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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】位置推測装置および位置推測プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/26 20060101AFI20240220BHJP
【FI】
G01C21/26
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020188869
(22)【出願日】2020-11-12
(65)【公開番号】P2022077835
(43)【公開日】2022-05-24
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】樋口 裕也
【審査官】田中 将一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-268814(JP,A)
【文献】特開2018-160096(JP,A)
【文献】特開2008-009983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 21/00 - 21/36
G01C 23/00 - 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の制御に用いられる位置推測装置(10)であって、
前記移動体の状態量を収集する第1制御部(21)と、
前記第1制御部が収集した状態量を用いて前記移動体の位置を推測する第2制御部(22)と、を含み、
前記第1制御部は、
自身が起動後から前記第2制御部が起動するまでに収集した状態量の統計値を演算する演算部(33)と、
前記統計値を記憶する記憶部(31)と、を有し、
前記第1制御部は、前記第2制御部が起動後に前記統計値を前記第2制御部に与え、
前記第2制御部は、
起動時に前記統計値を用いて起動時学習を行い、
起動後にリセットが発生して、再び起動した再起動時には前記統計値を用いた起動時学習は行わない位置推測装置。
【請求項2】
移動体の制御に用いられる位置推測装置(10)であって、
前記移動体の状態量を収集する第1制御部(21)と、
前記第1制御部が収集した状態量を用いて前記移動体の位置を推測する第2制御部(22)と、を含み、
前記第1制御部は、
自身が起動後から前記第2制御部が起動するまでに収集した状態量の統計値を演算する演算部(33)と、
前記統計値を記憶する記憶部(31)と、を有し、
前記第1制御部は、前記第2制御部が起動後に前記統計値を前記第2制御部に与え、
前記第2制御部は、起動時に前記統計値を用いて起動時学習を行い、
前記第1制御部は、前記第2制御部が起動後にリセットが発生して、前記第2制御部が再び起動した再起動時には前記統計値を前記第2制御部に与えない、または前記統計値を無効値にする位置推測装置。
【請求項3】
移動体の制御に用いられる位置推測装置(10)であって、
前記移動体の状態量を収集する第1制御部(21)と、
前記第1制御部が収集した状態量を用いて前記移動体の位置を推測する第2制御部(22)と、を含み、
前記第1制御部は、
自身が起動後から前記第2制御部が起動するまでに収集した状態量の統計値を演算する演算部(33)と、
前記統計値を記憶する記憶部(31)と、を有し、
前記第1制御部は、前記第2制御部が起動後に前記統計値を前記第2制御部に与え、
前記第2制御部は、起動時に前記統計値を用いて起動時学習を行い、
前記第1制御部は、前記第2制御部が起動する前に前記移動体が移動した場合には、前記統計値を前記第2制御部に与えない、または前記統計値を無効値にする位置推測装置。
【請求項4】
前記第2制御部は、起動後にリセットが発生して、再び起動した再起動時には前記統計値を用いた起動時学習は行わない請求項またはに記載の位置推測装置。
【請求項5】
前記第1制御部は、前記第2制御部が起動後にリセットが発生して、前記第2制御部が再び起動した再起動時には前記統計値を前記第2制御部に与えない、または前記統計値を無効値にする請求項1または3に記載の位置推測装置。
【請求項6】
前記第1制御部は、前記第2制御部が起動する前に前記移動体が移動した場合には、前記統計値を前記第2制御部に与えない、または前記統計値を無効値にする請求項1または2に記載の位置推測装置。
【請求項7】
前記第1制御部は、前記第2制御部が最初に起動後に前記統計値を前記第2制御部に継続的に送信する請求項1~6のいずれか1つに記載の位置推測装置。
【請求項8】
