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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】超音波センサ
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/00 20060101AFI20240220BHJP
【FI】
H04R17/00 330G
H04R17/00 330L
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020180820
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2021111964
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2020001702
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 格
(72)【発明者】
【氏名】神谷 達也
(72)【発明者】
【氏名】種村 友貴
(72)【発明者】
【氏名】小島 永児
(72)【発明者】
【氏名】青木 敬
【審査官】中嶋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-217020(JP,A)
【文献】特開2006-094459(JP,A)
【文献】Krodel et al.,Acoustic properties of porous microlattices from effective medium to scattering dominated regimes,the Journal of the Acoustical Society of America,米国,the Acoustical Society of America,2018年07月24日,144(1),319-329,[online] https://doi.org/10.1121/1.5046068,[2023年08月28日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング(40)内に複数の超音波素子(25)が形成されたセンサ部(10)が収容された超音波センサであって、
収容凹部(51)が形成されたケース(50)と、
前記ケースの収容凹部に収容され、探査波を送信すると共に、前記探査波が障害物で反射した反射波を受信波として受信する前記複数の超音波素子が形成された前記センサ部と、
前記収容凹部を閉塞するように前記ケースに配置されて前記ケーシングを構成する蓋部(80)と、を備え、
前記蓋部は、構造体(81)に前記収容凹部内の空間と外部の空間とを連通させる空隙(82)が形成された多孔部材で構成され、前記構造体の平均長さと前記空隙の平均幅とで規定される散乱断面積が1×10-5[m]以下とされている超音波センサ。
【請求項2】
前記蓋部は、前記構造体の平均長さをA[m]とし、前記空隙の平均幅をB[m]とし、所定の第1定数をγとし、所定の第2定数をεとすると、前記構造体および前記空隙は、γ×log10(A)+log10(ε×B)<1×10-5[m]を満たしている請求項1に記載の超音波センサ。
【請求項3】
前記蓋部は、前記構造体に対する前記空隙の比率を空隙率とすると、音圧ロスが10[dB]以下となるように、前記空隙の平均幅および前記空隙率が調整されている請求項1または2に記載の超音波センサ。
【請求項4】
前記蓋部は、前記空隙の平均幅が0.00005~0.0004[mm]とされており、
前記空隙率は、80[%]以上とされている請求項3に記載の超音波センサ。
【請求項5】
前記蓋部は、前記空隙の平均幅が0.2~2[mm]とされており、
前記空隙率は、30[%]以上とされている請求項3に記載の超音波センサ。
【請求項6】
前記蓋部は、前記探査波の波長をλとすると、前記空隙の平均幅がλ/2未満とされている請求項1ないし5のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【請求項7】
前記センサ部と前記蓋部との間隔(d1)は、前記探査波の波長をλとすると、λ/4とされている請求項1ないし6のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【請求項8】
前記ケースのうちの前記超音波素子と前記収容凹部の開口端との間隔をh[mm]とし、前記ケースと前記複数の超音波素子との間隔のうちの最も短くなる間隔をs[mm]とし、前記センサ部から送信される前記探査波の指向角をθとすると、tan(90-θ)≧h/sとされている請求項1ないし7のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【請求項9】
前記蓋部は、第1蓋部(80a)および第2蓋部(80b)を有し、前記センサ部側から前記第1蓋部、前記第2蓋部の順に配置されていると共に、前記第1蓋部と前記第2蓋部とが離れて配置されており、
