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特許7439502処理装置、処理方法、フィルタ生成方法、再生方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】処理装置、処理方法、フィルタ生成方法、再生方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04S 7/00 20060101AFI20240220BHJP
   G10K 15/00 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
H04S7/00 310
G10K15/00 L
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019232007
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2021100221
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】藤井 優美
(72)【発明者】
【氏名】永井 俊明
(72)【発明者】
【氏名】村田 寿子
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-62342(JP,A)
【文献】特開2012-169839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04S 7/00
G10K 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数がスイープする周波数スイープ信号を測定信号として、ヘッドホン又はイヤホンの左右の出力ユニットにそれぞれ出力する測定信号出力部と、
受聴者の左耳に装着された左のマイクが前記測定信号を収音したLchの収音信号を取得し、受聴者の右耳に装着された右のマイクが前記測定信号を収音したRchの収音信号を取得する収音信号取得部と、
前記Lch及びRchの収音信号に応じた時間領域の評価信号を取得する評価信号取得部と、
前記評価信号の一部の区間を抽出区間として抽出する抽出部と、
前記抽出区間における評価信号を用いて、前記Lchの収音信号と前記Rchの収音信号とを比較する比較部と、
前記比較部での比較結果に基づいて、左右の前記マイク、又は前記出力ユニットの装着状態の良否判定を行う判定部と、を備えた処理装置。
【請求項2】
前記比較部が、
前記抽出区間における前記評価信号に基づいて評価値を算出し、
前記評価値を閾値と比較することで、前記Lchの収音信号と前記Rchの収音信号を比較する請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記評価信号取得部が、前記収音信号の極大値を結ぶ上側の包絡線信号と極小値を結ぶ下側の包絡線信号とを前記評価信号として算出し、
前記比較部が、前記抽出区間における前記上側の包絡線信号と前記下側の包絡線信号との間の面積を評価値として算出し、
前記比較部が、前記評価値を閾値と比較することで、前記Lchの収音信号と前記Rchの収音信号とを比較する請求項1、又は2に記載の処理装置。
【請求項4】
前記評価信号取得部が、前記Lchの収音信号と前記Rchの収音信号との差分値に基づく差分信号を前記評価信号として算出し、
前記比較部が、前記抽出区間における差分信号の総和を評価値として算出し、
前記比較部が、前記評価値を閾値と比較することで、前記Lchの収音信号と前記Rchの収音信号とを比較する請求項1、又は2に記載の処理装置。
【請求項5】
前記評価信号取得部が、前記Lchの収音信号と前記Rchの収音信号とを前記評価信号として取得し、
前記比較部が、前記LchとRchの収音信号の相関値を評価値として算出し、
前記比較部が、前記評価値を閾値と比較することで、前記Lchの収音信号と前記Rchの収音信号とを比較する請求項1、又は2に記載の処理装置。
【請求項6】
前記評価信号の立ち上がり時刻を揃えて、前記比較部が左右の収音信号を比較する請求項1~5のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項7】
周波数がスイープする周波数スイープ信号を測定信号として、ヘッドホン又はイヤホンの左右の出力ユニットにそれぞれ出力するステップと、
受聴者の左耳に装着された左のマイクが前記測定信号を収音したLchの収音信号を取得し、受聴者の右耳に装着された右のマイクが前記測定信号を収音したRchの収音信号を取得するステップと、
前記Lch及びRchの収音信号に応じた時間領域の評価信号を取得するステップと、
前記評価信号の一部の区間を抽出区間として抽出するステップと、
前記抽出区間における評価信号を用いて、前記Lchの収音信号と前記Rchの収音信号とを比較するステップと、
前記比較するステップでの比較結果に基づいて、左右の前記マイク、又は前記出力ユニットの装着状態の良否判定を行うステップと、を含む処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載の処理方法で良好と判定された場合に、前記出力ユニットから前記マイクまでの特性をキャンセルする逆フィルタを生成するフィルタ生成方法。
【請求項9】
請求項8に記載のフィルタ生成方法で生成された逆フィルタを用いて、再生信号に頭外定位処理を行う再生方法。
【請求項10】
コンピュータに対して処理方法を実行させるためのプログラムであって、
前記処理方法は、
周波数がスイープする周波数スイープ信号を測定信号として、ヘッドホン又はイヤホンの左右の出力ユニットにそれぞれ出力するステップと、
受聴者の左耳に装着された左のマイクが前記測定信号を収音したLchの収音信号を取得し、受聴者の右耳に装着された右のマイクが前記測定信号を収音したRchの収音信号を取得するステップと、
前記Lch及びRchの収音信号に応じた時間領域の評価信号を取得するステップと、
前記評価信号の一部の区間を抽出区間として抽出するステップと、
前記抽出区間における評価信号を用いて、前記Lchの収音信号と前記Rchの収音信号とを比較するステップと、
前記比較するステップでの比較結果に基づいて、左右の前記マイク、又は前記出力ユニットの装着状態の良否判定を行うステップと、を含むプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、処理装置、処理方法、フィルタ生成方法、再生方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
音像定位技術として、ヘッドホンを用いて受聴者の頭部の外側に音像を定位させる頭外定位技術がある。頭外定位技術では、ヘッドホンから耳までの特性(ヘッドホン特性)をキャンセルし、1つのスピーカ(モノラルスピーカ)から耳までの2本の特性(空間音響伝達特性)を与えることにより、音像を頭外に定位させている。
【0003】
ステレオスピーカの頭外定位再生においては、2チャンネル(以下、chと記載)のスピーカから発した測定信号(インパルス音等)を聴取者(リスナー)本人の耳に設置したマイクロフォン(以下、マイクとする)で録音する。そして、測定信号を集音して得られた収音信号に基づいて、処理装置がフィルタを生成する。生成したフィルタを2chのオーディオ信号に畳み込むことにより、頭外定位再生を実現することができる。
