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特許7439666異常警報システムおよび警報レベル設定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】異常警報システムおよび警報レベル設定方法
(51)【国際特許分類】
   B64D 25/00 20060101AFI20240220BHJP
   B64C 27/26 20060101ALI20240220BHJP
   B64D 27/24 20240101ALI20240220BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20240220BHJP
   H02P 29/024 20160101ALI20240220BHJP
【FI】
B64D25/00
B64C27/26
B64D27/24
H02P5/46 D
H02P29/024
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020118320
(22)【出願日】2020-07-09
(65)【公開番号】P2022015468
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川津 信介
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-88111(JP,A)
【文献】特開2017-47736(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0241275(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0066531(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 25/00
B64C 27/26
B64D 27/24
H02P 29/024
H02P 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動航空機(20)が有する複数の回転翼(30)にそれぞれ対応して用いられるモータ(11)を駆動させる複数のモータシステム(10)の異常警報を行う異常警報システム(130、130a)であって、
前記複数のモータシステムのうち、異常であるモータシステムを判定する異常判定部(131)と、
前記異常判定部により異常と判定されたモータシステムに対応する、前記回転翼の前記電動航空機における位置情報と、前記回転翼の機能と、のうちの少なくとも一方に応じて、前記異常を警報する警報レベルを設定する警報レベル設定部(132)と、
を備える、異常警報システム。
【請求項2】
請求項1に記載の異常警報システムにおいて、
前記電動航空機の飛行時に必要な要求モータ出力に対する、前記複数のモータシステムによる合計モータ出力の割合である出力率を算出する出力率算出部(133)を、さらに備え、
前記警報レベル設定部は、さらに前記出力率にも応じて、前記警報レベルを設定する、異常警報システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の異常警報システムにおいて、
前記電動航空機は、前記複数の回転翼として、前記電動航空機における浮上機能を発揮する浮上用回転翼(31a-31g)と、前記電動航空機における推進機能を発揮する推進用回転翼(32a-32b)との2種類の回転翼を有する、異常警報システム。
【請求項4】
請求項3に記載の異常警報システムにおいて、
異常であるモータシステムが判定された状態において、前記浮上機能と前記推進機能とがそれぞれ損なわれたか否かを特定する機能損失特定部(133)を、さらに備え、
前記警報レベル設定部は、前記浮上機能と前記推進機能とのうちのいずれも損なわれない場合には、前記浮上機能と前記推進機能とのうちの少なくとも一方が損なわれた場合に比べて、前記警報レベルとして同じレベル又はより低いレベルを設定する、異常警報システム。
【請求項5】
請求項4に記載の異常警報システムにおいて、
前記警報レベル設定部は、前記推進機能と前記浮上機能とのうちの前記浮上機能が損なわれた場合に、前記推進機能が損なわれた場合に比べて、前記警報レベルとしてより高いレベルを設定する、異常警報システム。
【請求項6】
請求項5に記載の異常警報システムにおいて、
前記複数の回転翼には、複数の前記浮上用回転翼が含まれ、
前記警報レベル設定部は、複数の前記浮上用回転翼のうち、前記電動航空機の機体重心(CM)から遠い位置に配置されている前記浮上用回転翼に対応する前記モータシステムについての前記警報レベルを、前記機体重心に近い位置に配置されている前記浮上用回転翼に対応する前記モータシステムについての前記警報レベルよりも高いレベルとして設定する、異常警報システム。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の異常警報システムにおいて、
前記異常判定部は、単一の前記モータシステムについて予め定められた閾値回数連続して異常判定された場合に、該モータシステムを異常であるモータシステムとして判定し、
前記警報レベル設定部は、前記位置情報と前記機能とのうちの少なくとも一方に応じて、前記閾値回数を決定することにより、前記警報レベルを設定し、
より高い前記警報レベルは、より少ない前記閾値回数が設定されたレベルであり、
より低い前記警報レベルは、より多い前記閾値回数が設定されたレベルである、異常警報システム。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の異常警報システムにおいて、
前記警報レベル設定部は、
同一の前記モータシステムについて異常と判定される期間に応じて、前記警報レベルを変化させ、
前記期間が長い場合には、前記期間が短い場合に比べて前記警報レベルとしてより高いレベルを設定する、異常警報システム。
【請求項9】
電動航空機(20)が有する複数の回転翼(30)にそれぞれ対応して用いられるモータ(11)を駆動させる複数のモータシステム(10)の異常を警報する警報レベルを設定する警報レベル設定方法であって、
前記複数のモータシステムのうち、異常であるモータシステムを判定する判定工程と、
前記判定工程により異常と判定されたモータシステムに対応する、前記回転翼の前記電動航空機における位置情報と、前記回転翼の機能と、のうちの少なくとも一方に応じて、前記警報レベルを設定する設定工程と、
を備える、警報レベル設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータシステムの異常状態の警報に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、eVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)等の電動航空機においては、回転翼を回転駆動させるために、モータを含むモータシステムが搭載されて用いられている。モータシステムは、例えば、モータと、モータに電力を供給するインバータ回路と、インバータ回路を制御する制御装置とを含むシステムとして構成される。このようなモータシステムでは、従来と同様に、例えば、特許文献1に記載のモータの故障診断のような異常診断を行うことが望まれる。特許文献1では、モータに供給する相電流における所定の特徴の有無(特定周波数の信号の有無)や、相電流値およびモータ回転数の実測値から求められるトルク電流値(q軸電流値)における所定の特徴量有無に基づき、異常の有無が診断される。そして、異常診断の結果、異常が見つかった場合には、異常の発生を検出するとともに、発止した異常の種類を特定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-49178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、異常が検出された場合には、かかる異常状態の警報(以下、単に「異常警報」と呼ぶ)が求められる。例えば、電動航空機が飛行中において異常診断を実行する構成では、異常が検出された場合に、乗組員や地上の管制官に対する異常警報が求められる。電動航空機におけるモータシステムの異常として、飛行安全性に大きく影響するために対応に緊急を要するような異常がある一方、現在の飛行計画で飛行して着陸後に対応しても十分に間に合うような異常もあり得る。しかし、特許文献1では、警報についての開示が無いため、警報レベルが設定されない、或いは、適切でない警報レベルが設定されるおそれがある。このため、対応に緊急を要する異常が発生したにも関わらずそのまま飛行を継続して安全性を大きく損なうという問題や、現在の飛行計画で飛行して着陸後に対応しても十分に間に合うような異常が発生したにもかかわらず、飛行計画を変更して緊急に着陸して乗員の利便性を大きく損なうといった問題が起こり得る。このため、適切な警報レベルを設定可能な技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一形態によれば、電動航空機(20)が有する複数の回転翼(30)にそれぞれ対応して用いられるモータ(11)を駆動させる複数のモータシステム(10)の異常警報を行う異常警報システム(130、130a)が提供される。この異常警報システムは、前記複数のモータシステムのうち、異常であるモータシステムを判定する異常判定部(131)と、前記異常判定部により異常と判定されたモータシステムに対応する前記回転翼の前記電動航空機における位置情報と、前記回転翼の機能と、のうちの少なくとも一方に応じて、前記異常状態を警報する際の警報レベルを設定する警報レベル設定部(132)と、を備える。
