(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置用電極板の製造方法及びプラズマ処理装置用電極板
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20240220BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
H01L21/302 101B
H01L21/31 C
(21)【出願番号】P 2020053222
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2022-09-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】東 浩司
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-102357(JP,A)
【文献】特開2009-149471(JP,A)
【文献】特開2003-238178(JP,A)
【文献】特開平10-286708(JP,A)
【文献】国際公開第2006/112392(WO,A1)
【文献】特開平10-050677(JP,A)
【文献】特開2003-324072(JP,A)
【文献】特開2008-311297(JP,A)
【文献】特開2012-119590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶シリコン、柱状晶シリコン、又は多結晶シリコンからなる電極板本体の厚さ方向に少なくとも12mmを超える長さの直線部を有するガス孔を相互に平行に貫通状態に形成するプラズマ処理装置用電極板の製造方法において、前記電極板本体の一方の面から第1ドリルで前記直線部を形成する孔の直径の50%以上80%以下の直径の下穴を形成する下穴形成工程と、直径が第1ドリルの直径より大きい第2ドリルで前記下穴に重ねて前記直線部を形成する直線部形成工程と、を有し、前記下穴形成工程後に前記直線部形成工程を行うことを特徴とするプラズマ処理装置用電極板の製造方法。
【請求項2】
前記下穴は前記電極板本体の厚さの途中まで形成することを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置用電極板の製造方法。
【請求項3】
前記下穴は加工深さが5mmを超えることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置用電極板の製造方法。
【請求項4】
前記第2ドリルは、前記電極板本体の前記一方の面から孔加工することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置用電極板の製造方法。
【請求項5】
前記第2ドリルは、前記電極板本体の他方の面から孔加工することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置用電極板の製造方法。
【請求項6】
前記第2ドリルは、前記下穴に到達し、かつ前記電極板本体の厚さの途中まで前記直線部を形成することを特徴とする請求項5に記載のプラズマ処理装置用電極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置用電極板の製造方法及びプラズマ処理装置用電極板に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造プロセスに使用されるプラズマエッチング装置やプラズマCVD装置等のプラズマ処理装置は、チャンバー内に、高周波電源に接続される上部電極と下部電極とが例えば上下方向に対向配置されている。下部電極は、その上に被処理基板を配置した状態とし、上部電極は、通気孔を有し、この通気孔からエッチングガスを被処理基板に向かって流通させながら高周波電圧を印加する。これにより、プラズマ処理装置は、プラズマを発生させ、被処理基板にエッチング等の処理を行う構成とされている。
【0003】
特許文献1には、パーティクルの発生を抑制するプラズマエッチング用電極板が開示される。このプラズマエッチング用電極板は、単結晶シリコンからなる電極板の厚さ方向に平行に貫通細孔(ガス孔)が設けられている。貫通細孔は、大径ストレート孔部分及び小径ストレート孔部分で構成される。この電極板によれば、大きなパーティクルの発生がなく、洗浄回数を減らすことができ、従来よりも効率よくシリコンウエハをプラズマエッチングできる。
