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特許7439265低ケイ素低炭素当量ギガパスカル級多相鋼板/鋼帯及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】低ケイ素低炭素当量ギガパスカル級多相鋼板/鋼帯及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240219BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20240219BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/38
C21D9/46 T
C21D9/46 U
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022539208
(86)(22)【出願日】2020-12-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-08
(86)【国際出願番号】 CN2020141310
(87)【国際公開番号】W WO2021136355
(87)【国際公開日】2021-07-08
【審査請求日】2022-06-24
(31)【優先権主張番号】201911415229.0
(32)【優先日】2019-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 瀚 龍
(72)【発明者】
【氏名】孫 宜 強
(72)【発明者】
【氏名】毛 新 平
(72)【発明者】
【氏名】王 成
(72)【発明者】
【氏名】張 玉 龍
(72)【発明者】
【氏名】金 ▲シン▼ ▲イェン▼
(72)【発明者】
【氏名】汪 水 澤
(72)【発明者】
【氏名】王 利
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2013-0110638(KR,A)
【文献】国際公開第2015/129199(WO,A1)
【文献】特開2010-248579(JP,A)
【文献】国際公開第2014/132968(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/022043(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 9/46 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分重量百分率は、C:0.03~0.07%、Si:0.1~0.5%、Mn:1.7~2.0%、P≦0.02%、S≦0.01%、N≦0.01%、Al:0.01~0.05%、Cr:0.4~0.7%、B:0.001~0.005%、Ti:0.07~0.15%であり、さらに、Mo:0.15~0.4%又はNb:0.02~0.08%又はMo:0.15~0.4%及びNb:0.02~0.08%の両方を含み、残部は、Feと不可避不純物である;かつ同時に以下を満たすことを特徴とする低ケイ素低炭素当量多相鋼板又は鋼帯であって、前記鋼板又は鋼帯は、引張強度≧980MPa及び降伏強度≧780MPaを有し、元の穴が抜き穴である場合の穴拡げ率は50%超であり、元の穴がリーマ穴である場合の穴拡げ率は60%超であり、前記鋼板又は鋼帯の微細組織はフェライトおよび下部ベイナイトを含有し、フェライト含有量≦20%、フェライト+下部ベイナイト含有量≧95%である、前記多相鋼板又は鋼帯
有効なB*含有量≧0.001、有効なB*含有量=B-[Ti-3.4N-1.2(C-Nb/7.8)]/22;
CE<0.58、CE=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Si+Ni+Cu)/15。
【請求項2】
成分重量百分率で、前記のC含有量は、0.045~0.06%であることを特徴とする請求項1に記載された低ケイ素低炭素当量多相鋼板又は鋼帯。
【請求項3】
