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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】障害物制御システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20240220BHJP
   G08G 1/005 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
G08G1/00 C
G08G1/005
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020043474
(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公開番号】P2021144541
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 志穂里
(72)【発明者】
【氏名】吉田 広顕
(72)【発明者】
【氏名】井上 大輔
(72)【発明者】
【氏名】岡田 明久
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-145628(JP,A)
【文献】特開2001-101571(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1736127(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/00- 1/87
G06Q 10/00-10/30、30/00-30/08、
50/00-50/20、50/26-99/00
G08G 1/00-99/00
G16Z 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の移動通路に設置された障害物であって、前記移動通路の移動方向に前記障害物を知覚したときに知覚される左右非対称度合いが可変である障害物と、
前記移動体を、前記移動通路の移動方向に見たときの右側を移動させるか、左側を移動させるかの指令を受け付けて、前記指令に応じて予め定められた前記左右非対称度合いとなるように、前記障害物を制御する制御装置と、
を含む障害物制御システム。
【請求項2】
移動体の移動通路に設置された障害物であって、前記移動通路の移動方向に前記障害物を知覚したときに知覚される左右非対称度合いが可変である障害物と、
前記移動体からなる移動体群の移動の流れを整流するか否かの指令を受け付けて、前記指令に応じて予め定められた左右非対称度合いとなるように、前記障害物における水平面内の基準方向の角度を制御する制御装置と、
を含む障害物制御システム。
【請求項3】
前記制御装置は、更に、前記移動通路の移動方向に見たときの右側を移動させるか、左側を移動させるかの指令を受け付けて、前記指令に応じて予め定められた左右非対称度合いとなるように、前記障害物における水平面内の基準方向の角度を制御する請求項2記載の障害物制御システム。
【請求項4】
前記移動通路における前記移動体の密度又は移動速度を測定する測定装置を更に含み、
前記制御装置は、前記測定装置によって測定された前記密度又は前記移動速度に応じて、前記移動体群の流れを整流するか否かの指令を決定し、前記決定された前記指令に応じて予め定められた左右非対称度合いとなるように、前記障害物における水平面内の基準方向の角度を制御する請求項2又は3記載の障害物制御システム。
【請求項5】
前記移動通路における前記移動体の密度を測定する測定装置を更に含み、
前記制御装置は、前記測定装置によって測定された前記密度及び前記指令の組み合わせに応じて予め定められた左右非対称度合いとなるように、前記障害物における水平面内の基準方向の角度を制御する請求項1~請求項3の何れか1項記載の障害物制御システム。
【請求項6】
前記移動体は、歩行者、動物、車両、又はロボットである請求項1~請求項5の何れか1項記載の障害物制御システム。
【請求項7】
前記障害物は、上面から見た形状が楕円形状又は三角形状であり、
前記制御装置は、前記障害物における水平面内の基準方向の角度を制御することにより、前記障害物の左右非対称度合いを制御する請求項1~請求項6の何れか1項記載の障害物制御システム。
【請求項8】
前記移動通路における前記移動体の密度又は移動速度を測定する測定装置を更に含み、