【0004】
ところで、電極板は、厚い方が寿命が長い。最近は、被処理基板の多層の複雑立体構造(例えば3D-NAND)のように深くエッチングしなければならないこともあり、そのためにはエッチングのガス圧を高めなければならない。そうすると、ガス穴の消耗も早くなり、従来の厚さの電極板だと寿命が短くなってしまう。そのため、より長寿命化するように、厚い電極板が求められている。
一方、電極板のガス孔加工には、ドリル、レーザ、ウォータージェット、放電加工などによる方法があるが、レーザ加工では深さ数mm(およそ5mm程度)までくらいしか空けられない。ウォータージェットによる孔加工ではガス孔の開口部の形状が良好に加工できない。放電加工は通電する素材でないと使用できない。これに対し、ドリル加工が加工性、多様性、品質的にも優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このドリル加工においても、例えば直径0.5mm~1.0mmで深さが大きくなると、加工負荷により、ドリルに振れが生じて、ガス孔の真円度が大きくなる(悪くなる)不具合があり、プラズマ処理の品質を低下させるおそれがある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、12mmを超える深さのガス孔を加工する場合であっても、真円度の小さいガス孔を形成できるプラズマ処理装置用電極板の製造方法及び真円度の小さいガス孔を備えるプラズマ処理装置用電極板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のプラズマ処理装置用電極板の製造方法は、電極板本体の厚さ方向に少なくとも12mmを超える長さの直線部を有するガス孔を相互に平行に貫通状態に形成するプラズマ処理装置用電極板の製造方法において、前記電極板本体の一方の面から第1ドリルで前記直線部の直径の50%以上80%以下の直径の下穴を形成する下穴形成工程と、第2ドリルで前記下穴に重ねて前記直線部を形成する直線部形成工程と、を有する。
【0009】
このプラズマ処理装置用電極板の製造方法によれば、直線部の直径の50%以上80%以下の直径の下穴を第1ドリルで形成してから第2ドリルで直線部を形成するので、第2ドリルは、本来の直線部全体の切削領域から下穴切削領域を減じた少ない加工負荷での孔加工となる。この第2ドリルに対する加工負荷が小さくなる分、第2ドリルによる加工精度が高められ、真円度の小さい直線部を形成することができる。この場合、下穴の直径が直線部の直径の50%未満では第2ドリルに対する加工負荷軽減の効果が少なく、80%を超えると、径の小さい第1ドリルに対する加工負荷が大きくなって第1ドリルに折損等が生じるおそれがある。
【0010】
ところで、加工深さが大きくなる(電極板が厚くなる)と、ドリルの加工負荷も大きくなるため、ドリルの座屈が起こりやすくなる。そのため、座屈強度や加工負荷に強い、単結晶ダイヤモンドドリルや多結晶ダイヤモンドドリル、焼結体ドリル、給油口付きドリルなどが用いられることもあるが、以下のような製造方法とすることにより、加工負荷によるドリルの折損リスクは回避できる。
【0011】
すなわち、本発明の製造方法において、前記下穴形成工程では、前記第1ドリルで前記電極板本体の厚さの途中まで下穴を形成するとよい。この場合、前記下穴は加工深さが5mmを超えているとよい。
【0012】
このプラズマ処理装置用電極板の製造方法によれば、ガス孔が電極板本体に形成される前に、ガス孔の直線部の内径に対して50%以上80%以下の内径の下穴が厚さ方向の途中まで空けられる。この下穴は、電極板本体の厚さ方向の途中まで形成すればよいので、第1ドリルは電極板本体の厚さよりも短くてよい。すなわち、下穴用第1ドリルは、小径であっても短尺となり、折損しにくい。
この場合、12mmを超える長さの直線部に対して、下穴の長さは、5mm以下では第2ドリルによる加工負荷軽減の効果が少なくなるので、5mmを超える長さに形成するとよい。
【0013】
一方、第2ドリルは、第1ドリルより径が大きいドリルであり、第1ドリルにより空けられた下穴に対して、例えば下穴と同方向から同軸で孔加工する。ここで、第2ドリルは、下穴と同軸で孔加工することにより、既に除去されている下穴切削領域に相当する分の加工負荷が軽減される。従って、第2ドリルは、本来の直線部全体の切削領域から下穴切削領域を減じた少ない加工負荷での孔加工が可能となる。このため、第2ドリルでは、加工負荷の累積的な増大による座屈が生じにくくなる。その結果、第2ドリルは、第1ドリルより長くても、加工負荷が減じられる分、折損リスクが少なくなる。
