(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】眼底撮影装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/14 20060101AFI20240220BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240220BHJP
A61B 3/10 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
A61B3/14
G01N21/64 E
A61B3/10 300
(21)【出願番号】P 2020128270
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】秋田 純一
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴行
(72)【発明者】
【氏名】藤生 賢士朗
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宏明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晃一
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-162926(JP,A)
【文献】特開2000-287937(JP,A)
【文献】特開2008-110156(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0117064(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の眼底へ光を照射する光照射部と、前記眼底に対して前記光照射部からの前記光を2次元的に走査する走査部と、前記眼底からの前記光の戻り光を受光する受光部と、を有し、前記被検眼の眼底画像を取得する眼底撮影装置であって、
前記光照射部は、前記被検眼を固視させるための固視光源と、前記眼底の蛍光物質を励起させるための励起光源と、を備え、前記固視光源が発する固視光と、前記励起光源が発する励起光と、を同軸で照射し、
さらに、
前記励起光に基づいて、前記眼底画像としての蛍光画像を連続的に撮影する撮影制御手段と、
前記眼底に対する前記固視光の照射と前記励起光の照射とを分離させる分離手段と、
を備えることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項2】
請求項1の眼底撮影装置において、
前記分離手段は、前記固視光と前記励起光とを交互に照射させる照射制御手段であって、
前記撮影制御手段により撮影される前記蛍光画像のフレームに連動して、前記照射制御手段により前記固視光と前記励起光との照射が交互に繰り返されることで、前記眼底上の同一の位置に対して、前記固視光の照射と前記励起光の照射とが分離されることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項3】
請求項2の眼底撮影装置において、
前記照射制御手段は、前記蛍光画像における所定のフレーム数毎に、前記固視光と前記励起光との照射を交互に繰り返すことを特徴とする眼底撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被検眼の眼底画像を取得する眼底撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型眼底撮影装置(Scanning Light Ophthalmoscope:SLO)が知られている。例えば、このような装置では、被検者の血管に投与された造影剤を励起光の照射により励起させることで、眼底の蛍光発光を経時的に撮影することができる。また、例えば、このような装置では、眼底に蓄積された蛍光物質の自然蛍光発光(自発蛍光発光)を撮影することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、眼底の蛍光発光を撮影する蛍光撮影においては、被検者の視線を誘導するための固視光が、励起光とともに照射される。しかし、被検者は、励起光にまぶしさを感じて固視光を視認しづらくなり、視線が不安定になることがあった。
【0005】
本開示は、上記従来技術に鑑み、蛍光撮影を適切に行うことができる眼底撮影装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示は、以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0007】
本開示の眼底撮影装置は、被検眼の眼底へ光を照射する光照射部と、前記眼底に対して前記光照射部からの前記光を2次元的に走査する走査部と、前記眼底からの前記光の戻り光を受光する受光部と、を有し、前記被検眼の眼底画像を取得する眼底撮影装置であって、前記光照射部は、前記被検眼を固視させるための固視光源と、眼底の蛍光物質を励起させるための励起光源と、を備え、前記固視光源が発する固視光と、前記励起光源が発する励起光と、を同軸で照射し、さらに、前記励起光に基づいて、前記眼底画像としての蛍光画像を連続的に撮影する撮影制御手段と、前記眼底に対する前記固視光の照射と前記励起光の照射とを分離させる分離手段と、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施例におけるSLO装置の光学系を示す図である。
【
図4】固視光と励起光の制御を模式的に示す図である。
【
図5】プリズムによる光軸の分岐を説明する図である。
【
図6】第2実施例におけるSLO装置の光学系を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<概要>
本開示に係る眼科撮影装置の実施形態を説明する。以下の〔 〕にて分類された項目は、独立または関連して利用されうる。
【0010】
本実施形態の眼底撮影装置は、眼底の正面画像を撮影する。眼底撮影装置は、正面画像の1つとして、蛍光画像を撮影することが可能である。蛍光画像は、眼底の血管に投与された蛍光造影剤の蛍光発光による撮影画像(すなわち、蛍光造影画像)であってもよい。また、蛍光画像は、眼底に蓄積された蛍光物質の自発蛍光発光による撮影画像(すなわち、自発蛍光画像)であってもよい。眼底撮影装置は、他の正面画像として、反射画像を撮影することが可能であってもよい。反射画像は、眼底に照射した光の眼底反射光による撮影画像であってもよい。
