(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】等方圧加圧装置および等方圧加圧方法
(51)【国際特許分類】
F27B 17/00 20060101AFI20240220BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
F27B17/00 301K
F27D19/00 A
(21)【出願番号】P 2020066074
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100178582
【氏名又は名称】行武 孝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 洋行
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-117076(JP,A)
【文献】特開平03-140792(JP,A)
【文献】特開平02-050081(JP,A)
【文献】特開2003-279264(JP,A)
【文献】特開2003-342611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 17/00
F27B 5/00 - 5/18
F27D 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物に対して圧力媒体を用いて等方圧加圧処理を行う等方圧加圧装置であって、
圧力媒体を受け入れることが可能な処理空間が形成されている圧力容器と、
前記等方圧加圧処理中の圧力媒体の設定温度および設定圧力の入力を受け付ける設定情報入力部と、
前記処理空間内の圧力媒体を加圧することが可能な加圧機構であって、前記処理空間内の圧力媒体の圧力を大気圧から前記設定圧力まで昇圧する昇圧動作と当該昇圧動作後に圧力媒体の圧力を前記設定圧力に維持する圧力維持動作とをそれぞれ実行可能な加圧機構と、
前記処理空間内の圧力媒体の温度を調整することが可能な温度調整機構と、
前記処理空間内の圧力媒体の圧力を検出することが可能な圧力検出部と、
前記処理空間内の圧力媒体の温度を検出することが可能な温度検出部と、
圧力媒体の圧縮率および体積膨張係数に関連する情報である圧媒情報を記憶する圧媒情報記憶部と、
前記圧媒情報記憶部に記憶された前記圧媒情報と前記設定情報入力部に入力された前記設定圧力と前記昇圧動作前に前記圧力検出部によって検出された圧力媒体の圧力である初期圧力とに基づいて、前記昇圧動作によって生じる圧力媒体の温度上昇量を推定する温度上昇量推定部と、
前記設定温度から前記温度上昇量推定部によって推定された前記温度上昇量を差し引くことで前記昇圧動作前の圧力媒体の目標温度を決定する目標温度決定部と、
前記処理空間内の圧力媒体の温度を前記目標温度決定部によって決定された前記目標温度に調整するように前記温度調整機構を制御する温度制御部と、
を備える、等方圧加圧装置。
【請求項2】
前記圧媒情報記憶部は、圧力媒体の圧縮率および体積膨張係数を前記圧媒情報として記憶しており、
前記温度上昇量推定部は、被処理物に対するn回目(nは自然数)の等方圧加圧処理において、前記圧媒情報記憶部に記憶された圧力媒体の圧縮率および体積膨張係数と前記設定情報入力部に入力された前記設定圧力と前記圧力検出部によって検出された前記初期圧力とに基づいて前記温度上昇量を推定する、請求項1に記載の等方圧加圧装置。
【請求項3】
前記温度検出部は、前記昇圧動作が実行された後であって前記圧力維持動作が実行される前である昇圧終了時の圧力媒体の温度である昇圧後温度を検出することが可能であり、
前記圧媒情報記憶部は、前記n回目の等方圧加圧処理における、前記昇圧後温度と前記目標温度との差である実温度上昇量と前記設定圧力と前記初期圧力との差である実圧力上昇量との相関関係を示す情報である相関情報を前記圧媒情報として記憶することが可能であり、
前記温度上昇量推定部は、被処理物に対するm回目(mは自然数かつm>n)の等方圧加圧処理において、前記設定圧力と前記初期圧力との差と前記圧媒情報記憶部に記憶される前記相関情報とに基づいて前記温度上昇量を推定する、請求項2に記載の等方圧加圧装置。
【請求項4】
前記圧媒情報記憶部は、前記m回目の等方圧加圧処理における前記実温度上昇量および前記実圧力上昇量を更に記憶することで前記相関情報を更新することが可能であり、
前記温度上昇量推定部は、被処理物に対するp回目(pは自然数かつp>m)の等方圧加圧処理において、前記設定圧力と前記初期圧力との差と前記圧媒情報記憶部に記憶される前記更新された相関情報とに基づいて前記温度上昇量を推定する、請求項3に記載の等方圧加圧装置。
【請求項5】
前記圧媒情報記憶部は、予め設定された複数の温度領域のそれぞれにおいて前記相関情報を記憶することが可能であり、
前記温度上昇量推定部は、前記設定情報入力部に入力された前記設定温度に対応して前記複数の温度領域のうちの一の温度領域を選択し当該一の温度領域における前記相関情報に基づいて前記温度上昇量を推定する、請求項3または4に記載の等方圧加圧装置。
【請求項6】
被処理物に対して圧力媒体を用いて等方圧加圧処理を行うための等方圧加圧方法であって、
前記等方圧加圧処理中の圧力媒体の設定温度および設定圧力を設定する処理条件設定工程と、
圧力媒体を受け入れることが可能な処理空間が形成されている圧力容器と圧力媒体の圧力を大気圧から前記設定圧力まで昇圧する昇圧動作と当該昇圧動作後に圧力媒体の圧力を前記設定圧力に維持する圧力維持動作とをそれぞれ実行可能な加圧機構と前記処理空間内の圧力媒体の圧力を検出することが可能な圧力検出部と前記処理空間内の圧力媒体の温度を検出することが可能な温度検出部とをそれぞれ準備する準備工程と、
圧力媒体の圧縮率および体積膨張係数に関連する情報である圧媒情報と前記設定圧力と前記昇圧動作前の圧力媒体の圧力である初期圧力とに基づいて、前記昇圧動作によって生じる圧力媒体の温度上昇量を推定する温度上昇量推定工程と、
前記設定温度から前記推定された前記温度上昇量を差し引くことで前記昇圧動作前の圧力媒体の目標温度を決定する目標温度決定工程と、
前記処理空間内の圧力媒体の温度を前記目標温度に調整する温度調整工程と、
圧力媒体の温度が前記目標温度に調整された状態で前記加圧機構によって前記昇圧動作を実行する昇圧工程と、
前記昇圧工程後に前記加圧機構によって前記圧力維持動作を実行する圧力維持工程と、
を備える、等方圧加圧方法。
【請求項7】
前記温度上昇量推定工程は、被処理物に対するn回目(nは自然数)の等方圧加圧処理において、圧力媒体の圧縮率および体積膨張係数と前記設定圧力と前記初期圧力とに基づいて前記温度上昇量を推定することを含む、請求項6に記載の等方圧加圧方法。
【請求項8】
前記n回目の等方圧加圧処理における、前記
昇圧動作後かつ前記圧力維持動作前の圧力媒体の温度である昇圧後温度と前記目標温度との差である実温度上昇量と前記設定圧力と前記初期圧力との差である実圧力上昇量との相関関係を示す情報である相関情報を前記圧媒情報として記録する記録工程を更に備え、
前記温度上昇量推定工程は、被処理物に対するm回目(mは自然数かつm>n)の等方圧加圧処理において、前記設定圧力と前記初期圧力との差と前記記録された前記相関情報とに基づいて前記温度上昇量を推定することを更に含む、請求項7に記載の等方圧加圧方法。
