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特許7439257塗料艶消し用表面処理含水ケイ酸及びその製造方法
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  • 特許-塗料艶消し用表面処理含水ケイ酸及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】塗料艶消し用表面処理含水ケイ酸及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20240219BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240219BHJP
   C09D 7/42 20180101ALI20240219BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20240219BHJP
   C09C 1/30 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/00 Z
C09D7/42
C09D7/62
C09C1/30
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022528737
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2021019277
(87)【国際公開番号】W WO2021246191
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2022-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2020096610
(32)【優先日】2020-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228903
【氏名又は名称】東ソー・シリカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】古城 大祐
(72)【発明者】
【氏名】中上 英紀
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-528528(JP,A)
【文献】特開平08-245835(JP,A)
【文献】特開2002-201380(JP,A)
【文献】特開2004-099435(JP,A)
【文献】特開平04-202008(JP,A)
【文献】特表2016-525158(JP,A)
【文献】特開2005-307158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/00-3/12
C09D 1/00-10/00,
101/00-201/10
C01B 33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ケイ素化合物残基で表面処理された含水ケイ酸であり、
(1) 前記有機ケイ素化合物残基はビニル基、メタアクリロイル基、及びアクリロイル基からなる群から選ばれた少なくとも1種類の官能基を有し、
(2) M値が0vol%であり、
(3) 炭素分析装置で測定される炭素量が0.5~6質量%の範囲であり、かつ
(4) 2質量%の濃度でトルエンに分散し、20℃で24時間経過前後の炭素分析装置で測定される炭素量の比率(但し、経過前の炭素量を100%とする)で表される有機ケイ素化合物残基と含水ケイ酸の結合率が95%以上であり、
(5) レーザー回折法で測定される体積平均粒子径D50値が1~20μmの範囲である、塗料艶消し用表面処理含水ケイ酸。
【請求項2】
蛍光X線定量分析で測定されるアルミニウム量がAl23換算で0.1~1.5質量%の範囲である、請求項1に記載の表面処理含水ケイ酸。
【請求項3】
レーザー回折法で測定された最大粒子径が5~70μmである請求項1または2に記載の表面処理含水ケイ酸。
【請求項4】
レーザー回折法で測定されたD90値とD50値との比D90/D50が1.8未満である請求項1~3のいずれか1項に記載の表面処理含水ケイ酸。
【請求項5】
DBA吸着量が30mmol/kg以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の表面処理含水ケイ酸。
【請求項6】
含水ケイ酸とシランカップリング剤を混合した後に、水の存在下、80~200℃の範囲の温度で加熱して、前記シランカップリング剤由来の有機ケイ素化合物残基で表面処理された含水ケイ酸を得ることを含み、前記有機ケイ素化合物残基は、ビニル基、メタアクリロイル基、及びアクリロイル基からなる群から選ばれた少なくとも1種類の官能基を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の表面処理含水ケイ酸の製造方法。
【請求項7】
