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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/52 20060101AFI20240220BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20240220BHJP
   B29C 33/38 20060101ALI20240220BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20240220BHJP
   B65D 1/34 20060101ALI20240220BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20240220BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20240220BHJP
【FI】
B29C43/52
B29C43/18
B29C33/38
B65D1/00 120
B65D1/34
B29K101:12
B29K105:08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020026623
(22)【出願日】2020-02-19
(65)【公開番号】P2021130246
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】林 勇介
(72)【発明者】
【氏名】井沢 有希
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-203226(JP,A)
【文献】特開平1-299013(JP,A)
【文献】特公昭49-38700(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/52
B29C 43/18
B29C 33/38
B65D 1/00
B65D 1/34
B29K 101/12
B29K 105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維ボードからなる基材を成形して成形体を形成する成形体の製造方法であって、
加熱軟化された前記基材を冷間プレス機の下型にセットするセット工程と、
前記冷間プレス機を型締めして前記基材を冷間プレスするプレス工程と、を備え、
前記冷間プレス機の上型は金属で形成されており、
前記下型は、セットされる前記基材の上面と下面の温度差を小さくするために、少なくともセットされる前記基材が当接する表層部がステンレス鋼より小さい熱伝導率を有する樹脂で形成されたことを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項2】
前記表層部は、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、フェノール樹脂、シリコン又はウレタンフォームで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
前記下型は、前記表層部を含む全体が樹脂で形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の成形体の製造方法。
【請求項4】
前記下型は、全体のうちの前記表層部が樹脂で形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の成形体の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂は、結晶性樹脂からなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項6】
前記成形体は、パッケージトレイであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維ボードからなる基材を成形して成形体を製造する成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
用途を車両内装材等とする成形体は、例えば植物繊維を熱可塑性樹脂で結着した繊維ボードが用いられている。この成形体は、加熱軟化させた基材を冷間プレスして任意の形状に成形し製造される。こうした成形体の製造方法に関しては、特許文献1に記載の技術などが知られている。特許文献1等に記載の製造方法においては、図4(a)に示すように、常温下、冷間プレス機の下型の上面に加熱軟化させた基材を載置した後、図4(b)に示すように、上型を下降して基材をプレスすることにより成形体が得られる。なお、この図4に示す成形体では、基材の一面に表皮材が貼り付けられており、表皮材は冷間プレス時に上型にセットされ、基材と一体にプレスされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-155797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の方法で製造された成形体は、加熱軟化された基材が冷間プレス機の下型にセットされた時点から基材の下面部は下型によって冷え始めるため、型締め時には基材の上面部と下面部とで大きな温度差を生じる。それに伴って、基材の上面部と下面部との間の収縮率に差が生じるため、基材には反りによる変形が生じてしまう。特に、基材に含まれる熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂等の結晶性樹脂からなる場合は、収縮率の差による変形が大きい。
