(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/04 20060101AFI20240220BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20240220BHJP
B60T 8/26 20060101ALI20240220BHJP
B60T 8/00 20060101ALI20240220BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240220BHJP
B60W 10/188 20120101ALI20240220BHJP
【FI】
B60W10/00 120
B60T8/26 H
B60T8/00 Z
B60W10/06
B60W10/188
(21)【出願番号】P 2019221865
(22)【出願日】2019-12-09
【審査請求日】2022-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】荒金 ▲祥▼平
(72)【発明者】
【氏名】深谷 浩一
(72)【発明者】
【氏名】石井 康裕
(72)【発明者】
【氏名】小泉 利洋
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-069602(JP,A)
【文献】特開2007-331755(JP,A)
【文献】特開昭62-122856(JP,A)
【文献】特開2015-186978(JP,A)
【文献】特開2001-055060(JP,A)
【文献】特開平09-221013(JP,A)
【文献】特開平10-305768(JP,A)
【文献】特開2009-143273(JP,A)
【文献】特開2006-131157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-60/00
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前輪に付与する摩擦制動力である前輪制動力および後輪に付与する摩擦制動力である後輪制動力を個別に変更可能な制動装置を有する車両に適用され、
前記車両に付与する摩擦制動力である総制動力を前記前輪制動力と前記後輪制動力とに割り当てる比率を前後配分比として、前記総制動力の目標値および前記前後配分比に基づいて前記制動装置を制御する制動制御部と、
前記車両の動力源を制御する駆動制御部と、
前記車両の車体速度を車速として導出する車速導出部と、
前記車両の制動時に前記車速が規定の判定速度以下である場合に、
前記前輪及び前記後輪のうち駆動輪の制動力が前記動力源の出力する駆動力と釣り合わないように、前記車速が前記判定速度よりも高い場合とは異なるように前記前後配分比を変更し、且つ、前記車速が前記判定速度以下になる前よりも
大きな勾配で前記動力源の出力する駆動力を減少させることを前記駆動制御部に要求する低速時処理を実施する低速時指示部と、を備える
車両の制御装置。
【請求項2】
前記車両は、前記動力源からの駆動力が前記前輪に伝達される前輪駆動車であり、
前記低速時指示部は、前記低速時処理において、前記前後配分比における前記後輪制動力の比率を増大させる
請求項1に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の車輪に摩擦制動力を付与するときには、車輪と一体回転する回転体に摩擦材が押し付けられる。このように回転体に摩擦材が押し付けられた際に異音が発生する場合がある。
【0003】
特許文献1に開示されている制御装置では、摩擦材が回転体に押し付けられる力が異音の発生し得る領域に入らないように、各車輪に対する制動力を調整する制御が行われる。具体的には、前輪に付与される摩擦制動力である前輪制動力および後輪に付与される摩擦制動力である後輪制動力の合計値を維持しつつ、前輪制動力および後輪制動力のうち一方を減少させて他方を増大させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている制御装置では、前輪制動力および後輪制動力を調整することによって車両制動に伴う異音の発生を抑制する制御が行われる場合、当該制御の介入前における摩擦制動力が小さいときには、前輪および後輪のうち、摩擦制動力の減少が要求される車輪に対する摩擦制動力の目標値として、負の値が設定されることがある。この場合、各車輪に対する摩擦制動力の調整だけでは、実際に付与される前輪制動力と後輪制動力との合計値を維持できない。