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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】通信装置および通信制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 61/5014 20220101AFI20240220BHJP
【FI】
H04L61/5014
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020143449
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022038788
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】服部 覚
(72)【発明者】
【氏名】佐野 泰弘
【審査官】羽岡 さやか
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-041069(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0105300(KR,A)
【文献】特開2019-159568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 61/5014
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)クライアントと、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントとの間に接続された通信装置であって、
前記DHCPクライアントから送信されたDHCP要求メッセージを受信して、受信した前記DHCPメッセージのブロードキャストフラグを無効に設定して、前記DHCPサーバまたは前記DHCPリレーエージェントに前記DHCPメッセージを送信し、
前記DHCPクライアントからの前記DHCPメッセージに対する前記DHCPサーバまたは前記DHCPリレーエージェントからのDHCP応答メッセージを受信して、前記DHCPクライアントによるブロードキャストフラグの設定に従って前記DHCP応答メッセージのブロードキャストフラグを設定して、前記DHCPクライアントに前記DHCP応答メッセージを送信する、通信装置。
【請求項2】
前記通信装置は、複数の前記DHCPクライアントと、前記DHCPサーバまたは前記DHCPリレーエージェントとの間で、前記DHCPメッセージおよび前記DHCP応答メッセージの伝送が可能なように構成される、請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記通信装置は、前記DHCPサーバまたは前記DHCPリレーエージェントからの前記DHCP応答メッセージの宛先が、前記複数のDHCPクライアントのうち前記DHCPメッセージを送ったDHCPクライアントに一致することを確認して、前記DHCP応答メッセージを分岐する、請求項2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記通信装置は、前記DHCPサーバまたは前記DHCPリレーエージェントからの前記DHCP応答メッセージを分岐して、分岐された前記DHCP応答メッセージのうち、前記DHCPメッセージを送信した前記DHCPクライアントに送られるべきDHCP応答メッセージを転送する、請求項2に記載の通信装置。
【請求項5】
前記通信装置は、100以上の前記DHCPクライアントを集約するように構成される、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項6】
DHCPクライアントと、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントとの間に接続された通信装置による通信制御方法であって、
前記DHCPクライアントから送信されたDHCPメッセージを受信するステップと、
受信した前記DHCPメッセージのブロードキャストフラグを無効に設定するステップと、
前記DHCPサーバまたは前記DHCPリレーエージェントに前記DHCPメッセージを送信するステップと、
前記DHCPクライアントからの前記DHCPメッセージに対する、前記DHCPサーバまたは前記DHCPリレーエージェントからのDHCP応答メッセージを受信するステップと、
前記DHCPクライアントによるブロードキャストフラグの設定に従って、前記DHCP応答メッセージのブロードキャストフラグを設定するステップと、
