(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/318 20060101AFI20240220BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20240220BHJP
H01L 21/338 20060101ALI20240220BHJP
H01L 29/778 20060101ALI20240220BHJP
H01L 29/812 20060101ALI20240220BHJP
H01L 21/337 20060101ALI20240220BHJP
H01L 29/808 20060101ALI20240220BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20240220BHJP
C23C 16/44 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
H01L21/318 B
H01L21/31 B
H01L29/80 H
H01L29/80 P
C23C16/42
C23C16/44 J
(21)【出願番号】P 2020115056
(22)【出願日】2020-07-02
【審査請求日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2019161282
(32)【優先日】2019-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】住吉 和英
(72)【発明者】
【氏名】岡田 政也
(72)【発明者】
【氏名】井上 和孝
(72)【発明者】
【氏名】米村 卓巳
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-150106(JP,A)
【文献】特開2019-102722(JP,A)
【文献】特開2019-067887(JP,A)
【文献】特開2018-181885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/318
H01L 21/31
H01L 21/338
H01L 21/337
C23C 16/42
C23C 16/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体層に接する窒化珪素パッシベーション膜を成膜する方法であって、
前記窒化物半導体層を含む基板が収容された反応炉内の雰囲気をNH
3を含む雰囲気、あるいは、H
2を含む雰囲気に置換する工程と、
前記反応炉内の温度を第1の温度に昇温する昇温工程と、
前記反応炉内の温度を前記第1の温度とし、前記反応炉内の雰囲気を前記NH
3あるいは、前記H
2を含む雰囲気とした状態に3分以上保持するクリーニング工程と、
前記反応炉内の温度を前記第1の温度よりも低い第2の温度に降温する降温工程と、
前記反応炉内の圧力を100Pa以下の第1の圧力とした状態で、前記反応炉内にジクロロシラン(SiH
2Cl
2)を供給して、前記窒化珪素パッシベーション膜を成膜する工程と、
を含む、窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法。
【請求項2】
前記クリーニング工程において、前記反応炉内の圧力は前記第1の圧力よりも大きい第2の圧力に保持される、請求項1に記載の窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法。
【請求項3】
前記第2の圧力は300Pa以上である、請求項2に記載の窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法。
【請求項4】
前記第2の温度は、700℃以上であり、
前記第1の温度は、前記第2の温度よりも少なくとも20℃高い温度である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法。
【請求項5】
前記第1の温度は、750℃以上且つ900℃以下である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法。
【請求項6】
前記降温工程において、前記反応炉内の圧力を前記第1の圧力に減圧する、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法。
【請求項7】
窒化物半導体を主構成材料とする半導体装置の製造方法であって、
前記窒化物半導体層を含む半導体積層構造を前記基板上に成長する工程と、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の方法を用いて、前記半導体積層構造に接する窒化珪素パッシベーション膜を成膜する工程と、
前記窒化珪素パッシベーション膜に開口を形成し、該開口を介して前記半導体積層構造に接触する電極を形成する工程と、
を含む、半導体装置の製造方法。
【請求項8】
窒化物半導体層に接する窒化珪素パッシベーション膜を成膜する方法であって、
前記窒化物半導体層を含む基板が収容された反応炉内の雰囲気をH
2を含む雰囲気に置換する工程と、
前記反応炉内の温度を第1の温度に昇温する昇温工程と、
前記反応炉内の温度を前記第1の温度とした状態に保持する工程と、
前記反応炉内の温度を前記第1の温度よりも低い、若しくは同じ、第2の温度に降温する降温工程と、
前記反応炉内の圧力を100Pa以下の第1の圧力とした状態で、前記反応炉内にジクロロシラン(SiH
2Cl
2)を供給して、前記窒化珪素パッシベーション膜を成膜する工程と、
を含む、窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法。
【請求項9】
前記保持する工程において、前記反応炉内のH
2分圧を0.5%以上とする、請求項
8に記載の窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法。
【請求項10】
前記保持する工程において、前記反応炉内の圧力を300Pa以上とする、請求項
8又は請求項
9に記載の窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法。
【請求項11】
前記保持する工程では、前記反応炉内の温度を前記第1の温度とした状態に2分以上保持する、請求項
8から請求項
10のいずれか一項に記載の窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法、半導体装置の製造方法及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、窒化物半導体を用いた半導体装置としての高電子移動度トランジスタ(HEMT)の製造に関する技術が開示されている。特許文献1に記載されたHEMTは、SiCなどの基板上の窒化物半導体層と、当該窒化物半導体層の表面上に成膜された窒化珪素パッシベーション膜と、を備える。窒化珪素パッシベーション膜は、減圧CVD法により成膜されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、例えばGaN系半導体などの窒化物半導体を用いた半導体装置が開発されている。半導体装置では、半導体の最表面を保護(パッシベーション)するために絶縁性のシリコン化合物膜が設けられるが、窒化物半導体を用いた半導体装置の場合、同じ窒化物である窒化珪素(SiN)膜が用いられることが多い。窒化物半導体上に窒化珪素膜を成膜する場合には、比較的低温で成膜する為に、プラズマを用いた成膜方法(プラズマCVD、電子サイクロトロン共鳴(Electron Cyclotron Resonance;ECR)スパッタ等)が用いられる。従って、窒化物半導体の表面には、プラズマによるダメージが形成される。