前記制御装置は、前記左右非対称度合いと、前記左右非対称度合いとなるように制御したときに前記測定装置によって測定された前記密度又は前記移動速度との組み合わせに基づいて、前記指令に応じた予め定められた前記左右非対称度合いを更新する請求項1~請求項の何れか1項記載の障害物制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体群の流れを整流するための障害物制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、タイミングに合った効果のある誘導を行う誘導システムが知られている(特許文献1)。この誘導システムでは、人流データに基づき計算されたパラメータに従ってタイミングにあった制御コンテンツを出力する。
【0003】
また、プロジェクタによるユーザへのコンテンツの提示により、人流を制御する人流制御システムが知られている(特許文献2)。
【0004】
また、画像解析から算出した密度とそこから移動させたいに人数、方向に応じて、表示制御装置の表示を通行領域あるいは非通行領域のパターンを表示するように制御する制御システム及び制御方法が知られている(特許文献3)。
【0005】
また、避難者の位置情報と対象地域の警報情報に基づき、避難者の避難行動を誘導する誘導システムが知られている(特許文献4)。
【0006】
また、対象エリアにおける群集情報に基づいて、群集の安全性および移動効率に関する指標を算出し、各誘導地点での、決定された配分に基づく誘導指示内容を決定する群集誘導装置が知られている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-35992号公報
【文献】特開2017-204136号公報
【文献】特開2019-139498号公報
【文献】特開2019-128624号公報
【文献】再公表WO2016/170767
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
駅やイベント会場などの多方向に進もうとする人々が混在する空間では、歩行者同士の相互作用により異なる方向に進もうとする歩行者が互いに運動を妨げる。混雑した状況ほどこの相互作用は大きくなり、個々の目的方向への移動が困難になると移動の利便性、避難時の安全性に大きな影響が生じる。
【0009】
歩行者を誘導するシステムおよび制御法に関する従来技術はいくつか存在するが、従来技術はいずれも固定されているため動的に制御することができない(引用文献1、3、5)。また、従来技術はコンテンツ表示により視覚を通して、歩行者の意識に対して指示を与えるものが多く(引用文献2~5)、緊急時など無意識下による行動が優位になる状況では必ずしも効果が得られにくい。さらに、従来技術は、渋滞を未然に防ぐように指示を与えるものが主流で(引用文献2、4)、既に生じた渋滞を緩和するためには個々に通行制限などを通して直接指示を与えるに留まっており(引用文献3、5)、渋滞を自然に、無意識的に緩和する手法は提案されていない。
【0010】
本発明は、上記事実を考慮して成されたものであり、移動体群の流れを効果的に整流することができる障害物制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明に係る障害物制御システムは、移動体の移動通路に設置された障害物であって、前記移動通路の移動方向に前記障害物を知覚したときに知覚される左右非対称度合いが可変である障害物と、前記移動体を、前記移動通路の移動方向に見たときの右側を移動させるか、左側を移動させるかの指令を受け付けて、前記指令に応じて予め定められた前記左右非対称度合いとなるように、前記障害物を制御する制御装置と、を含んで構成されている。
【0012】
第1の発明によれば、移動体を、移動通路の移動方向に見たときの右側を移動させるか、左側を移動させるかの指令を受け付けて、指令に応じて予め定められた左右非対称度合いとなるように、障害物を制御することにより、移動体群の流れを効果的に整流することができる。
【0013】
第2の発明に係る障害物制御システムは、移動体の移動通路に設置された障害物であって、前記移動通路の移動方向に前記障害物を知覚したときに知覚される左右非対称度合いが可変である障害物と、前記移動体からなる移動体群の移動の流れを整流するか否かの指令を受け付けて、前記指令に応じて予め定められた左右非対称度合いとなるように、前記障害物を制御する制御装置と、を含んで構成されている。
【0014】
第2の発明によれば、移動体からなる移動体群の移動の流れを整流するか否かの指令を受け付けて、指令に応じて予め定められた左右非対称度合いとなるように、障害物を制御することにより、移動体群の流れを効果的に整流することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明の障害物制御システムによれば、移動体群の流れを効果的に整流することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る障害物制御システムの構成を示す図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係る障害物制御システムの障害物を示す斜視図である。
