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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】積層体、包装体及び包装物品
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20240220BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240220BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
B32B27/18 G
B32B27/32 C
B65D65/40 D
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019236378
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021104605
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小出 洋子
(72)【発明者】
【氏名】竹内 礼
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大
(72)【発明者】
【氏名】塩川 俊一
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-181897(JP,A)
【文献】特開2008-056835(JP,A)
【文献】特開2004-261669(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181793(WO,A1)
【文献】特開2005-281520(JP,A)
【文献】特開2020-075382(JP,A)
【文献】特開平10-138410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
B01D
B01J
B65D
C09J
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1の最外層と、水蒸気バリア層と、酸素吸収層と、第2の最外層とをこの順序で備える積層体において、
前記酸素吸収層は、少なくとも酸素吸収物質とバインダー樹脂を含む酸素吸収物質含有層と、少なくともアルカリ物質とバインダー樹脂を含むアルカリ物質含有層を備え、
前記酸素吸収物質含有層及び前記アルカリ物質含有層に含まれるバインダー樹脂の主成分は、ガラス転移温度が20℃以上100℃未満のアクリル樹脂と硬化剤を混合して硬化させた樹脂であり、
前記水蒸気バリア層が、ガラス転移温度が80℃以上の環状オレフィンコポリマーからなることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記バインダー樹脂は水酸基価が10~90mg・KOH/gのポリオール変性アクリル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記硬化剤はポリイソシアネート系化合物であることを特徴とする、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記酸素吸収物質は、前記酸素吸収物質含有層の全質量に対し10質量%~60質量%の割合で含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記酸素吸収物質含有層は、アルカリ物質前記酸素吸収物質含有層中に含有する前記酸素吸収物質100質量部に対し10質量部~100質量部の割合で含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記第1の最外層は、基材と水溶性高分子含有層とを備える、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記第1の最外層は、前記基材と前記水溶性高分子含有層との間に、無機物の蒸着層からなる無機蒸着層を更に備える、請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
前記酸素吸収物質としてフェノール化合物を少なくとも含有する、請求項1~のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項9】
前記酸素吸収物質としてピロガロール基を有するフェノール化合物を少なくとも含有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項10】
前記酸素吸収物質として、没食子酸及び没食子酸エステルから選択される少なくとも一種を含有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項11】
前記第2の最外層はシーラント層を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の積層体を含む包装体。
【請求項13】
請求項12に記載の包装体と、これに収容された内容物とを含んだ包装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、包装体及び包装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の包装において包装体内に酸素が存在することにより、内容物である食品等が酸化して、劣化したり変色したりすることがある。包装された内容物の酸化劣化を防ぐには、包装体内の酸素を除去すること、及び外部の酸素が包装体内部に侵入しないよう遮断することで無酸素状態を作ることが有効である。