【請求項9】
前記記録工程は、前記m回目の等方圧加圧処理における前記実温度上昇量および前記実圧力上昇量を更に記録することで前記相関情報を更新することを含み、
前記温度上昇量推定工程は、被処理物に対するp回目(pは自然数かつp>m)の等方圧加圧処理において、前記設定圧力と前記初期圧力との差と前記更新された相関情報とに基づいて前記温度上昇量を推定することを更に含む、請求項8に記載の等方圧加圧方法。
【請求項10】
前記記録工程は、予め設定された複数の温度領域のそれぞれにおいて前記相関情報を記録することを含み、
前記温度上昇量推定工程は、前記設定温度に対応して前記複数の温度領域のうちの一の温度領域を選択し当該一の温度領域における前記相関情報に基づいて前記温度上昇量を推定することを含む、請求項8または9に記載の等方圧加圧方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等方圧加圧装置および等方圧加圧方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属やセラミックスなどの粉末成形、食品加工や食品の殺菌などの分野において、液体圧力媒体を用いて被処理物に加圧処理を施す冷間等方圧加圧装置(CIP:Cold Isostatic Pressing)が知られている。このような加圧装置では、圧力容器内に被処理物が収容され、前記圧力容器内に圧力媒体が封入されることで、被処理物に加圧処理が施される。
【0003】
一方、特許文献1には、被処理物に対して加圧処理とともに加温処理を施す温間等方圧加圧装置(WIP:Warm Isostatic Pressing)が開示されている。このような温間等方圧加圧装置では、所定の設定温度まで加温された圧力媒体が圧力容器に封入され圧力容器内で昇圧されることで被処理物に対して加圧処理および加温処理が施される。この結果、冷間等方圧加圧装置では殺菌できない芽胞菌などを殺菌することが可能となる。
【0004】
このような温間等方圧加圧装置では、圧力容器内で圧力媒体が所定の設定圧力まで昇圧される際に圧縮熱によって圧力媒体の温度が上昇するため、加圧処理開始時の圧力媒体の温度が狙いの設定温度よりも高くなりやすい。このため、特許文献1に記載された技術では、圧力媒体を昇圧する昇圧速度を緩やかに制御することで昇圧中の圧力媒体の温度上昇を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術では、圧力媒体の昇圧速度を緩やかに制御する結果として昇圧時間が長くなってしまい、加圧処理前に被処理物に余分な加圧処理が施され、被処理物の品質劣化や品質のばらつきが生じやすいという問題があった。
【0007】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、所望の設定圧力および設定温度において被処理物に対する加圧処理および加温処理を安定して行うことが可能な等方圧加圧装置および等方圧加圧方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に係る等方圧加圧装置は、被処理物に対して圧力媒体を用いて等方圧加圧処理を行う等方圧加圧装置であって、圧力媒体を受け入れることが可能な処理空間が形成されている圧力容器と、前記等方圧加圧処理中の圧力媒体の設定温度および設定圧力の入力を受け付ける設定情報入力部と、前記処理空間内の圧力媒体を加圧することが可能な加圧機構であって、前記処理空間内の圧力媒体の圧力を大気圧から前記設定圧力まで昇圧する昇圧動作と当該昇圧動作後に圧力媒体の圧力を前記設定圧力に維持する圧力維持動作とをそれぞれ実行可能な加圧機構と、前記処理空間内の圧力媒体の温度を調整することが可能な温度調整機構と、前記処理空間内の圧力媒体の圧力を検出することが可能な圧力検出部と、前記処理空間内の圧力媒体の温度を検出することが可能な温度検出部と、圧力媒体の圧縮率および体積膨張係数に関連する情報である圧媒情報を記憶する圧媒情報記憶部と、前記圧媒情報記憶部に記憶された前記圧媒情報と前記設定情報入力部に入力された前記設定圧力と前記昇圧動作前に前記圧力検出部によって検出された圧力媒体の圧力である初期圧力とに基づいて、前記昇圧動作によって生じる圧力媒体の温度上昇量を推定する温度上昇量推定部と、前記設定温度から前記温度上昇量推定部によって推定された前記温度上昇量を差し引くことで前記昇圧動作前の圧力媒体の目標温度を決定する目標温度決定部と、前記処理空間内の圧力媒体の温度を前記目標温度決定部によって決定された前記目標温度に調整するように前記温度調整機構を制御する温度制御部と、を備える。
【0009】
本構成によれば、温度上昇量推定部が、昇圧動作における圧力媒体の温度上昇量を予め推定し、目標温度決定部が当該温度上昇量を見込んで圧力媒体の昇圧前の目標温度を設定温度よりも低めに決定し、温度制御部が昇圧動作前の圧力媒体の温度を前記目標温度に調整する。このため、圧力媒体の昇圧時の温度上昇を低減するために昇圧速度を抑えることなく、昇圧動作終了後の圧力媒体の温度を設定温度に近づけることが可能となるため、予め設定された設定圧力および設定温度において加圧処理および加温処理を含む等方圧加圧処理を被処理物に対して安定して行うことが可能となる。
【0010】
上記の構成において、前記圧媒情報記憶部は、圧力媒体の圧縮率および体積膨張係数を前記圧媒情報として記憶しており、前記温度上昇量推定部は、被処理物に対するn回目(nは自然数)の等方圧加圧処理において、前記圧媒情報記憶部に記憶された圧力媒体の圧縮率および体積膨張係数と前記設定情報入力部に入力された前記設定圧力と前記圧力検出部によって検出された前記初期圧力とに基づいて前記温度上昇量を推定することが望ましい。
【0011】
本構成によれば、n回目の等方圧加圧処理では、圧媒情報記憶部に予め記憶された圧縮率および体積膨張係数に基づいて昇圧動作時の圧力媒体の温度上昇量を容易に推定することができる。
【0012】
上記の構成において、前記温度検出部は、前記昇圧動作が実行された後であって前記圧力維持動作が実行される前である昇圧終了時の圧力媒体の温度である昇圧後温度を検出することが可能であり、前記圧媒情報記憶部は、前記n回目の等方圧加圧処理における、前記昇圧後温度と前記目標温度との差である実温度上昇量と前記設定圧力と前記初期圧力との差である実圧力上昇量との相関関係を示す情報である相関情報を前記圧媒情報として記憶することが可能であり、前記温度上昇量推定部は、被処理物に対するm回目(mは自然数かつm>n)の等方圧加圧処理において、前記設定圧力と前記初期圧力との差と前記圧媒情報記憶部に記憶された前記相関情報とに基づいて前記温度上昇量を推定することが望ましい。
【0013】
本構成によれば、m回目の等方圧加圧処理では、n回目の等方圧加圧処理において実測された実温度上昇量および実圧力上昇量の相関情報を利用して昇圧動作時の圧力媒体の温度上昇量を推定するため、圧力媒体の物性値として知られている圧縮率や体積膨張係数を用いて温度上昇量を推定する場合と比較して、使用する等方圧加圧装置の特性に応じて温度上昇量を精度良く推定することができる。
【0014】