前記DHCPクライアントに前記DHCP応答メッセージを送信するステップとを備える、通信制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、通信装置および通信制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)は、コンピュータがネットワークに接続する際に必要な設定情報を自動的に割り当てるために使用されるプロトコルであり、RFC(Request For Comments)2131(非特許文献1)によって規定されている。DHCPで使われるメッセージのフォーマットもRFC2131によって規定される。RFC2131によれば、TCP/IPソフトウェアの構成前にDHCPクライアントがIPユニキャストの通信を受信できない場合には、メッセージ内のflagsフィールドのブロードキャストフラグを有効にするように規定されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】"Dynamic Host Configuration Protocol"、1997年3月、[online]、[令和2年8月5日検索]、インターネット<URL:https://tools.ietf.org/html/rfc2131>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
RFC2131によれば、DHCPクライアントがブロードキャストフラグを有効にしてDHCP要求メッセージ(DHCPDISCOVER/REQUEST)を送った場合には、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントは、要求メッセージに対するDHCP応答メッセージ(DHCPOFFER/ACK)をブロードキャストで送信しなければならない。
【0005】
この場合、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントとDHCPクライアントとの間のネットワークに接続された通信装置は、その応答メッセージをブロードキャストフレームとして全ポートに複製して送信する。ブロードキャストフレームの送信によって、そのネットワークの帯域が消費されるため、ブロードキャストフラグが無効である場合と比べてネットワークの負荷が大きくなる。
【0006】
さらに、ブロードキャストでDHCP応答メッセージが送られることにより、DHCPクライアント以外のデバイスにもDHCP応答メッセージが送られる。したがってDHCPクライアントと関係の無いデバイスに、当該DHCPクライアントのIPアドレス割り当ての情報、およびクライアントを特定する情報などの情報が漏洩することが懸念される。
【0007】
これらの課題の解決のため、DHCPクライアントがブロードキャストフラグを無効にしてDHCPメッセージを送ることが望ましい。しかしながら、たとえば、IPアドレスが設定されるまではブロードキャストでしか応答メッセージを受信できないというデバイスも存在しうる。あるいはDHCPクライアントの設定をユーザが変更できない、などといった場合が想定される。したがって、これらの場合には、DHCPクライアントはブロードキャストフラグを有効に設定せざるを得ない。一方、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントは、RFC2131の規約に従ってDHCP応答メッセージを送信する必要があるので、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェント側で上述の課題に対応することも難しい。
【0008】
本開示の目的は、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントとDHCPクライアントとの動作に影響を与えることなく、ネットワークの負荷の低減を可能にする通信装置および通信制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のある局面に係る通信装置は、DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)クライアントと、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントとの間に接続された通信装置であって、DHCPクライアントから送信されたDHCPメッセージを受信して、受信したDHCPメッセージのブロードキャストフラグを無効に設定して、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントにDHCPメッセージを送信し、DHCPクライアントからのDHCPメッセージに対するDHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントからのDHCP応答メッセージを受信して、DHCPクライアントによるブロードキャストフラグの設定に従ってDHCP応答メッセージのブロードキャストフラグを設定して、DHCPクライアントにDHCP応答メッセージを送信する。
【0010】
本開示のある局面に係る通信制御方法は、DHCPクライアントと、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントとの間に接続された通信装置による通信制御方法であって、DHCPクライアントから送信されたDHCPメッセージを受信するステップと、受信したDHCPメッセージのブロードキャストフラグを無効に設定するステップと、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントにDHCPメッセージを送信するステップと、DHCPクライアントからのDHCPメッセージに対する、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントからのDHCP応答メッセージを受信するステップと、DHCPクライアントによるブロードキャストフラグの設定に従って、DHCP応答メッセージのブロードキャストフラグを設定するステップと、DHCPクライアントにDHCP応答メッセージを送信するステップとを備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントとDHCPクライアントとの動作に影響を与えることなく、ネットワークの負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本開示の実施の形態に係る通信装置を含むシステムの全体構成の概略図である。