【0003】
ところが、一般的には包装作業は大気中で行うため、包装時は包装体内に酸素が残存した状態になる。この問題を解決するために、酸素が包装体内に残らないように包装する手段として、脱気包装、真空包装、ガス置換包装などの手段を用いることがある。
【0004】
しかし、このような特別な包装手段を用いると、特別な充填包装設備を別途用意する必要があり、高額な設備費用がかかったり、充填包装速度が上がらず生産効率が低下したりと、不利益が発生する。また、上記のような手段で包装時に酸素が残らないように包装したとしても、包装後に包装材を通して外部の酸素が経時で侵入してくるため、包装体内を無酸素状態に維持することは難しい。
【0005】
そこで、包装体内の残存酸素及び包装後に経時で外部から浸入してくる酸素を除去する手段として、酸素吸収物質を充填した小袋からなる脱酸素剤を、内容物が収容された包装体内に充填する方法が用いられている。この方法では、一定期間、すなわち酸素吸収物質の酸素吸収能力が維持している期間は、酸素吸収物質が酸素を吸収することで酸素を除去することができる。そのため、包装時に包装体内に残った酸素や外部から経時で進入した酸素も除去することが可能であり、包装体内を無酸素状態に維持するのに非常に有効である。しかし、脱酸素剤を用いる場合、小袋に酸素吸収物質を充填する際の手間やコストが発生する。また、消費者の誤飲の可能性やゴミの発生等の問題がある。
【0006】
このような欠点を解消し、一定期間包装体内の酸素を除去及び遮断する手段として、包装材を構成するフィルムなどの一部に酸素吸収機能を設けた酸素吸収フィルムや、それを用いた酸素吸収包装材が考案され、一部実用化されている。
【0007】
上記のような酸素吸収包装材は、現状では食品包装分野で用いられるケースが多く、特にレトルト食品(高温高圧殺菌食品)などの長期保存食品や、カビが発生しやすい高水分食品の包装に用いられる。
【0008】
特に、長期保存食品の包装については、近年、輸送コストや容器の廃棄処理の観点から、缶や瓶の使用は減少し、一方で、包装材の一部に酸素吸収フィルムを設けたレトルトパウチ包装材の形態が主流となっている。
【0009】
容器が缶や瓶の場合は、外部からの酸素の侵入がなく、包装時に残存した酸素のみ除去すれば良いため、真空包装や窒素ガス置換包装などの方法が用いられてきた。缶や瓶に替えて酸素吸収包装材を用いた場合、上述したような真空包装や窒素ガス置換包装などの特別な包装手段を用いることによる設備費用や生産効率の問題はない。しかしながら、従来の酸素吸収フィルムは、瓶・缶に比べると酸素を透過し易いため、缶・瓶と同等の消費期限をレトルトパウチ包装材に付与することは困難であった。そこで、レトルトパウチ包装材としても好適に使用することができる様々な酸素吸収フィルムやそれを用いた酸素吸収包装材が開発されている。
【0010】
現在実用化されている酸素吸収包装材には、酸素吸収物質として鉄や酸素欠損酸化物を樹脂に添加したものや、樹脂組成物の構造の一部に不飽和結合を設けたものがある。
【0011】
しかし、鉄系の酸素吸収物質を用いると金属探知機の使用に制限が生じる、また、酸素欠損酸化物や不飽和結合の構造を持つ樹脂組成物は材料そのものの価格が高いという問題がある。
【0012】
一方で、アスコルビン酸類、グルコース等の還元糖類、グリセリン等の多価アルコール類、カテコールなどのフェノール類、ヒドロキシ安息香酸などのフェノールカルボン酸類などの有機系の物質は、脱酸素剤の酸素吸収物質として長い間検討されてきた物質であり、コストも安価で安全である。
【0013】
例えば、酸素吸収物質としてフェノールカルボン酸類の中でも没食子酸(3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸)を使用した酸素吸収包装材として、特許文献1には、熱可塑性樹脂中に没食子酸、アルカリ物質、酸化反応触媒を添加してなる樹脂組成物から形成された酸素吸収フィルムが開示されている。また、特許文献2には、基材、没食子酸含有層、アルカリ物質含有層及びシーラント層がこの順で積層されてなる酸素吸収フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2011-92921号公報
【文献】特開平10-138410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは、没食子酸等の酸素吸収物質を含有する酸素吸収層を備え、助剤としてアルカリ物質を含有してなる酸素吸収フィルムについて鋭意研究を重ねた。その結果、このような酸素吸収層とアルカリ物質を含む酸素吸収フィルムは、酸素吸収性能には優れるものの、ラミネート強度は必ずしも十分でなく、特に基材とシーラント層との間でデラミネーションを発生しやすいことがわかった。
【0016】
そこで、本発明は、包装材として実用化するのに十分な密着強度を維持しつつ、酸素吸収性能にも優れた積層体、それを含む包装体及び包装物品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によると、少なくとも第1の最外層と、酸素吸収層と、第2の最外層とをこの順序で備える積層体において、酸素吸収層は、少なくとも酸素吸収物質とバインダー樹脂を含む酸素吸収物質含有層と、少なくともアルカリ物質とバインダー樹脂を含むアルカリ物質含有層を備え、酸素吸収物質含有層及びアルカリ物質含有層に含まれるバインダー樹脂の主成分は、ガラス転移温度が20℃以上100℃未満のアクリル樹脂と硬化剤を混合して硬化させた樹脂であり、水蒸気バリア層が、ガラス転移温度が80℃以上の環状オレフィンコポリマーからなることを特徴とする積層体が提供される。
