(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】芯材用前駆体、芯材及びその製造方法、繊維強化体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 11/16 20060101AFI20240220BHJP
B32B 5/00 20060101ALI20240220BHJP
B29C 70/10 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
B29B11/16
B32B5/00 A
B29C70/10
(21)【出願番号】P 2020118062
(22)【出願日】2020-07-08
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健人
(72)【発明者】
【氏名】中川 恵介
(72)【発明者】
【氏名】梅村 康太
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-154675(JP,A)
【文献】特開2014-159099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16、15/08-15/14
C08J 5/04-5/10、5/24
B32B 1/00-43/00
B29C 39/00-39/24、39/38-39/44、
41/00-41/36、41/46-41/52、
43/00-43/34、43/44-43/48、
43/52-43/58、45/00-45/24、
45/46-45/63、45/70-45/72、
45/74-45/84、70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂埋設されて繊維強化体を構成する芯材となる芯材用前駆体であって、
基層と、連続繊維を束ねてなる繊維束と、を有し、
前記繊維束が前記基層に縫着されてなる複数の縫着領域と、前記繊維束が縫着されずに前記基層から離間可能に配された非縫着領域と、を有し、
前記縫着領域は、前記繊維束が前記基層に対して複列に並ぶように平面状に縫着されてなり、
前記非縫着領域は、引き揃えられた複数本の前記繊維束から構成されて、隣り合った前記縫着領域同士を接続して
おり、
前記縫着領域のうちの少なくとも1つが、互いに非平行な方向に延びた2以上の前記非縫着領域と接続されていることを特徴とする芯材用前駆体。
【請求項2】
前記非縫着領域のうちの少なくとも1つが、隣り合った前記縫着領域同士を最短距離で接続しないように迂回接続している請求項1に記載の芯材用前駆体。
【請求項3】
樹脂埋設されて繊維強化体を構成する芯材となる芯材用前駆体であって、
基層と、連続繊維を束ねてなる繊維束と、を有し、
前記繊維束が前記基層に縫着されてなる複数の縫着領域と、前記繊維束が縫着されずに前記基層から離間可能に配された非縫着領域と、を有し、
前記縫着領域は、前記繊維束が前記基層に対して複列に並ぶように平面状に縫着されてなり、
前記非縫着領域は、引き揃えられた複数本の前記繊維束から構成されて、隣り合った前記縫着領域同士を接続しており、
前記非縫着領域のうちの少なくとも1つが、隣り合った前記縫着領域同士を最短距離で接続しないように迂回接続している
ことを特徴とする芯材用前駆体。
【請求項4】
樹脂埋設されて繊維強化体を構成するための芯材の製造方法であって、
請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の芯材用前駆体から、前記非縫着領域を構成する前記基層を切除して、前記縫着領域同士を切り離す切離工程を備えることを特徴とする芯材の製造方法。
【請求項5】
樹脂埋設されて繊維強化体を構成するための芯材であって、
複数の布片と、連続繊維を束ねてなる繊維束と、を有し、
前記繊維束が前記布片に対して複列に並ぶように平面状に縫着されてなる縫着面部を複数有し、
前記縫着面部のうちの少なくとも1つが、各前記縫着面部から導出され、且つ、引き揃えられた複数本の前記繊維束によって他の縫着面部と接続されていることを特徴とする芯材。
【請求項6】
前記縫着面部のうちの少なくとも1つは、前記繊維束が非平行な2以上の方向へ分岐導出されたものである請求項5に記載の芯材。
【請求項7】
複数の前記縫着面部のうちの少なくとも1対の縫着面部が、同一平面に含まれないように立体展開するための立体展開用芯材である請求項5又は6に記載の芯材。
【請求項8】
請求項5乃至7のうちのいずれかに記載の芯材と、前記芯材を埋設するマトリックス樹脂と、を有することを特徴とする繊維強化体。
【請求項9】
請求項5乃至7のうちのいずれかに記載の芯材を用いた繊維強化体の製造方法であって、
複数の前記縫着面部のうちの少なくとも1対の縫着面部が、同一平面に含まれないように前記芯材を立体配置する立体配置工程と、
前記立体配置された前記芯材を樹脂埋設する樹脂埋設工程と、を備えることを特徴とする繊維強化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯材用前駆体、芯材及びその製造方法、繊維強化体及びその製造方法に関する。更に詳しくは、強化繊維を用いた芯材用前駆体、芯材及びその製造方法、繊維強化体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化プラスチックと称される繊維強化体(複合材料)が知られている。一般に、繊維強化プラスチックは、繊維集合体を芯材とし、この芯材にマトリックス材である樹脂(マトリックス樹脂)を含浸したのち硬化して得られる。芯材としては、例えば、複数本の強化繊維を引き揃えてなる繊維束を織って得られた織布や、強化繊維を一方向へのみ用いた一方向織物等が利用される。このような芯材を用いた技術としては、下記特許文献1及び2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-082229号公報
