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特許7438982GPCを含有する非経口栄養のための脂質エマルション
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】GPCを含有する非経口栄養のための脂質エマルション
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/685 20060101AFI20240219BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20240219BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 31/202 20060101ALI20240219BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20240219BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240219BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 31/70 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 31/20 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
A61K31/685
A61K9/107
A61K47/44
A61P3/02
A61K31/202
A61P3/06
A61P1/16
A61P43/00 111
A61K31/198
A61K31/70
A61K31/20
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2020564442
(86)(22)【出願日】2019-05-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-07
(86)【国際出願番号】 US2019034403
(87)【国際公開番号】W WO2019232054
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】62/679,352
(32)【優先日】2018-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591013229
【氏名又は名称】バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
(73)【特許権者】
【識別番号】501453189
【氏名又は名称】バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】Baxter Healthcare S.A.
【住所又は居所原語表記】Thurgauerstr.130 CH-8152 Glattpark (Opfikon) Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】ジャンナン, ローレン
(72)【発明者】
【氏名】エク, ジュリアン
【審査官】松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-502435(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0274957(US,A1)
【文献】米国特許第05567736(US,A)
【文献】Nutrients,2017年,Vol.9,doi:10.3390/nu9040388
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/685
A61K 9/107
A61K 47/44
A61P 3/02
A61K 31/202
A61P 3/06
A61P 1/16
A61P 43/00
A61K 31/198
A61K 31/70
A61K 31/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセロホスホコリン(GPC)を、1リットルあたり0.1g~15.0gの濃度で含む、非経口投与のための脂質エマルションであって、
前記脂質エマルションが、水相及び前記脂質エマルションの総重量に対して5重量%~35重量%の間の油相を含み、
前記脂質エマルションが、ドコサヘキサエン酸(DHA)を、油相100gあたり0.1g~5.0gの濃度で含み、アラキドン酸(ARA)を、油相100gあたり0.1g~15gの濃度で含む、脂質エマルション。
【請求項2】
GPCが、1リットルあたり2.0g~12.0gの濃度で含まれる、請求項1に記載の脂質エマルション。
【請求項3】
GPCが、1リットルあたり0.5g~5.0gの濃度で含まれる、請求項1に記載の脂質エマルション。
【請求項4】
エイコサペンタエン酸(EPA)を含まない、請求項1~3のいずれか一項に記載の脂質エマルション。
【請求項5】
小児及び/又は成人患者の処置のために調製された、請求項1~4のいずれか一項に記載の脂質エマルション。
【請求項6】
非経口栄養組成物を提供するための非経口栄養製品であって、
第1のチャンバを有するマルチチャンバ容器と、
前記第1のチャンバに存在する請求項1~5のいずれか一項に記載の脂質エマルションと、を含非経口栄養製品
【請求項7】
前記マルチチャンバ容器が、アミノ酸製剤又は炭水化物製剤を含有する第2のチャンバを有する、請求項6に記載の非経口栄養製品
【請求項8】
前記第2のチャンバがアミノ酸製剤を含有し、前記マルチチャンバ容器が、炭水化物製剤を含有する第3のチャンバを有する、請求項7に記載の非経口栄養製品
【請求項9】
前記マルチチャンバ容器が、ビタミン又は微量元素を含有する第4のチャンバを有する、請求項8に記載の非経口栄養製品
【請求項10】
前記第4のチャンバがビタミンを含有し、前記マルチチャンバ容器が、微量元素を含有する第5のチャンバを有する、請求項9に記載の非経口栄養製品
【請求項11】
GPCが、1リットルあたり0.1~15.0gの濃度で存在する、請求項6~10のいずれか一項に記載の非経口栄養製品内の脂質エマルション。
【請求項12】
コリンを、非経口栄養を必要とする患者に非経口投与により提供するための組成物であって、前記組成物は、グリセロホスホコリンを1リットルあたり0.01g~15.0gの濃度で含有する、脂質エマルションであり、
前記脂質エマルションが、ドコサヘキサエン酸(DHA)を、油相100gあたり0.1g~5.0gの濃度で含み、アラキドン酸(ARA)を、油相100gあたり0.1g~15gの濃度で含む、組成物。
【請求項13】
前記グリセロホスホコリンが、15mg/kg/日~300mg/kg/日の用量で投与される、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記患者が、小児患者であり、グリセロホスホコリンが、50mg/kg/日~150mg/kg/日の用量で投与される、請求項12又は13に記載の組成物。
【請求項15】
前記グリセロホスホコリンが、水相及び前記脂質エマルションの総重量に対して5重量%~35重量%の間の油相を含む脂質エマルションとして提供される、請求項1214のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が、末梢又は中心に挿入されるカテーテルにより提供される、請求項1215のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
経口及び経腸栄養が不可能であるか、不十分であるか又は禁忌であるときに非経口栄養を必要とする患者を処置するための、請求項1~5のいずれか一項に記載の脂質エマルション。
【請求項18】
前記患者が、コリン欠乏を患っている、請求項17に記載の脂質エマルション。
【請求項19】
前記患者が、小児又は成人患者である、請求項17又は18に記載の脂質エマルション。
【請求項20】
前記患者が、脂肪肝を患っている、請求項1719のいずれか一項に記載の脂質エマルション。
【請求項21】
請求項1~5及び11のいずれか一項に記載の脂質エマルションを調製する方法であって、
(a)油相及び水相を、撹拌下で、70℃~80℃の温度に個別に加熱するステップ、
(b)グリセロホスホコリンを前記水相に添加するステップ、
(c)前記油相を撹拌下で前記水相に移すことによりプレエマルションを調製するステップ、
(d)前記プレエマルションを、圧力下、40℃~60℃の温度で均質化するステップ、
(e)任意選択で、水を添加して必要とされる容積及び濃度を調節するステップ、
(f)任意選択で、pHを7.8~8.8の範囲に調節するステップ、並びに
(g)任意選択で、前記脂質エマルションを滅菌するステップ
を含む、方法。
【請求項22】
少なくともステップ(a)~(d)が、不活性ガスの存在下で実施される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記脂質エマルションが、加熱により滅菌される、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
非経口投与のための脂質エマルションであって、
前記脂質エマルションは、ALT活性又は肝損傷を低減するように調製され、
前記脂質エマルションは、グリセロホスホコリン(GPC)を1リットルあたり0.1g~15.0gの濃度で含み、
前記脂質エマルションは、水相及び前記脂質エマルションの総重量に対して5重量%~35重量%の間の油相を含み、
前記脂質エマルションが、ドコサヘキサエン酸(DHA)を、油相100gあたり0.1g~5.0gの濃度で含み、アラキドン酸(ARA)を、油相100gあたり0.1g~15gの濃度で含む、脂質エマルション。
【請求項25】
非経口栄養を必要とする患者に、前記患者のALT活性又は肝損傷を低減するために非経口投与によりコリンを提供するための組成物であって、
前記組成物は、ALT活性又は肝損傷を低減するように調製された組成物であり、
前記組成物が、グリセロホスホコリンを1リットルあたり0.01g~15.0gの濃度で含有する脂質エマルションであり、
前記脂質エマルションが、ドコサヘキサエン酸(DHA)を、油相100gあたり0.1g~5.0gの濃度で含み、アラキドン酸(ARA)を、油相100gあたり0.1g~15gの濃度で含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、使用準備が整った非経口栄養製剤を含む、非経口栄養製剤に関する。より詳細には、本開示は、脂質製剤又はエマルション、及び脂質製剤又はエマルションを含むマルチチャンバ容器を対象とし、脂質エマルションは、コリン供給源としてグリセロホスホコリンを含有する。本開示は、非経口栄養を必要とする患者にコリンを提供する方法、並びにコリン欠乏及び肝損傷を避ける及び/又は処置する方法に、さらに関する。
【背景技術】
【0002】
非経口で提供されたメチオニンからのコリンの体内産生は十分でないため、コリン欠乏は、特に非経口栄養を投与される患者に伴う問題であることが周知である(Buchman、Gastroenterology 137巻(5号)、2009年、S119~S128頁)。そのようなコリン欠乏の結果として、非経口栄養中に脂肪肝が発現するというエビデンスが存在する。さらに、記憶及び認知障害並びに骨格異常が記述されている。コリンが、コリン作動性細胞において最も関連する神経伝達物質であるアセチルコリンの合成に不可欠であることを考慮すると、コリンの欠乏は、そのような記憶障害と関係し得る。コリン欠乏は、細胞のアポトーシスにも役割を果たし得る。
【0003】
したがって、コリンは必須の栄養として考えられ、目安量(AI)は、成人男性で550mg/日(約8mg/kg/日)、及び女性で(425mg/日)と定義された。コリン摂取の許容可能な上限(UL)は、成人で3.5g/日(約50mg/kg/日)である。平均的な成人の正常な血漿遊離型コリン濃度は、10~15nmol/mLである。基準体重が7kgである0~6カ月齢の乳児については、十分なAIは、約18mg/kg/日(0.17mmol/kg/日又は125mg/日のコリン)であり、成人と比較して有意により高い。7~12カ月齢の乳児については、十分なAIは17mg/kg/日と推定され、150mg/日のコリンに対応する(Dietary Reference Intakes for Thiamin, Riboflavin, Niacin, Vitamin B6, Folate, Vitamin B12, Pantothenic Acid, Biotin, and Choline;Institute of Med-icine(US) Standing Committee on the Scientific Evaluation of Dietary Reference Intakes and its Panel on Folate, Other B Vitamins, and Choline. Washington(DC):National Academies Press(US);1998年、第12章)。
