(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】鍵盤楽器の譜面受け構造、鍵盤楽器
(51)【国際特許分類】
G10C 3/00 20190101AFI20240220BHJP
G10C 3/02 20060101ALI20240220BHJP
G10H 1/32 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
G10C3/00 200
G10C3/02 110
G10H1/32 Z
(21)【出願番号】P 2020003736
(22)【出願日】2020-01-14
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】昆 仁毅
(72)【発明者】
【氏名】飯田 茂樹
【審査官】大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-046335(JP,U)
【文献】特開2016-161748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10C 3/00
G10C 3/02
G10H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
譜面の背面を受ける背面受け部と、
前記譜面の下端を受けることが可能な第1受け部と、
前記第1受け部とは異なる部材から成り、前記譜面の下端を受けることが可能で且つ、水平方向に対して成す傾斜角度が前記第1受け部とは異なる第2受け部と、を有
し、
前記背面受け部は、前記譜面の下端を前記第1受け部が受ける場合と前記第2受け部が受ける場合のいずれにおいても、前記譜面の背面を受ける部分となる、鍵盤楽器の譜面受け構造。
【請求項2】
譜面の背面を受ける背面受け部と、
前記譜面の下端を受けることが可能な第1受け部と、
回動終端位置で前記譜面の下端を受けることが可能な鍵盤蓋を用いた第2受け部と、を有し、
前記背面受け部は、前記譜面の下端を前記第1受け部が受ける場合と前記第2受け部が受ける場合のいずれにおいても、前記譜面の背面を受ける部分となる、鍵盤楽器の譜面受け構造。
【請求項3】
前記第2受け部の前記傾斜角度は前記第1受け部の前記傾斜角度よりも大きい、請求項1に記載の鍵盤楽器の譜面受け構造。
【請求項4】
前記背面受け部は、上前板であり、
前記第1受け部は、前記上前板の下端部に隣接する譜面台に形成される、請求項1
乃至3のいずれか1項に記載の鍵盤楽器の譜面受け構造。
【請求項5】
前記第2受け部は、開状態の鍵盤蓋における蓋前板の外側面の一部である、請求項1に記載の鍵盤楽器の譜面受け構造。
【請求項6】
前記第2受け部は、開状態の前記鍵盤蓋における蓋前板の外側面の一部である、請求項2に記載の鍵盤楽器の譜面受け構造。
【請求項7】
前記第2受け部は
、鍵盤蓋の開状態において前記第1受け部よりも前方に位置する傾斜部と、譜面押さえと、で構成される、請求項
1に記載の鍵盤楽器の譜面受け構造。
【請求項8】
前記第2受け部は、前記鍵盤蓋の開状態において前記第1受け部よりも前方に位置する傾斜部と、譜面押さえと、で構成される、請求項2、5または6に記載の鍵盤楽器の譜面受け構造。
【請求項9】
前記譜面押さえは前記鍵盤蓋の取っ手である、請求項7または8に記載の鍵盤楽器の譜面受け構造。
【請求項10】
側面視で、開状態の前記鍵盤蓋における前記第2受け部の前端位置と前記背面受け部の上端位置とを結ぶ線分よりも、前記第1受け部を構成する部材の上部前端位置は後方に位置する、請求項
7乃至9のいずれか1項に記載の鍵盤楽器の譜面受け構造。
【請求項11】
譜面の背面を受ける背面受け部と、
前記譜面の下端を受けることが可能な第1受け部と、
前記第1受け部とは異なる部材から成り、前記譜面の下端を受けることが可能で且つ、水平方向に対して成す傾斜角度が前記第1受け部とは異なる第2受け部と、を有し、
前記背面受け部は、前記譜面の下端を前記第1受け部が受ける場合と前記第2受け部が受ける場合のいずれにおいても、前記譜面の背面を受ける部分となり、
