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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】着用快適性に優れた衣服
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/002 20060101AFI20240220BHJP
【FI】
A41D13/002 105
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019518019
(86)(22)【出願日】2019-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2019013963
(87)【国際公開番号】W WO2019194087
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2018070564
(32)【優先日】2018-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 秀和
(72)【発明者】
【氏名】川俣 千絵子
(72)【発明者】
【氏名】荒西 義高
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第8082596(US,B2)
【文献】米国特許出願公開第2017/0172227(US,A1)
【文献】国際公開第2018/012318(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/104492(WO,A1)
【文献】国際公開第02/067708(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0278817(US,A1)
【文献】特開2017-155392(JP,A)
【文献】特開2017-222944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/002
D01F8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸湿性繊維を少なくとも一部に用いた生地からなる衣服であって、吸湿性繊維の吸湿率差(ΔMR)が2.1~3.9%であり、吸湿性繊維がポリエステル系吸湿性繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維から選ばれた1以上の繊維であって、該生地の通気度が50~500cm/cm・sであり、電源ユニットおよび外径が80mm以下の送風ファンユニットを具備する衣服。
【請求項2】
外径が30mm以下の送風ファンユニットを具備する請求項1に記載の衣服。
【請求項3】
送風ファンユニットが、襟口近傍、袖口近傍、裾口近傍よりなる群から選ばれた1以上の部位であって、衣服内側に具備されている請求項1または2に記載の衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用快適性に優れるとともに、着用感にも優れた衣服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球の温暖化対策として、夏場にエアコンの設定温度を高くしたり、冬場にエアコンの設定温度を低くして空調負荷を低減することは、二酸化炭素排出量の削減に有効な手段の一つである。例えば、冬場には、着衣量を増やしたり、吸湿発熱性や保温性に優れる冬向けの暖かい素材の衣服を着用することで、エアコンの設定温度を低くすることへの対応が可能である。一方、夏場には、社会生活上、着衣量を減らすことには限界があるため、夏向けの快適素材や衣服について、これまでに種々の提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
例えば、特許文献1では、乾燥時と吸水・吸湿時とでの糸長変化の異なる2種の糸を含む複合糸からなり、衣服内の湿度に応じて、通気性が変化する織編物が提案されている。この提案によると、衣服内が高湿度になると繊維が吸湿して伸長するため、通気性が向上し、衣服内が低湿度になると繊維が放湿して収縮するため、通気性が低下することから、衣服内環境を快適に保つことができるとしている。
【0004】
また、特許文献2では、通気性の低い生地へ送風ファンを取り付けた衣服(いわゆる空調服)が提案されている。この提案では、人体背面の腰の両脇に取り付けられた送風ファンにより、衣服内へ外気を取り込み、涼感を得ている。
【文献】国際公開第2007/004589号
