(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】燃圧制御システム
(51)【国際特許分類】
F02D 41/22 20060101AFI20240220BHJP
F02D 41/02 20060101ALI20240220BHJP
F02M 55/02 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
F02D41/22
F02D41/02
F02M55/02 360J
(21)【出願番号】P 2020184739
(22)【出願日】2020-11-04
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】近藤 学宏
(72)【発明者】
【氏名】佐野 龍平
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-180136(JP,A)
【文献】特開2010-190147(JP,A)
【文献】特開2020-118100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00-45/00
F02M 55/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(90)のインジェクタ(35)に燃料を供給する燃料供給系(90f)に適用される燃圧制御システム(91)であって、
前記燃料供給系の一部としての高圧系(30)に燃料を吐出することにより、当該高圧系の燃圧としての高圧系燃圧(PH)を上昇させる昇圧ポンプ(29)と、前記高圧系燃圧を減少させるための減圧弁(38)と、前記昇圧ポンプ及び前記減圧弁を制御する制御装置(50)と、を有し、
前記制御装置は、前記減圧弁の開弁の要否を判定する開弁要否判定部(71)を有し、前記開弁要否判定部により開弁要と判定したことを条件に、前記減圧弁を開弁して前記高圧系燃圧を前記高圧系の外部に逃がす開弁制御(V)を実行する、燃圧制御システムにおいて、
前記制御装置は、前記開弁制御における前記高圧系燃圧の逃がし先(20)としての又は逃がす経路(39)としての対象部に、所定の対象部閾圧(PLx)を超える圧力が加わらないように、前記減圧弁の開弁度を制限しつつ当該減圧弁を開弁する開弁制限制御(Vr)を、前記開弁制御において実行する制限実行部(73,75)を有
し、
前記制御装置は、前記開弁制御において前記開弁制限制御を実行しないと、前記対象部に前記対象部閾圧を超える圧力が加わるおそれがある所定の状態としての要保護状態であるか否かを判定する保護要否判定部(72)を有し、
前記制御装置は、
前記開弁要否判定部により前記開弁要と判定し、且つ前記保護要否判定部により前記要保護状態ではないと判定した場合には、前記開弁制御において、前記開弁制限制御を実行しない通常開弁制御(Vn)を実行し、
前記開弁要否判定部により前記開弁要と判定し、且つ前記保護要否判定部により前記要保護状態であると判定した場合には、前記制限実行部により前記開弁制限制御を実行することにより、当該開弁制限制御を実行しない場合に比べて前記減圧弁の開弁度を制限する、燃圧制御システム。
【請求項2】
前記要保護状態は、前記開弁制御において前記開弁制限制御を実行しないと、前記開弁制御により逃がした燃料による水撃により前記対象部に前記対象部閾圧を超える圧力が加わるおそれがある状態を含む、請求項
1に記載の燃圧制御システム。
【請求項3】
前記要保護状態は、前記開弁制御において前記開弁制限制御を実行しないと、前記開弁制御により逃がした燃料の蒸発による圧力上昇により前記対象部に前記対象部閾圧を超える圧力が加わるおそれがある状態を含む、請求項
1又は
2に記載の燃圧制御システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記開弁要否判定部により前記開弁要と判定した場合に、目標開弁度(Ot)を算出する開弁度算出部(73)を有し、算出した前記目標開弁度に前記減圧弁の開弁度を近づけるように制御するものであり、
前記開弁制限制御では、前記開弁度算出部により所定の希望開弁度(Ot1)と、前記対象部に前記対象部閾圧を超える圧力が加わるおそれがない範囲内における上限以下の前記減圧弁の開弁度としての許容開弁度(Ot2)との両開弁度を算出し、前記両開弁度のうちの小さい方を、前記目標開弁度として採用する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の燃圧制御システム。
【請求項5】
エンジン(90)のインジェクタ(35)に燃料を供給する燃料供給系(90f)に適用される燃圧制御システム(91)であって、
前記燃料供給系の一部としての高圧系(30)に燃料を吐出することにより、当該高圧系の燃圧としての高圧系燃圧(PH)を上昇させる昇圧ポンプ(29)と、前記高圧系燃圧を減少させるための減圧弁(38)と、前記昇圧ポンプ及び前記減圧弁を制御する制御装置(50)と、を有し、
前記制御装置は、前記減圧弁の開弁の要否を判定する開弁要否判定部(71)を有し、前記開弁要否判定部により開弁要と判定したことを条件に、前記減圧弁を開弁して前記高圧系燃圧を前記高圧系の外部に逃がす開弁制御(V)を実行する、燃圧制御システムにおいて、
前記制御装置は、前記開弁制御における前記高圧系燃圧の逃がし先(20)としての又は逃がす経路(39)としての対象部に、所定の対象部閾圧(PLx)を超える圧力が加わらないように、前記減圧弁の開弁度を制限しつつ当該減圧弁を開弁する開弁制限制御(Vr)を、前記開弁制御において実行する制限実行部(73,75)を有し、
前記制御装置は、前記開弁要否判定部により前記開弁要と判定した場合に、目標開弁度(Ot)を算出する開弁度算出部(73)を有し、算出した前記目標開弁度に前記減圧弁の開弁度を近づけるように制御するものであり、