【0005】
一方、シリコン半導体上に窒化珪素膜を成膜する場合には、減圧(Low Pressure;LP)CVD法を用いる。減圧CVD法によれば、成膜圧力を下げる代わりに成膜温度を高くすることにより、良質の膜を形成可能である。このため、減圧CVD法によれば、下地結晶であるシリコン半導体へのプラズマによるダメージが抑制される。発明者は、窒化物半導体上の窒化珪素膜にも減圧CVD法を用いることができれば、プラズマによるダメージを窒化物半導体の表面に与えることなく、窒化珪素膜を好適に形成することができると考えた。
【0006】
減圧CVD法により窒化珪素膜を成膜すると、エピタキシャル成長後の待機期間中にエピタキシャルウェハの表面を大気に暴露することにより酸化膜が形成される。それに加え、高温環境下において、装置内におけるデガスによる水分及び酸素が存在することで、窒化物半導体の表面に酸化層(例えば、酸化ガリウム層、酸化アルミニウム層、又は酸化インジウム層等)が形成されることも考えられる。こうしてできた窒化物半導体と窒化珪素膜との界面の酸化膜及び酸化層からの酸素により、半導体装置の動作特性が劣化する場合がある。
【0007】
なお、シリコン半導体上の窒化珪素膜の成膜で成熟してきた一般的な減圧CVD技術において、シリコン半導体と窒化珪素膜との界面の酸素に関する考察は求められていなかった。シリコン半導体上の窒化珪素膜の成膜においては、シリコン半導体の表面に酸化膜が形成された場合、シリコンの材料の特性上、表面の酸化膜を簡易な手法で取り除くことができるからである。また、酸化膜が電気特性に影響を及ぼすことがほとんどないからである。
【0008】
発明者の知見によれば、窒化物半導体への窒化珪素膜の成膜に減圧CVD法を適用する際には、窒化物半導体と窒化珪素膜との界面の酸素量を低減しないと、かかる界面の酸素が半導体装置の動作特性に影響を与える。例えば、ゲート端電界が集中する界面の近傍に、デガスによって質の悪い酸化膜が形成されると、リーク電流が増加し、電気的特性が低下してしまう。
【0009】
しかしながら、一般的な減圧CVD法において、界面の酸素量の低減のために、脱離ガス(ここでは水分及び酸素)を完全に無くすことは、装置の機構上難しい。これは、成膜試料であるエピタキシャルウェハそのものからのデガスがあるからである。さらに、装置内部の成膜室のすべての部材を大気暴露させない管理が難しいからである。
【0010】
本開示は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、減圧CVD法を用いて窒化物半導体上に窒化珪素パッシベーション膜を成膜する際に、窒化物半導体と窒化珪素パッシベーション膜との界面の酸素量を低減できる窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法及び半導体装置の製造方法、並びに、電気的特性の低下を抑制できる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、一実施形態に係る窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法は、窒化物半導体層に接する窒化珪素パッシベーション膜を成膜する方法であって、窒化物半導体層を含む基板が載置された反応炉内の雰囲気をNH3を含む雰囲気、あるいは、H2を含む雰囲気に置換する工程と、反応炉内の温度を第1の温度に昇温する昇温工程と、反応炉内を第1の温度とし、反応炉内の雰囲気をNH3あるいは、H2を含む雰囲気とした状態に3分以上保持するクリーニング工程と、反応炉内の温度を第1の温度よりも低い第2の温度に降温する降温工程と、反応炉内の圧力を30Pa以下の第2の圧力とした状態で、反応炉内にジクロロシラン(SiH2Cl2)を供給して、窒化珪素パッシベーション膜を成膜する工程と、を含む。
【0012】
また、別の実施形態に係る半導体装置は、基板と、窒化物半導体からそれぞれ構成される複数の窒化物半導体層を含み、基板上に設けられた半導体積層部と、半導体積層部の表面を覆う窒化珪素パッシベーション膜と、窒化珪素パッシベーション膜と半導体積層部との界面において、0.16×1015atom/cm2以下の界面酸素量で存在する酸素原子と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本開示による窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法及び半導体装置の製造方法によれば、減圧CVD法を用いて窒化物半導体上に窒化珪素パッシベーション膜を成膜する際に、窒化物半導体と窒化珪素パッシベーション膜との界面の酸素量を低減できる。また、本開示による半導体装置によれば、電気的特性の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る成膜方法によって形成される窒化珪素パッシベーション膜を示す側面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態による窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、窒化珪素パッシベーション膜を成長する際の反応炉内の温度及び供給ガスの手順を示す図である。
【
図4】
図4は、比較例1による窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、比較例1によって窒化珪素パッシベーション膜を成長する際の反応炉内の温度及び供給ガスの手順を示す図である。
【
図6】
図6は、比較例2による窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、比較例2によって窒化珪素パッシベーション膜を成長する際の反応炉内の温度及び供給ガスの手順を示す図である。
【
図8】
図8は、昇温条件と界面酸素量との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、クリーニング時間と界面酸素量との関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、クリーニング圧力と界面酸素量との関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、クリーニング温度と界面酸素量との関係を示すグラフである。
【
図12】
図12は、第2実施形態による製造方法の各工程を示す図である。
【
図13】
図13は、第2実施形態による製造方法の各工程を示す図である。
【
図14】
図14は、第2実施形態による製造方法の各工程を示す図である。
【
図15】
図15は、窒化珪素パッシベーション膜の成膜後のToF-SIMS分析の結果を示すグラフである。
【
図16】
図16は、第3実施形態による窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法を示すフローチャートである。
【
図17】
図17は、比較例1によって窒化珪素パッシベーション膜を成長する際の反応炉内の圧力変化を示すグラフである。
【
図18】
図18は、第3実施形態によって窒化珪素パッシベーション膜を成長する際の反応炉内の圧力変化を示すグラフである。
【
図19】