特許文献1では、車輪に対する制動力の目標値が負である場合、車輪に入力させる駆動力を増大させることが示唆されている。しかしながら、このように車両の制動時に動力源の出力を増大させる場合、車両全体のエネルギー効率が非効率となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための車両の制御装置は、車両の前輪に付与する摩擦制動力である前輪制動力および後輪に付与する摩擦制動力である後輪制動力を個別に変更可能な制動装置を有する車両に適用され、前記車両に付与する摩擦制動力である総制動力を前記前輪制動力と前記後輪制動力とに割り当てる比率を前後配分比として、前記総制動力の目標値および前記前後配分比に基づいて前記制動装置を制御する制動制御部と、前記車両の動力源を制御する駆動制御部と、前記車両の車体速度を車速として導出する車速導出部と、前記車両の制動時に前記車速が規定の判定速度以下である場合に、前記車速が前記判定速度よりも高い場合とは異なるように前記前後配分比を変更し、且つ、前記車速が前記判定速度以下になる前よりも前記動力源の出力する駆動力を減少させることを前記駆動制御部に要求する低速時処理を実施する低速時指示部と、を備えることをその要旨とする。
【0007】
車輪への摩擦制動力の付与時に異音が発生する現象は、車輪に付与する摩擦制動力と車輪に伝達される駆動力とが釣り合っていることが一つの要因となる。
上記構成では、車両の制動時に車速が判定速度以下となり、車両が低速走行していると判断されると、低速時処理が実施される。低速時処理では、前後配分比の変更だけではなく駆動力の減少が駆動制御部に要求される。こうした要求に従って駆動力が減少された場合、前後配分比の変更に伴う制動力の変動幅が小さくても摩擦制動力と駆動力とが釣り合いにくくなる。すなわち、車輪に対する摩擦制動力が小さいために摩擦制動力の減少量を確保しにくい場合に、駆動力を増大させなくても、車輪への摩擦制動力の付与に起因する異音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】車両の制御装置の一実施形態と、同制御装置の制御対象である車両と、を示す模式図。
【
図2】同制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャート。
【
図3】同制御装置によって制御される車両の制動力および駆動力を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、車両の制御装置の一実施形態について、
図1~
図3を参照して説明する。
図1は、車両90と、車両90の制御装置10と、を示す。
車両90は、四つの車輪を備えている。車両90は、前輪として右前輪FRと左前輪FLとを備えている。車両90は、後輪として右後輪RRと左後輪RLとを備えている。車両90は、駆動力を出力する動力源71を備えている。動力源71は、たとえば内燃機関である。動力源71から出力された駆動力は、デファレンシャルギヤ72を介して各前輪FL,FRに伝達される。すなわち、車両90は、前輪駆動車である。
【0010】
車両90は、制動装置80を備えている。制動装置80は、液圧発生装置81と、制動アクチュエータ83と、制動機構84と、を備えている。制動機構84は、車両90の各車輪FL,FR,RL,RRに設けられている。液圧発生装置81には、ブレーキペダル等の制動操作部材61が連結されている。制動操作部材61が操作されると、液圧発生装置81が備えるマスタシリンダ82内の液圧であるMC圧が発生する。MC圧は、制動操作部材61の操作力に応じて、当該操作力が大きいほど高くなる。
【0011】
液圧発生装置81は、制動アクチュエータ83にブレーキ液を供給する。制動アクチュエータ83は、各制動機構84のホイールシリンダ85に接続されている。ホイールシリンダ85には、制動アクチュエータ83を介して液圧発生装置81からブレーキ液が供給される。ホイールシリンダ85にブレーキ液が供給されると、ホイールシリンダ85内の液圧であるWC圧が上昇する。各制動機構84は、WC圧が高いほど、車輪と一体回転する回転体87に摩擦材86を押し付ける力が大きくなるように構成されている。制動装置80では、制動アクチュエータ83の作動によって、前輪FL,FRに対応する制動機構84のWC圧と後輪RL,RRに対応する制動機構84のWC圧とが互いに異なるようにWC圧を個別に調節することができる。各制動機構84は、WC圧が高いほど大きな摩擦制動力を車輪FL,FR,RL,RRに付与することができる。すなわち、制動操作部材61の操作力が大きくMC圧が高いほど、大きな摩擦制動力を車輪FL,FR,RL,RRに付与することができる。