図2図2は、RFC2131に従うDHCPメッセージの構成を示した図である。
図3図3は、DHCPクライアントとDHCPサーバ/リレーエージェントとの間で一般的に行われるメッセージの交換を説明した図である。
図4図4は、本実施の形態における、DHCPクライアントとDHCPサーバ/リレーエージェントとの間でのメッセージの交換を説明した図である。
図5図5は、本開示の実施の形態に係る通信装置の構成の概略を示したブロック図である。
図6図6は、通信制御部の有するテーブルの構成を例示した図である。
図7図7は、本開示の実施の形態に係る通信装置がDHCPクライアントからDHCP要求メッセージを受信したときの処理を示すフローチャートである。
図8図8は、本開示の実施の形態に係る通信装置がDHCPサーバ/リレーエージェントからDHCP応答メッセージを受信したときの処理を示すフローチャートである。
図9図9は、本開示の実施の形態に係る通信装置が適用されるシステムの一例を示した図である。
図10図10は、図9に示すOLTの内部の通信制御処理の一例を示す模式図である。
図11図11は、図9に示すOLTの内部の通信制御処理の別の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0014】
(1) 本開示のある実施形態に係る通信装置は、DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)クライアントと、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントとの間に接続された通信装置であって、DHCPクライアントから送信されたDHCPメッセージを受信して、受信したDHCPメッセージのブロードキャストフラグを無効に設定して、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントにDHCPメッセージを送信し、DHCPクライアントからのDHCPメッセージに対するDHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントからのDHCP応答メッセージを受信して、DHCPクライアントによるブロードキャストフラグの設定に従ってDHCP応答メッセージのブロードキャストフラグを設定して、DHCPクライアントにDHCP応答メッセージを送信する。
【0015】
上記によれば、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントとDHCPクライアントとの動作に影響を与えることなく、ネットワークの負荷を低減することができる。DHCPクライアントがDHCPメッセージのブロードキャストフラグを有効に設定した場合であっても、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントが受け取ったDHCPメッセージでは、ブロードキャストフラグが無効に設定されている。したがってDHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントは、DHCP応答メッセージをユニキャストで送信する。これにより、応答メッセージがブロードキャストフレームとして全ポートに複製されることを回避されるので、ネットワークの負荷が著しく増大することを回避できる。
【0016】
さらに、通信装置が、DHCPクライアントにDHCP応答メッセージを送信する際に、DHCPクライアントによるブロードキャストフラグの設定に従って、DHCP応答メッセージのブロードキャストフラグを設定する。DHCPクライアントがDHCPメッセージのブロードキャストフラグを有効に設定した場合、DHCPクライアントには、ブロードキャストフラグが有効に設定されたDHCP応答メッセージが送られる。したがってDHCPクライアントは、このDHCP応答メッセージを受信することができる。
【0017】
さらに、DHCP要求メッセージおよびDHCP応答メッセージの送受信に関する挙動は、RFC2131によって規定されている通りの挙動であり、従来の挙動と変わらない。したがってDHCPクライアント、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントにおいて設定変更は不要である。
【0018】
さらに、DHCP要求メッセージを送信したDHCPクライアントとは関係のないデバイスに、DHCP応答メッセージが届くことを回避できる。したがってIPアドレス割り当て情報、あるいはクライアントを特定する情報が漏洩することを回避できる。
【0019】