図3】本発明の第1の実施の形態に係る障害物制御システムの障害物が設置された通路を示す上面図である。
図4】本発明の第1の実施の形態に係る障害物制御システムの障害物の電気的構成を示す図である。
図5】本発明の第1の実施の形態に係る障害物制御システムの制御装置の機能的構成を示す図である。
図6】障害物の角度と人流の整流度合いとの関係を示すグラフである。
図7】歩行者の密度と人流の整流度合いとの関係を示すグラフである。
図8】歩行者の密度と歩行者の平均流速との関係を示すグラフである。
図9】本発明の第1の実施の形態に係る障害物制御システムの制御装置の障害物制御処理ルーチンを示すフローチャートである。
図10参考例に係る障害物制御システムの障害物が設置された通路を示す上面図である。
図11参考例に係る障害物制御システムの障害物を示す斜視図である。
図12参考例に係る障害物制御システムの障害物を示す上面図である。
図13参考例に係る障害物制御システムの障害物の電気的構成を示す図である。
図14】表示コンテンツの心理的ポテンシャルの比と人流の整流度合いとの関係を示すグラフである。
図15】画像表示位置の角度と人流の整流度合いとの関係を示すグラフである。
図16】歩行者の密度と人流の整流度合いとの関係を示すグラフである。
図17】歩行者の密度と歩行者の平均流速との関係を示すグラフである。
図18】本発明の他の実施の形態に係る障害物制御システムの障害物を示す斜視図である。
図19】本発明の他の実施の形態に係る障害物制御システムの障害物を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施の形態]
<障害物制御システムのシステム構成>
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る障害物制御システム100は、歩行者の通路に設けられた複数の障害物1a,1b,・・・と、通路の歩行者の密度と流速とを測定する人流データ測定装置2と、障害物1a,1b,・・・を制御するための制御装置4とを備えている。複数の障害物1a,1b,・・・と、人流データ測定装置2と、制御装置4とが、ネットワーク6を介して接続されている。なお、障害物1a,1b,・・・の個々の区別が不要な場合には、障害物1と称する。
【0018】
図2図3に示すように、障害物1a,1b,・・・は、上面から見た形状が、楕円形状であり、水平面内の基準方向の角度が可変に構成され、水平面内の基準方向の角度に応じて、歩行者8が移動通路7の移動方向に障害物1を見たときの障害物1の形状が左右非対称となる。
【0019】
また、図4に、障害物1の電気的構成を示す。障害物1は、駆動部10、制御部12、及び通信部14を備えている。
【0020】
駆動部10は、例えば、障害物1を水平面内で回転させるモータである。
【0021】
通信部14は、無線通信によりネットワーク6を介して制御装置4との間で信号の送受信を行う。
【0022】
制御部12は、CPU、ROM、RAM、通信アンテナで送受信する信号の入出力用のポート等を含んで構成されており、駆動部10を制御するための各種処理プログラムや、データ等が記憶されている。
【0023】
制御部12は、制御装置4からの角度制御指令を受けて、駆動部10を制御し、障害物1の水平面内の角度が、指令値となるように、障害物1を水平面内で回転させる。
【0024】
人流データ測定装置2は、測定対象の移動通路7を撮影するカメラによって撮影された画像から、移動通路7における歩行者の密度及び移動速度を推定する。歩行者の密度及び移動速度の推定方法には、従来既知の手法を用いればよいため、説明を省略する。
【0025】
制御装置4は、例えば、コンピュータで構成され、制御装置4は、CPUと、RAMと、後述する障害物制御処理ルーチンを実行するためのプログラムを記憶したROMとを備え、機能的には次に示すように構成されている。図5に示すように、制御装置4は、通信部20と、入力部22と、制御部24と、表示部26とを備えている。
【0026】
通信部20は、無線通信によりネットワーク6を介して人流データ測定装置2及び障害物1の各々との間で信号の送受信を行う。
【0027】
入力部22は、移動通路7における歩行者群の流れを整流するか否かの指令、及び歩行者を、移動通路7の移動方向に見たときの右側通行で移動させるか、左側通行で移動させるかの指令を受け付ける。
【0028】