前記開弁制限制御では、前記開弁度算出部により所定の希望開弁度(Ot1)と、前記対象部に前記対象部閾圧を超える圧力が加わるおそれがない範囲内における上限以下の前記減圧弁の開弁度としての許容開弁度(Ot2)との両開弁度を算出し、前記両開弁度のうちの小さい方を、前記目標開弁度として採用する、燃圧制御システム。
【請求項6】
前記開弁制限制御では、前記高圧系燃圧が所定の高圧系閾圧(PHx)を超えず、且つ前記対象部に前記対象部閾圧を超える圧力が加わらないように前記減圧弁を開弁する両立開弁を実行する、請求項1~
5のいずれか1項に記載の燃圧制御システム。
【請求項7】
前記制御装置は、所定の高圧系目標燃圧(PHt)を算出する目標燃圧算出部(62)を有し、算出した前記高圧系目標燃圧に前記高圧系燃圧を近づけるように制御するものであり、
前記制御装置は、仮に前記高圧系燃圧に所定の異常上昇が発生すると、前記開弁制限制御において前記両立開弁を実行することが不可能になり得る状態としての要警戒状態であるか否かを判定する状態判定部(61)を有し、前記状態判定部により前記要警戒状態であると判定したことを条件に、所定の燃圧制限制御を開始して、当該燃圧制限制御を行わない場合に比べて前記高圧系目標燃圧を低く設定することにより、たとえ前記所定の異常上昇が発生しても前記両立開弁を実行できるようにする、請求項
6に記載の燃圧制御システム。
【請求項8】
エンジン(90)のインジェクタ(35)に燃料を供給する燃料供給系(90f)に適用される燃圧制御システム(91)であって、
前記燃料供給系の一部としての高圧系(30)に燃料を吐出することにより、当該高圧系の燃圧としての高圧系燃圧(PH)を上昇させる昇圧ポンプ(29)と、前記高圧系燃圧を減少させるための減圧弁(38)と、前記昇圧ポンプ及び前記減圧弁を制御する制御装置(50)と、を有し、
前記制御装置は、前記減圧弁の開弁の要否を判定する開弁要否判定部(71)を有し、前記開弁要否判定部により開弁要と判定したことを条件に、前記減圧弁を開弁して前記高圧系燃圧を前記高圧系の外部に逃がす開弁制御(V)を実行する、燃圧制御システムにおいて、
前記制御装置は、前記開弁制御における前記高圧系燃圧の逃がし先(20)としての又は逃がす経路(39)としての対象部に、所定の対象部閾圧(PLx)を超える圧力が加わらないように、前記減圧弁の開弁度を制限しつつ当該減圧弁を開弁する開弁制限制御(Vr)を、前記開弁制御において実行する制限実行部(73,75)を有し、
前記開弁制限制御では、前記高圧系燃圧が所定の高圧系閾圧(PHx)を超えず、且つ前記対象部に前記対象部閾圧を超える圧力が加わらないように前記減圧弁を開弁する両立開弁を実行し、
前記制御装置は、所定の高圧系目標燃圧(PHt)を算出する目標燃圧算出部(62)を有し、算出した前記高圧系目標燃圧に前記高圧系燃圧を近づけるように制御するものであり、
前記制御装置は、仮に前記高圧系燃圧に所定の異常上昇が発生すると、前記開弁制限制御において前記両立開弁を実行することが不可能になり得る状態としての要警戒状態であるか否かを判定する状態判定部(61)を有し、前記状態判定部により前記要警戒状態であると判定したことを条件に、所定の燃圧制限制御を開始して、当該燃圧制限制御を行わない場合に比べて前記高圧系目標燃圧を低く設定することにより、たとえ前記所定の異常上昇が発生しても前記両立開弁を実行できるようにする、燃圧制御システム。
【請求項9】
前記所定の異常上昇は、前記昇圧ポンプの吐出流量が当該昇圧ポンプにより吐出可能な吐出流量の最大値になるフル吐出異常による燃圧上昇を含む、請求項
7又は8に記載の燃圧制御システム。
【請求項10】
前記制御装置は、前記開弁要否判定部により前記開弁要と判定した場合に、目標開弁度(Ot)を算出する開弁度算出部(73)を有し、算出した前記目標開弁度に前記減圧弁の開弁度を近づけるように制御するものであり、
前記制限実行部による前記開弁制限制御では、開弁当初は前記目標開弁度を所定値よりも小さい値に設定し、その後に前記目標開弁度を前記所定値まで徐々に上昇させることにより、前記目標開弁度を前記開弁当初に前記所定値に設定する場合に比べて、前記開弁により前記対象部に加わる圧力を軽減する、請求項1~
9のいずれか1項に記載の燃圧制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのインジェクタに燃料を供給する燃料供給系に適用される燃圧制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃圧制御システムの中には、燃料供給系の一部としての高圧系の燃圧を上昇させる昇圧ポンプと、高圧系の燃圧を減少させるための減圧弁と、それら昇圧ポンプ及び減圧弁を制御する制御装置と、を有するものがある。そして、このような技術を示す文献としては、次の特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような燃圧制御システムにおいて、例えば、高圧系の燃圧が高い状態の時に減圧弁を一気に開弁して高圧系の燃圧を外部に逃がすと、逃がした燃料による水撃や、逃がした燃料が蒸発することにより、逃がし先としての又は逃がす経路としての対象部に、一時的に高い圧力が加わるおそれがある。そのため、対象部に対する耐圧要求が大きくなってしまう。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高圧系の燃圧の逃がし先としての又は逃がす経路としての対象部の耐圧要求を抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の燃圧制御システムは、エンジンのインジェクタに燃料を供給する燃料供給系に適用される。前記燃圧制御システムは、前記燃料供給系の一部としての高圧系に燃料を吐出することにより、当該高圧系の燃圧としての高圧系燃圧を上昇させる昇圧ポンプと、前記高圧系燃圧を減少させるための減圧弁と、前記昇圧ポンプ及び前記減圧弁を制御する制御装置と、を有する。