成分重量百分率で、前記のSi含有量は、0.15~0.27%であることを特徴とする請求項1に記載された低ケイ素低炭素当量多相鋼板又は鋼帯。
【請求項4】
成分重量百分率で、前記のB含有量は、0.002~0.004%であることを特徴とする請求項1に記載された低ケイ素低炭素当量多相鋼板又は鋼帯。
【請求項5】
前記多相鋼板又は鋼帯は、5%以下の炭素化物析出相、0.01%以下の他の介在物相、及び/又は0.5%以下のマルテンサイト相をさらに含有することを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載された低ケイ素低炭素当量多相鋼板又は鋼帯。
【請求項6】
前記鋼板又は鋼帯の微細組織は、さらにTiN粒子を含有し、且つ単一粒子の最長辺の長さ<8μm又は面積<50μmであることを特徴とする請求項に記載された低ケイ素低炭素当量多相鋼板又は鋼帯。
【請求項7】
フェライト晶粒平均直径<6μmで、又は粒度レベルASTMグレード判定>11.8であることを特徴とする請求項に記載された低ケイ素低炭素当量多相鋼板又は鋼帯。
【請求項8】
前記他の介在物相は、MnS、TiN、及びAlNから選択されることを特徴とする請求項に記載された低ケイ素低炭素当量多相鋼板又は鋼帯。
【請求項9】
以下のステップを含む、請求項1~8のいずれか一つに記載された低ケイ素低炭素当量多相鋼板又は鋼帯の製造方法:
1) 製錬、連続鋳造
請求項1~4のいずれか一つに記載された化学組成に従って製錬し、連続鋳造により鋳造スラブを鋳造し、連続鋳造中の冷却速度≧5℃/sである;
2) スラブ熱送、圧延
700℃以上の温度で、スラブを加熱炉に投入し、スラブを加熱し、加熱温度は1100~1250℃である;スラブの熱間圧延の最初二回のパスの圧下率≧55%である;最終圧延の温度は、850~950℃である;
3) 圧延後冷却、卷取り
圧延後に、水で冷却し、卷取り温度は550~630℃である;
4) 酸洗。
【請求項10】
ステップ)の酸洗の後に、溶融亜鉛めっき焼鈍プロセスも含み、これによって、熱間圧延溶融亜鉛めっき鋼板完成品を得ることを特徴とする請求項9に記載された低ケイ素低炭素当量多相鋼板又は鋼帯の製造方法。
【請求項11】
前記鋼板又は鋼帯の厚みは、0.7~4.0mmであることを特徴とする請求項9に記載された低ケイ素低炭素当量ギガパスカルレベル多相鋼板又は鋼帯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料分野に属し、具体的に、低炭素当量ギガパスカル級多相鋼板/鋼帯及びその製造方法に関し、主に、自動車シャーシおよびサスペンションなどの製品の製造に応用される。
【背景技術】
【0002】
自動車の「軽量化」は、直接に排出量を削減し、燃費を低下することができ、今の自動車製造業界の開発目標である。自動車の「軽量化」の重要な対策の一つは、低強度鋼板の代わりに高強度や超高強度の鋼板を適用することである。現在、「軽量化」の概念はさらに自動車のシャーシやサスペンションシステムに広げられ、ますます厳しくなる環境保全の要求および市場の需要によっても、「軽量化」を実現するために自動車のシャーシ材料に高強度鋼を適用することが必要とされる。
【0003】
しかし、自動車シャーシおよびサスペンションシステムの構造部品には、より高い強度の鋼板が必要であるだけでなく、優れた穴拡げ特性、表面塗装性と溶接性を備えた鋼板も必要である。現在、フェライト、ベイナイトと炭化物析出相を主要組織とする多相鋼は、高強度と優れた穴拡げ特性より、自動車シャーシおよびサスペンションシステム部品の一般的な鋼種になる。しかしながら、現在市販されている一般的な多相鋼の強度は、通常、ギガパスカルレベルに達することができず、公開されている特許では、降伏強度は主に600~700MPa、引張強度は700~900MPaでである。高い穴拡げ特性を得るために、多相鋼組織には、一定量のフェライト和ベイナイトを確保する必要が有るので(これら2つの組織の強度はマルテンサイトよりも低い)、多相鋼の強度をさらに向上させてギガパスカルレベルに到達させることは困難である。
【0004】