【0011】
眼底撮影装置は、被検眼の眼底上でスポット状の光を2次元的に走査する、後述の撮影光学系(SLO光学系)を有したSLO装置であってもよい。なお、眼底撮影装置は、SLO装置とその他の装置とが複合された装置であってもよい。一例として、光干渉断層計、治療用レーザ装置、等の少なくともいずれかと複合された装置であってもよい。
【0012】
〔撮影光学系〕
本実施形態の眼底撮影装置は、撮影光学系を備えてもよい。撮影光学系は、被検眼の眼底へ光を照射し、眼底からの戻り光に基づいて、被検眼の眼底を撮影する。撮影光学系は、照射光学系および受光光学系、を備えてもよい。
【0013】
照射光学系(例えば、照射光学系10)は、光照射部と走査部とを有する。光照射部(例えば、光照射部11)は、被検眼の眼底へ光を照射する。走査部(例えば、走査部16)は、眼底に対して光照射部からの光を2次元的に走査する。
【0014】
光照射部は、固視光源と、励起光源と、を備えてもよい。固視光源は、被検眼を固視させるために用いられ、可視光を照射することが可能であってもよい。励起光源は、眼底の蛍光物質を励起させるために用いられ、可視光および赤外光の少なくともいずれかを照射することが可能であってもよい。なお、固視光源が発する可視光と、励起光源が発する可視光と、は兼用されてもよい。
【0015】
光照射部は、固視光源が発する固視光と、励起光源が発する励起光と、を同軸で照射するように構成してもよい。例えば、光照射部は、固視光源と励起光源とを兼用し、1つの光源から固視光と励起光とを発することで、これらの光を同軸としてもよい。また、例えば、光照射部は、固視光源と励起光源とをそれぞれに有し、固視光と励起光とを光学部材(一例として、ハーフミラー)等により結合させることで、これらの光を同軸としてもよい。もちろん、固視光と励起光とを、光ファイバーを利用して同軸としてもよい。
【0016】
走査部は、固視光および励起光を走査してもよい。走査部としては、反射ミラー(例えば、ガルバノミラー、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ、等)が用いられてもよい。また、走査部としては、光の進行方向を変化させる音響光学素子が用いられてもよい。
【0017】
受光光学系(例えば、受光光学系20)は、受光部を有する。受光部(例えば、受光素子25,27,29)は、眼底からの光の戻り光を受光する。受光部としては、1次元受光素子、2次元受光素子、等が用いられてもよい。
【0018】
〔固視光学系〕
本実施形態において、眼底撮影装置は、固視光学系を備えていてもよい。固視光学系は、被検眼に内部固視標を呈示する内部固視光学系であってもよいし、被検眼に外部固視標を呈示する外部固視光学系であってもよいし、内部固視光学系と外部固視光学系とをともに含んでいてもよい。内部固視光学系は、少なくとも固視標を形成するための光源を有し、筐体内に配置されてもよい。外部固視光学系は、少なくとも固視標を形成するための光源を有し、筐体外に配置されてもよい。
【0019】
固視光学系は、撮影光学系の光軸と交差する方向に関して、固視標の呈示位置を変更することが可能であってもよい。固視標(光源)としては、固視灯の他、ディスプレイ、プロジェクタ、等を利用してもよい。
【0020】
なお、固視光学系は、照射光学系と兼用されてもよい。例えば、光照射部から照射される可視光を、固視光(換言すれば、固視標)として用いることができる(詳細は<実施例>にて説明する)。
【0021】
〔撮影制御手段〕
本実施形態の眼底撮影装置は、撮影制御手段(例えば、制御部70)を備えてもよい。撮影制御手段は、被検眼の撮影に関する動作を制御する。撮影制御手段は、光照射部から固視光および励起光を照射させる。また、撮影制御手段は、眼底からの戻り光を受光した受光部からの受光信号に基づき、眼底画像を撮影する。
【0022】
撮影制御手段は、光照射部から照射された励起光に基づいて、蛍光画像を連続的に撮影してもよい。すなわち、蛍光画像を経時的に撮影してもよい。撮影制御手段による撮影タイミングは、一定の間隔であってもよいし、撮影の開始から終了までの期間において適宜設定されてもよい。例えば、蛍光造影画像を撮影する場合、各々の造影期間(造影初期、造影中期、造影後期、等)において適宜設定されてもよい。なお、撮影制御手段は、複数枚の蛍光画像を加算した加算画像を得てもよい。加算画像は、単純加算画像に限られず、加算平均画像、加重平均画像、等でもよい。
【0023】
〔分離手段〕
本実施形態の眼底撮影装置は、分離手段を備えてもよい。分離手段は、眼底に対する固視光の照射と励起光の照射とを分離させる。例えば、分離手段は、眼底に対する固視光の照射と励起光の照射とを、電気的または光学的な制御によって分離させてもよい。分離手段としては、照射制御手段が用いられてもよいし、光軸変更手段が用いられてもよい。もちろん、照射制御手段と光軸変更手段との組み合わせでもよい。分離手段によって、固視光が励起光のまぶしさにより視認しづらい状態を軽減させることができる。
【0024】
照射制御手段(例えば、制御部70)は、固視光と励起光とを交互に照射させてもよい。例えば、照射制御手段は、光照射部(固視光源および励起光源)を制御することによって、固視光と励起光とを交互に照射させてもよい。すなわち、固視光源と励起光源との点灯を交互に繰り返すことで、固視光と励起光とを交互に照射させてもよい。なお、このとき、固視光源と励起光源は、一方を点灯させている間、他方を消灯または減光させてもよい。
【0025】
また、例えば、照射制御手段は、光照射部の上流に配置される遮光部材(例えば、シャッター等)を制御することによって、固視光と励起光とを交互に照射させてもよい。すなわち、遮光部材の開閉または挿抜を交互に繰り返すことで、固視光と励起光とを交互に照射させてもよい。なお、遮光部材は、固視光および励起光を完全に遮る構成であっても、固視光および励起光の一部を遮る構成であってもよい。
【0026】