制御部24は、入力部22により受け付けた、移動通路7における歩行者群の流れを整流するか否かの指令、と、歩行者を、移動通路7の移動方向に見たときの右側通行で移動させるか、左側通行で移動させるかの指令と、人流データ測定装置2によって測定された歩行者の密度との組み合わせに応じて、障害物1の角度を決定し、決定した角度を表す角度指令信号を、通信部20により障害物1へ送信させる。
【0029】
また、制御部24は、通信部20により受信した、人流データ測定装置2の測定結果に基づいて、移動通路7における歩行者の密度が第1閾値以上であるか、又は移動通路7における歩行者の流速が第2閾値以下であれば、移動通路7における歩行者群の流れを整流するとの指令を決定し、移動通路7における歩行者の密度が、第1閾値未満であり、かつ、移動通路7における歩行者の流速が第2閾値より高ければ、移動通路7における歩行者群の流れを整流しないとの指令を決定する。
【0030】
制御部24は、決定した指令と、歩行者を、移動通路7の移動方向に見たときの右側通行で移動させるか、左側通行で移動させるかの指令と、人流データ測定装置2によって測定された歩行者の密度との組み合わせに応じて、障害物1の角度を決定し、決定した角度を表す角度指令信号を、通信部20により障害物1へ送信させる。
【0031】
表示部26は、移動通路7における歩行者群の流れを整流するか否かの指令、及び歩行者を、移動通路7の移動方向に見たときの右側通行で移動させるか、左側通行で移動させるかの指令を受け付けるための画面を表示したり、人流データ測定装置2の測定結果を表示するための画面を表示する。
【0032】
ここで、障害物1の角度を決定する原理について説明する。
【0033】
まず、図6に、歩行者の密度(ρ)の値毎に、障害物の角度(ψ)と歩行者の流れの整流の度合いを表すパラメータ(Φ)との関係を表すグラフを示す。図6のグラフは、歩行者群を移動させるシミュレーションにより構築したものである。人流の整流度合いを示すパラメータを、以下に(1)式により求めている。
【0034】
【数1】

(1)
【0035】
ここで、Nは対象範囲の歩行者数、vxiは、歩行者の移動通路7の長手方向の速度、yは、障害物から見た、移動通路7の長手方向と垂直方向の歩行者の位置を示す。パラメータΦの値が±1に近いと、歩行者の流速が高くなることが分かっている(図7図8)。ここで、図7は、障害物1がある場合(角度ψ=0,-π/4,π/4)と障害物1が無い場合における、歩行者の密度とパラメータΦの値との関係を表すグラフを示す。図7に示すように、障害物1がある場合、パラメータΦが1に近い値をとることが分かる。
【0036】
また、図8は、障害物1及び制御装置4がある場合と、障害物1が無い場合における、歩行者の密度と歩行者の平均流速との関係を表すグラフを示す。図8に示すように、障害物1及び制御装置4がある場合(パラメータΦが1に近い場合)、歩行者の平均流速が高いことが分かる。
【0037】
そこで、本実施の形態では、制御部24は、入力部22により、移動通路7における歩行者群の流れを整流する否かの指令と、歩行者を、移動通路7の移動方向に見たときの右側通行で移動させるか、左側通行で移動させるかの指令を受け付けて、指令及び歩行者の密度の組み合わせに応じて予め定められた左右非対称度合いとなるように、障害物1を制御する。
【0038】
ここで、左右非対称度合いとは、上面から見た、歩行者の移動方向(移動通路7の長手方向)と、楕円形状の長軸とのなす角ψであり(図3参照)、移動方向と楕円形状の長軸の方向とが一致しているときを、左右非対称でない基準状態とし、基準状態から、楕円形状の長軸の方向が、反時計回りに回転しているときには正の値となり、時計回りに回転しているときには負の値となる。
【0039】
移動通路7における歩行者群の流れを整流するとの指令があり、左側通行で移動させる場合には、例えば、なす角ψが、π/6~π/3となるように障害物1を制御し、右側通行で移動させる場合には、例えば、なす角ψが、-π/6~-π/3となるように障害物1を制御する。
【0040】
また、本実施の形態では、歩行者の密度に応じて、なす角ψを決定する。例えば、歩行者の密度ρが、0.4m-2、1.0m-2の場合には、左側通行で移動させる場合であれば、なす角ψを、π/6とし、右側通行で移動させる場合であれば、なす角ψを、-π/6とする。
【0041】
また、密度ρが、1.6m-2の場合には、左側通行で移動させる場合であれば、なす角ψを、π/3とし、右側通行で移動させる場合であれば、なす角ψを、-π/3とする。
【0042】
また、制御部24は、移動通路7における歩行者群の流れを整流しないとの指令があった場合には、障害物1を、左右非対称でない基準状態とするように制御する。
【0043】
