(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】板状部材保持用治具、板状部材の熱処理方法、並びに板状物品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 32/00 20060101AFI20240220BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
C03B32/00
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2020098502
(22)【出願日】2020-06-05
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹井 辰夫
(72)【発明者】
【氏名】乾 武志
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 学
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-010232(JP,A)
【文献】特開2016-038500(JP,A)
【文献】特開2009-265376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 32/00,35/00,
B65G 1/20,
H01L 21/67-21/687,
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略矩形状の板状部材を複数枚並べて保持することができる板状部材保持用治具であって、
前記複数枚の板状部材における対向する一対の辺のうちの一方の辺側の端部をそれぞれ内部に収納可能な複数の第1のスリットが設けられている、第1のスリット部品と、
前記複数枚の板状部材における前記対向する一対の辺のうちの他方の辺側の端部をそれぞれ内部に収納可能な複数の第2のスリットが設けられている、第2のスリット部品と、を備え、
前記第1のスリット部品及び前記第2のスリット部品において、対向し合う前記第1のスリット及び前記第2のスリットを一対のスリットとし、該一対のスリットに1枚の前記板状部材が収納できるように構成されており、
前記第1のスリット部品において、前記複数枚の板状部材を連動して挟み込むことができ、前記板状部材を挟み込んでいる保持状態と、前記板状部材を挟み込んでいない非保持状態とを切り替え可能な可動式の保持機構が設けられて
おり、
前記第1のスリット部品が、
前記第1のスリットを構成する第1のスリット部が複数設けられている、第1の板と、
前記第1のスリット部とともに前記第1のスリットを構成する第2のスリット部が複数設けられている、第2の板と、
を有し、
前記第1の板が、位置が固定されている固定板であり、
前記第2の板が、前記板状部材を挟み込んでいる保持状態と、前記板状部材を挟み込んでいない非保持状態とを切り替え可能な可動板である、板状部材保持用治具。
【請求項2】
前記第2の板より前記第2のスリット部品側に設けられており、前記第1のスリット部及び前記第2のスリット部とともに前記第1のスリットを構成する第3のスリット部が複数設けられている、第3の板をさらに有し、
前記第3の板の位置が固定されている、請求項
1に記載の板状部材保持用治具。
【請求項3】
略矩形状の板状部材を複数枚並べて保持することができる板状部材保持用治具であって、
前記複数枚の板状部材における対向する一対の辺のうちの一方の辺側の端部をそれぞれ内部に収納可能な複数の第1のスリットが設けられている、第1のスリット部品と、
前記複数枚の板状部材における前記対向する一対の辺のうちの他方の辺側の端部をそれぞれ内部に収納可能な複数の第2のスリットが設けられている、第2のスリット部品と、を備え、
前記第1のスリット部品及び前記第2のスリット部品において、対向し合う前記第1のスリット及び前記第2のスリットを一対のスリットとし、該一対のスリットに1枚の前記板状部材が収納できるように構成されており、
前記第1のスリット部品において、前記複数枚の板状部材を連動して挟み込むことができ、前記板状部材を挟み込んでいる保持状態と、前記板状部材を挟み込んでいない非保持状態とを切り替え可能な可動式の保持機構が設けられており、
前記第1のスリット部品及び前記第2のスリット部品を構成する少なくとも一対の前記第1のスリット及び前記第2のスリットに、前記板状部材の厚みと同じ又は厚みが厚く、かつ前記板状部材より靭性の高いストッパー板が収納されている
、板状部材保持用治具。
【請求項4】
