IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

<>
  • 特許-砥石による研削加工方法 図1
  • 特許-砥石による研削加工方法 図2
  • 特許-砥石による研削加工方法 図3A
  • 特許-砥石による研削加工方法 図3B
  • 特許-砥石による研削加工方法 図4A
  • 特許-砥石による研削加工方法 図4B
  • 特許-砥石による研削加工方法 図5
  • 特許-砥石による研削加工方法 図6
  • 特許-砥石による研削加工方法 図7
  • 特許-砥石による研削加工方法 図8
  • 特許-砥石による研削加工方法 図9
  • 特許-砥石による研削加工方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】砥石による研削加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23F 5/08 20060101AFI20240220BHJP
   B24B 19/02 20060101ALI20240220BHJP
   B23F 21/02 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
B23F5/08
B24B19/02
B23F21/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019130075
(22)【出願日】2019-07-12
(65)【公開番号】P2021013989
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 晃平
(72)【発明者】
【氏名】疋田 雅也
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-077009(JP,A)
【文献】特開2017-024133(JP,A)
【文献】特開2010-149219(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03034220(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 5/02
B23F 9/02
B23F 19/02
B23F 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の主軸に同軸的に連結されて回転駆動されると共に環状の工作物に対して前記工作物の中心軸線の方向に相対的に前進及び後進が可能であり、且つ、中心軸線の方向の成分を有する一以上の突条の加工部を備える砥石を用いて、回転駆動される前記工作物に創成された溝形状の被加工部に研削加工を施す、砥石による研削加工方法であって、
前記加工部は、外周面を研削部位として構成され、前記砥石の前記工作物に向けた進行方向にて前方となる前方端部から前記進行方向にて後方となる後方端部までの全域にわたって、前記前方端部から前記後方端部に行くに従って径が大きくなる円錐状外接面を有するように形成されており、
前記加工部の前記研削部位を前記被加工部に接触させるために、前記砥石の中心軸線と前記工作物の中心軸線とが所定の交差角を有するように前記砥石を傾斜させた加工初期位置に前記工作物及び前記砥石を配置する配置工程と、
前記工作物及び前記砥石を同期して回転させた状態で、前記加工初期位置に配置された前記砥石を前記工作物に対して相対的に前進させることにより、前記加工部の前記研削部位を前記前方端部から前記後方端部まで順に前記被加工部に接触させて前記被加工部に研削加工を施す研削加工工程と、を備えた、砥石による研削加工方法。
【請求項2】
前記砥石の中心軸線に沿った断面における断面形状において、前記研削部位の外形線は直線である、請求項1に記載の砥石による研削加工方法。
【請求項3】
前記研削部位において、前記前方端部を含む領域の砥粒の大きさは前記後方端部を含む領域の砥粒の大きさよりも大きい、請求項1又は請求項2に記載の砥石による研削加工方法。
【請求項4】
前記研削加工工程において、前記研削部位と前記被加工部に接触させる際に、前記前方端部で前記被加工部を研削しない、請求項1に記載の砥石による研削加工方法。
【請求項5】
前記被加工部の前記溝形状は、前記工作物の歯幅方向に延設される、請求項1-4のうちの何れか一項に記載の砥石による研削加工方法。
【請求項6】
前記被加工部の前記溝形状は、歯形である、請求項1-5のうちの何れか一項に記載の砥石による研削加工方法。