また、制御部24は、指令及び密度に応じた予め定められた左右非対称度合いが存在しない場合、あるいは、指令及び密度に応じた予め定められた左右非対称度合いで所望の効果が得られない場合には、以下のように、予め定められた左右非対称度合いを設定又は更新してもよい。
具体的には、制御部24は、障害物1の左右非対称度合いと、当該左右非対称度合いとなるように制御したときに人流データ測定装置2によって測定された密度及び移動速度との組み合わせを収集し、収集結果に基づいて、そのときの指令及び密度に応じた予め定められた左右非対称度合いを更新するようにしてもよい。例えば、指令及び歩行者の密度の組み合わせに応じて予め定められた左右非対称度合いを多少変化させて制御したときの、人流データ測定装置2によって測定された移動速度に基づいて、移動速度が最も速くなる左右非対称度合いを求め、当該左右非対称度合いで、指令及び歩行者の密度の組み合わせに応じて予め定められた左右非対称度合いを更新するようにしてもよい。
【0044】
<障害物制御システムの動作>
次に、障害物制御システム100の動作について説明する。
【0045】
まず、障害物1を、移動通路7の歩行者の移動方向(移動通路7の長手方向)から見て左右非対称でない基準状態としおく。また、人流データ測定装置2によって測定された歩行者の密度及び流速が、逐次、制御装置4に送信され、制御装置4の表示部26に、人流データ測定装置2によるリアルタイムの測定結果が表示されると共に、表示部26に、移動通路7における歩行者群の流れを整流するか否かの指令、及び歩行者を、移動通路7の移動方向に見たときの右側通行で移動させるか、左側通行で移動させるかの指令を受け付けるための画面が表示される。このとき、制御装置4は、図9に示す障害物制御処理ルーチンを実行する。
【0046】
まず、ステップS100において、制御部24は、移動通路7における歩行者群の流れを整流する、との指令を受け付けたか否かを判定する。例えば、オペレータが、制御装置4の表示部26に表示された、人流データ測定装置2によるリアルタイムの測定結果を参照して、移動通路7における歩行者群の流れを整流する、との指令を入力すると、ステップS102へ進む。このとき、オペレータは、歩行者を、移動通路7の移動方向に見たときの右側通行で移動させるか、左側通行で移動させるかの指令も入力する。
【0047】
あるいは、制御部24は、人流データ測定装置2の測定結果に基づいて、移動通路7における歩行者の密度が第1閾値以上であるか、又は移動通路7における歩行者の流速が第2閾値以下であれば、移動通路7における歩行者群の流れを整流するとの指令を決定し、ステップS102へ進む。このとき、オペレータは、歩行者を、移動通路7の移動方向に見たときの右側通行で移動させるか、左側通行で移動させるかの指令を事前に入力しておく。
【0048】
ステップS102では、人流データ測定装置2によるリアルタイムの測定結果から、歩行者の密度を取得する。
【0049】
ステップS104では、入力された、歩行者を、移動通路7の移動方向に見たときの右側通行で移動させるか、左側通行で移動させるかの指令と、上記ステップS102で取得した歩行者の密度とに基づいて、障害物1の左右非対称度合いとして、上面から見た、歩行者の移動方向と、障害物1の楕円形状の長軸とのなす角ψを決定する。
【0050】
ステップS106では、各障害物1に対して、上記ステップS106で決定されたなす角ψを含む角度制御指令を送信する。これにより、各障害物1の制御部12は、受信した角度制御指令を受けて、駆動部10を制御し、障害物1の水平面内の角度が、指令値となるように、障害物1を水平面内で回転させる。そして、歩行者群の流れが、右側通行又は左側通行で移動するように整流される。
【0051】
また、ステップS108において、移動通路7における歩行者群の流れを整流しない、との指令を受け付けたか否かを判定する。
【0052】
例えば、オペレータが、制御装置4の表示部26に表示された、人流データ測定装置2によるリアルタイムの測定結果を参照して、移動通路7における歩行者群の流れを整流しない、との指令を入力すると、ステップS110へ進む。
【0053】
あるいは、制御部24は、人流データ測定装置2の測定結果に基づいて移動通路7における歩行者の密度が、第1閾値未満であり、かつ、移動通路7における歩行者の流速が第2閾値より高ければ、移動通路7における歩行者群の流れを整流しないとの指令を決定し、ステップS110へ進む。
【0054】
ステップS110では、各障害物1に対して、障害物が左右非対称でない基準状態(なす角ψが0°)となる角度制御指令を送信する。これにより、各障害物1の制御部12は、受信した角度制御指令を受けて、駆動部10を制御し、障害物1の水平面内の角度が、歩行者から見て左右非対称でない角度となるように、障害物1を水平面内で回転させる。そして、歩行者群は、整流されずに自由に移動通路7を移動する。
