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特許7439231クリヤー塗料組成物および塗装物品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】クリヤー塗料組成物および塗装物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/14 20060101AFI20240219BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20240219BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240219BHJP
【FI】
C09D133/14
C09D175/04
C09D7/63
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022206529
(22)【出願日】2022-12-23
【審査請求日】2023-08-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】堀井 健志
(72)【発明者】
【氏名】小牧 裕之
(72)【発明者】
【氏名】松本 康二
(72)【発明者】
【氏名】梶原 正太郎
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-196762(JP,A)
【文献】特開2007-126623(JP,A)
【文献】特許第7071607(JP,B2)
【文献】国際公開第2022/107847(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/107848(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基含有アクリル樹脂(A)と、
ポリイソシアネート化合物(B)と、
有機溶媒(C)と、を含み、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A)は、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)および2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)を含み、
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)は、重量平均分子量が6,000以下であり、
前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、重量平均分子量が6,000以上であり、
前記有機溶媒(C)は、炭素数1~8の直鎖状第1級アルコール、炭素数3~8の分枝状第1級アルコール、炭素数1~8の直鎖状第2級アルコールおよび炭素数3~8の分枝状第2級アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種のアルコール溶媒と、ケトン化合物と、沸点が200℃以上の有機溶媒と、を含み、
塗装時の固形分濃度が55質量%以上である、クリヤー塗料組成物。
【請求項2】
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)は、酸価が0mgKOH/g以上40mgKOH/g以下である、請求項1記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項3】
前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、酸価が0mgKOH/g以上40mgKOH/g以下である、請求項1または2に記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項4】
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)のガラス転移温度Tg(A1)は-20℃以上60℃以下である、請求項1または2に記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項5】
前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)のガラス転移温度Tg(A2)は-30℃以上35℃以下である、請求項1または2に記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項6】
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)の含有量と、前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)の含有量との質量比(A1)/(A2)は、1/99~80/20である、請求項1または2記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項7】
前記アルコール溶媒として、炭素数3~5の直鎖状第1級アルコールおよび炭素数3~5の分枝状第1級アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項8】
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)の重量平均分子量が、3,000以上6,000以下である、請求項1または2記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項9】
記沸点が200℃以上の有機溶媒は、モノカルボン酸エステル、二塩基性エステル化合物、セロソルブおよびカルビトールよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項10】
被塗物上にベース塗料組成物を塗装して、未硬化のベース塗膜を形成する工程と、
前記未硬化のベース塗膜にクリヤー塗料組成物を塗装して、未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程と、
前記未硬化のベース塗膜および前記未硬化のクリヤー塗膜を同時に硬化させる工程と、を備え、
前記クリヤー塗料組成物は、
水酸基含有アクリル樹脂(A)と、
ポリイソシアネート化合物(B)と、
有機溶媒(C)と、を含み、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A)は、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)および2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)を含み、
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)は重量平均分子量(Mw)が6,000以下であり、
前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は重量平均分子量(Mw)が6,000以上であり、
前記有機溶媒(C)は、炭素数1~6の直鎖状第1級アルコール、炭素数3~8の分枝状第1級アルコール、炭素数1~6の直鎖状第2級アルコールおよび炭素数3~8の分枝状第2級アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種のアルコール溶媒と、ケトン化合物と、沸点が200℃以上の有機溶媒と、を含み、
塗装時の固形分濃度が55質量%以上である、
塗装物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリヤー塗料組成物および塗装物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体等の最外層として、通常、クリヤー塗膜が形成されている。クリヤー塗膜には、高い意匠性および外観が求められる。
【0003】
ところで、近年、環境保全のため、工場等からの揮発性有機化合物(VOC)の排出低減が求められている。VOCの排出低減の手法の一つとして、塗料組成物の固形分濃度を高めることが挙げられる。
【0004】
特許文献1には、(A)酸価0~30mgKOH/gの水酸基含有アクリル樹脂、(B)酸価60~120mgKOH/gの水酸基含有アクリル樹脂、および、(C)ポリイソシアネート化合物を含み、塗装時の固形分が50質量%以上である塗料組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2022/107847号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によれば、VOCの排出が低減された高固形分塗料組成物、および、耐色戻り性および外観に優れた塗膜が得られる。しかしながら、消費者の高級化志向から、より高い意匠性および外観への要求が高くなりつつある中で、これらの性能および塗装作業性の両立はいまだ十分ではない。
【0007】
本発明の目的は、優れた耐色戻り性を有する塗膜が得られ、かつ、高固形分でありながら塗装作業性に優れたクリヤー塗料組成物と、このクリヤー塗料組成物を用いた塗装物品の製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
水酸基含有アクリル樹脂(A)と、
ポリイソシアネート化合物(B)と、
有機溶媒(C)と、を含み、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A)は、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)および2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)を含み、
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)は、重量平均分子量が6,000以下であり、
前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、重量平均分子量が6,000以上であり、
前記有機溶媒(C)は、炭素数1~8の直鎖状第1級アルコール、炭素数3~8の分枝状第1級アルコール、炭素数1~8の直鎖状第2級アルコールおよび炭素数3~8の分枝状第2級アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種のアルコール溶媒を含み、
塗装時の固形分濃度が55質量%以上である、クリヤー塗料組成物。