【文献】特開2005-349826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
芯材としては、従来、織物が多用されるが、織物を芯材に用いると、追従性が問題となる場合がある。即ち、1枚の織物を型内に敷いて樹脂含浸し、平板状の繊維強化体を得るのは容易である。これは得ようとする繊維強化体が実質的に2次元形状だからといえる。即ち、通常、芯材は、当初から2次元形状に形成されているため、2次元形状から2次元形状を得るという観点では問題を生じ難い。
これに対して、織物を半球状の型内に敷いて樹脂含浸し、半球状の繊維強化体を得ることは難しい。この際は、まず、織物を半球状に型内に敷く必要があるが、織物に含まれた繊維束は互いに拘束されているため、2次元形状の芯材を3次元形状へ変化させる際に、周長差の問題を生じ、皺を生じないように半球状に賦形することは困難である。更に、多くの織物製芯材は、繊維束の走行方向が重複しないよう、例えば、1層目と2層目との繊維束の走行方向が交差するように複層化されているため、より困難である。このように半球状の繊維強化体を得ることが難しいのは、2次元形状の芯材を3次元形状へ変化させる必要があるからであるといえる。
【0005】
この点、例えば、特許文献1では、繊維束が解け切らないよう目止めを施しつつ、織物を所々切断することによって、繊維束の拘束を部分的に開放し、より複雑な型へも追従し易いようになされている。しかしながら、切断前の織物に比較すれば、高い自由度が得られるものの、依然として繊維束同士は織物内において拘束されているため、2次元形状を3次元形状へ変化させるという観点では改善の余地がある。また、特許文献2の芯材は、強化繊維束を経糸とし、ナイロン繊維を緯糸とすることによって、一方向織物が形成されている。この形態では、強化繊維束を経糸と緯糸との両方へ利用するのに比べると、繊維束同士の自由度は高くなるものの、緯糸による拘束は存在するため、繊維束が拘束されていることに変わりはなく、2次元形状を3次元形状へ変化させるという観点では改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、容易な3次元展開を実現しながら、作成時に2次元形状として得ることができる芯材及びその製造方法を提供することを目的とする。更には、このような芯材を得るための芯材用前駆体を提供することを目的とする。また、このような芯材を用いた繊維強化体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、上記問題を解決するために、本発明は以下に示される。
[1]本発明の芯材用前駆体は、樹脂埋設されて繊維強化体を構成する芯材となる芯材用前駆体であって、
基層と、連続繊維を束ねてなる繊維束と、を有し、
前記繊維束が前記基層に縫着されてなる複数の縫着領域と、前記繊維束が縫着されずに前記基層から離間可能に配された非縫着領域と、を有し、
前記縫着領域は、前記繊維束が前記基層に対して複列に並ぶように平面状に縫着されてなり、
前記非縫着領域は、引き揃えられた複数本の前記繊維束から構成されて、隣り合った前記縫着領域同士を接続していることを要旨とする。
[2]本発明の芯材用前駆体は、前記縫着領域のうちの少なくとも1つが、互いに非平行な方向に延びた2以上の前記非縫着領域と接続されたものとすることができる。
[3]本発明の芯材用前駆体は、前記非縫着領域のうちの少なくとも1つが、隣り合った前記縫着領域同士を最短距離で接続しないように迂回接続しているものとすることができる。
[4]本発明の芯材の製造方法は、樹脂埋設されて繊維強化体を構成するための芯材の製造方法であって、
請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の芯材用前駆体から、前記非縫着領域を構成する前記基層を切除して、前記縫着領域同士を切り離す切離工程を備えることを要旨とする。
[5]本発明の芯材は、樹脂埋設されて繊維強化体を構成するための芯材であって、
複数の布片と、連続繊維を束ねてなる繊維束と、を有し、
前記繊維束が前記布片に対して複列に並ぶように平面状に縫着されてなる縫着面部を複数有し、
前記縫着面部のうちの少なくとも1つが、各前記縫着面部から導出され、且つ、引き揃えられた複数本の前記繊維束によって他の縫着面部と接続されていることを要旨とする。
[6]本発明の芯材は、前記縫着面部のうちの少なくとも1つは、前記繊維束が非平行な2以上の方向へ分岐導出されたものとすることができる。
[7]本発明の芯材は、複数の前記縫着面部のうちの少なくとも1対の縫着面部が、同一平面に含まれないように立体展開するための立体展開用芯材とすることができる。
[8]本発明の繊維強化体は、本発明の芯材と、前記芯材を埋設するマトリックス樹脂と、を有することを要旨とする。
[9]本発明の繊維強化体の製造方法は、本発明の芯材を用いた繊維強化体の製造方法であって、
複数の前記縫着面部のうちの少なくとも1対の縫着面部が、同一平面に含まれないように前記芯材を立体配置する立体配置工程と、
