(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】樹脂接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/00 20060101AFI20240220BHJP
【FI】
B29C65/00
(21)【出願番号】P 2019569973
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2019048562
(87)【国際公開番号】W WO2020170567
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2019027529
(32)【優先日】2019-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金杉 和弥
(72)【発明者】
【氏名】藤内 俊平
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕介
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-216689(JP,A)
【文献】特開2017-126416(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221665(WO,A1)
【文献】特開2010-194964(JP,A)
【文献】特開2009-066820(JP,A)
【文献】特開2012-066459(JP,A)
【文献】小林靖之,他2名,"オゾン水によるポリエチレンナフタレートフィルムの表面改質と誘導体化法による官能基同定",表面技術,日本,2012年,Vol.63, No.12,pp.71-72
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とが接合された樹脂接合体の製造方法であって、
液体を活性化させて液体の中に活性種を生成させて活性液体を得る液体活性化工程と、
前記第1の樹脂部材の前記第2の樹脂部材と接合する面、および/または、前記第2の樹脂部材の前記第1の樹脂部材と接合する面に、前記液体活性化工程で得られた前記活性液体を接触させる液体接触工程と、
前記液体接触工程の後に、前記第1の樹脂部材と前記第2の樹脂部材とを、それぞれの前記接合する面で張り合わせる接合工程と、
を有し
前記液体接触工程を行う前に、前記第1の樹脂部材の前記第2の樹脂部材と接合する面、および/または、前記第2の樹脂部材の前記第1の樹脂部材と接合する面に表面処理を施す表面処理工程を行う、樹脂接合体の製造方法。
【請求項2】
前記液体活性化工程における前記液体を活性化する手段が、電離物質を前記液体に照射すること、電磁波を前記液体に照射すること、弾性振動波で前記液体を振動させること、および電界を前記液体に印加すること、からなる群より選ばれた少なくともひとつである、請求項1に記載の樹脂接合体の製造方法。
【請求項3】
前記液体接触工程は、前記液体活性化工程が行われている途中で、前記活性液体の中に前記第1の樹脂部材および/または前記第2の樹脂部材を浸漬させて、前記活性液体を接触させる、請求項1または2に記載の樹脂接合体の製造方法。
【請求項4】
前記表面処理工程における前記表面処理を施す手段が、前記第1の樹脂部材の前記第2の樹脂部材と接合する面、および/または、前記第2の樹脂部材の前記第1の樹脂部材と接合する面に対して、電離物質を照射すること、電磁波を照射すること、および弾性振動波で振動させること、からなる群より選ばれた少なくともひとつである、請求項
1~3のいずれか一つに記載の樹脂接合体の製造方法。
【請求項5】
前記接合工程において、前記第1の樹脂部材全体の温度を第1の樹脂部材を構成する樹脂のガラス転移温度以下とし、前記第2の樹脂部材全体の温度を第2の樹脂部材を構成する樹脂のガラス転移温度以下とする、請求項1~
4のいずれか一つに記載の樹脂接合体の製造方法。
【請求項6】
前記第1の樹脂部材および前記第2の樹脂部材が非結晶材料である、請求項1~
5のいずれか一つに記載の樹脂接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い接合力を有する樹脂接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの更なる微細化や光学デバイスの光学特性向上等を目的に、各種基材を接着剤なしで接合させる技術(以下、接着剤レス接合と称する)が検討されている。その中で、樹脂同士を対象とした接着剤レス接合では、樹脂接合面を接触させた後、樹脂の溶融温度まで加熱して溶着させるラミネート技術が幅広く用いられている。しかしこの方法では、加熱時に樹脂の結晶化度や分子構造等が変化(熱劣化)し、光学特性や機械強度に悪影響を与えてしまう問題がある。そのため、熱ダメージを与えずに強固な接合力を得るための樹脂の接合方法が提案されている。
【0003】