[2]
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)は、酸価が0mgKOH/g以上40mgKOH/g以下である、[1]のクリヤー塗料組成物。
[3]
前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、酸価が0mgKOH/g以上40mgKOH/g以下である、[1]または[2]のクリヤー塗料組成物。
[4]
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)のガラス転移温度Tg(A1)は-20℃以上60℃以下である、[1]または[2]のクリヤー塗料組成物。
[5]
前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)のガラス転移温度Tg(A2)は-30℃以上35℃以下である、[1]または[2]のクリヤー塗料組成物。
[6]
前記有機溶媒(C)はさらにケトン化合物を含む、[1]または[2]のクリヤー塗料組成物。
[7]
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)の含有量と、前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)の含有量との質量比(A1)/(A2)は、1/99~80/20である、[1]または[2]のクリヤー塗料組成物。
[8]
前記アルコール溶媒は、
炭素数3~5の直鎖状第1級アルコールおよび炭素数3~5の分枝状第1級アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種である、[1]または[2]のクリヤー塗料組成物。
[9]
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)の重量平均分子量が、3,000以上6,000以下である、[1]または[2]のクリヤー塗料組成物。
[10]
前記有機溶媒(C)はさらに、モノカルボン酸エステル、二塩基性エステル化合物、セロソルブ、カルビトールよりなる群から選択される少なくとも1種の有機溶媒であって、沸点が200℃以上である有機溶媒、を含む、[1]または[2]のクリヤー塗料組成物。
[11]
被塗物上にベース塗料組成物を塗装して、未硬化のベース塗膜を形成する工程と、
前記未硬化のベース塗膜にクリヤー塗料組成物を塗装して、未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程と、
前記未硬化のベース塗膜および前記未硬化のクリヤー塗膜を同時に硬化させる工程と、を備え、
前記クリヤー塗料組成物は、
水酸基含有アクリル樹脂(A)と、
ポリイソシアネート化合物(B)と、
有機溶媒(C)と、を含み、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A)は、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)および2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)を含み、
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)は、重量平均分子量が6,000以下であり、
前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、重量平均分子量が6,000以上であり、
前記有機溶媒(C)は、炭素数1~8の直鎖状第1級アルコール、炭素数3~8の分枝状第1級アルコール、炭素数1~8の直鎖状第2級アルコールおよび炭素数3~8の分枝状第2級アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種のアルコール溶媒を含み、
塗装時の固形分濃度が55質量%以上である、
塗装物品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた耐色戻り性を有する塗膜が得られ、かつ、高固形分でありながら塗装作業性に優れたクリヤー塗料組成物を提供することができる。本発明によれば、さらに、このクリヤー塗料組成物を用いた塗装物品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[クリヤー塗料組成物]
本開示に係るクリヤー塗料組成物は、水酸基含有アクリル樹脂(A)、ポリイソシアネート化合物(B)および有機溶媒(C)を含む。水酸基含有アクリル樹脂(A)は、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)および2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)を含む。1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)は、重量平均分子量(Mw)が6,000以下である。2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、重量平均分子量(Mw)が6,000以上である。有機溶媒(C)は、上記特定の第1級アルコールおよび/または第2級アルコールを含む。クリヤー塗料組成物の塗装時の固形分濃度は、55質量%以上である。
【0011】
クリヤー塗料組成物は、水酸基含有アクリル樹脂(A)および溶媒を含む主剤と、ポリイソシアネート化合物(B)および溶媒を含む硬化剤とからなる2液形である。主剤に含まれる溶媒の少なくとも一部は、上記特定の第1級アルコールおよび/または第2級アルコールを含む有機溶媒(C)である。
【0012】
上記クリヤー塗料組成物の塗装時の固形分濃度は、主剤と硬化剤とを混合した直後(混合後、10分以内)であって、塗装直前(塗装前、10分以内)のクリヤー塗料組成物の固形分濃度である。クリヤー塗料組成物の塗装時の固形分濃度は、主剤と硬化剤との混合後10分以内のクリヤー塗料組成物を、140℃で30分間加熱した後の残渣の質量(加熱残分ともいう)を測定することによって求められる。
【0013】
クリヤー塗料組成物の塗装時の固形分濃度Cは、具体的には、以下のようにして算出できる。まず、適当な大きさのアルミカップの質量(初期質量W)を測定する。続いて、このアルミカップに、主剤と硬化剤とを混合してから10分以内のクリヤー塗料組成物を投入し、投入後10分以内に質量(W)を測定する。
【0014】
次いで、アルミカップを140℃で30分間加熱し、再び質量(W)を測定する。Wは、クリヤー塗料組成物の固形分(加熱残分)と、アルミカップとの合計質量である。最後に、下記式を用いて、クリヤー塗料組成物の塗装時の固形分濃度Cを求める。(W-W)は、塗装直後のクリヤー塗料組成物中に残存している溶媒と固形分との合計質量を表わしている。(W-W)は、クリヤー塗料組成物の固形分のみの質量を表わしている。
固形分濃度C(%)=100×(W-W)/(W-W
【0015】
上記クリヤー塗料組成物の塗装時の粘度は、塗装直前(塗装前、10分以内)のクリヤー塗料組成物の粘度とみなすことができる。クリヤー塗料組成物の固形分濃度Cは、56質量%以上であってよく、58質量%以上であってよく、60質量%以上であってよい。クリヤー塗料組成物の固形分濃度Cは、80質量%以下であってよく、75質量%以下であってよい。
【0016】
2液形の塗料組成物において、固形分濃度が高いと、主剤と硬化剤とが反応し易くなるため、一般にポットライフは短くなり易い。ポットライフとは、主剤と硬化剤とを混合してから、その塗料組成物が塗装可能で、かつ、意図した塗膜性能、仕上り外観、意匠性等を発揮することのできる時間(可使時間)である。ポットライフを越えた塗料組成物は粘度が過剰に高いため、これを用いて得られる塗膜の性能および外観が低下し得る。ポットライフを長くするには、主剤と硬化剤との急激な反応が起こらないように制御したり、塗装前に反応が進行していても、粘度を低く維持できるようにすることが考えられる。
【0017】
本開示では、反応制御の観点から、主剤として、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)と2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)とを併用する。通常、1級水酸基は、2級水酸基よりも高い反応性を有する。反応性の異なる水酸基を含有するアクリル樹脂を併用することで、硬化反応の速度が制御できる。
【0018】
さらに、粘度を低く維持するために、反応性の高い1級水酸基を含有するアクリル樹脂として、低分子量のものを使用する。これにより、主剤と硬化剤とを混合した後、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)とポリイソシアネート化合物(B)との反応が進行しても、クリヤー塗料組成物全体の粘度の上昇が抑制される。
【0019】
すなわち、本開示によれば、反応性のより高い1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)の分子量が小さいため、反応速度が制御でき、かつ、クリヤー塗料組成物の粘度上昇を抑制することができる。よって、ポットライフが長くなるとともに、得られる塗膜の塗膜性能および外観も向上する。塗膜の外観は、例えば、平滑性によって評価できる。
【0020】
一方、耐色戻り性の観点から、2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)としては、高分子量のものを使用する。色戻りとは、クリヤー塗料組成物の成分が、その下層にある塗膜(例えば、着色ベース塗膜またはメタリックベース塗膜)に浸透して混ざり合うことにより、意匠性が低下する現象をいう。例えば、下層が光輝性顔料を有するメタリックベース塗膜の場合、クリヤー塗料組成物の成分が下層に浸透すると、光輝性顔料の配列が乱れて、所望のFF性(フリップフロップ性)が得られなくなる。このようなFF性の低下は、色戻りの一例である。耐色戻り性を有するとは、クリヤー塗膜の下層にある塗膜により発揮され得る意匠性が、クリヤー塗料組成物によって損なわれない性能と言える。分子量の大きな2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)を用いることにより、当該樹脂自身が下層へ浸透し難くなるとともに、他の分子量の小さい成分が下層に浸透することが抑制される。
【0021】
すなわち、本開示によれば、反応性のより低い2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)の分子量が大きいため、耐色戻り性を向上することができる。
