(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】歯のエナメル質を再石灰化するための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/34 20060101AFI20240220BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20240220BHJP
A61K 8/20 20060101ALI20240220BHJP
A61K 8/36 20060101ALI20240220BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20240220BHJP
A61K 8/39 20060101ALI20240220BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20240220BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20240220BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20240220BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
A61K8/34
A61K8/02
A61K8/20
A61K8/36
A61K8/37
A61K8/39
A61K8/55
A61K8/60
A61K8/73
A61Q11/00
(21)【出願番号】P 2022535093
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 RU2019001020
(87)【国際公開番号】W WO2021133191
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】523122827
【氏名又は名称】オブスチェストヴォ エス オグラニチェノイ オトヴェットストヴェノスティユ ≪ダブリューディーエス≫
【氏名又は名称原語表記】OBSCHESTVO S OGRANICHENNOI OTVETSTVENNOSTYU WDS
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】マテロ, スヴェトラーナ コンスタンチノヴナ
(72)【発明者】
【氏名】クペッツ, タティアナ ブラディミロフナ
(72)【発明者】
【氏名】グロッサー, アレクサンドル フラディミロビッチ
【審査官】▲高▼橋 明日香
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-517382(JP,A)
【文献】国際公開第2009/099350(WO,A1)
【文献】Klinicheskie aspektyprimeneniya applikatsionnogo gelya R.O.C.S MEDICAL MINERALS,UNIDENT TODAY,2010年,p.38-39
【文献】Performance of a newlydeveloped mineral gel system on erosive and erosive/abrasive enamel loss, An invitro study,Swiss Dental Journal SSO,2018年,p.2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 31/00-31/327
A61K 31/33-33/44
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯のエナメル質からのミネラル及び塩の喪失を特徴とする状態を治療及び/又は予防するためのジェル形態の組成物であって、
前記状態が、脱灰、歯の低ミネラル化、フッ素症、及びエナメル質上に形成される斑点又は既に形成された斑点であって、取り外し不能なデバイスによる歯科矯正治療中又は治療後に生じた斑点であり、その後のエナメル質上での齲窩の発生を特徴とし、充填材又はベニアの使用をさらに必要とする斑点から選択され、