【0004】
小児患者は、コリン欠乏に特に感受性であるようである。コリンは、乳房上皮細胞により濃度勾配に逆らって胎盤を通して輸送され、新生児は、成人と比較して、ある程度有意により高いコリンの血漿遊離型濃度を有する。このことは、小児の発達、潜在的には脳の発達に対するコリンの重要性を反映し得るものである(Zeisel、The Journal of Pediatrics、149巻(5号)、補遺、2006年、S131~S136頁)。さらに、コリンは母乳に分泌される。中枢神経系、腎臓、肝臓、肺及び骨格筋におけるリン脂質の合成のために相当な量のコリンが必要となり得るため、非経口栄養を必要とする早産児及び新生児に対する非経口製剤は、したがって、有効なコリン供給源を提供するべきである。早産児へのコリンの供給についての推奨は、現在8~55mg/kg/日の広範な範囲にわたるものである(Bernhardら、Eur J Nutr(2018年)、https://doi.org/10.1007/s00394-018-1834-7)。
【0005】
コリンは、塩化コリン又は重酒石酸コリンとして、及びレシチンとしての栄養補助食品として利用可能である。食物では、コリンは、ホスホコリン、グリセロホスホコリン、ホスファチジルコリン及びスフィンゴミエリンのような遊離及びエステル化形態で存在する。ホスホコリンは、ヒトの母乳の総コリンのうち約40%を占め、α-グリセロホスホコリンはヒトの母乳の総コリンのうち他の約40%を占める。経口摂取された栄養は、一般的に小腸を介してすぐに吸収され、肝臓に直接供給される。血漿では、コリンは主要な水溶性の化合物であり、一方でホスホコリン及びα-グリセロホスホコリンの濃度は非常に低い。α-グリセロホスホコリンの平均血漿濃度は約0.42μmol/Lのみであり(Bernhardら、2018年)、かつてはα-グリセロホスホコリンはたいして注目されていなかった。
【0006】
同時に、コリン前駆体であるメチオニンがPN溶液に供給されているにもかかわらず、及びさらには血漿メチオニン濃度が前記患者において一般的に高い値から正常値であることが見出されているにもかかわらず、血漿遊離型コリン濃度はPN患者において有意に正常値を下回ることが見出された(Compherら、Journal of Parenteral and Enteral Nutrition 26巻(1号)、2002年、57頁)。非経口栄養のために使用される脂質エマルションに含有されるホスファチジルコリンも、有意な程度にはコリンに変換されない。
【0007】
遊離型コリンは、今日では、完全非経口栄養に含まれていない。代わりに、遊離型コリンは血漿の主な水溶性成分であり、塩化物イオンは主要な陰イオンであるため、塩化コリンは現在、患者に対して約25mg/kg/日の用量で非経口栄養に推奨できるものであると考えられている(Bernhardら、2018年)。別のコリン供給源は、例えばCDPコリン(ナトリウム塩)である。
【0008】
しかし、一部には、塩化コリンを非経口栄養のための脂質エマルションに安定して導入することが困難であるため、塩化コリンは社会的に現在考えられているほど最適ではない可能性があることが、調査中に見出された。さらに、塩化コリンの存在がビタミン、特にビタミンB1及びB12の分解をもたらし得るといういくつかのエビデンスが存在する(Coelho、2002年:Vitamin stability in premixes and feeds. A practical approach in ruminant diets. Proceedings of the 13th Annual Florida Ruminant Nutrition Symposium、Gainesville FL、1月10~11日、127~145頁;Frye、1994年:The performance of vitamins in multicomponent premixes. Proc. Roche Technical Symposium、Jefferson、Georgia)。
【0009】
コリン誘導体である式(I)のグリセロホスホコリン(GPC)、(2-{[(2S)-2,3-ジヒドロキシプロピルホスホナト]オキシ}エチル)トリメチルアザニウムは、グリセロホスホコリン、a-グリセロホスホコリン、L-α-グリセリルホスホリルコリン、コリンアルホスセラート又はα-グリセロホスホコリンとも称され、非経口栄養を投与される患者についての有効なコリン供給源として非経口製剤に有利に使用することができるコリン誘導体であることが、現在見出されている。GPCは、水溶性分子であり、多様な食品、例えば赤肉に少量含有されるが、含有量は一般的に幾分低い。
【0010】
【化1】
【0011】
GPCの大半は、卵黄又は大豆に存在するような天然のリン脂質から合成で作製される。例えば、GPCは精製された天然のホスファチジルコリン(PC)から得られ、加水分解されて脂肪酸を除去される。GPCは、次いで、さらに再アシル化及び/又は特定の酵素で処理され、特定の化学分子を合成する(van Hoogevest及びWendel、Eur. J. Lipid Sci. Technol.2014年、116巻、1088~1107頁)。
【0012】
GPCは今のところ、非経口栄養における使用のための脂質エマルションの成分及びコリン源としては考えられていない。
【0013】
米国特許第8865641 B2号では、対象において脂肪性肝疾患を処置するための方法であって、対象に有効量のコリン作動性経路刺激剤を投与するステップを含み、ニコチン性受容体アゴニストがコリンであり得る、方法が開示されている。しかし、非経口栄養のためのGPC及び/又は脂質エマルションは、言及されていない。
【0014】
米国特許第8337835 B2号では、哺乳類において、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体アルファ(PPARα)に関連する肝疾患を処置し、トリグリセリドレベルを低下させ、及び/又は高比重リポタンパク質レベルを上昇させるための方法であって、治療的有効量の1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロール-3-ホスホコリン(16:0/18:1-GPC)を前記哺乳類に投与するステップを含む、方法が記載されている。
【0015】
米国特許出願公開第20110015154 A1号では、コリン化合物及びカルニチン化合物を含有する組成物及びキット、並びに組成物及びキットを使用するための方法であって、コリン化合物がアルファ-GPCであり得る、組成物及びキット並びに方法が開示されている。しかし、米国特許出願公開第20110015154 A1号では、GPCを含む非経口栄養のための脂質エマルションは記載されておらず、非経口栄養のためのそのような脂質エマルションにおけるGPCの適切な濃度は開示されていない。
【0016】
米国特許出願公開第20150132280 A1号では、テアクリン、及び任意選択で、任意のさらなる化合物の網羅的なリストの中からアルファ-GPCを含むテアクリンの効果を制御する他の化合物を含む、気分、気力、集中等を改善するための栄養補助食品が記載されている。しかし、GPCを含む非経口栄養のための脂質エマルションは、いずれでも言及されていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本開示に照らし、及び本発明の範囲をけっして限定するものではないが、別段の定めがない限り本明細書に列挙されている任意の他の態様と組み合わせることができる本開示の第1の態様では、コリン補充の必要のある患者における非経口投与のための脂質製剤は、グリセロホスホコリン(GPC)を、脂質エマルション1リットルあたり0.1g~15.0gの濃度で含む。脂質製剤は、水相及び油相を有し、脂質製剤の総重量に対して約5重量%~約35重量%の油相を含み、水中油型エマルションの形態で存在する。
【0018】
一態様によると、脂質エマルションは、GPCを、脂質エマルション1リットルあたり2.0~12.0gの濃度で含む。別の態様によると、脂質エマルションは、GPCを、脂質エマルション1リットルあたり4.0~11.0gの濃度で含む。前述したようなより高いGPCの濃度を有する脂質エマルションは、小児患者の処置に特に有用である。
【0019】
別の態様によると、脂質エマルションは、GPCを、脂質エマルション1リットルあたり0.5~6.0gの濃度で含む。別の態様によると、脂質エマルションは、GPCを、脂質エマルション1リットルあたり0.5~5.0gの濃度で含む。なお別の態様によると、脂質エマルションは、GPCを、脂質エマルション1リットルあたり0.5~3.0gの濃度で含む。前述したようなより低いGPCの濃度を有する脂質エマルションは、成人患者の処置に特に有用である。
【0020】
本発明の別の態様によると、脂質エマルションは、ドコサヘキサエン酸(DHA)を、油相100gあたり0.1g~15.0gの濃度でさらに含有する。一態様によると、脂質エマルションは、DHAを、油相100gあたり0.25g~3.0gの濃度で含む。別の態様によると、脂質エマルションは、DHAを、油相100gあたり1.5g~2.5gの濃度で含有する。なお別の態様によると、DHAは、トリグリセリド形態又はエチルエステル形態で、好ましくはトリグリセリド形態で存在する。
【0021】
本発明の別の態様によると、脂質エマルションは、アラキドン酸(ARA)を、油相100gあたり0.1g~15.0gの濃度でさらに含有する。一態様によると、ARAは、油相100gあたり1.5g~7.5gの濃度で存在する。
【0022】
本発明のなお別の態様によると、脂質エマルションは、エイコサペンタエン酸(EPA)を本質的に含まない。
【0023】
一態様によると、脂質エマルションは、EPAを含み、DHAとEPAとの比は、10:1~1000:1(w/v)、10:1~200:1(w/v)、10:1~100:1(w/v)又は1:1~10:1(w/v)である。
【0024】
本発明の一態様によると、脂質エマルションは、必要とする患者への投与のためのシングルチャンバ容器に用意される。シングルチャンバ容器は、可撓性若しくは剛性容器、及びガラスバイアルとすることができる。
【0025】
本発明の一態様によると、本発明の脂質エマルションは、脂質エマルションと他の非経口栄養製剤、例えばアミノ酸製剤又は炭水化物製剤等とを混合することなく、患者に直接投与される。
【0026】
なお別の態様によると、1リットルあたり0.5g~5.0gのGPCを含む脂質エマルションは、コリン補充の必要のある成人患者の処置のために使用される。詳細には、脂質エマルションは、脂肪肝を患う患者のために使用される。
【0027】
別の態様によると、直接投与のための前記脂質エマルションは、1リットルあたり2.0g~12.0gのGPCを含む。なお別の態様によると、1リットルあたり0.2g~0.9gのGPCを含む脂質エマルションは、コリン補充の必要のある成人患者の処置のために使用される。詳細には、脂質エマルションは、脂肪肝を患う患者のために使用される。
【0028】
別の態様によると、直接投与のための前記脂質エマルションは、投与前又は投与時に1つ又は複数の化合物、例えば微量元素及び/又はビタミンをエマルションに添加した後に患者に提供され、投与される脂質エマルションのグリセロホスホコリンの濃度は本質的に変化しない。
【0029】