【請求項7】
前記被加工部は、前記工作物の内周面及び外周面のうちの少なくとも一方に創成された、請求項1-6のうちの何れか一項に記載の砥石による研削加工方法。
【請求項8】
前記工作物は、前記内周面に内歯の創成された内歯車又は前記外周面に外歯の創成された外歯車である、請求項7に記載の砥石による研削加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥石による研削加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、特許第5222125号公報に開示された内歯車加工用樽型ねじ状工具(以下、「従来の工具」と称呼する。)が知られている。この従来の工具は、砥石であり、加工時に工作物に対して交差角が与えられた状態で噛み合わせて工作物を研削するようになっている。このため、砥石は、軸方向中間部から軸方向両端部に向かうに従って、径が漸次小さくなるような樽型且つ砥石歯がねじ状に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5222125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の工具においては、加工時における工作物との干渉を回避する必要があるために、工作物の加工状態に応じて砥石を樽形状にしたり砥石歯の形状を変更したりする必要がある。このため、砥石が特殊な形状になって高価であり、砥石が特殊な形状になる程、砥石のメンテナンスの煩雑になる。その結果、砥石の製造及び維持に要する費用が増大する場合がある。
【0005】
本発明は、安価な砥石を用いることが可能な砥石による研削加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る砥石による研削加工方法は、工作機械の主軸に同軸的に連結されて回転駆動されると共に環状の工作物に対して工作物の中心軸線の方向に相対的に前進及び後進が可能であり、且つ、中心軸線の方向の成分を有する一以上の突条の加工部を備える砥石を用いて、回転駆動される工作物に創成された溝形状の被加工部に研削加工を施す、砥石による研削加工方法であって、加工部は、外周面を研削部位として構成され、砥石の工作物に向けた進行方向にて前方となる前方端部から進行方向にて後方となる後方端部までの全域にわたって、前記前方端部から前記後方端部に行くに従って径が大きくなる円錐状外接面を有するように形成されており、加工部の研削部位を被加工部に接触させるために、砥石の中心軸線と工作物の中心軸線とが所定の交差角を有するように砥石を傾斜させた加工初期位置に工作物及び砥石を配置する配置工程と、工作物及び砥石を同期して回転させた状態で、加工初期位置に配置された砥石を工作物に対して相対的に前進させることにより、加工部の研削部位を前方端部から後方端部まで順に被加工部に接触させて被加工部に研削加工を施す研削加工工程と、を備える。
【0007】
これによれば、後方端部から前方端部へ行くに従って、径方向において研削部位と被加工部との接触を減らすことができる。又、前方端部が被加工部と干渉することを防止することもできる。従って、砥石を、例えば、従来の樽状の砥石を製造する場合に比べて安価に製造することができると共に加工部のメンテナンスを容易に行うことができ、維持に要する費用を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】歯車研削盤の構成を概略的に示す概略平面図である。
図2】内歯車の構成を概略的に示す概略斜視図である。
図3A】砥石と工作物の基準位置を説明するための平面図である。
図3B図3Aの背面図である。
図4A】砥石と工作物との間の交差角を説明するための平面図である。
図4B図4Aの背面図である。
図5】砥石の構成を説明するための図である。
図6】砥石の他例の構成を説明するための図である。
図7】電着工具の構成を説明するための図である。
図8】電着工具の構成を説明するための図である。
図9】研削加工方法を説明するためのフローチャートである。
図10】研削加工の状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1.砥石による研削加工方法の概要)
