(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】レーダ装置の較正装置、較正システム、較正方法、及びレーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/40 20060101AFI20240220BHJP
H01Q 3/26 20060101ALI20240220BHJP
H01Q 21/06 20060101ALN20240220BHJP
【FI】
G01S7/40 126
H01Q3/26 A
H01Q21/06
(21)【出願番号】P 2020040131
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100091524
【氏名又は名称】和田 充夫
(74)【代理人】
【識別番号】100172236
【氏名又は名称】岩木 宣憲
(72)【発明者】
【氏名】杉本 義喜
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/242913(WO,A1)
【文献】特開2012-185039(JP,A)
【文献】特開2018-189537(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0136313(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - G01S 7/42
G01S 13/00 - G01S 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主ビームを二次元的に走査可能なアンテナ装置を備えたレーダ装置の較正装置であって、
前記アンテナ装置及び反射器のうちの少なくとも一方を移動させて前記アンテナ装置に対する前記反射器の複数の方位角
、複数の仰角
、及び複数の距離を設定するように駆動装置を制御するコントローラと、
前記アンテナ装置の指向特性を設計値に近づけるように、前記アンテナ装置の指向性を変化させかつ較正する信号処理回路の較正係数を計算する較正係数計算器と、
前記較正係数計算器によって計算された較正係数を格納する記憶装置とを備え、
前記較正係数計算器は、前記コントローラが異なる方位角
、異なる仰角
、及び異なる距離を設定するごとに、前記アンテナ装置から放射され、前記反射器によって反射され、前記アンテナ装置によって受信された無線信号に基づいて前記較正係数を計算する、
レーダ装置の較正装置。
【請求項2】
レーダ装置の較正システムであって、
請求項
1記載の較正装置と、
反射器と、
前記レーダ装置のアンテナ装置と、前記反射器とのうちの少なくとも一方を移動させる駆動装置とを備えた、
レーダ装置の較正システム。
【請求項3】
前記駆動装置は、前記アンテナ装置に対する前記反射器の方位角を変化させるように前記アンテナ装置を回転可能に支持するターンテーブルを備えた、
請求項
2記載の較正システム。
【請求項4】
前記駆動装置は、前記アンテナ装置に対する前記反射器の方位角を変化させるように前記反射器を回転移動可能に支持するアームを備えた、
請求項
2記載の較正システム。
【請求項5】
前記駆動装置は、前記アンテナ装置に対する前記反射器の仰角を変化させるように前記反射器を並進可能に支持する機構を備えた、
請求項
2~4のうちの1つに記載の較正システム。
【請求項6】
前記駆動装置は、前記アンテナ装置に対する前記反射器の仰角を変化させるように前記反射器を回転移動可能に支持するアームを備えた、
請求項
2~4のうちの1つに記載の較正システム。
【請求項7】
前記駆動装置は、前記アンテナ装置に対する前記反射器の仰角を変化させるように前記アンテナ装置を傾斜可能に支持する機構を備えた、
請求項
2~4のうちの1つに記載の較正システム。
【請求項8】
前記駆動装置は、前記アンテナ装置から前記反射器までの距離を変化させるように前記反射器を並進可能に支持する機構を備えた、
請求項
2~7のうちの1つに記載の較正システム。
【請求項9】
主ビームを二次元的に走査可能なアンテナ装置を備えたレーダ装置であって、
前記アンテナ装置及び反射器のうちの少なくとも一方を移動させて前記アンテナ装置に対する前記反射器の複数の方位角
、複数の仰角
、及び複数の距離を設定するように駆動装置を制御するコントローラと、
前記アンテナ装置の指向特性を設計値に近づけるように、前記アンテナ装置の指向性を変化させかつ較正する信号処理回路の較正係数を計算する較正係数計算器とを備え、
前記較正係数計算器は、前記コントローラが異なる方位角
、異なる仰角
、及び異なる距離を設定するごとに、前記アンテナ装置から放射され、前記反射器によって反射され、前記アンテナ装置によって受信された無線信号に基づいて前記較正係数を計算する、
レーダ装置。
【請求項10】
主ビームを二次元的に走査可能なアンテナ装置を備えたレーダ装置の較正方法であって、
駆動装置を用いて、前記アンテナ装置及び反射器のうちの少なくとも一方を移動させて前記アンテナ装置に対する前記反射器の複数の方位角
、複数の仰角
、及び複数の距離を設定するステップと、
前記アンテナ装置の指向特性を設計値に近づけるように、前記アンテナ装置の指向性を変化させかつ較正する信号処理回路の較正係数を計算するステップと、
前記計算された較正係数を記憶装置に格納するステップとを含み、
前記較正係数を計算するステップは、異なる方位角
、異なる仰角
、及び異なる距離を設定するごとに、前記アンテナ装置から放射され、前記反射器によって反射され、前記アンテナ装置によって受信された無線信号に基づいて前記較正係数を計算することを含む、
レーダ装置の較正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ装置を較正する較正装置、較正システム、較正方法、及びレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、その主ビーム方向を変化させるために、例えば、複数のアンテナ素子を含むアレイアンテナ装置を備える。アンテナ装置の指向特性には、アンテナ素子の製造誤差、アンテナ素子間の電磁的な相互結合、アンテナ素子の間隔のバラツキ、回路素子の性能バラツキ、などに起因して、設計値との誤差が生じることがある。従って、このような誤差を低減または解消するために、アンテナ装置を較正する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1は、レーダ装置から所定角度で特定の距離に置いた仮想物標からの反射波に基づいて実測値のモードベクトルを算出し、実測値のモードベクトルを使って受信信号の到来角を算出するレーダ装置を開示している。これにより、特許文献1のレーダ装置は、複数の受信アンテナの電力、位相特性の誤差の影響を軽減し、正確な反射波の到来方向を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーダ装置を用いて、反射物の三次元的な位置を決定すること、すなわち、レーダ装置に対する反射物の方位角、仰角、及び距離を決定することが求められる場合がある。この場合、レーダ装置は、主ビームを二次元的に、すなわち方位角及び仰角について走査可能なアンテナ装置を備える。従って、アンテナ装置を少なくとも二次元的に較正する必要がある。
