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特許7439119外科手術後の、特にヘルニア修復における癒着を予防するための、生体分解性の二層マトリックス
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  • 特許-外科手術後の、特にヘルニア修復における癒着を予防するための、生体分解性の二層マトリックス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】外科手術後の、特にヘルニア修復における癒着を予防するための、生体分解性の二層マトリックス
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/06 20060101AFI20240219BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20240219BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20240219BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20240219BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
A61L31/06
A61L31/10
A61L31/12 100
A61L31/14 400
A61L31/14 500
A61L31/04 120
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021552162
(86)(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-27
(86)【国際出願番号】 EP2020055510
(87)【国際公開番号】W WO2020178271
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】19160449.5
(32)【優先日】2019-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515348611
【氏名又は名称】ハンス ウー.ベーア
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】ハンス ウルリヒ ベーア
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-510523(JP,A)
【文献】特表2009-506861(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10353930(DE,A1)
【文献】特表2016-521614(JP,A)
【文献】特表2018-526090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の体内で、外科手術後の、癒着を予防するための生分解性マトリックス(14)であって、前記マトリックスは、
主成分としてポリ(乳酸)及び任意にポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸-グリコール酸)及びそれらの混合物の群より選択される少なくとも一つのさらなるポリマーを含む第一の生体適合性ポリマー材料で作られている上層(16);並びに
ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(乳酸-グリコール酸)及びそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも一つのポリマーを主成分として含んでいる第二の生分解性ポリマー材料で作られている下層(18);を含み、
ここで、前記第一のポリマー材料におけるポリ(乳酸)の含量は、前記第二のポリマーよりも高く;
両層(16、18)は、異なる大きさの相互に連結される孔を有するスポンジ状の構造を含んでいる、多孔質の足場として形成され、
前記上層(16)が親水性であって、75°未満の水接触角を有し、かつ
前記下層(18)が疎水性であって、90°より大きい水接触角を有する、生分解性マトリックス。
【請求項2】
前記上層(16)が60°未満の水接触角を有する、請求項1に記載のマトリックス。
【請求項3】
前記二層(16、18)が、共通の界面20に沿って一体的に形成されるか又はお互いに堅く連結されるかのいずれかである、請求項1又は2に記載のマトリックス。
【請求項4】
前記二層(16、18)が、お互いから離れている二つの個々の構造として提供される、請求項1又は2に記載のマトリックス。
【請求項5】
前記第一のポリマー材料が、少なくとも70%のポリ(乳酸)からなる請求項1~4のいずれか一項に記載のマトリックス。
【請求項6】
少なくとも一つの前記二層(16、18)が、平板状の形状を有し、かつ弾力的に変形可能でありその折りたたみ又は回転を可能にする、請求項1~5のいずれか一項に記載のマトリックス。
【請求項7】
6か月未満の分解時間を有する前記上層、及び4カ月より長い分解時間を有する前記下層によって、24カ月未満の生体内の総分解時間を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のマトリックス。
【請求項8】
前記二層(16、18)の1つが、他の層よりもより速い分解速度を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のマトリックス。
【請求項9】
前記上層(16)が、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、フィブリノゲン、アルブミン、キチン、キトサン、アガロース、ヒアルロン酸アルギン酸塩(hyaluronic acidalginate)及びそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも一つの天然のポリマーを含み又は少なくとも一つの天然のポリマーによって覆われる、請求項1~8のいずれか一項に記載のマトリックス。
【請求項10】
a)塩微粒子と主成分としてのポリ(乳酸)及び任意にポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸-グリコール酸)及びそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも一つのさらなるポリマーを含む溶解した第一のポリマー材料との第一の混合物Iを調製すること;
b)第一の層を形成する表面上の前記第一の混合物Iを分離すること;
c)塩微粒子とポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(乳酸-グリコール酸)及びそれらの混合物からなる群より選択した少なくとも一つのポリマーを含む溶解した第二のポリマー材料との第二の混合物IIを調製することであって、
ここで、前記第一のポリマー材料におけるポリ(乳酸)の前記含量は、前記第二のポリマー材料よりもより高く;
d)ステップb)の前記第一の層の上にステップc)の前記第二の混合物IIの層を沈着すること;
e)前記結果として生じる構造物を乾燥し、第二のポリマー材料の下層(18)及び第一のポリマー材料の上層(16)を有する二層の生分解性マトリックス(14)を入手し、そして
f)50℃未満の温度で、酸化性ガスプラズマによる、前記マトリックス(14)のプラズマ処理;
によって、請求項1~9のいずれか一項に記載のマトリックスを調製する方法。
【請求項11】
