(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】ヘリコプタのためのハイブリッド駆動システム
(51)【国際特許分類】
B64D 35/08 20060101AFI20240219BHJP
B64D 27/04 20060101ALI20240219BHJP
B64D 27/10 20060101ALI20240219BHJP
B64D 27/33 20240101ALI20240219BHJP
B64D 31/12 20060101ALI20240219BHJP
B64D 31/18 20240101ALI20240219BHJP
B64D 35/025 20240101ALI20240219BHJP
【FI】
B64D35/08
B64D27/04
B64D27/10
B64D27/33
B64D31/12
B64D31/18
B64D35/025
(21)【出願番号】P 2022546026
(86)(22)【出願日】2021-01-26
(86)【国際出願番号】 EP2021051720
(87)【国際公開番号】W WO2021151873
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-11-07
(32)【優先日】2020-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】522299894
【氏名又は名称】コプター グループ アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘッテンコファー、ヨハン、ヴェルナー
(72)【発明者】
【氏名】エヴェン、デトレフ、マシアス
(72)【発明者】
【氏名】デュンメル、アンドレアス、ヴィルフリート
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-023464(JP,A)
【文献】特許第6530875(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0354635(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03162713(EP,A1)
【文献】特開2019-112050(JP,A)
【文献】国際公開第2018/193522(WO,A1)
【文献】特開平09-249200(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0322382(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0147204(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0225573(US,A1)
【文献】特開平08-294205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 27/00 -27/82
B64D 27/04 -27/14
B64D 27/33
B64D 31/12
B64D 31/18
B64D 35/025
B64D 35/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車箱に接続され且つパイロットによって設定された飛行姿勢を安定に保つことができる主回転翼(1)を有するヘリコプタの制御装置(5、7、11)及び駆動シャフト(3)を含むハイブリッド推進システム(4)であって、
- パイロット制御装置(5)と、
- どちらも前記駆動シャフト(3)に直接作用する燃焼機関(VM)(6)及び電気モータ(EM)(10)と、
を備え、
- 前記VM(6)が、前記駆動シャフト(3)における所望の推進力を提供するために燃料タンク(8)から前記VM(6)への燃料の供給を調整することができるVM制御装置(7)に接続され、
- 前記EM(10)が、EM制御装置(11)に接続され、前記EM制御装置(11)が、電池(14)を放電することにより前記EM(10)を動作させるか、又は前記EM(10)への機械力の印加により前記電池(14)を充電することが可能であり、それにより、前記駆動シャフト(3)が加速又は減速される、ハイブリッド推進システム(4)であり、
- 1つ又は複数のトルク・センサ(17)及び回転速度計(18)が、それぞれ前記駆動シャフト(3)上に配置され、前記VM制御装置(7)及び前記EM制御装置(11)の両方が、動作中に
前記駆動シャフト(3)における現在速度(DZ)及び現在トルク(DM)の両方の値を維持することが可能であり、
- 前記VM(10)がその最適効率に達することができる
前記駆動シャフト(3)におけるプリセット速度