【0007】
前記制御装置は、前記減圧弁の開弁の要否を判定する開弁要否判定部を有する。そして、前記開弁要否判定部により開弁要と判定したことを条件に、前記減圧弁を開弁して前記高圧系燃圧を前記高圧系の外部に逃がす開弁制御を実行する。
【0008】
前記制御装置は、前記開弁制御における前記高圧系燃圧の逃がし先としての又は逃がす経路としての対象部に、所定の対象部閾圧を超える圧力が加わらないように、前記減圧弁の開弁度を制限しつつ当該減圧弁を開弁する開弁制限制御を、前記開弁制御において実行する制限実行部を有する。
【0009】
本発明によれば、開弁制限制御を実行して減圧弁の開弁度を制限することにより、対象部に対象部閾圧を超える圧力が加わらないようにする。そのため、対象部の耐圧要求を当該対象部閾圧にまで抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態の燃圧制御システム及びその周辺を示す概略図
【
図2】制御装置による開弁制御等を示すフローチャート
【
図3】所定状況での開弁制限制御における各値の推移を示すグラフ
【
図4】
図3とは別の状況での開弁制限制御における各値の推移を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施できる。
【0012】
[第1実施形態]
まずは、本実施形態の要点について説明する。
図1に示すように、燃圧制御システム91は、エンジン90のインジェクタ35に燃料を供給する燃料供給系90fに対して適用されるシステムであって、昇圧ポンプ29と減圧弁38と制御装置50とを有する。
【0013】
昇圧ポンプ29は、燃料供給系90fの一部としての高圧系30に燃料を吐出することにより、当該高圧系30の燃圧を上昇させる。以下では、その高圧系30の燃圧を「高圧系燃圧PH」という。他方、減圧弁38は、高圧系燃圧PHを所定の第2低圧系20に逃がして高圧系燃圧PHを減少させるための弁である。以下では、その逃がし先の第2低圧系20の燃圧を「第2低圧系燃圧PL」という。
【0014】
制御装置50は、昇圧ポンプ29及び減圧弁38を制御する。具体的には、制御装置50は、所定の高圧系目標燃圧PHtを算出する目標燃圧算出部62を有し、高圧系目標燃圧PHtに高圧系燃圧PHを近づけるように制御する。また、制御装置50は、減圧弁38の開弁の要否を判定する開弁要否判定部71を有し、開弁要否判定部71により開弁要と判定したことを条件に、減圧弁38を開弁する開弁制御Vを実行する。その開弁制御Vでは、制御装置50が、所定の開弁度算出部73により目標開弁度Otを算出すると共に、その算出した目標開弁度Otに減圧弁38の開弁度を近づけるように制御する。
【0015】
また、制御装置50は、その開弁制御Vを実行する前に、所定の要保護状態であるか否かを判定する保護要否判定部72を有する。その要保護状態は、例えば
図3(c)に破線で示す比較例の状態、すなわち、開弁制御Vにおいて所定の開弁制限制御Vrを実行しないと、当該開弁制御Vにより逃がした燃料による水撃により第2低圧系20に所定の第2低圧系閾圧PLxを超える圧力が加わるおそれがある状態である。
【0016】
図1に示す制御装置50は、開弁要否判定部71により開弁要と判定し、且つ保護要否判定部72により要保護状態ではないと判定した場合には、開弁制御Vにおいて、開弁制限制御Vrを実行しない通常開弁制御Vnを実行する。他方、開弁要否判定部71により開弁要と判定し、且つ保護要否判定部72により要保護状態であると判定した場合には、開弁制御Vにおいて開弁制限制御Vrを実行することにより、当該開弁制限制御Vrを実行しない場合に比べて減圧弁38の開弁度を制限する。
【0017】
具体的には、開弁制限制御Vrでは、例えば
図3(a)に太線の実線で示すように、開弁当初は目標開弁度Otを所定値(例えば100%)よりも小さい値(例えば20%)に設定し、その後に目標開弁度Otを上記の所定値(例えば100%)まで徐々に上昇させる。それにより、
図3(a)に太線の破線で示す比較例の場合、すなわち、目標開弁度Otを開弁当初から上記の所定値(例えば100%)に設定する場合に比べて、
図3(c)に示すように、開弁により第2低圧系20に加わる圧力を軽減して、第2低圧系燃圧PLが第2低圧系閾圧PLxを超えないようにする。
【0018】
より具体的には、開弁制限制御Vrでは、開弁度算出部73により、例えば
図4(a)に示すように、所定の希望開弁度Ot1と所定の許容開弁度Ot2との両開弁度Ot1,Ot2を算出する。希望開弁度Ot1は、第2低圧系20の保護を考えなかった場合における最適の開弁度である。許容開弁度Ot2は、第2低圧系20に第2低圧系閾圧PLxを超える圧力が加わるおそれがない範囲内における上限以下の減圧弁38の開弁度であり、具体的には、当該上限よりも所定のマージンだけ小さい開弁度である。
【0019】
そして、開弁制限制御Vrでは、両開弁度Ot1,Ot2のうちの小さい方を常に、目標開弁度Otとして採用する。なお、両開弁度Ot1,Ot2が同じ値の場合には、どちらを目標開弁度Otとして採用してもよい。以上により、
図4(a)に太線の破線で示す比較例の場合、すなわち、希望開弁度Ot1を常に目標開弁度Otとして採用する場合、に比べて、本実施形態では、
図4(a)に太線の実線で示すように、開弁当初からしばらくの間、減圧弁38の目標開弁度Otを制限する。
【0020】
以下では、
図3(b)に実線で示すように、高圧系燃圧PHが高圧系閾圧PHxを超えず、且つ
図3(c)に実線で示すように、第2低圧系燃圧PLが第2低圧系閾圧PLxを超えないように行う減圧弁38の開弁を、「両立開弁」という。