【0006】
回転翼の配置位置によってかかる回転翼に対応するモータシステムの異常が電動航空機の飛行に与える影響は異なる。また、回転翼の用途によって回転翼に対応するモータシステムの異常が電動航空機の飛行に与える影響は異なる。したがって、上記形態の異常警報システムによれば、異常と判定されたモータシステムに対応する、回転翼の電動航空機における位置情報と、回転翼の機能と、のうちの少なくとも一方に応じて、異常を警報する警報レベルを設定するので、適切な警報レベルを設定することができる。
【0007】
本開示は、種々の形態で実現することも可能である。例えば、複数のモータシステムを含む電駆動システム、電動航空機、警報レベルの設定方法、これらの装置や方法を実現するためのコンピュータプログラム、かかるコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態としての異常警報システムを適用した電動航空機の構成を模式的に示す上面図。
図2】第1実施形態におけるモータシステムを含む電駆動システムの機能的構成を示すブロック図。
図3】第1実施形態における警報レベル設定処理の手順を示すフローチャート。
図4】第2実施形態における警報レベル設定処理の手順を示すフローチャート。
図5】第3実施形態における電動航空機の構成を模式的に示す上面図。
図6】第3実施形態における電動航空機の構成を模式的に示す上面図。
図7】第3実施形態における警報レベル設定処理の手順を示すフローチャート。
図8】第3実施形態におけるモータ合計出力のレベルを示す説明図。
図9】第4実施形態におけるモータシステムを含む電駆動システムの機能的構成を示すブロック図。
図10】第4実施形態における警報レベルマップの設定内容を示す説明図。
図11】第4実施形態における警報レベル設定処理の手順を示すフローチャート。
図12】第5実施形態における警報レベル調整処理の手順を示すフローチャート。
図13】第6実施形態における警報レベル設定処理の手順を示すフローチャート。
図14】第7実施形態における警報レベル調整処理の手順を示すフローチャート。
図15】他の実施形態における警報レベルマップの設定内容を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
A1.装置構成:
図1に示す電動航空機20は、eVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)とも呼ばれ、鉛直方向に離着陸可能であり、また、水平方向への推進が可能な有人航空機である。電動航空機20は、機体21と、9つの回転翼30と、各回転翼に対応して配置されている9つのモータシステム10とを備える。
【0010】
機体21は、電動航空機20において9つの回転翼30およびモータシステム10を除いた部分に相当する。機体21は、本体部22と、主翼25と、尾翼28とを備える。
【0011】
本体部22は、電動航空機20の胴体部分を構成する。本体部22は、軸線AXを対称軸として左右対称の構成を有する。本実施形態において、「軸線AX」とは、電動航空機20の重心位置CMを通り、電動航空機20の前後方向に沿った軸を意味している。また、「重心位置CM」とは、乗員が搭乗していない空虚重量時における電動航空機20の重心位置を意味する。本体部22の内部には、図示しない乗員室が形成されている。
【0012】
主翼25は、右翼26と左翼27とにより構成されている。右翼26は、本体部22から右方向に延びて形成されている。左翼27は、本体部22から左方向に延びて形成されている。右翼26と左翼27とには、それぞれ回転翼30とモータシステム10とが2つずつ配置されている。尾翼28は、本体部22の後端部に形成されている。
【0013】
9つの回転翼30のうちの5つは、本体部22の上面の中央部に配置されている。これら5つの回転翼30は、主に機体21の揚力を得るための浮上用回転翼31a~31eとして機能する。浮上用回転翼31aは、重心位置CMに対応する位置に配置されている。浮上用回転翼31bと浮上用回転翼31cは、浮上用回転翼31aよりも前方において、軸線AXを中心として互いに線対称の位置に配置されている。浮上用回転翼31dと浮上用回転翼31eは、浮上用回転翼31aよりも後方において、軸線AXを中心として互いに線対称の位置に配置されている。9つの回転翼30のうちの2つは、右翼26および左翼27に配置されている。具体的には、右翼26の先端部の上面に浮上用回転翼31fが配置され、左翼27の先端部の上面に浮上用回転翼31gが配置されている。
【0014】
9つの回転翼30のうちのさらに2つは、右翼26および左翼27にそれぞれ配置され、主に機体21の水平方向の推進力を得るための推進用回転翼32a、32bとして機能する。右翼26に配置された推進用回転翼32aと、左翼27に配置された推進用回転翼32bは、軸線AXを中心として互いに線対称の位置に配置されている。各回転翼30は、それぞれの回転軸(後述のシャフト17)を中心として、互いに独立して回転駆動される。各回転翼30は、互いに等角度間隔で配置された3つのブレードをそれぞれ有する。
【0015】
図2に示すように、各回転翼30に対応する合計9つのモータシステム10は、電駆動システム100の一部として構成されている。電駆動システム100は、予め設定されている飛行プログラム、或いは、乗員や外部からの操縦に応じて各モータシステム10を制御し、回転翼30を回転駆動させるシステムである。以降では、浮上用回転翼31a~31gを回転駆動させるモータシステム10が備えるモータ11を「浮上用モータ」と呼び、推進用回転翼32a~32bを回転駆動させるモータシステム10が備えるモータ11を「推進用モータ」と呼ぶ。
【0016】
9つのモータシステム10は、互いにほぼ同じ構成を有する。各モータシステム10は、モータ11と、インバータユニット(INVユニット)12と、電圧センサ13と、電流センサ14と、回転センサ15と、記憶装置16と、シャフト17を備える。モータシステム10は、後述の電動統括ECU110からの指令に応じた回転トルクおよび回転数となるように、回転翼30を回転させるシステムである。
【0017】
モータ11は、シャフト17を介して回転翼30を回転駆動させる。モータ11は、本実施形態では3相交流ブラシレスモータにより構成され、後述のインバータ回路121から供給される電圧および電流に応じてシャフト17を回転させる。なお、モータ11は、ブラシレスモータに代えて、誘導モータやリラクタンスモータ等の任意の種類のモータにより構成されていてもよい。
【0018】
インバータユニット12は、インバータ回路121と、モータ制御部122とを備える。インバータ回路121は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)等のパワー素子を有し、モータ制御部122から供給される制御信号に応じたデューティ比でスイッチングすることにより、モータ11に駆動電力を供給する。
【0019】
モータ制御部122は、モータシステム10を全体制御する。具体的には、モータ制御部122は、後述する統合制御部120からの指示に応じて駆動信号を生成し、かかる駆動信号をインバータ回路121に供給する。また、モータ制御部122は、各センサ13~15の検出値を用いてインバータ回路121をフィードバック制御する。本実施形態において、モータ制御部122は、CPU、ROM、RAMを有するマイクロコンピュータにより構成されている。
【0020】