上記の構成において、前記圧媒情報記憶部は、前記m回目の等方圧加圧処理における前記実温度上昇量および前記実圧力上昇量を更に記憶することで前記相関情報を更新することが可能であり、前記温度上昇量推定部は、被処理物に対するp回目(pは自然数かつp>m)の等方圧加圧処理において、前記設定圧力と前記初期圧力との差と前記圧媒情報記憶部に記憶された前記更新された相関情報とに基づいて前記温度上昇量を推定することが望ましい。
【0015】
本構成によれば、p回目の等方圧加圧処理では、n回目およびm回目の等方圧加圧処理において実測された複数の実温度上昇量および複数の実圧力上昇量を含む相関情報を利用して、昇圧動作時の圧力媒体の温度上昇量を更に精度よく推定することができる。
【0016】
上記の構成において、前記圧媒情報記憶部は、予め設定された複数の温度領域のそれぞれにおいて前記相関情報を記憶することが可能であり、前記温度上昇量推定部は、前記設定情報入力部に入力された前記設定温度に対応して前記複数の温度領域のうちの一の温度領域を選択し当該一の温度領域における前記相関情報に基づいて前記温度上昇量を推定することが望ましい。
【0017】
本構成によれば、圧力媒体の圧縮率および体積膨張係数のうちの少なくとも一方が温度に応じて大きく変化する場合でも、設定温度に対応した温度領域の相関情報を利用することで、昇圧動作時の圧力媒体の温度上昇量を更に精度よく推定することができる。
【0018】
本発明の他の局面に係る等方圧加圧方法は、被処理物に対して圧力媒体を用いて等方圧加圧処理を行うための等方圧加圧方法である。当該等方圧加圧方法は、前記等方圧加圧処理中の圧力媒体の設定温度および設定圧力を設定する処理条件設定工程と、圧力媒体を受け入れることが可能な処理空間が形成されている圧力容器と圧力媒体の圧力を大気圧から前記設定圧力まで昇圧する昇圧動作と当該昇圧動作後に圧力媒体の圧力を前記設定圧力に維持する圧力維持動作とをそれぞれ実行可能な加圧機構と前記処理空間内の圧力媒体の圧力を検出することが可能な圧力検出部と前記処理空間内の圧力媒体の温度を検出することが可能な温度検出部とをそれぞれ準備する準備工程と、圧力媒体の圧縮率および体積膨張係数に関連する情報である圧媒情報と前記設定圧力と前記昇圧動作前の圧力媒体の圧力である初期圧力とに基づいて、前記昇圧動作によって生じる圧力媒体の温度上昇量を推定する温度上昇量推定工程と、前記設定温度から前記推定された前記温度上昇量を差し引くことで前記昇圧動作前の圧力媒体の目標温度を決定する目標温度決定工程と、前記処理空間内の圧力媒体の温度を前記目標温度に調整する温度調整工程と、圧力媒体の温度が前記目標温度に調整された状態で前記加圧機構によって前記昇圧動作を実行する昇圧工程と、前記昇圧工程後に前記加圧機構によって前記圧力維持動作を実行する圧力維持工程と、を備える。
【0019】
本方法によれば、昇圧動作における圧力媒体の温度上昇量を予め推定し当該温度上昇量を見込んで昇圧動作前の圧力媒体の温度を調整するため、圧力媒体の昇圧時の温度上昇を低減するために昇圧速度を抑えることなく昇圧動作終了後の圧力媒体の温度を設定温度に近づけることが可能となり、予め設定された設定圧力および設定温度において加圧処理および加温処理を含む等方圧加圧処理を被処理物に対して安定して行うことが可能となる。
【0020】
上記の方法において、前記温度上昇量推定工程は、被処理物に対するn回目(nは自然数)の等方圧加圧処理において、圧力媒体の圧縮率および体積膨張係数と前記設定圧力と前記初期圧力とに基づいて前記温度上昇量を推定することを含むことが望ましい。
【0021】
本方法によれば、n回目の等方圧加圧処理では、圧力媒体の圧縮率および体積膨張係数に基づいて昇圧動作時の圧力媒体の温度上昇量を容易に推定することができる。
【0022】
上記の方法において、前記n回目の等方圧加圧処理における、前記昇圧後温度と前記目標温度との差である実温度上昇量と前記設定圧力と前記初期圧力との差である実圧力上昇量との相関関係を示す情報である相関情報を前記圧媒情報として記録する記録工程を更に備え、前記温度上昇量推定工程は、被処理物に対するm回目(mは自然数かつm>n)の等方圧加圧処理において、前記設定圧力と前記初期圧力との差と前記記録された前記相関情報とに基づいて前記温度上昇量を推定することを更に含むことが望ましい。
【0023】
本方法によれば、m回目の等方圧加圧処理では、n回目の等方圧加圧処理において実測された実温度上昇量および実圧力上昇量の相関情報を利用して、昇圧動作時の圧力媒体の温度上昇量を推定するため、圧力媒体の物性値として知られている圧縮率や体積膨張係数を用いて温度上昇量を推定する場合と比較して、使用する等方圧加圧装置の特性に応じて温度上昇量を精度良く推定することができる。
【0024】
上記の方法において、前記記録工程は、前記m回目の等方圧加圧処理における前記実温度上昇量および前記実圧力上昇量を更に記録することで前記相関情報を更新することを含み、前記温度上昇量推定工程は、被処理物に対するp回目(pは自然数かつp>m)の等方圧加圧処理において、前記設定圧力と前記初期圧力との差と前記更新された相関情報とに基づいて前記温度上昇量を推定することを更に含むことが望ましい。
【0025】
本方法によれば、p回目の等方圧加圧処理では、n回目およびm回目の等方圧加圧処理において実測された複数の実温度上昇量および複数の実圧力上昇量を含む相関情報を利用して、昇圧動作時の圧力媒体の温度上昇量を更に精度よく推定することができる。
【0026】
上記の方法において、前記記録工程は、予め設定された複数の温度領域のそれぞれにおいて前記相関情報を記録することを含み、前記温度上昇量推定工程は、前記設定温度に対応して前記複数の温度領域のうちの一の温度領域を選択し当該一の温度領域における前記相関情報に基づいて前記温度上昇量を推定することを含むことが望ましい。
【0027】
本方法によれば、圧力媒体の圧縮率および体積膨張係数のうちの少なくとも一方が温度に応じて大きく変化する場合でも、設定温度に対応した温度領域の相関情報を利用することで、昇圧動作時の圧力媒体の温度上昇量を更に精度よく推定することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、所望の設定圧力および設定温度において被処理物に対する加圧処理および加温処理を安定して行うことが可能な等方圧加圧装置および等方圧加圧方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態に係る等方圧加圧装置の概略構成図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る等方圧加圧装置のブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る等方圧加圧装置の圧媒情報記憶部に記憶される相関情報の概念図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る等方圧加圧装置における圧力媒体の圧力変化と温度変化との相関情報を示すグラフである。
【
図5】本発明の一実施形態に係る等方圧加圧装置における圧力媒体の圧力変化と温度変化との相関情報を示すグラフである。
【
図6】本発明の一実施形態に係る等方圧加圧装置において実行される等方圧加圧処理のフローチャートである。
【
図7】本発明の一実施形態に係る等方圧加圧装置において実行される等方圧加圧処理のフローチャートである。
【
図8】本発明の一実施形態に係る等方圧加圧装置における圧力媒体の圧力変化と温度変化との相関情報を示すグラフである。