(DZ
0
)の値及び
前記駆動シャフト(3)におけるプリセットされたトルク
(DM
0
)の
値が、メモリに記憶され、且つ、前記EM制御装置(11)によって読出し可能であり、前記
プリセット速度(DZ
0)が、前記VM制御装置(7)によっても読出し可能であり、
- 前記VM制御装置(7)が、前記パイロット制御装置(5)によって設定された任意の飛行姿勢を安定に保つために、いつでも前記駆動シャフト(3)における前記プリセット速度(DZ
0)に達して、前記VM(6)の
出力を適応させることによりそれを絶対主権的に維持することが可能であり、
- 前記EM制御装置(11)が、前記EM(10)に関与することにより前記駆動シャフト(3)を加速又は減速させることがさらに可能であり、それにより、前記VM制御装置(7)が、前記駆動シャフト(3)における前記プリセット速度(DZ
0)に達するか又はそれを維持するために、前記現在速度(DZ)に基づいて前記VM(6)の前記出力を自動的に適応させることが可能であり、
- 前記EM(10)から前記駆動シャフトにそのような種類の加速力又は制動力を継続的に働かせ、それにより前記VM(6)が前記駆動シャフト(3)における
最適速度(DZ
0)に達したか又はそれを維持するときに、前記VM(6)に前記VM(6)が
最適機関出力に達する前記駆動シャフト(3)における前記トルク(DM
0)を自動的に生成させるための第1の指令が、前記EM制御装置(11)に記憶されることを特徴とする、ハイブリッド推進システム(4)。
【請求項2】
前記EM(10)が、前記VM(6)と前記主回転翼(1)の前記歯車箱との間に配置されることを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッド推進システム(4)。
【請求項3】
直接データ信号線(19)が、前記ヘリコプタの離陸及び着陸のために、前記パイロット制御装置(5)と前記VM制御装置(7)との間に設けられることを特徴とする、請求項1又は2に記載のハイブリッド推進システム(4)。
【請求項4】
燃料計(9)がまた、前記燃料タンク(8)上に配置され、充電状態表示器(15)が、前記電池(14)上に配置され、それらの両方が、前記EM制御装置(11)が動作しているときにそれらの測定データを送信することが可能であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか一項に記載のハイブリッド推進システム(4)。
【請求項5】
なおも利用可能なエネルギーを計算するための、また、必要であれば前記電池を過充電及び充電不足から保護し、燃料を節約し、且つ/又は前記VM(6)を一時的により低い力で動作させて排出物を減少させるために前記第1の指令とは異なる第2の指令を計算するための、計算ユニット(16)を特徴とする、請求項4に記載のハイブリッド推進システム(4)。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか一項に記載の制御装置(5、7、11)を含むハイブリッド推進システム(4)を使用して前記パイロットによって設定された飛行姿勢を保証するための、ヘリコプタの駆動シャフト(3)のためのハイブリッド推進システム(4)を動作させる方法であって、
- 前記駆動シャフト(3)における現在
速度
(DZ)及び
現在トルク
(DM)
の値が継続的に測定されて、前記EM制御装置(11)及び前記VM制御装置(7)の両方に送信されるステップと、
-
前記駆動シャフト(3)におけるプリセット速度
(DZ
0
)の
値及び
プリセット・トルク
(DM
0
)の
値がメモリに記憶されるステップであって、両方の値(DZ
0、DM
0)が、前記EM制御装置(11)によって読み出されることが可能であり、少なくとも前記
プリセット速度(DZ
0)が、前記VM制御装置(7)によって読出し可能であり、前記制御装置(7、11)が、前記プリセット値(DZ
0、DM
0)からの前記測定された値(DZ、DM)のずれを継続的に計算する、ステップと、
- パイロットが所望の飛行姿勢に達するために前記パイロット制御装置(5)を介して前記駆動シャフト(3)における力に対する変更可能な要求を生成するとすぐに、前記駆動シャフト(3)における前記速度(DZ)の変化ももたらされるステップと、
- 前記VM制御装置(7)が、前記プリセット速度(DZ
0)が達成されるように、前記現在速度(DZ)と前記プリセット速度(DZ
0)との間のずれに基づいて前記VM(6)における
出力をゆっくりと変化させるステップと、
- 前記EM制御装置(11)が、前記VM(6)が時間差を伴ってその出力を前記プリセット速度(DZ
0)に調節されたときに、前記VM(6)が最適効率に達する前記プリセット・トルク(DM
0)を働かせるように、前