電圧センサ13は、後述の電源70から供給される電圧を検出する。電流センサ14は、インバータ回路121とモータ11との間に設けられており、モータ11の各相の駆動電流(相電流)を検出する。回転センサ15は、モータ11の回転数を検出する。電圧センサ13、電流センサ14および回転センサ15の検出値は、記憶装置16に時系列に記憶されると共に、モータ制御部122を介して電動統括ECU110へと出力される。記憶装置16には、各種制御プログラムや、各種センサの検出値に加えて、後述の異常診断処理の結果が記録される。
【0021】
電駆動システム100は、上述の9つのモータシステム10に加えて、電動統括ECU110を備える。電動統括ECU110は、電駆動システム100を全体制御すると共に、モータシステム10の異常診断を行う。本実施形態において、電動統括ECU110は、CPU、ROM、RAMを備えるコンピュータにより構成されている。電動統括ECU110が備えるCPUは、ROMに予め記憶されている制御プログラムをRAMに展開して実行することにより、統合制御部120および異常警報システム130として機能する。
【0022】
統合制御部120は、予め設定されている飛行プログラム或いはユーザによる操縦桿の操舵等に応じて、各モータシステム10を制御する。
【0023】
異常警報システム130は、各モータシステム10の異常診断を行うためのシステムである。異常警報システム130は、異常判定部131と、警報レベル設定部132と、出力率算出部133と、警報出力部134とを備える。
【0024】
異常判定部131は、異常診断処理を実行することにより、異常状態であるモータシステム(以下、「異常システム」とも呼ぶ)を特定する。本実施形態における異常診断処理を説明する。まず、異常判定部131は、診断対象のモータシステム(以下、「診断対象システム」と呼ぶ)と、比較対象のモータシステム(以下、「比較対象システム」と呼ぶ)とから、それぞれモータの動作状態に関連する値(以下、「状態関連値」と呼ぶ)を取得する。そして、診断対象システムの状態関連値と比較対象システムの状態関連値との差分が、所定の閾値よりも大きい場合には、診断対象システムは異常であると判定する。他方、上述の差分が所定の閾値以下の場合には、診断対象システムは異常ではない(正常である)と判定する。状態関連値としては、例えば、電流センサ14により測定される相電流値や、電圧センサ13により測定される電源70からの供給電圧や、回転センサ15により測定されるモータ11の回転数などが該当する。診断対象システムは、例えば、9つのモータシステム10に対して、予め診断対象システムとして特定される順序が予め定められており、かかる順序に従って順次特定されてもよい。また、比較対象システムは、例えば、診断対象システムとして特定されたモータシステムに対して、予め特定のモータシステムを比較対象システムとして定めておいてもよい。このとき、より高い信頼性を有するモータシステムを比較対象システムとして定めてもよい。
【0025】
警報レベル設定部132は、モータシステムの異常を警報する警報レベルを設定する。警報レベルとは、警報の緊急性を示すレベルであり、より高いレベルほど、より緊急性が高い警報であることを意味する。本実施形態では、下記3つの警報レベル1~3が設定され得る。警報レベル1は、最も緊急性が低いレベルであり、そのまま飛行継続可能である程度の異常を警報する場合に設定される。警報レベル2は、2番目に緊急性が低いレベルであり、電動航空機20が飛行中であれば、飛行計画を短縮する必要がある程度の異常を警報する場合に設定される。警報レベル3は、最も緊急性が高いレベルであり、緊急着陸が必要になる程度の異常を警報する場合に設定される。後述の警報レベル設定処理が実行されることにより、いずれかの警報レベルが設定されることとなる。
・警報レベル1:飛行継続可能
・警報レベル2:飛行計画短縮
・警報レベル3:緊急着陸
【0026】
出力率算出部133は、電動航空機20の飛行時に必要な要求モータ出力(以下、単に「要求モータ出力」と呼ぶ)に対する、複数のモータシステムの合計モータ出力の割合(以下、「出力率」と呼ぶ)を特定する。すなわち、下記式(1)が成り立つ。
出力率=合計モータ出力/要求モータ出力 ・・・(1)
【0027】
警報出力部134は、モータシステムの異常を警報する。具体的には、本実施形態では、後述するユーザインターフェイス部(「UI部」とも呼ぶ)50が有する表示部に警報メッセージを表示させることにより、モータシステムの異常を警報する。
【0028】
電動航空機20には、上述の電駆動システム100に加えて、飛行や異常診断を行うための様々な構成要素が搭載されている。具体的には、電動航空機20には、センサ群40と、ユーザインターフェイス部50(以下、「UI部50」と呼ぶ)と、通信装置60と、電源70とが搭載されている。
【0029】
センサ群40は、高度センサ41、位置センサ42、速度センサ43を含む。高度センサ41は、電動航空機20の現在の高度を検出する。位置センサ42は、電動航空機20の現在位置を緯度および経度として特定する。本実施形態において、位置センサ42は、GNSS(Global Navigation Satellite System)により構成されている。GNSSとしては、例えば、GPS(Global Positioning System)を用いてもよい。速度センサ43は、電動航空機20の速度を検出する。
【0030】
UI部50は、電動航空機20の乗員に対し、電動航空機20の制御用のユーザインターフェイスおよび動作状態のモニタ用のユーザインターフェイスを提供する。かかるユーザインターフェイスとしては、例えば、キーボードやボタンなどの操作入力部や、液晶パネルなどの表示部などが含まれる。UI部50は、例えば、電動航空機20のコクピットに設けられている。乗組員は、UI部50を用いて、飛行計画の変更や、警報内容の確認を行うことができる。
【0031】
通信装置60は、他の電動航空機や、地上の管制塔などと通信を行う。通信装置60としては、例えば、民間用VHF無線機などが該当する。なお、通信装置60は、民間用VHF以外にも、IEEE802.11において規定されている無線LANや、IEEE802.3において規定されている有線LANなどの通信を行う装置として構成されてもよい。電源70は、リチウムイオン電池により構成され、電動航空機20における電力供給源の1つとして機能する。電源70は、各モータシステム10のインバータ回路121を介してモータ11に三相交流電力を供給する。なお、電源70は、リチウムイオン電池に代えて、ニッケル水素電池等の任意の二次電池により構成されていてもよく、二次電池に代えて、または二次電池に加えて、燃料電池や発電機等の任意の電力供給源により構成されてもよい。
【0032】
A2.警報レベル設定処理:
図3に示す警報レベル設定処理は、警報レベルを設定するための処理であり、電動統括ECU110の電源がオンすると実行される。異常判定部131は、各モータシステム10をそれぞれ対象として異常診断を実行し、異常を検出した否かを判定する(ステップS105)。異常を検出しないと判定された場合(ステップS105:NO)、処理はステップS105に戻る。
【0033】
他方、各モータシステム10をそれぞれ対象として異常診断を実行したところ、少なくとも1つのモータシステム10が異常であると判定され、その結果、異常システムを検出したと判定された場合(ステップS105:YES)、警報レベル設定部132は、検出されたモータシステム10の異常が、電動航空機20における推進力または揚力に影響があるか否かを判定する(ステップS110)。「推進力または揚力に影響があるか否か」の判定は、電動統括ECU110が有する図示しない記憶部に予め記憶されているマップを参照して実行される。かかるマップには、予め「推進力または揚力に影響がある異常内容」が列挙されている。例えば、「インバータ回路121の故障」や、「電動統括ECU110が備えるCPUの故障」や、「冗長無しのセンサ故障」や、「所定部品の故障」などが列挙されている。所定部品とは、例えば、モータ11に含まれるモータコイルや、インバータ回路121に含まれるインバータ回路121や、図示しない冷却系の部品(冷却媒体用のポンプなど)が該当する。他方、かかるマップに設定されていない種類のモータシステム10の異常については、電動航空機20における推進力または揚力に影響が無いと判定される。
【0034】
検出されたモータシステム10の異常が、電動航空機20における推進力または揚力に影響が無いと判定された場合(ステップS110:NO)、警報レベル設定部132は、警告レベルとして警告レベル1を設定する(ステップS135)。したがって、この場合には、飛行継続可能な程度の警報レベルが設定され、警報出力部134は、かかる警報レベル1で警報をUI部50に出力することとなる。