前記第1蓋部と前記第2蓋部との間隔(d2)は、前記探査波の波長をλとすると、λ/2未満とされている請求項1ないし8のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【請求項10】
隣合う前記超音波素子の中心の間隔(d)は、前記探査波の波長をλとすると、λ/2未満とされている請求項1ないし9のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【請求項11】
前記センサ部は、
圧電膜(28b)を有する圧電素子(28)が複数配置されることで前記複数の超音波素子が形成され、
前記複数の超音波素子における前記圧電素子に印加される駆動電圧が制御されることで前記探査波を送信する請求項1ないし10のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【請求項12】
前記センサ部は、所定の指向角となるように、前記複数の超音波素子の数、または前記駆動電圧が印加される前記超音波素子の数が調整される請求項11に記載の超音波センサ。
【請求項13】
前記センサ部は、所定方向に沿った指向軸となるように、前記複数の超音波素子に印加される駆動電圧の位相が調整される請求項11に記載の超音波センサ。
【請求項14】
前記圧電膜は、窒化スカンジウムアルミニウム、または窒化アルミニウムで構成されている請求項11ないし13のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓋部を有するケーシング内に収容された超音波素子を有する超音波センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、超音波の送受信が可能とされた超音波素子が形成されたセンサ部が、蓋部を有するケーシング内に収容された超音波センサが提案されている(例えば、特許文献1参照)。なお、蓋部は、ケーシング内の空間と外部の空間とを連通させる複数の空隙が形成された多孔部材で構成されている。
【0003】
このような超音波センサは、例えば、車両に搭載され、車両の周囲に位置する物体を検出する物体検出装置を構成するのに用いられる。具体的には、超音波センサは、蓋部に形成されている空隙を通じて超音波としての探査波を外部へ送信し、当該探査波が障害物で反射した反射波を受信波として受信する。そして、超音波センサは、超音波素子が受信する受信波に基づいて障害物を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-217020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような超音波センサにおいて、本発明者らは、次のような超音波センサを検討している。すなわち、センサ部に複数の超音波素子を形成した場合、各超音波素子が受信する受信波は、受信波の方向(すなわち、障害物の方向)によって位相差が発生する。このため、本発明者らは、センサ部に複数の超音波素子を形成して超音波センサを構成し、超音波センサを車両に搭載した際、各超音波素子が受信する受信波の位相差に基づいて障害物の方向を検出することも検討している。
【0006】
しかしながら、超音波が蓋部の空隙を通過する際、散乱が発生することで超音波の位相情報が乱れる可能性がある。このため、このような超音波センサを車両に搭載した場合、位相情報が乱れることによって検出精度が低下する可能性がある。
【0007】
本発明は上記点に鑑み、蓋部で超音波が散乱することを抑制できる超音波センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1では、ケーシング(40)内に複数の超音波素子(25)が形成されたセンサ部(10)が収容された超音波センサであって、収容凹部(51)が形成されたケース(50)と、ケースの収容凹部に収容され、探査波を送信すると共に、探査波が障害物で反射した反射波を受信波として受信する複数の超音波素子が形成されたセンサ部と、収容凹部を閉塞するようにケースに配置されてケーシングを構成する蓋部(80)と、を備え、蓋部は、構造体(81)に収容凹部内の空間と外部の空間とを連通させる空隙(82)が形成された多孔部材で構成され、構造体の平均長さと空隙の平均幅とで規定される散乱断面積が1×10-5[m]以下とされている。
【0009】
これによれば、散乱断面積が1×10-5[m]以下とされているため、蓋部で超音波の散乱(すなわち、位相ずれ)が発生することを抑制できる。このため、例えば、各超音波素子で受信する受信波の位相差に基づいて障害物の方向を検出する場合、検出精度が低下することを抑制できる。
【0010】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態における超音波センサの断面図である。
図2図1に示すセンサ部近傍の拡大図である。
図3】超音波素子の数、指向角、音圧の関係を示す図である。
図4図1に示す蓋部の拡大図である。
図5】散乱断面積と、平均長さおよび平均幅との関係を示す図である。
図6】音圧ロスと、平均長さおよび空隙率との関係を示す図である。
図7】第2実施形態における超音波センサの断面図である。