【0022】
本開示のクリヤー塗料組成物においては、上記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)および2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)を用いることにより、高固形分濃度でありかつ意匠性に優れた塗膜を得ることができる。すなわち、高固形分化と塗膜平滑性という、相反する性能の両立を達成した。
【0023】
一方で、こうして開発した、上記性能の両立を達成した高固形分塗料組成物を、塗装ブースで塗装したところ、塗装を終えた後の清掃容易性が劣ることが判明した。ここでいう清掃容易性とは、スプレー塗装における塗料飛散等により塗装ブースなどに付着した塗料組成物を、塗装後に除去する清掃作業のし易さを意味する。例えば反応型塗料を用いる塗装においては、塗装時にブースについた塗料組成物が反応して硬化してしまい、清掃時に容易に除去することができなくなることがある。そして、このような清掃容易性は、本開示が対象とする高固形分塗料において、特に劣る傾向があることが判明した。さらに、上記清掃容易性は、二液型塗料のポットライフと必ずしも相関するわけではないことも、実験により判明した。
【0024】
本発明者らは、上記問題を解決することができる手段についても検討を行った。そして、特定のアルコール溶媒を使用することにより、清掃容易性が高く、塗装作業性が良好になることを実験により見出し、本開示のクリヤー塗料組成物を完成するに至った。本明細書では、塗装作業性を清掃容易性の観点から評価する。
以下、本開示におけるクリヤー塗料組成物の各成分について詳述する。
【0025】
(A)水酸基含有アクリル樹脂
水酸基含有アクリル樹脂(A)は、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)および2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)を含む。
【0026】
1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)(以下、第1アクリル樹脂(A1)とも称する。)は、1級水酸基を含有し、2級水酸基を含有しない。2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)(以下、第2アクリル樹脂(A2)とも称する。)は、少なくとも2級水酸基を含有し、さらに1級水酸基を含有していてもよい。第2アクリル樹脂(A2)は、2級水酸基のみを含有していてもよい。
【0027】
1級水酸基とは、炭素原子が1つのみ結合した炭素原子Cαに結合している水酸基であり、「-CR-Cα-OH」で示される-OH基を指す。2級水酸基とは、炭素原子が2つ結合した炭素原子Cβに結合している水酸基であり、「-CR-CβH(R)-OH」で示される-OH基を指す。Rは、独立して、水素原子または炭化水素基を表わし、Rは炭化水素基を表わす。
【0028】
第1アクリル樹脂(A1)の含有量と、第2アクリル樹脂(A2)の含有量との質量比(A1)/(A2)は、例えば、1/99~80/20である。第1アクリル樹脂(A1)および第2アクリル樹脂(A2)の合計質量に対する、第1アクリル樹脂(A1)の割合が1質量%以上であると、得られる塗膜の外観がさらに向上し得る。第1アクリル樹脂(A1)および第2アクリル樹脂(A2)の合計質量に対する、第2アクリル樹脂(A2)の割合が20質量%以上であると、耐色戻り性がさらに向上し得る。
【0029】
質量比(A1)/(A2)が前記の範囲であると、ポットライフ、塗膜性能および外観の向上と、耐色戻り性の向上とが、両立し易い。質量比(A1)/(A2)は、20/80~70/30であってよく、30/70~60/40であってよく、30/70~50/50であってよい。
【0030】
(A1)1級水酸基含有アクリル樹脂
1級水酸基含有アクリル樹脂(第1アクリル樹脂)(A1)の重量平均分子量(Mw)は、6,000以下である。これにより、クリヤー塗料組成物の塗装時の粘度が低く維持される。第1アクリル樹脂(A1)のMwは、5,000以下であってよく、4,500以下であってよく、4,000以下であってよい。
【0031】
第1アクリル樹脂(A1)のMwは、1,000以上であってよく、2,000以上であってよく、3,000以上であってよい。これにより、得られる塗膜の硬度が高くなり易い。一態様において、第1アクリル樹脂(A1)のMwは、3,000以上6,000以下である。
【0032】
Mwは、ポリスチレンを標準とするGPC法において決定される。
【0033】
第1アクリル樹脂(A1)の酸価は、例えば、0mgKOH/g以上40mgKOH/g以下である。これにより、硬化剤との混合後の可使時間(「ポットライフ」ともいう)が十分に長くなり得る。第1アクリル樹脂(A1)の酸価は、1mgKOH/g以上であってよく、3mgKOH/g以上であってよい。第1アクリル樹脂(A1)の酸価は、30mgKOH/g以下であってよく、24mgKOH/g以下であってよく、10mgKOH/g以下であってよい。
【0034】
第1アクリル樹脂(A1)の水酸基価は、例えば、80mgKOH/g以上250mgKOH/g以下である。これにより、十分な架橋密度が得られて、得られる塗膜の硬度が向上し得る。第1アクリル樹脂(A1)の水酸基価は、100mgKOH/g以上であってよく、120mgKOH/g以上であってよい。第1アクリル樹脂(A1)の水酸基価は、220mgKOH/g以下であってよく、200mgKOH/g以下であってよい。
【0035】
水酸基価および酸価は、固形分質量を基準として求められる。水酸基価および酸価は、JIS K 0070:1992に記載される公知の方法によって測定することができる。水酸基価および酸価は、樹脂(例えば、第1アクリル樹脂(A1))の原料モノマー中の不飽和モノマーの配合量から算出されてもよい。
【0036】
第1アクリル樹脂(A1)のガラス転移温度(Tg)は、例えば、-20℃以上60℃以下である。これにより、得られる塗膜の硬度、および耐候性等の耐久性が向上し得る。第1アクリル樹脂(A1)のTgは、0℃以上であってよく、5℃以上であってよい。第1アクリル樹脂(A1)のTgは、50℃以下であってよく、40℃以下であってよい。
【0037】
Tgは、樹脂の原料モノマーの種類および量から計算によって求めてよい。Tgは、示差走査型熱量計(DSC)によって測定されてもよい。
【0038】
第1アクリル樹脂(A1)は、1級水酸基のみを有するα,β-エチレン性不飽和単量体と、1級水酸基および2級水酸基を含有しない第3のα,β-エチレン性不飽和単量体とを、公知の方法で重合させることによって調製することができる。第1アクリル樹脂(A1)は、例えば、溶液重合により調製される。
【0039】
1級水酸基のみを有するα,β-エチレン性不飽和単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1-メチル(メタ)アクリレート、プラクセルFM1(εーカプロラクトン変性ヒドロキシエチルメタクリレート、ダイセル化学社製)、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。
【0040】
第3のα,β-エチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、エチルヘキシル、ラウリル、フェニル、イソボルニル、シクロヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル単量体;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体、クロトン酸、2-アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-アクリロイルオキシエチルコハク酸、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの酸基含有α,β-エチレン性不飽和単量体;ビニルアルコールと、酢酸、プロピオン酸などのカルボン酸とのエステル化物である、ビニルアルコールエステル単量体;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ブタジエン、イソプレンなどの重合性不飽和炭化水素単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの重合性ニトリル単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどのアクリルアミド単量体が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。
【0041】
(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【0042】
(A2)2級水酸基含有アクリル樹脂
2級水酸基含有アクリル樹脂(第2アクリル樹脂)(A2)の重量平均分子量(Mw)は、6,000以上である。これにより、塗膜の耐色戻り性が向上する。加えて、硬度、耐薬品性、耐擦り傷性および耐候性などの塗膜物性も向上し得る。
【0043】
第2アクリル樹脂(A2)のMwは、20,000以下であってよく、12,000以下であってよい。第2アクリル樹脂(A2)のMwは、6,500以上であってよく、7,000以上であってよい。
【0044】
第2アクリル樹脂(A2)の酸価は、例えば、0mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である。第2アクリル樹脂(A2)の酸価は、1mgKOH/g以上であってよく、5mgKOH/g以上であってよく、10mgKOH/g以上であってよい。第2アクリル樹脂(A2)の酸価は、40mgKOH/g以下であってよく、35mgKOH/g以下であってよく、30mgKOH/g以下であってよい。一態様において、第2アクリル樹脂(A2)の酸価は、0mgKOH/g以上40mgKOH/g以下である。
【0045】
第2アクリル樹脂(A2)の水酸基価は、例えば、80mgKOH/g以上250mgKOH/g以下である。これにより、十分な架橋密度が得られて、得られる塗膜の硬度が向上し得る。第2アクリル樹脂(A2)の水酸基価は、100mgKOH/g以上であってよく、120mgKOH/g以上であってよい。第2アクリル樹脂(A2)の水酸基価は、220mgKOH/g以下であってよく、200mgKOH/g以下であってよい。
【0046】
