(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】蓄電デバイス及び蓄電デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 11/86 20130101AFI20240220BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20240220BHJP
H01G 11/54 20130101ALI20240220BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20240220BHJP
H01G 11/84 20130101ALI20240220BHJP
【FI】
H01G11/86
H01G11/06
H01G11/54
H01G11/52
H01G11/84
(21)【出願番号】P 2019100971
(22)【出願日】2019-05-30
【審査請求日】2022-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2019032560
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田上 智也
(72)【発明者】
【氏名】水間 紘太郎
(72)【発明者】
【氏名】謝 剛
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-130734(JP,A)
【文献】特開2008-243888(JP,A)
【文献】特表2009-522744(JP,A)
【文献】特開2008-311363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/86
H01G 11/06
H01G 11/54
H01G 11/52
H01G 11/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液と、
前記電解液が含浸され、正極活物質を含み巻回された正極及び負極活物質を含み巻回された負極を有する巻回電極体と、
前記巻回電極体の巻回端面から導出され、前記正極に電気的に接続された正極端子及び前記正極端子の一部を被覆する絶縁材とを有する絶縁材付き正極端子と、
前記巻回端面から導出され前記負極に電気的に接続された負極端子と、
前記電解液を保持可能な絶縁性の電解液保持材と、を備え、
前記負極活物質には、前記巻回電極体の巻回端面から導出され前記負極に電気的に接続された負極端子に接続され、プレドープ用のリチウムを含むリチウム極から供給されたリチウムイオンが吸蔵され、
前記リチウム極は、前記巻回電極体の前記巻回端面に対向配置されるとともに、前記リチウム極を貫通し前記絶縁材付き正極端子が挿通された正極端子貫通孔と、前記リチウム極を貫通し前記負極端子が挿通された負極端子貫通孔と、を有し、
前記正極端子貫通孔の貫通孔形成面と前記正極端子との間に前記絶縁材が介在することにより、前記正極端子と前記リチウム極とが絶縁され、
前記負極端子貫通孔の貫通孔形成面に前記負極端子が接触することにより、前記リチウム極が前記負極に電気的に直接接続され、
前記電解液保持材は、前記巻回端面と前記リチウム極との間に介在され、前記巻回端面に接触する部分と前記リチウム極の前記リチウムに接触する部分とを有する、
蓄電デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電デバイスにおいて、
前記正極端子及び前記負極端子は、それぞれ、両端が先細る丸棒部と、前記丸棒部の一方端から延在する端子部と、前記丸棒部の他方端から延在する平板状の平板部とを有し、
前記正極端子の平板部が前記正極に接合され、
前記負極端子の平板部が前記負極に接合される、
蓄電デバイス。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の蓄電デバイスにおいて、
前記リチウム極は、
前記リチウムを含み、前記巻回電極体の前記巻回端面に対向するリチウム金属と、
前記リチウム金属に形成されたリチウム極集電体とから構成された、
蓄電デバイス。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の蓄電デバイスにおいて、
前記電解液及び前記巻回電極体が収容された電池缶を更に備える、
蓄電デバイス。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の蓄電デバイスにおいて、
前記巻回電極体は、前記正極及び前記負極の間に介在され、前記正極及び前記負極と共に巻回されたセパレータを含む、
蓄電デバイス。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の蓄電デバイスにおいて、
前記正極は、前記正極活物質が表面に設けられた正極集電体を有し、
前記負極は、前記負極活物質が表面に設けられた負極集電体を有し、
前記正極集電体及び前記負極集電体の少なくも一つは、無孔構造である、
蓄電デバイス。
【請求項7】
正極活物質を含む正極及び負極活物質を含む負極を、セパレータを介して積層して巻回した巻回電極体の巻回端面から導出され、前記負極に電気的に接続された負極端子に、プレドープ用のリチウムを含むリチウム極を接続することと、
前記リチウム極を前記巻回端面と対向するように配置することと、
前記負極端子に接続された前記リチウム極が前記巻回電極体の巻回端面と対向配置された状態で、前記巻回電極体に電解液を含浸させることにより、前記リチウム極から前記電解液に溶出させたリチウムイオンを前記負極活物質に吸蔵させるリチウムのプレドープを行うことと、
前記巻回電極体に前記電解液が含浸された状態で、前記
正極に電気的に接続された正極端子及び前記負極端子に電圧を印加し、前記印加する電圧の印加状態を変えることと、
を含む、
蓄電デバイスの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の蓄電デバイスの製造方法において、
前記電解液及び前記負極端子に前記リチウム極を接続した前記巻回電極体を電池缶に収容すること、
を更に含み、
前記電池缶及び前記電解液が前記電池缶に収容された状態で、前記リチウムのプレドープが行われる、
蓄電デバイスの製造方法。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の蓄電デバイスの製造方法において、
前記電解液を保持可能な絶縁性の電解液保持材を、前記巻回端面に接触する部分と前記リチウム極の前記リチウムに接触する部分とを有するように、前記巻回端面と前記リチウム極との間に介在させること、
を更に含み、
前記電解液保持材を前記巻回端面と前記リチウム極との間に介在させた状態で、前記巻回電極体に加えて前記電解液保持材に前記電解液を含浸させることにより、前記リチウムのプレドープを行う、
蓄電デバイスの製造方法。
【請求項10】
請求項7又は請求項8に記載の蓄電デバイスの製造方法において、
前記セパレータの一部分が前記巻回端面に含まれる前記正極及び前記負極の端面部分から延出するように、前記巻回電極体を形成することと、
前記巻回電極体に前記電解液を含浸させる前に、前記端面部分から延出した前記セパレータの延出部分が、前記端面部分を覆うように曲げられ、前記巻回端面と前記リチウム極との間に介在され、前記リチウム極の前記リチウムに接触する部分を有する、ようにすることと、
を更に含む、
蓄電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス及び蓄電デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電デバイスとして、リチウムイオンキャパシタが注目されている。リチウムイオンキャパシタは、正極側にて電気二重層の形成による物理的作用により充放電し、負極側にてリチウムの化学反応により充放電する。リチウムイオンキャパシタでは、エネルギー密度を向上するために、負極側の負極活物質(例えば、炭素材料)にリチウムイオンが予め吸蔵(プレドープ)されるリチウムのプレドープが行われる。リチウムのプレドープを均一且つ迅速に行うことについて様々な提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1は、リチウムのプレドープを行う工程を含む電気化学キャパシタの製造方法を開示する。この電気化学キャパシタの製造方法は、金属製の円筒缶の内側の底面にプレドープ用のリチウム極を配設し、リチウム極の上に巻回電極体を載置した状態で、円筒缶内に電解液をいれ、巻回電極体を電解液に浸漬する。そして、電解液に浸漬された巻回電極体の負極から導出される負極リードと円筒缶とを、冶具によって導通する(電気的に接続する)ことによって短絡させる。これにより、リチウムのプレドープが行われる。
【0004】
例えば、特許文献2は、リチウムのプレドープを行う巻回型リチウムイオンキャパシタの製造方法を開示する。この巻回型リチウムイオンキャパシタの製造方法は、多孔材からなる集電体を含む電極等を巻回した巻回電極体の中心部及び最外周部に負極と短絡させたプレドープ用のリチウム極を配設し、巻回電極体を電解液に浸漬する。これにより、リチウムのプレドープが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-243888号公報
