(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】表示素子用封止剤およびその硬化物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/10 20060101AFI20240219BHJP
H10K 50/844 20230101ALI20240219BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20240219BHJP
【FI】
C09K3/10 B
C09K3/10 E
H10K50/844
H10K59/10
(21)【出願番号】P 2022550608
(86)(22)【出願日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2021034167
(87)【国際公開番号】W WO2022059742
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2020157661
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】舘野 航太郎
(72)【発明者】
【氏名】富田 裕介
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-536429(JP,A)
【文献】国際公開第2019/230846(WO,A1)
【文献】特開2020-034867(JP,A)
【文献】国際公開第2020/129792(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/129794(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/200668(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/100710(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/100711(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/10
C08F 20/20
C08F 2/50
H05B 33/04
H01L 51/50
H10K 50/844
H10K 59/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン非含有アクリレートを含むラジカル重合性モノマー混合物および2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド(TPO)を含有し、前記ラジカル重合性モノマー混合物が以下の条件1を満たす、表示素子用封止剤
であり、
前記ラジカル重合性モノマー混合物が、2官能(メタ)アクリレートのみからなり、
前記2官能(メタ)アクリレートは、(A)シリコン非含有でかつ環状骨格非含有の2官能(メタ)アクリレートを含み、
前記2官能(メタ)アクリレートは、さらに(B)シリコン非含有脂環式2官能(メタ)アクリレートを含む、表示素子用封止剤。
条件1:10mLバイアル瓶に5gの前記ラジカル重合性モノマー混合物および撹拌子を入れ、TPO粉末0.2gを25℃にて投入し、攪拌速度1000rpmとしたとき、攪拌時間30分以内にTPO粉末が目視にて完全溶解する。ここで、前記TPO粉末には、乳鉢によってすり潰し、JIS Z 8801-1のメッシュNo.14(目開き1.01mm)のメッシュにて濾したものを使用する。
【請求項2】
前記2官能(メタ)アクリレートが、2官能アクリレートと2官能メタクリレートとを含む、請求項
1に記載の表示素子用封止剤。
【請求項3】
前記成分(A)および(B)の合計100質量部に対して前記成分(A)の含有量が30質量部以上70質量部以下である、請求項
1または2に記載の表示素子用封止剤。
【請求項4】
有機EL表示素子の封止用である、請求項1乃至
3いずれか1項に記載の表示素子用封止剤。
【請求項5】
請求項1乃至
4いずれか1項に記載の表示素子用封止剤を硬化してなる硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示素子用封止剤およびその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
表示素子の分野において、封止剤の特性を向上するための検討がなされている。以下、有機EL表示装置を例に挙げて説明する。
有機EL素子は、消費電力が少ないことから、ディスプレイや照明装置などに用いられつつある。有機EL素子は、大気中の水分や酸素によって劣化しやすいことから、各種シール部材で封止されて使用されており、実用化に向けては各種シール部材の水分や酸素の耐久性の向上が望まれている。
【0003】
このようなシール部材として、熱硬化型のエポキシ系材料を用いた封止剤が数多く提案されている。しかし、硬化には加熱工程が必要となる、加熱により有機EL素子にダメージを与える可能性がある等の点で、改善の余地があった。