前記板状部材の厚みが1mm以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の板状部材保持用治具。
【請求項5】
前記板状部材が、ガラスマトリクス中に金属元素含有粒子が配向して分散されてなるガラス板である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の板状部材保持用治具。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の板状部材保持用治具を用いた板状部材の熱処理方法であって、
前記板状部材保持用治具の前記第1のスリット部品及び前記第2のスリット部品における各一対のスリットに、前記複数枚の板状部材をそれぞれ収納し、前記第1のスリット部品の前記保持機構により前記複数枚の板状部材をそれぞれ保持する工程と、
前記板状部材保持用治具により前記複数枚の板状部材を保持した状態で、前記複数枚の板状部材を熱処理する工程と、
を備える、板状部材の熱処理方法。
【請求項7】
請求項
6に記載の熱処理方法を用いて板状部材を熱処理する工程を備える、板状物品の製造方法。
【請求項8】
前記板状部材が、内部にハロゲン化金属粒子を析出したガラスにより構成されている、請求項
7に記載の板状物品の製造方法。
【請求項9】
前記板状物品が、偏光ガラス板である、請求項
7または
8に記載の板状物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板などの板状部材を保持するための板状部材保持用治具、該板状部材保持用治具を用いた板状部材の熱処理方法、並びに板状物品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス板等の板状部材は、さまざまな用途で熱処理が施されて用いられることがある。
【0003】
下記の特許文献1には、ガラスマトリクス中に延伸金属粒子が配向して分散されてなる偏光ガラス板を製造する方法が開示されている。特許文献1の偏光ガラス板の製造方法では、まず、ハロゲン化金属粒子を含有するガラスプリフォーム板を加熱しながら延伸成形することにより、ガラスマトリクス中に延伸ハロゲン化金属粒子が配向して分散されてなるガラス部材を得ている。次に、得られたガラス部材に還元処理を施すことにより、延伸ハロゲン化金属粒子を還元して偏光ガラス板が製造されている。特許文献1では、このガラス部材の還元処理の際に、熱処理が施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ガラス部材の還元工程における熱処理により、得られる偏光ガラス板に反りが生じることがあった。このように反りの生じた偏光ガラス板は、ファラデー回転子等に貼り合わせることが難しいという問題がある。特に、近年の光デバイスの小型化に伴い、偏光ガラス板の厚みも薄くすることが求められているが、偏光ガラス板の厚みを薄くした場合に、熱処理による反りがより生じ易いという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、熱処理時に板状部材の反りが生じ難い、板状部材保持用治具、該板状部材保持用治具を用いた板状部材の熱処理方法、並びに板状物品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る板状部材保持用治具は、略矩形状の板状部材を複数枚並べて保持することができる板状部材保持用治具であって、前記複数枚の板状部材における対向する一対の辺のうちの一方の辺側の端部をそれぞれ内部に収納可能な複数の第1のスリットが設けられている、第1のスリット部品と、前記複数枚の板状部材における前記対向する一対の辺のうちの他方の辺側の端部をそれぞれ内部に収納可能な複数の第2のスリットが設けられている、第2のスリット部品と、を備え、前記第1のスリット部品及び前記第2のスリット部品において、対向し合う前記第1のスリット及び前記第2のスリットを一対のスリットとし、該一対のスリットに1枚の前記板状部材が収納できるように構成されており、前記第1のスリット部品において、前記複数枚の板状部材を連動して挟み込むことができ、前記板状部材を挟み込んでいる保持状態と、前記板状部材を挟み込んでいない非保持状態とを切り替え可能な可動式の保持機構が設けられていることを特徴としている。
【0008】
本発明においては、前記第1のスリット部品が、前記第1のスリットを構成する第1のスリット部が複数設けられている、第1の板と、前記第1のスリット部とともに前記第1のスリットを構成する第2のスリット部が複数設けられている、第2の板と、を有し、前記第1の板が、位置が固定されている固定板であり、前記第2の板が、前記板状部材を挟み込んでいる保持状態と、前記板状部材を挟み込んでいない非保持状態とを切り替え可能な可動板であることが好ましい。
