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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/10 20160101AFI20240220BHJP
   H02J 50/90 20160101ALI20240220BHJP
   H02J 50/60 20160101ALI20240220BHJP
【FI】
H02J50/10
H02J50/90
H02J50/60
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020014586
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021122162
(43)【公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石垣 将紀
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 直樹
【審査官】清水 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-187011(JP,A)
【文献】特開2004-297862(JP,A)
【文献】特開平10-339745(JP,A)
【文献】特開平10-322247(JP,A)
【文献】特開2016-119755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/00-50/90
H02M 3/00-5/48
H02M 7/42-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1、2プライマリ巻線を有するプライマリ側コネクタ、および、前記第1、2プライマリ巻線に磁気結合するセカンダリ巻線を有するセカンダリ側コネクタを含み、前記プライマリ側コネクタと前記セカンダリ側コネクタが非接触で動作可能であるトランスと、
2つのスイッチング素子が直列接続された第1、2アームを並列接続して構成される第1ブリッジ回路、および、前記第1、2アームに並列接続された第1コンデンサを含む第1スイッチング回路と、
前記セカンダリ巻線に接続された第2スイッチング回路と、を備え、
前記第1プライマリ巻線の一端および前記第2プライマリ巻線の一端が接続されて中途接続点が形成され、前記第1、2プライマリ巻線のそれぞれの他端が前記第1、2アームのそれぞれの2つのスイッチング素子の間に接続され、
前記中途接続点と前記第1コンデンサの一端との間に、矩形波または直流の電圧が印加され、
前記第1スイッチング回路と前記第2スイッチング回路の間で電力が伝送される電力変換装置であって、
前記中途接続点に流れる電流の変化量を検出するセンサと、
前記センサの検出値に基づいて、前記プライマリ側コネクタと前記セカンダリ側コネクタの間の距離を推定するプロセッサと、をさらに備える、
電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記センサはピックアップコイルを含み、
前記センサは、前記ピックアップコイルにより、前記中途接続点に流れる電流の変化量として、当該電流Irの微分値dIr/dtを検出する、
電力変換装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電力変換装置において、
前記プロセッサは、
前記プライマリ側コネクタと前記セカンダリ側コネクタの間の距離が予め定められた距離以上であると推定した場合、伝送される電力が低下するように、前記中途接続点と前記第1コンデンサの一端との間に印加される矩形波電圧のデューティを制御する、
電力変換装置。
【請求項4】
第1、2プライマリ巻線を有するプライマリ側コネクタ、および、前記第1、2プライマリ巻線に磁気結合するセカンダリ巻線を有するセカンダリ側コネクタを含み、前記プライマリ側コネクタと前記セカンダリ側コネクタが非接触で動作可能であるトランスと、
2つのスイッチング素子が直列接続された第1、2アームを並列接続して構成される第1ブリッジ回路、および、前記第1、2アームに並列接続された第1コンデンサを含む第1スイッチング回路と、
前記セカンダリ巻線に接続された第2スイッチング回路と、を備え、
前記第1プライマリ巻線の一端および前記第2プライマリ巻線の一端が接続されて中途接続点が形成され、前記第1、2プライマリ巻線のそれぞれの他端が前記第1、2アームのそれぞれの2つのスイッチング素子の間に接続され、
前記中途接続点と前記第1コンデンサの一端との間に、矩形波または直流の電圧が印加され、
前記第1スイッチング回路と前記第2スイッチング回路の間で電力が伝送される電力変換装置であって、
前記中途接続点に流れる電流の変化量を検出するセンサと、
前記センサの検出値に基づいて、前記プライマリ側コネクタと前記セカンダリ側コネクタの間の異物を検知するプロセッサと、をさらに備える、
電力変換装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電力変換装置において、
前記センサはピックアップコイルを含み、
前記センサは、前記ピックアップコイルにより、前記中途接続点に流れる電流の変化量として、当該電流Irの微分値dIr/dtを検出する、
電力変換装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の電力変換装置において、
前記プロセッサは、
前記プライマリ側コネクタと前記セカンダリ側コネクタの間に異物を検知した場合、前記第1スイッチング回路に含まれるスイッチング素子のスイッチングを停止する、
電力変換装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の電力変換装置において、
前記トランスは、柱状部を有するコアを含み、
前記柱状部は、
柱形状を軸方向断面で分割して得られる形状をそれぞれが有し、それぞれの前記軸方向断面が分割ギャップを形成するように配置された2つの分割柱を含み、
前記柱状部の軸を横切るギャップによってプライマリ柱状部およびセカンダリ柱状部に分割されており、
前記プライマリ柱状部は、前記プライマリ側コネクタに含まれており、
前記セカンダリ柱状部は、前記セカンダリ側コネクタに含まれており、
前記第1プライマリ巻線は、
前記プライマリ柱状部に属する2つの前記分割柱のうちの一方の周囲に設けられ、
前記第2プライマリ巻線は、
前記プライマリ柱状部に属する2つの前記分割柱のうちの他方の周囲に設けられ、
前記セカンダリ巻線は、
前記セカンダリ柱状部の周囲に設けられている、
電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライマリ巻線を有するプライマリ側コネクタと、セカンダリ巻線を有するセカンダリ側コネクタが非接触で動作可能であるトランスを用い、プライマリ側コネクタとセカンダリ側コネクタの間の状態を検知可能な電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電池を用いる装置や、電池が搭載された電動自動車等では、電池から出力された電力を調整して電力供給先の電気回路に出力し、あるいは、外部から供給された電力を調整して電池に出力する電力変換装置が用いられる。電力変換装置は、複数のスイッチング回路に加えて複数のスイッチング回路を結合するトランスを用いることで、各スイッチング回路の入出力電圧を整合させる。
【0003】
トランスには、プライマリ巻線を有するプライマリ側コネクタと、セカンダリ巻線を有するセカンダリ側コネクタを個別に構成し、それらが非接触(コンタクトレス)の状態で動作可能なものがある。このようなトランスを用いた電力変換装置は、非接触給電装置として、例えば地上側から電動自動車に搭載された電池に非接触で電力を供給し、電池を充電する用途等が期待されている。
【0004】
非接触給電装置では、プライマリ側コネクタとセカンダリ側コネクタの間に異物が侵入する可能性があり、異物侵入により、異物の発火・発煙、装置の損傷、電力伝送効率の悪化等が起こる可能性がある。そのため、従来、プライマリ側コネクタとセカンダリ側コネクタの間の状態を検知する技術が検討されている。
【0005】
特許文献1には、送電コイルから受電コイルに非接触で給電する非接触給電装置において、インバータから送電コイルに出力される交流電力の電圧及び電流の位相の変化に基づいて、送電コイル上の金属異物を検出することが開示されている。
【0006】
非特許文献1には、一次コイルと二次コイルの電圧比からトランス効率を推定し、推定したトランス効率と、実際の効率との差が閾値を超えた時、トランス間に異物ありと判断することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2015/037291号
【非特許文献】
【0008】