本発明の別の態様によると、脂質エマルションは、それぞれのチャンバに含有される製剤を混合した後にその再構成された内容物を非経口投与するために設計されているマルチチャンババッグ(MCB)のいくつかの成分のうちの1つとして用意される。そのようなMCBは、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ以上のチャンバを有してもよい。前記MCBのチャンバは、同一のサイズを有してもよく、又は多様な組成物及び容積を収容するために異なるサイズを有してもよい。チャンバは、例えば、1~5ml、5~10ml、10~50ml、50~100ml、100~250ml、250ml~500ml、500~1000ml、1000~1500mlの容積を含有するように設計されてもよい。MCBは、互いに隣接して位置するチャンバを有するように設計することができる。チャンバは、多様な形状を有してもよい。チャンバは、互いに水平に及び/又は垂直に方向付けることができる。ある特定の小さなチャンバは、別のより大きなチャンバ中に位置するように設計することができ、例えば、別のより大きなチャンバ中に位置する小さなチャンバは、前記小さなチャンバの少なくとも1つの縁を、周囲のより大きなチャンバの溶接線の間に密着させることにより、前記より大きなチャンバ中に収容及び固定することができる。
【0030】
一態様によると、その再構成された内容物の非経口投与のためのマルチチャンバ容器は、第1のチャンバに本発明による脂質エマルションを、第2のチャンバに炭水化物製剤又はアミノ酸製剤を含む。
【0031】
別の態様によると、その再構成された内容物の非経口投与のためのマルチチャンバ容器は、第1のチャンバに本発明による脂質エマルションを、第2のチャンバにアミノ酸製剤を、及び第3のチャンバに炭水化物製剤を含む。任意選択でさらに、マルチチャンバ容器は、ビタミン及び/又は微量元素を含む第4のチャンバを含む。
【0032】
なお別の態様によると、マルチチャンバ容器は、前記第1、第2及び第3のチャンバに加えて、第4のチャンバにビタミン製剤、及び第5のチャンバに微量元素製剤を含む。
【0033】
別の態様によると、マルチチャンバ容器は、すべての又は選択されたチャンバの成分を混合するために使用前に開封することのできる脆弱境界部を、チャンバ間に含む。
【0034】
別の態様によると、マルチチャンババッグに用意された脂質エマルションは、GPCを、1リットルあたり0.1g~15.0gの濃度で含む。
【0035】
なお別の態様によると、マルチチャンババッグに用意された脂質エマルションは、GPCを、1リットルあたり2.0g~12.0gの濃度で含む。
【0036】
なお別の態様によると、マルチチャンババッグに用意された脂質エマルションは、GPCを、1リットルあたり4.0g~11.0gの濃度で含む。そのようなマルチチャンババッグは、好ましくは、非経口栄養を必要とする小児患者の処置に使用される。
【0037】
本発明のなお別の態様によると、マルチチャンババッグに用意された脂質エマルションは、GPCを、1リットルあたり0.5g~6.0gの濃度で含む。本発明のなお別の態様によると、マルチチャンババッグに用意された脂質エマルションは、GPCを、1リットルあたり0.5g~5.0gの濃度で含む。
【0038】
本発明のなお別の態様によると、マルチチャンババッグに用意された脂質エマルションは、GPCを、1リットルあたり0.5g~3.0gの濃度で含む。そのようなマルチチャンババッグは、好ましくは、非経口栄養を必要とする成人患者の処置に使用される。
【0039】
本発明のなお別の態様によると、グリセロホスホコリンは、マルチチャンババッグから再構成された溶液中に用意され、GPCは、再構成された溶液1リットルあたり0.01g~6.0gの濃度で存在する。一態様によると、再構成された溶液は、グリセロホスホコリンを、1リットルあたり0.01g~2.0gの濃度で含む。なお別の態様によると、再構成された溶液は、グリセロホスホコリンを、1リットルあたり0.5g~5.0gの濃度で含む。
【0040】
本発明の別の態様によると、グリセロホスホコリンは、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのチャンバを含むマルチチャンバ容器から再構成された非経口栄養組成物に用意され、チャンバのうち少なくとも1つは、アミノ酸製剤、炭水化物製剤又は脂質製剤を充填され、グリセロホスホコリンは、1リットルあたり0.01g~6.0gの濃度で組成物に存在する。一実施形態によると、グリセロホスホコリンは、少なくとも1つのアミノ酸製剤及び/又は少なくとも1つの炭水化物製剤及び/又は少なくとも1つの脂質製剤を含む2チャンババッグ又は3チャンババッグに用意される。
【0041】
本発明の別の態様によると、コリンを患者に提供するための方法であって、患者が非経口栄養を必要とし、コリンを投与される必要があり、グリセロホスホコリンを組成物1リットルあたり0.01g~15.0gの濃度で含むことを特徴とする非経口投与のための組成物を投与するステップを含む、方法が提供される。
【0042】
本発明のなお別の態様によると、小児及び/又は成人患者におけるコリン欠乏の処置のための非経口栄養溶液であって、グリセロホスホコリンを溶液1リットルあたり0.01g~15.0gの濃度で含む、非経口栄養溶液が提供される。一態様によると、非経口栄養溶液は、脂質エマルションである。別の態様によると、前記脂質エマルションは、患者への直接投与のための、使用準備が整った溶液である。なお別の態様によると、前記脂質エマルションは、マルチチャンババッグの別個のチャンバに用意された少なくとも2つ、3つ、4つ又は5つの組成物のうちの1つである。
【0043】
本発明の別の態様によると、グリセロホスホコリンを投与される患者は、経口及び経腸栄養が不可能であるか、不十分であるか又は禁忌であるため、非経口栄養を必要とする。一態様によると、患者は、コリン欠乏を患っているか、又はコリン欠乏を生じるリスクがある。さらなる一態様によると、患者は、脂肪肝を患っているか、又は脂肪肝を生じるリスクがある。なお別の態様によると、患者は、非経口栄養に関連する肝疾患、詳細には脂肪肝を患っている。
【0044】
本発明のなお別の態様によると、前記コリンを患者に提供するための方法は、グリセロホスホコリンを15mg/kg/日~300mg/kg/日の用量で投与するステップを含む。一態様によると、グリセロホスホコリンは、24mg/kg/日~210mg/kg/日、50mg/kg/日~150mg/kg/日、及び70mg/kg/日~100mg/kg/日の用量で、小児患者に投与される。
【0045】
本発明のなお別の態様によると、前記コリンを患者に提供するための方法は、グリセロホスホコリンを、約5mg/kg/日~50mg/kg/日、10mg/kg/日~30mg/kg/日、及び20mg/kg/日~30mg/kg/日の用量で成人患者に投与するステップを含む。
【0046】
本発明の別の態様によると、グリセロホスホコリンを含む脂質エマルション又は再構成された溶液は、末梢又は中心カテーテルにより投与される。
【0047】
図面は本発明の実施形態のみを示しているに過ぎず、本開示の範囲を限定するものであると考えられるべきではないことを理解した上で、本開示を、添付の図面を使用することによって、さらに特定的且つ詳細に記載及び説明する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】実施例1に記載の動物試験におけるアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)機能の発達を示すグラフである。対照群は生理食塩水(NaCl)又は脂質エマルションLE 10%のみを投与され、一方、さらなる群は、同一のLE 10%脂質エマルションであるが、3つの異なるコリン供給源である、塩化コリン、CDP-コリン及びGPCが脂質エマルション中に含有されるものを投与された。「高」という表現は、LE 10%脂質エマルション中、31mmol/Lであるコリン誘導体の濃度を示す。グラフは、5日目~17日目のALT活性の降下が、肝臓状態の改善を実証しているものであり、GPCが脂質エマルション中に存在するときに最も顕著であることを示す。
図2】実施例1(ステップ番号3)において記載されているような動物試験における、アラニンアミノトランスフェラーゼ活性の、血漿についての正常値のパーセント単位での発達を示す。試験された動物は、生理食塩水又はLE 10%脂質エマルション(「LE 10%」)のみのいずれかを投与され、脂質エマルションは、通常の量のフィトステロール(「Phyto」)を含有したが、GPCを含有しなかった。LE 10%及び同量のフィトステロールをも含有する別の脂質エマルションは、GPCを40mmol/Lの濃度でさらに含有する(「LE 10%+GPCステップ番号2」)。第3の組成物は、再び脂質エマルション(LE 13%)からなり、GPCを40mmol/Lの濃度で添加され、低減されたフィトステロールの含有量を有する(フィトステロール用量を図2に示す)。
図3A】実施例1において記載されているような動物試験の結果、並びに生理食塩水、LE 10%脂質エマルション、並びにそれぞれ塩化コリン、CDP-コリン及びGPCを補充されたLE 10%脂質エマルションを用いた非経口栄養に供された動物の肝臓の病理組織学的評価を表すグラフである(図3A)。図3Aは、GPCを含む脂質エマルションの投与が、試験されたすべてのコリン誘導体と比較して、空胞形成の発症に対する最も有意な影響を有することを示す。
図3B図3Bは、生理食塩水単独、DHA及びARAを補充された脂質エマルション(LE 13%)(三角)、並びにDHA、ARA及びGPCを補充された脂質エマルション(LE 13%)(四角)を再び投与した結果を提供する。図3Bは、DHA及びARAの存在が、既に、肝臓の空胞形成に対して有意な好影響を有することを示す。「低」という表現は、15mmol/Lである、それぞれのコリン誘導体の濃度を表す。「高」という表現は、31mmol/Lである、それぞれのコリン誘導体の濃度を表す。グレードは、実施例3.3で与えられるように定義される。
図4】実施例1において記載されているような動物試験の結果を表し、多様な脂質エマルションの非経口投与の影響は、パーセント単位での肝臓の重量と体重との比に基づいて決定された。試験動物は、生理食塩水、いかなるコリン誘導体も有しないLE 10%脂質エマルション(「脂質エマルション10%」)、及び示されているような31mmol/Lのコリン誘導体をさらに含有する同一のLE 10%脂質エマルションのいずれかで処置された。「高」という表現は、31mmol/Lである、脂質エマルション中のそれぞれのコリン誘導体の濃度を表す。
図5A】試験動物の肝臓の病理組織学的分析で決定された(実施例1及び3を参照されたい)、グレード1~5の空胞形成の例示的な写真を示す図である。示された組織学的スライドは、ヘマトキシリン-エオシンで染色された。グレードは、以下のスキームにより割り当てた:図5A:グレード1=最小/極めて少ない/非常に小さな空胞が点在。
図5B図5B:グレード2=僅か/少ない/小さな空胞、小葉中心性~中間帯。
図5C図5C:グレード3=中等度/中等度の数/中等度のサイズの空胞、小葉中心性~中間帯。
図5D図5D:グレード4=明白な/多数/巨大な空胞、小葉中心性~門脈周囲。
図5E図5E:グレード5=重度/多数/巨大な空胞、びまん性、すべての肝臓領域に発症。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本明細書に記載のある特定の実施形態は、一般的に、非経口栄養の分野に関する。より詳細には、本明細書に記載の一部の実施形態は、非経口投与のための脂質エマルションに関し、脂質エマルションは水相及び油相を含み、水中油型エマルションの形態で存在する。本明細書に記載されている他の実施形態は、非経口投与のためのマルチチャンバ容器に関し、容器は、第1のチャンバに前記脂質エマルションを、第2のチャンバに炭水化物製剤又はアミノ酸製剤を、第2のチャンバが炭水化物製剤を含有する場合に任意選択で第3のチャンバにアミノ酸を、任意選択で第4のチャンバにビタミン製剤又は微量元素製剤を、及び第4のチャンバがビタミン製剤を含有する場合に任意選択で第5のチャンバに微量元素を含む。
【0050】
本明細書で使用される場合、「小児」という用語は、早産、妊娠満期、及び1カ月の年齢までの過期の新生児を含む新生児;1カ月から1歳の間の乳児;1歳から12歳までの間の小児、並びに13歳から21歳までの青年を表す。本明細書で使用される場合、「成人」という用語は、22歳以上の人を表す。
【0051】
本明細書で使用される場合、「本質的に含まない」という用語は、5%未満の特定の成分、例えば、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.1%未満、0.05%未満、0.02%未満、0.01%未満、0.005%未満、0.002%未満、及び/又は0.001%未満の特定の成分を含有する組成物を表し得る。例えば、「EPAを本質的に含まない」脂質エマルション又は組成物は、5%未満のEPA、例えば、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.1%未満、0.05%未満、0.02%未満、0.01%未満、0.005%未満、0.002%未満、及び/又は0.001%未満のEPAを含有する組成物を表し得る。