図1に示す制御装置50は、仮に高圧系燃圧PHに所定の異常上昇が発生すると、開弁制限制御Vrにおいて上記の両立開弁を実行することが不可能になり得る状態としての要警戒状態であるか否かを判定する状態判定部61を有する。その異常上昇は、例えば、昇圧ポンプ29の吐出流量が当該昇圧ポンプ29により吐出可能な吐出流量の最大値になるフル吐出異常による燃圧上昇を含む。
【0021】
制御装置50は、状態判定部61により要警戒状態であると判定したことを条件に、目標燃圧算出部62により所定の燃圧制限制御を開始して、当該燃圧制限制御を実行しない場合に比べて高圧系目標燃圧PHtを低く設定する。それにより、たとえ高圧系燃圧PHに上記の異常上昇が発生しても上記の両立開弁を実行できるようにする。そして、実際に両立開弁を実行する。
【0022】
次に、以上に示した本実施形態の要旨を補足する形で、本実施形態の詳細について説明する。
【0023】
図1は、本実施形態の燃圧制御システム91及びその周辺を示す概略図である。燃料供給系90fは、第1低圧系10と上記の第2低圧系20と上記の高圧系30とを有する。そして、第1低圧系10と第2低圧系20との間には、第1低圧系10の燃料を第2低圧系20に供給するためのフィードポンプ19が設置され、第2低圧系20と高圧系30との間には、第2低圧系20の燃料を昇圧して高圧系30に供給するための上記の昇圧ポンプ29が設置されている。
【0024】
第1低圧系10は、燃料を蓄える燃料タンク11と、その燃料タンク11の燃料をフィードポンプ19に吸い上げるための第1配管12とを有する。第2低圧系20は、フィードポンプ19と昇圧ポンプ29とを互いに接続している第2配管22を有する。
【0025】
高圧系30は、第3配管32と蓄圧室33と第4配管34とインジェクタ35とを有する。第3配管32は、昇圧ポンプ29と蓄圧室33とを互いに接続している。第4配管34は、蓄圧室33とインジェクタ35とを互いに接続している。そして、高圧系30に対しては、高圧系燃圧PHを減少させるための減圧機構37が設けられている。
【0026】
減圧機構37は、蓄圧室33と第2配管22とを互いに接続するリターン配管39と、そのリターン配管39を開閉する上記の減圧弁38とを有する。その減圧弁38は、例えば蓄圧室33におけるリターン配管39との接続部分や、リターン配管39等に設けられている。減圧弁38は、例えばソレノイド弁であってもよいし、バタフライ弁であってもよい。
【0027】
減圧弁38は、ソレノイド弁である場合、通電されると電磁ソレノイド(図示略)により弁体(図示略)を引き寄せることにより開弁し、通電が停止されると当該引き寄せを解除することにより閉弁する。また、減圧弁38は、バタフライ弁である場合、リターン配管39内等に設けられたディスク(図示略)が回動調節されることにより、開弁量が調節される。
【0028】
そして、エンジン90に対しては、第2低圧系燃圧PLを検出するための燃圧センサ42や、高圧系燃圧PHを検出するための燃圧センサ43や、その他の各種センサ40が設置されている。それらの各種センサ40としては、例えば、クランク角センサ、流量センサ(エアフローメータ)、各種圧力センサ、各種温度センサ、空燃比センサ、アクセル開度センサ等が挙げられる。
【0029】
より具体的には、各種圧力センサとしては、吸気圧を検出する吸気圧センサ、排気圧を検出する排気圧センサ、燃焼室内の圧力を検出する内圧センサ等が挙げられる。また、各種温度センサとしては、冷却水の温度を検出する水温センサ、燃料の温度を検出する燃温センサ、潤滑油の温度を検出する油温センサ、吸気される気体の温度を検出する吸気温センサ、排気される気体の温度を検出する排気温センサ、外気の温度を検出する外気温センサ等が挙げられる。
【0030】
制御装置50は、これら各センサ40,42,43から入力される情報に基づいて、インジェクタ35、昇圧ポンプ29、減圧弁38等を制御する。
【0031】
制御装置50は、インジェクタ35を制御するための部位として、吸気量算出部51と目標空燃比算出部52と噴射量算出部53と噴射制御部55とを有する。吸気量算出部51は、吸気圧やエンジン90の回転速度等に基づいて、吸気量を算出する。その算出された吸気量やアクセル開度やエンジン90の回転速度等に基づいて、目標空燃比算出部52が目標空燃比を算出する。それら算出された吸気量や目標空燃比等に基づいて、噴射量算出部53が一燃焼サイクルあたりの噴射量の目標値である目標噴射量を算出する。その算出された目標噴射量等に基づいて、噴射制御部55がインジェクタ35による燃料噴射を制御する。
【0032】
制御装置50は、昇圧ポンプ29を制御するための部位として、上記の状態判定部61と上記の目標燃圧算出部62と吐出量算出部64とポンプ制御部65とを有する。
【0033】
目標燃圧算出部62は、吸気量やエンジン90の回転速度やアクセル開度等に基づいて、高圧系目標燃圧PHtを算出する。ただし、状態判定部61が要警戒状態であると判定した場合には、上記の燃圧制限制御として、目標燃圧算出部62は高圧系目標燃圧PHtを下方修正する。それら状態判定部61による要警戒状態であるか否かの判定や目標燃圧算出部62による下方修正の詳細については後述する。
【0034】
以上のようにして目標燃圧算出部62により設定された高圧系目標燃圧PHtや、現在の高圧系燃圧PHや、エンジン90の回転速度等に基づいて、吐出量算出部64が、昇圧ポンプ29による一燃焼サイクルあたりの吐出量の目標値である目標吐出量を算出する。その算出された目標吐出量に基づいて、ポンプ制御部65が昇圧ポンプ29を制御する。
【0035】
制御装置50は、減圧弁38を制御するための部位として、上記の開弁要否判定部71と上記の保護要否判定部72と開弁度算出部73と弁制御部75とを有する。開弁要否判定部71により開弁要と判定されたことを条件に、保護要否判定部72が、要保護状態であるか否かの判定を行う。それら開弁要否判定部71による開弁要否の判定や保護要否判定部72による要保護状態であるか否かの判定の詳細については後述する。
