(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】蛍光タンパク質変異体
(51)【国際特許分類】
C07K 14/435 20060101AFI20240220BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240220BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240220BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240220BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240220BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240220BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240220BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
C07K14/435
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12Q1/02
(21)【出願番号】P 2019047658
(22)【出願日】2019-03-14
【審査請求日】2022-01-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今村 千絵
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】Appl. Microbiol. Biotechnol.,2015年,Vol. 99,p. 1205-1216
【文献】Chemical Physics,2008年,Vol. 350,p. 193-200
【文献】Neurosci. Lett.,2005年,Vol. 380,p. 340-345
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/00 - 14/825
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表されるアミノ酸配列に対してアライメントしたとき、その13位、25位、30位、39位、43位、44位、46位、65位、72位、101位、105位、116位、128位、142位、145位、147位、163位、171位、172位、184位、190位、198位、205位、206位、222位及び224位からなる群から選択される1種又は2種以上の位置に相当する位置において、以下に示すいずれかのアミノ酸残基のアミノ酸置換変異を有するアミノ酸配列を有し、
前記アミノ酸配列は、配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、
Δ耐熱温度(℃)(ただし、Δ耐熱温度は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質の耐熱温度(℃)に対する蛍光タンパク質変異体の耐熱温度(℃)の差分温度(℃)である。ここで、それぞれの耐熱温度は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質及び前記蛍光タンパク質変異体をそれぞれ2時間保存したとき、それぞれのタンパク質を25℃で2時間保存後の活性の半分の活性となるときの保存温度である。)が、1℃以上である、蛍光タンパク質変異体。
【表4】
【請求項2】
前記位置は、前記アミノ酸配列に対してアライメントしたとき、その25位、30位、39位、43位、101位、105位、128位、142位、145位、163位、171位、172位、184位、190位、198位、205位、206位、222位及び224位からなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項1に記載の蛍光タンパク質変異体。
【請求項3】
前記位置は、前記アミノ酸配列に対してアライメントしたとき、その101位、145位、163位、172位、222位及び224位からなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項1又は2に記載の蛍光タンパク質変異体。
【請求項4】
前記蛍光タンパク質変異体を70℃で保存したときの蛍光強度の半減期が、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるGFPの1.1倍以上である、請求項1~3のいずれかに記載の蛍光タンパク質変異体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の蛍光タンパク質変異体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項5に記載のポリヌクレオチドを備え
る、発現ベクター。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載の蛍光タンパク質変異体を発現する、形質転換体。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかに記載の蛍光タンパク質変異体を発現させてイメージング又は発現モニタリングを実施する工程を備える、方法。
【請求項9】
蛍光タンパク質変異体のスクリーニング方法であって、
野生型蛍光タンパク質において1個又は2個以上の位置に相当する位置に変異を有する、蛍光タンパク質変異体候補を準備する工程と、
前記蛍光タンパク質変異
体候補について、
(a)25℃、55℃、60℃及び65℃にて2時間保存したときの各蛍光強度に基づく、25℃で2時間保存したときの蛍光強度の50%の蛍光強度となるときの耐熱温度(℃)について取得して、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質についての前記耐熱温度(℃)に対する前記蛍光タンパク質変異体候補の前記耐熱温度(℃)の差分温度(℃)が、1℃以上であるかどうかを評価する工程と、
を備え、