前記立体配置された前記芯材を樹脂埋設する樹脂埋設工程と、を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の芯材用前駆体によれば、得られる芯材においては、容易な3次元展開を実現しながら、作成時に2次元形状として得ることができる。
本発明の芯材用前駆体において、非縫着領域のうちの少なくとも1つが、隣り合った縫着領域同士を最短距離で接続しないように迂回接続している場合には、3次元展開する際に必要となる長さを2次元形状内で形成できる。
【0009】
本発明の芯材の製造方法によれば、容易な3次元展開を実現しながら、作成時に2次元形状として得ることができる。即ち、2次元形状に形成された芯材用前駆体から、非縫着領域を構成する基層を切除することによって、3次元展開可能な形状を容易に得ることができる。
【0010】
本発明の芯材によれば、容易な3次元展開を実現しながら、作成時に2次元形状として得ることができる。
本発明の芯材は、複数の縫着面部のうちの少なくとも1対の隣り合った縫着面部が、互いに共通する1つの平面に含まれないように立体展開するための立体展開用芯材とすることができる。
【0011】
本発明の繊維強化体によれば、周長差に起因する繊維束のゆがみを抑制することができ、優れた強度を得ることができる。
本発明の繊維強化体の製造方法によれば、周長差に起因する繊維束のゆがみを抑制された、優れた強度の繊維強化体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
【
図1】本発明の芯材用前駆体の一例を示す説明図である。
【
図2】繊維束の縫着態様のバリエーションを示す説明図である。
【
図3】縫着領域と非縫着領域との接続態様のバリエーションを示す説明図である。
【
図4】縫着領域における基層と繊維束との積層態様のバリエーションを示す説明図である。
【
図5】2つの縫着領域を接続する非縫着領域の接続態様のバリエーションを示す説明図である。
【
図6】芯材用前駆体から芯材を得る過程を示す説明図である。
【
図7】布片の形状による影響を説明する説明図である。
【
図8】迂回接続した場合のメリットを説明する説明図である。
【
図9】縫着領域と非縫着領域との接続態様のバリエーションを示す説明図である。
【
図10】繊維強化体の一例の斜視状態を示す説明図である。
【
図11】繊維強化体の断面形態のバリエーションを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ここで示される事項は、例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
尚、
図1(b)では、縫糸を図示するが、その他の図では煩雑になるため縫糸の図示を省略する。また、図面における
図1内の(a)図は、明細書内において
図1(a)又は
図1aと記載する。
【0014】
[1]芯材用前駆体
本発明の芯材用前駆体(1)は、樹脂埋設されて繊維強化体(3)を構成する芯材(2)となる前駆体である。
この芯材用前駆体(1)は、基層(11)と、連続繊維を束ねてなる繊維束(13)と、を有する。そして、繊維束(13)が基層(11)に縫着されてなる複数の縫着領域(15A)と、繊維束(13)が縫着されずに基層(11)から離間可能に配された非縫着領域(15B)と、を有する。
このうち、縫着領域(15A)は、繊維束(13)が基層(11)に対して複列に並ぶように平面状に縫着されてなる。一方、非縫着領域(15B)は、引き揃えられた複数本の繊維束(13)から構成されて、隣り合った縫着領域(15A)同士を接続している(
図1参照)。
【0015】
芯材用前駆体1は、非縫着領域15Bを構成する基層11Bを切除することによって、芯材2となる前駆体である(
図6参照)。
芯材2は、マトリックス樹脂5に埋設されて繊維強化体3を構成する(
図10及び
図11参照)。繊維強化体3では、マトリックス樹脂5が、芯材2の内部にまで含浸された状態で固定(硬化又は固化等)されることにより、全体として高い強度を有することとなる。即ち、マトリックス樹脂5のみからなる樹脂部材に比べて、樹脂内部に芯材2が加わることで、繊維強化体3は機械的強度が増強されたものとなる。
【0016】
基層11(
図1参照)は、繊維束13を固定するための層である。基層11は、どのような構造を有してもよい。即ち、例えば、繊維集合体(織物、不織布、編物等)、金属シート(箔、板等)、樹脂シート(フィルム、板等)などが挙げられる。
また、これらの基層11に対して、繊維束13はどのように固定されてもよく、例えば、基層11に対して、縫着、接着、融着等の手段によって固定できるが、本発明の芯材用前駆体1では、縫着によって固定される。このように繊維束13を縫着するという観点から、基層11は、織物であることが好ましい。基層11が織物である場合には、繊維束を縫着し易いこと、縫着した際の縫糸17に対する拘束が高いこと、基層11としての柔軟性に優れること、更には、マトリックス樹脂(未固化物)を層内に含浸させ易いこと等の利点を有する。
尚、繊維束13は、基層11の一面のみに縫着されてもよいが、基層11の両面に縫着されてもよい。
【0017】
基層11が織布(基布11)であり、繊維束13(強化繊維束)が基層11に縫着された芯材2では、繊維束自体を織物にした芯材に比較して、繊維束にクリンプを生じることを防止できる。クリンプを有すると、クリンプを介して厚さ方向への力の伝達を生じるが、クリンプが抑制されることで、厚さ方向への力の伝達を抑制できる。従って、得られる繊維強化体3の厚さ方向の耐衝撃性をより高くすることができる。
【0018】