【0006】
特許文献1は、レーダ装置の前方に仮想物標を所定角度の位置に所定距離だけ離して配置し、レーダ装置に対する仮想物標の方位角のみを一次元的に変更し、複数の角度におけるモードベクトルを実測することを開示している。従って、特許文献1の技術を、主ビーム方向を二次元的に走査可能なアンテナ装置を備えたレーダ装置に適用することはできない。仮に、特許文献1の技術を、主ビーム方向を二次元的に走査可能なアンテナ装置を備えたレーダ装置に適用しても、反射物を検出する精度及び分解能の観点で十分な性能を発揮することはできない。
【0007】
本開示の目的は、主ビーム方向を二次元的に走査可能なアンテナ装置を備えたレーダ装置の較正装置、較正システム、及び較正方法を提供することにある。また、本開示の目的は、そのようなアンテナ装置を備え、当該アンテナ装置を較正することができるレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の側面に係る較正装置によれば、
主ビームを二次元的に走査可能なアンテナ装置を備えたレーダ装置の較正装置であって、
前記アンテナ装置及び反射器のうちの少なくとも一方を移動させて前記アンテナ装置に対する前記反射器の複数の方位角及び複数の仰角を設定するように駆動装置を制御するコントローラと、
前記アンテナ装置の指向特性を設計値に近づけるように、前記アンテナ装置の指向性を変化させかつ較正する信号処理回路の較正係数を計算する較正係数計算器と、
前記較正係数計算器によって計算された較正係数を格納する記憶装置とを備え、
前記較正係数計算器は、前記コントローラが異なる方位角及び異なる仰角を設定するごとに、前記アンテナ装置から放射され、前記反射器によって反射され、前記アンテナ装置によって受信された無線信号に基づいて前記較正係数を計算する。
【0009】
これにより、主ビーム方向を二次元的に走査可能なアンテナ装置を較正し、レーダ装置に対する反射物の三次元的な位置を正確に決定することができる。
【0010】
本開示の側面に係る較正装置によれば、
前記コントローラは、前記アンテナ装置及び反射器のうちの少なくとも一方を移動させて前記アンテナ装置に対する前記反射器の複数の距離を設定するように駆動装置を制御し、
前記較正係数計算器は、前記コントローラが異なる方位角、異なる仰角、及び異なる距離を設定するごとに、前記無線信号に基づいて前記較正係数を計算する。
【0011】
これにより、アンテナ装置をより正確に較正し、レーダ装置に対する反射物の三次元的な位置をより正確に決定することができる。
【0012】
本開示の側面に係る較正システムによれば、
レーダ装置の較正システムであって、
前記較正装置と、
反射器と、
前記レーダ装置のアンテナ装置と、前記反射器とのうちの少なくとも一方を移動させる駆動装置とを備える。
【0013】
これにより、主ビーム方向を二次元的に走査可能なアンテナ装置を較正し、レーダ装置に対する反射物の三次元的な位置を正確に決定することができる。
【0014】
本開示の側面に係る較正システムによれば、
前記駆動装置は、前記アンテナ装置に対する前記反射器の方位角を変化させるように前記アンテナ装置を回転可能に支持するターンテーブルを備える。
【0015】
本開示の側面に係る較正システムによれば、
前記駆動装置は、前記アンテナ装置に対する前記反射器の方位角を変化させるように前記反射器を回転移動可能に支持するアームを備える。
【0016】
これにより、アンテナ装置に対する反射器の方位角を変化させることができる。
【0017】
本開示の側面に係る較正システムによれば、
前記駆動装置は、前記アンテナ装置に対する前記反射器の仰角を変化させるように前記反射器を並進可能に支持する機構を備える。
【0018】
本開示の側面に係る較正システムによれば、
前記駆動装置は、前記アンテナ装置に対する前記反射器の仰角を変化させるように前記反射器を回転移動可能に支持するアームを備える。
【0019】
本開示の側面に係る較正システムによれば、
前記駆動装置は、前記アンテナ装置に対する前記反射器の仰角を変化させるように前記アンテナ装置を傾斜可能に支持する機構を備える。
【0020】
これにより、アンテナ装置に対する反射器の仰角を変化させることができる。
【0021】
本開示の側面に係る較正システムによれば、
前記駆動装置は、前記アンテナ装置から前記反射器までの距離を変化させるように前記反射器を並進可能に支持する機構を備える。
【0022】
これにより、アンテナ装置から反射器までの距離を変化させることができる。
【0023】
本開示の側面に係るレーダ装置によれば、
主ビームを二次元的に走査可能なアンテナ装置を備えたレーダ装置であって、
前記アンテナ装置及び反射器のうちの少なくとも一方を移動させて前記アンテナ装置に対する前記反射器の複数の方位角及び複数の仰角を設定するように駆動装置を制御するコントローラと、
前記アンテナ装置の指向特性を設計値に近づけるように、前記アンテナ装置の指向性を変化させかつ較正する信号処理回路の較正係数を計算する較正係数計算器とを備え、
前記較正係数計算器は、前記コントローラが異なる方位角及び異なる仰角を設定するごとに、前記アンテナ装置から放射され、前記反射器によって反射され、前記アンテナ装置によって受信された無線信号に基づいて前記較正係数を計算する。
【0024】
これにより、主ビーム方向を二次元的に走査可能なアンテナ装置を較正し、レーダ装置に対する反射物の三次元的な位置を正確に決定することができる。
【0025】
本開示の側面に係る較正方法によれば、
主ビームを二次元的に走査可能なアンテナ装置を備えたレーダ装置の較正方法であって、
駆動装置を用いて、前記アンテナ装置及び反射器のうちの少なくとも一方を移動させて前記アンテナ装置に対する前記反射器の複数の方位角及び複数の仰角を設定するステップと、
前記アンテナ装置の指向特性を設計値に近づけるように、前記アンテナ装置の指向性を変化させかつ較正する信号処理回路の較正係数を計算するステップと、