このように変形した成形体は、後工程で治具等を使用し両側から押圧するなどして矯正する作業を必要としていたため、生産効率の低下を招いていた。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、生産効率を向上できる成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下に示される。
請求項1に記載の発明は、植物繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維ボードからなる基材を成形して成形体を形成する成形体の製造方法であって、加熱軟化された前記基材を冷間プレス機の下型にセットするセット工程と、前記冷間プレス機を型締めして前記基材を冷間プレスするプレス工程と、を備え、前記下型は、ステンレス鋼より小さい熱伝導率を有する材質で形成されたことを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記下型は、全体がステンレス鋼より小さい熱伝導率を有する材質で形成されたことを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記下型は、セットされる前記基材が当接する表層部がステンレス鋼より小さい熱伝導率を有する材質で形成されたことを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発明において、前記下型は、樹脂で形成されていることを要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の発明において、前記熱可塑性樹脂は、結晶性樹脂からなることを要旨とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の発明において、前記成形体は、パッケージトレイであることを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、植物繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維ボードからなる基材を成形する成形体の製造方法において、冷間プレス時の基材の熱収縮差による撓み変形を抑えることにより、変形した成形体を後工程で治具等を使用して矯正する作業をなくし、生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
図1】本実施形態の成形体の製造方法を説明する工程図である。
図2図1の成形プレス工程で使用する冷間プレス機の上型及び下型を示す模式図であり、(a)はセット時における状態、(b)はプレス時における状態を示す。
図3】実施例及び比較例の試料の変形量を測定する方法を説明する説明図である。
図4】従来の成形体の製造方法における成形プレス工程で使用する冷間プレス機の上型及び下型を示す模式図であり、(a)はセット時における状態、(b)はプレス時における状態を示す。
図5】従来の成形体の製造方法において発生する基材の変形状態を説明する説明図である。
図6】従来の成形体の製造方法における矯正方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0010】
本実施形態の成形体の製造方法は、植物繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維ボードからなる基材を成形して成形体を製造する方法であり、図1に示すように、加熱軟化させた基材11を冷間プレス機20の下型21の上面に載置しセットした後、下型21と上型22とを型締めして冷間プレスすることにより成形体が製造される。
ここで、特に、本実施形態で使用される冷間プレス機20の下型21は、その全体でもよいが少なくともセットされる基材11が当接する表層部21bがステンレス鋼より小さい熱伝導率を有する材質で形成されている。
【0011】
成形体は、形状、大きさ、厚さ等について限定されず、用途についても限定されないが、成形体として、例えば、自動車、鉄道車両、船舶、飛行機等の内装材や外装材が挙げられる。
このうち自動車の内装材や外装材として、具体的には、パッケージトレイ、ドア基材、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クォーターパネル、サイドパネル、アームレスト、自動車用ドアトリム、シート構造材、シートバックボード、天井材、コンソールボックス、自動車用ダッシュボード、各種インストルメントパネル、デッキトリム、バンパー、スポイラー、カウリング等が挙げられる。
この成形体は、軽量且つ高剛性であることから、自動車用内装材として特に有用である。
【0012】