前記蛍光タンパク質変異体候補は、配列番号1で表されるアミノ酸配列に対してアライメントしたとき、その13位、25位、30位、39位、43位、44位、46位、65位、72位、101位、105位、116位、128位、142位、145位、147位、163位、171位、172位、184位、190位、198位、205位、206位、222位及び224位からなる群から選択される1種又は2種以上の位置に相当する位置において、以下に示すいずれかのアミノ酸残基のアミノ酸置換変異を有するアミノ酸配列を有し、
【表5】
前記アミノ酸配列は、配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、蛍光タンパク質変異体に関する。
【背景技術】
【0002】
緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescence Protein)は、オワンクラゲが有する分子量27kDaの蛍光性タンパク質である。GFPは、野生型タンパク質のほか蛍光強度、波長、至適温度等について、種々の変異体が創出されている(特許文献1、非特許文献1~2)。こうしたGFP及びその変異体は、主に細胞内で発現させることで、遺伝子の発現の有無やタンパク質の局在性を観察するためのレポーター遺伝子(レポータータンパク質)として用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Applied Biochemistry and Biotechnology(2004), 113-116, 469-483
【文献】Appl Microbiol Biotechnol(2015)99, 1205-1216
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、GFPは、細胞内共発現を意図しているために37℃付近での温度安定性に特化した変異体が提供されているに過ぎない。したがって、高温での温度安定性を意図した蛍光タンパク質変異体は未だ提供されていない。
【0006】
本明細書は、高温で安定な蛍光タンパク質変異体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、高温での温度安定性に着目して、野生型GFPに網羅的に変異を導入したライブラリを構築し、高温での安定性に着目してスクリーニングした。その結果、高温での温度安定性に貢献する変異を特定することができた。また、これらの変異群が、主としてタンパク質表面に存在していること、及びこれらの変異群から選択される2種以上の組み合わせが相加的に作用するという知見も得た。本明細書は、こうした知見に基づき以下の手段を提供する。
【0008】
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列に対してアライメントしたとき、その13位、25位、30位、39位、43位、44位、46位、65位、72位、101位、105位、116位、128位、142位、145位、147位、163位、171位、172位、184位、190位、198位、205位、206位、222位及び224位からなる群から選択される1種又は2種以上の位置に相当する位置に変異を有する、蛍光タンパク質変異体。
(2)前記位置は、前記アミノ酸配列に対してアライメントしたとき、その25位、30位、39位、43位、101位、105位、128位、142位、145位、163位、171位、172位、184位、190位、198位、205位、206位及び224位からなる群から選択される1種又は2種以上である、(1)に記載の蛍光タンパク質変異体。
(3)前記位置は、前記アミノ酸配列に対してアライメントしたとき、その101位、145位、163位、172位、222位及び224位からなる群から選択される1種又は2種以上である、(1)又は(2)に記載の蛍光タンパク質変異体。
(4)前記変異は、配列番号1で表されるアミノ酸配列の特定位置に相当する位置において、それぞれ以下に示す1種又は2種以上のアミノ酸残基から選択される1種のアミノ酸残基で置換されている、(1)~(3)のいずれかに記載の蛍光タンパク質変異体。
【表1】
(5)前記蛍光タンパク質変異体を70℃で保存したときの蛍光強度の半減期が、配列番号1で表されるGFPの1.1倍以上である、(1)~(4)のいずれかに記載の蛍光タンパク質変異体。
(6)前記蛍光タンパク質変異体は、配列番号1で表されるアミノ酸配列と70%以上の類似性を有する、(1)~(5)のいずれかに記載の蛍光タンパク質変異体。
(7)(1)~(6)のいずれかに記載の蛍光タンパク質変異体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド。
(8)(7)に記載のポリヌクレオチドを、備える発現ベクター。
(9)(1)~(6)のいずれかに記載の蛍光タンパク質変異体を発現する、形質転換体。
(10)(1)~(6)のいずれかに記載の蛍光タンパク質変異体を発現させてイメージング又は発現モニタリングを実施する工程を備える、方法。
(11)蛍光タンパク質変異体のスクリーニング方法であって、
野生型蛍光タンパク質において1個又は2個以上の位置に相当する位置に変異を有する、蛍光タンパク質変異体候補を準備する工程と、
前記蛍光タンパク質変異候補について、
(a)55℃、60及び65℃にて2時間保存したとき、配列番号1で表されるタンパク質を25℃で2時間保存したときの蛍光強度の50%の蛍光強度となるときの当該所定温度、及び
(b)70℃で保存したときの蛍光強度の半減期
の少なくともいずれかについて評価する工程、
を備える、方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】アラニン置換ライブラリ及び飽和置換ライブラリに含まれるシングル変異体のΔ耐熱温度の評価結果を示す図である。
【
図3】Δ耐熱温度が0.3℃以上向上した88個のシングル変異体のΔ耐熱温度を示す図である。
【
図4】各変異部位におけるΔ耐熱温度が0.3℃以上の変異体数を示す表である。
【
図5】70℃における残存活性半減期が延長した変異体の評価結果を示す図である。
【
図6A】GFPファミリーに属する14種のタンパク質のUniProtによるアライメント結果その1(Uniprot KB ID P42212を伴う)を示す図である。
【
図6B】GFPファミリーに属する14種のタンパク質のUniProtによるアライメント結果その2を示す図である。
【
図7A】GFP(Uniprot KB ID P42212)とGFPファミリーに属する18種のタンパク質のUniProtによるアライメント結果その1を示す図である。
【