前記計算された較正係数を記憶装置に格納するステップとを含み、
前記較正係数を計算するステップは、異なる方位角及び異なる仰角を設定するごとに、前記アンテナ装置から放射され、前記反射器によって反射され、前記アンテナ装置によって受信された無線信号に基づいて前記較正係数を計算することを含む。
【0026】
これにより、主ビーム方向を二次元的に走査可能なアンテナ装置を較正し、レーダ装置に対する反射物の三次元的な位置を正確に決定することができる。
【発明の効果】
【0027】
本開示の側面に係る較正装置、較正システム、較正方法、及びレーダ装置によれば、主ビーム方向を二次元的に走査可能なアンテナ装置を較正し、レーダ装置に対する反射物の三次元的な位置を正確に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1の実施形態に係る較正システムの構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1の較正装置1及びレーダ装置11の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図1のレーダ装置11の詳細構成を示すブロック図である。
【
図4】
図3のアンテナ素子41,42-1-1~42-M-Nの配置を示す斜視図である。
【
図5】
図1の反射器12の構成を示す斜視図である。
【
図6】
図1の較正装置1によって実行される較正処理を示すフローチャートである。
【
図7】
図3のアンテナ素子42-1-1によって受信された時間領域の受信信号を示すグラフである。
【
図8】
図7の受信信号に対してFFTを適用した周波数領域の受信信号を示すグラフである。
【
図9】
図1のレーダ装置11に対する反射器12の方位角φ及び仰角θ関する角度スペクトルを示すグラフである。
【
図10】第1の実施形態の第1の変形例に係る較正システムの構成を示す斜視図である。
【
図11】第1の実施形態の第2の変形例に係る較正システムの構成を示す斜視図である。
【
図12】第1の実施形態の第3の変形例に係る較正システムの構成を示す斜視図である。
【
図13】第1の実施形態の第4の変形例に係る較正システムの構成を示す斜視図である。
【
図14】第2の実施形態に係る較正システムの構成を示す斜視図である。
【
図15】
図14の較正装置1Eによって実行される較正処理を示すフローチャートである。
【
図16】第3の実施形態に係るレーダ装置11Fの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[適用例]
図1は、第1の実施形態に係る較正システムの構成を示す斜視図である。
図2は、
図1の較正装置1及びレーダ装置11の構成を示すブロック図である。
図1の較正システムは、レーダ装置11のアンテナ装置31であって、主ビームを二次元的に走査可能なアンテナ装置31を較正する。
図2の例では、レーダ装置11は、アンテナ装置31の指向性を変化させかつ較正する信号処理回路33をさらに備える。従って、
図1の較正システムは、アンテナ装置31を較正するために、信号処理回路33の較正係数を計算する。
【0030】
図1の較正システムは、較正装置1、駆動装置2,3、及び反射器12を備える。
【0031】
反射器12は、レーダ装置11から放射された無線信号(レーダ波)を反射してレーダ装置11に向けて再放射する。
【0032】
駆動装置2,3は、アンテナ装置31及び反射器12のうちの少なくとも一方を移動させてアンテナ装置31に対する反射器12の複数の方位角φ及び複数の仰角θを設定する。
図1の例では、駆動装置2は、アンテナ装置31に対する反射器12の方位角φを変化させるようにアンテナ装置31を回転可能に支持するターンテーブルを備える。また、駆動装置3は、アンテナ装置31に対する反射器12の仰角θを変化させるように反射器12を並進可能に支持する機構を備える。
【0033】
較正装置1は、駆動装置2,3を制御し、また、アンテナ装置31を較正するためにレーダ装置11の信号処理回路33の較正係数を計算する。
【0034】
図2を参照すると、較正装置1は、コントローラ21、較正係数計算器22、及び記憶装置23を備える。
【0035】
コントローラ21は、アンテナ装置31及び反射器12のうちの少なくとも一方を移動させてアンテナ装置31に対する反射器12の複数の方位角φ及び複数の仰角θを設定するように駆動装置2,3を制御する。
図1の例では、コントローラ21は、アンテナ装置31を回転させてアンテナ装置31に対する反射器12の複数の方位角φを設定するように駆動装置2を制御する。また、コントローラ21は、反射器12の高さ方向(
図1のZ’方向)に並進移動させてアンテナ装置31に対する反射器12の複数の仰角θを設定するように駆動装置3を制御する。
【0036】
較正係数計算器22は、アンテナ装置31の指向特性を設計値に近づけるように、アンテナ装置31の指向性を変化させかつ較正する信号処理回路33の較正係数を計算する。詳しくは、較正係数計算器22は、コントローラ21が異なる方位角φ及び異なる仰角θを設定するごとに、アンテナ装置31から放射され、反射器12によって反射され、アンテナ装置31によって受信された無線信号に基づいて較正係数を計算する。
【0037】
記憶装置23は、較正係数計算器22によって計算された較正係数を格納する。記憶装置23に格納された較正係数は、着脱可能な記憶媒体又は通信回線を介して、レーダ装置11(又は、較正対象のレーダ装置11と同じ機種である他のレーダ装置)に送られ、そのアンテナ装置31を較正するために使用される。
【0038】
このように、本開示の実施形態に係る較正システムによれば、駆動装置2,3を用いてアンテナ装置31に対する反射器12の複数の方位角φ及び複数の仰角θを設定し、異なる方位角φ及び異なる仰角θを設定するごとに較正係数を計算する。これにより、主ビーム方向を二次元的に走査可能なアンテナ装置31を較正し、レーダ装置11に対する任意の反射物の三次元的な位置を正確に決定することができる。
【0039】
本開示の実施形態に係る較正システムによれば、特許文献1のように、レーダ装置に対する仮想物標の方位角のみを一次元的に変更する場合よりも、較正係数を正確に計算することができる。また、本開示の実施形態に係る較正システムによれば、レーダ装置に対する仮想物標の角度を互いに直交する2つの円周上で変化させて較正係数を計算し、その積によって球面の較正係数を近似する場合よりも、較正係数を正確に計算することができる。このように、本開示の実施形態に係る較正システムによれば、レーダ装置11に対する任意の反射物の三次元的な位置を、従来よりも高い精度及び分解能で、正確に決定することができる。