図19は、第4実施形態による窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法を示すフローチャートである。
【
図20】
図20は、窒化珪素パッシベーション膜を成長する際の反応炉内の温度及び供給ガスの手順を示す図である。
【
図21】
図21は、雰囲気ガスのH
2分圧と界面酸素量との関係を示すグラフである。
【
図22】
図22は、反応炉内の圧力と界面酸素量との関係を示すグラフである。
【
図23】
図23は、クリーニング時間と界面酸素量との関係を示すグラフである。
【
図24】
図24は、クリーニング時間と界面酸素量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の実施形態に係る窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法、半導体装置の製造方法、及び半導体装置の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1は、本開示の第1実施形態に係る成膜方法によって形成される窒化珪素パッシベーション膜を示す側面図である。この窒化珪素パッシベーション膜3は、窒化物半導体層5の表面と接しており、窒化物半導体層5の表面上に減圧CVD法によって成膜されたものである。窒化物半導体層5は、例えばSiCなどの基板7上に成長した層であって、例えばGaN層である。窒化物半導体層5及び基板7は、エピタキシャルウェハ9を構成する。エピタキシャルウェハ9と窒化珪素パッシベーション膜3との界面には、酸素原子11が存在している。本明細書中では、この界面における酸素の量(以下「界面酸素量」という。)を表すために、「atom/cm
2」(原子数/cm
2)という単位を用いる。なお、界面酸素量は、SIMS分析による深さ方向の酸素濃度の分布を基に、エピタキシャルウェハ9と窒化珪素パッシベーション膜3との界面における酸素の量を評価した値である。具体的には、SIMS分析は、減圧CVD法における成膜のフローにより、窒化珪素パッシベーション膜3の成膜を実施した後に行われる。
図1に示されるエピタキシャルウェハ9と窒化珪素パッシベーション膜3との界面には、酸素原子11が、例えば、0.16×10
15atom/cm
2以下の界面酸素量で存在している。
【0017】
図2は、本実施形態による窒化珪素パッシベーション膜3の成膜方法を示すフローチャートである。まず、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いて、窒化物半導体層5を基板7上に成長し、エピタキシャルウェハ9を作製する(工程S1)。次に、減圧CVD法を用いて、窒化珪素パッシベーション膜3を窒化物半導体層5上に成長する(工程S2)。この工程S2の詳細について、
図2及び
図3を参照しながら説明する。
図3は、窒化珪素パッシベーション膜3を成長する際の反応炉内の温度及び供給ガスの手順を示す図である。
【0018】
まず、反応炉内の温度を、500℃以下に設定する(工程S21)。この温度は、400℃以下であってもよく、或いは300℃以下であってもよい。また、この温度は、室温(25℃)以上であってもよい。一実施例では、工程S21において設定する温度は400℃である。反応炉内の温度が設定した温度で安定した後、窒化物半導体層5を含むエピタキシャルウェハ9を大気雰囲気にて搬送装置にセットし、反応炉内に導入する(工程S22)。次に、反応炉内の真空パージとNH3パージとを繰り返し行うことにより(サイクルパージ)、反応炉内のガス雰囲気をNH3を含む雰囲気に置換する(工程S23)。一実施例では、NH3雰囲気に置換する。なお、この工程S23では、反応炉内の大気雰囲気を、NH3分圧が0.1以上であるNH3及びN2の混合雰囲気に置換してもよい。
【0019】
上記のサイクルパージが終了した後、反応炉内の圧力を、成膜時の圧力(後述する第1の圧力)よりも大きい第2の圧力に変更する(工程S24)。この第2の圧力は、300Pa以上であってもよく、5kPa以上であってもよく、或いは10kPa以上であってもよい。また、この第2の圧力は、大気圧(100kPa)以下であってもよい。一実施例では、第2の圧力は3kPaである。そして、反応炉内の圧力を第2の圧力に維持しつつ、反応炉内を700℃より高い第1の温度に昇温する(工程S25、昇温工程)。この第1の温度は、成膜温度(後述する第2の温度)よりも高い温度である。第1の温度は、第2の温度よりも20℃以上高い温度であってもよい。また、第1の温度は、800℃以上であってもよく、また900℃以下であってもよい。一実施例では、第1の温度は800℃である。
【0020】
続いて、反応炉内を、第1の温度(ここでは800℃)、NH3を含む雰囲気(ここではNH3雰囲気)、及び第2の圧力(ここでは3kPa)とした状態に3分間以上保持する(工程S26、クリーニング工程;保持する工程)。一実施例では、保持時間は10分間である。なお、保持時間は2分間以上であってもよい。工程S26を行うことにより、反応炉内をクリーニングする。次に、成膜環境の準備を行う(降温工程)。具体的には、次に説明する工程S27,S28を行う。まず、成膜のために反応炉内の温度を第2の温度に降温する(工程S27)。ただし、第2の温度は、第1の温度よりも低い温度である。第2の温度は、700℃以上であってもよい。一実施例では、第2の温度は780℃である。反応炉内の温度が第2の温度に安定したのち、反応炉内の圧力を、100Pa以下の第1の圧力に減圧する(工程S28)。この第1の圧力は、40Pa以下であってもよく、また10Pa以上であってもよい。一実施例では、第1の圧力は20Paである。
【0021】
そして、反応炉内を第1の圧力(ここでは20Pa)とした状態で、反応炉内にジクロロシラン(SiH2Cl2)を供給して、窒化珪素パッシベーション膜3を成膜する(工程S29)。この工程S29では、NH3流量及びジクロロシラン流量を互いに略等しくしてもよい。NH3流量及びジクロロシラン流量は、例えば共に100sccmである。1sccmは、1atm、0℃における1cm3/分を表す。
【0022】
窒化珪素パッシベーション膜3の成膜が完了した後、原料ガスを停止し、反応炉内の温度を所定の温度(例えば700℃)まで下げる。そして、反応炉内の塩素ガスを追い出すため、窒素ガスによるサイクルパージを行い、塩素ガスを検出限界まで希釈する(工程S30)。その後、反応炉からエピタキシャルウェハ9を取り出す(工程S31)。以上の工程により、窒化物半導体層5上に窒化珪素パッシベーション膜3が成膜される。
【0023】
以上に説明した、本実施形態による窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法によって得られる効果について、比較例1及び比較例2と対比しながら説明する。まず、比較例1について説明する。
図4は、比較例1による窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法を示すフローチャートである。
図5は、比較例1によって窒化珪素パッシベーション膜を成長する際の反応炉内の温度及び供給ガスの手順を示す図である。比較例1では、工程S1ののち、減圧CVD法を用いて、窒化珪素パッシベーション膜3を窒化物半導体層5上に成長する(工程S4)。具体的には、まず、反応炉内の温度を700℃に設定する(工程S41)。反応炉内の温度が700℃で安定した後、窒化物半導体層5を含むエピタキシャルウェハ9を大気雰囲気にて搬送装置にセットし、反応炉内に導入する(工程S42)。次に、反応炉内の真空パージとN
2パージとを繰り返し行うことにより、反応炉内の大気雰囲気をN