図7B】GFP(Uniprot KB ID P42212)とGFPファミリーに属する18種のタンパク質のUniProtによるアライメント結果その2を示す図である。
【
図7C】GFP(Uniprot KB ID P42212)とGFPファミリーに属する18種のタンパク質のUniProtによるアライメント結果その3を示す図である。
【
図7D】GFP(Uniprot KB ID P42212)とGFPファミリーに属する18種のタンパク質のUniProtによるアライメント結果その4を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書の開示は、蛍光タンパク質変異体に関する。本発明者は、従来にない観点である高温での安定性の観点からオワンクラゲ(Aequorea victoria)由来のGFPの変異体を網羅的にスクリーニングし、耐熱温度や高温での安定性についに優れる変異体を取得し、当該変異体における変異部位を特定した。特定した変異部位は、オワンクラゲ由来のGFPの耐熱温度(本明細書に開示する方法による耐熱温度は62.8℃である。)を効率的に0.3℃以上上昇させることができる部位である。なお、野生型GFPの耐熱温度を0.3℃以上上昇させる変異体は、全変異体948個中88個に過ぎなかった。
【0011】
さらに、本発明者は、こうした変異部位における有用なアミノ酸置換変異群を特定した。これらの置換アミノ酸置換変異群は、高い確率で及び/又は大幅に蛍光タンパク質の耐熱温度を向上させることができる。
【0012】
高温での安定性に優れる蛍光タンパク質変異体は、それ自体及び融合タンパク質として、生命現象などの種々の場面において、より高い温度におけるイメージング、発現モニタリングなどを可能とするレポータータンパク質として用いることができる。
【0013】
(蛍光タンパク質変異体)
本明細書に開示される蛍光タンパク質変異体(以下、単に、本変異体ともいう。)は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質のアミノ酸配列に対してアライメントしたとき、所定の変異位置群から選択される1個又は2個以上において変異が導入された蛍光タンパク質である。なお変異を導入する親タンパク質は、配列番号1で表されるタンパク質のほか、後述するGFPファミリーに属するタンパク質が挙げられる。以下、変異元のタンパク質を総括して親タンパク質という。
【0014】
ここで、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、オワンクラゲ(Aequorea victoria)由来のGFPであって、UniProtKBの登録番号P42212で特定される238アミノ酸残基のアミノ酸配列(配列番号1)からなるGFP(以下、このタンパク質を親GFPという。)である。本明細書において、特に断りのない限り、アミノ酸配列における位置は、この配列番号1で表されるアミノ酸配列における位置として表すものとする。
【0015】
(耐熱温度)
本変異体は、親タンパク質よりも耐熱温度が高いことが好ましい。本変異体の耐熱温度は、例えば、Δ耐熱温度(℃)として評価することができる。本明細書において、Δ耐熱温度は、親タンパク質の耐熱温度(℃)に対する本GFPの耐熱温度(℃)の差分温度(℃)である。例えば、ある保存温度で2時間保存したときの活性が、25℃で2時間保存後の活性の半分の活性となるときの当該保存温度を、そのタンパク質の耐熱温度とすることができる。
【0016】
より具体的には、例えば、親タンパク質及び本変異体を、25℃、55℃、60℃及び65℃でそれぞれ2時間保存後、所定の方法で、これらのタンパク質の活性として蛍光強度を測定する。これにより、保存温度を横軸とし、蛍光強度を縦軸とするとき、活性減少曲線を得ることができる。この活性減少曲線において、25℃で2時間保存時の活性の半分に対応する補助線が活性減少曲線と交差する点の保存温度を、耐熱温度(℃)とすることができる。こうして得られた本変異体の耐熱温度から親タンパク質の耐熱温度を引いた値をΔ耐熱温度とする。なお、本変異体の耐熱温度の測定にあたっては、必要に応じて、70℃及び80℃の温度でも2時間保存して本変異体の蛍光強度を測定することもできる。Δ耐熱温度は、具体的には、後述する実施例に記載される条件を採用して測定することができる。
【0017】
本変異体は、例えば、Δ耐熱温度が0.3℃以上である。また例えば、Δ耐熱温度が0.5℃以上であり、また例えば、1℃以上であり、また例えば2℃以上であり、また例えば3℃以上であり、また例えば4℃以上であり、また例えば5℃以上であり、また例えば5.5℃上であり、また例えば、6℃以上である。
【0018】
Δ耐熱温度の上昇により、例えば、70℃でのGFPの活性(蛍光強度)の半減期が増大する。特に、本変異体の活性半減期の観点からは、Δ耐熱温度が2℃以上、好ましくは、3℃以上、より好ましくは4℃以上、さらに好ましくは5℃以上、なお好ましくは5.5℃以上、また好ましくは6℃以上、一層好ましくは7℃以上である。また、上限も特に限定するものではないが、例えば、活性半減期の観点からは、12℃以下であり、また例えば、11℃以下であり、また例えば、10℃以下である。
【0019】
(活性半減期)
本変異体は、例えば、所定の保存温度で保存したときの、活性としての蛍光強度の半減期が、親タンパク質よりも長いことが好ましい。本明細書においてGFPの活性半減期とは、親タンパク質又は本変異体をある温度で保存したときの残存活性が半分となる時間(hr)である。本変異体の活性半減期は、例えば、70℃を保存温度として、評価することができる。
【0020】
より具体的な保存条件及び蛍光強度の測定条件は、後述する実施例に開示される方法を採用することができる。なお、保存温度としては、70℃に限定するものではなく、例えば、40℃以上80℃以下の範囲において所定の温度を設定することができる。例えば、50℃における残存活性であってもよいし、55℃における残存活性であってもよいし、60℃における残存活性であってもよいし、75℃における残存活性であってもよい。
【0021】