【0040】
[第1の実施形態]
[第1の実施形態の構成]
図1を参照すると、駆動装置2は、基部2a、ターンテーブル2b、及びアーム2cを備える。基部2aは、駆動装置2の全体を支持する。ターンテーブル2bは、基部2aの上に設けられ、基部2aに対して回転する。ターンテーブル2bの上にレーダ装置11が配置される。これにより、ターンテーブル2bは、アンテナ装置31に対する反射器12の方位角φを変化させるようにアンテナ装置31を回転可能に支持する。アーム2cは、駆動装置3を基部2aに対して連結する。アーム2cは、例えば、レーダ装置11から反射器12までの距離が数十cm~十数m程度になるような長さを有する。
【0041】
図1では、較正装置1が、駆動装置3のための制御信号を、駆動装置2を介して駆動装置3に送信する場合を示すが、較正装置1は、駆動装置3のための制御信号を駆動装置3に直接に送信してもよい。また、較正装置1は、駆動装置2,3のための制御信号を有線で送信してもよく、無線により送信してもよい。
【0042】
較正システムの周辺には、反射器12以外の反射物又は他の強力な電磁波源が存在しないことが望ましい。従って、駆動装置2,3、レーダ装置11、及び反射器12は、例えば電波暗室の内部に配置されてもよい。
【0043】
図2を参照すると、レーダ装置11は、例えば、アンテナ装置31、無線周波回路32、信号処理回路33、コントローラ34、及び記憶装置35を備える。
【0044】
図3は、
図1のレーダ装置11の詳細構成を示すブロック図である。
【0045】
アンテナ装置31は、アンテナ素子41,42-1-1~42-M-Nを備える。アンテナ素子41は、無線周波回路32から供給された無線周波信号をレーダ波として放射する送信アンテナとして動作する。アンテナ素子41は、無指向性のアンテナとして動作してもよい。アンテナ素子42-1-1~42-M-Nは、アンテナ素子41から放射されて何らかの反射物によって反射されたレーダ波を受信する受信アンテナとして動作する。アンテナ素子42-1-1~42-M-Nは、それらの受信信号を後段の信号処理回路33によって処理することにより、可変な指向性を有する。
【0046】
図4は、
図3のアンテナ素子41,42-1-1~42-M-Nの配置を示す斜視図である。受信アンテナとして動作するアンテナ素子42-1-1~42-M-Nは、例えば、X方向の間隔d
x及びZ方向の間隔d
zを有して等間隔で二次元的に配置され、アレイアンテナ装置を構成する。送信アンテナとして動作するアンテナ素子41は、アンテナ素子42-1-1~42-M-Nに近接して設けられる。送信アンテナは、受信アンテナとして動作するアンテナ素子42-1-1~42-M-Nのうちの少なくとも1つを共用してもよい。
【0047】
図4は、アンテナ装置31の座標系XYZを示し、また、アンテナ装置31に対する反射器12(図示せず)の方位角φ及び仰角θを示す。一方、
図1は、較正システムの座標系X’Y’Z’を示すが、駆動装置2,3によって設定される方位角φ及び仰角θは、
図4の方位角φ及び仰角θと等価である。
【0048】
アレイアンテナ装置の開口面積に対し、レーダ装置11から反射器12までの距離は十分に大きく設定される。例えば、79GHz帯のレーダ波を用いる場合、レーダ装置11から反射器12までの距離は、数十cm~数mに設定されてもよい。これにより、反射器12からレーダ装置11に入射するレーダ波は、平面波とみなすことができる。反射器12がアレイアンテナ装置のブロードサイド方向、すなわちφ=0,θ=0の位置に配置されているとき、反射器12から各アンテナ素子42-1-1~42-M-Nまでの距離は互いに等しく、また、各アンテナ素子42-1-1~42-M-Nには同相のレーダ波がそれぞれ入射する。反射器12がφ≠0又はθ≠0の位置に配置されているとき、反射器12から各アンテナ素子42-1-1~42-M-Nまでの距離は互いに異なり、また、各アンテナ素子42-1-1~42-M-Nには、各アンテナ素子42-1-1~42-M-Nの間隔と、方位角φ及び仰角θとに応じて異なる位相を有するレーダ波がそれぞれ入射する。
【0049】
再び
図3を参照すると、無線周波回路32は、アンテナ装置31によって受信された無線信号をベースバンド信号又は中間周波信号に変換する。無線周波回路32は、発振器51、ミキサ52-1-1~52-M-N、増幅器53-1-1~53-M-N、フィルタ54-1-1~54-M-N、及びアナログ/ディジタル変換器(ADC)55-1-1~55-M-Nを備える。
【0050】
発振器51は、レーダ装置11のコントローラ34(又は較正装置1のコントローラ21)の制御下で、所定の周波数を有する無線周波信号を発生し、発生した無線周波信号をアンテナ素子41に送る。発振器51は、例えば、時間的に次第に増大又は減少する周波数を有するチャープ信号を発生する。発振器51は、発生した無線周波信号をミキサ52-1-1~52-M-Nにも送る。
【0051】
アンテナ素子42-1で受信された無線周波信号は、ミキサ52-1-1に入力される。ミキサ52-1-1には、発振器51によって発生された無線周波信号がさらに入力される。これにより、ミキサ52-1-1はベースバンド信号を発生する。増幅器53-1-1はベースバンド信号を増幅する。フィルタ54-1-1は、ベースバンド信号の不要な周波数帯域を阻止する。アナログ/ディジタル変換器55-1-1は、アナログのベースバンド信号をディジタル信号に変換する。これにより、アナログ/ディジタル変換器55-1の出力信号は、アンテナ素子42-1の受信信号として、信号処理回路33に送られる。
【0052】
アンテナ素子42-1で受信された無線周波信号と同様に、アンテナ素子42-1-2~42-M-Nで受信された無線周波信号は、ミキサ52-1-2~52-M-N、増幅器53-1-2~53-M-N、フィルタ54-1-2~54-M-N、及びアナログ/ディジタル変換器55-1-2~55-M-Nによって処理される。これにより、アナログ/ディジタル変換器55-2~55-Kの出力信号は、アンテナ素子42-2~42-M-Nの受信信号として、信号処理回路33にそれぞれ送られる。
【0053】
図3の例では、無線周波回路32が無線周波信号をベースバンド信号に変換する場合を示すが、無線周波回路32は、無線周波信号を中間周波信号に変換するように構成されてもよい。
【0054】
信号処理回路33の較正係数を計算するとき、アナログ/ディジタル変換器55-1-1~55-M-Nの出力信号は、アンテナ素子42-1-1~42-M-Nの受信信号として、較正装置1の較正係数計算器22に送られる。