なお、「受信したDHCPメッセージのブロードキャストフラグを無効に設定する」とは、通信装置からDHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントに送られるDHCPメッセージにおいて、ブロードキャストフラグを無効に設定されていることに該当する。したがって、「無効に設定する」とは、DHCPメッセージのブロードキャストフラグを有効から無効に変更する場合に限定されない。通信装置が受信したDHCPメッセージにおいてブロードキャストフラグが無効に設定されている場合、通信装置は、ブロードキャストフラグを無効のままにしてDHCPメッセージをDHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントに転送する。このような動作も「無効に設定する」に含まれる。
【0020】
(2) 好ましくは、通信装置は、複数のDHCPクライアントと、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントとの間で、DHCPメッセージおよびDHCP応答メッセージの伝送が可能なように構成される。
【0021】
通信装置に複数のDHCPクライアントが接続されている場合において、各々のDHCPクライアントからのDHCP要求メッセージに対するDHCP応答メッセージがブロードキャストで送信されると、ネットワークの負荷がより一層増大する。DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントは、各々のDHCP要求メッセージに対してユニキャストでDHCP応答メッセージを送るので、ネットワークの負荷の増大を抑える効果がより高められる。
【0022】
(3) 好ましくは、通信装置は、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントからのDHCP応答メッセージの宛先が、複数のDHCPクライアントのうちDHCPメッセージを送ったDHCPクライアントに一致することを確認して、DHCP応答メッセージを分岐する。
【0023】
通信装置に接続されるDHCPクライアントの数が増えるほど、DHCP応答メッセージを転送するための通信装置の処理負荷が大きくなる。上記によれば、通信装置の負荷の増大を抑制する効果を得ることができる。
【0024】
(4) 好ましくは、通信装置は、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントからのDHCP応答メッセージを分岐して、分岐されたDHCP応答メッセージのうち、DHCPメッセージを送信したDHCPクライアントに送られるべきDHCP応答メッセージを転送する。
【0025】
通信装置に接続されるDHCPクライアントの数が増えるほど、DHCP応答メッセージを転送するための通信装置の処理負荷が大きくなる。上記によれば、通信装置の負荷の増大を抑制する効果を得ることができる。
【0026】
(5) 好ましくは、通信装置は、100以上のDHCPクライアントを集約するように構成される。
【0027】
100以上のDHCPクライアントから同時集中的にDHCPメッセージが送られる場合、10~20台程度のDHCPクライアントを集約する場合に比べて、DHCPメッセージを転送するための通信装置の処理負荷が著しく高くなる。このような場合、通信装置の処理負荷が設計上のピーク負荷の許容量を超えることも起こりえる。上記によればDHCPクライアントの集約数が設計上のピーク負荷の許容量に相当する数を上回る可能性がある通信システムにおいて、通信装置の負荷の増大を抑制する効果を得ることができる。
【0028】
(6) 本開示のある実施形態に係る通信制御方法は、DHCPクライアントと、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントとの間に接続された通信装置による通信制御方法であって、DHCPクライアントから送信されたDHCPメッセージを受信するステップと、受信したDHCPメッセージのブロードキャストフラグを無効に設定するステップと、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントにDHCPメッセージを送信するステップと、DHCPクライアントからのDHCPメッセージに対する、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントからのDHCP応答メッセージを受信するステップと、DHCPクライアントによるブロードキャストフラグの設定に従って、DHCP応答メッセージのブロードキャストフラグを設定するステップと、DHCPクライアントにDHCP応答メッセージを送信するステップとを備える。
【0029】
上記によれば、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントとDHCPクライアントとの動作に影響を与えることなく、ネットワークの負荷を低減することができる。DHCP要求メッセージおよびDHCP応答メッセージの送受信に関する挙動は、RFC2131によって規定されている通りの挙動であり、従来の挙動と変わらない。したがってDHCPクライアント、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントにおいて設定変更は不要である。