2雰囲気に置換する(工程S43)。
【0024】
その後、反応炉内の圧力を、成膜圧力と同程度の例えば20Paに減圧する(工程S44)。そして、反応炉内の圧力を維持しつつ、反応炉内を成膜温度(例えば800℃)まで昇温する(工程S45)。そして、反応炉内の温度が安定するまで待機する(工程S46)。反応炉内の温度が安定したら、反応炉内の雰囲気をN2雰囲気から成膜ガスであるNH3雰囲気に変更するために、真空引きを行い、NH3ガスをパージする(工程S47)。このとき、反応炉内の圧力を成膜圧力である20Paとする。NH3ガスの流量は100sccmである。そして、NH3雰囲気の圧力が安定したら、シリコン系の原料ガスであるジクロロシランを反応炉内に供給して、窒化珪素パッシベーション膜3を成膜する(工程S48)。ジクロロシラン流量は100sccmである。
【0025】
窒化珪素パッシベーション膜3の成膜が完了した後、原料ガスを停止し、反応炉内の温度を所定の温度(例えば700℃)まで下げる。そして、反応炉内の塩素ガスを追い出すため、窒素ガスによるサイクルパージを行い、塩素ガスを検出限界まで希釈する(工程S49)。その後、反応炉からエピタキシャルウェハ9を取り出す(工程S50)。以上の工程により、窒化物半導体層5上に窒化珪素パッシベーション膜3が成膜される。
【0026】
次に、比較例2について説明する。
図6は、比較例2による窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法を示すフローチャートである。
図7は、比較例2によって窒化珪素パッシベーション膜を成長する際の反応炉内の温度及び供給ガスの手順を示す図である。比較例2では、工程S1ののち、減圧CVD法を用いて、窒化珪素パッシベーション膜3を窒化物半導体層5上に成長する(工程S6)。具体的には、まず、反応炉内の温度を400℃に設定する(工程S61)。反応炉内の温度が400℃で安定した後、窒化物半導体層5を含むエピタキシャルウェハ9を大気雰囲気にて搬送装置にセットし、反応炉内に導入する(工程S62)。次に、反応炉内の真空パージとNH
3パージとを繰り返し行うことにより、反応炉内の大気雰囲気をNH
3雰囲気に置換する(工程S63)。
【0027】
その後、反応炉内の圧力を、3kPaに変更する(工程S64)。そして、反応炉内の圧力を維持しつつ、反応炉内を成膜温度(例えば800℃)まで昇温する(工程S65)。そして、反応炉内の温度が安定したら、反応炉内の圧力を成膜圧力である20Paまで減圧する(工程S66)。そして、シリコン系の原料ガスであるジクロロシランを反応炉内に供給して、窒化珪素パッシベーション膜3を成膜する(工程S67)。ジクロロシラン流量は100sccmである。
【0028】
窒化珪素パッシベーション膜3の成膜が完了した後、原料ガスを停止し、反応炉内の温度を所定の温度(例えば700℃)まで下げる。そして、反応炉内の塩素ガスを追い出すため、窒素ガスによるサイクルパージを行い、塩素ガスを検出限界まで希釈する(工程S68)。その後、反応炉からエピタキシャルウェハ9を取り出す(工程S69)。以上の工程により、窒化物半導体層5上に窒化珪素パッシベーション膜3が成膜される。
【0029】
図2及び
図3に示された本実施形態の工程S25では、
図4及び
図5に示された比較例1の工程S45と異なり、反応炉内の雰囲気をNH
3を含む雰囲気とし、反応炉内の圧力を第1の圧力よりも大きい第2の圧力とした状態で昇温している。表1及び
図8は、昇温条件と界面酸素量との関係を示す。表1は、昇温条件(ここでは、雰囲気ガスの種類及び圧力)を変更して成膜し、それぞれの昇温条件下で成膜された場合の界面酸素量(窒化物半導体層5と窒化珪素パッシベーション膜3との界面の酸素量)を比較した結果を示す。
図8は、表1の比較結果をプロットしたグラフである。
図8のグラフにおいて、横軸は昇温条件としての圧力であり、縦軸は界面酸素量である。なお、以下で示す界面酸素量は、反応炉内から搬出したエピタキシャルウェハ9をSIMS分析によって調査して得られた数値である。
【0030】
【0031】
表1の比較結果を得るにあたり、反応炉内にエピタキシャルウェハ9を導入する際の温度を400℃とした。また、上記表1の条件下で反応炉内を昇温した後、反応炉内の温度を800℃、反応炉内の雰囲気をN2雰囲気、反応炉内の圧力を30Paとした状態に10分間保持することにより、反応炉内をクリーニングした。また、反応炉内の温度を700℃、反応炉内の圧力を30Paとした状態で反応炉内にジクロロシランを供給して、窒化珪素パッシベーション膜3を成膜した。
【0032】
表1を参照すると、反応炉内の雰囲気がN2雰囲気の場合よりもNH3雰囲気の場合に界面酸素量が低減されることがわかる。また、反応炉内の圧力が300Pa以上の場合(特に、3000Pa以上の場合)に、界面酸素量が特に低減されることがわかる。なお、以下の比較結果(表2から表4)を得るにあたり、反応炉内を昇温する際の条件として、反応炉内の雰囲気をNH3雰囲気、反応炉内の圧力を3000Paとした。
【0033】
上記表1の比較結果では、昇温条件として雰囲気ガスをNH3とすることで、熱分解によって水素(H2)が発生し、この水素によってエピタキシャルウェハ9の表面の酸化膜に含まれる酸素原子11が還元作用を示して除去されると考えられる。また、この還元作用により、反応炉内に付着している水分及び酸素に含まれる酸素原子11も除去されていると考えられる。特に、反応炉内の圧力が比較的高い場合(例えば、300Pa以上の場合)、水素の発生量が比較的多くなるので、還元作用によって除去される酸素原子11の量も増加する。
【0034】
また、
図2及び
図3に示された本実施形態の工程S26では、
図6及び
図7に示された比較例2と異なり、反応炉内のクリーニングを実施している。具体的には、反応炉内の温度を成膜温度(第2の温度)よりも高い第1の温度、反応炉内の雰囲気をNH
3雰囲気を含む雰囲気、反応炉内の圧力を成膜時の圧力(第1の圧力)よりも高い第2の圧力とした状態に3分以上保持している。以下では、クリーニングを実施する際の保持時間(以下、「クリーニング時間」ともいう。)、反応炉内の雰囲気ガスの種類、反応炉内の温度(以下、「クリーニング温度」ともいう。)、及び反応炉内の圧力(以下、「クリーニング圧力」ともいう。)をそれぞれクリーニング条件という。表2及び
図9は、クリーニング時間と界面酸素量との関係を示す。表2は、クリーニング条件としての保持時間を変更して成膜し、各クリーニング条件下で成膜された場合の界面酸素量を比較した結果を示す。
図9は、表2の比較結果をプロットしたグラフである。
図9のグラフにおいて、横軸はクリーニング時間であり、縦軸は界面酸素量である。なお、クリーニングを行わなかった場合については、表2において時間を0分として示した。また、保持時間以外のクリーニング条件を共通とした。具体的には、雰囲気ガスをNH
3、温度を800℃、圧力を300Paとした。
【0035】
【0036】
表2の比較結果を得るにあたり、クリーニング条件以外の条件については、次のとおりとした。まず、反応炉内にエピタキシャルウェハ9を導入する際の温度を400℃とした。また、上述したように、反応炉内を昇温する際の条件として、反応炉内の雰囲気をNH3雰囲気、反応炉内の圧力を3000Paとした。また、反応炉内の温度をクリーニングの際より低い温度、反応炉内の圧力を30Paとした状態で反応炉内にジクロロシランを供給して、窒化珪素パッシベーション膜3を成膜した。なお、以下で示す比較結果を得る際にも、クリーニング条件以外の条件については同様とした。
【0037】
表2及び