照射制御手段は、撮影制御手段により撮影される蛍光画像のフレームに連動させて、固視光と励起光との照射を交互に繰り返してもよい。この場合、固視光の照射と励起光の照射は、眼底上の同一の走査位置に対して分離される。眼底上の同一の視細胞に、固視光と励起光とが異なるタイミングで照射されるため、固視光を視認しやすくなる。
【0027】
照射制御手段は、撮影制御手段により撮影される蛍光画像の所定のフレーム数毎に、固視光と励起光との照射を交互に繰り返してもよい。例えば、所定のフレーム数は、任意の数に変更可能であってもよい。また、例えば、所定のフレーム数は、固定数であってもよい。この場合には、実験やシミュレーション等から予め設定されたフレーム数が用いられてもよい。なお、所定のフレーム数は、固視光の照射タイミングよりも励起光の照射タイミングが多くなるようなフレーム数に設定してもよい。これによって、固視光はより視認しやすくなる。
【0028】
光軸変更手段は、固視光の第1光軸と、励起光の第2光軸と、の位置関係を変更させてもよい。例えば、光軸変更手段は、固視光の第1光軸と、励起光の第2光軸と、の少なくともいずれかの軸を移動させることによって、互いの位置関係を変更させてもよい。この場合、固視光の照射と励起光の照射は、眼底上の異なる位置に対して分離される。眼底上の異なる視細胞に、固視光と励起光とが同一のタイミングで照射されるため、固視光を視認しやすくなる。
【0029】
光軸変更手段は、固視光源または励起光源の少なくともいずれかを移動させるための駆動部を制御する、移動制御手段であってもよい。光軸変更手段(移動制御手段)が、固視光源または励起光源の少なくともいずれかを移動させることによって、第1光軸と第2光軸との少なくともいずれかの軸が移動され、各々の位置関係が変更されてもよい。
【0030】
また、光軸変更手段は、固視光の第1光軸と励起光の第2光軸を分岐させるための、光学部材(例えば、プリズム18)であってもよい。光軸変更手段(光学部材)が、固視光の第1光軸上および励起光の第2光軸上の少なくともいずれかの軸上に配置されることによって、第1光軸と第2光軸との少なくともいずれかの軸が移動され、各々の位置関係が変更されてもよい。なお、光軸変更手段(光学部材)は、固視光の第1光軸と、励起光の第2光軸と、の共通光軸上に配置されてもよい。また、光軸変更手段(光学部材)には、プリズムレンズ、ビームスプリッタ、ダイクロイックミラー、等の少なくともいずれかを用いてもよい。
【0031】
光軸変更手段は、後述の設定手段によって、眼底の蛍光画像を撮影する第1撮影モードが設定された際に、固視光の第1光軸と、励起光の第2光軸と、の位置関係を変更させてもよい。例えば、光軸変更手段が移動制御手段である場合は、第1モード設定時において、固視光源または励起光源の少なくともいずれかを移動させるために、駆動手段を制御してもよい。
【0032】
また、例えば、光軸変更手段が光学部材である場合は、第1モード設定時において、固視光の第1光軸と、励起光の第2光軸と、の共通光軸上に配置されてもよい。この場合、光軸変更手段を挿抜させるための駆動部(例えば、駆動機構18a)を制御する駆動制御手段(例えば、制御部70)によって、光軸変更手段が挿抜可能に設けられてもよい。
【0033】
〔設定手段〕
本実施形態の眼底撮影装置は、設定手段(例えば、制御部70)を備えてもよい。設定手段は、眼底の蛍光画像を撮影する第1撮影モードと、眼底の蛍光画像とは異なる画像を撮影する第2撮影モードと、を設定可能である。例えば、設定手段は、第1撮影モードとして、蛍光造影撮影、自発蛍光撮影、等を設定することができる。なお、蛍光造影撮影は、フルオレセイン蛍光造影撮影、インドシアニングリーン蛍光造影撮影、等でもよい。例えば、設定手段は、第2撮影モードとして、赤外撮影、カラー撮影、等を設定することができる。
【0034】
設定手段は、操作者が操作手段(例えば、操作部75)を操作することで入力される操作信号に基づき、第1撮影モードまたは第2撮影モードのいずれかを設定してもよい。また、設定手段は、被検眼を撮影するための撮影プログラムに基づき、第1撮影モードまたは第2撮影モードのいずれかを設定してもよい。
【0035】
<実施例>
本実施形態における眼底撮影装置は、SLO装置である。SLO装置は、被検眼の眼底に向けてレーザ光を照射するとともに、眼底上でレーザ光を2次元的に走査し、眼底からのレーザ光の戻り光を受光することによって、眼底の正面画像を取得することができる。
【0036】
<第1実施例>
以下、第1実施例を説明する。
【0037】
図1は、第1実施例におけるSLO装置1の光学系を示す図である。SLO装置1は、照射光学系10と、受光光学系20と、を有する撮影光学系を備える。また、SLO装置1は、固視光学系を備える。
【0038】
〔撮影光学系〕
まず、照射光学系10について説明する。照射光学系10は、光照射部11と、走査部16と、を少なくとも備える。照射光学系10は、さらに、コリメーティングレンズ12、穴開きミラー13、レンズ14、レンズ15、対物レンズ系17、等を備えてもよい。
【0039】
光照射部11は、光を照射する。光照射部11からの光は、眼底Erに向けて照射光学系10から照射される照明光として利用される。
【0040】
光照射部11は、複数の波長域の光を、同軸で照射する。複数の波長域の光は、同時に、または、選択的に照射される。光照射部11は、複数の光源を含むユニットであってもよい(具体的な構造の説明は省略する)。例えば、光源には、レーザダイオード、スーパールミネッセントダイオード、等が含まれていてもよい。
【0041】
本実施例では、光照射部11から、青,緑,赤の可視域の3色と、赤外域の1色と、の計4色の光が、同時または交互に照射することが可能である。例えば、青,緑,赤の可視域の3色は、カラー撮影に利用される。なお、ここでいう同時とは、厳密に同時である必要はなく、各々の波長域の光の照射タイミングにタイムラグがあってもよい。例えば、タイムラグは、各々の波長域の光に基づいて形成される眼底画像において、眼球運動による画像間のずれが許容される範囲であってもよい。
【0042】