【文献】駒崎伸也ほか、「電気自動車用非接触給電装置のギャップ中の異物検知法」、平成24年電気学会産業応用部門大会講演論文集、115~120(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、プライマリ側コネクタとセカンダリ側コネクタが非接触で動作可能であるトランスを用い、トランスを構成する巻線のインダクタンスを利用して降圧、昇圧を行うことが可能な電力変換装置が考えられる。このような電力変換装置において、プライマリ側コネクタとセカンダリ側コネクタの間の状態を検知する簡易な仕組みが望まれている。
【0010】
本発明の目的は、トランスを構成する巻線のインダクタンスを利用して降圧、昇圧を行うことが可能であり、トランスのプライマリ側コネクタとセカンダリ側コネクタの間の状態を簡易に検知することが可能である電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の電力変換装置は、第1、2プライマリ巻線を有するプライマリ側コネクタ、および、前記第1、2プライマリ巻線に磁気結合するセカンダリ巻線を有するセカンダリ側コネクタを含み、前記プライマリ側コネクタと前記セカンダリ側コネクタが非接触で動作可能であるトランスと、2つのスイッチング素子が直列接続された第1、2アームを並列接続して構成される第1ブリッジ回路、および、前記第1、2アームに並列接続された第1コンデンサを含む第1スイッチング回路と、前記セカンダリ巻線に接続された第2スイッチング回路と、を備え、前記第1プライマリ巻線の一端および前記第2プライマリ巻線の一端が接続されて中途接続点が形成され、前記第1、2プライマリ巻線のそれぞれの他端が前記第1、2アームのそれぞれの2つのスイッチング素子の間に接続され、前記中途接続点と前記第1コンデンサの一端との間に、矩形波または直流の電圧が印加され、前記第1スイッチング回路と前記第2スイッチング回路の間で電力が伝送される電力変換装置であって、前記中途接続点に流れる電流の変化量を検出するセンサをさらに備える、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の電力変換装置において、前記センサはピックアップコイルを含み、前記センサは、前記ピックアップコイルにより、前記中途接続点に流れる電流の変化量として、当該電流Irの微分値dIr/dtを検出する、としてもよい。
【0013】
本発明の電力変換装置において、前記センサの検出値に基づいて、前記プライマリ側コネクタと前記セカンダリ側コネクタの間の距離を推定するプロセッサをさらに備える、としてもよい。
【0014】
本発明の電力変換装置において、前記センサの検出値に基づいて、前記プライマリ側コネクタと前記セカンダリ側コネクタの間の異物を検知するプロセッサをさらに備える、としてもよい。
【0015】
本発明の電力変換装置において、前記プロセッサは、前記プライマリ側コネクタと前記セカンダリ側コネクタの間の距離が予め定められた距離以上であると推定した場合、伝送される電力が低下するように、前記中途接続点と前記第1コンデンサの一端との間に印加される矩形波電圧のデューティを制御する、としてもよい。
【0016】
本発明の電力変換装置において、前記プロセッサは、前記プライマリ側コネクタと前記セカンダリ側コネクタの間に異物を検知した場合、前記第1スイッチング回路に含まれるスイッチング素子のスイッチングを停止する、としてもよい。
【0017】
本発明の電力変換装置において、前記トランスは、柱状部を有するコアを含み、前記柱状部は、柱形状を軸方向断面で分割して得られる形状をそれぞれが有し、それぞれの前記軸方向断面が分割ギャップを形成するように配置された2つの分割柱を含み、前記柱状部の軸を横切るギャップによってプライマリ柱状部およびセカンダリ柱状部に分割されており、前記プライマリ柱状部は、前記プライマリ側コネクタに含まれており、前記セカンダリ柱状部は、前記セカンダリ側コネクタに含まれており、前記第1プライマリ巻線は、前記プライマリ柱状部に属する2つの前記分割柱のうちの一方の周囲に設けられ、前記第2プライマリ巻線は、前記プライマリ柱状部に属する2つの前記分割柱のうちの他方の周囲に設けられ、前記セカンダリ巻線は、前記セカンダリ柱状部の周囲に設けられている、としてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電力変換装置によれば、第1、2プライマリ巻線のインダクタンスを利用して、第1、2プライマリ巻線の間の中途接続点と第1コンデンサの一端の間に印加された電圧を昇圧することが可能である。また、当該印加された電圧が矩形波である場合には、第1、2プライマリ巻線のインダクタンスを利用して、当該印加された電圧を降圧することが可能である。昇降圧後の電圧は、第1コンデンサの端子間電圧として得られ、第1ブリッジ回路を介して第1、2プライマリ巻線に印加される。ここで、トランスの励磁インダクタンスは、トランスのプライマリ側コネクタとセカンダリ側コネクタの間の距離や異物等によって変化する。この電力変換装置では、トランスの励磁インダクタンスの大きさによって、第1、2プライマリ巻線の間の中途接続点に流れる電流の変化量の大きさが変化する。従って、中途接続点に流れる電流の変化量を検出するセンサの検出値により、トランスのプライマリ側コネクタとセカンダリ側コネクタの間の状態(距離や異物等)を簡易に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】電力変換装置を示す図である。
図2】電池制御装置を示す図である。
図3】電池制御装置の制御アルゴリズムを概念的に示す図である。
図4】電流変化量を検出するセンサの外観を示す図である。
図5】トランスの等価回路を示す図である。
図6】トランスのギャップが小さい時のシミュレーション結果を示す図である。
図7】トランスのギャップが大きい時のシミュレーション結果を示す図である。
図8】Dd=1、Db≠0.5でトランスのギャップが小さい時のシミュレーション結果を示す図である。
図9】Dd=1、Db≠0.5でトランスのギャップが大きい時のシミュレーション結果を示す図である。
図10】トランスのギャップ長とセンサの検出電圧の関係を示す図である。
図11】トランスのギャップに異物がある状態を示す図である。
図12】トランスのギャップに異物がある時のシミュレーション結果を示す図である。
図13】電力変換装置の制御の流れを示すフローチャートである。
図14】トランスの斜視図である。
図15】プライマリコアおよびセカンダリコアを離して配置した場合のトランスの斜視図である。
図16】プライマリコアの上面側からトランスを眺めた図である。
図17】セカンダリコアの下面側からトランスを眺めた図である。
図18】第1プライマリ巻線および第2プライマリ巻線の第2の構成例を示す図である。
図19】セカンダリ巻線の具体的な構造を示す図である。
図20】第1プライマリ巻線および第2プライマリ巻線の具体的な構造を示す図である。
図21】第2プライマリ巻線の具体的な構造を示す図である。
図22】トランスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。以下で述べる構成は、説明のための例示であって、電力変換装置の仕様等に合わせて適宜変更が可能である。同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、以下において複数の実施形態や変形例などが含まれる場合、それらの特徴部分を適宜に組み合わせて用いることは当初から想定されている。
【0021】
まず、電力変換装置の基本構成について説明し、次に、電力変換装置が有するトランスのコネクタ間の状態検出について説明する。最後にトランスの詳細構造について説明する。
【0022】
<電力変換装置の基本構成>
図1には、電力変換装置100(電力変換システムとも言う)が示されている。電力変換装置100は、位相シフト型絶縁DC-DCコンバータとして動作可能である。電力変換装置100は、電源部102、プライマリ・スイッチング回路104、トランス1、セカンダリ・スイッチング回路106、センサ600、プライマリ側コントローラ630(プロセッサ)およびセカンダリ側コントローラ(プロセッサ、不図示)を備えている。
【0023】
トランス1は、第1、2プライマリ巻線22A、22Bを有するプライマリ側コネクタP、および、第1、2プライマリ巻線22A、22Bに磁気結合するセカンダリ巻線24を有するセカンダリ側コネクタSを含む。トランス1は、プライマリ側コネクタPとセカンダリ側コネクタSが非接触で動作可能である。第1プライマリ巻線22Aの一端および第2プライマリ巻線22Bの一端が接続されて中途接続点32(タップ32とも言う)が形成されており、第1プライマリ巻線22Aの他端は第1プライマリ端子30であり、第2プライマリ巻線22Bの他端は第2プライマリ端子34である。セカンダリ巻線24の一端は第1セカンダリ端子36であり、セカンダリ巻線24の他端は第2セカンダリ端子38である。トランス1の詳細構造については後述する。
【0024】
電力変換システム100は、プライマリ・スイッチング回路104(第1スイッチング回路104とも言う)のスイッチングに応じて、第1プライマリ巻線22Aおよび第2プライマリ巻線22Bに誘導起電力を発生させて、プライマリ・スイッチング回路104が備えるプライマリコンデンサCp(第1コンデンサCpとも言う)を充電する。さらに、プライマリ・スイッチング回路104およびセカンダリ・スイッチング回路106のスイッチングによって、プライマリ・スイッチング回路104とセカンダリ・スイッチング回路106との間で電力が伝送される。