前記背面受け部は、上前板であり、
前記第1受け部は、前記上前板の下端部に隣接する譜面台に形成される、鍵盤楽器。
【請求項12】
前記上前板は、鉛直方向に対して10°を超え且つ30°以下だけ後方に傾斜
し、
前記譜面台は、前記譜面の下端を受けることが可能な傾斜面を有する
、請求項11に記載の鍵盤楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤楽器の譜面受け構造、鍵盤楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鍵盤楽器の一部に採用される譜面受け構造には、上前板の下端部に隣接する譜面台に譜面が置かれるものがある。また、下記特許文献1に示されるように、アップライトピアノにおいては、開けた状態の鍵盤蓋を譜面台として用いる譜面受け構造も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、いずれの譜面受け構造においても、譜面を置く場所は1箇所しかない。従って、ユーザの体格や好みに応じて見やすくしたり圧迫感を抑制したりしたくても、譜面の置き場所や置き方に選択の余地がなかった。
【0005】
本発明の一つの目的は、補助譜面板等を用いることなく、譜面を置く際の位置と角度を選択することができる鍵盤楽器の譜面受け構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態によれば、譜面の背面を受ける背面受け部と、前記譜面の下端を受けることが可能な第1受け部と、前記第1受け部とは異なる部材から成り、前記譜面の下端を受けることが可能で且つ、水平方向に対して成す傾斜角度が前記第1受け部とは異なる第2受け部と、を有し、前記背面受け部は、前記譜面の下端を前記第1受け部が受ける場合と前記第2受け部が受ける場合のいずれにおいても、前記譜面の背面を受ける部分となる、鍵盤楽器の譜面受け構造が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一形態によれば、補助譜面板等を用いることなく、譜面を置く際の位置と角度を選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】譜面受け構造が適用される鍵盤楽器の部分斜視図である。
【
図2】鍵盤楽器の鍵盤蓋付近の模式的側面図である(鍵盤蓋の全閉状態)。
【
図3】鍵盤楽器の鍵盤蓋付近の模式的側面図である(鍵盤蓋の全開状態)。
【
図4】前屋根から蓋前板までの領域の模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施の形態に係る譜面受け構造が適用される鍵盤楽器の部分斜視図である。この鍵盤楽器10は、例えばアップライトピアノとして構成される。
図1は、鍵盤楽器10を右上方前方から見た図である。以降、鍵盤楽器10に対し、鍵盤楽器10を演奏する演奏者が位置する側を前側とする。左右方向については演奏者から見た鍵盤楽器10の方向を基準とする。
【0011】
鍵盤楽器10の左右両側部には親板12(右側のもののみ図示)が備えられる。親板12の上には屋根が配置される、
図1では、屋根のうち前屋根11が図示されている。親板12の前方の左右両側部には、腕木13(右側のもののみ図示)が配置されている。2つの親板12の間において、前屋根11の下方には上前板18が配置されている。上前板18の下端部18bに対して前側に隣接して、譜面台20が配置されている。鍵盤楽器10は、開閉可能な鍵盤蓋30を有する。
図1では、鍵盤蓋30の全開状態が示されている。
【0012】
図2、
図3は、鍵盤楽器10の鍵盤蓋30付近の模式的側面図である。
図2、
図3では、それぞれ、鍵盤蓋30の全閉状態、全開状態が示されている。鍵盤楽器10は鍵盤17を有する。鍵盤蓋30は、全閉状態のときに鍵盤17を覆うと共に、全開状態のときに鍵盤17を露出させるように構成される。鍵盤楽器10の内部において、軸部材16、ガイド部材15、ストッパ14がそれぞれ、左右両側部に設けられる(いずれも左側のもののみ図示)。軸部材16、ガイド部材15、ストッパ14はいずれも、対応する腕木13に固定されている。軸部材16は回動中心16aを中心に回動自在である。ストッパ14の後方に、不図示のアクション機構が配置されている。
