(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】消音器
(51)【国際特許分類】
F01N 1/02 20060101AFI20240220BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20240220BHJP
F01N 1/04 20060101ALI20240220BHJP
B60H 1/00 20060101ALI20240220BHJP
F24F 13/02 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
F01N1/02 E
G10K11/16 100
F01N1/04 E
B60H1/00 102L
F24F13/02 H
(21)【出願番号】P 2020110890
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋松 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】冨堂 綾香
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/061817(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0327584(US,A1)
【文献】特開平11-141326(JP,A)
【文献】特開2016-95070(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0030610(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 1/02
G10K 11/16
F01N 1/04
B60H 1/00
F24F 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側または片側に開口を有する通路(3)が形成されたダクト(2)に設けられる消音器であって、
前記ダクト内の通路に連通する空間(6)を形成するケース(4)と、
前記ケース内の空間に設けられる1または複数の仕切板(5、5a~5d)と、
前記ケース内の空間と前記ダクト内の通路との境界に設けられ、前記ケース内の空間と前記ダクト内の通路とを仕切ると共に、前記ケース内の空間と前記ダクト内の通路との通気性を確保する境界層(8)と、を備え、
前記仕切板の少なくとも1つが、前記ケース内の空間と前記ダクト内の通路との境界面(BS)に垂直で且つ前記ケース内の空間の中心を含む仮想面(VS)を挟んで対向する一方のケース内壁および他方のケース内壁から離れた位置に設けられていることで、前記ケース内の空間に、前記ダクト内の通路から前記境界層を経由して前記ケース内の空間に入射した音波が伝播する複数の経路が形成されている、消音器。
【請求項2】
前記ダクト内の通路は、気体が流れる構成となっている、請求項
1に記載の消音器。
【請求項3】
複数の前記仕切板は、所定の仕切板(5a、5b)と他の仕切板(5c、5d)を有しており、前記所定の仕切板と前記他の仕切板とは、前記ケース内の空間と前記ダクト内の通路との境界面に対し垂直な方向(Y)に所定の距離をあけて配置され、前記所定の仕切板とケース内壁との隙に対応する位置に前記他の仕切板が配置され、さらに、前記境界面に対し垂直な方向から視て前記所定の仕切板の一部と前記他の仕切板の一部が重なるように配置されている、請求項1
または2に記載の消音器。
【請求項4】
複数の前記仕切板(5a~5c)は、前記ケース内の空間と前記ダクト内の通路との境界面に垂直で且つ前記ケース内の空間の中心を含む仮想面を挟んで一方側に配置される部位の総面積と、他方側に配置される部位の総面積とが非対
称となるように配置されている、請求項
3に記載の消音器。
【請求項5】
前記ケース内の空間には、通気性を有する多孔質材(9)が充填されている、請求項1ないし
4のいずれか1つに記載の消音器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消音器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ダクト内の通路を伝播する騒音を低減する消音器が知られている。
特許文献1には、ダクトの途中に設けられた有底筒状の消音管が記載されている。なお、特許文献1では、ダクトは「管路」と呼ばれ、消音管は「サイドブランチ」と呼ばれている。特許文献1では、消音する狙いの騒音の波長λに対し、消音管の長さをλ/4に設定することで、その波長λの騒音を低減するものである。
【0003】
そして、特許文献1では、消音管の途中に屈曲部を設けることで、ダクトから突出する消音管の突出量を抑える構成が提案されている。また、消音管の途中に複数の屈曲部を設けることで消音管の突出量を抑えると共に消音管を長くして、より低周波の騒音を低減する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1の構成では、消音管の長さに応じて消音される周波数が決まるため、消音効果の得られる周波数帯域が狭いといった問題がある。特許文献1の構成を用いて広帯域の騒音を消音するため、長さの異なる複数の消音管をダクトに設置することが考えられる。しかし、そのようにすれば、複数の消音管をダクトに設置するために必要なスペースが増大してしまう。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、設置スペースの増加を抑えると共に、騒音低減特性を向上することの可能な消音器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、両側または片側に開口を有する通路(3)が形成されたダクト(2)に設けられる消音器であって、ダクト内の通路に連通する空間(6)を形成するケース(4)と、そのケース内の空間に設けられる1または複数の仕切板(5、5a~5d)と、ケース内の空間とダクト内の通路との境界に設けられ、ケース内の空間とダクト内の通路とを仕切ると共に、ケース内の空間とダクト内の通路との通気性を確保する境界層(8)とを備える。その仕切板の少なくとも1つが、ケース内の空間とダクト内の通路との境界面(BS)に垂直で且つケース内の空間の中心を含む仮想面(VS)を挟んで対向する一方のケース内壁および他方のケース内壁から離れた位置に設けられていることで、ケース内の空間に、ダクト内の通路から境界層を経由してケース内の空間に入射した音波が伝播する複数の経路が形成されている。