特許文献1には、互いに接合させる2枚の基板のうち、少なくとも何れか一方の基板の接合面に向けて、シリコーン樹脂または変性シリコーン樹脂を含む溶質を有機溶媒に溶解させた樹脂溶液を噴射し、接合面の任意の領域に選択的に薄膜樹脂層を形成させた後、その薄膜樹脂層に向けて原子状態の活性酸素を作用させることが可能な活性化溶液を噴射し、薄膜樹脂層に接着性を発現させることで、それら接合面を接合できることが開示されている。
また、特許文献2には、樹脂接合面に対して電離気体や電磁波等を用いて表面処理を施した後、その樹脂部材の接合面の間に溶剤を介在させて加圧することで、樹脂部材の温度が50℃未満でも接合できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-194964号公報
【文献】特開2007-245654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に開示されたいずれの方法でも、一定の接合力向上効果は得られるものと考えられるが、特許文献1の方法では、基板の接合面にシリコーン樹脂または変性シリコーン樹脂からなる樹脂接着層を形成し、それを介在させて基材を接合させる必要があるため、樹脂接着層での光吸収が生じる。これにより良好な光学特性が得られない。
一方、特許文献2の方法は、接合力を発現させるために、樹脂接合面の活性化のために接合面に対して表面処理と溶剤接触が必須となるため、プロセスが煩雑である。
【0006】
本発明は、上述した問題点を鑑みてなされたものであり、高い接合力を有する樹脂接合体を簡易に製造する方法を提供する。また、本発明は、接合する樹脂が透明体である場合、良質な光学特性を有する樹脂接合体を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の樹脂接合体の製造方法は、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とが接合された樹脂接合体の製造方法であって、液体を活性化させて液体の中に活性種を生成させて活性液体を得る液体活性化工程と、前記第1の樹脂部材の前記第2の樹脂部材と接合する面、および/または、前記第2の樹脂部材の前記第1の樹脂部材と接合する面に、前記液体活性化工程で得られた前記活性種を含む液体を接触させる液体接触工程と、前記液体接触工程の後に、前記第1の樹脂部材と前記第2の樹脂部材とを、それぞれの前記接合する面で張り合わせる接合工程と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い接合力を有する樹脂接合体を簡易に製造する方法が提供される。また、本発明によれば、接合する樹脂が透明体である場合、良質な光学特性を有する樹脂接合体を製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の樹脂接合体の製造方法の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の樹脂接合体の製造方法の別の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の樹脂接合体の製造方法の別の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態の例を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の樹脂接合体の製造方法の一例を示す概略図である。
図1に示すように、本発明の樹脂接合体の製造方法は、液体の中に活性種を生成させて活性液体3を得る液体活性化工程6、第1の樹脂部材1および第2の樹脂部材2の少なくともどちらか一方の接合面を、活性液体3と接触させる液体接触工程7、および第1の樹脂部材1と前記第2の樹脂部材2を、それぞれの接合面で張り合わせる接合工程8を有している。
【0011】
液体の中に活性種を生成させて活性液体3を得る液体活性化工程6では、活性化させる液体を液体容器9に入れた後、液体活性化手段4にて液体を活性化する。
本発明において「活性液体3」とは、液体の中に反応性の高い不対電子を持った原子・分子(ラジカル)や、イオンや電子(荷電粒子)などの活性種を1種類以上含んだ液体を指す。活性化の程度を示す活性度は、例えば活性種から生じる発光強度測定や、活性種と試験液の反応量を測定する化学的定量測定、電子スピン共鳴分析などにより評価することができる。
【0012】
活性化させる液体の種類は、純水、メタノール、エタノール、酢酸、アンモニアなどが例示される。この液体は、コストや安全性、第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2の耐溶解性などに応じて幅広く選択することができる。また、液体は、2種類以上の液体を混ぜた混合液や水溶液などでも構わない。
【0013】
また、液体容器9の材質や形状は、特に制限されないが、使用する液体に対して液体容器9が溶解すると、液体容器9の成分が液体3に混入してしまうため、意図しない成分が液体に入らないよう耐溶解性を有する材質の液体容器9を用いることが好ましい。