【0055】
信号処理回路33は、無線周波回路32から送られたアンテナ素子42-1-1~42-M-Nの受信信号に基づいて、反射物の距離及び方向を推定し、表示装置などの外部装置(図示せず)に出力する。このとき、信号処理回路33は、アンテナ素子42-1-1~42-M-Nが可変な指向性を有するように、無線周波回路32から送られたアンテナ素子42-1-1~42-M-Nの受信信号を処理する。
【0056】
コントローラ34は、レーダ装置11の全体の動作を制御する。
【0057】
記憶装置35には、較正装置1によって計算された較正係数が格納される。コントローラ34は、較正係数を記憶装置35から読み出して信号処理回路33に設定する。信号処理回路33は、コントローラ34により設定された較正係数を用いて、反射物の距離及び方向を推定する。
【0058】
図5は、
図1の反射器12の構成を示す斜視図である。反射器12は、例えば、互いに直交する3つの反射板を含むように構成されてもよい。反射板は、電磁波をよく反射するように、金属からなる。これにより、レーダ装置11から反射器12にレーダ波が入射したとき、レーダ波を正確にレーダ装置11に向けて反射することができる。反射器12は、四角形の反射板に代えて三角形の反射板を含んでもよく、3つの反射板に代えて互いに直交する2つの反射板を含んでもよく、反射板に代えて球体又は他の任意の反射器を用いてもよい。
【0059】
[第1の実施形態の動作]
図6は、
図1の較正装置1によって実行される較正処理を示すフローチャートである。
【0060】
ステップS1において、コントローラ21は、駆動装置3を用いて、反射器12の仰角θを初期値に設定する。ステップS2において、コントローラ21は、駆動装置2を用いて、反射器12の方位角φを初期値に設定する。
【0061】
ステップS3において、コントローラ21は、信号処理回路33の較正係数を計算するためのテスト信号として、レーダ装置11の発振器51を用いて、レーダ装置11から反射器12にレーダ波を送信する。反射器12によって反射されたレーダ波は、レーダ装置11により受信される。また、ステップS3において、較正係数計算器22は、レーダ装置11の無線周波回路32から各アンテナ素子42-1-1~42-M-Nの受信信号を取得する。
【0062】
ステップS4において、較正係数計算器22は、各アンテナ素子42-1-1~42-M-Nの受信信号に対してFFT(fast Fourier transform)をそれぞれ実行し、周波数領域の受信信号を取得する。周波数領域の受信信号は複素数値を有し、各周波数における各受信信号の振幅及び位相を表す。ステップS4において、較正係数計算器22はさらに、各アンテナ素子42-1-1~42-M-Nの周波数領域の受信信号のピークをそれぞれ抽出する。
【0063】
図7は、
図3のアンテナ素子42-1-1によって受信された時間領域の受信信号を示すグラフである。
図8は、
図7の受信信号に対してFFTを適用した周波数領域の受信信号を示すグラフである。
図8のX
mnは、アンテナ素子42-m-n(1≦m≦M,1≦n≦N)の周波数領域の受信信号のピークを示し、次式により表される。
【0064】
【0065】
ここで、pは受信信号の振幅を示し、λは動作波長を示す。
【0066】
図6のステップS5において、較正係数計算器22は、周波数領域の受信信号に基づいて、次式を用いて相関行列R
xxを計算する。
【0067】
【0068】
Xは、各受信信号Xmnからなる受信信号ベクトルを示す。ここで、上付き文字Tはベクトル及び行列の転置を示し、上付き文字Hはベクトル及び行列の複素共役転置を示す。
【0069】
反射物の三次元的な位置を決定するために、例えば、相関行列Rxxを用いて、次式の角度スペクトルP(θ,φ)が計算される。
【0070】
【0071】
a(φ,θ)は、方位角φ及び仰角θにおけるステアリングベクトル(「モードベクトル」とも呼ぶ)を示す。
【0072】
図9は、
図1のレーダ装置11に対する反射器12の方位角φ及び仰角θに関する角度スペクトルを示すグラフである。式(5)の角度スペクトルP(θ,φ)を方位角φ及び仰角θに関して走査し、角度スペクトルP(θ,φ)が最大になるときの方位角φ及び仰角θに反射物が位置していると推定される。
【0073】
しかしながら、前述のように、アンテナ装置の指向特性には、設計値との誤差が生じることがある。誤差を含む受信信号X’mnは、例えば次式で表される。
【0074】
【0075】
p’は、誤差を含む受信信号の振幅を示し、αは位相誤差を示す。振幅及び位相の誤差は、アンテナ素子42-1-1~42-N-Mごとに異なる可能性がある。
【0076】
式(7)のように誤差を含む受信信号X’mnからなる受信信号ベクトルX’を用いて相関行列Rxxを計算し、角度スペクトルP(φ,θ)を計算すると、角度スペクトルP(φ,θ)が最大になる方位角φ及び仰角θが、反射物の真の方位角φ及び仰角θからずれる可能性がある。反射物の方位角φ及び仰角θを正しく推定するためには、角度スペクトルP(φ,θ)を補正する必要がある。
【0077】
図6のステップS6において、較正係数計算器22は、相関行列R
xxの固有値分解を実行し、最大固有値に対応する第1固有ベクトルを抽出する。ステップS7において、較正係数計算器22は、第1固有ベクトルに基づいて較正ベクトルを計算する。
【0078】
第1固有ベクトルの成分のうち、アンテナ素子42-m-nに対応する成分emnを用いて、アンテナ素子42-m-nに対応する補正係数Cmnは次式により得られる。
【0079】
【0080】
受信信号ベクトルXは、アンテナ素子42-1-1~42-M-Nの個数に等しい個数の成分を含む。従って、特定の方位角φ及び仰角θについて、アンテナ素子42-1-1~42-M-Nの個数に等しい個数の補正係数Cmnが計算される。これらの補正係数Cmnから、次式の較正ベクトルが得られる。
【0081】
【0082】
前述のステアリングベクトルa(φ,θ)と、較正ベクトルC(φ,θ)とに基づいて、補正されたステアリングベクトルa’(φ,θ)が次式のように計算される。
【0083】
【0084】
式(10)の右辺の演算子はアダマール積を示す。
【0085】
補正された角度スペクトルPC(φ,θ)は、次式により得られる。
【0086】
【0087】
式(11)は、方位角φ及び仰角θに依存する入射波の電力を示す。例えば、ビームフォーマ法と呼ばれる到来方向推定法によれば、式(11)を評価関数として使用し、式(11)の変数φ及びθを変化させ、角度スペクトルPC(φ,θ)を最大化するときの変数φ及びθの値を、入射波の到来方向として推定することができる。