【文献】国際公開第2017/006481号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の方法では、具体的には吸湿性を有するセルロース系繊維を用いているため、衣服内の蒸れ感の軽減に少なからず効果があり、加えて、衣服内が高湿度になると通気性が向上するため、衣服内の暑熱感の軽減にもわずかながら効果はあるものの、いずれもその効果は大きくはなく、快適性の抜本的な改善効果は得られていなかった。
【0006】
また、特許文献2記載の衣服は、夏場の屋外の工事現場や、空調の効いていない工場の屋内のような着用シーンでは熱中症予防に有効である。しかしながら、通気性の低い生地からなり、送風ファンを通じて衣服内へ取り込まれた外気によって衣服が大きく膨らんだ状態となるため、オフィスや家庭などの着用シーンには適さないものであった。さらには、送風ファンのサイズが大きいため着用時の重量感や違和感が強いことや、生地の通気性が低いため衣服内の蒸れ感や暑熱感を軽減させるためには、風量を高める必要があり、その結果、送風ファンから発する音が大きくなることも、オフィスや家庭などの着用シーンに適さない大きな理由であった。
【0007】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決し、衣服内の蒸れ感と暑熱感が抑制されており、衣服内環境を快適に保つことができ、着用快適性に優れるとともに、着用感にも優れた衣服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明の衣服は次の構成を有する。すなわち、
吸湿性繊維を少なくとも一部に用いた生地からなる衣服であって、吸湿性繊維の吸湿率差(ΔMR)が2.1~3.9%であり、吸湿性繊維がポリエステル系吸湿性繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維から選ばれた1以上の繊維であって、該生地の通気度が50~500cm/cm・sであり、電源ユニットおよび外径が80mm以下の送風ファンユニットを具備する衣服、である。
【0009】
本発明の衣服は、外径が30mm以下の送風ファンユニットを具備することが好ましい。
【0010】
また、本発明の衣服は、送風ファンユニットが襟口近傍、袖口近傍、裾口近傍よりなる群から選ばれた1以上の部位であって、衣服内側に具備されていることが好ましい。
【0011】
本発明の衣服は、吸湿性繊維の吸湿率差(ΔMR)が2.1~3.9%である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、衣服内の蒸れ感と暑熱感が抑制されており、衣服内環境を快適に保つことができ、着用快適性に優れるとともに、着用感にも優れた衣服を提供することができるため、高温および/または高湿の環境や、オフィス、家庭など快適性が必要とされる様々な着用シーンにおいて好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の衣服は、吸湿性繊維を少なくとも一部に用いた生地からなる衣服であって、吸湿性繊維の吸湿率差(ΔMR)が2.1~3.9%であり、吸湿性繊維がポリエステル系吸湿性繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維から選ばれた1以上の繊維であって、該生地の通気度が50~500cm/cm・sであり、電源ユニットおよび外径が30mm以下の送風ファンユニットを具備する。
【0014】
体感温度とは、人間の肌が感じる温度の感覚を定量化したものであり、衣服の着用快適性を考える上で重要な指標である。体感温度に影響を与える因子や体感温度の数式化については、これまでに数多くの研究がなされており、なかでも、Gregorczukによって提唱された、気温、相対湿度、風速を変数として体感温度を表した下記式(1)は適用範囲が広いため、現在広く用いられている。
【0015】
【数1】
【0016】
NET(℃):体感温度(NET:net effective temperature)
T(℃):気温
H(%):相対湿度
v(m/s):風速
ここで、上記式(1)によると、夏場の屋外や空調の効いていない屋内のような高温および/または高湿の環境において、体感温度を下げて着用快適性を向上させるためには、気温と相対湿度を下げ、風速を高めることが有効である。
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明の衣服は、吸湿性繊維を少なくとも一部に用いた生地からなるが、吸湿性繊維しては、ポリエステル系吸湿性繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維から選ばれた1以上の繊維である。なかでも、ポリエステル系吸湿性繊維やポリアミド系繊維は、機械的特性や耐久性に優れるため好ましい。