前記第1制御部は、収集した状態量が適正な範囲内であるか否かを判断し、適正な範囲内である場合に、前記統計値を前記第2制御部に与える請求項1~のいずれか1つに記載の位置推測装置。
【請求項9】
移動体の制御に用いられ、前記移動体の状態量を収集する第1制御部(21)と、前記第1制御部が収集した状態量を用いて前記移動体の位置を推測する第2制御部(22)と、を含む位置推測装置(10)を制御する位置推測プログラムであって、
前記第1制御部が起動後から前記第2制御部が起動するまでに収集した状態量の統計値を演算する演算処理(S16)と、
前記第2制御部が起動後に前記第2制御部が起動時学習を行うために、前記第2制御部が起動後に前記統計値を前記第2制御部に与える送信処理(S15)と、を有し、
前記送信処理では、前記第2制御部が起動後にリセットが発生して前記第2制御部が再び起動した再起動時には、前記統計値を前記第2制御部に与えない、または前記統計値を無効値にする位置推測プログラム。
【請求項10】
移動体の制御に用いられ、前記移動体の状態量を収集する第1制御部(21)と、前記第1制御部が収集した状態量を用いて前記移動体の位置を推測する第2制御部(22)と、を含む位置推測装置(10)を制御する位置推測プログラムであって、
前記第1制御部が起動後から前記第2制御部が起動するまでに収集した状態量の統計値を演算する演算処理(S16)と、
前記第2制御部が起動後に前記第2制御部が起動時学習を行うために、前記第2制御部が起動後に前記統計値を前記第2制御部に与える送信処理(S15)と、を有し、
前記送信処理では、前記第2制御部が起動する前に前記移動体が移動した場合には、前記統計値を前記第2制御部に与えない、または前記統計値を無効値にする位置推測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、推測航法を実施する位置推測装置および位置推測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電子制御装置の起動を高速化する技術が開示されている。具体的には、メインマイコンとサブマイコンの起動時に、サブマイコンがEEPROMから補正値を読み出し、DMAコントローラを介してメインマイコンに補正値を送信する。この時に補正値を格納する領域とチェックコードを格納する領域のみを設けた初期化用バッファを使用することで、DMA通信に要する時間を短縮し、メインマイコンの起動を高速化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-9983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、メインマイコンの起動時に必要なデータを選別して、データ量を低減している。しかし特許文献1の電子制御装置では、起動時に必要なデータ量は固定量であり、メインマイコンおよびサブマイコンの起動タイミングに応じて増減するものではない。
【0005】
たとえば車両における推測航法を実施するメインマイコンおよびサブマイコンでは、推測航法の精度向上のためセンサデータの時間連続性を重要視している。したがって推測航法では、車両のイグニッションがONになってからのセンサデータが必要である。たとえばサブマイコンが推測航法の処理を実施する場合であって、メインマイコンが起動後にサブマイコンが起動する構成の場合、サブマイコンが起動するまでのセンサデータをメインマイコン側で収集する必要がある。
【0006】
このような場合、サブマイコンが起動時にマイコン間通信するデータ量が可変になってしまう。このため、特許文献1のように単に起動に必要なデータを抽出するだけでは、サブマイコンの起動直後、大量のセンサデータがサブマイコンに届くため、起動の高速化を図ることができないという問題がある。
【0007】
そこで、開示される目的は前述の問題点を鑑みてなされたものであり、移動体の位置の推測処理をする制御部の起動を高速化することができる位置推測装置および位置推測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は前述の目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。
【0009】
ここに開示された位置推測装置は、移動体の制御に用いられる位置推測装置(10)であって、移動体の状態量を収集する第1制御部(21)と、第1制御部が収集した状態量を用いて移動体の位置を推測する第2制御部(22)と、を含み、第1制御部は、自身が起動後から第2制御部が起動するまでに収集した状態量の統計値を演算する演算部(33)と、統計値を記憶する記憶部(31)と、を有し、第1制御部は、第2制御部が起動後に統計値を第2制御部に与え、第2制御部は、起動時に統計値を用いて起動時学習を行い、起動後にリセットが発生して、再び起動した再起動時には統計値を用いた起動時学習は行わない位置推測装置である。