【文献】特開2007-67105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術のように、電解液に浸漬された巻回電極体の負極から導出される負極リードと円筒缶とを、電気的に接続することによって、リチウムのプレドープが行われると、電解液と接触する円筒缶の内側にもリチウムイオンが移動してしまう。従って、その分、負極活物質へ吸蔵されるリチウムイオンの量が減少するので、リチウムのプレドープを効率よく行うことができない可能性がある。
【0007】
特許文献2の技術では、巻回電極体の最外周に存在するリチウムイオンが巻回電極体の内部に拡散するためには、リチウムイオンが巻回電極体の電極積層方向に移動する必要があるので、リチウムイオンが電極の多孔部を利用する(通る)ことが必要である。このため、特許文献2の技術は、電極に無孔箔を使用した場合や中心部のリチウム極を省略した場合等に、リチウムのプレドープを効率よく行うことができない可能性があり得る。
【0008】
本発明は上述した課題に対処するためになされた。即ち、本発明の目的の一つは、巻回電極体に含まれる負極活物質にリチウムをプレドープするときに、リチウムのプレドープを効率よく行うことができる蓄電デバイス(以下、「本発明蓄電デバイス」と称呼される場合がある。)及び蓄電デバイスの製造方法(以下、「本発明蓄電デバイスの製造方法」と称呼される場合がある。)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、本発明蓄電デバイスは、電解液と、前記電解液が含浸され、正極活物質を含み巻回された正極及び負極活物質を含み巻回された負極を有する巻回電極体と、を備える。本発明蓄電デバイスの前記負極活物質には、前記巻回電極体の巻回端面から導出され前記負極に電気的に接続された負極端子に接続され、プレドープ用のリチウムを含むリチウム極から供給されたリチウムイオンが吸蔵される。
【0010】
本発明蓄電デバイスの一態様において、
前記正極に電気的に接続された正極端子と、前記正極端子の一部を被覆する絶縁材とを有する絶縁材付き正極端子を更に有し、前記リチウム極は、前記リチウム極を貫通するように形成され、前記絶縁材付き正極端子が挿通された正極端子貫通孔と、前記リチウム極を貫通するように形成され、前記負極端子が挿通された負極端子貫通孔と、を有し、前記正極端子貫通孔の貫通孔形成面と前記正極端子との間に前記絶縁材が介在することにより、前記正極端子と前記リチウム極とが絶縁され、前記負極端子貫通孔の貫通孔形成面に前記負極端子が接触することにより、前記リチウム極が前記負極に電気的に接続される。
【0011】
本発明蓄電デバイスの一態様において、
前記リチウム極は、
前記リチウムを含み、前記巻回電極体の前記巻回端面に対向するリチウム金属と、前記リチウム金属に形成されたリチウム極集電体とから構成される。
【0012】
本発明蓄電デバイスの一態様において、
前記電解液及び前記巻回電極体が収容された電池缶を更に備える。
【0013】
本発明蓄電デバイスの一態様において、
前記巻回電極体は、前記正極及び前記負極の間に介在され、前記正極及び前記負極と共に巻回されたセパレータを含む。
【0014】
本発明蓄電デバイスの一態様において、
前記電解液を保持可能な絶縁性の電解液保持材を更に備え、前記電解液保持材は、前記巻回端面と前記リチウム極との間に介在され、前記巻回端面に接触する部分と前記リチウム極の前記リチウムに接触する部分とを有する。
【0015】
本発明蓄電デバイスの一態様において、
前記セパレータは、前記巻回端面に含まれる前記正極及び前記負極の端面部分から延出した延出部分を有し、前記延出部分は、前記端面部分を覆うように曲げられ、前記端面部分と前記リチウム極との間に介在され、前記リチウム極の前記リチウムに接触する部分を有する。
【0016】
本発明蓄電デバイスの一態様において、
前記正極は、前記正極活物質が表面に設けられた正極集電体を有し、
前記負極は、前記負極活物質が表面に設けられた負極集電体を有し、
前記正極集電体及び前記負極集電体の少なくも一つは、無孔構造である。
【0017】
本発明蓄電デバイスの製造方法は、
正極活物質を含む正極及び負極活物質を含む負極を、セパレータを介して積層して巻回した巻回電極体の巻回端面から導出され、前記負極に電気的に接続された負極端子に、プレドープ用のリチウムを含むリチウム極を接続することと、前記リチウム極を前記巻回端面と対向するように配置することと、前記負極端子に接続された前記リチウム極が前記巻回電極体の巻回端面と対向配置された状態で、前記巻回電極体に電解液を含浸させることにより、前記リチウム極から前記電解液に溶出させたリチウムイオンを前記負極活物質に吸蔵させるリチウムのプレドープを行うことと、を含む。
【0018】
本発明蓄電デバイスの製造方法の一態様において、
前記巻回電極体に前記電解液が含浸された状態で、前記正極端子及び前記負極端子に電圧を印加し、前記印加する電圧の印加状態を変えることを更に含む。
【0019】
本発明蓄電デバイスの製造方法の一態様において、
前記電解液及び前記負極端子に前記リチウム極を接続した前記巻回電極体を電池缶に収容すること、
を更に含み、
前記電池缶及び前記電解液が前記電池缶に収容された状態で、前記リチウムのプレドープが行われる。
【0020】
本発明蓄電デバイスの製造方法の一態様において、
前記電解液を保持可能な絶縁性の電解液保持材を、前記巻回端面に接触する部分と前記リチウム極の前記リチウムに接触する部分とを有するように、前記巻回端面と前記リチウム極との間に介在させること、を更に含み、前記電解液保持材を前記巻回端面と前記リチウム極との間に介在させた状態で、前記巻回電極体に加えて前記電解液保持材に前記電解液を含浸させることにより、前記リチウムのプレドープを行う。
【0021】
本発明蓄電デバイスの製造方法の一態様において、
前記セパレータの一部分が前記巻回端面に含まれる前記正極及び前記負極の端面部分から延出するように、前記巻回電極体を形成することと、前記巻回電極体に前記電解液を含浸させる前に、前記端面部分から延出した前記セパレータの延出部分が、前記端面部分を覆うように曲げられ、前記巻回端面と前記リチウム極との間に介在され、前記リチウム極の前記リチウムに接触する部分を有する、ようにすることと、を更に含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、巻回電極体に含まれる負極活物質にリチウムをプレドープするときに、リチウムのプレドープを効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は本発明の第1実施形態に係るリチウムイオンキャパシタの構成例を示す断面図である。
【
図2】
図2はドープ構造体の構成例を示す分解斜視図である。
【
図3】
図3は正極タブ端子及び負極タブ端子の構成例を示す正面図である。
【
図4】
図4は
図1のリチウムイオンキャパシタの一部を拡大した拡大断面図である。
【
図5】
図5の(A)及び(B)はリチウムイオンキャパシタの製造工程を説明するための図である。
【
図6】
図6の(A)及び(B)はリチウムイオンキャパシタの製造工程を説明するための図である。
【
図7】
図7の(A)乃至(C)はリチウムイオンキャパシタの製造工程を説明するための図である。
【
図8】
図8はリチウムイオンキャパシタの製造工程を説明するための図である。
【
図9】
図9は本発明の第2実施形態に係るリチウムイオンキャパシタの構成例を示す断面図である。
【
図11】
図11は
図9のリチウムイオンキャパシタの一部を拡大した拡大断面図である。
【
図12】
図12は本発明の第3実施形態に係るリチウムイオンキャパシタの構成例を示す断面図である。
【
図13】
図13は巻回前のセパレータ、正極及び負極の積層配置を説明するための平面図である。
【
図14】
図14は延出部分を曲げる前の巻回電極体の写真である。
【
図15】
図15は延出部分を曲げた後の巻回電極体の写真である。
【
図16】
図16は比較例のリチウムイオンキャパシタの製造工程を説明するための図である。
【
図17】
図17は比較例のリチウムイオンキャパシタの製造工程を説明するための図である。
【
図18】
図18は比較例のリチウムイオンキャパシタの製造工程を説明するための図である。
【
図19】
図19はドープ率の測定箇所を説明するための図である。
【
図20】
図20はXPS測定よって得られたXPSスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の各実施形態に係る蓄電デバイス(リチウムイオンキャパシタ)について説明する。なお、実施形態の全図において、同一又は対応する部分には同一の符号を付す。また、本明細書において、吸脱着可能とは、可逆的に吸蔵(吸着、挿入)及び脱離(放出)が可能であることを意味する。
【0025】
<<第1実施形態>>
<リチウムイオンキャパシタの構成>
