(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】積層体およびその製造方法、導光板ユニット、光源ユニット、表示装置、投影画像表示部材、投影画像表示装置ならびに表示画面用フィルター
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240220BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20240220BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
G02B5/30
B32B7/023
G09F9/30 349Z
(21)【出願番号】P 2020516927
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2020011683
(87)【国際公開番号】W WO2020196090
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2019058129
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019206891
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松尾 雄二
(72)【発明者】
【氏名】宇都 孝行
(72)【発明者】
【氏名】白石 海由
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-174723(JP,A)
【文献】特開2002-014213(JP,A)
【文献】特開2013-061480(JP,A)
【文献】特開2003-295183(JP,A)
【文献】特開2016-040605(JP,A)
【文献】特表2013-508777(JP,A)
【文献】特開2014-224891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B32B 7/023
G09F 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる複数の熱可塑性樹脂が交互に11層以上積層した多層積層フィルムを有する積層体であって、
複屈折を有する層、または、液晶および/またはアスペクト比が1.5以上の粒子を含む偏光解消効果を有する層をさらに有してなり、
前記複屈折を有する層または前記偏光解消効果を有する層の両側に前記多層積層フィルムを有する構成、または、
前記複屈折を有する層または前記偏光解消効果を有する層の両側に接着層を介して前記多層積層フィルムを有する構成を有し、
前記多層積層フィルムの表側の面に垂直に入射する波長400~700nmの光の当該波長領域にわたる平均透過率が50%以上であり、
方位角φn(n:1~5)において前記多層積層フィルムの表側の面の法線に対して20°、70°の角度で波長400~700nmのS波の光を入射したときのそれぞれの当該波長領域にわたる平均反射率をRs20(φ
n)、Rs70(φ
n)としたとき、少なくとも1つの方位角φ
nにおいて
Rs70(φ
n)-Rs20(φ
n)≧50(%)
を満足する積層体。
【請求項2】
前記方位角φ
nにおいて前記多層積層フィルムの表側の面の法線に対して20°、40°、70°の角度で波長400~700nmのP波の光を入射したときのそれぞれの当該波長領域および前記方位角φ
nのn:1~5にわたる平均反射率(%)をRp20、Rp40、Rp70としたとき、
Rp20≦Rp40<Rp70
を満足する、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記方位角φ
nにおいて前記多層積層フィルムの表側の面の法線に対して70°の角度で波長240nm~2600nmのS波の光を入射したときの当該波長領域にわたる反射率のうち最大値をRs70(φ
n)MAX、最小値をRs70(φ
n)MINとしたとき、少なくとも1つの方位角φ
nにおいて
Rs70(φ
n)MAX-Rs70(φ
n)MIN≧20(%)
を満足する請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記複屈折を有する層の波長590nmにおける位相差が240~320nmまたは100~180nmである請求項
1~3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記複屈折を有する層がポリビニルアルコール、ポリカーボネート、シクロオレフィン、ポリメチルメタクリレート、液晶のいずれかを主たる成分とする請求項
1~4
のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記複屈折を有する層が一軸配向してなる層である請求項
1~
5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
前記複屈折を有する層の層厚みが1~200μmである請求項
1~
6のいずれかに記載の積層体。
【請求項8】
前記偏光解消効果を有する層がランダム液晶および/またはアスペクト比が1.5以上の無機粒子を含む請求項
1~3のいずれかに記載の積層体。
【請求項9】
請求項
1~
7のいずれかに記載の積層体を製造する方法であって、
基材上に複屈折を有する層を設けた後、前記複屈折を有する層の前記基材を有していない側に多層積層フィルムを積層した後、前記基材を剥離し、その後、前記複屈折を有する層の前記基材を剥離した側に別の多層積層フィルムを積層する、積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項
1~
7のいずれかに記載の積層体を製造する方法であって、
複屈折を有する層の片側あるいは両側に多層積層フィルムを積層した後、少なくとも一方向に延伸する工程を有する、積層体の製造方法。
【請求項11】
請求項
1~
7のいずれかに記載の積層体を製造する方法であって、
多層積層フィルム上に、複屈折を有する層を構成する成分を含む塗液を塗布する工程を含む、積層体の製造方法。
【請求項12】
前記塗液に由来する、塗膜または前記複屈折を有する層の、前記多層積層フィルムを有していない側の面に別の多層積層フィルムを積層する工程をさらに含む、請求項
11に記載の積層体の製造方法。
【請求項13】
請求項
1~3,8のいずれかに記載の積層体を製造する方法であって、
基材上に偏光解消効果を有する層を設けた後、前記偏光解消効果を有する層の前記基材を有していない側に多層積層フィルムを積層した後、前記基材を剥離し、その後、前記偏光解消効果を有する層の前記基材を剥離した側に別の多層積層フィルムを積層する、積層体の製造方法。
【請求項14】
請求項
1~3,8のいずれかに記載の積層体を製造する方法であって、
偏光解消効果を有する層の片側あるいは両側に多層積層フィルムを積層した後、少なくとも一方向に延伸する工程を有する、積層体の製造方法。
【請求項15】
請求項
1~3,8のいずれかに記載の積層体を製造する方法であって、
多層積層フィルム上に、偏光解消効果を有する層を構成する成分を含む塗液を塗布する工程を含む、積層体の製造方法。
【請求項16】
前記塗液に由来する、塗膜または前記偏光解消効果を有する層の、前記多層積層フィルムを有していない側の面に別の多層積層フィルムを積層する工程をさらに含む、請求項
15に記載の積層体の製造方法。
【請求項17】
導光板の出射面側に請求項1~
8のいずれかに記載の積層体を配してなることを特徴とする、導光板ユニット。
【請求項18】
請求項
17記載の導光板ユニットと光源とを有してなることを特徴とする、光源ユニット。
【請求項19】
複数の光源が設置された基板の出射面側に請求項1~
8のいずれかに記載の積層体を配してなることを特徴とする、光源ユニット。
【請求項20】
請求項
18または
19に記載の光源ユニットを用いてなることを特徴とする、表示装置。
【請求項21】
請求項1~
8のいずれかに記載の積層体を用いてなることを特徴とする、投影画像表示部材。
【請求項22】
前記積層体が透明部材の少なくとも一方の面に積層されてなる、請求項
21に記載の投影画像表示部材。
【請求項23】
前記積層体が少なくとも2つの透明部材間に積層されてなる、請求項
21に記載の投影画像表示部材。
【請求項24】
請求項
21~
23のいずれかに記載の投影画像表示部材と、当該投影画像表示部材の表示面の法線に対して20°以上の角度をもって入射される光源を備えたことを特徴とする、投影画像表示装置。
【請求項25】
請求項1~
8のいずれかに記載の積層体を用いてなることを特徴とする、表示画面用フィルター。
【請求項26】
請求項1~
8のいずれかに記載の積層体を画像表示部に用いてなることを特徴とする、表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体およびその製造方法、導光板ユニット、光源ユニット、表示装置、投影画像表示部材、投影画像表示装置ならびに表示画面用フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