【0030】
さらに、DHCP要求メッセージを送信したDHCPクライアントとは関係のないデバイスに、DHCP応答メッセージが届くことを回避できる。したがってIPアドレス割り当て情報、あるいはクライアントを特定する情報が漏洩することを回避できる。
【0031】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0032】
以下の説明において「N」および「M」は、1以上の整数を示す。本開示の実施の形態では、主として、NおよびMは2以上の整数である。しかしNおよびMの各々は1であってもよい。なお、NとMとは、互いに独立に設定された値である。
【0033】
図1は、本開示の実施の形態に係る通信装置を含むシステムの全体構成の概略図である。本開示の実施の形態に係る通信装置1は、DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェント(以下、「DHCPサーバ/リレーエージェント」と記載する)2とDHCPクライアント3との間に接続される。通信装置1はレイヤ2レベルの通信を中継する装置である。
【0034】
図1に示す構成では、通信装置1に接続されるDHCPクライアントの数は1つであるが、通信装置1は複数のDHCPクライアントを集約可能である。通信装置1とDHCPサーバ/リレーエージェント2との間に、ネットワーク装置4が接続されてもよい。ネットワーク装置4には、通信装置1の他に、N台のデバイス5_1~5_Nが接続されてもよい。なお、デバイス5_1~5_Nの種類は限定されるものではない。
【0035】
図2は、RFC2131に従うDHCPメッセージの構成を示した図である。断りのない限り、図2内の数値はバイト数を表す。図2に示すように、DHCPメッセージは、2バイト(16ビット)からなる”flags”フィールドを有する。flagsフィールドの最初の1ビットは、ブロードキャストフラグ(「B」)として定義される。flagsフィールドの残りの15ビットは0でなければならない(MBZ:must be zero)。
【0036】
DHCPメッセージの各フィールドは、RFC2131によって定義されているので、ここでは詳細な説明を繰り返さない。なお、メッセージの種類(Discover/Offer/Request/ACKなど)は”options”フィールドのOption 53(Message Type)によって規定される。
【0037】
図3は、DHCPクライアントとDHCPサーバ/リレーエージェントとの間で一般的に行われるメッセージの交換を説明した図である。DHCPクライアントとDHCPサーバ/リレーエージェントとの間でのメッセージの交換を、4つのステップ(「1.」~「4.」)に分けて説明する。DHCPメッセージの伝送の際には、ヘッダ等が付加されたパケット(フレームと言い換えてもよい)として伝送される。したがって図3および図4では「パケット」との用語を使用する。
【0038】
ステップ1において、DHCPクライアント3は、IPアドレスを付与してもらうために、DHCPサーバ/リレーエージェント2に、DHCP要求パケット(DHCPDISCOVER/REQUEST)を送信する。このとき、DHCPクライアント3は、DHCP要求パケットのブロードキャストフラグを有効(「1」)に設定する。このような場合として、たとえば、装置の制約によってクライアントがブロードキャストでしか応答を受信できない場合、あるいは、ユーザ側でDHCPクライアントの設定を変更できない場合が想定される。
【0039】
ステップ2において、通信装置1は、DHCPクライアント3からのDHCP要求パケットをDHCPサーバ/リレーエージェント2へと転送する。したがってDHCPサーバ/リレーエージェント2に転送されたDHCP要求パケットでは、ブロードキャストフラグが「有効」に設定されている。
【0040】
ステップ3において、DHCPサーバ/リレーエージェント2は、DHCP要求パケットに対する応答パケット(DHCPOFFER/ACK)を送信する。RFC2131の規定では、DHCP要求パケットにおいてブロードキャストフラグが有効に設定されている場合、DHCPサーバ/リレーエージェント2は、DHCP応答パケットにおけるブロードキャストフラグを「有効」に設定して、DHCP応答パケットをブロードキャストで送信しなければならない。
【0041】
ネットワーク装置4は、DHCPサーバ/リレーエージェント2からDHCP応答パケットを受信すると、その応答パケットをすべてのポートに複製する。したがって、DHCP応答パケットは、通信装置1だけでなくデバイス5_1~5_Nにも送られる。
【0042】
ステップ4において、通信装置1は、DHCPサーバ/リレーエージェント2からのDHCP応答パケットをDHCPクライアント3へと転送する。このとき通信装置1は、DHCP応答パケットをブロードキャストで転送する。
【0043】
上記のように、ステップ3において、多数のDHCP応答パケットがネットワーク上を流れるため、ネットワークの負荷が大きくなるという課題が生じる。また、DHCPクライアント3以外のデバイスにもDHCP応答パケットが送られるので、IPアドレス割り当ての情報、およびクライアントを特定する情報などが漏洩することが懸念される。本実施の形態では、通信装置1によって、このような問題を解決する。
【0044】