前記含水ケイ酸は、レーザー回折法で測定される体積平均粒子径D50値が1~20μmの範囲である請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記加熱は、含水ケイ酸100質量部に対して0.05~15質量部の水の存在下、乾式処理で行う、請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記加熱は、減圧条件下で行う、請求項6~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料やインキ等(以下、これらを総称して塗料とする)の艶消しに使用される表面処理された含水ケイ酸に関する。より具体的には、本発明は、反応性官能基を持った表面処理剤が含水ケイ酸表面に十分に結合することで、優れた耐傷性と艶消し性能をバランスよく発揮できる、新規な艶消し用表面処理含水ケイ酸を提供する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年6月3日出願の日本特願2020-096610号の優先権を主張し、その全記載は、ここに特に開示として援用される。
【背景技術】
【0003】
艶消し塗膜は、高級感のある見た目や被塗物表面の成型ムラや傷を隠せる効果を有することから使用されてきた。また、粉砕・分級等によりミクロンサイズに粒度分布が制御された含水ケイ酸は、塗料の艶消し剤として従来から使用されている。含水ケイ酸は、ハンドリングや艶消し性能に優れることから艶消し剤として好適である。
【0004】
艶消し塗膜は外観を重視する部分に使われることが多い為、外観の悪化等につながる傷に対しても強いことが求められる。このような要求の高まりとともに耐傷性に優れるエネルギー線硬化型を始めとする架橋型あるいは重合型の塗料の適応範囲が広がってきた。
【0005】
架橋型あるいは重合型の塗料としては、エポキシ樹脂塗料、アミノアルキド樹脂塗料、フェノール樹脂塗料、熱硬化アクリル樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料、UVやEB硬化型塗料が例として挙げられる。これらの塗料は、熱、触媒、エネルギー線等により硬化する塗料であることから、硬化の際、塗料樹脂分子同士が直接、あるいは架橋剤を介して結合することで強固な塗膜を形成する。
【0006】
塗料への耐傷性向上の要求が高まる中、配合される艶消し剤に対しても耐傷性が要求されている。含水ケイ酸も表面処理等による耐傷性改良が進められてきた。特許文献1では結晶化度50%以上のワックスを表面処理することにより、塗膜の耐傷性を向上させている。特許文献2では濃密な非晶質含水ケイ酸のコアに嵩高な非晶質含水ケイ酸のシェルを持たせることで、耐傷性及び艶消し性能のバランスに優れた含水ケイ酸粒子を作り、更にそれに対してワックスを処理することでより耐傷性に優れた含水ケイ酸を得ている。
【0007】
特許文献1:日本特表2010-521539号公報(WO2008/068003)
特許文献2:日本特開平11-60231号公報(EP0884277 A1)
特許文献1及び2の全記載は、それぞれ、ここに特に開示として援用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び2では、含水ケイ酸にワックスを表面処理することで塗膜の耐傷性を向上させている。しかし、ワックスと含水ケイ酸が結合しておらず、塗料配合時にシェアがかかることで塗料温度が上昇し、塗料中でワックスが溶出する可能性がある。特許文献2のように密な凝集構造を持つ含水ケイ酸を配合することによる耐傷性の改良は、一定の効果は見込まれる。しかし、塗料樹脂と含水ケイ酸界面の密着性向上や含水ケイ酸の脱落防止について改善の余地がある。
【0009】
含水ケイ酸の表面処理として、ジメチルシリコーンオイル等による疎水化処理も知られており、ワックスに比べ塗料への溶出も少ない為ブリードの可能性は低い。しかし、ジメチルシリコーンオイル等は塗料樹脂成分と相互作用せず、結合も作らない為、耐傷性の面では向上効果は期待できない。
【0010】
そこで本発明者らは、塗料中への溶出が少ない事、塗料樹脂成分との密着性が高く、塗膜から含水ケイ酸が脱落しにくい事を主眼に艶消し性能と耐傷性のバランスに優れる艶消し用含水ケイ酸の提供について鋭意検討を行った。
【0011】
その結果、塗料の樹脂成分と相互作用若しくは結合を作る官能基を持ち、含水ケイ酸表面とも結合する表面処理剤を95%以上含水ケイ酸と結合させること、及び表面処理剤の量を得られる表面処理含水ケイ酸のM値が0vol%となり、かつ所定の耐傷性を有するように調整することで、艶消し性能が高く、耐傷性と表面処理剤溶出の低減を両立できることを見出した。これにより、艶消し性能及び耐傷性に優れ、かつ表面処理剤溶出を低減し、外観不良を起しにくい艶消し用表面処理含水ケイ酸を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の通りである。
[1]
有機ケイ素化合物残基で表面処理された含水ケイ酸であり、
(1) 前記有機ケイ素化合物残基はアミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、ビニル基、メタアクリロイル基、及びアクリロイル基からなる群から選ばれた少なくとも1種類の官能基を有し、
(2) M値が0vol%であり、
(3) 炭素分析装置で測定される炭素量が0.5~6質量%の範囲であり、かつ