なお、第2ドリルは、第1ドリルにより形成した下穴に同軸上に孔加工するのが好ましいが、両ドリルの直径差以内のわずかなずれは許容される。
【0014】
本発明の製造方法において、前記第2ドリルは、前記電極板本体の前記一方の面から孔加工することとしてもよいし、前記電極板本体の他方の面から孔加工することとしてもよい。
【0015】
このプラズマ処理装置用電極板の製造方法において、第2ドリルが電極板本体の他方の面から孔加工する場合、第1ドリルが下穴を形成したときとは反対方向で孔加工することになる。この場合でも、第2ドリルは、下穴とほぼ同軸で孔加工することにより、一方の面から既に除去されている下穴切削領域に到達した後の加工負荷は、下穴切削領域に相当する分が軽減されるので、本来のガス孔全体を孔加工するのに比べて全体の加工負荷も小さくなる。そして、第2ドリルが、他方の面から所定の深さに達すると、一方の面から形成されている下穴に繋がる。これ以降、第2ドリルは、下穴切削領域に相当する分の加工負荷が軽減される。
【0016】
従って、第2ドリルは、本来の直線部全体に対する切削領域から下穴切削領域を減じた少ない加工負荷での孔加工が、厚さ方向の途中から(下穴切削領域に到達してから)可能となる。このため、第2ドリルでは、厚さ方向の途中からの加工負荷を軽減し、加工負荷の累積的な増大による座屈が生じにくくなる。つまり、第2ドリルは、第1ドリルより長くても、加工負荷が減じられる分、折損リスクが少なくなる。
【0017】
なお、第1ドリルでの加工と第2ドリルでの加工を同軸に合わせる方法としては、ガス孔ではない穴を基準穴としてマシニングセンタ(加工機)にその位置情報を設定し、第1ドリルと第2ドリルの加工位置を同座標に設定することにより同軸加工できる。第2ドリルが電極板本体の他方の面から孔加工する場合でも、同様である。また第1ドリルから第2ドリルへの交換は、マシニングセンタのドリルチェンジャー(ドリル,ツール保管庫)からオートチェンジ機能によって自動で同軸に交換するのが一般的である。
【0018】
本発明の製造方法において、前記第2ドリルは、前記電極板本体の他方の面から孔加工する場合、前記下穴に到達し、かつ前記電極板本体の厚さの途中まで前記直線部を形成することとしてもよい。
【0019】
この製造方法で形成されるガス孔は、電極板本体の一方の面に下穴であった小径穴、他方の面に直線部となる大径穴が開口する段付き孔形状になる。この場合も、各ドリルの加工負荷を低減することができ、厚い電極板に適用することができる。
【0020】
本発明のプラズマ処理装置用電極板は、電極板本体の厚さ方向に相互に平行に複数のガス孔が貫通状態に設けられたプラズマ処理装置用電極板において、前記ガス孔は、少なくとも長さが12mmを超える直線部を有しており、該直線部は、直径が0.5mm以上1.0mm以下で、かつ真円度が0.01mm以下である。
【0021】
このプラズマ処理装置用電極板によれば、少なくとも直線部の長さが12mmを超えているので、電極板本体は、12mmを超える厚さで形成され、長寿命化することができる。これに加え、直線部の真円度が0.01mm以下であることにより、さらにガスの流れにムラが生じにくくなる。
【0022】
このプラズマ処理装置用電極板において、前記ガス孔は、前記電極板本体の一方の面に開口する小径部と、他方の面に開口する大径部とが厚さ方向の途中で連通しており、前記大径部が前記直線部であるとすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のプラズマ処理装置用電極板の製造方法によれば、12mmを超える厚さのプラズマ処理装置用電極板にガス孔を加工する場合であっても、ドリルの折損リスクを低減して、高精度のガス孔を形成できる。また、そのプラズマ処理装置用電極板によれば、厚肉の電極板により長寿命化できる。しかも、直線部の真円度が0.01mm以下であることにより、さらにガスの流れにムラが生じにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係るプラズマ処理装置用電極板の平面図である。
【
図3】実施形態の製造方法のうち、下穴形成工程で下穴を形成している状態を示す断面図である。
【
図4】下穴形成工程の後の直線部形成工程で、下穴と同じ方向から直線部を形成する状態を示す断面図である。
【
図5】下穴形成工程の後の直線部形成工程で、下穴とは反対方向から直線部を形成している状態を示す断面図である。