以下、本発明の砥石による切削加工方法を、図1から図10を用いて説明する。本発明の砥石による研削加工方法は、工作機械である歯車研削盤10の工具主軸11に同軸的に連結されて回転駆動されると共に環状の工作物Wに対して工作物Wの中心軸線Cwの方向に相対的に前進及び後進が可能であり、且つ、中心軸線Ctの方向の成分を有する一以上の突条の加工部である砥石歯部23を備える砥石20を用いて、回転駆動される工作物Wに創成された溝形状の被加工部Wwに研削加工を施す。
【0010】
本発明の砥石による研削加工方法における適用対象の工作機械として歯車研削盤10は、環状の工作物である内歯車や外歯車を製造する際にスカイビング加工が可能なマシニングセンタを利用することができる。又、本発明の砥石による研削加工方法における適用対象の環状の工作物Wは、溝形状の被加工部Wwが内周面及び外周面のうちの少なくとも一方に創成されるものであり、一例として被加工部の溝形状が歯形である内歯の創成された内歯車や外歯の創成された外歯車を挙げることができる。尚、内歯車や外歯車の場合、工作物Wの中心軸線Cwの方向の成分を有していれば、溝形状がスプライン溝や、はす歯溝、ねじり角溝を有することも可能である。
【0011】
更に、本発明の砥石による研削加工方法における砥石20は、砥石歯部23を構成する一以上の突条である砥石歯23aを備えている。砥石歯23aは、例えば、外周面であり歯先面である歯先部23dと、歯先部23dに対して回転方向両側に設けられた歯面である歯側部23eと、歯底面である歯底部23fと、アーバ21側の端面である後方端部23bと、中心軸線の方向にてアーバ21と反対側の端面である前方端部23cと、からなっている。そして、歯側部23eは、工作物Wの被加工部Wwであって、例えば、歯車の歯における歯先と歯底とを除く歯面Weの研削を行う研削部位である。ここで、砥石歯部23(歯側部23e)は、砥石20の工作物Wに向けた進行方向にて前方となる前方端部23cから進行方向にて後方となる後方端部23bに行くに従って径が大きくなる円錐状外接面を有するように形成されている。
【0012】
ここで、砥石20としては、前方端部23cから後方端部23bに行くに従って径が大きくなる円錐台等の単純形状を有する砥石本体22の周面に砥石歯部23を備えたものを挙げることができる。又、砥石20としては、鉄又はアルミニウム等の金属の砥石本体22に形成された歯の表面、特に歯側部23eに砥粒を電着した電着工具を用いることができる。
【0013】
本発明の砥石による研削加工方法では、配置工程において、砥石20の中心軸線Ctと工作物Wの中心軸線Cwとが所定の交差角θを有するように砥石20を傾斜させる。そして、本発明の砥石による研削加工方法では、研削加工工程において、工作物W及び砥石20を砥石20の砥石歯23aと工作物Wの被加工部Ww(歯面We)とが互いに噛み合うように同期して回転させる動作と、加工初期位置に配置された砥石20を工作物Wに向けて相対的に前進させる動作とを連系させることにより、研削部位である歯側部23eを前方端部23cから後方端部23bまで順に被加工部Ww(歯面We)に接触させて被加工部Ww(歯面We)に研削加工を施す。この場合、加工初期位置から研削加工を施すため、本発明の砥石による研削加工方法における加工経路は、例えば、工具等を前進させる周知のスカイビング加工の加工経路と同じになる。
【0014】
砥石20を加工初期位置に配置してから工作物Wに対して相対移動させる場合、歯側部23eにおいては、前方端部23cから前方端部23cと後方端部23bとの間の中間部にかけて接触した場合は、被加工部Wwである内歯の内径側から内径側と外径側との間の中間径にかけて接触するようになる。更に、砥石20が工作物Wに対して相対移動すると、歯側部23eにおいては、前方端部23cから大径の後方端部23bにかけて接触した場合は、工作物Wが内歯車であれば、被加工部である内歯の内径側から外径側にかけて接触する。
【0015】
ここで、研削加工工程において、歯側部23eを被加工部Wwに接触させる際に、前方端部23cの軸方向端面は被加工部Wwに接触しない。つまり、前方端部23cの歯側部23eは研削加工可能であるものの、軸方向端面は被加工部Wwを研削加工しない。
【0016】
従って、砥石20においては、加工初期位置から工作物Wに対して相対移動することにより、歯側部23eが被加工部Wwに接触する位置は、小径の前方端部23cから大径の後方端部23bに向けて順次拡大する。これにより、砥石20の歯側部23eの研削加工に伴う研削量(仕事量)が分散され、その結果、砥石歯部23即ち歯側部23eにおける局所的な摩耗の進行が防止される。
【0017】