例えば、光照射部11から青,緑,赤の3色が実質的に同時に照射されることによって、カラー撮影が行われる。また、可視域の3色のうち、いずれか1色が、可視蛍光撮影に利用されてもよい。例えば、青色の光が、可視蛍光撮影の一種であるFA撮影(フルオレセイン蛍光造影撮影)に利用されてもよい。また、例えば、緑色の光が、FAF撮影(Fundus Auto-Fluorescence:自発蛍光)に利用されてもよい。つまり、眼底に蓄積された蛍光物質(例えば、リポフスチン)の励起光として利用されてもよい。また、例えば、赤外域の光は、赤外域の眼底反射光を用いる赤外撮影の他、赤外蛍光撮影に利用されてもよい。例えば、赤外蛍光撮影には、ICG撮影(インドシアニングリーン蛍光造影撮影)が知られている。この場合、光照射部11から照射される赤外光は、ICG撮影で使用されるインドシアニングリーンの蛍光波長とは異なる波長域に設定されていることが好ましい。
【0043】
光照射部11からの光は、
図1に示す光線の経路にて、眼底Erに導かれる。つまり、光照射部11からの光は、コリメーティングレンズ12を経由して、穴開きミラー13に形成された開口部を通り、レンズ14およびレンズ15を介した後に、走査部16へと向かう。走査部16に反射された光は、対物レンズ系17を通過して、眼底Erに照射される。その結果、光は、眼底Erで反射・散乱されるか、あるいは、眼底に存在する蛍光物質を励起させて眼底からの蛍光を生じさせる。これらの光(反射・散乱光および蛍光)は、戻り光として瞳孔から出射される。
【0044】
レンズ14は、視度調節部40の一部である。視度調節部40は、被検眼Eの視度の誤差を矯正(軽減)するために利用される。例えば、レンズ14は、駆動機構14aによって照射光学系10の光軸方向へ移動可能である。レンズ14の位置に応じて、照射光学系10および受光光学系20の視度が変わる。このため、レンズ14の位置が調節されることで、被検眼Eの視度の誤差が軽減され、その結果として、光の集光位置が、眼底Erの観察部位(例えば、網膜表面)に設定可能となる。なお、例えば、視度調節部40は、
図1とは異なる光学系が適用されてもよい。一例としては、バダール光学系等が適用されてもよい。
【0045】
走査部16(「光スキャナ」ともいう)は、光照射部11から発せられた光を、眼底上で走査するためのユニットである。本実施例では、特に断りがない限り、走査部16は、レーザ光の走査方向が互いに異なる2つの光スキャナを含むものとする。すなわち、主走査用(例えば、X方向への走査用)の光スキャナ16aと、副走査用(例えば、Y方向への走査用)の光スキャナ16bと、を含む。例えば、主走査用の光スキャナ16aはレゾナントスキャナであり、副走査用の光スキャナ16bはガルバノミラーである。もちろん、本実施例とは異なる光スキャナを適用することも可能である。例えば、各々の光スキャナ16aと16bに対し、他の反射ミラー(ガルバノミラー、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ、およびMEMS、等)の他、光の進行(偏向)方向を変化させる音響光学素子(AOM)等を適用してもよい。
【0046】
対物レンズ系17は、対物光学系である。対物レンズ系17は、走査部16によって走査される光を、眼底Erに導くために利用される。そのために、対物レンズ系17は、走査部16を経た光が旋回される旋回点Pを形成する。旋回点Pは、照射光学系10の光軸L1上であって、対物レンズ系17に関して走査部16と光学的に共役な位置に形成される。なお、本実施例における「共役」とは、必ずしも完全な共役関係に限定されるものではなく、「略共役」を含むものとする。すなわち、眼底画像の利用目的(例えば、観察、解析、等)との関係で許容される範囲で、完全な共役位置からずれて配置される場合も、「共役」に含まれる。ただし、対物光学系はレンズ系に限定されるものではなく、ミラー系であってもよいし、レンズ系とミラー系とを組み合わせたものでもあってもよいし、その他の光学系であってもよい。
【0047】
走査部16を経た光は、対物レンズ系17を通過することによって、旋回点Pを経て、眼底Erに照射される。このため、対物レンズ系17を通過した光は、走査部16の動作に伴って旋回点Pを中心に旋回される。その結果として、本実施例では、眼底Er上でレーザ光が2次元的に走査される。眼底Erに照射された光は、集光位置(例えば、網膜表面)にて反射される。また、光は、集光位置の前後の組織にて散乱される。反射光および散乱光は、平行光としてそれぞれ瞳孔から出射する。
【0048】
次に、受光光学系20について説明する。受光光学系20は、1つまたは複数の受光素子を持つ。例えば、複数の受光素子25,27,29を有してもよい。この場合、照射光学系10によって照射された光による眼底Erからの戻り光は、受光素子25,27,29によって受光される。
【0049】
本実施例における受光光学系20は、対物レンズ系17から穴開きミラー13までに配置された各々の部材を、照射光学系10と共用してもよい。この場合、眼底からの光は、照射光学系10の光路を遡って、穴開きミラー13まで導かれる。穴開きミラー13は、照射光学系10と受光光学系20とを分岐させる。穴開きミラー13は、被検眼の角膜、および、装置内部の光学系(例えば、対物レンズ系17のレンズ面、等)での反射によるノイズ光の少なくとも一部を取り除きつつ、眼底Erからの光を、受光光学系20の独立光路へと導く。なお、穴開きミラー13に代えて、ビームスプリッタ等が利用されてもよい。
【0050】
受光光学系20は、穴開きミラー13の反射光路に、レンズ21、ピンホール板23、および光分離部(光分離ユニット)30を有する。また、光分離部30と受光素子25,27,29との間に、レンズ24,26,28が設けられている。光分離部30は、分光部として利用される。さらに、受光光学系20は、フィルタ挿脱部45を有している。
【0051】
ピンホール板23は、眼底共役面に配置されており、共焦点絞りとして機能する。すなわち、視度調節部40によって視度が適正に補正される場合において、レンズ21を通過した眼底Erからの光は、ピンホール板23の開口において焦点を結ぶ。ピンホール板23によって、眼底Erの集光点(あるいは、焦点面)以外の位置からの光が取り除かれ、残り(集光点からの光)が主に受光素子25,27,29へ導かれる。
【0052】
光分離部30は、眼底Erからの光を分離させる。本実施例では、光分離部30によって、眼底Erからの光が波長選択的に光分離される。また、光分離部30は、受光光学系20の光路を分岐させる光分岐部を兼用していてもよい。例えば、光分離部30は、光分離特性(波長分離特性)が互いに異なる2つのダイクロイックミラー(ダイクロイックフィルター)31,32を含んでいてもよい。受光光学系20の光路は、2つのダイクロイックミラー31,32によって、3つに分岐される。また、それぞれの分岐光路の先には、受光素子25,27,29の1つがそれぞれ配置される。