【0012】
以下では、制動操作部材61の操作に基づいて摩擦制動力が車輪FL,FR,RL,RRに付与されることを車両90の制動という。また、前輪FL,FRに対応して設けられている制動機構84によって前輪FL,FRに付与される摩擦制動力を前輪制動力BPFという。後輪RL,RRに対応して設けられている制動機構84によって後輪RL,RRに付与される摩擦制動力を後輪制動力BPRという。制動装置80は、上述のようにWC圧の調節を個別に行うことができるので、前輪制動力BPFと後輪制動力BPRとを個別に調節することができる。
【0013】
車両90は、各種センサを備えている。各種センサの例として、車輪速センサ91と、ブレーキストロークセンサ92と、を示している。車輪速センサ91は、各車輪FL,FR,RL,RRに設けられている。
【0014】
制御装置10には、車輪速センサ91およびブレーキストロークセンサ92のような各種センサからの検出信号が入力される。
制御装置10は、機能部として、制動制御部11と、低速時指示部12と、導出部13と、駆動制御部14と、を備えている。なお、制御装置10は、以下(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。
【0015】
(a)コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備える。プロセッサは、CPU並びに、RAMおよびROM等のメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。(b)各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備える。専用のハードウェア回路は、たとえば、特定用途向け集積回路すなわちASIC(Application Specific Integrated Circuit)、または、FPGA(Field Programmable Gate Array)等である。(c)各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行する専用のハードウェア回路と、を備える。
【0016】
導出部13は、各車輪速センサ91からの検出信号に基づいて、各車輪の車輪速度をそれぞれ導出する。そして、制御装置10は、各車輪速度に基づいて、車両90の車体速度を車速VSとして導出する。すなわち、導出部13は、車速導出部である。また、導出部13は、ブレーキストロークセンサ92からの検出信号に基づいて、制動操作部材61の操作量として制動操作量を導出する。
【0017】
駆動制御部14は、動力源71を制御する機能を有している。
制動制御部11は、制動装置80を制御する機能を有している。車両90に付与する摩擦制動力である総制動力BPAを前輪制動力BPFと後輪制動力BPRとに割り当てる比率を前後配分比とすると、制動制御部11は、総制動力BPAの目標値である目標制動力BPTおよび前後配分比に基づいて制動装置80を制御する。すなわち、目標制動力BPTおよび前後配分比に基づいて、前輪制動力BPFおよび後輪制動力BPRが付与される。なお、目標制動力BPTは、制動操作量に基づいて導出される。また、前後配分比は、初期値として規定の比率が設定されており、後述するように低速時指示部12が実施する低速時処理によって比率が変更可能である。
【0018】
低速時指示部12は、車両90の制動時に、車両90が低速で走行しており、且つ、車両90の制動によって回転体87に摩擦材86が押し付けられた際に異音が発生しやすい状況であるとき、実施条件が成立しているとして低速時処理を実施する。低速時指示部12は、車速VSが規定の判定速度である車速判定値VSth以下である場合に車両90が低速で走行していると判定する。車速判定値VSthは、車速VSが低速か否かを判定する閾値として予め設定されている値である。低速時指示部12は、目標制動力BPTが規定の判定範囲内である場合に、異音が発生しやすい状況であると判定する。規定の判定範囲は、車両90の制動によって回転体87に摩擦材86が押し付けられた際に異音が発生しやすい目標制動力BPTの範囲として、予め実験等によって導出されている範囲である。
【0019】