図4は、本実施の形態における、DHCPクライアントとDHCPサーバ/リレーエージェントとの間でのメッセージの交換を説明した図である。図3と同様に、DHCPクライアントとDHCPサーバ/リレーエージェントとの間でのメッセージの交換を、ステップ1~4の4つのステップに分けて説明する。
【0045】
ステップ1では、DHCPクライアント3は、DHCP要求パケット(DHCPDISCOVER/REQUEST)を送信する。このときDHCPクライアント3は、ブロードキャストフラグを有効(=「1」)に設定する。
【0046】
ステップ2において、通信装置1は、DHCPクライアント3からのDHCP要求パケットを、DHCPサーバ/リレーエージェント2へと転送する。このとき、通信装置1は、DHCP要求パケット内のブロードキャストフラグを「有効」から「無効」(=「0」)に変更する。
【0047】
ステップ3において、DHCPサーバ/リレーエージェント2は、DHCP要求パケットに対する応答パケット(DHCPOFFER/ACK)を送信する。受信したDHCP要求パケット内のブロードキャストフラグが「無効」に設定されているので、DHCPサーバ/リレーエージェント2は、DHCP応答パケットをユニキャストで送信する。ネットワーク装置4は、DHCP応答パケットを通信装置1のみに転送する。
【0048】
ステップ4において、通信装置1は、DHCP応答パケットのブロードキャストフラグを「無効」から「有効」に変更するとともに、DHCP応答パケットをブロードキャストで転送する。これにより、DHCPクライアント3はDHCP応答パケットを受信できる。
【0049】
図5は、本開示の実施の形態に係る通信装置1の構成の概略を示したブロック図である。通信装置1は、通信制御部11を有する。通信制御部11は、DHCPメッセージの伝送を制御するためのテーブル12を有する。通信装置1は、さらにポート13と、ポート14_1,14_2,・・・14_Mを含む。ポート13は、DHCPサーバ/リレーエージェント2側のポートであり、通信装置1とネットワーク装置4(図1参照)との通信のためのポートである。ポート14_1,14_2,・・・14_Mは、DHCPクライアント3側のポートである。
【0050】
図6は、通信制御部の有するテーブルの構成を例示した図である。テーブル12は、送信元MACアドレス、受信ポート、トランザクションIDおよびフラグの無効化を示す情報、を互いに関連付けて格納する。送信元MACアドレスは、DHCP要求パケットを送信したDHCPクライアント3のMACアドレスである。受信ポートは、そのDHCP要求パケットを受信した通信装置1のポートを特定する情報である。トランザクションIDは、DHCPクライアントとDHCPサーバ/リレーエージェント2との間の一連の通信において共通に用いられるIDである。通信制御部11がDHCP要求メッセージのブロードキャストフラグを無効化した場合には、そのブロードキャストフラグを無効化したことを示す情報がテーブル12に記録される。
【0051】
図7は、本開示の実施の形態に係る通信装置1がDHCPクライアント3からDHCP要求メッセージを受信したときの処理を示すフローチャートである。まず、ステップS11において、通信制御部はポート14_1,14_2,・・・14_M(図5を参照)のいずれかを介してDHCPクライアント3からのDHCP要求メッセージを受信する。
【0052】
ステップS12において、通信制御部11は、DHCP要求メッセージをスヌーピングして、送信元MACアドレス、受信ポート、およびトランザクションIDをテーブル12に記録する。なお、送信元MACアドレスは、DHCPパケットのイーサネット(登録商標)ヘッダに格納され、受信ポートの情報はUDPヘッダに格納され、トランザクションIDは、DCHP要求メッセージに格納されている。
【0053】
ステップS13において、通信制御部11は、DHCP要求メッセージのブロードキャストフラグをチェックして、ブロードキャストフラグが有効であるか否かを判定する。ブロードキャストフラグが有効である場合(ステップS13においてYES)、ステップS14において、通信制御部11は、DHCP要求メッセージ内のブロードキャストフラグを無効化する。さらに通信制御部11は、ブロードキャストフラグを無効化したことをテーブル12に記録する。
【0054】
ブロードキャストフラグが無効である場合(ステップS13においてNO)、または、ステップS14の処理が終了した場合、ステップS15において、通信制御部11は、DHCPサーバ/リレーエージェント2に、DHCP要求メッセージを転送する。なお、DHCP要求メッセージのブロードキャストフラグがもともと無効に設定されている場合には、通信制御部11は、ブロードキャストフラグの設定を保ったまま、そのDHCP要求メッセージをDHCPサーバ/リレーエージェント2に転送する。したがって、通信制御部11は、DHCP要求メッセージのブロードキャストフラグを無効に設定してDHCPサーバ/リレーエージェント2に転送する役割を果たす。
【0055】
図8は、本開示の実施の形態に係る通信装置1がDHCPサーバ/リレーエージェント2からDHCP応答メッセージを受信したときの処理を示すフローチャートである。
【0056】
ステップS21において、通信制御部は、ポート13(図5を参照)を介してDHCPサーバ/リレーエージェント2からのDHCP応答メッセージを受信する。