親タンパク質は、70℃における半減期が約20時間であるが、本変異体は、例えば、70℃における半減期は、例えば、親タンパク質の1.1倍以上であり、また例えば、1.5倍以上であり、また例えば、2倍以上であり、また例えば、5倍以上であり、また例えば、10倍以上である。あるいは、本変異体の70℃における半減期は、30時間以上であり、また例えば、同35時間以上であり、また例えば40時間以上であり、また例えば45時間以上であり、また例えば50時間以上であり、また例えば60時間以上であり、また例えば70時間以上であり、また例えば80時間以上であり、また例えば90時間以上であり、また例えば100時間以上である。さらにまた、例えば、120時間以上であり、また例えば、140時間以上であり、また例えば、160時間以上であり、また例えば、180時間以上であり、また例えば200時間以上であり、また例えば、220時間以上であり、また例えば、240時間以上である。
【0022】
Δ耐熱温度が3℃以上の本変異体は、同時に、70℃における活性半減期も、30時間以上、より好ましくは35時間以上、より好ましくは40時間以上、さらに好ましくは45時間以上、なお好ましくは50時間以上である。また、Δ耐熱温度が5℃以上、好ましくは同7℃以上、より好ましくは同8℃以上の本変異体は、同時に、70℃における活性半減期が60時間以上、より好ましくは70時間以上、さらに好ましくは80時間以上、なお好ましくは90時間、一層好ましくは100時間以上であることが多い。
【0023】
本変異体は、蛍光タンパク質であるが、その蛍光特性は、親GFPと異なっていてもよいし、また、親タンパク質とも異なっていてもよい。したがって、緑色であるほか、赤色、黄色及び紫色等、その蛍光特性を限定するものではない。各種の蛍光を発する変異体は親GFPに関するUniprotKB P42212においても多種類開示されている。
【0024】
(変異)
本変異体が有する変異の位置は、親タンパク質を基準として規定される。これらの変異位置は、親タンパク質に対して、種々の改変を試みることで、高温耐久性に貢献する変異を特定したことによって得られたからである。一方、本明細書において開示する変異は、親タンパク質のアミノ酸配列にのみ適用されるものではなく、他のGFPにも適用されるものである。すなわち、いわゆるGFPファミリーに属するタンパク質に適用することができる。GFPファミリーは、例えば、親タンパク質とのアミノ酸配列の同一性が30%以上、BLASTのE-valueが0.0001未満、PSI-BLASTのE-valueが0.0001未満であるほか、立体構造等によって規定される。GFPファミリーに属するタンパク質は、類似のアミノ酸配列と立体構造のほか、共通する機能を備えている。また、GFPファミリーには、種々の人工的変異体、例えば、異なる蛍光を発する変異体、37℃でより強度が高く発光時間が長い変異体及び天然変異体も包含される。例えば、親タンパク質に関するUniprotKB ID P42212(https://www.uniprot.org/uniprot/P42212)には、各種変異体や同一ファミリーに属するタンパク質が開示されている。これらのことから、当業者であれば、少なくともGFPファミリーに属するタンパク質に対して本明細書に開示される変異を適用することで種々の態様の本変異体を得ることができることが理解される。
【0025】
以上のことから、本変異体は、親タンパク質に対して人為的に変異を導入したもののほか、本明細書に開示される変異を本来的に備えている天然由来のGFP変異体も包含される。
【0026】
本変異体が有しうる変異位置は、配列番号1で表されるアミノ酸配列に対してアライメントしたとき、その13位、25位、30位、39位、43位、44位、46位、65位、72位、101位、105位、116位、128位、142位、145位、147位、163位、171位、172位、184位、190位、194位、198位、205位、206位、222位及び224位からなる群から選択される1個又は2個以上の位置に相当する位置である。本変異体におけるかかる変異位置は、配列番号1で表されるアミノ酸配列と本変異体のアミノ酸配列(すなわち、変異部位を有するGFPである。)とを、BLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)やPfam(http://pfam.xfam.org/)などの公知のアミノ酸配列アラインメントプログラムを用いて、例えば、デフォルトのパラメータでアラインメントさせることにより特定することができる。
【0027】
アライメントの例を
図6及び
図7に示す。
図6は、Uniprot KBのID P42212のFamily & Domainsの項目に記載のGFPファミリーを用い、14配列を選択し、Uniprot KBのClustal omegaによるアライメントを実行した結果である。また、
図7は、Uniprot KBのSimilar Proteinsの項目に記載の90%以上のアミノ酸配列同一性のある18配列を用い、同様にアライメントを行った結果である。なお、アライメントには、一定範囲の同一性等に基づいてペプチド(アミノ酸配列)を選択してアライメントすることができる。例えば、50%同一性の31配列を用いることもできる。
【0028】
これらの変異位置は、いずれも、単一の変異位置における変異でΔ耐熱温度(℃)が、プラスになりうることが確認されている位置である。これらの変異位置は、配列番号1で表されるアミノ酸配列における元のアミノ酸残基以外へのアミノ酸残基の置換により、Δ耐熱温度の向上が期待できる。以下に、各変異位置においてΔ耐熱温度の上昇が確認できた置換アミノ酸残基を示す。この置換アミノ酸残基は、親タンパク質における以下の位置において本来的なアミノ酸残基以外の残りの19種類のアミノ酸に置換した、単一変異体の飽和遺伝子ライブラリの評価に基づいて得られている。
【0029】
変異位置における置換アミノ酸残基中、下線付きで表されるアミノ酸残基は、Δ耐熱温度が2℃以上(ただし3℃未満)である置換変異であり、囲み枠で表されるアミノ酸残基は、Δ耐熱温度が3℃以上(4℃以上及び5℃以上も含む。)である置換変異である。
【0030】
【0031】
Δ耐熱温度が約1℃以上であるという観点から、25位(例えば、M)、44位(例えば、A)、65位(例えば、A)、101位(例えば、Q、E、H、V、A)、105位(例えば、M、Y、I、V)、116位(例えば、A)、128位(例えば、F,E)、142位(例えば、M、V)、145位(例えば、F、H)、163位(例えば、S、P、C、T)、171位(例えば、V)、172位(例えば、I、V、M、Y、L、K)、184位(例えば、I、F)、190位(例えば、K、T、N)、198位(例えば、P、T)、205位(例えば、V、T)、222位(例えば、Q)、224位(例えば、Q、T、A、M、S)は有用な変異位置及び例示的置換変異である。
【0032】