【0009】
本発明においては、前記第2の板より前記第2のスリット部品側に設けられており、前記第1のスリット部及び前記第2のスリット部とともに前記第1のスリットを構成する第3のスリット部が複数設けられている、第3の板をさらに有し、前記第3の板の位置が固定されていることが好ましい。
【0010】
本発明においては、前記第1のスリット部品及び前記第2のスリット部品を構成する少なくとも一対の前記第1のスリット及び前記第2のスリットに、前記板状部材の厚みと同じ又は厚みが厚く、かつ前記板状部材より靭性の高いストッパー板が収納されていることが好ましい。
【0011】
本発明においては、前記板状部材の厚みが1mm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明においては、前記板状部材が、ガラスマトリクス中に金属元素含有粒子が配向して分散されてなるガラス板であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る板状部材の熱処理方法は、本発明に従って構成される板状部材保持用治具を用いた板状部材の熱処理方法であって、前記板状部材保持用治具の前記第1のスリット部品及び前記第2のスリット部品における各一対のスリットに、前記複数枚の板状部材をそれぞれ収納し、前記第1のスリット部品の前記保持機構により前記複数枚の板状部材をそれぞれ保持する工程と、前記板状部材保持用治具により前記複数枚の板状部材を保持した状態で、前記複数枚の板状部材を熱処理する工程と、を備えることを特徴としている。
【0014】
本発明に係る板状物品の製造方法は、本発明に従う熱処理方法を用いて板状部材を熱処理する工程を備えることを特徴としている。
【0015】
本発明においては、前記板状部材が、内部にハロゲン化金属粒子を析出したガラスにより構成されていることが好ましい。
【0016】
本発明においては、前記板状物品が、偏光ガラス板であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る板状物品は、厚みが1mm以下であり、平面形状が略矩形状の板状物品であって、反り量が0.2μm/mm以下であることを特徴としている。
【0018】
本発明においては、前記板状物品が、偏光ガラス板であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、熱処理時に板状部材の反りが生じ難い、板状部材保持用治具、該板状部材保持用治具を用いた板状部材の熱処理方法、並びに板状物品及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る板状部材保持用治具を示す模式的斜視図であり、
図1(b)は、本発明の第1の実施形態に係る板状部材保持用治具を示す模式的平面図であり、
図1(c)は、本発明の第1の実施形態に係る板状部材保持用治具を示す模式的側面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る板状部材保持用治具の一部を拡大して示す模式的平面図である。
【
図3】
図3(a)は、本発明の第1の実施形態に係る板状部材保持用治具の保持機構を説明するための模式的平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)の一部を拡大して示す模式的平面図であり、
図3(c)は、
図3(b)における第2の板のX方向に沿う断面を示す模式的断面図である。
【
図4】
図4(a)は、本発明の第1の実施形態に係る板状部材保持用治具の変形例における一部を拡大して示す模式的平面図であり、
図4(b)は、本発明の第1の実施形態に係る板状部材保持用治具の変形例における保持機構を説明するための模式的平面図である。
【
図5】
図5(a)は、本発明の第2の実施形態に係る板状部材保持用治具の一部を拡大して示す模式的平面図であり、
図5(b)は、本発明の第2の実施形態に係る板状部材保持用治具の保持機構を説明するための模式的平面図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る板状物品を示す模式的斜視図である。
【
図7】
図7(a)は、比較例の板状部材保持用治具におけるスリット部のX方向に沿う断面を示す模式的断面図であり、
図7(b)は、比較例の板状部材保持用治具の一部を拡大して示す模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0022】