(4) 2質量%の濃度でトルエンに分散し、20℃で24時間経過前後の炭素分析装置で測定される炭素量の比率(但し、経過前の炭素量を100%とする)で表される有機ケイ素化合物残基と含水ケイ酸の結合率が95%以上である、塗料艶消し用表面処理含水ケイ酸。
[2]
前記有機ケイ素化合物残基はビニル基、メタアクリロイル基、及びアクリロイル基からなる群から選ばれた少なくとも1種類の官能基を有する、[1]に記載の表面処理含水ケイ酸。
[3]
蛍光X線定量分析で測定されるアルミニウム量がAl換算で0.1~1.5質量%の範囲である、[1]または[2]に記載の表面処理含水ケイ酸。
[4]
レーザー回折法で測定される体積平均粒子径D50値が1~20μmの範囲である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の表面処理含水ケイ酸。
[5]
レーザー回折法で測定された最大粒子径が5~70μmである[1]~[4]のいずれか1項に記載の表面処理含水ケイ酸。
[6]
レーザー回折法で測定されたD90値とD50値との比D90/D50が1.8未満である[1]~[5]のいずれか1項に記載の表面処理含水ケイ酸。
[7]
DBA吸着量が30mmol/kg以上である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の表面処理含水ケイ酸。
[8]
含水ケイ酸とシランカップリング剤を混合した後に、水の存在下、80~200℃の範囲の温度で加熱して、前記シランカップリング剤由来の有機ケイ素化合物残基で表面処理された含水ケイ酸を得ることを含み、前記有機ケイ素化合物残基は、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、ビニル基、メタアクリロイル基、及びアクリロイル基からなる群から選ばれた少なくとも1種類の官能基を有する、[1]~[7]のいずれか1項に記載の表面処理含水ケイ酸の製造方法。
[9]
前記含水ケイ酸は、レーザー回折法で測定される体積平均粒子径D50値が1~20μmの範囲である[8]に記載の製造方法。
[10]
前記加熱は、含水ケイ酸100質量部に対して0.05~15質量部の水の存在下、乾式処理で行う、[8]又は[9]に記載の製造方法。
[11]
前記加熱は、減圧条件下で行う、[8]~[10]のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、艶消し性能及び耐傷性に優れ、かつ表面処理剤溶出を低減し、外観不良を起しにくい艶消し用表面処理含水ケイ酸を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例1における耐傷試験(帆布6号 5,000往復)後の塗膜状態の超深度形状測定顕微鏡写真を示す。
図2図2は、参考例4における耐傷試験(帆布6号 5,000往復)後の塗膜状態の超深度形状測定顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<表面処理含水ケイ酸>
本発明の表面処理含水ケイ酸は、有機ケイ素化合物残基で表面処理された含水ケイ酸であり、
(1) 前記有機ケイ素化合物残基はアミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、ビニル基、メタアクリロイル基、及びアクリロイル基からなる群から選ばれた少なくとも1種類の官能基を有し、
(2) M値が0vol%であり、
(3) 炭素分析装置で測定される炭素量が0.5~6質量%の範囲であり、かつ
(4) 2質量%の濃度でトルエンに分散し、20℃で24時間経過前後の炭素分析装置で測定される炭素量の比率(但し、経過前の炭素量を100%とする)で表される有機ケイ素化合物残基と含水ケイ酸の結合率が95%以上である、塗料艶消し用表面処理含水ケイ酸である。
【0016】
本発明の有機ケイ素化合物残基で表面処理される含水ケイ酸は、湿式法で製造される含水ケイ酸である。含水ケイ酸には特に制限はない。湿式法で製造される含水ケイ酸は沈澱法含水ケイ酸とゲル法含水ケイ酸のどちらも包含する。但し、塗料艶消し用とするために好ましい特性はあり、それら好ましい特性については後述する。
【0017】
(1)有機ケイ素化合物残基
有機ケイ素化合物残基は、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、ビニル基、メタアクリロイル基、及びアクリロイル基からなる群から選ばれた少なくとも1種類の官能基を有する。後述するが、本発明の含水ケイ酸を表面処理する有機ケイ素化合物残基は、シランカップリング剤に由来する。シランカップリング剤は2種以上の異なる官能基を有し、1つの官能基は加水分解してシラノール基を持つ加水分解中間体となる。加水分解中間体のシラノール基は含水ケイ酸上のシラノール基と反応して、有機ケイ素化合物残基を含水ケイ酸表面に固定する。残りの官能基の一部またはすべては、上記アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、ビニル基、メタアクリロイル基、及びアクリロイル基からなる群から選ばれた少なくとも1種類の官能基であり、これらの官能基は、塗料に含まれる有機化合物と反応性を有する。そのため、塗料の樹脂と相互作用若しくは結合を作り、含水ケイ酸と樹脂を密着させ耐傷性向上や含水ケイ酸粒子の脱落防止が期待できる。これらの官能基は、塗料に含まれる有機化合物との反応性を考慮して適宜決定できる。これらの官能基は、好ましくはアミノ基、エポキシ基、ビニル基、メタアクリロイル基、アクリロイル基であり、より好ましくはビニル基、エポキシ基、メタアクリロイル基、アクリロイル基であり、さらに好ましくは、ビニル基、メタアクリロイル基、及びアクリロイル基からなるエチレン性二重結合を有する官能基である。最も好ましくはメタアクリロイル基及びアクリロイル基である。