【0055】
以上説明したように、本発明の第1の実施の形態に係る障害物制御システムによれば、歩行者を右側通行で移動させるか、左側通行で移動させるかの指令を受け付けて、指令に応じて予め定められた角度となるように、障害物を制御することにより、歩行者群の流れを効果的に整流することができる。
【0056】
また、歩行者群の移動の流れを整流するか否かの指令を受け付けて、指令に応じて予め定められた角度となるように、障害物を制御することにより、歩行者群の流れを効果的に整流することができる。
【0057】
また、非対称性な形状、あるいは外見を持つ障害物の近くを通行する歩行者が、無意識のうちに進行方向を変えるため、人流を構成する歩行者の意識に働きかけることなく、無意識のうちに流速の高い人流を実現することができる。
【0058】
また、矢印などのマークを使用せずに、障害物の左右非対称度合いにより歩行者を整流することができるため、移動通路のデザイン性を損なうことなく、人流を誘導できる。
【0059】
参考例
<障害物制御システムのシステム構成>
次に、参考例に係る障害物制御システムについて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0060】
参考例では、障害物の表面に表示装置が設けられ、表示装置に表示される画像の、歩行者の移動方向から見たときの左右非対称度合いを制御する点が、第1の実施の形態と異なっている。
【0061】
図10図11に示すように、障害物1a,1b,・・・は、円柱状であり、側面全体が表示画面となるように表示装置201が設けられており、表示画面内の画像表示面の位置に応じて、移動通路7の移動方向から歩行者8が見たときの表示画像が左右非対称となる。
【0062】
例えば、図12に示すように、移動通路7の移動方向に対して左右非対称に広告表示画像を表示することで、障害物1への近接度に異方性が生じ、歩行者の誘導が起こる。
【0063】
また、図13に、障害物1の電気的構成を示す。障害物1は、表示装置201、制御部12、及び通信部14を備えている。
【0064】
通信部14は、無線通信によりネットワーク6を介して制御装置4との間で信号の送受信を行う。
【0065】
制御部12は、制御装置4からの角度制御指令を受けて、表示装置201の表示画面中の画像表示位置(角度)が、指令値となるように、表示装置201の表示画面中の画像表示位置(角度)を変更する。
【0066】
制御装置4の制御部24は、入力部22により受け付けた、移動通路7における歩行者群の流れを整流するか否かの指令と、右側通行で移動させるか、左側通行で移動させるかの指令と、人流データ測定装置2によって測定された歩行者の密度との組み合わせに応じて、障害物1に設けられた表示装置201の表示画面中の画像表示位置(角度)を決定し、決定した角度を表す角度指令信号を、通信部20により障害物1へ送信させる。
【0067】
また、制御部24は、表示画像を表すデータを、通信部20により障害物1へ送信させる。
【0068】
ここで、障害物1の画像表示位置(角度)を決定する原理について説明する。
【0069】
まず、図14に、歩行者の密度(ρ)の値毎に、コンテンツA1に対するコンテンツA2の心理的ポテンシャル(心理的ポテンシャルの増加に伴い表示コンテンツの近接度は小さくなる)の比と、人流の整流の度合いを表すパラメータΦとの関係を表すグラフを示す。
【0070】
また、図15に、歩行者の密度(ρ)の値毎に、障害物1の画像表示位置の角度(ψ)と、人流の整流の度合いを表すパラメータΦとの関係を表すグラフを示す。図14図15のグラフは、シミュレーションにより構築したものである。人流の整流度合いを示すパラメータを、上記(1)式により求めている。また、パラメータΦの値が±1に近いと、歩行者の流速が高くなることが分かっている(図16図17)。
【0071】
ここで、図16は、障害物1がある場合(角度ψ=0,-π/4,π/4)と障害物1が無い場合における、歩行者の密度とパラメータΦの値との関係を表すグラフを示す。図16に示すように、障害物1がある場合、パラメータΦが1に近い値をとることが分かる。
【0072】
また、図17は、障害物1及び制御装置4がある場合と、障害物1が無い場合における、歩行者の密度と歩行者の平均流速との関係を表すグラフを示す。図17に示すように、障害物1がある場合(パラメータΦが1に近い場合)、歩行者の平均流速が高いことが分かる。
【0073】
そこで、本実施の形態では、制御部24は、入力部22により、移動通路7における歩行者群の流れを整流する否かの指令と、歩行者を右側通行で移動させるか、左側通行で移動させるかの指令を受け付けて、指令及び歩行者の密度の組み合わせに応じて予め定められた左右非対称度合いとなるように、障害物1の表示装置201の表示画面中の画像表示位置(角度)を制御する。