【0014】
液体活性化手段4は、液体にエネルギーを与えて液体の分子を解離や電離できる方法であればよく、適宜選択することができる。特に液体活性化手段4としては、電離物質を液体に照射すること、電磁波を液体に照射すること、弾性振動波で液体を振動させること、電界を液体に印加することが好ましい。これらの手段のいずれか1つを行ってもよく、複数種類を行ってもよい。これらの手段は、液体の分解効率が高く、短時間で多くの活性種を液体中に生成することができる。また、いずれの液体活性化手段4も液体を活性化するための制御性が高いため、好ましい。
【0015】
本発明において「電離物質」とは、イオンや電子などの荷電粒子を含む気体(電離気体)や液体(電離液体)を指す。電離物質の発生方法は、特に制限されないが、隙間を開けて対向する金属電極板間に電圧(電界)を印加する方法などが挙げられる。また、液体に対して電離物質を照射する方法としては、生成した電離物質をガス流れで液体まで輸送すること、電離物質発生部に液体を噴射すること、液体中に電離物質発生用の金属電極板とは別の金属電極板を配置し、直流電圧を印加して荷電粒子を誘引することなどが例示される。
【0016】
電離気体を液体に照射することで、液体が分解し、活性化される。なお、電離気体の生成用ガス種は特に制限されないが、例えばアルゴン、ヘリウム、酸素、水蒸気、窒素などが挙げられる。ガス種や電離気体の密度などを変更することで、液体に生成される活性種の種類や活性度を容易に制御することができる。これにより、第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2の種類に応じた適切な活性液体3を作成することができ、接合力を向上することができる。
【0017】
弾性振動波(音圧)を液体に照射すると、液体の中の気泡が膨張・収縮し、破裂(キャビテーション)する。このキャビテーション発生時に気液界面が局所的に高温になり、液体が熱分解することで活性種が生成される。キャビテーションの発生量を変更することにより、液体の活性化度を制御することができる。そのキャビテーション発生量は、弾性振動波を発生させる振動子の投入電力や周波数、液体の温度などによって容易に制御することができる。
【0018】
本発明において「電磁波」とは、空間の電場と磁場の変化によって形成される波動を指す。この波動の波長は、短波長になるほどエネルギーが大きく、特に波長が200nm以下の電磁波を液体に照射することで効果的に液体を分解できる。また、電磁波の量(照度)や波長などを変更することで、液体に生成される活性種の種類や量を容易に制御することができる。
【0019】
本発明において「電界」とは、電圧が掛かっている状態を指す。この電界を液体に印加することで、液体が電気分解し、活性化される。電界の発生方法は特に制限されないが、例えば2枚の金属板を液体に挿入して、それら金属板に電位差を付与することで電界が発生する。この2枚の金属板の距離や印加する電圧などを変更することで容易に電界強度を変更でき、液体の活性度を制御することができる。
【0020】
いずれの液体活性化手段4においても液体の温度上昇に伴い反応速度が向上するため、液温を上げることで液体の分解を促進できる。更に、攪拌器にて液体を攪拌しながら液体活性化手段4にてエネルギー付与することで均一な活性液体3を生成することができる。
【0021】
第1の樹脂部材1および第2の樹脂部材2の種類は、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)など用途に応じて適宜選択することができるが、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)などの非結晶材料を用いることが好ましい。これは非結晶材料の方が分子鎖の熱運動性が高く、第1の樹脂部材1および第2の樹脂部材2の接合界面における分子拡散(分子鎖の絡み合い)が大きくなるためである。この分子拡散が大きくなるほど接合界面での分子間力が大きくなり、接合力が向上する。また、第1の樹脂部材1および第2の樹脂部材2の種類は、異種でも構わないが、同種の方が分子拡散の観点からは好ましい。
【0022】
また、第1の樹脂部材1および第2の樹脂部材2の接合面に作為的に凹凸形状を設けても構わない。例えば、凹凸高さと幅が100nm以上となる矩形構造などが挙げられる。凹凸形成方法としては、レーザー加工や化学エッチング加工、研磨加工、切削加工、インプリント加工、ショットピーニング加工などが例示される。
【0023】
活性液体3と接触させる液体接触工程7では、液体接触機構5を用いて、第1の樹脂部材1および第2の樹脂部材2の接合面のどちらか一方、あるいは両方に活性液体3を接触させる。第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2の接合面に活性液体3を接触させることで、第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2の接合面が活性化し、張り合わせ時に強固な接合力が得られる。この接合面の活性度は、活性液体3の接触量や活性液体3との接触時間等により、容易に制御することができる。