図1は、本発明の第1実施形態に係るリチウムイオンキャパシタの構成例を示す断面図である。このリチウムイオンキャパシタは、蓄電デバイスの一種であり、いわゆる円筒型と呼ばれ、中空円柱状の円筒缶10(電池缶)と、電解液20と、ドープ構造体30と、封口ゴム40とを含む。
【0026】
円筒缶10は、例えば、金属(例えば、コストの安いアルミニウム(Al)等)で構成されており、一端面が閉鎖され他端面が開放されている。円筒缶10には電解液20が収容されている。
【0027】
(電解液)
電解液20は、非水電解液であり、電解質塩と非水溶媒とを含む。電解質塩は、非水溶媒に溶解されている。電解液20は、必要に応じて、電解液20の特性を向上させるための添加剤を含んでいてもよい。
【0028】
(電解質塩)
電解質塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、Li(CF3SO2)2N、LiClO4、及び、その他のリチウム塩等から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0029】
(非水溶媒)
非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル(AN)、γ―ブチルラクトン(GBL)、エチルイソプロピルスルホン(EiPS)、及び、1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(HFE)等から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0030】
図1及び
図2に示すように、ドープ構造体30は、正極31、負極32及びセパレータ33を含む巻回電極体WBと、正極タブ端子34と、負極タブ端子35と、正極31及び負極32以外の第3の電極であるプレドープ用のリチウム極36とを含む。
【0031】
巻回電極体WBは、一対の帯状の正極31及び帯状の負極32が帯状のセパレータ33を介した巻回された電極体である。
【0032】
(正極)
正極31は、正極集電体31Aの両面に正極活物質層31Bが設けられた構造を有している。正極集電体31Aは、良好な導電性を有する材料によって構成される。正極集電体31Aは、例えば、アルミニウム箔等の金属箔である。
【0033】
正極活物質層31Bは、正極活物質を含む。なお、正極活物質層31Bは、必要に応じてバインダ(例えば、SBR(スチレンブタジエンゴム))及び導電助剤の少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0034】
正極活物質としては、電解質塩アニオンを吸脱着可能(可逆的に吸蔵(吸着)及び脱離(放出)が可能)な材料によって構成される。正極活物質としては、例えば、カーボンナノチューブ、又は、活性炭を用いることができる。なお、正極活物質は、1種で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
(負極)
負極32は、負極集電体32Aの両面に負極活物質層32Bが設けられた構造を有している。負極集電体32Aは、良好な導電性を有する材料(良導体)によって形成される。負極集電体32Aは、例えば、銅箔等の金属箔を用いることができる。
【0036】
負極活物質層32Bは、リチウムイオンを吸脱着可能(可逆的に吸蔵(吸着)及び脱離(放出)が可能)な材料(例えば、炭素材料等)を含む。なお、負極活物質層32Bは、必要に応じてバインダ(例えば、SBR(スチレンブタジエンゴム))及び導電助剤の少なくとも一つを含んでいてもよい。炭素材料としては、例えば、カーボンナノチューブ、又は、黒鉛等を用いることができる。なお、負極活物質は、1種で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
なお、このリチウムイオンキャパシタでは、エネルギー密度を向上させるために、負極活物質に、リチウムイオンが予め吸蔵(プレドープ)される(例えば、負極活物質に所定量のリチウムイオンが吸蔵される。)。
【0038】
(セパレータ)
セパレータ33は、正極31及び負極32の短絡を防止するために設けられた絶縁性の多孔質膜である。セパレータ33としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン若しくはその他の絶縁性の多孔質フィルム(樹脂系フィルム)、又は、不織布を用いることができる。
【0039】
巻回電極体WBは、電解液20と共に円筒缶10に収容され、電解液20が巻回電極体WBに含浸されている。
【0040】
巻回電極体WBの正極31には、正極タブ端子34が接続されており、巻回電極体WBの負極32には、負極タブ端子35が接続されている。
【0041】
正極タブ端子34は、導電性金属(例えば、アルミニウム等)から構成される。
図3に示すように、正極タブ端子34は、上端及び下端が先細る略円柱状の丸棒部34aと、丸棒部34aの上端から上方に延在する端子部34bと、丸棒部34aの下端から下方に延在する平板状の平板部34cとを有する。正極タブ端子34の一部分は、絶縁材34d(例えば、絶縁性を有する絶縁テープ(カプトンテープ等)等)で覆われている。
【0042】
負極タブ端子35は、導電材(例えば、銅等)から構成される。負極タブ端子35は、上端及び下端が先細る略円柱状の丸棒部35aと、丸棒部35aの上端から上方に延在する端子部35bと、丸棒部35aの下端から下方に延在する平板状の平板部35cとを有する。
【0043】
図1及び
図2に戻り、リチウム極36は、巻回電極体WBの2つの巻回端面のうちの上側(正極タブ端子34及び負極タブ端子35が導出される側)の巻回端面に対向するように配設されている。リチウム極36は、リチウム金属37と、リチウム極集電体38とを有する。
【0044】
リチウム金属37には、正極タブ端子34が挿通可能な第1孔37aと、負極タブ端子35が挿通可能な第2孔37bとが形成されている。同様に、リチウム極集電体38には、正極タブ端子34が挿通可能な第3孔38aと、負極タブ端子35が挿通可能な第4孔38bとが形成されている。なお、典型的には、第1孔37a及び第3孔38aの開口面は円形であり、その大きさは同じ大きさに設定され、第2孔37b及び第4孔38bの開口面は円形でありその大きさは同じ大きさに設定される。
【0045】
リチウム金属37とリチウム極集電体38とは、第1孔37aと第3孔38aとの位置が合わさり、第2孔37bと第4孔38bとの位置が合わさるように積層且つ圧着されている。リチウム極36には、第1孔37aと第3孔38aとが連通する第1貫通孔39aと、第2孔37bと第4孔38bとが連通する第2貫通孔39bとが形成される。リチウム極36に第1貫通孔39a及び第2貫通孔39bが形成されることにより、正極タブ端子34とリチウム極36とを絶縁しつつ、リチウム極36と負極タブ端子35とを電気的に接続した状態で、巻回電極体WBの巻回端面にリチウム極36を対向配置しやすくなる。
【0046】
即ち、リチウム極36は、巻回電極体WBの正極タブ端子34が第1貫通孔39aに挿通され、第2貫通孔39bに巻回電極体WBの負極タブ端子35が挿通され、巻回電極体WBの巻回端面に対向した状態で、巻回電極体WBに固定(装着)される。なお、この巻回端面は、正極タブ端子34及び負極タブ端子35が導出される側の巻回端面である。
【0047】
図4に示すように、この状態では、正極タブ端子34は、正極タブ端子34と第1貫通孔39aの形成面との間に介在された絶縁材34dによって、リチウム極36と絶縁される。負極タブ端子35は、リチウム極36の第2貫通孔39の形成面と接触することにより、リチウム極36と電気的に接続される。
【0048】
封口ゴム40は、円筒缶10の開放端面を封止する封止部材である。封口ゴム40は、絶縁性を有する弾性部材であり、円筒缶10の開放端面に対応した円形の平面形状を有する。封口ゴム40には、正極タブ端子34を挿通可能な第5孔40aと、負極タブ端子35を挿通可能な第6孔40bとが形成されている。
【0049】
封口ゴム40は、第5孔40aとリチウム極36の第1貫通孔39aとの位置が合わさり、第6孔40bとリチウム極36の第2貫通孔39bとの位置が合わさって、リチウム極36の上面に密着した状態で、円筒缶10の開放端面を塞いでいる。封口ゴム40が円筒缶10の開放端面を塞いだ状態では、正極タブ端子34が、第1貫通孔39a及び第5孔40aを通り、円筒缶内部の巻回電極体WBの巻回端面から円筒缶外部に導出されている。更に、この状態では、負極タブ端子35が、第2貫通孔39b及び第6孔40bを通り、円筒缶内部の巻回電極体WBの巻回端面から円筒缶外部に導出されている。
【0050】
<リチウムイオンキャパシタの動作>
上述したリチウムイオンキャパシタは、負極32にて、リチウムイオンの吸着及び放出によって電気エネルギーの充放電が行われ、正極31にて、電解質塩アニオンの吸着及び放出によって電気エネルギーの充放電が行われる。
【0051】
リチウムイオンキャパシタの正極タブ端子34と負極タブ端子35との間に所定の電圧を印加した場合、電解液20中の電解質塩アニオンが正極31側に吸着(吸蔵)される。一方、負極32側には、リチウムイオンが吸着(吸蔵)される。これらにより、リチウムイオンキャパシタが充電される。
【0052】