【0004】
さらに、ヘッドホンから耳までの特性をキャンセルするフィルタ(逆フィルタともいう)を生成するために、ヘッドホンから耳元乃至鼓膜までの特性(外耳道伝達関数ECTF、外耳道伝達特性とも称する)を聴取者本人の耳に設置したマイクで測定する。
【0005】
特許文献1には、周波数が徐々に変化する周波数スイープ信号を用いて、フィルタ係数を求める方法が開示されている。具体的には、特許文献1の装置は、外耳道伝達特性の逆特性(逆フィルタ)を周波数スイープ信号に畳み込んでいる。逆特性が畳み込まれた周波数スイープ信号を受聴者が受聴する。そして、ピーク又はディップの周波数を特定している。そして、ピーク又はディップを補正するためのフィルタ係数が設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-62581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
頭外定位処理を行う場合、聴取者本人の耳に設置したマイクで特性を測定することが好ましい。外耳道伝達特性を測定する場合、受聴者の耳にマイク、ヘッドホン(インナーイヤーヘッドホン、いわゆるイヤホンを含む。以下同じ。)を装着した状態で、インパルス応答測定などが実施される。聴取者本人の特性を用いることで、聴取者に適したフィルタを生成することができる。
【0008】
このような、フィルタ生成等のために、測定で得られた収音信号を適切に処理することが望まれる。例えば、聴取者がマイク、又はヘッドホンを適切に装着していない場合、適切なフィルタを生成することができない。例えば、聴取者がヘッドホンを装着するときに、ヘッドホンから耳(特に外耳道入口)までの空間を密閉できていないと低域の音が抜けてしまう(低域の音を適切にマイクで収音できない)。低域が抜けた状態で逆フィルタを生成すると、抜けた低域を補間しようとして低域がブースト(強調)された逆フィルタを生成してしまう。したがって、左右のヘッドホンで密閉状態が異なると、低域が抜けた側では低域がブーストされた逆フィルタが生成されてしまい、左右の特性にばらつきが生じてしまう。左右にばらつきが生じた特性で、逆フィルタを生成してしまうと音場に偏りが生じてしまう。
したがって、左右のばらつきがない状態で測定を行うことが望ましい。よって、左右のばらつきがない状態かを判定する手法が求められる。
【0009】
本開示は上記の点に鑑みなされたものであり、適切に収音信号を処理することができる処理装置、処理方法、フィルタ生成方法、再生方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施の形態にかかる処理装置は、周波数がスイープする周波数スイープ信号を測定信号として、ヘッドホン又はイヤホンの左右の出力ユニットにそれぞれ出力する測定信号出力部と、受聴者の左耳に装着された左のマイクが前記測定信号を収音したLchの収音信号を取得し、受聴者の右耳に装着された右のマイクが前記測定信号を収音したRchの収音信号を取得する収音信号取得部と、前記Lch及びRchの収音信号に応じた時間領域の評価信号を取得する評価信号取得部と、前記評価信号の一部の区間を抽出区間として抽出する抽出部と、前記抽出区間における評価信号を用いて、前記Lchの収音信号と前記Rchの収音信号を比較する比較部と、前記比較部での比較結果に基づいて、左右の前記マイク、又は前記出力ユニットの装着状態の良否判定を行う判定部と、を備えている。
【0011】
本実施の形態にかかる処理方法は、周波数がスイープする周波数スイープ信号を測定信号として、ヘッドホン又はイヤホンの左右の出力ユニットにそれぞれ出力するステップと、受聴者の左耳に装着された左のマイクが前記測定信号を収音したLchの収音信号を取得し、受聴者の右耳に装着された右のマイクが前記測定信号を収音したRchの収音信号を取得するステップと、前記Lch及びRchの収音信号に応じた時間領域の評価信号を取得するステップと、前記評価信号の一部の区間を抽出区間として抽出するステップと、前記抽出区間における評価信号を用いて、前記Lchの収音信号と前記Rchの収音信号を比較するステップと、前記比較するステップでの比較結果に基づいて、左右の前記マイク、又は前記出力ユニットの装着状態の良否判定を行うステップと、を含む。
【0012】
本実施の形態にかかるプログラムは、コンピュータに対して処理方法を実行させるためのプログラムであって、前記処理方法は、周波数がスイープする周波数スイープ信号を測定信号として、ヘッドホン又はイヤホンの左右の出力ユニットにそれぞれ出力するステップと、受聴者の左耳に装着された左のマイクが前記測定信号を収音したLchの収音信号を取得し、受聴者の右耳に装着された右のマイクが前記測定信号を収音したRchの収音信号を取得するステップと、前記Lch及びRchの収音信号に応じた時間領域の評価信号を取得するステップと、前記評価信号の一部の区間を抽出区間として抽出するステップと、前記抽出区間における評価信号を用いて、前記Lchの収音信号と前記Rchの収音信号を比較するステップと、、前記比較するステップでの比較結果に基づいて、左右の前記マイク、又は前記出力ユニットの装着状態の良否判定を行うステップと、を含む。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、適切に収音信号を処理することができる処理装置、処理方法、フィルタ生成方法、再生方法、及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の形態に係る頭外定位処理装置を示すブロック図である。
図2】測定装置の構成を模式的に示す図である。
図3】処理装置の構成を示すブロック図である。
図4】処理方法を示すフローチャートである。
図5】装着状態が良好の場合の信号波形を示す図である。
図6】装着状態が不良の場合の信号波形を示す図である。
図7】本実施の形態に係る処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施の形態にかかる音像定位処理の概要について説明する。本実施の形態にかかる頭外定位処理は、空間音響伝達特性と外耳道伝達特性を用いて頭外定位処理を行うものである。空間音響伝達特性は、スピーカなどの音源から外耳道までの伝達特性である。外耳道伝達特性は、ヘッドホン又はイヤホンのスピーカユニットから鼓膜までの伝達特性である。本実施の形態では、ヘッドホン又はイヤホンを装着していない状態での空間音響伝達特性を測定し、かつ、ヘッドホン又はイヤホンを装着した状態での外耳道伝達特性を測定し、それらの測定データを用いて頭外定位処理を実現している。本実施の形態は、空間音響伝達特性、又は外耳道伝達特性を測定するためのマイクシステムに特徴を有している。
【0016】
本実施の形態にかかる頭外定位処理は、パーソナルコンピュータ、スマートホン、タブレットPCなどのユーザ端末で実行される。ユーザ端末は、プロセッサ等の処理手段、メモリやハードディスクなどの記憶手段、液晶モニタ等の表示手段、タッチパネル、ボタン、キーボード、マウスなどの入力手段を有する情報処理装置である。ユーザ端末は、データを送受信する通信機能を有していてもよい。さらに、ユーザ端末には、ヘッドホン又はイヤホンを有する出力手段(出力ユニット)が接続される。ユーザ端末と出力手段との接続は、有線接続でも無線接続でもよい。
【0017】
実施の形態1.