また開示された位置推測装置は、移動体の制御に用いられる位置推測装置(10)であって、移動体の状態量を収集する第1制御部(21)と、第1制御部が収集した状態量を用いて移動体の位置を推測する第2制御部(22)と、を含み、第1制御部は、自身が起動後から第2制御部が起動するまでに収集した状態量の統計値を演算する演算部(33)と、統計値を記憶する記憶部(31)と、を有し、第1制御部は、第2制御部が起動後に統計値を第2制御部に与え、第2制御部は、起動時に統計値を用いて起動時学習を行い、第1制御部は、第2制御部が起動後にリセットが発生して、第2制御部が再び起動した再起動時には統計値を第2制御部に与えない、または統計値を無効値にする位置推測装置である。
さらに開示された位置推測装置は、移動体の制御に用いられる位置推測装置(10)であって、移動体の状態量を収集する第1制御部(21)と、第1制御部が収集した状態量を用いて移動体の位置を推測する第2制御部(22)と、を含み、第1制御部は、自身が起動後から第2制御部が起動するまでに収集した状態量の統計値を演算する演算部(33)と、統計値を記憶する記憶部(31)と、を有し、第1制御部は、第2制御部が起動後に統計値を第2制御部に与え、第2制御部は、起動時に統計値を用いて起動時学習を行い、第1制御部は、第2制御部が起動する前に移動体が移動した場合には、統計値を第2制御部に与えない、または統計値を無効値にする位置推測装置である。
【0010】
このような位置推測装置に従えば、第1制御部と第2制御部とを有し、第1制御部が起動後に第2制御部が起動する。第2制御部は移動体の位置を推測する処理をするので、第1制御部が起動後に第2制御部が起動するまでの間の移動体の状態量は、第1制御部によって処理される。具体的には、第1制御部の演算部は、移動体の状態量の統計値を演算する。統計値を演算することで、状態量を単に記憶するよりも、記憶部に記憶するデータ量を低減することができる。また統計値を演算することで、データ量を抑制しつつ、状態量の時間連続性が損なわれることを抑制することができる。したがって第2制御部が起動後に第2制御部に与えられるデータ量を低減でき、移動体の位置の推測に必要なデータの読み込み時間を短くすることができる。したがって第2制御部の起動を高速化することができる。
【0011】
また開示された位置推測プログラムは、移動体の制御に用いられ、移動体の状態量を収集する第1制御部(21)と、第1制御部が収集した状態量を用いて移動体の位置を推測する第2制御部(22)と、を含む位置推測装置(10)を制御する位置推測プログラムであって、第1制御部が起動後から第2制御部が起動するまでに収集した状態量の統計値を演算する演算処理(S16)と、第2制御部が起動後に第2制御部が起動時学習を行うために、第2制御部が起動後に統計値を第2制御部に与える送信処理(S15)と、を有し、送信処理では、第2制御部が起動後にリセットが発生して第2制御部が再び起動した再起動時には、統計値を第2制御部に与えない、または統計値を無効値にする位置推測プログラムである。
さらに開示された位置推測プログラムは、移動体の制御に用いられ、移動体の状態量を収集する第1制御部(21)と、第1制御部が収集した状態量を用いて移動体の位置を推測する第2制御部(22)と、を含む位置推測装置(10)を制御する位置推測プログラムであって、第1制御部が起動後から第2制御部が起動するまでに収集した状態量の統計値を演算する演算処理(S16)と、第2制御部が起動後に第2制御部が起動時学習を行うために、第2制御部が起動後に統計値を第2制御部に与える送信処理(S15)と、を有し、送信処理では、第2制御部が起動する前に移動体が移動した場合には、統計値を第2制御部に与えない、または統計値を無効値にする位置推測プログラムである。
【0012】
このような位置推測プログラムに従えば、演算処理によって、第1制御部が起動後に第2制御部が起動するまでの間の移動体の状態量の統計値が演算される。統計値を演算することで、状態量を単に記憶するよりも、記憶するデータ量を低減することができる。また統計値を演算することで、データ量を抑制しつつ、状態量の時間連続性が損なわれることを抑制することができる。したがって第2制御部が起動後に第2制御部に与えられるデータ量を低減でき、移動体の位置の推測に必要なデータの読み込み時間を短くすることができる。したがって第2制御部の起動を高速化することができる。
【0013】
なお、前述の各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態のECU10を示すブロック図。