多層積層フィルムは異なる複数の熱可塑性樹脂を交互に積層することによってさまざまな性能を持たせることができ、2層~数千層の積層数、数十nm~数十μmの層厚みといった様々な構成をとる。その中で屈折率の異なる複数の熱可塑性樹脂を交互に積層することで正面方向でも斜め方向でも何れの入射角度での光に対しても干渉反射を発現させる多層積層フィルム(特許文献1、2など)が開示されている。
【0003】
一方近年、例えば拡張現実や複合現実用途におけるヘッドマウントディスプレイ(HMD)やヘッドアップディスプレイ(HUD)においては、現実世界の映像情報に仮想世界の映像情報や文字情報を重ね合わせて表示できる素材が求められている。例えば、現実世界の映像情報は正面から見とおすことができ、仮想世界の映像情報や文字情報は斜めから投影することで表示させるといった、光反射の高い指向性による視認効果を有する素材である。正面方向の入射光に対しては実質的に干渉反射が発現せず、斜め方向の入射光に対して干渉反射を発現させる多層積層フィルムとしては、傾斜角において着色して見える光学フィルムが特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-85959号公報
【文献】特開2012-212148号公報
【文献】特表2006-512619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献3に開示される多層積層フィルムは、拡張現実や複合現実用途に求められるような、光反射の高い指向性を有するものではなく、同文献においても一貫してカラーシフトフィルムとしての有用性が謳われるにとどまっている。仮に同文献に開示される多層積層フィルムの正面方向の透過性を高めるために、当該フィルムの表面にAR(アンチリフレクション)、AG(アンチグレア)といった反射防止機能を付与したり、当該フィルムの両側へ透明部材を積層すると、斜め方向の光の反射率もさらに低くなる。
【0006】
本発明は、従来よりも高い光反射の指向性による視認効果を有する光学素材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の課題と背景技術に鑑みて、本発明者等は、特許文献3では光反射に寄与しないと断じられているS波の光(s偏光)に敢えて踏み込み、本発明に想到した。
【0008】
すなわち本発明は、異なる複数の熱可塑性樹脂が交互に11層以上積層した多層積層フィルムを有する積層体であって、
複屈折を有する層、または、液晶および/またはアスペクト比が1.5以上の粒子を含む偏光解消効果を有する層をさらに有してなり、
前記複屈折を有する層または前記偏光解消効果を有する層の両側に前記多層積層フィルムを有する構成、または、
前記複屈折を有する層または前記偏光解消効果を有する層の両側に接着層を介して前記多層積層フィルムを有する構成を有し、
前記多層積層フィルムの表側の面に垂直に入射する波長400~700nmの光の当該波長領域にわたる平均透過率が50%以上であり、
方位角φn(n:1~5)において前記多層積層フィルムの表側の面の法線に対して20°、70°の角度で波長400~700nmのS波の光を入射したときのそれぞれの当該波長領域にわたる平均反射率をRs20(φn)、Rs70(φn)としたとき、少なくとも1つの方位角φnにおいて
Rs70(φn)-Rs20(φn)≧50(%)
を満足する積層体である。
【0009】
また本発明は、複屈折を有する層を有する本発明の積層体を製造する方法であって、
基材上に複屈折を有する層を設けた後、前記複屈折を有する層の前記基材を有していない側に多層積層フィルムを積層した後、前記基材を剥離し、その後、前記複屈折を有する層の前記基材を剥離した側に別の多層積層フィルムを積層する、積層体の製造方法である。
【0010】
また本発明は、複屈折を有する層を有する本発明の積層体を製造する方法であって、
複屈折を有する層の片側あるいは両側に多層積層フィルムを積層した後、少なくとも一方向に延伸する工程を有する、積層体の製造方法である。
【0011】
また本発明は、複屈折を有する層を有する本発明の積層体を製造する方法であって、
多層積層フィルム上に、複屈折を有する層を構成する成分を含む塗液を塗布する工程を含む、積層体の製造方法である。
【0012】
また本発明は、偏光解消層を有する本発明の積層体を製造する方法であって、
基材上に偏光解消層を設けた後、前記偏光解消層の前記基材を有していない側に多層積層フィルムを積層した後、前記基材を剥離し、その後、前記偏光解消層の前記基材を剥離した側に別の多層積層フィルムを積層する、積層体の製造方法である。
【0013】
また本発明は、偏光解消層を有する本発明の積層体を製造する方法であって、
偏光解消層の片側あるいは両側に多層積層フィルムを積層した後、少なくとも一方向に延伸する工程を有する、積層体の製造方法である。
【0014】
また本発明は、偏光解消層を有する本発明の積層体を製造する方法であって、
多層積層フィルム上に、偏光解消層を構成する成分を含む塗液を塗布する工程を含む、積層体の製造方法である。
【0015】
また本発明は、導光板の出射面側に本発明の積層体を配してなることを特徴とする、導光板ユニットである。
【0016】
また本発明は、本発明の導光板ユニットと光源とを有してなることを特徴とする、光源ユニットである。
【0017】
また本発明は、複数の光源が設置された基板の出射面側に本発明の積層体を配してなることを特徴とする、光源ユニットである。
【0018】
また本発明は、本発明の光源ユニットを用いてなることを特徴とする、表示装置である。
【0019】
また本発明は、本発明の積層体を用いてなることを特徴とする、投影画像表示部材である。
【0020】
また本発明は、本発明の投影画像表示部材と、当該投影画像表示部材の表示面の法線に対して20°以上の角度をもって入射される光源を備えたことを特徴とする、投影画像表示装置である。
【0021】
また本発明は、本発明の積層体を用いてなることを特徴とする、表示画面用フィルターである。
【0022】
また本発明は、本発明の積層体を画像表示部に用いてなることを特徴とする、表示装置である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によって、正面方向から入射する光には実質的に干渉反射が発現せず透過率が高く、斜め方向に入射してきたP波、S波両方に干渉反射を発現させることによって、従来よりも斜め方向の光に対する反射性能を非常に高くした積層体およびその製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、従来の透明フィルムの、波長550nmのP波とS波の入射光に対する反射率の入射角度依存性を示すグラフである。
【
図2】
図2は、従来の反射フィルムの、波長550nmのP波とS波の入射光に対する反射率の入射角度依存性を示すグラフである。
【
図3】
図3は、本発明の積層体が有する多層積層フィルムの、波長550nmのP波とS波の入射光に対する反射率の入射角度依存性を示すグラフである。
【
図4】
図4は、本発明の積層体が有する多層積層フィルムにアンチリフレクション(AR)コートを付与したものの、波長550nmのP波とS波の入射光に対する反射率の入射角度依存性を示すグラフである。
【
図5】
図5は、本発明の積層体の、波長550nmのP波とS波の入射光に対する反射率の入射角度依存性を示すグラフである。
【
図7】
図7は、本発明の積層体における、S波の入射光に対する干渉反射を説明する模式図である。
【
図8】
図8は、従来技術における、S波とP波の入射光に対する干渉反射を説明する模式図である。
【
図9】
図9は、本発明の積層体における、S波の入射光に対する干渉反射を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者らは、異なる複数の熱可塑性樹脂が交互に11層以上積層した多層積層フィルムを有する積層体であって、前記多層積層フィルムの表側の面に垂直に入射する波長400~700nmの光の当該波長領域にわたる平均透過率が50%以上であり、方位角φn(n:1~5)において前記多層積層フィルムの表側の面の法線に対して20°、70°の角度で波長400~700nmのS波の光を入射したときのそれぞれの当該波長領域にわたる平均反射率をRs20(φn)、Rs70(φn)としたとき、少なくとも1つの方位角φnにおいて
Rs70(φ)-Rs20(φ)≧50(%)
を満足する積層体によって、正面方向は実質的に干渉反射が発現せず透過率が高く、斜め方向に入射してきたP波、S波両方に干渉反射を発現させることを見出した。以下これについて詳説する。
【0026】
電磁波(光)が物体の表側の面に対し斜め方向から入射した際において、P波とは電界成分が入射面に平行な電磁波(入射面に平行に振動する直線偏光)、S波とは電界成分が入射面に垂直な電磁波(入射面に垂直に振動する直線偏光)を表す。このP波とS波の反射特性について説明する。
図1に従来の透明フィルムについて、
図2に従来の反射フィルムについて、