【0008】
これにより、ケース内の空間にダクト内の通路から入射する音波が伝播する複数の経路が形成されるので、その複数の経路を伝播する音波を広帯域化することが可能である。そのため、その複数の経路を伝播して再びダクトに放出される音波とダクト内の通路を進む音波との干渉により、ダクト内の騒音が広帯域で消音される。したがって、この消音器は、ダクト内の通路の騒音に対する消音特性を広帯域化することで騒音低減特性を向上することができる。
また、ケース内の空間に1または複数の仕切板を設けることで、ケースを大型化することなく、ケース内に形成される音波の伝播経路を長くすることが可能である。したがって、この消音器は、設置スペースの増加を抑えると共に、より低周波の騒音を低減することで騒音低減特性を向上することもできる。
【0009】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る消音器とその消音器が設置されるダクトの斜視図である。
【
図4】第1実施形態に係る消音器における粒子速度のベクトルを示す解析図である。
【
図5】第1実施形態に係る消音器における音波の伝播経路を示す模式図である。
【
図6】第2実施形態に係る消音器とその消音器が設置されるダクトの断面図である。
【
図7】第3実施形態に係る消音器とその消音器が設置されるダクトの断面図である。
【
図8】第4実施形態に係る消音器とその消音器が設置されるダクトの断面図である。
【
図9】第4実施形態に係る消音器における粒子速度のベクトルを示す解析図である。
【
図10】第4実施形態に係る消音器における音波の伝播経路を示す模式図である。
【
図11】第5実施形態に係る消音器において
図3に対応する部位の断面図である。
【
図12】第6実施形態に係る消音器とその消音器が設置されるダクトの断面図である。
【
図14】第7実施形態に係る消音器とその消音器が設置されるダクトの断面図である。
【
図16】第7実施形態に係る消音器における粒子速度のベクトルを示す解析図である。
【
図17】第7実施形態に係る消音器における音波の伝播経路を示す模式図である。
【
図18】第7実施形態に係る消音器における音波の伝播経路を示す模式図である。
【
図19】第8実施形態に係る消音器とその消音器が設置されるダクトの断面図である。
【
図21】第9実施形態に係る消音器とその消音器が設置されるダクトの断面図である。
【
図22】第9実施形態とそれに対する比較例1(第4実施形態に相当する構成)について、周波数と騒音低減量との関係を解析したグラフである。
【
図23】比較例1(第4実施形態に相当する構成)について、ダクトに空気が流れる状態を示した模式図である。
【
図24】第10実施形態に係る消音器とその消音器が設置されるダクトの斜視図である。
【
図26】第10実施形態に係る消音器における粒子速度のベクトルを示す解析図である。
【
図27】第10実施形態に係る消音器における音波の伝播経路を示す模式図である。
【
図28】第10実施形態に対する比較例2(特許文献1に示された消音器の一例に相当する構成)における、音波の伝播経路を示す模式図である。
【
図29】第10実施形態とそれに対する比較例2について、周波数と騒音低減量との関係を解析したグラフである。
【
図30】第10実施形態と第9実施形態について、周波数と騒音低減量との関係を解析したグラフである。
【
図31】第11実施形態に係る消音器とその消音器が設置されるダクトの断面図である。
【
図32】第11実施形態に対する比較例3の断面図である。
【
図33】第11実施形態とそれに対する比較例3について、周波数と騒音低減量との関係を解析したグラフである。
【
図34】第12実施形態に係る消音器の車両用空調ユニットへの設置個所を示す断面図である。
【
図35】第13実施形態に係る消音器とその消音器が設置されるダクトの断面図である。
【
図36】第14実施形態に係る消音器とその消音器が設置されるダクトの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の複数の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、複数の実施形態の説明において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0012】
なお、各図面には、互いに直交するX軸、Y軸、Z軸による三次元座標を記載している。以下の説明では、X軸に平行な方向をX方向、Y軸に平行な方向をY方向、Z軸に平行な方向をZ方向という。なお、このX、Y、Zは説明のために用いるものであり、消音器およびダクトなどが設置される状態を限定するものではい。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1~
図3に示すように、第1実施形態の消音器1は、ダクト2に設けられ、そのダクト内に形成される通路3を伝播する騒音の低減に用いられるものである。
【0014】
ダクト2は、X方向の両側または片側に通路3の開口を有しており、その通路3の一方の開口側に図示しない騒音源が配置されているものである。なお、
図1~
図3に示すダクト2の形状、大きさなどは、説明のために簡略化して記載したものである。すなわち、ダクト2の形状、大きさなどは、任意に設定することが可能である。ダクト2として、例えば車両用空調ユニットの空調ケース、その空調ケースに接続される吹出ダクト、または内燃機関の排気管など種々のものが相当する。なお、ダクト2として空調ケースまたは吹出ダクトが適用される場合、ファンおよびモータが騒音源となる。
【0015】
図1~
図3に示すように、消音器1は、ケース4および仕切板5を備えている。
ケース4は、ダクト2の外壁に設けられている。ケース4は、ダクト2の外壁からY方向に突出するように設けられている。ケース4は、その内側に空間6を形成している。そのケース内の空間6は、ダクト内の通路3に連通している。
【0016】
なお、
図1~
図3に示すケース4の形状、大きさなどは、説明のために簡略化して記載したものである。すなわち、ケース4の形状、大きさなどは、狙いの消音特性(すなわち、消音する騒音の周波数)または設置スペースの制約などに応じて、任意に設定することが可能である。
【0017】
以下の説明では、ケース内の空間6とダクト内の通路3との境界を「境界面BS」という。
図2では、境界面BSを、符号BSを付した一点鎖線で示している。また、