従って、砥石20の寿命を延ばすことができる。又、砥石20の砥石歯部23即ち歯側部23eは、小径の前方端部23cと大径の後方端部23bを有する円錐状である。前方端部23cは外径側から内径側まで砥石歯23aがないため、工作物Wと干渉することを防止して研削加工を施すことができる。従って、砥石20のメンテナンスが容易に行うことができると共にメンテナンス頻度を低減することができ、更には、砥石20を安価に製造することができる。従って、砥石の製造及び維持に要する費用を低減することができる。
【0018】
(2.歯車研削盤10の構成)
歯車研削盤10について図面を参照しながら説明する。歯車研削盤10は、図1に示すように、例えば、直交三軸(X軸線、Y軸線、Z軸線)方向の移動、C軸線(工作物Wの中心軸線Cw及び砥石20の中心軸線Ct)回りの回転、及び、A軸線回りの回転が可能な五軸マシニングセンタである。歯車研削盤10は、図2に示すように、内歯車である工作物Wの内周面に被加工部Wwである歯面Weを砥石20によって研削加工するものである。
【0019】
歯車研削盤10は、工具側主軸装置Mと、工作物側主軸装置Nと、研削の動作制御を行う制御装置15とを備えている。尚、図示を省略するが、歯車研削盤10は、複数の工具を収容可能な工具マガジンや、複数種類の砥石20を交換する砥石交換装置等を備えることができる。
【0020】
工具側主軸装置Mは、砥石20を支持して回転可能な工具主軸11を備えている。工具主軸11は、チャック11aを介して砥石20の中心軸線Ctの回りに回転可能に支持する。又、工具側主軸装置Mは、図示省略のベッド上にてY軸線方向に移動可能なコラム13により、Z軸線方向に移動可能に支持されている。従って、砥石20は、中心軸線Ctの回りに回転可能であり、且つ、ベッドに対してY軸線方向及びZ軸線方向に移動可能となる。
【0021】
工作物側主軸装置Nは、工作物Wを支持して回転可能であり、工具主軸11と相対移動可能な工作物主軸12を備えている。工作物主軸12は、保持具12aを介して工作物WをC軸線回り、即ち、工作物Wの中心軸線Cwの回りに回転可能に支持する。又、工作物側主軸装置Nは、工作物主軸12をA軸線の回りに回転可能(チルト(傾斜)可能)に支持するターンテーブル12bと、ターンテーブル12bをベッド上にてX軸線方向に移動に支持するX軸テーブル14と、を備えている。従って、工作物Wは、工作物Wの中心軸線Cwの回りに回転可能となり、ベッドに対してA軸線の回りに回転可能且つX軸線方向即ち砥石20に対して相対移動可能となる。
【0022】
制御装置15は、工具主軸11の移動用の図示省略のボールねじ機構及び駆動モータ(コラム13に設けられている)を駆動制御して、工具主軸11に支持される砥石20をY軸線方向及びZ軸線方向に移動させる。又、制御装置15は、工具側主軸装置Mに設けられていて、工具主軸11の回転用の図示省略の駆動モータを制御して、工具主軸11に支持される砥石20を中心軸線Ctの回りに回転させる。
【0023】
又、制御装置15は、工作物主軸12の移動用の図示省略のボールねじ機構及び駆動モータ(X軸テーブル14に設けられている)を駆動制御して、工作物主軸12に支持される工作物WをZ軸線方向に移動させる。又、制御装置15は、工作物主軸12の回転用の図示省略の駆動モータ(工作物側主軸装置Nに設けられている)を制御して、工作物主軸12に支持される工作物Wを中心軸線Cwの回りに回転させる。更に、制御装置15は、ターンテーブル12b用の駆動モータを駆動制御して、ターンテーブル12bに支持される工作物WをA軸線の回りに回転させる。
【0024】
尚、工作物Wを工具主軸11即ち砥石20に対して相対的にA軸線の回りに回転させることに代えて、砥石20を工作物Wに対してA軸線の回りに回転させるように構成することも可能である。この場合には、工具主軸11は、ターンテーブルに支持されるように構成される。
【0025】
そして、制御装置15は、工作物Wに研削加工を施す際には、図3A及び図3Bに示すように、工具主軸11に支持される砥石20の中心軸線Ctと工作物主軸12に支持される工作物Wの中心軸線Cwとを平行な位置(基準位置)にする。尚、以下の説明において、中心軸線Ct及び中心軸線Cwを通る平面を基準平面BPとする。
【0026】