また、Δ耐熱温度が約1.5℃以上である変異は、44位(例えば、A)、65位(例えば、A)、101位(例えば、Q、E)、116位(例えば、A)、142位(例えば、M)、145位(例えば、F、H)、163位(例えば、S、P、C)、171位(例えば、V)、172位(例えば、I、V、M、Y)、198位(例えば、P)、205位(例えば、V、T)、222位(例えば、Q)、224位(例えば、Q、T、A、M、S)が有用な変異位置及び例示的置換変異である。
【0033】
また、Δ耐熱温度が約2℃以上である変異は、65位(例えば、A)、101位(例えば、Q、E)、145位(例えば、F)、163位(例えば、S、P、C)、171位(例えば、V)、172位(例えば、I、V、M)、198位(例えば、P)、205位(例えば、V、T)、222位(例えば、Q)、224位(例えば、Q、T、A、M、S)が有用な変異位置及び例示的置換変異である。
【0034】
また、Δ耐熱温度が約3℃以上である変異は、145位(例えば、F)、163位(例えば、S、P、C)、222位(例えば、Q)、224位(例えば、Q、T、A)が有用な変異位置及び例示的置換変異である。
【0035】
また、Δ耐熱温度が約4℃以上である変異は、163位(例えば、S)、222位(例えば、Q)、224位(例えば、Q)が有用な変異位置及び例示的置換変異である。
【0036】
また、有効なΔ耐熱温度を得るのに貢献した変異が複数個存在しているという観点から、好ましい変異位置としては、25位、145位、171位、205位、206位(以上、Δ耐熱温度に貢献する変異が2個得られている変異位置である。)、30位、39位、198位(以上、同3個得られている変異位置である。)、43位、128位、142位、163位、190位(以上、同4個得られている変異位置である。)、184位、224位(以上、同5個得られている変異位置である。)、105位(同8個得られている変異位置である。)、101位、172位(同11個得られている変異位置である。)が挙げられる。
【0037】
特に限定するものではないが、これらのなかでも、Δ耐熱温度の上昇及び例えば70℃での活性半減期の増大に貢献する他の変異位置は、222位、224位である。これらは、単一変異で高いΔ耐熱温度を実現することができる。222位は、約6℃のΔ耐熱温度であり、224位は、3℃以上のΔ耐熱温度を得られやすい。変異としては、222Q、224T、224Aである。
【0038】
また、同様の観点から、変異位置の他の1つとして、163位が挙げられる。3℃以上のΔ耐熱温度を得られやすいからである。変異としては、163S、163P、163Cであある。
【0039】
また、同様の観点から、変異位置の他の1つとして、145位が挙げられる。Δ耐熱温度が3℃を超える場合があるからである。変異としては、145Fが挙げられる。
【0040】
また、同様の観点から、変異位置の他の2つとして、101位、172位が挙げられる。これらの変異位置は、多数個の変異がΔ耐熱温度に貢献し、相加的に用いるのに好適であると考えられる。具体的には、101Q、172I、172Vが挙げられる。
【0041】
本変異体は、こうした変異位置における変異を1個又は2個以上備えることができる。本変異体は、2個以上の変異の組合せ(相加)によって、それぞれの変異に基づくΔ耐熱温度を相加した又は相加した以上のΔ耐熱温度(℃)を得ることができる。本発明者が見出した変異は、それぞれ単独で少なくともΔ耐熱温度(℃)に貢献しているからである。
【0042】
2個以上の変異を組み合わせる場合、3個以上であってもよいし、4個であってもよいし、5個以上であってもよい。典型的には、3個以上8個以下程度である。特に限定するものではないが、3個以上の変異を組み合わせることで活性半減期増大する傾向が大きくなる。一方、変異個数が多いと、活性半減期が変化しなくなる場合があるからである。好ましくは、7個以下であり、より好ましくは6個以下である。典型的には、3個以上7個以下、また、3個以上5個以下程度が、Δ耐熱温度の向上と70℃等における半減期の増大の観点から好適である。
【0043】
本変異体が有する2個以上の変異の組合せは、既述の変異から選択して適宜決定することができるが、なかでも、既述のΔ耐熱温度及び活性半減期の観点から選択することができる。また例えば、本変異体は、以下に開示される変異群から選択される2個以上を組み合わせることができる。以下に、本変異体において相加するのに適した変異位置及び個別変異を示す。以下の表に記載の個別変異を2個以上4個以下組み合わせることができる。
【0044】
【0045】
本変異体が有する親タンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)との同一性は、特に限定するものではないが、例えば、25%以上であり、また例えば、30%以上であり、また例えば、40%以上であり、また例えば、50%以上であり、また例えば、60%以上であり、また例えば、70%以上であり、また例えば、80%以上であり、また例えば、90%以上であり、また例えば、95%以上であり、また例えば、98%以上であり、また例えば99%以上であり、また例えば99.5%以上である。
【0046】
また、親タンパク質のアミノ酸配列との類似性は、例えば、70%以上であり、また例えば、80%以上であり、また例えば、90%以上であり、また例えば、95%以上であり、また例えば、97%以上であり、また例えば、98%以上であり、また例えば、99%以上である。
【0047】
本明細書において同一性又は類似性とは、当該技術分野で知られているとおり、配列を比較することにより決定される、2以上のタンパク質あるいは2以上のポリヌクレオチドの間の関係である。当該技術で“同一性”とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きのそのような配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の配列不変性の程度を意味する。また、類似性とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きの部分的な配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の相関性の程度を意味する。より具体的には、配列の同一性と保存性(配列中の特定アミノ酸又は配列における物理化学特性を維持する置換)によって決定される。なお、類似性は、後述するBLASTの配列相同性検索結果においてSimilarity と称される。