図2】ECU10の動作を説明するタイミングチャート。
図3】メインマイコン21の処理を示すフローチャート。
図4】第2実施形態のECU10の動作を説明するタイミングチャート。
図5】メインマイコン21の処理を示すフローチャート。
図6】サブマイコン22の処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態を、複数の形態を用いて説明する。各実施形態で先行する実施形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付すか、または先行の参照符号に一文字追加し、重複する説明を略する場合がある。また各実施形態にて構成の一部を説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している実施形態と同様とする。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0016】
(第1実施形態)
本開示の第1実施形態に関して、図1図3を用いて説明する。本実施形態の電子制御装置(Electronic Control Unit:略称ECU)10は、車両に搭載される位置推測装置であって、車両の各部を制御する。またECU10は、自車位置を推定する位置推測プログラムを実行し、推定した車両位置情報は車両内ネットワークに出力する。
【0017】
ECU10は、図1に示すように、バッテリなどの電源11から電力が供給され、他の装置と通信可能に接続される。ECU10は、たとえばイグニッション信号などの車両信号、およびController Area Network(略称CAN:登録商標)を用いたCAN信号を受信する。ECU10は、たとえば車両状態センサが検出したセンサ信号をCAN信号として受信する。またECU10は、GNSS(Global Navigation Satellite System)アンテナ12に接続される。GNSSアンテナ12は、測位衛星からの測位信号を受信する装置である。
【0018】
車両状態センサは、図示は省略するが、自車両の走行制御に関わる状態量を検出するセンサ群である。車両状態センサは、車両内ネットワークに接続され、検出した状態量をCAN信号によってECU10に出力する。車両状態センサには、たとえば車速センサ、操舵センサおよび方位角センサ等が含まれる。車速センサは、自車の車速を検出する。操舵センサは、自車の操舵角を検出する。方位角センサは、自車両の進行方向に対応する方位角を検出する。
【0019】
ECU10は、メインマイコン21、サブマイコン22、ジャイロセンサ23、加速度計24、外部不揮発性メモリ25、第1発振子26、第2発振子27およびGNSS受信チップ28を含んで構成される。
【0020】
ジャイロセンサ23は、車両の角速度を検出する。ジャイロセンサ23は、検出した角速度を示すセンサデータをメインマイコン21に出力する。車両が停車している場合には、車両の角速度が十分に小さい値となる。一方、車両が移動している場合には、停車中に比べて角速度が大きな値となる。ジャイロセンサ23としては、車両のヨー方向の角速度を検出可能なヨーレートセンサを採用可能である。また、ジャイロセンサ23として、ヨーレートセンサに加えてピッチレートセンサやロールレートセンサなどを組み合わせた複数のセンサを採用してもよい。
【0021】
加速度計24は、自身に生じる加速度を検出する。加速度計24は、検出した加速度を示すセンサデータをメインマイコン21に出力する。加速度計24は、たとえば3軸加速度計が用いられる。3軸加速度計は、互いに直交する3軸それぞれの軸方向に沿った加速度を計測する。
【0022】
GNSS受信チップ28は、GNSSアンテナ12に接続され、GNSSアンテナ12が受信した測位信号を取得する。またGNSS受信チップ28は、第2発振子27に接続される。第2発振子27は、クロック信号源として機能し、生成したクロック信号をGNSS受信チップ28に出力する。第2発振子27は、たとえば温度補償回路を内蔵し、広い温度範囲にわたって良好な温度特性が得られる水晶発振器によって実現される。
【0023】
GNSS受信チップ28は、測位信号を用いてGNSSアンテナ12の現在位置を逐次検出する。GNSS受信チップ28は、たとえば4機以上の測位衛星からの測位信号を受信できている場合、100ミリ秒ごとに測位結果を検出する。GNSS受信チップ28は、測位結果をサブマイコン22に出力する。
【0024】
メインマイコン21およびサブマイコン22は、マイクロコンピュータであって、記憶媒体に記憶されているプログラムを実行し、各部を制御する。したがってECU10は、2マイコンの構成である。メインマイコン21は第1制御部として機能し、サブマイコン22は第2制御部として機能する。