【0088】
ステップS8において、較正係数計算器22は、現在の方位角φ及び仰角θに対応する較正ベクトルC(φ,θ)を記憶装置23に格納する。
【0089】
ステップS9において、コントローラ21は、方位角φの走査が終了したか否かを判断し、YESのときはステップS11に進み、NOのときはステップS10に進む。ステップS10において、コントローラ21は、駆動装置2を用いて、反射器12の方位角φをΔφだけインクリメントした値に設定し、ステップS3に戻る。
【0090】
ステップS11において、コントローラ21は、仰角θの走査が終了したか否かを判断し、YESのときは処理を終了し、NOのときはステップS12に進む。ステップS12において、コントローラ21は、駆動装置3を用いて、反射器12の仰角θをΔθだけインクリメントした値に設定し、ステップS2に戻る。
【0091】
図6の較正処理を実行することにより、較正装置1は、異なる方位角φ及び異なる仰角θごとに較正ベクトルC(φ,θ)を計算することができる。
【0092】
一般に、レーダ装置等による到来方向推定では、ある角度範囲にわたって走査しながら各角度における角度スペクトラムの値を計算し、角度スペクトラムの分布を得る。そのため、アンテナ素子の個数に等しい個数の成分を含むステアリングベクトルを、走査する角度範囲におけるサンプリング点の個数の分だけスタックして方向行列として取り扱うことが多い。同様に、実施形態に係る較正装置1は、較正ベクトルC(φ,θ)を、方位角φ及び仰角θにおけるサンプリング点の個数の分だけスタックして較正行列として取り扱ってもよい。この場合、記憶装置23は較正行列を格納する。
【0093】
[レーダ探知処理]
実際にレーダ装置11を用いて周囲の障害物などを検出しようとするとき、レーダ装置11は例えば以下のように動作する。
【0094】
まず、コントローラ34は、較正ベクトルCを記憶装置35から読み出して信号処理回路33に設定する。
【0095】
レーダ装置11は、レーダ波を送信し、反射物によって反射されたレーダ波を受信する。
【0096】
信号処理回路33は、各アンテナ素子42-1-1~42-M-Nの受信信号に対してFFTをそれぞれ実行し、さらに、各アンテナ素子42-1-1~42-M-Nの周波数領域の受信信号のピークをそれぞれ抽出する。
【0097】
信号処理回路33は、各アンテナ素子42-1-1~42-M-Nの周波数領域の受信信号のピークに基づいて、式(3)を用いて相関行列Rを計算する。
【0098】
信号処理回路33は、相関行列R、モードベクトルa(φ,θ)、及び較正行列(φ,θ)に基づいて、式(11)の補正された角度スペクトルPC(φ,θ)を計算する。
【0099】
信号処理回路33は、補正された角度スペクトルPC(φ,θ)を用いて、レーダ装置11を基準とする反射物の方向を推定する(方向サーチ)。例えば、信号処理回路33は、変数φ及びθを所定の初期値から予め決められたステップ幅でインクリメントし、式(11)を最大化するときの変数φ及びθの値を、反射物の方向として推定する。
【0100】
その後、信号処理回路33は、推定された距離及び方向を、表示装置などの外部装置(図示せず)に出力する。
【0101】
[第1の実施形態の変形例]
図10は、第1の実施形態の第1の変形例に係る較正システムの構成を示す斜視図である。
図10の較正システムは、
図1の駆動装置2,3に代えて、駆動装置2Aを備える。
【0102】
駆動装置2Aは、基部2a、ターンテーブル2b、アーム2c、及び仰角調整機構2dを備える。アーム2cの一端は反射器12に直接に連結され、アーム2cの他端は、仰角調整機構2dの開口2daを介して仰角調整機構2dの内部に連結される。アーム2cの仰角θは、仰角調整機構2dによって変化する。これにより、アーム2c及び仰角調整機構2dは、アンテナ装置31に対する反射器12の仰角θを変化させるように反射器12を回転移動可能に支持する。
図10の基部2a及びターンテーブル2bは、
図1の対応する構成要素と同様に構成される。
【0103】
図10の較正装置1は、駆動装置2Aを用いて、
図1の較正装置1と同様に、アンテナ装置31に対する反射器12の複数の方位角φ及び複数の仰角θを設定し、異なる方位角φ及び異なる仰角θを設定するごとに較正係数を計算することができる。
【0104】
図11は、第1の実施形態の第2の変形例に係る較正システムの構成を示す斜視図である。
図11の較正システムは、
図1の駆動装置2に代えて、駆動装置2Bを備える。
【0105】
駆動装置2Bは、基部2a、アーム2c、固定台2e、及び回転機構2fを備える。固定台2eは基部2aに対して固定され、固定台2eの上にレーダ装置11が配置される。回転機構2fは、基部2a及び固定台2eの間に設けられ、基部2a及び固定台2eに対して回転する。従って、アーム2c及び回転機構2fは、アンテナ装置31に対する反射器12の方位角φを変化させるように、駆動装置3及び反射器12を回転移動可能に支持する。
【0106】
図11の較正装置1は、駆動装置2B,3を用いて、
図1の較正装置1と同様に、アンテナ装置31に対する反射器12の複数の方位角φ及び複数の仰角θを設定し、異なる方位角φ及び異なる仰角θを設定するごとに較正係数を計算することができる。
【0107】
図12は、第1の実施形態の第3の変形例に係る較正システムの構成を示す斜視図である。
図12の較正システムは、
図1の駆動装置2,3に代えて、駆動装置2Cを備える。
【0108】
駆動装置2Cは、基部2a、アーム2c、固定台2e、ならびに、方位角及び仰角調整機構2gを備える。アーム2cの一端は反射器12に直接に連結され、アーム2cの他端は、方位角及び仰角調整機構2gの開口2gaを介して方位角及び仰角調整機構2gの内部に連結される。アーム2cの方位角φ及び仰角θは、方位角及び仰角調整機構2gによって変化する。これにより、アーム2cと、方位角及び仰角調整機構2gは、アンテナ装置31に対する反射器12の方位角φ及び仰角θを変化させるように反射器12を回転移動可能に支持する。
図10の基部2a及び固定台2eは、
図11の対応する構成要素と同様に構成される。
【0109】
図12の較正装置1は、駆動装置2Cを用いて、
図1の較正装置1と同様に、アンテナ装置31に対する反射器12の複数の方位角φ及び複数の仰角θを設定し、異なる方位角φ及び異なる仰角θを設定するごとに較正係数を計算することができる。
【0110】
図13は、第1の実施形態の第4の変形例に係る較正システムの構成を示す斜視図である。
図13の較正システムは、