【0018】
(2)M値
本発明の表面処理含水ケイ酸は、M値が0vol%である。M値の測定方法は実施例で説明する。M値は、5vol%の間隔でメタノールの濃度を変化させた水との混合溶液に所定量の表面処理含水ケイ酸試料を入れ、振り混ぜ静置後に混合溶液が懸濁する最小のメタノールの濃度で示される。M値が0vol%であることは、メタノールを含有しない水にも懸濁することを意味する。すなわち、M値が0vol%であることは、含水ケイ酸表面が親水性を維持しているか、もしくは、疎水化された表面に親水性部分が一定量存在し、完全には疎水化されていないことを意味する。本発明の表面処理含水ケイ酸は上記のうちの後者である。そのため、塗料に配合した際、艶消し性能を発揮し、沈降安定性も良好である。M値が0vol%を超え、例えば、5vol%以上の疎水性となると、塗料中でフロキュレートを作りにくい為、塗膜表面に凹凸を作れず艶消し性能が低下する。さらに、沈降安定性が低下し、再分散不可能なハードケークを形成する傾向がある。
【0019】
(3)炭素量
本発明の表面処理含水ケイ酸は、炭素分析装置で測定される炭素量が0.5~6質量%の範囲である。炭素分析装置で測定される炭素は、主に、表面処理剤として使用した有機ケイ素化合物残基に由来する。炭素量がこの範囲であることで、有機ケイ素化合物残基により含水ケイ酸表面を効果的に被覆でき、耐傷性向上効果が大きくなる。炭素量が0.5質量%未満では、表面処理量が少なく耐傷性向上効果が十分に得られない。炭素量が6質量%を超えると、有機ケイ素化合物残基の被覆が過剰となり、含水ケイ酸の表面と未反応の表面処理剤が多くなる。その結果、表面処理剤の表面処理含水ケイ酸から塗膜へのブリードや、塗膜発泡による外観悪化を呈し、あるいは艶消し性能を低下させる懸念がある。炭素量は、好ましくは0.6~5.8質量%の範囲、より好ましくは0.7~5.5質量%の範囲である。
【0020】
(4)結合率
本発明の表面処理含水ケイ酸は、2質量%の濃度でトルエンに分散し、20℃で24時間経過前後の炭素分析装置で測定される炭素量の比率で表される有機ケイ素化合物残基と含水ケイ酸の結合率が95%以上である。但し、経過前、すなわちトルエンへの溶出試験前の表面処理含水ケイ酸中の炭素量を100%とする。結合率は、含水ケイ酸に化学的に結合している有機ケイ素化合物残基の割合を示し、95%以上では、表面処理剤由来の有機ケイ素化合物残基のほとんどが含水ケイ酸と結合している。その結果、塗料に配合した際、塗膜中に表面処理剤が遊離して塗膜の外観を悪化させることが無く、耐傷性に優れた塗膜を形成する。結合率が95%未満の場合、処理剤の遊離による外観の悪化や耐傷性効果が低下する。結合率は、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上である。
【0021】
(5)アルミニウム量
本発明の表面処理含水ケイ酸は、蛍光X線定量分析で測定されるアルミニウム量がAl換算で0.1~1.5%(質量基準)の範囲であることが好ましい。この範囲にあることで、含水ケイ酸表面に存在する固体酸が多くなり、表面処理剤であるシランカップリング剤との反応性が高くなり、有機ケイ素化合物残基による被覆量が同じであっても、結合率が高い表面処理含水ケイ酸を得ることができる。アルミニウム量がAl換算で0.1%以上であれば、表面処理剤との反応性は良好である。含水ケイ酸中のアルミニウム量が増すと、含水ケイ酸の凝集性が強くなる傾向がある。アルミニウム量がAl換算で1.5%以下であれば、凝集性による塗膜表面への凝集塊の出現による塗膜外観の悪化を回避できる。アルミニウム量はAl換算で、好ましくは0.2~1.3%の範囲、より好ましくは0.3~1.1%の範囲である。
【0022】
(6)体積平均粒子径D50値
本発明の表面処理含水ケイ酸は、レーザー回折法で測定される体積平均粒子径D50値が1~20μmの範囲であることが好ましい。D50値がこの範囲であることで、十分な艶消し性能を発揮する。D50値が1μm未満では、粒子径が小さすぎ、艶消し性能が十分に得られにくい傾向がある。体積平均粒子径D50値が20μmを超えると、塗料に用いた場合、艶消し面が荒すぎるため、外観が悪化する場合がある。D50値は、好ましくは1~18μm、より好ましくは1~16μm、さらに好ましくは1~14μm、最も好ましくは1.5~10μmの範囲である。
【0023】
(7)最大粒子径
本発明の表面処理含水ケイ酸は、レーザー回折法で測定された最大粒子径が5~70μmの範囲であることが好ましい。最大粒子径がこの範囲であれば、粒子が荒すぎず、塗膜にしたときの外観に優れる。最大粒子径が5μm以上であれば、十分な艶消し性能が得られ、最大粒子径が70μm以下であれば、粒子が荒すぎることによる外観不良を回避できる。最大粒子径は、好ましくは6~65μm、より好ましくは7~60μmである。
【0024】
(8)D90/D50