記現在
速度(DZ)及び/又は前記
現在トルク(DM)と対応する前記プリセット速度(DZ
0)
、及び/又はプリセット・トルク
(DM
0)との間の差に応答して前記EM(10)の前記出力をその第1の指令に従って前記VM(6)よりも急速に変化させるステップと、
- それにより、前記EM(10)における前記機械力により前記電池(14)が充電されるか、又は、前記電池(14)内
の電荷により前記EM(10)が動作されるステップと、
- 前記EM制御装置(11)が作動停止されたときに、前記VM制御装置(7)が、前記プリセット値(DZ
0)への前記速度の調整に基づいて、VM(7)を介して必要な推進力を自動的に提供し、したがって安定飛行姿勢を保証する、ステップと、
を特徴とする、方法。
【請求項7】
前記EM制御装置(11)が、前記燃料タンク(8)の燃料計(9)及び/又は前記電池(14)の充電状態表示器(15)からの前記測定データに基づいて、なおも利用可能なエネルギーの量を判定し、その結果として、前記電池(14)を選択的に充電若しくは放電するために、前記電池を保護するために、燃料を節約するために、又は前記VM(6)を一時的により低い力で動作させて排出物を減少させるために、前記第1の指令とは異なる第2の指令に従って機能することを特徴とする、請求項5に記載のハイブリッド推進システム(4)を使用する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
離陸段階及び着陸段階中、着陸地における騒音及び排気物質を減少させるために前記EM(10)のみが動作されることを特徴とする、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
動作中、前記EM制御装置(11)が、速度が過度に低く(DZ<DZ
0)且つ/又はトルクが過度に高い(DM<DM
0)場合に、前記EM制御装置(11)が、前記EM(10)における前記出力を増大させ、その逆の場合も同様であることを特徴とする、請求項6から8までのいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイロットによって設定された飛行姿勢を安定に保つことができる歯車箱に接続された主回転翼を含むヘリコプタの制御装置及び駆動シャフトを含むハイブリッド推進システムであって、パイロット制御装置、燃焼機関(VM)、及び電気モータ(EM:electric motor)を備え、VM及びEMの両方が駆動シャフト(3)に直接作用する、ハイブリッド推進に関する。VMは、VM制御装置に接続され、VM制御装置は、駆動シャフトにおける所望の推進力を提供するために、燃料タンクからVMへの燃料の送達を調整することができ、また、EMは、EM制御装置に接続され、EM制御装置は、電池を放電させることによりEMを駆動することができ、又は、EMに機械力を印加することにより電池を充電することができ、それにより、駆動シャフトは、加速又は減速される。本発明は、そのような推進システムを動作させる方法にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業におけるように、追加の電気モータによる推進、特にハイブリッド駆動装置による推進は、ヘリコプタに対しても知られている。
【0003】
上記のものに類似したシステムが、米国特許出願公開第2017/0225573A1号から知られている。そのシステムは、内燃機関、及び、内燃機関と主回転翼の歯車箱との間に配置された電気モータを備える。同じことが、米国特許出願公開第2018/0354635A1号に当てはまる。この文献はまた、燃焼機関と電気モータとの間での分配を調整するために様々なコンピュータ・システムを使用する方法を説明している。
【0004】
電気機関及び燃焼機関を用いてヘリコプタを動作させる、さらなるハイブリッド・システムが、欧州特許第3162713号から知られている。この文献において説明される調整の目的は、燃焼機関が可能な限り「定常状態」モードで動作されるように、電気モータを用いて電力ピークを吸収することであり、「移動平均電力」としても知られる。これを達成するために、使用される制御信号は、高周波の部分的な信号と低周波の部分的な信号とに分割され、ここで、より高速の高周波信号は、電気モータに送信され、より低速の低周波信号は、燃焼機関に送られる。したがって、急激な変化は、電気モータによって管理され、一方で、燃焼機関は、言うなればより遅い「減衰した」比率における電力変動に対処するだけでよい。この分配の難点は、機関のうちの一方が故障した際の安全性である。どちらの機関も全部の信号を受信することがないので、依然動作している機関は、それ自体で飛行要求に対処することができない。追加の監視システムが、機関の故障を検出し、且つ、残っている機関が全部の信号を受信することを確実にする対策を即座に開始しなければならない。必要とされる追加のいずれの制御システム又は監視システム自体も、飛行安全性に対するリスクとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2017/0225573A1号