図8】第3実施形態における超音波センサの断面図である。
図9】第4実施形態における超音波センサの断面図である。
図10】第5実施形態におけるセンサ部近傍の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態の超音波センサは、例えば、車両のバンパー周辺に搭載され、車両の周囲に位置する物体を検出する物体検出装置を構成するのに適用されると好適であり、以下では車両に取り付けられる例について説明する。
【0014】
本実施形態の超音波センサは、図1に示されるように、センサ部10がケーシング40内に収容された構成とされている。まず、センサ部10の構成について説明する。
【0015】
センサ部10は、超音波である探査波を指向軸に沿って送信するように構成されている。なお、探査波は、センサ部10から所定の広がり(すなわち、指向角)で送信される。また、指向軸とは、センサ部10から送信される探査波に沿って伸びる仮想直線であって、指向角の基準となるものである。言い換えると、指向軸は、探査波の中心を通る軸である。また、センサ部10は、探査波が周囲に存在する障害物で反射された反射波を含む受信波を受信し、受信結果に基づく検出信号を出力するように構成されている。本実施形態では、センサ部10は、図2に示されるように、トランデューサユニット20および支持部材30等を備えている。
【0016】
トランデューサユニット20は、本実施形態では、支持基板21、埋込絶縁膜22、半導体層23が順に積層されたSOI基板で構成されるセンサ基板24を用いて構成されたMEMS型とされ、複数の超音波素子25を有する構成とされている。なお、SOIは、Silicon on Insulatorの略であり、MEMSは、Micro Electro Mechanical Systemsの略である。以下では、半導体層23のうちの埋込絶縁膜22と反対側の面をセンサ基板24の一面24aとし、支持基板21のうちの埋込絶縁膜22と反対側の面をセンサ基板24の他面24bとして説明する。
【0017】
センサ基板24には、他面24b側から凹部26が形成されることにより、複数のダイヤフラム部27が形成されている。本実施形態では、センサ基板24には、ダイヤフラム部27が二次元的に配列されるように、凹部26が形成されている。なお、本実施形態では、凹部26は、埋込絶縁膜22を貫通して半導体層23に達するように形成されており、ダイヤフラム部27は、半導体層23で構成されている。但し、凹部26は、埋込絶縁膜22を残存させるように形成され、ダイヤフラム部27は、埋込絶縁膜22および半導体層23で形成されるようにしてもよい。
【0018】
そして、各ダイヤフラム部27上には、裏面電極28a、圧電膜28b、表面電極28cが順に積層されて構成される圧電素子28が形成されている。本実施形態では、このようにしてセンサ基板24に複数の超音波素子25が形成されている。つまり、本実施形態の超音波素子25は、PMUTとして構成されている。PMUTはPiezoelectric Micro-machined Ultrasonic Transducersの略である。
【0019】
なお、本実施形態では、各圧電素子28の裏面電極28aは、一体化されて共通のグランド電位が印加されるようになっている。また、圧電膜28bは、窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)、窒化アルミニウム(AlN)等の鉛を有しない圧電セラミックス、またはチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の鉛を含むが汎用性の高い圧電セラミックスで構成されている。そして、圧電膜28bは、ダイヤフラム部27上に、ダイヤフラム部27と同等の平面形状となるように形成されている。
【0020】
各超音波素子25は、上記のように、ダイヤフラム部27が二次元的に形成されているため、二次元的に配置された状態となる。そして、各超音波素子25は、後述するボンディングワイヤ35や接続端子36等を介し、それぞれが図示しない制御部等と接続される。なお、超音波センサが車両に搭載される場合、制御部は、例えば、車載ECU(Electronic Control Unitの略)で構成される。
【0021】
また、各超音波素子25は、隣合う超音波素子25の中心の間隔を間隔dとすると、ある位相差に対して方位が2値化しないように、それぞれの間隔dが探査波の波長の半分未満とされていることが好ましい。つまり、探査波の波長をλとすると、間隔dは、d<λ/2とされていることが好ましい。なお、隣合う超音波素子25の中心の間隔とは、言い換えると、隣合うダイヤフラム部27の中心の間隔のことである。
【0022】
そして、センサ基板24の一面24aには、裏面電極28aや表面電極28cと電気的に接続されるパッド部29が形成されている。
【0023】