現在、多相鋼の引張強度をギガパスカルレベルまで上げるには、2つの一般的な方法がある:1つの方法は、鋼に大量の炭素、ケイ素、マンガン、特にケイ素を導入し、多相鋼の微細構造を変化させ、マルテンサイトまたは残留オーステナイトを導入して強度を向上させることで、もう一つの方法は、強度を高めるために他の多くの合金元素を追加することである。ただし、ケイ素を大量に導入すると、鋼板の表面品質が低下し、他の合金元素を大量に導入すると、鋼板のコストが大幅に上昇する。さらに、どちらの方法でも、鋼板の炭素当量レベルが大幅に増加する。ただし、ボディパーツに比べて、自動車シャーシパーツの構造が複雑であるため、アルゴンシールド溶接、レーザー溶接、スポット溶接などのさまざまな種類の溶接プロセスが必要であり、鋼の炭素当量レベルに対する要件が高くなっている。したがって、公開された特許では、シャーシ用のギガパスカルレベルの多相鋼の開発と、鋼板の低コストおよび低炭素当量レベルの制御は、技術的な矛盾になって、両立することができない。
【0005】
たとえば、中国特許CN101400816Aは、NiやCuなどの高価な合金元素を大量に添加することにより、鋼をギガパスカル強度レベルに到達させるが、この方法は、鋼の合金コストを大幅に増加させるだけでなく、鋼の炭素当量レベルも増加させる。さらに、この特許のほとんどの実施例では、0.50%超のケイ素を追加する。
【0006】
《高温酸化特性に基づくSi含有鋼の赤いスケール疵に関する研究》[J](Steel Rolling、2016,33(2):10-15;Yu Yang、Wang Chang、Wang Linら);および《炉の銑鉄界面の微細構造に対するシリコン元素の影響に関する研究》[J](Steel Rolling、2016,33(5):6-10)に記載された内容によって、
鋼中のケイ素含有量が高いと、赤いうろこ状などの欠陥(赤いスケール、虎の縞模様など)が形成され、鋼の表面品質が低下する可能性があり、なかでも、ケイ素含有量が0.5%の自動車用鋼では、ストリップ鋼の表面に等間隔の縞模様のスケールがあり、赤いスケール、虎の縞模様ばどの疵が、ストリップ鋼の表面の約30%を占めている。この表面状態は、表面の外観と色に非常に厳しい自動車パーツ製品の製造には使用できない。ケイ素含有量が自動車用鋼製品の要件を満たすことができる当該発明特許に開示された唯一の発明例では、高Cuおよび高Niの添加がさらに高い合金コストをもたらすことは言うまでもなく、炭素当量は0.73以上と高い。したがって、当該発明の特許に関わる製品は、市場で緊急に必要とされるギガパスカルレベル自動車シャーシ用の低コスト、低炭素当量の多相鋼製品を製造するために使用することはできない。
【0007】
同様に、中国特許CN201710022118.8とCN201180067938.Xはどちらも、ギガパスカルレベルに達する多相鋼製品を設計し、高価なNiおよびCu合金元素は添加されなかったが、ケイ素含有量が0.5%を超えており、炭素当量レベルが比較的高いため、表面の外観、色、炭素当量などの要件が非常に厳しい自動車用パーツ製品の製造には使用できず、理由は上記と同じである。
【0008】
中国特許CN201380022062.6は、表面の虎の縞模様疵(すなわち、本発明で言及された表面の赤いスケール疵)のない低ケイ素成分で設計されたギガパスカルレベルの多相鋼製品を開示したが、ただし、米国金属協会が発行した炭素当量式CE=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Si+Ni+Cu)/15によると、当該特許の製品の炭素当量は0.60を超え、かつ当該特許は、製品の穴拡げ特性を評価しなかった。
【0009】