【0035】
上述のステップS110において、検出されたモータシステム10の異常が、電動航空機20における推進力または揚力に影響があると判定された場合(ステップS110:YES)、出力率算出部133は、浮上用モータの合計モータ出力が第1閾値よりも小さいか否かを判定する(ステップS115)。ここで、第1閾値とは、上述の出力率に対して予め定められている閾値率を、上述の着陸合計出力に掛け合わせて得られる値を意味する。したがって、ステップS110は、下記式(2)が成立するか否かを判定することに等しく、また、かかる式(2)を書き換えて得られる式(3)によれば、かかるステップS115は、浮上用モータの出力率(合計モータ出力/着陸合計出力)が閾値率よりも低いか否かを判定する処理であるとも言える。なお、上述の「浮上用モータの出力率に対して予め定められている閾値率」は、出力率がかかる閾値率よりも低い場合には、例えば、浮上用回転翼のみの駆動により高度を維持できなくなって飛行安定性が著しく損なわれることとなる率として、予め実験やシミュレーション等により定められている。
合計モータ出力<(閾値率×着陸合計出力) ・・・(2)
(合計モータ出力/要求モータ出力)<閾値率 ・・・(3)
【0036】
浮上用モータの合計モータ出力が第1閾値よりも小さいと判定された場合(ステップS115:YES)、警報レベル設定部132は、警告レベルとして警告レベル3を設定する(ステップS120)。したがって、この場合には、緊急着陸をしなければならない程度の警報レベルが設定され、警報出力部134は、かかる警報レベル3で警報をUI部50に出力することとなる。
【0037】
上述のステップS115において、浮上用モータの合計モータ出力が第1閾値よりも小さくないと判定された場合(ステップS115:NO)、出力率算出部133は、推進用モータの合計モータ出力が第2閾値よりも小さいか否かを判定する(ステップS125)。ステップS125は、上述のステップS115と同様に、推進用回転翼を回転駆動させるモータの出力率(合計モータ出力/要求モータ出力)が閾値率よりも低いか否かを判定する処理であるとも言える。なお、上述の「推進用モータの出力率に対して予め定められている閾値率」は、出力率がかかる閾値率よりも低い場合には、推進用回転翼の駆動により高度を維持できなくなって飛行安定性が著しく損なわれることとなる率として、予め実験やシミュレーション等により定められている。
【0038】
推進用モータの合計モータ出力が第2閾値よりも小さいと判定された場合(ステップS125:YES)、警報レベル設定部132は、警告レベルとして警告レベル2を設定する(ステップS130)。したがって、この場合には、飛行計画を短縮しなければならない程度の警報レベルが設定され、警報出力部134は、かかる警報レベル2で警報をUI部50に出力することとなる。上述のステップS125において、推進用モータの合計モータ出力が第2閾値よりも小さくないと判定された場合(ステップS125:NO)、上述のステップS135が実行され、警報レベル1が設定される。上述のステップS120、S130、S135が完了すると、処理はステップS105に戻る。
【0039】
ステップS125で推進用モータの合計モータ出力が第2閾値よりも小さいときには、浮上用モータの合計モータ出力が第1閾値より小さいときに設定される「警告レベル3」よりも低い「警告レベル2」が設定される理由について説明する。浮上用モータの合計モータ出力が第1閾値より小さい場合(ステップS115:YES)、もはや電動航空機20は、浮上用回転翼の回転駆動だけでは高度を維持できない。したがって、かかる場合には最も高い「警告レベル3」が設定される。これに対して、ステップS125において、推進用モータの合計モータ出力が第2閾値より低い場合(ステップS125:YES)、浮上用モータの合計モータ出力は第1閾値以上であるため、浮上用モータの駆動により得られる浮上力を利用して高度を維持することができる。したがって、かかる異常への対応の緊急性は低く、より低いレベルの「警告レベル2」が設定される。このように、本実施形態では、モータシステム10の異常が検出された場合に、かかるモータシステムが回転駆動させる回転翼の機能(浮上/推進)に応じて警告レベルが設定されている。これにより、対応の緊急性が高い異常であるにも関わらず低いレベルの警報レベルが設定されることや、対応の緊急性が低い異常であるにも関わらず高いレベルの警報レベルが設定されたために、不要な緊急着陸が行われ、乗員の利便性を損ねることを抑制できる。
【0040】
以上説明した第1実施形態のモータシステム10によれば、異常システムに対応する回転翼の機能に応じた警報レベルを設定するので、適切な警報レベルを設定することができる。
【0041】
また、浮上用モータの合計モータ出力が第1閾値よりも小さい場合に、大きい場合に比べて警報レベルとしてより高いレベルを設定するので、合計モータ出力が小さく、対応の緊急性がより高い異常が発生した場合に、警報レベルとしてより高いレベルを設定できる。このため、かかる警報に対する対応が遅れてしまい安全性を損なうことを抑制できる。同様に、推進用モータの合計モータ出力が第2閾値よりも小さい場合に、大きい場合に比べて警報レベルとしてより高いレベルを設定するので、合計モータ出力が小さく、対応の緊急性がより高い異常が発生した場合に、警報レベルとしてより高いレベルを設定できる。このため、かかる警報に対する対応が遅れてしまい安全性を損なうことを抑制できる。また、合計モータ出力が大きく、対応の緊急性がより低い異常が発生した場合に、警報レベルとしてより低いレベルを設定するので、不要な緊急着陸が行われ、乗員の利便性を損ねることを抑制できる。
【0042】
また、推進力または揚力に影響が無い場合、すなわち、電動航空機20における推進機能と浮上機能とのうちのいずれも損なわれていない場合には、最も低い警告レベルである「警告レベル1」が設定される。つまり、本実施形態では、上記2つの機能のいずれも損なわれていない場合には、2つの機能のうちの少なくとも一方が損なわれた場合に比べて警告レベルとしてより低いレベルが設定される。このため、推進機能と浮上機能がいずれも損なわれないにも関わらず緊急着陸や飛行計画の短縮が行われてしまい、電動航空機の乗員の利便性を損なってしまうことを抑制できる。
【0043】
B.第2実施形態:
第2実施形態の異常警報システム130は、警報レベル設定処理の具体的な手順において、第1実施形態の異常警報システム130と異なる。第2実施形態における異常警報システム130を含む電動航空機20の装置構成は、第1実施形態の電動航空機20と同じであるので、同一の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0044】
図4に示すように、第2実施形態の警報レベル設定処理では、ステップS112が追加して実行される点において、図3に示す第1実施形態の警報レベル設定処理と異なる。第2実施形態の警報レベル設定処理におけるその他の手順は、第1実施形態の警報レベル設定処理と同じであるので、同一の手順には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0045】
上述のステップS110において、電動航空機20における推進力または揚力に影響が無いと判定された場合(ステップS110:NO)、警報レベル設定部132は、電動航空機20の制御性に影響があるか否かを判定する(ステップS112)。制御性とは、制御の容易性や、制御の正確性といった意味である。例えば、各種センサの特性異常に起因して測定精度が悪化している場合、かかる測定値に基づき電動航空機20を制御すると、制御精度が低下するおそれがあり、制御性に影響がある。また、例えば、インバータ回路121が有する図示しない平滑コンデンサの容量が低下した場合も、各モータシステム10への供給電圧が低下するため、制御性は低下して影響がある。他方、例えば、故障を検出する機能部、例えば、故障検出専用の信号線や、比較回路が故障しても、電動航空機20の制御自体には影響を与えない。同様に、例えば、フェールセーフを実行するための機能部の故障も電動航空機20の制御自体には影響を与えない。したがって、これらの故障では、制御性に影響はない。本実施形態では、異常の種類と制御性に影響を与えるか否かが対応付けられたマップが予め異常警報システム130が有する記憶部に記憶されており、ステップS112ではかかるマップを参照することにより、電動航空機20の制御性に影響があるか否かを判定される。
【0046】