このような超音波素子25は、圧電素子28に交流電圧である駆動電圧が印加されると、ダイヤフラム部27が超音波振動して探査波を送信する。例えば、本実施形態では、探査波の指向軸がセンサ基板24の一面24aに対する法線方向(以下では、単にセンサ基板24の法線方向ともいう)と一致するように、各圧電素子28に位相が等しい駆動電圧が印加される。この場合、図3に示されるように、超音波素子25の数を変更することによって指向角を容易に変更できることが確認される。具体的には、センサ部10は、超音波素子25の数が多くなるほど指向角を狭くでき、超音波素子25の数が少なくなるほど指向角を広くすることができる。また、センサ部10は、超音波素子25の数を増加するほど音圧を高くでき、遠方の障害物まで検出することができるようになる。
【0024】
このため、センサ部10は、車両に取り付けられる際の高さや検出範囲等に基づき、形成される超音波素子25の数が適宜変更されることが好ましい。この場合、超音波素子25を多数形成しておき、通電する超音波素子25の数を制御することにより、探査波の指向角が調整されるようにしてもよい。なお、センサ部10は、空気減衰の影響が大きくなり難い範囲であり、かつ人体に不快感を与えないように、40~80kHz程度の探査波を送信するようにすることが好ましい。
【0025】
そして、超音波素子25は、受信波を受信するとダイヤフラム部27が振動し、当該振動に基づいて圧電素子28に電荷が発生する。このため、超音波素子25は、受信波を受信すると当該受信波に応じた検出信号を出力する。この場合、複数の超音波素子25が法線方向に対して傾いた方向からの受信波を受信する場合、各超音波素子25で受信する受信波には、傾きに応じた位相差が発生している。したがって、センサ部10と接続される図示しない制御部は、当該位相差から受信波の方向(すなわち、障害物が存在する方向)を検出する。
【0026】
支持部材30は、トランデューサユニット20を固定して支持する部材である。本実施形態では、支持部材30は、多層基板やプリント基板等で構成されている。そして、特に図示しないが、信号処理のための各種回路部品が実装されていてもよい。
【0027】
また、本実施形態の支持部材30は、凹部31と、当該凹部31を囲むように形成された凸部32とを有する形状とされている。そして、凹部31には、センサ基板24の他面24bが凹部31の底面と対向するように、上記センサ基板24が接合部材33を介して搭載されている。なお、接合部材33は、シリコーン系等の接着剤等が用いられる。
【0028】
支持部材30の凸部32には、パッド部34が形成されている。そして、このパッド部34は、センサ基板24に形成されたパッド部29とボンディングワイヤ35を介して電気的に接続されている。
【0029】
さらに、支持部材30には、凸部32およびパッド部34を貫通するように、金属製の接続端子36が配置されている。そして、接続端子36は、はんだ等の接合部材37が形成されることにより、支持部材30に機械的に接続されると共に、パッド部34と電気的に接続される。これにより、各超音波素子25がパッド部29、34を介して接続端子36と接続される。また、パッド部34上には、ボンディングワイヤ35と接続される部分と接合部材37と接続される部分の間に、ソルダーレジスト38が配置されている。
【0030】
以上が本実施形態におけるセンサ部10の構成である。
【0031】
ケーシング40は、図1に示されるように、収容凹部51が形成されたケース50と、収容凹部51を閉塞するように配置される蓋部80とを有している。
【0032】
ケース50は、本実施形態では、金属等で構成される搭載部材60および側壁部材70を有している。搭載部材60は、図2に示されるように、支持部材30に備えられる接続端子36の数に対応する複数の貫通孔61が形成されている。そして、支持部材30は、接続端子36が貫通孔61を貫通するように、搭載部材60上に接合部材62を介して配置されている。なお、貫通孔61には、接続端子36と搭載部材60とを絶縁するための図示しない絶縁部材等が充填されている。また、接合部材62は、シリコーン系接着剤等が用いられ、絶縁部材は、エポキシ樹脂や封止ガラス等が用いられる。
【0033】
側壁部材70は、図1に示されるように、一端部および他端部を有する筒状部材とされ、他端部側の内周面に段差部71が形成されている。そして、側壁部材70は、センサ部10を内部に収容するように、一端部側が搭載部材60に固定されている。つまり、ケース50の収容凹部51は、筒状の側壁部材70の一端部が搭載部材60に固定されることで構成されている。なお、特に限定されるものではないが、側壁部材70は、例えば、搭載部材60に、かしめ固定や接着剤等によって固定される。
【0034】
蓋部80は、図4に示されるように、構造体81に空隙82が形成された多孔部材で構成されている。このような蓋部80は、例えば、樹脂で構成されるゴアテックス(登録商標)、金属板に複数の貫通孔が形成されたパンチメタル、金属製の細線を編み込んで構成される金属不織布等が用いられる。なお、図4は、蓋部80を樹脂で構成した場合の模式図であり、構造体81の長さを長さaとし、空隙82の幅を幅bとして示している。但し、ここでの構造体81の長さaとは、構造体81における空隙82で挟まれる部分の長さのことであり、空隙の幅bとは、隣合う構造体81の間隔のことである。
【0035】