【
図6】下穴と直線部とで段付き形状のガス孔とした例を示す断面図である。
【
図7】下穴形成工程の後、電極板本体の厚さ方向の途中まで直線部を形成するために第2ドリルを配置した状態を示す断面図である。
【
図8】電極板本体の厚さ方向の途中まで形成した直線部に第3ドリルによって直線部より小径の孔を形成している状態を示す断面図である。
【
図9】
図8に示す方法で形成された段付き形状のガス孔を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るプラズマ処理装置用電極板の平面図である。
このプラズマ処理装置用電極板(以下、単に「電極板」とも称す。)11は、単結晶シリコン、柱状晶シリコン、又は多結晶シリコンにより、厚さtが12mmを超え30mm以下、直径200mm以上550mm以下の円板に形成された電極板本体12に、数mm~10mmピッチで複数(この場合、数百~1000個、少なくとも100個以上又は少なくとも500個以上、など)のガス孔21が例えば縦横に整列した状態で厚さ方向に平行に貫通するように形成されている。このガス孔21は、電極板本体12の厚さ方向に少なくとも12mmを超える長さの直線部22を有している。
図2に示す例では、ガス孔21は、電極板本体12の厚さの全体にわたってストレート状に形成されている。したがって、本実施形態の直線部22は、ガス孔21の全部を構成しており、その長さが12mmを超えている。この直線部22は、直径dが0.5mm以上1.0mm以下で、真円度が0.01mm以下である。
【0026】
このプラズマ処理装置用電極板11は、単結晶シリコン等のシリコンインゴットをスライスして得た円板状の電極板本体12にガス孔を形成した後、エッチング、ポリッシング加工等を施して製造される。
また、ガス孔の形成にあっては、電極板本体12の一方の面から第1ドリル31で直線部22を形成する孔の直径の50%以上80%以下の直径の下穴23を電極板本体12の厚さの途中まで形成する下穴形成工程と、第2ドリル32で直線部22を下穴23に重ねて形成することによりガス孔21を形成する直線部形成工程と、を有する。
【0027】
これらドリル31,32は、タングステン(W)の焼結材のドリル、ダイヤモンド粒子を電着したドリル、ダイヤモンドの多結晶ドリル、ダイヤモンドの単結晶ドリルなどを用いることができる。これらのドリルを選定した結果では、特に単結晶ドリルが、最もドリルの折損の件数が少なく好適であることが分かった。
【0028】
ガス孔形成工程をより詳細に説明すると、まず、下穴形成工程においては、ガス孔21の直線部22の内径に対して50%以上80%以下の内径の下穴23を電極板本体12の厚さの途中まで加工する。直線部22の直径が0.5mm以上1.0mm以下の場合、例えば0.3mm~0.8mmの直径の下穴23とする。この下穴23を第1ドリル31で電極板本体12の厚さの途中まで、例えば深さL1が8mm程度まで加工する。したがって、第1ドリル31は直径d1が直線部22の直径より小さい。
図3は、この第1ドリル31で下穴23を加工している状態を示しており、深さL1=8mm程度まで加工したら、第1ドリル31を下穴23から抜き去る。
【0029】
次いで、直線部形成工程において、下穴23より大きい0.5mm~1.0mmの直径の直線部22を第2ドリル32で加工して電極板本体12を貫通する。例えば、直線部22は、下穴23より直径で0.2mm程度(片側0.1mmずつ)大きい直径に形成される。したがって、第2ドリル32は、直径d2が第1ドリル31の直径d1より大きい。
図3及び
図4には、下穴形成工程で形成した下穴切削領域41を実線で示し、直線部形成工程で形成されるべき直線部切削領域42を鎖線で示している。この
図3及び
図4に示す例では、第2ドリル32は、下穴23を加工したときの第1ドリル31と同じ方向から下穴23と同軸で孔加工している。この直線部形成工程では、第2ドリル32は電極板本体12を貫通するまで孔加工する。したがって、直線部22は電極板本体12の全厚さにわたって形成される。
【0030】
以上の製造方法において、ガス孔21が電極板本体12に形成される前に、ガス孔21の直線部22の内径に対して50%以上80%以下の内径の下穴23が厚さ方向の途中まで形成される。この下穴23は、電極板本体12の厚さ方向の途中まで形成すればよいので、第1ドリル31は電極板本体12の厚さよりも短くてよい。すなわち、下穴用第1ドリル31は、小径であるが、短尺となるため折損しにくい。
【0031】