第1アクリル樹脂(A1)および第2アクリル樹脂(A2)の酸価は、いずれも0mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であってよい。第2アクリル樹脂(A2)の酸価は、第1アクリル樹脂(A1)の酸価より高くてもよい。
【0047】
第2アクリル樹脂(A2)のガラス転移温度(Tg)は、例えば、-30℃以上35℃以下である。これにより、得られる塗膜の硬度および耐候性等の耐久性が向上し得る。第2アクリル樹脂(A2)のTgは、―15℃以上であってよく、0℃以上であってよく、5℃以上であってよい。第2アクリル樹脂(A2)のTgは、30℃以下であってよく、25℃以下であってよく、20℃以下であってよい。
【0048】
1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)のガラス転移温度Tg(A1)が-20℃以上60℃以下であって、かつ、第2アクリル樹脂(A2)のガラス転移温度(Tg)が-30℃以上35℃以下であってよい。
【0049】
第2アクリル樹脂(A2)は、少なくとも2級水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和単量体と、2級水酸基を有さない第4のα,β-エチレン性不飽和単量体とを、公知の方法で重合させることによって調製することができる。第2アクリル樹脂(A2)は、例えば、溶液重合により調製される。
【0050】
少なくとも2級水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和単量体としては、例えば、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。
【0051】
第4のα,β-エチレン性不飽和単量体としては、例えば、前記の1級水酸基のみを有するα,β-エチレン性不飽和単量体、および、第3のα,β-エチレン性不飽和単量体が挙げられる。
【0052】
(その他の水酸基含有樹脂)
クリヤー塗料組成物は、その他の水酸基含有樹脂を含んでよい。その他の水酸基含有樹脂としては、例えば、水酸基含有ポリカーボネート樹脂、水酸基含有ウレタン樹脂、水酸基含有ポリエステル樹脂、水酸基含有アミノ樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。
【0053】
第1,第2水酸基含有アクリル樹脂(A1,A2)とその他の水酸基含有樹脂との合計の固形分100質量部に占める、その他の水酸基含有成分の固形分量は、例えば、10質量部以下であり、5質量部以下であってよく、3質量部以下であってよい。
【0054】
(その他の樹脂)
クリヤー塗料組成物は、その他の樹脂を含んでよい。その他の樹脂としては、上記以外の樹脂、例えば、水酸基を含有しないポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アミノ樹脂等であって上記定義に入らないのもの、が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。
【0055】
(B)ポリイソシアネート化合物
ポリイソシアネート化合物(B)は硬化剤であり、水酸基含有樹脂と反応して架橋構造を形成し、クリヤー塗料組成物を硬化させる。
【0056】
ポリイソシアネート化合物(B)は、1分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、分子中にイソシアネート基に結合していない芳香環を有する脂肪族ポリイソシアネート(芳香脂肪族ポリイソシアネート)、芳香族ポリイソシアネート、これらポリイソシアネートの誘導体が挙げられる。具体的には、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート等の脂環族ポリイソシアネート;これらのビウレットタイプ、ヌレートタイプ、アダクトタイプ等の多量体等が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0057】
ポリイソシアネート化合物(B)に含まれるイソシアネート基と、水酸基含有樹脂に含まれる水酸基との当量比(NCO/OH)は、0.7以上であってよく、0.8以上であってよい。当量比(NCO/OH)は、2.0以下であってよく、1.8以下であってよく、1.5以下であってよい。一態様において、当量比(NCO/OH)は、0.7以上2.0以下である。当量比(NCO/OH)がこの範囲であると、優れた硬度および耐候性を有するクリヤー塗膜が形成され易い。
【0058】
(その他の硬化剤)
クリヤー塗料組成物は、ポリイソシアネート化合物(B)以外のその他の硬化剤を含んでよい。その他の硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物およびオキサゾリン化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。その他の硬化剤の含有量は、水酸基含有樹脂に応じて適宜設定される。
【0059】
(C)有機溶媒
有機溶媒(C)は、炭素数1~6の直鎖状第1級アルコール、炭素数3~8の分枝状第1級アルコール、炭素数1~6の直鎖状第2級アルコールおよび炭素数3~8の分枝状第2級アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種のアルコール溶媒を含む。本開示のクリヤー塗料組成物に上記アルコール溶媒が含まれることにより、高固形分濃度を有するクリヤー塗料組成物であっても、清掃容易性が高く、塗装作業性に優れる利点がある。
【0060】
上記アルコール溶媒の1種である、上記炭素数1~6の直鎖状第1級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパン-1-オール、ブタン-1-オール、ペンタン-1-オール、ヘキサン-1-オールが挙げられる。
炭素数3~8の分枝状第1級アルコールとしては、例えば、イソブタノール、3-メチル-1-ブタノール、2-エチル-1-ペンタノール、2-エチルヘキサノールが挙げられる。
炭素数1~6の直鎖状第2級アルコールおよび炭素数3~8の分枝状第2級アルコールとしては、例えば、プロパン-2-オール、ブタン-2-オール、ペンタン-2-オール、ヘキサン-2-オール、ヘプタン-2-オール、2-メチルブタン-1-オール、シクロヘキサノールが挙げられる。
【0061】
上記アルコール溶媒は、炭素数3~5の直鎖状第1級アルコールおよび炭素数3~5の分枝状第1級アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種であるのが、清掃容易性向上の点からより好ましく、炭素数4~5の直鎖状第1級アルコールおよび炭素数4~5の分枝状第1級アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種であるのがより好ましい。
【0062】
上記アルコール溶媒の含有量は、有機溶媒(C)の全質量に対して、10質量%以上であるのが好ましい。アルコール溶媒の含有量は、12質量%以上であってよい。アルコール溶媒の含有量は、60質量%以下であってよく、50質量%以下であってよい。
【0063】
有機溶媒(C)はさらに、ケトン化合物を含むことが好ましい。上記ケトン化合物は、炭素数7以上のケトン化合物であるのがより好ましい。有機溶媒(C)がさらにケトン化合物を含むことより、高固形分濃度を有するクリヤー塗料組成物の塗装時の粘度が、適切な範囲に制御できるという利点がある。また、ケトン化合物は、クリヤー塗料組成物に含まれる他の成分の特性に与える影響が小さい。そのため、クリヤー塗料組成物に含まれる他の成分の特性が十分に発揮されて、得られる塗膜の物性が向上し得る。
【0064】
有機溶媒(C)がさらに炭素数7以上のケトン化合物を含む場合、とりわけ炭素数7以上のケトン化合物を含む場合は、高固形分濃度を有するクリヤー塗料組成物の塗装時の粘度を適切な範囲に制御することができ、その結果、得られる塗膜の外観が良好になる利点がある。加えて、塗装作業性も向上する利点がある。特定の理論に拘束されるものではないが、炭素数7以上のケトン化合物は、蒸発速度が比較的遅く、かつ、高分子量の2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)を良く分散できるためと考えられる。
【0065】
ケトン化合物は、-C(=O)-の構造を有する。ケトン化合物としては、メチルアミルケトン(MAK)、メチル-i-アミルケトン(MIAK)、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2-オクタノン、ジイソブチルケトン、イソホロンが挙げられる。なかでも、水酸基含有アクリル樹脂(A)の溶解性が高い点で、ケトン化合物は直鎖状が望ましい。直鎖状で、ケトン化合物としては、例えば、MAK、2-オクタノンが挙げられる。
【0066】
ケトン化合物の炭素数は、蒸発速度の観点から、8以上であってよい。ケトン化合物の炭素数は、水酸基含有アクリル樹脂(A)の溶解性の観点から、9以下であってよい。ケトン化合物の炭素数は、7であってよい。
【0067】
有機溶媒(C)が炭素数7以上のケトン化合物を含む場合は、塗装時の粘度がより適切な範囲に制御されるため、このような高い固形分濃度を有していても、得られる塗膜の外観はより良好となる利点がある。
【0068】
炭素数7以上のケトン化合物は、さらに、クリヤー塗料組成物の噴霧塗装時における塗着60秒後の固形分濃度(以下、塗着固形分濃度C60と称する。)を、適切な範囲に制御する利点がある。本開示に係るクリヤー塗料組成物の塗着固形分濃度C60は、例えば、60質量%以上80質量%以下である。クリヤー塗料組成物が塗着した後も一定の時間、固形分濃度が過度に高くない状態が維持されることにより、塗料組成物のセルフレベリング機能が作用して、得られる塗膜の平滑性がさらに向上し得る。
【0069】
塗装の際、溶媒の一部が揮発するため、塗着後の塗料の固形分濃度は、通常高くなる。従来の塗料において、塗装時の固形分濃度を高めながら、塗装時の粘度を低下させるために、酢酸ブチル等の分子量の小さな溶媒が用いられている。分子量の小さな溶媒は、一般に揮発性が高いため、被塗物に塗着した直後の塗料の固形分濃度は、一層高くなり易い。そのため、セルフレベリング機能が作用できずに、得られる塗膜の平滑性はより低下し易い。本開示に係るクリヤー塗料組成物において好適に用いることができる、炭素数7以上のケトン化合物は、蒸発速度が比較的遅いため、塗着固形分濃度C60を、適度な範囲に維持することができると考えられる。塗着固形分濃度C60は、65質量%以上であってよく、70質量%以上であってよい。塗着固形分濃度C60は、79質量%以下であってよく、78質量%以下であってよい。