リチウムイオンキャパシタの正極タブ端子34と負極タブ端子35との間に電力負荷(電気抵抗)を接続した場合、正極活物質から電解液20内へ電解質塩アニオンが放出されると共に、負極32(負極活物質)から電解液20内へリチウムイオンが放出される。これにより、リチウムイオンキャパシタが放電される。
【0053】
<効果>
上述したリチウムイオンキャパシタによれば、巻回端面に対向するようにリチウム極36が配設される。従って、リチウムイオンを負極活物質にプレドープするときに、リチウム極36から電解液20に溶出したリチウムが、巻回電極体WBの巻回端面から、巻回電極体WBの隙間に入ってその隙間内の電解液20中を移動(泳動)する。なお、巻回電極体WBの隙間は、例えば、巻回端面の法線方向に沿って形成される正極31及びセパレータ33の隙間、負極32及びセパレータ33の隙間、並びに、セパレータ33内の隙間(孔)等である。これにより、リチウムイオンが巻回電極体WBの全体に供給されやすくなる。
【0054】
更に、上述したリチウムイオンキャパシタによれば、リチウムのプレドープを行うときに、円筒缶10等を介さないで、負極タブ端子35とリチウム極36とを短絡させることにより、リチウム極36と負極32とを電気的に接続する。従って、リチウム極36から電解液20に溶出したリチウムイオンが、円筒缶10等に移動する可能性を低くすることができる。
【0055】
これらの結果、上述したリチウムイオンキャパシタは、リチウムを負極活物質にプレドープするときに、リチウム極36から供給されるリチウムイオンの無駄が生じる(適切に負極活物質に吸蔵されないリチウムイオンが生じる)ことを抑制できるので、リチウムのプレドープを効率よく行うことできる。
【0056】
<リチウムイオンキャパシタの製造方法>
(電極作製)
(正極の作製)
正極活物質と、導電助剤と、バインダとを、増粘剤を分散した水溶液に混合することにより、正極合剤スラリーを作製する。次に、この正極合剤スラリーを正極集電体31Aに塗布し乾燥させ、ロールプレス機等により圧縮成型することにより、正極活物質層31Bを形成し、正極31を作製する。そして、正極31の正極活物質層31Bの一部を除去することにより形成した正極集電体31Aの露出部分に、一部分を絶縁材34dで被覆した正極タブ端子34を超音波接合等により、接合する。これにより、
図5の(A)に示した正極タブ端子付きの帯状の正極31を作製する。
【0057】
(負極の作製)
負極活物質と、バインダと、必要に応じて導電助剤とを、増粘剤を分散した水溶液に混合することにより、負極合剤スラリーを作製する。次に、この負極合剤スラリーを負極集電体32Aに塗布し乾燥させ、ロールプレス機等により圧縮成型することにより、負極活物質層32Bを形成し、負極32を作製する。そして、負極32の負極活物質層32Bの一部を除去することにより形成した負極集電体32Aの露出部分に、負極タブ端子35を超音波接合等により、接合する。これにより、
図5の(A)に示した負極タブ端子付きの帯状の負極32を作製する。
【0058】
(巻回電極体の作製)
次に、
図5の(B)に示すように、正極タブ端子付き正極31と負極タブ端子付き負極32とをセパレータ33を介して積層すると共に巻回することにより、巻回電極体WBを作製する。
【0059】
(ドープ用のリチウム極の作製)
次に、
図6の(A)に示すように、リチウム金属37(第1孔37a及び第2孔37bを形成する前のリチウム金属37)とリチウム極集電体38(第3孔38a及び第4孔38bを形成する前のリチウム極集電体38)とを重ね合わせて圧着させて、第1貫通孔39a及び第2貫通孔39bを形成する前のリチウム極36を作製する。その後、このリチウム極36の点線×印で示した位置(第1孔37a及び第3孔38aに対応する位置(第1貫通孔39aに対応する位置)、及び、第2孔37b及び第4孔38bに対応する位置(第2貫通孔39bに対応する位置))を打ち抜くことにより、第1貫通孔39a及び第2貫通孔39bが形成されたリチウム極36を作製する。
【0060】
(ドープ極の装着(ドープ構造体の作製))
次に、
図6の(B)に示すように、リチウム極36の第1貫通孔39aに正極タブ端子34を通し、リチウム極36の第2貫通孔39bに負極タブ端子35を通して、リチウム極36を巻回電極体WBに装着することにより、ドープ構造体30を作製する。
【0061】
(巻回電極体(ドープ構造体)の収容)
次に、封口ゴム40の第5孔40a(
図4を参照。)に正極タブ端子34を通し、封口ゴム40の第6孔40b(
図4を参照。)に負極タブ端子35を通し、リチウム極36の上面に封口ゴム40の下面を重ねて密着させた状態で、
図7の(A)に示すように、封口ゴム40及びドープ構造体30を円筒缶10に収容する。
【0062】
(電解液注液(リチウムのプレドープ開始))
次に、
図7の(B)に示すように、円筒缶10に電解液20を入れた後、封口ゴム40を配設したドープ構造体30を電解液20に浸漬させる(ドープ構造体30に電解液20を含浸させる。)。これにより、リチウムのプレドープが開始する。
【0063】
即ち、ドープ構造体30が電解液20に浸漬される(ドープ構造体30に電解液20を含浸させる)と、負極32と短絡したリチウム極36のリチウム金属37からリチウムイオンが電解液20中に放出される(溶出される)。そして、ブロックB1に示したように、リチウム金属37から放出されるリチウムイオンが、一方の巻回端面から正極31及びセパレータ33間の隙間、負極32及びセパレータ33間の隙間、並びに、セパレータ33内の隙間(孔)に入り、隙間を通って他方の巻回端面に向かって移動していくことにより、巻回電極体WBの全体に拡散していく。更に、拡散していくリチウムイオンが負極32に含まれる負極活物質まで移動し吸蔵(ドープ)される。
【0064】
(封止)
次に、
図7の(C)に示すように、円筒缶10の開口端部に配置した封口ゴム40をかしめることにより固定する。これにより、開口端部が封止され、円筒型のリチウムイオンキャパシタが完成する。なお、プレドープ後は、プレドープ用のリチウム金属37の少なくとも一部は消失していてもよい。
【0065】
<効果>
上述したリチウムイオンキャパシタの製造方法によれば、巻回端面に対向するようにリチウム極36が配設される。従って、リチウムを負極活物質にプレドープするときに、リチウム極36から電解液20に溶出したリチウムイオンが、巻回電極体WBの巻回端面から、巻回電極体WBの隙間に入ってその隙間内の電解液20中を移動(泳動)する。これにより、リチウムイオンが巻回電極体WBの全体に拡散しやすくなる。その結果、上述したリチウムイオンキャパシタの製造方法は、リチウムを負極活物質にプレドープするときに、リチウムのプレドープを効率よく行うことができる。
【0066】
更に、上述したリチウムイオンキャパシタの製造方法によれば、リチウムのプレドープを行うときに、円筒缶10等を介さないで、負極タブ端子35とリチウム極36とを短絡させることにより、リチウム極36と負極32とを電気的に接続する。従って、リチウム極36から電解液20に溶出したリチウムイオンの少なくとも一部が、円筒缶10等に移動する可能性を低くすることができるので、リチウムのプレドープを効率よく行うことができる。
【0067】
更に、上述したリチウムイオンキャパシタの製造方法によれば、円筒缶10に収容した電解液20にドープ構造体30(巻回電極体WB)を浸漬させるだけで、リチウムのプレドープを行うことができる。従って、リチウムイオンキャパシタの製造工程を大きく変更することなく、リチウムのプレドープを行うことができる。
【0068】
更に、上述したリチウムイオンキャパシタの製造方法によれば、リチウムイオンが、巻回電極体WBの巻回端面から巻回電極体WBの隙間に入ってその隙間内の電解液20中を移動(泳動)していく。従って、例えば、多孔構造の集電体を含む巻回電極体の周面に対向するように配置したリチウム極を用いてリチウムのプレドープを行うとき等のように、巻回電極体の電極積層方向にリチウムイオンを拡散させる必要がない。そのため、上述のリチウムイオンキャパシタの製造方法によれば、正極集電体31A及び負極集電体32Aの少なくとも一つにコストが高くなる多孔構造の集電体を使用する必要がなくなる。その結果、コストを安くすることができる。
【0069】
<リチウムイオンキャパシタの製造方法の変形例>
上述した第1実施形態に係るリチウムイオンキャパシタの製造方法において、
図8に示すように、電解液20に浸漬された状態(電解液20が含浸された状態)のドープ構造体30の正極タブ端子34及び負極タブ端子35に電圧を印加し、電圧の印加状態を変化(例えば、電圧を大から小へ小から大へ変化)してもよい。換言すると、充放電装置50を用いて、リチウムのプレドープを行っている期間の少なくとも一部の期間にリチウムイオンキャパシタの充放電(充放電動作)を行ってもよい。
【0070】
このようにリチウムのプレドープを行っている期間の少なくとも一部の期間に、リチウムイオンキャパシタの充放電を行うことにより、リチウム金属37から電解液20へのリチウムイオンの溶出が促進される。更に、負極32にてリチウムイオンの吸蔵及び放出が繰り返し行われることにより、リチウムイオンが電解液20全体に拡散しやすくなる。これらの結果、この変形例は、巻回電極体WBの負極32の負極活物質へのリチウムのプレドープをより効率よく行うことができると共に、リチウムのドープのむらが生じることをより抑制できる。