低速時指示部12は、低速時処理では、車速VSが車速判定値VSthよりも高い場合とは異なるように前後配分比を変更する。低速時指示部12は、たとえば、実験等の結果に基づく摩擦制動力の大きさと異音が発生する状況との関係から、摩擦制動力の付与による異音を抑制できるよう前後配分比を設定する。なお、本実施形態では、低速時指示部12は、前後配分比における後輪制動力BPRの比率を増大する。たとえば、総制動力BPAが上昇しているときに前後配分比の変更によって後輪制動力BPRの比率が増大されると、総制動力BPAの上昇量が維持された状態で前輪制動力BPFの上昇量が減少されて後輪制動力BPRの上昇量が増加される。
【0020】
さらに、低速時指示部12は、低速時処理では、動力源71から前輪FL,FRに伝達される駆動力DPの減少を駆動制御部14に要求する。たとえば、低速時指示部12は、駆動力DPを最小駆動力DPminまで減少させることを要求する。最小駆動力DPminとは、動力源71である内燃機関の運転を継続できる駆動力DPの最小値である。
【0021】
図2を用いて、車両90の制動が要求されているときに制御装置10が実施する処理ルーチンについて説明する。本処理ルーチンは、制動操作部材61の操作が開始されてから制動操作量が減少し始めるまでの間、繰り返し実行される。
【0022】
本処理ルーチンが実行されると、まずステップS101において、制御装置10は、制動制御部11に目標制動力BPTを取得させる。その後、制御装置10は、処理をステップS102に移行する。
【0023】
ステップS102では、制御装置10は、車速VSが車速判定値VSth以下であるか否かを低速時指示部12に判定させる。車速VSが車速判定値VSthよりも大きい場合(S102:NO)、制御装置10は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、車速VSが車速判定値VSth以下である場合(S102:YES)、制御装置10は、処理をステップS103に移行する。
【0024】
ステップS103では、制御装置10は、目標制動力BPTが判定範囲内であるか否かを低速時指示部12に判定させる。目標制動力BPTが判定範囲に含まれていない場合(S103:NO)、制御装置10は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、目標制動力BPTが判定範囲内である場合(S103:YES)、制御装置10は、処理をステップS104に移行する。
【0025】
ステップS104では、制御装置10は、低速時処理を低速時指示部12に実施させる。低速時指示部12は、低速時処理を実施して前後配分比を変更し、車輪に付与される制動力配分を変更させる。この結果、前後配分比は、車速VSが車速判定値VSth以下になる前とは異なる比率となる。そして、変更された前後配分比に基づいて制動制御部11が制動装置80を制御することによって、前輪制動力BPFと後輪制動力BPRとの配分が変更される。さらに、低速時指示部12は、低速時処理では、駆動力DPの減少を駆動制御部14に要求する。この結果、駆動制御部14が動力源71を制御することによって、車速VSが車速判定値VSth以下になる前よりも駆動力DPが減少する。制御装置10は、低速時処理を実施させた後、本処理ルーチンを終了する。
【0026】
なお、ステップS104の処理において変更された前後配分比は、たとえば、制動操作部材61の操作量が減少し始めたときに初期化される。制動制御部11によって前後配分比の初期値に応じた大きさにWC圧が徐々に戻され、前輪制動力BPFと後輪制動力BPRとの配分が低速時処理が行われていない場合の配分に戻される。また、たとえば、前後配分比は、車速VSが車速判定値VSthよりも大きくなったり、目標制動力BPTが判定範囲外となったりしたときに初期化されてもよい。
【0027】
本実施形態の作用および効果について説明する。
図3を参照して、制御装置10による処理が実行された場合の車両90の状態について説明する。
【0028】
図3の例では、タイミングt1から車両90の制動が開始されて
図3の(e)に示すように車速VSが低下し始めている。車速VSは、タイミングt2において車速判定値VSthまで低下し、その後のタイミングt3において「0」となっている。その後、車速VSは、タイミングt4以降から上昇を開始している。タイミングt5からは、アクセルペダルの踏み込みが開始され、車速VSの上昇量が増加している。なお、
図3に示す例では、タイミングt2において、目標制動力BPTが判定範囲に含まれている(S103:YES)。
【0029】
タイミングt2までは、車速VSが車速判定値VSthよりも大きいため(S102:NO)、低速時処理が実施されていない。タイミングt2以降では、車速VSが車速判定値VSth以下であるため(S102:YES)、低速時処理が開始されている(S104)。