図9を参照すると、反応炉内のクリーニングを実施しなかった場合(すなわち、上記表2における時間が0分の場合)よりも反応炉内のクリーニングを実施した場合に界面酸素量が低減されることがわかる。また、反応炉内のクリーニングを3分以上実施した場合に、界面酸素量が特に低減され、10分以上でより一層低減されることがわかる。
【0038】
次に、反応炉内のクリーニングを10分間実施した場合において、保持時間以外のクリーニング条件のいずれかを変更して成膜し、各クリーニング条件下で成膜された場合の界面酸素量を比較した結果について説明する。表3は、クリーニング条件としての雰囲気ガスの種類及びクリーニング圧力を変更して成膜し、各クリーニング条件下で成膜された場合の界面酸素量を比較した結果を示す。
図10は、表3の比較結果をプロットしたグラフであり、クリーニング圧力と界面酸素量との関係を示す。
図10のグラフにおいて、横軸はクリーニング圧力であり、縦軸は界面酸素量である。ここでは、クリーニング条件としての温度を共通とした。具体的には、温度を800℃とした。表3及び
図10を参照すると、反応炉内の雰囲気ガスがN
2の場合よりもNH
3の場合に界面酸素量がより低減されることがわかる。また、雰囲気ガスをNH
3とすると、圧力が300Pa以上の場合に、界面酸素量が特に低減されることがわかる。
【0039】
【0040】
表4は、クリーニング条件としての温度を変更して成膜し、各クリーニング条件下で成膜された場合の界面酸素量を比較した結果を示す。
図11は、表4の比較結果をプロットしたグラフであり、クリーニング温度と界面酸素量との関係を示す。
図11のグラフにおいて、横軸はクリーニング温度であり、縦軸は界面酸素量である。ここでは、温度以外のクリーニング条件を共通とした。具体的には、雰囲気ガスをNH
3、圧力を3000Paとした。表4を参照すると、温度が750℃以上の場合に、界面酸素量が特に低減されることがわかる。
【0041】
【0042】
以上の結果から、反応炉内の温度を750℃以上、反応炉内の雰囲気をNH3雰囲気、反応炉内の圧力を300Pa以上とした状態で3分間保持することにより、反応炉内のクリーニングを実施した場合に、界面酸素量が特に低減されることがわかった。
【0043】
本実施形態のように、比較例1及び比較例2に対し、成膜温度よりも高い温度、及びNH3を含む雰囲気の環境下において、成膜前のエピタキシャルウェハ9を3分以上曝すことにより、次の(1)及び(2)で示す効果が期待できる。
(1)窒化物半導体層5の表面の酸化膜に含まれる酸素原子11が還元されることにより除去される。
(2)反応炉内に付着した脱離ガスの原因である水分及び酸素に含まれる酸素原子11も還元され、反応炉内で新たな酸化膜が形成されることが抑制される。
【0044】
上記(1)及び(2)の相乗効果により、界面酸素量が十分に低減されるので、ゲートリーク電流が低減される。したがって、半導体装置の電気的特性を向上させることができる。特に、界面酸素量が0.6×1015atom/cm2以下である場合(大気圧の環境下において、0.6×1015cm-2以下である場合)に、ゲートリーク電流が優位に低減され、半導体装置の電気的特性の劣化が抑えられる。
【0045】
ところで、大気にエピタキシャルウェハの表面を曝すと、上記酸素等に加え、例えば炭素、フッ素等(以下、単に「炭素等」という場合がある。)がエピタキシャルウェハに取り込まれることが懸念される。これら炭素等は、窒化物半導体において深いアクセプタ準位を形成する不純物として振る舞う。そのため、炭素等が窒化物半導体に取り込まれると、例えば、半導体装置のリーク電流の増加、コラプス特性の悪化等の問題に直結する。
【0046】
ここで、発明者によれば、フッ素は、炭素及び酸素に比し、反応炉内に多く存在しているとは考えにくい。ところが、エピタキシャル成長後、成膜前にIPA(isopropyl alcohol)を用いた洗浄処理を行い、減圧CVD法を用いて成膜しただけで、窒化物半導体層5(例えばGaN層)の表面にフッ素が1×1011atom/cm2以下の量で検出される。なお、この値は、酸素原子11の量に比べると4桁も小さい値である。反応炉内で行われる処理には、例えばRCA洗浄等のフッ酸(HF)系溶液が用いられる処理が含まれるため、多少ではあるが大気中にフッ素が存在し、エピタキシャルウェハ9の表面に付着すると考えられる。反応炉内にて作業する際には、エピタキシャルウェハ9の表面へのフッ素の付着を回避することは困難である。
【0047】
これに対し、上記(1)及び(2)の相乗効果により、エピタキシャルウェハ9表面の炭素及びフッ素も除去される。これは、NH3を含む雰囲気によってH2が発生するためである。具体的には、残留したフッ素(F)は、雰囲気ガス中の水素原子(H)と反応しフッ酸(HF)を形成して気化される。炭素(C)は、雰囲気ガス中の水素原子(H)と反応しメタン(CH4)を形成して気化される。このように窒化物半導体層5と窒化珪素パッシベーション膜3との界面の炭素及びフッ素が除去されることで、上述したようなエピタキシャルウェハ9の表面の残留不純物に起因した問題が減少する。これにより、ゲートリーク電流が低減され、半導体装置の電気的特性を向上させることができる。
【0048】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態として、上記第1実施形態による窒化珪素パッシベーション膜3の成膜方法を含む、窒化物半導体を主構成材料とする半導体装置の製造方法を説明する。
図12から
図14は、本実施形態による製造方法の各工程を示す図である。本実施形態は、半導体装置としてGaN-HEMTを例示する。
【0049】
まず、
図12(a)に示すように、基板10上に、MOCVD法を用いて、複数の窒化物半導体層を含む積層構造20(半導体積層構造、半導体積層部)を成長する。基板10は、例えば(0001)主面を有するSiC基板であり、積層構造20の積層方向は例えば[0001]方向である。積層構造20は、基板10側から順に形成される核形成層12、電子走行層14、電子供給層16、およびキャップ層18を含む。核形成層12は、例えば厚さ数十nmのAlN層である。電子走行層14は、例えば厚さが1000nmのアンドープGaN層である。電子供給層16は、例えば厚さ20nmのn型AlGaN層である。キャップ層18は、例えば厚さ5nmのn型GaN層である。
【0050】
このとき、大気暴露により、キャップ層18の表面には、酸素膜が形成される。この酸素膜をSIMS分析により調査すると、酸素原子が0.6×1015atom/cm2程度の界面酸素量で存在している。
【0051】
次に、
図12(b)に示すように、積層構造20の上面に接する窒化珪素パッシベーション膜(SiN膜)26を、減圧CVD法を用いて成膜する。このとき、第1実施形態による窒化珪素パッシベーション膜3の成膜方法を適用する。成膜温度は、例えば800℃である。また、原料ガスとして、NH
3ガス及びジクロロシラン(SiH
2Cl
2)を用いる。このとき、SiN膜26と積層構造20との界面において存在する上述した酸化膜をToF-SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)分析により調査すると、酸素原子が酸窒化珪素として存在している。
【0052】
具体的には、エピタキシャル成長後の窒化物半導体は、大気暴露の影響により表面酸化している。しかし、SiN膜26の成膜後、酸化した窒化物半導体の酸素は窒化珪素側に移動し、酸窒化珪素となる。
図15は、窒化珪素パッシベーション膜の成膜後のToF-SIMS分析の結果を示すグラフである。