【0071】
<<第2実施形態>>
次に、本発明の第2実施形態に係る蓄電デバイス(リチウムイオンキャパシタ)について説明する。
【0072】
<リチウムイオンキャパシタの構成>
図9は、本発明の第2実施形態に係るリチウムイオンキャパシタの構成例を示す断面図である。このリチウムイオンキャパシタは、リチウム極36と巻回電極体WBの巻回端面との間に、電解液20を保持可能な絶縁性の電解液保持材60が介在された構成を有する点のみにおいて、第1実施形態に係るリチウムイオンキャパシタと相違する。以下、この相違点を中心に説明する。なお、このリチウムキャパシタでは、破線の引き出し線で示した電解液20が、巻回電極体WB及び電解液保持材60に含浸されている。
【0073】
(電解液保持材)
電解液保持材60は、電解液20を保持可能な絶縁性を有する材料で構成される。電解液保持材60には、電解液20が保持されている。電解液保持材60としては、例えば、電解液20を含浸可能な絶縁性の多孔質材(例えば、ろ紙、不織布、多孔質フィルム等)を用いることができる。電解液保持材60として、多孔質材を用いた場合、電解液20を多孔質材に含浸させることにより、電解液20が多孔質材の多孔に保持される。
【0074】
なお、電解液保持材60として、電解液20により膨潤可能な絶縁性の高分子化合物を用いることもできる。電解液保持材60として、電解液20により膨潤可能な高分子化合物を用いた場合、電解液20により高分子化合物が膨潤した状態(いわゆる、ゲル化した状態)で電解液20が高分子化合物に保持される。
【0075】
図10に示すように、電解液保持材60は、リチウム極36の下面及び巻回電極体WBの巻回端面に対応する平面形状(本例において、円形)及び大きさを有する。電解液保持材60には、正極タブ端子34を挿通可能な第7孔61aと、負極タブ端子35を挿通可能な第8孔61bとが形成されている。
【0076】
図11に示すように、電解液保持材60は、リチウム極36と巻回電極体WBの巻回端面との間に、介在されている。電解液保持材60の上面は、リチウム極36の下面(リチウム金属37の下面)に接触し、且つ、電解液保持材60の下面は、巻回電極体WBの巻回端面に接触している。
【0077】
電解液保持材60の第7孔61aの位置と、第1貫通孔39a及び第5孔40aの位置とが合っており、正極タブ端子34が、第7孔61a、第1貫通孔39a及び第5孔40aを通り、円筒缶内部の巻回電極体WBの巻回端面から円筒缶外部に導出されている。
【0078】
電解液保持材60の第8孔61bの位置と、第2貫通孔39b及び第6孔40bの位置とが合っており、負極タブ端子35が、第8孔61b、第2貫通孔39b及び第6孔40bを通り、円筒缶内部の巻回電極体WBの巻回端面から円筒缶外部に導出されている。
【0079】
<効果>
第2実施形態に係るリチウムイオンキャパシタによれば、電解液保持材60を介して、巻回端面に対向するようにリチウム極36(リチウム金属37)が配設される。従って、リチウムを負極活物質にプレドープするときに、リチウム極36から電解液20に溶出したリチウムイオンが、電解液保持材60を介して(電解液保持材60に保持された電解液20中を移動して)、巻回電極体WBの巻回端面から、巻回電極体WBの隙間に入ってその隙間内の電解液20中を移動(泳動)する。
【0080】
更に、このリチウムイオンキャパシタによれば、第1実施形態と同様、リチウム極36から電解液20に溶出したリチウムイオンが、円筒缶10等に移動する可能性を低くすることができる。
【0081】
これらの結果、このリチウムイオンキャパシタは、リチウムを負極活物質にプレドープするときに、リチウム極36から供給されるリチウムイオンの無駄が生じる(適切に負極活物質に吸蔵されないリチウムイオンが生じる)ことを抑制できるので、リチウムのプレドープを効率よく行うことできる。
【0082】
<リチウムイオンキャパシタの製造方法>
(ドープ構造体の作製)
第1実施形態と同様にして、巻回電極体WB及びリチウム極36を作製する。次に、電解液保持材60の第7孔61aに正極タブ端子34を通し、電解液保持材60の第8孔61bに負極タブ端子35を通して、電解液保持材60を巻回電極体WBに装着する。その後、リチウム極36の第1貫通孔39aに正極タブ端子34を通し、リチウム極36の第2貫通孔39bに負極タブ端子35を通して、リチウム極36を巻回電極体WBに装着する。以上により、ドープ構造体70を作製する。
【0083】
(封口ゴムの装着)
次に、封口ゴム40の第5孔40a(
図11を参照。)に正極タブ端子34を通し、封口ゴム40の第6孔40b(
図11を参照。)に負極タブ端子35を通し、リチウム極36の上面に封口ゴム40の下面を重ねて密着させた状態で、封口ゴム40をドープ構造体70に装着することが好ましい。
【0084】
(電解液の含浸、リチウムのプレドープ開始)
次に、封口ゴム40付きドープ構造体70を、真空チャンバ(真空容器)に配置された電解液槽に収容された電解液20中に入れた後、真空チャンバ内を真空引きにより真空にすることにより、巻回電極体WB及び電解液保持材60に電解液20を含浸(真空含浸)させる。これにより、リチウムのプレドープが開始する。
【0085】
(封止)
巻回電極体WB及び電解液保持材60に電解液20が含浸された後、ドープ構造体70を電解液槽から取り出し、取り出したドープ構造体70を円筒缶10に入れ、その後、円筒缶10の開口端部に配置した封口ゴム40をかしめることにより固定する。これにより、開口端部が封止され、円筒型のリチウムイオンキャパシタが完成する。
【0086】
<効果>
上述したリチウムイオンキャパシタの製造方法によれば、電解液保持材60がリチウム極36(リチウム金属37)と接触した部分を有し、巻回電極体WBの巻回端面と接触した部分を有した状態で、電解液保持材60及び巻回電極体WBに電解液20が含浸される。従って、リチウムを負極活物質にプレドープするときに、リチウム極36から電解液保持材60に保持された電解液20に溶出したリチウムイオンが、電解液保持材60を介して(電解液保持材60に保持された電解液20中を移動して)、巻回電極体WBの巻回端面から、巻回電極体WBの隙間に入ってその隙間内の電解液20中を移動(泳動)する。これにより、リチウムイオンが巻回電極体WBの全体に拡散する。その結果、上述したリチウムイオンキャパシタの製造方法は、リチウムを負極活物質にプレドープするときに、リチウムのプレドープを効率よく行うことができる。
【0087】
更に、このリチウムイオンキャパシタの製造方法によれば、第1実施形態と同様、リチウム極36から電解液20に溶出したリチウムイオンの少なくとも一部が、円筒缶10等に移動する可能性を低くすることができるので、リチウムのプレドープを効率よく行うことができる。
【0088】
更に、このリチウムイオンキャパシタの製造方法によれば、リチウムイオンキャパシタの製造工程を大きく変更することなく、リチウムのプレドープを行うことができる。
【0089】
更に、このリチウムイオンキャパシタの製造方法によれば、第1実施形態と同様、コストを安くすることができる。
【0090】
<<第3実施形態>>
次に、本発明の第3実施形態に係る蓄電デバイス(リチウムイオンキャパシタ)について説明する。
【0091】
<リチウムイオンキャパシタの構成>
図12は、本発明の第3実施形態に係るリチウムイオンキャパシタの構成例を示す断面図である。このリチウムイオンキャパシタは、電解液保持材60を、セパレータ33の延出部分33aに代えた構成を有する点のみにおいて、第2実施形態に係るリチウムイオンキャパシタと相違する。以下、この相違点を中心に説明する。なお、このリチウムキャパシタでは、破線の引き出し線で示した電解液20が、巻回電極体WB(延出部分33aを含む)に含浸されている。
【0092】
(セパレータ)
セパレータ33は、巻回電極体WBの電極端面(正極31及び負極32の端面部分)から延出したセパレータ33の一部分である延出部分33aを
図13に示すように巻回端面の片側上方に連続して有する。延出部分33aは、電極端面を覆うように曲げられ、リチウム極36と巻回電極体WBの電極端面とが直接接触しないようにこれらの間に介在される。これにより、電極(正極31及び負極32)とリチウム極36との短絡を防止できる。
【0093】
なお、延出部分33aの曲げ態様は、種々の曲げ態様(例えば、折り曲げ、湾曲、折り畳み等)を採用できる。延出部分33aの曲げ箇所は、例えば、延出部分33aの電極端面との境界線付近が一箇所折り曲げられた延出部分33aのように一箇所であってもよく、延出部分33aの曲げ箇所は、複数箇所であってもよい。延出部分33aは、巻回外周側にある延出部分33aの一部分が巻回内周側の延出部分33aの他部分に重なるようになっていてもよい。曲げ形態は、上記した曲げ形態に対して逆方向に曲げてもよい。
【0094】
更に、延出部分33aは、リチウム極36(リチウム金属37)の下面に接触している部分と、電極端面に接触している部分とを有する。これらの接触部分がよりできやすく、且つ、電極端面をより確実に覆うことができる観点から、延出部分33aの展開長さ(延出部分33aの長さ)は、正極31と負極32とが覆われる長さ以上であることが好ましい。