【0030】
図3の(a)に示すように、駆動力DPは、制動が開始されるタイミングt1から減少を開始している。
図3の(a)には、比較例として低速時処理が実施されない場合の例を二点鎖線で表示している。二点鎖線で示す例では、駆動力DPは、車速VSが「0」となるタイミングt3において最小駆動力DPminとなり、タイミングt5から上昇が開始されている。
【0031】
一方、
図3の(a)に実線で示す本実施形態の例では、低速時処理によって駆動力DPの減少が駆動制御部14に要求されることで、タイミングt3よりも以前に駆動力DPが最小駆動力DPminとなるように駆動力DPがタイミングt2以降においてより大きな減少勾配で減少されている。
【0032】
図3の(b)に示すように、総制動力BPAは、制動が開始されるタイミングt1から上昇を開始している。制動操作量が徐々に大きくされることに伴い、総制動力BPAは、タイミングt1からタイミングt3までの期間で上昇している。タイミングt3からタイミングt4までの期間では、制動操作量が一定に保持されることに伴い、総制動力BPAは、一定に保持されている。その後、制動操作量が減少されるタイミングt4以降では、総制動力BPAは、減少を開始してタイミングt5において「0」となっている。なお、総制動力BPAの推移は、比較例の場合と本実施形態の場合とで等しい。すなわち、低速時処理が実施されても、総制動力BPAは維持されている。
【0033】
図3の(c)は、前輪制動力BPFの推移を示し、
図3の(d)は、後輪制動力BPRの推移を示す。
図3の(c)および(d)では、低速時処理が実施されない場合の比較例を二点鎖線で表示している。
図3の(c)および(d)に二点鎖線で示す比較例は、
図3の(b)に示す総制動力BPAと同様に、タイミングt3まで上昇してタイミングt4から減少を開始している。
【0034】
一方、
図3の(c)および(d)に実線で示す本実施形態の例では、タイミングt2以降において、低速時処理によって前後配分比が変更される。具体的には、タイミングt1において制動が開始されてから車速VSが車速判定値VSthに達するタイミングt2までは、制動制御部11によるWC圧の調節が行われていないため、前輪制動力BPFおよび後輪制動力BPRが二点鎖線で示す比較例と同様に上昇している。タイミングt2以降において低速時処理によって前後配分比が変更されると、後輪制動力BPRの比率が増大されるため、制動制御部11によって、前輪FL,FRに対応する制動機構84のWC圧と、後輪RL,RRに対応する制動機構84のWC圧とが個別に調整される。
【0035】
この結果、
図3の(c)に実線で示すように、タイミングt2からタイミングt3までの期間における前輪制動力BPFの上昇勾配が二点鎖線で示す比較例に比して小さくなる。このため、タイミングt2以降では、比較例の場合よりも前輪制動力BPFが小さくなっている。さらに、
図3の(d)に実線で示すように、タイミングt2からタイミングt3までの期間における後輪制動力BPRの上昇勾配が二点鎖線で示す比較例に比して大きくなる。このため、タイミングt2以降では、比較例の場合よりも後輪制動力BPRが大きくなっている。すなわち、タイミングt2以降では、制動力配分が変更されている。
【0036】
ここで、車両90のような前輪駆動車では、車両90の制動時に前輪FL,FR側で異音が発生しやすい。制御装置10によれば、
図3の(b)~(d)に示すように、低速時処理が実施されると、低速時処理が実施されない場合と同様の大きさに総制動力BPAが維持された状態で、低速時処理が実施されない場合と比較して前輪制動力BPFの大きさが異なるようになる。これによって、車両90を減速させる制動力を車両90に付与しつつも、前輪制動力BPFが駆動力DPと釣り合いにくくなる。これによって、前輪制動力BPFの付与に起因する異音の発生を抑制することができる。
【0037】
さらに、制御装置10における低速時処理では、前後配分比の変更だけではなく、駆動力DPが減少される。これによって、前後配分比の変更に伴う摩擦制動力の変動幅が小さくても摩擦制動力と駆動力とが釣り合いにくくなる。すなわち、低速時処理が開始される時点での前輪制動力BPFが小さいために前輪制動力BPFの減少量を確保しにくい場合に、駆動力DPを増大させなくても、前輪制動力BPFの付与に起因する異音の発生を抑制することができる。
【0038】
なお、駆動力DPの減少に伴い車両減速度が変動する可能性がある。しかし、本実施形態では、車両90が低速走行である場合に限って低速時処理を実施するため、駆動力DPの減少が車両減速度に与える影響は小さい。