以下の成分及び重量%で含むことを特徴とする組成物。
【表1】
【請求項2】
以下の成分及び重量%で含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【表2】
【請求項3】
前記斑点が白亜質の、白色の又は色素沈着した斑点である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
非イオン性界面活性剤が、ポリソルベート-20、PEG-40硬化ヒマシ油、又はアルキルポリグリコシドである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
防腐剤が、メチルパラベン、メチルパラベンナトリウム、フェノキシエタノール、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、及びチモールの群から選択される物質の1つである、請求項1又は2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は歯科医療に関し、より詳細には、歯のエナメル質からのミネラル及び塩の喪失を特徴とする状態又は疾患(障害)を治療及び/又は予防するための新規組成物又はジェル形態の組成物、その使用、及びそれを使用した治療方法に関する。
【0002】
歯のエナメル質は、保護機能を実行する歯の組織である。エナメル質には、96~97%のミネラル塩及び3~4%の有機物質が含まれている。エナメル質からミネラルが除去されるプロセスは、「脱灰」と称される。
【0003】
脱灰の原因は、食事中のビタミン及びミネラルの不足、又はその中に大量の果物の酸が存在することを特徴とする不適切な栄養、歯の組織への機械的損傷、頻繁すぎる又は非専門家によるホワイトニング、細菌性の歯の損傷であり得る。脱灰の結果、歯のエナメル質は色が変化し、多孔質で粗くなり、切りくずが形成され得るといった望ましくない状態が発生する。歯は敏感になり、齲窩が発生する。
【0004】
唾液の作用により歯の表面の自然な再石灰化が行われる。唾液の作用は、食物の残留物から口腔の浄化をもたらし、唾液の緩衝特性は、食物の酸の作用を限界まで中和する能力を提供する。加えて、唾液には再石灰化の開始剤であるカルシウムイオン、フッ素イオン、及びリン酸イオンが含まれている。
【0005】
それにもかかわらず、唾液は脱灰因子(例えば、かなりの量の容易に発酵可能な炭水化物)の悪影響を克服するのに十分な石灰化能を持たない可能性があるため、自然の石灰化は多くの場合十分ではなく、したがってエナメルを修復するためには追加の組成物の使用が必要とされる。
【0006】
J.A. Kaidonis et al., J Dent Res, 1998の研究は、フッ素及びカルシウムイオンを含む薬剤によって、最高の再石灰化効果が提供されることを示している。
【0007】
10%のグルコン酸カルシウム及び2%のフッ化ナトリウムの溶液で治療した後、歯の硬組織の酸蝕の治療において好ましい臨床結果が得られた。同時に、欠陥のある領域の歯の表面には新しい結晶層が形成される。明らかに、カルシウム及びフッ化物の薬剤の使用は、歯の患部での再石灰化のプロセスを刺激する。得られた結晶層は有機物質を吸着し、さまざまな刺激物から歯の表面を保護するペリクルを形成する。患部が厚くなり、欠損の拡大を防止する(P. A. Leus, Non-carious diseases of the dental hard tissues. Educational and methodical manual, Minsk, BSMU, 2008)。
【0008】
ロシア国特許出願公開第2003101428号から、既知のカルシウムイオン及びフッ化物イオンの両方を含む組成物の例は、疎水性及び親水性層で作られた生体適合性ポリマーフィルムの形態の、虫歯、知覚過敏症の予防及び治療のための局所組成物であり、フッ化物、抗菌成分、カルシウム化合物、リン含有化合物及び補助物質を含有している。
【0009】