【0024】
本発明における接合面に対する「活性化」とは、第1の樹脂部材1、および/または、第2の樹脂部材2の接合面表層の分子鎖を切断すること、および/または、官能基を付与することを意味する。分子鎖を切断することにより、接合面に存在する分子鎖の熱運動性を高くする(軟化温度を低くする)ことができる。また、官能基を付与することで、水酸基などの極性官能基を生成できる。この分子鎖の熱運動性は、ナノサーマル顕微鏡(ナノTA)などで測定することが出来る。また、極性官能基の種類や生成量は、赤外吸収分光分析(IR)などにより確認することができる。
【0025】
液体接触機構5は、特に制限されないが、例えば液体容器9から活性液体3をポンプで送液した後、スプレーノズルで活性液体3を噴射することや、塗工機によって第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2の接合面に活性液体3を塗布することなどが挙げられる。
【0026】
液体接触工程7の後、接合工程8にて第1の樹脂部材1と第2の樹脂部材2の活性化した接合面を張り合わせる。張り合わせることで、第1の樹脂部材1の接合面と第2の樹脂部材2の接合面との界面における切断された分子鎖の絡み合い(以下、分子拡散と称する)、および、生成した極性官能基間での縮合反応(以下、共有結合形成と称する)が進行するので、樹脂接合体の接合力が向上し、強固な接合力を有する樹脂接合体が製造できる。これら分子拡散や共有結合形成は、液体接触工程7において、第1の樹脂部材1および/または第2の樹脂部材2の接合面を活性化させるほど促進させることができる。
【0027】
また、張り合わせの際、第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2の接合面のうねり等で接合界面に空隙が出来ないように、プレス機などで第1の樹脂部材1と第2の樹脂部材2を圧着させることが好ましい。これにより、第1の樹脂部材1と第2の樹脂部材2の実接触面積が大きくなり、接合力が向上する。
【0028】
さらに、第1の樹脂部材1と第2の樹脂部材2の活性化した接合面を張り合わせる前に、それら接合面に残った活性液体3をブロワー等で除去することが好ましい。これにより、液痕の無い良質な樹脂接合体を製造することができる。
【0029】
接合工程8における第1の樹脂部材1と前記第2の樹脂部材2の温度は、高温にするほど分子拡散や共有結合の形成が促進され、接合力は高くなるが、第1の樹脂部材1と第2の樹脂部材2の温度が、それぞれの樹脂部材を構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)を超えた温度になると、それぞれの樹脂部材を構成する樹脂の分子構造などが変化する。これにより、第1の樹脂部材1と第2の樹脂部材2の機械特性や光学特性などが悪くなることがある。そのため、第1の樹脂部材1全体および第2の樹脂部材2全体の温度は、Tg以下にすることが好ましい。これにより、それぞれの樹脂部材を構成する樹脂の分子構造などを変化させずに、良質な樹脂接合体を製造することができる。なお、接合工程8における第1の樹脂部材1と前記第2の樹脂部材2の各温度は、温度差があっても構わない。
【0030】
また、接合工程8は大気圧雰囲気でも構わないが真空環境にしても構わない。本発明において、「真空」とは、大気圧である1013hPa未満のガス圧力を指し、接合工程8のガス圧力が下がるほど接合界面での気泡発生のリスクを抑えることができる。
【0031】
接合工程8における第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2に対する加熱手段としては、赤外線加熱機、マイクロ波加熱機、超音波加熱機、熱プレス機、熱風乾燥機、加熱炉などが利用でき、特に制限されない。
【0032】
また、接合工程8において樹脂接合体を製造した後で、樹脂接合体を後加熱してもよい。これにより、接合界面での分子拡散が促進され、樹脂接合体の接合力が更に向上する。後加熱する手段としては、赤外線加熱機、マイクロ波加熱機、超音波加熱機、熱プレス機、熱風乾燥機、加熱炉などが利用でき、特に制限されない。また、後加熱の温度は、熱変質を防ぐ観点から、第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2のガラス転移温度(Tg)以下であることが好ましい。
【0033】