なお、成形体として、上述したものの他、例えば、建築物、家具等の内装材及び外装材等が挙げられる。
即ち、ドア表装材、ドア構造材、机、椅子、棚、箪笥などの各種家具の表装材等が挙げられる。その他、包装体、トレイなどの収容体、保護用部材、パーティション部材等が挙げられる。
【0013】
上述した自動車用内装材のなかでも、パッケージトレイは、サイズが例えば1,500×1,300mmあるいは1,300×700mmの大きな板状物であり、変形しやすく、通常の製造方法では治具等による矯正作業が必要となるため、成形体として特に適する。
【0014】
なお、本実施形態では、成形体として、基材11と、基材11の一面に貼着された表皮材12とを有して成るパッケージトレイ10を例示する。表皮材12は、冷間プレス時には上型22側にセットされる。
但し、成形体は、例示しないが、表皮材12を含まず、基材11のみからなるものであってもよい。
【0015】
以下、各構成部材を具体的に示すと、基材11を構成する繊維ボード11Aは、所定厚の板状を成し、植物繊維と熱可塑性樹脂とを含んでいる。このうち植物繊維は、植物体(幹、茎、枝、葉、根等)から取り出された繊維であり、葉脈系植物繊維、靭皮系植物繊維、木質系植物繊維等を含む。
植物繊維の元となる植物体は限定されず、例えば、ケナフ、ヘンプ、ジュート麻、ラミー、亜麻(フラックス)、マニラ麻、サイザル麻、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、各種針葉樹(スギ及びヒノキ等)、広葉樹及び綿花等が挙げられる。これら植物体は、1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
植物繊維の元となる植物体としては、上述したなかでも、靭皮植物、即ち、ケナフ、ヘンプ、ジュート麻、ラミー、亜麻(フラックス)が好ましく、このなかでも、特にケナフが好ましく、更には、ケナフの靭皮から採取されるケナフ繊維がとりわけ好ましい。
【0016】
植物繊維の具体的な形状は限定されないが、例えば、平均繊維長は10~200mm(更に20~170mm、特に25~150mm、とりわけ30~90mm)とすることができる。この平均繊維長は、JIS L1015に準拠して、直接法にて無作為に単繊維を1本ずつ取り出し、伸張させずに真っ直ぐに伸ばし、置尺上で繊維長を測定し、合計200本について測定した値の平均値である。
また、植物繊維の繊維径についても限定はされないが、例えば、平均繊維径は1~2500μm(更に10~2000μm、特に100~1750μm、とりわけ200~1500μm)とすることができる。この平均繊維径は、平均繊維長の測定に用いた合計200本の各単繊維の長さ方向の中央における繊維径を、光学顕微鏡を用いて測定した値の平均値である。
【0017】
基材11を構成する繊維ボード11Aは、熱可塑性樹脂を、植物繊維同士を結着するバインダ樹脂として含んでいる。この熱可塑性樹脂の種類は限定されず、周知のものを利用することができる。
熱可塑性樹脂としては、主には成形収縮率の大きい結晶性樹脂が対象となる。結晶性樹脂は、溶融樹脂の温度が結晶化温度まで低下し固化したとき、分子が規則的に並ぶ結晶部分をもつ。
結晶性樹脂は、具体的には、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
但し、熱可塑性樹脂は、結晶性樹脂に限らず、成形収縮率の小さい非晶性樹脂も含まれる。非晶性樹脂は、具体的には、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリカーボネートなどが挙げられる。
【0018】
上述のポリエステル樹脂としては、ポリ乳酸、脂肪族ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂等が挙げられる。脂肪族ポリエステル樹脂としては、ポリカプロラクトン及びポリブチレンサクシネート等が挙げられる。芳香族ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
上述のフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン・四フッ化エチレン共重合体等が挙げられる。
【0019】
熱可塑性樹脂としては、上述したなかでも、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
ポリオレフィン樹脂を構成するオレフィン単量体としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
即ち、ポリオレフィン樹脂としては、エチレン単独重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-へキセン共重合体、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体等のポリエチレン樹脂が挙げられる。
これらのポリエチレン樹脂は、全構成単位数のうちの50%以上がエチレンに由来する単位の樹脂である。更に、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体(プロピレン・エチレンランダム共重合体等)、プロピレン・1-ブテン共重合体等のポリプロピレン樹脂が挙げられる。これらのポリプロピレン樹脂は、全構成単位数のうちの50%以上がプロピレンに由来する単位の樹脂である。