(頭外定位処理装置)
本実施の形態にかかる音場再生装置の一例である、頭外定位処理装置100のブロック図を図1に示す。頭外定位処理装置100は、ヘッドホン43を装着するユーザUに対して音場を再生する。そのため、頭外定位処理装置100は、LchとRchのステレオ入力信号XL、XRについて、音像定位処理を行う。LchとRchのステレオ入力信号XL、XRは、CD(Compact Disc)プレイヤーなどから出力されるアナログのオーディオ再生信号、又は、mp3(MPEG Audio Layer-3)等のデジタルオーディオデータである。なお、オーディオ再生信号、又はデジタルオーディオデータをまとめて再生信号と称する。すなわち、LchとRchのステレオ入力信号XL、XRが再生信号となっている。
【0018】
なお、頭外定位処理装置100は、物理的に単一な装置に限られるものではなく、一部の処理が異なる装置で行われてもよい。例えば、一部の処理がスマートホンなどにより行われ、残りの処理がヘッドホン43に内蔵されたDSP(Digital Signal Processor)などにより行われてもよい。
【0019】
頭外定位処理装置100は、頭外定位処理部10、逆フィルタLinvを格納するフィルタ部41、逆フィルタRinvを格納するフィルタ部42、及びヘッドホン43を備えている。頭外定位処理部10、フィルタ部41、及びフィルタ部42は、具体的にはプロセッサ等により実現可能である。
【0020】
頭外定位処理部10は、空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsを格納する畳み込み演算部11~12、21~22、及び加算器24、25を備えている。畳み込み演算部11~12、21~22は、空間音響伝達特性を用いた畳み込み処理を行う。頭外定位処理部10には、CDプレイヤーなどからのステレオ入力信号XL、XRが入力される。頭外定位処理部10には、空間音響伝達特性が設定されている。頭外定位処理部10は、各chのステレオ入力信号XL、XRに対し、空間音響伝達特性のフィルタ(以下、空間音響フィルタとも称する)を畳み込む。空間音響伝達特性は被測定者の頭部や耳介で測定した頭部伝達関数HRTFでもよいし、ダミーヘッドまたは第三者の頭部伝達関数であってもよい。
【0021】
4つの空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsを1セットとしたものを空間音響伝達関数とする。畳み込み演算部11、12、21、22で畳み込みに用いられるデータが空間音響フィルタとなる。空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsを所定のフィルタ長で切り出すことで、空間音響フィルタが生成される。
【0022】
空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsのそれぞれは、インパルス応答測定などにより、事前に取得されている。例えば、ユーザUが左右の耳にマイクをそれぞれ装着する。ユーザUの前方に配置された左右のスピーカが、インパルス応答測定を行うための、インパルス音をそれぞれ出力する。そして、スピーカから出力されたインパルス音等の測定信号をマイクで収音する。マイクでの収音信号に基づいて、空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsが取得される。左スピーカと左マイクとの間の空間音響伝達特性Hls、左スピーカと右マイクとの間の空間音響伝達特性Hlo、右スピーカと左マイクとの間の空間音響伝達特性Hro、右スピーカと右マイクとの間の空間音響伝達特性Hrsが測定される。
【0023】
そして、畳み込み演算部11は、Lchのステレオ入力信号XLに対して空間音響伝達特性Hlsに応じた空間音響フィルタを畳み込む。畳み込み演算部11は、畳み込み演算データを加算器24に出力する。畳み込み演算部21は、Rchのステレオ入力信号XRに対して空間音響伝達特性Hroに応じた空間音響フィルタを畳み込む。畳み込み演算部21は、畳み込み演算データを加算器24に出力する。加算器24は2つの畳み込み演算データを加算して、フィルタ部41に出力する。
【0024】
畳み込み演算部12は、Lchのステレオ入力信号XLに対して空間音響伝達特性Hloに応じた空間音響フィルタを畳み込む。畳み込み演算部12は、畳み込み演算データを、加算器25に出力する。畳み込み演算部22は、Rchのステレオ入力信号XRに対して空間音響伝達特性Hrsに応じた空間音響フィルタを畳み込む。畳み込み演算部22は、畳み込み演算データを、加算器25に出力する。加算器25は2つの畳み込み演算データを加算して、フィルタ部42に出力する。
【0025】
フィルタ部41、42にはヘッドホン特性(ヘッドホンの再生ユニットとマイク間の特性)をキャンセルする逆フィルタLinv、Rinvが設定されている。そして、頭外定位処理部10での処理が施された再生信号(畳み込み演算信号)に逆フィルタLinv、Rinvを畳み込む。フィルタ部41で加算器24からのLch信号に対して、Lch側のヘッドホン特性の逆フィルタLinvを畳み込む。同様に、フィルタ部42は加算器25からのRch信号に対して、Rch側のヘッドホン特性の逆フィルタRinvを畳み込む。逆フィルタLinv、Rinvは、ヘッドホン43を装着した場合に、ヘッドホンユニットからマイクまでの特性をキャンセルする。マイクは、外耳道入口から鼓膜までの間ならばどこに配置してもよい。
【0026】
フィルタ部41は、処理されたLch信号YLをヘッドホン43の左ユニット43Lに出力する。フィルタ部42は、処理されたRch信号YRをヘッドホン43の右ユニット43Rに出力する。ユーザUは、ヘッドホン43を装着している。ヘッドホン43は、Lch信号YLとRch信号YR(以下、Lch信号YLとRch信号YRをまとめてステレオ信号とも称する)をユーザUに向けて出力する。これにより、ユーザUの頭外に定位された音像を再生することができる。