【0018】
他の実施形態において、アクリル樹脂は水酸基価が10~90mg・KOH/gのポリオール変性アクリル樹脂でもよい。
【0019】
他の実施形態において、硬化剤はポリイソシアネート系化合物でもよい。
【0020】
他の形態において、酸素吸収物質は、酸素吸収物質含有層の全質量に対し10質量%~60質量%の割合で含有してもよい。
【0021】
他の形態において、酸素吸収物質含有層は、アルカリ物質酸素吸収物質含有層中に含有する酸素吸収物質100質量部に対し40質量部~100質量部の割合で含有してもよい。
【0022】
他の形態において、第1の最外層は、基材と水溶性高分子含有層とを備えてもよい。
【0023】
他の形態において、第1の最外層は、基材と水溶性高分子含有層との間に、無機物の蒸着層からなる無機蒸着層を更に備えてもよい。
【0025】
他の形態において、酸素吸収物質としてフェノール化合物を少なくとも含有してもよい。
【0026】
他の形態において、酸素吸収物質としてピロガロール基を有するフェノール化合物を少なくとも含有してもよい。
【0027】
他の形態において、酸素吸収物質として、没食子酸及び没食子酸エステルから選択されてもよい。
【0028】
他の形態において、第2の最外層はシーラント層を含んでもよい。
【0029】
本発明の第2側面によると、上記積層体を含む包装体が提供される。
【0030】
本発明の第3側面によると、上記包装体と、これに収容された内容物とを含んだ包装物品が提供される。
【発明の効果】
【0031】
本発明によると、包装材として実用化するのに十分な密着強度を維持しつつ、酸素吸収性能にも優れた積層体、それを含む包装体及び包装物品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の第一の実施形態に係る積層体を概略的に示す断面図。
図2】本発明の第二の実施形態に係る積層体を概略的に示す断面図。
図3】本発明の第三の実施形態に係る積層体を概略的に示す断面図。
図4】本発明の第四の実施形態に係る積層体を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本実施形態に係る積層体は、酸素吸収フィルムとしてシート状で使用してもよいし、包装材として例えば袋状体にして使用してもよく、例えば、食品、薬剤、医薬品、化粧品、電子部品等に好適に用いられる。
【0034】
<積層体>
以下に、本実施形態に係る積層体について、図面を参照しながら説明する。なお、同様又は類似した機能を有する要素については、同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0035】
本実施形態に係る積層体について、代表的な構成例を図1図4に示す。
【0036】
図1は、第一の実施形態に係る積層体1を概略的に示す断面図である。この積層体1は、第1の最外層10として基材10a、酸素吸収層11として酸素吸収物質含有層11aとアルカリ物質含有層11b、第2の最外層12を備えている。
【0037】
図2は、第二の実施形態に係る積層体2は、第1の最外層10として基材10aと水溶性高分子含有層10b、酸素吸収層11として酸素吸収物質含有層11aとアルカリ物質含有層11b、第2の最外層12を備えている。
【0038】
図3は、第三の実施形態に係る積層体3は、第1の最外層として基材10aと水溶性高分子含有層10bと無機蒸着層10c、酸素吸収層11として酸素吸収物質含有層11aとアルカリ物質含有層11b、第2の最外層12を備えている。
【0039】
図4は、第四の実施形態に係る積層体4は、第1の最外層10として基材10aと、水溶性高分子含有層10bと無機蒸着層10cを備え、酸素吸収層11として酸素吸収物質含有層11aとアルカリ物質含有層11bを備え、第2の最外層12を備え、第1の最外層10と酸素吸収層11との間には水蒸気バリア層13を備えている。
【0040】
なお、図1図4に示す積層体1~4では、何れの層間においても接着層(図示せず)が設けられていてもよい。
【0041】
以下に、各層の材料や機能等について説明する。
(第1の最外層)
第1の最外層10には、酸素バリア性を有する基材10aを用いる。酸素バリア性を有する限り、第1の最外層10は図1に示すように単層からなる基材であってもよいし、図2~4に示すように多層構造からなる基材であってもよい。
【0042】
図2に示される実施形態2における積層体2では、酸素バリア性を高めるために水溶性高分子含有層10bを備えた多層構造を有する。
【0043】
図3に示される実施形態3における積層体3では、さらに酸素バリア性を高めるために無機蒸着層10cを備えた多層構造を有する。
【0044】
図4に示される実施形態4における積層体4では、第1の最外層10と酸素吸収層11の密着性を高めるために水蒸気バリア層13を備えた多層構造を有する。
【0045】
基材10aとしては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン(登録商標))、ポリエチレンナフタレートなど、あるいはこれら高分子の共重合体など通常包装材料として用いられるものが使用できる。また、樹脂フィルムの中で比較的バリア性の高いポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデンなどの塗液をプラスチック基材上にコーティングしたものを用いることもできる。基材10aは用途や第1の最外層10の層構造等に応じて上記材料から適宜選択される。