したがって、既存の技術では、自動車シャーシ用の多相鋼鋼製品におけるギガパスカルレベル引張強度と低ケイ素および低炭素当量(すなわち、表面品質および溶接性)との間の矛盾を解決することはできない。自動車のシャーシ構造部件の製造ニーズを満たすために、ギガパスカルレベル強度、高穴拡げ性、および高い溶接性を備えたギガパスカルレベルの多相鋼板/鋼帯を得る方法は、今日の鉄鋼業界では難しい問題であり、現在の自動車業界では緊急の必要性である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的としては、低ケイ素低炭素当量ギガパスカルレベル多相鋼板/鋼帯およびその製造方法を提供し、当該鋼板の引張強度≧980MPa、降伏強度≧780MPa、穴拡げ率は、元の穴は抜き穴である場合の穴拡げ率>50%;元の穴はリーマ穴である場合の穴拡げ率>60%を満たし、自動車シャーシ、サスペンションシステムパーツの製造に適する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を果たすために、本発明の技術方案は:
低ケイ素低炭素当量ギガパスカルレベル多相鋼板/鋼帯であって、その成分の重量百分比は、C:0.03~0.07%、Si:0.1~0.5%、Mn:1.7~2.0%、P≦0.02%、S≦0.01%、N≦0.01%、Al:0.01~0.05%、Cr:0.4~0.7%、B:0.001~0.005%、Ti:0.07~0.15%であり、さらに、Mo:0.15~0.4%又はNb:0.02~0.08%の一つ又は二つを含み、残部は、Feと他の不可避不純物である;かつ同時に以下を満たす:
有効なB*含有量≧0.001、有効なB*含有量=B-[Ti-3.4N-1.2(C-Nb/7.8)]/22;
CE< 0.58、CE=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Si+Ni+Cu)/15。
【0012】
好ましくは、重量百分比で、前記C含有量は、0.045~0.06%である。
好ましくは、重量百分比で、前記Si含有量は、0.15~0.27%である。
【0013】
好ましくは、重量百分比で、前記B含有量は、0.002~0.004%である。
好ましくは、前記鋼板/鋼帯の微細組織は、フェライト、下部ベイナイト、および少量の炭素化物析出相、他の介在物相及び/又は微量マルテンサイト相であり、その中、体積百分比で、フェライト含有量≦20%、フェライト+下部ベイナイト含有量≧95%である。
【0014】
好ましくは、前記の鋼板/鋼帯の微細組織には、TiN粒子を含有し、且つ単一粒子の最長辺の長さ<8μm又は面積<50μmである。
【0015】
好ましくに、前記フェライト晶粒平均直径<6μm、又はフェライト粒度レベルASTMグレード判定>11.8である。
【0016】
本発明に記載された低ケイ素低炭素当量ギガパスカルレベル多相鋼板/鋼帯を製造する方法であって、以下のステップを含む:
1)製錬、連続鋳造
上記化学組成に従って製錬し、連続鋳造によりスラブを鋳造し、連続鋳造中のスラブの冷却速度≧5℃/sである;
2)スラブ熱送、圧延
700℃以上の温度で、スラブを加熱炉に投入し、スラブを加熱し、加熱温度は1100~1250℃である;スラブの熱間圧延の最初二回のパスの圧下率≧55%である;仕上げ圧延・最終圧延の温度は、850~950℃である;
3)圧延後冷却、卷取り
圧延後に、水で冷却し、卷取り温度は550~630℃である;
4)酸洗。
【0017】
さらに、ステップ3)の酸洗の後に、溶融亜鉛めっき焼鈍プロセスも含み、これによって、熱間圧延溶融亜鉛めっき鋼板完成品を得る。
【0018】
好ましくに、前記鋼板/鋼帯厚さは、0.7~4.0mmである。
本発明にかかる鋼の成分設計において:
炭素(C):炭素が、直接に、鋼板/鋼帯の強度、溶接性と成形性に影響する。炭素の含有量が多いほど、鋼板の強度を向上させることに寄与し、炭素含有量が0.03%より低い場合、鋼板/鋼帯の強度が目標要求に達しない;炭素含有量が0.07%より高い場合、炭素当量が高すぎやすくなり、鋼板の溶接性が低下しやすくなる。したがって、本発明には、炭素含有量の範囲を、0.03~0.07%に制御する。
【0019】
ケイ素(Si):ケイ素はある程度の固溶体強化効果を持ち、Si含有量が多いほど、鋼板/鋼帯の強度は向上する。ケイ素の含有量が0.5%より多いと、熱間圧延鋼板/鋼帯の表面に激しい熱間圧延酸化スケールが発生しやすくなり、鋼板/鋼帯の表面品質が劣化するだけでなく、鋼板/鋼帯のめっき可能性も損傷し、溶融亜鉛めっき鋼板/鋼帯の製造に不利なる。そのため、本発明によれば、ケイ素含有量は0.1~0.5%の範囲内に限定される。