【0025】
メインマイコン21は、少なくともひとつの演算処理装置(CPU)と、プログラムとデータとを記憶する内蔵不揮発性メモリ31、クロック信号源として機能する内蔵発振子32を備える。
【0026】
サブマイコン22は、同様に少なくともひとつのCPUを備える。またサブマイコン22は、プログラムとデータとを記憶する外部不揮発性メモリ25、およびクロック信号源として機能する第1発振子26と接続される。第1発振子26は、生成したクロック信号をサブマイコン22に出力する。第1発振子26は、たとえばセラミック発振子によって実現される。内蔵不揮発性メモリ31および外部不揮発性メモリ25は、コンピュータによって読み取り可能なプログラムおよびデータを非一時的に格納する非遷移的実体的記憶媒体である。
【0027】
メインマイコン21とサブマイコン22とは、マイコン間通信が可能に接続されている。またメインマイコン21には、CAN信号が通信可能あるとともに、ジャイロセンサ23および加速度計24が接続されている。サブマイコン22には、GNSS受信チップ28が接続されている。メインマイコン21は、受信したセンサデータをマイコン間通信でサブマイコン22に逐次出力する。
【0028】
サブマイコン22は、GNSS受信チップ28からの測位信号と、推測航法とによって自車位置を推定する。推測航法は、慣性に関わる状態量を用いて現在地を推測する。したがってサブマイコン22は、GNSS受信チップ28の測位結果と、ジャイロセンサ23、加速度計24などの各種センサの出力とを組み合わせることにより、自車両の位置を逐次測位する。例えば、サブマイコン22は、トンネル内などGNSSアンテナ12が測位信号を受信できない場合には、ヨーレート、車速および加速度などのセンサデータを用いて推測航法によって自己位置を推測する。測位した車両位置情報は車両内ネットワークに出力され、たとえば運転支援装置等で利用される。
【0029】
メインマイコン21は、サブマイコン22を制御する。メインマイコン21は、ジャイロセンサ23、加速度計24およびCAN信号から状態量を収集する。メインマイコン21は、機能ブロックとして演算部33を備える。演算部33は、メインマイコン21が起動後、サブマイコン22が起動するまでに収集した状態量の統計値を演算する。統計値は、内蔵不揮発性メモリ31に記憶される。
【0030】
演算部33は、具体的には、センサデータを統計値として丸め込む。演算部33は、センサデータの蓄積時間に比例して必要なメモリ量が増える問題を回避するため、統計値化には逐次処理型の計算式を利用する。逐次処理型の計算式は、センサデータの平均と分散を順次求める。逐次処理型の計算は、オンラインアルゴリズムまたはストリームアルゴリズムとも呼ばれる。
【0031】
次に、メインマイコン21とサブマイコン22との起動について、図2を用いて説明する。図2に示すように、時刻t1にて、イグニッションがONとなり電源11がONとなると、メインマイコン21およびサブマイコン22に電力が供給される。
【0032】
その後、時刻t2にてメインマイコン21の起動が完了する。その後、時刻t3にてサブマイコン22の起動が完了する。したがってメインマイコン21が起動してからサブマイコン22が起動するまでの間には、ある程度の時間がある。この時間のセンサデータは、メインマイコン21によって収集されて、統計値が逐次演算される。換言すると、統計値は、センサデータが取得される度に更新される。そしてサブマイコン22が起動後、メインマイコン21がサブマイコン22に統計値を送信する。これによってサブマイコン22は、起動した時刻t3に統計値を用いて推測航法の起動時学習を行う。起動時学習は、統計値を用いてセンサデータの変化量を学習することで、起動時学習を行うことで適切にデータ補正などを行うことができる。
【0033】
次に、メインマイコン21の処理に関して、図3を用いて説明する。図3に示すフローチャートは、メインマイコン21が起動状態で短時間に繰り返し実施される。メインマイコン21が起動時は、制御モードは起動待ちモードに設定され、サブマイコン22の起動状態に関するフラグはリセットされる。ステップS11では、センサデータを受信し、ステップS12に移る。センサデータは前述のように状態量であり、CAN信号を用いて車両状態センサのセンサデータを収集し、ジャイロセンサ23および加速度計24の出力からこれらのセンサデータを収集する。
【0034】