【0036】
開弁要否判定部71により開弁要と判定され、且つ保護要否判定部72により要保護状態ではないと判定された場合には、開弁度算出部73は、希望開弁度Ot1と許容開弁度Ot2との両開弁度Ot1,Ot2のうち、希望開弁度Ot1のみを算出する。そして、その希望開弁度Ot1を目標開弁度Otとして採用する。
【0037】
その希望開弁度Ot1は、例えば、高圧系燃圧PHや高圧系目標燃圧PHtやエンジン90の回転速度等の各パラメータに基づいて算出することができる。その希望開弁度Ot1の算出は、それらの各パラメータと希望開弁度Ot1との関係を示すマップを用いて行ってもよいし、当該関係を示す数式を用いて行ってもよい。
【0038】
他方、開弁要否判定部71により開弁要と判定され、且つ保護要否判定部72により要保護状態であると判定された場合には、前述の通り、開弁度算出部73は、希望開弁度Ot1と許容開弁度Ot2との両開弁度Ot1,Ot2を算出して、それらうちの小さい方を、目標開弁度Otとして採用する。その許容開弁度Ot2の算出の詳細については後述する。
【0039】
以下では、上記の希望開弁度Ot1及び許容開弁度Ot2並びに目標開弁度Otを、「目標開弁度等Ot1,Ot2,Ot」という。目標開弁度等Ot1,Ot2,Otは、それぞれ、目標開弁デューティであってもよいし、目標開弁量であってもよい。具体的には、例えば、減圧弁38がソレノイド弁等の開弁か閉弁かの2択で制御されるものである場合、開弁度算出部73は、目標開弁度等Ot1,Ot2,Otとして、単位時間内において減圧弁38を開弁すべき時間の割合としての目標開弁デューティを算出する。また例えば、減圧弁38がバタフライ弁等の開弁量を調節可能なものである場合、開弁度算出部73は、目標開弁度等Ot1,Ot2,Otとして、減圧弁38を開くべき量としての目標開弁量を算出する。
【0040】
そして、開弁度算出部73により算出された目標開弁度Otに基づいて、弁制御部75が減圧弁38を制御する。以上の通り、通常開弁制御Vnや開弁制限制御Vrを含む開弁制御Vは、開弁度算出部73及び弁制御部75により実行される。よって、本発明でいう「制限実行部」は、開弁度算出部73及び弁制御部75により構成されている。
【0041】
次に、開弁要否判定部71による開弁要否の判定の詳細について説明する。開弁要否判定部71は、例えば、次に示す開弁圧超過状態や減圧モードや実圧乖離状態の場合には、開弁要と判定する。
【0042】
開弁圧超過状態は、高圧系燃圧PHが上記の高圧系閾圧PHx未満の所定の開弁圧PHoを超えた状態である。その開弁圧PHoは、高圧系燃圧PHが上昇し過ぎたため、すなわち高圧系燃圧PHが高圧系閾圧PHxに近づき過ぎたため、減圧弁38を開弁する必要があると認められる圧力である。具体的には、例えば、高圧系閾圧PHxよりも数%~十数%程度低い圧力(若干低い圧力)である。
【0043】
この開弁圧PHoは、例えば、定数であってもよいし、エンジン90の回転速度や燃料の温度等により変化する変数であってもよい。具体的には、変数とする場合、例えば、エンジン90の回転速度が大きいほど、開弁圧PHoをより小さく設定するとよい。エンジン90の回転速度が大きいほど、昇圧ポンプ29の増加可能吐出流量が大きくなり、仮にフル吐出異常等が発生した場合には、高圧系燃圧PHが開弁圧PHoを超えてから高圧系閾圧PHxを超えるまでの猶予が短くなるからである。その増加可能吐出流量は、昇圧ポンプ29による現在の吐出流量と、昇圧ポンプ29に上記のフル吐出異常が発生した場合における昇圧ポンプ29の吐出流量との差である。
【0044】
また例えば、燃料の温度が低いほど、開弁圧PHoをより小さく設定するとよい。燃料の温度が低いほど、燃料の体積弾性率が高くなり吐出の際の水撃が大きくなることにより、仮にフル吐出異常等が発生した場合には、高圧系燃圧PHが開弁圧PHoを超えてから高圧系閾圧PHxを超えるまでの猶予が短くなるからである。
【0045】
減圧モードは、この燃圧制御システム91が搭載されている車両が駐車される直前の状態等の、高圧系燃圧PHを下げる必要がある状態である。
【0046】
実圧乖離状態は、高圧系燃圧PHが、高圧系目標燃圧PHtよりもかなり高く、インジェクタ35による燃料噴射のみでは、なかなか高圧系燃圧PHが高圧系目標燃圧PHtにまで下がらないと想定される状態である。具体的には、例えば、高圧系燃圧PHと高圧系目標燃圧PHtとの差である乖離圧ΔPが、所定の乖離閾圧ΔPoを超えたことを条件に、実圧乖離状態であると判定される。その乖離閾圧ΔPoは、定数であってもよいし、エンジン90の回転速度や吸気量やエンジン負荷や各種温度や燃料性状等により変化する変数であってもよい。具体的には、変数とする場合、例えば、乖離圧ΔPが必然的に大きくなり易い環境下や、たとえ大きくなっても高圧系燃圧PHが高圧系目標燃圧PHtに戻り易い状況下では、乖離閾圧ΔPoを相対的に大きく設定し、そうでない状況下では、乖離閾圧ΔPoを相対的に小さく設定するとよい。
【0047】
次に保護要否判定部72による要保護状態であるか否かの判定及び開弁度算出部73による許容開弁度Ot2の算出の詳細について説明する。これら要保護状態であるか否かの判定や、許容開弁度Ot2の算出は、例えば、高圧系燃圧PHと第2低圧系燃圧PLとの差である系間燃圧差(PH-PL)や、第2低圧系燃圧PLと第2低圧系閾圧PLxとの差である第2低圧系燃圧マージン(PLx-PL)や、燃料の温度等の各パラメータに基づいて行うことができる。
【0048】
具体的には、例えば、系間燃圧差(PH-PL)が大きいほど、要保護状態であると判定し易くしたり、許容開弁度Ot2をより小さく設定したりするとよい。系間燃圧差(PH-PL)が大きいほど、減圧弁38を開弁した際に第2低圧系燃圧PLがより上昇し易くなるからである。