【0019】
本発明では、吸湿性繊維の吸湿率差(△MR)は、2.1~3.9%である。本発明における吸湿性繊維の吸湿率差(△MR)とは、実施例記載の方法で測定される値を指す。△MRとは、軽い運動後の衣服内温湿度を想定した温度30℃、湿度90%RHにおける吸湿率と、外気温湿度として温度20℃、湿度65%RHにおける吸湿率の差である。すなわち、△MRは吸湿性の指標であり、△MRの値が高いほど、発汗時の蒸れ感、べたつき感が軽減され、衣服の着用快適性が向上する。吸湿性繊維の△MRが2.1%以上であれば、本発明の衣服を着用した場合に、発汗時の衣服内の蒸れ感、べたつき感が少なく、着用快適性が向上する。吸湿性繊維の△MRは3.0%以上であることが好ましい。一方、吸湿性繊維の△MRが3.9%以下であれば、生地や衣服を製造時の工程通過性や取り扱い性が良好であり、使用時の耐久性にも優れる。
【0020】
本発明では、上記範囲の△MRを有するポリエステル系吸湿性繊維の具体例として、国際公開第2018/012318号公報に記載の海島型複合繊維を好適に採用できる。該公報に記載の海島型複合繊維は、海成分が疎水性のポリエステル系ポリマーと、島成分が吸湿性ポリマーからなる。そのため、島成分の吸湿性ポリマーによる吸湿性と、海成分のポリエステル系ポリマーによるドライ感を両立でき、発汗時の蒸れ感、べたつき感と発汗後の汗冷え感が軽減された着用快適性に優れる衣服を得ることができるため好ましい。
【0021】
また、本発明では、疎水性繊維の繊維表面へ吸湿性を有する化合物を塗布する、もしくは疎水性繊維の繊維表面において吸湿性を有する化合物による被膜を形成させることで、吸湿性繊維を得ることも好適に採用できる。
【0022】
本発明では、生地は、吸湿性繊維を少なくとも一部に用いたものであれば、吸湿性繊維へ他の繊維を混繊、混紡、交織、交編してもよい。他の繊維の具体例として、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリウレタン系繊維などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
本発明では、吸湿性繊維ならびに他の繊維は、繊維の形態に関して特に制限がなく、モノフィラメント、マルチフィラメント、ステープル、紡績糸などのいずれであってもよく、仮撚や撚糸などの加工が施されていてもよい。
【0024】
本発明では、吸湿性繊維ならびに他の繊維のマルチフィラメントとしての総繊度は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、10~500dtexであることが好ましい。総繊度が10dtex以上であれば、糸切れが少なく、工程通過性が良好であることに加え、使用時に毛羽の発生が少なく、衣服の耐久性に優れるため好ましい。総繊度は30dtex以上であることがより好ましく、50dtex以上であることが更に好ましい。一方、総繊度が500dtex以下であれば、衣服の柔軟性を損なうことがないため好ましい。総繊度は400dtex以下であることがより好ましく、300dtex以下であることが更に好ましい。
【0025】
本発明では、吸湿性繊維ならびに他の繊維の単繊維繊度は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、0.5~4.0dtexであることが好ましい。本発明における単繊維繊度とは、総繊度を単繊維数で除した値を指す。単繊維繊度が0.5dtex以上であれば、糸切れが少なく、工程通過性が良好であることに加え、使用時に毛羽の発生が少なく、衣服の耐久性に優れるため好ましい。単繊維繊度は0.6dtex以上であることがより好ましく、0.8dtex以上であることが更に好ましい。一方、単繊維繊度が4.0dtex以下であれば、衣服の柔軟性を損なうことがないため好ましい。単繊維繊度は2.0dtex以下であることがより好ましく、1.5dtex以下であることが更に好ましい。
【0026】
本発明では、吸湿性繊維ならびに他の繊維の強度は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、機械的特性の観点から2.0~5.0cN/dtexであることが好ましい。強度が2.0cN/dtex以上であれば、使用時に毛羽の発生が少なく、衣服の耐久性に優れるため好ましい。強度は2.5cN/dtex以上であることがより好ましく、3.0cN/dtex以上であることが更に好ましい。一方、強度が5.0cN/dtex以下であれば、衣服の柔軟性を損なうことがないため好ましい。
【0027】