【0052】
「肝疾患」「肝傷害」及び「肝損傷」という表現は、本明細書において互換的に使用される。該表現は、増大したアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性、組織学的に決定された空胞形成、並びに体重あたりの肝臓の重量の比の増大により定義される肝臓の状態を表す。詳細には、該表現は、上のマーカーの手段により診断することができる脂肪肝を表す。より詳細には、該表現は、NAFLDを表す。さらにより詳細には、該表現は、コリン欠乏、特に長期の完全非経口栄養により引き起こされるコリン欠乏により引き起こされるNAFLDを表す。
【0053】
本開示は、それを必要とする患者のためのコリン供給源としてグリセロホスホコリン(GPC)を含む、非経口投与のための脂質製剤を提供する。非経口栄養を必要とする患者への直接投与が意図される本発明による脂質製剤は、GPCを、脂質エマルション1リットルあたり0.1g~15.0gの濃度で含有する。
【0054】
小児患者は、一般的に、成人より高い量のコリンを必要とする。小児患者への直接投与のための脂質エマルションは、したがって、GPCを、脂質エマルション1リットルあたり2.0g~12.0g、又は脂質エマルション1リットルあたり4.0g~11.0gの範囲で含有することができる。例えば、小児患者への直接投与のための脂質エマルションは、GPCを、脂質エマルション1リットルあたり5.0g~12.0gの範囲で、又は脂質エマルション1リットルあたり4.0g~10.0gの範囲で含有する。
【0055】
成人は、概して、より少ないコリンを必要とする。成人患者への直接投与のための脂質エマルションは、したがって、GPCを、脂質エマルション1リットルあたり0.1g~6.0gの範囲で含有することができる。例えば、成人患者への直接投与のための脂質エマルションは、GPCを、脂質エマルション1リットルあたり0.5g~5.0gの範囲で、脂質エマルション1リットルあたり0.5g~4.0gの範囲で、又は脂質エマルション1リットルあたり0.5g~3.0gの範囲で含有する。
【0056】
本発明では、脂質エマルション、脂質エマルションを含むマルチチャンバ容器、及びそのようなマルチチャンバ容器から再構成された組成物であって、上記のような脂質エマルション中又は再構成された組成物中のGPCの存在を特徴とする、脂質エマルション、マルチチャンバ容器、及び組成物が開示されている。前記脂質エマルションの組成物は、その他の点では、特定の成分及びその供給源に関しては、非経口栄養の必要のある患者への静脈内投与のために安全に使用することができるかぎり広範な範囲にわたり変動することができる。
【0057】
上で開示されているようなGPCを含む脂質エマルションは、非経口栄養を必要とする患者の処置に使用される。本発明による脂質エマルションから利益を受けることのできる患者は、成人患者及び小児患者であり得、GPC濃度は、小児患者のより高いコリンの必要性に対処するために、前に開示されているように調節することができる。
【0058】
本発明による脂質エマルションから利益を受けることのできる前記小児及び成人患者を含む患者はすべて、脂肪肝の徴候を含むコリン欠乏の徴候を示すか、又はコリン欠乏となる危険がある患者である。本発明によるコリン欠乏は、例えば、成人男性について約550mg/日(約8mg/kg/日)、成人女性について約425mg/日(約6mg/kg/日)、小児について1日あたり約40mg(約90~100mg/kg/日)である目安量(AI)を維持するのに必要であるコリン(等価物)の量を提供しない非経口栄養製品を用いる完全非経口栄養により生じることがある。
【0059】
本発明による脂質エマルションは、早産児及び超早産児を含む新生児におけるコリン欠乏を避ける又は処置するためにも好適である。前に言及したように、コリンは、細胞膜、神経伝達物質であるアセチルコリン、及びリン脂質の合成の不可欠な構成成分であり、肝臓からの形式上のトリグリセリド輸送に必要な超低密度リポタンパク質の合成に寄与するため、前記小児患者の発達に中心的な役割を果たす。コリンが、コリン作動性細胞において最も関連する神経伝達物質であるアセチルコリンの合成に不可欠であることを考慮すると、コリンの欠乏は、そのような記憶障害と関係し得る。コリンは、特に乳児において、脳の発達と関係がある。コリン欠乏は、欠損細胞修復機構に寄与し得る、細胞のアポトーシスをさらに活性化する。重要なことには、コリン欠乏は脂肪肝をもたらし、このことは、非経口栄養を必要とする早産児を含む乳児において、特に懸念されるものである。
【0060】
本発明は、したがって、患者、詳細には完全非経口栄養を受けている患者における脂肪肝を予防及び/又は処置するための脂質エマルションであって、本発明によるグリセロホスホコリンを含む、脂質エマルションを提供する。しかし、本発明の脂質エマルション、又は脂質エマルションを含む再構成された組成物は、GPCの存在によりそのような肝損傷の発生を避けることができるため、脂肪肝を患っていない患者の非経口栄養に使用することができる。
【0061】
前に言及したように、塩化コリン及びCDP-コリンは、患者へのコリンの補充のためのコリン誘導体として、既に使用されている。しかし、これらの化合物は、医療用ポートを通した又は静脈内適用のための別個の溶液での投与に際して、塩化コリン又はCDP-コリンの製剤への添加を必要とせず、それにより誤った投与量又は汚染のリスクを有するさらなるステップを避ける、非経口栄養のための使用準備が整った脂質エマルションの成分としては提供されていない。事実、前記コリン誘導体を、脂質エマルションを含む非経口栄養溶液中で安定させることは困難であることが見出された(実施例5を参照されたい)。
【0062】
対照的に、本発明を提供する研究中、GPCはコリンを患者へと有効に代謝可能な形態で送達するのにより有効であるだけでなく、脂質エマルション中でさらに安定化することができ、チャンバのうちの1つにそのような脂質エマルションを含むマルチチャンババッグから再構成された製剤中でさらに安定であり続けることができるということが見出された。したがって、本発明は、コリンを、使用準備が整った脂質エマルション、又は脂質エマルションを含む再構成された製剤の成分として、非経口栄養により患者へと提供する方法であって、脂質エマルションが本発明によるグリセロホスホコリンを含む、方法を提供する。
【0063】
本明細書に開示されているような脂質製剤は、油相、水相、及び2つの相を混和させる乳化剤のエマルションである。非経口栄養のための注入可能なエマルションとして使用される脂質エマルションの事例では、エマルションは、水中油型(o/w)エマルションでなければならない。このことは、エマルションが血液と混和しなければならないため、油が内部の(又は分散された)相に存在し、一方で水が外部の(又は連続した)相であることを意味する。本明細書で開示されているような脂質エマルションは、したがってまた、いかなる懸濁された固体も実質的に含んではならない。勿論、脂質エマルションは、限定されないが、抗酸化剤、pH調節剤、等張剤、ビタミン、微量元素及びそれらの多様な組合せを含むさらなる成分を含有してもよい。脂質エマルション、脂質エマルションの組成物及び使用の大要は、例えばDriscoll、Journal of Parenteral and Enteral Nutrition 2017年、41巻、125~134頁に提供されている。集中治療を受けている患者の非経口栄養における脂質エマルションの使用についてのさらなる情報は、例えばCalderら、Intensive Care Medicine、2010年、36巻(5号)、735~749頁に提供されている。
【0064】
脂質エマルションの油相は、一般的に、多価不飽和脂肪酸、例えば長鎖多価不飽和脂肪酸を含み、多価不飽和脂肪酸は、遊離酸として、遊離酸のイオン形態若しくは塩形態として、及び/又はエステル形態で存在し得る。多価不飽和脂肪酸/長鎖多価不飽和脂肪酸の好適なエステルには、限定されないが、アルキルエステル(例えばメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、又はそれらの組合せ)及びトリグリセリドエステルが挙げられる。一部の場合では、長鎖多価不飽和脂肪酸は、構造R(C=O)OR’を有し、Rは、少なくとも17個の炭素原子、少なくとも19個の炭素原子、少なくとも21個の炭素原子、又は少なくとも23個の炭素原子を有するアルケニル基であり、R’は、存在しないか、H、対イオン、アルキル基(例えばメチル、エチル、若しくはプロピル)、又はグリセリル基(例えば、R(C=O)OR’は、モノグリセリド、ジグリセリド、又はトリグリセリドである)である。本明細書で開示されている脂質製剤における使用のための多価不飽和脂肪酸には、限定されないが、リノール酸(LA)、アラキドン酸(ARA)、α-リノール酸(ALA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ステアリドン酸(SDA)、γ-リノール酸(GLA)、ジホモ-γ-リノール酸(DPA)、及びドコサペンタエン酸(DPA)、特に、DHA、ARA、及びEPAが挙げられ、これらの各々は、遊離酸形態、イオン形態又は塩形態、アルキルエステル形態、及び/又はトリグリセリド形態で存在し得る。一部の場合では、多価不飽和脂肪酸及び/又は長鎖脂肪酸は、トリグリセリド形態で存在する。
【0065】
典型的には、脂質製剤は、脂質エマルションの総重量に対して約5重量%~約35重量%の油相を含む。例えば、脂質エマルションの油相は、脂質製剤の総重量に対して、約8重量%~12重量%、約10%~約20重量%、約10重量%~約15重量%、約15重量%~約20重量%、約12重量%~約17重量%、約18重量%~22重量%及び/又は約20重量%の量で存在する。油相は、典型的には及び好ましくは、油の供給源に依存して多様な量で、オメガ-3脂肪酸を含有する。ヒトの代謝に関与する3種のオメガ-3脂肪酸は、両方とも通常は海産魚油に存在するエイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)、並びに植物油に一般的に存在するα-リノレン酸(ALA)である。
【0066】
油相及びその成分は、単一の供給源又は異なる供給源に由来することができる(例えば、Fellら、Advances in Nutrition、2015年、6巻(5号)、600~610頁を参照されたい)。植物油のうち、現在使用されている供給源には、限定されないが、ダイズ及びオリーブ油、並びにヤシ油又はパーム核油(中鎖トリグリセリド(MCT))が挙げられる。別の供給源は、微細藻類、例えばクリプテコディニウム・コーニー(Crypthecodinium cohnii)又はシゾキトリウム属種(Schizochytrium sp.)等を含む藻類であり、藻類は、一部の場合には長鎖多価不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)の単一の供給源として役割を果たす。非経口脂質エマルションに使用される魚油は、冷水に主に存在する、限定されないがニシン、シャッド及びイワシを含む、油の強い魚から加工される。しかし、他の海洋生物、例えばナンキョクオキアミ(Euphausia superba Dana)のようなオキアミは、油の供給源として使用することができる。例えば、オキアミ油は、EPA及びDHAの両方を、35% w/wまでの脂肪酸の量で提供する。脂質エマルションの成分としてのオキアミ油は、DHA及びEPAの存在に起因する抗炎症特性を有すると考えられており、内毒素と結合すると仮定されている(Bonaterraら:Krill oil-in-water emulsions pro-tects against lipopolysaccharides-induced proinflammatory activation of macrophages in vitro. Marine Drugs(2017年)、15巻:74頁)。
【0067】