【0053】
例えば、光分離部30は、眼底Erからの光の波長を分離させ、3つの受光素子25,27,29に、互いに異なる波長域の光を受光させる。例えば、青,緑,赤の3色の光を、受光素子25,27,29に1色ずつ受光させてもよい。この場合、受光素子25,27,29の受光結果から、カラー画像を得ることができる。
【0054】
また、光分離部30は、赤外撮影で使用される赤外域の光を、受光素子25,27,29の少なくとも1つに受光させる。例えば、この場合において、蛍光撮影で使用される蛍光と、赤外撮影で使用される赤外域の光とが、互いに異なる受光素子に受光されてもよい。
【0055】
図2は、光分離部30の分光特性を示す表である。光分離部30において、受光素子25側の光路には、ダイクロイックミラー31によって反射される波長域の光が導かれる。本実施例において、ダイクロイックミラー31は、赤色の波長域の光と赤外域(第1赤外域)の光とを少なくとも反射し、それ以外の波長域の光を透過する。その後、フィルタ33によって、さらに一部の波長域が取り除かれる。フィルタ33を透過した光は、レンズ24を介して受光素子25へ受光される。結果として、受光素子25では、赤色の波長域の光と赤外域(第1赤外域)の光とが受光される。例えば、赤色の波長域は、カラー撮影に利用される。また、例えば、第1赤外域は、ICG撮影に利用される。つまり、第1赤外域は、インドシアニングリーンの蛍光波長である赤外成分が含まれるように設定される。なお、受光素子25が受光する赤色の波長域には、リポフスチンによる自発蛍光の波長域の一部が含まれている。
【0056】
光分離部30において、受光素子27側の光路には、ダイクロイックミラー31を透過し、かつ、ダイクロイックミラー32によって反射される波長域の光が導かれる。本実施例において、ダイクロイックミラー32は、緑色の波長域の光を少なくとも反射する。反射光のうち、フィルタ34を透過した波長域の光が、レンズ26を介して受光素子25で受光される。結果として、受光素子27では、緑色の波長域の光が受光される。例えば、緑色の波長域は、カラー撮影に利用される。また、例えば、緑色の波長域は、FA撮影に利用される。つまり、緑色の波長域は、フルオレセインの蛍光波長である緑色成分が含まれるように設定される。なお、受光素子27が受光する緑色の波長域には、リポフスチンによる自発蛍光の波長域の一部が含まれている。
【0057】
光分離部30において、受光素子29側の光路には、2つのダイクロイックミラー31,32を透過する波長域の光が導かれる。本実施例では、青色の波長域の光と、赤外域の光と、が少なくとも透過される。なお、ダイクロイックミラー31および32を透過する赤外光は、ダイクロイックミラー31で反射される赤外光に対し、短波長側の波長域をもつ。ダイクロイックミラー31および32を透過した光のうち、フィルタ35を透過した波長域の光が、レンズ28を介して受光素子29で受光される。結果として、受光素子29では、青色の波長域の光と、第1赤外域と比べて短波長側の第2赤外域の光と、が受光される。例えば、青色の波長域は、カラー撮影に利用される。また、例えば、第2赤外域は、赤外撮影に利用される。
【0058】
〔固視光学系〕
固視光学系は、被検眼に対して固視標を呈示する。本実施例においては、前述の照射光学系10が、固視光学系として兼用される。より詳細には、光照射部11により照射される可視域のレーザ光が、固視光として利用される。
【0059】
例えば、光照射部11により照射される赤色の光が、固視光として用いられてもよい。一例として、赤色の光を、走査範囲における所定の走査位置で点灯させ、その他の走査位置では消灯させることによって、被検眼の固視を誘導してもよい。なお、この場合には、光照射部11により照射される青色の光を、造影剤(例えば、FA)の励起光として用いることができる。
【0060】
〔制御系〕
図3は、SLO装置1の制御系を示す図である。
【0061】
制御部70は、各部の制御処理と、演算処理と、を行う電子回路を有する処理装置(プロセッサ)である。制御部70は、一般的なCPU(Central Processing Unit)、RAM、ROM、等を備える。例えば、CPUは、SLO装置1における各部材の制御を司る。例えば、RAMは、各種の情報を一時的に記憶する。例えば、ROMには、SLO装置1の動作を制御するための各種プログラムが記憶される。
【0062】
制御部70は、光照射部11、受光素子25,27,29、駆動機構14a、走査部16、記憶部71、操作部75、表示部80、等と電気的に接続される。記憶部71は、電源の供給が遮断されても記憶内容を保持できる、非一過性の記憶媒体であってもよい。例えば、記憶部71は、ハードディスクドライブ、フラッシュROM、USBメモリ、等でもよい。例えば、記憶部71は、被検眼Eの撮影により得られる眼底画像(赤外撮影画像、蛍光造影画像、自発蛍光画像、等)を記憶してもよい。なお、眼底画像は、外部の記憶装置(例えば、制御部70にLANおよびWANで接続された記憶装置)に記憶される構成であってもよい。
【0063】
本実施例において、制御部70は、画像処理部(画像形成部)を兼用する。例えば、制御部70は、画像処理部として、受光素子25,27,29から出力される受光信号を基に、眼底画像を形成する。より詳細には、走査部16による光の走査と同期して、眼底画像を形成する。一例として、制御部70は、副走査用の光スキャナ16bがn回(nは、1以上の整数)往復する度に、少なくとも1フレーム(換言すれば、1枚)の眼底画像を、(受光素子毎に)形成する。なお、特に断りがない限り、便宜上、副走査用の光スキャナ16bの1往復につき、その1往復に基づく1フレームの眼底画像が形成されるものとする。本実施例では、3つの受光素子25,27,29が設けられているため、副走査用の光スキャナ16bが1往復する度に、各々の受光素子からの信号に基づく最大3種類の画像が生成される。
【0064】