【0025】
プライマリ・スイッチング回路104は、フルブリッジ回路である第1ブリッジ回路610、およびプライマリコンデンサCpを備えている。第1ブリッジ回路610は、2つのスイッチング素子が直列接続された第1アームXと、同様に2つのスイッチング素子が直列接続された第2アームYとを並列接続して構成される。第1、2アームX、Yはそれぞれ、2つのスイッチング素子の一方がオンであるときは、他方はオフになり、2つのスイッチング素子は交互にオンオフする。
【0026】
図1にはスイッチング素子としてMOSFETが用いられた場合が示されている。一方のMOSFETのソース端子に他方のMOSFETのドレイン端子が接続されている。各MOSFETのドレイン端子とソース端子との間には、ドレイン端子の側をカソード端子としてダイオードが接続されている。
【0027】
第1アームXにおける2つのスイッチング素子の接続点(以下、アーム中点という。他のアームについても同様である。)は、トランス1の第1プライマリ端子30に接続されている。第2アームYにおけるアーム中点は、トランス1の第2プライマリ端子34に接続されている。プライマリコンデンサCpは、第1、2アームX、Yに並列接続されている。
【0028】
トランス1のタップ32とプライマリコンデンサCpの一端との間には、電源部102が接続されており、電源部102から矩形波または直流の電圧Vrが印加される。
【0029】
プライマリ側コントローラ630(単にコントローラまたはプロセッサとも言う)は、第1ブリッジ回路610の各スイッチング素子のゲート信号を制御して、各スイッチング素子のスイッチングを制御する。センサ600は、トランス1のタップ32に流れる電流Irの変化量を検出する。コントローラ630は、センサ600の検出値Vsensに基づいて、トランス1のプライマリ側コネクタPとセカンダリ側コネクタSの間の状態(距離や異物等)を検知する。この詳細については後述する。
【0030】
セカンダリ・スイッチング回路106(第2スイッチング回路106とも言う)は、フルブリッジ回路である第2ブリッジ回路612、および、セカンダリコンデンサCs(第2コンデンサCsとも言う)を備えている。第2ブリッジ回路612は、2つのスイッチング素子が直列接続された第3アームUと、同様に2つのスイッチング素子が直列接続された第4アームVとを並列接続して構成される。セカンダリコンデンサCsは、第3、4アームU、Vに並列接続されている。第3アームUにおけるアーム中点は、トランス1の第2セカンダリ端子38に接続されている。第4アームVにおけるアーム中点は、トランス1の第1セカンダリ端子36に接続されている。セカンダリコンデンサCsの上側の端子は、セカンダリ正極端子108Pに接続され、セカンダリコンデンサCsの下側の端子は、セカンダリ負極端子108Nに接続されている。セカンダリ正極端子108Pとセカンダリ負極端子108Nには、負荷/発電回路(図示せず)が接続される。負荷/発電回路は、セカンダリ・スイッチング回路106から供給される電力を消費する回路であってもよいし、セカンダリ・スイッチング回路106に電力を供給する回路であってもよい。セカンダリ側コントローラ(不図示)は、第2ブリッジ回路612の各スイッチング素子のゲート信号を制御して、各スイッチング素子のスイッチングを制御する。
【0031】
第1、2アームX、Yは、180°の位相差でスイッチングする。第1、2アームX、Y(第1ブリッジ回路610)のオン時比率(デューティDbとも言う)を調整することで、電源部102が出力する電圧Vrが昇圧され、プライマリコンデンサCpが充電される。ここで、第1、2アームX、Yのスイッチングタイミングは、第1、2アームX、Yのそれぞれにおける上側のスイッチング素子のオンオフのタイミングとして定義される。第1、2アームX、Yのオン時比率は、スイッチング周期に対する、第1、2アームX、Yのそれぞれにおける上側のスイッチング素子がオンになる時間の比率として定義される。
【0032】
第1、2アームX、Yのスイッチングによって、第1、2プライマリ巻線22A、22Bが昇圧用インダクタとして機能し、電源部102が出力する電圧Vrが昇圧され、昇圧後の電圧がプライマリコンデンサCpの端子間に現れる。また、電源部102が出力する電圧Vrが矩形波である場合、第1、2プライマリ巻線22A、22Bは降圧用インダクタとしても機能する。この場合、第1、2プライマリ巻線22A、22Bにより矩形波のリップルが抑制されると共に、矩形波の電圧Vrのオン時比率(デューティDdとも言う)に応じて電圧Vrが降圧され、降圧後の電圧が昇圧されてプライマリコンデンサCpの端子間に現れる。プライマリコンデンサCpの端子間電圧V1(昇降圧後の電圧)は、第1、2アームX、Y(第1ブリッジ回路610)を介して第1、2プライマリ巻線22A、22Bに印加される。第1、2プライマリ巻線22A、22Bは、トランス1として機能するための励磁インダクタンスLmおよび漏れインダクタンスLIを有すると共に、上記したように昇圧用インダクタ(昇圧用インダクタンスLb)、降圧用インダクタ(降圧用インダクタンスLd)としても機能する。
【0033】
第3、4アームU、Vのオン時比率は、第1、2アームX、Yのオン時比率(デューティDb)と同一であってよい。第3、4アームU、Vは、180°の位相差でスイッチングする。また、第1、2アームX、Y(第1ブリッジ回路610)と、第3、4アームU、V(第2ブリッジ回路612)のスイッチング位相差が調整されることで、プライマリ・スイッチング回路104からセカンダリ・スイッチング回路106に伝送される電力、または、セカンダリ・スイッチング回路106からプライマリ・スイッチング回路104に伝送される電力が調整されてよい。
【0034】
すなわち、第1、2アームX、Y(第1ブリッジ回路610)と、第3、4アームU、V(第2ブリッジ回路612)との間にスイッチング位相差が生じることで、第1プライマリ巻線22Aおよび第2プライマリ巻線22Bのそれぞれの端子間電圧と、セカンダリ巻線24の端子間電圧との差異が大きくなる。これによって、第3、4アームU、Vを介して、セカンダリコンデンサCsおよび負荷/発電回路に流れる電流が大きくなり、セカンダリコンデンサCsおよび負荷/発電回路に電力が供給される。あるいは、セカンダリコンデンサCsおよび負荷/発電回路からプライマリ・スイッチング回路104に向けて電力が供給される。
【0035】
トランス1のプライマリ側コネクタPは、電源部102およびプライマリ・スイッチング回路104から引き出された導線の先に接続されてよい。また、セカンダリ側コネクタSは、セカンダリ・スイッチング回路106から引き出された導線の先に接続されてよい。
【0036】
後述するように、トランス1の第1プライマリ巻線22Aおよび第2プライマリ巻線22Bの結合度は小さくなっている。そのため、本実施形態に係る電力変換装置100において、プライマリ・スイッチング回路104のスイッチングによって、第1プライマリ巻線22Aおよび第2プライマリ巻線22Bに、十分な誘導起電力が発生し、電源部102の出力電圧を昇圧してプライマリコンデンサCpに印加するという昇圧効果が高められる。さらに、第1プライマリ巻線22Aとセカンダリ巻線24との結合、および第2プライマリ巻線22Bとセカンダリ巻線24との結合によって、プライマリ・スイッチング回路104とセカンダリ・スイッチング回路106との間で電力が授受される。
【0037】
図2には、電池制御装置120(電池制御システム120、電力変換装置120とも言う)が示されている。電池制御装置120は、図1に示された電力変換装置100における電源部102を、複数の電池モジュール122に置き換えたものである。図2において、トランス1のプライマリ側コネクタPとそれよりも左側の部分を「バッテリ側」と、トランス1のセカンダリ側コネクタSとそれよりも右側の部分を「アプリケーション側」と定義する。例えば、電池制御装置120は、非接触給電装置であり、「アプリケーション側」がハイブリッド自動車や電気自動車等の電動自動車に搭載されて、「バッテリ側」から電動自動車(アプリケーション側)に向かって電力を供給し、電動自動車に搭載された電池を充電するものであってもよい。
【0038】
図2の電池制御装置120において、複数の電池モジュール122のそれぞれは、正極端子128Pおよび負極端子128Nを備えており、複数の電池モジュール122は、前段の電池モジュール122の負極端子128Nに後段の電池モジュール122の正極端子128Pが接続されるように直列接続されている。
【0039】
各電池モジュール122は、電池124、シリーズスイッチング素子126S、パラレルスイッチング素子126P、モジュール内コンデンサCmを備えている。正極端子128Pと負極端子128Nとの間にはパラレルスイッチング素子126Pが接続されている。図2には、パラレルスイッチング素子126PとしてMOSFETが用いられた例が示されている。この場合、ドレイン端子が正極端子128Pに接続され、ソース端子が負極端子128Nに接続される。