【0046】
基材10aは、必要に応じて、可塑剤、酸化防止剤、着色剤、充填材、紫外線吸収剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤などの公知の添加剤を含有してもよい。
【0047】
また、図2のように、第1の最外層10として、基材10a上に水溶性高分子含有層10bを設けることができる。水溶性高分子含有層10bを設けることにより、第1の最外層10の酸素バリア性を更に高めることができる。水溶性高分子含有層10bは、水溶性高分子を含有し、水に対し膨潤性を有するものであればよい。
【0048】
水溶性高分子含有層10bに含有される水溶性高分子としては、例えば、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル・アルキド樹脂、アミノ樹脂等が挙げられる。
【0049】
水溶性高分子含有層10bは、水溶性高分子以外に、金属アルコキシド及びその加水分解物、又は塩化錫の少なくとも一種を含有してよい。
【0050】
金属アルコキシドとしては、例えば、テトラエトキシシラン〔Si(OC)4〕、トリイソプロポキシアルミニウム〔Al(O-i-C〕など、一般式:
M(OR)n
(M:Si、Ti、Ai、Zr等の金属,R:CH、C等のアルキル基)で表せるものが挙げられる。なかでもテトラエトキシシラン、トリイソプロポキシアルミニウムが加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるので好ましい。
【0051】
塩化錫は、例えば、塩化第1錫(SnCl)、塩化第2錫(SnCl)、あるいはそれらの混合物であってもよく、無水物でも水和物でも用いることができる。
【0052】
水溶性高分子含有層10bは、例えば、水溶性高分子と塩化錫を水系溶媒(水或いは水/アルコール混合液)で溶解させた溶液、或いはこれに金属アルコキシドを直接、或いは予め加水分解させるなど処理を行ったものを混合した溶液を、基材10a上にコーティングし、これを加熱乾燥して形成することができる。
【0053】
また、図3のように、基材10aと水溶性高分子含有層10bの間に無機蒸着層10cを設けることができる。無機蒸着層10cを設けることにより、水により膨潤した水溶性高分子含有層10bが、無機蒸着層10cの隙間に入り込み同層の割れを防止することができるため、酸素バリア性を更に高めることができる。無機蒸着層10cは、例えば、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、錫、又はマグネシウムなどの酸化物、窒化物、又は弗化物の単体、或いはそれらの複合物からなり、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ化学気相成長法(Chemical vapor deposition;CVD法)などの真空プロセスにより形成される。
【0054】
第1の最外層10の膜厚は適宜設定することができる。良好な加工性、取り扱い性の観点からは、10μm以上50μm以下の膜厚であってよい。
【0055】
さらに、図4のように、第1の最外層10と酸素吸収層11の間に水蒸気バリア層13を設けることができる。この構成により、第2の最外層12側から透過した水分により生成したアルカリ水溶液が水蒸気バリア層13によりブロックされる。その結果、基材層である第1の最外層10側にアルカリ水溶液が浸透するのを防ぎ、水溶性高分子含有層10bの劣化を抑えることにより、第1の最外層10と酸素吸収層11の密着強度をさらに維持することができる。
【0056】
以下において、第1の最外層10を「基材層」又は「基材フィルム」ということがある。基材10a、無機蒸着層10c、及び水溶性高分子含有層10bを備える基材フィルムからなる第1の最外層10としては、例えば、商品名「GL-AE」(凸版印刷製)等の市販品を使用することができる。
【0057】
(酸素吸収層)
酸素吸収層11は、酸素吸収物質含有層11aとアルカリ物質含有層11bから構成されている。
【0058】
酸素吸収物質含有層11aは、少なくとも酸素吸収物質とバインダー樹脂を含有する。酸素吸収物質含有層11aに含有される酸素吸収物質は、例えば、フェノール化合物、グルコース等の還元糖類、グリセリン等の多価アルコールであってよく、一形態においてフェノール化合物が好ましい。フェノール化合物としては、没食子酸、アスコルビン酸、カテコール、ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。その中でも、特にピロガロール基を有するフェノール化合物は、酸素吸収に使われる水酸基の数を多く持つ点で好ましい。ピロガロール基を有するフェノール化合物は、例えば、没食子酸(3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸)、及び没食子酸エステル(例えば、没食子酸プロピル、没食子酸エチル、没食子酸オクチル等)であってよい。酸素吸収物質含有層12aは、一形態において、酸素吸収物質として、没食子酸及び没食子酸エステル(以下において、「没食子酸類」ともいう。)から選択される少なくとも一種を含有してよく、没食子酸及び没食子酸プロピルの少なくとも一方を含有してよい。これらは食品添加物で、比較的コストも安いため、安全かつ安価で、優れた酸素吸収性能を持つ包装材料を提供することができる。
【0059】