本発明では、吸湿性繊維ならびに他の繊維の伸度は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、耐久性の観点から10~60%であることが好ましい。伸度が10%以上であれば、衣服の耐摩耗性が良好となり、使用時に毛羽の発生が少なく、衣服の耐久性が良好となるため好ましい。伸度は15%以上であることがより好ましく、20%以上であることが更に好ましい。一方、伸度が60%以下であれば、衣服の寸法安定性が良好となるため好ましい。伸度は55%以下であることがより好ましく、50%以下であることが更に好ましい。
【0028】
本発明では、吸湿性繊維ならびに他の繊維は、繊維の断面形状に関して特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができ、真円状の円形断面であってもよく、非円形断面であってもよい。非円形断面の具体例として、多葉形、多角形、扁平形、楕円形などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本発明では、生地の通気度は、50~500cm/cm・sである。本発明における生地の通気度とは、実施例記載の方法で測定される値を指す。生地の通気度が50cm/cm・sに満たないと、汗の蒸散性に劣り、衣服として用いた場合に、発汗時の蒸れ感、べたつき感、暑熱感を軽減することができない。生地の通気度は70cm/cm・s以上であることがより好ましく、90cm/cm・s以上であることが更に好ましく、100cm/cm・s以上であることが特に好ましい。一方、生地の通気度が500cm/cm・sを超えると、生地の機械的特性に劣り、生地や衣服製造時の工程通過性や取り扱い性に劣り、使用時の耐久性も劣る。また、生地が薄地となり過ぎ、着用時に違和感がある。生地の通気度は450cm/cm・s以下であることがより好ましく、400cm/cm・s以下であることが更に好ましく、350cm/cm・s以下であることが特に好ましい。
【0030】
本発明では、生地の形態は、特に制限がなく、公知の方法に従い、織物、編物、パイル布帛、不織布などにすることができる。また、本発明の生地は、いかなる織組織または編組織であってもよく、平織、綾織、朱子織、二重織あるいはこれらの変化織や、経編、緯編、丸編、レース編あるいはこれらの変化編などが好適に採用できる。
【0031】
本発明では、生地は、必要に応じて、染色してもよい。染色方法は特に制限がなく、公知の方法に従い、チーズ染色機、液流染色機、ドラム染色機、ビーム染色機、ジッガー、高圧ジッガーなどを好適に採用することができる。また、本発明では、染料濃度や染色温度に関して特に制限がなく、公知の方法を好適に採用できる。
【0032】
本発明の衣服は、上記の生地からなるが、上記の生地のみから構成されていても、上記の生地以外の生地(すなわち、吸湿性繊維を用いない生地)を一部に含んでいてもよい。
【0033】
本発明の衣服は、電源ユニットおよび外径が80mm以下の送風ファンユニットを具備するものである。
【0034】
本発明では、電源ユニットは、送風ファンユニットに電力を供給するものであり、両端部に接続端子を有する電源ケーブルなどの配線を介して、送風ファンユニットと接続されている(図示省略)。本発明における電源としては、一次電池や二次電池、太陽電池などの電池を使用してもよく、電源アダプタを介した商用電源を使用してもよい。
【0035】
本発明では、送風ファンユニットは、衣服の形態や着用シーンに応じて、取り付け位置を適宜選択することができるが、襟口近傍、袖口近傍、裾口近傍よりなる群から選ばれた1以上の部位であって、衣服内側に具備されていることが好ましい。人体において、首、手首、足首近傍は皮膚が薄く、皮膚と血管が近い位置にある。そのため、衣服内側の襟口近傍、袖口近傍、裾口近傍の少なくともいずれかに具備された送付ファンユニットからの送風によって、首、手首、足首の少なくともいずれかを冷却することで、冷却された血液が体内を循環して全身に行き渡るため、効率よく体感温度を下げることができ、暑熱感が軽減されて、着用快適性が向上するため好ましい。なお、本発明において、襟口近傍、袖口近傍および裾口近傍における「近傍」とは、襟口、袖口および裾口のそれぞれにおける生地の端から送風ファンユニットまでの最短距離が50mm以下である位置を意味する。
【0036】
本発明では、送風ファンユニットは、送風ファンユニットの内部に送風ファンを有するものである。
【0037】