図2では、境界面BSに垂直で且つケース内の空間6の中心を含む仮想面VSを、符号VSを付した二点鎖線で示している。第1実施形態では、境界面BSに何も設けられていない。なお、後述する第7実施形態で説明するように、境界面BSには、例えば穴あきパネルまたは不織布など、通気性のある素材で形成した境界層を設けてもよい。
【0018】
また、以下の説明では、ケース4の内壁のうち、境界面BSに対向する位置に配置される部位を「ケース天井4a」と呼ぶことがある。
【0019】
仕切板5は、ケース内の空間6に設けられている。仕切板5は、その板厚方向を向く面が、境界面BSに沿うように設けられている。なお、「境界面BSに沿う」とは、境界面BSに平行な状態に加え、境界面BSに対して傾斜した状態も含むものである。なお、仕切板5は、その板厚方向を向く面が、境界面BSに垂直な仮想面VSに対して交差するように設けられているということもできる。
【0020】
図3に示すように、仕切板5は、ケース内の空間6とダクト内の通路3との境界面BSに平行な面方向に位置するケース内壁4b~4eの少なくとも一部から離れた位置に設けられている。具体的には、仕切板5のX方向の両端部は、ケース4のX方向の内壁4d、4eに接続されている。また、仕切板5のZ方向の長さL1は、ケース内の空間6のZ方向の長さL2よりも短い。そのため、
図2および
図3に示すように、仕切板5のZ方向の両端部は、ケース4のZ方向の内壁から離れた位置に設けられている。言い換えれば、仕切板5は、仮想面VSを挟んで対向する一方のケース内壁4bおよび他方のケース内壁4cから離れた位置に設けられている。そのため、仕切板5のZ方向の両端部とケース4のZ方向の内壁4b、4cとの間にそれぞれ隙が形成されている。これにより、ケース内の空間6には、仮想面VSを挟んで対向する一方の隙と他方の隙を含んで、ダクト内の通路3から入射する音波が伝播する複数の経路が形成される。なお、以下の説明では、音波が伝播する経路を単に「伝播経路」ということがある。また、本明細書において「隙」とは伝播経路を構成する一部をいうものであり、後述する第11実施形態のように多孔質材が充填された構成も含むものである。
【0021】
図4は、粒子速度のベクトルを示す解析図である。なお、
図4の解析は、第1実施形態で説明した構成に加え、ケース内の空間6とダクト内の通路3との境界に境界層を設けた構成に関するものである。この解析結果から、音波の伝播経路を読み取ることが可能である。
【0022】
図5は、
図4の解析結果に基づき、音波の伝播経路の一部を模式的に示した図である。
図5の矢印SW1に示すように、ダクト内の通路3からケース内の空間6に入射した音波の一部は、仕切板5よりダクト2側の領域から、Z方向の一方の隙を通り、仕切板5よりケース天井4a側の領域に進む。また、矢印SW2に示すように、ダクト内の通路3からケース内の空間6に入射した音波の他の一部は、仕切板5よりダクト2側の領域から、Z方向の他方の隙を通り、仕切板5よりケース天井4a側の領域に進む。このように、ケース内の空間6には、仕切板5によって複数の伝播経路が形成される。そのため、複数の伝播経路により、ケース内の空間6を伝播する音波の周波数帯域を広げることが可能である。また、複数の伝播経路の長さを長くすることで、ケース内の空間6を伝播する音波を低周波にすることが可能である。そして、その複数の経路を伝播して再びダクト2に放出される音波とダクト内の通路3を進む音波との干渉により、ダクト内の騒音を消音することができる。
【0023】
以上説明した第1実施形態の消音器1は、次の作用効果を奏するものである。
第1実施形態では、ケース内の空間6に設けられる仕切板5は、境界面BSに垂直で且つケース内の空間6の中心を含む仮想面VSを挟んで対向する一方のケース内壁4bおよび他方のケース内壁4cの両方から離れた位置に設けられている。
これにより、ケース内の空間6に複数の伝播経路が形成されるので、その複数の伝播経路を伝播する音波を広帯域化することが可能である。そのため、その複数の伝播経路を伝播して再びダクト2に放出される音波とダクト内の通路3を進む音波との干渉により、ダクト内の騒音が広帯域で消音される。したがって、この消音器1は、ダクト内の通路3の騒音に対する消音特性を広帯域化することで騒音低減特性を向上することができる。
【0024】
また、この消音器1は、ケース内の空間6に仕切板5を設けることで、ケース4を大型化することなく、ケース内に形成される音波の伝播経路を長くすることが可能である。したがって、この消音器1は、設置に必要なスペースの増加を抑えると共に、より低周波の騒音を低減することで騒音低減特性を向上することができる。
【0025】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1実施形態に対して仕切板5の構成を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0026】
図6に示すように、第2実施形態の消音器1では、仕切板5のZ方向の長さL1が、第1実施形態で説明したものよりも長く設定されている。具体的には、仕切板5のZ方向の長さL1は、ケース内の空間6のZ方向の長さL2の半分以上に設定されている。また、Y方向から視て、仕切板5の面積は、ケース内の空間6の面積の半分以上に設定されているということもできる。なお、仕切板5のZ方向の長さL1は、狙いの消音特性(すなわち、消音する騒音の周波数)に応じて設定される。
【0027】
以上説明した第2実施形態では、仕切板5のZ方向の長さL1を長くすることで、音の伝播経路を延長し、より低周波の騒音を低減することが可能である。
【0028】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。第3実施形態も、第1実施形態等に対して仕切板5の構成を変更したものであり、その他については第1実施形態等と同様であるため、第1実施形態等と異なる部分についてのみ説明する。
【0029】
図7に示すように、第3実施形態の消音器1は、複数の仕切板5a~5dを備えている。複数の仕切板5a~5dは、Y方向に互いに所定の距離をあけて配置されている。以下の説明では、複数の仕切板5a~5dのうち、ケース天井4a側に配置される仕切板を「第1仕切板5a」と呼び、境界面BS側に配置される仕切板を「第2仕切板5b」と呼ぶ。また、第1仕切板5aと第2仕切板5bとの間に配置される仕切板5c、5dのうち、Z方向の一方に配置される仕切板を「第3仕切板5c」と呼び、Z方向の他方に配置される仕切板を「第4仕切板5d」と呼ぶ。
【0030】