【0004】
加熱による硬化が不要な有機EL封止剤として、アクリル系材料を用いた封止剤も提案されている。たとえば、特許文献1(国際公開第2019/82996号)には、有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤に非環式の炭素数6以上のアルカンジオールジ(メタ)アクリレートと、特定の環状モノマーと、光重合開始剤とを含有する有機EL表示素子用封止剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
表示装置の封止層にアクリル系の樹脂を用いることについて本発明者らが検討したところ、アクリル系材料を用いた封止剤から得られる硬化膜では、時間の経過とともに、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(TPO)等の封止剤中の成分が硬化膜の表面に浮き出てくる、すなわちブリードアウトすることがあり、高温多湿の環境下ではその傾向が著しくなることが明らかになった。また、表示素子の製造過程で残存するアクリル系材料により多量のアウトガスを発生させる懸念がある点でも改善の余地があった。
【0007】
本発明は、樹脂膜の表面へのブリードアウトが抑制され、低アウトガス性にも優れる、表示素子用封止剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示す表示素子用封止剤および硬化物が提供される。
[1] シリコン非含有アクリレートを含むラジカル重合性モノマー混合物および2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド(TPO)を含有し、前記ラジカル重合性モノマー混合物が以下の条件1を満たす、表示素子用封止剤。
条件1:10mLバイアル瓶に5gの前記ラジカル重合性モノマー混合物および撹拌子を入れ、TPO粉末0.2gを25℃にて投入し、攪拌速度1000rpmとしたとき、攪拌時間30分以内にTPO粉末が目視にて完全溶解する。ここで、前記TPO粉末には、乳鉢によってすり潰し、JIS Z 8801-1のメッシュNo.14(目開き1.01mm)のメッシュにて濾したものを使用する。
[2] 前記ラジカル重合性モノマー混合物が、2官能(メタ)アクリレートのみからなる、[1]に記載の表示素子用封止剤。
[3] 前記2官能(メタ)アクリレートは、(A)シリコン非含有でかつ環状骨格非含有の2官能(メタ)アクリレートを含む、[2]に記載の表示素子用封止剤。
[4] 前記2官能(メタ)アクリレートは、さらに(B)シリコン非含有脂環式2官能(メタ)アクリレートを含む、[3]に記載の表示素子用封止剤。
[5] 前記2官能(メタ)アクリレートが、2官能アクリレートと2官能メタクリレートとを含む、[2]乃至[4]いずれか1項に記載の表示素子用封止剤。
[6] 前記成分(A)および(B)の合計100質量部に対して前記成分(A)の含有量が30質量部以上70質量部以下である、[4]に記載の表示素子用封止剤。
[7] 有機EL表示素子の封止用である、[1]乃至[6]いずれか1項に記載の表示素子用封止剤。
[8] [1]乃至[7]いずれか1項に記載の表示素子用封止剤を硬化してなる硬化物。
【0009】
なお、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた本発明の態様として有効である。
たとえば、本発明によれば、基板と、前記基板上に配置された表示素子と、前記表示素子を被覆する封止層と、を含み、前記封止層が、前記本発明における紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物により構成されている、表示装置を提供することもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂膜の表面へのブリードアウトが抑制され、低アウトガス性にも優れる、表示素子用封止剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。また、本実施形態において、各成分について、それぞれ、1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、数値範囲を表す「~」は、以上、以下を表し、上限値および下限値をいずれも含む。
【0012】
(表示素子用封止剤)
本実施形態において、表示素子用封止剤(以下、適宜単に「封止剤」とも呼ぶ。)は、表示素子の封止に用いられる組成物であって、シリコン非含有アクリレートを含むラジカル重合性モノマー混合物および2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド(TPO)を含有する。そして、ラジカル重合性モノマー混合物が以下の条件1を満たす。
条件1:10mLバイアル瓶に5gのラジカル重合性モノマー混合物および撹拌子を入れ、TPO粉末0.2gを25℃にて投入し、攪拌速度1000rpmとしたとき、攪拌時間30分以内にTPO粉末が目視にて完全溶解する。ここで、TPO粉末には、乳鉢によってすり潰し、JIS Z 8801-1のメッシュNo.14(目開き1.01mm)のメッシュにて濾したものを使用する。