本発明の表面処理含水ケイ酸は、レーザー回折法で測定されたD90値とD50値との比D90/D50が1.8未満であることが好ましい。D90/D50が1.8未満である表面処理含水ケイ酸は、粒度分布がシャープで艶消し性能に優れる。D90/D50は、好ましくは1.7未満である。
【0025】
(9)DBA吸着量
本発明の表面処理含水ケイ酸は、DBA吸着量が30mmol/kg以上であることが好ましい。DBA吸着量が30mmol/kg以上の表面処理含水ケイ酸は、表面処理が適正であり、外観の悪化や艶消し性能の低下が見られない。DBA吸着量は、好ましくは40mmol/kg以上、より好ましくは50mmol/kg以上、さらに好ましくは60mmol/kg以上、最も好ましくは80mmol/kg以上である。
【0026】
本発明の表面処理含水ケイ酸は、塗料の艶消し用である。塗料の樹脂と相互作用若しくは結合を作る表面処理剤が十分に含水ケイ酸と結合し、塗料へ溶出しないことで、塗膜の外観を損なわず、耐傷性を大きく向上させることを最大の特徴としている。
【0027】
本発明の艶消し用表面処理含水ケイ酸は塗料の種類を問わず使用することができる。特に好ましいのは、UV(紫外線)、EB(電子線)のようなエネルギー線硬化型塗料に使用することであり、これらの塗料で本発明の表面処理含水ケイ酸を使用すれば、より顕著に耐傷性が向上した塗膜を実現できる。
【0028】
<製造方法>
本発明の表面処理含水ケイ酸は、含水ケイ酸とシランカップリング剤を混合した後に、含水ケイ酸100質量部に対して0.05~15質量部の水を添加し、減圧条件下で80~200℃の範囲の温度で加熱して、有機ケイ素化合物残基で表面処理された含水ケイ酸を得ることを含む方法で製造される。
【0029】
原料として用いられる含水ケイ酸は前述と同様であり、湿式法で製造される含水ケイ酸であれば、特に制限はないが、本発明の表面処理含水ケイ酸が艶消しに用いられることを考慮すると、BET比表面積は50~600m/gの範囲であることが適当である。また、原料として用いられる含水ケイ酸は、レーザー回折法で測定される体積平均粒子径D50値が1~20μmの範囲であることが、同様の体積平均粒子径D50値を有する表面処理含水ケイ酸を得るという観点から好ましい。
【0030】
シランカップリング剤は、有機ケイ素化合物残基の前駆体である。表面処理された含水ケイ酸が有する有機ケイ素化合物残基は、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、ビニル基、メタアクリロイル基、及びアクリロイル基からなる群から選ばれた少なくとも1種類の官能基を有する。シランカップリング剤も同様の官能基を有する。
【0031】
本発明者らの実験によれば、上記の中でも、エチレン性の二重結合を有するビニル基、メタアクリロイル基、アクリロイル基を有するシランカップリング剤に由来する有機ケイ素化合物残基で表面処理した含水ケイ酸が最も優れた耐傷性効果を示した。中でもメタアクリロイル基、アクリロイル基を有するシランカップリング剤に由来する有機ケイ素化合物残基で表面処理した含水ケイ酸が顕著に優れた耐傷性効果を発揮した。
【0032】
アミノ基を含有するシランカップリング剤としては、例えば、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0033】
エポキシ基を含有するシランカップリング剤としては、例えば、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0034】
イソシアネート基を含有するシランカップリング剤としては、例えば、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0035】
ビニル基を含有するシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが挙げられる。
【0036】
メタアクリロイル基を含有するシランカップリング剤としては、例えば、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0037】
アクリロイル基を含有するシランカップリング剤としては、例えば、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0038】
上記群以外の官能基を持つシランカップリング剤としては、スルフィド基、フェニル基、メルカプト基等を持つものがある。しかし、これらの官能基は、塗料に含まれる有機化合物と反応性を有さない。そのため、これらの官能基を有するシランカップリング剤は塗料の樹脂と相互作用若しくは結合を作らず、表面処理をしても耐傷性向上や含水ケイ酸粒子の脱落防止は期待できない。
【0039】
また、有機ケイ素化合物という点からは、表面処理剤としてシリコーンオイル等を使用することも考えられる。しかし、一般的に含水ケイ酸の疎水化剤として使用されるストレートシリコーンオイルは、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、ビニル基、メタアクリロイル基、及びアクリロイル基を持たない。そのため、ストレートシリコーンオイルで表面処理しても、塗料の樹脂と相互作用若しくは結合を作らず、耐傷性向上や含水ケイ酸粒子の脱落防止は期待できない。また、一部を反応性官能基に置換した変性シリコーンオイルの場合、アミノ基やエポキシ基を持つものがある。しかし、分子中の反応性官能基の割合が制限されており、塗料の樹脂と相互作用や結合をする点が少ないことや含水ケイ酸と結合する基がなく、含水ケイ酸との結合率を上げることが難しい。そのため、変性シリコーンオイルの場合も、シランカップリング剤を使用した場合と比較して、耐傷性向上や含水ケイ酸粒子の脱落防止の効果は限定的である。