図3に本発明の積層体が有する多層積層フィルムについて、空気中から各フィルムに波長550nmのP波とS波の光が入射した際の反射率の角度依存性について示す。ここでは一例として波長550nmで示したが、他の可視光の波長においても、各フィルムはそれぞれ
図1~5で示したのと概ね同様の関係性を有する。
【0027】
図1に示すように従来の透明フィルムはフレネルの式に従いP波に対する反射率は入射角度が増大するとともに低下し、その後、反射率0%となった後、反射率が増大する傾向を示す。S波は入射角度が増大するとともに反射率が増大していく。
【0028】
また、
図2、
図3に示すように従来の反射フィルムと本発明の積層体に含まれる多層積層フィルムとの間に見られる入射角度による反射率の差は、異なる複数の熱可塑性樹脂を交互に積層した各層の面内方向の屈折率の層間差(以下、「面内屈折率差」とも呼ぶ。)および各層の厚み方向の屈折率の層間差(以下、「面直屈折率差」とも呼ぶ。)の設計が異なることによる。
【0029】
すなわち、従来の反射フィルムは、隣接する層間の面内屈折率差を大きくすること、また結果として面直屈折率差も大きくなることで正面方向も斜め方向も干渉反射を発現させて光を反射する設計であった。その特性は
図2に示すように、入射角度0度であっても一定の高さの反射率を持ち、入射角度増大とともにP波、S波両方の反射率がさらに増大していく。
【0030】
一方、本発明の積層体が有する多層積層フィルムは多層積層フィルム内部の隣接する層間の面内屈折率差を小さくすることで実質的に正面方向の干渉反射を発現させず、面直屈折率差を大きくすることで斜め方向に入射してきた光のP波に対して干渉反射を発現させる設計である。すなわち、入射角度0度では、多層積層フィルム内部の隣接する層間の面内屈折率差が小さいため反射率が低く(すなわち透過率が高く)、入射角度増大とともに、S波は空気の屈折率と多層積層フィルム表面の面内屈折率との差に基づくフレネルの式に従い反射率が増大し、P波は多層積層フィルム内部の隣接する層間の面直屈折率差が大きくなるため干渉反射が発現し反射率が増大する特徴を持つ。ここでS波の反射率に寄与するのは多層積層フィルム表面の反射である。
図3に示す反射率の角度依存性について、さらに斜め方向の反射率を高くしようとした場合、P波については多層積層フィルム内部の隣接する層間の面直屈折率差をさらに大きくすることや、多層積層フィルムの層数を増やすことで達成されるが、S波については容易ではない。なぜならばS波の反射は多層積層フィルム表面の反射によるものであるため、S波の反射率を高くするためには空気の屈折率と多層積層フィルム表面の面内屈折率の差をさらに大きくする必要がある。しかしながら、空気と多層積層フィルム表面の屈折率差をさらに大きくすると正面方向の反射率も高くなってしまい、正面方向の透過率が低下してしまう。
【0031】
また、正面方向の透過率を高くするために多層積層フィルム表面にアンチリフレクション(AR)、アンチグレア(AG)といった反射防止機能を付与した場合や、加工によって多層積層フィルムの両側へ透明部材を積層した場合は、多層積層フィルム表面による反射がほとんど失われる。
図3で示した本発明の積層体が有する多層積層フィルムの表面にARコート付与した場合の反射特性の一例を
図4に示す。正面方向の反射率については、ARコートによって反射率が低下(すなわち透過率が向上)し、斜め方向の反射率については、P波の干渉反射はARコートの影響を受けないため、P波の反射率は
図3と比較してほとんど変わっていない。一方で、S波は表面反射がARコートの影響を受けるため、S波の反射率は
図3と比較して著しく低下する。
【0032】
図5に本発明の積層体について、空気中から波長550nmのP波とS波の光が入射した際の反射率の角度依存性について示す。本発明の積層体はP波だけでなくS波についても斜め方向で干渉反射が発現しており、
図1や
図3に示すようなフィルムよりもS波の斜め方向の反射率が高いことが特徴である。
【0033】
本発明の積層体は、前記多層積層フィルムの表側の面に垂直に入射する波長400~700nmの光の当該波長領域にわたる平均透過率が50%以上であることが必要である。当該平均透過率としては、正面方向の透明性向上の観点から70%以上が好ましく、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは88%以上である。当該平均透過率は高ければ高いほど正面方向の視認性が向上して好ましいため最も好ましくは100%である。
【0034】
また、正面方向の透明性を向上させ、外光の映り込みによる視認性低下を抑制する観点から、前記多層積層フィルムの表側の面に垂直に入射する波長400nm~700nmの光の当該波長領域にわたる平均反射率が30%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下である。当該平均反射率は低ければ低いほど、正面方向の透明性を向上させ、外光の映り込みによる視認性低下を抑制することが出来るため、最も好ましくは0%である。
【0035】
方位角φについて図を用いて説明する。
図6は本発明の積層体やフィルムの上面図である。ここで図中4はフィルム面内で任意に選択した方位角0°の方向であり、図中5は方位角0°を基準に右回り(時計回り)に回転させた方位角φ方向であり、図中6が方位角φである。
【0036】
そして本発明における方位角φn(n:1~5)とは、方位角φから設定される測定点であり、フィルムあるいは積層体の面内の任意の方位角0°を基準に右回り(時計回り)に22.5°ごとに設定した、0°、22.5°、45°、67.5°、90°の5点である。
【0037】
本発明の積層体は、方位角φn(n:1~5)において前記多層積層フィルムの表側の面の法線に対して20°、70°の角度で波長400~700nmのS波の光を入射したときのそれぞれの当該波長領域にわたる平均反射率をRs20(φn)、Rs70(φn)としたとき、少なくとも1つの方位角φnにおいて
Rs70(φn)-Rs20(φn)≧50(%) …(A)
を満足することが必要である。Rs70(φn)-Rs20(φn)の値は、ディスプレイ用途での集光性向上、ヘッドアップディスプレイやヘッドマウントディスプレイ用途での画像表示性向上、覗き見防止用途での視野角制御性向上、加飾フィルム用途での斜め方向での色調や光沢感の変化の大きさ向上といった目的では、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上と高くなるほど好ましい。上記関係式(A)を満足することは入射したS波に対して干渉反射が発現していることを意味し、P波のみ干渉反射が発現していた従来品よりも斜め方向の光に対する反射性能が高いことを意味する。また、5点の方位角φnのうち2つ以上の方位角φnで上記関係式(A)を満足することが好ましく、上述した目的では3つ以上、4つ以上、さらには5つの点で上記関係式(A)を満足することが好ましい。上記関係式(A)を満足する方位角φnの点数が多いほど、S波の干渉反射が発現する方位角範囲が広いことを意味し、方位角依存性が小さいマルチアングル性を持つことを意味する。
【0038】
次に、前記多層積層フィルムの表側の面の法線に対して20°、40°、70°の角度で波長400~700nmのP波の光を入射したときのそれぞれの、当該波長領域および方位角φnのn:1~5にわたる平均反射率(%)をRp20、Rp40、Rp70と定義する。すなわち、Rp20、Rp40、Rp70は、ある方位角φnにおける波長400nm~700nmにわたる平均の反射率をさらに5点の方位角φn(n:1~5)で平均したものある。本発明の積層体は、
Rp20≦Rp40<Rp70 …(B)
を満足することが正面透過性を高め斜め反射性を向上させる観点から好ましい。斜め反射性向上の観点からRp70は30%以上であることが好ましく、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上、ディスプレイ用途での集光性向上、ヘッドアップディスプレイやヘッドマウントディスプレイ用途での画像表示性向上、覗き見防止用途での視野角制御性向上、加飾フィルム用途での斜め方向での色調や光沢感の変化の大きさ向上といった目的では、60%以上、70%以上、80%以上と高くなるほど好ましい。
【0039】
また、斜め方向から視認した際に、鏡のように無色で光沢感のある外観を持たせたい場合は、フィルム面の法線に対して70°の角度で入射したときの波長400nm~700nmのP波の反射率から算出される色調C値が20以下であることが好ましく、より好ましくは15以下、さらに好ましくは10以下、さらに好ましくは5以下である。
【0040】
本発明の積層体は、方位角φnにおいて前記多層積層フィルムの表側の面の法線に対して70°の角度で波長240nm~2600nmのS波の光を入射したときの当該波長領域にわたる反射率のうち最大値をRs70(φn)MAX、最小値をRs70(φn)MINとしたとき、少なくとも1つの方位角φnにおいて
Rs70(φn)MAX-Rs70(φn)MIN≧20(%) …(C)