同一性及び類似性を決定する方法は、対比する配列間で最も長くアラインメントするように設計される方法であることが好ましい。同一性及び類似性を決定するための方法は、公衆に利用可能なプログラムとして提供されている。例えば、AltschulらによるBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)プログラム(例えば、Altschul SF, Gish W, Miller W, Myers EW, Lipman DJ., J. Mol. Biol., 215: p403-410(1990), Altschul SF, Madden TL, Schaffer AA, Zhang J, Miller W, Lipman DJ., Nucleic Acids Res. 25: p3389-3402(1997))やUniProtKBのアライメント機能を利用し決定することができる。BLASTやUniProtKBのようなソフトウェアを用いる場合の条件は、特に限定するものではないが、デフォルト値を用いるのが好ましい。
【0048】
本変異体は、既述した特定変異位置において変異を有することができるが、当該変異による効果を損なわない限り、当該特定変異位置以外において置換、欠失等の変異を有していてもよい。例えば、こうした追加の変異は、こうした変異として、アミノ酸置換の例としては、保存的置換が好ましく、具体的には以下のカッコ内のグループ内での置換が挙げられる。例えば、(グリシン、アラニン)(バリン、イソロイシン、ロイシン)(アスパラギン酸、グルタミン酸)(アスパラギン、グルタミン)(セリン、トレオニン)(リジン、アルギニン)(フェニルアラニン、チロシン)である。
【0049】
当業者は、本明細書に開示される本変異体の変異位置及び好適な置換例に基づいて、種々の相加体を作製、その評価を行い、意図した高温耐久性を有する本変異体を得ることができる。
【0050】
また、当業者は、本明細書に開示される本変異体のN末端やC末端に対して、例えば、種々のタンパク質を融合することができる。
【0051】
本変異体は、例えば、親タンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA(配列番号2)を、慣用の突然変異誘発法、部位特異的変異法、エラープローンPCRを用いた分子進化的手法等によって改変することによって改変DNAを取得し、当該改変DNA等に基づいて取得することができる。改変DNAを取得する手法としては、Kunkel法又は Gapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法が挙げられ、例えば、商業的に入手可能な種々の部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キットを用いて変異が導入される。
【0052】
例えば、本変異体は、こうして得られた改変DNAを含むDNA構築物によって真核細胞等の適当な宿主を形質転換し、この形質転換細胞を、当業者に公知の通常の方法に従って培養し、当該培養細胞または培地から本変異体を回収することによって得ることができる。培養細胞から、当該細胞の破砕後、遠心分離等の分離操作により可溶性画分を得、この画分からポリペプチドを回収することができる。例えば、本変異体は、慣用の精製技術を組み合わせて単離することができる。そのような技術には、硫安分画、有機溶媒処理、遠心分離、限外濾過、各種クロマトグラフィー(例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー等)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、電気泳動等が包含される。
【0053】
そのほか、当業者であれば、Molecular Cloning(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning :a Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 10 Skyline Drive Plainview, NY(1989))等を参照することにより、例えば、配列番号2等の公知配列に基づいて、各種態様のDNAを取得し、当該DNAを利用して本変位体を得ることができる。
【0054】
本変異体は、従来のGFP等の用途のほか、優れた高温耐久性に基づいて種々の用途に用いることができる。本変異体は、用途に応じて、精製された又は未精製のタンパク質として用いられるほか、後述するように、本変異体を、細胞内発現する、表層呈示する又は分泌発現する形質転換体などの微生物の形態を採ることもできる。
【0055】
(ポリヌクレオチド)
本明細書に開示されるポリヌクレオチド(以下、単に、本ポリヌクレオチドともいう。)は、本変異体のアミノ酸配列をコードすることができる。かかるポリヌクレオチドは、種々の形態を採ることができるが、当該アミノ酸配列のコード領域は、DNA又はRNAであり、典型的にはDNAである。
【0056】
本ポリヌクレオチドは、DNA断片又はRNA断片のほか、プラスミド、ベクター等の形質転換等に適した公知の形態を採ることができる。
【0057】
本ポリヌクレオチドは、本変異体を得るためのDNAとして人工的に合成することにより得ることができるほか、既述のとおり、既述の変異体取得方法に基づいてDNAとして取得することができる。
【0058】
(発現ベクター)
本明細書に開示される発現ベクター(以下、本ベクターともいう。)は、本ポリヌクレオチドを備えることができる。本ベクターは、宿主細胞において本変異体を発現させることを目的とするものである。発現ベクターは、形質転換しようとする細胞の種類や目的等に応じて種々の形態を採ることができる。本ベクターの一例としては、例えば、本変異体を酵母、大腸菌、カビなどの微生物のほか、ヒトなどの哺乳類を含む各種動物細胞で発現可能なベクターであってもよい。また、本変異体の発現形態も特に限定するものではなく、用途に応じて適宜調製され、細胞内発現のほか、細胞外分泌発現、表層発現であってもよい。当業者であれば、このようなベクターを本願出願時の周知技術に基づいて容易に構築することができる。
【0059】