菌類、酵母及び一部の細菌を含む多数の微生物は、有意な量のLC-PUFA、主にARAを合成する能力を有する(Sanaaら、Journal of Advanced Research 11巻:3~13頁(2018年))。関係するARAの生産者は、例えば、非病原性の菌類であるモルティエレラ属種(Mortierella spp.)であり、中でも、モルティエレラ・アルピーナ種1S-4(M. alpina 1S-4)及びATCC 32,222は、脂質の70%までのARAを産生する。[00104]一部の場合では、油相は、微細藻類であるシゾキトリウム属種及び菌類であるモルティエレラ・アルピーナに由来する油のブレンドを含む。そのようなブレンドの油は、限定されないが、ミリスチン酸(C14:0)、パルミチン酸(C16:0)、パルミトレイン酸(C16:1)、ステアリン酸(C18:0)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2 n-6)、ガンマ-リノール酸(C18:3、n-6)、アルファ-リノール酸(C18:3、n-3)、アラキジン酸(C20:0)、ARA(C20:4、n-6)、EPA(C20:5、n-3)、ベヘン酸(C22:0)、DPA(C22:5、n-3)、DHA(C22:6、n-3)、及びリグノセリン酸(C24:0)を含む。一部の場合では、ブレンドは、ARA、DHA及びEPAを含む。異なる供給源からの油の多様な脂肪酸、例えばDHA、EPA、ARA、リノール酸(LA)又はアルファ-リノール酸(ALA)の含有量は、例えば、Fellら、2015年に概説されている。
【0068】
本発明の一部の実施形態では、脂質エマルションの油相は、EPA及びARAを本質的に含まず、EPA及びARAのいずれかは、単独で、又は組み合わせられて、脂質エマルションの油相に添加される。しかし、一部の場合では、油相がEPA及び/又はARAを既に含有する場合、前記脂肪酸のいずれかは、脂質エマルションのEPA及び/又はARAのいずれかの量を増大させるために、単独で、又は互いに組み合わされて添加される。
【0069】
本発明の一部の実施形態では、脂質エマルションの油相は、したがってARAを含む。一部の実施形態では、ARAは、菌類、好ましくはモルティエレラ・アルピーナから得られる。しかし、ARAは、本発明による多様な供給源から得ることができ、菌類に由来するARAに限定されない。一部の場合では、ARAは、油相100gあたり0.1g~15g、例えば油相100gあたり1.5g~7.5gの濃度で存在する。
【0070】
本発明の一部の実施形態では、油相は、DHA及びEPAを多様な比で含む。一部の場合では、油相はEPAより多くのDHAを含有し、一部の場合では、DHAは存在するが、油相はEPAを本質的に含まない。DHA及びEPAの両方が存在する場合、脂質エマルションのDHAとEPAとの比は、典型的には、少なくとも10:1(w/w)、例えば約10:1~約1000:1(w/w)、約20:1~約1000:1(w/w)、約50:1~約1000:1(w/w)、約100:1~約1000:1(w/w)、約10:1~約200:1(w/w)、約20:1~約150:1(w/w)、少なくとも約50:1(w/w)、少なくとも約100:1(w/w)、少なくとも約500:1(w/w)、及び/又は少なくとも約1000:1(w/w)である。
【0071】
一部の場合では、DHAは、油相100gあたり0.25g~3.0gの濃度で存在する。一部の場合では、DHAは、脂質エマルションの油相に、油相100gあたり1.5g~2.5gの濃度で存在する。一部の場合では、前記DHAは、トリグリセリド形態又はエチルエステル形態で、好ましくはトリグリセリド形態で存在する。
【0072】
本開示による例示的な脂質エマルションは、グリセロホスホコリン(GPC)を、脂質エマルション1リットルあたり0.1g~2.0gの濃度で含む。そのような脂質エマルションは、直接の非経口投与のために使用することができる。ある特定の実施形態では、脂質エマルションは、グリセロホスホコリン(GPC)を、脂質エマルション1リットルあたり0.1g~2.0gの濃度で含有し、ドコサヘキサエン酸(DHA)を、油相100gあたり0.1g~5.0gの濃度でさらに含有する。そのような脂質エマルションは、EPAを本質的に含み得ず、又は少量のEPAを含み得、DHAとEPAとの比は、10:1~1000:1(w/v)又は10:1~200:1である。
【0073】
ある特定の実施形態では、脂質エマルションは、グリセロホスホコリン(GPC)を、脂質エマルション1リットルあたり0.1g~2.0gの濃度で含有し、ドコサヘキサエン酸(DHA)を、油相100gあたり0.1g~5.0gの濃度で含有し、及び/又はアラキドン酸(ARA)を、油相100gあたり0.1g~15gの濃度で含有する。ある特定の実施形態では、前記脂質エマルションは、DHA及びARAを、10:1~1:5(w/w)である脂質エマルションのDHAとARAとの比で含む。そのような脂質エマルションはまた、EPAを本質的に含み得ず、又は少量のEPAを含み得、DHAとEPAとの比は、10:1~1000:1(w/v)又は10:1~200:1である。
【0074】
本明細書で開示されている脂質エマルションは、一部の場合では、低減されたレベルのフィトステロールを含む。そのような場合、脂質エマルションに使用される油は、典型的には、最初から油に存在するフィトステロールの総量の少なくとも25%の量のフィトステロールが枯渇しており、例えば、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、及び/又は少なくとも75%が枯渇している。一部の場合では、脂質エマルションは、油相100gあたり70mg以下のフィトステロール、例えば油相100gあたり約15mg~約35mgのフィトステロール、及び/又は油相100gあたり約25mg以下のフィトステロールを含む。フィトステロールの除去又は枯渇は、周知の工程、例えば、短行程蒸留、活性炭処理に続く濾過、超臨界COクロマトグラフィー、又はクロマトグラフ的精製により実行することができる。
【0075】
本明細書で開示されている脂質エマルションは、さらなる成分、例えば界面活性剤(乳化剤とも称される)、補助界面活性剤、等張剤、pH調節剤、及び抗酸化剤をさらに含んでもよい。一般的に、界面活性剤は、油相と水相との間の界面張力を低減することにより、エマルションを安定化させるために添加される。界面活性剤は、典型的には、疎水部及び親水部を含み、製剤に含まれる界面活性剤/乳化剤の量は、エマルションの安定化の所望のレベルを達成するために必要とされる量に基づいて決定される。典型的には、脂質製剤の界面活性剤の量は、脂質製剤の総重量に対して、約0.01重量%~約3重量%、例えば約0.01重量%~約2.5重量%、約0.01重量%~約2.3重量%、約0.02重量%~約2.2重量%、約0.02重量%~約2.1重量%、約0.02重量%~約2重量%、約0.05重量%~約1.8重量%、約0.1重量%~約1.6重量%、約0.5重量%~約1.5重量%、約0.8重量%~約1.4重量%、約0.9重量%~約1.3重量%、約1重量%~約1.2重量%、及び/又は約1.2重量%である。好適な界面活性剤及び補助界面活性剤には、非経口での使用について承認された界面活性剤が挙げられ、限定されないが、リン脂質(例えば、卵ホスファチド及び大豆レシチン)、オレイン酸塩及びそれらの組合せが挙げられる。オキアミ油は、脂質エマルションで乳化剤として使用することもでき、脂質エマルションは、エマルションの総重量に対して約0.5~2.2重量%のオキアミ油を含み、エマルションは、卵黄レシチンを含まない(米国特許出願公開第2018/0000732 A1号)。別の例示的な界面活性剤はレシチンであり、天然の及び合成のレシチンの両方、例えば卵、トウモロコシ又は大豆に由来するレシチン又はそれらの混合物が挙げられる。一部の場合では、レシチンは、脂質製剤の総重量に対して約1.2%の量で含まれる。
【0076】
一部の場合では、脂質エマルション製剤は、補助界面活性剤を含む。典型的には、脂質製剤の補助界面活性剤の量は、界面活性剤の量未満であり、典型的には、製剤の補助界面活性剤の量は、脂質製剤の総重量に対して約0.001重量%~約0.6重量%、例えば、約0.001重量%~約0.55重量%、約0.001重量%~約0.525重量%、約0.001重量%~約0.5重量%、約0.005重量%~約0.5重量%、約0.01重量%~約0.4重量%、約0.02重量%~約0.3重量%、約0.03重量%~約0.2重量%、約0.04重量%~約0.1重量%、及び/又は約0.05重量%~約0.08重量%である。例示的な補助界面活性剤は、オレイン酸塩、例えばオレイン酸ナトリウムである。一部の場合では、脂質製剤は、界面活性剤及び補助界面活性剤として、レシチン及びオレイン酸塩を、例えば1.2%のレシチン及び0.03%のオレイン酸塩の量で含む。一部の場合では、オレイン酸ナトリウムは、脂質製剤の総重量に対して約0.03重量%の量で含まれる。
【0077】
等張剤は、脂質エマルションのモル浸透圧濃度を、所望のレベル、例えば生理学的に許容できるレベルに調節するために、脂質エマルションに添加することができる。好適な等張剤には、限定されないが、グリセロールが挙げられる。典型的には、脂質エマルション製剤は、約180~約300ミリオスモル/リットル、例えば約190~約280ミリオスモル/リットル、及び/又は約200~約250ミリオスモル/リットルのモル浸透圧濃度を有する。一部の場合では、脂質エマルションは、等張剤を、脂質製剤の総重量に対して、約1重量%~約10重量%、例えば約1重量%~約5重量%、約1重量%~約4重量%、及び/又は約2重量%~約3重量%の量で含む。一部の場合では、脂質エマルション製剤は、約2重量%~約3重量%のグリセロールを含む。
【0078】
pH調節剤は、pHを、所望のレベル、例えば非経口での使用について生理学的に許容できるpHに調節するために、脂質エマルションに添加することができる。好適なpH調節剤には、限定されないが、水酸化ナトリウム及び塩酸が挙げられる。典型的には、脂質エマルション製剤は、約6~約9、例えば約6.1~約8.9、約6.2~約8.8、約6.3~約8.7、約6.4~約8.6、約6.5~約8.5、約6.6~約8.4、約6.7~約8.3、約6.8~約8.2、約6.9~約8.1、約7~約8、約7.1~約7.9、約7.2~約7.8、約7.3~約7.7、約7.4~約7.6、約7、約7.5、及び/又は約8のpHを有する。
【0079】
脂質製剤は、抗酸化剤をさらに含んでもよい。好適な抗酸化剤は、薬学的に許容できる抗酸化剤であり得、限定されないが、トコフェロール(例えばガンマトコフェロール、デルタトコフェロール、アルファトコフェロール)、パルミチン酸アスコルビル又はそれらの組合せを挙げることができる。一部の場合では、脂質エマルション製剤は、抗酸化剤を、約0~約200mg/L、例えば約10~約200mg/L、約40~約150mg/L、約50~約120mg/L、約75~約100mg/Lの抗酸化剤(複数可)、例えばビタミンEの量で含む。
【0080】
すべての静脈脂質エマルションの水性(又は水)相は、静脈脂質エマルションを注入に好適なものとする薬局方要件に従わなければならず、すなわち、水は、注入のための滅菌水でなければならない。
【0081】
GPCが、患者への投与前に、例えば医療用ポートを通して使用準備が整った脂質エマルション又は再構成された溶液に添加される脂質エマルションも、本開示に含まれる。GPCは、例えばバイアル中又は好適な可撓性若しくは剛性容器中の好適な溶液の形態で用意することができ、又は、例えばガラスバイアル中の凍結乾燥形態で用意することができ、凍結乾燥されたGPCは、コリン供給源を脂質エマルション又は再構成された溶液に添加する前に、好適な溶媒に溶解される。GPCは、脂質エマルション若しくは再構成された溶液への添加のためのそのような溶液若しくは凍結乾燥物の単一の活性成分として存在することができ、又は少なくとも1つのさらなる活性成分、例えば、ビタミン、微量元素、DHA、EPA及び/若しくはARAと組み合わせて存在することができる。したがって、本発明の別の実施形態によると、GPCを患者に提供する方法が提供され、GPCは、投与前に、非経口栄養のための製剤を提供するMCBから使用準備が整った脂質エマルション又は再構成された溶液に添加される。
【0082】