ステップS12では、メインマイコン21の制御モードが起動待ちモードであるか否かを判断し、起動待ちモードである場合はステップS13に移り、起動待ちモードでない場合はステップS15に移る。ステップS15では、起動待ちモードではないので、サブマイコン22に統計値を送信し、本フローを終了する。ステップS15は、サブマイコン22が起動後に統計値をサブマイコン22に与える送信処理に相当する。したがって起動待ちモードでない場合には、サブマイコン22が起動している場合であるので、統計値がサブマイコン22に送られる。
【0035】
ステップS13では、起動待ちモードであるので、サブマイコン22の起動が完了しているか否かを判断し、起動が完了している場合にはステップS14に移り、起動が完了していない場合は、ステップS16に移る。サブマイコン22の起動が完了している場合は、起動完了の通知がサブマイコン22からメインマイコン21に送信されるので、メインマイコン21は通知の有無によって起動完了か否かを判断する。ステップS14では、サブマイコン22の起動が完了しているので、制御モードを通常モードに遷移させて、本フローを終了する。
【0036】
ステップS16では、起動待ちモードであり、サブマイコン22の起動が完了していないので、センサデータから統計値を算出し、ステップS17に移る。したがってステップS16は、メインマイコン21が起動後、サブマイコン22が起動するまでに収集した状態量の統計値を演算する演算処理に相当する。ステップS17では、起動待ちモードを維持し、本フローを終了する。
【0037】
このようにメインマイコン21は、サブマイコン22が起動するまでは、センサデータを用いて統計値を算出する。そしてサブマイコン22が起動すると、統計値がサブマイコン22に送信される。
【0038】
また本フローで、統計値が適正であるか否かを判断するステップがあってもよい。たとえばステップS15にて統計値をサブマイコン22に送信する前に、収集した状態量が適正な範囲内であるか否かを判断し、適正な範囲内である場合に、統計値をサブマイコン22に与えるようにしてもよい。たとえば統計値から算出した分散値が所定以上の場合など、センサデータに異常がある場合は、統計値を送信しないことで、誤った統計値を送信することを防ぐことができる。
【0039】
また、たとえばメインマイコン21は、サブマイコン22が起動する前に車両が移動した場合には、統計値をサブマイコン22に与えない、または統計値を無効値にしてもよい。車両が移動する場合には、自走による移動と、外的な移動、すなわちターンテーブルの移動も含む。ターンテーブルの移動であるか否かは、ヨーレートの平均値が所定値以上であるか否かを判断することができる。これによって不適切な統計値がサブマイコン22によって学習されることを防ぐことができる。
【0040】
以上説明したように本実施形態のECU10は、メインマイコン21とサブマイコン22とを有し、メインマイコン21が起動後にサブマイコン22が起動する。サブマイコン22は車両の位置を推測する処理をするので、メインマイコン21が起動後にサブマイコン22が起動するまでの間の車両の状態量は、メインマイコン21によって処理される。具体的には、メインマイコン21の演算部33は、状態量の統計値を演算する。統計値を演算することで、状態量を単に記憶するよりも、内蔵不揮発性メモリ31に記憶するデータ量を低減することができる。したがってサブマイコン22が起動後にサブマイコン22に与えられるデータ量を低減でき、車両の位置の推測に必要なデータの読み込み時間を短くすることができる。したがってサブマイコン22の起動を高速化することができる。
【0041】
さらに本実施形態では、統計値を演算するので、単に蓄積したセンサデータを送る構成に比べて、サブマイコン22の必要なメモリ容量の見積ることができ、ソフト設計が容易になる。
【0042】
また本実施形態では、メインマイコン21が起動時からサブマイコン22が起動するまでの間のセンサデータの値を用いて統計値を演算するので、メインマイコン21が起動時からサブマイコン22が起動するまでの間のセンサデータの値の時間連続性が損なわれにくくすることができる。これによってサブマイコン22による推測航法の精度を確保することができる。
【0043】
(第2実施形態)
次に、本開示の第2実施形態に関して、図4図6を用いて説明する。本実施形態では、サブマイコン22が起動後にリセットした場合の処理を有する点に特徴を有する。サブマイコン22がリセットした場合、リセット後の起動時に推測航法の起動時学習を行うと、その学習用データは古くなっているという問題がある。そこで本実施形態では、サブマイコン22がリセット後には、統計値を用いた起動時学習は行わないように処理される。
【0044】
具体的なメインマイコン21およびサブマイコン22の処理について、図4を用いて説明する。図4に示すように、時刻t21にてイグニッションがONとなり電源11がONとなると、電力がメインマイコン21およびサブマイコン22に供給される。