[第1の実施形態]
(板状部材保持用治具)
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る板状部材保持用治具を示す模式的斜視図である。
図1(b)は、本発明の第1の実施形態に係る板状部材保持用治具を示す模式的平面図である。
図1(c)は、本発明の第1の実施形態に係る板状部材保持用治具を示す模式的側面図である。また、
図2は、本発明の第1の実施形態に係る板状部材保持用治具の一部を拡大して示す模式的平面図である。いずれも、板状部材保持用治具に複数の板状部材を保持した状態を示す。なお、各図において、板状部材保持用治具1の長さ方向をX方向とし、幅方向をY方向とし、高さ方向をZ方向とする。
【0023】
板状部材保持用治具1は、板状部材7を複数枚並べて保持することができる保持用治具である。板状部材7は、対向する一対の長辺及び短辺を有する略矩形板状の部材である。具体的に、本実施形態における板状部材7は、平面形状が長方形の板状である。なお、板状部材7は、平面形状が正方形の板状であってもよい。
【0024】
本実施形態では、板状部材7がガラス板である。もっとも、板状部材7は、他の脆性材料により構成されていてもよい。また、本実施形態では、板状部材7の長さ方向が板状部材保持用治具1の幅方向Yと一致するように設けられている。このように、板状部材7の長さ方向が板状部材保持用治具1の幅方向であるY方向と一致するか、あるいは略一致するように設けられることが望ましい。
【0025】
板状部材保持用治具1は、第1のスリット部品3及び第2のスリット部品4を備える。第1のスリット部品3及び第2のスリット部品4は、底部2上に設けられている。また、第1のスリット部品3及び第2のスリット部品4は、底板2上において対向するように設けられている。
【0026】
本実施形態において、底板2は、第1のスリット部品3及び第2のスリット部品4と一体的に構成されている。もっとも、底板2、第1のスリット部品3、及び第2のスリット部品4は別体として設けられていてもよい。底板2の平面形状は、略矩形状である。底板2の平面形状は、他の形状であってもよく、特に限定されない。底板2の材質としては、特に限定されないが、例えば、ステンレスなどを用いることができる。
【0027】
第1のスリット部品3は、複数の第1のスリット5を有する。第1のスリット5は、板状部材7における一方の短辺側の端部7aを収納することができる溝である。より具体的には、第1のスリット5は、板状部材7の端部7aを収納できるように、第1のスリット部品3の一部を切り欠くことにより形成された溝である。第1のスリット5は、X方向に略等間隔に並んでいる。
【0028】
本実施形態では、第1のスリット5のX方向に沿う幅が、板状部材7のX方向に沿う厚みよりも大きい。第1のスリット5のX方向に沿う幅と板状部材7のX方向に沿う厚みとの比(第1のスリット5の幅/板状部材7の厚み)は、好ましくは1.5以上、より好ましくは2以上であり、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。また、第1のスリット5のY方向に沿う長さと板状部材7のY方向に沿う長さとの比(第1のスリット5の長さ/板状部材7の長さ)は、例えば、0.01以上、0.1以下とすることができる。また、第1のスリット5のZ方向に沿う深さと板状部材7のZ方向に沿う幅との比(第1のスリット5の深さ/板状部材7の幅)は、例えば、0.3以上、1以下とすることができる。以上のように、第1のスリット5の大きさを規定することにより、板状部材7において傷や破損の発生をより一層抑制しつつ、板状部材7をより安定して保持することが可能となる。
【0029】
第1のスリット部品3は、側板3A、第1の板3a、第2の板3b、及び第3の板3cを有する。側板3Aは、第1のスリット部品3において、最も外側に設けられている。側板3Aから第2のスリット部品4に向かうY方向に沿って、第1の板3a、第2の板3b、及び第3の板3cがこの順に配置され積層されている。なお、側板3A、第1の板3a、第2の板3b、及び第3の板3cの材質も、特に限定されず、例えば、ステンレスなどを用いることができる。
【0030】
第1の板3aは、複数の第1のスリット部5aを有する。また、第2の板3bは、複数の第2のスリット部5bを有する。さらに、第3の板3cは、複数の第3のスリット部5cを有する。第1のスリット部5a、第2のスリット部5b及び第3のスリット部5cは、ともに第1のスリット5を構成している。
【0031】