【
図9】本発明の一実施形態に係る等方圧加圧装置における圧力媒体の圧力変化と温度変化との相関情報を示すグラフである。
【
図10】本発明の一実施形態に係る等方圧加圧装置における圧力媒体の圧力変化と温度変化との相関情報を示すグラフである。
【
図11】本発明の一実施形態に係る等方圧加圧装置における圧力媒体の圧力変化と温度変化との相関情報を示すグラフである。
【
図12】従来の等方圧加圧装置における圧力媒体の圧力および温度の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る等方圧加圧装置1(温間等方圧加圧装置ともいう)について説明する。
図1は、本実施形態に係る等方圧加圧装置1の概略構成図である。
図2は、本実施形態に係る等方圧加圧装置1のブロック図である。等方圧加圧装置1は、被処理物に対して圧力媒体PMを用いて等方圧加圧処理を行う。
【0031】
なお、以下の説明では、処理対象である被処理物を食品としているが、被処理物は、食品以外の製品(例えば飲料)であってもよいし、金属粉末・セラミック粉末といった無機物(無機粉末)であってもよい。
【0032】
本発明の一実施形態に係る等方圧加圧装置1は、昇圧装置10(加圧機構)と、圧力容器11と、油圧ユニット13と、圧力センサ16(圧力検出部)と、温度センサ17(温度検出部)と、油給排口20と、加熱装置21および冷却装置22(温度調整機構)と、制御部50と、操作部510(
図2)(設定情報入力部)と、表示部511と、を有する。
【0033】
圧力容器11の内部には圧力媒体PMを受け入れることが可能な処理空間Sが形成されている。一例として、本実施形態では、圧力媒体PMとして水が処理空間Sに貯留される。圧力容器11は、円筒形状を有する容器本体111と、蓋部112と、隔壁113と、を有する。容器本体111の軸方向の両端部はそれぞれ開口されており、蓋部112は、容器本体111の前記両端部のうちの一端部を封止する。一方、容器本体111の前記両端部のうちの他端部は昇圧装置10のピストンロッド102によって封止される。隔壁113は、容器本体111を径方向の外側から囲むように配置された円筒形状を有している。隔壁113の内部は油給排口20に連通しており、当該油給排口20を通じて加熱装置21から供給される熱媒油または冷却装置22から供給される冷媒油を貯留することができる。この結果、容器本体111の処理空間Sの圧力媒体PMの温度が調整可能とされる。
【0034】
昇圧装置10は、容器本体111の処理空間S内の圧力媒体PMを加圧することが可能とされている。昇圧装置10は、処理空間S内の圧力媒体PMの圧力を大気圧から後記の設定圧力Psまで昇圧する昇圧動作と、当該昇圧動作後に圧力媒体PMの圧力を前記設定圧力Psに維持する圧力維持動作とをそれぞれ実行可能とされている。圧力維持動作では、圧力媒体PMの圧力は設定圧力Psを含む所定の範囲内に維持される。また、昇圧装置10は、シリンダ本体101と、ピストンロッド102と、を有する。
【0035】
シリンダ本体101は、円筒形状を有している。ピストンロッド102は、ピストン部102Aと、ロッド部102Bと、を有する。ピストン部102Aは、シリンダ本体101の内部をヘッド側油室101Aとロッド側油室101Bとに仕切っている。ロッド部102Bはピストン部102Aのロッド側油室101B側の面から延びるように配設された円柱部材であって、その先端部はシリンダ本体101の外壁を貫通して、前述の圧力容器11の容器本体111の他端部を封止している。
【0036】
油圧ユニット13は、昇圧装置10に作動油を供給するものであり、電磁弁からなる方向切換弁14と、油圧ポンプ15とを有する。油圧ポンプ15は、昇圧装置10に供給される作動油を吐出する可変容量式の油圧ポンプである。方向切換弁14は、作動油の供給経路において油圧ポンプ15と昇圧装置10との間に配設されている。また、方向切換弁14とシリンダ本体101のヘッド側油室101Aとは油路131によって互いに連通され、方向切換弁14とロッド側油室101Bとは油路132によって互いに連通されている。
【0037】
また、方向切換弁14は一対のソレノイドを有しており、当該ソレノイドに切換指令信号が入力されることで、方向切換弁14の位置が切り換えられる。
図1では、方向切換弁14は中立位置に配置されている。この場合、昇圧装置10に対する作動油の供給および昇圧装置10からの作動油の排出は阻止されているため、ピストンロッド102の位置は大きく変化しない。一方、後記の制御部50から
図1の方向切換弁14の左側のソレノイドに切換指令信号が入力されると、方向切換弁14が中立位置よりも左側の位置に切り換わる。この場合、油圧ポンプ15から吐出された作動油は油路131を通じてヘッド側油室101Aに流入する一方、ロッド側油室101Bから作動油がタンクに排出される。この結果、ピストンロッド102が
図1の矢印方向に移動し、ロッド部102Bが容器本体111の処理空間S内の圧力媒体PMを昇圧する。一方、後記の制御部50から
図1の方向切換弁14の右側のソレノイドに切換指令信号が入力されると、方向切換弁14が中立位置よりも右側の位置に切り換わる。この場合、油圧ポンプ15から吐出された作動油は油路132を通じてロッド側油室101Bに流入する一方、ヘッド側油室101Aから作動油がタンクに排出される。この結果、ピストンロッド102が
図1の矢印方向とは反対の方向に移動し、ロッド部102Bによる圧力媒体PMの昇圧が解除される(弱められる)。
【0038】
圧力センサ16は、油路131における作動油の圧力を検出することが可能とされている。なお、当該圧力はヘッド側油室101Aの圧力に等しい。また、ピストン部102Aのヘッド側油室101A側の断面積と、ロッド部102Bの先端部の断面積(処理空間Sの断面積)とはいずれも既知であるため、圧力センサ16が検出する作動油の圧力と前記断面積同士の比とから処理空間S内の圧力媒体PMの圧力を算出することが可能となる。この結果、圧力センサ16が有する不図示の演算素子は、処理空間S内の圧力媒体PMの圧力を検出することが可能である。
【0039】
温度センサ17は、蓋部112を貫通して処理空間Sに露出する熱電対からなり、処理空間S内の圧力媒体PMの温度を検出することが可能とされている。
【0040】
加熱装置21は、圧力容器11の隔壁113内に熱媒油を供給することで、処理空間S内の圧力媒体PMを加熱することができる。加熱装置21は、一次電源PWの電力を受けて熱媒油を貯留するタンクと、熱媒油を吐出可能な可変容量式の油圧ポンプと熱媒油給排口211とを含む。冷却装置22は、圧力容器11の隔壁113内に冷媒油を供給することで、処理空間S内の圧力媒体PMを冷却することができる。冷却装置22は、一次電源PWの電力を受けて冷媒油を貯留するタンクと、冷媒油を吐出可能な可変容量式の油圧ポンプと冷媒油給排口221とを含む。不図示の切換機構によって熱媒油給排口211と冷媒油給排口221とが油給排口20に選択的に接続可能とされている。このような加熱装置21および冷却装置22は、処理空間S内の圧力媒体PMの温度を調整することが可能な温度調整機構として機能する。
【0041】