【0040】
正極端子128Pと電池124の正電極との間には、シリーズスイッチング素子126Sが接続されている。シリーズスイッチング素子126SとしてMOSFETが用いられた場合、ソース端子が正極端子128Pに接続され、ドレイン端子が電池124の正電極に接続される。電池124の負電極は負極端子128Nに接続されている。
【0041】
各スイッチング素子にMOSFETが用いられた場合、各MOSFETのドレイン端子とソース端子との間には、ドレイン端子の側をカソード端子としてダイオードが接続される。電池124の正電極とシリーズスイッチング素子126Sとの接続点と、負極端子128Nとの間にはモジュール内コンデンサCmが接続されている。
【0042】
各電池モジュール122の動作について説明する。パラレルスイッチング素子126P、シリーズスイッチング素子126Sおよびモジュール内コンデンサCmは、第1プライマリ巻線22Aおよび第2プライマリ巻線22Bと共に、降圧コンバータ回路を構成する。これは、上記した第1、2プライマリ巻線22A、22Bが降圧用インダクタとして機能するものである。すなわち、パラレルスイッチング素子126Pおよびシリーズスイッチング素子126Sが交互にオンオフすることによって、第1プライマリ巻線22Aおよび第2プライマリ巻線22Bに誘導起電力が発生し、複数の電池モジュール122における電池124の出力電圧の加算合計値に対する降圧電圧が、第1アームXのアーム中点と第2アームYのアーム中点との間に印加される。
【0043】
各電池モジュール122におけるシリーズスイッチング素子126Sおよびパラレルスイッチング素子126Pは、各電池モジュール122における電池124の充電量の指標であるSOC(State Of Charge)に応じたオン時比率でオンオフ制御されてよい。この場合、スイッチング周期に対する、シリーズスイッチング素子126Sがオンになる時間の比率としてオン時比率(デューティDd)を定義すると、電池124のSOCが大きいほどオン時比率が小さくされる。これによって、複数の電池124の出力電圧のバラツキが抑制され、第1アームXのアーム中点と第2アームYのアーム中点との間に印加される電圧が安定化される。
【0044】
図2の上から第i番目の電池モジュール122における電池124の出力電圧Vbiと、プライマリコンデンサCpの端子間電圧V1との関係は、(数1)によって表される。
【0045】
(数1)V1=(Dd/Db)・ΣVbi
【0046】
Σは整数iについて加算合計することを意味する。Ddは各電池モジュール122のオン時比率(デューティ)であり、Dbは第1、2アームX、Y(第1ブリッジ回路610)および第3、4アームU、V(第2ブリッジ回路612)のオン時比率(デューティ)である。本実施形態では、第1プライマリ巻線22Aおよび第2プライマリ巻線22Bを併せた巻き数と、セカンダリ巻線24の巻き数とを同一としてよい。この場合、プライマリコンデンサCpの端子間電圧V1と、セカンダリコンデンサCsの端子間電圧V2、すなわちセカンダリ電圧V2とは等しくなり、セカンダリ電圧V2は(数2)のように表される。
【0047】
(数2)V2=(Dd/Db)・ΣVbi
【0048】
第1、2アームX、Yおよび第3、4アームU、Vのオン時比率Dbを0.5とすることで、各スイッチング素子におけるスイッチング損失や、トランス1における銅損が低減される。(数2)においてDb=0.5、Dd=1とした場合、セカンダリ電圧V2はV2=2・ΣVbiである。各電池モジュール122のオン時比率DdをDd=1として一定にする(Vrを直流にする)ことは、各電池モジュール122におけるパラレルスイッチング素子126Pをオフに維持し、各電池モジュール122におけるシリーズスイッチング素子126Sをオンに維持することを意味している。セカンダリ・スイッチング回路106が、2・ΣVbiよりも小さい電圧をセカンダリ電圧V2として出力する場合、0を超える1未満の範囲でオン時比率Ddを調整することで、(数3)に示されるように、セカンダリ電圧V2が0を超える2・ΣVbi未満の電圧に調整される。
【0049】
(数3)V2=2・Dd・ΣVbi
【0050】
これによって、電力損失を抑制しつつ、2・ΣVbiよりも小さいセカンダリ電圧V2がセカンダリ・スイッチング回路106から出力される。
【0051】
次に、2・ΣVbiよりも大きいセカンダリ電圧V2をセカンダリ・スイッチング回路106が出力する場合について説明する。(数2)においてDd=1とした場合、セカンダリ電圧V2は(数4)で表される。
【0052】
(数4)V2=(1/Db)・ΣVbi
【0053】
したがって、各電池モジュール122のオン時比率DdをDd=1として一定に維持し、第1、2アームX、Yおよび第3、4アームU、Vのオン時比率Dbを0を超える0.5未満の値に調整することで、セカンダリ電圧V2が2・ΣVbiを超える電圧に調整される。
【0054】
図3には、横軸にΣVbiをとり、縦軸にセカンダリ電圧V2をとったV2-ΣVbi平面によって、電池制御装置120の制御アルゴリズムが概念的に示されている。傾きが正の直線LLは、V2=2ΣVbiで表される直線である。
【0055】
直線LLよりも下側の領域Lowは、第1、2アームX、Yおよび第3、4アームU、Vのオン時比率Dbを0.5に維持した上で、0を超える1未満の範囲でオン時比率Ddを調整することで、セカンダリ電圧V2が(数3)に従って調整される領域である。直線LLよりも上側の領域Highは、各電池モジュール122のオン時比率Ddを1に維持した上で、0を超える0.5未満の範囲でオン時比率Dbを調整することで、セカンダリ電圧V2が(数4)に従って調整される領域である。
【0056】
なお、各電池モジュール122内のスイッチング素子はプライマリ側コントローラ630により制御される。
【0057】
<トランスのコネクタ間の状態検出>
次に、トランス1のプライマリ側コネクタPとセカンダリ側コネクタSの間の状態(距離や異物等)の検出について説明する。図15に示すように、プライマリ側コネクタPは、プライマリコア10を含み、第1、2プライマリ巻線22A、22Bはプライマリコア10に配置されている。セカンダリ側コネクタSは、セカンダリコア12を含み、セカンダリ巻線はセカンダリコア12に配置されている。図22図15のAA断面図)に示すように、プライマリ側コネクタPとセカンダリ側コネクタSは、脱着可能に構成されており、それらの間にギャップGが形成され得る。
【0058】
ギャップGの距離dが大きくなるとトランス1の励磁インダクタンスLmが減少し、かつ漏れインダクタンスLIが増加する為、出力の低下および効率の悪化が生じる。また、ギャップGに金属物質が混入した場合は、その物質に対して誘導加熱を生じ、発火・発煙、装置の損傷、電力伝送効率の悪化等が生じる可能性がある。そこで、電力変換装置100は、トランス1の2つのコネクタP、Sの間の状態を検出するために、トランス1のタップ32(中途接続点、図1、2参照)に流れる電流の変化量を検出するセンサ600を備える。
【0059】
センサ600は、トランス1のタップ32に流れる電流Irのリップル量(dIr/dt)を検出する。その検出値は、励磁インダクタンスLmの大きさや、ギャップGの距離dの大きさを表す。図1の破線で囲った部分がセンサ600であり、センサ600は、ピックアップコイルPcと、ピックアップコイルPcに接続された検出回路602を含む。検出回路602は、非反転増幅回路と整流平滑化回路を含む。センサ600は、図4に示すように、トランスのタップ(中途接続点)に接続された配線の一部(被測定ワイヤWrと言う)に対してピックアップコイルPcを非接触で接続したものであってよい。ピックアップコイルPcは、例えばロゴスキーコイルであってよい。この場合、SN比を高く取ることができる安価なセンサ600を、プリント基板を用いて作ることができる。
【0060】
ピックアップコイルPcと被測定ワイヤWrの間の結合インダクタンスをMrとすると、ピックアップコイルPcの端子間電圧Vcoil(図1参照)として、電流Irの微分値dIr/dtにMrを乗じた電圧(Mr×dIr/dt)が得られる。センサ600は、電圧Vcoilを増幅し、整流平滑化することにより、検出電圧Vsensを得る。ここで、センサ600の非反転増幅回路のゲインをKとすると、検出電圧Vsensは(数5)で表される。
【0061】
(数5)Vsens=Mr×|dIr/dt|×K
【0062】
なお、Mrが十分に大きい場合には、非反転増幅回路を省略してもよい。ここで、以降の説明にあたって、トランス1の各部の電圧、電流の符号を定義する。図5は、トランス1の等価回路を示す図である。図5に示すように、第1プライマリ巻線22Aに流れる電流をItp1、第2プライマリ巻線22Bに流れる電流をItp2、タップ32(中途接続点)に流れる電流をIr、セカンダリ巻線24に流れる電流をItsと定義する。また、第1、2プライマリ端子30、34の端子間電圧をVp、第1、2セカンダリ端子36、38の端子間電圧をVsと定義する。また、第1プライマリ巻線22Aが形成するインダクタンスをL1、第2プライマリ巻線22Bが形成するインダクタンスをL2、セカンダリ巻線24が形成するインダクタンスをL3と定義する。