【0049】
また例えば、第2低圧系燃圧マージン(PLx-PL)が小さいほど、要保護状態であると判定し易くしたり、許容開弁度Ot2をより小さく設定したりするとよい。第2低圧系燃圧マージン(PLx-PL)が小さいほど、減圧弁38を開弁した際に第2低圧系燃圧PLがより第2低圧系閾圧PLxを超え易くなるからである。
【0050】
また例えば、燃料の温度が低いほど、要保護状態であると判定し易くしたり、許容開弁度Ot2を小さく設定したりするとよい。燃料の温度が低いほど、燃料の体積弾性率が高くなり、減圧弁38の開弁直後の水撃による第2低圧系20の瞬間的な燃圧上昇が大きくなり易くなるからである。
【0051】
なお、希望開弁度Ot1の算出は、上記の各パラメータと希望開弁度Ot1との関係を示すマップを用いて行ってもよいし、当該関係を示す数式を用いて行ってもよい。
【0052】
次に、状態判定部61による要警戒状態であるか否かの判定、及び目標燃圧算出部62による高圧系目標燃圧PHtの下方修正の詳細について説明する。これら要警戒状態であるか否かの判定や、高圧系目標燃圧PHtの下方修正は、例えば、上記の昇圧ポンプ29の増加可能吐出流量や、高圧系燃圧PHと高圧系閾圧PHxとの差である高圧系燃圧マージン(PHx-PH)や、上記の低圧系燃圧マージン(PLx-PL)等の各パラメータに基づいて行うことができる。
【0053】
具体的には、例えば、昇圧ポンプ29の増加可能吐出流量が大きいほど、より要警戒状態であると判定し易くしたり、高圧系目標燃圧PHtをより小さい目標燃圧に下方修正したりするようにするとよい。この増加可能吐出流量が大きいほど、フル吐出異常等が発生した際に高圧系燃圧PHがより上昇し易くなるからである。
【0054】
また例えば、高圧系燃圧マージン(PHx-PH)が小さいほど、より要警戒状態であると判定し易くしたり、高圧系目標燃圧PHtをより小さい目標燃圧に下方修正したりするようにするとよい。この高圧系燃圧マージン(PHx-PH)が小さいほど、高圧系燃圧PHがより高圧系閾圧PHxを超え易くなるからである。
【0055】
また例えば、第2低圧系燃圧マージン(PLx-PL)が小さいほど、より要警戒状態であると判定し易くしたり、高圧系目標燃圧PHtをより小さい目標燃圧に下方修正したりするようにするとよい。この第2低圧系燃圧マージン(PLx-PL)が小さいほど、減圧弁38を開弁した際に第2低圧系燃圧PLがより第2低圧系閾圧PLxを超え易くなるからである。
【0056】
なお、高圧系目標燃圧PHtの下方修正は、以上に示した各パラメータの大きさと修正量との関係を示すマップを用いて行ってもよいし、当該関係を示す数式を用いて行ってもよい。
【0057】
図2は、制御装置50による開弁制御V等を示すフローチャートである。このフローは、例えば所定時間間隔毎に繰り返し行われる。このフローでは、まず、燃圧制御システム91が正常であるか否かを判定する(S101)。具体的には、減圧弁38に開固着故障や閉固着故障が認められる場合や、第2低圧系20の燃圧センサ42や高圧系30の燃圧センサ43に故障が認められる場合や、フィードポンプ19に故障が認められる場合等には、制御装置50は、燃圧制御システム91に故障がある(S101:NO)と判定する。
【0058】
そのS101において故障があると判定した場合(S101:NO)、そのまま所定のフェイルセイフ制御を実行して(S134)、フローを終了する。他方、S101で正常であると判定した場合、状態判定部61が、要警戒状態であるか否かを判定する(S102)。要警戒状態ではないと判定した場合(S102:NO)、そのままS111に進む。他方、S102で要警戒状態であると判定した場合(S102:YES)、高圧系目標燃圧PHtを下方修正してから(S103)、S111に進む。
【0059】
そして、S111に進んだ場合、S111~S113において、開弁要否判定部71が開弁の要否を判定する。具体的には、まず、上記の開弁圧超過状態であるか否かを判定する(S111)。開弁圧超過状態であると判定した場合(S111:YES)、S121に進む。他方、S111で開弁圧超過状態では無いと判定した場合、上記の減圧モードであるか否かを判定する(S112)。S112で、減圧モードであると判定した場合(S112:YES)、S121に進む。他方、S112で減圧モードではないと判定した場合(S112:NO)、上記の実圧乖離状態であるか否かを判定する(S113)。実圧乖離状態であると判定した場合(S113:YES)、S121に進む。他方、S113で実圧乖離状態ではないと判定した場合(S113:NO)、開弁要否判定部71は、開弁不要と判定して(S133)、そのままフローを終了する。
【0060】
他方、S121に進んだ場合、開弁度算出部73が、まず希望開弁度Ot1を算出する(S121)。次に、保護要否判定部72が要保護状態であるか否かを判定する(S122)。要保護状態ではないと判定した場合(S122:NO)、そのまま、希望開弁度Ot1を目標開弁度Otとする通常開弁制御Vnを実行して(S131)、フローを終了する。他方、S122で要保護状態であると判定した場合(S122:YES)、開弁度算出部73はさらに許容開弁度Ot2を算出する(S123)。そして、希望開弁度Ot1及び許容開弁度Ot2のうちの小さい方を目標開弁度Otとして採用する開弁制限制御Vrを実行して(S132)、フローを終了する。
【0061】
図3は、開弁圧超過状態により開弁制限制御Vrが実行された場合における各値の推移を示すグラフである。具体的には、ここでは、昇圧ポンプ29にフル吐出異常が発生することにより、
図3(b)に示すように高圧系燃圧PHが開弁圧PHoを超えて開弁圧超過状態になり開弁要と判定されると共に、要保護状態と判定され、開弁制限制御Vrが実行されたものとする。
【0062】