こうした本変異体を発現するためのベクターの取得方法やその構成要素については、GFPを用いる分野やその他遺伝子工学的分野における当業者に周知である。例えば、T.Maniatis,J. Sambrookらの実験書(Molecular Cloning, A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、1982,1989、2001)等を適宜参照することにより当業者であれば実施することができる。
【0060】
(形質転換体)
本明細書に開示される形質転換体(以下、単に、本形質転換体ともいう。)は、本変異体を発現することができる。本形質転換体は、本変異体を発現することで、従来にない環境下でのイメージング、発現モニタリングなどが可能となる。
【0061】
本形質転換体は、既述の本ベクターを細胞などに導入することにより得ることができる。細胞への導入方法としては、従来公知の各種方法、例えば、リン酸カルシウム法、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法または他の方法が挙げられる。このような手法は、上記した実験書等に記載される。ベクターを導入した細胞、組織、器官及び生物個体等につき、マーカー遺伝子を用いた選抜及び蛍光活性による選抜により本形質転換体を得ることができる。
【0062】
(本変異体の使用方法)
本明細書には、本変異体を細胞内又は細胞表面で発現させて、細胞やタンパク質のイメージング又は遺伝子の発現モニタリングを実施する観察工程を備える、方法(以下、本使用方法ともいう。)が開示される。本方法によれば、本変異体を用いることで、従来より高温環境下又は従来と同程度の温度環境下であっても長期間に亘り、細胞やタンパク質のイメージング、遺伝子の発現モニタリングが可能となる。
【0063】
本使用方法は、既に説明した、ベクターを用いて、形質転換細胞を取得し、その上で、本変異体が発現可能な状態とすることで、種々の観察条件下に細胞を曝すなどすることで上記した観察工程を実施できる。本変異体を利用し蛍光を検出し観察すること自体は、当業者において周知である。
【0064】
(スクリーニング方法)
本明細書に開示される本変異体のスクリーニング方法(以下、本スクリーニング方法ともいう。)は、公知の蛍光タンパク質において1個又は2個以上の位置に相当する位置に変異を有する、蛍光タンパク質変異体候補を準備する工程と、
前記蛍光タンパク質変異候補について、
(a)55℃、60及び65℃にて2時間保存したとき、配列番号1で表されるタンパク質を25℃で2時間保存したときの蛍光強度(以下、基準蛍光強度ともいう。)の50%の蛍光強度となるときの当該所定温度、及び
(b)70℃で保存したときの蛍光強度の半減期
の少なくともいずれかについて評価する工程、
を備えることができる。
【0065】
本スクリーニング方法によれば、従来とは異なる温度特性、より具体的には、高温耐久性を有する蛍光タンパク質変異体を容易に取得することができる。
【0066】
蛍光タンパク質変異体候補の準備工程は、例えば、以下のようにして取得することができる。すなわち、公知の蛍光タンパク質に、アラニン置換や元タンパク質以外のアミノ酸残基に置換するような変異を部分的に又は網羅的に導入して変異体候補を取得する。公知のタンパク質としては、特に限定するものではないが、親タンパク質(GFP)が属するファミリーに包含されるタンパク質等が挙げられる。また、変異位置は、既に説明した、親タンパク質において種々の態様の有意義な変異位置であってもよいし、それ以外であってもよい。また、変異態様は、既に説明した有意義な置換変異ほか、その他のアミノ酸残基への置換変異であってもよいし、その欠失などの変異であってもよいし、単独変異であってもよいし、2個以上の変異であってもよい。変異体を取得する方法自体は既に説明したとおりである。さらに、上記した有用変異位置のほか、公知の有用変異又は追加若しくは未知の変異を備えた変異体候補を準備してもよい。
【0067】
次いで、蛍光タンパク質変異体候補の評価工程を実施する。評価工程における評価手法自体は、本変異体の特性として既に説明した手法を適用することができる。このようにして、変異体候補の耐熱温度及び/又は半減期についての評価を実施することで高温耐久性に優れる蛍光タンパク質変異体を効率的に取得することができる。
【実施例】
【0068】
以下、本明細書の開示をより具体的に説明するために具体例としての実施例を記載する。以下の実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであって、その範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0069】
(各種変異体の構築と合成)
緑色蛍光タンパク(Green Fluorescent Protein:以下GFP)は、オワンクラゲ(Aequorea victoria)由来UniProtKB登録番号P42212(配列番号1)をコードするDNAとしては、当該GFPの塩基配列(配列番号2)を、大腸菌コドンに最適化したもの用いた。GFPのアミノ酸237残基のうち野生型の配列がアラニンである8残基を除いた229残基を、2ステップPCRによる変異導入法を用いて、それぞれアラニンに置換した変異遺伝子ライブラリを構築した。1st PCRでは、野生型のGFP遺伝子の5’末端に付加したT7プロモーターとrbsのフォワードプライマー(T7p)と変異導入部位のリバースプライマー、変異導入部位のフォワードプライマーとGFP遺伝子の3’末端に付加したT7ターミネータ(転写終了領域)のリバースプライマー(T7t)を用いて、2断片を増幅した。2nd PCRでは、T7pとT7tプライマーを用いて全長配列を増幅した。
【0070】
天然型及び各変異体DNAの2nd PCR産物を鋳型にして、大腸菌由来無細胞タンパク質合成系によりGFP変異体タンパク質を合成し、変異体タンパク質ライブラリを96穴PCRプレート上に構築した。無細胞タンパク質合成は、PCR産物2.5μlに、転写翻訳反応液(S30大腸菌抽出液、56.4mM Tris-acetate,pH7.4、1.2mM ATP、1mM GTP、1mM CTP、1mM UTP、40mMクレアチンフォスフェート、0.7mM 20アミノ酸ミックス、4.1%(w/w)ポリエチレングリコール6000、35μg/ml フォリン酸、0.2mg/ml大腸菌tRNA、36mM酢酸アンモニウム、0.15mg/mlクレアチンキナーゼ、10mM酢酸マグネシウム、100mM酢酸カリウム、10μg/mlリファンピシン、7.7μg/ml T7RNAポリメラーゼ)12.5μlを添加し、26℃で3時間保温して行った。
【0071】
(耐熱性評価)