【0070】
上記クリヤー塗料組成物の塗着固形分濃度C60は、以下のようにして算出できる。まず、適当な大きさの基材(例えば、アルミ薄膜)の質量(初期質量W)を測定する。続いて、この基材にクリヤー塗料組成物を噴霧塗装する。噴霧塗装が終了してから60秒後に、溶媒が揮発しないように、基材をクリヤー塗料組成物が付着した面を内側にして折り曲げる。この未硬化のクリヤー塗料組成物を有する基材の質量(Wwet)を測定する。Wwetは、クリヤー塗料組成物中に噴霧塗装60秒後に残存している溶媒および固形分と、基材との合計質量である。
【0071】
次いで、基材を開いて、この状態で、140℃で30分間加熱し、クリヤー塗料組成物を硬化させる。その後、硬化したクリヤー塗料組成物を備える基材の質量(Wdry)を測定する。Wdryは、クリヤー塗料組成物の固形分と、基材との合計質量である。
【0072】
最後に、下記式を用いて、塗着固形分濃度C60を求める。(Wwet-W)は、クリヤー塗料組成物中に噴霧塗装60秒後に残存している溶媒と固形分との合計質量を表わしている。(Wdry-W)は、クリヤー塗料組成物の固形分のみの質量を表わしている。
塗着固形分濃度C60(%)=100×(Wdry-W)/(Wwet-W
【0073】
有機溶媒(C)はさらに、上記アルコール溶媒、ケトン化合物以外の、他の有機溶媒を含み得る。他の有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、t-ブチルベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、テトラリン、デカリン等の芳香族炭化水素;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸-n-ブチル、酢酸アミル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルカルビトールアセテート)等のモノカルボン酸エステル;二塩基性エステル化合物;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n-プロピルセロソルブ、i-プロピルセロソルブ、n-ブチルセロソルブ、i-ブチルセロソルブ、i-アミルセロソルブ、フェニルセロソルブ、ベンジルセロソルブ等のセロソルブ;メチルカルビトール、エチルカルビトール、n-プロピルカルビトール、i-プロピルカルビトール、n-ブチルカルビトール、i-ブチルカルビトール、i-アミルカルビトール、酢酸カルビトール、フェニルカルビトール、ベンジルカルビトール等のカルビトール;エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t一ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジオキサンなどのエーテル;が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0074】
ただし、硬化剤に有機溶媒が配合される場合は、水酸基を有さない有機溶媒であることを条件とする。
【0075】
本開示の一態様において、有機溶媒(C)は、上記アルコール溶媒とともに、沸点が200℃以上の有機溶媒を含んでよい。これにより、得られる塗膜の耐色戻り性および外観がさらに向上し得る。特に、沸点が200℃以上の、モノカルボン酸エステル、二塩基性エステル化合物、セロソルブおよびカルビトールよりなる群から選択される少なくとも1種を含んでよい。これらの沸点が200℃以上の有機溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0076】
二塩基性エステル化合物(二塩基酸エステルともいう。)は、ジカルボン酸とアルコールとの反応により得られる。二塩基性エステル化合物は、例えば、下記一般式:
OOC-R-COOR
(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、脂肪族、脂環式、芳香環を有する脂肪族または芳香族の炭化水素基である。)
で表される。
【0077】
は、脂肪族炭化水素基であってよい。Rにおいて、脂肪族炭化水素基の炭素数は、1~6であってよく、2~6であってよく、2~4であってよい。Rにおいて、脂肪族炭化水素基は、飽和していてよく、不飽和であってよい。Rにおいて、脂肪族炭化水素基は、直鎖状であってよく、分岐していてよい。Rは、炭素数1~6で直鎖状の飽和脂肪族炭化水素基であってよい。
【0078】
およびRは、脂肪族炭化水素基であってよい。RおよびRにおいて、脂肪族炭化水素基の炭素数は、1~6であってよく、1~3であってよく、1または2であってよい。RおよびRにおいて、脂肪族炭化水素基は、飽和していてよく、不飽和であってよい。RおよびRにおいて、脂肪族炭化水素基は、直鎖状であってよく、分岐していてよい。RおよびRは、炭素数1~6で直鎖状の飽和脂肪族炭化水素基であってよい。RおよびRは、同じであってよく、異なっていてよい。RおよびRは、同じであってよい。
【0079】
好適な二塩基性エステル化合物として、具体的には、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、コハク酸ジ-n-プロピル、コハク酸ジ-n-ブチル、コハク酸ジ-n-ペンチル、コハク酸ジ-n-ヘキシル、グルタル酸ジメチル、グルタル酸ジエチル、グルタル酸ジ-n-プロピル、グルタル酸ジ-n-ブチル、グルタル酸ジ-n-ペンチル、グルタル酸ジ-n-ヘキシル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジ-n-プロピル、アジピン酸ジ-n-ブチル、アジピン酸ジ-n-ペンチル、アジピン酸ジ-n-ヘキシル、ピメリン酸ジメチル、ピメリン酸ジエチル、ピメリン酸ジ-n-プロピル、ピメリン酸ジ-n-ブチル、ピメリン酸ジ-n-ペンチル、ピメリン酸ジ-n-ヘキシル、スベリン酸ジメチル、スベリン酸ジエチル、スベリン酸ジ-n-プロピル、スベリン酸ジ-n-ブチル、スベリン酸ジ-n-ペンチル、スベリン酸ジ-n-ヘキシル、アゼライン酸ジメチル、アゼライン酸ジエチル、アゼライン酸ジ-n-プロピル、アゼライン酸ジ-n-ブチル、アゼライン酸ジ-n-ペンチル、アゼライン酸ジ-n-ヘキシルが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。例えば、コハク酸のアルキルエステルと、グルタル酸のアルキルエステルと、アジピン酸のアルキルエステルとを組み合わせて用いてもよい。
【0080】
クリヤー塗料組成物において、有機溶媒(C)がさらに上記ケトン化合物を含む場合の含有量は、上記アルコール溶媒の含有量100質量部に対して、例えば50質量部以上550質量部以下であってよい。ケトン化合物の上記含有量は70質量部以上であってよく、75質量部以上であってよい。また、ケトン化合物の上記含有量は500質量部以下であってよく、200質量部以下であってよい。また、有機溶媒(C)がさらに上記沸点200℃以上の有機溶媒を含む場合の含有量は、上記アルコール溶媒の含有量100質量部に対して、例えば30質量部以上200質量部以下であってよい。沸点200℃以上の有機溶媒の上記含有量は40質量部以上であってよい。また、沸点200℃以上の有機溶媒の上記含有量は180質量部以下であってよく、120質量部以下であってよい。
【0081】
有機溶媒(C)は、上記アルコール溶媒とともに、これ以外の沸点が200℃未満の有機溶媒を含んでよい。このような他の有機溶媒の含有量は、例えば、上記アルコール溶媒の含有量100質量部に対して、20質量部未満であってく、10質量部以下であってよく、5質量部以下であってよく、0質量部であってよい。
【0082】
(その他の成分)
クリヤー塗料組成物は、さらに、顔料および各種添加剤を含んでよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、表面調整剤、ピンホール防止剤が挙げられる。
【0083】
[塗装物品]
本開示に係るクリヤー塗料組成物により、塗装物品が得られる。塗装物品は、例えば、被塗物と、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を含む複層塗膜と、を備える。クリヤー塗膜は、本開示に係るクリヤー塗料組成物により形成される。よって、塗装物品は、優れた耐色戻り性および外観を有する。
【0084】
ベース塗膜は、被塗物とクリヤー塗膜との間に配置されている。複層塗膜は、さらに、被塗物とベース塗膜との間に配置された中塗り塗膜を備えていてよい。すなわち、塗装物品は、被塗物と、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜がこの順に積層された複層塗膜と、を備えてよい。
【0085】
(被塗物)
被塗物の材質としては、例えば、金属、樹脂、ガラスが挙げられる。被塗物として、具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体および自動車車体用の部品、スポイラー、バンパー、ミラーカバー、グリル、ドアノブ等の自動車部品が挙げられる。
【0086】
金属としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛またはこれらの合金(例えば、鋼)が挙げられる。金属製の被塗物としては、代表的には、冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム合金系めっき鋼板、亜鉛-鉄合金系めっき鋼板、亜鉛-マグネシウム合金系めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金系めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板、アルミニウム-シリコン合金系めっき鋼板、錫系めっき鋼板等の鋼板が挙げられる。
【0087】
金属製の被塗物は、表面処理されていてもよい。表面処理としては、例えば、リン酸塩処理、クロメート処理、ジルコニウム化成処理、複合酸化物処理が挙げられる。金属製の被塗物は、表面処理後、さらに電着塗料によって塗装されていてもよい。電着塗料は、カチオン型であってよく、アニオン型であってよい。
【0088】
樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂が挙げられる。樹脂製の被塗物は、脱脂処理されていてよい。
【0089】
(中塗り塗膜)