【0027】
このように、頭外定位処理装置100は、空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsに応じた空間音響フィルタと、ヘッドホン特性の逆フィルタLinv,Rinvを用いて、頭外定位処理を行っている。以下の説明において、空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsに応じた空間音響フィルタと、ヘッドホン特性の逆フィルタLinv,Rinvとをまとめて頭外定位処理フィルタとする。2chのステレオ再生信号の場合、頭外定位フィルタは、4つの空間音響フィルタと、2つの逆フィルタとから構成されている。そして、頭外定位処理装置100は、ステレオ再生信号に対して合計6個の頭外定位フィルタを用いて畳み込み演算処理を行うことで、頭外定位処理を実行する。頭外定位フィルタは、ユーザU個人の測定に基づくものであることが好ましい。例えば,ユーザUの耳に装着されたマイクが収音した収音信号に基づいて、頭外定位フィルタが設定されている。
【0028】
このように空間音響フィルタと、ヘッドホン特性の逆フィルタLinv,Rinvはオーディオ信号用のフィルタである。これらのフィルタが再生信号(ステレオ入力信号XL、XR)に畳み込まれることで、頭外定位処理装置100が、頭外定位処理を実行する。本実施の形態では、逆フィルタLinv,Rinvを生成するための処理が技術的特徴の一つとなっている。以下、逆フィルタを生成するための処理について説明する。
【0029】
(外耳道伝達特性の測定装置)
逆フィルタを生成するために、外耳道伝達特性を測定する測定装置200について、図2を用いて説明する。図2は、被測定者1に対して伝達特性を測定するための構成を示している。測定装置200は、マイクユニット2と、ヘッドホン43と、処理装置201と、を備えている。なお、ここでは、被測定者1は、図1のユーザUと同一人物となっている。
【0030】
本実施の形態では、測定装置200の処理装置201が、測定結果に応じて、フィルタを適切に生成するための演算処理を行っている。処理装置201は、パーソナルコンピュータ(PC)、タブレット端末、スマートホン等であり、メモリ、及びプロセッサを備えている。メモリは、処理プログラムや各種パラメータや測定データなどを記憶している。プロセッサは、メモリに格納された処理プログラムを実行する。プロセッサが処理プログラムを実行することで、各処理が実行される。プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor),ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、又は、GPU(Graphics Processing Unit)等であってもよい。
【0031】
処理装置201には、マイクユニット2と、ヘッドホン43と、が接続されている。なお、マイクユニット2は、ヘッドホン43に内蔵されていてもよい。マイクユニット2は、左マイク2Lと、右マイク2Rとを備えている。左マイク2Lは、被測定者1の左耳9Lに装着される。右マイク2Rは、被測定者1の右耳9Rに装着される。処理装置201は、頭外定位処理装置100と同じ処理装置であってもよく、異なる処理装置であってよい。また、ヘッドホン43の代わりにイヤホンを用いることも可能である。
【0032】
ヘッドホン43は、ヘッドホンバンド43Bと、左ユニット43Lと、右ユニット43Rとを、有している。ヘッドホンバンド43Bは、左ユニット43Lと右ユニット43Rとを連結する。左ユニット43Lは被測定者1の左耳9Lに向かって音を出力する。右ユニット43Rは被測定者1の右耳9Rに向かって音を出力する。ヘッドホン43は密閉型、開放型、半開放型、または半密閉型等である、ヘッドホンの種類を問わない。マイクユニット2が被測定者1に装着された状態で、被測定者1がヘッドホン43を装着する。すなわち、左マイク2L、右マイク2Rが装着された左耳9L、右耳9Rにヘッドホン43の左ユニット43L、右ユニット43Rがそれぞれ装着される。ヘッドホンバンド43Bは、左ユニット43Lと右ユニット43Rとをそれぞれ左耳9L、右耳9Rに押し付ける付勢力を発生する。
【0033】
左マイク2Lは、ヘッドホン43の左ユニット43Lから出力された音を収音する。右マイク2Rは、ヘッドホン43の右ユニット43Rから出力された音を収音する。左マイク2L、及び右マイク2Rのマイク部は、外耳孔近傍の収音位置に配置される。左マイク2L、及び右マイク2Rは、ヘッドホン43に干渉しないように構成されている。すなわち、左マイク2L、及び右マイク2Rは左耳9L、右耳9Rの適切な位置に配置された状態で、被測定者1がヘッドホン43を装着することができる。
【0034】
本実施の形態では、処理装置201は、逆フィルタを生成するための応答測定の前処理として、左右のばらつきが大きいか否かを判定する。左右のばらつきが大きいか否かを判定する処理を判定処理ともいう。左右のばらつきが大きいと判定された場合、ユーザがヘッドホン又はマイクを正しく装着するように促すためのメッセージを出力する。例えば、処理装置201は、「ヘッドホン又はマイクを正しく装着して下さい」とのメッセージをモニタに表示する。なお、処理装置201は、メッセージを音声で出力してもよい。そして被測定者1がヘッドホン又はマイクを装着し直して、正しい装着状態になるまで再測定を行う。つまり、左右のばらつきが小さくなるまで、測定及び判定を繰り返す。
【0035】
(判定処理)
以下、判定処理について、図3,及び図4を用いて説明する。図3は、処理装置201の構成を示すブロック図である。図4は、判定処理を説明するためのフローチャートである。