を満足することが好ましい。Rs70(φn)MAX-Rs70(φn)MINの値としては、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、特に好ましくは50%以上であり、ディスプレイ用途での集光性向上、ヘッドアップディスプレイやヘッドマウントディスプレイ用途での画像表示性向上、覗き見防止用途での視野角制御性向上、加飾フィルム用途での斜め方向での色調や光沢感の変化の大きさ向上といった目的では、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上と高くなるほど好ましい。上記関係式(C)を満足することは入射したS波に対する干渉反射が発現していることを意味しP波のみ干渉反射が発現していた従来よりも斜め方向の光に対する反射性能が高いことを意味する。また、5点の方位角φnのうち2つ以上の方位角φnで上記関係式(C)を満足することが好ましく、上述した目的では3つ以上、4つ以上、さらには5つの点で上記関係式(C)を満足することが好ましい。上記関係式(C)を満足する方位角φnの点数が多いほど、S波の干渉反射が発現する方位角範囲が広いことを意味し、方位角依存性が小さいマルチアングル性を持つことを意味する。
【0041】
以下に本発明の積層体が有する多層積層フィルムの一例を示すが、本発明の積層体が有する多層積層フィルムはかかる例に限定して解釈されるものではない。
【0042】
本発明の積層体が有する多層積層フィルムは異なる複数の熱可塑性樹脂が交互に11層以上積層した多層積層フィルムである。その積層構成は、熱可塑性樹脂Aを用いてなる層(A層)と熱可塑性樹脂Aとは異なる熱可塑性樹脂Bを用いてなる層(B層)とが交互に11層以上積層(A/B/A/B・・)されてなる多層積層フィルムや、A層とB層と熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bとは異なる熱可塑性樹脂Cを用いてなる層(C層)とが交互に11層以上積層されてなる多層積層フィルム、例えば、A/B/C/A/B/C・・・のようにA/B/Cユニットが交互に積層されていたり、A/C/B/C/A/C/B/C・・・のようにA/CユニットとB/Cユニットが交互に積層されてなる多層積層フィルム、が好ましい。
【0043】
ここでいう熱可塑性樹脂A、B、Cが互いに「異なる」とは、結晶性・非晶性、光学的性質、熱的性質のいずれかが異なることをいう。光学的性質が異なるとは、屈折率が0.01以上異なることを言い、熱的性質が異なるとは、融点あるいはガラス転移温度が1℃以上異なっていることを言う。なお、一方の樹脂が融点を有しており、もう一方の樹脂が融点を有していない場合や、一方の樹脂が結晶化温度を有しており、もう一方の樹脂が結晶化温度を有していない場合も、異なる熱的性質を有することを意味する。異なる性質を持つ熱可塑性樹脂を積層することで、それぞれの熱可塑性樹脂の単一の層のフィルムではなし得ない機能をフィルムに与えることができる。
【0044】
本発明の積層体が有する多層積層フィルムに用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチルペンテン-1)などのポリオレフィン、シクロオレフィンとしては、ノルボルネン類の開環メタセシス重合,付加重合,他のオレフィン類との付加共重合体である脂環族ポリオレフィン、ポリ乳酸、ポリブチルサクシネートなどの生分解性ポリマー、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66などのポリアミド、アラミド、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリアセタール、ポリグルコール酸、ポリスチレン、スチレン共重合ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートなどのポリエステル、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、4フッ化エチレン樹脂、3フッ化エチレン樹脂、3フッ化塩化エチレン樹脂、4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。これらの中で、強度・耐熱性・透明性の観点から、特にポリエステルを用いることが好ましく、ポリエステルとしては芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸とジオールを主たる構成成分とする単量体からの重合により得られるポリエステルが好ましい。
【0045】
ここで、芳香族ジカルボン酸として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、4,4′-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′-ジフェニルスルホンジカルボン酸などを挙げることができる。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、シクロヘキサンジカルボン酸とそれらのエステル誘導体などが挙げられる。中でも好ましくはテレフタル酸と2,6-ナフタレンジカルボン酸を挙げることができる。これらの酸成分は1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよく、さらには、ヒドロキシ安息香酸等のオキシ酸などを一部共重合してもよい。
【0046】
また、ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート、スピログリコール、などを挙げることができる。中でもエチレングリコールが好ましく用いられる。これらのジオール成分は1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0047】
上記ポリエステルのうち、ポリエチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリエチレンナフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンナフタレートおよびその共重合体、さらにはポリヘキサメチレンテレフタレートおよびその共重合体ならびにポリヘキサメチレンナフタレートおよびその共重合体の中から選択されるポリエステルを用いることが好ましい。
【0048】
また、本発明の積層体が有する多層積層フィルムが前述の多層積層フィルム構成であるとき、用いられる異なる性質を有する熱可塑性樹脂の好ましい組み合わせとしては、各熱可塑性樹脂のガラス転移温度の差の絶対値が20℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度の差の絶対値を20℃以下とすることで、多層積層フィルムを製造する際の延伸不良を抑えることができる。
【0049】
本発明の積層体が有する多層積層フィルムが前述の多層積層フィルム構成であるとき、用いられる異なる性質を有する熱可塑性樹脂の好ましい組み合わせとしては、各熱可塑性樹脂のSP値(溶解性パラメータともいう)の差の絶対値が、1.0以下であることが好ましい。SP値の差の絶対値が1.0以下であると層間剥離が生じにくくなる。
【0050】
また、異なる性質を有するポリマーは同一の基本骨格を供えた組み合わせからなることが好ましい。ここでいう基本骨格とは、樹脂を構成する繰り返し単位のことであり、たとえば、一方の熱可塑性樹脂としてポリエチレンテレフタレートを用いる場合は、高精度な積層構造が実現しやすい観点から、他方の熱可塑性樹脂として、ポリエチレンテレフタレートと同一の基本骨格であるエチレンテレフタレートを含むことが好ましい。異なる光学的性質を有するポリエステル樹脂同士を同一の基本骨格を含む樹脂同士とすることで、積層精度を高くし、さらに積層界面での層間剥離を抑えることができる。
【0051】
同一の基本骨格を有し、かつ、異なる性質を具備させるには、共重合体とすることが望ましい。すなわち、例えば、一方の樹脂がポリエチレンテレフタレートの場合、他方の樹脂は、エチレンテレフタレート単位と他のエステル結合を持った繰り返し単位とで構成された樹脂を用いるような態様である。他の繰り返し単位を入れる割合(共重合量ということがある)としては、異なる性質を獲得する必要性から5%以上が好ましく、より好ましくは10%以上である。一方、層間の密着性や、熱流動特性の差が小さいため各層の厚みの精度や厚みの均一性を維持する上では、90%以下が好ましく、より好ましくは80%以下である。
【0052】
また、A層とB層はそれぞれ、複数種の熱可塑性樹脂がブレンドまたはアロイされ用いられることも望ましい。複数種の熱可塑性樹脂をブレンドまたはアロイさせることで、1種類の熱可塑性樹脂では得られない性能を得ることができる。
【0053】
本発明の積層体が有する多層積層フィルムが前述の多層積層フィルム構成であるとき、熱可塑性樹脂Aおよび/または熱可塑性樹脂Bがポリエステルであることが好ましく、熱可塑性樹脂Aがポリエチレンテレフタレートを主たる成分とし、熱可塑性系樹脂Bがジカルボン酸成分としてテレフタル酸、ジオール成分としてエチレングリコールを含んでなり、さらに、ジカルボン酸成分として、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ジオール成分としてシクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドのうち少なくともいずれか1つの共重合成分を含んでなるポリエステルを主たる成分とすることも好ましい。なお、本発明において「主たる成分」とは、構成する樹脂全体の50質量%を超える成分を表す。