なお、ここでは、希望開弁度Ot1と許容開弁度Ot2とが同じ値である場合、希望開弁度Ot1が目標開弁度Otとして採用されるものとする。
図3(a)~(c)に示す破線は、開弁制御Vにおいて仮に開弁制限制御Vrが行われずに通常開弁制御Vnが行われた場合、すなわち、希望開弁度Ot1が常に目標開弁度Otとして採用された場合の比較例を示している。
【0063】
希望開弁度Ot1は、前述の通り、第2低圧系20の保護を考えなかった場合における最適の開弁度である。そのため、希望開弁度Ot1は、開弁直後に一気に所定値(例えば100%)まで上がる。高圧系燃圧PHは、開弁圧超過状態になった場合、速やかに低下させることが好ましいからである。そして、当該一気に大きくなった後は、昇圧ポンプ29のフル吐出異常による燃圧上昇を抑え続けるために、当該一気に大きくなった状態の希望開弁度Ot1を維持する。ただし、当該開弁制御Vにより高圧系燃圧PHを高圧系目標燃圧PHtにまで減少させることができた場合等には、希望開弁度Ot1は適宜減少する。
【0064】
他方、許容開弁度Ot2は、前述の通り、第2低圧系20に第2低圧系閾圧PLxを超える圧力が加わるおそれがない範囲内における上限以下の減圧弁38の開弁度である。そのため、許容開弁度Ot2は、開弁直後は小さい値(例えば20%)からスタートして徐々に所定値(例えば100%)まで単調増加で大きくなる。一気に開弁度を大きくした場合、高圧系30から第2低圧系20に燃料が一気に流入し始めることによる水撃により、第2低圧系燃圧PLが瞬間的に大きくなるおそれがあるからである。
【0065】
以上より、
図3(a)のように、開弁直後は、希望開弁度Ot1よりも許容開弁度Ot2の方が低い。その間は、許容開弁度Ot2が目標開弁度Otとして採用される。その後、許容開弁度Ot2が希望開弁度Ot1に達すると、希望開弁度Ot1が目標開弁度Otとして採用される。
【0066】
以上により、
図3(b)に実線で示すように、高圧系燃圧PHが、
図3(b)に破線で示す比較例に比べて、ゆっくりと増加から減少に転じて、当該減少が遅くなってしまう。しかしその反面、
図3(c)に実線で示すように、開弁直後における第2低圧系燃圧PLの一時的な増加(水撃)が、
図3(c)に破線で示す比較例に比べて、抑えられるといった利点が得られる。それにより、第2低圧系燃圧PLが第2低圧系閾圧PLxを超えるのが防止される。
【0067】
そして、前述のとおり、開弁制御Vを行う前において要警戒状態と判定された場合には、高圧系目標燃圧PHtが予め下方修正される。そのため、
図3(b)に示すように、高圧系燃圧PHについても高圧系閾圧PHxを超えないように調整される。
【0068】
図4は、実圧乖離状態により開弁制限制御Vrが実行された場合における各値の推移を示すグラフである。具体的には、ここでは、
図4(b)に示すように、高圧系目標燃圧PHtが急激に減少することにより、高圧系燃圧PHと高圧系目標燃圧PHtとの差である乖離圧ΔPが乖離閾圧ΔPoを超えて実圧乖離状態になり開弁要と判定されると共に、要保護状態と判定され、開弁制限制御Vrが実行されたものとする。
【0069】
図4(a)~(c)に示す破線は、開弁制御Vにおいて仮に開弁制限制御Vrが行われずに通常開弁制御Vnが行われた場合、すなわち、希望開弁度Ot1が常に目標開弁度Otとして採用された場合の比較例を示している。
【0070】
ここでも、希望開弁度Ot1は、開弁直後に一気に所定値(例えば60%)まで上がる。高圧系燃圧PHは、実圧乖離状態になった場合、速やかに高圧系目標燃圧PHtにまで減少させることが好ましいからである。そして、高圧系燃圧PHが高圧系目標燃圧PHtにまで減少した後は、希望開弁度Ot1は、ゼロになる。
【0071】
他方、許容開弁度Ot2は、ここでも、開弁直後は小さい値(例えば20%)からスタートして徐々に所定値(例えば100%)まで単調増加で大きくなる。一気に開弁度を大きくした場合、高圧系30から第2低圧系20に燃料が一気に流入し始めることによる水撃により、第2低圧系燃圧PLが瞬間的に大きくなるおそれがあるからである。
【0072】
そのため、ここでも、
図4(a)の場合のように、開弁直後は、希望開弁度Ot1よりも許容開弁度Ot2の方が低い。その間は、許容開弁度Ot2が目標開弁度Otとして採用される。その後、希望開弁度Ot1よりも許容開弁度Ot2の方が高くなると、希望開弁度Ot1が目標開弁度Otとして採用される。そして、本実施形態では、このように開弁直後は許容開弁度Ot2が目標開弁度Otとして採用されることにより、開弁直後から希望開弁度Ot1が目標開弁度Otとして採用される比較例に比べて、希望開弁度Ot1が減少してゼロになるタイミングが遅くなる。
【0073】
以上より、ここでも、
図4(b)に実線で示すように、高圧系燃圧PHが、
図4(b)に破線で示す比較例に比べて、ゆっくりと減少して、当該減少が遅くなってしまう。しかしその反面、
図4(c)に実線で示すように、開弁直後における第2低圧系燃圧PLの一時的な増加(水撃)が、
図4(c)に破線で示す比較例に比べて、抑えられるといった利点が得られる。それにより、第2低圧系燃圧PLが第2低圧系閾圧PLxを超えるのが防止される。
【0074】
なお、減圧モードにより開弁制限制御Vrが実行された場合における各値の推移を示すグラフ及びその説明については、省略するが、
図4の場合と比べて、乖離圧ΔPに関係なく意図的に開弁を開始するように変更して、当該
図4の場合と略同様である。
【0075】
本実施形態によれば、次の第1~第3及び第5~第9の効果が得られる。
【0076】
本実施形態では、開弁制限制御Vrを実行して減圧弁38の開弁度を制限することにより、例えば
図3(c)に示すように、第2低圧系20に第2低圧系閾圧PLxを超える圧力が加わらないようにする。そのため、第2低圧系20の耐圧要求を当該第2低圧系閾圧PLxにまで抑えることができる(第1の効果)。