【0020】
マンガン(Mn):マンガンは鋼板/鋼帯の強度向上に有効であり、他の合金元素に比べて比較的安価であるため、本発明ではMnを主添加元素として使用した。しかし、マンガン含有量が2.0%を超えると、組織には、マルテンサイトは大量に生成し、穴拡げ特性に不利である;マンガン含有量が1.7%未満であると、鋼板/鋼帯の強度は不十分となる。したがって、本発明によれば、マンガン含有量は1.7~2.0%に限定される。
【0021】
アルミニウム(Al):アルミニウムは製鋼工程の主な脱酸剤として添加されるが、アルミニウム含有量が0.01%未満であると、脱酸効果が不十分である;アルミニウム含有量が0.05%を超えると、鋼液の粘性に影響を与え、ノズル結節を形成する恐れがあり、鋼板/鋼帯の溶接性を損なう可能性がある。したがって、本発明によれば、アルミニウム含有量は0.01~0.05%に限定される。
【0022】
クロム(Cr):クロムは、ベイナイト相区域の拡大に寄与し、圧延後の冷却で鋼板/鋼帯のベイナイト化を確保し、強度と穴拡げ率の向上に寄与する。しかし、添加量が0.7%を超えると、強度の向上はもはや顕著ではなく、逆に鋼板/鋼帯の溶接性に悪影響を及ぼす。しかし、含有量が0.4%未満であると、ベイナイト相区域の拡大が顕著でない。したがって、本発明によれば、クロムとモリブデン含有量は両方とも0.4~0.7%に限定される。
【0023】
チタン、ニオブとモリブデン(Ti、Nb、Mo):チタン、ニオブとモリブデンは、本発明の多相鋼のマイクロアロイ元素であり、微細な炭化物を形成した後の第二相強化により、多相鋼の強度を向上させ、Nb元素は3つの中でより強い炭化物形成能力を持っている。マイクロアロイ元素の添加が不十分な場合、鋼板の強度は設計要件を満たすことができない。また、Ti元素は鋼中のN元素とTiN粒子を形成し、TiN粒子のサイズが大きすぎると、穴拡げに悪影響を及ぼす。Ti元素は、鋼のB元素とホウ化チタンを形成し、鋼の有効なホウ素含有量を減らす。マイクロアロイの含有量が少ない場合、鋼板/鋼帯の強度が不十分になる。さらに、単一粒子の最の長い辺の長さ<8μm或面積<50μmを確保するために、TiNの粒子サイズも制御する。そして、粗大のTiN粒子が、鋼板の穴拡げ性能を損なうのを避ける。
【0024】
ホウ素(B):ホウ素は、ベイナイト相区域の拡大に寄与し、圧延後の冷却で鋼板/鋼帯のベイナイト化を確保し、鋼の強度と硬度を大幅に改善する。ただし、B元素が多すぎると、鋼板のマルテンサイト組織が過剰になり、鋼材の穴拡げ率と伸びが低下する。さらに、ベイナイト相区域の拡大を実際に寄与する鋼のB元素は、Ti、N、およびその他の元素と結合し、ホウ化物を形成しない効果的なB元素であり、有効なB元素の効果は、次の式に従って計算される:B*=B-[Ti-3.4N-1.2(C-Nb/7.8)]/22≧0.001。
【0025】
鋼における不純物元素の上限は、P:≦0.02%、S:≦0.01%、N≦0.01%と制御され、鋼の品質が純粋なほど、効果も高くなる。
【0026】
本発明に記載された鋼板/鋼帯の微細組織は、フェライト+下部ベイナイトの微細組織であり、フェライト含有量≦20%。フェライト+下部ベイナイト含有量≧95%。フェライト組織が20%を超えると、鋼板/鋼帯は必要な強度を達成できず、フェライト+低ベイナイト含有量が95%を下回ると、鋼板/鋼帯は必要な穴拡げ特性を達成できない。前記鋼板/鋼帯の微細組織は、さらに、少量(例えば5%以下)の炭素化物析出相、微量(例えば0.5%以下)のマルテンサイト相又は非常に少量(0.01%以下、視野にたまに見られる)の他の介在物相を含有しても良い。前記の他の介在物は、MnS、TiN和AlNなど鋼によく見られる介在物であっても良い。
【0027】
本発明に記載された鋼板/鋼帯の微細組織では、フェライト晶粒平均直径<6μmで、又は粒度レベルASTMグレード判定>11.8である。結晶粒の平均粒径が6μm未満、または粒度レベルグレードが11.8超でないと、鋼板/鋼帯は必要な強度を得ることができない。
【0028】