前記第一のポリマー材料が少なくとも70%のポリ(乳酸)からなる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記プラズマ処理が、2~30分間、及び10-2から10-6barの範囲内の圧力で行われる、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、フィブリノゲン、アルブミン、キチン、キトサン、アガロース、ヒアルロン酸アルギン酸塩(hyaluronic acidalginate)、及びそれらの混合物の群より選択される天然のポリマーを有するステップd)において入手した前記マトリックス(14)の前記上層(16)を覆うことのステップをさらに含んでいる、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記結果として生じるマトリックス(14)を、50℃未満の温度で過酸化水素によってそれを処理することによって、滅菌することのステップg)をさらに含む、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ステップg)における前記過酸化水素処理が、前記マトリックス(14)を、減圧下、かつ少なくとも2分間Hプラズマ又はHを含んでいる雰囲気に曝露することによって行われる、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に請求されるように、哺乳動物の体内において、外科手術後の、特に腹部手術における軟組織の修復後における、例えば、ヘルニアの修復における、癒着を予防するための、生物分解性の二層マトリックスに関する。さらに、本発明は、請求項10に定義されるように、生分解性マトリックスを調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組織への任意の外傷はたいてい続いて治癒され、それは、コラーゲン性の瘢痕組織の形成を通常伴う。様々な細胞、細胞外マトリックス及び結合組織からなる生物組織への任意の物理学的、化学的、又は放射線の外傷は、これらの細胞及び構造体の死に繋がる。損傷した組織の治癒工程は、また、炎症プロセスにおいて見られる様々なステップを含む。具体的に、損傷治癒における第一のステップは、壊死組織、死細胞及びデブリの除去を含む。第二のステップにおいて、その除去した組織は、とりわけ瘢痕組織の形成に繋がるその様々な形態におけるコラーゲンの産生の原因となる炎症性細胞及び線維芽細胞に置換される。この瘢痕形成は、軟組織欠損の閉鎖が所望される。しかしながら、組織損傷がお互いに近接している二以上の組織で生じる場合に、またその瘢痕化プロセスは、元々離れた組織の所望されない結合の形成に繋がりうる。この結合は一般的に癒着形成として称される。
【0003】
外科手技において、多数の組織外傷はたいてい前もって生じ、かつ/又は手術部位に到達する外科医によって作られる切開によって生じる。その結果、組織及び/又は器官の間の外科手術後の癒着は、任意の型の外科手術後に生じる最も一般的な合併症の一つである。出血多量及び/又は炎症のような事象、又は組織間の密接な接触は、実質的に、外傷部位での癒着形成の可能性を増大する。そのような癒着によってもたらされた患者についてその結果は、往々にして慢性痛及び機能障害であり、そして多くの場合において、再手術を必要とするだろう。
【0004】
癒着は様々な形態及び強度において生じうる。腹部手術の分野において、癒着形成は特別な懸念事項である。腹部領域の癒着は、往々にして、腹部外傷の結果であり、それは自動車衝突事故において一般的であって、又はそれらは外科手術によってもたらされる。後者のケースに関しては、腹壁を全ての腹壁層及び腹膜を通じて開腹しなけれなければならない外科手術又は介入手順で、腹腔内癒着が往々にして生じることが分かった。切開の縫合後、瘢痕化プロセスは、全ての腹壁層、また特にその切開に沿った腹膜の領域において含んでいる。結果として、その腹部内の生理学的な治癒プロセスは、腹膜の組織と隣接する腹腔内器官との間に癒着をもたらす傾向がある。そのような癒着は、幅広のバンドを形成する高密度の癒着の形態において又は腹腔全体を横断しうる数ミリメートルの直径を有する強く、張り詰めた糸のように生じることを示した。腹腔癒着の極端な形態は、その腹部の領域全体を覆うようにさえ見られ、それは、例えば小腸ループと腹膜との間の剥離が不可能になり、そして手術中に小腸ループ又は大腸ループに穴が開くことに往々として繋がる。
【0005】
一般的に所望されないが、手術後の癒着の発生は外科的なヘルニア修復において特に懸念される。ヘルニアは、腔壁をつき破っている器官又は組織の異常な置換として定義される状態である。ヘルニアは様々な場所において生じうるが、最も一般的には、それらは腹部、具体的には、その最も一般的な部位が鼠径部である腹壁を含む。鼠径ヘルニアは主に鼠径の型であるが、また大腿部の型でありうる。腹部ヘルニアは、腹壁の弱い場所における特定の部位、例えば裂孔、臍部、臍周囲、又はスピーゲルヘルニアで起こるが、それらは実際には腹壁内のどこでも起こりうる。特定の型は切開性のヘルニアであり、それは、外科切開後又は介入操作後の領域において生じる切開を伴うヘルニアである。
【0006】
伝統的に、ヘルニアは開腹ヘルニア形成術及び縫合によって修復されると考えられる。ヘルニア手術後数カ月の間に、その修復した部位は徐々に瘢痕組織を集めると考えられ、そのヘルニアの欠損が閉鎖し、そして補強されるようになる。
【0007】
不幸なことに、瘢痕組織形成のプロセスが、ある患者において障害されることを示し、ヘルニア修復後にさらなるヘルニアの形成、すなわち、いわゆるヘルニアのrelapse又はrecurrenceをもたらす。それゆえ、特により大きなヘルニアの修復について、又はヘルニアのrelapseの場合において、今日では一般的にメッシュの移植を腹壁の再構成及び補強のために用いている。今日では、外科的な軟組織修復において用いられるその商用利用可能なメッシュは、非分解性か、又はそれらが十分に分解可能であって、かつある一定の時間の経過後、患者の体内に吸収されるかのいずれかである。(「生物学的な」メッシュとして往々にして称される)十分に分解可能なメッシュは、それらが癒着形成を予防することを期待されて開発された。
【0008】
不幸なことに、一方では、先の軟組織欠損の修復した領域への追加の安定性を提供することに役立ち、非分解性及びまた分解可能なメッシュの両方は手術後の癒着をもたらすことを示した。特に、いわゆる「IPOM」、すなわち、「腹腔内・腹膜前のlay mesh(intra-abdominal pre-peritoneal on lay meshes)」の場合に、腹壁内の欠損を覆うために用いられ、所望されない炎症若しくは繊維バンドの形成又はメッシュに連結するコラーゲン性の瘢痕及び腹腔内構造体は、再発の痛み及び小腸又は大腸の障害の原因であることを示した。その後者の診断が間に合わない場合に、より大きい外科的及び高リスクな手術を一般的に必然的に伴う、腸梗塞をもたらしうる。その理由のために、腹部のヘルニア修復の場合に、手術後の癒着の形成は、特に患者の健康に寄与しうる。
【0009】
手術後の癒着の形成を予防する又は少なくとも最小限に抑えるために、損傷した組織を単離し、そして生体適合性材料を有する任意の近接する組織からそれを分離する試みがなされた。結果として、癒着障壁は開発され、今日では、その切開部位を閉鎖する前に、身体の膜、織物、ゲル又は手術の最後に組織の層の間に適用される他の材料の形態において利用可能である。一方で適所に、その癒着障壁が身体の膜として作用し、傷ついた組織表面を分離し、治癒表面間のフィブリン形成が妨げられる。外科手術における使用のための商用利用可能な癒着障壁の例は、例えば以下の例を含む:
-Preclude(登録商標)は、多孔質のePTFE(またGoreTexとも呼ばれる、拡張したポリテトラフルオロエチレン)の薄いシートである。それは、生体適合性かつ非炎症性である、非粘着性の、微孔質の挿入物を提供する。しかしながら、それは非吸収性かつ非分解性であるので、それを取り除く後の手術を必要とする。また、それは適所に縫合されなければならない。この理由のために、米国において癒着防止のために適用されていなかった。
-(Genzymeにより作製されている)Seprafilm(登録商標)は透明で、ヒアルロン酸ナトリウム及びカルボキシメチルセルロース(CMC)で構成されている粘着性のフィルムである。それは、適用された組織に接着し、7日間かけてゆっくりと体内に吸収される。ある型の骨盤の又は腹部の手術における使用に適用されている。