そして、蓋部80は、図1に示されるように、側壁部材70に形成された段差部71に、図示しない接着剤等の接合部材を介して外縁端部が接合されている。なお、蓋部80の空隙82は、ケース50における収容凹部51内の空間とケース50外の外部空間とが連通するように形成されている。
【0036】
以上が本実施形態における超音波センサの基本的な構成である。そして、本実施形態では、蓋部80がさらに以下のような構成とされている。
【0037】
まず、音波が多孔部材を通過する場合、「Krodel et al, Acoustic properties of porous microlattice from effective medium to scattering dominated regimes,The journal of the Acoustical Society of America 144, 319,2018年」等の文献には、空隙の幅と構造体の長さとを用いて規定される散乱断面積が1.0×10-5以下であれば、音波の散乱(すなわち、位相ずれ)を発生し難くすることができると報告されている。
【0038】
このため、本実施形態では、構造体81の長さaの平均値を平均長さA[m]とし、空隙82の幅bの平均値を平均幅B[m]とすると、平均長さAおよび平均幅Bは、散乱断面積が1.0×10-5以下となるように調整されている。なお、ここでの平均長さAおよび平均幅Bは、製造誤差等の若干のばらつき等によって発生する誤差を含むものであり、例えば、±5%程度のずれを許容するものである。
【0039】
具体的には、本発明者らは、散乱断面積と、構造体81の平均長さAと空隙82の平均幅Bとの関係について鋭意検討を行い、図5に示される結果を得た。図5に示されるように、散乱断面積は、構造体の平均長さAおよび空隙の平均幅Bが大きくなるほど大きくなることが確認される。そして、散乱断面積は、散乱断面積をσとし、所定の第1定数をγとし、所定の第2定数をεとすると、図5に基づいて下記数式1で示される。
【0040】
[数1]σ=γ×log10(A)+log10(ε×B)
したがって、本実施形態では、γ×log10(A)+log10(ε×B)が1.0×10-5以下となるように、平均長さAおよび平均幅Bが規定されている。
【0041】
また、蓋部80における空隙82の平均幅Bは、探査波の波長の(1/2)×n倍(但し、nは自然数)の値に近づくほど超音波が散乱し易くなる。このため、本実施形態では、空隙82の平均幅Bは、λ/2未満となるように形成されている。但し、空隙82の平均幅Bは、波長の1/2倍の値に近づくほど超音波が散乱し易くなるため、λ/2から離れた値となることが好ましい。したがって、本実施形態では、構造体81の平均長さAおよび空隙82の平均幅Bは、散乱断面積が1.0×10-5以下となる値とされつつ、例えば、探査波の波長の1/10以下とされる。
【0042】
さらに、蓋部80を有する超音波センサでは、蓋部80を超音波が通過する際にエネルギ損失が発生するため、音圧ロスが発生し得る。このため、本発明者らは、構造体81に対する空隙82の比率を空隙率とし、音圧ロスと空隙率との関係についても鋭意検討を行って図6に示される結果を得た。なお、現状では、音圧ロスは、10dB以下であれば許容範囲内とされており、10dB以下とすることが望まれている。
【0043】
図6に示されるように、音圧ロスは、空隙率に依存すると共に、空隙の平均幅Bに依存する。具体的には、音圧ロスは、平均幅Bが小さくなるほど大きくなる。これは、平均幅Bが小さくなるほど蓋部80内部の表面積が大きくなり、超音波が通過する際に発生するエネルギ損失が大きくなるためである。また、音圧ロスは、空隙率が小さくなるほど超音波が通過し難くなるため、大きくなる。
【0044】
そして、平均幅Bが0.00005~0.0004mmである場合には、空隙率が80%以上であれば音圧ロスが10dB以下となることが確認される。平均幅Bが0.005~0.15mmである場合には、空隙率が70%以上であれば、音圧ロスが10dB以下となることが確認される。平均幅Bが0.2~2mmである場合には、空隙率が30%以上であれば、音圧ロスが10dB以下となることが確認される。このため、本実施形態の蓋部80は、音圧ロスが10dB以下となるように、平均幅Bと空隙率が調整されている。
【0045】
なお、平均幅Bが0.00005~0.0004mmである蓋部80とする場合、蓋部80は、樹脂部材で構成される。この場合、平均幅Bの0.00005~0.0004mmは、製造上の加工限界や加工困難性等に基づいて導出される値である。
【0046】
平均幅Bが0.005~0.15mmである蓋部80とする場合、蓋部80は、例えば、金属不織布等で構成される。この場合、平均幅Bの0.005~0.15mmは、製造上の加工限界や加工困難性等に基づいて導出される値である。
【0047】
平均幅Bが0.2~2mmである蓋部80とする場合、蓋部80は、例えば、パンチメタルで構成される。この場合、平均幅Bの下限値である0.2mmは、製造上の加工限界や加工困難性等に基づいて導出される値である。平均幅Bの上限値である2mmは、超音波が散乱し難い値に基づいて導出される値である。すなわち、本実施形態では、センサ部10から送信される探査波の波長を40~80kHzとしており、平均幅Bを2mm以上にすると探査波の波長の(1/2)×n倍の値と重複したり、(1/2)×n倍に近くなり過ぎることで超音波の散乱が発生し易くなる。このため、本実施形態では、平均幅Bは、2mm以下とされている。