【文献】米国特許出願公開第2018/0354635A1号
【文献】欧州特許第3162713号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、それを用いることで可能な限り安全なヘリコプタの運用が保証され得るハイブリッド推進システムについて説明することである。本発明のさらなる目的は、それに従うことで安全な運用が行われ得る方法を提示することである。そのような安全な運用はまた、最小限の燃料消費量で行われなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの目的は、それぞれのカテゴリの第1の請求項に記載の特徴によって解決される。さらなる有利な変形形態が、従属請求項において説明される。
【0008】
本発明によれば、導入部において説明されたようなハイブリッド推進システムにおいて、少なくとも1つのトルク・センサ及び1つの回転速度計が、駆動シャフト上にそれぞれ配置され、ここで、VM制御装置及びEM制御装置の両方が、動作中の現在速度DZ及び現在トルクDMの値をそれぞれ受信することができる。
【0009】
VMが最適な効率に達するときの速度の既定値DZ0及びトルクの既定値DM0もまた、記憶される。これらの値は、EM制御装置によって読み出されることが可能であり、ここで、前述の値のうちの第1の値、DZ0は、VM制御装置に対しても同様に読み出され得る。
【0010】
VM制御装置は、駆動シャフトにおけるプリセット速度DZ0に達して、VMからの出力の調整により常にそれを絶対主権的に一定に保つことができ、これもまた、パイロットによって設定された任意の飛行姿勢を安定に保つ。EM制御装置もまた、速度DZを変化させるEMの関与により駆動シャフトをさらに加速又は減速させることができ、VM制御装置は、再度駆動シャフトにおけるプリセット速度DZ0に達してそれを維持するために、VMにおける出力を自動的に調整する。
【0011】
第1の指令が、EM制御装置に記憶され、EMは、VMが駆動シャフトにおける最適速度DZ0に達するとき又はそれを維持するときに、それを用いることでVMが最適な機関出力に達する駆動シャフトにおけるトルクDM0をVMが自動的に生成するように、第1の指令に従って、そのような種類の加速力又は減速力を駆動シャフトに絶えず印加しなければならない。
【0012】
EMは、VMと主回転翼1の歯車箱との間に配置されることが好ましい。速度DZは、駆動シャフト上の任意の点において測定されてよく、それは、全ての点において同じである。トルク・センサのうちの少なくとも1つは、駆動シャフトへのVMの負荷を判定するために、VMとEMとの間に配置されるべきである。駆動シャフトへの全負荷を判定するために、さらなるトルク・センサがEMと歯車箱との間に配置されてもよい。しかし、VMとEMとの間のトルク・センサは、第1の指令に従って最高効率で動作されるべきVMにおける出力を示すので、EM制御装置を調整するための最も重要な要素である。
【0013】
ヘリコプタの離陸及び着陸中に使用される直接データ信号線が、パイロット制御装置とVM制御装置との間に設けられ得る。これらの段階では、第1の指令は、適用される必要がない。間接的な接続は、ヘリコプタの飛行姿勢を介して恒久的に存在する。高度を上げるためにパイロットが回転翼羽根のピッチを変えた場合、より高い負荷が、駆動シャフトにおける速度DZを直ちに低下させ、それに基づいて、通常動作における動力に対する需要は、第1の指令に従って適合される。
【0014】
さらに、燃料計が、燃料タンク上に配置されてよく、また、充電状態表示器が、電池上に配置されてよく、それぞれは、EM制御装置が動作している間、その測定データを送信することができる。いずれの場合にも依然利用可能な機関は、計算ユニットによって計算され得る。必要に応じて、EM制御装置は、第1の指令とは異なる第2の指令に従って機能し得る。この目的は、電池を過充電又は充電不足から保護すること、燃料を節約すること、及び/又は、VMをより低い動力で一時的に動作させて排出物を減少させることであり得る。
【0015】
重要な目標は、パイロット制御装置によって設定された安定飛行姿勢に達するか又はそれを維持するために、VMを含むVM制御装置が、駆動シャフトにおける必要とされる速度DZに常に絶対主権的に達することができることである。これは、そのVMを含むヘリコプタが、既存のVM制御システムに干渉する必要のない方法で、EM及びEM制御装置を備えることができることを意味する。その結果、システム・エラーの際にEM及び/又はEM制御装置が故障しても、ヘリコプタは、VMだけを使用して正常に飛行され得る。