作製した無細胞タンパク質合成産物1μlを、10mMTris-HCl buffer(pH8.0)99μlに加え、25℃、60℃及び65℃でそれぞれ2時間保温した。その後、テカン社製プレートリーダーで、Ex/Em=485(25)/535(25)nmの条件で蛍光強度を測定した。各変異体において、25℃で2時間保温後の蛍光強度の1/2となる温度を、耐熱温度と定義した(
図1)。各変異体の耐熱温度が60~65℃の間に含まれない場合は、その前後の温度で2時間保温後の蛍光強度を測定し、耐熱温度を算出した。耐熱性は、各変異体の耐熱温度と野生型の耐熱温度の差(Δ耐熱温度)をとることで評価した。なお、親株の耐熱温度は62.8℃であった。
【実施例2】
【0072】
(アラニン置換ライブラリ及び飽和変異ライブラリのシングル変異体の耐熱性)
実施例1における耐熱性評価結果の上位となった変異部位を中心に次の変異導入候補として60カ所を選出した。変異導入候補のアミノ酸残基を、野生型のアミノ酸とアラニンを除いた残りの18種類のアミノ酸に置換した飽和変異遺伝子ライブラリを構築した。すなわち、実施例1と同様に2ステップPCRにより変異導入したDNAを作製し、無細胞合成系により変異体タンパク質を合成し、実施例1と同様にして耐熱性を評価した。
【0073】
アラニンに置換したライブラリ及び60カ所の飽和変異ライブラリの912変異体の耐熱性評価結果を
図2に示し、そのうちのΔ耐熱温度が0.3℃以上である88カ所のシングル変異体を
図3に示し、各変異部位におけるΔ耐熱温度が0.3℃以上の変異体の数を
図4に示す。なお、
図3においては、横軸に変異部位と置換後のアミノ酸残基とを示すことで変異体を特定している。変異部位は、配列番号1で表されるアミノ酸配列とアライメントしたときに対応するアミノ酸配列上の位置として示す。
【0074】
図2に示すように、耐熱温度が向上する変異体は、全変異体のうちわずかであった。また、
図3に示すように、Δ耐熱温度が1.0℃以上ある変異体は39個であり、同2.0℃以上ある変異体は21個であり、同3.0℃以上ある変異体は8個であった。なお、13位変異体及び116位変異体はいずれもアラニン置換ライブラリの変異体である。それ以外の変異体は、飽和変異ライブラリ由来の変異体である。
【0075】
図3及び
図4に示すように、25位、30位、39位、43位、101位、105位、128位、142位、145位、163位、171位、172位、184位、190位、198位、205位、206位及び224位については、2種類以上の置換変異で効果が出ており、これらの部位は、耐熱性に大きく寄与する部位であると考えられた。
【0076】
なかでも、101位と172位においては、それぞれ、各変異部位において可能性あるアミノ酸置換変異のうち半数を超える11種類のアミノ酸置換変異体で効果(Δ耐熱温度が0.3℃以上)があった。さらに、163位、222位及び224位では、Δ耐熱温度が2.0℃以上ある変異体がそれぞれ4個中3個、1個中1個、及び5個中5個であったことから、耐熱性に大きく寄与する部位であると考えられた。
【実施例3】
【0077】
(変異体の長期安定性評価)
本実施例では、親タンパク質及び変異体の70℃で0~180分間保温後の残存活性を評価して、70℃における活性(蛍光強度)半減期を評価した。アラニン置換ライブラリ及び飽和変異ライブラリに加えて、実施例2の結果から選択した変異を組み合わせて相加した相加変異体4種を、実施例1に準じて2ステップPCRにて合成し、これらの変異体について、残存活性(70℃の活性半減期)を評価した。野生型に対して高い結果を示した変異体についての結果を
図5に示す。
【0078】
図5に示すように、親タンパク質の70℃半減期が21分であり、最も半減期が長いシングル変異体は、E222Q変異体であった(107.9分、対親タンパク質5.1倍)。E222Qは、Δ耐熱温度が約6℃であったまた、Δ耐熱温度が3.2℃及び4.5℃であるY145F変異体及びV224Q変異体は、それぞれ、活性半減期が38.5分(対親タンパク質1.8倍)及び39.1分(対親タンパク質1.9倍)であった。これらのことから、Δ耐熱温度が大きいと、それに応じて半減期も延長される傾向があることがわかった。すなわち、Δ耐熱温度は、耐熱性の良好な指標であることがわかった。
【0079】
また、Δ耐熱温度の高い変異体を選択し組みあわせて作製した相加変異体についてそれぞれの単独のΔ耐熱温度を相加したΔ耐熱温度の総和が大きいと、活性半減期も増大することがわかった。この観点からも、Δ耐熱温度は、耐熱性の良好な指標であることがわかった。
【0080】
また、相加変異体のうちV163S/V224A/Y145F及びV163S/V224A/K101Qの相加変異体は、野生型に対してそれぞれ約6倍及び約10倍の活性半減期を有していた。
【0081】
以上のことから、これらの実施例で特定された変異部位及び置換変異は、単独変異体として及び2種以上の変異を組み合わせた相加変異体は、いずれも、高温での活性半減期の延長に有用であることがわかった。
【実施例4】
【0082】
(種々のGFPのアライメント)
UniProtKBに登録が有るUniprot KB ID P42212のFamily & Domainsの項目に記載のGFPファミリーの14種のアミノ酸配列を、UniProtKBのアライメント機能Clustal omegaを用いてアライメントした結果を
図6A及び
図6Bに示す。また、
図7A~
図7Dに、Uniprot KBのSimilar Proteinsの項目に記載の90%以上のアミノ酸配列同一性のある18配列を用い、Uniprot KB ID P42212とともに、先と同様にアライメントを行った結果を示す。
【0083】
図6A及び同6Bに示すように、アライメント結果から算出した相同性と類似性(GAP未考慮)は、それぞれ24~45%及び71~100%であった。また、本明細書において特定する変異部位をそれぞれ参照すると、これらのファミリー内のタンパク質について、性質の類似したアミノ酸残基が配置されていることがわかった。特に、K101(QE)、Y145(F)、V163(SPC)、E172(IVMY)、E222(Q)、V224(QTAM)においてこうした傾向が強いか、及び/又は、置換アミノ酸残基もまた類似の特性を呈する傾向があった。また、
図7A~
図7Dからも同様の傾向が観察された。以上のことから、本明細書において特定する変異部位は、これらのGFPファミリーにおいて共通して有用な変異部位であることがわかった。
【配列表】