胞を収集し、少量に細胞混合液を取り分けて細胞濃度を測定し、所定体積の細胞液を得て、400gで、10分間遠心分離して、上清を捨て、10%FBS(HyClone、SH30084.03)含有のRPMI1640(Gibco、22400-071)培地を測定緩衝液(assay buffer)として用い細胞を再懸濁させることによって、細胞密度を4×105個の細胞/mlとした。細胞懸濁液を100μL/ウェルで白色96ウェル細胞培養プレート(Nunclon、136101)に加え、白色96ウェル細胞培養プレートの縁部のウェルには200μl/ウェルでPBSを加えた。37℃、5%CO2のインキュベータで細胞を一晩培養した。
【0253】
2)滅菌96ウェルプレート(Nunclon、442404)に対して、10%FBS含有のRPMI1640培地を用いて被検サンプルを次のように希釈した。200nMを開始濃度とし、2番目の濃度~12番目の濃度は3倍希釈して、合計で12の濃度とした。
【0254】
3)PD-1エフェクター細胞を取得して、計数し、400gで5分間遠心分離し、assay bufferで細胞を再懸濁させることによって、細胞濃度を1.25×106個の細胞/mlとした。
【0255】
4)インキュベータから白色細胞培養プレートを取り出して、各ウェルから95μl捨て、2)で希釈された抗体40μl、3)で処理した細胞を加え、各ウェルはJurkat/PD-1細胞40μlとした。
【0256】
5)二酸化炭素インキュベータにおいて、37℃、5%CO2の培養条件で6時間培養した。
【0257】
6)白色細胞培養プレートを取り出して、室温で5~10分間静置した。
【0258】
7)Bio-Glo(商標)緩衝液(Promega、G7940)を融解し、Bio-Glo(商標)基質を加え(Promega、G7940)、均一に混合した。得られたBio-Glo(商標)試薬を、上記のとおりに6時間培養した検出プレートのウェルに80μl/ウェルで加えた。室温で5~10分間静置した。
【0259】
8)Spectra Max I3マイクロプレートリーダー(Thermo、Max i3)を用いて、化学発光の全波長を収集し、各ウェルの収集時間は1000ミリ秒とした。
【0260】
本実施例で使用されるIgG1陰性対照は、上記の実施例1.5で使用されるIgG1陰性対照と同じである。実験結果は
図7に示し、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体Bi-119-112LCはNFATシグナル伝達経路に対するPD1/PD-L1相互作用の遮断効果を効果的に解消でき、しかも活性は抗PD-L1ヒト化Nb-Fc抗体に相当する(抗OX40/PD-L1二重特異性抗体のEC50は0.4585nMであり、抗PD-L1ヒト化Nb-Fc抗体のEC50は0.3283nMである)。
【0261】
実施例1.8. ルシフェラーゼレポーター遺伝子による本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体が介在するPD-L1依存性のOX40介在性シグナル伝達経路の活性化の検出
目的は、実施例1.4で得たCHO-PD-L1細胞が存在する条件で、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体がOX40介在性シグナル伝達経路を活性化させる生理活性を検出することである。本実施例では、信達生物製薬(蘇州)有限公司が製造するJurkat-OX40-NFkB-Luc-Rep安定化細胞株を使用して、OX40が介在する転写活性化を測定することによって本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体に抗OX40抗体のアゴニストとしての活性があるかどうかを評価する。抗ヒトCD3(BD Biosciences、カタログ番号:555329)、抗ヒトCD28(BD Biosciences、カタログ番号:555725)に、溶液に溶解された本発明の抗体を加えて、ヒトOX40構築体(Sinoから購入)及びNFkB-ルシフェラーゼ構築体(NFkBプロモーター-luc、Promega)を導入したヒトOX40を過剰発現させたJurkat細胞(米ATCC提供)を持続的に16時間活性化させ、次に発色のためにBio-Glo(商標)試薬を加えた。実験手順は具体的に以下のとおりである。
【0262】
溶液調製:分析緩衝液:RPIM-1640(90%)(Gibco、22400-071)、FBS(10%)(HyClone、SH30084.03)、抗ヒトCD3(2μg/ml)(BD Biosciences、カタログ番号:555329)、抗ヒトCD28(2μg/ml)(BD Biosciences、カタログ番号:555725)。使用直前に調製する。
【0263】
実験ステップ:
1)少量に細胞懸濁液を取り分け、細胞計数盤で細胞密度を測定し、400gで10分間遠心分離して、上清を捨て、分析緩衝液で徐々に細胞を再懸濁させ、Jurkat-OX40-NFkB-Luc-Rep細胞密度は4×105個/ml、CHO-PD-L1細胞密度は4×105個/mlである。