【0045】
その後、時刻t22にてメインマイコン21が起動する。その後、時刻t23にてサブマイコン22が起動する。メインマイコン21が起動してからサブマイコン22が起動するまでの間のセンサデータは、メインマイコン21によって取得されて、統計値が演算される。サブマイコン22が起動後、メインマイコン21がサブマイコン22に統計値を継続的に送信する。またメインマイコン21は、サブマイコン22が起動後は統計値のデータは更新しない。換言すると、サブマイコン22が起動後は、メインマイコン21は同じ統計値を継続的に送信する。
【0046】
しかし、時刻t23から時刻t24までマイコン間通信エラーが発生し、統計値がサブマイコン22に届いていない。この場合でも、メインマイコン21はサブマイコン22が起動後に継続的に統計値を送信しているので、通信エラーが無くなった時刻t24にて正常にサブマイコン22の統計値が送信される。これによってサブマイコン22は、時刻t24に統計値を用いて推測航法の起動時学習を行う。
【0047】
その後、時刻t25にてサブマイコン22がリセットし、時刻t26にて再起動すると、メインマイコン21は継続的に統計値を送信しているので、再起動した時刻t26においてもサブマイコン22の統計値が送信される。しかしこの統計値は古いデータであるので、サブマイコン22は再起動時には統計値を用いて起動時学習を行わない。
【0048】
次に、メインマイコン21の処理に関して、図5を用いて説明する。図5に示すフローチャートは、メインマイコン21が起動状態で短時間に繰り返し実施される。メインマイコン21が起動時は、制御モードは起動待ちモードに設定され、サブマイコン22の起動状態はリセットされる。ステップS21では、センサデータを受信し、ステップS22に移る。
【0049】
ステップS22では、メインマイコン21の制御モードが起動待ちモードであるか否かを判断し、起動待ちモードである場合はステップS23に移り、起動待ちモードでない場合はステップS25に移る。ステップS25では、サブマイコン22の起動が未完了である否かを判断し、未完了である場合はステップS26に移り、未完了でない場合はステップS27に移る。ステップS26では、起動待ちモードでなく、サブマイコン22は起動未完了であるので、統計値をクリアし、本フローを終了する。ステップS27では、起動待ちモードでなく、サブマイコン22も起動未完了でないので、サブマイコン22に統計値を送信し、本フローを終了する。ステップS26は、通常モードであるにも関わらず、サブマイコン22が起動未完了であるので、サブマイコン22にエラーが発生したと判断し、統計値をクリアしている。
【0050】
ステップS23では、起動待ちモードであるので、サブマイコン22の起動が完了しているか否かを判断し、起動が完了している場合にはステップS24に移り、起動が完了していない場合は、ステップS28に移る。ステップS24では、サブマイコン22の起動が完了しているので、制御モードを通常モードに遷移させて、本フローを終了する。
【0051】
ステップS28では、起動待ちモードであり、サブマイコン22の起動が完了していないので、センサデータから統計値を算出し、ステップS29に移る。ステップS29では、起動待ちモードを維持し、本フローを終了する。
【0052】
このように図5に示すフローチャートでは、メインマイコン21側でサブマイコン22のリセットを考慮して、ステップS25およびステップS26の処理を組み込んでいる。これによってサブマイコン22がリセット後に統計値が送信されるのを防ぐことができる。
【0053】
次に、サブマイコン22側でリセットを考慮する処理に関して、図6を用いて説明する。図6に示すフローチャートは、サブマイコン22が起動時に実施される。ステップS31では、起動時学習用データが未チェックか否かを判断し、未チェックの場合はステップS32に移り、未チェックでない場合は本フローを終了する。未チェックでない場合は、起動時学習済みだからである。
【0054】
ステップS32では、起動要因がリセット後の再起動であるか否かを判断し、再起動である場合はステップS34に移り、再起動でない場合はステップS33に移る。ステップS33では、再起動でないので、統計値によって起動時学習を実施し、ステップS34に移る。ステップS34では、リセット後再起動の場合および起動時学習を実施した場合であるので、起動時学習用データをチェック済みに変更し、本フローを終了する。
【0055】
このように図6に示すフローチャートでは、サブマイコン22側でサブマイコン22のリセットを考慮して、ステップS32の処理を組み込んでいる。これによってサブマイコン22がリセット後に統計値で学習されるのを防ぐことができる。