【0054】
本発明の積層体が有する多層積層フィルムは、隣接する層の面内屈折率差が小さく、面直屈折率の差が大きいことが好ましい。ここで、面内屈折率の差としては0.03以下であることが好ましく、より好ましくは0.02以下、さらに好ましくは0.01以下である。面直屈折率の差としては0.03より大きいことが好ましく、より好ましくは0.06以上、さらに好ましくは0.09以上、特に好ましくは0.12以上である。隣接する層がこのような面内屈折率差と面直屈折率差を持つことで、正面方向の光は反射せず透過し、斜め方向のP波の光を反射する特性を高めることができる。多層積層フィルムの各層の面内屈折率はフィルム面内の方位によって異なる屈折率を取り得る。層を構成する熱可塑性樹脂が非晶性樹脂であることや、結晶性樹脂であっても融点よりも10℃以上高い温度で熱処理を行った場合は、その層の屈折率は面内の測定方位や、面内・面直によらず一定の屈折率である等方性と見なすことができるが、結晶性樹脂であり融点以下の温度で熱処理を行った場合は、測定方位によって異なる面内屈折率を取り得る。この面内屈折率の測定方位でのムラは0.03以下であることが好ましくより好ましくは0.02以下、さらに好ましくは0.01以下である。面内屈折率の測定方位でのムラを小さくするには、多層積層フィルムの延伸が長手方向と幅方向に延伸する二軸延伸であって、延伸による長手方向と幅方向への熱可塑性樹脂の配向をバランス化することを採用することができる。面内屈折率の測定方位でのムラが小さくなると、本発明の積層体の各方位角における反射率のムラが小さくなる。
【0055】
所望の波長範囲における反射率を調整する方法は、隣接する層の面直屈折率差、多層積層フィルムの積層数、各層の層厚み分布、製膜条件(例えば延伸倍率、延伸速度、延伸温度、熱処理温度、熱処理時間)の調整等が挙げられる。
【0056】
A層とB層の2種交互積層の好ましい構成としては、A層が結晶性の熱可塑性樹脂を用いてなり、B層が非晶性の熱可塑性樹脂を主たる成分とする樹脂またはA層の熱可塑性樹脂の融点よりも15℃以上低い融点を持つ結晶性の熱可塑性樹脂を主たる成分とする樹脂を用いてなる組み合わせを挙げることができる。反射率が高くなり積層数が少なく済むことから、A層とB層の面直屈折率差は高い方が好ましく、積層数は101層以上が好ましく、より好ましくは401層以上、さらに好ましくは601層以上であり、積層装置の大型化の観点から上限としては5000層程度である。層厚み分布は隣接するA層とB層の光学厚みが下記(1)式を満たすことが好ましい。
【0057】
【0058】
ここでλは反射波長、nAはA層の面直屈折率、dAはA層の厚み、nBはB層の面直屈折率、dBはB層の厚みである。
【0059】
層厚みの分布はフィルム面の一方から反対側の面へ向かって一定の層厚み分布や、フィルム面の一方から反対側の面へ向かって増加または減少する層厚み分布や、フィルム面の一方からフィルム中心へ向かって層厚みが増加した後減少する層厚み分布や、フィルム面の一方からフィルム中心へ向かって層厚みが減少した後増加する層厚み分布等が好ましい。層厚み分布の設計としては、線形、等比、階差数列といった連続的に変化するものや、10層から50層程度の層がほぼ同じ層厚みを持ち、その層厚みがステップ状に変化するものが好ましい。
【0060】
多層積層フィルムにおける両表層部には、保護層として層厚み3μm以上の層を設けることが好ましい。保護層の厚みは好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上である。このように保護層の厚みを厚くとることで、製膜時の成形不良であるいわゆるフローマークの抑制、他のフィルムや成形体とのラミネート工程およびラミネート工程後における多層積層フィルム中の薄膜層の変形の抑制、耐押圧性の向上などの効果を得ることができる。
【0061】
本発明で用いる多層積層フィルムの厚みは、特に限られるものではないが、例えば20μm~300μmであることが好ましい。20μm以上とすることで、フィルムに腰を与えハンドリング性を向上させることができる。また、300μm以下とすることで、フィルムの腰が強すぎて成形性が悪くなるのを抑えることができる。
【0062】
次に本発明の積層体がS波に対しても干渉反射を発現する原理について、本発明の積層体の一態様として、
図7、
図9の態様を挙げて説明する。
図7、
図9は本発明の積層体によるS波の干渉反射を説明する図であり積層体7の断面図である。10aは本発明の積層体に入射するP波を、11aは本発明の積層体に入射するS波を示す。なお、本発明の積層体によって干渉反射されなかった成分や表面反射される成分については
図7、
図9には記載していない。本発明の積層体に入射したP波10aは多層積層フィルム8aによって干渉反射される。なお、図には記載はしていないが、P波の反射率が100%でない場合は、入射したP波の一部は透過される。また、図には記載していないが、多層積層フィルムの表面でのP波の反射(表面反射)も発生している。一方、S波11aは干渉反射されずに多層積層フィルム8aを透過する。なお、図には記載はしていないが、入射したS波の一部は多層積層フィルムの表面で反射(表面反射)されている。
【0063】
この多層積層フィルム8aを透過したS波11bは、
図7においては、複屈折を有する層(以降、「複屈折層」と呼ぶ場合がある)9を通過することでP波12aに変換される。この変換によるP波12aを、入射方向から見て複屈折層9の奥側の多層積層フィルム8bにより干渉反射させることによって、本発明の積層体に入射したP波のみならずS波に対しても干渉反射を発現させている。つまり、
図7の態様においては、多層積層フィルムが干渉反射を行っているのは実際にはP波に対してであるが、実質的には積層体に入射したP波とS波の両方が干渉反射に寄与している。
【0064】
また、
図9においては、S波11bが偏光解消層14を通過することで、P波15aとS波15bに変換される。この変換によるP波15bを、入射方向から見て偏光解消層14の奥側の多層積層フィルム8bにより干渉反射させることによって、本発明の積層体に入射したP波のみならずS波に対しても干渉反射を発現させている。つまり、
図9の態様においては、多層積層フィルムが干渉反射を行っているのは実際にはP波に対してであるが、実質的には積層体に入射したP波とS波の一部の両方が干渉反射に寄与している。
【0065】
一方、
図8は従来技術を用いた場合の一例として多層積層フィルム8a、8bを透明接着剤13で積層した積層体の断面図である。偏光を制御する機能を何ら有しない透明接着剤13を用いた場合は、多層積層フィルムを何枚積層しても積層体に入射したS波に由来する干渉反射は発現しない。
【0066】
本発明の積層体は、前述の多層積層フィルムと複屈折層を有する積層体であることが好ましく、複屈折を有する層の両側に多層積層フィルムを有する構成、または、複屈折を有する層の両側に接着層を介して多層積層フィルムを有する構成であることが好ましい。多層積層フィルムと複屈折層を有する積層体の好ましい様態の一例として
図7の積層体が挙げられる。
【0067】
複屈折層は通過する光の偏光状態を変化させる特徴を有する。複屈折層の面内方向における主配向軸方位を0°としたとき、その主配向軸方位0°に対して偏光の振動方向の方位φが0°<φ<90°の範囲で複屈折層を偏光が通過すると、その偏光の偏光特性が変化する。つまりS波がその振動の方位角φSを0°<φS<90°として複屈折層を通過すると、その一部または全成分がP波に変換される。
【0068】
複屈折層を通過することによるS波からP波への変換は、複屈折層の位相差(Re)と、複屈折層の面内方向における主配向軸方位と入射したS波の振動の方位がなす方位角(φS)によって決定される。
【0069】
複屈折層の位相差は、波長590nmにおける位相差(Re(590))が100nm~500nmの範囲であることが好ましい。位相差の1/4の波長のS波をP波とS波に変換する効果を持つλ/4板としては、Re(590)がより好ましくは100nm~200nmの範囲、さらに好ましくは100nm~180nm(140±40nm)の範囲である。位相差の1/2の波長のS波をP波に変換する効果を持つλ/2板としては、Re(590)がより好ましくは200nm~400nmの範囲、さらに好ましくは200nm~360nmの範囲、さらに好ましくは240nm~320nm(280±40nm)の範囲である。
【0070】
位相差は複屈折×厚みで算出される。複屈折層の面内方向の複屈折は0.5×10-3以上であることが好ましく、より好ましくは1.0×10-3以上、さらに好ましくは3.0×10-3以上である。
【0071】