【0264】
2)細胞懸濁液をロードスロットに移し、白色96ウェル細胞培養プレートを用意した(NUNC、カタログ番号:136101)。各ウェルに1)で処理したJurkat-OX40-NFkB-Luc-Rep細胞50μL及びCHO-PD-L1細胞懸濁液50μL、被検サンプルを加え、サンプルの開始濃度は100nMであり、2番目の濃度から13番目の濃度は3倍希釈して、合計で13の濃度とし、これを3セット設置して実験を繰り返す。
【0265】
3)二酸化炭素インキュベータにおいて、37℃、5%CO2の培養条件で16時間培養した。
【0266】
4)Bio-Glo(商標)緩衝液(Promega、カタログ番号:G7940)を融解し、Bio-Glo(商標)基質(Promega、カタログ番号:G7940)を加え、均一に混合し。得られたBio-Glo(商標)試薬を、上記のとおりに16時間培養した検出プレートのウェルに80μl/ウェルで加えた。室温で5~10分間静置し、Spectra Max I3マイクロプレートリーダー(Thermo、Max i3)を用いて、化学発光の全波長を収集し、各ウェルの収集時間は1000ミリ秒とした。
【0267】
本実施例で使用されるIgG1陰性対照は、上記の実施例1.5で使用されるIgG1陰性対照と同じである。実験結果は図8に示し、PD-L1が発現される細胞系では、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体Bi-119-112LCはNFkBシグナル伝達経路に対する明らかな活性化作用を有し、抗OX40抗体ADI-20112には比較的弱いNFkBシグナル伝達経路活性化効果が検出されており、抗PD-L1ヒト化Nb-Fc抗体にNFkBシグナル伝達経路活性化効果はない。本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体はPD-L1を発現する細胞が存在する環境で、OX40下流のNFkBシグナル伝達経路をより効果的に活性化できることが示されている。
【0268】
実施例1.9. 本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体の熱安定性検出
示差走査蛍光測定法(differential scanning fluorimetry、DSF)は、タンパク質マップにおける蛍光の変化過程に基づいてタンパク質の構造安定性に関する情報を提供し、タンパク質の立体配置の変化を検出し、タンパク質の融解温度(Tm)を取得するために利用できる。本実施例において、DSF法を用いて本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体のTm値を測定した。
【0269】
本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体Bi-119-112LC抗体をPBS溶液でそれぞれ1mg/mlに希釈した。
【0270】
4μlのSYPRO Orange Protein Gel Stain(Gibco、カタログ番号:S6650)に196μlのPBSを加えて、SYPRO Orange Protein Gel Stainを50倍希釈した。
【0271】
96ウェルPCRプレート(Nunc)に濃度が1mg/mlの上記二重特異性抗体50μl、50倍希釈した上記のSYPRO Orange Protein Gel Stain10μlを加え、次に水40μlを加えた。7500 Real Time PCRシステム(Applied Biosystems、AB/7500)に入れて検出した。システム温度は1分間に0.5℃上昇するように設定し、蛍光曲線の絶対値にピークが出現する時に対応する温度は該タンパク質のTmである。
【0272】
実験結果は次の表3及び
図9に示される。本発明の二重特異性抗体はT
m>60℃であり、したがって、良好な熱安定性を有している。
【0273】
【0274】
実施例1.10 本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体の熱安定性検出
二重特異性抗体の安定性の一層の確認のために、本実施例では、調製された一連の抗体が40℃で0日、1日、3日、7日、10日、20日、30日静置後の純度変化を検出することによって、抗体の長期的熱安定性を評価した。SEC検出の結果、調製された一連のBi-119-112LC抗体の初期純度は92.91%である。実験方法は以下のとおりである。抗体サンプルを5mg/mlに濃縮させ(PBSに溶解)、EP管に分注し、200μl/管で、遮光条件で40℃で静置した。0日目、1日目、3日目、7日目、10日目、20日目、30日目に各1管に対しSEC-HPLCで単一メインピーク純度を測定した。
【0275】