【0074】
ここで、左右非対称度合いとは、上面から見た、歩行者の移動方向と、2つの画像表示位置の中心を結んだ線とのなす角ψであり(図12参照)、移動方向と2つの画像表示位置の中心を結んだ線の方向とが一致しているときを、左右非対称でない基準状態とし、基準状態から、2つの画像表示位置の中心を結んだ線の方向が、反時計回りに回転しているときには正の値となり、時計まわりに回転しているときには負の値となる。
【0075】
移動通路7における歩行者群の流れを整流するとの指令があり、左側通行で移動させる場合には、例えば、なす角ψが、π/6~π/3となるように障害物1の表示装置201を制御し、右側通行で移動させる場合には、例えば、なす角ψが、-π/6~-π/3となるように障害物1の表示装置201を制御する。
【0076】
また、本実施の形態では、歩行者の密度に応じて、なす角ψを決定する。例えば、歩行者の密度ρが、0.4m-2、1.0m-2の場合には、左側通行で移動させる場合であれば、なす角ψを、π/6とし、右側通行で移動させる場合であれば、なす角ψを、-π/6とする。
【0077】
また、密度ρが、1.6m-2の場合には、左側通行で移動させる場合であれば、なす角ψを、π/3とし、右側通行で移動させる場合であれば、なす角ψを、-π/3とする。
【0078】
また、制御部24は、移動通路7における歩行者群の流れを整流しないとの指令があった場合には、障害物1の表示装置201を、左右非対称でない基準状態とするように制御する。
【0079】
なお、参考例に係る障害物制御システムの他の構成及び作用は、第1の実施の形態と同様であるため説明を省略する。
【0080】
以上説明したように、参考例に係る障害物制御システムによれば、歩行者を右側通行で移動させるか、左側通行で移動させるかの指令を受け付けて、指令に応じて予め定められた画像表示位置となるように、障害物の表示装置を制御することにより、歩行者群の流れを効果的に整流することができる。
【0081】
また、歩行者群の移動の流れを整流するか否かの指令を受け付けて、指令に応じて予め定められた画像表示位置となるように、障害物の表示装置を制御することにより、歩行者群の流れを効果的に整流することができる。
【0082】
なお、上記の実施の形態では、障害物が、上面から見た形状が楕円形状であるもの、又は側面に表示画面があるものである場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、図18に示すような、上面から見た形状が三角形状である楔形障害物であってもよい。この場合、楔形障害物を水平面内で回転させて、歩行者の移動方向から見た左右非対称度合いを制御すればよい。あるいは、図19に示すような、側面に音声出力部がある障害物であってもよい。この場合には、2つの音声出力位置を変更することにより、歩行者の移動方向から知覚される左右非対称度合いを制御すればよい。あるいは、側面から色、写真、模様、質感等のコンテンツを出力する障害物であってもよく、出力コンテンツの位置又は内容を変更することにより、歩行者の移動方向から知覚される左右非対称度合いを制御すればよい。
【0083】
また、移動通路における歩行者群の流れを整流するか否かの指令、及び歩行者を、移動通路の移動方向に見たときの右側通行で移動させるか、左側通行で移動させるかの指令を受け付ける場合を例に説明したが、移動通路における歩行者群の流れを整流するか否かの指令のみ受け付けるようにしてもよいし、歩行者を、移動通路の移動方向に見たときの右側通行で移動させるか、左側通行で移動させるかの指令のみを受け付けるようにしてもよい。
【0084】
また、歩行者の流れを整流する場合を例に説明したが、整流対象となる移動体が、動物、車両、又はロボットであってもよい。
【符号の説明】
【0085】
1 障害物
2 人流データ測定装置
4 制御装置
6 ネットワーク
7 移動通路
8 歩行者
10 駆動部
12 制御部
14 通信部
20 通信部
22 入力部
24 制御部
26 表示部
100 障害物制御システム
201 表示装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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図10
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図15
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