【0016】
ヘリコプタの駆動シャフトのためのハイブリッド推進システムを動作させるための本発明による方法は、本発明による制御を含むハイブリッド推進システムを使用して、パイロットによって設定された飛行姿勢を保証する。方法は、以下のステップを行う。
【0017】
速度の現在の値DZ及びトルクの現在の値DMは、駆動シャフトにおいて継続的に測定され、且つ、EM制御装置及びVM制御装置の両方に送信される。速度のプリセット値DZ0及びトルクのプリセット値DM0は、メモリに記憶され、両方の値DZ0、DM0は、EM制御装置によって読み出されることが可能であり、また、少なくとも速度DZ0は、VM制御装置によって読み出されることが可能である。両方の制御装置は、それらに知られているプリセット値DZ0、DM0からの測定値DZ、DMのずれを継続的に計算する。
【0018】
所望の飛行姿勢に達するためにパイロットがパイロット制御装置を介して駆動シャフトにおける出力に対する変更された要求を生じさせるとすぐに、駆動シャフトにおける速度DZの変化が達成される。VM制御装置は、プリセット速度DZ0が取り戻されるように、プリセット速度DZ0からの現在速度DZのずれに基づいて、VMにおける出力をあまり急速にではなく変化させる。
【0019】
このことは、以下の実例でより詳細に説明される。VM制御装置は、最適速度DZ0に達し且つそれを維持するための負荷をVMが絶えず印加するように、調整される。高度を上げるためにパイロットが回転翼羽根を調節すると、その結果として速度DZは低下する。VMは、出力を増大させてこの速度DZの低下に応答し、VMによって生成されるトルクDMは、増大する。これは、速度DZを高める効果を有する。速度が再度プリセット値DZ0に達し、前述の速度が一定のままになると、VM制御装置は、もはや機関出力を変化させる必要がない。VMは、変わらずに動作し続けるが、今や、回転翼羽根が調節される前よりも大きなトルクDMを伴う。ヘリコプタが降下するときには、相応に逆の働きが行われ、VMによって印加されるトルクは、減少する。
【0020】
しかし、ハイブリッド推進システムを伴う本発明による方法では、EM制御装置は、その第1の指令に従って関与する。対応する規定の値DZ0、DM0からの速度の現在の値DZ及び/又はトルクの現在の値DMのずれに基づいて、EM制御装置は、VMがその出力をプリセット速度DZ0に調整されたときに、VMが最適効率に達するプリセット・トルクDM0をVMが印加するような結果まで、EMにおける出力をVMよりも速く変化させる。EM制御装置は、EMにおいて機械力を使用して電池を充電すること、又は電池内の電荷を使用してEMを動作させることにより、これを達成する。
【0021】
したがって、上記の実例では、次いで、EM制御装置が関与する。速度のプリセット値DZ0及びトルクのプリセット値DM0は、EM制御装置に知られており、EM制御装置は、EM制御装置が受信する測定値に基づいて、現在の値DZ、DMからのそれぞれの差を計算することができる。
【0022】
EM制御装置は、最初に、その第1の指令に従って働く。したがって、高度を上げるためにパイロットが回転翼羽根を調節する場合、既に説明したように、まず速度が低下する。しかし、VMがより多くのトルクを生成することによってその出力を増大させる前に、より相当に迅速に応答するEMは、追加の負荷要求を生じさせ、その結果、必要とされる速度DZ0は、直ちに取り戻される。やはり速度を継続的に監視するVM制御装置は、プリセット速度DZ0からのずれがほんの僅かにすぎないことを検出し、このずれは、そのために必要な負荷をEMが即時に供給したので、EMによって即時に補償されている。VMは、そのより遅い応答時間に起因して、その出力を増大させず、VMは、それが最初に生成したトルクDMを変化させずに維持する。
【0023】
また、降下中、パイロットが回転翼羽根のピッチを平らにするときに、同じことが起こる。EMの電池は、VMが速度の増加を補償し且つそれが印加する動力を減少させ得る前にEMが駆動シャフトを減速させるにつれて、充電される。
【0024】
したがって、一方では、EM制御装置のこの第1の指令は、駆動シャフトにおける速度DZ0を調整し、且つ、EMを相応に作動させることによりそれを一定に保つ。すると、それにより、VMへの負荷が変化することが防止され、VMのトルクは一定のままである。これは、前述のトルクがプリセット・トルクDM0に等しい間、望ましい。この場合、効率は最適なままである。
【0025】