実験結果は表4に示される。本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体Bi-119-112LCを40℃で30日間静置した後、その単一メインピーク比率の低減幅はわずか3.69%であった。結果により、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体は良好な熱安定性を有することが示される。
【0276】
【0277】
実施例1.11. ヒトCD4+T細胞に対する本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体の活性化作用の検出
本実施例では、ヒトCD4+T細胞に対する抗OX40/PD-L1二重特異性抗体の活性化作用をインビトロで検出し、実験手順は具体的に以下のとおりである。
【0278】
ヒトPBMC細胞(ALLCELLS、PB005F)を融解し、3時間静置して容器に接着した細胞は単核細胞であり、AIM V(登録商標) Medium CTS(GIBCO、A3021002)培地10mlを入れ、IL4(20ng/ml)(R&D、204-IL)と、GM-CSF(10ng/ml)(R&D、215-GM)とを加えて単核細胞が樹状細胞に分化する(即ち、DC細胞)ように誘導し、5日間培養すると、成熟DCへの誘導のために、サイトカインTNFα(1000U/ml)(R&D、カタログ番号:210-TA)と、RhIL-1β(5ng/ml)(R&D、カタログ番号:201-LB)と、RhIL-6(10ng/ml)(R&D、カタログ番号:206-IL)と、1μMのPGE(Tocris、カタログ番号:2296)とを加え、二酸化炭素インキュベータにおいて37℃、5%CO2の培養条件で引き続き2日間培養するものを、リンパ球混合培養反応(MLR)用の成熟するDC細胞(moDC)として用いた。
【0279】
ヒトPBMC細胞(ALLCELLS、カタログ番号:PB005F)を融解し、ヒトCD4+T細胞濃縮キット(STEMCELL、カタログ番号:19052)の取扱説明書に従って、CD4+T細胞の単離を行った。簡単に言えば、PBMCを静置して2時間培養した後に懸濁細胞液を吸い取って、20ml遠心分離管に入れ、300gで10分間遠心分離し、細胞沈殿物に分離液500μlと、キットに入っていた精製抗体100μlとを加えて、4℃で20分間インキュベートし、分離液で洗浄し、次にビーズ緩衝液500μlを加えて15分間インキュベートし、磁場によってビーズを除去し、AIM V(登録商標) Medium CTS(GIBCO、カタログ番号:A3021002)培地で洗浄し、AIM V(登録商標) Medium CTS培地8mlで培養して、CD4+T細胞を得た。CD4+T細胞:抗CD3/CD28ビーズ=1:1でDynabeads Human T-Activator CD3/CD28(INVITROGEN、カタログ番号:11131D)を加え、二酸化炭素インキュベータにおいて37℃、5%CO2の培養条件で3日間培養し、CD4+T細胞にビーズ刺激を行った。
【0280】
上記のように単離されたDC細胞とビーズ刺激されたCD4+T細胞を混合して、ブドウ球菌エンテロトキシンEスーパー抗原(Toxin technology、カタログ番号:ET404)を加え、最終濃度は1ng/mlであり、各ウェルは200μlの体積で、DC細胞は12000個、CD4+T細胞は120000個であり、勾配希釈された抗体を加え、3日間混合培養し、Cisbio IL2検出キット(CISBIO、カタログ番号:62HIL02PEG)を用いて各サンプルのIL2発現量を検出し、各種抗体のIL2発現量はT細胞に対する該抗体の活性化能力を反映している。
【0281】
結果は
図10に示し、本発明の抗OX40/PD-L1二重特異性抗体Bi-119-112LCは、インビトロでヒトCD4
+T細胞を効果的に活性化でき、その活性化効果は抗PD-L1ヒト化Nb-Fc抗体、抗OX40抗体ADI-20112を上回っている。
【0282】
実施例2. 抗VEGF/GITR二重特異性抗体の構築、発現、精製及び性質同定
実施例2.1. 抗VEGF/GITR二重特異性抗体の構築
本実施例において、2種の構造の抗VEGF/GITR二重特異性抗体が構築され、それぞれ(1)構造模式図が
図11Aに示される二重特異性抗体Bi-2-50と、(2)構造模式図が
図11Bに示される二重特異性抗体Bi-2-51と命名される。次に上記2種の抗VEGF/GITR二重特異性抗体についてそれぞれ説明する。
【0283】
(1)
図11Aの構造模式図に示されるように、二重特異性抗体Bi-2-50は左右に対称な4本のポリペプチド鎖からなり、左半分の2本のポリペプチド鎖(即ち、ペプチド鎖#1及びペプチド鎖#2)はN末端からC末端までそれぞれ配列番号18及び配列番号21で表されるアミノ酸配列を有する。具体的には、配列番号18で表されるペプチド鎖#1は抗VEGF抗体Avastinから誘導される配列番号20で表されるVLアミノ酸配列と、前記VLアミノ酸配列のC末端に位置する配列番号8で表されるヒトκ軽鎖定常領域(CL)アミノ酸配列とを含み、配列番号21で表されるペプチド鎖#2は抗VEGFモノクローナル抗体Avastinから誘導される配列番号22で表されるVHアミノ酸配列と、前記VHアミノ酸配列のC末端に位置するヒトIgG1から誘導される配列番号23で表されるCH1アミノ酸配列、CH1アミノ酸配列のC末端に位置する配列番号9で表される接続ペプチドアミノ酸配列と、配列番号24で表される抗GITR VHHアミノ酸配列と、配列番号13で表されるヒトIgG1のFc領域から誘導されるアミノ酸配列とを含む。