【0020】
基材11を構成する繊維ボード11Aは、植物繊維及び熱可塑性樹脂繊維のみからなるものとすることができるが、必要に応じて可塑剤(バインダ樹脂に対する可塑剤)、酸化防止剤、難燃剤、滑剤、防黴剤、抗菌剤、充填剤、着色剤等の他成分を含むことができる。
繊維ボード11Aに、他成分を含む場合、植物繊維及び熱可塑性樹脂繊維の合計質量を100質量部とした場合に、他成分の含有量は、通常、0.1~10質量部である。
【0021】
繊維ボード11Aに含まれる植物繊維の総量と、熱可塑性樹脂繊維の総量との割合は限定されないが、植物繊維の総量と熱可塑性樹脂繊維の総量との合計を100質量%とした場合に、植物繊維の総量の割合は、10~90質量%とすることができ、15~85質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、25~75質量%がより更に好ましく、30~70質量%が特に好ましく、35~65質量%がより特に好ましく、40~60質量%がとりわけ好ましい。
【0022】
繊維ボード11Aの厚さは、特に限定されず、上記成形体の用途等によって適宜の厚さとすることができるが、通常、0.5~200mm、特に0.5~80mmとすることができる。繊維ボードの厚さが0.5~200mmであれば、多くの用途において十分な強度等を有し、且つ軽量な部材として用いることができる。本実施形態では、繊維ボード11Aの厚さは、2.5~3.5mmとした。
【0023】
繊維ボード11Aの目付は、特に限定されず、例えば、200~3000g/mとすることができる。この目付は、更に400~2500g/mであることが好ましく、更に600~2000g/mであることが好ましく、更に800~1800g/mであることが好ましい。
【0024】
表皮材12は、基材11の一面に貼着されるシート状の部材であり、基材11と貼着可能であれば特に限定されず、例えば、不織布や織布や編布等の布帛、合成皮革や本革等の皮革、樹脂フィルム、木目調シート等を使用することができる。これらのなかでも、不織布が好ましい。
【0025】
不織布は、繊維を交絡させてシート状としたものである。
繊維を交絡させる方法は、特に限定されず、例えば、ニードルパンチ法、ステッチボンド法、スパンボンド法、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、メルトブロー法、スパンレース法、スチームジェット法、ウォーターパンチ法等が挙げられる。
【0026】
不織布に使用される繊維は、特に限定されず、例えば、上述の熱可塑性樹脂による樹脂繊維、ガラス繊維等の無機繊維、上述の植物繊維や木綿やセルロース繊維等の天然繊維、レーヨン繊維等の半合成繊維などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのなかでも、樹脂繊維が好ましい。
【0027】
なお、不織布(表皮材12)は、繊維ボード11Aと同様に、必要に応じて可塑剤(樹脂繊維に対する可塑剤)、酸化防止剤、難燃剤、滑剤、防黴剤、抗菌剤、充填剤、着色剤等の他成分を含むことができる。
【0028】
本実施形態の冷間プレス機20は、図1及び図2に示すように、基材11及び表皮材12を一体に冷間プレスするものであり、固定された下型21と下型21に対して上下方向に可動する上型22とを備えている。下型21及び上型22は、互いの型面の間で基材11及び表皮材12をプレスすることにより所定形状の成形体とする。なお、冷間プレス機20は、上述の構成に限らず、上型22が固定又は可動され、下型21が可動する構成としてもよい。
【0029】
下型21の材質は、加熱溶融された基材11が載置されこの下型21と面接触したときに基材11が急激に冷却されるのを防止すべく全体が熱伝導率の小さい材質で形成され、下型21の材質として一般に使用されている鋼材特にステンレス鋼より小さい熱伝導率を有する材質で形成されている。
【0030】
下型21の材質としては、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、フェノール樹脂、シリコン、ウレタンフォーム等の樹脂材の他、アルミナ、イットリア、ジルコニア、ジルコン、コージライト、れんが、大理石、花崗岩、砂岩、軽石、水晶、ケイ酸カルシウム、コンクリート等の無機物、更には、木材、ガラスなどを挙げることができる。なお、本実施形態では、下型21の材質として、エポキシ樹脂を使用している。
【0031】
ここで、下型21は、上述したようにその全体でもよいが、セットされる基材11が載置され当接する当接面21aの周辺部分である表層部21bのみをステンレス鋼より小さい熱伝導率を有する材質で形成してもよい。この場合、下型21をステンレス鋼等の鋼材で形成し、この表面部21bにエポキシ樹脂、フェノール樹脂等の樹脂材をコーティングしたり貼り合わせた構成のものとすることができる。また、下型21において表層部21bをエポキシ樹脂等の樹脂材などで形成し、それ以外の部分をステンレス鋼等の鋼材で形成し、これらを組付け、接合などの手段で積層構造としたものとすることもできる。