【0063】
図6は、矩形波の電圧Vrに対するトランス1の各部の電圧、電流と、センサ600の検出電圧Vsensの一例を示す図である。図6には、第1、2アームX、Y(第1ブリッジ回路610)と第3、4アームU、V(第2ブリッジ回路612)がデューティDb=0.5で動作し、第1、2ブリッジ回路610、612の動作周波数に対して早い周波数で電圧VrがデューティDd=0.5で変動している場合(図3の領域Lowの制御)が示されている。図6に示すように、第1ブリッジ回路610と第2ブリッジ回路612の間の位相差制御に従ったItp1、Itp2およびItsが流れる。第1ブリッジ回路610の第1、2アームX、Yは180度位相で動作しているため、Itp1とItp2の合成成分として流れる電流成分では昇圧動作によるリップル分が相殺される事となり、その電流成分はほぼ直流となる。一方、電圧Vrの入力に対しては、インダクタンスL1、L2が電流変化を制限する降圧インダクタ(降圧リアクトルとも言う)として作用し、電流リップルが発生する。従って、実際にトランス1のタップ32に流れる電流Irは負荷量に応じた直流に三角波状の電流リップルが重畳したものとなる。電流Irの変化量の絶対値|dIr/dt|は(数6)で表される。
【0064】
(数6)|dIr/dt|=(V1×Db-Vr×Dd)/(L1//L2)
【0065】
上記(数6)において(L1//L2)は、L1とL2が並列接続であることを示す。ここで、トランス1のコアと巻線の設計からL1=L2=Lとする。そうすると、トランス1のタップ32(中途接続点)から見た第1、2プライマリ巻線22A、22Bは並列接続(L1とL2が並列接続)であるから、降圧インダクタンスは0.5Lとなる。つまり、(L1//L2)=0.5Lとなる。また、トランス1の観点から見た第1、2プライマリ巻線22A、22Bは直列接続(L1とL2が直列接続)であるから、励磁インダクタンスLm=2Lとなる。上記の(数5)、(数6)と、(L1//L2)=0.5Lと、励磁インダクタンスLm=2Lから、励磁インダクタンスLmは(数7)で表される。
【0066】
(数7)Lm = 4(K×Mr)×(V1×Db-Vr×Dd)/Vsens
【0067】
上記(数7)において電圧センサなどを用いてV1、Vrが既知の値であるとすれば、上記(数7)により、センサの検出電圧Vsensから励磁インダクタンスLmを求めることができる。すなわち、コントローラ630は、センサ600の検出電圧Vsensから、励磁インダクタンスLmを求めることできる。
【0068】
図10は、励磁インダクタンスLmとVsensの大小関係を示すグラフであり、トランス1の2つのコネクタP、SのギャップGの距離dとの大小関係も合わせて示されている。図10に示すように、ギャップGの距離dが大きくなるほど、励磁インダクタンスLmが小さくなる関係があり、励磁インダクタンスLmが小さくなるほど、Vsensが大きくなる関係がある。従って、コントローラ630は、図10に示す関係に基づいて、VsensまたはVsensの変化から、ギャップGの距離dまたは距離dの変化を検出することができる。
【0069】
図7は、図6に示す動作波形における電力変換装置の動作条件から、トランス1の2つのコネクタP、SのギャップGの距離dをより大きくした時の動作波形を示す図である。図7に示すように、図7の場合は図6の場合に比べて、インダクタンスL1、L2が小さくなり、励磁インダクタンスLmが小さくなるので、センサ600の検出電圧Vsensが大きくなっている。
【0070】
ところで、図3の領域Highの制御では、各電池モジュール122のデューティDd
=1となり、Vrが一定値(直流)となる。そうすると、これまでの説明であると、トランス1のタップ32に流れる電流Irにリップルが生じない為、ギャップGの距離dの検出が不可能とも考えられる。しかし、電力変換装置100、120における領域Highの制御では、第1、2アームX、Y(第1ブリッジ回路610)のデューティDb≠0.5で動作するため、図8に示すように、トランス1の電圧Vpがゼロになる期間taが生じる。この場合、トランス1の電流Itp1、Itp2の合計値に昇圧に伴うリップルが重畳する事になり、期間taの間に電流Irに大きな変化(リップル)が生じる。ギャップGの距離dが変化すると、第1ブリッジ回路610の動作における昇圧インダクタンスLbが変化し、電流Irの変化量も変化する。従って、センサ600の検出電圧Vsensが変化するので、VsensからギャップGの距離dを検出することができる。
【0071】
図8は、図3の領域Highの制御(Dd=1、Db≠0.5)における、トランス1の各部の電圧、電流と、センサ600の検出電圧Vsensの一例を示す図である。図9は、図8に示す動作波形における電力変換装置の動作条件から、トランス1の2つのコネクタP、SのギャップGの距離dをより大きくした時の動作波形を示す図である。図9に示すように、図9の場合は図8の場合に比べて、インダクタンスL1、L2が小さくなり、励磁インダクタンスLmが小さくなるので、センサ600の検出電圧Vsensが大きくなっている。
【0072】
次に、トランス1の2つのコネクタP、SのギャップGに混入した金属異物の検出について説明する。図11は、金属異物(金属板700)が混入した状態のトランス1の概略断面図である。図11において、楕円マークは第1プライマリ巻線22Aの断面を、ダイヤマークは第2プライマリ巻線22Bの断面を、四角マークはセカンダリ巻線24の断面を示している。第1、2プライマリ巻線22A、22Bはプライマリコア10に配置されており、セカンダリ巻線24はセカンダリコア12に配置されている。
【0073】
図11には、プライマリ側のインダクタンスL1、L2を形成する部分を金属板700が磁気的にショートさせた場合が示されている。この場合、金属板700とプライマリコア10を通る磁路702によって、インダクタンスL1、L2が結合状態となり、励磁インダクタンスLmの値が著しく低下する。従って、センサ600の検出電圧Vsensとして、非常に大きな値が現れる。この値は、図10に示す、ギャップGの距離dが大きくなってセンサ600の検出電圧Vsensが飽和する電圧Vsmよりも大きな値である。従って、コントローラ630は、検出電圧Vsensから、ギャップGに混入した金属異物を容易に検出することができる。なお、銅板などの非磁性な金属がギャップGに混入した場合には、プライマリ側コネクタPとセカンダリ側コネクタSの間の結合が著しく弱くなるため、励磁インダクタンスLmの低下により電流Irのリップルが大きくなり、同様の検出が可能である。
【0074】
以上説明した実施形態によれば、電圧調整機能を有する昇圧機能と降圧機能を1つの磁気部品で兼ね備えているトランス1を用い、トランス1のタップ32に流れる電流Irの電流変化量(dIr/dt)を直接検出する簡易なセンサを用いることにより、トランス1のギャップGの距離dや、ギャップG間の異物によるトランス1の動作の変化を精度よく検知することができる。
【0075】
先行技術である特許文献1は、送電コイルと受電コイルの間の異物混入による負荷特性の変化に伴う状態変化を、送電コイルに出力される電圧及び電流の位相変化から検出する手法であるが、位相検出手段を必要とし、高精度な時間分解能を有する検出手段が必要となる。また、別の先行技術である非特許文献1は、トランス間の異物混入による効率変動を検出する手段であるが、効率変動要因であるトランス間の距離変化と異物混入を差別化することができず、また、変動幅が小さいため、高度な検出センサが必要となる。いずれの先行技術においても、位相や効率といった間接的な要因からトランス間の状態を推定するものであり、トランス間の状態を厳密に捉えきれない可能性もある。
【0076】
一方、以上説明した実施形態によれば、トランス1の2つのコネクタP、Sの間の状態によって変化する励磁インダクタンスLmそのもの、または、励磁インダクタンスLmの変化を表すVsensを検出する構成であるから、コネクタ間の状態を精度よく捉えることができる。しかも、使用するセンサ600は、非常に簡易な構成であって、小型である。
【0077】
なお、以上説明したセンサ600は、電流Irの微分値(dIr/dt)を検出するものであったが、センサ600は、それに限定されるものではない。例えば、センサ600は、トランス1のタップ32(中途接続点)に流れる電流Irの変化量として、電流Irの振幅を検出する電流センサであってもよい。また、例えば、センサ600は、電流Irの変化量として、電流Irの単位時間あたりの変化量を検出するものであってもよい。
【0078】
次に、センサ600の検出電圧Vsensに基づいた、コントローラ630の制御について説明する。まず、図10のグラフについて補足する。図10において、ギャップGの距離d=0で、トランス1の材料や構造等から励磁インダクタンスLmが一定値となることは既知である。この時、励磁インダクタンスLmは最大値となるため、トランス1のタップ32に流れる電流Irのリップル量から得られるVsensの値は最小(Vs0)となる。また、距離dが十分に長い場合には、励磁インダクタンスLmは0となり、回路のインダクタンスは一定値の漏れインダクタンスLIのみとなる。従って、この場合、電流Irのリップル量は漸近的にある値に収束するため、Vsensもある値(Vsm)が最大値となる。