一方、第2ドリル32は、第1ドリル31よりも大径かつ長尺で、少なくとも直線長さが12mmを超えているが、この第2ドリル32は、第1ドリル31により空けられた下穴23の上から、下穴23と同軸で電極板本体12を貫通するまで孔加工すればよい。つまり、下穴23と同軸で孔加工することにより、既に除去されている下穴切削領域41に相当する分の加工負荷が軽減される。従って、第2ドリル32は、本来のガス孔21(直線部22)全体の切削領域から下穴切削領域41を減じた少ない加工負荷での孔加工が可能となる。このため、第2ドリル32では、加工負荷の累積的な増大による座屈が生じにくくなる。その結果、第2ドリル32は、第1ドリル31より長くても、加工負荷が減じられる分、折損リスクが少なくなる。このように、第1ドリル31と第2ドリル32とは、互いにドリルの径が異なる。従って、電極板本体12のガス孔21は、互いにドリルの径が異なる少なくとも2つのドリル(例、第1ドリル31及び第2ドリル32)によって形成された孔である。
なお、第2ドリル32は、第1ドリル31により形成した下穴23に同軸上に孔加工するのが好ましいが、両ドリル31,32の直径差以内のわずかなずれは許容される。
【0032】
また、第1ドリル31での下穴23の加工深さは、直線部22の長さが12mmを超え30mm以下であるのに対して、5mmを超え15mm未満の深さが好ましい。下穴23の加工深さが浅い(5mm以下)と第2ドリル32での加工負荷が低減できず、第2ドリル32の折損や真円度の低下に繋がるおそれがある。下穴23の加工深さが深いと第1ドリル31での加工負荷が大きくなり、第1ドリル31の折損に繋がる。より好ましくは7mm以上13mm以下である。したがって、電極板本体12の厚さが15mm未満、好ましくは13mm以下であれば、第1ドリル31での下穴23が電極板本体12を貫通するように形成してもよい。
【0033】
そして、この製造方法で得られた電極板11では、ガス孔21は、少なくとも長さが12mmを超える直線部22を有している。
図2に示す例では、ガス孔21の全体が直線部22である。この直線部22は、直径が0.5mm以上1.0mm以下で、かつ真円度が0.01mm以下である。
【0034】
この電極板11によれば、少なくとも直線部22の長さが12mmを超えているので、電極板本体12は、12mmを超える厚さで形成され、長寿命化できる。これに加え、直線部22の真円度が0.01mm以下であることにより、さらにガスの流れにムラが生じにくくなる。
【0035】
ところで、2本のドリルを使って孔加工する場合に、以下の方法も考えられる。
(1)2本のドリルの外径を最終のガス孔を形成可能な同じ外径のものとし、第1のドリルで電極板本体の厚さの途中まで孔加工し、その孔の上から第2のドリルで2回目の孔加工をして電極板本体を貫通させる方法
(2)2本のドリルの外径を最終のガス孔を形成可能な同じ外径のものとし、第1のドリルで電極板本体の厚さの途中まで孔加工し、その孔の中に第2のドリルの先端部を挿入した状態で、2回目の孔加工をして電極板本体を貫通させる方法
しかしながら、これら(1)(2)の方法では、1回目の孔加工は短いドリルを使用することができるので、ドリルの折損のリスクは小さいが、1回目に加工した孔と、2回目に加工した孔とに位置ずれが生じ、孔の開口端に歪みが生じて、孔の真円度が低下し易い。また、2回目の孔加工でドリルに振れが生じることから、折損するリスクもある。
【0036】
なお、本発明において、第2ドリル32は、上記のように、下穴23を形成した第1ドリル31と同じ方向から孔加工することとしてもよいし、第1ドリル31とは電極板本体12の反対側の面から孔加工することとしてもよい。
図5は、直線部22を加工するための第2ドリル32を下穴23の形成方向とは反対方向から形成する例を示している。第1ドリル31は、
図3と同様、電極板本体12の一方の面から厚さ方向の途中まで孔加工して下穴23を形成する。これに対して、第2ドリル32は、電極板本体12の他方の面(一方の面とは反対側の面、又は一方の面と対向する面)から下穴23と同軸で電極板本体12を貫通するまで孔加工する。これにより、電極板本体12を貫通する直線部22が電極板本体12の全厚さにわたって形成される。したがって、形成されたガス孔21の形状は
図3及び
図4に示す加工の場合と同じであり、
図2に示すようにストレート状となる。
【0037】
また、本発明においては、直線部22は、必ずしも電極板本体12を貫通する長さに形成されていなくてもよい。
図6は、