ロシア国特許第2677231号に準拠した歯科用ジェルは、ヒドロキシアパタイト、フルオロヒドロキシアパタイト、及びフッ化ナトリウムを含有するという事実によって特徴付けられる。
【0010】
ロシア国特許第2361600号によると、歯周病治療のための組成物はさらに再石灰化効果があり、植物由来の物質の有効成分としての黒カラントの葉の乾燥抽出物、並びに水、グリセリン、水溶性セルロース誘導体、グリセロリン酸カルシウム、フッ化ナトリウム、プロピルパラベンナトリウム塩、フルクトース、ペパーミントオイルを含有する。
【0011】
フッ化物含有の練り歯磨き及びジェルは民間に普及している事実にもかかわらず、実際には、フッ化物含有の練り歯磨き及びジェルは主にエナメル質表面でそれらの特性を表すので、その使用による再石灰化効果は顕著ではない。さらに、そのような組成物は、例えば取り外し不能なデバイスによる歯科矯正の治療中及び治療後に発生した、白色斑点段階での虫歯と呼ばれる深い領域の脱灰には対処しない。
【0012】
ブラケットシステムを使用して歯科矯正治療を受けている患者の50~88%において、治療中に少なくとも1本の歯に白亜質の斑点が発生することが知られている。脱灰の領域は通常、上顎の第1大臼歯、側切歯、及び下顎の犬歯で発生する。損傷は、歯の前庭面に隣接するロック(ブラケット)の周りで最も頻繁に発生する。歯科矯正患者の個々の口腔衛生の質が、主に初期の齲蝕病変領域を形成するリスクを決定する。
【0013】
虫歯の発生を止めるための最も重要な条件は、患部のバイオフィルムを注意深く定期的に除去することである。これにより、唾液ミネラルが脱灰の領域に作用することが可能となる。
【0014】
同時に、フッ化物含有練り歯磨きを使用して日常的な口腔ケア手順を実行しても、必要な程度の表面洗浄を達成できずに、白亜質の斑点には大きな影響を与えないことが、多くの研究で示されている。
【0015】
再石灰化組成物の組成にフッ化物を使用することの追加の不利益は、フッ化物含有組成物を不適切に使用したときに、再石灰化組成物の使用中及び使用後の早い年齢において歯のフッ素症を発症する可能性である。フッ化物は、甲状腺、骨格、及び泌尿器系、並びにCIS(IQレベル)に悪影響を与える可能性がある。
【0016】
歯のフッ素症は、歯の形成中に過剰な量のフッ化物化合物が体内に入ったときに発症する病気であり、エナメル質の破壊だけでなく、白亜質の及び/又は色素沈着した斑点の発生を特徴とする。国内外の研究者は、全ての大陸において歯のフッ素症の有病率が高いことに注目している。歯のフッ素症の臨床像とその強度は、さまざまな発生源から体内に入るフッ化物化合物の量だけでなく、特に活発な成長中の身体に対する毒性作用の時間及び程度、及びフッ化物化合物に対する個々の感受性の程度にも依存する。
【0017】
このタイプの病状は、乳歯よりも永久歯でより頻繁に診断され、それらの萌出の時点で既にフッ素症病変が観察され得ることに留意されたい。
【0018】
多くの著者が、この病気の悪影響及び歯のフッ素症の患者の懸念の程度は、臨床的意味の重症度、特定の年齢層に属すること、並びに心理的特徴に依存すると考えている。多くの場合、病状が軽度の形態のときは、審美的知覚の不満のみが患者には妥当である。フッ素症の重度の病変は患者の苦情の範囲を拡大し、審美的な問題に加えて、歯の硬組織の損傷(破壊)のために他のものが追加される。即ち、温度刺激物に曝されたときの疼痛症候群の発生、エナメル質の破砕、歯の摩耗増大である。個々人の口腔衛生が不十分な状態では、虫歯が既存の病状に加わる可能性がある。
【0019】
軽度の形態のフッ素症には、重度の形態とは異なり、エナメル質の石灰化に反する可逆的なプロセスが伴う。歯の重度の形態のフッ素症(侵食性、破壊性)は、歯の硬組織の欠陥の発生、硬組織の脆弱性の増加を特徴とし、エナメル質、さらには象牙質の深刻な摩耗を導き、硬組織の破砕につながる可能性がある。多くの研究者による同じ患者の観察によると、この病気の幾つかの形態に固有の臨床的徴候を登録することが可能である。即ち、白亜質の及び色素沈着した斑点、斑点及び併合された酸蝕、摩耗及び破砕されたエナメル質である。
【0020】