又、制御装置15は、工作物Wが砥石20よりも工具主軸11側になるように砥石20を配置する。そして、制御装置15は、ターンテーブル12b用の駆動モータを駆動制御して、ターンテーブル12bに支持される工作物WをA軸線の回りに回転させる。これにより、制御装置15は、図4A及び図4Bに示すように、基準平面BPから垂直な方向に向かって工具主軸11に支持されている砥石20の中心軸線Ctを交差角θだけ傾斜させる。この交差角θは、工作物Wである内歯車の歯面Weのねじれ角αに基づいて調整され、且つ、砥石20の研削部位である歯側部23eと工作物Wの歯面Weとの間の逃げ角を確保するように決定される。これにより、砥石20は、加工初期位置から工作物Wに向けて、即ち、通常広く行われているような工具等を前進させるスカイビング加工と同じ加工経路となるように、工作物Wの研削加工を行う。
【0027】
具体的に、制御装置15は、砥石20を加工初期位置に配置した状態で、工具主軸11の回転用の駆動モータを駆動制御する。そして、制御装置15は、工具主軸11に支持された砥石20を中心軸線Ctの回りに回転させる。又、制御装置15は、工作物主軸12の回転用の駆動モータを駆動制御して、工作物主軸12に支持された工作物Wを中心軸線Cwの回りに回転させる。このとき、制御装置15は、砥石20の砥石歯23aと工作物Wの歯面Weとが互いに噛み合って同期して回転するように、工具主軸11及び工作物主軸12の各回転用の駆動モータを駆動制御する。
【0028】
そして、制御装置15は、工具主軸11及び工作物主軸12の各移動用のボールねじ機構及び駆動モータを駆動制御する。これにより、制御装置15は、工具主軸11に支持された砥石20を、工作物主軸12に支持された工作物Wに対して相対移動させる。そして、制御装置15は、図4A及び図4Bに示すように、加工点Pcを実現する加工初期位置に砥石20を配置し、工作物Wの歯面Weを研削加工(仕上げ加工)する制御を行う。
【0029】
(3.砥石20の構成)
砥石20は、図5に示すように、アーバ21と、円錐状の本体である砥石本体22と、砥石歯部23と、を備える。アーバ21は、歯車研削盤10の工具主軸11に対してチャック11aを介して支持される。砥石本体22は、砥石を用いて円錐状(円錐台状)に形成されており、アーバ21の先端側、即ち、チャック11aによって支持される基端側と反対側に固定されている。
【0030】
加工部としての砥石歯部23は、砥石本体22の外周面側に砥石本体22に一体に中心軸線Ctに沿って延設された溝によって形成される複数の突条の砥石歯23aを有している。砥石歯部23は、アーバ21側にて大径の後方端部23bと中心軸線Ctの方向にて後方端部23bと反対側にて小径の前方端部23cとを有している。
【0031】
ここで、砥石歯23aは、例えば、工作物Wの歯面Weの形状に基づいて、図5に示すように、中心軸線Ctに沿って直線状に形成された形状である。尚、砥石歯23aの形状については、図6に示すように、工作物Wの歯面Weがねじれ角αを有していなければ、ねじれ角を有することになる。
【0032】
砥石歯23aは、図7及び図8に示すように、アーバ21側の端面である後方端部23bと、アーバ21と中心軸線Ctの方向にて反対側の端面である前方端部23cとを備えている。そして、砥石歯23aは、後方端部23bと前方端部23cとの間において、外周面であり歯先面である歯先部23dと、歯先部23dに対して回転方向にて両側に設けられた歯面である歯側部23eと、歯底面である歯底部23fと、を備えている。ここで、歯側部23eの外周面は、研削部位として構成される。尚、砥石歯部23は、前方端部23cから後方端部23bに行くに従って径が大きくなる円錐状外接面を有するように形成される。
【0033】
砥石による研削加工方法においては、交差角θを有する加工初期位置に砥石20を配置して研削加工を行う。ここで、前方端部23cから後方端部23bに行くに従って径を大きくすることにより、前方端部23cにおいて砥石歯部23の歯側部23eと工作物Wの歯面Weとの無用な干渉を回避することができる。このため、砥石20は、単純形状である円錐台状の砥石本体22の周面に砥石歯部23を有するように構成することができる。
【0034】
これにより、砥石20を製造する場合、例えば、上述した従来の砥石のように、工作物Wの被加工部Wwである内歯の形状ごとに干渉が生じないように砥石本体22や砥石歯部23(砥石歯23a)の形状を変更する必要がない。従って、砥石20の汎用性を高めることができ、その結果、製造コストを低減することができる。
【0035】
尚、砥石20をアーバ21と一体に工作物Wに向けて或いは工作物Wを通過させて移動させる、即ち、砥石歯部23の前方端部23cを工作物Wに向けて相対的に移動させることを「前進」と称呼する。更に、砥石20をアーバ21と一体に工作物Wから離間するように移動させる、即ち、砥石歯部23の後方端部23bを工具主軸11に相対的に向けて移動させることを「後進」と称呼する。