-(Johnson & Johnsonにより作製されている)Interceed(登録商標)は、膨張し、かつ最終的には損傷した部位に設置された後にゲルになる修飾したセルロースで構成されるニットの織物であり、そして、Seprafilm(登録商標)のように、障壁を形成し、そして続いて数日間かけてゆっくりと吸収される。それは骨盤手術における使用に適用されている。
【0010】
しかしながら、これらの現在利用可能な抗癒着障壁のほとんどは、癒着形成を完全には予防しない。この場合において、治癒している腹壁とその下層の腹腔内器官との間の組織を連結することの形成を予防するために十分ではなく、腹壁内のギャップが安全に閉鎖されるように、ヘルニアの領域内の近接する組織からの十分な組織成長を保証することが少なくとも重要である。特に、生分解性の(一時的な)メッシュ又は足場を用いてヘルニアを閉鎖する場合に、繊維化及び瘢痕化形成、すなわち創傷治癒に含まれるプロセスを誘導し、再発のヘルニア形成を予防する安定的な瘢痕プレートを形成することが必須である。それゆえ、ヘルニアの修復を成功させるには、癒着を起こさずに、その軟部組織の欠損を閉鎖するためにフィブリノゲン生成及び橋渡しする組織の形成を誘導する手段が必須である。
【発明の概要】
【0011】
本発明により解決される問題は、それゆえ、迅速に、安全にかつ安定的に軟組織欠損、特にヘルニア欠損の閉鎖を可能にする、生分解性マトリックスを提供することであり、一方で癒着の形成を減らすことである。同時に、そのマトリックスは容易にかつ安価に製造すべきであり、かつ慣習の開腹及び腹腔鏡による手術方法においてその使用を可能にすべきである。
【0012】
この問題は、請求項1に従うマトリックスによって解決される。好ましい態様は従属項の対象である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に従うマトリックスの治療によって修復される軟組織欠損、特にヘルニアを通じる切開の概要図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に従って、哺乳動物の体内において、外科の軟組織修復における、手術後の、特に腹部の手術後の癒着を予防するための生分解性マトリックスを提供する。より具体的に、本発明のマトリックスは、腹部の手術時に又はヘルニアのために、損傷したその腹膜又は腹壁の領域を覆うことに特に十分適合されている。
【0015】
本適用を通じて用いられるように、「マトリックス」という用語は、細胞を定着させるために適当である、三次元的な支持、例えばスポンジ状構造を有するメッシュ又は足場を意味する。具体的に、本発明のマトリックスは、異なる大きさの相互に連結される孔によるスポンジ状の構造を有する。この意味において、そのマトリックスは、細胞又は組織を定着させうる三次元テンプレートとして寄与する。この定着はin vitro又はin vivoで起こりうる。さらに、そのマトリックスは、移植に関連して、その移植したものを配置することについて、かつまたin vivoで徐々に形成される組織のプレースホルダ―として寄与する。
【0016】
「生分解性」という表現は、生体内の代謝可能な産物に変換されうる材料(又は生体組織から由来した体液又は細胞培養物)を意味する。生物学的に分解可能な材料は、例えば生体吸収型及び/又は生体侵食可能(bioerodable)であるポリマーを含む。「生体侵食可能な(bioerodable)」は、生物学的な液体内で溶解可能である又は懸濁可能である能力を示す。「生体吸収型」は、細胞、組織又は生体組織の液体に取り込まれることが可能である能力を意味する。
【0017】
本発明に従って、そのマトリックスは、主成分として(一般的に「PLA」として略される)ポリ(乳酸)を含んでいる第一の生体適合性ポリマー材料から作製される多孔質の上層及び任意に(一般的に「PGA」として略される)ポリ(グリコール酸)、(一般的に「PLGA」として略される)ポリ(乳酸-グリコール酸)及びそれらの混合物の群から選択される少なくとも一つのさらなるポリマーを含む。「主成分」という用語は、それによって第一ポリマー材料のPLA含量が第一のポリマー材料に存在しうる任意のさらなるポリマーの含量よりもより高いことを意味する。
【0018】
そのマトリックスはさらに、主成分としてポリ(乳酸)[PLA]、ポリ(グリコール酸)[PGA]、ポリ(乳酸-グリコール酸)[PLGA]及びそれらの混合物から選択される少なくとも一つのポリマーを含んでいる第二の生体適合性ポリマー材料から作成される多孔質の下層を含み、ここで第一のポリマー材料におけるポリ(乳酸)の含量は、第二のポリマー材料よりも高い。また、「それらの混合物」という用語は、それによって、命名したポリマーのコポリマーを含む。
【0019】
「生体適合性ポリマー」として、そのポリマーは生物学的に耐用性があるべきであり、かつ生体内に導入される場合に、拒絶をもたらしてはならない。また、本発明について、生体適合性ポリマーは、異物であるとして宿主により認識されるポリマーを含むが、それらの拒絶は適当な免疫抑制によって抑えられうる。
【0020】
そのマトリックスの両層は、異なる大きさの相互に連結される孔を有するスポンジ状の構造を含む多孔質の足場として形成される。これに関して、「多孔質」という用語は、孔を含む構造、すなわち空洞又はボイド領域を意味する。これらの孔は、2次元切片において円形及び/若しくは角度のある形(angular shape)並びに/又は3次元的に見た場合に斜めの形(canted shape)を有しうる。また、その孔の形は神経細胞の形と比較されうるように伸長によって特徴づけられうる。また、一般的に「孔」は、ボイド領域を含む繊維により形成されるが、本発明の意味において孔は、スポンジ状の構造において形成される空洞である。その空洞は、天然の海綿又はサンゴにおけるように、それにより壁によって含まれる。少なくともいくつかの孔又は空洞が相互に連結され、二つの近接する孔の間の孔壁は穴を含みうることを意味し、前記近接する孔の間の連結を形成する。これは織物のネット構造と対照的である。少なくともいくつかの孔は、それによって相互に連結され、空間を流体的に連結された間質性のネットワークに分割している。この方法で、細胞がそのマトリックス構造を通じて広がりうる。これに関して、上層内に形成される孔及び下層内の孔が、例えばそれらの形、大きさ及び/又は相互接続性に関して、構造的にお互いから離れうることを意味する。
【0021】
本発明の一つの重要な要素は、両層が生体分解性であり、かつ多孔質の足場の形態であり、それによってその上層が、75°未満の、好ましくは60°未満の水接触角を有する、親水性であり、かつその下層が、90°より大きい水接触角を有する、疎水性である。
【0022】
本適用の文脈中に用いられる「接触角」という用語は、表面の水の接触角、すなわち水がその表面に会合する界面で形成される角度に関する。それによって、接触角測定のために用いられる「水」は、純水、具体的には超純水に関連している。特に、その接触角測定は、0.3μL又は0.1μLの液滴サイズを有する液滴法によって(例えばKruss GmbHのEasyDrop DSA20E型の装置によって)行われる。接触角は、表面上に設置した液滴の輪郭の弓形関数(circular segment function)にフィッティングすることによって一般的に計算される(「Circle Fitting」method)。
【0023】
本発明の文脈中に用いられるように、「親水性の(hydrophilic)」又は「親水性(hydrophilicity)」という用語は、マトリックス上の表面領域の水接触角が75°未満であることを意味する。
【0024】
一方で、「疎水性の(hydrophobic)」又は「疎水性(hydrophobicity)」という用語は90°を超える水接触角を有する表面領域を有する基質として理解されるべきである。本発明のマトリックスの疎水性の下層に関して、好ましくは120°を超える水接触角を有する。疎水性の特性は、一般的には、合成ポリマー、例えばPLA;PGA及びPLGAによる課題であり、そして往々にして多くの後処理方法、例えばUV処理によって増加される。
【0025】