条件1において、さらに具体的には、既定のバイアル瓶はマイティバイアルNo.5(マルエム社製、コード番号0102-18)であり、撹拌子はトライアングル回転子20×8mm(アズワン社製、型番011.420)である。
【0013】
本実施形態においては、封止剤中のラジカル重合性モノマー混合物がシリコン非含有アクリレートおよびTPOを含むとともに、ラジカル重合性モノマー混合物がTPOの溶解性について上述の条件1を満たす。このため、封止剤の樹脂膜、たとえば塗膜の表面へのブリードアウトが好適に抑制されるとともに、低アウトガス性にも優れる樹脂膜を得ることができる。また、本実施形態によれば、たとえば、封止剤の樹脂膜の表面へのTPOのブリードアウトを抑制することも可能となる。
【0014】
ラジカル重合性モノマー混合物がTPOの溶解性について上述の条件1を満たすと、ブリードアウトの抑制および低アウトガス性に優れる樹脂膜が得られる理由は必ずしも明らかではないが、TPOと樹脂(ラジカル重合性モノマー混合物)との極性が近いことで、TPOが樹脂内部に安定的に存在することが出来るためブリードアウトが起こりにくく、かつTPOが樹脂全体に非局在化するため、反応が均一に進行し、未反応成分が残りにくいことが考えられる。
すなわち、本発明者らは、ブリードアウトおよびアウトガスを抑制するための設計指針として、新たに、ラジカル重合性モノマー混合物のTPO溶解性という尺度に着目した。TPO溶解時間が短い場合は、TPOとラジカル重合性モノマー混合物との相溶性に優れることを意味し、長い場合にはTPOと樹脂との極性が遠くなるため、樹脂内部に安定的に存在することが出来ないためブリードアウトが起こりやすく、かつTPOが樹脂全体に非局在化しにくいため、反応が不均一に進行し、硬化の進行がまばらとなることを意味することから、本発明者らは、ブリードアウトおよびアウトガスの生じやすさの指標としてラジカル重合性モノマー混合物のTPO溶解性が有効であると考えた。
そして、本発明者らがさらに鋭意検討を重ねた結果、ラジカル重合性モノマー混合物がシリコン非含有アクリレートを含む構成とするとともに、TPO溶解性について上記条件1を満たす構成とすることにより、ブリードアウトおよびアウトガスを効果的に抑制できることを見出して本発明を完成するに至った。
【0015】
条件1において、撹拌開始からTPOが完全に溶解するまでの時間は、ブリードアウトおよびアウトガスの抑制効果向上の観点から、30分以内であり、好ましくは25分以内、より好ましくは20分以内、さらに好ましくは18分以内である。
また、条件1において、撹拌開始からTPOが完全に溶解するまでの時間は、0分以上であり、たとえば1分以上であってもよい。
以下、封止剤に含まれる成分をさらに具体的に説明する。
【0016】
(ラジカル重合性モノマー混合物)
ラジカル重合性モノマー混合物は、具体的には、2種以上のラジカル重合性モノマーを含む混合物である。ラジカル重合性モノマー混合物は、ラジカル重合性モノマーとして、シリコン非含有アクリレートを含む。
シリコン非含有アクリレートの具体例として、シリコン非含有単官能モノアクリレート、シリコン非含有2官能アクリレート、3官能以上のシリコン非含有アクリレートが挙げられる。ブリードアウトおよびアウトガスの抑制効果向上の観点から、シリコン非含有アクリレートは、好ましくはシリコン非含有2官能アクリレートを含み、より好ましくはシリコン非含有2官能アクリレートである。
【0017】
ブリードアウトおよびアウトガスの抑制効果向上の観点から、ラジカル重合性モノマーは、好ましくはシリコン含有アクリレートを含まず、より好ましくはシリコン含有(メタ)アクリレートを含まない。
【0018】
ここで、本明細書において、シリコン非含有アクリレートとは、分子構造中にSiを含まないアクリレートをいい、シリコン含有アクリレート分子構造中にSiを含むアクリレートをいう。
また、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートのうちの少なくとも一方を意味する。(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基とメタクリロイル基のうちの少なくとも一方を意味する。(メタ)アクリルとは、アクリルまたはメタクリルのうちの少なくとも一方を意味する。
【0019】
均一な硬化性を得る観点から、ラジカル重合性モノマー混合物は、好ましくは2官能(メタ)アクリレートを含み、より好ましくは2官能(メタ)アクリレートのみからなる。
硬化速度の均一性向上の観点から、2官能(メタ)アクリレートは、好ましくは2官能アクリレートと2官能メタクリレートとを含む。
また、TPOとの相溶性向上の観点から、2官能(メタ)アクリレートは、好ましくは(A)シリコン非含有でかつ環状骨格非含有の2官能(メタ)アクリレートを含み、より好ましくは、(A)シリコン非含有でかつ環状骨格非含有の2官能(メタ)アクリレート、および、(B)シリコン非含有脂環式2官能(メタ)アクリレートを含む。