酸素吸収物質含有層11aに含有されるバインダー樹脂のガラス転移温度は、低い方が除去する酸素や水蒸気を透過し易くなり、酸素吸収物質と酸素が反応し易くなる点で好ましく、尚且つ、ガラス転移温度が低い方が塗膜の柔らかさが発現するため、基材やシーラントに対する追従性が良くなる点で好ましい。しかしながら、ガラス転移温度が20℃より低いバインダー樹脂の場合、耐ブロッキング性が悪化し加工性の観点から取り扱いが難しくなりやすい。一方で、ガラス転移温度が100℃より高いバインダー樹脂では塗膜の柔軟性が低くなり、基材やシーラントに塗膜が追従せず、ラミネート強度や屈曲耐性が低くなる傾向にある。従って、密着性という観点から、バインダー樹脂のガラス転移温度は20℃以上100℃以下であることが望ましく、ラミネート強度の低下を抑制することができる。バインダー樹脂には、必要に応じて、更に架橋材や可塑剤を含有して、柔軟性を調整してもよい。
【0060】
更に、バインダー樹脂としては、水酸基価が10~90mg・KOH/gのポリオール変性アクリル樹脂にポリイソシアネート系化合物を含有させてなる、耐候性のあるアクリルウレタン塗料組成物を用いることが望ましい。このようなバインダー樹脂を用いることにより、アルカリ物質によるアルカリ物質層の強度低下を抑制することが可能になり、ラミネート強度の低下をさらに抑制することができる。しかし、水酸基価が10mg・KOH/g未満では架橋密度が低くなりラミネート強度や耐薬品性が低下しやすくなり、一方で、水酸基価が90mg・KOH/gを超えると、架橋密度が高くなりすぎて脆い膜になる可能性がある。
【0061】
酸素吸収物質含有層11aとアルカリ物質含有層11bのバインダー樹脂においては、ガラス転移温度が20~100℃で、さらに、特に水酸基価が10~90mg・KOH/gのポリオール変性アクリル樹脂にポリイソシアネート系化合物を含有させてなるポリブラスチック用アクリルウレタン塗料組成物を用いることで、バインダー樹脂に柔軟性を付与して基材やシーラントへの追従性を向上させ密着低下を抑制し、更にアクリル樹脂を用いることでアルカリによるバインダー樹脂の劣化を抑制し凝集力を保つことが可能となる。
【0062】
また、図4の構成において、アクリル樹脂をバインダー層として使用することで、アンカーコート層を形成しなくても、水蒸気バリア層13と酸素吸収層11を密着させることができるため、アルカリのアンカーコート剤へのアタックによるラミネート強度の低下のリスク削減と、工程数削減によるコスト削減効果もある。
【0063】
酸素吸収物質含有層11aは、前述したように、更にアルカリ物質を含有しても良い。図1~4に示される積層体はいずれも、後述するアルカリ物質含有層11bを、酸素吸収物質含有層11aと第2の最外層12との間に備えるが、他の実施形態として、アルカリ物質含有層11bを備えず、酸素吸収物質含有層11a内に酸素吸収物質とアルカリ物質とが混在する形態でアルカリ物質を積層体中に含有していてもよい。
【0064】
積層体1~4において、アルカリ物質は、酸素吸収物質による酸素吸収を促進する助剤として機能する。例えば、没食子酸類は、アルカリ物質と水が存在する環境下で酸素と反応することで、優れた酸素吸収機能を発現することが知られている。没食子酸類の反応は、pH8以上で十分に進行する。
【0065】
酸素吸収物質含有層11aがアルカリ物質を含有する場合、アルカリ物質は、酸素吸収物質含有層11a中に含有される酸素吸収物質100質量部に対し、10質量部~100質量部であってよく、20質量部~70質量部であってよい。
【0066】
さらに酸素吸収物質含有層11aは、必要に応じて、可塑剤、酸化防止剤、着色剤、充填材、紫外線吸収剤などの任意の添加剤を含有してもよい。
【0067】
酸素吸収物質含有層11aにおける酸素吸収性物質の含有率は、酸素吸収性能の観点から適宜設定することができ、例えば、酸素吸収物質含有層11aの全質量に対して10質量%~60質量%であってよく、30質量%~50質量%であってよい。
【0068】
酸素吸収物質含有層11aの塗工の際に用いられるコーター及び印刷機の種類、並びにそれらの塗工方式としては特に限定されない。代表的なものとしては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバースグラビア方式、オフセットグラビア方式等のグラビアコーター、リバースロールコーター、マイクログラビアコーター、チャンバードクター併用コーター、エアナイフコーター、ディップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター等を挙げることができる。
【0069】
(水蒸気バリア層)
図4に示す一実施形態の積層体4は、第1の最外層10と酸素吸収層11との間に水蒸気バリア層13を備える。
【0070】
水蒸気バリア13層は、没食子酸等の酸素吸収物質を含有する酸素吸収層を備えた酸素吸収フィルムにおいては、特に基材層と酸素吸収層との間の密着強度が十分ではない。この原因は、酸素吸収物質による酸素吸収を促進する助剤として添加されるアルカリ物質が、特に酸素吸収物質による酸素吸収後にシーラント側から透過してくる水分に溶解し、そのアルカリ水溶液が基材層と酸素吸収層との界面に到達するためである。
【0071】
図4に示すように、水溶性高分子含有層10bと酸素吸収層11との間に水蒸気バリア層13を備えることにより、第2の最外層12側から透過した水分により生成したアルカリ水溶液が水蒸気バリア層13によりブロックされる。その結果、基材層である第1の最外層10側にアルカリ水溶液が浸透するのを防ぎ、水溶性高分子含有層10bの劣化を抑えることで、第1の最外層10と酸素吸収層11間の密着強度を維持することができる