図15のグラフにおいて、横軸は深さであり、縦軸は二次イオン速度である。ただし、左縦軸は右縦軸よりも1桁大きい。
図15により、窒化ガリウム上の酸化ガリウムが、窒化珪素パッシベーション膜の成膜後に、酸窒化珪素となることがわかる。
【0053】
なお、ToF-SIMS分析は、一次イオンビームとしてのパルスビームの照射によって放出された二次イオンを質量分析する分析法である。ToF-SIMS分析では、少ないイオンビーム照射量(1×1012cm-2以下)にて試料最表面に存在する元素及び分子情報を検出可能である。ToF-SIMS分析において、使用される一次イオンビームとしては、例えば、比較的質量の重いイオン(Bi,Au等)ビーム、微細ビーム化の容易なGaイオンビーム等が挙げられる。
【0054】
続いて、
図12(c)に示すように、SiN膜26上に、フォトレジスト50を塗布する。フォトリソグラフィにより、フォトレジスト50に開口50aを形成する。フォトレジスト50をマスクとして反応性イオンエッチング(RIE)によりSiN膜26及びキャップ層18に開口を形成する。その後、フォトレジスト50を除去する。
【0055】
続いて、
図13(a)に示すように、SiN膜26上に、別のフォトレジスト51を塗布する。フォトリソグラフィにより、フォトレジスト51の開口51aをSiN膜26の開口上に形成する。SiN膜26の開口を介して電子供給層16に接触するソース電極22およびドレイン電極24を、蒸着法を用いて形成する。ソース電極22およびドレイン電極24は、共にTi膜およびAl膜を有する。Ti膜の膜厚は例えば30nm、Al膜の膜厚は例えば300nmである。Ti膜はTa膜でもよい。フォトレジスト51上には金属23が堆積する。その後、フォトレジスト51を除去することにより、フォトレジスト51上の金属23を除去する。これにより、電子供給層16に接するソース電極22およびドレイン電極24が形成される。例えば400℃において熱処理することにより、ソース電極22およびドレイン電極24と電子供給層16とを合金化する。550℃以上であれば、コンタクト抵抗の低抵抗化に更に寄与する。
【0056】
続いて、
図13(b)に示すように、積層構造20上に、更に別のフォトレジスト52を塗布する。フォトリソグラフィにより、フォトレジスト52に開口52aを形成する。フォトレジスト52をマスクとしてRIEによりSiN膜26に開口を形成する。その後、フォトレジスト52を除去する。
【0057】
続いて、積層構造20上に、フォトレジストを塗布する。ゲート電極パターンとなる開口をフォトリソグラフィによりフォトレジストに形成する。蒸着法を用い、
図14(a)に示すように、キャップ層18に接触するゲート電極28を形成する。ゲート電極28は、積層構造20側からNi膜およびAu膜を有する。Ni膜の膜厚は例えば50nm、Au膜の膜厚は例えば400nmである。蒸着法としては、EB蒸着法、スパッタ蒸着法、抵抗加熱蒸着法など種々の方法が用いられる。フォトレジスト上に堆積した金属は、フォトレジストとともに除去される。
【0058】
続いて、
図14(b)に示すように、SiN膜26上に例えばPECVD法により絶縁膜30を形成し、この絶縁膜30によりゲート電極28を覆う。絶縁膜30は、例えば膜厚が500nmのSiN膜である。バッファードフッ酸を用いたエッチングにより絶縁膜30に開口30aを形成し、ソース電極22およびドレイン電極24を露出させる。以上の工程を経て、HEMT1Aが作製される。
【0059】
図14(b)に示すように、作製されたHEMT1Aは、基板10と、複数の窒化物半導体層を含み基板10上に設けられた積層構造20とを備える。積層構造20は、基板10側から順に形成された核形成層12、電子走行層14、電子供給層16、およびキャップ層18を含む。核形成層12、電子走行層14、電子供給層16、およびキャップ層18は、窒化物半導体からそれぞれ構成されている。HEMT1Aは、SiN膜26を更に備える。SiN膜26は、積層構造20の表面を覆っている。具体的には、SiN膜26は、キャップ層18の表面を覆っている。作製されたHEMT1Aにおいては、SiN膜26とキャップ層18との界面には、酸素原子が0.6×10
15atom/cm
2以下の界面酸素量で酸窒化珪素として存在している。SiN膜26は、複数の開口を有する。これらの開口では、SiN膜26から積層構造20(電子供給層16又はキャップ層18)が露出する。
【0060】
また、HEMT1Aは、ソース電極22、ドレイン電極24、ゲート電極28、及び絶縁膜30を更に備える。ソース電極22及びドレイン電極24は、基板10の面に沿って順に並んでいる。ソース電極22、ドレイン電極24、及びゲート電極28は、SiN膜26の開口をそれぞれ覆っている。また、ゲート電極28は、積層構造20上においてソース電極22とドレイン電極24との間に設けられている。絶縁膜30はゲート電極28を覆う保護膜である。
【0061】
以上に説明した半導体装置の製造方法によれば、第1実施形態に記載の方法を用いてSiN膜26を減圧CVD法により成膜することによって、窒化物半導体層(キャップ層18)とSiN膜26との界面の酸素量を低減できる。
【0062】
また、HEMT1Aは、基板10と、窒化物半導体からそれぞれ構成される複数の窒化物半導体層(核形成層12、電子走行層14、電子供給層16、およびキャップ層18)を含み、基板10上に設けられた積層構造20と、積層構造20の表面を覆うSiN膜26と、SiN膜26と積層構造20との界面において、0.6×1015atom/cm2以下の界面酸素量で存在する酸素原子と、を備える。このHEMT1Aによれば、酸素原子の界面酸素量が0.6×1015atom/cm2以下まで低減されているので、ゲートリーク電流が優位に低減され、半導体装置の電気的特性の低下が抑えられる。
【0063】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る成膜方法によって
図1に示される窒化珪素パッシベーション膜3を形成する方法について説明する。
図16は、第3実施形態による窒化珪素パッシベーション膜3の成膜方法を示すフローチャートである。第3実施形態による成膜方法では、工程S2に代えて工程S7を行う点において第1実施形態による成膜方法と相違し、その他の点において第1実施形態による成膜方法と同様である。つまり、第3実施形態においては、工程S1ののち、工程S7を行うことにより、窒化珪素パッシベーション膜3を窒化物半導体層5上に成長する。
【0064】
工程S7では、まず、工程S71から工程S77を順に行う。なお、工程S71から工程S77は、工程S2における工程S21から工程S27とそれぞれ同様である。工程S77により反応炉内の温度が第2の温度に安定したのち、反応炉内の圧力を、緩やかに変化させて30Pa以下の第1の圧力に減圧する(工程S78)。なお、工程S78では、比較例1のS47において行っているような真空引きを行わずに、反応炉内の圧力を減圧する。具体的には、反応炉内への投入ガス流量及び排気バルブのAPC(Auto Pressuer Controller)による制御を行う。これにより、極端に低い圧力にすることなく、所望のガス雰囲気を維持しつつ、反応炉内の圧力を成膜時の圧力である第1の圧力に調整する。一実施例では、第1の圧力は20Paである。
【0065】
そして、工程S79から工程S81を順に行う。工程S79から工程S81は、工程S2における工程S29から工程S31とそれぞれ同様である。以上の工程により、窒化物半導体層5上に窒化珪素パッシベーション膜3が成膜される。
【0066】