【0032】
一方、上型22の材質は、特には限定されず、一般的に冷間プレス機20で使用されている材質を使用することができ、例えばステンレス、鉄、アルミニウム、銅、真鍮等の金属材を使用することができる。
【0033】
本実施形態のセット工程は、図1及び図2(a)に示すように、加熱軟化された基材11を冷間プレス機20の下型21にセットする工程である。
また、本実施形態のプレス工程は、図2(b)に示すように、下型21と上型22とを型締めして冷間プレスする工程である。
【0034】
次に、本実施形態の成形体の製造方法において、植物繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維ボード11Aからなる基材11を成形して成形体であるパッケージトレイ10を製造する方法を図1及び図2に基づいて説明する。
最初に、図1の基材加熱工程30において、加熱装置40により繊維ボード11Aからなる基材11を加熱軟化させる。基材11を加熱軟化させる際の加熱温度は、熱可塑性樹脂の融点より10℃高い温度である。本実施形態において、熱可塑性樹脂としてポリオレフィン樹脂を用いた場合は、ポリオレフィン樹脂の融点は170℃であるから、基材11の加熱温度は180℃に設定される。
【0035】
次に、基材加熱工程30で加熱され軟化した基材11は、次の成形プレス工程31に移送され、常温下、このうちのまずセット工程で、図2(a)に示すように、冷間プレス機20の下型21の載置面に載置される。この工程において、同時に常温の表皮材12も冷間プレス機20の上型22にセットされる。次いで、成形プレス工程31におけるプレス工程で、図2(b)に示すように、上型22を下降し型締めして基材11及び表皮材12を一体に加圧する。このときの上型22の下降時間は約15秒である。加熱軟化された基材11は、冷間プレスによって所定の冷却温度で冷却され、所定形状に成形される。また、表皮材12は、加熱軟化された基材11の一面に圧接された際、溶融状態となっている熱可塑性樹脂が染み込む等することにより、基材11の一面に貼着される。
【0036】
成形プレス工程31中のプレス工程におけるプレス圧は、特に限定されないが、基材11及び表皮材12のハンドリング性や、成形体への好適な加工(賦形)の円滑化の観点から、好ましくは0.2~0.8MPa、より好ましくは0.25~0.7MPa、特に好ましくは0.3~0.6MPaである。
プレス工程における冷却温度は、基材11に含まれる熱可塑性樹脂が1種であればその融点、2種以上であればそれらのうち最も低い融点より、好ましくは100~150℃、より好ましくは110~140℃、特に好ましくは115~135℃だけ低い温度である。
【0037】
このプレス工程により、所定形状に形成された基材11とその一面に貼着された表皮材12は、次のトリミング工程32で縁部のカット、孔明けなどの加工が行なわれ、これにより成形体であるパッケージトレイ10が完成する。
【0038】
次に、本実施形態の成形体の製造方法の作用を説明する。
従来、成形プレス工程においては、図4に示すように、冷間プレス機20の下型21及び上型22は、一般に、ステンレス鋼、ニッケル-クロム鋼など熱伝導率の大きい金属で形成されていた。このため、基材11は、セット工程で下型21に載置されこれに直接接触した時点から常温の下型21によって熱を奪われ、接触面である下面11bがいち早く冷やされてしまう。このように、急冷されると、熱可塑性樹脂(例えば、ポリオレフィン樹脂等)の特性により、結晶化が十分に進展しないため、図5(a)に示すように、下面11b側の収縮量は小さい。これに対して、基材11の上面11a側は、基材11がセットされた時点では、下型21及び上型22とは直接接触していないので、徐々に冷却され、熱可塑性樹脂の結晶化が進展することで、下面11b側よりも収縮量は大きい。こうしたことで、型締め開始直後には基材11の上面11aと下面11bとの間には大きな温度差が生じていてそれにより、基材11の上面11a側と下面11b側との間には収縮率に差が生じるため、成形後の基材11には、図5(b)に示すように、大きく撓んだ反りによる変形が生じてしまう。
【0039】
その結果、従来は、このように変形した成形体は、後工程で、図6に示すように、治具等を使用し両側からエアシリンダで押圧するなどして矯正する作業を行なっていた。このため、生産効率の低下を招いていた。
【0040】
これに対し、本実施形態の成形体の製造方法によれば、冷間プレス機20の下型21は、少なくとも基材11が当接する表層部21bが上述のようにステンレス鋼より小さい熱伝導率を有するエポキシ樹脂で形成されている。エポキシ樹脂の熱伝導率は後述するようにステンレス鋼より2桁程度小さい。このため、成形プレス工程31において、加熱軟化された基材11が下型21に載置されその表面に直接接触したとき、基材11は、熱伝導率の小さい下型21の材質による断熱効果により下面11bが急激に冷却され温度が低下するのが抑制される。これにより、基材11は、上面11a側と下面11b側との温度差が小さくなり、樹脂収縮量の差が小さくなるため、基材11の両面での冷え方の差によって生じる反りの変形が抑制される。その結果、変形した成形体であるパッケージトレイ10を後工程で治具等で矯正する作業を省略することができるため、生産効率を向上させることができる。