他方では、EM制御装置はまた、VMにより駆動シャフトにおいて現在生成されているトルクDMがプリセット・トルクDM0に相当するかどうかを、継続的に確認する。ずれは、例えば、離陸後、上昇若しくは降下中、又は、例として電池の充電状態が過度に低かったことによりEMが作動停止されていた後に、生じ得る。したがって、トルクのずれが検出された場合、EM制御装置の第1の指令はまた、この測定されたトルクDMを、以下の通りにプリセット値DM0に調整する。測定されたトルクが過度に高い場合、EM制御装置は、DZを常に僅かに高い値に調整する。VM制御装置は、出力を減少させることによりこれに応答し、それにより、VMによって生成されるトルクは、着実に減少することになる。EM制御装置は、測定されたトルクDMがプリセット・トルクDM0に一致するまで、僅かに増加された速度を維持する。これが達せられるとすぐに、EMにおける出力は、プリセット速度DZ0が取り戻されるまで、再度迅速に減少される。その結果として、プリセット・トルクDM0もまた、維持される。そして、VMは、最適効率で動作し、EM制御装置は、DZを再度一定に保ち、その結果、VMは、変わらないその最適出力を送達する。
【0026】
したがって、EM制御装置は、もしDZ<DZ0であれば過度に低い速度に応答して且つ/又はもしDM>DM0であれば過剰なトルクに応答して動作中のEMにおける出力を増大させ、その逆の場合も同様である。
【0027】
本発明によれば、EM制御装置が作動停止されている場合、必須の推進力はVMを介して提供されるので、VM制御装置は、速度をプリセット値DZ0に調整することにより、安定飛行姿勢を自動的に保証する。これのために、適応及びさらなる監視は必要とされない。
【0028】
好ましい方法では、EM制御装置は、燃料タンクの燃料計及び/又は電池の充電状態表示器を使用して、依然利用可能なエネルギーを計算することができ、その上で、第1の指令から一時的に逸脱して、第2の指令に従って挙動することができる。この第2の指令では、電池は、電池を保護するために、燃料を節約するために、又はVMを一時的により低い動力で作動させて排出物を減少させるために、選択的に充電又は放電され得る。
【0029】
これは、例えば、電池の重放電又は過充電を防ぐ。他方では、EMは、より高い高度においてより頻繁に選択的に使用され得るが、これは、そのような高度では燃料消費量が相対的に急激に増大するためである。さらに、EMは、陸上での騒音及び排気物質を減少させるために、離陸段階及び/又は着陸段階中に単独で動作される場合があり、又は、VMは、必要に応じて単独で使用される場合がある。
【0030】
欧州特許第3162713号では、パイロットの信号は、2つの機関の間での所望の出力分配を達成するために、高周波数制御信号と低周波数制御信号とに分割されるが、本発明によれば、通常動作時の出力分配は、測定された速度DZ及び測定されたトルクDMを、記憶された設定点DZ0及びDM0に調整することにより、EMの第1の指令に基づいて調整される。離陸及び着陸は別として、通常の飛行状態では、両方の機関の制御装置は、パイロットからの制御信号を受信しない。EM及びVMは、プリセット速度DZ0が一定のままであるように、それらの出力を調整し、ここで、EMは、低速のVMがずれに応答し得る前に、最初にいかなるずれをも補償するために、より急速に応答する。EMはまた、VMによって送達されるトルクDMを、付加的な正又は負の動力出力により、第1の指令によるプリセット値DM0に調整する。したがって、本明細書において説明されるハイブリッド推進システムは、制御するのが容易であり、且つ、たとえVMが不意に故障した場合でも、プロセス信頼性を保証する。
【0031】
このようにして、ハイブリッド推進システムは、常に、利用可能な燃料の最も効率的な使用をもたらす負荷分配を用いてフローされる。しかし、これは、複雑な計算を行うことによって達成されるのではなく、速度の現在の値DZ及びトルクの現在の値DMをその都度判定すること並びにプリセット値DZ0、DM0の知識に基づいて、直接且つ単純に達成される。
【0032】
EMが故障した場合、VM制御装置が、いずれの場合にもパイロットによって設定された飛行姿勢に達し且つそれを維持するのに必要な定められた時間差を伴って、VMを介して駆動シャフトにおいて必要とされるそれぞれのトルクを正確に供給するので、本発明によるハイブリッド推進システムは、従来のVM推進システムになる。
【0033】
VMが故障した場合、速度は低下するが、これは、付加的な出力を伴うEMによって即時に補償される。速度DZを一定に保つことにより、飛行安全性が保証される。EM制御装置はまた、VMによって送達されるトルクDMが無いことを判定し、これは、VMが動作していないことを単に意味する。したがって、EMは、VMが再度動作し始めるまで、又はヘリコプタが着陸するまで、全動力を生成する役割を引き継ぐ。安全な飛行は、常に保証される。
【0034】