【0020】
(成分(A))
成分(A)は、シリコン非含有でかつ環状骨格非含有の2官能(メタ)アクリレートである。成分(A)は、具体的には、分子構造中にSiを含まず、かつ、脂環式構造や芳香環の環状骨格を含まないとともに、(メタ)アクリル基を2個有する(メタ)アクリレートである。
成分(A)は、インクジェット塗布性をより好ましいものとする観点から、好ましくは分岐鎖を有してもよい2価の鎖式炭化水素基を含み、より好ましくは直鎖炭化水素基を含む。2価の鎖式炭化水素基の炭素数は、モノマー入手容易性の観点から、たとえば1以上であり、好ましくは2以上、より好ましくは4以上である。また、耐熱性向上の観点から、2価の鎖式炭化水素基の炭素数は、好ましくは20以下、より好ましくは14以下である。
【0021】
成分(A)の具体例として、アルカンジオールのジ(メタ)アクリレートや、分岐鎖を有する炭化水素構造を有するジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
成分(A)として、さらに具体的には、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(たとえばA-HD-N、新中村化学工業社製)、1,9-ノナンジオールジアクリレート(たとえばA-NOD-N、新中村化学工業社製;ライトアクリレート1,9ND-A、共栄社化学社製)、1,10-デカンジオールジアクリレート(たとえばA-DOD-N、新中村化学工業社製)、エチレングリコールジアクリレート(たとえばSR206NS、アルケマ社製)、トリエチレングリコールジアクリレート(たとえばSR272、アルケマ社製)、ポリエチレングリコールジアクリレート(たとえばA-400、新中村化学工業社製)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(たとえばライトアクリレートNP-A、共栄社化学社製)等のアクリレート;ならびに、1,3-ブタンジオールジメタクリレート(たとえばBG、新中村化学工業社製)、1,4-ブタンジオールジメタクリレート(たとえばBD、新中村化学工業社製)、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(たとえばHD-N、新中村化学工業社製)、1,9-ノナンジオールジメタクリレート(たとえばNOD-N、新中村化学工業社製;ライトアクリレート1,9-ND-M、共栄社化学社製)、1,10-デカンジオールジメタクリレート(たとえばDOD-N、新中村化学工業社製)、1,12-ドデカンジオールジメタクリレート(たとえばSR262、サートマー社製)、ネオペンチルグリコールジメタクリレート(たとえばNPG、新中村化学工業社製)等のメタクリレートが挙げられる。
耐プラズマ性向上、インクジェット法での塗布安定性向上および低誘電率の効果のバランスを高める観点から、成分(A)は、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1つの(メタ)アクリレートである。
【0022】
封止剤中の成分(A)の含有量は、インクジェット塗布性をより好ましいものとする観点から、ラジカル重合性モノマー100質量部に対し、好ましくは5質量部以上であり、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは15質量部以上、さらにより好ましくは20質量部以上である。
また、硬化物の硬度向上の観点から、封止剤中の成分(A)の含有量は、ラジカル重合性モノマー100質量部に対し、好ましくは99.5質量部以下であり、より好ましくは95質量部以下、さらに好ましくは85質量部以下である。
【0023】
(成分(B))
成分(B)は、シリコン非含有脂環式2官能(メタ)アクリレートである。
成分(B)は、具体的には、分子構造中に脂環式炭化水素構造を有する2官能(メタ)アクリレートである。脂環式炭化水素構造における炭素数は、耐熱性向上の観点から、好ましくは4以上であり、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上であり、また、好ましくは14以下であり、より好ましくは12以下、さらに好ましくは10以下である。
脂環式炭化水素構造は、飽和炭化水素構造であってよいし不飽和炭化水素構造であってもよい。耐熱性向上の観点から、脂環式炭化水素構造は、好ましくは飽和炭化水素構造である。
【0024】
また、脂環式炭化水素構造は、単環式炭化水素構造であってもよいし、縮合環式炭化水素構造や橋架環式炭化水素基構造の多環式炭化水素構造であってもよい。脂環式2官能(メタ)アクリレートは、分子構造中にこれらの脂環式炭化水素構造を含む基を含んでもよく、好ましくは脂環式炭化水素構造を含む2価の基を含む。
単環式炭化水素基の具体例として、シクロヘキシレン基、シクロヘキシル基等のシクロアルカン構造を有する基;シクロデカトリエンジイル基、シクロデカトリエン基等のシクロアルケン骨格を有する基が挙げられる。