本発明では、送風ファンユニットの外径は、80mm以下である。送風ファンユニットの外径が80mmを超えると、前記特許文献2に代表されるような従来提案されている空調服における送風ファンユニットと同程度であり、着用時の重量感や違和感があり、着用感を改善することはできず、オフィスや家庭など快適性が必要とされる様々な着用シーンにおいて好適に用いることができない。また、衣服への取り付け位置の自由度が低く、例えば、襟口、袖口、裾口のような幅の狭い部位へ取り付けることが難しく、衣服の形態や着用シーンに応じた衣服の設計は困難である。送風ファンユニットの外径は30mm以下であることが好ましく、25mm以下であることがより好ましく、20mm以下であることが更に好ましく、10mm以下であることが特に好ましい。
【0038】
本発明では、送風ファンの外径は、75mm以下であることが好ましい。送風ファンの外径が75mm以下であれば、前記特許文献2に代表されるような従来提案されている空調服における送風ファンユニットと比べ、送風ファンユニットを非常に小さくできるため、着用時の重量感や違和感が無く、着用感を大幅に改善することができ、オフィスや家庭など快適性が必要とされる様々な着用シーンにおいて好適に用いることができる。また、前記特許文献2に代表されるような従来提案されている送風ファンユニットと異なり、送風ファンユニットを非常に小さくできるため、衣服への取り付け位置の自由度が高く、例えば、襟口、袖口、裾口のような幅の狭い部位へ取り付けることができ、衣服の形態や着用シーンに応じた衣服の設計が可能となる。送風ファンの外径は25mm以下であることがより好ましく、20mm以下であることが更に好ましく、15mm以下であることが特に好ましく、8mm以下であることが最も好ましい。
【0039】
本発明では、送風ファンユニットの厚みは、10mm以下であることが好ましい。送風ファンユニットの厚みが10mm以下であれば、前記特許文献2に代表されるような従来提案されている空調服における送風ファンユニットと比べ、非常に小さいため、着用時の重量感や違和感が無く、着用感を大幅に改善することができ、オフィスや家庭など快適性が必要とされる様々な着用シーンにおいて好適に用いることができるため好ましい。また、前記特許文献2に代表されるような従来提案されている送風ファンユニットと異なり、非常に小さいため、衣服への取り付け位置の自由度が高く、例えば、襟口、袖口、裾口のような幅の狭い部位へ取り付けることができ、衣服の形態や着用シーンに応じた衣服の設計が可能となるため好ましい。送風ファンユニットの厚みは8mm以下であることがより好ましく、6mm以下であることが更に好ましく、4mm以下であることが特に好ましい。
【0040】
本発明では、送風ファンユニットの重量は、5g以下であることが好ましい。送風ファンユニットの重量が5g以下であれば、前記特許文献2に代表されるような従来提案されている空調服における送風ファンユニットと比べ、非常に軽いため、着用時の重量感や違和感が無く、着用感を大幅に改善することができ、オフィスや家庭など快適性が必要とされる様々な着用シーンにおいて好適に用いることができるため好ましい。また、前記特許文献2に代表されるような従来提案されている送風ファンユニットと異なり、非常に軽いため、衣服への取り付け位置の自由度が高く、例えば、襟口、袖口、裾口のような幅の狭い部位へ取り付けることができ、衣服の形態や着用シーンに応じた衣服の設計が可能となるため好ましい。送風ファンユニットの重量は4g以下であることがより好ましく、3g以下であることが更に好ましく、2g以下であることが特に好ましい。
【0041】
本発明の衣服において、送風ファンユニットの数には特に制限がなく、送風ファンユニットの外径や厚みに応じ、着用感等を損なわない範囲で衣服に取り付けることができる。
【0042】
本発明の衣服の形態は、特に制限がなく、上衣、下衣のいずれであってもよく、上衣は長袖、短袖のいずれであってもよく、下衣は長裾、短裾のいずれであってもよい。本発明において、上衣とは上半身に着用する衣服であり、下衣とは下半身に着用する衣服を意味する。本発明における上衣の具体例として、インナーシャツ、タンクトップ、キャミソールなどの下着や、Tシャツ、ポロシャツ、カットソー、パジャマ、ブラウス、ブルゾン、作業着などの一般衣料、スポーツ用インナーシャツ、スポーツ用シャツなどのスポーツ衣料などが挙げられるが、これらに限定されない。また、本発明における下衣の具体例として、インナーパンツのような下着や、スラックス、パンツ、スカート、パジャマ、作業着などの一般衣料、スポーツ用パンツなどのスポーツ衣料などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
本発明の衣服は、衣服内の蒸れ感と暑熱感が抑制されており、衣服内環境を快適に保つことができ、着用快適性に優れるとともに、着用感にも優れるものである。そのため、高温および/または高湿の環境や、オフィス、家庭など快適性が必要とされる様々な着用シーンにおいて好適に用いることができる。
【実施例