【0013】
鍵盤蓋30は、主に、前蓋31と、後蓋32と、連結部33とから構成される。前蓋31と後蓋32とは、蝶番等の連結部33によって互いに回動可能に連結されている。後蓋32の左右両端部には、被ガイド部35が設けられている。被ガイド部35は、対応するガイド部材15の上面であるガイド面15aと常に接触する。被ガイド部35の先端の側面視形状は弧状である。前蓋31は、軸部材16に嵌められており、軸部材16と共に回動中心16aを中心に回動自在である。
【0014】
鍵盤蓋30の開閉操作は、通常、前蓋31の主に蓋前板34の取っ手34bを把持して行われる。まず、全閉状態(
図2)から、ユーザが蓋前板34を持って前蓋31を上方に回動させると、後蓋32が、前蓋31の回動に連動して後方に移動していく。その際、被ガイド部35がガイド部材15のガイド面15aに接触しながらガイド面15a上を滑る。後蓋32は、その姿勢を徐々に変化させながら円滑に後退していく。
図3に示すように、被ガイド部35がストッパ14に当たると、鍵盤蓋30が全開状態となる。全開状態においては、蓋前板34が譜面台20の下に潜り込む。
【0015】
次に、譜面を受ける譜面受け構造について説明する。
図4は、前屋根11から蓋前板34までの領域の模式的側面図である。
図4では、
図1と同様に鍵盤蓋30の全開状態が示されている。上前板18の前面18aは、譜面19の背面を受ける。従って、上前板18は背面受け部としての役割を果たす。鉛直方向に対する前面18aの傾斜角度θ3は、10°を超え且つ30以下であり、好ましくは15°を超えかつ20°以下である。従来、一般的には上前板の前面の傾斜角度は10°未満である。本実施の形態では、前面18aがより後傾となったことで圧迫感が軽減されている。なお、水平方向を基準として表現すれば、水平方向からの前面18aの起きあがり角度は、60°以上80°未満である。
【0016】
一方、本実施の形態では、後述するように、譜面19の下端19aを受けることが可能な受け部が2つある。2つの受け部のうち第1受け部が、譜面台20に形成される傾斜面23である。また、第2受け部は、鍵盤蓋30(
図3等)に形成される傾斜部34aと取っ手34bとで構成される。取っ手34bは譜面押さえとして機能する。傾斜部34aに置かれた譜面の下端がずれて浮き上がってくることが取っ手34bによって防止され、譜面が安定して載置される。なお、第2受け部は、譜面押さえの機能を有する取っ手34bを省略し、傾斜部34aのみで構成してもよい。
【0017】
まず、
図4に示すように、上前板18と譜面台20とは別部材で構成される。譜面台20は、上前板18の下端部18bに対して固定されている。譜面台20のうち、上前板18の下端部18bよりも前側に突き出て露出した部分が上面部21である。上面部21は、水平面22と傾斜面23(第1受け部)とから成る。傾斜面23の前方に水平面22が繋がる。
【0018】
傾斜部34aは、全開状態の鍵盤蓋30における蓋前板34の外側面の一部であり、鍵盤蓋30の全開状態時に上方を向く面の一部である。鍵盤蓋30の全開状態時に、傾斜部34aは、傾斜面23よりも前方に位置する。傾斜面23が水平方向に対して成す傾斜角度をθ1とする。傾斜部34aが水平方向に対して成す傾斜角度をθ2とする。傾斜角度θ1よりも傾斜角度θ2の方が大きい。また、傾斜面23は、後方ほど低くなるように傾斜し且つ上前板18の前面18aに対して略90°を成す。傾斜角度θ1は、10°を超え且つ30°以下である。例えば、θ3=15°であれば、θ1=15°である。
【0019】
傾斜面23(第1受け部)が用いられる場合、傾斜面23が譜面19の下端19aを受けると共に、譜面19が上前板18の前面18aにもたれかかる。傾斜面23と前面18aとが略垂直を成すので、譜面19の下端19aが前方にずれ動くことが抑制され、安定して保持される。そのため、従来の譜面台にあるような止め棒が不要となる。なお、水平面22を設けたことで、上面部21の全体を傾斜面23とすることに比べて、傾斜面23が深くなり過ぎずに済むという利点がある。