【0079】
ここで、回路のスイッチング電流の許容最大値から得られる動作制約を守るため、Vsensに最大値(Vsl)を設ける。また、距離dが比較的小さい場合には、励磁インダクタンスLmの変化が線形的になる。この励磁インダクタンスLmの変化が線形的になる領域に対応したVsensの範囲をゾーンAと定義する。以下説明するように、コントローラ630は、検出されるVsensがゾーンAに無い場合には、励磁インダクタンスLmの低下に伴う損失増加を考慮した出力抑制や電圧抑制を行う。また、コントローラ630は、検出されるVsensがゾーンAに収まるようにフィードバック制御を行い、すなわち、意図しない小さな距離dの変動に対してフィードバック制御を行い、回路を適切に保護しながら電力制御動作を継続してもよい。
【0080】
図13は、コントローラ630(プロセッサ)による具体的な制御の流れを示すフローチャートである。コントローラ630は、予め定められた周期で図13のフローを実行する。図13に示すように、まず、S100で、コントローラ630は、センサ600の検出電圧Vsensを取得する。次に、S102で、コントローラ630は、検出電圧Vsensが予め定められた電圧Vsl(図10に示すVsl)よりも小さいかを確認する。
【0081】
S102で、検出電圧Vsensが予め定められた電圧Vsl以上である場合(S102:No)には、コントローラ630は、トランス1の2つのコネクタP、Sの間に異物があると判断し、S104に進む。S104で、コントローラ630は、第1スイッチング回路104に含まれるスイッチング素子のスイッチングを停止する。これにより、トランス1間への異物混入による発火・発煙、装置の損傷、電力伝送効率の悪化を的確に防ぐことができる。そして、コントローラ630は図13のフローを終了する。なお、S104の処理は、コントローラ630が異物を検知した場合の処理の一例であり、回路がリレースイッチを含む場合には、そのスイッチがオフにされて電流が遮断されてもよい。
【0082】
一方、S102で、検出電圧Vsensが予め定められた電圧Vslよりも小さい場合(S102:Yes)には、S106に進む。S106で、コントローラ630は、検出電圧Vsensが予め定められたゾーンA(図10参照)の範囲内にあるかを確認する。VsensがゾーンAの範囲内にある場合(S106:Yes)には、コントローラ630は、トランス1のギャップGの距離dが正常な範囲内にあると判断し、出力を制限せず(S108)に、第1スイッチング回路104に含まれるスイッチング素子のスイッチングを継続する(S112)。
【0083】
一方、S106で、VsensがゾーンAの範囲内にない場合(S106:No)には、コントローラ630は、トランス1のギャップGの距離dが正常な範囲内にないと判断し、S110に進む。なお、距離dが正常な範囲内にないとは、例えば、距離dが予め定められた距離以上であることを意味し、それにより、励磁インダクタンスLmが低下して電力伝送効率が悪化している状態である。すなわち、S106がNoの場合とは、例えば、コントローラ630が、距離dが予め定められた距離以上であると推定する場合である。
【0084】
S110で、コントローラ630は、伝送される電力が低下するように、各電池モジュール122(図2参照)のデューティDdを制御する。具体的には、コントローラ630は、Ddを低下させることで、プライマリコンデンサCpの端子間電圧V1を制限する。そして、第1スイッチング回路104に含まれるスイッチング素子のスイッチングを継続する(S112)。これにより、励磁インダクタンスLmの低下に伴う損失増加を考慮した出力抑制、電圧抑制が行われ、回路を適切に保護しながら電力制御動作を継続することができる。以上説明した図13のフローを、コントローラ630は予め定められた周期で実行する。
【0085】
以上説明した電力変換装置100、120によれば、トランス1のギャップGの距離dの変動に対して単調かつリアルタイムにセンサ600の検出電圧Vsensが変化する。そのため、高速かつ高精度に距離dおよびギャップGにある異物の推定が可能であり、装置(システム)を安全に運用可能になるほか、ギャップGの状態に応じて効率よく動作を制御する事が可能になり、装置の高効率化を実現することができる。
【0086】
また、センサ600はコイルを利用した簡易的な物であり、高精度かつ大型なセンシング手段を必要としないため、装置(システム)を小型化することができる。
【0087】
なお、以上の説明から分かるように、コントローラ630(プロセッサ)は、センサ5の検出電圧Vsensに基づいて、トランス1の2つのコネクタP、Sの間の距離dを推定することができる。この推定は、距離dの厳密な値を推定するものに限らず、例えば、距離dが長い、短いといった距離dの相対的な状態を推定するものであってもよい。
【0088】
なお、上記した実施形態において、プロセッサとは広義的なプロセッサを指し、メモリに記憶されたプログラムに従って動作するプロセッサ(例えばCPU:Central Processing Unit等)や、ハードウェアロジックで構成されたプロセッサ(例えばASIC:Application Specific Integrated Circuit、FPGA:Field Programmable Gate Array、プログラマブル論理デバイス等)を含むものである。また、上記した実施形態におけるプロセッサの動作は、1つのプロセッサによって成すのみでなく、物理的に離れた位置に存在する複数のプロセッサが協働して成すものであってもよい。
【0089】
また、上記したプライマリ側コントローラ630と、セカンダリ側コントローラは協調して動作する構成であってもよい。
【0090】
<トランスの詳細構造>
次に、トランス1の詳細構造について説明する。図14には、本発明の実施形態に係るトランス1の斜視図が示されている。トランス1は、略円柱形状のプライマリコア10、略円柱形状のセカンダリコア12を備えている。図15には、プライマリコア10およびセカンダリコア12を離して配置した場合の斜視図が示されている。ただし、図15では、セカンダリコア12およびプライマリコア10が上下の配置を逆にして描かれている。プライマリコア10とセカンダリコア12のそれぞれは、中心軸を含む断面で円柱形状が分割された形状を有している。
【0091】
プライマリコア10を構成する2つの分割コア10Aおよび10Bのうちの一方の断面と、他方の断面とが対向して分割ギャップ10Gが形成されている。また、セカンダリコア12を構成する2つの分割コア12Aおよび12Bのうちの一方の断面と、他方の断面とが対向して分割ギャップ12Gが形成されている。
【0092】
図15においては、プライマリコア10およびセカンダリコア12の軸方向にz軸が定義され、プライマリコア10およびセカンダリコア12の軸に垂直なxy平面が定義されている。特に断らない限り、以下の説明においてはこのxyz座標系が用いられる。また、各図を参照した説明における「奥」、「手前」、「上」、「下」、「左」および「右」の用語は、それぞれ、y軸正方向、y軸負方向、z軸正方向、z軸負方向、x軸負方向およびx軸正方向を意味する。これらの用語は、説明の便宜上のものであり、トランス1を配置する際の姿勢を限定するものではない。
【0093】
プライマリコア10およびセカンダリコア12は、プライマリコア10の上面が、セカンダリコア12の下面に対向するように配置され、プライマリコア10およびセカンダリコア12との間にプライマリ/セカンダリギャップ14(ギャップGとも言う)が形成される。プライマリコア10を構成する各分割コア10Aおよび10Bの上面には、円形状の溝16が形成されている。分割コア10Aに形成された溝16の内側には分割柱18Aが形成され、分割コア10Aに形成された溝16の外側には弧状壁20Aが形成されている。分割コア10Bに形成された溝16の内側には分割柱18Bが形成され、分割コア10Bに形成された溝16の外側には弧状壁20Bが形成されている。
【0094】
分割柱18Aおよび18Bの周囲には、それぞれ第1プライマリ巻線22Aおよび第2プライマリ巻線22Bが設けられている。
【0095】
セカンダリコア12は、プライマリコア10と同様の形状を有している。セカンダリコア12の下面には円形状の溝が形成されている。その溝にはセカンダリ巻線が設けられている。すなわち、溝の内側には柱状の部分が形成されており、柱状部の周囲にはセカンダリ巻線が設けられている。
【0096】
このように、プライマリコア10の上面には円形状の溝16が形成されており、溝16の内側に、柱状の部分であるプライマリ柱状部が形成されている。同様に、セカンダリコア12の下面にも円形状の溝が形成されており、溝の内側に柱状の部分であるセカンダリ柱状部が形成されている。すなわち、プライマリ柱状部およびセカンダリ柱状部を1つの柱状部とみなした場合、柱状部は、その軸を横切るプライマリ/セカンダリギャップ14によってプライマリ柱状部およびセカンダリ柱状部に分割されている。プライマリ柱状部およびセカンダリ柱状部のそれぞれは、柱形状を軸方向断面で分割して得られる形状をそれぞれが有する2つの分割柱を備えている。2つの分割柱は、それぞれの軸方向断面が分割ギャップを形成するように配置されている。