図5と同様、下穴23に対して直線部22を電極板本体12の反対側から形成するが、この直線部22も下穴23の先端部に届く深さL2で電極板本体12の厚さの途中までとすることにより、下穴23と直線部22とが連通した段付き形状のガス孔211が形成されている。
この場合、下穴23は、電極板本体12の一方の面側から厚さ方向の途中まで形成された小径部24となる。直線部22は、電極板本体12の他方の面側から小径部24と同軸で、小径部24に連通して電極板本体12の厚さ方向の途中まで形成される大径部25となる。これにより、電極板本体12には、小径部24と大径部25とが繋がった段付き形状のガス孔211が形成される。
【0038】
以上の
図3から
図6に示す方法で形成されるガス孔21,211は、少なくとも長さが12mmを超える直線部22を有しており、この直線部22の直径が0.5mm以上1.0mm以下で、かつ真円度が0.01mm以下である。
【0039】
また、段付き形状のガス孔を形成する場合は、
図7から
図9に示す方法により形成してもよい。
この例の方法では、まず、第1ドリル31(
図7から
図8には図示略、
図3参照)で電極板本体12の一方の面から厚さ方向の途中まで形成した下穴切削領域41に対して、
図7に示すように同じ方向から第2ドリル32で同軸に直線部22を長さL2の範囲で電極板本体12の厚さの途中まで形成する(
図8参照)。そして、電極板本体12の他方の面から、直線部切削領域42に到達する深さで第3ドリル33により同軸に孔加工して
図9に示す状態とする。
図7から
図9に示す例では、第3ドリル33の直径が第2ドリル32の直径より小さいことから、直線部22が大径部25で、第3ドリル33により形成した孔が小径部24となり、これらが電極板本体12の厚さの途中位置で連通した段付き形状のガス孔212となる。この場合も、直線部22が12mmを超える長さL2に形成される。
なお、図示は省略するが、第3ドリル33を第2ドリル32より小径としたが、第2ドリル32より大径の第3ドリルを用いて、直線部22に連通する孔を加工することにより、直線部22を小径部とし、第3ドリル33により形成した孔を大径部とすることも可能である。
【実施例】
【0040】
次の複数種の孔加工方法により試料を作製し、孔加工後に、株式会社ミツトヨ製三次元画像測定機(株式会社ミツトヨ製クイックビジョンQVX606-PRО)を使用して、画像処理にて第2ドリル入口側の開口部の孔径、真円度の測定を行うとともに、加工時のドリルの折損の有無も確認した。5回テストし(5個の孔加工し)、孔径、真円度については、その平均値を求め、5回のうち何本ドリルが折損したかを調べた。なお、折損した場合は測定サンプルから除外した。
【0041】
[実施例1]
厚さ20mmの電極板本体に、直径0.8mm狙いでストレートの孔を貫通状態に形成する。
(1)従来例加工方法A
直径0.8mm、切削長さ20mmのドリルで電極板本体の一方の面から一度に孔加工した。
(2)比較例加工方法A
直径0.8mm、切削長さ10mmのドリル(第1ドリル:比較例においても最初のドリルを第1ドリル、2番目のドリルを第2ドリルとする。以下、同様。)で電極板本体の一方の面から深さ10mmの下孔を加工した後、直径0.8mm、切削長さ20mmのドリル(第2ドリル)で電極板本体の一方の面から下穴を含むように深さ20mmの孔加工をして電極板本体を貫通させた。
(3)比較例加工方法B
直径0.8mm、切削長さ10mmのドリル(第1ドリル)で電極本体の一方の面から深さ10mmの下穴を加工した後、直径0.8mm、切削長さ20mmのドリル(第2ドリル)の先端部を下穴内に挿入し、深さ10mmの位置から深さ10mm分の孔加工をして電極板本体を貫通させた。
(4)実施例加工方法A
直径0.6mm、切削長さ10mmの第1ドリルで電極板本体の一方の面から深さ10mmの下穴を加工した後、直径0.8mm、切削長さ20mmの第2ドリルで電極板本体の一方の面から下穴を含むように深さ20mmの孔加工をして電極板本体を貫通させた。
これらの結果を表1に示す。従来例のドリル折損の評価は第1ドリルの欄に記載した(表2及び表3も同様)。
【0042】
【0043】
従来例Aでは、5回のテストのすべてでドリルの折損が生じたため、孔径や真円度の測定は行わなかった。
比較例A,Bとも5回中3回のテストでドリル(第2ドリル)の折損が生じ、孔径も狙いの孔径に対する誤差が大きく、真円度も悪いものであった。
これに対して、実施例Aの加工方法では、いずれのドリルも折損は認められず、加工された孔の孔径の誤差も小さく、小さい真円度の孔を加工することができた。