次に、位相差とS波の偏光変換の一例を説明する。Re(590)が280nmの複屈折層に対して、S波の振動の方位が複屈折層の主配向軸方位に対して方位角φS=45°で通過するとS波の振動の方位は90°変換されP波となる。また、Re(590)が140nmの複屈折層に対して、S波の振動の方位が複屈折層の主配向軸方位に対して方位角φS=45°で通過するとS波は1/2がP波に変換される。この変換効率は方位角φS=45°が最大であり45°から離れるにつれて効果が低くなるため、S波の振動方向の方位と複屈折層の配向軸の方位がなす角φSは0°<φS<90°、90°<φS<180°の範囲であることが好ましく、より好ましくは15°<φS<75°、105°<φS<165°の範囲であり、更に好ましくは30°<φS<60°、120°<φS<150°の範囲である。
【0072】
本発明の積層体が有する複屈折層は熱可塑性樹脂または液晶を主たる成分とすることが好ましく、熱可塑性樹脂としてはポリビニルアルコール、ポリカーボネート、シクロオレフィン、ポリメチルメタクリレートのいずれかを主たる成分とすることが好ましい。これらの成分により位相差100nm~500nmを比較的容易に得ることができる。ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、シクロオレフィン、ポリメチルメタクリレートはフィルムまたはシート状で少なくとも一方方向に延伸することで複屈折を持たせることが好ましく、液晶としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、および、スチリル基等のエチレン性不飽和基、エポキシ基、および、オキセタン基等のカチオン性重合性基などが好ましい。液晶の形状としては、棒状、円盤状などが挙げられる。マトリクス中に液晶を分散させた後、基材や多層積層フィルムに塗布し一方方向に配向させることが好ましい。配向方法としては、ローラーを押し付けた後ローラーを回転させるラビング法や、紫外線や可視光線などの光を直線偏光で照射する光配向法などが挙げられる。
【0073】
本発明の積層体が有する複屈折層は一軸配向されていることが好ましい。一軸配向されていると入射角度や方位角に対する位相差の変化量が小さくなるため、入射角度や方位角に対するS波の偏光変換の依存性が小さくなり好ましい。
【0074】
本発明の積層体が有する複屈折層の厚みは特に限られるものではないが、例えば1μm~200μmであることが好ましい。複屈折層が熱可塑性樹脂を主たる成分とする場合は5μm~100μmであることがより好ましく、液晶を主たる成分とする場合は、1μm~20μmであることがより好ましい。
【0075】
本発明の積層体は、多層積層フィルムと、液晶および/またはアスペクト比が1.5以上の粒子を含む、偏光解消効果を有する層(以降、「偏光解消層」と呼ぶ場合がある)を有する積層体であって、偏光解消層の両側に多層積層フィルムを有する構成、または、偏光解消層の両側に接着層を介して多層積層フィルムを有する構成であることも好ましい。偏光解消層は通過する直線偏光を楕円または円偏光に変換する効果があるため、S波が偏光解消層を通過するとS波とP波からなる楕円または円偏光に変換される。多層積層フィルムと偏光解消層を有する積層体の好ましい様態の一例として
図9が挙げられる。
【0076】
また、偏光解消層の例としては、液晶やアスペクト比が1.5以上の粒子(以降、「偏光解消材料」と呼ぶ場合がある)がマトリクス中に分散している構成が挙げられる。偏光解消材料は複屈折Δnが0.001以上であることが好ましい。また偏光解消材料のマトリクスにおける分散状態は、偏光解消材料の屈折率の高い方向と屈折率の低い方向がマトリクス中でランダム(整列していない)であることが好ましい。分散状態がランダムである結果、偏光解消層を通過する偏光に対して様々な位相差が生じることで偏光が解消される。
【0077】
ヘイズ低減の観点からマトリクスの屈折率は、偏光解消材料の平均屈折率に対して、その差が0.1以下となることが好ましい。マトリクス中における偏光解消材料の含有量は特に限られるものではないが、例えばマトリクスの全質量に対して、10~90質量%が好ましく、10~60質量%がより好ましく、さらに好ましくは10~40質量%である。偏光解消材料は1種類用いても2種類以上用いてもよい。
【0078】
偏光解消層に用いる液晶はその配向がランダムであるランダム液晶であることが好ましく、アスペクト比1.5以上の粒子は無機粒子であることが好ましい。
【0079】
偏光解消層に用いる液晶としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、および、スチリル基等のエチレン性不飽和基、エポキシ基、および、オキセタン基等のカチオン性重合性基などが好ましい。液晶の形状としては、棒状、円盤状などが挙げられる。またキラル剤を添加することも好ましい。キラル剤の含有量は特に限られるものではないが、例えばマトリクスの全質量に対して、0.1~10質量%が挙げられる。
【0080】
アスペクト比1.5以上の粒子としては、セルロース、ポリスチレン、アクリルや、シリカや、ストロンチウム、マグネシウム、カルシウムおよびその炭酸塩、酸化物や、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズおよびその酸化物が挙げられる。その形状としては、針状、棒状、多角柱状、紡錘状などが挙げられる。粒子の大きさは短軸方向の長さが1nm以上、通常100μm以下、好ましくは1000nm以下であり、アスペクト比は2.0以上より好ましくは5.0以上、さらに好ましくは10以上であり、特に上限は設けないが製造限界などから1000程度である。
【0081】
マトリクスとしては、樹脂は熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられ、熱硬化性樹脂はエポキシ、熱硬化性ポリイミド、フェノール、メラミン、ジアリルフタレート、シリコーン、ウレタンなどが、熱可塑性樹脂はオレフィン、アクリル、スチレン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、マレイミド、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリメチルペンテン、フッ素、セルロースなどがあげられる。樹脂以外としては、ガラスなどが挙げられる。
【0082】
偏光解消層の製造方法としては、マトリクス中に偏光解消材料を添加してフィルムまたはシート形状に製造することや、マトリクス中に分散させた後、基材や多層積層フィルムに塗布することが好ましい。
【0083】
本発明の積層体は、前述の多層積層フィルムを少なくとも一方の表層に有することが好ましい。
【0084】
本発明の積層体および/または積層体が有する多層積層フィルムは、正面方向の透過率を高くするため、さらにその表面にプライマー層、ハードコート層、反射防止層(AR、AG)を有していてもよい。表面よりも屈折率の低い層を設けることでフィルム面に垂直に入射する光の透過率を高くすることができる。
【0085】
本発明の積層体および/または積層体が有する多層積層フィルムは、さらにその表面に耐磨耗性層、傷防止層、色補正層、紫外線吸収層、光安定化層(HALS)、熱線吸収層、印刷層、ガスバリア層、粘着層などの機能性層を上記以外に有していても良い。これらの層は1層でも多層でも良く、また、1つの層に複数の機能を持たせても良い。また、多層積層フィルム中に、紫外線吸収剤、光安定化剤(HALS)、熱線吸収剤、結晶核剤、可塑剤などの添加剤を有していても良い。
【0086】
本発明に含まれる多層積層フィルムを製造する具体的な態様の例を以下に記すが、本発明に含まれる多層積層フィルムはかかる例によって限定して解釈されるものではない。
【0087】
本発明に含まれる多層積層フィルムの積層構成が、熱可塑性樹脂Aを用いてなる層(A層)と熱可塑性樹脂Aとは異なる熱可塑性樹脂Bを用いてなる層(B層)とが交互に11層以上積層(A/B/A/B・・)されてなる多層積層フィルムの場合、A層に対応する押出機AとB層に対応する押出機Bの2台から熱可塑性樹脂が供給され、それぞれの流路からのポリマーが積層される。
【0088】
また、本発明に含まれる多層積層フィルムの積層構成が、A層と、B層と、熱可塑性樹脂A、熱可塑性樹脂Bとは異なる熱可塑性樹脂Cを用いてなる層(C層)とが交互に11層以上積層されてなる多層積層フィルム(例えば、A/B/C/A/B/C・・・のようにA/B/Cユニットが交互に積層されていたり、A/C/B/C/A/C/B/C・・・のようにA/CユニットとB/Cユニットが交互に積層されてなる多層積層フィルム)の場合、A層に対応する押出機AとB層に対応する押出機BとC層に対応する押出機Cの3台から熱可塑性樹脂が供給され、それぞれの流路からのポリマーが積層される。
【0089】
また必要であれば、各熱可塑性樹脂を、押出機に投入する前に乾燥することも好ましい。
【0090】
積層は、公知の積層装置であるマルチマニホールドタイプのフィードブロックとスクエアミキサーを用いる方法、もしくは、コームタイプのフィードブロックのみを用いることにより行うことができる。次いでその溶融体をT型口金等を用いてシート状に溶融押出し、その後、キャスティングドラム上で冷却固化して未延伸多層積層フィルムを得ることができる。積層精度を高める方法としては、特開2007-307893号公報、特許第4691910号公報、特許第4816419号公報に記載されている方法が好ましい。