第1仕切板5aと第2仕切板5bは、Z方向の長さが、ケース内の空間6のZ方向の長さよりも短い。そして、第1仕切板5aと第2仕切板5bは、Z方向の両端部が、ケース4のZ方向の内壁4b、4cから離れた位置に設けられている。言い換えれば、第1仕切板5aと第2仕切板5bは、仮想面VSを挟んで対向する一方のケース内壁4bおよび他方のケース内壁4cの両方から離れた位置に設けられている。そのため、第1仕切板5aのZ方向の両端部とケース4のZ方向の内壁4b、4cとの間にそれぞれ隙が形成されている。また、第2仕切板5bのZ方向の両端部とケース4のZ方向の内壁4b、4cとの間にもそれぞれ隙が形成されている。
【0031】
第3仕切板5cは、Z方向の一方の端部がケース内壁4bに接続している。第4仕切板5dは、Z方向の他方の端部がケース内壁4cに接続している。第3仕切板5cと第4仕切板5dは、第1仕切板5aおよび第2仕切板5bとケース内壁4b、4cとの間に形成される隙に対応する位置(すなわち、Y方向から視て、第1仕切板5aおよび第2仕切板5bとケース内壁4b、4cとの間に形成される隙に重なる位置)に設けられている。このような複数の仕切板5a~5dの配置により、ケース内の空間6に形成される複数の伝播経路を長くすることが可能である。
【0032】
以上説明した第3実施形態の消音器1は、複数の仕切板5a~5dにより、ケース内の空間6に複数の伝播経路を形成することで、ダクト内の通路3の騒音に対する消音特性を広帯域化することができる。
また、この消音器1は、複数の仕切板5a~5dにより、ケース内に形成される音波の伝播経路を長くすることで、より低周波の騒音を低減することもできる。
【0033】
(第4実施形態)
第4実施形態について説明する。第4実施形態は、第3実施形態に対して仕切板5の構成を変更したものであり、その他については第3実施形態と同様であるため、第3実施形態等と異なる部分についてのみ説明する。
【0034】
図8に示すように、第4実施形態の消音器1も、複数の仕切板5a~5dを備えている。第1仕切板5aのZ方向の両端部とケース4のZ方向の内壁4b、4cとの間にそれぞれ隙が形成され、第2仕切板5bのZ方向の両端部とケース内壁4b、4cとの間にもそれぞれ隙が形成されている。そして、第3仕切板5cと第4仕切板5dは、第1仕切板5aおよび第2仕切板5bとケース内壁4b、4cとの間に形成される隙に対応する位置に設けられている。さらに、第4実施形態では、Y方向から視て、第1仕切板5aおよび第2仕切板5bの一部と、第3仕切板5cおよび第4仕切板5dの一部とが重なるように配置されている。したがって、このような複数の仕切板5a~5dの配置により、ケース内の空間6に形成される複数の伝播経路をより長くすることが可能である。
【0035】
図9は、粒子速度のベクトルを示す解析図である。なお、
図9の解析は、第4実施形態で説明した構成に加え、ケース内の空間6とダクト内の通路3との境界に境界層を設けた構成に関するものである。この解析結果から、音波の伝播経路を読み取ることが可能である。
【0036】
図10は、
図9の解析結果に基づき、音波の伝播経路の一部を模式的に示した図である。
図10の矢印SW3に示すように、ダクト内の通路3からケース内の空間6に入射した音波の一部は、第2仕切板5bよりダクト2側の領域から、第2仕切板5bのZ方向の一方の隙を通り、第1仕切板5aと第2仕切板5bとの間の領域に進むものと、そこから第1仕切板5aのZ方向の一方の隙を通り、ケース天井4aと第1仕切板5aとの間の領域に進むものがある。
また、矢印SW4に示すように、ダクト内の通路3からケース内の空間6に入射した音波の他の一部は、第2仕切板5bよりダクト2側の領域から、第2仕切板5bのZ方向の他方の隙を通り、第1仕切板5aと第2仕切板5bとの間の領域に進むものと、そこから第1仕切板5aのZ方向の他方の隙を通り、ケース天井4aと第1仕切板5aとの間の領域に進むものがある。
【0037】
このように、ケース内の空間6には、複数の第1仕切板5a~5dにより複数の伝播経路が形成されるので、ケース内の空間6を伝播する音波の周波数帯域を広げることが可能である。また、Y方向から視て複数の第1仕切板5a~5dの一部が重なるように配置することで、複数の伝播経路の長さをより長くし、ケース内の空間6を伝播する音波をより低周波にすることが可能である。その複数の経路を伝播して再びダクト2に放出される音波とダクト内の通路3を進む音波との干渉により、ダクト内の騒音を消音することができる。
【0038】
以上説明した第4実施形態の消音器1は、ケース内の空間6に複数の伝播経路を形成することで、ダクト内の通路3の騒音に対する消音特性を広帯域化することができる。
また、この消音器1は、ケース内に形成される音波の伝播経路を長くすることで、より低周波の騒音を低減することもできる。
【0039】
(第5実施形態)
第5実施形態について説明する。第5実施形態は、第1実施形態で説明した消音器1に対して仕切板5の構成を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0040】
図11は、第5実施形態に係る消音器1に関し、第1実施形態の
図3で示した箇所に対応する部位の断面図である。
図11に示すように、第5実施形態では、仕切板5のZ方向の両端部が、ケース4のZ方向の内壁4b、4cに接続されている。また、仕切板5のX方向の長さは、ケース内の空間6のX方向の長さよりも短い。そのため、仕切板5のX方向の両端部は、ケース4のX方向の一方の内壁4dおよび他方の内壁4eから離れた位置に設けられている。そのため、仕切板5のX方向の両端部とケース4のX方向の内壁4d、4eとの間にそれぞれ隙が形成されている。これにより、ケース内の空間6には、複数の伝播経路が形成される。
【0041】
以上説明した第5実施形態も、第1実施形態と同様の作用効果を奏することが可能である。すなわち、仕切板5とケース内壁とが接続される方向によって騒音低減効果が変化することはない。
【0042】
(第6実施形態)
第6実施形態について説明する。第6実施形態は、第1実施形態等で説明した消音器1に対して仕切板5の構成を変更したものであり、その他については第1実施形態等と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0043】
図12および
図13に示すように、第6実施形態の消音器1は、ケース天井4aと仕切板5とを接続する接続部材7を備えている。仕切板5は、その接続部材7によってケース内の空間6に支持されている。したがって、仕切板5は、ケース4のZ方向の内壁およびX方向の内壁から離れた位置に設けられている。