【0056】
このように本実施形態では、サブマイコン22は、起動後にリセットが発生して、再び起動した再起動時には統計値を用いた起動時学習は行わない。これによって古い統計値を読み込むことを防ぐことができる。
【0057】
また本実施形態では、メインマイコン21は、サブマイコン22が最初に起動後に統計値をサブマイコン22に継続的に送信する。統計値を1回のみの送信する構成であると、マイコン間通信のエラー時にサブマイコン22へ届かないおそれがある。また、複数回送る場合も、サブマイコン22とハンドシェイクする場合、すなわちサブマイコン22が統計値を受け取った後、送信停止する場合に比べ設計を簡素化することができる。
【0058】
またメインマイコン21は、サブマイコン22が最初に起動後にリセットが発生して、サブマイコン22が再び起動した再起動時には統計値をサブマイコン22に与えない、または統計値を無効値にする。これによってサブマイコン22が古い統計値を読み込むことを防ぐことができる。
【0059】
また本実施形態では、メインマイコン21は、サブマイコン22が最初に起動後に統計値をサブマイコン22に継続的に送信しているが、所定の終了条件を満たした場合には送信停止してもよい。終了条件は、たとえばサブマイコン22が再起動した場合、メインマイコン21が起動してから所定時間経過した場合、およびサブマイコン22が起動してから所定時間経過した場合である。
【0060】
(その他の実施形態)
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示は前述した実施形態に何ら制限されることなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
【0061】
前述の実施形態の構造は、あくまで例示であって、本開示の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本開示の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものである。
【0062】
前述の第1実施形態では、ECU10は車両の制御に用いられるが、車両に限るものではなく、移動体あればよい。たとえば船舶、航空機、携帯情報端末などであってもよい。
【0063】
前述の第1実施形態では、ECU10は2マイコンの構成であったが、このような構成に限るものではない。たとえばECUは、1マイコンの構成であってもよい。ECUが1マイコンの構成である場合は、第1制御部としてプログラムを実行する機能と、第2制御部として別のプログラムを実行する機能とが同時に並行して動作する構成であればよい。またECUが異なるECUと通信して第1のECUが第1制御部として機能し、第2のECUが第2制御部として機能する構成であってもよい。
【0064】
前述の第1実施形態において、ECU10によって実現されていた機能は、前述のものとは異なるハードウェアおよびソフトウェア、またはこれらの組み合わせによって実現してもよい。ECU10は、たとえば他のECU10と通信し、他のECU10が処理の一部または全部を実行してもよい。ECU10が電子回路によって実現される場合、それは多数の論理回路を含むデジタル回路、またはアナログ回路によって実現することができる。
【0065】
また本開示には、移動体の制御に用いられる位置推測装置の第1制御部であって、移動体の状態量を収集し、収集した状態量を用いて移動体の位置を推測する第2制御部と通信する第1制御部を含む。第1制御部は、自身が起動後から第2制御部が起動するまでに収集した状態量の統計値を演算する演算部と、演算した統計値を記憶する記憶部と、を有する。第1制御部は、第2制御部が起動後に統計値を第2制御部に与える。
【0066】
さらに本開示には、移動体の制御に用いられる位置推測装置の第2制御部であって、移動体の状態量を収集する第1制御部と通信する第2制御部を含む。第2制御部は、自身が起動時に、第1制御部が起動後から収集した状態量の統計値が第1制御部から与えられる。そして第2制御部は、起動時に統計値を用いて起動時学習を行う。
【符号の説明】
【0067】
10…ECU(位置推測装置) 11…電源 12…アンテナ 21…メインマイコン(第1制御部) 22…サブマイコン(第2制御部) 23…ジャイロセンサ 24…加速度計 25…外部不揮発性メモリ 26…第1発振子 27…第2発振子 28…GNSS受信チップ 31…内蔵不揮発性メモリ(記憶部) 32…内蔵発振子 33…演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6