また、縫着という手段によれば、縫糸17のテンションによって、繊維束13の拘束の程度を自在に制御できる。従って、例えば、基層11に対して繊維束13を強固に固定しながら、繊維束13の可動性(基層11に対する可動性、及び/又は、繊維束13同士の間の可動性)を、繊維束を製織してなる織布芯材と比較して、より多く確保できる。その結果、基層11(11A)と繊維束13(13A)とで形成される縫着領域15Aの柔軟性を高く保つことができる。
基層11として織布を用いる場合、この織布の構成は限定されないが、固定される繊維束13よりも、繊度が低い構成糸によって織られた織物であることが好ましい。
【0019】
また、基層11として織布を用いる場合、この織布はどのような組織を有してもよいが、1×1、2×2、3×3等の平組織を有することが好ましい。この平組織は5×5よりも細かい組織が好ましく、4×4又はそれより細かい組織がより好ましく、3×3又はそれより細かい組織が更に好ましく、2×2又はそれより細かい組織が特に好ましい。
【0020】
更に、基層11を構成する構成糸には、繊維束13を構成する強化繊維と同じ繊維を用いてもよいが、異なる繊維を用いることができる。具体的には、各種の樹脂繊維及び植物性繊維等を用いることができる。このうち樹脂繊維を構成する樹脂としては、ポリアミド(脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド等)、ポリエステル(芳香族ジカルボン酸由来の構成単位を有するポリエステル等)等を利用できる。また、植物繊維としては、綿繊維及び麻繊維等を用いることができる。
また、基層11が織布である場合、その目付は、限定されないが、例えば、1g/m2以上1000g/m2以下(更には、50g/m2以上500g/m2以下)とすることができる。
【0021】
繊維束13(
図1b及び
図1c参照)は、連続繊維を束ねてなる繊維の束である。繊維束13を構成する連続繊維としては強化繊維を含むことが好ましい。繊維束13は、強化繊維のみから構成されてもよく、強化繊維以外の繊維(非強化繊維)を含んでもよい。但し、非強化繊維を含む場合、繊維束13全体100質量%に対して10質量%以下であることが好ましい。繊維束13、及び、この繊維束13を構成する連続繊維は、撚りを有してもよいし、有さなくてもよい。
また、繊維束13は、どのように束化されていてもよい。複数の連続繊維が単に引き揃えただけの状態であってもよいし、糸(束化用の糸)を用いて複数の連続繊維が結束されていてもよいし、接着剤、粘着剤、熱融着剤等の他剤を介して連続繊維同士が結着されて束化されていてもよいし、その他の方法によって束化されていてもよい。
【0022】
1本の繊維束13を構成する連続繊維の本数は限定されないが、例えば、3000本以上とすることができる。繊維束13を構成する連続繊維の本数が3000本以上であることにより、柔軟でありながら芯材として優れた強度を発揮させることができる。この本数は限定されないが、例えば、3000本以上100000本以下とすることができ、更に5000本以上70000本以下とすることができ、更に7000本以上50000本以下とすることができ、更に10000本以上30000本以下とすることができる。
【0023】
また、繊維束13を扱う際の作業性を考慮した場合、1本の繊維束13を構成する連続繊維の本数が多い繊維束(太束)を用いることができる。この場合、1本の繊維束13を構成する連続繊維の本数は、例えば、30000本以上とすることができ、更に40000本以上とすることができ、更に60000本以上とすることができる。一方、1本の繊維束13を構成する連続繊維の本数は、例えば、1500000本以下、更に1000000本以下とすることができる。
【0024】
連続繊維は、無機材料繊維であってもよく、有機材料繊維であってもよく、これらを併用してもよい。無機材料繊維としては、炭素繊維(PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維)、ガラス繊維、金属繊維などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、有機材料繊維としては、芳香族ポリアミド(アラミド繊維、商品名「ケブラー」等)、ポリベンズアゾール樹脂繊維(ポリ-パラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、商品名「ザイロン」等)などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0025】
連続繊維の繊維形態は限定されず、スパンヤーンであってもよく、フィラメントヤーンであってもよく、これらの併用形態であってもよいが、これらのなかでは、フィラメントヤーンであることが好ましい。更に、連続繊維は、モノフィラメントであってもよく、マルチフィラメントであってもよく、これらを併用してもよい。
【0026】
縫着領域15A(
図1b参照)は、繊維束13が基層11に縫着されてなる領域である。即ち、基層11のうちの繊維束13が縫着された部位の基層11Aと、繊維束13のうちの基層11に縫着された部位の繊維束13Aとから、構成される。芯材用前駆体1は、この縫着領域15Aを複数有し、隣り合った縫着領域15A同士は、縫着されていない繊維束13によって接続される(
図3参照)。換言すれば、隣り合った縫着領域15A同士は、この縫着領域15Aを構成する繊維束13から延長されている縫着されていない繊維束13Bによって連接される。
更に、縫着領域15Aは、繊維束13が基層11に対して複列に並ぶように平面状に縫着されてなる(