中塗り塗膜は、中塗り塗料組成物により形成される。中塗り塗料組成物については後述する。中塗り塗膜の硬化後の膜厚(乾燥膜厚)は、例えば、5μm以上80μm以下である。中塗り塗膜の乾燥膜厚は、10μm以上であってよい。中塗り塗膜の乾燥膜厚は、50μm以下であってよい。
【0090】
塗膜の厚さは、電磁式膜厚計(例えば、SANKO社製SDM-miniR)により測定できる。塗膜の厚さは、任意の5点における塗膜の厚さの平均値である。
【0091】
(ベース塗膜)
ベース塗膜は、ベース塗料組成物により形成される。ベース塗料組成物については後述する。ベース塗膜は、1層であってよく、2層以上の積層塗膜であってよい。ベース塗膜の1層あたりの乾燥膜厚は、例えば、5μm以上35μm以下である。ベース塗膜の1層あたりの乾燥膜厚は、7μm以上であってよい。ベース塗膜の1層あたりの乾燥膜厚は、30μm以下であってよい。
【0092】
(クリヤー塗膜)
クリヤー塗膜は、本開示に係るクリヤー塗料組成物により形成される。クリヤー塗膜の乾燥膜厚は、例えば、10μm以上80μm以下である。クリヤー塗膜の乾燥膜厚は、20μm以上であってよい。クリヤー塗膜の乾燥膜厚は、60μm以下であってよい。
【0093】
[塗装物品の製造方法]
前記の塗装物品は、例えば、被塗物上にベース塗料組成物を塗装して、未硬化のベース塗膜を形成する工程と、未硬化のベース塗膜に本開示に係るクリヤー塗料組成物を塗装して、未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程と、未硬化のベース塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を同時に硬化させる工程と、を備える方法により製造される。
【0094】
ベース塗料組成物を塗装する工程の前に、被塗物に中塗り塗料組成物を塗装する工程を行ってもよい。ベース塗料組成物が塗装される際、中塗り塗膜は硬化していてもよく、未硬化であってもよい。ベース塗料組成物が塗装される際、中塗り塗膜は硬化していてよい。
【0095】
すなわち、塗装物品は、被塗物上に中塗り塗料組成物を塗装した後、硬化させて、硬化された中塗り塗膜を形成する工程と、硬化された中塗り塗膜上にベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を順次塗装して、未硬化のベース塗膜およびクリヤー塗膜をこの順に形成する工程と、未硬化のベース塗膜およびクリヤー塗膜を一度に硬化させる工程と、を備える方法(2コート1ベーク法)により製造されてよい。
【0096】
塗装物品はまた、被塗物上に、中塗り塗料組成物、ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を順次塗装して、未硬化の中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜をこの順に形成する工程と、未硬化の中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を一度に硬化させる工程と、を備える方法(3コート1ベーク法)により製造されてよい。
【0097】
以下、2コート1ベーク法によって、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜がこの順に積層された複層塗膜を備える塗装物品を製造する場合を例に挙げて、各工程を説明する。ただし、塗装物品の製造方法はこれに限定されない。
【0098】
(I)硬化された中塗り塗膜を形成する工程
まず、中塗り塗料組成物を被塗物上に塗装して、未硬化の中塗り塗膜を形成する。中塗り塗膜によって、ベース塗膜と被塗物との付着性が向上する。また、中塗り塗装により塗装面が均一になって、ベース塗膜のムラが抑制され易くなる。
【0099】
塗装方法としては、例えば、ロールコーター法、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装が挙げられる。これらの方法と静電塗装とを組み合わせてもよい。なかでも、塗着効率の観点から、回転霧化式静電塗装が好ましい。回転霧化式静電塗装には、例えば、通称「マイクロ・マイクロベル(μμベル)」、「マイクロベル(μベル)」、「メタリックベル(メタベル)」などと呼ばれる回転霧化式の静電塗装機が用いられてよい。
【0100】
次いで、未硬化の中塗り塗膜を硬化させる。中塗り塗料組成物は加熱により硬化し得る。硬化(加熱)条件は、中塗り塗料組成物の組成や被塗物の材質等に応じて適宜設定される。加熱温度は、例えば100℃以上180℃以下であり、120℃以上160℃以下であってよい。加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定すればよい。加熱温度が100℃以上180℃以下の場合、加熱時間は、例えば10分以上60分以下であり、10分以上30分以下であってよい。加熱時間は、加熱装置内が目的の温度に達し、被塗物が目的の温度に保たれている時間を意味し、目的の温度に達するまでの時間は考慮しない。加熱装置としては、例えば、熱風、電気、ガス、赤外線等の加熱源を利用した乾燥炉が挙げられる。
【0101】
(中塗り塗料組成物)
中塗り塗料組成物は、水性であってよく、溶剤系であってよい。水性の塗料組成物は、溶媒として、水を溶媒全体の50質量%以上含む。溶剤系の塗料組成物は、溶媒として、有機溶媒を溶媒全体の50質量%以上含む。
【0102】
中塗り塗料組成物は、各種溶媒に加えて、例えば、樹脂、顔料、各種添加剤を含む。樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキッド樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリエーテル樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。中塗り塗料組成物は、さらに上述した硬化剤を含み得る。
【0103】
(II)未硬化のベース塗膜を形成する工程
硬化した中塗り塗膜上にベース塗料組成物を塗装して、未硬化のベース塗膜を形成する。2層以上の未硬化のベース塗膜は、同じまたは異なるベース塗料組成物を2回以上塗装することにより形成することができる。n回目のベース塗料組成物の塗装とn+1回目のベース塗料組成物の塗装との間には、数分間のインターバルを設けてよい。
【0104】
塗装方法としては、例えば、中塗り塗料組成物の塗装方法と同様の方法が挙げられる。
【0105】
ベース塗料組成物を塗装した後、クリヤー塗料組成物を塗装する前に、予備乾燥(プレヒートとも称される)を行ってもよい。これにより、ベース塗料組成物に含まれる希釈成分が、硬化工程において突沸することが抑制されて、ワキの発生が抑制され易くなる。さらに、予備乾燥により、未硬化のベース塗膜とクリヤー塗料組成物とが混ざりあうことが抑制されて、混層が形成され難くなる。そのため、得られる塗装物品の平滑性がさらに向上し得る。
【0106】
予備乾燥としては、例えば、20℃以上25℃以下の温度条件で5分以上15分以下放置する方法、50℃以上80℃以下の温度条件で30秒以上10分以下加熱する方法が挙げられる。
【0107】
(ベース塗料組成物)
ベース塗料組成物は、水性であってよく、溶剤系であってよい。ベース塗料組成物は、水性であってよい。水性のベース塗料組成物は、例えば、アクリル樹脂エマルション、水溶性アクリル樹脂、硬化剤(代表的には、メラミン樹脂)、ポリエーテルポリオール樹脂を含む。ベース塗料組成物は、さらに、顔料および各種添加剤を含んでよい。
【0108】
(III)未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程
本開示に係るクリヤー塗料組成物を未硬化のベース塗膜上に塗装して、未硬化のクリヤー塗膜を形成する。
【0109】
塗装方法は特に限定されない。塗装方法としては、例えば、中塗り塗料組成物の塗装方法と同様の方法が挙げられる。なかでも、塗着効率の観点から、回転霧化式静電塗装が好ましい。クリヤー塗料組成物を塗装した後、前記と同様に予備乾燥を行ってもよい。
【0110】
(IV)硬化工程
未硬化のベース塗膜およびクリヤー塗膜を一度に硬化させる。各塗膜は加熱により硬化し得る。加熱条件は、中塗り塗膜と同様であってよい。
【実施例
【0111】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り質量基準による。
【0112】
まず、下記の通り、複数種の第1アクリル樹脂(A1)および第2アクリル樹脂(A2)を製造した。製造された各水酸基含有アクリル樹脂の物性値を、まとめて表1に示す。
【0113】
製造例1-1~1-3、製造例2-1~2-5で得られたワニスの固形分濃度は、150℃で60分間加熱した後の残渣の質量(加熱残分)を測定することによって求めた。
【0114】
[製造例1-1]第1アクリル樹脂(A1-1)の製造
攪拌機、温度制御装置、還流冷却器、窒素導入管および送液ポンプを備えたオートクレーブに、酢酸ブチル24.2質量部を仕込み、170℃に昇温した。前記のオートクレーブに、送液ポンプによりモノマー溶液(スチレン20質量部、2-エチルヘキシルアクリレート13.2質量部、2-エチルヘキシルメタクリレート26.4質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート39.4質量部およびメタクリル酸1.0質量部からなる混合液)、および、ジ-tert-アミルパーオキサイド1.65質量部と酢酸ブチル7.74質量部との混合溶液を、3時間かけて滴下した。
【0115】
滴下終了後、30分間、170℃を維持した後、30分間かけて120℃まで冷却した。続いて、ジ-tert-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.2質量部と酢酸ブチル2.0質量部との混合溶液を、送液ポンプにより30分間かけて滴下した。
【0116】
次いで、1時間、120℃で反応を継続させた後、酢酸ブチル6.4質量部を加えた。これにより、Mw4,000、水酸基価170mgKOH/g、酸価7mgKOH/g、Tg20℃の第1アクリル樹脂(A1-1)を含む、固形分濃度70.0質量%のワニスを得た。
【0117】
[製造例1-2]第1アクリル樹脂(A1-2)の製造
モノマー溶液とともに滴下したジ-tert-アミルパーオキサイドの量を1.08質量部にしたこと以外、製造例1-1と同様にして、Mw6,000、水酸基価170mgKOH/g、酸価7mgKOH/g、Tg20℃の第1アクリル樹脂(A1-2)を含む、固形分濃度70.1質量%のワニスを得た。
【0118】