【0048】
なお、音圧ロスをLtとし、空隙率をXとし、所定の第3定数をαとし、所定の第4定数をβとすると、音圧ロスと空隙率の関係は、図6に基づいて下記数式2で示される。
【0049】
[数2]Lt=α×(X)-β
したがって、上記図6に示した平均幅Bと異なる平均幅Bを有する蓋部80とする場合には、上記数式2に基づいて音圧ロスLtが10dB以下となるように、空隙率Xを調整すればよい。
【0050】
以上説明したように、本実施形態では、蓋部80は、散乱断面積が1.0×10-5以下となるように、構造体81の平均長さAおよび空隙の平均幅Bが規定されている。具体的には、γ×log10(A)+log10(ε×B)が1.0×10-5以下となるように、平均長さAおよび平均幅Bが規定されている。このため、蓋部80で超音波の散乱が発生することを抑制できる。したがって、各超音波素子25で受信する受信波の位相差に基づいて障害物の方向を検出する場合、検出精度が低下することを抑制できる。
【0051】
また、蓋部80は、空隙82の平均幅Bがλ/2未満となるように構成されている。このため、超音波が散乱することをさらに抑制できる。
【0052】
そして、蓋部80は、音圧ロスが10dB以下となるように、平均幅Bに基づいて空隙率が規定されている。このため、音圧ロスを十分に低減でき、検出精度が低下することを抑制できる。
【0053】
さらに、センサ部10は、隣合う超音波素子25の間隔dがλ/2未満とされている。このため、ある位相差に対して方位が2値化することを抑制でき、検知範囲が低下することを抑制できる。
【0054】
また、センサ部10は、センサ基板24を用いて構成されたMEMS型とされている。このため、量産を容易にできる。
【0055】
そして、センサ部10は、所定の指向角となるように、超音波素子25の数、または駆動電圧が印加される超音波素子25の数が調整されている。このため、所望の指向角を実現したセンサ部10とできる。
【0056】
さらに、センサ部10の圧電膜28bとして、窒化スカンジウムアルミニウム、または窒化アルミニウム等の鉛を有しない圧電セラミックスを用いた場合には、環境への影響を低減したセンサ部10を実現できる。
【0057】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、センサ部10と蓋部80との間隔を規定したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0058】
本実施形態では、図7に示されるように、センサ部10と蓋部80との間隔を間隔d1とすると、間隔d1がλ/4とされている。なお、センサ部10と蓋部80との間隔d1とは、詳しくは、センサ部10のうちの表面電極28cと蓋部80との間隔のことである。
【0059】
以上説明した本実施形態では、間隔d1がλ/4とされているため、探査波によって蓋部80が振動し難くなると共に、蓋部80によって探査波が反射され難くなる。したがって、検出精度の向上を図ることができる。
【0060】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、センサ部10の形状と側壁部材70の高さを規定したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0061】
本実施形態では、図8に示されるように、センサ部10のうちの最も外縁側に配置されている超音波素子25の中心と側壁部材70との間隔を間隔sとする。つまり、各超音波素子25の中心と側壁部材70との間隔のうちの最も長さが短い間隔を間隔sとする。なお、超音波素子25の中心とは、本実施形態では、圧電素子28の中心とされている。また、側壁部材70において、超音波素子25の表面電極28cと他端部との間隔を間隔hとする。つまり、超音波素子25とケース50の開口端との間隔を間隔hとする。
【0062】
さらに、センサ部10におけるセンサ基板24の法線方向(すなわち、指向軸)と、センサ部10から送信される探査波の広がり範囲との成す角度を指向角θとする。
【0063】
そして、本実施形態では、センサ部10および側壁部材70は、tan(90-θ)≧h/sを満たすように、構成、配置されている。
【0064】
以上説明した本実施形態では、センサ部10および側壁部材70は、tan(90-θ)≧h/sを満たすように、構成、配置されている。このため、センサ部10から送信される探査波の広がりが側壁部材70によって阻害され難くなり、検出精度が低下することを抑制できる。
【0065】
(第4実施形態)
第4実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、蓋部80の構成を変更したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0066】