図1b参照)。即ち、縫着領域15Aは、平略平面状に形成された領域である。即ち、芯材として3次元化した場合に、平面状に存在できる箇所において、繊維束13が基層11に対して集積した領域であるということができる。
【0027】
縫着領域15Aにおいて、基層11Aに対して繊維束13Aは、どのように縫着されていてもよいが、通常、縫糸17によって基層11Aへ縫い付けられて縫着される(
図1b参照)。
更に、縫着領域15Aにおいて、繊維束13Aは、どのように縫着して、基層11Aに対して複列に並ぶように平面状に配置してもよいが、例えば、所定面を埋めるように複数本の繊維束13Aを引き揃えて縫着することができる(
図2a参照)。更に、繊維束13Aを折りたたんで所定面を埋めるように縫着することができる。より具体的には、1本の繊維束13Aを蛇腹状に折り畳んで配置することができる(
図2b参照)。また、螺旋状(円螺旋、多角形螺旋等)に巻回することによって折り畳んで配置することができる(
図2c参照)。
これらの縫着態様は、1種のみを用いてよく2種以上を併用してもよい。また、当然ながら、これら以外の縫着態様を利用できる。
【0028】
更に、本発明の芯材用前駆体1では、複数ある縫着領域15Aのうちの少なくとも1つは、互いに非平行な方向に延びた2以上の非縫着領域15Bと接続された形態にすることができる(
図3b及び
図3c参照)。
例えば、
図3(a)の縫着領域15Aは、互いに平行な方向に延びた2つの非縫着領域15Bと接続された態様を示している。これに対して、
図3(b)及び
図3(c)は、互いに非平行な方向に延びた2以上の非縫着領域15Bと接続された態様を示す。即ち、
図3(b)は、互いに非平行な方向に延びた2つの非縫着領域15Bと接続された態様を示しており、
図3(c)は、互いに非平行な方向に延びた3つの非縫着領域15Bと接続された態様を示している。
尚、これらの
図3(b)及び
図3(c)において互いに非平行な方向は、各々略直角に示しているが、これは例示であり、2つの非縫着領域15がなす角度は、180度以外の角度であればどのような角度であってもよい。
【0029】
このように、非平行な方向に延びる2以上の非縫着領域15Bが存在する場合、中継ポイントとして、縫着領域15Aを利用できる。とりわけ、互いに非平行な方向に延びた2以上の非縫着領域15Bと接続される全ての領域に、縫着領域15Aを形成することが好ましい。これにより、高い強度を実現できる芯材を得ることができる。
このように縫着領域15Aは、方向変化用の領域として利用でき、更には、複数の方向へ延びる非縫着領域15B同士のハブとして利用することができる。
【0030】
尚、繊維束13Aの縫着は、基層11Aに対して1層となるように敷き詰めて(
図4a参照)縫着してもよいし、2層以上となるように複層に敷き詰めて縫着してもよい(
図4b参照)。更には、基層11Aの表裏に各々敷き詰めて(
図4c参照)縫着してもよい。
また、上述のように、2層以上に敷き詰めて縫着する場合(
図4b参照)や、表裏に敷き詰めて縫着する場合(
図4c参照)には、一層を構成する繊維束13Aの配列方向と、隣接される他層を構成する繊維束13Aの配列方向と、は平行に配置してもよいが、配列方向が異なるように、交差させて配置できる。この場合、例えば、交差角度は90度以下(0度<θ≦90度)とすることができる。
【0031】
非縫着領域15B(
図1c参照)は、基層11に対して、繊維束13が縫着されておらず、基層11から繊維束13が離間可能に配された領域である。即ち、非縫着領域15Bにおいて、繊維束13(繊維束13B)は、基層11(基層11B)に対して縫着されておらず、基層11(基層11B)と繊維束13(繊維束13B)とは離間可能な状態である。通常、縫着領域15A同士の間に挟まれているために、非縫着領域15Bに配されている繊維束13Bは、その位置が凡そ決定されている状態となる。
【0032】
非縫着領域15Bは、隣り合った縫着領域15A同士を最短距離で接続する態様(
図5a参照)であってもよいが、隣り合った縫着領域15A同士を最短距離で接続しないように迂回接続した迂回接続部15Bxとすることができる(
図5b、
図5c及び
図1参照)。迂回接続することにより、3次元展開する際に必要となる長さを2次元形状内に自在に集約して形成することができる。即ち、芯材2となった場合に、3次元形状へと展開される際に必要となる様々な長さの接続長を、狭い面積の2次元化された芯材用前駆体1内において形成することができる。
【0033】
迂回接続部15Bxの形態は限定されず、様々な態様とすることができる。即ち、例えば、
図5b及び
図5cに示すように、隣り合った2つの縫着領域15Aの間で繊維束13(繊維束13B)がU字形状となるように配置することにより迂回接続部15Bxを形成できる。その他、
図2において説明した繊維束13を縫着の場合と同様に、繊維束13を縫着せず、非縫着領域15Bとなる基層11B上に配置することにより迂回接続部15Bxを形成できる。即ち、繊維束13を蛇腹状に折り畳んで配置することや、繊維束13を螺旋状(円螺旋、多角形螺旋等)に巻回することによって折り畳んで配置することによって、迂回接続部15Bxを形成できる。
【0034】
尚、非縫着領域15Bは、繊維束13Bと基層11Bとが離間可能にされた領域であるが、その全域において完全に離間可能である必要はない。即ち、繊維束13Bが基層11Bに対して平面状に縫着されなければ、必要に応じて、仮止めをすることができる。