特に、本発明のマトリックスの上層は、上述の一般的な疎水性の生分解性合成ポリマーを含むことに関わらず、親水性である。親水性の特性は、細胞透過及び接着を促進するために重要である。
【0026】
主成分としてPLAを含んでいる第一のポリマー材料のおかげで、上層の疎水性の特性はある後処理方法によって、特に低温及び低圧プラズマ処理ステップにおいて増幅されうることが発見され、以下にさらに詳細に記載されるだろう。「プラズマ」という用語は、それによって一般的に励起し、ラジカル化したガス、すなわち電極及びイオンを含んでいる導電性のプロセスガスを意味する。プラズマは一般的に、真空槽内で電極によって発生されるが(いわゆる「RFプラズマ法」)、また容量性(capacitive)若しくは誘導性(inductive)の方法、又はマイクロ波放射を用いて発生されうる。この観点においてさらなる詳細は、以下の実験的なセクションにさらに示される。
【0027】
本発明のマトリックスは多数の有利な効果を提供する:一方でそのマトリックスの上層の親水性の特性は、例えば、隣接する組織からの腹膜細胞、平滑筋細胞及び線維芽細胞を、ヘルニア内のような閉鎖された損傷への内部成長を促進し、かつ上層上の及び上層を通じる細胞分布すら可能にすることが分かった。加えて、その上層の多孔質の性質は、細胞外マトリックス組織及び様々な型のコラーゲン繊維を構成することに役立つ細胞のための成長を刺激する環境を提供し、それによって組織欠損を閉鎖する瘢痕プレートを形成する。第一に、その瘢痕プレートを成長することは、分解可能(かつそれゆえ一時的)なマトリックスと組織欠損の周縁との間の堅い結合を確立するだろう。ヘルニアの場合に、その瘢痕プレートを形成し、マトリックスを通じて腹壁内のギャップを閉鎖するだろう。時間と共に、一方でそのマトリックスの分解が継続しつつ、新たに形成した瘢痕組織が、追加の瘢痕形成を作ることによって段々と必要な支持機能を引き継ぎ、それによってその創傷の再開又はヘルニア形成の再発を予防するだろう。
【0028】
その一方で、マトリックスの下層の疎水性の特性が、効率的に最も多くの細胞型、特に炎症タンパク質、又は親水性の液体のマトリックスの下層への付着を妨げ、不必要な組織癒着形成を予防することが分かった。具体的に、腹部のヘルニア修復において試験される場合に、本発明のマトリックスの下層の疎水性の特性は、マトリックス内への腹膜の又は他の体の液体の浸潤をうまく妨げ、かつヘルニア修復とその腹部内の構造物、特に小腸との間の所望されない組織癒着形成を最小限に抑えた。
【0029】
要約すれば、本発明のマトリックスは、軟組織欠損、例えば腹部ヘルニアの一時的な閉鎖を提供し、かつ以下の利点を有する:
-一方で、ヘルニアに面する多孔質の親水性の上層は細胞、例えば筋細胞及び線維芽細胞の内部成長及び増殖を促進し、そのマトリックスの支持機能を継続的に減少することを引き継ぐ新たな瘢痕組織を形成するだろう。最後には、そのマトリックスが完全に分解した後に(すなわち、そのマトリックスのポリマー成分が吸収された際に)、永久的な異物材料は患者の体内に残存しないだろう。
-一方でマトリックス下層の疎水性の特性は、腹腔側の(すなわち、ヘルニアから離れかつ腹腔に面するマトリックス側の)マトリックスへの炎症性細胞フィブリン又はデブリの付着を防止し、炎症の発生及びマトリックス又は新たに形成した瘢痕プレートと下部の腹部組織との間の癒着組織増殖の形成が避けられる。
【0030】
ヘルニア修復に特に有用であるが、本発明のマトリックスは、一般的な手術介入後の治癒プロセスを補助することに用いられうる。例えば、腹部手術が実施されかつ腹腔内の炎症が存在する場合に、損傷の大きさに関係なく、例えば最小限の侵襲的アプローチにおいて小切開のみが行われた場合ですら、炎症を起こした腹腔内組織と手術部位へのアクセスを断たれた下部の組織との間に障壁を提供することが重要である。
【0031】
本発明のマトリックスの別の利点は両層が多孔質であり、薬理学的に活性な物質、例えば、上皮成長因子、血小板由来成長因子、形質転換成長因子β、血管新生因子、抗生物質、抗真菌剤、殺精子剤、ホルモン、酵素、及び/又は酵素阻害剤を、その両層、好ましくは上層内に取り込ませることを選択することを提供し、これらの物質を上層領域内及び近接する、創傷部位に送達し、かつコラーゲンIV型及びV型、フィブロネクチン、ラミニン、ヒアルロン酸及びプロテオグリカンのような細胞増殖に正に作用させる。
【0032】
上層を通じて細胞接着及び成長を促進するために、上層の全体の足場構造が親水性の表面、すなわち75°未満の水接触角を有する表面を有することが好ましい。そのような親水性の特性は、そのマトリックスを50℃未満の温度で、好ましくは10-2~10-6barの範囲内の、好ましくは0.1~1.0mbarの範囲内の、低圧でプラズマ処理にかけることによってもたらされている。
【0033】
親水性を増加することが改善した細胞接着及び増殖に相互に関係があることを証明したので、そのマトリックスの上層は好ましくは、60°未満の、より好ましくは45°未満の、そしてさらにより好ましくは25°未満の水接触角を有する。最も好ましくは、マトリックスの上層の親水性表面の水接触角は、0°~10°の範囲内であり、その上層は「超-親水性」であることを意味する。
【0034】
上層及び下層は、一つの全体構造として提供されうる。すなわちここで、その二層は多数の場所でお互いに一体化して形成されるか又は堅く連結される。また一方で、その二層は、お互いから分離する二つの個々の構造として提供されうる。一つの例は、上層及び下層が両方ともシート状の形において提供され、かつ単に緩やかにお互いの上部に積み重なっていることであるだろう。
【0035】
特定の好ましい態様において、その二層の材料の組成物は互いに異なる。その差異はポリマー型及び/又はポリマー材料の特定ポリマーの含量に関するいずれかでありうる。例えば、両層は、同じ型のポリマーからなりうるが、異なるポリマー比率を有する。一方で、その上層及びその下層は、ポリマー材料において存在するポリマーの型に関して異なりうる。
【0036】
一の好ましい態様において、上層の第一のポリマー材料は少なくとも70%のPLからなる。(注目すべきことに、「PLA」という用語は、PLAの全てのキラル型、すなわち、PLLA、PDLA及びそれらの混合物(コポリマー)を含む)。これは、その上層がPLAにより完全に形成されうること、又は70%以上のPLA及び30%以下の少なくとも一つの追加の異なるポリマー、例えばPLGからなることを意味する。少なくとも一つの追加のポリマーが存在する場合に、そのPLA及び他のポリマーはコポリマーを形成しうるか、又はその上層は二つの分かれた成分、例えばPLA基礎構造及び他のポリマーのコーティングとして提供されうる。PLAは、良好な張力強度及び高い(水準の)モジュールを有すると見られた。加えて、PLAが親水性の特性をもたらしかつ維持することに関して有利であることを発見した。より具体的には、高いPLA含量を有する材料より作られる多孔質の構造について、例えば第一のポリマーが少なくとも70%のPLAからなる場合に、その表面の親水性が本明細書に記載されるようなプラズマ処理によって有意に増強されるだけでなく、その親水性も延長した時間にわたって維持されうることが分かった。また実際に、その親水性は、(また以下にさらに記載されるように)過酸化水素によってマトリックスを滅菌した後に維持されうる。親水性の特性のおかげで、その上層はマトリックスへの細胞接着及びマトリックス内の内部増殖を促進する。
【0037】
しかしながら、純粋なPLAは、安定性に欠ける欠点を有し、すなわち、例えばPGAよりもより低い歪み耐性を有する。それにもかかわらず、その下層がそのマトリックスへ追加の安定性を提供するために用いられうるので、またその上層は本質的にPLAからなりうる。好ましいPLA材料の特別な例は、85,000~160,000Daの分子量を有する、Sigma Corporationから商用利用可能であるポリ(L-ラクチド)(PLLAカタログ番号P1566)である。適当な代替品はDurect CorporationからのPLLA(Lactel(登録商標)カタログ番号B6002-2)である。
【0038】