制御部50は、一次電源PWの電力を受けて機能するものであり、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)、CPUの作業領域として使用されるRAM(Random Access Memory)等から構成されている。制御部50(
図2)は、操作部510、圧力センサ16、温度センサ17、加熱装置21、冷却装置22および表示部511に電気的に接続されている。
【0042】
操作部510は、
図1の制御部50に隣接して配置されており、等方圧加圧装置1を操作する作業者が各種の情報を入力するための操作ボタン、タッチパネルなどを含む。一例として、操作部510は、予め設定された等方圧加圧処理中の圧力媒体の設定温度Tsおよび設定圧力Psを含む情報である設定情報の入力を受け付ける。
【0043】
表示部511は、
図1の制御部50に隣接して配置されており、等方圧加圧装置1を操作する作業者に各種の情報を報知するために、当該情報を表示可能な液晶パネルなどから構成される。
【0044】
制御部50は、前記CPUがROMに記憶された制御プログラムを実行することにより、圧媒温度設定部501(温度上昇量推定部、目標温度決定部)、温度制御部502、記憶部503(圧媒情報記憶部)、表示入力部504および判定部505を備えるように機能する。
【0045】
圧媒温度設定部501は、昇圧装置10による圧力媒体PMの昇圧動作時に生じる圧力媒体PMの温度上昇量Δtを演算し推定する。また、圧媒温度設定部501は、前記昇圧動作前の圧力媒体PMの目標温度Tiを演算し決定する。
【0046】
温度制御部502は、処理空間S内の圧力媒体PMの温度を圧媒温度設定部501によって演算、決定された目標温度Tiに調整するように、加熱装置21および冷却装置22のうちの少なくとも一方を制御する。
【0047】
記憶部503は、圧力媒体PMの圧縮率κTおよび体積膨張係数αVに関連する情報である圧媒情報を記憶および出力する。詳しくは、記憶部503は、圧力媒体PMの圧縮率κTおよび体積膨張係数αVを前記圧媒情報として記憶する。また、前述の温度センサ17は、前記昇圧動作が実行された後であって前記圧力維持動作が実行される前である昇圧終了時の圧力媒体PMの温度である昇圧後温度Tfを検出することが可能であり、記憶部503は、実温度上昇量ΔTと実圧力上昇量ΔPとの相関関係を示す情報である相関情報(相関データ)を前記圧媒情報として記憶することが可能である。なお、実温度上昇量ΔTは、前記昇圧後温度Tfと前記目標温度Tiとの差であり、実圧力上昇量ΔPは前記設定圧力Psと前記昇圧動作前に圧力センサ16によって検出された圧力媒体PMの圧力である初期圧力Piとの差である。
図3は、本実施形態に係る等方圧加圧装置1の記憶部503に記憶される前記相関情報の概念図である。このように、本実施形態では、記憶部503は、予め設定された複数の温度領域TRのそれぞれにおいて実温度上昇量ΔTと実圧力上昇量ΔPとの相関情報を記憶することが可能である。ここでは、
図3に示すように、80℃から160℃までそれぞれ20度の幅をもった4つの温度領域TRが設定されている。なお、
図3において、TR:80℃~100℃は、80℃以上100℃未満の領域を示している。その他の領域についても同様である。
【0048】
更に、圧媒温度設定部501は、記憶部503に記憶された圧媒情報と操作部510に入力された設定圧力Psと初期圧力Piとに基づいて、前記昇圧動作によって生じる圧力媒体PMの温度上昇量Δtを演算し、推定する。また、圧媒温度設定部501は、設定温度Tsから前記温度上昇量Δtを差し引くことで、前記昇圧動作前の圧力媒体PMの目標温度Tiを演算し、決定する。
【0049】
表示入力部504は、圧媒温度設定部501によって演算された前記温度上昇量Δtや、前記実温度上昇量ΔTと前記実圧力上昇量ΔPとの相関情報を示すグラフなどの情報を表示部511に入力し、表示させる。この結果、等方圧加圧装置1を操作する作業者がこれらの情報を視認することができる。
【0050】
判定部505は、後記のように等方圧加圧処理における所定の判定処理を実行する。
【0051】
図4および
図5は、本実施形態に係る等方圧加圧装置1における圧力媒体PMの圧力変化と温度変化との相関情報を示すグラフである。また、
図12は、従来の等方圧加圧装置における圧力媒体PMの圧力および温度の推移を示すグラフである。
【0052】
図12に示すように、従来の等方圧加圧方法では、被処理物に対する加圧処理に先立って、圧力容器11の処理空間S内の圧力媒体PMを設定圧力Psまで昇圧する(昇圧動作)ために、予め圧力媒体PMの温度が設定温度Tsに設定されていた。このため、昇圧動作中に圧力媒体PMの温度が圧縮熱によって設定温度Tsから上昇し、加圧処理(圧力維持動作)中の圧力媒体PMの温度が狙いの設定温度Tsよりも高く推移していた。この場合、被処理物に対する加温処理が過剰となり、被処理物の品質に問題が生じてしまう。また、更に他の等方圧加圧方法では、昇圧動作中の圧力媒体PMの温度上昇を抑制するために、昇圧速度を抑えるように制御している。この場合、被処理物に対する加圧処理が過剰となり、同様に被処理物の品質に問題が生じてしまう。
【0053】
本実施形態では、上記のような問題を解決するために、制御部50の圧媒温度設定部501が昇圧動作中の圧力媒体PMの温度上昇量Δtを予め推定する。
図4を参照して、本実施形態における基本的な考え方について説明する。圧力容器11の処理空間S内の圧力媒体PMの昇圧前の温度が温度センサ17によって検出され、この温度がT1a(℃)と定義される。その後、昇圧装置10によって処理空間S内の圧力媒体PMが昇圧され、その圧力が昇圧動作前の圧力P0から最終圧力P1に達した時点での圧力媒体PMの温度がT1b(℃)と定義される。この結果、昇圧動作による圧力媒体PMの温度上昇量Δtは、以下の式1で算出される。
Δt=T1b-T1a ・・・(式1)
ここで、被処理物の圧縮量が処理空間S内の圧力媒体PMの量に比べて極めて小さいと仮定すると、圧縮熱による圧力媒体PMの温度上昇量Δtは、圧力媒体PMの体積膨張係数αV、圧力媒体PMの圧縮率κTを用いて、式2で表すことができる。
Δt=(P1-P0)×(κT/αV) ・・・(式2)
すなわち、κTおよびαVがともに一定であるとすれば、
図4に示すように、圧力媒体PMの温度上昇量Δt(温度変化)は、圧力変化量Δp(=pn-p0)を変数とする傾き(κT/αV)の一次式で表すことができる(温度上昇量Δtと圧力変化量Δpとの相関情報)。したがって、傾き(κT/αV)および昇圧動作前の圧力P0が既知であれば、最終圧力P1(=設定圧力Ps)までの昇圧動作に伴う圧力媒体PMの温度上昇量Δtを推定することができる。
【0054】
ここで、本発明の発明者は、温度が変われば体積膨張係数αVが変化し圧力が変われば圧縮率κTが変化することに着目し、
図4の相関情報を複数の温度領域TRごとに準備し(
図3)、各温度領域TRに応じた固有の相関情報を用いて温度上昇量Δtを推定することを新たに知見した。すなわち、各温度領域TRでは、体積膨張係数αVが一定と仮定すると、圧縮率κTが圧力とともに変化するため温度上昇量Δtと圧力変化量Δpとの相関情報は
図4のような一次式で表すことができなくなる。具体的に、圧縮率κTは圧力とともに減少するため、設定圧力Ps(圧力変化量Δp)が小さくなるほど相関情報のグラフの傾きは小さくなり、
図5に示すような特性となる。そして、