【0044】
具体的には、
図13に示すように、仕切板5のZ方向の長さL1は、ケース内の空間6のZ方向の長さL2よりも短い。そのため、仕切板5のZ方向の両端部は、ケース4のZ方向の内壁4b、4cから離れた位置に設けられている。そのため、仕切板5のZ方向の両端部とケース4のZ方向の内壁4b、4cとの間にそれぞれ隙が形成されている。また、仕切板5のX方向の長さL3は、ケース内の空間6のX方向の長さL4よりも短い。そのため、仕切板5のX方向の両端部は、ケース4のX方向の内壁4d、4eから離れた位置に設けられている。そのため、仕切板5のX方向の両端部とケース4のX方向の内壁4d、4eとの間にもそれぞれ隙が形成されている。したがって、第6実施形態では、仕切板5の全周に亘り、ケース内壁との間に隙が形成されている。これにより、ケース内の空間6には、複数の伝播経路が形成される。
【0045】
図13の矢印SW5およびSW6に例示したように、ダクト内の通路3からケース内の空間6に入射した音波は、仕切板5の対角線に沿うように進むものや、仕切板5の辺に沿うように進むものなどがある。このように、ケース内の空間6には、仕切板5によって複数の伝播経路が形成される。したがって、第6実施形態では、複数の伝播経路の長さを異なるものとすることで、ケース内の空間6を伝播する音波の周波数帯域を広げることが可能である。
【0046】
以上説明した第6実施形態の消音器1も、ケース内の空間6に複数の伝播経路を形成することで、ダクト内の通路3の騒音に対する消音特性を広帯域化することができる。
【0047】
(第7実施形態)
第7実施形態について説明する。第7実施形態は、第1実施形態等で説明した消音器1に対して仕切板5の構成を変更したものであり、その他については第1実施形態等と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0048】
図14および
図15に示すように、第7実施形態では、仕切板5が、ケース内の空間6とダクト内の通路3との境界面BSに平行な面方向に位置するケース内壁4b~4eの少なくとも一部から離れた位置に設けられている。具体的には、仕切板5は、ケース4のZ方向の一方の内壁4bから離れた位置に設けられている。また、仕切板5は、ケース4のZ方向の他方の内壁4cに接続され、且つ、ケース4のX方向の両方の内壁4d、4eにも接続されている。そのため、仕切板5のZ方向の一方の端部とケース4のZ方向の一方の内壁4bとの間のみに隙が形成されている。このような構成によっても、ケース内の空間6には、ダクト内の通路3から入射する音波が伝播する複数の経路が形成される。
【0049】
図16は、粒子速度のベクトルを示す解析図である。この解析結果から、音波の伝播経路を読み取ることが可能である。
【0050】
図17は、
図16の解析結果に基づき、音波の伝播経路の一部を模式的に示した図である。
図17の矢印SW7に例示したように、ダクト内の通路3からケース内の空間6に入射した音波の一部は、ケース4のZ方向の一方の内壁4bに比較的近い領域からケースと仕切板5との隙を通り、仕切板5よりケース天井4a側の領域に進む。また、矢印SW8に示すように、ダクト内の通路3からケース内の空間6に入射した音波の他の一部は、ケース4のZ方向の他方の内壁4cに比較的近い領域からケースと仕切板5との隙を通り、仕切板5よりケース天井4a側の領域に進む。このように、ケース内の空間6には、仕切板5によって複数の伝播経路が形成される。
【0051】
また、
図18の矢印SW9およびSW10に模式的に示したように、ダクト内の通路3からケース内の空間6に入射した音波は、仕切板5の対角線に沿うように進むものや、仕切板5の辺に沿うように進むものなどがある。このように、ケース内の空間6には、仕切板5によって複数の伝播経路が形成される。
【0052】
以上説明したように、第7実施形態の構成においても、ケース内に複数の伝播経路が形成されることにより、ケース内の空間6を伝播する音波の周波数帯域を広げることが可能である。また、複数の伝播経路の長さを長くすることで、ケース内の空間6を伝播する音波を低周波にすることが可能である。そして、その複数の経路を伝播して再びダクト2に放出される音波とダクト内の通路3を進む音波との干渉により、ダクト内の騒音を消音することができる。
【0053】
なお、上述した第7実施形態では、仕切板5が、ケース4のZ方向の一方の内壁4bのみから離れた位置に設けられている構成について説明したが、それに限らず、仕切板5は、ケース内壁4b~4eの少なくとも一部から離れた位置に設けられていればよい。すなわち、仕切板5は、ケース4のZ方向の他方の内壁4cのみから離れていてもよい。或いは、仕切板5は、ケース4のX方向の一方の内壁4dのみから離れていてもよい。或いは、仕切板5は、ケース4のX方向の他方の内壁4eのみから離れていてもよい。
【0054】
(第8実施形態)
第8実施形態について説明する。第8実施形態は、第1実施形態等で説明した消音器1に対して仕切板5の構成を変更したものであり、その他については第1実施形態等と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0055】
図19および
図20に示すように、第8実施形態では、仕切板5は、ケース4のZ方向の両方の内壁4b、4cから離れた位置に設けられ、ケース4のX方向の一方の内壁4dからも離れた位置に設けられている。また、仕切板5は、ケース4のX方向の他方の内壁4eに接続されている。そのため、仕切板5のZ方向の両端部とケース4のZ方向の両方の内壁4b、4cとの間に隙が形成され、仕切板5のX方向の一方の端部とケース4のX方向の一方の内壁4dとの間に隙が形成されている。これにより、ケース内の空間6には、ダクト内の通路3から入射する音波が伝播する複数の経路が形成される。
【0056】
このような第8実施形態の構成においても、上述した第1実施形態等と同一の作用効果を奏することができる。
【0057】
(第9実施形態)
第9実施形態について説明する。第9実施形態は、第4実施形態等で説明した消音器1に境界層を追加したものであり、その他については第4実施形態と同様であるため、第4実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0058】
図21に示すように、第9実施形態の消音器1は、ケース内の空間6とダクト内の通路3との境界に境界層8を備えている。境界層8は、ケース内の空間6とダクト内の通路3とを仕切ると共に、ケース内の空間6とダクト内の通路3との通気性を確保するものである。境界層8として、例えば穴あきパネルまたは不織布など、通気性のある素材を採用できる。境界層8の音響インピーダンスとケース内の空間6の音響インピーダンスとのバランスにより、消音特性を広帯域化または低周波化することが可能である。