また、第1の板3a及び第3の板3cは、その位置が固定されている固定板である。第2の板3bは、板状部材保持用治具1の長さ方向であるX方向に沿って移動可能な可動板である。例えば、第2の板3bは、X方向に沿って移動可能なように、底板2に機械的に接続されている。本実施形態では、可動板である第2の板3bにより、板状部材7を挟み込んでいる保持状態と、板状部材7を挟み込んでいない非保持状態とを切り替え可能な保持機構が構成されている。これを、以下、
図1(b)、
図2、
図3(a)、及び
図3(b)を用いて説明する。
【0032】
まず、
図1(b)及び
図2においては、可動板である第2の板3bにおける第2のスリット部5bが、板状部材保持用治具1の長さ方向Xにおいて、第1の板3aの第1のスリット部5a及び第3の板3cの第3のスリット部5cと同じ位置に配置されている。従って、このとき、板状部材7は、可動板である第2の板3bによって挟み込まれておらず、非保持状態とされている。
【0033】
この状態において、
図3(a)及び
図3(b)に示すように、可動板である第2の板3bをX1方向に移動させ、第2の板3bの第2のスリット部5bを構成する一方側の内壁5b1を、板状部材7の一方側主面に当接させる。また、第1の板3aの第1のスリット部5aを構成する内壁5a1、及び、第3の板3cの第3のスリット部5cを構成する内壁5c1を、板状部材7の他方側主面に当接させる。このように、第2の板3bの内壁5b1と、第1の板3aの内壁5a1及び第3の板3cの内壁5c1とで、板状部材7を把持することにより、板状部材7を保持することができ、保持状態とすることができる。
【0034】
第2のスリット部品4は、複数の第2のスリット6を有する。第2のスリット6は、板状部材7における端部7aとは反対の短辺側の端部7bを収納することができる溝である。より具体的には、第2のスリット6は、板状部材7の端部7bを収納できるように、第2のスリット部品4の一部を切り欠くことにより形成された溝である。第2のスリット6は、X方向に略等間隔に並んでいる。第2のスリット6の間隔は、第1のスリット5の間隔と実質的に同じである。互いに対向し合う第1のスリット5と第2のスリット6を一対のスリットとした場合、該一対のスリットに1枚の板状部材7が収納できるように構成されている。
【0035】
本実施形態では、第2のスリット6のX方向に沿う幅が、板状部材7のX方向に沿う厚みよりも大きい。第2のスリット6のX方向に沿う幅と板状部材7のX方向に沿う厚みとの比(第2のスリット6の幅/板状部材7の厚み)は、好ましくは1.5以上、より好ましくは2以上であり、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。また、第2のスリット6のY方向に沿う長さと板状部材7のY方向に沿う長さとの比(第2のスリット6の長さ/板状部材7の長さ)は、例えば、0.01以上、0.1以下とすることができる。また、第2のスリット6のZ方向に沿う深さと板状部材7のZ方向に沿う幅との比(第2のスリット6の深さ/板状部材7の幅)は、例えば、0.3以上、1以下とすることができる。以上のように第2のスリット6の大きさを規定することにより、板状部材7において傷や破損の発生をより一層抑制しつつ、板状部材7をより安定して保持することが可能となる。なお、第2のスリット6の寸法は、第1のスリット5の寸法と同一又は略同一であることが好ましいが、第1のスリット5の寸法と異なっていてもよい。
【0036】
第2のスリット部品4は、側板4A及び第4の板4aを有する。側板4Aは、第2のスリット部品4において、最も外側に設けられている。第4の板4aは、幅方向Yにおいて、側板4Aより第1のスリット部品3側に配置され積層されている。なお、側板4A及び第4の板4aの材質も、特に限定されず、例えば、ステンレスなどを用いることができる。第4の板4aは、複数の第4のスリット部6aを有する。第4のスリット部6aは、第2のスリット6を構成している。
【0037】
なお、側板3A及び側板4A間のY方向における距離(側板3A及び側板4Aにおける互いに対向し合う主面の距離)は、板状部材7の長さと同じであってもよいが、板状部材7の長さよりも長いことが望ましい。側板3A及び側板4A間のY方向における距離と、板状部材7の長さとの比(側板3A及び側板4A間の距離/板状部材7の長さ)は、例えば、1以上、1.2以下とすることができる。このようにすれば、板状部材7において傷や破損の発生をより一層抑制しつつ、板状部材7をより安定して保持することが可能となる。
【0038】
本実施形態の板状部材保持用治具1では、上記のように可動板である第2の板3bを板状部材保持用治具1の長さ方向X1に移動させることにより、板状部材7を保持することができる。そのため、熱処理時における板状部材7の反りが生じ難い。これを以下、