【0036】
ここで、歯側部23eは、前方端部23cの径以上且つ前記後方端部23bの径以下となる。このため、この寸法範囲内であれば、歯側部23eについて、中心軸線Ctに沿った断面における断面形状における外形線の形状は如何なる線であっても良い。例えば、外形線が直線であっても良いし、外形線が曲線であっても良い。
【0037】
又、砥石20として電着工具を用いることも可能である。この場合、例えば、超硬質合金から砥石歯部23を有するように砥石本体22を形成する。そして、砥石歯部23のそれぞれの砥石歯23a特に歯側部23eに対して砥粒を電着し、電着工具を製造する。電着工具を用いた場合でも、工作物Wの歯面Weを研削することができる。
【0038】
又、砥石20として電着工具を用いる場合、例えば、図7に示すように、例えば、前方端部23cを含んで砥石歯23aの歯幅方向にて中央部分までの領域(以下、「前方側領域」と称呼する。)は粗い砥粒(図7において濃い梨地で示す。)を電着することが可能である。一方、中央部分から後方端部23bを含む領域(以下、「後方側領域」と称呼する。)は、先端部分に電着した砥粒よりも細かい砥粒(図7において薄い梨地で示す。)を電着することが可能である。
【0039】
更に、砥石20として電着工具を用いる場合、例えば、図8に示すように、例えば、砥石歯部23の内径側と外径側とを結んだ線を境界とし、前方端部23cを含む前方側領域に粗い砥粒(図8において濃い梨地で示す。)を電着することも可能である。一方、後方端部23bを含む後方側領域に前方側領域に電着した砥粒よりも細かい砥粒(図8において薄い梨地で示す。)を電着することも可能である。
【0040】
このように、前方側領域と後方側領域とで砥粒の大きさを異ならせることにより、研削加工において電着工具を前進させることで、異なる研削状態を実現することができる。具体的に、例えば、前方側領域で粗研削を行い、後方側領域で精研削を行うことができる。或いは、前方側領域で精研削を行い、後方側領域で仕上げ研削を行うことができる。
【0041】
(4.砥石による研削加工方法の詳細)
次に、研削加工方法の詳細について、制御装置15によって実行される図9の「加工プログラム」を参照しながら説明する。尚、工作物主軸12には、歯車加工方法の一つであるスカイビング加工方法によって円筒部材に内歯車の歯面We(内歯)が被加工部Wwとして創成された工作物Wが回転駆動可能に支持されているものとする。
【0042】
制御装置15は、研削加工プログラムの実行をステップS10にて開始する。続いて、制御装置15は、ステップS11にて、砥石20を加工初期位置に配置する(配置工程)。尚、以下の説明においては、「砥石20」を「電着工具」とした場合であっても同様に作動するため、「砥石20」を例示する。
【0043】
具体的に、制御装置15は、図3A及び図3Bに示すように、砥石20及び工作物Wを基準位置にする。そして、制御装置15は、図4A及び図4Bに示すように、砥石20と工作物Wの加工点Pcにて工作物Wに対し交差角θを有する状態にして、砥石20を加工初期位置に配置する。ここで、図4A及び図4Bに示すように、交差角θを有する状態にする場合、後方端部23b側を中心として工作物Wを旋回させる。これにより、後方端部23b側を旋回中心とする場合、例えば、前方端部23cと後方端部23bとが同一の外径を有する場合には前方端部23cと工作物Wとが干渉するのに対して、前方端部23cが小径とすることによって前方端部23cと工作物Wとの干渉を回避することができる。
【0044】
続いて、制御装置15は、ステップS12にて、砥石20と工作物Wとを図4Bにて時計回りにほぼ同期回転させる(研削加工工程)。具体的に、制御装置15は、工具主軸11の回転用の駆動モータと、工作物主軸12の回転用の駆動モータとを、砥石歯23aと歯面Weとが接触する点における工作物Wの回転方向において砥石20の回転周速度が工作物Wの回転周速度より若干早くなるように、砥石20と工作物Wとを図5Bにて時計回りに回転制御する。交差角θにより、工作物Wの歯面Weに沿って歯側部23eが工作物Wの歯幅(歯すじ)方向に移動しながら、工作物Wの歯が砥石20の砥石歯23aより回転方向にて遅れる状態になる。
【0045】