【0040】
シランカップリング剤と含水ケイ酸(粉体)との混合は、例えば、含水ケイ酸に適量のシランカップリング剤を添加することが適当である。添加は、含水ケイ酸が静置状態であっても、混合状態であってもよいが、混合状態での添加がシランカップリング剤を含水ケイ酸中に均一に混合できるという観点で好ましい。シランカップリング剤の添加方法としては、滴下、スプレー噴霧等が好適であり、スプレー噴霧がより好ましい。
【0041】
含水ケイ酸とシランカップリング剤の混合物への水の添加は、前記混合物が静置状態であっても、混合状態であってもよいが、混合状態での添加が水を混合物中に均一に添加できるという観点で好ましい。水の添加方法としては、滴下、スプレー噴霧等が好適であり、スプレー噴霧がより好ましい。シランカップリング剤の添加後、及び/又は水の添加後、さらに混合することもできる。
【0042】
含水ケイ酸とシランカップリング剤の混合方法、及びそれらと水との混合方法としては、均一混合が可能な方法であれば制限はない。例えば、FMミキサー(ヘンシェルミキサー)、アキシャルミキサー等のブレードが回転するタイプの混合機を用いる混合方法が好適である。
【0043】
本発明の製造方法では、シランカップリング剤と水の添加順序は重要であり、含水ケイ酸にシランカップリング剤を添加した後に、水を添加する。シランカップリング剤を先に添加することで含水ケイ酸表面付近への吸着を促進する。その後に水を加えることで含水ケイ酸表面に近い位置に存在するシランカップリング剤での加水分解反応を促進できる。その結果、含水ケイ酸とシランカップリング剤の結合率を高めることができる。
【0044】
水の添加量は、例えば、含水ケイ酸100質量部に対して0.05~15質量部の範囲が好適である。0.05質量部未満では水の添加量が少なく効果が不十分となる場合がある。水の添加量が15質量部を超えると、添加量が多すぎる為、水分による含水ケイ酸の凝集塊が形成される場合があり、塗膜外観が悪化することがある。水の添加量は、好ましくは0.1~12質量部、より好ましくは0.15~10質量部、さらに好ましくは0.2~8質量部の範囲である。
【0045】
水添加後に、80~200℃の範囲の温度で、乾式処理で加熱する。加熱には、各種静置、バッチ式混合乾燥器が好適に使用される。静置乾燥としては、箱型乾燥器、マッフル炉、連続式加熱炉等が好適である。バッチ式混合乾燥炉としては、FMミキサー、ネスコヒーター、アキシャルミキサー等が好適に使用される。加熱温度は80~200℃の範囲であり、100℃~180℃の範囲が好ましく、110~160℃の範囲がさらに好ましい。
【0046】
加熱は、減圧下で行うことが好ましい。減圧下で加熱することで、安全に十分な乾燥を行うことが出来る。減圧の圧力等に制限はないが、乾燥器内が加圧状態にならないよう排気する必要がある。また安全の為、加熱中に窒素等の不活性ガスを導入してもよい。
【0047】
加熱処理時間は、特に限定はないが、例えば、30分~12時間の範囲であることが、物性安定化と生産性の観点から好ましい。特に好ましくは45分~6時間の範囲である。加熱終了後、生成物は、自然放冷でもよいし、容器の水冷等による冷却を行ってもよい。
【0048】
熱処理後、粉砕分級を行い、粒度を調整してもよい。粉砕装置としては、特に限定はない。例えば、ジェットミルや衝撃式のピンミル等が好適に使用される。また分級機としても、特に限定はないが、例えば、風力分級機等が好適に使用される。
【0049】
以上の説明のように本発明の艶消し用表面処理含水ケイ酸は、塗料樹脂と相互作用(例えば、水素結合等の極性引力)もしくは結合を作る官能基を持つ。さらに、含水ケイ酸表面とも結合する表面処理剤を所定量用いたことにより、本発明の表面処理含水ケイ酸において、含水ケイ酸と表面処理剤との結合率が高いため、表面処理剤の含水ケイ酸からの遊離を低減できる。本発明の表面処理含水ケイ酸を艶消し剤として配合した塗膜は、優れた艶消し性能と耐傷性をバランスよく発揮し、かつ外観の悪化を起こさないものであることが期待できる。
【実施例
【0050】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0051】
M値測定方法
メタノールの濃度を0vol%から100vol%まで、5vol%の間隔で変化させた水との混合溶液を調製し、これを容積10mlの試験管に5ml入れる。次いで供試粉体である表面処理含水ケイ酸試料を0.1~0.2g入れ、振り混ぜ静置後、混合溶液が懸濁する最小のメタノールの濃度を観察し、これをM値とする。
【0052】
炭素量分析
表面処理含水ケイ酸試料の炭素量は、酸素気流中燃焼-非分散赤外線吸収法(堀場製作所社製 固体炭素分析装置 カーボンアナライザー EMIA-110)を用いて、1,250℃、酸素流入圧0.07MPa、測定時間90秒の条件で試料に加熱処理を行い、装置内の赤外線検出器(NDIR)でCOおよびCOガスを定量することにより、炭素量の測定を行った。