【0095】
<効果>
上述したリチウムイオンキャパシタによれば、延出部分33aを介して、巻回端面に対向するようにリチウム極36が配設される。従って、リチウムを負極活物質にプレドープするときに、リチウム極36から延出部分33aに保持される電解液20に溶出したリチウムイオンが、セパレータ33の延出部分33aを介して(延出部分33aに保持された電解液20中を移動して)、巻回電極体WBの巻回端面から、巻回電極体WBの隙間に入ってその隙間内の電解液20中を移動(泳動)する。
【0096】
更に、上述したリチウムイオンキャパシタによれば、第1実施形態と同様、リチウム極36から電解液20に溶出したリチウムイオンが、円筒缶10等に移動する可能性を低くすることができる。
【0097】
これらの結果、上述したリチウムイオンキャパシタは、リチウムを負極活物質にプレドープするときに、リチウム極36から供給されるリチウムイオンの無駄が生じる(適切に負極活物質に吸蔵されないリチウムイオンが生じる)ことを抑制できるので、リチウムのプレドープを効率よく行うことできる。
【0098】
<リチウムイオンキャパシタの製造方法>
図13に示すように、セパレータ33の一部分(延出部分33a)が電極端面から延出するように、正極タブ端子付き正極31及び負極タブ端子付き負極32を、セパレータ33を介して積層した後、これらを巻回することにより、巻回電極体WBを作製する。更に、第1実施形態と同様にして、リチウム極36を作製する。
【0099】
次に、リチウム極36の第1貫通孔39aに正極タブ端子34を通し、リチウム極36の第2貫通孔39bに負極タブ端子35を通す。そして、リチウム極36をセパレータ33の延出部分33aに押し当てることにより、延出部分33aが電極端面を覆うように延出部分33aを曲げる。
【0100】
これにより、延出部分33aが電極端面とリチウム極36との間に介在され、延出部分33aが電極端面に接触する部分とリチウム極36のリチウム金属37に接触する部分を有する状態で、リチウム極36が巻回電極体WBに装着され、ドープ構造体80が作製される。なお、延出部分33aが電極端面を覆うように延出部分33aを曲げた後、リチウム極36を巻回電極体WBに装着してもよい。
【0101】
(電解液の含浸、リチウムのプレドープ開始、封止)
以降は、第2実施形態と同様にして、電解液20の含浸(リチウムプレドープ開始)及び封止を順に行う。これにより、円筒型のリチウムイオンキャパシタが完成する。なお、プレドープ後は、プレドープ用のリチウム金属37の少なくとも一部は消失してもよい。
【0102】
<効果>
上述したリチウムイオンキャパシタの製造方法によれば、セパレータ33の延出部分33aがリチウム極36(リチウム金属37)と接触した部分を有し、巻回電極体WBの巻回端面と接触した部分を有した状態で、巻回電極体WB(延出部分33aを含む。)に電解液20が含浸される。従って、上述したリチウムイオンキャパシタの製造方法は、第2実施形態と同様、リチウムを負極活物質にプレドープするときに、リチウムのプレドープを効率よく行うことができる。
【0103】
更に、このリチウムイオンキャパシタの製造方法によれば、第2実施形態と同様、リチウム極36から電解液20に溶出したリチウムイオンの少なくとも一部が、円筒缶10等に移動する可能性を低くすることができるので、リチウムのプレドープを効率よく行うことができる。
【0104】
更に、このリチウムイオンキャパシタの製造方法によれば、第2実施形態と同様、リチウムイオンキャパシタの製造工程を大きく変更することなく、リチウムのプレドープを行うことができる。
【0105】
更に、このリチウムイオンキャパシタの製造方法によれば、第2実施形態と同様、コストを安くすることができる。
【0106】
<リチウムイオンキャパシタの製造方法の変形例>
上述した第2実施形態及び第3実施形態に係るリチウムイオンキャパシタの製造方法のそれぞれにおいて、第1実施形態と同様、電解液20が含浸された状態のドープ構造体70(ドープ構造体80)の正極タブ端子34及び負極タブ端子35に電圧を印加し、電圧の印加状態を変化(例えば、電圧を大から小へ小から大へ変化)してもよい。これらの変形例は、第1実施形態の変形例と同様、巻回電極体WBの負極32の負極活物質へのリチウムのプレドープをより効率よく行うことができると共に、リチウムのドープのむらが生じることをより抑制できる。
【実施例】
【0107】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されない。
【0108】
<実施例1>
(正極の作製)
カルボキシルメチルセルロース(CMC)(#2200、ダイセルファインケム株式会社製)を分散した水溶液に対して、正極活物質としての活性炭(CEP21KS、パワー・カーボン・テクノロジー社製)と、導電助剤としてのアセチレンブラック(LB-400、デンカ株式会社製)と、バインダとしての水系バインダ(TRD202A、JSR株式会社製)とを混合した正極合剤のスラリー溶液(正極合剤スラリー)を調製した。なお、配合比は、活性炭90重量%、アセチレンブラック5重量%、水系バインダ2重量%、CMC2重量%となるように調整した。
【0109】
次に、調製した正極合剤スラリー溶液を、正極集電体31Aとしての帯状のアルミニウム箔(無孔箔、厚さ30μm、幅20mm、長さ300mm)の両面に塗布した。
【0110】
その後、乾燥することにより正極合剤スラリーから水を除去したのち、ロールプレスで圧延することにより、正極活物質層31B付きのアルミニウム箔(正極集電体31A)を得た。なお、正極活物質層31Bの目付け量(即ち、単位面積当たりの正極活物質層31B(片面)の質量)は、2.7mg/cm2である。
【0111】
正極タブ端子34の丸棒部34aの上端から平板部34cの角部34c1(
図3を参照)の下方2mmの位置までの領域を、絶縁材34dとしてのカプトンテープ(厚さ30μm、幅1.5mm)を巻き付けることにより、カプトンテープで被覆した。
【0112】
その後、正極31の正極活物質層31Bの一部を除去することにより形成した正極31の正極集電体31Aの露出部分(巻き始め側の端部から85mmの箇所)に、カプトンテープを巻き付けた正極タブ端子34の平板部34cを超音波接合により、接合した。
【0113】
(負極の作製)
カルボキシルメチルセルロース(CMC)(#2200、ダイセルファインケム株式会社製)を分散した水溶液に対して、負極活物質としてのカーボンナノチューブ(VGGF-H(登録商標)、昭和電工株式会社製)と、バインダとしての水系バインダ(TRD2001、JSR株式会社製)とを混合した負極合剤のスラリー溶液(負極合剤スラリー)を調製した。なお、配合比は、カーボンナノチューブ95重量%、水系バインダ3重量%、CMC2重量%となるように調整した。
【0114】
次に、調製した負極合剤スラリー溶液を、負極集電体32Aとしての帯状の銅箔(無孔箔、厚さ20μm、幅23mm、長さ450mm)の両面に塗布した。
【0115】
その後、乾燥することにより負極合剤スラリー溶液から水を除去したのち、ロールプレスで圧延することにより、負極活物質層32B付きの銅箔(即ち、負極32)を得た。なお、負極活物質層32Bの目付け量(即ち、単位面積当たりの負極活物質層32B(片面)の質量)は、4.0mg/cm2である。
【0116】
その後、負極32の負極活物質層32Bの一部を除去することにより形成した負極集電体32Aの露出部分(巻き始め側の端部から115mmの箇所)に、負極タブ端子35の平板部35cを超音波接合により、接合した。
【0117】
(巻回電極体の作製)
次に、正極31と負極32とをセパレータ33を介して積層すると共に巻回することにより、巻回電極体WBを作製した。セパレータ33としては、樹脂系セパレータ(厚み20μm、幅30mm、長さ500mm)を用いた。
【0118】
(リチウム極の作製)
アルゴン(Ar)雰囲気のグローブボックス内にて、平面形状が円形のリチウム極集電体38(銅箔、厚さ100μm、直径Φ16mm)の一主面を、剣山を用いて凸凹処理を施した。
【0119】
次に、アルゴン雰囲気のグローブボックス内にて、平面形状が円形のリチウム金属37(例えば、厚さ100μm、直径Φ16mm)とリチウム極集電体38の凸凹処理面とを重ね合わせて圧着することにより、第1貫通孔39a及び第2貫通孔39bを形成する前のリチウム極36を作製した(
図6の(A)を参照。)。
【0120】
その後、このリチウム極36の第1孔37a及び第3孔38a(例えば、直径Φ2.5mm)、第2孔37b及び第4孔38b(例えば、直径Φ2.0mm)に対応する位置を打ち抜くことにより、第1貫通孔39a及び第2貫通孔39bが形成されたリチウム極36を作製した(
図6の(A)を参照。)。ここで、第1孔37a及び第3孔38aの直径は、後述する絶縁材34dの厚み分だけ、第2孔37b及び第4孔38bの直径よりも大きくした。また、第2孔37b及び第4孔38bの内周面にて、負極タブ端子35と通電可能な状態で接触させるために、第2孔37b及び第4孔38bの直径は、第1孔37a及び第3孔38aの直径よりも小さくした。なお、このリチウム極36のリチウム金属37によるドープ見込み量は、30%である。ドープ見込み量は、{「リチウム金属37のリチウムが全て負極活物質にドープしたと仮定した場合の、リチウム量」)÷「負極活物質にドープ可能なリチウム量」}×100%により求めることができる。