フッ化物化合物は自然界に広く分布しており、人間の臓器組織の不可欠な部分である。これらの化合物は、アルミニウム及び化学産業の廃棄物及び排出物から大気中に侵入する可能性がある。工業センターの開発により、フッ化物化合物は、水、土壌、及び空気の最も頻繁な汚染物質の1つであることが判明した。汚染された水や食品を飲むと、これらの化合物総数の75~90%が人体に侵入する。フッ化物化合物は胃腸管を通って人体に侵入し、また肺、皮膚、及び粘膜によって空気から吸着される。人間の組織及び臓器へのフッ化物の蓄積は不均一に進行すると考えられている。それらの最大数は、骨及び歯のエナメル質の表層(最大100ミクロンの厚さ)で観察され、最も高い吸着は、小児期と青年期の活発な成長の全期間中に観察される。
【0021】
飲料水中のフッ化物の最適濃度は0.7~1.0mg/lであり、これは抗齲蝕効果をもたらすことが知られている。濃度が1.2mg/l以上に上昇すると、フッ化物中毒の徴候が体内で発生し、その中で最も急速に発症するのは歯のフッ素症である。
【0022】
フッ化物の濃度の増加はホスファターゼ活性の低下を導き、結果的には、歯のエナメル質の石灰化の妨害を導くことが知られている。しかし、流行地域に住むことは、歯のフッ素症の発生につながる明白な要因ではない。この病状の蔓延及び強度は、飲料水中のフッ化物の定量的含有量だけでなく、他の要因、即ち、流行地域での子供の居住期間(特に身体の成長及び歯エナメル質の石灰化が活発な期間)、フッ化物含有練り歯磨きの使用、消費する栄養の性質及びフッ化物化合物に富んだ食品、並びにフッ化物中毒に対する個々人の身体的感受性のような要因の複合によっても引き起こされる。
【0023】
現在、フッ化物化合物の広範な使用が推奨されている年少人口中の虫歯の発病を減らすことを目的とした予防プログラムが採用されているが、この種の予防は、フッ化物の体内への総摂取量と子供の身体によるフッ化物の感受性の個々の特徴を考慮せずに多くの場合行われているので、そのような薬剤の制御されない広範囲の使用の結果として、フッ素症の臨床像の発現を招来することに留意すべきである。
【0024】
したがって、ミネラル代謝の阻害が、高濃度フッ化物によって引き起こされる中毒の主な病因であり、それは何よりも第1に、高度にミネラル化された組織、特に歯のエナメル質及び象牙質に影響を及ぼすという合理的な仮定が存在する。
【0025】
一部の著者は、健康な歯と比較したフッ素症の歯のエナメル質及び象牙質におけるカルシウム含量の減少が、この病状の重症度に直接依存すると述べている。フッ素症の徴候を示す歯のエナメル質では、健康な歯と比較して、破砕や摩耗に対するより大きな傾向もまた存在する。
【0026】
脱灰の問題を解決し、同時にフッ素症及び他の悪症状の発生を排除する試みにおいて、それらの組成物中にフッ素化された成分を含まない再石灰化組成物が作製された。
【0027】
このような組成物の例は、ロシア国特許第RU2627624号に従う歯科硬組織の再石灰化用組成物であり、これは、有効成分として20×150nmの粒子サイズを有する高度に精製されたヒドロキシアパタイトと、製品の基礎を形成するポリエチレンオキシド1500及び400とを含有する。この特許による本発明の著者は、フッ素含有組成物と比較して、特許に開示された組成物のより良い再石灰化効果を示している。
【0028】
ロシア国特許第RU2293551号に開示された、再石灰化効果を有する練り歯磨き形態の口腔疾患予防のための組成物は、グリセリン、二酸化ケイ素、グリセロリン酸カルシウム、メチルパラベン、プロピルパラベン、二酸化チタン、香料、サッカリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム又はアルキルアミドベタイン、飲料水、並びにパイナップルの茎から得られるタンパク質分解酵素のブロメライン、天然甘味料キシリトール、キサンタンガム及び塩化マグネシウム又はグリセロリン酸マグネシウムを含む。
【0029】
これらの特許資料には、再石灰化を必要とする複雑な症例、特に長期の歯科矯正治療に関連した症例の、予防及び治療のために保護組成物を使用する可能性、並びにフッ素症の外的症候を矯正する可能性に関する情報が含まれていない。