前に言及したように、脂質エマルションは、マルチチャンババッグのチャンバのうち1つに存在することもできる。本開示は、したがって、栄養製剤の非経口投与のためのマルチチャンバ容器も提供する。例えば、容器は、複数の区画又はチャンバを有するバッグの形態であってもよい。容器、例えばバッグは、少なくとも2つのチャンバを含むが、3つ、4つ、又は5つのチャンバを含有してもよく、好ましい一実施形態では、2つ又は3つのチャンバを含有してもよい。軟質バッグを含む好適な容器は、典型的には、滅菌された、非発熱性の、単回使用の、及び/又は使用準備が整ったものである。マルチチャンバ容器は、小児及び/又は新生児用非経口栄養製品を保持するために特に有用であり、一般的に、容器の第1のチャンバに本明細書で開示されているような炭水化物製剤を、第2のチャンバに本明細書で開示されているようなアミノ酸製剤を、及び第3のチャンバに本明細書で開示されているような脂質製剤を提供する。
【0083】
マルチチャンバ容器、例えば3チャンババッグは、縦チャンバを含んでもよい。好適なマルチチャンバ容器は、米国特許出願公開第2007/0092579号に開示されている。例えば、マルチチャンバ容器は、2つ又は3つの隣接するチャンバ又は区画を含むバッグとして構成されてもよい。所望の場合、マルチチャンバ容器のチャンバを分離するために、脆弱境界部(frangible barrier)又は開封性シール(例えば剥離シール又は脆弱シール)が使用される。マルチチャンバ容器はまた、脂質エマルション、炭水化物製剤及びアミノ酸製剤を収容するための3つのチャンバを含んでもよく、例えばビタミン製剤及び/又は微量元素製剤を含有する、少なくとも1つの、ある特定の実施形態では2つ又は3つの、より小さなチャンバをさらに含んでもよい。特定の一実施形態では、本発明のマルチチャンバ容器は、本発明による脂質エマルションを含有する第1のチャンバ、アミノ酸製剤を含有する第2のチャンバ、炭水化物製剤を含有する第3のチャンバ、ビタミン製剤を含有する第4のチャンバ、及び微量元素製剤を含有する第5のチャンバを有する。
【0084】
前記マルチチャンバ容器の開封性シールは、製剤が、別個に保存され、投与の直前に混合/再構成されることを可能とし、それにより混合物として長期間保存するべきでない製剤の、単一の容器での保管を可能とする。シールの開封は、チャンバ間の連通及びそれぞれのチャンバの内容物の混合を可能とする。マルチチャンバ容器の外側のシールは、チャンバ間のより弱い剥離シール又は脆弱シールの開封のためにもたらされる流体圧力下では開封しない強力なシールである。一部の実施形態では、所望の場合、マルチチャンバ容器の開封性シールは、マルチチャンバ容器の選択されたチャンバのみを混合又は再構成する、例えば脂質エマルションをビタミンチャンバ及びアミノ酸チャンバと混合することを可能とするように設計されてもよい。
【0085】
マルチチャンバ容器は、構成される液体が所望の順序で混合されるように、剥離シールを開封する所望の順序を説明する指示書とともに提供されてもよい。2つ以上の剥離シールの開封強度は、所望の順序でシールを開封することを容易とするために、変動してもよい。例えば、最初に開封するべき剥離シールの開封強度は、2番目に開封するべき剥離シールを開封するのに必要とされる開封強度の1/3~1/2であってもよい。
【0086】
本発明による脂質エマルションがマルチチャンババッグに含まれる場合、脂質エマルションのGPC濃度は、必要に応じて、前に開示されたようなGPCの用量に達するように適合させることができる。しかし、マルチチャンバ容器の脂質エマルションはまた、脂質エマルションについて、GPCを前に開示されたような濃度で含んでもよい。
【0087】
本明細書で使用される場合、「再構成された溶液」は、使用前にマルチチャンバ容器のチャンバの内容物を混合することにより生成される非経口投与のための溶液を表す。
【0088】
マルチチャンババッグの1つのチャンバに含有される脂質エマルションは、GPCを、1リットルあたり0.1g~15.0gの濃度で含んでもよい。一部の実施形態では、そのようなマルチチャンバ容器のGPC濃度は、脂質エマルション1リットルあたり1.0g~12g、脂質エマルション1リットルあたり1.0g~10.0g、脂質エマルション1リットルあたり2g~9.0g、脂質エマルション1リットルあたり1.0g~5.0g、又は脂質エマルション1リットルあたり2.0g~4.0gであってもよい。
【0089】
上で言及されたように、非経口栄養のための製剤を提供するためのマルチチャンバ容器の典型的な成分は、アミノ酸及び/又は炭水化物製剤である。アミノ酸製剤は、1つ又は複数のアミノ酸及び1つ又は複数の電解質の滅菌水溶液を含む。典型的に、アミノ酸製剤は、アミノ酸製剤100mLあたり約2g~約10グラムのアミノ酸、例えばアミノ酸製剤100mLあたり約3グラム~約9グラム及び/又は約5グラム~約7グラムを含む。アミノ酸製剤に含まれる典型的なアミノ酸は、例えばイソロイシン、ロイシン、バリン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、アルギニン、ヒスチジン、アラニン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、セリン、チロシン、オルニチン及びタウリンである。さらに、チロシンの含有量は、例えば、グリシル-チロシンジペプチド又はアセチル-チロシン(Ac-Tyr)を添加することにより増大させることができる。しかし、典型的には、グリシル-チロシンジペプチドはAc-Tyrと比較して改善された薬物動態を有し、腎臓によりより速やかに排出され、結果として血中へのチロシンの放出は減少する。
【0090】
アミノ酸製剤は、電解質、例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及び/又はリン酸イオンをさらに含む。例えば、アミノ酸製剤は、アミノ酸製剤100mLあたり約0.1mmol~約10mmolのナトリウム(例えば約3.75mmol~約10mmolのナトリウム)、約0.1mmol~約10mmolのカリウム(例えば約3.75mmol~約6.90mmolのカリウム)、約0.05mmol~約1.0mmolのマグネシウム(例えば約0.05mmol~約0.11mmol及び/又は約0.38mmol~約0.65mmolのマグネシウム)、約0.1mmol~約10mmolのカルシウム(例えば約1.13mmol~約5.10mmolのカルシウム)、約0.1mmol~約10mmolのリン酸(例えば約0.94mmol~約5.10mmolのリン酸)及び10mmol以下の塩化物(例えば5.6mmol以下の塩化物)を含むことができる。カルシウム及びリン酸が同一の加熱滅菌溶液にともに存在するとき、不溶性のリン酸カルシウム沈殿が発生することがある。リン酸の有機塩、例えばグリセロリン酸ナトリウム五水和物又はグリセロリン酸カルシウムを使用すると、溶解性の問題なしに、及び過剰のナトリウム又は塩化物をもたらすことなく、カルシウム及びリン酸の量を増大させることができる。アミノ酸製剤では、ナトリウムは塩化ナトリウムの形態で用意することができ、カルシウムは塩化カルシウム二水和物又はグルコン酸カルシウムの形態で用意することができ、マグネシウムは酢酸マグネシウム四水和物又は塩化マグネシウムの形態で用意することができ、カリウムは酢酸カリウムの形態で用意することができる。
【0091】
炭水化物製剤は、典型的にはグルコースの形態で、カロリーの供給を提供する。特に、炭水化物製剤は、有害作用、例えば非経口栄養を受けている患者に観察される高血糖症を避けるために十分な量の炭水化物を提供する。典型的には、炭水化物製剤は、炭水化物製剤100mLあたり約20~50グラムのグルコースを含む。
【0092】
本発明の脂質エマルションは、一般的に周知の工程により調製することができる(例えばHippalgaonkarら、AAPS PharmSciTech 2010年、11巻(4号)、1526~1540頁を参照されたい)。一般的に、水溶性及び油溶性成分は、それぞれ、水相及び油相に溶解する。したがって、GPCは、水相に溶解する。乳化剤、例えばホスファチドは、油又は水相のいずれかに分散され得る。両方の相は、十分に加熱及び撹拌され、成分を分散させる又は溶解する。脂質相は、次いで、一般的に、制御された温度及び(高せん断ミキサーを使用した)撹拌下で水相に添加され、均質に分散した粗又はプレエマルションを形成する。20μmより小さな液滴径を有するプレエマルションは、一般的に、単峰性及び生理学的に安定な微細エマルションをもたらす。プレエマルションは、次いで、最適化された圧力、温度、及びサイクル数で(マイクロフルイダイザー又は高圧ホモジナイザーを使用して)均質化され、液滴径をさらに低減させ、微細エマルションを形成する。油相及び界面活性剤の種類及び濃度、操作温度、圧力、サイクル数等のような因子は、高圧均質化及び顕微溶液化中の平均液滴径に影響を与えることがある。エマルションの貯蔵寿命を通して、注入可能な微細エマルションの平均液滴径及びPFAT5(5μm以上の脂肪球の容積加重割合(volume-weighted percentage))は、それぞれ500nm以下及び0.05%以下であるべきである。結果として生じた微細エマルションのpHは、次いで、所望の値に調節され、エマルションは、1~5μmフィルターを通して濾過される。微細エマルションは、次いで、好適な容器へと移される。酸素透過性がある及び/又は油溶性の可塑剤を含有するプラスチック容器は、通常避けられる。全体の工程(濾過/粗及び微細エマルションの調製)は、通常、可能なときはいつでも、及び特に脂質エマルションの賦形剤及び特定の成分が酸素感受性である場合には、窒素雰囲気下で実行される。脂質製剤の滅菌は、最終熱滅菌により、又は無菌濾過により、達成することができる。最終滅菌は、一般的に、より確実な最終生成物の無菌性をもたらす。しかし、エマルションの成分が熱不安定性である場合、滅菌濾過を使用することができる。濾過による滅菌は、エマルションの液滴径が200nmを下回ることを必要とする。代わりに、無菌処理を採用してもよい。しかし、この工程は比較的設備及び労働集約的であり、承認申請においてさらなる工程検証データ及び正当な理由を必要とする。
【0093】
したがって、本発明による脂質エマルションは、以下を含むステップ:
(a)油相及び水相を、撹拌下で、約70℃~約80℃の温度に個別に加熱するステップ;
(b)グリセロホスホコリンを水相に添加するステップ;
(c)油相を撹拌下で水相に移すことによりプレエマルションを調製するステップ;
(d)プレエマルションを、圧力下、約40℃~60℃の温度で均質化するステップ;
(e)任意選択で、水を添加して必要とされる容積及び濃度を調節するステップ;
(f)任意選択で、pHを約7.8~8.8の範囲に調節するステップ;並びに
(g)任意選択で、脂質エマルションを滅菌するステップ
により調製することができる。
【0094】
滅菌は、当該技術分野で周知の方法により、例えば加熱により、行うことができる。通常、ステップ(a)から(d)は、いかなる酸化反応をも避けるために、不活性ガス、例えばNの存在下で実施される。プレエマルションの均質化のために使用される圧力は、広い範囲にわたり変動し得る。一般的に、圧力は、100~1300バール、200~1000バール、300~800バール、又は400~1100バールの範囲となる。
【0095】
前に論じたように、本発明は、脂肪肝を避ける及び/又は処置するための脂質エマルション及び同一のものを含む組成物に関する。脂肪肝は、肝臓の重量の少なくとも5%である肝内脂肪として定義される。肝臓のトリアシルグリセロールの単純な蓄積は、肝保護的(hepatoprotective)なものであり得るが、肝脂質の長期の貯蔵は、肝臓の代謝不全、炎症及び非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の進行した形態につながるおそれがある。NAFLDには、単純な脂肪症から非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)までの範囲の疾患が含まれ、NAFLDは肝硬変及び肝細胞癌に進行するおそれがある。組織学的には、NASHは、大滴性の脂肪症、小葉の炎症、及び肝細胞の風船様拡大の存在により定義される(Kneeman、Secondary Causes of nonalcoholic fatty liver disease、Therap Advgastroenterol 2012年;5巻:199~207頁)。長期の完全非経口栄養(TPN)は、NAFLDについての多数の原因の1つであり得る。TPNは、遊離脂肪酸をベータ酸化のために肝臓の細胞質からミトコンドリアへと移すのに必要な化合物である、カルニチンの枯渇をもたらすことがある。前に言及したように、コリンの細胞質ソル濃度も低減し、肝細胞の脂質貯蔵を促進する。そのような脂質貯蔵は、主な組織学的所見が、脂肪症、肝内胆汁うっ滞及び胆嚢管重複であるという事実につながる。したがって、TPNのコリン補充の効果は、肝臓の組織学的特性を検証することにより決定することもできる。そのような組織学的分析は、空胞形成の程度を分析することによる脂肪症の度合いの評価を可能とする。実施例3は、動物試験において行われたそのような病理組織学的調査の結果を提供する。実施例3では、メチオニン及びコリン欠乏食に続けた非経口栄養に起因する肝損傷が、PN溶液のグリセロホスホコリンの存在により有効に対処され得ることが示されている。実施例3は、GPCが、他のコリン誘導体、詳細には塩化コリン及びCDP-コリンよりも有意により良好な効果をもたらすというエビデンスも提供する。DHA及びARAのさらなる存在も、さらなる相乗的利益を有するようである。