【0097】
プライマリコア10には第1プライマリ巻線22Aおよび第2プライマリ巻線22Bが設けられ、プライマリコア10、第1プライマリ巻線22Aおよび第2プライマリ巻線22Bがプライマリ側コネクタP(プライマリ巻線構造Pとも言う)を構成する。セカンダリコア12にはセカンダリ巻線が設けられ、セカンダリコア12およびセカンダリ巻線がセカンダリ側コネクタS(セカンダリ巻線構造Sとも言う)を構成する。プライマリ側コネクタPにおけるプライマリコア10の上面と、セカンダリ側コネクタSにおけるセカンダリコア12の下面とが対向するように各コネクタが配置されることで、トランス1が構成される。
【0098】
図16には、セカンダリコア12およびセカンダリ巻線を取り除き、プライマリコア10の上面側からトランス1を眺めた図が模式的に示されている。第1プライマリ巻線22Aの両端は第1プライマリ端子30およびタップ32に接続されており、分割柱18Aを図の時計回りに3周する。第1プライマリ巻線22Aは、第1プライマリ端子30から分割コア10Aの溝16の手前側の一端まで伸びる。第1プライマリ巻線22Aは、分割柱18Aの周囲を時計回りに半周した後、分割柱18Aの分割面に沿って直線区間401をy軸負方向に伸びる。第1プライマリ巻線22Aは、1ピッチだけ内側に入って分割柱18Aの周囲を時計回りに半周した後、分割柱18Aの分割面に沿って直線区間402をy軸負方向に伸びる。第1プライマリ巻線22Aは、さらに1ピッチだけ内側に入って分割柱18Aの周囲を時計回りに半周した後、分割柱18Aの分割面に沿って直線区間403をy軸負方向に伸び、タップ32に至る。
【0099】
ここでは、第1プライマリ巻線22Aが分割柱18Aの周囲を周回するごとに、1ピッチだけ内側に入る構造について説明した。第1プライマリ巻線22Aは、分割柱18Aの周囲を周回するごとに、1ピッチだけ上側または下側に向かう構造であってもよい。
【0100】
第2プライマリ巻線22Bの両端は、タップ32および第2プライマリ端子34に接続されており、分割柱18Bを図の時計回りに3周する。第2プライマリ巻線22Bは、タップ32から分割柱18Bの分割面に沿って直線区間404をy軸正方向に伸び、分割コア10Bの溝16の奥側の一端まで伸びる。第2プライマリ巻線22Bは、分割柱18Bの周囲を時計回りに半周した後、分割柱18Bの分割面に沿って直線区間405をy軸正方向に伸びる。第2プライマリ巻線22Bは、1ピッチだけ内側に入って分割柱18Bの周囲を時計回りに半周した後、分割柱18Bの分割面に沿って直線区間406をy軸正方向に伸びる。第2プライマリ巻線22Bは、分割柱18Bの周囲を時計回りに半周した後、第2プライマリ端子34に至る。
【0101】
ここでは、第2プライマリ巻線22Bが分割柱18Bの周囲を周回するごとに、1ピッチだけ内側に入る構造について説明した。第2プライマリ巻線22Bは、分割柱18Bの周囲を周回するごとに、1ピッチだけ上側または下側に向かう構造であってもよい。
【0102】
本実施形態においては、第1プライマリ巻線22Aおよび第2プライマリ巻線22Bが形成する中途接続点としてのタップ32は、第1プライマリ端子30側の巻き数と第2プライマリ端子34側の巻き数とが等しくなる位置におけるセンタータップである。
【0103】
図17には、セカンダリコア12の下面側からトランス1を眺めた図が模式的に示されている。セカンダリ巻線24の両端は、第1セカンダリ端子36および第2セカンダリ端子38に接続されており、セカンダリコア12の下面に形成された溝26に沿って、分割柱28Aの周囲のうちの円弧状の区間および分割柱28Bの周囲のうちの円弧状の区間(以下、単に、分割柱28Aおよび28Bの周囲という)を図の反時計回りに3周する。
【0104】
セカンダリ巻線24は、第1セカンダリ端子36から、分割柱28Aおよび28Bの間の分割ギャップ12Gを通って分割柱28Aの溝26の手前側の一端まで伸びる。セカンダリ巻線24は、分割柱28Aおよび28Bの周囲を図の反時計回りに1周し、1ピッチだけ内側に入って、分割柱28Aおよび28Bの周囲を図の反時計回りに1周する。セカンダリ巻線24は、さらに、分割柱28Aおよび28Bの周囲を図の反時計回りに1周し、1ピッチだけ内側に入って、分割柱28Aおよび28Bの周囲を図の反時計回りに1周する。このようにしてセカンダリ巻線24は、分割柱28Aおよび28Bの周囲を反時計回りに3周した後、分割柱28Aおよび28Bの間の分割ギャップ12Gを手前側に伸びて第2セカンダリ端子38に至る。
【0105】
ここでは、セカンダリ巻線24が分割柱28Aおよび28Bの周囲を周回するごとに、1ピッチだけ内側に入る構造について説明した。セカンダリ巻線24は、分割柱28Aおよび28Bの周囲を周回するごとに、1ピッチだけ上側または下側に向かう構造であってもよい。
【0106】
プライマリコア10の上面が、セカンダリコア12の下面に対向するように、これらのコアが配置されることで、第1プライマリ巻線22Aのうち、分割柱18Aの円弧状の外周に沿って周回する区間と、セカンダリ巻線24とが対向する。同様に、第2プライマリ巻線22Bのうち、分割柱18Bの円弧状の外周に沿って周回する区間と、セカンダリ巻線24とが対向する。
【0107】
第1プライマリ巻線22Aのうち、分割コア10Aの溝16に配置された区間から発せられる磁束は、分割柱18Aおよび28Aを通ってセカンダリ巻線24に鎖交する。また、セカンダリ巻線24から発せられる磁束は、分割柱28Aおよび18Aを通って、第1プライマリ巻線22Aのうち、分割コア10Aの溝16に配置された区間に鎖交する。これによって、第1プライマリ巻線22Aとセカンダリ巻線24とが結合する。
【0108】
同様に、第2プライマリ巻線22Bのうち、分割コア10Bの溝16に配置された区間から発せられる磁束は、分割柱18Bおよび28Bを通ってセカンダリ巻線24に鎖交する。また、セカンダリ巻線24から発せられる磁束が、分割柱28Bおよび18Bを通って、第2プライマリ巻線22Bのうち、分割コア10Bの溝16に配置された区間に鎖交する。これによって、第2プライマリ巻線22Bとセカンダリ巻線24とが結合する。
【0109】
本実施形態に係るトランス1では、プライマリコア10が分割コア10Aおよび10Bに分割され、セカンダリコア12が分割コア12Aおよび12Bに分割されている。そのため、第1プライマリ巻線22Aおよび第2プライマリ巻線22Bのうちの一方から発生し、他方に鎖交する磁束は小さい。これによって、第1プライマリ巻線22Aと第2プライマリ巻線22Bとの間の結合度は小さくなり、第1プライマリ巻線22Aと第2プライマリ巻線22Bにおいて適度な漏れインダクタンスが得られる。
【0110】
また、第1プライマリ巻線22Aおよびセカンダリ巻線24は、プライマリコア10において溝16を囲む磁路と、セカンダリコア12において溝26を囲む磁路によって囲まれている。したがって、第1プライマリ巻線22Aとセカンダリ巻線24との結合度が大きくなる。同様の原理によって、第2プライマリ巻線22Bとセカンダリ巻線24との結合度が大きくなる。さらに、プライマリコア10とセカンダリコア12との間には、プライマリ/セカンダリギャップ14が設けられているため、磁気飽和が生じ難くなる。
【0111】
本実施形態に係るトランス1では、第1プライマリ巻線22Aおよび第2プライマリ巻線22Bが昇圧用または降圧用のインダクタとして用いられる。それと共に、第1プライマリ巻線22Aおよび第2プライマリ巻線22Bのそれぞれがセカンダリ巻線24に結合し、電力伝送路としての変圧器が構成される。
【0112】
図18には第1プライマリ巻線22Aおよび第2プライマリ巻線22Bの第2の構成例が示されている。この構成例では、分割柱18Aおよび18Bの間に形成される分割ギャップ10Gに、第1プライマリ巻線22Aの直線区間と第2プライマリ巻線22Bの直線区間が隣接するように配置されている。すなわち、x軸正方向に分割ギャップ10Gを横切る方向を見たときに、直線区間403、404、402、405、401および406の順に、直線区間401~406が配置され、第1プライマリ巻線22Aの直線区間および第2プライマリ巻線22Bの直線区間が交互に配置されている。
【0113】
図5には、本発明の実施形態に係るトランス1の等価回路が示されている。トランス1は、プライマリ巻線22およびセカンダリ巻線24を備えている。プライマリ巻線22にはタップ32が設けられている。プライマリ巻線22の一端に設けられた第1プライマリ端子30とタップ32との間の巻線が第1プライマリ巻線22Aであり、プライマリ巻線22の他端に設けられた第2プライマリ端子34とタップ32との間の巻線が、第2プライマリ巻線22Bである。プライマリ巻線22とセカンダリ巻線24とが結合することで、第1プライマリ巻線22Aとセカンダリ巻線24とが結合し、さらに、第2プライマリ巻線22Bとセカンダリ巻線24とが結合する。第1プライマリ巻線22Aと第2プライマリ巻線22Bの結合度は小さい。