例えば、芯材用前駆体1を作成する際や、芯材用前駆体1から芯材2を作成する際などの作業性等の観点からは、非縫着領域15Bにおいて、繊維束13Bが基層11Bに対して固定されている方が作業し易い状況が考え得る。このような要求からは、一時的に、繊維束13Bを基層11Bに対して固定することができる。
【0035】
具体的には、1つの非縫着領域15Bを構成する繊維束13Bが複数存在する場合に、繊維束13B同士がばらばらにならないように、糸を用いて複数の繊維束13Bを結束することができる(
図5c参照)。また、縫糸171によって、複数の繊維束13Bを、基層11Bに対して仮止め(仮縫い)することもできる(
図5c参照)。仮止めする場合には、事後に縫糸171を取り外し易いように、縫い数を少なくしたり、縫込む糸数を減じたりすることが好ましい。
【0036】
また、縫糸171を用いて結束したり、仮止めしたりすると、事後に縫糸171を各々除去することになり、その作業が煩雑である場合には、例えば、水溶性のり等のように、事後に一括して除去できる接着剤を用いて結束(繊維束13B同士を束ねること)したり、仮止め(繊維束13Bを基層11Bへ固定すること)することもできる。
このような結束や仮止めの要求は、非縫着領域15Bのなかでも、上述した迂回接続部15Bxにおいてより高い場合がある。即ち、迂回接続部15Bxでは、基層11Bから繊維束13Bがより浮き易くなるからである。従って、迂回接続部15Bxにおいて、より好適に結束や仮止めを行うことができる。
【0037】
[2]芯材の製造方法
本発明の芯材の製造方法は、樹脂埋設されて繊維強化体(3)を構成するための芯材(2)の製造方法であって、
前述した本発明の芯材用前駆体(1)から、非縫着領域(15B)を構成する基層(11B)を切除して、縫着領域(15A)同士を切り離す切離工程(R1)を備えることを特徴とする(
図6参照)。
尚、
図6においては、
図6aは芯材用前駆体1を示しており、
図6bは芯材2を示しており、
図6cは基層11Bを示しており、
図6dは芯材2を3次元展開した状態を示している。
【0038】
芯材(
図6b)の製造方法において、芯材用前駆体1(
図6a)や、芯材用前駆体1が備える各部については、前述した通りである。
切離工程R1は、非縫着領域15Bを構成する基層11B(
図6c)を切除して、縫着領域15A同士を切り離す工程である。切離工程R1は、基層11から、基層11Bを切除することができればよく、その具体的な手段等は限定されない。通常、刃物(鋏、カッター、切断型等)を用いて切除することができる。
【0039】
このように、芯材用前駆体1として前駆体を形成した後、芯材用前駆体1から不要部を切除して、芯材2を製造することで、互いに分離されたばらばらに存在する布片11Aに対して繊維束13を縫着する必要がないため、芯材2(
図6b)の製造を容易にすることができる。更に、最終的に切除される基層11B(
図6c)であっても、前述の通り、繊維束13Bの仮止め等に活用することができるため、基層11を用いて芯材用前駆体1を経由して、芯材2を得ることにより、優れた作業性を実現できる。
尚、当然ながら、上述のように、結果的に、芯材2として不要となる基層11Bを除去することができればよい。従って、刃物を用いて切除する以外に、例えば、レーザーによって基層11Bを焼失させること等も可能である。
【0040】
[3]芯材
本発明の芯材(2)は、樹脂埋設されて繊維強化体(3)を構成するための芯材(2)であって、
複数の布片(11A)と、連続繊維を束ねてなる繊維束(13)と、を有し、
繊維束(13)が布片(11A)に対して複列に並ぶように平面状に縫着されてなる縫着面部(15A)を複数有し、
縫着面部(15A)のうちの少なくとも1つが、各縫着面部(15A)から導出され、且つ、引き揃えられた複数本の繊維束(13)によって他の縫着面部(15A)と接続されていることを特徴とする。
【0041】
縫着面部15Aは、前述した芯材用前駆体1における縫着領域15Aに対応する。従って、縫着面部15Aを構成する布片11Aは、前述した芯材用前駆体1における基層11Aに対応し、縫着面部15Aを構成する繊維束13Aは、前述した芯材用前駆体1における繊維束13Aに対応する。これら各々については、前述した通りである。
【0042】
また、本発明の芯材2は、縫着面部15Aのうちの少なくとも1つが、各縫着面部15Aから導出され、且つ、引き揃えられた複数本の繊維束13(繊維束13B)によって他の縫着面部15Aと接続されている(
図7a参照)。
即ち、例えば、繊維束13のうち、布片11Aに縫着された部位が「繊維束13A」となり、縫着されるべき布片11Aを有さない部位が「繊維束13B」となっている。このように、隣り合った2つの縫着面部15Aが、繊維束13Bによって接続された態様を有することにより、配置の自由度が高い隣り合った2つの縫着面部15Aを得ることができ、その結果、容易に3次元展開できる芯材2とすることができる。
【0043】
即ち、
図7bに示すように、領域A
1と領域A
2とに共通する布片11を有する場合、領域A
1と領域A
2とは、繊維束13及び布片11によっても接続されているため、領域A
1と領域A
2とを個別に自由に配置することが難しい。即ち、布片11によって平面的に固定されるため、布片11による拘束規制が少ない方向へしか領域A
1と領域A
2とを動かすことができず、自由な配置が阻害されてしまう。
これに対して、
図7aに示す本発明の芯材2では、縫着面部15A
1と縫着面部15A
2とに共通する布片11を有さず、縫着面部15A
1と縫着面部15A