【0053】
結合した有機ケイ素化合物残基の測定(トルエンへの溶出試験)
表面処理含水ケイ酸試料1.0gをトルエン50gに添加し、ホモミキサーを用いて1,000rpm×30分の条件で分散を行った後、20℃24時間静置する。久保田製作所製 遠心分離機 テーブルトップ遠心機2420を用いて、3,000rpm×5分の条件で遠心分離を行った後、上澄み液を捨てる。再びトルエンを加えて表面処理含水ケイ酸試料をほぐした後、遠心分離を行う。再び上澄み液を捨て、n-ヘキサンを加えて表面処理含水ケイ酸試料をほぐした後に、遠心分離する操作を2回行う。上澄み液を捨てたのち、80℃の乾燥器で15時間以上乾燥し、残った固形分を溶出試験後の表面処理含水ケイ酸とし、炭素量分析を行った。
【0054】
結合率の算出
トルエン溶出試験前の表面処理含水ケイ酸中の炭素量および前記トルエン溶出試験後の表面処理含水ケイ酸中の炭素量から「数1」を用いて表面処理含水ケイ酸の結合率を算出した。
【数1】
【0055】
蛍光X線(アルミニウム量)分析
リガク社製 走査型蛍光X線分析装置 ZSX Primus IIを用いて、表面処理含水ケイ酸中のアルミニウム量を測定した。Al質量%濃度が既知である標準サンプルの蛍光X線強度測定を行い、Al元素の蛍光X線強度と濃度との間の関係を求め、表面処理含水ケイ酸の蛍光X線強度からAl元素の含有量(質量%濃度)を算出する、検量線法を用いてAl質量%濃度の定量分析を行った。定量したアルミニウム量を装置付属の解析ソフトで酸化物換算し、Al質量%濃度を算出した。測定試料は、表面処理含水ケイ酸をリング状の型に入れプレスする加圧成型法により作製した。
【0056】
粒子径(D50値、D90値、最大粒子径)
マイクロトラック・ベル社製 レーザー回折式粒度分布測定装置 マイクロトラックMT-3000IIを用いて、表面処理含水ケイ酸試料の粒度分布における体積積算値の50%の値(D50値)、下位から90%の値(D90値)、及び検出された最大粒子径を求めた。なお、溶媒としてイソプロピルアルコール(屈折率:1.38)を使用した。
【0057】
DBA吸着量
表面処理含水ケイ酸の乾燥試料250mgを精秤し、これに50mlのN/500のジ-n-ブチルアミン溶液(石油ベンジン溶媒)を加え、20℃で約2時間放置する。この上澄液25mlにクロロホルム5ml、指示薬(クリスタルバイオレット)2~3滴を加え、紫色が青色に変わるまでN/100-過塩素酸溶液(無水酢酸溶媒)で滴定し、この時の滴定値をAmlとする。別にブランクを行ないBmlとし、次式によってDBA吸着量を算出した。
DBA吸着量(mmol/kg)=80(B-A)f
ただし、fはN/100の過塩素酸溶液の力価。
【0058】
塗膜調製法(UV塗料試験)
塗料配合(質量基準)を表1に示す。
【表1】
オリゴマー:新中村化学工業社製 NKオリゴ UA-1100H(アクリロイル(アクリル)基及びウレタン基を含有)
モノマー:ダイセル・オルネクス社製 DPHA(アクリロイル(アクリル)基及びエーテル部位を含有)
光重合開始剤1:BASF社製 Ormirad 184
光重合開始剤2:BASF社製 Ormirad TPO H
レベリング剤:BYK Chemie社製 BYK-UV-3570
【0059】
ミキサー:プライミクス社製 ラボ・リューション
スプレーガン:アネスト岩田社製 重力型スプレーガン W-101-132G
UV照射装置:アイグラフィックス社製 アイグランデージ ECS-4011GX
光源として水銀ランプを使用した。
【0060】
配合手順
(1)配合物のうち(a)を200mlディスポーザブルカップに計量し、500rpmで5分混合する。
(2)配合物(b)を計量し、500rpmで攪拌中の(a)に投入する。
(3)粉体が塗料中に入り込んだら、回転数を1,000rpmに上昇させ、30分攪拌する。
【0061】
塗装手順
(1)スプレーガンに配合した塗料を充填する。
(2)ABS樹脂板(黒)に塗装する。
(3)5分室温で静置(セッティング)する。
(4)5分80℃のオーブンで乾燥する。
(5)UV照射装置にて出力2kw 照射距離200mm コンベア速度210cm/minの条件で2回UV照射を行い硬化させ、塗膜厚15μmの塗膜を得た。
【0062】
グロス値測定:日本電色工業社製 グロスメーター VG7000を使用し、60°グロス値を測定した。
【0063】
耐傷試験:テスター産業社製 学振式摩擦堅牢度試験機 AB-301を使用し、加重500g、帆布6号を用いて5,000往復後の塗膜状態を観察する。
キーエンス社製 超深度形状測定顕微鏡 VK8500を使用して試験前後の塗膜表面を観察し、倍率50倍でRz値(10点平均表面粗さ)を測定した。摩耗試験前後のRz値は各3箇所で測定し、平均したRzの差を|ΔRz|とした。
|ΔRz|の値が小さいほど耐傷性が良好であることを示す。
【0064】
外観:塗膜外観を目視で判断した。艶ムラ等がなく均一な外観のものをA、場所によって艶ムラ等の塗膜欠陥があるものをB、全体的に塗膜欠陥があるものをCとした。
【0065】
実施例1