さらに、上記の合金元素と炭素元素の計量関係は、多相鋼の炭素当量レベルが低く、溶接性が良好であることを確保するために、次の炭素当量計算式も満たす必要がある:CE=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Si+Ni+Cu)/15<0.58。
【0029】
本発明の製造方法において:
連続鋳造際のスラブ冷却速率が、鋼板/鋼帯の最終組織の結晶粒大きさ、液相に形成される介在物大きさ、スラブ組織における柱状結晶の割合に影響を与える。冷却速度が5℃/sより低いと、一方、スラブ中の柱状結晶の厚さまたは割合が設計上の要求より高くなり、そしてその後の最終組織で、帯状組織を形成しやすくなり、鋼板/鋼帯の曲げ特性に影響を与える;もう一方、連続鋳造中にスラブの冷却速度が低下すると、最終組織における結晶粒大きさが設計通りにならず、鋼の液相中に粗大介在物(典型的にはTiN)が発生し、穴拡げと曲げ特性に悪影響を及ぼす。
【0030】
加熱炉に入る前のスラブの最低温度は、製品の最終的な特性に影響する。炉にスラブを入れる前の最低温度が700℃未満である場合、炭化チタンが大量にスラブ中に析出し、その後の再加熱工程において、スラブから析出した炭化チタンを完全にスラブに再溶解することができなく、熱間圧延後のマトリックスに固溶体チタンと炭化チタンが少なくなり、製品としての強度が不足になる。なお、仕上げ圧延・最終圧延の温度が850℃より低い場合、仕上げ前にフェライトの析出があり、最終組織のベイナイト含有量が少なくなるため、鋼板/鋼帯が設定する強度に達しないことがある。しかし、スラブの加熱温度を考慮すると、仕上げ圧延・最終圧延の温度は950℃を超えない。また、上記ステップ2)において、鋼板/鋼帯の組織を微細かつ高均一にするために、熱間圧延の最初、第二パスのパス毎の圧下率≧55%である;圧下率が十分でない場合、微細で均一な組織が得られず、鋼板/帯の強度が不足する。それだけでなく、上記ステップ2)の高い圧下率に、ステップ1)の連続鋳造時のスラブの高い冷却速度を合わせなければならない;連続鋳造の冷却速度が5℃/秒以上にならないと、スラブ内の液相に発生する介在物(主にTiN)のサイズが大きくなり、このとき、ステップ2)で55%以上の大きな圧下率を採用すると、図1のように、粗大なTiN割れが発生し、これが鋼板/鋼帯内の割れ源となって、鋼板/鋼帯の穴拡げが劣化する;連続鋳造の冷却速度が5℃/秒以上に達することができれば、スラブ内の液相に生成する介在物(主にTiN)はサイズが小さく、図2に示すように、ステップ2)の大型熱間圧延プレス時に破断しないため、鋼板/鋼帯の穴拡げ率性能に悪影響を及ぼさない。
【0031】
巻取り温度は、高強度、高穴拡げ率を得るために一番肝心なプロセスパラメータの一つである。卷取り温度が630℃を超えると、合金炭化物の強い析出と粗大化により、鋼板の穴拡げ率に悪影響が出る;一方、卷取り温度が550℃未満では、炭化物の析出が著しく阻害され、鋼板の強度が設定値を満たせなくなる;そして、本発明では、卷取り温度を550~630℃に限定される。
【0032】
計測によれば、本発明で提供される超高強度熱間圧延鋼板/鋼帯の特性は、下記の指標を満たす:
常温力学特性:引張強度≧980MPa、好ましくは≧1000MPa;降伏強度≧780MPa、好ましくは≧800MPa;
穴拡げ率性能:元の穴は抜き穴である場合の穴拡げ率は50%超、好ましくに≧55%;元の穴はリーマ穴である場合の穴拡げ率は60%超、好ましくに≧65%である。
【0033】
一部の実施の形態において、本発明に提供された超高強熱間圧延鋼板/鋼帯の引張強度は、980-1100MPaで、降伏強度は、780-900MPaである;穴拡げ率性能:元の穴は抜き穴である場合の穴拡げ率は、55%~70%で、元の穴はリーマ穴である場合の穴拡げ率は、65%~80%である。
【0034】