述べられるように、その上層のポリマー材料はPLAに基づきうるが、一以上の他のポリマーと組み合わされ、その上層のさらなる安定性を増大する。一の好ましい追加のポリマーはPGAである。PLA及びPGAのコポリマーは、いわゆる(PLGA又はPLGと略される)「乳酸-グリコール酸共重合体」であり、十分定義された物理学的特性を有する異なるPLA/PGA比率において購入されうる。PLAとPGAとのコポリマー比率を変化することにより、PGLAの異なるコポリマーは、幅広いスペクトルの柔軟性及び数日から数年までの変化可能な分解速度を提供する。
【0039】
好ましい態様において、そのマトリックスの下層の第二のポリマー材料は好ましくは、乳酸-グリコール酸共重合体[PLGA]からなる。一般的に、PLGA組成物中のPFAの割合が多くなればなるほど、そのポリマーの安定性は高くなる。また、上層の親水性を増やすために用いられるプラズマ処理の後でさえも、第二のポリマー材料中のPGA含量がより高くなればなるほど、下層の疎水性は高くなる。再度、その下層は、一般的にそのマトリックスへの追加の安定性を提供し、それゆえその上層は親水性、細胞フレンドリーな環境を提供し、上層上の及び上層内の細胞の生存率を高めかつ増殖速度を速める。そのように、その下層の第二のポリマー材料は、(その上層の第一のポリマー材料が、その下層の第二のポリマー材料よりもより高いPLA含量を有するので、)一般的にその上層の第一のポリマー材料よりもより高いPGA含量を有するだろう。
【0040】
一の態様において、両層は、PLGAからなるが、PLAとPGAとの異なる比率を有する。上層の好ましいポリマー材料は、ポリ(L-乳酸)(PLLA)とPGAとを85:15で含む混合物であり、すなわち、約85モル%の乳酸(PLA)含量及び約15モル%のグリコール酸(PGA)を有するポリマー混合物である。そのような85:15の混合物は、例えば、RESOMER(登録商標)RG 853又はLACTEL(登録商標)Absorbable Polymersの商品名でEvonik Industries AG(Essen,Germany)又はDurect company(Cupertino,CA,USA)より購入されうる。(D、L-)乳酸-グリコール酸共重合体の下層は、PLLAとPLGとの50:50の混合物、例えばRESOMER(登録商標)RG 502でありうる。上層及び/又は下層についてさらなる好ましいポリマー混合物は65:35の(D、L-)乳酸-グリコール酸共重合体、例えばRESOMER(登録商標)RG 653;75:25の(D、L-)乳酸-グリコール酸共重合体、例えばRESOMER(登録商標)RG 752である((D、L-)乳酸-グリコール酸共重合体は、第一のポリマー材料のPLA含量が第二のポリマー材料のPLA含量よりもより高いようにいつも選択される)。
【0041】
上述の合成ポリマーから多孔質のメッシュを調製するための調製方法は、当該技術分野で周知である。一つの可能性は、例えばEP2256155に記載されるように、塩浸出技術(salt-leaching technique)の使用である。
【0042】
上層が、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、フィブリノゲン、アルブミン、キチン、キトサン、アガロース、ヒアルロン酸アルギン酸塩(hyaluronic acidalginate)、及びそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも一つの天然のポリマーを含むか、又は少なくとも部分的に覆うことが好ましく、ここでコラーゲンが好ましい。その天然のポリマーは追加の安定性、親水性を有し、かつ細胞増殖を促進する上層を提供する。好ましくは、その上層の多孔質の足場は、上層の下部の多孔質の構造がそのコーティングによって変化しないように、天然のポリマーによってコートされるか又は覆われる。より具体的には、上層の追加の三次元構造なく、天然のポリマーはスポンジ状の構造の表面を覆うことが好ましい。これは、そのコーティングが、そのマトリックスの上層内に浸透し、かつ広がる細胞の能力に負の影響を及ぼさないことを保証する。
【0043】
特定の好ましい態様において、下層の第二のポリマー材料は、PLGA又はPGAから本質的になり、そしてマトリックスの上層の第一のポリマー材料はPLA単体から本質的になる(前段落において述べられた一つから選択される天然のポリマーにより覆われる)。述べられた天然ポリマーのうち、コラーゲンが最も好ましい。これはコラーゲンが細胞外マトリックス(ECM)の生体分子であり、そして皮膚及び骨の主成分であるからである。そのナノ繊維の構造物のおかげで、組織培養における細胞接着、成長及び分化した機能を促進することにおいて特に効果的である。しかしながら、また、第一のポリマー材料におけるコラーゲンの存在が、マトリックスの上層の親水性の特性を特に促進することが分かっている。
【0044】
注目すべきことに、本発明の文脈中で用いられるように「コラーゲン」という用語は、天然由来のコラーゲン及び合成的に産生したコラーゲン並びに物質由来のコラーゲン、例えばコラーゲンの加水分化した型である、ゼラチンを含む。また、「コラーゲン」という用語は、さらに全ての型のコラーゲンを含む。例えば、その天然のポリマーは、I型のような、一つのみの特定の型のコラーゲンを含むことができ、又はI型コラーゲン及びIV型コラーゲンの混合物のように混合のコラーゲン型を含みうる。後者の場合において、適当な平均重量パーセントのタンパク質を含む混合物の性能を示した。天然の血管の主な成分の一つであり、かつ細胞接着部位及び引張強度を有する二次構造を提供するので、I型コラーゲンが最も好ましい。加えて、天然の血管の主成分の一つであり、かつ創傷治癒プロセスに含まれる細胞のための天然の接着部位を提供する。最後になるが、また、IからIII型のコラーゲンの分解産物は、外科手術の軟組織修復における本発明のマトリックスの意図した使用について特に都合が良いヒト線維芽細胞の走化性誘因を誘導することが示されている。
【0045】
好ましい態様において、上層及び下層の少なくとも一つ、好ましくは両層は、平面シート状の形状を有し、かつ弾力的に変形可能であり、その折りたたみ又は回転を可能にする。特に、その全てのマトリックスが折りたたまれうる又は回転されうるように、弾力的に変形可能であることが好ましく、かつそれはその元々の形状に戻りうる。これは、腹腔鏡手術におけるトロカールを通じるマトリックスの挿入を可能に、例えば、そのマトリックスのIPOM挿入を可能にする。
【0046】
一般的に、各層は好ましくは少なくとも0.1mmから20mmの、より好ましくは約1mmから約10mmの、さらにより好ましくは約1mmから約3mmの範囲内の厚さを有する。また、その二層が異なる厚さを有しうることは言うまでもない。
【0047】
平面上の形状において提供される場合に、(平面又は縦断面において見られる際に)そのマトリックスの外形は、例えば、長方形、正方形、円形、楕円形等の任意の種類であり、そしてまた切断されうり、修復される軟組織欠損の形状に適合する。好ましくは、横断面の外形は円形又は楕円形であり、任意の鋭いエッジを避ける。
【0048】
上層及び下層-並びに好ましくはその全体のマトリックス-が少なくとも80%の、好ましくは少なくとも85%の、より好ましくは少なくとも90%のポロシティを有することがさらに好ましい。このポロシティは、栄養素がそのマトリックスを通じて拡散し、細胞の増殖及び発育を促進する親水性の上層における細胞に好都合な環境を提供しうることを保証する。加えて、その多孔質の構造は、マトリックス、特にその上層内に成長因子又は他の細胞増殖を刺激する分子の取り込みを可能にする。
【0049】
体内のマトリックスの分解時間に関しては、たいていその成分の生物学的吸収を通じて生じるだろう。上層は下層よりもより速い分解速度を有することが好ましい。特に、体内の上層の分解時間は好ましくは、そのマトリックスが分解した場合に、軟組織の欠損を安全に閉鎖する瘢痕組織の形成と密接に関わっている。特に、ヘルニアの修復において、その上層が十分に分解されるまでに、その下層が未だに追加の支持を提供することは、分解している上層にわたり及び上層内に形成した瘢痕プレートが腹圧に十分耐えられる強度である間、先のヘルニアが再開することを予防するので、非常に好ましい。加えて、その下層の疎水性は、その瘢痕組織と下部の腹部の器官との間に物理学的な障壁を確立することに役立つ。それゆえ、細胞増殖が最も顕著な第一の数カ月間は、新たな瘢痕組織と腹腔内の器官との間の癒着形成が、下層の親水性の特性により効率的に予防される。先のヘルニアを覆う安定的な瘢痕プレートの形成が達成されるまで、その下層は、一般的にマトリックスの移植後12から24カ月後に、異物材料が体内に残されることが無いように、分解し続けるだろう。