【0044】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、実施例中の各特性値は、以下の方法で求めた。
【0045】
A.吸湿性繊維の吸湿率差(△MR)
実施例で用いた吸湿性繊維を試料とし、始めに60℃で30分熱風乾燥した後、温度20℃、湿度65%RHに調湿されたエスペック製恒温恒湿機LHU-123内に24時間静置し、試料の重量W(g)を測定後、温度30℃、湿度90%RHに調湿された恒温恒湿機内に24時間静置し、試料の重量W(g)を測定した。その後、105℃で2時間熱風乾燥し、絶乾後の試料の重量W(g)を測定した。試料の重量W、Wを用いて下記式により絶乾状態から温度20℃、湿度65%RH雰囲気下に24時間静置したときの吸湿率MR(%)を算出し、試料の重量W、Wを用いて下記式により絶乾状態から温度30℃、湿度90%RH雰囲気下に24時間静置したときの吸湿率MR(%)を算出した後、下記式によって吸湿率差(△MR)を算出した。
【0046】
MR(%)={(W-W)/W}×100
MR(%)={(W-W)/W}×100
吸湿率差(△MR)(%)=MR-MR
なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を吸湿率差(△MR)とした。
【0047】
B.通気度
通気度は、実施例によって得られた生地を試料とし、JIS L 1096:(2010)(織物及び編物の生地試験方法)8.26.1(A法)に準じて算出した。なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を通気度(cm/cm・s)とした。
【0048】
C.蒸れ感
蒸れ感の着用試験のため、被験者20名に対し、実施例によって作製した衣服と、その上から綿製の長袖Yシャツを着用させた。続いて、冷房の効いていない夏の屋内環境を想定した温度30℃、湿度90%RHの室内において、椅子に2時間座って安静に過ごした後の衣服内部の状況について、「蒸れを全く感じない」を5点、「蒸れをほとんど感じない」を4点、「蒸れをわずかに感じる」を3点、「蒸れを感じる」を2点、「蒸れを強く感じる」を1点とし、被験者20名が各々付けた点数の平均点を算出し、平均点が3.0点以上を合格とした。なお、実施例12の着用試験においては、実施例によって作製した衣服と、その上から綿製の長裾スラックスを着用させた。
【0049】
D.暑熱感
暑熱感の着用試験のため、被験者20名に対し、実施例によって作製した衣服と、その上から綿製の長袖Yシャツを着用させた。続いて、冷房の効いていない夏の屋内環境を想定した温度30℃、湿度90%RHの室内において、椅子に2時間座って安静に過ごした後の衣服内部の状況について、「暑熱感を全く感じない」を5点、「暑熱感をほとんど感じない」を4点、「暑熱感をわずかに感じる」を3点、「暑熱感を感じる」を2点、「暑熱感を強く感じる」を1点とし、被験者20名が各々付けた点数の平均点を算出し、平均点が3.0点以上を合格とした。なお、実施例12の着用試験においては、実施例によって作製した衣服と、その上から綿製の長裾スラックスを着用させた。
【0050】
E.汗冷え感
汗冷え感の着用試験のため、被験者20名に対し、実施例によって作製した衣服と、その上から綿製の長袖Yシャツを着用させた。続いて、冷房の効いていない夏の屋内環境を想定した温度30℃、湿度90%RHの室内において、椅子に2時間座って安静に過ごした後、冷房の効いた夏の屋内環境を想定した温度25℃、湿度65%RHの室内へ速やかに移動し、椅子に30分間座って安静に過ごした後の衣服内部の状況について、「汗冷えを全く感じない」を5点、「汗冷えをほとんど感じない」を4点、「汗冷えをわずかに感じる」を3点、「汗冷えを感じる」を2点、「汗冷えを強く感じる」を1点とし、被験者20名が各々付けた点数の平均点を算出し、平均点が3.0点以上を合格とした。なお、実施例12の着用試験においては、実施例によって作製した衣服と、その上から綿製の長裾スラックスを着用させた。
【0051】
F.着用感
着用感については、被験者20名に対し、実施例によって作製した衣服を着用させ、「重量感、着用による違和感、送風ファンの音による不快感のいずれも全く無い」を5点、「重量感、着用による違和感、送風ファンの音による不快感のいずれもほぼ無い」を4点、「重量感、着用による違和感、送風ファンの音による不快感のいずれかがわずかにある」を3点、「重量感、着用による違和感、送風ファンの音による不快感のいずれかがある」を2点、「重量感、着用による違和感、送風ファンの音による不快感のいずれかが強くある」を1点とし、被験者20名が各々付けた点数の平均点を算出し、平均点が3.0点以上を合格とした。なお、実施例12の着用試験においては、実施例によって作製した衣服と、その上から綿製の長裾スラックスを着用させた。