電動航空機20の制御性に影響が無いと判定された場合(ステップS112:NO)、上述のステップS135が実行され、警報レベルとして「警報レベル1」が設定される。これに対して、電動航空機20の制御性に影響があると判定された場合(ステップS112:YES)、上述のステップS130が実行され、警報レベルとして「警報レベル2」が設定される。電動航空機20の制御性に影響がある場合には、無い場合に比べて対応の緊急性は高いため、本実施形態では、より高い警報レベルが設定されるように構成されている。
【0047】
以上説明した第2実施形態の異常警報システム130は、第1実施形態の異常警報システム130と同様な効果を奏する。加えて、検出された異常が電動航空機20の制御性に影響があるか否かを判定し、影響があると判定された場合には影響が無いと判定された場合に比べてより高い警報レベルを設定するので、対応が行われ易くできる。
【0048】
C.第3実施形態:
C1.装置構成:
第3実施形態の異常警報システム130は、警報レベル設定処理の具体的な手順において、第1実施形態の異常警報システム130と異なる。第3実施形態における異常警報システム130の装置構成は、第1実施形態の異常警報システム130と同じであるので、同一の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。第3実施形態の異常警報システム130が搭載されている電動航空機20aの構成は、第1実施形態の電動航空機20の構成と異なる。まず、この電動航空機20aの構成について、図5および図6を用いて説明する。
【0049】
図5および図6に示す電動航空機20aは、いわゆるチルトウィング形の機体を有する。なお、図5は、クルーズ時の電動航空機20aの上面図を表し、図21は、垂直離着陸時の電動航空機20aの上面図を表している。
【0050】
第3実施形態の電動航空機20aは、第1実施形態の電動航空機20と同様に、機体21、主翼25、尾翼28を有する。右翼26および左翼27には、それぞれモータシステム10と回転翼30aとのセットが2つずつ配置されている。回転翼30aは、浮上用回転翼として機能するとともに推進用回転翼としても機能する点において、第1実施形態の回転翼30と異なりその他の構成は同じである。本実施形態では、右翼26および左翼27は、回動可能に構成されている。図5に示すように、クルーズ時には、右翼26および左翼27は、略水平となるように姿勢が制御されている。これにより、回転翼30aは、鉛直方向と平行に回転駆動可能となり、かかる回転駆動によって推進力が発生する。これに対して、図6に示すように、垂直離着陸時には、右翼26および左翼27は、略鉛直となるように姿勢が制御されている。これにより、回転翼30aは、水平方向と平行に回転駆動可能となり、かかる回転駆動によって揚力が発生する。
【0051】
C2.警報レベル設定処理:
図7に示す第3実施形態の警報レベル設定処理は、ステップS115に代えてステップS115aが実行される点、およびステップS125に代えてステップS125aが実行される点において、図3に示す第1実施形態の警報レベル設定処理と異なる。第3実施形態の警報レベル設定処理におけるその他の手順は、第1実施形態の警報レベル設定処理と同じであるので、同一の手順には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0052】
検出されたモータシステム10の異常が、電動航空機20における推進力または揚力に影響があると判定された場合(ステップS110:YES)、出力率算出部133は、すべてのモータの合計モータ出力が低閾値よりも小さいか否かを判定する(ステップS115a)。第1実施形態のステップS115では、浮上用モータの合計モータ出力について判定が行われていたが、このステップS115aでは、すべてのモータの合計モータ出力について判定が行われる。これは、回転翼30aが浮上用回転翼としても推進用回転翼としても機能するためである。上述の「低閾値」および後述の「高閾値」について、図8を用いて説明する。
【0053】
図8において、縦軸は合計モータ出力を示す。横軸には、合計モータ出力が互いに異なる4つのモデルケースが表されている。第3実施形態においては、合計モータ出力に対して、「正常限界閾値」、「性能限界閾値」、「安全限界閾値」の3つの閾値が設定されている。「正常限界閾値」とは、かかる閾値以上であれば正常な飛行が可能となる値として設定された閾値である。「性能限界閾値」とは、かかる閾値以上であれば設計意図通りの機体性能を最大限発揮できる値として設定された閾値である。「安全限界閾値」とは、かかる閾値以上であればパイロットのスキルに依存せずに安全確保できる値として設定された閾値である。これらの閾値は、予め実験やシミュレーションにより決定され得る。例えば、「ケース1」では、合計モータ出力は正常限界閾値よりも大きいので、電動航空機20aにおいて正常な飛行が実現できる。「ケース2」では、合計モータ出力は正常限界閾値を下回っているものの、性能限界閾値よりも大きいので、設計意図通りの機体性能を最大限発揮することができる。「ケース3」では、合計モータ出力は、性能限界閾値を下回っているものの、安全限界閾値よりも大きいので、パイロットのスキルに依存せずに安全確保することができる。「ケース4」では、合計モータ出力は、安全限界閾値を下回っている。このため、パイロットのスキルが高ければ安全が確保できる場合もあるが、かかるスキルが低い場合には安全が確保できなくなる。図8の右端に示すように、合計モータ出力が安全限界閾値未満の場合には、電動航空機20aの飛行状態は、危険状態であるといえる。また、合計モータ出力が安全限界閾値以上且つ正常限界閾値未満の状態は、安全余裕のある状態であるといえる。また、合計モータ出力が正常限界閾値以上の状態は、正常であるといえる。本実施形態では、「低閾値」とは、「安全限界閾値」に相当し、「高閾値」とは、「性能限界閾値」に相当する。
【0054】
図7に示すように、合計モータ出力が低閾値よりも小さいと判定された場合(ステップS115a:YES)、上述のステップS120が実行され、警報レベルは「警報レベル3」に設定される。これに対して、モータの合計モータ出力が低閾値よりも小さくないと判定された場合(ステップS115a:NO)、出力率算出部133は、すべてのモータの合計モータ出力が高閾値よりも小さいか否かを判定する(ステップS125a)。
【0055】
合計モータ出力が高閾値よりも小さいと判定された場合(ステップS125a:YES)、上述のステップS130が実行され、警報レベルは「警報レベル2」に設定される。これに対して、合計モータ出力が高閾値よりも小さくないと判定された場合(ステップS125a:NO)、上述のステップS135が実行され、警報レベルは「警報レベル1」に設定される。
【0056】
以上説明した第3実施形態の異常警報システム130は、第1実施形態の異常警報システム130と同様な効果を有する。加えて、チルトウィング形の機体を有する電動航空機20aに異常警報システム130aが搭載された構成において、合計モータ出力が安全限界閾値未満の場合には、警告レベル3を設定でき、合計モータ出力が安全限界閾値以上且つ性能限界閾値未満である場合には、警告レベル2を設定でき、合計モータ出力が性能限界閾値以上且つ正常限界閾値未満である場合には、警告レベル1を設定できる。したがって、モータ合計モータ出力に応じた適切なレベルを、警報レベルとして設定できる。
【0057】
D.第4実施形態:
D1.装置構成:
図9に示す第4実施形態の異常警報システム130aは、警報レベルマップ135を備える点において、図2に示す第1実施形態の異常警報システム130と異なる。第4実施形態の異常警報システム130aにおけるその他の構成は、第1実施形態の異常警報システム130と同じであるので、同一の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0058】
図10に示すように、第4実施形態の警報レベルマップ135は、浮上用モータの合計モータ出力と、推進用モータの合計モータ出力の組み合わせに対して、警報レベルが対応付けられている。浮上用モータの合計モータ出力には、下記(i)~(iii)の3つの出力レベルが設定されている。
(i)安全限界閾値未満
(ii)安全限界閾値以上且つ性能限界閾値未満
(iii)性能限界閾値以上且つ正常限界未満
また、推進用モータの合計モータ出力には、上記(i)~(iii)の3つの出力レベルに加えて、下記(iv)の出力レベルが設定されている。
(iv)推進力喪失
【0059】
上記(i)~(iii)における、安全限界閾値、性能限界閾値、正常限界閾値は、いずれも第3実施形態と同様であるのでその詳細な説明を省略する。上記(iv)の推進力喪失とは、すなわち、推進用モータの合計モータ出力が0(ゼロ)であることを意味する。