2とは、繊維束13のみによって接続されている。更に、繊維束13Bは、繊維が引き揃えられた繊維束の集合体であるため、平面的な拘束を有していない。このため、縫着面部15A
1と縫着面部15A
2とは、共通する布片11を備える場合に比べて、個別に自由に動かし、配置することができる。
【0044】
更に、
図8aは、
図5bに示した迂回接続部15Bxを有する芯材用前駆体1から、不要部である基層11Bを切除した状態を表わす。換言すると、縫着面部15A
1と縫着面部15A
2とが、迂回接続部15Bxを構成していた繊維束13Bxによって接続された状態を表わしている。そして、繊維束13Bxは、
図8bに示すように、基層11Bを切除することによって、引延ばすことができる。即ち、3次元展開する際に必要となる長さをより狭い面積の2次元面内に集約したから開放することで、芯材2は、各々の縫着面部15A同士の間に必要な長さの接続を得ることができる。
【0045】
また、縫着面部15Aは、通常、少なくとも1方向へ延びる繊維束13(繊維束13B)と接続されるが、2以上の方向へ延びる繊維束13Bと接続することができる。繊維束13Bが2以上の方向へ分岐される場合、例えば、
図9aに示すように、平行な2以上の方向へ分岐導出された形態にすることができる。
更に、非平行な2以上の方向へ分岐導出された形態にすることもできる(
図9b及び
図9c)。例えば、
図9(b)は、繊維束13Bが非平行な2つの方向へ分岐導出された縫着面部15Aを示し、
図9(c)は、繊維束13Bが非平行な3つの方向へ分岐導出された縫着面部15Aを示している。
【0046】
これらの
図9(b)及び
図9(c)において互いに非平行な方向は、各々略直角に示しているが、これは例示であり、2つの繊維束13Bがなす角度は、180度以外の角度であればどのような角度であってもよい。
このように、非平行な方向に延びる2以上の繊維束13Bが分岐導出されている場合、縫着面部15Aは、繊維束13の中継ポイントとして機能することになる。
【0047】
本発明の芯材2は、
図6dに示すように、複数の縫着面部15Aのうちの少なくとも1対の縫着面部15Aが、同一平面に含まれないように立体展開するための立体展開用芯材にすることができる。即ち、通常、芯材2は、複数の縫着面部15Aを有する。そして、全ての縫着面部15Aは、同一平面に含まれてもよい。この場合、通常、2次元形状の繊維強化体3が形成されることになる。これに対し、本発明の芯材2は、少なくとも1対の縫着面部15Aが、同一平面に含まれないように立体展開することができる。
【0048】
図6dは、半球儀に内接(又は外接)するように、展開された芯材2を例示している。そして、縫着面部15Aのうち、縫着面部15A
Tは、半球儀の天頂に対応し、縫着面部15A
Eは、半球儀の東端に対応し、縫着面部15A
Wは、半球儀の西端に対応し、縫着面部15A
Sは、半球儀の南端に対応し、縫着面部15A
Nは、半球儀の北端に対応している。これらの5つの縫着面部15Aは、いずれも互いに同一平面に含まれないように立体展開された例である。即ち、縫着面部15A
E、15A
W、15A
S及び15A
Wの4つの縫着面部は、各々、
図9(c)に示す接続態様を有し、互いに、繊維束13Bによって円形になるように接続されるとともに、各々、縫着面部15A
Tとも接続されている。
【0049】
[4]繊維強化体
本発明の繊維強化体(3)は、前述した本発明の芯材(2)と、芯材(2)を埋設するマトリックス樹脂(5)と、を有することを特徴とする(
図10及び
図11参照)。
芯材2については、前述した通りである。
【0050】
繊維強化体3において、マトリックス樹脂5は、芯材2を埋設している樹脂である。より具体的には、芯材2の内部に行きわたるように含浸されて固定(硬化性樹脂である場合には硬化、熱可塑性樹脂である場合には固化)された樹脂である。このマトリックス樹脂5の含浸方法及び固定方法は、従来公知の各種方法を利用できる。
【0051】
マトリックス樹脂5の種類は限定されず、種々の樹脂を利用できる。即ち、硬化性樹脂を用いてもよく、熱可塑性樹脂を用いてもよく、これらを併用してもよい。硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂(硬化性ポリエステル樹脂)、ウレタン樹脂等が挙げられる。一方、熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂(熱可塑性ポリエステル樹脂)、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0052】
また、芯材2は、
図11(a)に例示するように、基層11と、基層11の一面に一部のみが縫着された繊維束13とで構成された1層の片面芯材2のみを配置してもよいし、
図11(b)に例示するように、上述の片面芯材2を基層11同士が対向されるように向かい合わせて配置してもよい。このように片面芯材を2層用いる場合には、基層11同士を対面させることにより、得られる繊維強化体3の耐衝撃性を効率的に向上させることができる。
【0053】
本発明の繊維強化体3の形状、大きさ及び厚さ等の寸法は特に限定されず、その用途も特に限定されない。この繊維強化体は、例えば、自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の外装材、内装材、構造材(ボディシェル、車体、航空機用胴体)及び衝撃吸収材等として用いることができる。これらのうち自動車用品としては、自動車用外装材、自動車用内装材、自動車用構造材、自動車用衝撃吸収材、エンジンルーム内部品等が挙げられる。