【0121】
(ドープ構造体の作製)
次に、リチウム極36の第1貫通孔39aに正極タブ端子34を挿通し、リチウム極36の第2貫通孔39bに負極タブ端子35を挿通し、巻回電極体WBにリチウム極36を装着することにより、ドープ構造体30を作製した。なお、この状態において、正極タブ端子34は、カプトンテープ(絶縁材34d)によりリチウム極36と絶縁しており、負極タブ端子35は、リチウム極36と導通した状態となっている(
図4を参照。)。
【0122】
(封口ゴム装着)
次に、封口ゴム40の第5孔40aに正極タブ端子34を挿通し、封口ゴム40の第6孔40bに負極タブ端子35を挿通し、リチウム極36の上面(リチウム極集電体38の上面)に密着した状態で封口ゴム40を、ドープ構造体30に装着(配設)した。
【0123】
(リチウムイオンのプレドープ工程)
次のようにして、電解液20を調製した。まず、非水溶媒として、エチレンカーボネート(EC)と、ジエチルカーボネート(DEC)とを、体積比EC:DEC=1:1で、混合することにより、混合溶媒を調製した。次に、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を用いて、電解質塩濃度が1.0mol/Lになるように、調製した混合溶媒に溶解させた。以上により、電解液20を得た。
【0124】
次に、円筒缶10(アルミ缶、直径Φ18mmの円形の断面、高さ25mm)に調製した電解液20(6mL)を入れた後、封口ゴム40を装着したドープ構造体30を電解液20が入った円筒缶10内に入れて電解液20に浸漬させた。これにより、ドープ構造体30(巻回電極体WB)へのリチウムのプレドープ(負極活物質へのリチウムイオンの吸蔵)を開始した。リチウムのプレドープを開始した後、ドープ構造体30を電解液20に浸漬させた状態で、6日間放置した(ドープ時間6日)。これにより、実施例1のドープ済みリチウムイオンキャパシタを得た。
【0125】
<実施例2>
実施例2では、多孔箔電極を用いてリチウムイオンキャパシタを作製した。
【0126】
(リチウムイオンキャパシタの作製)
(正極の作製)
正極集電体31Aとして帯状の多孔構造アルミニウム箔(多孔箔、厚さ30μm、幅20mm、長さ300mm、開口率10%)を用いた点以外は、実施例1と同様にして、正極活物質層31B付きのアルミニウム箔(正極集電体31A)を得て、カプトンテープを巻き付けた正極タブ端子34を超音波接合により、接合した。
【0127】
(負極の作製)
カルボキシルメチルセルロース(CMC)(#2200、ダイセルファインケム株式会社製)を分散した水溶液に対して、負極活物質としての黒鉛と、導電助剤としてのアセチレンブラック(LB-400、デンカ株式会社製)と、バインダとしての水系バインダ(TRD2001、JSR株式会社製)とを混合した負極合剤のスラリー溶液(負極合剤スラリー)を調製した。なお、配合比は、黒鉛94重量%、水系バインダ2重量%、CMC2重量%、アセチレンブラック2重量%となるように調整した。
【0128】
次に、調製した負極合剤スラリー溶液を、負極集電体32Aとしての帯状の銅箔(多孔箔、厚さ20μm、幅23mm、長さ450mm、孔径(直径)300μm、開口率10%)の両面に塗布した。
【0129】
その後、乾燥することにより負極合剤スラリー溶液から水を除去したのち、ロールプレスで圧延することにより、負極活物質層32B付きの銅箔(即ち、負極32)を得た。なお、負極活物質層32Bの目付け量(即ち、単位面積当たりの負極活物質層32B(片面)の質量)は、4.0mg/cm2である。
【0130】
その後、負極32の負極活物質層32Bの一部を除去することにより形成した負極集電体32A(巻き始め側の端部から115mmの箇所)に、負極タブ端子35を超音波接合により、接合した。
【0131】
その後の工程(巻回電極体の作製~リチウムのプレドープ工程)は実施例1と同様に行い、封口ゴム40を装着したドープ構造体30を電解液20が入った円筒缶10内に入れて電解液20に浸漬させた。これにより、ドープ構造体30(巻回電極体WB)へのリチウムのプレドープを開始した。実施例2では、実施例1と同様、リチウムのプレドープを開始した後、ドープ構造体30を電解液20に浸漬させた状態で、6日間放置した(ドープ時間6日)。これにより、実施例2のドープ済みリチウムイオンキャパシタを得た。
【0132】
<実施例3>
リチウム極36のリチウム金属37の厚さを300μmに変えたこと以外は、実施例2と同様にして、封口ゴム40を装着したドープ構造体30を作製した。なお、このリチウム極36のリチウム金属37によるドープ見込み量は、実施例2の3倍の90%である。その後、封口ゴム40を装着したドープ構造体30を電解液20が入った円筒缶10内に入れて電解液20に浸漬させた。これにより、ドープ構造体30(巻回電極体WB)へのリチウムのドープを開始した。実施例3では、リチウムのプレドープを開始した後、ドープ構造体30を電解液20に浸漬させた状態で、実施例2に比べて長い時間(15日間)放置した(ドープ時間15日)。これにより、実施例3のドープ済みリチウムイオンキャパシタを得た。
【0133】
<実施例4>
リチウム極36のリチウム金属37の厚さを300μmに変えたこと以外は、実施例2と同様にして、封口ゴム40を装着したドープ構造体30を作製した。その後、封口ゴム40を装着したドープ構造体30を電解液20が入った円筒缶10内に入れて電解液20に浸漬させた。これにより、ドープ構造体30(巻回電極体WB)へのリチウムのプレドープを開始した。実施例4では、リチウムのプレドープを開始した後、ドープ構造体30を電解液20に浸漬させた状態で、実施例2に比べて長い時間(10日間)放置した(ドープ時間10日)。
【0134】
更に、実施例4では、その後、ドープ構造体30を電解液20に浸漬させた状態で、充放電装置50(菊水電子工業株式会社製)を用いて、30サイクル充放電(シームレス充放電(CC充放電、電圧:2.2V~3.8V、電流:10mA))を行った(なお、充放電時間は5日間である。)。これにより、実施例4のドープ済みリチウムイオンキャパシタを得た。
【0135】
<実施例5>
リチウム極36のリチウム金属37の厚さを300μmに変えたこと以外は、実施例2と同様にして、封口ゴム40を装着したドープ構造体30を作製した。その後、封口ゴム40を装着したドープ構造体30を電解液20が入った円筒缶10内に入れて電解液20に浸漬させた。これにより、ドープ構造体30(巻回電極体WB)へのリチウムのプレドープを開始した。更に、実施例5では、ドープ構造体30を電解液20に浸漬させた状態で、リチウムのプレドープの開始と同時に、充放電装置50(菊水電子工業株式会社製)を用いて、30サイクル充放電(シームレス充放電(CC充放電、電圧:2.2V~3.8V、電流:10mA)、)を行った(なお、充放電時間は3日間である。)。これにより、実施例5のドープ済みリチウムイオンキャパシタを得た。
【0136】
<実施例6>
電解液保持材60としてのガラス繊維ろ紙(GA-100、アドバンテック東洋株式会社製、厚さ440μm、空隙率85%)を、リチウム極36と巻回電極体WBの巻回端面との間に配置したこと以外は、実施例3と同様にして、封口ゴム40を装着したドープ構造体70を作製した。
【0137】
その後、封口ゴム40を装着したドープ構造体70を、実施例3と同様の電解液20が収容された電解液槽に浸漬させた状態で、電解液槽が配置された真空チャンバ(真空容器)を真空引きにより真空にする(減圧する)ことにより、真空含浸を行うことで、ガラス繊維ろ紙及び巻回電極体WBに電解液20を含浸させた。これにより、ドープ構造体70へのリチウムのプレドープを開始した。
【0138】
その後、封口ゴム40付きドープ構造体70(ガラス繊維ろ紙及び巻回電極体WBに電解液20が含浸された状態の封口ゴム40付きドープ構造体70)を、電解液槽から取り出して、封口ゴム40が円筒缶10(アルミ缶、直径Φ18mmの円形の断面、高さ25mm)の開口端部に配置されるように、円筒缶10に入れた。その後、円筒缶10の上部をネッキング(ネッキング加工)することで、円筒缶10の開口端部に配置された封口ゴム40の側面部と円筒缶10の上部の内周面との間の隙間を封止した。
【0139】
その後、充放電装置50(菊水電子工業株式会社製)を用いて、30サイクル充放電(シームレス充放電(CC充放電、電圧:2.2V~3.8V、電流:10mA))を行った(なお、充放電時間は10日間である。)。これにより、実施例6のドープ済みリチウムイオンキャパシタを得た。
【0140】
<実施例7>
セパレータ33の一部分(延出部分33a)が1.5mmだけ正極31及び負極32の端面部分(電極端面)から延出するように、正極31及び負極32を、セパレータ33を介して積層した後(
図13を参照。なお、実施例1乃至実施例6では、延出部分33aの長さは0.5mmである。)、これらを巻回した。これにより、延出部分33aを有する巻回電極体WBを作製した。なお、この巻回電極体WBを巻回端面の上方から観察した写真を