【0072】
水蒸気バリア層13は、積層方法は特に限定されない。水分を実質的に透過しない層であればよく、水蒸気透過度(g/m/日)は50g/m/日以下であることが好ましく、40g/m/日以下である事がより好ましく、20g/m/日以下であると更に好ましい。ここで、水蒸気透過度(g/m/日)は、40℃90%RHの条件で測定した時の値である。水蒸気バリア層は耐透湿性樹脂を含有していてもよい。水分によって水蒸気バリアが低下せず水蒸気透過度が50g/m/日以下の耐透湿性樹脂としては、ポリ塩化ビニリデン及びその共重合体(10g/m/日以下)、塩化ビニル及びその共重合体(5~50g/m/日)、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(20~70g/m/日)、二軸延伸及び無延伸ポリプロピレン(10g/m/日以下)、ポリエチレン系樹脂(高密度ポリエチレン5~10g/m/日、低密度ポリエチレン15~20g/m/日)、エチレン系樹脂(エチレン酢酸ビニル系樹脂40~50g/m/日)、ポリアクリロニトリル及びその共重合体(15~20g/m/日)、環状オレフィン系樹脂(10g/m/日以下)などが挙げられる。
【0073】
尚、水蒸気透過度は、水蒸気バリア層13の水蒸気透過度に合わせて、JIS Z 0208 防湿包装材料の透湿度試験方法 (カップ法)、もしくはJIS K7129Bのモコン法のどちらかを選択し、測定条件を40℃90%RHで確認した。
【0074】
また、耐透湿性樹脂は、更に耐薬品性に優れる特徴を持つ樹脂が好ましい。例えば、極性の無い環状オレフィン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩化ビニル系樹脂が好ましく、特に水蒸気透過度の低い環状オレフィン系樹脂が好ましい。ここで、環状オレフィン系樹脂には、ノルボルネンとオレフィンを共重合した環状オレフィンコポリマー(Cyclic olefin copolymer;COC)、及び、ノルボルネンを開環重合し水素添加した重合物である環状オレフィンポリマー(Cyclic olefin polymer;COP)が含まれる。COCとしては、例えば、三井化学株式会社のアペル、日本ゼオン株式会社のゼオネックス、(株)ポリプラスチックのTOPAS、クラボウのCoxec(登録商標)(コゼック(登録商標))などが挙げられる。
【0075】
本実施形態の一形態において、耐透湿性樹脂は、加工性やコストの観点から、環状オレフィンコポリマー(COC)が好ましい。Tg以下の温度ではガラス状態を維持するため吸着した水分子が内部に拡散され難くなる。そのため、環状オレフィンコポリマーのTgは80℃以上の高温である方がより好ましく、100℃以上であるものが特に好ましい。これは積層体又は積層体を含む包装体の製造工程中、もしくは包装体の形態でボイルやレトルト等の高温殺菌処理する場合でも、環状オレフィンコポリマー特有の耐透湿性などの機能を一定状態のまま維持し、アルカリ水溶液が水蒸気バリア層13や基材層である第1の最外層10に浸透するのを完全に防ぐことができるためである。このため第1の最外層10と酸素吸収物質含有層11aとの密着強度の低下を防ぐことができる。
【0076】
水蒸気バリア層13は、環状オレフィンコポリマー等の耐透湿性樹脂をTダイなどの既存の方法での押し出しや、耐透湿性樹脂を塗工することにより形成することができる。水蒸気バリア層13の厚みは、例えば押し出す場合は5μm~30μmであってよいし、樹脂を塗工する場合は、5μm以下の薄膜であっても良い。押し出す場合は製造安定性の観点から5μm以上であることが好ましく、一方30μmを超えても求める機能は変わらないため過剰となる。また、販売されている既存のフィルムを購入し使用しても良い。
【0077】
第1の最外層10と水蒸気バリア層13との間には、第1の最外層10と水蒸気バリア層13を密着させるためのアンカーコート層を設けてもよい。アンカーコート層は特に限定されず、ウレタン系、ポリエステル系などの一般的なアンカーコート剤を使用する事ができる。また、水蒸気バリア層13はコーティング層として設けても良い。何れにしても、水蒸気バリア層13の水蒸気透過度は、第1の最外層10と水蒸気バリア層13の間のアンカーコート層や水蒸気バリア層13と酸素吸収層11の間の接着層等を含めた値であっても良いが、今回の構成を用いることで、アンカーコート層を用いなくても接着するため、コスト削減する事が出来る。水蒸気バリア層13は、市販のフィルムの状態で購入して設けても良い。その場合は、水蒸気バリア層13と酸素吸収層11を接着剤を介して積層する。
【0078】
また、水蒸気バリア層13は、耐透湿性樹脂と熱可塑性樹脂をブレンドした形でもよいし、共押出したものであってもよい。熱可塑性樹脂としては、一般的にシーラント層に用いられるような熱可塑性樹脂が挙げられる。例えば、低密度ポリエチレン(Low Density Polyethylene;LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(Linear Low Density Polyethylene;LLDPE)などのポリエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0079】
(アルカリ物質含有層)
図1図4に示す実施形態1~4に係る積層体は、酸素吸収物質含有層11aと第2の最外層12との間にアルカリ物質含有層11bを備える。上述したように、酸素吸収物質含有層11aがアルカリ物質を含有する場合には、積層体はアルカリ物質含有層11bを備えなくてもよい。