【0030】
本発明の原型は、ユーラシア特許第EA011254号に従う歯科組織の再石灰化のためのジェル形態の組成物であり、これは、以下の活性成分:キシリトール2~25重量%、グリセロリン酸カルシウム0.1~3.0重量%、マグネシウムイオン源0.01~0.50重量%、及びグアーガム0.03~0.30重量%、並びに歯科用ジェルの調製に使用される不活性成分を含有する。
【0031】
この組成物は、虫歯の予防、歯の知覚過敏を含む非齲蝕性病変の治療、及び歯の外観(色と輝き)の改善に使用される。
【0032】
同時に、当該特許に開示されている組成物は、歯のエナメル質からのミネラル及び塩の喪失を特徴とする状態及び障害の治療及び/又は予防のためには使用されない。
【0033】
本発明の著者は、表1に示されるジェル形態の組成物(組成物)を作製することにより、歯のエナメル質からのミネラル及び塩の喪失を特徴とする望ましくない状態の迅速且つ効果的な治療及び/又は予防の問題を解決するものである。
【表1】
【0034】
この問題はまた、歯のエナメル質からのミネラル及び塩の喪失を特徴とする状態の治療及び/又は予防のための、そのようなジェルの使用、並びにジェル形態でのそのような組成物を使用する提案された治療方法によって解決される。
【0035】
この問題はまた、歯のエナメル質からのミネラル及び塩の喪失を特徴とする状態を治療及び/又は予防する方法であって、歯の表面に対して有効量の再石灰化組成物を適用することであって、本発明による組成物が再石灰化組成物として使用され、この組成物が一般に1日1~3回十分な量で適用されることと、最大の効果を達成するために、少なくとも3分間、好ましくは少なくとも7分間、より好ましくは15分間、さらにより好ましくは少なくとも1時間、歯のかなりの表面又はより広い表面上でのその存在を確実にすることを特徴とする方法によって解決される。
【0036】
一群の本発明を使用するときに明らかになる技術的結果は、歯のエナメル質からのミネラル及び塩の喪失を特徴とする状態の、迅速且つ効果的で実用的且つ便利な治療又は予防である。治療の利便性は、そのような治療に対する患者の順守を確実にするものであり、これは治療又は予防の目標を達成するために不可欠である。
【0037】
予防又は治療が必要な状態には、脱灰、歯の低石灰化、取り外し不能なデバイスによる歯科矯正治療中又は治療後に発生する歯のエナメル質での齲蝕斑点の形成、白亜質の、白色の、又は色素沈着した斑点、エナメル質の破壊を特徴とする歯のフッ素症の発生及び発症が含まれる。
【0038】
上記の利点に加えて、特許請求されているジェルは、優れた官能的特性及びその審美的に心地よい外観を特徴とし、これは、当該組成物による治療及び予防に対する患者の順守を確実にするために重要である。
【0039】
提案された組成物はフッ素化剤を含まず、再石灰化効果はキシリトール、グリセロリン酸カルシウム、塩化マグネシウム及びグアーガムを含む有効成分の存在によって提供される。特許請求されている組成物は、効率においてフッ素化物類似体を上回り、毒物学的安全性を特徴とし、また好ましくは、日常生活で使用される水がフッ素化成分のレベルを超えることを排除せず、又は生態学的状況がフッ素化物質を超えることを排除しない条件での使用が推奨される。
【0040】
以下の説明は限定的なものではなく、本発明及びその使用計画のより詳細な説明を目的としている。
【0041】
本発明は、歯のエナメル質からのミネラル及び塩の喪失を特徴とする状態を予防及び治療するためのものである。そのような状態には、脱灰、歯の低ミネラル化、フッ素症、特に軽度の形態のフッ素症、エナメル質上に形成される斑点又は既に形成された斑点、特に、取り外し不能なデバイスによる歯科矯正治療中又は治療後に生じた斑点であり、その後のエナメル質上での齲窩の発生を特徴とし、充填材又はベニアの使用をさらに必要とする斑点が含まれる。
【0042】
より具体的には、1つの文脈において、本発明は取り外し不能なデバイスによる歯科矯正治療中又は治療後に発生する、発生した白亜質の、白色の、色素沈着した又は他の斑点の形成を防止、及び/又は除去するためのものである。