多環式炭化水素基の具体例として、トリシクロデカンジイル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基等のジシクロペンタジエン骨格を有する基;ノルボルナンジイル基、イソボルナンジイル基、ノルボルニル基、イソボルニル基等のノルボルナン骨格を有する基;アダマンタンジイル基、アダマンチル基等のアダマンタン骨格を有する基などが挙げられる。
【0025】
成分(B)における環式炭化水素基は、黄変耐性の向上の観点から、好ましくはジシクロペンタジエン骨格を有する基である。
また、成分(B)は、硬化物の硬度向上の観点から、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート(たとえば、ライトアクリレートDCP-A、共栄社化学社製;DCP、新中村化学工業社製)を含み、より好ましくはトリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートである。
【0026】
封止剤中の成分(B)の含有量は、硬化物の硬度向上の観点から、ラジカル重合性モノマー100質量部に対し、好ましくは5質量部以上であり、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは15質量部以上、さらにより好ましくは20質量部以上、よりいっそう好ましくは25質量部以上である。
また、インクジェットの吐出性向上の観点から、封止剤中の成分(B)の含有量は、ラジカル重合性モノマー100質量部に対し、好ましくは70質量部以下であり、より好ましくは65質量部以下、さらに好ましくは60質量部以下、さらにより好ましくは55質量部以下である。
【0027】
成分(A)および(B)の合計100質量部に対する成分(A)の含有量は、インクジェット塗布性向上の観点から、たとえば3質量部以上であってよく、好ましくは30質量部以上であり、より好ましくは35質量部以上、さらに好ましくは40質量部以上である。
また、硬化物の硬度向上の観点から、成分(A)および(B)の合計100質量部に対する成分(A)の含有量は、たとえば98質量部以下であってよく、好ましくは70質量部以下であり、より好ましくは60質量部以下、さらに好ましくは55質量部以下である。
【0028】
2官能アクリレートおよび2官能メタクリレートの合計100質量部に対する2官能アクリレートの含有量は、反応速度の向上の観点から、好ましくは5質量部以上であり、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは15質量部以上であり、さらにいっそう好ましくは25質量部以上であり、よりさらにいっそう好ましくは35質量部以上である。
また、樹脂鎖長の伸長の観点から、2官能アクリレートおよび2官能メタクリレートの合計100質量部に対する2官能アクリレートの含有量は、たとえば98質量部以下であってもよく、好ましくは90質量部以下であり、より好ましくは80質量部以下、さらに好ましくは70質量部以下であり、さらにいっそう好ましくは60質量部以下であり、よりさらにいっそう好ましくは55質量部以下である。
【0029】
ラジカル重合性モノマーは、シリコン非含有直鎖2官能(メタ)アクリレート以外の(メタ)アクリレートを含んでもよい。
シリコン非含有直鎖2官能(メタ)アクリレート以外の(メタ)アクリレートの具体例として、シリコン非含有単官能(メタ)アクリレートおよびシリコン非含有の3官能以上の多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
シリコン非含有単官能(メタ)アクリレートの具体例として、分子構造中に直鎖または分岐鎖を有する炭化水素基を有するモノ(メタ)アクリレート、分子構造中に芳香族炭化水素基を有するモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。前者の例として、ラウリルメタクリレート、イソステアリルアクリレートが挙げられ、後者の例として、3-フェノキシベンジルアクリレートが挙げられる。
ブリードアウトおよびアウトガスの抑制効果をさらに高める観点から、封止剤は好ましくはシリコン非含有直鎖2官能(メタ)アクリレート以外の(メタ)アクリレートを含まない。すなわち、封止剤中のシリコン非含有直鎖2官能(メタ)アクリレート以外の(メタ)アクリレートの含有量は、ラジカル重合性モノマー100質量部に対して好ましくは0質量部である。
同様の観点から、封止剤がシリコン非含有直鎖2官能(メタ)アクリレート以外の(メタ)アクリレートを含むとき、その含有量は、ラジカル重合性モノマー100質量部に対して0質量部超であり、また、たとえば1質量部以下であり、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下、さらに好ましくは0.01質量部以下である。
【0030】
封止剤中のラジカル重合性モノマーの含有量は、硬化物の強度を向上する観点から、封止剤の全組成に対し、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上、よりいっそう好ましくは93質量%以上である。