【0284】
(2)
図11Bの構造模式図に示されるように、二重特異性抗体Bi-2-51は左右に対称な4本のポリペプチド鎖からなり、左半分の2本のポリペプチド鎖(即ち、ペプチド鎖#1及びペプチド鎖#2)はN末端からC末端までそれぞれ配列番号18及び配列番号28で表されるアミノ酸配列を有する。配列番号28で表されるペプチド鎖#2はN末端からC末端まで配列番号22で表される抗VEGFモノクローナル抗体Avastinから誘導されるVHアミノ酸配列と、配列番号23で表されるヒトIgG1から誘導されるCH1アミノ酸配列と、配列番号24で表される抗GITR VHHアミノ酸配列と、配列番号13で表されるヒトIgG1 Fc領域から誘導されるアミノ酸配列とを含む。
【0285】
実施例2.2. 抗VEGF/GITR二重特異性抗体の発現、精製及び分析
本実施例において、実施例2.1で構築された抗VEGF/GITR二重特異性抗体Bi-2-50及びBi-2-51のペプチド鎖#1、ペプチド鎖#2をコードするヌクレオチド配列をそれぞれポリクローナルサイトによって真核発現ベクターpTT5の市販品に組み入れ、真核細胞において発現させて精製することによって、抗VEGF/GITR二重特異性抗体Bi-2-50及びBi-2-51を得た。
【0286】
プラスミドのトランスフェクション、抗VEGF/GITR二重特異性抗体Bi-2-50及びBi-2-51の発現・精製操作は上記実施例1.2と同じである。二重特異性抗体Bi-2-50及びBi-2-51のSEC結果はそれぞれ
図12A及び
図12Bに示される。
【0287】
精製後に、抗VEGF/GITR二重特異性抗体はいずれも比較的高い純度を有し、二重特異性抗体Bi-2-50及びBi-2-51の単一メインピーク純度はそれぞれ99.57%及び99.48%であった。
【0288】
実施例2.3. 抗VEGF/GITR二重特異性抗体の解離定数の測定
Octetシステム(ForteBio社製)を用いて動力学的結合測定法により本発明の上記の例示的な抗VEGF/GITR二重特異性抗体Bi-2-2-50-51がVEGF及びGITRと結合する時の平衡解離定数(K
D)を測定した。使用される抗体と抗原が異なる以外、他の具体的な実験手順は上記実施例1.3と同じである。検出結果は次の
図5及び表6に示される。
【0289】
GITRに対する単一特異性親抗体として、名称が「hcIgG-10」で、配列番号31で表されるアミノ酸配列を有する抗体を使用し、それはN末端からC末端まで配列番号24で表される抗GITR VHHアミノ酸配列と、「DKTHT」ペプチド断片と、配列番号13で表されるヒトIgG1のFc領域から誘導されるアミノ酸配列とを含む。
【0290】
【0291】
【0292】
表5及び表6のデータから分かるように、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体Bi-2-50及びBi-2-51は、いずれも溶液中のVEGF165(R&D、293-VE-500)及びGITR (AcroBiosystems、GIR-H5228-1MG)タンパク質と同時に結合でき、しかも親抗体Avastin又はhcIgG-10の親和力定数を維持している。
【0293】
実施例2.4. 本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体とVEGF又はGITRを過剰発現させたCHO細胞の結合分析
FACSにより本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体Bi-2-50及びBi-2-51と、VEGF又はGITRを過剰発現させたCHO細胞の結合を測定した。使用される抗体と抗原が異なる以外、他の具体的な実験手順は上記実施例1.4と同じである。本実施例で使用されるIgG1陰性対照は、上記の実施例1.5で使用されるIgG1陰性対照と同じである。結果は
図13に示される。
【0294】
図13から分かるように、本発明の抗VEGF/GITR二重特異性抗体Bi-2-50及びBi-2-51はいずれも細胞表面で発現されたGITRと結合でき、結合EC50はそれぞれ2.990nM、3.168nMである。親抗体hcIgG-10と細胞表面GITRの結合に関するEC50は0.6061nMである。
【0295】
本発明の目的を説明するために、一部の典型的な実施形態を詳細に示しているが、発明の趣旨を逸脱することなくこれらに対してさまざまな変化及び修正を行うことができる。これは当業者にとって自明な事項である。これによって、本発明の範囲は以下の特許請求の範囲のみによって限定される。
【配列表】