図5におけるデータの数が増えれば増えるほどグラフの精度が増し、温度上昇量Δtを精度よく推定することができる。
【0055】
次に、上記のような考え方に基づく、本実施形態に係る等方圧加圧処理について説明する。
図6は、本実施形態に係る等方圧加圧装置1において実行される1回目の等方圧加圧処理のフローチャートである。
図7は、本実施形態に係る等方圧加圧装置1において実行される2回目の等方圧加圧処理のフローチャートである。また、
図8乃至
図11は、本実施形態に係る等方圧加圧装置1における圧力媒体PMの圧力変化と温度変化との相関情報を示すグラフである。
【0056】
図6を参照して、本実施形態に係る等方圧加圧装置1において実行される1回目の等方圧加圧処理について説明する。なお、以後の説明における1回目、2回目、3回目以降とは、等方圧加圧装置1が使用される使用現場において同じ圧力媒体PM(たとえば水)を用いて行う等方圧加圧処理の回数を意味する。この場合、被処理物の材料、形状などは問わず、同じ被処理物に複数回の処理が行われてもよいし、また1回目の処理後に処理空間S内の被処理物が取り出され、2回目の処理のために他の被処理物が処理空間Sに投入されるものでもよい。
【0057】
1回目の等方圧加圧処理が開始されると、圧力媒体PMの体積膨張係数αVおよび圧縮率κTがそれぞれ取得される(ステップS01)。ここでは、予め行われた試運転でのデータに基づいて体積膨張係数αV、圧縮率κTが算出され、記憶部503に記憶されているため、記憶部503がこれらの情報を出力する。圧縮率κTは、設定圧力Ps=700(MPa)、設定温度Ts=130(℃)での実測値として、κT=0.476×10-9(Pa-1)が記憶され、体積膨張係数αVは、当該実測された圧縮率κTと前述の式2に基づいて、αV=3.03×10-3(K-1)が記憶されている。
【0058】
等方圧加圧処理が実行されるにあたって、前述の昇圧装置10、圧力容器11、圧力センサ16および温度センサ17などを含む等方圧加圧装置1が準備される(準備工程)。
【0059】
次に、作業者が操作部510を操作することで設定温度Tsおよび設定圧力Psを入力(設定)すると(処理条件設定工程)、操作部510が入力された設定温度Tsおよび設定圧力Psを受け付ける(ステップS02)。一例として、Ts=130(℃)、Ps=500(MPa)が入力される。
【0060】
次に、圧媒温度設定部501が以下の式3のように前記昇圧動作によって生じる圧力媒体PMの温度上昇量Δtを演算(推定)する(ステップS03)(温度上昇量推定工程)。なお、この際の初期圧力Piは0.1(MPa)とする。
Δt=ΔP×κT/αV=(Ps-Pi)×κT/αV=(500-0.1)×106×0.476×10-9/3.03×10-3=78.5(℃) ・・・(式3)
【0061】
この結果、圧媒温度設定部501は以下の式4のように設定温度Tsから温度上昇量Δtを差し引くことで、調整すべき目標温度Tiを演算(決定)する(ステップS04)(目標温度決定工程)。
Ti=Ts-Δt=130-78.5=51.5(℃) ・・・(式4)
【0062】
次に、温度制御部502が加熱装置21を制御して、処理空間S内の圧力媒体PMの温度を上記で演算された目標温度Tiに調整する(ステップS05)(温度調整工程)。
【0063】
次に、記憶部503が上記で演算された目標温度Tiを初期圧力Piとともに記憶する(ステップS06)。
【0064】
次に、制御部50から油圧ユニット13に所定の切換指令信号が入力され、昇圧装置10による加圧処理(昇圧動作、圧力維持動作)が実行される(ステップS07)(昇圧工程、圧力維持工程)。
【0065】
上記の加圧処理のうち昇圧動作が終了すると、記憶部503は、昇圧動作が実行された後であって圧力維持動作が実行される前の圧力媒体PMの温度(昇圧後温度Tf)および圧力(昇圧後圧力Pf)をそれぞれ記憶する(ステップS08)。ここでは、温度センサ17が昇圧後温度Tf=135℃を検出し、圧力センサ16が昇圧後圧力Pf=500(MPa)を検出したとする。
【0066】
更に、圧媒温度設定部501は、当該1回目の等方圧加圧処理における、昇圧後温度Tfと目標温度Tiとの差である実温度上昇量ΔT(=135-51.5=83.5(℃))と、設定圧力Psと初期圧力Piとの差である実圧力上昇量ΔP(=500-0.1=499.9(MPa))とをそれぞれ演算する(ステップS09)。なお、実圧力上昇量ΔPは、設定圧力Psと初期圧力Piとの差でもよい。
【0067】
そして、記憶部503は、前記演算された実温度上昇量ΔTと実圧力上昇量ΔPとの相関データを作成する(ステップS10)(記録工程)。この際、
図8に示すように、記憶部503では設定温度Ts(=130℃)に応じた120℃~140℃の温度領域TRの記憶領域に前記相関データ(ΔP=499.9(MPa)かつΔT=83.5(℃))が作成される。
【0068】
以上のように、1回目の等方圧加圧処理では、圧媒温度設定部501は、記憶部503に記憶された圧力媒体PMの体積膨張係数αVおよび圧縮率κTと操作部510に入力された設定圧力Psと圧力センサ16によって検出された初期圧力Piとに基づいて温度上昇量Δtを演算(推定)する。そして、当該演算された温度上昇量Δtに応じて、圧力媒体PMの温度が目標温度Tiに調整されるため、昇圧動作によって圧力媒体PMが設定温度Tsまで上昇し、その後の加圧処理(圧力維持動作)を安定して行うことができる。
【0069】
次に、
図7を参照して、2回目の等方圧加圧処理について説明する。2回目の等方圧加圧処理が開始されると、作業者が操作部510を操作することで、操作部510が設定温度Tsおよび設定圧力Psを受け付ける(ステップS11)(処理条件設定工程)。一例として、Ts=100(℃)または130(℃)、Ps=400(MPa)が入力される。
【0070】
次に、判定部505が、設定温度Tsに対応する相関データの有無を判定する(ステップS12)。具体的に、設定温度Tsが130(℃)の場合、前述の1回目の等方圧加圧処理において120℃~140℃の温度領域TRの記憶領域に前記相関データが作成されている(ステップS12でYES)。このため、圧媒温度設定部501は、当該120℃~140℃の温度領域TRの相関データにおいて、設定圧力Ps(400MPa)と初期圧力Pi(0.1MPa)との差であるΔP=399.9MPaに基づいて、温度上昇量Δt=66.8(℃)を推定する(ステップS13)(
図9)(温度上昇量推定工程)。
【0071】
その後、1回目の等方圧加圧処理と同様に、
図6のステップS04~S09(処理A)が実行される(ステップS14)。この際、圧媒温度設定部501は以下の式5のように調整すべき目標温度Tiを演算する(ステップS04)(目標温度決定工程)。
Ti=Ts-Δt=130-66.8=63.2(℃) ・・・(式5)
【0072】
その後、1回目と同様に、前記温度調整工程、昇圧工程および圧力維持工程がそれぞれ実行される。ここで、温度センサ17が昇圧後温度Tf=120℃を検出し、圧力センサ16が昇圧後圧力Pf=400(MPa)を検出したとする。この結果、圧媒温度設定部501は、当該2回目の等方圧加圧処理における、昇圧後温度Tfと目標温度Tiとの差である実温度上昇量ΔT(=120-63.2=56.8(℃))と、設定圧力Psと初期圧力Piとの差である実圧力上昇量ΔP(=400-0.1=399.9(MPa))とをそれぞれ演算する(ステップS09)。