【0080】
ただし、酸素吸収物質含有層11a中に酸素吸収物質とアルカリ物質とが混在する場合、酸素吸収性能は発揮されるが、塗液の作製段階で酸素吸収物質による酸素吸収が始まる。このため、本発明の積層体のように、酸素吸収物質含有層11aとアルカリ物質含有層11bが別の層として存在する場合と比較して、積層体の作製後における酸素吸収性能が低下するという問題がある。このため、積層体は、図1~4に示すように酸素吸収物質含有層11aとアルカリ物質含有層11bとを別の層として備えることが好ましい。
【0081】
アルカリ物質含有層11bも、少なくともアルカリ物質とバインダーを含有する。バインダーは酸素吸収物質含有層と同じものを用いることで、密着性の低下を抑制することができる。
【0082】
アルカリ物質含有層11bに含有されるアルカリ物質としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ルビジウム、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウムカリウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウムカリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。安全面の観点からは、食品添加物であることが好ましく、更に熱可塑性樹脂に練りこめる程度の耐熱性があるものが好ましい。
【0083】
特に、単体でpH8以上を示す炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、炭酸水素カリウム、ピロリン酸カリウム、焼成カルシウム、リン酸カリウム、酒石酸ナトリウムを用いると、含有させるアルカリ物質を少なくしてコストを下げられる点で、より好ましい。
【0084】
アルカリ物質含有層11bに含有されるアルカリ物質の添加量は、酸素吸収物質含有層11aに含有される酸素吸収物質100質量部に対し、40質量部~100質量部であってよく、50質量部~100質量部であってよい。アルカリ物質の添加量が40質量部未満では、没食子酸等の酸素吸収物質における酸素吸収反応を進行させるにはpHが必ずしも十分でなく、酸素吸収量が少なくなる場合がある。一方で、アルカリ物質の添加量が100質量部を超えpHが増加しても、酸素吸収量の増加は期待できない。
【0085】
アルカリ物質含有層11bは、必要に応じて、接着促進剤、可塑剤、酸化防止剤、着色剤、充填材、紫外線吸収剤などの当該技術において知られている任意の添加剤を含有してもよい。
【0086】
アルカリ物質含有層11bの厚みは、例えば0.1μm以上20μm以下であってよい。この範囲内の膜厚を有することにより、良好な密着強度と、コート層自体の強度を得ることができる。
【0087】
(第2の最外層)
図1~4に示す実施形態に係る積層体は、第2の最外層12を備える。第2の最外層12は、積層体1~4において、基材としての第1の最外層10とは反対側の表面を構成する層である。
【0088】
積層体の用途が包装材であり、袋状体等にして使用される場合には、第2の最外層12はシーラント層を含むことが好ましい。シーラント層は積層体1~4にヒートシール性を付与する。この場合、例えば積層体を、第2の最外層12であるシーラント層を内側にして重ね合わせ、周縁部等をヒートシールすることによって容易に袋状に加工することができる。
【0089】
シーラント層としては、熱可塑性樹脂のうちポリオレフィン系樹脂が一般的に使用され、具体的には、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-メタクリル酸樹脂共重合体などのエチレン系樹脂や、ポリエチレンとポリブテンのブレンド樹脂や、ホモポリプロピレン樹脂(PP)、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂等を使用することができる。
【0090】
<包装体>
本実施形態に係る包装体は、上記の積層体を含む。具体的には、包装体の少なくとも一部が、上記の積層体で形成される。なお本実施形態に係る包装体には、印刷層、バリア層、表面保護層などの機能層を更に設けてもよい。
【0091】
本実施形態の包装体の応用例は、たとえば袋、MA包材、蓋材(トップ材)、シート、チャック付き袋、カバーフィルムを含む。また、袋状体の包装体は、2枚の上述した積層体を、第2の最外層12としてのシーラント層が内側となるよう配置した状態で周縁部を加熱して貼り合わせることによって形成してもよい。さらに、貼り合わせを行う周縁部に第3のフィルムを介在させて、いわゆる「マチ」付きの袋を形成してもよい。
【0092】
袋状体の包装体は、矩形、円形、三角形を含む任意の形状を有してもよい。またチャック付き袋として、機械加工によって、袋状体の包装体の開口部に開閉自在の嵌合部を設けたものでもよい。
【0093】
<包装物品>
本実施形態に係る包装物品は、上記の包装体と、これに収容された内容物とを含む。上記の包装体に収容される内容物の例は、特に限定しないが、例えば食品、飲料、化粧品、医薬品、産業資材、医療器具、電子機器、文化財を含む。本実施形態に係る包装物品において、包装体に収容された内容物が食品であるとき、当該食品は、水分活性が高い食品であってよい。水分活性が高い食品として、例えば、水分活性0.8~0.87の小麦粉、米、豆類、フルーツケーキ等、水分活性0.87~0.91のシラス干し、塩鮭、スポンジケーキ等、水分活性0.91~0.95のチーズ、果汁等、水分活性0.95~1.0の肉、ハム、ベーコン、ソーセージ、鮮魚、卵、果実等が挙げられる。