また、封止材料の耐候性を向上する観点から、封止剤中の重合性化合物の含有量は、封止剤の全組成に対し、好ましくは99.9質量%以下であり、より好ましくは99.5質量%以下、さらに好ましくは99質量%以下、よりいっそう好ましくは98質量%以下である。
【0031】
(TPO)
封止剤は、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド(TPO)を含む。TPOは、具体的には、紫外線または可視光線の照射によりラジカルまたは酸を発生する化合物である光重合開始剤として機能する。
【0032】
封止剤中のTPOの含有量は、硬化性を向上する観点から、封止剤の全組成に対し、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、さらにより好ましくは2質量%以上である。
また、封止剤の着色を抑制する観点から、封止剤中のTPOの含有量は、封止剤の全組成に対し、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下、さらにより好ましくは5質量%以下である。
【0033】
(その他成分)
本実施形態において、封止剤は、ラジカル重合性モノマー混合物およびTPOから構成されてもよいし、これら以外の成分を含んでもよい。他の成分の具体例として、粘着付与剤、充填剤、硬化促進剤、可塑剤、界面活性剤、熱安定剤、難燃剤、帯電防止剤、消泡剤、フッ素系レベリング剤等のレベリング剤および紫外線吸収剤からなる群から選択される1または2以上の添加剤が挙げられる。
たとえば封止剤がレベリング剤を含むとき、その含有量は、封止剤の全組成に対してたとえば0.01~1質量%程度、好ましくは0.1~0.5質量%程度とすることができる。
【0034】
封止剤の性状は限定されず、封止材料のフレキシブル性および耐プラズマ性を向上する観点、および、インクジェット法等の塗布法による硬化材料の形成に好適であるという観点から、封止剤は好ましくは液状である。
【0035】
また、実施形態において、樹脂膜等の封止材料を安定的に形成する観点から、封止剤は、好ましくは塗布に用いられる封止剤であり、より好ましくはインクジェット法による塗布に用いられる封止剤である。
【0036】
次に、封止剤の製造方法を説明する。
封止剤の製造方法は限定されず、たとえば、重合性化合物、硬化剤、および、適宜その他の成分、たとえば必要に応じて添加する各種添加剤を混合することを含む。各成分を混合する方法として、たとえば、遊星式撹拌装置、ホモディスパー、万能ミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー、2本ロール、3本ロール、押出機等の公知の各種混練機を単独または併用して、常温下または加熱下で、常圧下、減圧下、加圧下または不活性ガス気流下等の条件下で均一に混練する方法が挙げられる。
【0037】
ここで、たとえば、封止剤に含まれる成分および含有量を調整するとともに、成分の混合条件を調整することにより、TPO溶解性について条件1を満たす封止剤を得ることができる。さらに具体的には、ラジカル重合性モノマー混合物として複数の2官能(メタ)アクリレートを選択し、組み合わせて用いるとともに、封止剤の調製にあたり、雰囲気中の酸素濃度および温度を制御しながら各モノマーを混合してラジカル重合性モノマー混合物を得ることにより、TPO溶解性について条件1を満たす封止剤をより安定的に得ることができる。
【0038】
また、得られた封止剤を用いて樹脂膜を形成することもできる。たとえば、封止剤を基材上に塗布し、硬化してもよい。塗布には、インクジェット法、スクリーン印刷、ディスペンサー塗布等の公知の手法を用いることができる。
また、本実施形態において、硬化物は、本実施形態における封止剤を硬化してなる。
【0039】
本実施形態においては、封止剤がシリコン非含有アクリレートを含むラジカル重合性モノマー混合物およびTPOを含むとともに、ラジカル重合性モノマー混合物がTPO溶解性について条件1を満たすため、かかる封止剤を用いることにより、樹脂膜表面へのブリードアウトの抑制効果および低アウトガス性に優れる樹脂膜を得ることができる。本実施形態によれば、たとえば、高温高湿下におけるブリードアウトを抑制することも可能となる。また、本実施形態によれば、たとえば、封止剤により得られる樹脂膜を封止材料として用いることにより、製造安定性に優れる表示装置を得ることも可能となる。
表示装置として有機EL表示装置を例に挙げると、有機EL表示装置は、封止剤の硬化物により構成された層、たとえば封止層を有する。
また、本実施形態における封止剤は、好ましくは有機EL表示素子の封止用である。
【0040】
また、本実施形態において得られる封止剤は、たとえば表示素子、好ましくは有機EL表示素子の封止用に好適に用いられる。本実施形態によれば、樹脂層の形成時にインクジェット法で安定に塗布できるとともに、素子発光時のダークスポットの発生を効果的に抑制することができ、表示装置の製造安定性を向上することも可能となる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