【0020】
傾斜部34aが譜面受けとして用いられる場合、傾斜部34aが譜面19の下端19aを受けると共に、譜面19が上前板18の前面18aにもたれかかる。鍵盤蓋30の全開状態時には、譜面台20から前方に突出した傾斜部34aの部分の幅B1は、従来よりも大きい。そのため、譜面19を置きやすくなっている。また、全開状態の鍵盤蓋30における傾斜部34aの前端位置をP1とする。上前板18の前面18aの上端位置をP2とする。第1受け部(傾斜面23)を構成する部材である譜面台20の上部前端位置をP3とする。側面視で、前端位置P1と上端位置P2とを結ぶ線分L1よりも、譜面台20の上部前端位置P3は後方に位置する。このような位置関係により、譜面台20に当たらないように譜面19を傾斜部34aに適切に置くことが可能となる。
【0021】
以上説明したように、本実施の形態の譜面受け構造は、譜面19の背面を受ける背面受け部として上前板18を有する。また、譜面受け構造は、譜面19の下端19aを受けることが可能な受け部として、譜面台20の傾斜面23(第1受け部)と、水平方向に対して成す傾斜角度が傾斜面23とは異なる傾斜部34aとを有する。
【0022】
本実施の形態によればまた、傾斜面23は、後方ほど低くなるように傾斜し且つ上前板18の前面18aに対して略90°を成す。この構成により、傾斜面23を用いる際、譜面19の下端19aがずれにくく、譜面19を安定して置くことができる。
【0023】
本実施の形態によればまた、鉛直方向に対する前面18aの傾斜角度θ3は10°を超え且つ30°以下であり、前面18aは従来よりも後傾している。この角度設定により、演奏時の圧迫感を軽減することができる。なお、傾斜面23が前面18aに対して略90°を成すことは、譜面19を安定保持する上で、前面18aを従来よりも後傾可能にすることに繋がっている。
【0024】
このように、ユーザは、自身の体格や好みに応じて、譜面19を安定して置くことができ、しかも、見やすくしたり圧迫感を抑制したりすることができる。
【0025】
また、鍵盤蓋30の全開状態時に、傾斜部34aは、傾斜面23よりも前方に位置すると共に、傾斜面23の傾斜角度θ1よりも傾斜部34aの傾斜角度θ2の方が大きい。従って、いずれの受け部に譜面を置いても下端がずれにくく安定する。
【0026】
また、側面視で、前端位置P1と上端位置P2とを結ぶ線分L1よりも、譜面台20の上部前端位置P3の方が後方に位置するので、傾斜部34aを用いる際、譜面台20に当たらないように譜面19を適切に置くことができる。
【0027】
なお、本発明が適用される鍵盤楽器は、アップライトピアノに限らない。構成上の制約がない限り、アップライトピアノ以外の鍵盤楽器、例えば、グランドピアノやチェレスタ等にも本発明を適用可能である。
【0028】
なお、本実施の形態において、「略」を付したものは完全を除外する趣旨ではない。例えば、「略垂直」、「略90°」はそれぞれ、完全な垂直、90°を含む趣旨である。
【0029】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。
【0030】
本明細書は、以下の発明を含む。
1.譜面の背面を受けることが可能であり、後方に傾斜した上前板と、前記上前板の下端部に隣接する譜面台であって、後方ほど低くなるように傾斜し且つ前記上前板に対して略90°を成す傾斜面を有し、前記傾斜面が前記譜面の下端を受けることが可能な前記譜面台と、を有する、鍵盤楽器の譜面受け構造。
2.鉛直方向に対する前記上前板の傾斜角度は10°を超え且つ30°以下である、前記1に記載の鍵盤楽器の譜面受け構造。
3.前記譜面台は、前記傾斜面の前方に繋がる水平面を有する、前記1または2に記載の鍵盤楽器の譜面受け構造。
4.前記1乃至3のいずれかに記載の鍵盤楽器の譜面受け構造を備える、鍵盤楽器。
【符号の説明】
【0031】
18 上前板、 19 譜面、 19a 下端、 23 傾斜面、 34a 傾斜部