制御部70は、SLO装置1の動作に基づいて逐次形成される複数フレームの眼底画像を、観察画像として時系列に表示部80へ表示させてもよい。観察画像は、略リアルタイムに取得された眼底画像からなる動画像である。また、制御部70は、逐次形成される複数の眼底画像のうち一部を、撮影画像(キャプチャ画像)として取り込んでもよい。その際、撮影画像は記憶部71に記憶される。
【0065】
操作部75は、検者の操作を受け付ける操作部である。例えば、タッチパネル、マウス、キーボード、等の少なくともいずれかが、操作部75として利用される。なお、操作部75は、SLO装置1とは別体のデバイスであってもよい。制御部70は、操作部75から出力される操作信号に基づいて、各部材を制御する。
【0066】
〔動作〕
SLO装置1の動作を説明する。
【0067】
検者は、操作部75を操作して、被検眼Eの視度の調節、および、被検眼EとSLO装置1との位置合わせを行う。制御部70は、操作部75からの操作信号に基づき、駆動機構14aの駆動を制御して視度を補正する。また、制御部70は、操作部75からの操作信号に基づき、光照射部11から赤外域の光を照射するとともに、受光素子29から出力される赤外域の光(第2赤外域の光)の受光信号に基づき、被検眼Eの赤外観察画像を生成する。なお、このような赤外観察画像は逐次に生成され、表示部80に表示される。また、制御部70は、操作部75からの操作信号に基づき、図示なき駆動機構の駆動を制御して、被検眼Eに対してSLO装置1を移動させる。
【0068】
検者は、操作部75を操作して、眼底の撮影モードを選択する。例えば、眼底Erの可視蛍光造影画像または赤外蛍光造影画像を取得することが可能な蛍光造影撮影モード、眼底Erの自発蛍光画像を取得することが可能な自発蛍光撮影モード、眼底Erのカラー画像を取得することが可能なカラー撮影モード、等のいずれかを選択する。
【0069】
本実施例では、検者が蛍光造影撮影モードを選択する場合を例に挙げる。蛍光造影撮影モードでは、被検者の血管に造影剤(ここでは、フルオレセイン)を投与し、造影剤が流れていく状態、または、流れた状態における蛍光造影画像が得られる。なお、蛍光造影撮影モードでは、蛍光造影画像とともに赤外観察画像が同時に撮影されてもよい。
【0070】
制御部70は、蛍光造影撮影モードが選択されると、予め記憶部71に記憶されたFA撮影の撮影条件を呼び出して設定する。例えば、光照射部11から照射する光の色や光量、受光素子27のゲイン、固視光と励起光とを切り換えるフレーム数(詳細は後述)、等を設定する。
【0071】
検者は、操作部75を操作して、眼底のFA撮影を開始する。制御部70は、操作部75からの操作信号に基づき、光照射部11を制御して、赤色の光を固視光として照射させ、青色の光をフルオレセインの励起光として照射させる。
【0072】
なお、従来は、被検眼Eに対して固視光と励起光とが同時に照射されており、被検眼Eが固視光を視認しづらいことがあった。これは、励起光の光量が、眼底Erから放たれる微弱な蛍光を受光素子27で適切に受光できるように調整されているために、被検眼Eが励起光をまぶしく感じることによって生じている。また、被検眼Eの視感度(波長毎に光を感じ取る強さの度合い)が、固視光である赤色の光よりも、励起光である青色の光のほうが高いためにも生じている。
【0073】
そこで、本実施例では、固視光および励起光の照射を交互に繰り返して分離させる。より詳細には、走査部16による1回の走査(言い換えると、1フレーム)に連動させて、固視光および励起光を交互に点灯させる。これによって、被検眼Eが固視光を視認しづらい状態を解消することができる。
【0074】
なお、走査部16は、固視光および励起光の点灯の繰り返しにともなう受光素子27の受光感度(光の応答速度)の変化を考慮して、各々の光を走査してもよい。例えば、固視光および励起光が点灯した直後の受光感度は低いため、各々の光の受光感度が安定するまでの時間を考慮した走査を行ってもよい。
【0075】
図4は、固視光と励起光の制御を模式的に示す図である。制御部70は、走査部16を制御して、固視光および励起光を、眼底Er上の走査範囲にて2次元的に走査させる。例えば、制御部70は、走査部16における所定のフレーム数毎に、固視光または励起光のいずれか一方を点灯させ、他方を消灯させる。なお、所定のフレーム数は、実験やシミュレーション等から、予め設定されていてもよい。また、所定のフレーム数は、固視光を照射するフレーム数よりも、励起光を照射するフレーム数が多くなるように、予め設定されていてもよい。
【0076】
本実施例では、まず、走査部16による第1フレームf1の走査にて、固視光が点灯され、励起光が消灯される。例えば、固視光は、眼底Er上の走査範囲における中央の走査位置でのみ点灯され、その他の走査位置では消灯される。続いて、走査部16による、第2フレームf2、第3フレームf3、および第4フレームf4、の計3フレームにて、固視光が消灯され、励起光が点灯される。例えば、励起光は、眼底Er上の走査範囲のすべての走査位置で点灯される。走査部16による第5フレームf5以降の走査では、第1フレームf1~第4フレームf4までの走査が繰り返される。つまり、固視光は1フレーム分で、励起光は3フレーム分で、交互に点灯される制御が繰り返される。
【0077】
被検眼Eには、励起光が主に照射され、固視光が少ない頻度で照射される。眼底Er上の走査範囲における同一の走査位置(すなわち、中央の走査位置)に対して、励起光が照射されている間は固視光が照射されず、固視光が照射されている間は励起光が照射されなくなる。固視光と励起光との照射タイミングが分離されることで、固視光が励起光のまぶしさでみえなくなる可能性が軽減される。なお、固視光は3フレーム毎に点滅することになるが、走査部16による1フレーム分の走査に要する時間は、固視光が消灯しても固視のずれが生じない程度のわずかな時間である。
【0078】
制御部70は、眼底Erからの戻り光(すなわち、フルオレセイン蛍光)を受光した受光素子27からの受光信号に基づき、1フレーム毎に、被検眼Eの蛍光造影画像を生成する。例えば、制御部70は、このような蛍光造影画像を連続的に取得し、動画として表示部80に表示させる。
【0079】