【0091】
続いて、この未延伸多層積層フィルムの延伸および熱処理を施す。延伸方法としては、公知の逐次二軸延伸法、もしくは同時二軸延伸法による二軸延伸を採用することが好ましい。延伸温度は、未延伸多層積層フィルムのガラス転移点温度以上、ガラス転移点温度+80℃以下の範囲にて行うことが好ましい。延伸倍率は、長手方向、幅方向それぞれ2倍~8倍の範囲が好ましく、より好ましくは3~6倍の範囲であり、長手方向と幅方向の延伸倍率差を小さくすることが好ましい。長手方向の延伸は、縦延伸機ロール間の速度変化を利用して延伸を行うことが好ましい。また、幅方向の延伸は、公知のテンター法を利用する。すなわち、フィルムの両端をクリップで把持しながら搬送して、フィルム両端のクリップ間隔を広げることで幅方向に延伸する。
【0092】
また、テンターでの延伸は同時二軸延伸を行うことも好ましい。同時二軸延伸を行なう場合について説明する。冷却ロール上にキャストされた未延伸フィルムを、同時二軸テンターへ導き、フィルムの両端をクリップで把持しながら搬送して、長手方向と幅方向に同時および/または段階的に延伸する。長手方向の延伸は、テンターのクリップ間の距離を広げることで、また、幅方向はクリップが走行するレールの間隔を広げることで達成される。本発明における延伸・熱処理を施すテンタークリップは、リニアモータ方式で駆動することが好ましい。その他、パンタグラフ方式、スクリュー方式などがあるが、中でもリニアモータ方式は、個々のクリップの自由度が高いため延伸倍率を自由に変更できる点で優れている。
【0093】
延伸後に熱処理を行うことも好ましい。熱処理温度は、延伸温度以上、A層の熱可塑性樹脂の融点-10℃以下の範囲にて行うことが好ましく、熱処理後に熱処理温度-30℃以下の範囲にて冷却工程を経ることも好ましい。また、フィルムの熱収縮率を小さくするために、熱処理工程中または冷却工程中にフィルムを幅方向および/または長手方向に縮める(リラックス)ことも好ましい。リラックスの割合としては1%~10%の範囲が好ましく、より好ましくは1~5%の範囲である。
【0094】
最後に巻取り機にてフィルムを巻き取ることによって本発明の積層体が有する多層積層フィルムが製造される。
【0095】
本発明の積層体として、複屈折を有する層の両側に多層積層フィルムを有する構成、または、複屈折を有する層の両側に接着層を介して多層積層フィルムを有する構成の製造方法として具体的な態様の例を以下に記すが、本発明に含まれる積層体の製造方法はかかる例によって限定して解釈されるものではない。
【0096】
(1-1)多層積層フィルムと複屈折層を直接または接着層を介して積層する製造方法を、好ましく採用することができる。
この場合、複屈折層はフィルムまたはシート状であることが好ましい。多層積層フィルムと複屈折層の密着力を向上させるため、多層積層フィルムと複屈折層それぞれ、または両方の密着面側にプライマー層を設けることも好ましい。積層方法としてはロールラミネートが好ましく、ラミネート時および/またはラミネート後に熱および/または紫外線を加えることも好ましい。
【0097】
(1-2)基材上に複屈折層を設けた後、複屈折層の基材を有していない側に多層積層フィルムを積層した後、基材を剥離し、その後、複屈折層の基材を剥離した側に別の多層積層フィルムを積層する製造方法も、好ましく採用することができる。
基材としてはポリマーフィルム、ガラスなどが挙げられ、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルムが好ましい。基材と複屈折層とが剥離し易いように、基材と複屈折層との間に離型層を設けることも好ましい。また、多層積層フィルムと複屈折層の密着力を向上させるため、多層積層フィルムの複屈折層との密着面側にプライマー層を設けることも好ましい。特に、基材と複屈折層の密着力が多層積層フィルムと複屈折層の密着力よりも小さくなるように、離型層やプライマー層を設計することが好ましい。また、多層積層フィルムと複屈折層との間に接着層を用いて積層することも好ましい。積層方法としてはロールラミネートが好ましく、ラミネート時および/またはラミネート後に熱および/または紫外線を加えることも好ましい。
【0098】
(1-3)複屈折層の片側あるいは両側に多層積層フィルムを積層した後、少なくとも一方向に延伸する工程を有する製造方法も、好ましく採用することができる。
多層積層フィルムと複屈折層の密着力を向上させるため、多層積層フィルムと複屈折層のいずれか、または両方の密着面側にプライマー層を設けることも好ましい。また、多層積層フィルムと複屈折層との間に接着層を用いて積層することも好ましい。積層方法としてはロールラミネートが好ましく、ラミネート時および/またはラミネート後に熱および/または紫外線を加えることも好ましい。延伸方法はロール間の速度変化を利用して延伸を行うことやテンターを用いることが好ましく、延伸方向は長手方向や幅方向への延伸または、斜め方向への延伸などが好ましく、延伸温度は多層積層フィルムおよび/または複屈折を有する層のガラス転移点温度以上、ガラス転移点温度+80℃以下の範囲が好ましく、延伸倍率は1倍より大きく8倍以下が好ましい。
【0099】
(1-4)多層積層フィルム上に、複屈折層を構成する成分を含む塗液を塗布する工程を含む製造方法も、好ましく採用することができる。
多層積層フィルムと複屈折層の密着力を向上させるため、多層積層フィルムの複屈折層との密着面側にプライマー層を設けることも好ましい。塗布方法としては、バーコート、グラビアコート、ダイコートなどが挙げられる。多層積層フィルム上に、複屈折層を構成する成分を含む塗液を塗布した直後または、多層積層フィルム上に、当該塗液を塗布した後に、複屈折層の多層積層フィルムと積層していない側に別の多層積層フィルムを積層後に、熱および/または紫外線を加えることも好ましい。
【0100】
次に、本発明の積層体として、偏光解消層の両側に多層積層フィルムを有する構成、または、偏光解消層の両側に接着層を介して多層積層フィルムを有する構成の製造方法として具体的な態様の例を以下に記すが、本発明に含まれる積層体の製造方法はかかる例によって限定して解釈されるものではない。
【0101】
(2-1)多層積層フィルムと偏光解消層を直接または接着層を介して積層する製造方法を、好ましく採用することができる。
この場合、偏光解消層はフィルムまたはシート状であることが好ましい。
多層積層フィルムと偏光解消層の密着力を向上させるため、多層積層フィルムと偏光解消層それぞれ、または両方の密着面側にプライマー層を設けることも好ましい。積層方法としてはロールラミネートが好ましく、ラミネート時および/またはラミネート後に熱および/または紫外線を加えることも好ましい。
【0102】
(2-2)基材上に偏光解消層を設けた後、偏光解消層の基材を有していない側に多層積層フィルムを積層した後、基材を剥離し、その後、偏光解消層の基材を剥離した側に別の多層積層フィルムを積層する製造方法も、好ましく採用することができる。
基材としてはポリマーフィルム、ガラスなどが挙げられ、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルムが好ましい。基材と偏光解消層が剥離し易いように、基材と複屈折を有する層との間に離型層を設けることも好ましい。また、多層積層フィルムと偏光解消層の密着力を向上させるため、多層積層フィルムの偏光解消層との密着面側にプライマー層を設けることも好ましい。特に、基材と偏光解消層の密着力が多層積層フィルムと偏光解消層の密着力よりも小さくなるように、離型層やプライマー層を設計することが好ましい。また、多層積層フィルムと偏光解消層との間に接着層を用いて積層することも好ましい。積層方法としてはロールラミネートが好ましく、ラミネート時および/またはラミネート後に熱および/または紫外線を加えることも好ましい。
【0103】
(2-3)複屈折を有する層の片側あるいは両側に多層積層フィルムを積層した後、少なくとも一方向に延伸する工程を有する製造方法も、好ましく採用することができる。
多層積層フィルムと偏光解消層の密着力を向上させるため、多層積層フィルムと偏光解消層のいずれか、または両方の密着面側にプライマー層を設けることも好ましい。また、多層積層フィルムと偏光解消層との間に接着層を用いて積層することも好ましい。積層方法としてはロールラミネートが好ましく、ラミネート時および/またはラミネート後に熱および/または紫外線を加えることも好ましい。延伸方法はロール間の速度変化を利用して延伸を行うことやテンターを用いることが好ましく、延伸方向は長手方向や幅方向への延伸または、斜め方向への延伸などが好ましく、延伸温度は多層積層フィルムおよび/または複屈折を有する層のガラス転移点温度以上、ガラス転移点温度+80℃以下の範囲が好ましく、延伸倍率は1倍より大きく8倍以下が好ましい。但し、偏光解消材料の屈折率の高い方向と屈折率の低い方向がマトリクス中でランダム(整列していない)であることが好ましい観点から、偏光解消材料の配向を抑えた延伸条件であることが好ましい。