【0073】
そして、記憶部503は、当該2回目の等方圧加圧処理のステップS09で演算された実温度上昇量ΔTおよび実圧力上昇量ΔPを更に記憶することで相関データを更新する(ステップS15)(記録工程)。この際、
図10に示すように、記憶部503のうち設定温度Ts(=130℃)に応じた120℃~140℃の温度領域TRの記憶領域に前記相関データ(ΔP=399.9(MPa)かつΔT=56.8(℃))が追加される。
図10に示すように、記憶部503において更新される相関データは一次式ではなく、
図4に示すような曲線を描くことになる。
【0074】
一方、ステップS12において、設定温度Tsが100(℃)の場合、記憶部503には当該設定温度Tsに対応する100℃~120℃の温度領域TRの記憶領域に前記相関データが作成されていない(ステップS12でNO)。このため、圧媒温度設定部501は、当該設定温度Tsに最も近い120℃~140℃の温度領域TRの相関データにおいて、設定圧力Ps(400MPa)と初期圧力Pi(0.1MPa)との差であるΔP=399.9MPaに基づいて、温度上昇量Δt=66.8(℃)を推定する(ステップS17)(
図9)(温度上昇量推定工程)。
【0075】
その後、1回目の等方圧加圧処理と同様に、
図6のステップS04~S09(処理A)が実行される(ステップS18)。この際、圧媒温度設定部501は以下の式6のように調整すべき目標温度Tiを演算する(ステップS04)(目標温度決定工程)。
Ti=Ts-Δt=100-66.8=33.2(℃) ・・・(式6)
【0076】
その後、1回目と同様に、前記温度調整工程、昇圧工程および圧力維持工程がそれぞれ実行される。ここで、温度センサ17が昇圧後温度Tf=95℃を検出し、圧力センサ16が昇圧後圧力Pf=400(MPa)を検出したとする。この結果、圧媒温度設定部501は、当該2回目の等方圧加圧処理における、昇圧後温度Tfと目標温度Tiとの差である実温度上昇量ΔT(=95-33.2=61.8(℃))と、設定圧力Psと初期圧力Piとの差である実圧力上昇量ΔP(=400-0.1=399.9(MPa))をそれぞれ演算する(ステップS09)。
【0077】
そして、記憶部503は、当該2回目の等方圧加圧処理のステップS18(ステップS09)で演算された実温度上昇量ΔTおよび実圧力上昇量ΔPに基づいて、本来の100℃~120℃の温度領域TRの記憶領域に相関データを新たに作成する(ステップS19)(
図11)(記録工程)。
【0078】
なお、3回目以降の等方圧加圧処理においても、
図7と同様の処理が繰り返される。すなわち、圧媒温度設定部501は、被処理物に対する3回目以降の等方圧加圧処理において、設定圧力Psと初期圧力Piとの差と前記更新された相関情報とに基づいて温度上昇量Δtを推定する(温度上昇量推定工程)。この結果、
図3に示す各温度領域TRにおける相関データが増えることによって、温度上昇量Δtを精度良く推定することが可能となる。なお、上記の1回目、2回目、3回目以降の等方圧加圧処理は、これらの順番に限定されるものではない。すなわち、1回目をn回目(nは自然数)、2回目をm回目(mは自然数かつm>n)、3回目をp回目(pは自然数かつp>m)と置き換えることができる。このように、本実施形態では、過去の等方圧加圧処理における相関データを記憶部503に累積的に記憶(更新)することで、新たに実行される等方圧加圧処理における温度上昇量Δtを精度良く推定することが可能となる。
【0079】
特に、本実施形態では、圧媒温度設定部501が、昇圧動作における圧力媒体PMの温度上昇量Δtを予め推定し、当該温度上昇量Δtを見込んで目標温度Tiを設定温度Tsよりも低めに決定し、温度制御部502が昇圧動作前の圧力媒体PMの温度を前記目標温度Tiに調整する。このため、圧力媒体PMの温度上昇を低減するために昇圧速度を抑えることなく、昇圧動作終了後の圧力媒体PMの温度(昇圧後温度Tf)を設定温度Tsに近づけることが可能となるため、予め設定された設定圧力Psおよび設定温度Tsにおいて加圧処理および加温処理を含む等方圧加圧処理を被処理物に対して安定して行うことが可能となる。
【0080】
また、本実施形態では、記憶部503は、圧力媒体PMの圧縮率κTおよび体積膨張係数αVを圧媒情報として記憶しており、圧媒温度設定部501は、被処理物に対する1回目(n回目:nは自然数)の等方圧加圧処理において、記憶部503に記憶された圧力媒体PMの圧縮率κTおよび体積膨張係数αVと操作部510に入力された設定圧力Psと圧力センサ16によって検出された初期圧力Piとに基づいて温度上昇量Δtを推定する。このような構成によれば、1回目の等方圧加圧処理では、記憶部503に予め記憶された圧縮率κTおよび体積膨張係数αVに基づいて昇圧動作時の圧力媒体PMの温度上昇量Δtを容易に推定することができる。
【0081】
また、本実施形態では、温度センサ17は、前記昇圧動作が実行された後であって前記圧力維持動作が実行される前である昇圧終了時の圧力媒体PMの温度である昇圧後温度Tfを検出することが可能である。また、記憶部503は、1回目の等方圧加圧処理における、前記昇圧後温度Tfと前記目標温度Tiとの差である実温度上昇量ΔTと、前記設定圧力Psと前記初期圧力Piとの差である実圧力上昇量ΔPとの相関情報を前記圧媒情報として記憶することが可能である。そして、圧媒温度設定部501は、被処理物に対する2回目(m回目:mは自然数かつm>n)の等方圧加圧処理において、前記設定圧力Psと前記初期圧力Piとの差と記憶部503に記憶されている前記相関情報とに基づいて前記温度上昇量を推定する。このような構成によれば、2回目の等方圧加圧処理では、1回目の等方圧加圧処理において実測された実温度上昇量ΔTおよび実圧力上昇量ΔPの相関情報を利用して、昇圧動作時の圧力媒体PMの温度上昇量を推定するため、圧力媒体の物性値として知られている圧縮率κTや体積膨張係数αVを用いて温度上昇量Δtを推定する場合と比較して、使用する等方圧加圧装置1の特性に応じて温度上昇量Δtを精度良く推定することができる。
【0082】
更に、本実施形態では、記憶部503は、2回目の等方圧加圧処理における実温度上昇量ΔTおよび実圧力上昇量ΔPを更に記憶することで前記相関情報を更新することが可能である。また、圧媒温度設定部501は、被処理物に対する3回目(p回目:pは自然数かつp>m)の等方圧加圧処理において、設定圧力Psと初期圧力Piとの差と記憶部503に記憶された前記更新された相関情報とに基づいて前記温度上昇量Δtを推定する。このような構成によれば、3回目の等方圧加圧処理では、1回目および2回目の等方圧加圧処理において実測された複数の実温度上昇量ΔTおよび複数の実圧力上昇量ΔPを含む相関情報を利用して、昇圧動作時の圧力媒体PMの温度上昇量Δtを更に精度よく推定することができる。
【0083】
また、本実施形態では、記憶部503は、予め設定された複数の温度領域TRのそれぞれにおいて前記相関情報を記憶することが可能である。そして、圧媒温度設定部501は、操作部510に入力された設定温度Tsに対応して複数の温度領域TRのうちの一の温度領域TRを選択し当該一の温度領域TRにおける前記相関情報に基づいて温度上昇量Δtを推定する。このような構成によれば、圧力媒体の圧縮率κTおよび体積膨張係数αVのうちの少なくとも一方が温度に応じて大きく変化する場合でも、設定温度Tsに対応した温度領域TRにおける実温度上昇量ΔTと実圧力上昇量ΔPとの相関情報を利用することで、昇圧動作時の圧力媒体PMの温度上昇量を更に精度よく推定することができる。