本発明には、自動車シャーシ用の多相鋼の表面品質および溶接性を満たすために、低ケイ素と低炭素当量の成分設計を採用し、まず、ケイ素元素の含有量をSi:0.1~0.5%に設計し、好ましくに0.1~0.4%、更に好ましいケイ素元素含有量は、Si:0.15~0.27%であり、尚、炭素当量は、CE=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Si+Ni+Cu)/15<0.7(米国金属協会に提案される炭素当量式)、好ましくに<0.58を満たす。
【0035】
低ケイ素と低炭素当量の設計を前提とし、鋼板が、ギガパスカルレベル強度レベルに達することを確保するために、MnやCrなどの一定量の合金元素を鋼に添加することに加えて、微量合金元素B、Ti、およびNbの分布がさらに最適化される。既知の内容によれば、微量のB元素は、鋼板の強度と硬度を大幅に向上させることができるが、多相鋼である製品の場合、B元素の添加量は明確に研究されていない。実際、鋼に添加されたB元素は、さまざまな合金元素と反応し、ただし、最も活発な反応には、鋼のN元素とBNを生成することであるが、BNの生成は鋼板の製造性や最終製品の性能を大きく損なうので、TiNを優先的に形成することにより、NとBの間の反応を回避するために、いくつかのTi元素がB含有鋼に添加される。ただし、鋼に残っているTi元素も強いホウ化物形成元素であり、B元素と反応し、ホウ化チタンを形成するが、もう一方、これらのTi元素も、有効なC元素とTiCを形成する。したがって、鋼中の有効なホウ素元素の含有量は、一方では、Ti元素、N元素の含有量に依存し、他方では、有効な炭素元素の影響も受け、後者は、強い炭化物形成元素の含有量乃至ベイナイトの含有量によっても影響を受けるため、鋼中の有効なB元素の含有量は、非常に複雑な要因の組み合わせによって、影響を受ける。鋼中の有効なB元素(B*で表される)について、本発明は、すべての要因を考慮し、鋼板がギガパスカル強度レベルに達することを確保するために、有効なホウ素元素が、B*=B-[Ti-3.4N-1.2(C-Nb/7.8)]/22≧0.001を満たすべきであることを提案する。
【0036】
プロセスの最適化により、高均一な微細組織と寸法的に微細な介在物を実現し、そして優れた穴拡げ特性を得た。一方、連続鋳造における高冷却速度を設計し、一方、スラブ中の柱状結晶の割合を減らし微細な立方晶系の割合を向上して、もう一方では、液相で発生する介在物(TiNに代表される)を低下した;同時に、熱間圧延の最初、第二パスには、大きな圧下率を有する圧延プロセス設計を採用し、微細な構造を得ながら柱状結晶をさらに破壊することで、高強度と高穴拡げ率を同時に実現した。
【0037】
本発明で製造される超高強度熱間圧延鋼板と鋼帯は、低ケイ素低炭素当量、ギガパスカルレベルの高い強度と高穴拡げ性能を兼ね備えており、前記超高強度熱間圧延鋼板/鋼帯製品からは、溶融亜鉛メッキにより熱間圧延溶融亜鉛メッキ鋼板製品が得られ、該超高強度熱間圧延鋼板製品と鋼帯製品および溶融亜鉛メッキ鋼板製品は、自動車のシャーシやサスペンションシステム部品の製造に適用して自動車の「軽量化」を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】連続鋳造冷延速度が5℃/s以上になったときのTiN粒子径と、大きい圧下率の熱間圧延後のその形態(熱間圧延状態組織写真)である。
図2】連続鋳造冷延速度が5℃/s未満になったときのTiN粒子径と、大きい圧下率の熱間圧延後のその形態(熱間圧延状態組織写真)である。
図3】Si元素が0.5%を超えたとき(図面の例は、Si含有量が0.55%であり、比較例L)のストリップ鋼表面に発生する熱間圧延赤赤いスケール(虎の縞模様)疵の写真である。
図4】Si元素が0.5%未満の場合(図面の例はSi含有量が0.25%であり、実施例C)のストリップ鋼の表面の写真である。
図5】本発明の実施例の鋼板/鋼帯微細組織において、フェライト+下部ベイナイトの含有量が95%以上であることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、実施例および図面に基づいて本発明をさらに説明する。