【0043】
このようなデバイスの具体例は、種々のブラケットシステムである。
【0044】
ブラケットシステムは、金属製、セラミック製、プラスチック製であることができる。
【0045】
ブラケットシステムは、取り外し不能な保定装置、自己結紮ブレース、目立たないブレース等である。
【0046】
発生した斑点は、疾患の重症度によっては、エナメル質上での齲窩の出現を特徴とする場合があり、齲窩の治療には充填材又はベニアの使用が必要になる場合がある。
【0047】
別の文脈において、本発明はフッ素症によって引き起こされる、発生した白亜質の、白色の、色素沈着した又は他の斑点の形成を予防、及び/又は排除するためのものである。
【0048】
別の文脈において、本発明は、フッ素症によって引き起こされる、発生したエナメル質障害の形成を予防、及び/又は排除するためのものである。
【0049】
特許請求されている組成物は補助成分を含有してよく、これは以下に記載するものから選択できるが、それらに限定されない。
【0050】
特許請求されている組成物は、非イオン性界面活性剤を含有し、これはポリソルベート-20、PEG-40硬化ヒマシ油、アルキルポリグリコシドであることができる。
【0051】
特許請求されている組成物は防腐剤を含有し、これはメチルパラベン、メチルパラベンナトリウム、フェノキシエタノール、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、チモールであることができる。
【0052】
特許請求されている組成物は香味剤を含有し、これはミントオイル、ユーカリオイル、ゼラニウムオイル、オレンジオイル及び同様の成分であることができる。
【0053】
これら濃度の提案された組成物は、化粧品業界で使用される殆どのタイプの防腐剤及び香味剤と相互作用するときに特に安定であることが確立されており、このことは、当該組成物のもう1つの実用的な利点である。
【0054】
提案された組成物の推奨用量及び適用計画:
歯の効果的な再石灰化のためには、特許請求されている組成物を、マウスガードと一緒に使用する場合は1日1~2回、又はマウスガードなしで使用する場合は1日5回まで、0.5~1.5グラムの量で15日間、歯に適用することが推奨される。
【0055】
取り外し不能なデバイスによる歯のエナメル質に対する歯科矯正治療中又は治療後に発生した斑点形態の欠陥、又はフッ素症の症候を治療するためには、特許請求されている組成物を、マウスガードと一緒に使用する場合は1日1~2回で、マウスガードなしで使用する場合は1日5回まで、0.5~1.5グラムの量で30日間、歯に適用することが推奨される。
【0056】
特許請求されている組成物の予防的使用計画は、上記で述べたところから、一度に当該組成物量の約1/4~1/2であり、同じ投与計画を適用することができる。
【0057】
本発明による組成物の上記用量及び投与計画は、治療及び/又は予防の目標を完全に達成することを可能にする。
【0058】
記載された用量は限定的ではなく、疾患の程度又は複雑さに応じて変更することができる。
【0059】
特許請求されている発明は、以下の実施例によって確認される。
【0060】
実施例1.本発明による組成物の調製
「最良」の組成物を選択するために、多数の履行オプションが一貫して試行され、対照比較のために3つのジェル変種例が調製された(表2)。
【表2】
【0061】
ジェル形態の組成物は、標準的な技術を使用して調製することができる。
【0062】
この場合、組成物は以下のようにして調製された。
必要な量の水を計量カップで量り、次いでこの水をミキサーに入れ、そこにジェルの残りの成分を通常の条件下で加えた。この混合物を、透明で均一なジェル溶液が形成されるまで20分間撹拌した。次いで一次包装を行った。
【0063】
実施例2.口腔の臨床指標の特性比較