2つの制御装置のそれぞれが、飛行姿勢から直接生成される同じ情報を受信するので、機関のどちらも、必要とされる飛行姿勢を自律的に確保することができる。EMは、その仕事の共有を非常に迅速に検出し且つ実行して、VMが最適範囲内で継続的に機能することを可能にするので、2つの機関への負荷分配は、完全に自動的に行われる。
【0035】
さらに、燃料が少ない場合、EM制御装置は、燃料を節約するために、EMへの負荷を増大させることができる。第1の指令からの逸脱もまた、電池の重放電又は過充電を防ぐために行われ得る。EMはまた、例えば高山の上空を飛行するときに、付加的な出力を送達するために、ブースタの能力に加担することができる。他方では、電池残量がそれを許すのであれば、高温、及び/又は薄い大気によりVMの力が著しく減少する極端な高度という状況において、利用可能な力の限界を引き上げるため、又は燃料を節約するために、EMの使用が増加され得る。EMはまた、離陸領域及び/又は着陸領域における騒音及び排気物質を減少させるために、離陸段階及び/又は段階中にのみ動作され得る。
【0036】
第1の指令は、例外的な状況がもはや存在しなくなると、すぐに再有効化される。
【0037】
以下の文章において、本発明は、図面を参照しながらより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明によるハイブリッド推進システムの概略図である。
【
図2】上昇、水平飛行、及び降下などの様々な飛行姿勢における負荷分配を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、本発明によるハイブリッド推進システム4を本発明の簡単な説明に必要とされるよりも詳細に示す。
図1は、駆動列3と、主回転翼1を含む歯車箱と、本発明の目的にとっては重要でない尾部回転翼2とを含むヘリコプタの部分的な領域を示す。燃焼機関(VM)6及び電気モータ(EM)10が、駆動列3上に並列に配置され、ここで、EM10は、VM6と主回転翼1の歯車箱との間に配置されることが好ましい。他の構成も可能である。
【0040】
パイロット制御装置5が、主回転翼羽根を調節するためのパイロットの制御命令を受信することに関与し、その結果として、設定されるべき機関出力は、駆動シャフト3における必要速度DZ0として間接的に計算される。本発明による飛行モードに対して選択自由なものである、パイロット制御装置からVM制御装置7へのデータ信号線19が、離陸及び着陸操作のために使用され得る。
【0041】
VM6は、燃料タンク8に接続され、燃料タンク8は、VM制御装置7に接続され、VM制御装置7は、駆動シャフト3における必要推進出力を提供するために、燃料タンク8からVM6への燃料の供給を調整することができる。EM10もまた、好ましくは電力変換装置12及び充電ユニット13を介して、電池14に接続され、電池14は、電流ピーク緩衝(current peak buffering)を備え得る。EM10は、電池14内の電荷によって動作されてよく、又は、電池14は、EM10における機械力によって充電されてよく、その結果、駆動シャフト3は、その都度加速又は減速される。EM制御装置11が、例えば電力変換装置12を介して、少なくとも間接的にEM10に接続され、且つ、駆動シャフト3における必要とされる加速力又は減速力を送達するようにEM10を調整することができる。
【0042】
さらに、燃料計9が、燃料タンク8上に配置されてよく、また、充電状態表示器15が、電池14上に配置されてよく、それらのどちらも、動作中にそれらの測定データを計算ユニット16に送信することができる。
【0043】
少なくとも1つのトルク・センサ17及び1つの回転速度計18が、それぞれ駆動シャフト3上に配置される。動作中、VM制御装置7及びEM制御装置11は、それぞれ、少なくとも1つのトルク・センサ17及び1つの回転速度計18からデータを受信する。
【0044】
計算ユニット16は、EM制御装置11及びVM制御装置7に接続される。計算ユニット16は、依然利用可能なエネルギー、駆動シャフト3において必要とされるトルクを計算するために、及び/又はEM制御装置11を管理するために、使用される。計算ユニット16は、プリセット速度の値DZ0及びプリセット・トルクの値DM0が記憶されるデータ・メモリ20を含み、これらの値に基づいて、VM6の最適な動力結合が達成され、VMの効率は、これらの値において最高である。
【0045】
動作時には、EM制御装置11が、VM6及びEM10への負荷分配を開始する。これは、
図2に概略的に表されている。
【0046】