なお、造影初期および造影後期においては、特に蛍光が微弱であるため、複数フレーム分の蛍光造影画像を加算処理(例えば、加算平均、加重加算、等)して表示させてもよい。例えば、蛍光造影画像の加算処理では、蛍光造影画像とともに撮影された赤外観察画像によって、互いの画像が位置合わせされてもよい(詳細は、特開2016-59400号公報等を参照されたい)。また、例えば、蛍光造影画像の加算処理では、固視光を照射させたフレームにて撮影された画像は除外し、励起光を照射させたフレームにて撮影された画像のみが利用されてもよい。
【0080】
<第2実施例>
以下、第1実施例との相違点を中心に、第2実施例を説明する。なお、第1実施例と同様の構成については、同符号を付して説明を省略する。
【0081】
図6は、第2実施例におけるSLO装置1の光学系を示す図である。SLO装置1は、照射光学系10、受光光学系20、固視光学系、等を備える。照射光学系10は、光照射部11、コリメーティングレンズ12、穴開きミラー13、レンズ14、レンズ15、走査部16、対物レンズ系17、等に加えて、光軸分岐部材18を備える。
【0082】
光軸分岐部材18は、照射光学系10と受光光学系20との共通光軸上(すなわち、光照射部11と穴開きミラー13との間)に配置される。本実施例では、コリメーティングレンズ12と穴開きミラー13との間に配置される。なお、光軸分岐部材18は、駆動機構18a(
図7参照)によって、共通光軸上にて挿抜可能に配置されてもよい。
【0083】
光軸分岐部材18は、光照射部11から照射される固視光の光軸と、励起光の光軸と、の位置関係を変更するための部材である。光軸分岐部材18は、固視光の光軸と励起光の光軸とを分岐させることができる部材であればよい。例えば、プリズムレンズ、ビームスプリッタ、等であってもよい。
【0084】
本実施例では、光軸分岐部材18として、プリズムレンズが用いられる。この場合、光軸分岐部材18(以下、プリズム18)は、固視光の光軸と、励起光の光軸と、をともに偏心させることで、各々の光軸を分岐させ、互いの位置関係を変更する。プリズム18は、プリズム18の頂角の方向と、走査部16による光の走査方向と、が一致するように配置されてもよい。
【0085】
図6は、プリズム18による光軸の分岐を説明する図である。
図6(a)は、プリズム18を共通光軸上から抜去した状態である。
図6(b)は、プリズム18を共通光軸上に挿入した状態である。例えば、
図6(a)のように、プリズム18を共通光軸上に配置しない場合は、光照射部11から照射された固視光および励起光の光軸が、いずれも、照射光学系10の光軸L1と同軸となる。つまり、固視光としての赤色の光の光軸Rと、励起光としての青色の光の光軸Bと、が光軸L1と同軸となる。
【0086】
光照射部11から照射された固視光と励起光は、第1実施例と同様の経路を通過して、眼底Erに到達する。このため、固視光および励起光は、走査部16による1フレームの走査において、眼底Er上の同一の走査位置に照射される。すなわち、眼底Er上の同一の視細胞に、固視光および励起光による光刺激が吸収される。
【0087】
一方、例えば、
図6(b)のように、プリズム18を共通光軸上に配置した場合は、光照射部11から照射された固視光および励起光の光軸が、いずれも、プリズム18によって分散され、光軸L1から外れた軸となる。より詳細には、固視光としての赤色の光の光軸Rは、波長が長いために、プリズム18を通過することで小さく屈折され、光軸L1から外れた軸となる。また、励起光としての青色の光の光軸Bは、波長が短いために、プリズム18を通過することで大きく屈折され、光軸L1から外れた軸となる。
【0088】
光照射部11から照射された固視光と励起光は、コリメーティングレンズ12を通過した後、さらにプリズム18を通過することで、穴開きミラー13の開口部を偏心した状態で通過する。以降は、第1実施例と同様の経路を経由して、眼底Erに到達する。このため、固視光および励起光は、走査部16による1フレームの走査において、眼底Er上の異なる走査位置に照射されるようになる。すなわち、眼底Er上の異なる視細胞に、固視光および励起光による光刺激が吸収される。
【0089】
本実施例では、制御部70が、蛍光造影撮影モードにおいて、駆動機構18aの駆動を制御し、プリズム18を共通光路上に配置する。眼底Er上の異なる視細胞に固視光と励起光とが照射されることによって、視感度の違いにより赤色の光(固視光)が視認しづらい状態が軽減される。制御部70は、眼底Erからの戻り光(すなわち、フルオレセイン蛍光)を受光した受光素子27からの受光信号に基づき、蛍光造影画像を連続的に取得し、動画として表示部80に表示させる。もちろん、適宜、蛍光造影画像の加算処理が行われてもよい。
【0090】
以上、説明したように、例えば、本実施例における眼底撮影装置は、固視光源が発する固視光と、励起光源が発する励起光と、を同軸で照射し、眼底に対する固視光の照射と励起光の照射とを分離させることによって、励起光に基づく蛍光画像を連続的に撮影する。固視光が励起光のまぶしさにより視認しづらい状態を軽減させることができるため、被検眼の固視が安定しやすく、蛍光撮影が適切に行われる。
【0091】
また、例えば、本実施例における眼底撮影装置は、蛍光画像のフレームに連動させて、固視光と励起光との照射を交互に繰り返すことで、眼底上の同一の位置に対して固視光の照射と励起光の照射とを分離する。眼底上の同一の視細胞に、固視光と励起光とが異なるタイミングで照射されるため、固視光を視認しやすくなる。
【0092】
また、例えば、本実施例における眼底撮影装置は、蛍光画像における所定のフレーム数毎に連動させて、固視光と励起光との照射を交互に繰り返すことで、眼底上の同一の位置に対して固視光の照射と励起光の照射とを分離する。例えば、固視光の照射タイミングよりも励起光の照射タイミングが多くなるようなフレーム数に設定することで、固視光をより視認しやすくし、良好な蛍光画像を得ることができる。
【0093】
また、例えば、本実施例における眼底撮影装置は、固視光の第1光軸と励起光の第2光軸との共通光軸上に配置され、第1光軸と第2光軸とを分岐させる光軸分岐部材を備え、眼底上の異なる位置に対して固視光の照射と励起光の照射とを分離する。眼底上の異なる視細胞に、固視光と励起光とが同一のタイミングで照射されるため、固視光を視認しやすくなる。
【0094】
また、例えば、本実施例における眼底撮影装置は、眼底の蛍光画像を撮影する第1撮影モードと、眼底の蛍光画像とは異なる画像を撮影する第2撮影モードと、を設定することが可能であり、第1撮影モードが設定された場合に、固視光の光軸と励起光の光軸との位置関係が変更される。これにより、蛍光撮影時において、従来の固視光を視認しづらい状態が軽減され、良好な蛍光画像を得ることができるようになる。