【実施例
【0094】
<実施例1>
第1の最外層として、厚さ12μmのポリエステルフィルム上に、アクリル系ポリオール(Tg:20℃、水酸基価70mgKOH/g)、ポリイソシアネート、及び酸素吸収物質である没食子酸を添加した塗液を用意し、ポリエステルフィルム上にダイレクトグラビア方式で厚さ6μmの酸素吸収物質含有層を形成した。酸素吸収物質含有層の全質量に対する没食子酸の含有率は30質量%とした。
【0095】
次に、酸素吸収物質含有層の形成に用いたものと同じアクリル系ポリオール及びポリイソシアネートからなるアクリルウレタン樹脂に、アルカリ物質である炭酸ナトリウムを没食子酸と同量添加した組成物を用意し、上記酸素吸収物質含有層上にダイレクトグラビア方式で厚さ6μmのアルカリ物質含有層を形成した。
【0096】
上記アルカリ物質含有層上に、ダイレクトグラビア方式で厚さ3μmでウレタン系接着剤を塗工し、これにシーラント層としてポリエチレンフィルム(膜厚30μm)を貼り合わせ、積層体を作製した。
【0097】
<実施例2>
酸素吸収物質含有層とアルカリ物質含有層に使用するアクリル系ポリオールとして、ガラス転移温度Tg:50℃であるものを用いた以外は、実施例1と同様に積層体を作製した。
【0098】
<実施例3>
酸素吸収物質含有層とアルカリ物質含有層に使用するアクリル系ポリオールとして、ガラス転移温度Tg:80℃であるものを用いた以外は、実施例1と同様に積層体を作製した。
【0099】
<実施例4>
酸素吸収物質含有層とアルカリ物質含有層に使用するアクリル系ポリオールとして、ガラス転移温度Tg:100℃であるものを用いた以外は、実施例1と同様に積層体を作製した。
【0100】
<実施例5>
第1の最外層として、厚さ12μmのポリエステルフィルム上に、ウレタン樹脂と塩化錫を水系溶媒で溶解した溶液を塗工したものを用いた以外は、実施例1と同様に積層体を作製した。
【0101】
<実施例6>
第1の最外層として、厚さ12μmの透明蒸着ポリエステルフィルム(ポリエステル膜/アルミ蒸着膜/水溶性高分子膜:凸版印刷製GL-AE)を用いた以外は、実施例1と同様に積層体を作製した。
【0102】
<実施例7>
第1の最外層として、厚さ12μmの透明蒸着ポリエステルフィルム(ポリエステル膜/アルミ蒸着膜/水溶性高分子膜:凸版印刷性GL-AE)上に、ウレタン系のアンカーコート材をダイレクトグラビア方式で塗工し、さらに第1の最外層上に水蒸気バリア層のポリエステルフィルムの(東洋紡製E5100、膜厚12μm)を貼り合わせた以外は、実施例1と同様に積層体を作製した。
【0103】
<比較例1>
酸素吸収物質含有層とアルカリ物質含有層に使用するアクリル系ポリオールとして、ガラス転移温度Tg:10℃であるものを用いた以外は、実施例1と同様に積層体を作製した。
【0104】
<比較例2>
酸素吸収物質含有層とアルカリ物質含有層に使用するアクリル系ポリオールとして、ガラス転移温度Tg:110℃であるものを用いた以外は、実施例1と同様に積層体を作製した。
【0105】
<評価方法>
(酸素吸収性能)
上記で作製した積層体について、全体寸法が横10cm×縦10cmの包装袋を作製し、袋内に100ccの空気を注入した。50℃の恒温槽で一定期間保管後、酸素濃度を測定し、初期酸素濃度との差から、それぞれの酸素吸収量を確認した。残存酸素量が10%以下の場合に「+」、10%の場合に「-」と評価した。
【0106】
(密着強度)
上記で作製した積層体について、15mm巾に切り出し、引っ張り試験機を用いて、300mm/分のスピードで90度剥離をして、基材と酸素吸収層間の強度を評価した。40℃の促進試験において密着強度の低下率が30%未満の場合を「+++」、30%以上40%未満の場合を「++」、40%以上50%未満の場合を「+」、50%以上の場合は実用上問題が発生する可能性があるので密着強度を「-」と評価した。
【0107】
(総合評価)
密着強度及び酸素吸収性能評価の結果において、どちらの評価も「+」が1つ以上ある場合には「〇:合格」とし、いずれか1つでも「-」がある場合は「×:不合格」と判定した。
【0108】
【表1】
【0109】
表1に示すように、比較例1~2の場合、密着強度が十分ではない結果が得られたが、実施例1~7においては、十分な酸素吸収性能を保持しながら、酸素吸収後における基材と酸素吸収層間の密着強度の低下がより抑制されていることがわかる。特に実施例6のように、基材に水溶性高分子層及び無機蒸着層を積層することにより、更には、実施例7のように、基材に水溶性高分子層、無機蒸着層及び水蒸気バリア層を積層することにより、基材が単層の場合よりも密着強度がさらに高まったことが確認された。
【0110】
以上の結果から、本発明の実施形態に係る積層体は、基材と酸素吸収層間の密着強度の低下を防ぎ、包装材等として実際に使用するのに十分な密着強度を維持しつつ、十分な酸素吸収性能を発揮することがわかった。
【0111】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、食品、薬剤、医薬品、化粧品、電子部品等の包装に用いる積層体として利用できる。
【符号の説明】
【0113】
1 積層体
10 第1の最外層
10a 基材
10b 水溶性高分子含有層
10c 無機蒸着層
11 酸素吸収層
11a 酸素吸収物質含有層
11b アルカリ物質含有層
12 第2の最外層
13 水蒸気バリア層
図1
図2
図3
図4