[製造例1-3]第1アクリル樹脂(A1-3)の製造
モノマー溶液の、2-エチルヘキシルアクリレートの量を17.4質量部に、2-エチルヘキシルメタクリレートの量を19.4質量部に、メタクリル酸の量を3.8質量部にしたこと以外、製造例1-1と同様にして、Mw4,000、水酸基価170mgKOH/g、酸価25mgKOH/g、Tg20℃の第1アクリル樹脂(A1-3)を含む、固形分濃度70.0質量%のワニスを得た。
【0119】
[製造例2-1]第2アクリル樹脂(A2-1)の製造
攪拌機、温度制御装置、還流冷却器および滴下ロートを備えた容器に、酢酸ブチル38.2質量部を仕込み、120℃に昇温した。前記の容器に、モノマー溶液(スチレン20質量部、n-ブチルアクリレート15.8質量部、n-ブチルメタアクリレート21.8質量部、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート41.1質量部およびアクリル酸1.3質量部からなる混合液)、および、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート11.0質量部と酢酸ブチル5質量部との混合溶液を、3時間かけて同時に滴下した。
【0120】
30分間放置した後、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.5質量部と酢酸ブチル4質量部との混合溶液を、30分間かけて滴下した。次いで、1時間、120℃で反応を継続させた後、酢酸ブチル7質量部を加えた。これにより、Mw8,000、水酸基価160mgKOH/g、酸価10mgKOH/g、Tg20℃の2級水酸基を含有する第2アクリル樹脂(A2-1)を含む、固形分濃度64.5質量%のワニスを得た。
【0121】
[製造例2-2]第2アクリル樹脂(A2-2)の製造
モノマー溶液とともに滴下したtert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートの量を4.5質量部にしたこと以外、製造例2-1と同様にして、Mw12,000、水酸基価160mgKOH/g、酸価10mgKOH/g、Tg20℃の2級水酸基を含有する第2アクリル樹脂(A2-2)を含む、固形分濃度64.8質量%のワニスを得た。
【0122】
[製造例2-3]第2アクリル樹脂(A2-3)の製造
モノマー溶液の、n-ブチルアクリレートの量を18.3質量部に、n-ブチルメタアクリレートの量を14.8質量部に、アクリル酸の量を5.8質量部にしたこと以外、製造例2-1と同様にして、Mw8,000、水酸基価160mgKOH/g、酸価45mgKOH/g、Tg20℃の2級水酸基を含有する第2アクリル樹脂(A2-3)を含む、固形分濃度64.2質量%のワニスを得た。
【0123】
[製造例2-4]第2アクリル樹脂(A2-4)の製造
モノマー溶液の、n-ブチルアクリレートの量を1.4質量部に、n-ブチルメタアクリレートの量を36.2質量部にして、モノマー溶液とともに滴下したtert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートの量を3.0質量部にしたこと以外、製造例2-1と同様にして、Mw15,000、水酸基価160mgKOH/g、酸価10mgKOH/g、Tg35℃の2級水酸基を含有する第2アクリル樹脂(A2-4)を含む、固形分濃度65.1質量%のワニスを得た。
【0124】
[製造例2-5]第2アクリル樹脂(A2-5)の製造
モノマー溶液の、2-ヒドロキシエチルメタクリレート39.4質量部を2-ヒドロキシプロピルメタクリレート39.4質量部にしたこと以外、製造例1-1と同様にして、Mw4,000、水酸基価150mgKOH/g、酸価7mgKOH/g、Tg10℃の2級水酸基を含有する第2アクリル樹脂(A2-5)を含む、固形分濃度64.7質量%のワニスを得た。
【0125】
【表1】
【0126】
[実施例1]
(1)主剤の調製
1Lの金属製容器に、第1アクリル樹脂(A1-1)42質量部、第2アクリル樹脂(A2-1)18質量部、紫外線吸収剤(チヌビン384、BASF社製)2.0質量部、光安定剤(チヌビン123、BASF社製)1.0質量部、アクリル系表面調整剤1.0質量部、イソブタノール6質量部、メチルアミルケトン30質量部およびDBE(二塩基性エステル化合物、グルタル酸ジメチルエステル、沸点約205℃)7質量部を順次添加し、ディスパーにて十分撹拌して、主剤を得た。配合部数質量は、固形分量である。
【0127】
(2)硬化剤の調製
別の金属製容器に、ポリイソシアネート化合物(B-1)(ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ディスモジュールN-3300、住化コベストロウレタン社製、固形分濃度100質量%)40質量部およびメチルアミルケトン12.0質量部を順次添加し、撹拌して、硬化剤を得た。
【0128】
(3)クリヤー塗料組成物の調製
主剤および硬化剤を混合して、クリヤー塗料組成物を得た。クリヤー塗料組成物の塗装時(混合後、10分以内)の固形分濃度は60質量%であった。
【0129】
[実施例2~18および比較例1~4]
配合成分の種類および配合量、塗装時の固形分量などを、表2~表4に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様の手順により、クリヤー塗料組成物を調製した。
【0130】
表2~表4に示された各成分の詳細は、下記の通りである。
(ポリイソシアネート化合物(B))
(B-1):スミジュールN-3300(住化コベストロウレタン社製、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、固形分濃度:100質量%)
(B-2):デスモジュールN-3600(住化コベストロウレタン社製、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、固形分濃度:100質量%)
(B-3):デュラネートTKA-100(旭化成社製、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、固形分濃度:100質量%)
(B-4):デュラネートTPA-100(旭化成社製、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、固形分濃度:100質量%)
【0131】
(有機溶媒(C))
(アルコール溶媒)
アルコール溶媒(1):イソブタノール
アルコール溶媒(2):n-ブタノール
アルコール溶媒(3):1-ヘキサノール
アルコール溶媒(4):2-ブタノール
アルコール溶媒(5):t-ブチルアルコール
【0132】
(ケトン化合物)
MAK:メチルアミルケトン
(沸点が200℃以上の有機溶媒)
DBE:二塩基性エステル(昭栄ケミカル社製、コハク酸ジメチルとグルタル酸ジメチルとアジピン酸ジメチルとの混合物、CAS No.95481-62-2)、沸点:200℃
【0133】
(その他)
紫外線吸収剤:チヌビン384、BASF社製
光安定剤:チヌビン123、BASF社製
表面調整剤:BYK-350、ビックケミー・ジャパン社製
【0134】
実施例および比較例で調製したクリヤー塗料組成物の塗装時の固形分濃度は、下記手順により求めた。
(塗装時の固形分濃度C
直径約6cmのアルミカップの初期質量(W)を測定した。ここに、主剤と硬化剤とを混合して得られたクリヤー塗料組成物を入れて、混合後10分以内にその質量(W)を測定した。これを、ジェットオーブンを用いて140℃で30分間加熱し、放冷後、再び質量(W)を測定した。最後に、下記式により塗装時の固形分濃度Cを求めた。
塗装時の固形分濃度C(質量%)=100×(W-W)/(W-W
【0135】
[評価]
前記実施例および比較例で調製したクリヤー塗料組成物を用いて、下記評価を実施した。評価結果を表2~表4に示す。
【0136】
(1)塗膜平滑性
(a)試験板Aの作製
リン酸亜鉛処理した厚み0.8mm、縦30cm、横40cmのダル鋼板に、カチオン電着塗料「パワートップU-50」(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けた。
【0137】
得られた塗板に、粘度25秒(No.4フォードカップを使用し、20℃で測定)に希釈されているグレー中塗り塗料「オルガOP-30」(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製ポリエステル・メラミン系塗料)を、乾燥膜厚35μmとなるようにエアスプレーで2ステージ塗装し、140℃で30分間、焼き付けた。
【0138】
得られた塗板に、水性ベース塗料を、室温23℃、湿度68%の条件下で乾燥膜厚15μmになるように、カートリッジベルで2段階塗装した。1回目と2回目との塗装の間に、1分30秒間のインターバルを設けた。2回目の塗装後、1分30秒間のセッティングを行った。続いて、80℃で5分間のプレヒートを行って、未硬化の第1ベース塗膜を形成した。
【0139】
前記の水性ベース塗料として、商品名「アクアレックスAR-3000(黒色)」、着色顔料として黒色顔料を含む、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製の水性塗料を、脱イオン交換水を用いて粘度6,000mPa・s(B型粘度計を使用し、6rpmの条件にて、20℃で測定)に希釈したものを用いた。
【0140】
得られた未硬化の第1ベース塗膜の上に、水性メタリックベース塗料を、カートリッジベルで2段階塗装した。1回目と2回目との塗装の間に、1分30秒間のインターバルを設けた。2回目の塗装後、1分30秒間のセッティングを行った。続いて、80℃で5分間のプレヒートを行って、未硬化の第2ベース塗膜を形成した。
【0141】
前記の水性メタリックベース塗料として、商品名「アクアレックスAR-3000(メタリック)」、アルミニウム顔料を含む、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製の水性塗料組成物を用いた。
【0142】
次いで、得られた塗板に、前記のクリヤー塗料組成物を、乾燥膜厚35μmとなるように1ステージ塗装し、7分間セッティングした。次いで、乾燥機で140℃、30分間の焼き付けを行って、複層塗膜を有する試験板Aを得た。
【0143】
(b)LW値の測定および評価
「ウエーブスキャン DOI」(BYK Gardner社製)を用いて、試験板Aの、Long Wave(LW)値(測定波長:1,300~12,000μm)を測定し、得られた塗膜の平滑性について、下記基準により評価を行った。このLW値が小さいほど、塗膜の平滑性が高いことを意味する。