表1に示される異なる組成の鋼を製錬してから、表2に示されるように加熱+熱間圧延プロセスを実行し、厚さが4mm未満の鋼板を得た。長手方向に50mmゲージ長と5mmゲージ長の引張サンプルを採取し、降伏、引張強度および伸びを測定し,鋼板中央部に穴拡げ率と180ー曲げ特性を測定した;試験データを表2に示す。ただし、穴拡げ率は、中央部に穴のある試料をパンチ金型でダイ金型に押し込み、板の穴縁部がくびれたり貫通亀裂が生じたりするまで、試料の中央部の穴を拡げるといった穴拡げ試験で測定した。試料中央部の元の穴の製造方法は穴拡げ率の計測結果に大きな影響を与えるため、抜き穴およびリーマ穴によってそれぞれ試料中央部の元の穴を製造し、後段の試験および計測方法は、ISO/DIS 16630規格に規定される穴広げ率の計測方法に沿って行われた。
【0040】
表1において、実施例A~Iは、本発明の鋼であり、比較例J~Mは、比較のために設計される鋼種であり、ただし、炭素またはマンガンまたは他の合金元素の含有量は、本発明の成分の範囲を超え、OおよびPは、開示された発明特許の成分およびプロセスである。その中、比較例Oは、CN201380022062.6の実施例であり、合金成分は本発明とは異なり、炭素当量は本発明よりも高い;比較例Pは、CN201180067938.Xの実施例であり、合金成分も本発明とは異なり、炭素当量が本発明よりも高い。
【0041】
表2は、表1の異なる鋼種の異なる製造プロセスを示し、実施例と比較例の2つのカテゴリに分類される。その中、比較例Oと比較例Pは、公開された特許出願に記載されたプロセスであるが、比較例Oは、冷間圧延製品であり、熱間圧延プロセスは特に関与せず、製品性能は冷間圧延および焼きなまし後の製品性能である;比較例Pのいくつかのパラメータは言及されなく、他のパラメータは本発明とは、部分的に異なる。表3に、上記実施例および比較例の力学特性試験値を示す。
【0042】
以上によって、C、Mn、Ti、Nb、BまたはB*などの含有量の値が、本発明の範囲から逸脱する場合(例えば、Mn、TiおよびNb、またはB*の含有量が低い場合、例えば、比較例K、LおよびNの場合)、鋼板の強度は設計要件よりも低くなる;CまたはBの含有量が、本発明の成分範囲よりも高い場合(例えば、比較例Jと比較例M)、組織中に大量のマルテンサイトが生成され、材料の穴拡げ性能を低下させ、以上は、いずれも本発明の目的と一致していない。
【0043】
Si元素含有量が本発明の範囲よりも高い場合(例えば、比較例L)、図3に示すように、熱間圧延および酸洗の後に、深刻な赤いスケール(虎の縞模様)の疵が鋼板の表面に現れる;Si元素が本発明の範囲内にある場合、実施例Cの図4に示すように、熱間圧延および酸洗の後の鋼板表面の色は正常である。
【0044】
スラブの加熱炉への投入温度が低すぎると(例えば比較例A-2)、本発明の設計基準を満たさない強度となり、卷取り温度が高すぎると(例えば比較例D-2)、卷取りの後の鋼板には粗大炭化物粒子が多数発生し、伸びや穴拡げ特性が低下する。熱間圧延の最初の2パスの圧下率が十分でないと、鋼板の帯状組織を完全に排除できなく、結晶粒を十分に微細化できなく、組織を均一化することができず、鋼板の伸びと穴拡げ率も悪化する(例えば比較例B-2);連続鋳造の冷却速度が十分でないが、熱間圧延で大きな圧下率を追求すると、鋼中の粗大なTiN粒子の断片化が起こり、割れの可能な原因になり、材料の伸びと穴拡げ特性を大幅に悪化する(例えば比較例C-2)。
【0045】
まとめると、本発明は、炭素マンガン鋼に基づき、低ケイ素と低炭素当量の設計アイデアを使用し、効果的なB元素の含有量範囲を合理的に設計することにより、各元素の比を最適化し、自動車用鋼生産ラインに基づき、連続鋳造の冷却速度、熱間圧延速度、巻取り温度を向上し、高強度、高穴拡げ特性、優れた表面品質と可溶接性を有するギガパスカルレベル超高強熱間圧延鋼板/鋼帯を製造することができ、その降伏強度780MPa以上、引張強度980MPa以上、穴拡げ率50%超(元の穴は抜き穴)又は穴拡げ率60%超(元の穴はリーマ穴)であり、これにより、自動車市場での超高強度、高い穴拡げ特性、低炭素当量の自動車シャーシ、サスペンション用材料に対する緊急の需要を満足する。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5