【0057】
ステップS22において、通信制御部11は、DHCP応答メッセージをスヌーピングして、送信元MACアドレス、受信ポート、およびトランザクションIDを確認する。
【0058】
ステップS23において、通信制御部11は、テーブル12を参照して、受信したDHCP応答メッセージが、ブロードキャストフラグを無効化したDHCP要求メッセージに対する応答パケットであるかどうかを判定する。
【0059】
ステップS23においてYESの場合、通信制御部11は、受信したDHCP応答メッセージのブロードキャストフラグを有効化する。さらに、当該DHCP応答メッセージがユニキャストでDHCPサーバ/リレーエージェント2から送信されているので、通信制御部11は、DHCP応答メッセージの宛先MACアドレスおよび宛先IPアドレスをブロードキャスト用のアドレスに変更する。すなわち通信制御部11は、イーサネット(登録商標)ヘッダの宛先MACアドレスをブロードキャストアドレス(=ff:ff:ff:ff:ff:ff)に変更するとともに、IPヘッダの宛先IPアドレスをブロードキャストアドレス(=255.255.255.255)に変更する。
【0060】
ステップS23でNOの場合、(DHCP要求メッセージのブロードキャストフラグがもともと無効に設定されている場合)、または、ステップS24の処理が終了した場合、ステップS25において、通信制御部11は、テーブル12を参照して、DHCP応答メッセージのトランザクションID等の情報に基づいて、ポートを指定する。そして、通信制御部11は、そのポートからDHCPクライアント3にDHCP応答メッセージを転送する。
【0061】
以上のように、本実施の形態によれば、通信装置1は、DHCPクライアント3からのDHCP要求メッセージにDHCPサーバ/DHCPリレーエージェント2に転送する際に、DHCP要求メッセージ内のブロードキャストフラグを無効に設定する。すなわち、受信したDHCP要求メッセージ内のブロードキャストフラグが有効であれば、通信装置1は、そのブロードキャストフラグを無効に設定する。一方、受信したDHCP要求メッセージ内のブロードキャストフラグが無効であれば通信装置1は、ブロードキャストフラグを無効のままにする。
【0062】
さらに、通信装置1は、そのDHCP要求メッセージに対するDHCPサーバ/DHCPリレーエージェント2からのDHCP応答メッセージをDHCPクライアント3に転送する際に、DHCPクライアント3の設定に応じて、DHCP応答メッセージのブロードキャストフラグを設定する。これにより、ブロードキャストフラグを有効に設定してDHCP要求メッセージを送信したDHCPクライアントは、ブロードキャストでDHCP応答を受信することができる。一方、DHCPクライアントがブロードキャストフラグを無効に設定してDHCP要求を送信した場合、そのDHCPクライアントは、ブロードキャストフラグが無効に設定されたDHCP応答メッセージを受信できる。
【0063】
図3および図4のステップ「1」、「3」、「4」に示されるように、DHCPクライアント3、およびDHCPサーバ/DHCPリレーエージェント2の各々の動作はRFC2131によって規定されている通りの動作である。したがって本実施の形態によれば、DHCPサーバ/DHCPリレーエージェント2あるいはDHCPクライアント3側での設定変更は不要である。
【0064】
本実施の形態によれば、DHCPクライアント3がDHCP要求メッセージのブロードキャストフラグを有効に設定した場合であっても、DHCPサーバ/DHCPリレーエージェント2は、DHCP応答メッセージをユニキャストで送信する。これにより、DHCPサーバ/DHCPリレーエージェント2からのDHCP応答メッセージがブロードキャストで伝送されることを防ぐことができるので、ネットワークの負荷が著しく増大することを回避できる。
【0065】
さらに、DHCP要求メッセージを送信したDHCPクライアント3とは関係のないデバイス(DHCPサーバ/DHCPリレーエージェント2とDHCPクライアント3との間のネットワークに属するデバイス)に、DHCP応答メッセージが届くことを回避できるので、IPアドレス割り当て情報、あるいはクライアントを特定する情報が漏洩することを回避できる。
【0066】
本開示の実施の形態に係る通信装置が適用されるシステムの構成あるいは用途は特に限定されるものではない。図9に、本開示の実施の形態に係る通信装置が適用されるシステムの一例を示す。図9に示した実施形態では、通信装置1は、PON(Passive Optical Network)システムのOLT(Optical Line Terminal)として実現される。OLTは、M個のポート14_1~14_Mは、光通信回線(具体的には光ファイバ回線)を介してONU(Optical Network Unit)21_1~21_Mにそれぞれ接続される。ONU21_1~21_Mには、それぞれクライアント3_1~3_Mが接続される。各クライアントはDHCPクライアントに相当する。
【0067】
なお、一般的にPONでは、OLTに接続された1つの光通信回線が複数の回線に分岐され、分岐された各回線にONUが接続されるが、図示を単純化するため、図9では、1つの回線に1つのONUが接続されるよう示される。したがって図9に示す形態では、OLTが集約するクライアントの数はMに等しい。一実施の形態では、Mの値は100以上である。たとえばM=100であってもよく、M=200であってもよく、あるいはM=1000であってもよい。