図1の駆動装置2,3に代えて、駆動装置2Dを備える。
【0111】
駆動装置2Dは、基部2a、ターンテーブル2b、アーム2c、及び傾斜角調整機構2hを備える。反射器12は、アーム2cの先端に直接に連結されている。傾斜角調整機構2hはターンテーブル2bの上に配置され、傾斜角調整機構2hの上にレーダ装置11が配置される。傾斜角調整機構2hは、アンテナ装置31に対する反射器12の仰角を変化させるようにアンテナ装置31を傾斜可能に支持する。
図13の基部2a及びターンテーブル2bは、
図1の対応する構成要素と同様に構成される。
【0112】
図13の較正装置1は、駆動装置2Dを用いて、
図1の較正装置1と同様に、アンテナ装置31に対する反射器12の複数の方位角φ及び複数の仰角θを設定し、異なる方位角φ及び異なる仰角θを設定するごとに較正係数を計算することができる。
【0113】
[第1の実施形態の効果]
第1の実施形態に係る較正システムによれば、駆動装置2,3等を用いてアンテナ装置31に対する反射器12の複数の方位角φ及び複数の仰角θを設定し、異なる方位角φ及び異なる仰角θを設定するごとに較正係数を計算する。これにより、主ビーム方向を二次元的に走査可能なアンテナ装置31を較正し、レーダ装置11に対する任意の反射物の三次元的な位置を正確に決定することができる。
【0114】
図1、
図10、及び
図13の較正システムによれば、ターンテーブル2bを備えた駆動装置2を用いたことにより、反射器12をレーダ装置11の周りで大きく動かすことなく、小さな空間においてレーダ装置11を較正することができる。
【0115】
[第2の実施形態]
[第1の実施形態の構成]
図14は、第2の実施形態に係る較正システムの構成を示す斜視図である。
図14の較正システムは、
図1の較正装置1及び駆動装置2に代えて、較正装置1E及び駆動装置2Eを備える。
【0116】
駆動装置2Eは、
図1のアーム2cに代えて、アンテナ装置31から反射器12までの距離dを変化させるように反射器12を並進可能に支持するスライダ機構2iを備える。スライダ機構2iは、例えば、レーダ装置11から反射器12までの距離dが数十cm~十数m程度の範囲で変化するように反射器12を駆動装置3及び反射器12を支持する。
【0117】
較正装置1Eは、
図1の較正装置1と同様に構成される。ただし、較正装置1Eのコントローラ21は、アンテナ装置31及び反射器12のうちの少なくとも一方を移動させてアンテナ装置31に対する反射器12の複数の距離dを設定するように駆動装置2Eを制御する。また、コントローラ21は、前述のように、アンテナ装置31及び反射器12のうちの少なくとも一方を移動させてアンテナ装置31に対する反射器12の複数の方位角φ及び複数の仰角θを設定するように駆動装置2E,3を制御する。較正装置1Eの較正係数計算器22は、コントローラ21が異なる方位角、異なる仰角、及び異なる距離を設定するごとに、無線信号に基づいて較正係数を計算する。
【0118】
[第2の実施形態の動作]
図15は、
図14の較正装置1Eによって実行される較正処理を示すフローチャートである。
図15の較正処理は、
図6の較正処理のステップS8に代えてステップS8Aを含み、さらに、ステップS21~S23を含む。
【0119】
ステップS21において、コントローラ21は、駆動装置2Eを用いて、反射器12の距離dを初期値に設定し、ステップS1に進む。
【0120】
図15のステップS1~S7は、
図6の対応するステップと同様である。ただし、
図15のステップS7において、較正係数計算器22は、現在の方位角φ、仰角θ、及び距離に対応する較正ベクトルC(φ,θ,d)を計算する。ステップS8Aにおいて、較正係数計算器22は、現在の方位角φ、仰角θ、及び距離に対応する較正ベクトルC(φ,θ,d)を記憶装置23に格納する。
図15のステップS9~S12は、
図6の対応するステップと同様である。
【0121】
ステップS11がYESのとき、ステップS22に進む。ステップS22において、コントローラ21は、距離dの走査が終了したか否かを判断し、YESのときは処理を終了し、NOのときはステップS23に進む。ステップS23において、コントローラ21は、駆動装置2Eを用いて、反射器12の距離dをΔdだけインクリメントした値に設定し、ステップS1に戻る。
【0122】
第1の実施形態のように、較正係数を計算するときにレーダ装置11から反射器12までの距離dが固定されている場合、レーダ装置11に対する任意の反射物の距離が較正時の距離に一致しているときに反射物の位置を最も正確に決定することができる。レーダ装置11に対する反射物の距離が較正時の距離とは異なる場合、誤差が生じる可能性がある。これに対して、第2の実施形態に係る較正システムによれば、駆動装置2E,3を用いてアンテナ装置31に対する反射器12の複数の方位角φ、複数の仰角θ、及び複数の距離dを設定し、異なる方位角φ、異なる仰角θ、及び異なる距離dを設定するごとに較正係数を計算する。これにより、主ビーム方向を二次元的に走査可能なアンテナ装置31を較正し、レーダ装置11に対する任意の反射物の三次元的な位置をより正確に決定することができる。
【0123】
第2の実施形態では、較正ベクトルは、方位角φ、仰角θ、及び距離dの関数C(φ,θ,d)である。第2の実施形態に係る較正装置1Eは、較正ベクトルC(φ,θ,d)を方位角φ及び仰角θにおけるサンプリング点の個数の分だけスタックした較正行列を、距離dにおけるサンプリング点の個数の分だけ計算してもよい。
【0124】
[第3の実施形態]
図16は、第3の実施形態に係るレーダ装置11Fの構成を示すブロック図である。レーダ装置11Fに較正装置の機能が一体化されてもよい。レーダ装置11Fは、
図2のコントローラ34及び記憶装置35に代えて、コントローラ34F及び較正係数計算器36を備える。
【0125】
コントローラ34Fは、アンテナ装置31及び反射器12のうちの少なくとも一方を移動させてアンテナ装置31に対する反射器12の複数の方位角及び複数の仰角を設定するように、例えば
図1の駆動装置2,3を制御する。
【0126】
較正係数計算器36は、アンテナ装置31の指向特性を設計値に近づけるように、アンテナ装置31の指向性を変化させかつ較正する信号処理回路の較正係数を計算する。較正係数計算器36は、コントローラ34Fが異なる方位角及び異なる仰角を設定するごとに、アンテナ装置31から放射され、反射器12によって反射され、アンテナ装置31によって受信された無線信号に基づいて較正係数を計算する。較正係数計算器36は、計算された較正係数を信号処理回路33に直接に設定する。
【0127】