【0059】
図22に示すグラフは、第9実施形態の一例とそれに対する第1比較例について、周波数と騒音低減量との関係(すなわち、消音特性)を解析したものである。なお、第9実施形態の一例とは、境界層8として穴あきパネルを採用したものである。一方、第9実施形態に対する第1比較例とは、第9実施形態の構成から境界層8を除いた構成であり、すなわち上述した第4実施形態と同様の構成である。
【0060】
図22のグラフでは、第9実施形態の構成による消音特性を実線A1に示し、第1比較例による消音特性を破線B1に示している。実線A1のピーク値の周波数は、破線B1のピーク値の周波数より低い値になっている。また、実線A1について矢印A2で示した周波数域は、破線B1について矢印B2で示した周波数域より広い。このように、第9実施形態の消音器1は、境界層8を備えることで、その第1比較例に対して、消音特性を広帯域化または低周波化することが可能である。
【0061】
次に、
図23は、第9実施形態に対する第1比較例(すなわち、第4実施形態と同様の構成)において、ダクト内の通路3に気体が流れる様子を示したものである。
【0062】
ダクト内の通路3に気体が流れる場合、その気流がケース内の空間6に入り込むことで騒音が発生することがある。また、
図23の矢印AEに示すように、ダクト内の通路3を流れる気流がケース4の内壁に当たり気流が乱れることによっても騒音が発生することがある。このように、ダクト内の通路3に気体が流れる場合、ダクト2の壁にケース4を設けることにより、ダクト2の一方の開口側に配置される不図示の騒音源とは異なる新たな騒音が発生することがある。
【0063】
それに対し、
図21に示した第9実施形態の消音器1は、ダクト内の通路3を流れる気流がケース内の空間6に入り込むことを、境界層8により抑制することができる。また、ダクト内の通路3を流れる気流がケース4の内壁に当たることを、境界層8により抑制することができる。したがって、第9実施形態の消音器1は、ダクト内の通路3に気体が流れる場合でも、ダクト2の壁にケース4を設けることによる新たな騒音の発生を境界層8により防ぐことで、騒音低減効果をより向上することができる。
【0064】
(第10実施形態)
第10実施形態について説明する。第10実施形態は、第9実施形態で説明した消音器1に対して仕切板5の構成を変更したものであり、その他については第9実施形態と同様であるため、第9実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0065】
図24および
図25に示すように、第10実施形態の消音器1は、第4実施形態で説明した第1~第3仕切板5a~5cを備えており、第4仕切板5dを備えていない。そのため、第10実施形態では、複数の仕切板5a~5cは、境界面BSに垂直で且つケース内の空間6の中心を含む仮想面VSを挟んで一方側に配置される部位の総面積と、他方側に配置される部位の総面積とが非対
称となるように配置されている。このような複数の仕切板5a~5cの配置により、ケース内の空間6に形成される複数の伝播経路の長さを大きく異なるものにすることが可能である。
【0066】
図26は、第10実施形態の構成において粒子速度のベクトルを示す解析図である。この解析結果から、音波の伝播経路を読み取ることが可能である。
【0067】
図27は、
図26の解析結果に基づき、音波の伝播経路の一部を模式的に示した図である。
図27の矢印SW11に示すように、ダクト内の通路3からケース内の空間6に入射した音波の一部は、第2仕切板5bよりダクト2側の領域から、第2仕切板5bのZ方向の一方の隙を通り、第1仕切板5aと第2仕切板5bとの間の領域に進むものと、そこから第1仕切板5aのZ方向の一方の隙を通り、ケース天井4aと第1仕切板5aとの間の領域に進むものがある。
また、矢印SW12に示すように、ダクト内の通路3からケース内の空間6に入射した音波の他の一部は、第2仕切板5bよりダクト2側の領域から、第2仕切板5bのZ方向の他方の隙を通り、第1仕切板5aと第2仕切板5bとの間の領域に進むものと、第1仕切板5aのZ方向の他方の隙を通り、ケース天井4aと第1仕切板5aとの間の領域に進むものがある。そのうち、矢印SW11に示した伝播経路のうちケース天井4aと第1仕切板5aとの間の領域に進むものは、矢印SW12に示した伝播経路のうちケース天井4aと第1仕切板5aとの間の領域に進むものより長くなっている。
【0068】
このように、第10実施形態では、仮想面VSを挟んで複数の仕切板5a~5cを非対称に配置することで、仮想面VSを挟んで一方側に形成される伝播経路の長さと、他方側に形成される伝播経路の長さとが異なるものとなる。そのため、ケース内の空間6に形成される複数の伝播経路を伝播する音波をより広帯域化することが可能である。したがって、この消音器1は、ダクト内の通路3の騒音に対する消音特性をより広帯域化することができる。
【0069】
ここで、第10実施形態に対する第2比較例として、
図28に有底筒状の消音管10を示す。
図28に示した消音管10は、上述した特許文献1に開示されている構成の一例に相当するものである。消音管10の途中には屈曲部11が設けられており、ダクト2から突出する消音管10の突出量H2が抑えられている。なお、
図28に示した第2比較例の消音管10の突出量H2と、
図25に示した第10実施形態の消音器1のケース4の突出量H1とは同一であるとする。
【0070】
図28の矢印SW13、SW14に示すように、ダクト2から消音管10に入射した音波は、消音管10の深部で反射し、再び消音管10を通ってダクト2に放出される。その消音管10からダクト2に放出される音波とダクト内の通路3を進む音波との干渉により、ダクト内の騒音が消音される。しかし、この第2比較例の構成では、消音管10の長さに応じて消音される周波数が決まるため、消音効果の得られる周波数帯域が狭いといった問題がある。
【0071】
図29に示すグラフは、第10実施形態と第2比較例について、周波数と騒音低減量との関係(すなわち、消音特性)を解析したものである。