口腔の臨床指標を、再石灰化療法の前と当該療法の15日後に、18人の12歳の学生で評価した。この参加者を、各グループ6人からなる3つのグループに分けた。適切な訓練の後に、学生には必要な数のジェルNo.1、2、3、標準のマウスガード、及びフッ化物化合物を含まない練り歯磨きを与えた。ジェルの塗布は、歯を磨いた後で就寝前の20分間、全学生が独自に実施した。実験では、TER試験、染色強度(点数)のCDERR試験、及び染色期間(日数)のCDERR試験の臨床指標を測定した。
【0064】
エナメル質耐性を決定するための試験であるTER試験(Okushko V.R.,Kosareva L.I., 1983)により、エナメル質の耐酸性及び虫歯傾向の指標を決定することができる。
【0065】
歯のエナメル質の再石灰化率の臨床評価であるCDERR試験(RedinovaT.L., Leontiev V.K., 1982)によって、患者の口腔内での歯のエナメル質の脱灰及び再石灰化のプロセスの比率を評価することができる。
【0066】
【0067】
【0068】
したがって、組成物2は、組成物1と比較してより高い効率を有し、有効成分の濃度のさらなる増加は効率の有意な増加をもたらさないが、組成物全体のコストの増加をもたらすことが示される。
【0069】
10%を超えるキシリトールを含むジェルの味は、一部の患者には甘すぎるとして、即ち否定的に知覚される可能性があり、これは、患者がジェルを定期的に使用することを望まないため患者の治療に対する順守の低下につながり、予防及び治療効果を低減する可能性があることにも注意する必要がある。同時に、キシリトールの含量が少ない(組成物1)こともまた、曝露の有効性が低下するため望ましくない。
【0070】
同時に、試験の結果として、患者は主観的に、組成物1及び3の1つよりも組成物2について、より良好な官能的感覚を知覚することも見出された。
【0071】
比較研究で最良の結果を示したので、組成物2のジェルが、さらなる研究のために選択された。
【0072】
実施例3.ブラケットシステムによる歯科矯正治療を完了した患者に使用した場合の、当該薬剤の有効性
歯科矯正治療の完了後に白亜質又は白色の斑点の形態で持続するエナメル質の脱灰領域に対する、「最良の」組成に従うジェルの効果を研究した。
【0073】
データの収集及び処理は2018年~2019年に実施した。研究に含める条件は、ブラケットシステムの装着中又は患者の取り外し後に発生した白亜質又は白色の斑点の存在と、その組成物中にフッ素化剤を含まない練り歯磨きの使用であった。
【0074】
この研究は、4週間、6週間、8週間の3つの時間間隔と、2つの年齢グループ(11~15歳、20~25歳)について実施した。
【0075】
この研究の全ての参加者を、2つの等しいグループに分けた。
【0076】
研究参加者の半数(第1グループ)は、フッ化物化合物を含まない練り歯磨きを使用し、1日2回少なくとも3分間適用した。
【0077】
研究参加者の残りの半分(第2グループ)は、「最良の」組成に従うジェルを使用し、第1グループで使用されたスキームに従ってフッ素化剤を含まないペーストで歯を磨いた後、1日2回10~12分間それを適用し、次いで患者はマウスガードを着用し、ジェルを塗布した後に1時間は飲食を制限した。
【0078】
ブラケットシステムの取り外し期間は、6か月未満、6か月~1年、1~3年であった。
【0079】
上顎の第1大臼歯及び側切歯の、白色及び白亜質の斑点を検査した。これら斑点を、診断システムDIAGNOcamを使用して検査した。
【0080】
この研究の結果は次のことを示した。
【0081】
4週間及び6週間の試験を受けた第1グループの患者には有意な変化は見られなかった。8週間の試験を受けた患者は、エナメル質の状態が2~3%改善した。
【0082】
治療前6か月未満でブラケットシステムを取り外し、4週間ジェルを使用した、「最良の」組成に従うジェルを使用した患者グループでは、斑点の面積の減少が平均29.4%、6週間では-42.4%、8週間では-43.5%と観察された。
【0083】
治療前6か月未満でブラケットシステムを取り外し、4週間ジェルを使用した、「最良の」組成に従うジェルを使用した患者グループでは、斑点の面積の減少が平均で27.9%、6週間では-41.3%、8週間では-42.9%と観察された。
【0084】