【0036】
測定信号出力部211は、測定信号を出力する(S11)。測定信号出力部211は、測定信号を出力するために、D/A変換器やアンプなどを備えている。測定信号は、周波数が徐々にスイープする周波数スイープ信号である。具体的には、時間ともに周波数が変化する正弦波信号が測定信号として用いられている。測定信号は、TSP(Time Streched Pulse)信号である。ここでは、測定信号出力部211は、100Hzから500Hzに徐々に増加していく周波数スイープ信号を測定信号として生成している。なお、測定信号出力部211はあらかじめ複数の測定信号を保持しておいてもよく、この場合、測定信号出力部211は都度測定信号を生成しなくてもよい。
【0037】
測定信号出力部211は、測定信号をヘッドホン43に出力する。ヘッドホン43の左右の出力ユニット、つまり、左ユニット43L、右ユニット43Rからは、測定信号である周波数スイープ信号が出力される。マイクユニット2の左マイク2L、右マイク2Rがそれぞれ測定信号を収音し、収音信号を処理装置201に出力する。
【0038】
収音信号取得部212は、左マイク2L、右マイク2Rで収音された収音信号を取得する(S12)。なお、収音信号取得部212は、マイク2L、2Rからの収音信号をA/D変換するA/D変換器を備えていてもよい。収音信号取得部212は、複数回の測定により得られた信号を同期加算してもよい。
【0039】
左マイク2Lが収音した収音信号をLchの収音信号Slとし、右マイク2Rが収音した収音信号をRchの収音信号Srとする。収音信号Slは、左ユニット43Lから左マイク2Lまでの伝達特性であり、収音信号Srは、右ユニット43Rから右マイク2Rまでの伝達特性である。
【0040】
評価信号取得部213は収音信号Sl及び収音信号Srに基づいて。評価信号を取得する(S13)。評価信号は、例えば、Lchの収音信号SlとRchの収音信号Srの差分信号である。あるいは、評価信号は、Lchの収音信号SlとRchの収音信号Srの包絡線信号である。評価信号は時間領域の信号となっている。なお、評価信号の詳細については、後述する。さらには、評価信号は、評価信号は収音信号Sl、Sr自体であってもよい。
【0041】
図5、及び図6は、Lchの収音信号SlとRchの収音信号Srを示すグラフである。図5は、装着状態が良好な場合の信号波形を示している。図6は、装着状態が不良の場合の信号波形を示している。Lchの収音信号SlとRchの収音信号Srの包絡線が示されている。また、図5、及び図6には、Lchの収音信号SlとRchの収音信号Srの差分信号が差分信号Ssとして示されている。さらに、図5、及び図6では、参考のため、Lchの収音信号SlとRchの収音信号Srの周波数振幅特性Fが示されている。なお、収音信号Sl,Sr、及び差分信号Ssは、全て時間領域の信号である。図5図6において、時間領域の信号の横軸は、時刻を示すインデックス(整数)である。
【0042】
抽出部214は、評価信号の一部の区間を抽出区間として抽出する(S14)。例えば、図5,及び図6では、抽出された一部の区間を抽出区間T1としている。抽出部214は、抽出区間T1における評価信号を抽出する。評価信号を差分信号Ssとする場合、抽出部214は抽出区間T1で差分信号Ssを切り出す。抽出部214は、抽出区間T1の差分信号Ssのデータを抽出する。なお、抽出部214は、TSP信号の周波数に応じた時間幅(時間間隔)で抽出区間T1を決定している。つまり、抽出区間T1の時間幅は、TSP信号の周波数に基づいて設定されている。
【0043】
比較部215は、抽出区間T1の評価信号を用いて、左右の収音信号を比較する(S15)。つまり、比較部215は、抽出区間T1の評価信号に基づいて、Lchの収音信号Slと、Rchの収音信号Srとのばらつきを検出する。例えば、比較部215は、抽出区間T1の評価信号に基づいて、評価値を算出する。評価値は、Lchの収音信号Slと、Rchの収音信号Srとのばらつきを評価するための値である。比較部215は、評価値を閾値と比較することで、Lchの収音信号SlとRchの収音信号Srとを比較している。
【0044】
判定部216は、S15での比較結果に基づいて、良否判定を行う(S16)。判定部216が良好と判定した場合(S16のOK)、判定処理を終了する。例えば、判定部216は、評価値が予め設定された閾値よりも小さい場合、装着状態が良好であると判定する。つまり、装着状態の左右のばらつきが少ないため、処理装置201が、逆フィルタを生成するためのインパルス応答測定を行う。
【0045】
判定部216が不良と判定した場合(S16のNG)、S11に戻る。例えば、判定部216は、評価値が予め設定された閾値よりも大きい場合、装着状態が不良であると判定する。つまり、装着状態の左右のばらつきが大きいため、処理装置201はメッセージなどを被測定者1に出力して、装着状態の修正を促す。そして、被測定者1がヘッドホン43を装着し直す。
【0046】
被測定者1が装着状態を修正したら、S11に戻り、測定装置200が再測定を行う。そして、良好な装着状態と判定されるまで、S11~S16の処理を繰り返す。これにより、良好な装着状態での測定結果から逆フィルタを生成することができる。よって、左右バランスのよい頭外定位受聴を実現することができる。
【0047】
本実施の形態では、時間領域の評価信号を用いて、Lchの収音信号SlとRchの収音信号Srとを比較している。具体的には、比較部215は、抽出区間における評価信号に基づいて評価値を算出し、評価値を閾値と比較している。このようにすることで、収音信号を周波数特性に変換するための変換処理(高速フーリエ変換(FFT)等)が不要となる。つまり、時間領域の信号のみを用いて、装着状態の良否判定を行うことができる。よって、簡素な処理で良否判定を行うことができ、処理時間を短縮することができる。周波数領域への変換処理を高速に行うことが困難であるローコストなDSP制御でも、良否判定を適切に行うことができる。