第3の実施形態に係るレーダ装置11Fによれば、第1及び第2の実施形態に係る較正システムと同様に、駆動装置2,3を用いてアンテナ装置31に対する反射器12の複数の方位角φ及び複数の仰角θを設定し、異なる方位角φ及び異なる仰角θを設定するごとに較正係数を計算する。これにより、主ビーム方向を二次元的に走査可能なアンテナ装置31を較正し、レーダ装置11Fに対する任意の反射物の三次元的な位置を正確に決定することができる。
【0128】
コントローラ34Fは、
図1の駆動装置2,3に代えて、
図10~
図14に示す他の駆動装置を制御してもよい。また、較正係数計算器36は、計算された較正係数を信号処理回路33に直接に設定することに代えて、いったん記憶装置に格納してもよい。また、信号処理回路33及び較正係数計算器36は、一体的に構成されてもよい。
【0129】
[変形例]
アンテナ装置31は、
図4に示すような平面上のアレイアンテナ装置に限らず、複数のアンテナ素子が三次元的に配置されたアレイアンテナ装置であってもよい。
【0130】
送信アンテナとして動作するアンテナ素子41は、無指向性に代えて、主ビームを二次元的に走査可能であるように構成されてもよい。
【0131】
[まとめ]
本開示の各側面に係る較正システム及び較正方法は、以下のように表現されてもよい。
【0132】
本開示の一側面によれば、主ビームを二次元的に走査可能なアンテナ装置31を備えたレーダ装置11の較正装置1であって、較正装置1は、コントローラ21、較正係数計算器22、及び記憶装置23を備える。コントローラ21は、アンテナ装置31及び反射器12のうちの少なくとも一方を移動させてアンテナ装置31に対する反射器12の複数の方位角及び複数の仰角を設定するように駆動装置2,3を制御する。較正係数計算器22は、アンテナ装置31の指向特性を設計値に近づけるように、アンテナ装置31の指向性を変化させかつ較正する信号処理回路の較正係数を計算する。記憶装置23は、較正係数計算器22によって計算された較正係数を格納する。較正係数計算器22は、コントローラ21が異なる方位角及び異なる仰角を設定するごとに、アンテナ装置31から放射され、反射器12によって反射され、アンテナ装置31によって受信された無線信号に基づいて較正係数を計算する。
【0133】
本開示の一側面によれば、コントローラ21は、アンテナ装置31及び反射器12のうちの少なくとも一方を移動させてアンテナ装置31に対する反射器12の複数の距離を設定するように駆動装置2Eを制御する。較正係数計算器22は、コントローラ21が異なる方位角、異なる仰角、及び異なる距離を設定するごとに、無線信号に基づいて較正係数を計算する。
【0134】
本開示の一側面によれば、レーダ装置11の較正システムは、請求項1又は2記載の較正装置1と、反射器12と、レーダ装置11のアンテナ装置31と、反射器12とのうちの少なくとも一方を移動させる駆動装置2,3とを備える。
【0135】
本開示の一側面によれば、駆動装置2,2A,2D,2Eは、アンテナ装置31に対する反射器12の方位角を変化させるようにアンテナ装置31を回転可能に支持するターンテーブルを備える。
【0136】
本開示の一側面によれば、駆動装置2B,2Cは、アンテナ装置31に対する反射器12の方位角を変化させるように反射器12を回転移動可能に支持するアームを備える。
【0137】
本開示の一側面によれば、駆動装置3は、アンテナ装置31に対する反射器12の仰角を変化させるように反射器12を並進可能に支持する機構を備える。
【0138】
本開示の一側面によれば、駆動装置2A,2Cは、アンテナ装置31に対する反射器12の仰角を変化させるように反射器12を回転移動可能に支持するアームを備える。
【0139】
本開示の一側面によれば、駆動装置2Dは、アンテナ装置31に対する反射器12の仰角を変化させるようにアンテナ装置31を傾斜可能に支持する機構を備える。
【0140】
本開示の一側面によれば、駆動装置2Eは、アンテナ装置31から反射器12までの距離を変化させるように反射器12を並進可能に支持する機構を備える。
【0141】
本開示の一側面によれば、主ビームを二次元的に走査可能なアンテナ装置31を備えたレーダ装置11であって、レーダ装置11は、コントローラ34F及び較正係数計算器36を備える。コントローラ34Fは、アンテナ装置31及び反射器12のうちの少なくとも一方を移動させてアンテナ装置31に対する反射器12の複数の方位角及び複数の仰角を設定するように駆動装置2,3を制御する。較正係数計算器36は、アンテナ装置31の指向特性を設計値に近づけるように、アンテナ装置31の指向性を変化させかつ較正する信号処理回路の較正係数を計算する。較正係数計算器36は、コントローラ34Fが異なる方位角及び異なる仰角を設定するごとに、アンテナ装置31から放射され、反射器12によって反射され、アンテナ装置31によって受信された無線信号に基づいて較正係数を計算する。
【0142】
本開示の一側面によれば、主ビームを二次元的に走査可能なアンテナ装置31を備えたレーダ装置11の較正方法であって、駆動装置2,3を用いて、アンテナ装置31及び反射器12のうちの少なくとも一方を移動させてアンテナ装置31に対する反射器12の複数の方位角及び複数の仰角を設定するステップと、アンテナ装置31の指向特性を設計値に近づけるように、アンテナ装置31の指向性を変化させかつ較正する信号処理回路の較正係数を計算するステップと、計算された較正係数を記憶装置23に格納するステップとを含む。較正係数を計算するステップは、異なる方位角及び異なる仰角を設定するごとに、アンテナ装置31から放射され、反射器12によって反射され、アンテナ装置31によって受信された無線信号に基づいて較正係数を計算することを含む。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本開示の較正システムは、主ビーム方向を二次元的に走査可能なアンテナ装置を備えたレーダ装置を例えば出荷時に検査するとき、レーダ装置を従来よりも正確に較正することができる。
【符号の説明】
【0144】
1,1E 較正装置
2,2A~2E,3 駆動装置
11,11F レーダ装置
12 反射器
21 コントローラ
22 較正係数計算器
23 記憶装置
31 アンテナ装置
32 無線周波回路
33 信号処理回路
34,34F コントローラ
35 記憶装置
36 較正係数計算器
41,42-1-1~42-M-N アンテナ素子
51 発振器
52-1-1~52-M-N ミキサ
53-1-1~53-M-N 増幅器
54-1-1~54-M-N フィルタ
55-1-1~55-M-N アナログ/ディジタル変換器(ADC)