治療前の1~3年の間にブラケットシステムを取り外し、4週間ジェルを使用した、「最良の」組成に従うジェルを使用した患者グループでは、斑点の面積の減少が平均で27.9%、6週間では-40.1%、8週間では-42.6%と観察された。
【0085】
研究参加者において、当該ジェルを使用した経験は肯定的であった。研究参加者は、ジェルの味を良いと評価し(フルーティな香り、さわやかさ)、粘度を心地よいと評価した。ジェルを使用することで、歯はより滑らかになり、より奇麗になり、より輝きを増した。ジェルはまた過敏症を和らげ、新鮮な息を与え、歯を磨くプロセスを容易にした。カゼインのアモルファスリン酸カルシウム-ホスホペプチド複合体をベースにした製品とは異なり、「最良の」組成に従うジェルにはタンパク質が含まれていないため、牛乳タンパク質に対するアレルギーに苦しむ患者のために推奨することができる。
【0086】
このセルフケアのオプションは、歯科矯正治療の開始時又は終了直後で、デバイスを取り外した後に問題が検出された患者に推奨できる。ブラケットシステムによる治療の完了後に、何年にも亘って白い斑点に悩まされていた患者を含め、治療の肯定的な結果が達成された。この研究の期間である4~8週間は、再石灰化の信頼できる効果と、その悪影響の排除について十分であると見なすことができる。
【0087】
実施例4.フッ素症の患者における薬剤の使用
「最良の」組成に従うジェルの治療及び予防的有効性を決定することを目的とした研究が、6か月間実施された。軽度の形態の歯のフッ素症のある30人と、フッ素症の形態の歯の硬組織の病理の症候がない30人が研究のために選ばれた。
【0088】
被験者を、それぞれ15人のグループに分けた。
【0089】
第1グループには、ビタミン及びミネラルの複合体の投与と組み合わせて、フッ素化剤を含まない練り歯磨きを使用して専門的な口腔衛生を実施した。
【0090】
第2グループでは、個別のマウスガードを毎日20分間使用し、適用として、「最良の」組成に従うジェルと組み合わせたフッ素化剤を含まない練り歯磨きを使用して専門的な口腔衛生を実施し、患者には適用後に1時間は飲食しないように求めた。
【0091】
第3グループでは、フッ素化剤を含まない練り歯磨きと、16%の過酸化水素を含む活性ジェルを使用した歯のホワイトニングとを組み合わせて、専門的な口腔衛生を実施した。
【0092】
第4グループは、フッ素症の症候のない対照グループである。このグループでは、フッ素化剤を含まない練り歯磨きを使用して、専門的な口腔衛生を実施した。
【0093】
研究の臨床部分を実施するために、軽度の形態の歯科フッ素症により引き起こされる歯の変色に関連する選択された問題を解決することを目的として、定性的組成並びに作用の性質及び方向性により特徴付けられる異なる材料を使用した。
【0094】
有効性は、V. A. Drozhzhina及びYu. A. Fedorov(1997)により提案された標準的な方法論に従って評価した。即ち、歯の洗浄し完全に乾燥させた前庭表面を、歯の硬組織中への浸透能力が高いヨウ素の5%アルコール溶液で湿らせた綿棒を用いて、4つの上顎切歯の白亜質のフッ素症斑点の領域を治療した。染色度の結果を、以下の尺度で評価した。
1点…染色なし。
2点…薄黄色の染色。
3点…薄茶色の染色又は黄色の染色。
4点…暗褐色の染色。
【0095】
個々の患者それぞれの再石灰化指数の計算は、検査された歯の数に対するフッ素症斑点の染色の指標を合計することによって実行した。
【0096】
研究の結果:
【0097】
第1グループ:
【表5】
治療の結果によると、エナメル質の状態に有意な改善がある。
【0098】
第2グループ:
【表6】
治療の結果によると、エナメル質の状態に有意な改善がある。
【0099】
【0100】
【0101】
したがって、16%過酸化物ジェルを使用して色素沈着したエナメル質を漂白する既存の推奨される方法、並びにビタミン-ミネラル複合体の投与は、問題を部分的にしか解決しないのに対して、本発明が提案するジェル(組成物)は、提案された方法に従って適用されるときには、軽度の形態のフッ素症の場合に歯のエナメル質のミネラル含量を回復する最大の効果を提供すると言える。