【0084】
また、本実施形態に係る等方圧加圧方法は、被処理物に対して圧力媒体PMを用いて等方圧加圧処理を行うための方法である。当該等方圧加圧方法は、処理条件設定工程と、準備工程と、温度上昇量推定工程と、目標温度決定工程と、温度調整工程と、昇圧工程と、圧力維持工程と、を備える。
処理条件設定工程では、前記等方圧加圧処理中の圧力媒体PMの設定温度Tsおよび設定圧力Psを設定する。
準備工程では、圧力媒体PMを受け入れることが可能な処理空間Sが形成されている圧力容器11と、圧力媒体PMの圧力を大気圧から設定圧力Psまで昇圧する昇圧動作と当該昇圧動作後に圧力媒体PMの圧力を設定圧力Psに維持する圧力維持動作とをそれぞれ実行可能な昇圧装置10と、処理空間S内の圧力媒体PMの圧力Pを検出することが可能な圧力センサ16と、処理空間S内の圧力媒体PMの温度Tを検出することが可能な温度センサ17と、をそれぞれ準備する。
温度上昇量推定工程では、圧力媒体PMの体積膨張係数αVおよび圧縮率κTに関連する情報である圧媒情報と、設定圧力Psから前記昇圧動作前の圧力媒体PMの圧力である初期圧力Piを差し引くことで、前記昇圧動作によって生じる圧力媒体PMの温度上昇量Δtを推定する。
目標温度決定工程では、設定温度Tsと前記推定された温度上昇量Δtとに基づいて前記昇圧動作前の圧力媒体PMの目標温度Tiを決定する。
温度調整工程では、処理空間S内の圧力媒体PMの温度を目標温度Tiに調整する。
昇圧工程では、圧力媒体PMの温度が目標温度Tiに調整された状態で昇圧装置10によって前記昇圧動作を実行する。
圧力維持工程では、前記昇圧工程後に昇圧装置10によって前記圧力維持動作を実行する。
【0085】
このような方法によれば、昇圧動作における圧力媒体PMの温度上昇量Δtを予め推定し当該温度上昇量Δtを見込んで昇圧動作前の圧力媒体PMの温度を調整するため、圧力媒体の昇圧時の温度上昇を低減するために昇圧速度を抑えることなく昇圧動作終了後の圧力媒体PMの温度を設定温度Tsに近づけることが可能となり、予め設定された設定圧力Psおよび設定温度Tsにおいて加圧処理および加温処理を含む等方圧加圧処理を被処理物に対して安定して行うことが可能となる。
【0086】
また、上記の方法において、前記温度上昇量推定工程は、被処理物に対する1回目(n回目:nは自然数)の等方圧加圧処理において、圧力媒体PMの圧縮率κTおよび体積膨張係数αVと設定圧力Psと初期圧力Piとに基づいて温度上昇量Δtを推定することを含むことが望ましい。
【0087】
このような方法によれば、1回目(n回目)の等方圧加圧処理では、圧力媒体PMの圧縮率κTおよび体積膨張係数αVに基づいて昇圧動作時の圧力媒体PMの温度上昇量Δtを容易に推定することができる。
【0088】
また、上記の方法において、1回目の等方圧加圧処理における、昇圧後温度Tfと目標温度Tiとの差である実温度上昇量ΔTと、設定圧力Psと初期圧力Piとの差である実圧力上昇量ΔPとの相関関係を示す情報である相関情報を前記圧媒情報として記録する記録工程を更に備え、前記温度上昇量推定工程は、被処理物に対する2回目(m回目:mは自然数かつm>n)の等方圧加圧処理において、設定圧力Psと初期圧力Piとの差と前記記録された前記相関情報とに基づいて温度上昇量Δtを推定することを更に含むことが望ましい。
【0089】
このような方法によれば、2回目(m回目)の等方圧加圧処理では、1回目の等方圧加圧処理において実測された実温度上昇量ΔTおよび実圧力上昇量ΔPの相関情報を利用して、昇圧動作時の圧力媒体PMの温度上昇量Δtを推定するため、圧力媒体の物性値として知られている圧縮率や体積膨張係数を用いて温度上昇量を推定する場合と比較して、使用する等方圧加圧装置の特性に応じて温度上昇量を精度良く推定することができる。
【0090】
また、上記の方法において、前記記録工程は、2回目の等方圧加圧処理における実温度上昇量ΔTおよび実圧力上昇量ΔPを更に記録することで前記相関情報を更新することを含み、前記温度上昇量推定工程は、被処理物に対する3回目(p回目:pは自然数かつp>m)の等方圧加圧処理において、設定圧力Psと初期圧力Piとの差と前記更新された相関情報とに基づいて温度上昇量Δtを推定することを更に含むことが望ましい。
【0091】
このような方法によれば、3回目(p回目)の等方圧加圧処理では、1回目および2回目の等方圧加圧処理において実測された複数の実温度上昇量ΔTおよび複数の実圧力上昇量ΔPを含む相関情報を利用して、昇圧動作時の圧力媒体PMの温度上昇量Δtを更に精度よく推定することができる。
【0092】
また、上記の方法において、前記記録工程は、予め設定された複数の温度領域TRのそれぞれにおいて前記相関情報を記録することを含み、前記温度上昇量推定工程は、設定温度Tsに対応して複数の温度領域TRのうちの一の温度領域TRを選択し当該一の温度領域TRにおける前記相関情報に基づいて温度上昇量Δtを推定することを含むことが望ましい。
【0093】
このような方法によれば、圧力媒体PMの圧縮率κTと体積膨張係数αVとの比が温度に応じて変化することに着目して、設定温度Tsに対応した温度領域TRにおける実温度上昇量ΔTと前記実圧力上昇量ΔPとの相関情報を利用することで、昇圧動作時の圧力媒体PMの温度上昇量Δtを更に精度よく推定することができる。
【0094】
以上、本発明の一実施形態に係る等方圧加圧装置1および等方圧加圧方法について説明したが、本発明はこれらの態様に限定されるものではなく、以下のような変形実施形態が可能である。
【0095】
(1)上記の実施形態では、圧力媒体PMが水である場合に基づいて説明したが、圧力媒体PMは水以外の媒体であってもよい。また、記憶部503は圧力媒体PM毎に異なる記憶領域を有しており、操作部510から圧力媒体PMの種類に関する情報が入力されることで、入力された圧力媒体PMに応じた圧媒情報(圧縮率κT、体積膨張係数αV、相関データ)が記憶部503から取得されてもよい。同様に、圧力媒体PMに対する昇圧動作の昇圧時間に応じて異なる相関データが記憶部503に記憶されてもよい。
【0096】
(2)上記の実施形態では、圧力媒体PMの温度上昇量Δtに影響を及ぼす因子として圧縮率κT、体積膨張係数αVを用いて説明したが、圧力容器11の周囲の温度との温度差、放熱性に関する情報に応じて圧媒情報(圧縮率κT、体積膨張係数αV、相関データ)が分類され記憶部503に記憶される態様でもよい。この場合、更に精度良く温度上昇量Δtを推定することが可能となる。
【符号の説明】
【0097】
1 等方圧加圧装置
10 昇圧装置(加圧機構)
11 圧力容器
13 油圧ユニット
14 方向切換弁
15 油圧ポンプ
16 圧力センサ(圧力検出部)
17 温度センサ(温度検出部)
21 加熱装置(温度調整機構)
22 冷却装置(温度調整機構)
50 制御部
501 圧媒温度設定部(温度上昇量推定部、目標温度決定部)
502 温度制御部
503 記憶部(圧媒情報記憶部)
504 表示入力部
505 判定部
510 操作部(設定情報入力部)
511 表示部
PM 圧力媒体
S 内部空間