はじめに、以下の例において用いた材料を示す。
【0042】
(ラジカル重合性モノマー)
(A)シリコン非含有でかつ環状骨格非含有の2官能(メタ)アクリレート
1,9-ノナンジオールジアクリレート:ライトアクリレート1,9ND-A、共栄社化学社製、直鎖2官能アクリレート、シリコン非含有アクリレート
1,9-ノナンジオールジメタクリレート:NOD-N、新中村化学工業社製、直鎖2官能メタクリレート
1,12-ドデカンジオールジメタクリレート:SR262、サートマー社製、直鎖2官能メタクリレート
ネオペンチルグリコールジアクリレート:ライトアクリレートNP-A、共栄社化学社製、2官能アクリレート、シリコン非含有アクリレート
(B)シリコン非含有脂環式2官能(メタ)アクリレート
ジメチロール-トリシクロデカンジメタクリレート:DCP、新中村化学工業社製、2官能メタクリレート
ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート:ライトアクリレートDCP-A、共栄社化学社製、2官能アクリレート、シリコン非含有アクリレート
(その他の(メタ)アクリレート)
イソステアリルアクリレート:S1800、新中村化学工業社製、1官能アクリレート、シリコン非含有アクリレート
シリコン含有2官能メタクリレート:X-22-164AS、信越化学社製
【0043】
(重合開始剤)
(C)2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド:Omnirad TPO H、GM Resins社製
【0044】
(レベリング剤)
フッ素系レベリング剤:F552、DIC社製
【0045】
(実施例1~7、比較例1~3)
表1に記載の各成分を配合して、各例の封止剤として液状の硬化性組成物を得た。
各実施例においては、まず、表1に記載の成分のうち、ラジカル重合性モノマーを酸素濃度が20.0~21.0%の大気環境下、室温(25℃)、褐色のバイアル瓶にて混合し、ラジカル重合性モノマー混合物を得た。また、暴走可能性低減の観点から、メタクリレートを先に入れ、あとからアクリレートを入れた。得られたラジカル重合性モノマー混合物のTPO溶解性を後述の方法で評価した。
次に、ラジカル重合性モノマー混合物と表1に記載の他の成分とを、酸素濃度が20.0~21.0%の大気環境下、20~60℃、褐色のバイアル瓶にて混合し、各例の組成物を得た。
【0046】
各例で得られた組成物の硬化物について、高温高湿条件下におけるブリードアウトの有無およびアウトガスを以下の方法で測定した。測定結果を表1にあわせて示す。
【0047】
(TPO溶解性)
各例におけるラジカル重合性モノマー混合物(以下、「モノマー液」とも呼ぶ。)のTPO溶解性を以下の手順で評価した。
1.モノマー液5gを10mLバイアル(褐色、マイティバイアルNo.5(マルエム社製、コード番号0102-18))に入れた。
2.TPOを乳鉢で均一に細かくすり潰しておき、JIS Z 8801-1メッシュNo.14(目開き1.01mm)のメッシュにて濾した。
3.上記2.におけるメッシュ下の画分のTPO 0.2gを25℃にて投入した。
4.撹拌子(トライアングル回転子20×8mm(アズワン社製、型番011.420))にて1000rpmにて攪拌した。
5.撹拌開始からTPOが完全に溶解するまでの時間を目視にて確認した。30分経過後、TPOが完全溶解していないものについては「30分たっても不溶」とした。
【0048】
(高温高湿試験)
高温高湿条件下におけるブリードアウトの有無を以下の手順で評価した。
1.配合液を50mm×50mmの無アルカリガラスにスピンコーターを用いて、平均膜厚8μmに塗布した。
2.窒素パージボックスへ封入し、窒素を3分間流した。
3.1500mW5600mJ(UVA2)を照射し、硬化させた。
4.85℃85%RHの恒温恒湿槽へ投入し、500時間後、取り出した。
5.目視にてブリードアウトが生じていなければ「OK」、ブリードアウトしていたら、「×」と評価した。
【0049】
(アウトガス評価)
以下の手順でアウトガスの発生量を評価した。
1.各例で得られた封止剤を50mm×50mmの無アルカリガラスにスピンコーターを用いて、平均膜厚8μmとなるよう塗布した。
2.上記1.で得られた塗膜を窒素パージボックスへ封入し、窒素を3分間流した。
3.1500mW5600mJ(UVA2)を照射し、硬化させた。
4.上記3.で作製した試験片を10mm×50mmにカットし、ヘッドスペース法にて110℃30分加熱し、ガスクロマトグラフィにて、発生したアウトガス量を採集した。
5.上記4.にて採集したアウトガス量[ppm]を、トルエンを基準として定量した。
【0050】
【0051】
表1より、各実施例においては、高温高湿下における塗膜表面へのブリードアウトが抑制され、また、低アウトガス性にも優れていた。
【0052】
この出願は、2020年9月18日に出願された日本出願特願2020-157661号を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。