最上部の図表における破線プロットは、特定の高度Hにおいてパイロット制御装置5によってその都度要求される飛行姿勢を時間との相関関係で表す。この文脈において、高度「0」は、地面であると理解される。実線は、事実上の高度Hを表し、これは、僅かに遅れている。第1の段階(I)では、ヘリコプタは、所望の高度H1に達するまで、着実に上昇する。第2の段階(II)では、ヘリコプタは、この高度で水平飛行し続け、第3の段階(III)では、ヘリコプタは、再度降下する。新たに指定された目標に達する前に、各飛行段階の間に一定の期間が存在する。
【0047】
中央の図表におけるプロットは、全負荷PH、即ち主回転翼における全トルク(破線)、VM6における負荷PVM(鎖線)、及びEM10における負荷PEM(点線)を概略的に示す。最下部の図表は、速度DZを示す。
【0048】
離陸手順の後、VM6は、一定の高い水準で働く。第1の段階Iにおいて、EM10は、VM6が最適プリセット負荷PVMに達し次第トルクDM0を送達することにより、付加的な駆動装置として機能する。これは、プリセット高度H1に達するまで、即ちパイロットが回転翼羽根の迎え角を僅かに平らにするまで、上昇しているときの段階I中のVM(6)を支援する。離陸手順は、ヘリコプタが安全に空中に浮かぶまで、第1の指令以外の指示に従って行われ得る。
【0049】
最下部の図表に示されるように、段階IIの始めに回転翼羽根を平らにすることにより、速度DZは、少しの間、僅かに増加する。EM10は、これに直ちに応答して、速度DZが設定点DZ0に再度一致するまで、その出力を低下させる。今や、高度は、段階II全体を通して、一定のままである。VM6は遅く、したがって、この短時間の変化に応答しない。示された実例では、段階IIにおけるEM10への負荷は、負であり、そのため、EM10は、発電機として機能して、VM6からの過剰な出力からの利用可能な余分のエネルギーを電池14に戻す。VM6もまた、段階IIではその負荷を変化させない。
【0050】
段階IIIの始まりにおいて、降下の準備をしているときに、パイロットは、回転翼羽根を再度僅かに平らにし、速度DZは、少しの間、再度増加し、EM10は、その出力を低下させることにより、再度これに応答する。しかし、今回は、EM10は、第2の指令に従って、速度DZをプリセット値DZ0よりも僅かに高く調整する。ここで、EM10は駆動シャフト3を減速させ続けるので、EM6におけるエネルギーは、依然としてより速く回収される。速度DZは僅かに高められるので、VM6は、その出力を着実に低下させることにより、応答する。一方で、EM10は、段階IIIにおける最下部のプロットによって表されるように、高められたDZを維持する。現在速度DZを表す実線は、DZ0を表す破線よりも高い。
【0051】
現在速度DZが設定点速度DZ0を上回っている間、VM6における出力は低下し、着陸地における騒音及び排出物質も減少する。これは、EM10がその電気的に生成される力を着実に減少させることによって達成され、したがって、EM10はまた、その減速効果を低下させる。
【0052】
本発明によれば、駆動シャフト3の速度DZは、VM6によりDM0においてプリセット速度DZ0に一定に維持されるように、第1の指令に従ってもっぱらEM10によって調整される。第2の指令によれば、段階IIIに示されるように、挙動は、VM6への負荷を選択的に減少させるために、これから逸脱する。前述の排出物の減少に加えて、他の理由が第1の指令からの逸脱をもたらす場合がある。具体的には、電池14の充電状態がそのようなことを必要とするのであれば、電池14の意図的な充電及び放電が存在する。EM10はまた、例えばより高い高度において、少しの間増大された力を送達するために、又は燃料を節約するために、ブースタとして導入され得る。
【0053】
第2の指令は、上空飛行高度に応じた騒音規制によって、及び/又は、例えばEM制御装置11が電池14の充電状態及びタンク内に残っている燃料に関する情報を有する場合に、エネルギー貯蔵量に関する情報に基づいた予定飛行経路の事前決定によって、調整され得る。
【符号の説明】
【0054】
1 主回転翼を含む歯車箱
2 尾部回転翼
3 駆動シャフト
4 ハイブリッド推進システム
5 パイロット制御装置
6 燃焼機関(VM)
7 VM制御装置
8 燃料タンク
9 燃料計
10 電気モータ(EM)
11 EM制御装置
12 電力変換装置
13 充電ユニット
14 電池
15 充電状態表示器
16 計算ユニット
17 トルク・センサ
18 回転速度計
19 データ信号線
20 最適VM速度の値を含むデータ・メモリ
I 第1の段階、上昇
II 第2の段階、水平飛行
III 第3の段階、降下
t 時間
H 現在高度
H1 目標高度
P 力(トルクに対して冗長に)
PH 総合力
PEM EMにおける出力
PVM VMにおける出力
DZ 測定された駆動シャフトにおける速度
DZ0 最適速度
DM 測定された駆動シャフトにおけるトルク
DM0 目標トルク