【0039】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態における低速時処理では、低速時指示部12は、駆動力DPを最小駆動力DPminまで低下させることを駆動制御部14に要求した。低速時処理では、必ずしも駆動力DPを最小駆動力DPminまで減少させなくてもよい。また、一例としては、駆動力DPを「0」まで減少させることも可能である。
【0040】
・上記実施形態における低速時処理では、前輪制動力BPFの上昇勾配を小さくして、後輪制動力BPRの上昇勾配を大きくすることによって、前後配分比における後輪制動力BPRの比率を増加させた。これに替えて、低速時処理を開始した時点における前輪制動力BPFを維持して、後輪制動力BPRの上昇を継続させることによって前後配分比における後輪制動力BPRの比率を増加させることもできる。
【0041】
・上記実施形態における低速時処理では、前後配分比における後輪制動力BPRの比率を増加させた。摩擦制動力と駆動力DPとが釣り合いを回避できれば、異音の発生を抑制できるため、前後配分比の変更は、前後配分比における後輪制動力BPRの比率を増加させることに限らない。すなわち、低速時処理では、前後配分比における前輪制動力BPFの比率を増加させることもできる。前後配分比における前輪制動力BPFの比率が増大されると、たとえば、総制動力BPAが維持された状態で前輪制動力BPFの上昇量が増加されて後輪制動力BPRの上昇量が減少される。
【0042】
・上記実施形態では、車速VSが車速判定値VSthよりも大きい場合、あるいは、目標制動力BPTが判定範囲に含まれていない場合には、低速時処理が実施されず、前後配分比の変更が行われない。低速時指示部12は、これらの条件に加えて、制動操作部材61の操作速度が規定の判定操作速度よりも速い場合には低速時処理を実施しないようにすることもできる。制動操作部材61の操作速度は、制動操作量を時間微分することによって導出できる。すなわち、車両の運転者が車両90を急に制動することを要求している場合には低速時処理を実施しないようにして、制動力配分の変更を行わないようにしてもよい。
【0043】
・上記実施形態では、車速VSが車速判定値VSth以下であり、目標制動力BPTが判定範囲内である場合に低速時処理が実施される。目標制動力BPTが判定範囲内であるか否かにかかわらず、車速VSが車速判定値VSth以下である場合に低速時処理を実施するようにしてもよい。
【0044】
・上記実施形態では、摩擦制動力と駆動力DPとを釣り合いにくくすることによって異音の発生を抑制している。制動機構84において回転体87と摩擦材86とが接触することによって発生しうる異音は、摩擦制動力と駆動力DPとの釣り合いに限らず、他の要因によっても発生する。前後配分比の変更によって総制動力BPAを維持しつつも前輪制動力BPFおよび後輪制動力BPRを変動させる制御装置10によれば、制動時に低速時処理を実施しない場合と比較して前輪制動力BPFおよび後輪制動力BPRの大きさを変えることができるため、上記他の要因に関しても異音が発生しやすい状況に至りにくくすることができる。
【0045】
・制御装置10は、車両の各車輪に対して付与する摩擦制動力を個別に変更可能な制動装置に適用することもできる。この場合、総制動力を左側の車輪に付与する摩擦制動力と右側の車輪に付与する摩擦制動力とに割り当てる比率を左右配分比として、低速時処理において前後配分比に加えて左右配分比を変更することもできる。
【0046】
・制御装置10を適用する制動装置は、前輪に付与する摩擦制動力および後輪に付与する摩擦制動力を個別に変更可能であればよい。たとえば、回転体であるドラムに摩擦材であるブレーキシューが押し付けられることによって制動力を付与可能なドラムブレーキを採用してもよい。また、電動モータの駆動によって車輪に摩擦制動力を付与することのできる電動制動装置を採用することもできる。
【0047】
・上記実施形態では、前輪駆動車を例示しているが、制御装置10を適用する車両は、後輪駆動車でもよいし四輪駆動車でもよい。たとえば、後輪駆動車の場合には、低速時処理において前後配分比における前輪制動力の比率を増大させることが好ましい。
【符号の説明】
【0048】
10…制御装置
11…制動制御部
12…低速時指示部
13…導出部
14…駆動制御部
61…制動操作部材
71…動力源
80…制動装置
84…制動機構
85…ホイールシリンダ
86…摩擦材
87…回転体
90…車両