図7(a)及び
図7(b)に示す比較例と比較することにより説明する。
【0039】
従来、板状部材7の厚みより幅が広い第1のスリット105及び第2のスリット106に板状部材7を収納していたが、このようにすると、
図7(a)に示すように板状部材7が傾いて収納される。この状態で板状部材7の熱処理をすると、板状部材7の自重により、
図7(b)に示すように、傾いた方向に板状部材7の反りが生じることがある。そのため、板状部材7を他の部材に貼り合わせて用いることが難しいという問題があった。
【0040】
これに対して、本実施形態の板状部材保持用治具1では、
図3(b)に示すように、可動板である第2の板3bを板状部材保持用治具1の長さ方向X1に移動させることにより、第2の板3bの内壁5b1を板状部材7の一方側主面に当接させ、第1の板3aの内壁5a1及び第3の板3cの内壁5c1を板状部材7の他方側主面に当接させることにより、板状部材7を保持することができ、保持状態とすることができる。このように、本実施形態では、第2の板3bの内壁5b1、第1の板3aの内壁5a1、及び第3の板3cの内壁5c1の3点によって板状部材7が確実に保持(把持)されるので、
図3(c)に示すように、板状部材7が傾いて収納され難くなる。そのため、比較例のように板状部材7が傾いた方向に反ることを抑制することができる。よって、本実施形態の板状部材保持用治具1では、熱処理時における板状部材7の反りが生じ難い。
【0041】
なお、熱処理による反りは、板状部材7の厚みが薄くなるほど生じ易い。そのため、本実施形態の板状部材保持用治具1は、厚みが好ましくは1mm以下、より好ましくは0.5mm以下、さらに好ましくは0.2mm以下、特に好ましくは0.2mm未満、最も好ましくは0.15mm以下の板状部材7に好適に用いることができる。なお、各内壁を板状部材7の主面に当接させた際における割れをより一層生じ難くする観点から、板状部材7の厚みは0.05mm以上であることが好ましい。
【0042】
また、板状部材7としては、ガラスマトリクス中に金属元素含有粒子(例えばハロゲン化銀やハロゲン化銅等)が配向して分散されてなるガラス板を好適に用いることができる。当該ガラス板に対し、熱処理(還元処理)を施すことにより、金属元素含有粒子が還元されて金属粒子となる。このようにして、ガラスマトリクス中に金属粒子が配向して分散されてなる偏光ガラス板を得ることができる。上記ガラス板に対し、本実施形態の板状部材保持用治具1を使用して熱処理を施す際、得られる偏光ガラス板に反りが生じ難いので、ファラデー回転子等に容易に貼り合わせて用いることができる。また、偏光ガラス板の厚みを薄くすることができるので、このような偏光ガラス板を用いた光デバイスのより一層の小型化を図ることができる。
【0043】
変形例;
図4(a)は、本発明の第1の実施形態に係る板状部材保持用治具の変形例における一部を拡大して示す模式的平面図であり、
図4(b)は、本発明の第1の実施形態に係る板状部材保持用治具の変形例における保持機構を説明するための模式的平面図である。
【0044】
図4(a)及び
図4(b)に示すように、変形例では、一対の第1のスリット5及び第2のスリット6に着脱可能なストッパー板8が収納されている。ストッパー板8は、板状部材7の厚みと同じ又は厚みが厚く、かつ板状部材7より靭性の高い(破壊靭性値の高い)板である。本実施形態では、ストッパー板8としてステンレス板が用いられている。ステンレス板以外にも、アルミニウム、銅、鉄等の金属板や、アルミナ等のセラミック基板を用いることができる。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
【0045】
このように、板状部材7の厚みと同じ又は厚みが厚く、かつ板状部材7より靭性の高いストッパー板8を用いており、可動板である第2の板3bを板状部材保持用治具1の長さ方向X1に移動させたときに、ストッパー板8の主面にも当接されるので、第2の板3bの内壁5b1が過度に板状部材7の主面に押し込まれ難い。よって、ストッパー板8を用いることにより、第2の板3bの内壁5b1を過度に押し込みすぎたときに生じる板状部材7の割れをより一層生じ難くすることができる。なお、ストッパー板8は、複数枚設けてもよい。例えば、X方向に並ぶ一対の第1のスリット5及び第2のスリット6のうち、板状部材保持用治具1の両端に位置する一対の第1のスリット5及び第2のスリット6に、予めストッパー板8が収納されていてもよい。このようにすれば、板状部材7の割れをより一層生じ難くすることができる。
【0046】