【0052】
実施例1
吸湿性繊維として、ナイロン繊維(50dtex-98fの仮撚糸)を用いて、釜径86.36cm(34インチ)、ゲージ数28本/2.54cm(インチ)の丸編機にて天竺組織の生地を作製した後、縫製して半袖インナーシャツを作製した。続いて、半袖インナーシャツ内側の襟口近傍に、外径18.0mm、厚み4.0mmの送風ファンユニットを円周方向に等間隔に3個取り付けた後、電源ケーブルを用いて、電源ユニットと全ての送風ファンユニットを接続した。その後、送風ファンユニットからのエア流量を0.02m/min・個に設定し、着用試験を実施した。得られた生地と衣服の評価結果を表1に示す。実施例1の衣服は、衣服内の蒸れ感と暑熱感が抑制されており、衣服内環境を快適に保つことができ、着用快適性に優れるとともに、着用感にも優れていた。
【0053】
実施例2、3、参考例1~3
実施例1における吸湿性繊維に替えて、実施例2では吸湿性ナイロンとして東レ(株)製“キュープ”(登録商標)33dtex-26fの仮撚糸、実施例3では吸湿性ポリエステルとして国際公開第2018/012318号公報の実施例3に記載の海島型複合繊維(66dtex-72fの仮撚糸)、参考例1ではアセテート繊維として三菱ケミカル(株)製“リンダ”(登録商標)84dtex-20fの仮撚糸、参考例2では綿として英式綿番手60Sの紡績糸、参考例3ではレーヨン繊維として旭化成(株)製“ベンベルグ”(登録商標)84dtex-45fに変更した以外は、実施例1と同様に衣服を作製した。得られた生地と衣服の評価結果を表1に示す。実施例2、3、参考例1~3の衣服は、衣服内の蒸れ感と暑熱感が抑制されており、衣服内環境を快適に保つことができ、着用快適性に優れるとともに、着用感にも優れていた。
【0054】
実施例、比較例1~3
実施例3において、通気度を表2に示すとおり変更した以外は、実施例3と同様に衣服を作製した。得られた生地と衣服の評価結果を表2に示す。実施例の衣服は、衣服内の蒸れ感と暑熱感が抑制されており、衣服内環境を快適に保つことができ、着用快適性に優れるとともに、着用感にも優れていた。
【0055】
比較例1および2では、送風ファンユニットからの送風により、暑熱感は軽減されるものの、生地の通気度が低いため、汗の蒸散性が低く、蒸れを感じるものであった。比較例3では、生地の通気度が高いため、蒸れ感、暑熱感、汗冷え感をほとんど感じないものの、生地が薄地であるために、着用による違和感があり、実用性に欠けるものであった。
【0056】
実施例
実施例3において送風ファンユニットを、半袖インナーシャツ内側の左右それぞれの袖口近傍において、円周方向に等間隔に3個取り付けた後、電源ケーブルを用いて、電源ユニットと全ての送風ファンユニットを接続した以外は、実施例3と同様に衣服を作製した。得られた生地と衣服の評価結果を表3に示す。実施例の衣服は、衣服内の蒸れ感と暑熱感が抑制されており、衣服内環境を快適に保つことができ、着用快適性に優れるとともに、着用感にも優れていた。
【0057】
実施例
実施例3において送風ファンユニットを、半袖インナーシャツ内側の裾口近傍において、円周方向に等間隔に3個取り付けた以外は、実施例3と同様に衣服を作製した。得られた生地と衣服の評価結果を表3に示す。実施例の衣服は、衣服内の蒸れ感と暑熱感が抑制されており、衣服内環境を快適に保つことができ、着用快適性に優れるとともに、着用感にも優れていた。
【0058】
実施例
実施例3において生地を作製した後、縫製して長裾インナーパンツを作製し、送風ファンユニットを、長裾インナーパンツ内側の左右それぞれの袖口近傍において、円周方向に等間隔に3個取り付けた後、電源ケーブルを用いて、電源ユニットと全ての送風ファンユニットを接続した以外は、実施例3と同様に衣服を作製した。得られた生地と衣服の評価結果を表3に示す。実施例の衣服は、衣服内の蒸れ感と暑熱感が抑制されており、衣服内環境を快適に保つことができ、着用快適性に優れるとともに、着用感にも優れていた。
【0059】
比較例4
実施例3において、半袖インナーシャツ内側の裾口近傍に、外径120.0mm、厚み40.0mmの送風ファンユニットを円周方向に等間隔に2個取り付けた後、電源ケーブルを用いて、電源ユニットと全ての送風ファンユニットを接続した以外は、実施例3と同様に衣服を作製した。得られた生地と衣服の評価結果を表3に示す。
【0060】
比較例4では、送風ファンユニットからの送風により、暑熱感は軽減されるものの、送風ファンユニットの外径、厚みともに大きいため、着用時の重量感や違和感が強く、オフィスや家庭などの着用シーンには適さないものであった。
【0061】
比較例5
実施例3において、送風ファンユニットを取り付けなかったこと以外は、実施例3と同様に衣服を作製した。得られた生地と衣服の評価結果を表3に示す。