【0048】
例えば、図5に示す信号波形では、Lchの収音信号SlとRchの収音信号Srとのバランスがよい。ここで、Lchの収音信号SlとRchの収音信号Srとのバランスがよいとは、左右の信号の周波数特性が揃っている(類似している、または差が少ない)ことを指す。特に、低周波数域における周波数振幅特性Fの左右差が小さい。よって、図5に示す収音信号Sl、Srから逆フィルタLinv、Rinvを生成することで、左右のバランスのよい頭外定位処理を実現することができる。
【0049】
一方、図6に示す信号波形では、Lchの収音信号SlとRchの収音信号Srとのバランスが悪い。ここで、Lchの収音信号SlとRchの収音信号Srとのバランスが悪いとは、左右の信号の周波数特性が揃っていない(類似していない、または差が大きい)ことを指す。特に、低域における周波数振幅特性Fの左右差が大きくなっている。図6に示す収音信号Sl、Srから逆フィルタLinv、Rinvを生成すると、左右のバランスが悪くなってしまう。本実施の形態では、抽出区間T1における評価信号を用いて、Lchの収音信号SlとRchの収音信号Srとを比較している。よって、判定部216が適切に良否判定を行うことができる。左右のバランスが悪い収音信号Sl、Srを排除することができる。よって、適切な逆フィルタを生成することができる。
【0050】
なお、抽出部214が抽出する抽出区間の数は2以上であってもよい。例えば、図5図6に示すように、抽出部214が2つの抽出区間T1、T2を抽出してもよい。もちろん、抽出区間の数は3以上であってもよい。複数の抽出区間を抽出する場合、抽出区間の時間幅は異なっていてもよく、同じであってもよい。さらには、複数の抽出区間を抽出する場合、一部の抽出区間は重複していてもよい。例えば、抽出区間T1と抽出区間T2の一部は重複していてもよい。また、抽出区間T1が抽出区間T2よりも広い時間幅である場合、抽出区間T1が抽出区間T2を完全に包含していてもよい。あるいは、複数の抽出区間は、完全にずれていてもよい。
【0051】
また、抽出部214が複数の抽出区間を抽出する場合、比較部215が、それぞれ抽出区間について、評価値を求めればよい。そして、比較部215は、それぞれの評価値と閾値とを比較すればよい。そして、1つの抽出区間における評価値が基準を満たさない場合、判定部216が不良と判定してもよい。あるいは、判定部216が、複数の比較結果に重みを持たせて、判定を行ってもよい。なお、抽出区間毎に閾値を変更してもよい。例えば、低周波数帯の抽出区間では、閾値を厳しく(不良と判定しやすく閾値を小さく)設定し、高周波数帯の閾値を緩く(良と判定しやすく閾値を大きく)設定する。このようにすることで、適切に良否判定を行うことができる。
【0052】
次に、抽出部214によって抽出する抽出区間の時間幅について説明する。出力された周波数スイープ信号の特徴によって、時間幅を分割してもよい。抽出区間の分割は、リニア間隔でもよいが、不等分割間隔でもよい。例えば、低周波数帯の抽出区間T1では、時間幅を長くする。高周波数帯の抽出区間T2では、時間幅を短くする。時間幅を短くすることで、FFTの分析幅に近づけることが可能である。このように、周波数スイープ信号の周波数に応じて、抽出区間の時間幅を決めることができる。また、抽出区間の時間幅は、対数軸(ログスケール)の周波数で決めてもよい。
【0053】
例えば、測定に用いるマイクユニット2やヘッドホン43のデバイス特性に応じて、周波数特性が著しく変化することがある。例えば、特定の周波数帯でピークやディップが出現しやすい場合がある。この場合、ピークやディップが出現しやすい周波数帯を非抽出区間としてもよい。ピークやディップが出現しやすい周波数帯は測定誤差が大きくなるため、抽出区間から排除する。このように、デバイス特性に基づいて、抽出区間を決定することができる。
【0054】
なお、評価信号は、収音信号自体でもよく、収音信号から算出された信号であってもよい。以下、時間領域の評価信号について説明する。以下に示す評価信号は、一例であり、本実施の形態で用いられる評価信号は以下の例に限られるものではない。
【0055】
(評価信号の例1)
評価信号として、収音信号Sl、Srの包絡線信号を用いることができる。図5図6に示すように、Lchの収音信号Slの極大値を結んだ包絡線を上側の包絡線信号Sluとし、極小値を結んだ包絡線を下側の包絡線信号Sldとする。同様に、Rchの収音信号Srの極大値を結んだ包絡線を上側の包絡線信号Sruとし、極小値を結んだ包絡線を下側の包絡線信号Srdとする。つまり、評価信号取得部213は、Lchの収音信号Slから2つの包絡線信号Slu,Sldを算出する。評価信号取得部213は、Rchの収音信号Srから2つの包絡線信号Sru、Srdを算出する。
【0056】
ここでは、評価信号取得部213が、収音信号Sl、Srの極大値をスプライン補間によりつなぐことで、上側の包絡線信号Slu、Sruを算出している。評価信号取得部213が、収音信号Sl、Srの極小値をスプライン補間によりつなぐことで、下側の包絡線信号Sld、Srdを算出している。もちろん、包絡線を求めるための補間は、スプライン補間に限られるものではない。
【0057】
抽出部214は、抽出区間T1における上側の包絡線信号Slu、Sruと下側の包絡線信号Sld、Srdを抽出する。比較部215が、抽出区間T1における上側の包絡線信号Sluと下側の包絡線信号Sldとの間の面積を評価値として算出する。つまり、比較部215は、抽出区間T1において、上側の包絡線信号Sluから下側の包絡線信号Sldを減算した減算値を求める。減算値の抽出区間T1における総和がLchでの抽出区間T1の面積となる。比較部215が上側の包絡線信号Sruから下側の包絡線信号Srdを減算した減算値を求める。減算値の抽出区間T1における総和がRchでの抽出区間T1の面積となる。比較部215が、Lchでの面積とRchでの面積の差分値を評価値として求める。