板状部材7の割れをより一層生じ難くする観点からは、ストッパー板8の厚みは、板状部材7の厚みと略同一か、板状部材7の厚みより大きいことが好ましい。ストッパー板8の厚みと板状部材7の厚みとの比(ストッパー板8の厚み/板状部材7の厚み)は、例えば、1以上とすることができる。なお、ストッパー板8の厚みが大きすぎると、第2の板3bの内壁5b1、第1の板3aの内壁5a1、及び第3の板3cの内壁5c1の3点によって板状部材7を保持(把持)し難くなるため、板状部材7が傾いて収納され易くなる。よって、ストッパー板8の厚みと板状部材7の厚みとの比(ストッパー板8の厚み/板状部材7の厚み)は、例えば、1.5以下とすることが望ましい。
【0047】
(板状部材の熱処理方法)
本実施形態に係る板状部材7の熱処理方法では、まず、板状部材保持用治具1の第1のスリット部品3及び第2のスリット部品4における各一対の第1のスリット5及び第2のスリット6に、複数枚の板状部材7をそれぞれ収納し、第1のスリット部品3の保持機構により複数枚の板状部材7をそれぞれ保持する。次に、板状部材保持用治具1により複数枚の板状部材7を保持した状態で、複数枚の板状部材7を熱処理する。
【0048】
このように、本実施形態に係る板状部材7の熱処理方法では、上述した板状部材保持用治具1により複数枚の板状部材7を保持した状態で、複数枚の板状部材7を熱処理するので、熱処理による板状部材7の反りを抑制することができる。
【0049】
なお、熱処理の温度としては、特に限定されないが、例えば、400℃以上、460℃以下とすることができる。また、熱処理時間としては、特に限定されないが、例えば、15時間以上、60時間以下とすることができる。
【0050】
(板状物品の製造方法)
本実施形態に係る板状物品の製造方法は、上述した板状部材7の熱処理方法を備える。本実施形態に係る板状物品の製造方法は、例えば偏光ガラス板の製造方法に適用できる。
【0051】
偏光ガラス板の製造方法では、まず、銀や銅等の金属元素とハロゲン元素を含有する原料バッチを調製し、溶融、成形することによりガラス部材を作製する。得られたガラス部材を加熱処理することにより、内部にハロゲン化金属粒子を析出させ、ガラスプリフォーム板を得る。ガラスプリフォーム板を加熱しながら所定の条件で延伸成形することにより、ガラスマトリクス中に延伸ハロゲン化金属粒子が分散されてなるガラス板(板状部材7)を得る。得られたガラス板には、必要に応じて所定の形状及び厚みとなるように研磨加工を施す。
【0052】
次に、上述した本発明の熱処理方法に従ってガラス板の熱処理を行う。なお、この熱処理は例えば水素等を含む還元雰囲気で行う。これにより、延伸ハロゲン化金属粒子を還元して延伸金属粒子に変化させ、
図6に示す板状物品10(偏光ガラス板)を得ることができる。
【0053】
このように、本実施形態に係る板状物品10の製造方法では、上述した板状部材保持用治具1により複数枚の板状部材7を保持した状態で、複数枚の板状部材7を熱処理するので、熱処理による板状部材7の反りを抑制することができる。
【0054】
図6に示すように、上記のようにして得られた板状物品(偏光ガラス板)10は、ガラスマトリクス12と、ガラスマトリクス12中に配向して分散されている延伸金属粒子13とを備える。
【0055】
板状物品10は、厚みが1mm以下であり、平面形状が略矩形状の板状物品であって、反り量が0.2μm/mm以下であることが好ましい。
【0056】
板状物品10の厚みは、より好ましくは0.5mm以下、さらに好ましくは0.2mm以下、特に好ましくは0.2mm未満、最も好ましくは0.15mm以下である。ただし、機械的強度を担保するため、板状物品10の厚みは0.05mm以上であることが好ましい。
【0057】
板状物品10の反り量は、より好ましくは0.15μm/mm以下、さらに好ましくは0.12μm/mm以下、特に好ましくは0.08μm/mm以下である。板状物品10の反り量の下限は、特に限定されず、0μm/mmである(つまり反りが無い)ことが最も好ましいが、歩留まりを考慮して0.05μm/mm以上、0.08μm/mm以上であってもよい。
【0058】
[第2の実施形態]
図5(a)は、本発明の第2の実施形態に係る板状部材保持用治具を示す模式的平面図であり、
図5(b)は、本発明の第2の実施形態に係る板状部材保持用治具の一部を拡大して示す模式的平面図である。
【0059】
図5(a)に示すように、板状部材保持用治具11では、第3の板3cが設けられていない。従って、板状部材保持用治具11において、第1のスリット5は、第1のスリット部5a及び第2のスリット部5bのみにより構成されている。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