【0050】
好ましい態様において、そのマトリックスは、6カ月未満の、好ましくは4カ月未満の好ましい分解時間を有する上層、及び少なくとも4カ月、好ましくは4~24カ月の間の好ましい分解時間を有する下層により、24カ月未満の生体内の総分解時間を有する。そのように、その下層は、第一の4~12カ月の間、追加の支持機能を提供するだろう。24カ月後、その下層は一般的に同様に概ね十分に分解されるだろう。
【0051】
特定の態様において、生体組織内の上層について分解時間は1~4カ月の間、好ましくは約3カ月であることが好ましい。一方で下層について、生体組織内の分解時間は6~12カ月の間であることが好ましい。
【0052】
本発明のマトリックスの別の利点は、そのマトリックス内、特に、上層への物質の取り込みを可能にすることであり、それらは続いて軟組織の欠損へ移送される。好ましい物質は、IV型及びV型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ヒアルロン酸、並びにプロテオグリカンである。また同様に、薬理学的に活性な物質、例えば成長因子、抗生物質、抗真菌薬、殺精子剤、ホルモン、酵素及び/又は酵素阻害剤は、そのマトリックス内に取り込まれる。
【0053】
その上層の領域内及び周辺に瘢痕組織形成を促進するために、その上層はさらに成長因子を含むことが好ましい。成長因子は、典型的に細胞間のシグナル分子として作用し、かつ往々にして細胞分化及び成熟を促進する。例えば、上皮成長因子(EGF)は骨形成分化を促進し、一方で線維芽細胞増殖因子(FGF)及び血管内皮増殖因子(VEGF)は、血管分化(血管新生)を刺激する。軟組織修復におけるマトリックスの使用を考慮して、その上層は好ましくは、インターロイキン、酸性の線維芽細胞増殖因子、塩基性の線維芽細胞増殖因子(b-FGF)、上皮成長因子、インスリン様成長因子、インスリン様成長因子結合タンパク質、血小板由来成長因子(PDFG)、形質転換成長因子α、形質転換成長因子β、VEGF、及び肝細胞増殖因子(HGF)からなる群より選択される少なくとも一つの成長因子を含む。これらの成長因子は、細胞増殖及び分化、タンパク質合成及びECM(細胞外マトリックス)リモデリングを制御するために重要である。特に、b-FGF、PDGF、VEGF、及びHGFは、血管由来のサイトカイン分泌を通じて肉芽形成、上皮形成及び毛細血管形成を増やすことを示している。また、これらは、遊走並びにIL-1α及びIL-1β抑制の両方を阻害する因子を分泌することによって創傷部位への好中球遊走及びマクロファージ遊走を阻害し、そしてアポトーシスを阻害しかつ創傷治癒を改善する抗炎症因子を分泌することを示している。
【0054】
特に好ましい態様において、その上層は、マトリックス、特にその上層に、胎盤性の間葉細胞由来のセクリトーム(secretome)の形態において添加される成長因子を含む。低酸素条件において培養されたヒトのWharton‘s Jelly Stem Cell(CM-hWJSC)からの幹細胞由来の商用利用可能なセクリトーム(secretome)は、マトリックスの上層への細胞接着及び上層内の細胞内増殖を刺激することにおいて特に効果的であることが分かった。この幹細胞のセクリトーム(secretome)は、例えばStem Cell and Cancer Institute(PT.Kalbe Farma Tbk.)より購入されうる。
【0055】
そのマトリックスの調製について、以下のステップを含む方法が用いられうる:
a)塩微粒子並びに主成分としてポリ(乳酸)[PLA]及び任意にポリ(グリコール酸)[PGA]、ポリ(乳酸-グリコール酸)[PLGA]及びそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも一つのさらなるポリマーを含む溶解した第一のポリマー材料からなる第一の混合物Iを調製すること;
b)第一の層を形成する表面上に第一の混合物Iを拡げること;
c)塩微粒子並びにPGA、PLA、PLGA及びそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも一つのポリマーを主成分として含む溶解した第二のポリマー材料からなる第二の混合物IIを調製することであって、ここで第一のポリマー材料のPLAの含量は、第二のポリマー材料におけるものよりも高いこと;
d)第一の層の上にステップc)の第二の混合物IIの層を沈着させること;
e)もたらされる構造物を乾燥し、第一のポリマー材料の上層及び第二のポリマー材料の下層の二層の生分解性マトリックスを得ること;かつ
f)50℃未満の温度での酸化性ガスプラズマによるマトリックスのプラズマ処理。
【0056】
プラズマ処理は、そのマトリックスの安定性又は構造的なインテグリティに有害作用をもたらすことなく、上層の表面の親水性の特性を増やすことが分かった。一方で、PGA構造物のプラズマ処理は、親水性を増大しないことが分かった。下層と比較して上層のより高いPLA含量のために、そのプラズマ処理は、下層には無い又はわずかな度合であったが、特に上層の親水性の特性を促進すること及びまた維持することについて有効だった。
【0057】
プラズマ処理のために用いられるイオン化ガスプラズマは、好ましくは、ヘリウム、アルゴン、窒素、ネオン、シラン、水素、酸素及びそれらの混合物からなる群より選択される。好ましい処理用ガスは、水素、酸素及び窒素、特に酸素である。
【0058】
さらに具体的に、そのプラズマ処理は好ましくは低温、低圧のプラズマ処理を含み、ここでその担体メッシュはi)50℃未満、好ましくは40℃未満の温度で、ii)少なくとも2分間、より好ましくは5~20分間、かつiii)10-2~10-6barの範囲内の圧力、好ましくは0.1~1.0mbarの範囲内の圧力で、イオン化したガスプラズマにさらされる。
【0059】
「プラズマ」という用語は、それによって一般的に励起したかつラジカル化したガス、すなわち、電子及びイオンを含む導電性のプロセスガスを意味する。プラズマは一般的に、真空チャンバーにおける電極によって産生される(いわゆる「RFプラズマ法」)が、また容量性(capacitive)若しくは誘導性(inductive)の方法、又はマイクロ波放射を用いて発生されうる。
【0060】
上記のステップa)からe)に代わり、また本発明のマトリックスは3D-プリンティング、エレクトロスピニング及び高分子足場の調製のための当該分野で既知の他の方法を用いて製造されうる。
【0061】
本方法はさらに、第一のポリマー材料で形成される上層の多孔質の足場が、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、フィブリノゲン、アルブミン、キチン、キトサン、アガロース、ヒアルロン酸アルギン酸塩(hyaluronic acidalginate)及びそれらの混合物より選択される天然のポリマー、好ましくはコラーゲンによって覆われるステップを含みうる。このステップは、もしあれば、好ましくはステップf)のプラズマ処理前に実施される。
【0062】
移植としてのその後の使用を考慮して、本発明のマトリックスは続いて(すなわちステップf)後に)、好ましくは滅菌される。この目的に向けて、本目的のために開発された特別な滅菌技術から用いられることが好ましい。この滅菌技術は加熱及び/又はUV感受性の組織、特にポリマー足場の滅菌を可能にし、かつそれゆえ上記の特別なマトリックスに限定されないが、滅菌が必要とされる全ての種類の(熱感受性の)物品に適用可能である。
【0063】