そして、制御装置15は、ステップS13にて、砥石20を工作物Wに対して工作物Wの中心軸線Cwの方向に相対的に前進させると、工作物Wの歯面Weに沿って歯側部23eが工作物Wの歯幅(歯すじ)方向に移動しながら、工作物Wの歯が砥石20の砥石歯23aより回転方向にて先行する。回転方向における先行と遅れとによって互いにキャンセルされて、工作物Wの歯(歯面We)と砥石20の砥石歯23aとが互いに噛み合った状態となり、工作物Wの歯面Weを研削加工する(研削加工工程)。具体的に、制御装置15は、工具主軸11の移動用のボールねじ機構及び駆動モータを駆動制御することにより、砥石20を工作物Wに対して工作物Wの中心軸線Cwの方向に相対的に前進させて加工初期位置から工作物Wの内部を通過させる。これにより、砥石20の砥石歯部23の砥石歯23a即ち歯側部23eが工作物Wの歯面Weと接触し、その結果、歯面Weが研削される。
【0046】
尚、この場合、制御装置15は、工具主軸11の移動用のボールねじ機構及び駆動モータを駆動制御することに代えて、工作物主軸12の移動用のボールねじ機構及び駆動モータを駆動制御することもできる。この場合には、工作物Wが砥石20に対して相対的に移動することにより、砥石20が工作物Wに対して相対的に後進するため、砥石20を加工初期位置から工作物Wの内部を通過させることができる。従って、この場合にも、砥石20の砥石歯部23の砥石歯23a即ち歯側部23eが工作物Wの歯面Weと接触し、歯面Weに沿って工作物Wの歯幅(歯すじ)方向に歯側部23eを移動させることによって、歯面Weが研削される。
【0047】
又、砥石20が研削加工を行う際に、砥石20からクーラントを供給する、所謂、スルークーラントを行うことも可能である。これにより、スルークーラントを行うことにより、簡単な構造によって工作物Wの被加工部Ww(歯面We)及び砥石20の砥石歯23a(歯側部23e)に効率よくクーラントを供給することができる。従って、研削加工における研削品質及び研削精度を向上させることが可能になる。
【0048】
更に、工具として電着工具を用いる場合、上述したように先端部分と後方部分とで砥粒の大きさを異ならせることにより、電着工具の前進に伴って異なる研削を行うことができる。即ち、この場合には、電着工具が前進することに伴って、例えば、前方側領域による粗研削に続いて後方側領域による精研削を行うことができる。或いは、前方側領域による精研削に続いて後方側領域による仕上げ研削を行うことができる。これにより、加工時間を短縮することが可能となる。
【0049】
制御装置15は、ステップS13にて砥石20を前進させて工作物Wの歯面Weに研削加工を施すと、ステップS14にて加工プログラムの実行を終了する。そして、制御装置15は、次の工作物Wが工作物主軸12に固定された後、再び、ステップS10にて加工プログラムを実行する。
【0050】
(5.砥石による研削加工方法の効果)
上述したように、本発明の砥石による研削加工方法に従って工作物Wに研削加工を行う場合、砥石20は、加工初期位置から研削加工を行う。加工初期位置に砥石20が配置された場合、砥石20は交差角θを有する。更に、砥石20の研削部位である歯側部23eは、前方端部23cが小径であり、且つ、後方端部23bが大径である円錐状に形成されている。
【0051】
砥石20の前方端部23cの外径は後方端部23bの外径よりも小径である。従って、図10に示すように、砥石20は、前方端部23cでは、歯面Weと歯側部23eとの接触がなく、前方端部23cと後方端部23bの中間では、内径から内径と外径との間の中間径にかけて歯面Weと歯側部23eとが接触し、後方端部23bでは内径から外径にかけて歯面Weと歯側部23eとが接触する。このため、後方端部23b側を旋回中心とした場合であっても、前方端部23cが被加工部Wwと干渉することを防止することができる。これにより、砥石20を単純な形状として安価に製造することができると共に砥石歯部23(歯側部23e)のメンテナンスを容易に行うことができ、維持に要する費用を低減することができる。
【符号の説明】
【0052】
10…歯車研削盤(工作機械)、11…工具主軸(主軸)、11a…チャック、12…工作物主軸、12a…保持具、12b…ターンテーブル、13…コラム、14…X軸テーブル、15…制御装置、20…砥石(工具)、21…アーバ、22…砥石本体、23…砥石歯部(加工部)、23a…砥石歯、23b…後方端部、23c…前方端部、23d…歯先部、23e…歯側部(研削部位)、23f…歯底部、W…工作物、Ww…被加工部、We…歯面、Pc…加工点、Ct…(工具の)中心軸線、Cw…(工作物の)中心軸線、θ…交差角、M…工具側主軸装置、N…工作物側主軸装置
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10