図2は、本発明の樹脂接合体の製造方法の別の一例を示す概略図である。この図に示す樹脂接合体の製造方法では、液体接触工程7は、液体活性化工程6が行われている途中で、活性液体3の中に第1の樹脂部材1と第2の樹脂部材2を浸漬させて、第1の樹脂部材1と第2の樹脂部材2を活性液体3に接触させる。このように液体活性化工程6の工程中で液体接触工程7も行うと、第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2も液体活性化手段4からエネルギーを受けるため、活性液体3との反応と合わせて直接的に第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2を活性化することができる。これにより、第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2の接合面を短時間で活性化できる。また、活性液体3中に第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2を浸漬させることで、第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2の接合面に漏れなく活性液体3を接触させることができる。更に、第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2の表裏を処理できるので、第1の樹脂部材、第2の樹脂部材に加え、他の樹脂部材をさらに重ねた積層体を容易に製造することができる。
【0034】
図2の製造方法では、第1の樹脂部材1と第2の樹脂部材2の両方を活性液体3の中に浸漬させているが、どちらか一方の樹脂部材の接合面のみを活性化させればいいのであれば、その樹脂部材だけを活性液体3の中に浸漬させればよい。
【0035】
図3は、本発明の樹脂接合体の製造方法のさらに別の一例を示す概略図である。この図に示す樹脂接合体の製造方法では、液体接触工程7の前に、第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2のどちらか一方または両方の接合面を表面処理する表面処理工程11が行われる。このように、液体接触工程7の前に第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2の接合面を予め表面処理し、第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2の接合面の分子鎖を切断および/または極性官能基を生成することで、活性液体3との反応が促進され、より短時間で第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2を活性化することができる。また、表面処理を行うことで、第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2表面に付着している汚染物も除去することができ、異物の無い良質な樹脂接合体を製造することができる。
【0036】
図3の製造方法では、第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2の両方の接合面に表面処理を施しているが、液体接触工程7において、どちらか一方の樹脂部材の接合面のみを活性化させるのであれば、その樹脂部材の接合面だけに表面処理を施してもよい。
また、表面処理工程11において、表面処理すると同時に、活性液体3を第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2に接触させても構わない。
【0037】
表面処理手段10としては、電離物質を第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2の接合面に照射すること、電磁波を第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2の接合面に照射すること、弾性振動波で第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2の接合面を振動させることが好ましい。この中で弾性振動波は、第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2の接合面に対して直接振動エネルギーを与えることにより分子鎖が切断され、第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2を活性化することができる。また、これらの手段のいずれか1つを行ってもよいし、複数種類を行ってもよい。これらの表面処理手段10は第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2に対する分解効率が高いため、短時間で第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2の表面を改質することができる。また、それらは処理強度や時間、周波数などを替えることで第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2の活性度を容易に制御することができる。
【実施例】
【0038】
以下実施例で、本発明の樹脂接合体の製造方法を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。また、以下実施例及び比較例の結果を表1に示す。