【0058】
判定部216は評価値(面積の差分値)が閾値よりも大きいか否かを判定する。面積の差分値が閾値よりも大きい場合、Lchの収音信号SlとRchの収音信号Srの違いが大きい。よって、LchとRchのバランスが悪いため、装着状態が不良と判定する。面積の差分値が閾値以下の場合、Lchの収音信号SlとRchの収音信号Srの違いが小さい。よって、LchとRchのバランスが同じであるため、装着状態が良好と判定する。このように、抽出区間の評価信号から求められた評価値を閾値と比較することで、装着状態の左右のバランスを判定することができる。
【0059】
(評価信号の例2)
例2では差分信号Ssが評価信号として用いられている。つまり、評価信号取得部213が差分信号Ss=Sl-Srを算出する。抽出部214は、抽出区間T1における差分信号Ssを抽出する。比較部215は、抽出区間T1における差分信号Ssの絶対値の総和を評価値として算出する。そして、比較部215は、評価値と閾値を比較する。判定部216は、比較結果に応じて、良否判定を行う。
【0060】
なお、評価信号として差分信号はLchの収音信号SlとRchの収音信号Srの差分値に基づくものであればよい。例えば、差分信号Ss=Sr―Slとしてもよい。さらには、評価信号取得部213が、差分値の絶対値を差分信号としてもよい。
【0061】
(評価信号の例3)
例3では、評価信号が収音信号Sl、Sr自体となっている。評価信号取得部213は、収音信号Sl、Srを評価信号として取得する。抽出部214は、収音信号Sl、Srの一部の区間を抽出区間として、算出する。比較部215は、抽出区間における収音信号Sl、Srの相関値を評価値として求める。判定部216は、相関値を閾値と比較して、良否判定を行う。相関値が閾値よりも高い場合、収音信号Slと収音信号Srとが類似しているため、判定部216が良好と判定する。このようにすることで、判定部216が、左右バランスを判定することができる。
【0062】
なお、上記の例1~3の評価信号を組み合わせて用いることも可能である。つまり、比較部215は、それぞれの評価信号に応じた評価値を求める。抽出区間における評価信号に基づいて、比較部215は、評価値を算出する。つまり、1つの抽出区間について、2以上の評価値を算出してもよい。比較部215は、複数の評価値をそれぞれの閾値と比較する。判定部216が、複数の比較結果に応じて判定を行う。例えば、1つの比較結果が基準を満たさない場合、判定部216が不良と判定してもよい。あるいは、複数の比較結果に重みをも持たせて、判定を行ってもよい。
【0063】
(立ち上がり時刻の時間差)
さらに、評価信号の立ち上がり時刻の時間差に基づいて、装着状態を判定することができる。例えば、比較部215は、左の包絡線信号Sluの一つ目の山の立ち上がり時刻を求める。同様に、比較部215は、右の包絡線信号Sruの一つ目の山の立ち上がり時刻を求める。立ち上がり時刻は、出力ユニットからマイクまでの距離に対応する。
【0064】
比較部215は、2つの立ち上がり時刻の時間差(差分)を求める。そして、判定部216は、時間差が閾値よりも大きい場合、装着状態が不良であると判定する。判定部216は、時間差が閾値以下の場合、装着状態が良好であると判定する。立ち上がり時刻の時間差が閾値よりも大きい場合、周波数振幅特性の低域のレベル差が大きくなる。
【0065】
このように、比較部215は、立ち上がり時刻の左右の時間差を評価値として、閾値と比較する。そして、判定部216は、評価値と閾値との比較結果に基づいて、装着状態の良否判定を行う。LchとRchのバランスが悪い場合、左右の出力ユニットからマイクまでの距離が異なってしまう。つまり、左ユニット43Lから左マイク2Lまでの測定信号の到達時間が、右ユニット43Rから右マイク2Rまでの測定信号の到達時間とずれてしまう。よって、立ち上がり時刻の時間差に応じて、判定部216が、左右バランスを判定することができる。
【0066】
また、立ち上がり時刻の時間差に応じて、左右の抽出区間の抽出位置(先頭時刻)を調整してもよい。例えば、上側の包絡線信号Sluの立ち上がり時刻が、上側の包絡線信号Sruの立ち上がり時刻よりも早い場合、時間差分だけ包絡線信号Sluを前側(過去側)にずらす。反対に上側の包絡線信号Sluの立ち上がり時刻が、上側の包絡線信号Sruの立ち上がり時刻よりも遅い場合、時間差分だけ包絡線信号Sruを前側(過去側)にずらす。
【0067】
評価信号の立ち上がり時刻に左右差がある場合、比較部215が立ち上がり時刻を揃えて、評価値を求める。このように、評価信号の立ち上がり時刻に基づいて、抽出期間の抽出位置を調整することができる。
【0068】
また、上記の説明では、評価信号として包絡線信号における抽出位置を調整したが、差分信号における抽出位置を調整してもよい。例えば、左右の立ち上がり時刻に時間差がある場合、評価信号取得部213が立ち上がり時刻を揃えて収音信号Slと収音信号Srの差分信号や相関値を求める。このようにすることで、抽出位置を調整することができる。つまり、左右の立ち上がり時刻を揃えて、比較部215が左右の収音信号Sl,Srを比較することができる。
【0069】
なお、上記の実施の形態では、処理装置201が逆フィルタLinv、Rinvを生成していたが、処理装置201は、逆フィルタLinv、Rinvを生成するものに限定されるものではない。例えば、処理装置201は、左右の収音信号を適切に取得する必要がある場合に好適である。つまり、左右の収音信号を比較することで、ヘッドホンやマイクの装着状態が適切であるか否かを判定することができる。
【0070】