図29のグラフでは、第10実施形態の構成による消音特性を実線C1に示し、第2比較例による消音特性を破線D1に示している。実線C1のピーク値の周波数は、破線D1のピーク値の周波数より低い値になっている。また、実線C1について矢印C2で示した周波数域は、破線D1について矢印D2で示した周波数域より非常に広いものとなっている。このように、第10実施形態の消音器1は、ケース内の空間6に形成される複数の伝播経路の長さを異なるものとし、さらに、その複数の伝播経路の長さを長くすることで、第2比較例に対して消音特性を広帯域化かつ低周波化することが可能である。
【0072】
また、
図30に示すグラフは、第10実施形態と第9実施形態について、消音特性(すなわち、周波数と騒音低減量との関係)を解析したものである。
図30のグラフでは、第10実施形態の構成による消音特性を実線C1に示し、第9実施形態の構成による消音特性を破線A1に示している。実線C1のピーク値の周波数は、破線A1のピーク値の周波数より高い値となっているが、実線C1について矢印C2で示した周波数域は、破線A1について矢印A2で示した周波数域より非常に広いものとなっている。このように、第10実施形態の消音器1は、ケース内の空間6に形成される複数の伝播経路の長さをより異なるものとすることで、第9実施形態の消音器1に対して消音特性をより広帯域化することが可能である。
【0073】
なお、第10実施形態の構成についても、仕切板5の数を増やすか仕切板5の長さを延ばすなどして、複数の伝播経路の長さを長くすれば、消音特性をより低周波化することが可能である。
【0074】
以上説明した第10実施形態では、消音器1の備える複数の仕切板5a~5cは、境界面BSに垂直で且つケース内の空間6の中心を含む仮想面VSを挟んで一方側に配置される部位の総面積と、他方側に配置される部位の総面積とが非対称となるように配置されている。
これにより、ケース内の空間6に形成される音波の伝播経路は、仮想面VSを挟んで一方側に形成される伝播経路の長さと、他方側に形成される伝播経路の長さとが異なるものとなる。そのため、ケース内の空間6に形成される複数の伝播経路を伝播する音波をより広帯域化することが可能である。したがって、第10実施形態の消音器1は、ダクト内の通路3の騒音に対する消音特性をより広帯域化することができる。
【0075】
(第11実施形態)
第11実施形態について説明する。第11実施形態は、第10実施形態で説明した消音器1に対してケース内の構成を変更したものであり、その他については第10実施形態と同様であるため、第10実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0076】
図31に示すように、第11実施形態の消音器1は、ケース内の空間6に、通気性を有する多孔質材9が充填されている。多孔質材9として、例えばウレタン、またはグラスウールなどが採用される。多孔質材9の音響インピーダンスにより、消音特性を広帯域化または低周波化することが可能である。
【0077】
第11実施形態では、ケース内の空間6に多孔質材9を充填することで、仕切板5を固定するための構成が不要となり、消音器1の構成を簡素にすることができる。
【0078】
一方、ケース4の内壁などに仕切板5を固定した構成であれば、ケース内の空間6に充填した多孔質材9の位置ずれ(即ち、偏りまたは移動)が防がれるので、長期間使用による消音特性の悪化を抑えることができる。
【0079】
ここで、
図32に、第11実施形態に対する第3比較例を示す。第3比較例の消音器1は、ケース内の空間6に多孔質材9のみを充填したものであり、仕切板5を備えていない。
【0080】
図33に示すグラフは、第11実施形態の構成とそれに対する第3比較例について、周波数と騒音低減量との関係(すなわち、消音特性)を解析したものである。
図33のグラフでは、第11実施形態の構成による消音特性を実線Fに示し、第3比較例による消音特性を破線Gに示している。約650Hz以下の周波数において、実線Fの騒音低減量は、破線Gの騒音低減量より大きい値となっている。このように、第11実施形態の消音器1は、ケース内の空間6に多孔質材9と共に仕切板5を備えることで、第3比較例に対して低周波の吸音特性を向上することが可能である。
【0081】
(第12実施形態)
第12実施形態について説明する。第12実施形態は、車両用空調ユニットに消音器1を設置する形態を説明するものである。
【0082】
図34に示すように、車両用空調ユニット20は、空調ケース21、エバポレータ22、ヒータコア23、エアミックスドア24、および吹出開口部ドア25などを備えている。
空調ケース21は、第1~第11実施形態で説明したダクト2に相当する部材である。空調ケース21は、空調ユニット20の外殻を成す。空調ケース21の内側には、空気が流れる通路3が形成されている。なお、
図34では、通路3内の空気の流れ方向を白抜き矢印で示している。また、空調ケース21は、通路3の空気流れ方向下流側に、車室内の所定領域に空気を吹き出すための複数の吹出開口部26を有している。吹出開口部26には、図示しない吹出ダクトが接続されることがある。
【0083】
空調ケース21の内部には、エバポレータ22、ヒータコア23、エアミックスドア24、および吹出開口部ドア25などが設けられている。
【0084】
エバポレータ22は、通路3を流れる空気を冷却するための熱交換器である。エバポレータ22は、図示しない冷凍サイクルの一部を構成している。エバポレータ22は、その内部を流れる冷媒とエバポレータ22を通過する空気とを熱交換させ、冷媒を蒸発させると共に空気を冷却する。
【0085】
ヒータコア23は、通路3を流れる空気を加熱するための熱交換器である。ヒータコア23は、その内部を流れるエンジン冷却水または高圧冷媒とヒータコア23を通過する空気とを熱交換させ、エンジン冷却水または高圧冷媒の熱により空気を加熱する。
【0086】
空調ケース内の通路3においてエバポレータ22とヒータコア23との間には、エアミックスドア24が設けられている。エアミックスドア24は、エバポレータ22を通過した後にヒータコア23を迂回する空気と、エバポレータ22を通過した後にヒータコア23を通過する空気との割合を調整する。
【0087】
吹出開口部ドア25は複数の吹出開口部26にそれぞれ設けられており、吹出開口部261の開口面積を調整する。
【0088】
第12実施形態の消音器1は、空調ケース21内の通路3を伝播する騒音を低減するために空調ケース21の外側または内側に設けられる。
図34では、空調ケース21に対して消音器1を設置することが好ましい箇所を例示的に破線P1~P3で示している。なお、空調ケース21に対して1個または複数個の消音器1を設置してもよい。空調ケース21に消音器1を設置することで、空調装置から車室内に放出される騒音を低減し、空調性能(すなわち乗員の快適性)を高めることができる。