以上に説明した、第3実施形態による窒化珪素パッシベーション膜3の成膜方法によれば、第1実施形態による成膜方法と同様の効果を得ることができる。具体的には、工程S76を行うので、減圧CVD法を用いて窒化物半導体上に窒化珪素パッシベーション膜を成膜する際に、窒化物半導体と窒化珪素パッシベーション膜との界面の酸素量を低減できる。
【0067】
続けて、第3実施形態による窒化珪素パッシベーション膜3の成膜方法によって得られる更なる効果について、比較例1と対比しながら説明する。
図17は、比較例1によって窒化珪素パッシベーション膜を成長する際の反応炉内の圧力変化を示すグラフである。
図17のグラフにおいて、横軸は時間であり、縦軸は圧力である。比較例1では、成膜前の反応炉内の雰囲気の置換(工程S47)において、高温雰囲気下にて高圧から低圧への変更が伴う。そこで、窒化物半導体表面からの窒素原子抜けを抑制する観点から、高温雰囲気下かつ低圧になる時間を最短とするために、
図17に示されるように、真空引きを行った後、成膜ガスを導入して圧力調整を行っている。しかし、減圧CVD装置は反応炉内に石英部材を用いているほか、装置が大型であることから真空引きに伴い、デガス(反応炉内側壁等に付着した残留物が再度反応炉内に放出される現象)が発生し、界面酸素濃度が増加する懸念もある。
【0068】
これに対し、第3実施形態においては、成膜前の反応炉内の雰囲気の置換(工程S28)において、比較例1にて行っているような真空引きを行わず、成膜時の圧力まで炉内の圧力を緩やかに変化(減圧)させる。
図18は、第3実施形態によって窒化珪素パッシベーション膜3を成長する際の反応炉内の圧力変化を示すグラフである。
図18のグラフにおいて、横軸は時間であり、縦軸は圧力である。第3実施形態においては、工程S78の直前の降温工程(工程S77)にて反応炉内の温度が下げられることと相まって、工程S78にてAPC等の装置による制御下で反応炉内の圧力が減圧される。これにより、
図18に示されるように、比較例1の雰囲気置換時間と同等な減圧時間に抑えつつ、真空雰囲気による平衡蒸気圧の極端な低下が抑制されるので、窒素原子抜けを低減できる。その結果、表面荒れの低減された窒化物半導体層5(GaN層)表面を維持しつつ、デガスを低減し、酸素濃度増加を低減できる。
【0069】
表5は、圧力条件を変更して成膜し、それぞれの条件下で成膜された場合の界面酸素量を比較した結果を示す。表5においては、第3実施形態(
図18を参照)のように圧力制御を行ったものを真空引き時間0分とし、比較例1(
図17を参照)のように圧力制御を行ったものを真空引き時間1分~10分として示している。表5から、真空引き時間5分以内にすることにより界面酸素量を0.6×10
15atom/cm
2以下まで低減できることがわかった。また、表5から、真空引き圧力を5Pa以上に保つことにより界面酸素量を0.6×10
15atom/cm
2以下まで低減できることがわかった。つまり、上述した半導体装置の電気的特性の改善の観点から界面酸素量を0.6×10
15atom/cm
2以下まで低減するためには、真空引き時間5分以内にするか、あるいは真空引き圧力を5Pa以上に保つことが重要である。
【0070】
【0071】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る成膜方法によって
図1に示される窒化珪素パッシベーション膜3を形成する方法について説明する。
図19は、第4実施形態による窒化珪素パッシベーション膜3の成膜方法を示すフローチャートである。第4実施形態による成膜方法では、工程S2に代えて工程S9を行う点において第1実施形態による成膜方法と相違し、その他の点において第1実施形態による成膜方法と同様である。つまり、第4実施形態においては、工程S1ののち、工程S9を行うことにより、窒化珪素パッシベーション膜3を窒化物半導体層5上に成長する。
図20は、窒化珪素パッシベーション膜3を成長する際の反応炉内の温度及び供給ガスの手順を示す図である。
【0072】
工程S9では、まず、工程S91,S92を順に行う。なお、工程S91,S92は、工程S2における工程S21,S22とそれぞれ同様である。次に、反応炉内の真空パージとN2パージとを繰り返し行い(サイクルパージ)、大気雰囲気をN2雰囲気に置換する(工程S93)。最後の真空引き後に、H2を含むガスを反応炉内に充填し、反応炉内の雰囲気を、H2を含む雰囲気に置換する。ここでは、H2を含むガスとして、N2+H2混合ガスを反応炉内に充填し、反応炉内の雰囲気をN2+H2雰囲気とする。一実施例では、H2分圧(H2/(H2+N2))は、0.005(すなわち、0.5%)以上である。なお、H2分圧は、5%以上であってもよい。
【0073】
上記のサイクルパージが終了した後、工程S94を行う。工程S94は、工程S2における工程S24と同様である。そして、反応炉内の圧力を第2の圧力に維持しつつ、反応炉内を700℃以上の第3の温度に昇温する(工程S95、昇温工程)。この第3の温度は、成膜温度(つまり、第2の温度)よりも高い温度である。第3の温度は、第2の温度よりも20℃以上高い温度であってもよい。また、第3の温度は、650℃以上であってもよく、また900℃以下であってもよい。一実施例では、第3の温度は800℃である。
【0074】
続いて、反応炉内を、第3の温度(ここでは800℃)及び第2の圧力(ここでは3kPa)とした状態に3分間以上保持する(工程S96、クリーニング工程)。一実施例では、保持時間は10分間である。次に、成膜環境の準備を行う(降温工程)。具体的には、次に説明する工程S97,S98を行う。まず、成膜のために反応炉内の温度を第2の温度に降温する(工程S97)。第2の温度は、第3の温度よりも低い温度である。一実施例では、第2の温度は700℃である。反応炉内の温度が第2の温度に安定したのち、反応炉内にNH3ガスを供給して、反応炉内の雰囲気をN2+H2雰囲気からNH3雰囲気に切り替えるとともに反応炉内の圧力を100Pa以下の第3の圧力に調整する(工程S98)。この第3の圧力は、20Pa以下であってもよく、また10Pa以上であってもよい。一実施例では、第3の圧力は20Paである。
【0075】
そして、工程S99から工程S101を順に行う。工程S99から工程S101は、工程S2における工程S29から工程S31とそれぞれ同様である。以上の工程により、窒化物半導体層5上に窒化珪素パッシベーション膜3が成膜される。
【0076】
以上に説明した、第4実施形態による窒化珪素パッシベーション膜3の成膜方法によれば、第1実施形態による成膜方法と同様の効果を得ることができる。具体的には、工程S96を行うので、減圧CVD法を用いて窒化物半導体上に窒化珪素パッシベーション膜を成膜する際に、窒化物半導体と窒化珪素パッシベーション膜との界面の酸素量を低減できる。
【0077】
表6及び
図21は、雰囲気ガスのH
2分圧と界面酸素量との関係を示す。表6は、工程S94から工程S98におけるH
2分圧を変更して成膜し、それぞれの場合における界面酸素量(窒化物半導体層5と窒化珪素パッシベーション膜3との界面の酸素量)を比較した結果を示す。
図21は、表6の結果をプロットしたグラフである。
図21のグラフにおいて、横軸は雰囲気ガスのH
2分圧であり、縦軸は界面酸素量である。
【0078】
【0079】