具体的には、バンパー、スポイラー、カウリング、フロントグリル、ガーニッシュ、ボンネット、トランクリッド、カウルルーバー、フェンダーパネル、ロッカーモール、ドアパネル、ルーフパネル、インストルメントパネル、センタークラスター、ドアトリム、クオータートリム、ルーフライニング、ピラーガーニッシュ、デッキトリム、トノボード、パッケージトレイ、ダッシュボード、コンソールボックス、キッキングプレート、スイッチベース、シートバックボード、シートフレーム、アームレスト、サンバイザ、インテークマニホールド、エンジンヘッドカバー、エンジンアンダーカバー、オイルフィルターハウジング、車載用電子部品(ECU、TVモニター等)のハウジング、エアフィルターボックス、ラッシュボックス等のエネルギー吸収体、フロントエンドモジュール等のボディシェル構成部品などが挙げられる。
【0054】
更に、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材及び構造材等が挙げられる。即ち、ドア表装材、ドア構造材、各種家具(机、椅子、棚、箪笥等)の表装材、構造材、更には、ユニットバス、浄化槽などとすることができる。その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材及びパーティション部材等として用いることもできる。また、家電製品(薄型TV、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、携帯電話、携帯ゲーム機、ノート型パソコン等)の筐体及び構造体などの成形体とすることもできる。
【0055】
[5]繊維強化体の製造方法
前述した本発明の芯材(2)を用いた繊維強化体(3)の製造方法であって、
複数の縫着面部(15A)のうちの少なくとも1対の隣り合った縫着面部(15A)が、同一平面に含まれないように芯材(2)を立体配置する立体配置工程と、
立体配置された芯材(2)を樹脂埋設する樹脂埋設工程と、を備えることを特徴とする。
【0056】
繊維強化体の製造方法については、従前に説明した事項の通りである。また、上記工程のうち、立体配置工程では、立体配置した芯材2を固定するため工程及び手段を備えることができる。
例えば、
図10に例示される半球状の繊維強化体3を、
図6(b)に示す芯材2から得るには、
図6(b)に示す平面形状(2次元形状)の芯材2を、
図6(d)に示す立体形状へと展開した後、この芯材2の形状を維持するために、種々の治具や、接着剤などを利用することができる。
【0057】
即ち、例えば、
図6(d)に示す立体形状へと展開した場合、展開状態の芯材2を、半球儀の内面へ貼り付けて固定することができる。同様に、半球儀の外側へ貼り付けて固定することができる。固定する際には、粘着テープや接着剤等を利用できる。その後、芯材2を第1の半球儀の内面へ貼り付けて固定した場合には、第1の半球儀の内側へ、中子としてより小さな第2の半球儀を挿入し、第1の半球儀と第2の半球儀との間に形成されるクリアランスにマトリックス樹脂5を充填して、繊維強化体3を得ることができる。
同様に、展開状態の芯材2を第1の半球儀の外側へ貼り付けて固定した場合には、第1の半球儀の外側へ、外型としてより大きな第2の半球儀を被せて、第1の半球儀と第2の半球儀との間に形成されるクリアランスにマトリックス樹脂5を充填して、繊維強化体3を得ることができる。
【0058】
本方法では、上記工程以外にも他工程を備えることができる。他工程としては、例えば、芯材用前駆体1を得る芯材用前駆体形成工程、芯材用前駆体1から芯材2を得るための切離工程、樹脂埋設した後、樹脂を固化する固化工程、固化された樹脂の不要部を除去する成形工程等の工程が挙げられる。これらの工程は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]繊維強化体の作製
(1)使用材料について
基層11:植物繊維布(紡績綿繊維を製織した織布)。
繊維束13:炭素繊維を12000本引き揃えた繊維束(12Kのマルチフィラメント)。
縫糸17:樹脂繊維(ポリエステル製単繊維を用いたマルチフィラメント)。
【0060】
(2)芯材用前駆体1の作製
繊維束13を縫糸17により1.7mmピッチで基層11のうちの必要箇所のみ縫着して、
図6(a)に示す芯材用前駆体1を得た。
【0061】
(3)芯材2の作製
上記(2)で得られた芯材用前駆体1から、
図6(c)に示す基層11Bを切除して、
図6(b)に示す芯材2を得た。
【0062】
(4)繊維強化体の作製
上記(3)までに得られた芯材2を立体展開して、
図6(d)の形状を維持した後、マトリックス樹脂となる未硬化エポキシ樹脂(ナガセケムテックス株式会社製、品番「XNR6830」)を減圧下においてプレスしながら含浸させた後、硬化させて(RTM工法)、
図10に示す繊維強化体3を得た。
【0063】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本発明をここに掲げる開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【符号の説明】
【0064】
1;芯材用前駆体、
11;基層、
11A;基層(縫着領域を構成する基層)、布片、
11B;基層(非縫着領域を構成する基層)、
13;繊維束、
13A;繊維束(縫着領域を構成する繊維束)、
13B;繊維束(非縫着領域を構成する繊維束)、
15A;縫着領域、縫着面部、
15B;非縫着領域、
15Bx;迂回接続部、
17;縫糸、
2;芯材、
3;繊維強化体、
5;マトリックス樹脂。