本実施形態では、図9に示されるように、蓋部80は、第1蓋部80aと第2蓋部80bとを有する構成とされている。なお、第1蓋部80aおよび第2蓋部80bは、同じ構成とされており、それぞれ上記の条件を満たすように構成されている。
【0067】
側壁部材70には、段差部71として、搭載部材60側から順に、第1段差部71aと第2段差部71bとが形成されている。
【0068】
そして、第1蓋部80aは、第1段差部71aに図示しない接着剤等を介して配置されている。第2蓋部80bは、第2段差部71bに図示しない接着剤を介して配置されており、第1蓋部80aと離れて配置されている。この場合、本実施形態では、第1蓋部80aと第2蓋部80bとの間の間隔を間隔d2とすると、間隔d2がλ/2未満とされている。
【0069】
以上説明したように、蓋部80が第1蓋部80aおよび第2蓋部80bを有する構成とされていても、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。そして、本実施形態では、第1蓋部80aと第2蓋部80bとの間隔d2がλ/2未満とされているため、第1蓋部80aと第2蓋部80bとの間で超音波が散乱することも抑制でき、検出精度が低下することを抑制できる。
【0070】
(第5実施形態)
第5実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、センサ部10の構成を変更したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0071】
本実施形態では、図10に示されるように、超音波素子25は、支持部材30に形成された凹部31上に、複数の圧電素子28が二次元的に配置されることで構成されている。具体的には、本実施形態では、裏面電極28aは、支持部材30の凹部31上に直接形成されており、センサ基板24が備えられていない。そして、圧電素子28は、上記第1実施形態に対して圧電膜28bが十分に厚くされたバルク状とされている。本実施形態では、このような圧電素子28によって超音波素子25が構成され、当該超音波素子25が複数備えられることによってトランデューサユニット20が構成されている。
【0072】
そして、各超音波素子25は、裏面電極28aおよび表面電極28cが支持部材30に形成されたパッド部34とボンディングワイヤ35を介して電気的に接続されている。
【0073】
このようなセンサ部10では、各圧電素子28に交流電圧である駆動電圧が印加されると、圧電素子28が超音波振動して探査波を送信する。また、超音波素子25は、受信波を受信すると圧電素子28が振動して当該圧電素子28に電荷が発生する。このため、超音波素子25は、受信波を受信すると当該受信波に応じた検出信号を出力する。
【0074】
以上説明したように、超音波素子25がバルク状の圧電素子28で構成されていても、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0075】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0076】
例えば、上記各実施形態において、超音波素子25は、隣合う超音波素子25の間隔dがλ/2以上とされていてもよい。
【0077】
また、上記各実施形態において、空隙82の平均幅Bは、λ/2以上とされていてもよい。
【0078】
さらに、上記各実施形態では、探査波の指向軸がセンサ基板24の法線方向と一致するように、各超音波素子25に印加される駆動電圧(すなわち、交流電圧)の位相を等しくする例について説明した。しかしながら、探査波の指向軸がセンサ基板24の法線方向に対して傾いた所定方向となるように、各超音波素子25に印加される駆動電圧の位相が制御されるようにしてもよい。これによれば、所望の方向の検出感度を高くできる。
【0079】
そして、上記各実施形態を適宜組み合わせてもよい。例えば、上記第2実施形態を各実施形態に適宜適用し、間隔d1がλ/4となるようにしてもよい。なお、上記第2実施形態を上記第4実施形態に組み合わせる場合には、センサ部10と第1蓋部80aとの間隔が間隔d2となるようにすればよい。また、上記第3実施形態を各実施形態に適宜適用し、センサ部10および側壁部材70がtan(90-θ)≧h/sを満たすように構成、配置されるようにしてもよい。そして、上記第4実施形態を各実施形態に適宜適用し、蓋部80を第1蓋部80aおよび第2蓋部80bを有する構成とすると共に、間隔d2がλ/2未満となるようにしてもよい。また、上記第5実施形態を上記各実施形態に適宜適用し、センサ部10における超音波素子25がバルク状の圧電素子28で構成されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0080】
10 センサ部
25 超音波素子
40 ケーシング
50 ケース
51 収容凹部
80 蓋部
81 構造体
82 空隙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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図10