【0096】
血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)アッセイは、肝疾患の検出のための最も一般的な臨床検査である。集団における酵素の濃度は連続分布を形成するため、健康な肝臓と罹患している肝臓とを区別するカットオフ濃度は、明白に定義されない。しかし、血清アラニンアミノトランスフェラーゼの正常値上限は、平均40IU/l、30~50IU/lの範囲に設定される(Kimら、BMJ 2004年、328巻:983頁)。前記上限は、本発明の文脈において、正常な血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(本明細書において「アミノトランスフェラーゼ」又は「ALT」とも称される)濃度として使用される。Kimらは、アミノトランスフェラーゼ濃度と肝疾患からの死亡率との関連が有意であることも記載している。したがって、血清アミノトランスフェラーゼ濃度は、本発明の文脈において、例えば非経口栄養により生じた肝損傷の処置のためのグリセロホスホコリンの有効性を、いかなるコリンも含有していない脂質エマルションと比較するが、塩化コリン及びCDP-コリンを含む他のコリン供給源を有するものとも比較して決定するために使用された。図1及び2は、GPCのALT濃度の低下に対する有意により良好な効果を実証している。
【0097】
ALT活性は、国際臨床化学連合(IFCC)により推奨される改良法により決定され、実施例2も参照されたい。ALTは、アルファ-ケトグルタル酸とL-アラニンとの、L-グルタミン酸及びピルビン酸を形成する反応を触媒する。LDHの作用下では、ピルビン酸は乳酸に変換し、NADHはNADに変換される。340nm(第2波長は700nmである)で測定されたNADHの吸光度の低減は、ALTの血清活性と直接比例する。このことは、運動学的反作用である。一般に、血清は、分析のために使用される。血清は、採取の2時間以内に細胞から分離され、アッセイされるまで-70℃で保存される。動物モデルにおける経時的なALT活性のモニタリングは、肝疾患、詳細にはコリン欠乏食により引き起こされる肝損傷の処置におけるGPCの有効性を決定するための1つの平易且つ決定的な手段として本明細書で使用される(実施例1及び2、図1及び2)。
【0098】
血漿遊離型コリン濃度は、当該技術分野で周知のプロトコールによる、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及びガスクロマトグラフィー質量分析により決定することができる(Pomfretら:measurement of choline and choline metabolite concentrations using high pressure liquid chromatography and gas chromatography-mass spectrometry.Anal Biochem.1989年;180巻:85~90頁)。
【0099】
油から、詳細には植物由来の油、例えばオリーブ又は大豆油からフィトステロールを枯渇させる方法は、周知である。例えば、フィトステロールは、Ostlundら、Am J Clin Nutr 2002年、75巻、1000~1004頁に記載されているように、又は米国特許第6303803 B1号に記載されているように、除去することができる。
さらなる実施形態は以下のとおりである。
[実施形態1]
グリセロホスホコリン(GPC)を、1リットルあたり0.1g~15.0gの濃度で含む、非経口投与のための脂質エマルション。
[実施形態2]
GPCが、1リットルあたり2.0g~12.0gの濃度で含まれる、実施形態1に記載の脂質エマルション。
[実施形態3]
GPCが、1リットルあたり0.5g~5.0gの濃度で含まれる、実施形態1に記載の脂質エマルション。
[実施形態4]
水相及び前記脂質エマルションの総重量に対して5重量%~約35重量%の間の油相を含む、実施形態1~3のいずれか1つに記載の脂質エマルション。
[実施形態5]
ドコサヘキサエン酸(DHA)を、油相100gあたり0.1g~5.0gの濃度でさらに含む、実施形態1~4のいずれか1つに記載の脂質エマルション。
[実施形態6]
アラキドン酸(ARA)を、油相100gあたり0.1g~15gの濃度でさらに含む、実施形態1~5のいずれか1つに記載の脂質エマルション。
[実施形態7]
エイコサペンタエン酸(EPA)を本質的に含まない、実施形態1~6のいずれか1つに記載の脂質エマルション。
[実施形態8]
小児及び/又は成人患者の処置のための、実施形態1~7のいずれか1つに記載の脂質エマルション。
[実施形態9]
非経口栄養製剤を提供するためのマルチチャンバ容器であって、実施形態1~7のいずれか1つに記載の脂質エマルションを含有する第1のチャンバを含み、前記GPCが前記脂質エマルション1リットルあたり0.1g~15.0gの濃度で存在する、マルチチャンバ容器。
[実施形態10]
アミノ酸製剤又は炭水化物製剤を含有する第2のチャンバを有する、実施形態9に記載のマルチチャンバ容器。
[実施形態11]
前記第2のチャンバがアミノ酸製剤を含有し、第3のチャンバが炭水化物製剤を含有する、実施形態10に記載のマルチチャンバ容器。
[実施形態12]
ビタミン又は微量元素を含有する第4のチャンバを有する、実施形態11に記載のマルチチャンバ容器。
[実施形態13]
前記第4のチャンバがビタミンを含有し、第5のチャンバが微量元素を含有する、実施形態12に記載のマルチチャンバ容器。
[実施形態14]
GPCが、1リットルあたり0.1~15.0gの濃度で存在する、実施形態9~13のいずれか1つに記載のマルチチャンバ容器における使用のための脂質エマルション。
[実施形態15]
実施形態9~13のいずれか1つに記載のマルチチャンバ容器から再構成された、非経口栄養組成物。
[実施形態16]
GPCが、再構成された溶液1リットルあたり0.01g~6.0gの濃度で存在する、実施形態15に記載の非経口栄養組成物。
[実施形態17]
アミノ酸製剤、炭水化物製剤、及び/又は脂質製剤を含むマルチチャンバ容器から再構成された非経口栄養組成物であって、グリセロホスホコリンが1リットルあたり0.01g~6.0gの濃度で前記非経口栄養組成物中に存在する、非経口栄養組成物。
[実施形態18]
小児及び/又は成人患者の処置のための、実施形態15~17のいずれか1つに記載の非経口栄養組成物。
[実施形態19]
コリンを、非経口栄養を必要とする患者に提供する方法であって、グリセロホスホコリンを1リットルあたり0.01g~15.0gの濃度で含有する組成物を非経口投与するステップを含む、方法。
[実施形態20]
前記組成物が脂質エマルションである、実施形態19に記載の方法。
[実施形態21]
前記グリセロホスホコリンが、15mg/kg/日~300mg/kg/日の用量で投与される、実施形態19又は20に記載の方法。
[実施形態22]
前記患者が、小児患者であり、グリセロホスホコリンが、50mg/kg/日~150mg/kg/日の用量で投与される、実施形態19又は21に記載の方法。
[実施形態23]
前記グリセロホスホコリンが、水相及び前記脂質エマルションの総重量に対して約5重量%~約35重量%の間の油相を含む脂質エマルションとして提供される、実施形態19~22のいずれか1つに記載の方法。
[実施形態24]
前記組成物が、末梢又は中心に挿入されるカテーテルにより提供される、実施形態19~23のいずれか1つに記載の方法。
[実施形態25]
経口及び経腸栄養が不可能であるか、不十分であるか又は禁忌であるときに非経口栄養を必要とする患者を、実施形態1~7のいずれか1つに記載の脂質エマルション又は実施形態15~18のいずれか1つに記載の非経口栄養組成物を用いて処置する方法。
[実施形態26]
前記患者が、コリン欠乏を患っている、実施形態25に記載の方法。
[実施形態27]
前記患者が、小児又は成人患者である、実施形態25又は26に記載の方法。
[実施形態28]
前記患者が、脂肪肝を患っている、実施形態25~27のいずれか1つに記載の方法。
[実施形態29]
実施形態1~7及び14のいずれか1つに記載の脂質エマルションを調製する方法であって、
(a)油相及び水相を、撹拌下で、約70℃~約80℃の温度に個別に加熱するステップ、
(b)グリセロホスホコリンを前記水相に添加するステップ、
(c)前記油相を撹拌下で前記水相に移すことによりプレエマルションを調製するステップ、
(d)前記プレエマルションを、圧力下、約40℃~60℃の温度で均質化するステップ、
(e)任意選択で、水を添加して必要とされる容積及び濃度を調節するステップ、
(f)任意選択で、pHを約7.8~8.8の範囲に調節するステップ、並びに
(g)任意選択で、前記脂質エマルションを滅菌するステップ
を含む、方法。
[実施形態30]
少なくともステップ(a)~(d)が、不活性ガス、好ましくはN の存在下で実施される、実施形態29に記載の方法。
[実施形態31]
前記脂質エマルションが、加熱により滅菌される、実施形態29又は30に記載の方法。
【実施例
【0100】
実施例1:動物モデル
肝損傷、詳細には脂肪肝を避ける及び/又は処置及び改善するための非経口栄養溶液、詳細には脂質エマルションにおける使用のために最も有効なコリン誘導体を特定及び確認するために、動物試験を実施した。試験は、最も有効であると見出されたコリン誘導体と多価不飽和脂肪酸、詳細にはDHA及びARAとの何らかの潜在的な代謝的相互作用を特定するためにさらに役割を果たした。
【0101】
GPC並びにDHA、ARA及びGPCの組合せの効果を、罹患動物モデルで調査し、コリン及びメチオニン欠乏(MCD)食(SSNIFF MCDペレット状コリン/メチオニン欠乏食(SSNIFF Spezialdiaten GmbH、Soest、Germany、製品番号E15653-94))により誘導された脂肪症を有する雄Sprague-Dawleyラットに、非経口栄養を続けた。脂肪症を、病理組織学によりそれぞれの群で確認した(実施例3)。
【0102】
MCD食下14日後に、非経口栄養を開始した。5日間の非経口栄養の後に第1の測定を行い、続いて9日後及び17日後に測定を行った。毎日の脂質摂取量は2.31g/kg/dとした。ラットを、以下の表Iに記載するように、いくつかの群に分けた。
【0103】
2つの群を対照群とし、第1の群を、生理食塩水(注入のための、水中0.90% w/vのNaCl)で処置した。第2の群に、注入のための、水中に精製されたオリーブ油(80.0g/L)及び精製された大豆油(20.0g/L)を含有し、pH6~8である脂質エマルション(「LE 10%」)を投与し、LE 10%は、卵レシチン(6.0g/L)、グリセロール(11.25g/L)及びオレイン酸ナトリウム(0.15g/L)をさらに含有した。LE 10%は、100g/Lの脂質を含有した。ある特定の実験では、脂質エマルション「LE」を、異なる濃度で、例えば「LE 13%」又は「LE 20%」として使用し、「LE 13%」又は「LE 20%」は、上記の濃度がしたがってより高いことを示す。
【0104】
塩化コリン、グリセロホスホコリン(GPC)及びシチジン二リン酸-コリン(CDP-コリン)からなる群から選択される多様なコリン誘導体を、それぞれ2つの濃度(低/高)でLE 10%に添加し、表I(ステップ番号2)を参照されたい。「低」は、15mmol/Lである脂質エマルションの濃度を表し、「高」は、31mmol/Lの脂質エマルションの濃度を表す。薬学的な二次標準である塩化コリン(2-ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリドを、Sigma-Aldrich(Merck KGaA、Germany)から購入した。CDP-コリン(発酵により調製)は、TCI Europe N.V.(Antwerp、Belgium)からのものであった。卵ホスファチドから鹸化により調製されたグリセロホスホコリンを、Lipoid GmbH、Germanyにより供給した。DHA(藻類であるシゾキトリウム属種由来)及びARA(菌類であるモルティエレラ・アルピーナ由来)を、BASF AG、Germanyから購入した。ビタミンEを、ADM(IL、U.S.A.)から購入した。