【0039】
[実施例1]
図1に示す樹脂接合体の製造方法において、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標):T60(透明)、ガラス転移温度70℃)を第1の樹脂部材1(以下、PETフィルム1とする)と第2の樹脂部材2(以下、PETフィルム2とする)に用いた。なお、レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社:OLS4100)にてPETフィルム1、PETフィルム2の表面粗さ(算術平均粗さRa)を測定した結果、いずれも10nmであった。
液体活性化工程6では、活性化する液体に純水を用い、液体活性化手段4に電離気体処理を用いた。なお、電離気体処理は、大気圧下において2枚の金属板間に酸素ガスを100sccm供給した後、直流パルス電圧(10kV)を印加して電離気体を生成し、純水に照射した。
ステンレス製の液体容器9に純水を入れた後、純水に対して電離気体処理を1分間施すことで活性液体3を生成した。
【0040】
液体接触工程7では、上記活性液体3をスプレーノズルで噴射して、PETフィルム1とPETフィルム2のそれぞれの接合面に活性液体3を接触させた。
接合工程8では、上記PETフィルム1とPETフィルム2の温度をそれぞれ65℃にして、それら接合面をプレス機にて10分間、2MPaで加熱圧着させることでPETフィルム1とPETフィルム2を接合した。
上記にて作成した接合サンプルの接合力は、90度剥離試験機(株式会社島津製作所:AGS-100A)を用いて評価した。その際、剥離速度は5cm/minとした。その結果、接合サンプルの接合力は0.8N/cmであった。また、接合サンプルの全光線透過率(日本電色工業:NDH2000)を測定した結果、89%であった。
【0041】
[実施例2]
図2のように、液体活性化工程6が行われている途中で、PETフィルム1とPETフィルム2の両方を活性液体3に浸漬させて、PETフィルム1とPETフィルム2に活性液体3を接触させる液体接触工程7を行うこと以外は、実施例1と同じ条件にて、PETフィルム1とPETフィルム2の接合サンプルを作成した。
上記にて作成した接合サンプルの接合力は、1.2N/cmであった。また、接合サンプルの全光線透過率を測定した結果、89%であった。
【0042】
[実施例3]
図3のように、液体接触工程7の前に表面処理工程11を行うこと以外は、実施例1と同じ条件にて、PETフィルム1とPETフィルム2の接合サンプルを作成した。なお、表面処理手段10には電離気体処理を用い、PETフィルム1とPETフィルム2の接合面を10秒間処理した。また、電離気体処理は、大気圧下において2枚の金属板間に酸素ガスを100sccm供給した後、直流パルス電圧(10kV)を印加して電離気体を生成し、純水に照射した。
上記にて作成した接合サンプルの接合力は、1.1N/cmであった。また、接合サンプルの全光線透過率を測定した結果、89%であった。
【0043】
[実施例4]
第1の樹脂部材1と第2の樹脂部材2を、どちらも厚み0.2mmのPMMA基材(テクノロイ(登録商標)S000(透明)、ガラス転移温度100℃)に変更し(以下、第1の樹脂部材1をPMMA1、第2の樹脂部材2をPMMA2とする)、接合工程8における基材温度を95℃にした外は、実施例3と同じ条件にて、PMMA1とPMMA2の接合サンプルを作成した。
上記にて作成した接合サンプルの接合力は、1.5N/cmであった。また、接合サンプルの全光線透過率を測定した結果、91%であった。
【0044】
[比較例1]
純水を活性化しないこと以外は、実施例1と同じ条件にて、PETフィルム1とPETフィルム2の接合サンプルを作成した。
上記にて作成した接合サンプルの接合力は、0.0N/cmであった。
【0045】
[比較例2]
純水を活性化しないこと以外は、実施例3と同じ条件にて、PETフィルム1とPETフィルム2の接合サンプルを作成した。
上記にて作成した接合サンプルの接合力は、0.6N/cmであった。また、接合サンプルの全光線透過率を測定した結果、89%であった。
【0046】
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の樹脂接合体の製造方法を用いることで、高い接合力を有する樹脂接合体を容易に得ることができ、透明体の樹脂を使用して樹脂接合体を製造した場合、良質な光学特性を有する樹脂接合体を製造することができる。本発明の樹脂接合体の製造方法により製造した樹脂接合体は、例えば、包装材料や光学フィルムに応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0048】
1 第1の樹脂部材
2 第2の樹脂部材
3 活性液体
4 液体活性化手段
5 液体接触機構
6 液体活性化工程
7 液体接触工程
8 接合工程
9 液体容器
10 表面処理手段
11 表面処理工程