【0060】
図10に示すように、浮上用モータの出力レベルが「安全限界閾値未満」の場合、および「安全限界閾値以上且つ性能限界閾値未満」の場合に対しては、推進用モータの出力レベルに関わらず、「警報レベル3」が設定されている。また、浮上用モータの出力レベルが「性能限界異常且つ正常限界未満」の場合であって、推進用モータの出力レベルが「安全限界未満」または「推進力喪失」の場合に対しては、「警報レベル3」が設定されている。さらに、浮上用モータの出力レベルが「性能限界閾値以上且つ正常限界未満」であり、且つ、推進用モータの出力レベルが「安全限界閾値以上且つ性能限界閾値未満」または「性能限界閾値以上且つ正常限界未満」である場合に対しては、「警報レベル2」が設定されている。
【0061】
ここで、浮上用モータの出力レベルが「性能限界閾値以上且つ正常限界未満」であり、且つ、推進用モータの出力レベルが「安全限界閾値以上且つ性能限界閾値未満」の場合に対して「警報レベル2」が設定されているのに対して、出力レベルが逆となる場合、すなわち、浮上用モータの出力レベルが「安全限界閾値以上且つ性能限界閾値未満」であり、且つ、推進用モータの出力レベルが「性能限界閾値以上且つ正常限界未満」の場合に対しては、「警報レベル3」が設定されている。これは、第1実施形態において述べた回転翼の機能の違いによるものである。すなわち、浮上用モータは、電動航空機20の揚力を得るために用いられる回転翼を回転駆動させる機能を有する。このため、故障等による出力低下は、推進用モータの出力低下に比べて電動航空機20の飛行に大きな影響を与える。そこで、本実施形態では、同じ出力レベルであっても、浮上用モータがかかる出力レベルになった場合に対して高い警報レベル(警報レベル3)が設定されるように予め警報テーブルが設定されている。
【0062】
D2.警報レベル設定処理:
図11に示す第4実施形態の警報レベル設定処理は、第1実施形態の警報レベル設定処理と同様に、警報レベルを設定するための処理であり、電動統括ECU110の電源がオンすると実行される。異常判定部131は、各モータシステム10をそれぞれ対象として異常診断を実行し、異常を検出した否かを判定する(ステップS205)。異常を検出しないと判定された場合(ステップS205:NO)、処理はステップS105に戻る。このステップS205は、上述の第1実施形態の警報レベル設定処理のステップS105と同じであるので、その詳細な説明を省略する。
【0063】
異常を検出したと判定された場合(ステップS205:YES)、出力率算出部133は、浮上用モータの合計モータ出力を特定する(ステップS210)。また、出力率算出部133は、推進用モータの合計モータ出力を特定する(ステップS215)。
【0064】
警報レベル設定部132は、ステップS210により特定された浮上用モータの合計モータ出力と、ステップS215により特定された推進用モータの合計モータ出力とに基づき、図10に示す警報レベルマップ135を参照して、警報レベルを設定する(ステップS220)。したがって、例えば、浮上用モータの出力レベル(合計モータ出力)が安全限界閾値以上且つ性能限界閾値未満の出力レベルに該当し、推進用モータの出力レベル(合計モータ出力)が性能限界閾値以上且つ正常限界閾値未満の出力レベルに該当する場合には、「警報レベル3」が設定されることとなる。ステップS220の完了後、処理はステップS205に戻る。
【0065】
以上説明した第4実施形態の異常警報システム130aは、第1実施形態の異常警報システム130と同様な効果を奏する。加えて、浮上用モータの合計モータ出力と、推進用モータの合計モータ出力の組み合わせに対して、予め警報レベルが設定されている警報レベルマップ135を参照して警報レベルを設定するので、適切な警報レベルを簡易且つ短時間に設定できる。また、同じ出力レベルであっても、浮上用モータがかかる出力レベルになった場合には、推進用モータがかかる出力レベルになった場合に比べて、より高い警報レベル(警報レベル3)が設定されるので、電動航空機20の飛行により大きな影響を与える浮上用モータを含むモータシステム10の異常時に、より高い警報レベルを設定できる。
【0066】
E.第5実施形態:
第5実施形態の異常警報システム130の構成は、第1実施形態の異常警報システム130の構成と同じであるので、同一の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、第5実施形態の異常警報システム130が搭載される電動航空機は、図1に示す第1実施形態の電動航空機20と同じである。第5実施形態の異常警報システム130では、図3に示す警報レベル設定処理に加えて、図12に示す警報レベル調整処理が実行される点において、第1実施形態の異常警報システム130と異なる。警報レベル調整処理とは、警報レベル設定処理により設定された警報レベルを調整するための処理であり、警報レベル設定処理のステップS120、S130、S135のいずれかが完了すると実行される。
【0067】
図12に示すように、警報レベル設定部132は、警報レベル設定処理において異常と判定されたモータシステム(以下、「異常システム」と呼ぶ)に対応するモータは浮上用モータであるか否かを判定する(ステップS305)。異常システムに対応するモータが浮上用モータでないと判定された場合(ステップS305:NO)、警報レベル設定部132は警報レベルを維持する(ステップS310)。したがって、この場合、警報レベルは、警報レベル設定処理によって設定された警報レベルのままとなる。
【0068】
これに対して、異常システムに対応するモータが浮上用モータであると判定された場合(ステップS305:YES)、警報レベル設定部132は、該当の浮上用モータにより回転駆動される回転翼30は、主翼25に配置されているか否か、すなわち、2つの浮上用回転翼31f、31gのいずれかに該当するか否かを判定する(ステップS315)。
【0069】
該当の浮上用モータが回転駆動させる回転翼30は、主翼25に配置されていない、すなわち、浮上用回転翼31a~31eのいずれかに該当すると判定された場合(ステップS315:NO)、上述のステップS310が実行され、警報レベルは維持される。これに対して、該当の浮上用モータが回転駆動させる回転翼30は、主翼25に配置されている、すなわち、2つの浮上用回転翼31f、31gのいずれかに該当すると判定された場合(ステップS315:YES)、警報レベル設定部132は、警報レベルを1つ上げる(ステップS320)。上述のステップS310またはステップS320の完了後、警報レベル調整処理は終了する。なお、警報レベルが最大レベルの「警報レベル3」である場合には、かかるレベルを維持する。
【0070】
例えば、浮上用モータを含むモータシステム10の故障により推進力または揚力に影響がある(ステップS110:YES)と判定され、浮上用モータの合計モータ出力が第1閾値以上であり(ステップS115:NO)、且つ、推進用モータの合計モータ出力が第2閾値よりも小さい場合(ステップS125:YES)、警報レベル設定処理によれば、「警報レベル2」が設定される。しかし、故障したモータシステム10が主翼25に配置されている2つの浮上用回転翼31f、31gのいずれかを回転駆動させるシステムである場合には、警報レベルは、1つ上がって「警報レベル3」に調整(変更)されることとなる。これに対して、故障したモータシステム10が本体部22に配置されている5つの浮上用回転翼31a~31eのいずれかを回転駆動させるシステムである場合には、警報レベルは、「警報レベル2」のままである。
【0071】
このように、故障したモータシステム10が主翼25に配置されている2つの浮上用回転翼31f、31gのいずれかを回転駆動させるモータシステムである場合には、警報レベルを1つ上げるようにしている理由について説明する。主翼25に配置されている2つの浮上用回転翼31f、31gは、重心位置CMから遠い位置に存在しているため、これらを回転駆動させるモータシステム10が故障した場合には、他の5つの浮上用回転翼31a~31eが故障した場合に比べて、電動航空機20の姿勢が大きく変動して飛行安定性が低下し易い。そこで、故障したモータシステム10が主翼25に配置されている2つの浮上用回転翼31f、31gのいずれかを回転駆動させるモータシステムである場合には、警報レベルを1つ上げるようにして、迅速な対応を促すようにしている。
【0072】