図14に示す。
【0141】
次に、リチウム極36の第1貫通孔39aに正極タブ端子34を通し、リチウム極36の第2貫通孔39bに負極タブ端子35を通した後、リチウム極36をセパレータ33の延出部分33aに押し当てることにより、延出部分33aが電極端面を覆うように延出部分33aを曲げた。
【0142】
これにより、延出部分33aが電極端面とリチウム極36との間に介在され、延出部分33aが電極端面に接触する部分とリチウム極36のリチウム金属37に接触する部分とを有する状態で、リチウム極36を巻回電極体WBに装着した。以上により、ドープ構造体80を作製した。なお、このドープ構造体80のリチウム極36を取り外した状態(巻回電極体WB)を巻回端面の上方から観察した写真を
図15に示す。この写真から延出部分33aによって電極端面が覆われていることがわかる。
【0143】
これ以降は、実施例6と同様にして、電解液含浸、封止及び充放電を行うことにより、実施例7のドープ済みリチウムイオンキャパシタを得た。
【0144】
<比較例1>
正極タブ端子34にカプトンテープを巻き付けなかったこと以外は、実施例1と同様にして、巻回電極体WBを作製した。
【0145】
図16に示すように、幅20mm、長さ50mmの帯状のリチウム金属箔100を、所定形状み切り出した銅箔101に圧着することにより、リチウム極110を作製した。なお、このリチウム極110のリチウム金属箔100によるドープ見込み量は100%である。次に、リチウム極110を巻回電極体WBの周面に巻き付けることにより、ドープ構造体200を作製した。
【0146】
図17に示すように、ビーカー201に実施例1と同様の電解液210を入れた後、電解液210が入ったビーカー201に、ドープ構造体200を入れて電解液210に浸漬させた。その後、ドープ構造体200を電解液210に浸漬させた状態で、リチウム極110の端子部102aと、負極タブ端子35とを短絡させることにより、ドープ構造体200へのリチウムのプレドープを開始した。リチウムのプレドープを開始した後、ドープ構造体200を電解液210に浸漬させた状態で、6日間放置した(ドープ時間6日)。これにより、比較例1のドープ済みリチウムイオンキャパシタを得た。
【0147】
<比較例2>
実施例1と同様にして、封口ゴム40を装着したドープ構造体30を作製した。次に、円筒缶に調製した電解液6mLを入れた後、封口ゴム40を装着したドープ構造体30を電解液20が入った円筒缶10内に入れて電解液20に浸漬させた。更に、
図18に示したように、負極タブ端子35と円筒缶10とを短絡させた。これにより、ドープ構造体30(巻回電極体WB)へのリチウムのプレドープを開始した。リチウムのプレドープを開始した後、ドープ構造体30を電解液20に浸漬させた状態で、6日間放置した(ドープ時間6日)。これにより、比較例2のドープ済みリチウムイオンキャパシタを得た。
【0148】
<比較例3>
実施例3と同様にして、封口ゴム40を装着したドープ構造体30を作製した。即ち
、リチウム極36の下面と、巻回電極体WBの巻回端面とが接触しない状態のドープ構造体30を作製した。これ以降は、実施例6と同様にして、電解液含浸(巻回電極体WBの電解液含浸)、封止及び充放電を行うことにより、比較例3のリチウムイオンキャパシタを得た。なお、比較例3では、巻回電極体WBの巻回端面とリチウム金属37との間に、電解液20、電解液保持材60及び延出部分33aの何れも存在しないので、負極活物質へのリチウムのプレドープが行われにくい結果となった。
【0149】
(評価)
実施例1~実施例7のドープ済みリチウムイオンキャパシタ及び比較例1~比較例3のドープ済みリチウムイオンキャパシタを用いて、以下に説明する(ドープ率測定)及び(円筒缶のリチウムの存在確認評価(XPS測定))を行った。
【0150】
(ドープ率測定)
ドープ済みのリチウムイオンキャパシタ(ドープ構造体30)を分解して、
図19に示すように、負極32(負極集電体32A)の外側(素子外側)から0mm付近、150mm付近、250mm付近、450mm付近を直径Φ17.7mmの打ち抜き刃を用いて円形に打ち抜き、4つの円形の負極を得た。なお、
図19は、4つの円形の負極を打ち抜いた後の負極の状態を示す。
【0151】
そして、この円形の負極を作用極とし、金属リチウムを対極とするコインセルを作製した。当該コインセルを充放電装置に接続し、リチウムイオンが負極から放出される方向に電流を流したときに取り出すことができた容量を実測容量として測定した。次いで、当該コインセルにおいてリチウムイオンが負極に吸蔵される方向に電流を流して十分にドープさせた。そして、この十分にドープされたコインセルを用いて、リチウムイオンが負極から放出される方向に電流を流したときに取り出すことができた容量を基準容量として測定した。この基準容量に対する実測容量の比率(百分率)を、ドープ率として算出した。測定結果を表1に示す。
【0152】
【0153】
(円筒缶のリチウムの存在確認評価(XPS測定))
実施例1及び比較例2のドープ済みリチウムイオンキャパシタの円筒缶10について、XPS測定(X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS))によるリチウムの存在確認と、目視による円筒缶10の内面の状態を確認とを行った。XPS測定結果を
図20に示す。
【0154】
(評価)
表1に示すように、実施例1~実施例7によれば、比較例1~比較例3と比べて、効率よく巻回電極体の負極の負極活物質にリチウムをプレドープできることが確認できた。更に、実施例1~実施例7によれば、比較例1~比較例3と比べて、巻回電極体(負極)の位置によるリチウムのドープ率の均一性が、良好であった。更に、実施例3~実施例5によれば、リチウムをプレドープする期間に(リチウム極36と負極32とを短絡した状態で巻回電極体WBを電解液20に浸漬させた状態で)、充放電を行うことによって、リチウムのプレドープをより効率よく行うことができることが確認できた。
【0155】
また、
図20に示すように、比較例2の測定結果(線b1のXPSスペクトル)には、55.0eVに現れるLiOH由来のピーク、55.2eVに現れるLi
2Oに由来のピーク、55.5eVに現れるLi
2CO
3由来のピークの近辺の領域からピークが現れた。このピークが検出されたことにより、リチウム(リチウム金属37のリチウム由来の化合物等)の存在を確認することにより、リチウム金属37からの円筒缶10の内面にリチウムが移動していることがわかる。このことから、ドープ処理により、リチウム金属37のリチウムが溶出し、溶出したリチウムが円筒缶10の内面に析出したと解釈できる。
【0156】
これに対して、実施例1の測定結果(線a1のXPSスペクトル)には、リチウムの存在を確認できるピークが検出されなかった。更に、目視による確認によれば、比較例2には、円筒缶10の表面に付着物(リチウム)が確認されたのに対して、実施例1には、円筒缶10の表面に付着物が確認されなかった。従って、比較例2では、円筒缶10の方にリチウムイオンが移動していくため、巻回電極体WBの負極32の負極活物質にほとんどリチウムをプレドープすることができなかった(即ち、リチウムのプレドープを効率よく行うことができなかった。)
【0157】
<変形例>
以上、本発明の各実施形態及び各実施例について具体的に説明したが、本発明は、上述の各実施形態及び各実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0158】
例えば、上述の各実施形態及び各実施例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値等を用いてもよい。
【0159】
上述の各実施形態及び各実施例の構成、方法、工程、形状、材料および数値等は、本発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0160】
上述の各実施形態等においては、蓄電デバイスとしてリチウムイオンキャパシタを例示したが、リチウムが負極活物質にプレドープされたリチウムイオン電池等にも本発明を適用することができる。上述の各実施形態等において、巻回電極体WBの形状は限定されるものではない。上述の各実施形態等において、巻回電極体WB及び電解液20が収容される電池収容外装体として円筒缶を採用したが、電池収容外装体は、円筒缶以外の形状の電池缶であってもよい。電池収容外装体は、ラミネートフィルム等であってもよい。
【0161】
上述の第1実施形態においては、リチウムイオンキャパシタを製造する際に、円筒缶10に電解液20を入れた後に、ドープ構造体30を円筒缶10に収容していたが、ドープ構造体30に電解液20を含浸させた後に、電解液20が含浸された状態のドープ構造体30を円筒缶10に収容するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0162】
10…円筒缶、20…電解液、30…ドープ構造体、31…正極、32…負極、33…セパレータ、34…正極タブ端子、35…負極タブ端子、36…リチウム極、37…リチウム金属、38…リチウム極集電体、40…封口ゴム、50…充放電装置