【0095】
<変容例>
なお、第1実施例では、走査部16における所定のフレーム数が予め設定されている構成を例示したが、これに限定されない。走査部16における所定のフレーム数は、任意の数に設定することができてもよい。例えば、被検者毎に励起光をまぶしいと感じる程度は異なるため、被検者毎に適したフレーム数に変更することで、負担の少ない撮影を行うことができる。一例としては、励起光を照射するフレーム数、固視光を照射するフレーム数、等を増減させてもよい。しかし、例えば、眼底の蛍光発光が徐々に造影される様子(言い換えると、経時的な変化)を撮影するにあたっては、固視光を照射するフレーム数よりも、励起光を照射するフレーム数が多くなるように、各々の点灯を交互に制御することが好ましい。
【0096】
また、第1実施例では、固視光を照射するフレームにおいて、固視光を点灯させ、励起光を消灯させる構成を例示したが、これに限定されない。例えば、固視光を照射するフレームにおいて、固視光を点灯させ、励起光を減光させる構成としてもよい。この場合、複数フレーム分の蛍光造影画像を加算処理する際に、励起光を減光させたフレームにて撮影された画像を除外することで、より良好な蛍光造影画像が取得されてもよい。
【0097】
また、第1実施例では、固視光を照射するフレームにおいて、励起光を走査範囲のすべての走査位置にて消灯させる構成を例示したが、これに限定されない。例えば、固視光を照射するフレームにおいて、固視光が点灯する走査位置では、励起光が消灯(または減光)され、固視光が点灯しない走査位置では、励起光が点灯される構成としてもよい。この場合にも、複数フレーム分の蛍光造影画像を加算処理する際に、励起光を消灯または減光させたフレームにて撮影された画像を除外することで、より良好な蛍光造影画像が取得されてもよい。
【0098】
また、第1実施例では、固視光を照射するフレームにおいて、固視光とともに励起光を所定の走査範囲で走査させる構成を例示したが、これに限定されない。例えば、固視光を照射するフレームにおいて、固視光とともに励起光を所定の走査範囲の一部のみで走査させる構成としてもよい。一例としては、固視光および励起光を、固視光が点灯する走査位置を含む走査ラインのみに制限して、照射してもよい。これによって、固視光を照射するフレームに要する時間が短縮されるので、結果として撮影全体に要する時間を短縮することができる。
【0099】
なお、第2実施例では、プリズム18によって、照射光学系10の光軸L1に対し、固視光の光軸と励起光の光軸をいずれも偏心させる構成を例示したが、これに限定されない。本実施例では、照射光学系10の光軸L1に対し、固視光の光軸と励起光の光軸との少なくともいずれかを偏心させる構成であればよい。すなわち、眼底Er上の異なる視細胞に固視光と励起光とが照射される構成であればよい。
【0100】
また、第2実施例では、プリズム18とともに、光学部材を配置する構成としてもよい。これによって、固視光の光軸と励起光の光軸とのいずれかをさらに偏心させて、一方を照射光学系10の光軸L1と同軸に戻してもよい。この場合、光学部材は、固視光と励起光との交通光軸上(例えば、プリズム18と穴開きミラー13との間)に配置されてもよい。また、この場合、光学部材は、固視光の光軸上または励起光の光軸上のいずれかに配置されてもよい。もちろん、固視光と励起光との共通光軸上と、固視光の光軸上または励起光の光軸上のいずれかと、に配置されてもよい。光学部材としては、レンズ、ミラー、等を用いてもよい。
【0101】
なお、第1実施例および第2実施例において、SLO装置1は、蛍光造影撮影モードでFA撮影とICG撮影とを同時に行ってもよい。この場合、光照射部11からは、固視光としての赤色の光と、フルオレセインの励起光(第1励起光)としての青色の光と、インドシアニングリーンの励起光(第2励起光)としての赤外光と、が同時に照射される。
【0102】
第1実施例では、可視光である固視光と第1励起光との照射を、所定のフレーム数にて切り換えるように制御すればよい。被検眼Eは、赤外光である第2励起光にまぶしさを感じないため、第2励起光は常に照射されてもよい。もちろん、第2励起光は、第1励起光とともに切り換えて照射されてもよい。
【0103】
第2実施例では、プリズム18の配置により、固視光、第1励起光、および第2励起光がそれぞれ偏心して照射される。このとき、第1励起光が走査される走査範囲と、第2励起光が走査される走査範囲と、にずれが生じるため、フルオレセイン蛍光造影画像とインドシアニングリーン蛍光造影画像とにおける撮影部位が一致しない場合がある。このため、制御部70は、第1励起光の光軸と第2励起光の光軸とのずれ量に基づき、画像処理にて、互いの画像を位置合わせしてもよい。各々の光軸のずれ量は、プリズム18の頂角や偏角等から、予め求めておいてもよい。
【0104】
また、第1実施例および第2実施例において、SLO装置1は、自発蛍光撮影モードが設定された際にも、同様に、固視光の照射と励起光の照射とを電気的または光学的な制御によって分離させてもよい。自発蛍光撮影モードにおいても、固視光が励起光のまぶしさにより視認しづらい状態が起こり得る。例えば、複数枚の自発蛍光画像を撮影し、これらを加算処理するような場合である。固視光と励起光の照射タイミングの切り換え、および、プリズム18の配置によって、被検眼の固視は安定しやすくなり、自発蛍光撮影を適切に行うことができる。
【0105】
なお、SLO装置1は、第1実施例の構成と、第2実施例の構成と、をともに備えた装置であってもよい。すなわち、固視光と励起光との点灯を走査部16における所定のフレーム数毎に制御するとともに、固視光と励起光との共通光軸上にプリズム18を配置してもよい。SLO装置1をこのような構成としても、固視光の照射と励起光の照射とが分離されるため、固視光は視認しやすくなる。この場合には、眼底上の異なる視細胞に、固視光と励起光とが異なるタイミングで照射されることになる。
【符号の説明】
【0106】
1 眼底撮影装置(SLO装置)
11 光照射部
16 走査部
18 光軸分岐部材
25 受光素子
27 受光素子
29 受光素子
70 制御部
71 記憶部