【実施例
【0041】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0042】
〔使用材料〕
[基材]
基材11には、植物繊維と、その植物繊維を結着する熱可塑性樹脂とを含む繊維ボード11Aを使用した。
植物繊維には、ケナフ繊維を用いた。このケナフ繊維は、ケナフから取り出した靭皮を解繊して得たものであり、平均繊維長は70mmであった。
熱可塑性樹脂繊維には、ポリプロピレン樹脂を溶融紡糸して得た、融点170℃、繊度6.6dtexの樹脂繊維を用いた。この樹脂繊維は、裁断により平均繊維長を50mmに揃えた。
上記ケナフ繊維50質量部と、上記樹脂繊維50質量部とを混綿し、その混綿物をエアレイ法で積層して、ニードルパンチ法で交絡させた後、温度200℃及びプレス時間120秒間で加熱し、温度30℃及びプレス時間180秒間で冷却して、繊維ボード11Aを得た。得られた繊維ボード11Aは、目付1500g/m、厚さ2.3mmであった。
【0043】
[表皮材]
表皮材12には、樹脂繊維をニードルパンチ法で交絡させて得られた不織布を使用した。
樹脂繊維には、ポリエチレンテレフタレート樹脂を溶融紡糸して得た、融点260℃、繊度3.3dtexのものを用いた。
不織布は、目付180g/m、厚さ1.0mmであった。
【0044】
〔実施例〕
[冷間プレス機]
上型22は、全体をステンレス鋼で製作した。上型22の温度は28℃である。ここで、ステンレス鋼の熱伝導率は、16.7~20.9W/m・Kである。
下型21は、全体をエポキシ樹脂で製作した。下型21の温度は28℃である。ここで、エポキシ樹脂の熱伝導率は、0.21W/m・Kである。
[セット工程]
冷間プレス機20の下型21に予め170℃で加熱して軟化させた基材11を直接載置した。冷間プレス機20の上型22に表皮材12を取り付けた。
[プレス工程]
冷間プレス機20の上型22を15秒間で下降し、下型21と上型22とを型締めした。プレス圧は0.5MPaで冷間プレスして、No.1の試料10Aを得た。
得られたNo.1の試料10Aは、1辺の長さが30cmの正方形状であり、厚さが2.5mmであった。
【0045】
〔比較例〕
[冷間プレス機]
上型22は、全体をステンレス鋼で製作した。
下型21も、全体を同様にステンレス鋼で製作した。
[セット工程]
実施例と同様にして基材11と表皮材12とをセットした。
[プレス工程]
上記実施例と同様に冷間プレスして、No.2の試料10Aを得た。
得られたNo.2の試料10Aは、1辺の長さが30cmの正方形状であり、厚さが2.5mmであった。
【0046】
〔評価〕
プレス工程の直前に、No.1、2の各試料10Aに用いた基材11について、上面11a及び下面11bの温度を測定し、それらの温度差を算出した。その結果を表1に示す。
プレス工程の後、No.1、2の各試料10Aについて、変形量を測定した。変形量の測定は、図3に示すように、試料10Aの一側縁部を載置面Gに押し付けて接触させることにより、他側縁部を載置面Gから浮き上がらせ、この浮き上がらせた他側縁部で基材11の端点Hから載置面Gまでの距離Wを測定して行った。また、距離Wの測定は、各試料10Aで各辺の中央及び各角部の合計8箇所の端点Hで行い、これらの中で最も数値が大きいものを変形量とした。その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1から、以下のことが明らかである。
実施例の試料10Aは、基材11の上面11a及び下面11bの温度差が10℃であり、変形量は1mmであった。
比較例の試料10Aは、上面11a及び下面11bの温度差が75℃であり、変形量は6mmであった。
以上のことから、冷間プレス機20の下型21が熱伝導率の小さいエポキシ樹脂で形成されていることによる断熱効果により、基材11の上面11aと下面11bとで温度差が生じるのが抑制され、上面11aと下面11bとで冷え方の差による基材11の変形が抑えられることが明らかである。
【0049】
なお、企業内規格において、本実施形態の製造方法によって成形される成形体であるパッケージトレイ10の許容変形量は3mmに設定されており、冷間プレス後において、比較例の変形量は規格値を超えているのに対し、実施形の変形量は規格値内に収まっている。
【0050】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく、説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、車両及び建材等の広範な製品分野で利用することができ、特に車両の内装材の製造方法として有用であり、例えば、パッケージトレイ等の各種の内装材に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0052】
10;パッケージトレイ、11;基材、11A;繊維ボード、12;表皮材、20;冷間プレス機、21;下型、21b;表層部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6