【0077】
また、
図1に示す制御装置50は、保護要否判定部72により要保護状態ではないと判定した場合には、開弁制御Vにおいて、開弁制限制御Vrを実行しない通常開弁制御Vnを実行する。他方、保護要否判定部72により要保護状態であると判定した場合には、開弁制御Vにおいて開弁制限制御Vrを実行することにより、減圧弁38の開弁度を制限する。そのため、要保護状態の時にだけ、開弁制限制御Vrを実行して当該開弁度を制限することができ、不要な開弁制限を回避できる(第2の効果)。
【0078】
また、要保護状態は、開弁制御Vにおいて開弁制限制御Vrを実行しないと、開弁制御Vにより逃がした燃料による水撃により第2低圧系20に第2低圧系閾圧PLxを超える圧力が加わるおそれがある状態を含む。そのため、当該水撃により第2低圧系20に第2低圧系閾圧PLxを超える圧力が加わるのを防止できる(第3の効果)。
【0079】
また、開弁制限制御Vrでは、例えば
図3(a)に示すように、開弁当初は目標開弁度Otを所定値(例えば100%)よりも小さい値(例えば20%)に設定し、その後に目標開弁度Otを上記の所定値(例えば100%)まで徐々に上昇させる。それにより、目標開弁度Otを開弁当初に上記の所定値(例えば100%)に設定する比較例に比べて、例えば
図3(c)に示すように、開弁により第2低圧系20に加わる圧力を軽減することができる(第5の効果)。
【0080】
また、例えば
図4(a)に示すように、開弁制限制御Vrでは、希望開弁度Ot1と許容開弁度Ot2との両開弁度Ot1,Ot2を算出し、両開弁度Ot1,Ot2のうちの小さい方を、目標開弁度Otとして採用する。そのため、開弁制限制御Vrを実行する際にも、極力、希望開弁度Ot1を採用できる(第6の効果)。
【0081】
また、制御装置50は、開弁制限制御Vrにおいて、例えば
図3(b)に示すように、高圧系燃圧PHが所定の高圧系閾圧PHxを超えず、且つ例えば
図3(c)に示すように、第2低圧系20に第2低圧系閾圧PLxを超える圧力が加わらないように減圧弁38を開弁する両立開弁を実行する。そのため、高圧系30の保護と第2低圧系20の保護との両立を図ることができる(第7の効果)。
【0082】
また、
図1に示す状態判定部61は、仮に高圧系燃圧PHに所定の異常上昇が発生すると、開弁制限制御Vrにおいて上記の両立開弁を実行することが不可能になり得る状態としての要警戒状態であるか否かを判定する。そして、状態判定部61により要警戒状態であると判定されたことを条件に、目標燃圧算出部62は、高圧系目標燃圧PHtを下方修正する。それにより、たとえ高圧系燃圧PHに所定の異常上昇が発生しても上記の両立開弁を実行できるようにする。そのため、両立開弁を確実に実行できる(第8の効果)。
【0083】
また、上記の所定の異常上昇は、昇圧ポンプ29の吐出流量が、当該昇圧ポンプ29により吐出可能な吐出流量の最大値になる、フル吐出異常による燃圧上昇を含む。そのため、フル吐出異常が発生した場合にも、両立開弁を実行できる(第9の効果)。
【0084】
[他の実施形態]
以上の実施形態は、例えば次のように変更して実施することもできる。例えば、
図1等に示すように、各実施形態では、リターン配管39の基端(すなわち、戻し元側の端)は、蓄圧室33に接続されているが、これに代えて、リターン配管39の基端を第3配管32に接続してもよい。そして、そのリターン配管39における第3配管32との接続部分やリターン配管39に減圧弁38を設けてもよい。
【0085】
また例えば、各実施形態では、リターン配管39の先端(すなわち、戻し先側の端)は、第2低圧系20における第2配管22に接続されているが、第2低圧系20におけるその他の部位や、第1低圧系10に接続してもよい。具体的には、例えば、リターン配管39の先端は、昇圧ポンプ29やフィードポンプ19や第1配管12や燃料タンク11に接続してもよい。また例えば、蓄圧室33における第3配管32との接続部や第3配管32等に逆止弁が設けられている場合において、リターン配管39の先端を、第3配管32における逆止弁よりも昇圧ポンプ29側に接続してもよい。
【0086】
また例えば、第1実施形態では、要保護状態は、開弁制御Vにおいて開弁制限制御Vrを実行しないと、例えば
図3(c)に破線で示すように、第2低圧系20に第2低圧系閾圧PLxを超える圧力が加わるおそれがある状態である。これに代えて、要保護状態は、開弁制御Vにおいて開弁制限制御Vrを実行しないと、リターン配管39に所定のリターン配管閾圧を超える圧力が加わるおそれがある状態であってもよい。そして、開弁制限制御Vrは、リターン配管39にリターン配管閾圧を超える圧力が加わらないように、減圧弁38の開弁度を制限しつつ減圧弁38を開弁する制御であってもよい。
【0087】
また例えば、第1実施形態では、要保護状態は、開弁制御Vにおいて開弁制限制御Vrを実行しないと、例えば
図3(c)に破線で示すように、開弁制御Vにより逃がした燃料による水撃により第2低圧系20に第2低圧系閾圧PLxを超える圧力が加わるおそれがある状態である。これに代えて、要保護状態は、開弁制御Vにおいて開弁制限制御Vrを実行しないと、開弁制御Vにより逃がした燃料の蒸発による圧力上昇により、逃がし先や逃がす経路に所定の閾圧を超える圧力が加わるおそれがある状態であってもよい。この場合には、当該蒸発により逃がし先や逃がす経路に所定の閾圧を超える圧力が加わるのを、防止することができる(第4の効果)。
【符号の説明】
【0088】
20…第2低圧系、29…昇圧ポンプ、30…高圧系、35…インジェクタ、38…減圧弁、39…リターン配管、50…制御装置、71…開弁要否判定部、73…開弁度算出部、75…弁制御部、90…エンジン、90f…燃料供給系、91…燃圧制御システム、PH…高圧系燃圧、PLx…第2低圧系閾圧、V…開弁制御、Vr…開弁制限制御。