表6の比較結果を得るにあたり、工程S92における温度(すなわち、反応炉内にエピタキシャルウェハ9を導入する際の温度)を400℃とした。また、反応炉内の雰囲気をN2+H2雰囲気とした。工程S94から工程S95における反応炉内の圧力を3000Paとした。また、工程S96において、反応炉内の温度を800℃、反応炉内の圧力を3000Paとした状態に10分間保持することにより、反応炉内をクリーニングした。また、反応炉内の温度を700℃、反応炉内の圧力を30Paとした状態で反応炉内にジクロロシランを供給して、窒化珪素パッシベーション膜3を成膜した。表6を参照すると、雰囲気ガスのH2分圧が0.005(0.5)%以上の場合に界面酸素量が十分に低減されることがわかる。また、雰囲気ガスのH2分圧が0.05(5%)以上の場合に界面酸素量が特に低減されることがわかる。
【0080】
上記表6の比較結果では、雰囲気ガスをH2+N2雰囲気とすることで、雰囲気ガスをNH3雰囲気とした場合と同様に、水素(H2)によってエピタキシャルウェハ9の表面の酸化膜に含まれる酸素原子11が還元作用を示して除去されると考えられる。また、この還元作用により、反応炉内に付着している水分及び酸素に含まれる酸素原子11も除去されていると考えられる。特に、反応炉内の圧力が比較的高い場合(例えば、300Pa以上の場合)、水素の発生量が比較的多くなるので、還元作用によって除去される酸素原子11の量も増加する。
【0081】
次に、昇温条件としての反応炉内の圧力を変更して成膜し、それぞれの場合における界面酸素量を比較した結果について説明する。表7及び
図22は、反応炉内の圧力と界面酸素量との関係を示す。表7は、工程S94から工程S98における反応炉内の圧力を変更して成膜し、それぞれの場合における界面酸素量を比較した結果を示す。
図22は、表7の結果をプロットしたグラフである。
図22のグラフにおいて、横軸は反応炉内の圧力であり、縦軸は界面酸素量である。表7及び
図22を参照すると、反応炉内の圧力を3000Pa以上とした場合に界面酸素量が十分に低減されることがわかる。また、反応炉内の圧力を10000Pa以上とした場合に界面酸素量が特に低減されることがわかる。
【0082】
【0083】
次に、クリーニング条件としてのクリーニング時間を変更して成膜し、それぞれの場合における界面酸素量を比較した結果について説明する。表8及び
図23は、クリーニング時間と界面酸素量との関係を示す。表8は、工程S96におけるクリーニング時間を変更して成膜し、それぞれの場合における界面酸素量を比較した結果を示す。
図23は、表8の結果をプロットした図である。
図23のグラフにおいて、横軸はクリーニング時間であり、縦軸は界面酸素量である。表8及び
図23を参照すると、クリーニング時間を2分以上とした場合に界面酸素量がある程度低減されることがわかる。また、クリーニング時間を5分以上とした場合に界面酸素量が十分に低減されることがわかる。さらに、クリーニング時間を10分以上とした場合に界面酸素量が特に低減されることがわかる。
【0084】
【0085】
次に、雰囲気ガス及びクリーニング温度を変更して成膜し、それぞれの場合における界面酸素量を比較した結果について説明する。表9及び
図24は、クリーニング時間と界面酸素量との関係を示す。表9は、工程S26,S96における雰囲気ガス及びクリーニング温度を変更して成膜し、それぞれの場合における界面酸素量を比較した結果を示す。
図24は、表9の結果をプロットした図である。
図24のグラフにおいて、横軸はクリーニング温度であり、縦軸は界面酸素量である。表9及び
図24を参照すると、反応炉内の雰囲気ガスがNH
3の場合よりもH
2+N
2である場合に、より低いクリーニング温度によって界面酸素量が低減されることがわかる。
【0086】
【0087】
上述したように、雰囲気ガスをNH3とした場合には、熱分解によって水素(H2)が発生し、この水素によってエピタキシャルウェハ9の表面の酸化膜に含まれる酸素原子11が還元作用を示して除去されると考えられる。つまり、NH3が熱分解してH2を発生することにより、界面酸素量が低減されるという効果が得られる。しかし、クリーニング温度が低い場合、これに応じてNH3が熱分解した際のH2の発生量が小さくなるので、上記の還元作用が小さくなる。これに対し、雰囲気ガスをH2を含む雰囲気とした場合には、H2が直接提供されるので、雰囲気ガスをNH3とした場合よりも低いクリーニング温度においても雰囲気ガスをNH3とした場合と同等のH2による還元作用が得られる。特に、化合物半導体であるGaN層上に成膜する場合、エピタキシャルウェハ9の表面の窒素抜けの観点から、成膜温度が低いことが望ましい。したがって、第4実施形態による窒化珪素パッシベーション膜3の成膜方法は、窒化物半導体層5がGaN層である場合により適している。また、H2+N2雰囲気でクリーニング温度が700℃の場合、成膜温度とクリーニング温度とが同じでも、界面酸素量は十分に低減されている。したがって、NH3ガスのような成膜温度よりも高い温度によるクリーニング工程が必ずしも必要ないことがわかる。
【0088】
また、第4実施形態による窒化珪素パッシベーション膜3の成膜方法によれば、工程S93から工程S95において、反応炉内の温度が比較的低温である状態から、反応炉内のデガスによる酸化が抑制されるとともに、エピタキシャルウェハ9の表面において酸化還元作用が得られる。したがって、減圧CVD法を用いて窒化物半導体上に窒化珪素パッシベーション膜を成膜する際に、窒化物半導体と窒化珪素パッシベーション膜との界面の酸素量をより低減できる。
【0089】
本開示による窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法、半導体装置の製造方法、及び半導体装置は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上述した各実施形態を、必要な目的及び効果に応じて互いに組み合わせてもよい。また、第2実施形態では、半導体装置の例としてのHEMTを示したが、本開示による半導体装置の製造方法及び半導体装置は、HEMT以外にも様々な窒化物半導体装置に適用できる。
【0090】
(付記)
上述した実施形態から把握されるとおり、本明細書では以下に示す態様の開示を含んでいる。
【0091】
本開示の一形態に係る窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法は、窒化物半導体層に接する窒化珪素パッシベーション膜を成膜する方法であって、前記窒化物半導体層を含む基板が収容された反応炉内の温度が700℃以上である状態にて、前記反応炉内の圧力を5Pa以上に保って、前記反応炉内の雰囲気の変更、及び前記反応炉内の圧力の変更の少なくとも一方を実施する工程と、前記反応炉内にジクロロシラン(SiH2Cl2)を供給して、前記窒化珪素パッシベーション膜を成膜する工程と、を含む。
【0092】
本開示の一形態に係る窒化珪素パッシベーション膜の成膜方法は、窒化物半導体層に接する窒化珪素パッシベーション膜を成膜する方法であって、前記窒化物半導体層を含む基板が収容された反応炉内の温度が700℃以上である状態にて、前記反応炉内の圧力が5Pa以下になる時間を5分以内として、前記反応炉内の雰囲気の変更、及び前記反応炉内の圧力の変更の少なくとも一方を実施する工程と、前記反応炉内にジクロロシラン(SiH2Cl2)を供給して、前記窒化珪素パッシベーション膜を成膜する工程と、を含む。
【符号の説明】
【0093】
1A…HEMT(半導体装置)、3…窒化珪素パッシベーション膜、5…窒化物半導体層、7…基板、9…エピタキシャルウェハ、11…酸素原子、10…基板、12…核形成層、14…電子走行層、16…電子供給層、18…キャップ層、20…積層構造(半導体積層構造、半導体積層部)、22…ソース電極、23…金属、24…ドレイン電極、26…SiN膜、28…ゲート電極、30…絶縁膜、50,51,52…フォトレジスト。