【0068】
図9に示す実施の形態では、OLTは、DHCP応答メッセージをスヌーピングするとともにテーブル(図6を参照)を参照して、DHCP応答メッセージを配信すべきポートを決定する。OLTは、そのポートからDHCP応答メッセージを転送する。したがって、DHCP要求メッセージを送ったDHCPクライアントが接続されているONUにDHCP応答メッセージが送られる。
【0069】
図10は、図9に示すOLTの内部の通信制御処理の一例を示す模式図である。図10に示すように、DHCPサーバ/DHCPリレーエージェント2からのDHCP応答メッセージがOLT(通信装置1)に入力される。通信制御部11は、そのDHCP応答メッセージをスヌーピングするとともにテーブル(図6を参照)を参照して、OLTから転送されるべきDHCP応答メッセージであることを確認する。通信制御部11は、DHCP応答メッセージに含まれる宛先MACアドレス、トランザクションIDなどの情報を、テーブルに記録された情報と照合して、テーブルの「受信ポート」に記録されたポートをDHCP応答メッセージを転送すべきポートとして決定する。通信制御部11は、M個のポートにそれぞれ接続される複数の通信経路のうちの該当する通信経路にDHCP応答メッセージを振り分ける。
【0070】
図11は、図9に示すOLTの内部の通信制御処理の別の例を示す模式図である。図11に示すように、DHCPサーバ/DHCPリレーエージェント2からのDHCP応答メッセージがOLT(通信装置1)に入力されて、複数の通信経路にDHCP応答メッセージが分岐される。通信制御部11は、各々のメッセージをスヌーピングするとともにテーブルに管理されている情報を参照する。そして通信制御部11は、該当の通信経路をいずれか1つ選択して、その経路にDHCP応答メッセージを転送する。他のDHCP応答メッセージは、たとえば、通信経路上に流れないように通信制御部11によって廃棄されてもよい。
【0071】
OLTが多数のDHCPクライアントから同時集中的にDHCP要求メッセージを受ける場合、DHCP要求メッセージの転送および、DHCP応答メッセージの転送に関する通信制御部11の処理負荷は、通常時の負荷に比べて飛躍的に増大する。たとえばOLTが100以上のDHCPクライアントを集約し、かつ、それらから同時集中的にDHCPメッセージが送られる場合、たとえば10~20台程度のDHCPクライアントから同時にDHCPメッセージが送られる場合に比べると通信装置の処理負荷は著しく高くなる。このような場合、通信装置の処理負荷が設計上のピーク負荷の許容量を超えることも起こりえる。しかし、本実施の形態は、このように、DHCPクライアントの集約数が設計上のピーク負荷の許容量に相当する数を上回る通信システムにも適用することができる。設計上のピーク負荷の許容量を上回るDHCPクライアントの集約数は、OLTの性能に依存するが、一実施形態では、上述のように100以上である。
【0072】
通信装置1に複数のDHCPクライアントが接続されている場合において、各々のDHCPクライアントからのDHCP要求メッセージに対するDHCP応答メッセージがブロードキャストで送信されると、ネットワークの負荷がより一層増大する。DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントは、各々のDHCP要求メッセージに対してユニキャストでDHCP応答メッセージを送るので、ネットワークの負荷の増大を抑える効果がより高められる。
【0073】
なお、本実施の形態に係るシステムの構成は上記した構成に限定されない。DHCPメッセージのブロードキャストフラグを設定する機能を、どの装置に持たせるかは特に限定されない。通信装置1よりも上位側の装置が当該機能を有してもよい。たとえば、図1に示したネットワーク装置4が、DHCPメッセージのブロードキャストフラグの設定を行ってもよい。
【0074】
本実施形態は、以下に付記する特徴を含む。
【0075】
(付記)
DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントと、
複数のDHCPクライアントと、
DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェントと前記複数のDHCPクライアントとの間に接続され、前記複数のDHCPクライアントを集約する通信装置とを備え、
前記通信装置は、前記通信装置の処理負荷のピークの許容量に相当する数よりも大きい数の前記複数のDHCPクライアントを集約する、通信システム。
【0076】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0077】
1 通信装置
2 DHCPサーバまたはDHCPリレーエージェント
3,3_1~3_M DHCPクライアント
4 ネットワーク装置
5_1~5_N デバイス
11 通信制御部
12 テーブル
13,14_1~14_M ポート
21_1~21_M ONU
S11~S15,S21~S25 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11