【0089】
なお、図示は省略するが、消音器1は、空調ケース21の吹出開口部26に接続される吹出ダクトに設置してもよい。そのようにしても、上記と同様に、空調装置から車室内に放出される騒音を低減し、空調性能を高めることができる。
【0090】
(第13実施形態)
第13実施形態について説明する。第13実施形態は、第1実施形態等に対してダクト2に対する消音器1の設置方法を変更したものであり、その他については第1実施形態等と同様であるため、第1実施形態等と異なる部分についてのみ説明する。
【0091】
図35に示すように、第13実施形態の消音器1は、ケース4のうち境界層8側の一部がダクト内の通路3に入り込み、ケース4のうち天井側の一部がダクト2の外壁からY方向に突出している。このような第13実施形態の構成においても、上述した第1~第12実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0092】
(第14実施形態)
第14実施形態について説明する。第14実施形態も、第1実施形態等に対してダクト2に対する消音器1の設置方法を変更したものであり、その他については第1実施形態等と同様であるため、第1実施形態等と異なる部分についてのみ説明する。
【0093】
図36に示すように、第14実施形態の消音器1は、ケース4の全体がダクト内の通路3に入り込んでいる。このような第14実施形態の構成においても、上述した第1~第13実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0094】
(他の実施形態)
(1)上述した各実施形態では、消音器1は、1~4枚の仕切板5、5a~5dを備えるものについて説明したが、それに限らず、仕切板5の枚数は任意に設定することが可能である。また、仕切板5は任意の形状のものを採用することが可能であり、平面であっても曲面であってもよい。
【0095】
(2)上述した各実施形態では、消音器1は、直方体または立方体のケース4を備えるものについて説明したが、それに限らず、ケース4は任意の形状のものを採用することが可能であり、また、ケース4の壁は平面であっても曲面であってもよい。
【0096】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。
【0097】
(まとめ)
上述の実施形態の一部または全部で示された第1の観点によれば、両側または片側に開口を有する通路が形成されたダクトに設けられる消音器は、ダクト内の通路に連通する空間を形成するケースと、そのケース内の空間に設けられる1または複数の仕切板とを備える。その仕切板の少なくとも1つは、ケース内の空間とダクト内の通路との境界面に平行な面方向に位置するケース内壁の少なくとも一部から離れた位置に設けられている。
【0098】
第2の観点によれば、仕切板の少なくとも1つは、ケース内の空間とダクト内の通路との境界面に垂直で且つケース内の空間の中心を含む仮想面を挟んで対向する一方のケース内壁および他方のケース内壁から離れた位置に設けられている。
【0099】
第3の観点によれば、消音器は、ケース内の空間とダクト内の通路との境界に設けられる境界層をさらに備える。境界層は、ケース内の空間とダクト内の通路とを仕切ると共に、ケース内の空間とダクト内の通路との通気性を確保するものである。
これにより、境界層の素材、厚み、境界層が有する通気口の大きさなどを調整することで、消音特性を広帯域化または低周波化することが可能である。
また、ダクト内の通路に気体が流れる場合、その気流がケース内の空間に入り込むことが境界層により抑制される。さらに、ダクト内の通路を流れる気流がケースの内壁に当たり気流が乱れることが境界層により抑制される。そのため、この消音器は、ケースを設けることによる新たな騒音の発生を境界層により防ぐことで、騒音低減効果を向上することができる。
【0100】
第4の観点によれば、ダクト内の通路は、気体が流れる構成となっている。
これにより、ダクト内の通路を流れる気流がケース内の空間に入り込むことを、境界層により抑制することができる。また、ダクト内の通路を流れる気流がケースの内壁に当たり気流が乱れることを、境界層により抑制することができる。そのため、この消音器は、ダクト内の通路に気体が流れる場合でも、騒音低減効果を向上することができる。
【0101】
第5の観点によれば、複数の仕切板は、所定の仕切板と他の仕切板を有している。その所定の仕切板と他の仕切板とは、ケース内の空間とダクト内の通路との境界面に対し垂直な方向に所定の距離をあけて配置されている。また、所定の仕切板と他の仕切板とは、所定の仕切板とケース内壁との隙に対応する位置に他の仕切板が配置されている。さらに、所定の仕切板と他の仕切板とは、境界面に対し垂直な方向から視て所定の仕切板の一部と他の仕切板の一部が重なるように配置されている。
これにより、ケースを大型化することなく、ケース内に形成される音波の伝播経路を長くすることが可能である。したがって、この消音器は、設置スペースの増加を抑えると共に、より低周波の騒音を低減することで騒音低減特性を向上することもできる。
【0102】
第6の観点によれば、複数の仕切板は、ケース内の空間とダクト内の通路との境界面に垂直で且つケース内の空間の中心を含む仮想面を挟んで一方側に配置される部位の総面積と、他方側に配置される部位の総面積とが非対称となるように配置されている。
これにより、ケース内の空間に形成される音波の伝播経路は、仮想面を挟んで一方側に形成される伝播経路の長さと、他方側に形成される伝播経路の長さとが異なるものとなる。そのため、ケース内の空間に形成される複数の伝播経路を伝播する音波をより広帯域化することが可能である。したがって、この消音器は、ダクト内の通路の騒音に対する消音特性をより広帯域化することができる。
【0103】
第7の観点によれば、ケース内の空間には、通気性を有する多孔質材が充填されている。
これにより、多孔質材の素材を選択することで、消音特性を広帯域化または低周波化することが可能である。
また、ケース内の空間に多孔質材を充填することで、仕切板を固定するための構成が不要となり、消音器の構成を簡素にすることができる。
一方、ケースの内壁などに仕切板を固定した構成であれば、ケース内の空間に充填した多孔質材の位置ずれが防がれるので、長期間使用による消音特性の変化を抑えることができる。
【符号の説明】
【0104】
1 消音器
2 ダクト
3 通路
4 ケース
4a~4e ケース内壁
5、5a~5d 仕切板
6 空間
BS 境界面
VS 仮想面