以上説明した第5実施形態の異常警報システム130は、第1実施形態の異常警報システム130と同様な効果を奏する。加えて、警報レベル調整処理を実行して、故障したモータシステム10が主翼25に配置されている2つの浮上用回転翼31f、31gのいずれかを回転駆動させるシステムである場合には、警報レベルを1つ上げるようにしているので、故障が生じた場合に電動航空機20の姿勢が大きく変動して飛行安定性が低下し易いモータシステム10の故障時において、警報レベルを1つ上げて迅速な対応を促すことができる。
【0073】
F.第6実施形態:
第6実施形態の異常警報システム130は、警報レベル設定処理の具体的な手順において、第1実施形態の異常警報システム130と異なる。第6実施形態における異常警報システム130を含む電動航空機20の装置構成は、第1実施形態の電動航空機20と同じであるので、同一の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0074】
第1実施形態では、警報レベルは警報レベル1~3の3つのレベルであった。これに対して第6実施形態では、警報レベルは、相対的に「低い警報レベル」と、相対的に「高い警報レベル」の2つのレベルである。これら2つのレベルの差は、第1実施形態と同様に、緊急性の差に相当する。しかし、かかる警報に基づき出力される警報自体、すなわち、UI部50に表示される警報メッセージ自体は、「高い警報レベル」と「低い警報レベル」とで共通している。また、第6実施形態では、警報出力部134は、異常診断の結果、同一のモータシステム10に対して閾値回数以上連続して異常であると診断された場合に、警報を出力する。そして、第6実施形態では、「高い警報レベル」に設定されている場合には、相対的に警報が出力され易くなり、「低い警報レベル」に設定されている場合には、相対的に警報が出力され難くなる。
【0075】
図13に示すように、異常判定部131は、各モータシステム10をそれぞれ対象として異常診断を実行し、異常を検出した否かを判定する(ステップS400)。異常を検出しないと判定された場合(ステップS400:NO)、処理はステップS400に戻る。このステップS400は、第1実施形態のステップS105と同じである。
【0076】
異常を検出したと判定された場合(ステップS400:YES)、警報レベル設定部132は、警報レベル設定処理において検出された異常システムに対応するモータは浮上用モータであるか否かを判定する(ステップS405)。このステップS405は、第5実施形態のステップS305と同じである。
【0077】
異常システムに対応するモータが浮上用モータでないと判定された場合(ステップS405:NO)、警報レベル設定部132は、警報出力の条件に用いられる「閾値回数」が初期値に設定された「低い警報レベル」に、警報レベルを設定する(ステップS410)。例えば、「閾値回数」として初期値の「4回」が設定される。
【0078】
異常システムに対応するモータが浮上用モータであると判定された場合(ステップS405:YES)、警報レベル設定部132は、該当の浮上用モータが回転駆動させる回転翼30は、主翼25に配置されているか否か、すなわち、2つの浮上用回転翼31f、31gのいずれかに該当するか否かを判定する(ステップS415)。このステップS415は、第5実施形態の警報レベル調整処理のステップS315と同様である。
【0079】
該当の浮上用モータが回転駆動させる回転翼30は、主翼25に配置されていない、すなわち、浮上用回転翼31a~31eのいずれかに該当すると判定された場合(ステップS415:NO)、上述のステップS410が実行され、警報出力の条件に用いられる「閾値回数」が初期値に設定された「低い警報レベル」に、警報レベルが設定される。
【0080】
これに対して、該当の浮上用モータが回転駆動させる回転翼30は、主翼25に配置されている、すなわち、2つの浮上用回転翼31f、31gのいずれかに該当すると判定された場合(ステップS415:YES)、警報レベル設定部132は、警報出力の条件に用いられる「閾値回数」を初期値に対して所定回数減少させた「高い警報レベル」に、警報レベルを設定する(ステップS420)。例えば、ステップS420では、閾値回数が「3」に設定される。上述のステップS410またはステップS420の完了後、処理はステップS400に戻る。
【0081】
例えば、浮上用モータを含むモータシステム10の故障が発生し、かかるモータシステム10が本体部22に配置されている5つの浮上用回転翼31a~31eのいずれかを回転駆動させるためのモータシステムである場合には、閾値回数は「4回」となり、警報が出力され難い。これに対して、故障したモータシステム10が主翼25に配置されている2つの浮上用回転翼31f、31gのいずれかを回転駆動させるモータシステムである場合には、閾値回数は「3回」となり、警報が出力され易い。
【0082】
このように、故障したモータシステム10が主翼25に配置されている2つの浮上用回転翼31f、31gのいずれかを回転駆動させるシステムである場合には、閾値回数を減少させて警報を出力され易くしているのは、第5実施形態において、故障したモータシステム10が主翼25に配置されている2つの浮上用回転翼31f、31gのいずれかを回転駆動させるモータシステムである場合には、警報レベルを1つ上げるようにしている理由と同様である。
【0083】
以上説明した第6実施形態の異常警報システム130は、第1実施形態の異常警報システム130と同様な効果を奏する。加えて、故障したモータシステム10が主翼25に配置されている2つの浮上用回転翼31f、31gのいずれかを回転駆動させるシステムである場合には、警報出力の条件で用いられる閾値回数を減少させるので、電動航空機20の姿勢が大きく変動して飛行安定性が低下し易いモータシステム10の故障時において、警報を出力され易くでき、迅速な対応を促すことができる。なお、第6実施形態では、出力率算出部133を省略してもよい。
【0084】
G.第7実施形態:
第7実施形態の異常警報システム130の構成は、第1実施形態の異常警報システム130の構成と同じであるので、同一の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、第7実施形態の異常警報システム130が搭載される電動航空機は、図1に示す第1実施形態の電動航空機20と同じである。第7実施形態の異常警報システム130では、図3に示す警報レベル設定処理に加えて、図14に示す警報レベル調整処理が実行される点において、第1実施形態の異常警報システム130と異なる。警報レベル調整処理とは、警報レベル設定処理により設定された警報レベルを調整するための処理であり、警報レベル設定処理のステップS120、S130、S135のいずれかが完了すると実行される。
【0085】
図14に示すように、警報レベル設定部132は、警報レベルの前回設定から所定期間経過したか否かを判定する(ステップS505)。警報レベルの前回設定から所定期間経過していないと判定された場合(ステップS505:NO)、警報レベル設定部132は、警報レベルを維持する(ステップS510)。本実施形態において、ステップS505の「所定期間」は、3分間に設定されている。なお、3分間に限らず、任意の期間に設定されてもよい。
【0086】
これに対して、警報レベルの前回設定から所定期間経過したと判定された場合(ステップS505:YES)、警報レベル設定部132は、警報レベルを1つ上げる(ステップS515)。ステップS510またはステップS515の完了後、処理はステップS505に戻る。警報レベルの前回設定から所定期間経過した場合、かかる所定期間の飛行により、故障による飛行への影響がより大きくなるおそれ、換言すると、対応の迅速性がより求められるおそれがある。例えば、各種センサ13~15の故障により、最適な動作点にてモータ11を回転させることができなくなり、モータ11における消費電力が増大して、電源70(二次電池)のSOC(State Of Charge)の減少速度が大きくなった場合、所定期間経過した場合には、SOCがより低下して飛行が継続できなくなるおそれがある。そこで、このような場合には、警報レベルを1つ上げて、より緊急性の高い警報を出力するようにしている。なお、第7実施形態の警報レベル調整処理は、繰り返し実行されるため、異常状態が改善されない限り、所定時間経過ごとに警報レベルが1つずつ上がることとなる。したがって、より長い間異常状態が継続するほど、より高い警報レベルが設定されることとなる。
【0087】
以上説明した第7実施形態の異常警報システム130は、第1実施形態の異常警報システム130と同様な効果を奏する。加えて、警報レベルの前回設定から所定期間経過した場合に警報レベルを1つ上げるので、かかる所定期間の飛行により、故障による飛行への影響がより大きくなって対応の迅速性がより求められる場合において、より緊急性の高い警報を出力できる。