【0144】
(評価基準)
A:LW値が10以下
C:LW値が10を超える
【0145】
(2)耐色戻り性
多角度分光測色計「MA-68II」(商品名、X-Rite社製)を用いて、前記と同様にして作成された試験板Aの、入射角45度における受光角15度のL値(L 15値)および受光角110度のL値(L 110値)を測定し、FF値(=L 15値/L 110値)を求めた。算出されたFF値を用いて、下記基準により評価を行った。FF値が大きいほど、耐色戻り性に優れている。
【0146】
(評価基準)
A:FF値が5.5以上である
B:FF値が5.0以上5.5未満である
C:FF値が5.0未満である
【0147】
(3)ポットライフ
前記で調製された主剤および硬化剤を、ディスパーにて1分混合し、得られた混合物を20℃に調温した。主剤と硬化剤との混合開始から5分以内に、フォードカップNo.4を用いて、20℃における初期粘度Vを測定した。続いて、この混合物を標準状態(23℃、湿度68%)にて1時間静置した。その後、混合物を20℃に調温し、フォードカップNo.4を用いて、20℃における粘度Vを測定した。
【0148】
下記の式を用いて増粘割合を算出し、下記基準により評価を行った。増粘割合が低いほど、ポットライフが長い。
増粘割合(%)=100×(V-V)/V
【0149】
(評価基準)
A:増粘割合が25%未満
B:増粘割合が25%以上40%未満
C:増粘割合が40%以上
【0150】
(4)清掃容易性
ガラス板に対して、クリヤー塗料組成物を、下記手順および条件でスプレー塗装し、スプレー塗装における塗料飛散様物(ダスト)をガラス板に付着させた。次いで、下記手順により、ダスト吹きでガラス板に付着した塗料飛散様物のふき取りを行い、清掃容易性を下記基準により評価した。
【0151】
<エアスプレー塗装条件>
吐出:全閉から2回転戻し
エア圧:0.25MPa
【0152】
<塗装方法>
略垂直に保持した状態の被塗物に対して、以下の手順で塗装を行った。
手順1.ガラス板から斜め45°ガン距離150cmの位置に立ち、10秒間ダスト吹きを行う。
手順2.室温(23℃)で10秒間乾燥させる
手順3.手順1及び手順2を計5回行った後、室温(23℃)で24時間静置する。
手順4.静置後に、上記手順でガラス板に付着した塗料飛散様物を、ウエスを用いて拭き取り、下記基準で評価する。
【0153】
評価基準
A:容易に拭き取ることができる
B:(洗浄シンナー)を用いて拭き取ることができる
C:塗料飛散様物の試験板上での固化が進んでおり、(洗浄シンナー)を用いても拭き取りが困難である
【0154】
【表2】
【0155】
【表3】
【0156】
【表4】
【0157】
実施例のクリヤー塗料組成物はいずれも、耐色戻り性が良好であり、得られた塗膜の外観が良好であった。そして、高固形分塗料組成物でありながら清掃容易性が良好であった。
【0158】
比較例1は、有機溶媒(C)のアルコール溶媒として第3級アルコールが含まれる例である。この例では、清掃容易性が十分に満足できるものではなかった。
比較例2は、2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)を含まない例であり、得られた塗膜の耐色戻り性が十分に満足できるものではなかった。
比較例3は、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)を含まない例であり、得られた塗料組成物のポットライフおよび得られた塗膜の外観(塗膜平滑性)が十分に満足できるものではなかった。
比較例4は、2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)の重量平均分子量が6,000に満たない樹脂を用いた例であり、得られた塗膜の耐色戻り性が十分に満足できるものではなかった。
【0159】
本開示は以下の態様を含む。
[1]
水酸基含有アクリル樹脂(A)と、
ポリイソシアネート化合物(B)と、
有機溶媒(C)と、を含み、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A)は、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)および2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)を含み、
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)は、重量平均分子量が6,000以下であり、
前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、重量平均分子量が6,000以上であり、
前記有機溶媒(C)は、炭素数1~8の直鎖状第1級アルコール、炭素数3~8の分枝状第1級アルコール、炭素数1~8の直鎖状第2級アルコールおよび炭素数3~8の分枝状第2級アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種のアルコール溶媒を含み、
塗装時の固形分濃度が55質量%以上である、クリヤー塗料組成物。
[2]
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)は、酸価が0mgKOH/g以上40mgKOH/g以下である、[1]のクリヤー塗料組成物。
[3]
前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、酸価が0mgKOH/g以上40mgKOH/g以下である、[1]または[2]のクリヤー塗料組成物。
[4]
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)のガラス転移温度Tg(A1)は-20℃以上60℃以下である、[1]~[3]いずれかのクリヤー塗料組成物。
[5]
前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)のガラス転移温度Tg(A2)は-30℃以上35℃以下である、[1]~[4]いずれかのクリヤー塗料組成物。
[6]
前記有機溶媒(C)はさらにケトン化合物を含む、[1]~[4]いずれかのクリヤー塗料組成物。
[7]
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)の含有量と、前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)の含有量との質量比(A1)/(A2)は、1/99~80/20である、[1]~[6]いずれかのクリヤー塗料組成物。
[8]
前記アルコール溶媒は、
炭素数3~5の直鎖状第1級アルコールおよび炭素数3~5の分枝状第1級アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[7]いずれかのクリヤー塗料組成物。
[9]
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)の重量平均分子量が、3,000以上6,000以下である、[1]~[8]いずれかのクリヤー塗料組成物。
[10]
前記有機溶媒(C)はさらに、モノカルボン酸エステル、二塩基性エステル化合物、セロソルブ、カルビトールよりなる群から選択される少なくとも1種の有機溶媒であって、沸点が200℃以上である有機溶媒、を含む、[1]~[9]いずれかのクリヤー塗料組成物。
[11]
被塗物上にベース塗料組成物を塗装して、未硬化のベース塗膜を形成する工程と、
前記未硬化のベース塗膜にクリヤー塗料組成物を塗装して、未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程と、
前記未硬化のベース塗膜および前記未硬化のクリヤー塗膜を同時に硬化させる工程と、を備え、
前記クリヤー塗料組成物は、
水酸基含有アクリル樹脂(A)と、
ポリイソシアネート化合物(B)と、
有機溶媒(C)と、を含み、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A)は、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)および2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)を含み、
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)は、重量平均分子量が6,000以下であり、
前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、重量平均分子量が6,000以上であり、
前記有機溶媒(C)は、炭素数1~8の直鎖状第1級アルコール、炭素数3~8の分枝状第1級アルコール、炭素数1~8の直鎖状第2級アルコールおよび炭素数3~8の分枝状第2級アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種のアルコール溶媒を含み、
塗装時の固形分濃度が55質量%以上である、
塗装物品の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明のクリヤー塗料組成物は、優れた耐色戻り性を有する塗膜が得られ、かつ、高固形分でありながら塗装作業性に優れたクリヤー塗料組成物である。そのため、種々のクリヤー塗膜、特に自動車用のクリヤー塗膜の形成に好適に用いられる。
【要約】
【課題】優れた耐色戻り性を有する塗膜が得られ、かつ、高固形分でありながら塗装作業性に優れたクリヤー塗料組成物を提供する。
【解決手段】水酸基含有アクリル樹脂(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)と、有機溶媒(C)と、を含み、前記水酸基含有アクリル樹脂(A)は、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)および2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)を含み、前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)は、重量平均分子量が6,000以下であり、前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、重量平均分子量が6,000以上であり、前記有機溶媒(C)は特定の第1級アルコールおよび/または第2級アルコールを含み、塗装時の固形分濃度が55質量%以上である、クリヤー塗料組成物。
【選択図】なし