【0062】
比較例5で用いた衣服は、吸湿性繊維からなる通気度の高い衣服であるものの、蒸れ感、暑熱感、汗冷え感を感じるものであり、着用快適性に劣るものであった。
【0063】
実施例10、11、参考例4
実施例10では実施例3で用いた吸湿性ポリエステルと、実施例5で用いた綿を、実施例11では実施例3で用いた吸湿性ポリエステルと、ポリウレタン繊維として東レ・オペロンテックス(株)製“ライクラ”(登録商標)T-327C(22dtex)を、参考例4では参考例2で用いた綿と、ポリエチレンテレフタレート繊維として東レ(株)製“テトロン”(登録商標)84dtex-36fの仮撚糸を、それぞれ表4に示す混率で交編して生地を作製した以外は、実施例3と同様に衣服を作製した。得られた生地と衣服の評価結果を表4に示す。実施例10、11、参考例4の衣服は、衣服内の蒸れ感と暑熱感が抑制されており、衣服内環境を快適に保つことができ、着用快適性に優れるとともに、着用感にも優れていた。
【0064】
比較例6
実施例3において、吸湿性繊維に替えて、ポリエチレンテレフタレート繊維として東レ(株)製“テトロン”(登録商標)84dtex-36fの仮撚糸を用いた以外は、実施例3と同様に衣服を作製した。得られた生地と衣服の評価結果を表4に示す。
【0065】
比較例6では、送風ファンユニットからの送風により、暑熱感は軽減されるものの、生地が吸湿性繊維ではないポリエチレンテレフタレート繊維からなるため、蒸れ感、汗冷え感を感じるものであり、着用快適性に劣るものであった。
【0066】
実施例1214
実施例3において、送風ファンユニットの外径を表5に示すとおり変更した以外は、実施例3と同様に衣服を作製した。得られた生地と衣服の評価結果を表5に示す。実施例1214の衣服は、衣服内の蒸れ感と暑熱感が抑制されており、衣服内環境を快適に保つことができ、着用快適性に優れるとともに、着用感にも優れていた。
【0067】
実施例15~18
実施例14において、送風ファンユニットの厚みを表5に示すとおり変更した以外は、実施例14と同様に衣服を作製した。得られた生地と衣服の評価結果を表5に示す。実施例15~18の衣服は、衣服内の蒸れ感と暑熱感が抑制されており、衣服内環境を快適に保つことができ、着用快適性に優れるとともに、着用感にも優れていた。
【0068】
実施例19~23
実施例15において、送風ファンユニットからのエア流量を表6に示すとおり変更した以外は、実施例15と同様に衣服を作製した。得られた生地と衣服の評価結果を表6に示す。実施例19~23の衣服は、衣服内の蒸れ感と暑熱感が抑制されており、衣服内環境を快適に保つことができ、着用快適性に優れるとともに、着用感にも優れていた。
【0069】
実施例24
実施例2において、長袖インナーシャツを作製した以外は、実施例2と同様に衣服を作製した。得られた生地と衣服の評価結果を表6に示す。実施例24の衣服は、衣服内の蒸れ感と暑熱感が抑制されており、衣服内環境を快適に保つことができ、着用快適性に優れるとともに、着用感にも優れていた。
【0070】
実施例2526
実施例における吸湿性繊維に替えて、吸湿性ナイロンとして東レ(株)製“キュープ”(登録商標)33dtex-26fの仮撚糸を用いて、長袖インナーシャツを作製した以外は、実施例と同様に衣服を作製した。得られた生地と衣服の評価結果を表6に示す。実施例2526の衣服は、衣服内の蒸れ感と暑熱感が抑制されており、衣服内環境を快適に保つことができ、着用快適性に優れるとともに、着用感にも優れていた。
【0071】
実施例2731、比較例7、8
比較例4において、送風ファンユニットの外径と厚みを表7に示すとおり変更した以外は、比較例4と同様に衣服を作製した。得られた生地と衣服の評価結果を表7に示す。実施例2731の衣服は、衣服内の蒸れ感と暑熱感が抑制されており、衣服内環境を快適に保つことができ、着用快適性に優れるとともに、着用感にも優れていた。
【0072】
比較例7、8では、送風ファンユニットからの送風により、暑熱感は軽減されるものの、送風ファンユニットの外径が大きいため、着用時の重量感や違和感が強く、オフィスや家庭などの着用シーンには適さないものであった。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
【表6】
【0079】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の衣服は、衣服内の蒸れ感と暑熱感が抑制されており、衣服内環境を快適に保つことができ、着用快適性に優れるとともに、着用感にも優れる。そのため、高温および/または高湿の環境や、オフィス、家庭など快適性が必要とされる様々な着用シーンにおいて好適に用いることができる。