【0088】
H.他の実施形態:
(H1)各実施形態において、出力率算出部133が算出する出力率は、要求モータ出力に対するモータシステムの合計モータ出力の割合を意味していたが、本開示はこれに限定されない。電動航空機20の飛行に必要な最低限の回転翼30(モータ11)の個数に対する、出力可能な正常な回転翼30(モータ11)の個数の割合を意味してもよい。かかる構成においても、各実施形態と同様な効果を奏する。
【0089】
(H2)第5実施形態では、故障したモータシステム10が主翼25に配置されているか否かに応じて警報レベルを1つ上げるか否かが決定されていたが、本開示はこれに限定されない。電動航空機20の重心位置CMから遠い位置に配置されている浮上用回転翼に対応するモータシステム10についての警報レベルを、重心位置CMに近い位置に配置されている浮上用回転翼に対応するモータシステム10についての警報レベルよりも高いレベルとして設定する任意の構成を採用してもよい。具体的には、本体部22に配置されている5つの浮上用回転翼31a~31eのうち、重心位置CMに配置されている浮上用回転翼31aが故障した場合に設定される警報レベルよりも、他の4つの浮上用回転翼31b~31eが故障した場合に設定される警報レベルを高く設定するようにしてもよい。かかる構成においては、重心位置CMから遠い位置に配置されている浮上用回転翼に対応するモータシステム10についての警報レベルを、重心位置CMに近い位置に配置されている浮上用回転翼に対応するモータシステム10についての警報レベルよりも高いレベルとして設定するので、重心位置CMから遠い位置に配置されているために回転が異常となった場合の電動航空機20の飛行や姿勢に大きな影響を与える回転翼に対応するモータシステム10の異常に対して、より高いレベルの警報レベルを設定できる。
【0090】
(H3)第6実施形態では、故障したモータシステム10が主翼25に配置されているか否かに応じて回転閾値を増加させるか否かが決定されていたが、本開示はこれに限定されない。電動航空機20の重心位置CMから遠い位置に配置されている浮上用回転翼に対応するモータシステム10についての閾値回数を、重心位置CMに近い位置に配置されている浮上用回転翼に対応するモータシステム10についての閾値回数よりもより減少させる構成を採用してもよい。かかる構成によれば、第6実施形態と同様な効果を奏する。加えて、重心位置CMからより遠くに配置されているために故障が生じた場合に電動航空機20の姿勢が大きく変動して飛行安定性がより低下し易いモータシステム10の故障時において、警報をより出力され易くでき、迅速な対応を的確な程度にて促すことができる。
【0091】
(H4)第7実施形態の警報レベル調整処理では、ステップS505において、警報レベルの前回設定から所定期間経過したか否かが判定されていたが、本開示はこれに限定されない。例えば、最初に異常と判定されてからの経過時間に対して、予め警報レベルを上げる閾値時間を設けておく。具体的には、警報レベルを1つ上げる閾値時間、警報レベルをさらに1つ上げる閾値時間をそれぞれ設定しておく。そして、ステップS505では、「経過時間が閾値時間に達したか否か」を判定するようにしてもよい。
【0092】
(H5)各実施形態において、警報レベルの数は、2つまたは3つであったが、本開示はこれらに限定されない。2以上の任意の数であってもよい。例えば、第1実施形態においては、警報レベルの数を4つ以上とし、浮上用モータの合計モータ出力および推進用モータの合計モータ出力に対してそれぞれ複数の閾値を設け、かかる閾値により特定される複数の出力レベルごとに、互いに異なる警報レベルを設定するようにしてもよい。同様に、第3実施形態においても、合計モータ出力に対して、3つ以上の閾値を設けてもよい。第4実施形態では、例えば、図15に示す警報レベルマップ135aように、浮上用モータの出力レベルについて「浮上力喪失」という新たなレベルを設け、かかる出力レベルに該当する場合には、推進用モータの出力レベルに関わらず、いずれも警報レベル3よりも高い「警報レベル4」を設定するようにしてもよい。かかる構成においては、警報レベル設定部132は、推進機能と浮上機能とのうちの浮上機能が損なわれた場合(すなわち、浮上力が喪失した場合)に、推進機能が損なわれた場合(すなわち、推進力が喪失した場合)に比べて、警報レベルとしてより高いレベルを設定することとなる。かかる構成においては、推進機能と浮上機能とのうちの浮上機能のみが損なわれた場合に、推進機能のみが損なわれた場合に比べて、警報レベルとしてより高いレベルを設定するので、電動航空機の安全性が大きく損なわれることを抑制できる。かかる構成においては、出力率算出部133は、本開示における出力率算出部および機能損失特定部に相当する。なお、かかる構成および第4実施形態では、警報レベル設定部132は、推進機能と浮上機能とのうちのいずれも損なわれない場合には、推進機能と浮上機能とのうちの少なくとも一方が損なわれた場合に比べて、警報レベルとして同じレベル又はより低いレベルを設定することとなる。これにより、推進機能と浮上機能がいずれも損なわれないにも関わらず緊急の対応が行われてしまい、電動航空機の乗員の利便性を損なうことを抑制できる。
【0093】
(H6)警報レベル調整処理における警報レベルの調整は、主翼25に配置されているか否か(第5実施形態)、警報レベルの前回設定から所定期間経過したか否か(第6実施形態)に応じて実施されていたが、本開示はこれに限定されない。例えば、電源70の充電残量(電池SOC)、空港までの距離、高度、乗員数、機体重量、機体タイプなどの各パラメータに応じて、警報レベル設定処理にて設定された警報レベルを調整するようにしてもよい。具体的には、電源70の充電残量が少ないほど、空港までの距離が長いほど、高度が高いほど、乗員数が多いほど、機体重量が大きいほど、警報レベルを上げるようにしてもよい。また、機体タイプに関しては、例えば、翼が無いタイプは有るタイプに比べて警報レベルを上げる、モータ数が少ないタイプは多いタイプに比べて警報レベルを上げる、などの調整を行ってもよい。また、これらの各パラメータをそれぞれ点数化し、全パラメータの点数の合計値に応じて警報レベルを設定するようにしてもよい。さらに、これらのパラメータに代えて、上述の出力率、制御性への影響度をそれぞれ点数化し、それらの合計値に応じて警報レベルを設定するようにしてもよい。なお、かかる構成においては、モータ11の冷却性能の高低も点数化して合計値に加えるようにしてもよい。冷却性能は、例えば、冷却媒体の温度を点数化し、より高い温度であるほどより点数が高い(警報レベルが高く設定され易い)構成としてもよい。
【0094】
(H7)各実施形態における異常警報システム130、130aは、あくまでも一例であり、様々に変更可能である。例えば、異常警報システム130、130aは、電動航空機20、20aに搭載されずに、例えば、地上の管制塔などに設置されたサーバ装置により構成されてもよい。かかる構成においては、通信装置60を介した通信により各モータシステム10の制御、各モータシステム10の異常診断、警報レベル設定処理、警報レベル調整処理が行われてもよい。各実施形態において、モータシステム10は、モータ11を含んでいたが、モータ11を含まない構成としてもよい。また、第4および第6実施形態を除く他の実施形態の警報レベル設定処理のステップS110では、予め「推進力または揚力に影響がある異常内容」が列挙されたマップが用いられていたが、かかるマップに代えて、または、かかるマップに加えて、「推進力または揚力に影響がない異常内容」が列挙されたマップが用いられてもよい。また、モータ11をモータジェネレータにより構成してもよい。
【0095】
(H8)本開示に記載の異常警報システム130、130a及びそれら手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の異常警報システム130、130a及びそれら手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の異常警報システム130、130a及びそれら手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0096】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0097】
10…モータシステム、11…モータ、20…電動航空機、30…回転翼、130、30a…異常警報システム、131…異常判定部、132…警報レベル設定部
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