また、左右の収音信号を比較することで、測定時の異音を検出することも可能である。収音信号は、再生した周波数スイープ信号がマイクユニット2によって収音されたものである。ヘッドホン43またはマイクユニット2が正しき装着されていない場合、低域から中域までは、左右の感度差が少ない特徴がある。例えば、左右の収音信号は、4kHz以下の低域では、同様の特性を示すという特徴がある。
【0071】
測定時に突発的な異音が混入した場合、測定信号未満の音であれば検出することができる。例えば、測定信号が1秒程度の周波数スイープ信号である場合、抽出期間を例えば、0.2秒程度で分割する。各時間幅において、期待される振幅値から著しく逸脱する値を抽出した場合に、突発音として検出することができる。ここで、期待される振幅値は、期待される振幅値は、例えば、過去の測定結果から設定することができる。具体的には、各時間幅の振幅値の平均値や中央値などを閾値と比較すればよい。
【0072】
また、評価信号に基づいて、逆フィルタのオフセット量を調整することも可能である。具体的には、評価信号に基づいて、左右の逆フィルタの周波数振幅特性にオフセットを与えることができる。この点について、以下に説明する。
【0073】
抽出区間T1の差分信号Ssから求められた代表値に基づいて、収音信号Sl、Srにオフセットを与える。例えば、差分信号Ssの代表値が10dBである場合、収音信号Srに10dBのオフセットを与える。代表値としては、最大値、平均値、中央値などを用いることができる。このようにすることで、より適切に比較することができる。オフセットを与える処理は、左右の包絡線信号の相関が高い場合に有効である。
【0074】
実施の形態2.
本実施の形態では、実施の形態1の良否判定を行った後に、逆フィルタを生成する。さらに、逆フィルタを用いて、頭外定位処理を行う。図7は、本実施の形態にかかる逆フィルタ生成方法と、再生方法を示すフローチャートである。
【0075】
装着状態が良好と判定された場合に、処理装置201が逆フィルタを生成する(S21)。例えば、上記のように、インパルス応答測定を行うことで、逆フィルタLinv,Rinvを生成することができる。このようにすることで、逆フィルタの生成方法が実施される。適切な逆フィルタを生成することができる。
【0076】
逆フィルタを生成する処理の一例について説明する。左右のばらつきが小さいと判定された場合、処理装置201は、インパルス応答測定を行って、逆フィルタを生成する。左右のばらつきが小さいと判定された場合、処理装置201は、ヘッドホン43に対して測定信号を出力する。測定信号は、インパルス信号やTSP(Time Streched Pulse)信号等である。ここでは、測定信号としてインパルス音を用いて、処理装置201がインパルス応答測定を実施している。
【0077】
ヘッドホン43はインパルス音などを発生する。具体的には、左ユニット43Lから出力されたインパルス音を左マイク2Lで測定する。右ユニット43Rから出力されたインパルス音を右マイク2Rで測定する。測定信号の出力時に、左マイク2L、及び右マイク2Rがそれぞれ収音信号を取得することで、インパルス応答測定が実施される。
【0078】
処理装置201は、離散フーリエ変換や離散コサイン変換により、収音信号の周波数特性を算出する。周波数特性は、パワースペクトルと、位相スペクトルとを含んでいる。なお、処理装置201はパワースペクトルの代わりに振幅スペクトルを生成してもよい。
【0079】
処理装置201は、パワースペクトルを用いて、逆フィルタを生成する。具体的には、処理装置201は、パワースペクトルをキャンセルするような逆特性を求める。逆特性は、対数パワースペクトルをキャンセルするようなフィルタ係数を有するパワースペクトルである。
【0080】
処理装置201は、逆離散フーリエ変換又は逆離散コサイン変換により、逆特性と位相特性から時間領域の信号を算出する。処理装置201は、逆特性と位相特性をIFFT(逆0フーリエ変換)することで、時間信号を生成する。処理装置201は、生成した時間信号を所定のフィルタ長で切り出すことで、逆フィルタを算出する。処理装置201は、マイク2L、2Rからの収音信号に対して、同様の処理を行うことで、逆フィルタLinv、Rinvを生成する。なお、逆フィルタを求めるための処理は、公知の手法を用いることができるため、詳細な説明を省略する。
【0081】
そして、頭外定位処理装置100は、逆フィルタLinv,Rinvを用いて頭外定位処理を実施する(S22)。つまり、フィルタ部41、フィルタ部42が逆フィルタLinv,Rinvを用いて畳み込み演算処理を行う。これにより、頭外定位処理されたステレオ信号を再生することができる。本実施の形態にかかる再生方法では、左右バランスのよい逆フィルタLinv,Rinvを用いることができるため、ユーザUは頭外定位受聴を効果的に行うことができる。なお、逆フィルタを生成する生成方法では、S22は不要となる。
【0082】
上記処理のうちの一部又は全部は、コンピュータプログラムによって実行されてもよい。上述したプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0083】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0084】
U ユーザ
1 被測定者
10 頭外定位処理部
11 畳み込み演算部
12 畳み込み演算部
21 畳み込み演算部
22 畳み込み演算部
24 加算器
25 加算器
41 フィルタ部
42 フィルタ部
43 ヘッドホン
200 測定装置
201 処理装置
211 測定信号出力部
212 収音信号取得部
213 評価信号取得部
214 抽出部
215 比較部
216 判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7