今日では、滅菌は医薬分野、例えば機器、全ての種類のインプラント及び任意の手術の補助装置において使用されるほとんどの装置及び物品に必須であることは疑いがない。理論的に、多数の滅菌技術が利用可能であるが、それらは全ての基質に全て適用可能ではない。金属装置又はインプラントのような、金属基質は、例えば蒸気を用いる熱滅菌にかけられうる。(またオートクレーブと称される)この技術は、加圧下で120℃より高い温度を典型的に有する蒸気を用いる、蒸気滅菌において実施される。しかしながら、加熱滅菌は、滅菌されるその物品が熱感受性を有する場合に適当ではない。加えて、蒸気の使用は、生分解性であり、そしてそれゆえ水にある程度溶解される成分について適当ではない。それゆえ、コラーゲンのような熱感受性の天然ポリマーを含む生分解性ポリマー基質は、例えば、その基質の分子構造を損なうことなく熱蒸気によって滅菌できない。
【0064】
代替として、基質はエチレンオキシドガス滅菌又はプラズマ滅菌にかけられうる。しかしながら、エチレンオキシドが用いられる限り、その技術はさらに、滅菌する物質の高い毒性のために相対的に厳密な安全性の測定を必要とする欠点を有する。
【0065】
さらなる滅菌方法は、放射線滅菌、特にγ線滅菌又はX線滅菌を含む。一方で、これらの技術は、その基質(本明細書では上層)の親水性の表面特性が、滅菌処理によりたいてい失われるか又は少なくとも実質的に損なわれる主な欠点を有する。
【0066】
それゆえ、上記の本発明に従う二層のマトリックスを滅菌するために、熱、すなわち50℃より高い温度の使用を避ける方法が、マトリックスの三次元ポリマー構造を保存するために必要とされる。加えて、本方法は滅菌プロセス時及び滅菌プロセス後に高い親水性の上層の維持を可能にしなければならない。
【0067】
上記の理由で、本発明の追加の物体が、上層の親水性を含むことなくマトリックスの滅菌を介することを可能にする単純なプロセスを提供する。
【0068】
以下の工程では全てのこれらの要求に適合し、そしてそれゆえ特に、本発明の二層のマトリックスのような感受性のある基質の滅菌に十分に適合されることを発見した。本工程は、
I.本適用の記載としての二層のマトリックスを提供すること、及び
II.50℃未満、好ましくは40℃未満の温度;10-6~10-2barの範囲内の減圧下;及び少なくとも2分間の環境を含んでいる、過酸化水素をそのマトリックスにかけること
のステップを含む。
【0069】
この低温の過酸化水素滅菌が、それらの構造的なインテグリティ及び親水性の特性に負の影響を与えることなく、滅菌及び親水性の生分解性の物品をもたらす驚くべき発見は、感受性の材料を滅菌することについて単純なプロセスの可能性を開く。追加の利点として、その新たな滅菌方法は、多くの時間と労力を要する調製ステップを必要としないことにおいてとても単純及び容易である。
【0070】
環境を含む過酸化水素は、(一般的に液体の)過酸化水素の源と共に、Hプラズマ処理又は真空チャンバー内で滅菌される基質と置換することのいずれかによって提供されうる。そのプラズマ処理は好ましくは低圧のプラズマ処理を含み、ここでそのマトリックスは10-2から10-6barの範囲内、好ましくは0,1から20.0mbarの範囲内の圧力及び50℃未満、好ましくは40℃未満の温度で、少なくとも2分間イオン化したガスプラズマにさらされる。一方で、そのマトリックスは、真空チャンバーの内側に設置することができ、そして過酸化水素を蒸発させるために十分に低い圧力を適用下で、その過酸化水素を蒸発させ、そして雰囲気を含む過酸化水素が作られるだろう。特に好ましい(負の)圧力は、0.1~20.0mbar、例えば6~12mbarの範囲内である。
【0071】
その滅菌時間はチャンバー内の圧力、処理温度及びH溶液の濃度に高く依存する。好ましくは、そのH溶液は、約30容量%未満の量のHを含む。好ましい処理時間は少なくとも数分間、例えば2~30分間であり、あるいは少なくとも一時間である。「より高い」圧力、特に10mbarより高い若しくは約10mbar、及び/若しくは低温、例えば40℃未満が適用される場合、又は、H濃度が30%より低い、例えば20~25%の場合に、数時間の処理時間、例えば10~12時間が好ましい。
【0072】
最初に述べたように、本発明の二層のマトリックスは、特に腹腔内の癒着を予防するため、例えばヘルニア修復の分野においてかつ再発するヘルニアを予防するために有用である。また、本発明はそれゆえ、特に腹腔内手術、例えばヘルニア修復における、外科手術的な軟組織修復における発明的な二層のマトリックスの使用に関する。具体的に、ヘルニア修復に用いる際に、本発明は、
i.上記のセクションにおいて記載されるように、親水性の上層及び疎水性の下層を有する生分解性マトリックスを提供すること;
ii.患者の皮膚及び腹腔内組織を通じて腹腔壁内のヘルニアを横切る切開を行うこと;
iii.腹壁若しくはあるいはその腹壁の筋層下のような欠損上に(sub-lay法)、又は腹膜下のlay mesh(IPOM)の腹腔内(投与)としてのいずれかで、マトリックスを設置すること;
iv.切開を閉鎖すること
のステップを含む。
【0073】
所望されれば、そのマトリックスは移動を避けるために追加で腹膜の筋肉に接着されうる。
【0074】
ヘルニア修復における患者の体内のマトリックスの構造及びその配置について好ましい態様は、さらに添付の図として例示され、ここで図1では、本発明に従うマトリックスの治療によって修復される軟組織欠損、特にヘルニアを通じる切開の概要図を示している。
【0075】
図1の概要図は、本発明のマトリックス14により架橋されている筋組織12内の欠損(ギャップ)10を示す。具体的に、多孔質の親水性の上層16及び多孔質の疎水性の下層18を有する本発明の生物分解性マトリックスが提供される。親水性の上層16はポリ(乳酸)[PLA]及び任意のコラーゲンからなる。それは、10°未満の水接触角を有し、かつそれゆえ超-親水性である。マトリックスの下層18はポリ(乳酸-グリコール酸)[PLGA]例えば、50:50のラクチド:グリコリド含量を有するSigma AldrichからのResomer(登録商標)RG 503 Hからなり、かつ90°より大きい水接触角を有する。それは、それゆえ疎水性である。そのニ層は、共通の界面20に沿ってお互いに連結され、そして単一の、二層化したマトリックスユニット14を形成する。上層の親水性の特性は、40℃未満の温度で、0.1~1.0mbarの範囲内の圧力で酸素ガスプラズマによるマトリックスのプラズマ処理によって入手される。このプラズマ処理は、親水性の特性を有する高PLA含量を有する上層を提供することを示し、それゆえ下層のPLGAの疎水性の特性が本質的にプラズマ処理によって変化しないことを示した。
【0076】
外科手術のヘルニア修復において、切開は患者の皮膚22及び腹部の組織12を通じて作られ、腹壁におけるヘルニア10にアクセスする。続いて、そのマトリックス14は、欠損、例えば腹壁(Lichtensteinに従う鼠径ヘルニア修復)、又はあるいは腹壁の筋層下(sub-lay法)のいずれかに、腹膜24下のIPOM(intraperitoneal on lay mesh)として、図1に示される場合におけるように設置する。下層18は、腹腔内器官、特に小腸26に面し、そしてその上層はヘルニア10に面するだろう。所望されれば、そのマトリックス14は腹部の筋肉12及び/又は腹膜24に付加的に接着し、移動を防止しうる。(マトリックスを設置する前は、また腹壁における欠損は縫合によって閉鎖されうる。そのマトリックスは続いて修復した欠損上又は欠損下に配置され、縫合を安定化し、かつ治癒プロセスに役立つだろう。)その切開は続いて縫合28によって表面を覆う皮膚22を閉鎖することにより閉鎖される。
【0077】
移植後、以下のプロセスが一般的に生じる:
【0078】
分解可能な構造物として、そのマトリックスは、一時的な支持構造体を提供し、隣接する組織から、細胞をそのマトリックス内に、特にそのマトリックスの上層に移動させ、そして増殖させる。ヘルニアに面する上層の親水性の特性は、細胞例えば筋細胞及び線維芽細胞の内部増殖及び増殖を促進し、そのマトリックスの連続的に減少する支持機能を引き継ぐ新たな瘢痕組織を形成するだろう。一方で、その下層の疎水性の特性は、逆に促進する:それは、炎症の発生及びそのマトリックス又はその新たに形成した瘢痕プレートと下部の腹部組織との間の付着組織の増殖の形成を妨げるように、細胞、例えばとりわけ腹腔内側から、すなわちヘルニアから離れて面し、かつ腹腔に向かうマトリックスの側へのマトリックスへの炎症性細胞、フィブリン又はデブリの付着を妨げる。