【0044】
[実施例2]
厚さ30mmの電極板本体に、直径0.8mm狙いでストレートの孔を貫通状態に形成する。
(1)従来例加工方法B
直径0.8mm、切削長さ30mmのドリルで電極板本体の一方の面から一度に孔加工した。
(2)比較例加工方法C
直径0.8mm、切削長さ10mmのドリル(第1ドリル)で電極板本体の一方の面から深さ10mmの下孔を加工した後、直径0.8mm、切削長さ30mmのドリル(第2ドリル)で電極板本体の一方の面から下穴を含むように深さ30mmの孔加工をして電極板本体を貫通させた。
(3)比較例加工方法D
直径0.8mm、切削長さ10mmのドリル(第1ドリル)で電極本体の一方の面から深さ10mmの下穴を加工した後、直径0.8mm、切削長さ30mmのドリル(第2ドリル)の先端部を下穴内に挿入し、深さ10mmの位置から深さ20mm分の孔加工をして電極板本体を貫通させた。
(4)実施例加工方法B
直径0.6mm、切削長さ10mmの第1ドリルで電極板本体の一方の面から深さ10mmの下穴を加工した後、直径0.8mm、切削長さ30mmの第2ドリルで電極板本体の一方の面から下穴を含むように深さ30mmの孔加工をして電極板本体を貫通させた。
これらの結果を表2に示す。
【0045】
【0046】
従来例Bは5回のテストのすべてでドリルに折損が生じ、比較例C,Dは、5回のテストのすべてで第2ドリルに折損が生じたため、孔径や真円度の測定は行わなかった。
実施例Bの加工方法では、いずれのドリルも折損は認められず、加工された孔の孔径の誤差も小さく、小さい真円度の孔を加工することができた。このように、本発明の方法によれば、長さ30mmの直線部を有するガス孔の加工にも有効である。
【0047】
[実施例3]
厚さ13mmの電極板本体に、直径0.8mm狙いでストレートの孔を貫通状態に形成する。
(1)従来例加工方法C
直径0.8mm、切削長さ13mmのドリルで電極板本体の一方の面から一度に孔加工した。
(2)比較例加工方法E
直径0.8mm、切削長さ10mmのドリル(第1ドリル)で電極板本体の一方の面から深さ10mmの下孔を加工した後、直径0.8mm、切削長さ13mmのドリル(第2ドリル)で電極板本体の一方の面から下穴を含むように深さ13mmの孔加工をして電極板本体を貫通させた。
(3)比較例加工方法F
直径0.8mm、切削長さ10mmのドリル(第1ドリル)で電極本体の一方の面から深さ10mmの下穴を加工した後、直径0.8mm、切削長さ13mmのドリル(第2ドリル)の先端部を下穴内に挿入し、深さ10mmの位置から深さ3mm分の孔加工をして電極板本体を貫通させた。
(4)実施例加工方法C
直径0.6mm、切削長さ10mmの第1ドリルで電極板本体の一方の面から深さ10mmの下穴を加工した後、直径0.8mm、切削長さ13mmの第2ドリルで電極板本体の一方の面から下穴を含むように深さ13mmの孔加工をして電極板本体を貫通させた。
(5)実施例加工方法D
直径0.6mm、切削長さ13mmの第1ドリルで電極板本体の一方の面から深さ13mmの下穴(貫通)を加工した後、直径0.8mm、切削長さ13mmの第2ドリルで電極板本体の一方の面から下穴を含むように深さ13mmの孔加工をして電極板本体を作製した。
これらの結果を表3に示す。
【0048】
【0049】
従来例では5回中3回のテストでドリルに折損が生じ、比較例E,Fでは5回中1回のテストで第2ドリルに折損が生じたが、孔の加工深さが実施例1,2より小さいために、ドリルの折損が少なく、孔加工できたものもあったが、形成された孔は、孔径の誤差が大きく、真円度も満足できるものではない。なお、比較例Fの第2ドリルでの孔加工は深さ3mm分の加工で負荷が小さいと考えられるが、1回目で空けた穴内で振れやすいために、5回中1回のテストで折損が生じた。
実施例Cは、いずれのドリルにも折損がなく、孔径の誤差が小さく、真円度も小さかった。
実施例Dは、5回中、2回のテストで第1ドリルに折損が認められたが、孔径の誤差が小さく、真円度も小さかった。
【0050】
以上の実施例で明らかなように、本発明の製造方法によれば、電極板本体が厚いものであっても、12mmの長さを超える直線部の孔を、高精度(小さい真円度)に形成することができる。
【符号の説明】
【0051】
11 電極板(プラズマ処理装置用電極板)
12 電極板本体
21,211,212 ガス孔
22 直線部
23 下穴
24 小径部
25 大径部
31 第1ドリル
32 第2ドリル
41 下穴切削領域
42 直線部切削領域