【0114】
図19には図17に示されたセカンダリ巻線24の具体的な構造が示されている。セカンダリ巻線24は、y軸方向に伸びる端子区間αおよびβを備えている。セカンダリ巻線24は3枚の円環板501~503を備えている。これらの円環板は上下に対向する板面が絶縁体によって絶縁された上で、あるいは所定の間隔を隔てて上下方向に重ねられている。端子区間αは、第1セカンダリ端子36から奥(y軸正方向)に向かって伸び、最上の円環板501の一端に接続されている。円環板501の他端は、上から第2番目の円環板502の一端に接続されている。円環板502の他端は、上から3番目の円環板503の一端に接続されている。円環板503の他端は、端子区間βに接続されている。端子区間βは、円環板503の他端から手前(y軸負方向)に向かって伸び、第2セカンダリ端子38に接続されている。
【0115】
図20には、図18に示された第1プライマリ巻線22Aおよび第2プライマリ巻線22Bの具体的な構造が示されている。図21には、第2プライマリ巻線22Bの具体的な構造が示されている。第2プライマリ巻線22Bは、端子区間γ、端子区間δ、半円板521~523、第4直線板424、第5直線板425および第6直線板426を備えている。
【0116】
端子区間γ、端子区間δ、第4直線板424、第5直線板425および第6直線板426はy軸方向に伸び、yz平面内に広がっている帯状の導体である。第4直線板424~第6直線板426は、y軸方向に延伸方向を揃え、対向する板面が絶縁体によって絶縁された上で、あるいは、所定の間隔を隔ててx軸方向に並べて配置されている。
【0117】
半円板521~523は、xy平面内に広がった円環板を折半した形状を有する。半円板521~523は、上下に対向する板面が絶縁体によって絶縁された上で、あるいは所定の間隔を隔てて上下方向に重ねられている。
【0118】
端子区間γは、タップ32から奥(y軸正方向)に伸び、第4直線板424の手前側の一端に接続されている。第4直線板424の奥側の他端は、最上の半円板521の奥側の一端に接続されている。半円板521の手前側の他端は、第4直線板424の右側に隣接する第5直線板425の手前側の一端に接続されている。第5直線板425の奥側の他端は、上から第2番目の半円板522の奥側の一端に接続されている。半円板522の手前側の他端は、第5直線板425の右側に隣接する第6直線板426の手前側の一端に接続されている。第6直線板426の奥側の他端は、上から第3番目の半円板523の奥側の一端に接続されている。半円板523の手前側の他端は、端子区間δに接続されている。端子区間δは、半円板523の手前側の他端から手前(y軸負方向)に伸び、第2プライマリ端子34に接続されている。
【0119】
第5直線板425は、第4直線板424よりも手前側に伸びており、第5直線板425の一端は、第4直線板424の一端よりも手前側にある。第6直線板426は、第5直線板425よりも手前側に伸びており、第6直線板426の一端は、第5直線板425の一端よりも手前側にある。
【0120】
図22には、図15に示されるAA線においてトランス1を切断し、y軸正方向から眺めたときの断面図が示されている。セカンダリコア12の溝26には、上から順に円環板501~503が設けられている。分割コア10Aの溝16には、上から順に半円板541~543が設けられている。分割コア10Bの溝16には、上から順に半円板521~523が設けられている。
【0121】
分割コア10Aと分割コア10Bとの間の分割ギャップ10Gには、左から順に、第3直線板423、第4直線板424、第2直線板422、第5直線板425、第1直線板421および第6直線板426が配置されている。これらの直線板は、それぞれ、図18に示された直線区間403、直線区間404、直線区間402、直線区間405、直線区間401および直線区間406に対応している。
【0122】
図20、21、22を参照して第1プライマリ巻線22Aの構造について説明する。第1プライマリ巻線22Aは、端子区間ε、端子区間ζ、第1直線板421、第2直線板422および第3直線板423、半円板541~543を備えている。端子区間ε、端子区間ζ、第1直線板421、第2直線板422および第3直線板423はy軸方向に伸び、yz平面内に広がっている帯状の導体である。半円板541~543は、xy平面内に広がった円環板を折半した形状を有する。半円板541~543は、上下に対向する板面が絶縁体によって絶縁された上で、あるいは所定の間隔を隔てて上下方向に重ねられている。
【0123】
端子区間εは、第1プライマリ端子30から奥に伸び、半円板541の手前側の一端に接続されている。半円板541の奥側の他端には、第1直線板421の奥側の一端が接続されている。第1直線板421は、第5直線板425と第6直線板426との間に位置し、手前側に伸びている。第1直線板421の手前側の他端は、半円板521および第5直線板425を上側に跨いで半円板521~523の左側に至り、半円板542の手前側の一端に接続されている。半円板542の奥側の他端には、第2直線板422の奥側の一端が接続されている。第2直線板422は、第4直線板424と第5直線板425との間に位置し、手前側に伸びている。第2直線板422の手前側の他端は、第4直線板424を上側に跨いで半円板521~523の左側に至り、半円板543の手前側の一端に接続されている。半円板543の奥側の他端には、第3直線板423の奥側の一端が接続されている。第3直線板423は、第4直線板424の左側に位置し、手前側に伸びている。端子間区間ζは、第4直線板424から手前側に伸び、タップ32に接続されている。
【0124】
本実施形態に係るトランス1では、分割柱18Aおよび18Bの間に形成される分割ギャップ10Gに、第1プライマリ巻線22Aの直線板と第2プライマリ巻線22Bの直線板とが隣接するように配置されている。すなわち、x軸正方向に分割ギャップ10Gを横切る方向を見たときに、第3直線板423、第4直線板424、第2直線板422、第5直線板425、第1直線板421および第6直線板426の順に、これらの直線板が配置され、第1プライマリ巻線22Aの直線板および第2プライマリ巻線22Bの直線板が交互に配置されている。
【0125】
第1プライマリ端子30から第1プライマリ巻線22Aに電流が流入し、タップ32を経て第2プライマリ巻線22Bに電流が流入し、さらに、第2プライマリ端子34から電流が流出するとき、あるいは、その逆向きに電流が流れるとき、分割ギャップ10Gにおいて隣接する直線板には互いに逆向きの電流が流れる。
【0126】
したがって、隣接する導体板によって生じる近接効果が抑制され、各導体板で生じる損失が低減される。ここで、近接効果とは、方向を揃えて隣接する2つの導線に同一方向の電流が流れた場合、各導線に流れる電流が発生する磁束によって、各導線の断面における電流分布が不均一となり、損失が増加する効果をいう。
【符号の説明】
【0127】
1 トランス、10 プライマリコア、10A,10B,12A,12B 分割コア、10G,12G 分割ギャップ、12 セカンダリコア、14 プライマリ/セカンダリギャップ、16,26 溝、18A,18B,28A,28B 分割柱、22 プライマリ巻線、22A 第1プライマリ巻線、22B 第2プライマリ巻線、24 セカンダリ巻線、30 第1プライマリ端子、32 中途接続点(タップ)、34 第2プライマリ端子、36 第1セカンダリ端子、38 第2セカンダリ端子、100 電力変換装置(電力変換システム)、102 電源部、104 第1スイッチング回路(プライマリ・スイッチング回路)、106 第2スイッチング回路(セカンダリ・スイッチング回路)、108P セカンダリ正極端子、108N セカンダリ負極端子、120 電池制御装置(電池制御システム,電力変換装置)、122 電池モジュール、124 電池、126S シリーズスイッチング素子、126P パラレルスイッチング素子、128P 正極端子、128N 負極端子、401~406 直線区間、421 第1直線板、422 第2直線板、423 第3直線板、424 第4直線板、425 第5直線板、426 第6直線板、501~503 円環板、521~523,541~543 半円板、600 センサ、602 検出回路、610 第1ブリッジ回路、612 第2ブリッジ回路、630 コントローラ(プロセッサ)、700 金属板、702 磁路、Pc ピックアップコイル、Wr 被測定ワイヤ、G ギャップ、X 第1アーム、Y 第2アーム、U 第3アーム、V 第4アーム、Cp 第1コンデンサ(プライマリコンデンサ)、Cs 第2コンデンサ(セカンダリコンデンサ)、Cm モジュール内コンデンサ、P プライマリ側コネクタ(プライマリ巻線構造)、S セカンダリ側コネクタ(セカンダリ巻線構造)、α,β,γ,δ,ε,ζ 端子区間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図13
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図22