【0060】
本実施形態においても、可動板である第2の板3bにより、板状部材7を挟み込んでいる保持状態と、板状部材7を挟み込んでいない非保持状態とを切り替え可能な保持機構が構成されている。具体的に、板状部材保持用治具11では、可動板である第2の板3bをX1方向に移動させ、第2の板3bの第2のスリット部5bを構成する一方側の内壁5b1を、板状部材7の一方側主面に当接させる。また、第1の板3aの第1のスリット部5aを構成する内壁5a1及び第4の板4aの第4のスリット部6aを構成する内壁6a1を、板状部材7の他方側主面に当接させる。なお、内壁6a1は、内壁5a1と同じ側に設けられている。このようにすることにより、板状部材7を保持(把持)することができ、保持状態とすることができる。従って、本実施形態においても、
図3(c)と同様に板状部材7が傾いて収納され難くなる。そのため、比較例のように板状部材7が傾いた方向に反ることを抑制することができる。よって、本実施形態の板状部材保持用治具11においても、熱処理時における板状部材7の反りが生じ難い。
【0061】
<実施例>
以下、本発明の一実施形態に係る板状物品(偏光ガラス板)の製造方法を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
(a)ガラス母材の作製
質量%でSiO2 59.2%、B2O3 18%、Al2O3 8.5%、Li2O 2%、Na2O 2.5%、K2O 9%、Ag 0.3%、Cl 0.5%を含有するガラス組成(軟化点650℃)となるように原料を調合した。次に、原料を溶融し、溶融したガラスを板状に成形した。次に、板状に成形したガラスに対し、675℃において加熱処理を施すことにより、ガラスマトリクス中に塩化銀粒子を析出させた。これにより、対向している第1の主面及び第2の主面を有するガラス母材を得た。
【0063】
(b)延伸成形工程
(a)の工程で得たガラス母材を一定の速度で送り出しながら、600℃でガラス母材を加熱して軟化させ、同時にガラス母材を延伸させた。次に、ガラス母材が延伸された部分を切断し、さらに表面を研磨することにより、ガラスマトリクス中に延伸塩化銀粒子が配向して分散されてなる複数枚の板状部材(18mm×120mm×0.1mm)を得た。
【0064】
(c)熱処理工程
上述した実施形態に従って、
図1~
図3に示す板状部材保持用治具1の第1のスリット5及び第2のスリット6(各スリットのX方向に沿う幅は0.9mm、Z方向に沿う深さは12mm)に各板状部材7をセットした。その上で、第2の板3bをX1方向に沿って移動させて、各板状部材7を第1のスリット5において挟み込むことにより保持した。この状態で、水素雰囲気下において460℃で40時間加熱することにより、板状部材7に還元処理を施した。これにより、板状部材7の表層の延伸塩化銀粒子を還元して延伸銀粒子とし、偏光ガラス板を得た。
【0065】
得られた偏光ガラス板を11mm角に切断した後、反り量を測定したところ、0.13μm/mmであった。なお、偏光ガラス板の反り量は、以下のようにして測定した。
【0066】
11mm角に切断した偏光ガラス板の一辺を定盤上に押さえつけ、その状態で、定盤上に押さえつけた一辺と対向する辺と定盤との隙間に隙間ゲージを差込んで、定盤と辺との距離を測定した。得られた測定値を1mm当たりに換算し(即ち、11mmで除して)、反り量とした。なお、11mm角に切断した偏光ガラス板10枚について反り量を測定し、その平均値を採用した。
【0067】
(比較例1)
(c)の熱処理工程において、
図7に示す板状部材保持用治具(第1のスリット105及び第2のスリット106のX方向に沿う幅は0.9mm、Z方向に沿う深さは12mm)に各板状部材をセットし、熱処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして偏光ガラス板を作製した。得られた偏光ガラス板を11mm角に切断した後、実施例1と同様にして反り量を測定したところ、0.4μm/mmと大きかった。
【符号の説明】
【0068】
1,11…板状部材保持用治具
2…底板
3…第1のスリット部品
3A…側板
3a…第1の板
3b…第2の板
3c…第3の板
4…第2のスリット部品
4A…側板
4a…第4の板
5…第1のスリット
5a…第1のスリット部
5a1…内壁
5b…第2のスリット部
5b1…内壁
5c…第3のスリット部
5c1…内壁
6…第2のスリット
6a…第4のスリット部
6a1…内壁
7…板状部材
7a,7b…端部
8…ストッパー板
10…板状物品(偏光ガラス板)
12…ガラスマトリクス
13…延伸金属粒子