【0105】
コリン誘導体を補充した「LE」脂質エマルションを、以下のように調製した。第1のステップでは、未加工の相を加熱する。油相の場合では、大豆及びオリーブ油並びに卵ホスファチドと、ステップ番号3実験の場合にはDHA及びARA油並びにビタミンEを、Ultra Turraxを使用して連続して撹拌しながら、N保護下で、イノックスビーカー中で75℃に加熱した。水相を、グリセロール、オレイン酸ナトリウム及びMilli-Q水を混合することにより調製し、N保護下で、イノックスビーカー中で約75℃に連続して加熱した。必要とされる場合、コリン誘導体を、一定の撹拌下で添加する。第2のステップでは、プレエマルションを、ペリスタルティックポンプを使用して、連続した撹拌下で油性相を水相に添加することにより調製し、次いで、高せん断インライン分散機(例えばディスパックスリアクター(Dispax Reactor)(登録商標)DR)に移す。収納容器を閉じ、窒素を流す。第3のステップでは、プレエマルションを、600バール、約50℃の温度、N雰囲気下で、高圧ホモジナイザーに数回通過させることにより均質化する。
【0106】
エマルションを、次いで、Milli-Q水を用いて必要とされる容積(2L)に調節し、およそ18~28℃、好ましくは20℃~25℃の温度に冷却する。pHを、0.1N NaOHを用いて、7.8~8.8、好ましくは約8.3~8.8の範囲に調節する。エマルションを、4.5μmフィルターを用いて濾過し、100mLバッグに移し、次いでその100mLバッグを、後の使用のために、酸素吸収剤/指示薬を利用して、オーバーパウチに入れた(overpouched)。脂質エマルションを、次いで、121℃で高圧蒸気滅菌し、少なくとも15分のF0を達成する。
【0107】
【表1】
【0108】
さらなる試験では、上に記載されているものによるLE脂質エマルションを使用した。しかし、それぞれの実験で示されているように、フィトステロールの含有量は減少した。フィトステロールが枯渇したLE脂質エマルションを、ビタミンEを用いる試験のために、脂質エマルションの40μg/mlの濃度で補充し、表IIを参照されたい。さらに、DHAは、脂質エマルションに約2~3g/Lの最終濃度で含有された。ARAは、脂質エマルションに約5~6g/Lの最終濃度で含有された。GPCの濃度は、ここではステップ番号2(40mmol/L)と比較してわずかに高かったが、用量は、表Iに示されているように、0.77mmol/kg/dに維持された。GPCを一緒に伴う製剤のDHAとARAとの相乗効果も考慮したこの試験設定を、本明細書において「ステップ番号3」と名付けた。
【0109】
【表2】
【0110】
実施例2:アミノトランスフェラーゼ(ALT)発現
GPCの、実施例1において記載されているように試験された動物の肝臓の状態に対する効果を評価するために、ステップ番号2及びステップ番号3設定の両方において、試験された動物の血漿のアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性を、5及び17日間の非経口栄養の後に試験した。前に記載されているように、肝損傷(胆汁うっ滞)は、増大したアミノトランスフェラーゼレベルにより決定することができる。ALT活性を、前に記載されているような標準プロトコールにより、ADVIA 1800血液生化学分析装置/IFCC改良(Siemens)を用いて決定した。
【0111】
実験の結果を概説するために、図1は、試験されたラットにおけるALT活性の発現を示す。図2で見られるように、LE 10%を用いた17日にわたる非経口栄養に際し、ALT活性の予期された増大が存在する。比較して、脂質エマルションにコリン供給源が存在する試験群においては、ALT活性は増大しない。しかし、効果は、GPCの存在下で最も顕著であり、ALT活性の明白な下落が決定され得る。対照的に、塩化コリン及びCDP-コリンはむしろ、ALT活性が有意に増大も低減もしない安定な状況をもたらす。とりわけ、LE脂質エマルション(複数可)に含有されるホスファチジルコリンは、いかなる効果も有しないようであり、コリンが、脂質エマルションにホスファチジルコリンの形態で供給されたコリンを利用することができないことを確認するものである。
【0112】
GPCを、ALT活性及びよって肝損傷の減少について非常に有効なコリン誘導体として特定した後、別の実験では、GPCとPUFAであるDHA及びARAとの相乗効果に焦点を当てた
【0113】
図2は、正常値の活性における変化の観点からの、ALT活性についての結果を概説する。本試験は、脂質エマルションのフィトステロール含有量が、ステップ番号3設定により図2に示されているように低減された組成物を用いた1つの実験を含む。結果は、生理食塩水、並びにコリン供給源及び正常のフィトステロール含有量を有しない脂質エマルション(「LE」)の両方は、ALT活性の増大をもたらし、肝臓の進行性の悪化を証拠づけることをも実証している。対照的に、フィトステロール含有量に関わらずGPC(40mmol/L)を有する脂質エマルションの両方は、ALT活性の有意な低減をもたらす。フィトステロール用量を図2に示す。フィトステロールは、LE 13%脂質エマルションに、40μg/mL~120μg/Lの濃度で含有された。とりわけ、ここで使用された脂質エマルション(複数可)に含有されるホスファチジルコリンは、いかなる効果も有しないようであり、身体が、脂質エマルションにホスファチジルコリンの形態で供給されたコリンを利用することができないことを確認するものである。
【0114】
実施例3:病理組織学的グレードの決定
実施例3.1:組織学的スライドの調製
肝臓の一部を緩衝ホルマリン中で保存し、注入部位及び試料採取された肉眼病変を、該当する場合はRITAガイドラインによって整え(Ruehl-Fehlertら、Exp Toxic Pathol 2003年;55巻、91~106頁)、パラフィンワックスに包埋し、およそ4ミクロンの厚さに切片を作製し、ヘマトキシリン-エオシンで染色した。凍結肝臓試料を、およそ5ミクロンのスライドに凍結切片を作製し、オイルレッドOにより染色した。組織の処理を、Citoxlab、Franceで実施した。
【0115】
実施例3.2:顕微鏡検査
顕微鏡検査を、試験のすべての動物由来の、肝臓の両方のスライド(ヘマトキシリンエオシン及びオイルレッドO)、注入部位及び肉眼病変に対して実施した。ピアレビューを、高用量群からの動物の少なくとも30%に対して、及び特定された標的器官由来の十分な数のスライドに対して実施し、試験の病理医により記録された所見が一定且つ正確であることを確認した。病理学的ピアレビューの完了後、すべての組織スライドを、完了させるためにCitoxlab Franceに返却した。顕微鏡検査中、代表的な写真を、病理医の裁量で作製した。
【0116】
実施例3.3:平均の組織学的空胞形成
8及び15日後に採取した肝臓試料をそれぞれ、上記のように検査し、肝細胞の空胞形成の5つのグレードへと割り当てた。空胞形成は、グレード5について、一般的にびまん性であり、すべての領域に発症する。より低いグレードについては、門脈周囲の領域では発症しにくく、空胞は、サイズがより小さい。グレードは、以下の定義により割り当てた:
グレード1=最小/極めて少ない/非常に小さな空胞が点在。
グレード2=僅か/少ない/小さな空胞、小葉中心性~中間帯。
グレード3=中等度/中等度の数/中等度のサイズの空胞、小葉中心性~中間帯。
グレード4=明白な/多数/巨大な空胞、小葉中心性~門脈周囲。
グレード5=重度/多数/巨大な空胞、びまん性、すべての肝臓領域に発症。
【0117】
各グレードについての例示的な写真を、図5に示す。示された組織学的スライドは、ヘマトキシリン-エオシン(HE)で染色される。
【0118】
8日後、生理食塩水の投与の結果、4匹の動物中4匹が、グレード5による空胞形成の観点からの肝損傷の徴候を示す(表IIIを参照されたい)。DHA及びARAの存在下でのLE 13%を用いた非経口栄養は、既に肝臓の病理組織学に対して良好な効果を生じている。5匹の動物の中から、2匹がグレード5の空胞形成をなお示す。しかし、5匹の動物のうち3匹の肝臓は、グレード4に割り当てることができる。DHA及びARAに加えたGPCの存在下では、肝臓の空胞形成は、さらにより改善される。5匹の動物のうち1匹のみが肝損傷のグレード5の徴候を示し、一方で別の2匹のラットはグレード4の症状を示し、2匹はグレード3の症状を示す。最終的に、GPCのみを脂質エマルションに添加する場合、5匹のラットのうち、肝臓のグレード5の損傷を示すものはいない。3匹がグレード4を示し、1匹がグレード3を示し、1匹はさらにグレード2の空胞形成を示す。
【0119】
【表3】
【0120】
非経口栄養を開始して15日後、上記の効果はさらにより顕著であった。生理食塩水を投与された動物の肝臓の状態は、予期され得るように依然として重度であった一方、脂質エマルション中のGPCの存在、並びにDHA、ARA及びGPCのすべての存在は、動物の肝臓の状態の、明白且つ有意な改善をもたらす。15日後、GPCに加えてある特定の濃度範囲内のDHA及びARAが存在することが、相乗的に改善された結果をさらにもたらすことも明らかとなる。図3Bは、DHA、ARA及びGPCの、上で定義されたグレードの観点からの、肝臓の空胞形成の発症に対する効果を概説する。グラフは、すべてのDHA、ARA及びGPCの存在下で、肝臓の状態の有意な改善を示し、GPCは、脂質エマルション中、既に有益なDHA及びARAの存在下で、さらなる驚くべき影響を有するようである。
【0121】
コリン誘導体単独の、すなわちDHA及びARAの非存在下での効果を比較するために、同じ病理組織学試験を実施した。図3Aは、動物試験群の肝臓の病理組織学検査の結果を概説する。GPCの効果は、高(31mmol/L)及び低(15mmol/L)GPC濃度の両方において、有意により良好である。CDP-コリン(低濃度、15mmol/L)も、効果を有した。高濃度(31mmol/L)のCDP-コリン群に割り当てることのできたグレードは存在しなかった。塩化コリンを脂質エマルションの一部として投与された(高及び低濃度)群は、生理食塩水のみ又はいかなるコリン誘導体も有しない脂質エマルションを用いたものよりも優れていた。しかし、前記塩化コリンを補充した脂質エマルションでは、適切な程度まで肝損傷に対処することができなかった。
【0122】
【表4】
【0123】
実施例4:体重に対する肝臓の発達
実施例1において記載されているような試験群を、体重に対する肝臓の重量の発達に関してさらに評価した。体重の増大と比例しない肝臓の重量の増大は、肝損傷、詳細には前に記載されているような脂肪症の発症について典型的である。図4は、さらに、生理食塩水のみ、LE 10%、及びコリン誘導体を前に記載されているような濃度(「高」:31mmol/L)で添加された同じ脂質エマルションを投与された動物の群について、パーセント単位での肝臓対体重比についての結果を示す。見られるように、脂質エマルション単独の投与は、前記比の増大をもたらし、肝損傷(脂肪症)に起因する肝臓の重量の増加を示す。塩化コリン又はCDP-コリンの添加は、両方とも、比の低減をもたらし、よって、肝臓の状態の改善をもたらす。しかし、比の最も顕著な低減は、再び、GPCで達成される。また、脂質エマルション(複数可)に含有されるホスファチジルコリンは、いかなる効果も有しないようである。
【0124】
実施例5:コリン誘導体の存在下での脂質エマルションの安定性
コリン誘導体の肝損傷への対処における有効性を調査することに加えて、実施例1において記載されているように調製された脂質エマルションを、滅菌後の脂質エマルションのそれぞれの安定性についてさらに評価した(表を参照されたい)。脂質エマルションの安定性は、塩化コリン又はCDP-コリンと比較して、GPCの存在下で改善されることが見出された。事実、塩化コリン及びCDP-コリンは、滅菌(加熱)中、脂質エマルションを不安定化することが見出された。塩化コリン又はCDP-コリンのいずれかを含有する脂質エマルションは、滅菌中、脂質エマルションの相の分離をもたらした。GPCの存在下では、脂質エマルションは依然として安定であった。
【0125】
【表5】

図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E