原料である沈澱法含水ケイ酸としてNipsil E-220A(BET比表面積135m/g、体積平均粒子径D50値4.2μm)を500g使用した。含水ケイ酸100質量部に対し6質量部の、代表的な有機ケイ素化合物であるメタアクリロイル基含有シランカップリング剤(ダウ・東レ社製 OFS-6030)を、ハンドスプレーを用いて含水ケイ酸に噴霧した。表面処理剤の噴霧終了後、同様に含水ケイ酸に対して2質量部の水噴霧を行った。噴霧終了後、FMミキサーを用いて高速混合し、続いて箱型乾燥器を用いて、120℃、減圧条件で熱処理を2時間行った。熱処理終了後、自然放冷により室温まで冷却し、表面処理含水ケイ酸を得た。
【0066】
実施例1で調製した表面処理含水ケイ酸を用いて表1に示す組成のUV塗料を調製し、これを塗装手順に従ってABS樹脂板(黒)に塗布し、UV照射により硬化して塗装した。得られた塗膜の耐傷試験後の超深度形状測定顕微鏡写真を図1に示す。耐傷試験後もきれいな塗膜表面であることが分かる。
【0067】
実施例2
原料である沈澱法含水ケイ酸としてNipsil E-220A(BET比表面積135m/g、体積平均粒子径D50値4.2μm)を4.0kg使用し、含水ケイ酸100質量部に対し12質量部のメタアクリロイル基含有シランカップリング剤(信越化学社製 KBM-503)を用意した。杉山重工社製 アキシャルミキサー UA-10を用いて含水ケイ酸を混合しながら、含水ケイ酸にシランカップリング剤を噴霧した。表面処理剤の噴霧終了後、混合のみを行い、そのまま混合中に含水ケイ酸に対して6質量部の水噴霧を行った。表面処理剤の噴霧開始から30分混合を続け、続いてアキシャルミキサーのジャケットに蒸気を導入し、120℃、減圧条件で熱処理を1時間行った。熱処理終了後、ジャケットに冷却水を導入し、室温まで冷却し、表面処理含水ケイ酸を得た。
【0068】
実施例3
原料である沈澱法含水ケイ酸としてNipsil E-200A(BET比表面積130m/g、体積平均粒子径D50値5.6μm)を使用した以外実施例2と同様の方法で表面処理を行い、表面処理含水ケイ酸を得た。
【0069】
実施例4
原料である沈澱法含水ケイ酸としてNipsil E-150J(BET比表面積100m/g、体積平均粒子径D50値8.3μm)を使用し、含水ケイ酸100質量部に対し12質量部のアクリロイル基含有シランカップリング剤(信越化学社製 KBM-5103)を添加した以外、実施例1と同様の方法で、表面処理を行い、表面処理含水ケイ酸を得た。
【0070】
実施例5
原料であるゲル法含水ケイ酸としてNIPGEL BY-800(BET比表面積500m/g、体積平均粒子径D50値14.5μm)を使用し、含水ケイ酸100質量部に対し15質量部のメタアクリロイル基含有シランカップリング剤(KBM-503)を添加し、水の添加量を含水ケイ酸に対して10質量部とした以外実施例1と同様の方法で、表面処理を行い、表面処理含水ケイ酸を得た。
【0071】
参考例1
含水ケイ酸100質量部に対し20質量部のメタアクリロイル基含有シランカップリング剤(KBM-503)を添加した以外実施例3と同様の方法で表面処理を行い、表面処理含水ケイ酸を得た。炭素量が6.3質量%であり、表面処理が過剰であるため艶ムラがあり塗膜外観が悪化した。
【0072】
参考例2
含水ケイ酸100質量部に対し12質量部のメタアクリロイル基含有シランカップリング剤(KBM-503)を添加し、水を添加しなかった以外実施例1と同様の方法で表面処理を行い、表面処理含水ケイ酸を得た。減圧熱処理前に水を添加しなかったために結合率が低く、その結果、耐傷性が低かった。
【0073】
参考例3
原料である沈澱法含水ケイ酸としてNipsil E-220A(BET比表面積135m/g、体積平均粒子径D50値4.2μm)を4.0kg使用し、含水ケイ酸100質量部に対して6質量部の水を用意した。アキシャルミキサーを用いて含水ケイ酸を混合しながら、含水ケイ酸に水を噴霧した。水噴霧終了後、混合のみを行い、そのまま混合中に含水ケイ酸に対し12質量部のメタアクリロイル基含有シランカップリング剤(KBM-503)の噴霧を行った。水の噴霧開始から30分混合を続け、続いてアキシャルミキサーのジャケットに蒸気を導入し、120℃、減圧条件で熱処理を1時間行った。熱処理終了後、ジャケットに冷却水を導入し、室温まで冷却し、表面処理含水ケイ酸を得た。つまり、参考例3では、水を先に噴霧し、その後シランカップリング剤噴霧を行った点(添加順序違い)以外、実施例2と同様な方法で表面処理含水ケイ酸を得た。含水ケイ酸にシランカップリング剤を添加する前に水噴霧を行ったため、結合率が低く、実施例2と比べて耐摩耗性が悪化した。
【0074】
参考例4
塗料配合する際、表面処理含水ケイ酸を使わず、市販品Nipsil E-220A(BET比表面積135m/g、体積平均粒子径D50値4.2μm)と含水ケイ酸100質量部に対して6質量部のメタアクリロイル基含有シランカップリング剤(KBM-503)を直接塗料に添加して塗料を調製した。得られた塗料を用いて実施例1と同様に塗装した。その塗膜表面の耐傷試験後の超深度形状測定顕微鏡写真を図2に示す。塗膜表面から凹凸が無くなり、塗膜が削れている或いはシリカが脱落していることが分かる。
【0075】
実施例1~5、参考例1~4の含水ケイ酸の物性および塗膜調製法により作製した塗膜の評価結果を表2に示す。
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、表面処理含水ケイ酸に関連する塗料の分野に有用である。
図1
図2