【0079】
その上層は、下層よりもより速い分解速度を有する。その上層の分解は約3~6か月かかり、そして腹壁によって先のヘルニアの周縁部と安全に連結する瘢痕組織の形成と密接に関連している。その上層が十分に分解されるまで、その下層は腹圧に対して未だに追加の支持を継続し、かつまた新たに形成した瘢痕組織と下部の腹部の器官との間の物理学的な障壁を提供する。それゆえ、細胞増殖が最も顕著である時点で、その瘢痕組織とその腹腔内の器官との間の癒着形成は、下層の疎水性の特性によって効果的に予防される。加えて、腹腔内の炎症が存在する場合に、また前記物理的な障壁は、その手術創傷から炎症を起こした組織を分離する。約12カ月後、先のヘルニアを覆う安定的な瘢痕プレートの形成が達成される際に、またその下層は一般的に本質的に十分に分解され、そして異物材料は体内に残存しない。
【0080】
そのマトリックスは単純に欠損上に設置され、又は追加で縫合若しくはそのマトリックスのずれを防止する他の手法によって適所に固定されうる。
【0081】
そのマトリックスの挿入後数日から数週にわたって、近接組織からの細胞、特に平滑筋細胞及び線維芽細胞は、継続して増殖し、そしてヘルニアを堅く閉鎖する瘢痕組織を増強するだろう。前記瘢痕組織は、そのマトリックスの両層が十分に分解された時点で、そのヘルニアを安全に閉鎖する。
【0082】
上記の効果を証明するために、本発明のマトリックスはラットに移植されることによってin vivoで試験された。具体的に、ラットにおける実験的な腹壁ヘルニアでは、本発明に従う二層のマトリックスの援助によって修復した。本試験において、そのマトリックスを図1に示されるように腹膜下に設置した。移植したマトリックスを適所に維持するために、そのマトリックスを筋組織に数針縫い付けてから、皮膚を縫合して閉鎖した。6週間の治癒時間後、その移植部位を再開放した。そのマトリックスと下部の小腸との間の癒着は見られなかった。一方で、そのマトリックスにより覆われなかった領域において、肝臓周辺から腹壁への癒着バンドの形成が見られた。それゆえ、in vivo試験では、本発明のマトリックスがうまく手術後の癒着の形成を予防することを確認した。
【0083】
以下のセクションにおいて、本発明のマトリックスを調製する方法の特定の例示が詳細に記載される。
【実施例
【0084】
マトリックスの調製
【0085】
塩化ナトリウム(NaCl)微粒子を乳鉢及び乳棒を用いて粉砕し、ふるいにかけて、355~425μmの範囲内のNaCl微粒子を得た。9gのNaCl微粒子を遠心管内に入れて、そしてデシケータ内で乾燥した。そのNaCl粒子を続いてアルミ鍋に入れて、そして5mLのクロロホルム内に1gのPLLA丸薬(Durect Lactel(登録商標)からのlactide 100)を調製したPLLA溶液をNaCl微粒子に注いだ。そのPLLA溶液をNaCl微粒子と混合して、その混合物を続いてアルミ鍋に均一に拡げて、平たいPLLA層を形成した。
【0086】
任意のコラーゲンの後処理
【0087】
また、いくつかのマトリックスを(後ほど上層を形成する)PLLA層をコラーゲンコーティングして提供した。この目的で、その調製したPLLA層を乾燥し、そしてアルミ鍋より分離した。続いてコラーゲン溶液(I型コラーゲン溶液;Wako)をペトリ皿に注いだ。そのコラーゲン溶液の濃度を0.1~5.0(w/v)%の範囲内、好ましくは1(w/v)%を選択した。そのPLLA層をコラーゲン溶液内に浸し、別のペトリ皿に置き、そして-80℃で数時間ディープフリーザー内において冷凍し、少なくとも24時間、(-50℃から-80℃の間の温度で)<5mbarの圧力下で凍結乾燥した。
【0088】
(後ほど下層を形成する)疎水性のPLGA層を形成するために、9.0gのNaCl微粒子を第二のアルミ鍋に入れて、そして5mLのクロロホルムに1gのPLGA丸薬(Durect Lactel(登録商標)からのラクチド25;グリコリド75)のPLGA溶液を調製した。そのPLGA溶液をNaCl微粒子と混合した。続いて、そのPLGA/NaCl混合物を、第一のアルミ鍋において提供される(コラーゲンコーティング有する又は有さないいずれかの)PLLA層の上に注ぎ、均一に拡げ、PLLA層の上にPLGA層を有するマトリックスを形成した。
【0089】
そのPLLA/PLGA-NaClマトリックスをアルミ鍋より分離し、-0.1MPa下で3~4日間バキュームチャンバー内で乾燥した。
【0090】
その結果として生じた乾燥したPLLA/PLGA-NaClマトリックスをビーカー内に入れて、ddHO(再蒸留水)に浸し、25℃(室温)、60rpmで48時間リニアシェイキングバスに保ち、NaCl微粒子を浸出/洗浄した。そのビーカー内の水を1~2時間ごとに交換した。その二層化したPLLA/PLGAマトリックスをビーカーから除去し、そしてドラフト内で一晩乾燥した。
【0091】
そのマトリックスを355~425マイクロメートルの範囲内の直径を有する孔によって調製した。
【0092】
また、PLGA層を第一に、そして第二のステップにおいてPLLA層を調製しうることが分かった。
【0093】
プラズマ処理
【0094】
コラーゲンによってコートされる又はコートされないいずれかの上層である本マトリックスは、さらにイオン化ガスプラズマ、好ましくは、ヘリウム、アルゴン、窒素、ネオン、シラン、水素、酸素及びそれらの混合物からなる群から選択されるものを用いて、プラズマ処理にかけられた。好ましくは、イオン化した酸素ガスプラズマを用いるプラズマ処理を用いた。
【0095】
そのプラズマ処理を、5~20分間、好ましくは8~15分間バキュームチャンバー内で、Diener(Diener electronics;Plasma-Surface-Technology,Ebhausen,Germany)からのプラズマ処理装置を用いて実施した。その処理パラメータを以下のように設定した:バキュームチャンバー内の圧力:0.40mbar;出力:35W;酸素ガス流量:5sccm(最小)~
60sccm(最大)。
【0096】
そのプラズマ処理は、コラーゲンコーティングの存在に関わらず、PLLA上層の親水性の特性を著しく増加したが、PLGA層ではなかったことが分かった。後者は疎水性に留まった。
【0097】
滅菌
【0098】
上層のコラーゲンコーティングの有無いずれにおいても、そのマトリックスを続けて40℃未満の温度でHを含む環境にそれらを置くことによって滅菌した。そのHを含む環境を、そのマトリックスをH溶液を含む開放フラスコ又はディッシュと共にチャンバー内に置くことによって、そして続けてHを蒸発させるためにチャンバーから退避することによってバキュームチャンバー内で作り出した。そのH溶液は、30容量%以下の量のHを含む。その処理時間はチャンバー内の圧力及びH溶液の濃度に高度に依存する。そのチャンバー内の圧力は、過酸化水素の蒸発が生じるようになっている。好ましい(負の)圧力は、10-2~10-6barの、好ましくは0.1~20mbarの範囲内であり、例えば9mbarである。好ましい処理時間は、少なくとも2分間、例えば2~30分間である。しかしながら、特に1mbarより高い圧力、例えば約10mbar及び/又はより低い温度(例えば35℃未満)及び/又は低過酸化水素濃度(例えば30vol%未満)で、処理時間は好ましくは1時間より長く、例えば8から10時間だろう。
【0099】
静的接触角測定、液滴法
【0100】
接触角測定を実施し、親水性又は疎水性の程度を決定した。たいてい、そのマトリックスの上層及び下層の接触角を、超純水による液滴試験を用いて、静的接触角測定により決定した(EasyDrop DSA20E,Kruss GmbH)。その接触角測定のための液滴の大きさを0.1μLに設定した。表面に置かれた液滴の輪郭への弓形関数(circular segment function)へフィッティングすることによって接触角を計算した(円形フィッティングプロセス)。
図1