【0104】
(2-4)多層積層フィルム上に、偏光解消層を構成する成分を含む塗液を塗布する工程を含む製造方法も、好ましく採用することができる。
多層積層フィルムと偏光解消層の密着力を向上させるため、多層積層フィルムの偏光解消層との密着面側にプライマー層を設けることも好ましい。塗布方法としては、バーコート、グラビアコート、ダイコートなどが挙げられる。多層積層フィルム上に、偏光解消層を構成する成分を含む塗液を塗布した直後または、多層積層フィルム上に、当該塗液を塗布した後に、偏光解消層の多層積層フィルムと積層していない側に別の多層積層フィルムを積層後に、熱および/または紫外線を加えることも好ましい。
【0105】
本発明の積層体は、正面方向の光を透過し、斜め方向の光を透過しない特性を有するため、特にディスプレイ関係の種々の用途に好適に用いることができる。
【0106】
本発明の導光板ユニットは、導光板の出射面側に本発明の積層体を配してなることにより、優れた正面集光性を発揮することができる。導光板ユニットにおける本発明の積層体の位置関係としては、反射フィルム/導光板/本発明の積層体/拡散シート/プリズムシート、反射フィルム/導光板/拡散シート/本発明の積層体/プリズムシート、反射フィルム/導光板/拡散シート/プリズムシート/本発明の積層体といったように、導光板よりも出射面側に本発明の積層体を配して使用されることが好ましく、プリズムシートよりも射出光の出側に用いられることが好ましい。
【0107】
また本発明の光源ユニットも、本発明の積層体あるいは本発明の導光板ユニットを用いてなることにより、正面集光性に優れる。光源ユニットとしては、本発明の導光板ユニットと光源を有する、エッジ型の光源ユニット(エッジ型バックライト)や、複数の光源が設置された基板の出射面側に本発明の積層体を配した直下型の光源ユニット(直下型バックライト)が好ましい。直下型における本発明の積層体の位置関係としては、反射フィルム/拡散板/本発明の積層体/プリズムシート、反射フィルム/拡散板/プリズムシート/本発明の積層体といったように、拡散板よりも出射面側に本発明の積層体を配することが好ましい。また、エアーギャップのある状態で設置するだけでなく、粘着剤や接着剤などで他の部材と貼り合わせて配することも好ましい。
【0108】
本発明の導光板ユニットおよび本発明の直下型の光源ユニットに共通して、本発明の積層体によって出射光を集光させることが出来るため、プリズムシートは省略することもできる。反射フィルムは拡散反射や鏡面反射するフィルムが挙げられ、特に拡散反射性の高いものが好ましく、白色反射フィルムが好ましい。拡散フィルムやプリズムシートは1枚のみである必要はなく、2枚以上用いる構成も取り得る。
【0109】
光源としては、白色光源や赤色、青色、緑色の単色光源やそれらの単色光源を2種類組み合わせたものが挙げられ、その発光帯域は450nm~650nmの範囲を備えることが好ましい。また、光源の発光方式としては、LED(Light Emitting Diode)、CCFL(Cold Cathode Fluorescent Lamp)、有機ELなどが挙げられる。
【0110】
また本発明の表示装置は、本発明の光源ユニットの優れた正面集光性により、高コントラスト、高輝度を達成する。その表示装置としては液晶表示装置や有機EL(Electro-Luminescence)表示装置などを挙げることができる。
【0111】
また本発明の積層体を用いてなる本発明の投影画像表示部材は、現実世界の映像情報は正面から見とおすことができ、仮想世界の映像情報や文字情報は斜めから投影することで表示させるといった、光反射の高い指向性による優れた視認効果を奏する。例えば、自動車のガラスやプロンプターに本発明の投影画像表示部材を用いることで、正面方向の透明性を維持しつつ情報を鮮明かつ再現性高く表示することが可能となる。
【0112】
本発明の投影画像表示部材の構成の例としては、本発明の積層体が透明部材の少なくとも一方の面に積層されているものや、本発明の積層体が少なくとも2つの透明部材間に積層されているものなどを挙げることができる。次述する自動車のインターフェースの場合、本発明の積層体あるいは本発明の投影画像表示部材を自動車のガラスに接着剤を介して貼りあわせてもよいし、自動車に用いる合わせガラスの内部に挿入してもよい。また、本発明の積層体を透明基材と貼りあわせて本発明の投影画像表示部材とし、プロンプターとして用いてもよい。
【0113】
また、本発明の投影画像表示装置は、本発明の投影画像表示部材と、当該投影画像表示部材の表示面の法線に対して20°以上の角度をもって入射される光源を備えたことを特徴とする。より具体的な用途としては、自動車や航空機の操縦席のフロントガラス等を含むインターフェース、電子看板、ゲーム機器などに用いられるヘッドアップディスプレイ(HUD)やヘッドマウントディスプレイ(HMD)を挙げることができる。自動車のインターフェースに用いる場合は、自動車のガラス(フロントガラス、サイドガラス、リヤガラスなど)やフロントガラス近傍に設けられた透明基材からなるプロンプターに向けて小型投影基材から情報を投影して用いることができる。
【0114】
また本発明の表示画面用フィルターは、本発明の積層体を用いてなることを特徴とする。本発明の表示画面用フィルターは正面方向の透過性が高く、斜め方向の反射性が高いため、ディスプレイの表示画面に設置したときに、表示画面を正面から見たときには明瞭に画面の表示を見ることができるが横方向から見たときには画面の表示を見ることができないという、覗き見防止の効果を奏する。さらに、従来覗き見防止用途として用いられているルーバーフィルムは正面方向から見た場合に画面の明るさが暗くなってしまうという問題があったが、本発明の表示画面用フィルターは画面の明るさをほとんど損なわない。
【0115】
また、本発明の積層体は、表示装置の完成品として、表示装置の表示画面に貼り付けられていてもよいし、画面を構成する部材の内部に組み込まれていてもよい。すなわち、本発明の積層体を画像表示部に用いてなることを特徴とする表示装置もまた、本発明の表示装置である。この場合の本発明の表示装置の具体的な態様としては、本発明の積層体を液晶セルの前面に配してなる液晶表示装置や、本発明の積層体を発光層の前面に配してなる有機EL表示装置などを挙げることができる。
【0116】
また、本発明の積層体は、正面方向と斜め方向で色調および/または光沢感が変化する加飾フィルム用途などにも好適に用いることができる。
【実施例】
【0117】
以下、本発明の積層体を具体的な実施例をあげて説明する。なお、以下に具体的に例示した熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂を用いた場合でも下記実施例を含めた本明細書の記載を参酌すれば、同様にして本発明の積層体を得ることができる。
【0118】
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
物性値の評価方法ならびに効果の評価方法は次の通りである。
【0119】
(1)主配向軸方向
サンプルサイズを10cm×10cmとし、フィルム幅方向中央において、サンプルを切り出した。KSシステムズ(株)製(現王子計測機器(株))の分子配向計MOA-2001を用いて、主配向軸方向を求めた。
【0120】
(2)透過率
日立製作所(株)製 分光光度計(U-4100 Spectrophotomater)の標準構成(固体測定システム)にて、入射角度θ=0°の角度で波長400~700nmの光を入射したときの透過率を1nm刻みで測定し、その平均透過率を求めた。測定条件としては、スリットは2nm(可視)、自動制御(赤外)とし、ゲインは2と設定し、走査速度を600nm/分とした。
【0121】
(3)多層積層フィルムの反射率
日立製作所(株)製 分光光度計(U-4100 Spectrophotomater)に付属の角度可変反射ユニットとグランテーラ偏光子を取り付け、入射角度θ=20°、40°、70°の角度で波長400~700nmの範囲において1nm刻みでP波とS波の光を入射し、それぞれの反射率を測定した。得られた反射率から入射角度20°、40°、70°における波長400nm~700nmの範囲におけるP波に対する平均反射率としてRpf20、Rpf40、Rpf70を、S波に対する平均反射率としてRsf20、Rsf40、Rsf70を求めた。また、いずれの入射角における測定においても、入射光の方位φはフィルムの主配向軸に沿う方向とした。
【0122】
(4)積層体の反射率
日立製作所(株)製 分光光度計(U-4100 Spectrophotomater)に付属の角度可変反射ユニットとグランテーラ偏光子を取り付け、入射角度θ=20°、70°の角度で波長400~700nmの範囲において1nm刻みでS波の光を入射し、その反射率を測定した。得られた反射率から入射角度20°、70°それぞれの波長400nm~700nmにわたる平均反射率としてRs20(φ)、Rs70(φ)を求め、
Rs70(φ)-Rs20(φ)
を算出した。ここで方位角φnはフィルム面の任意の方位角0°を基準に右回りに0°、22.5°、45°、67.5°、90°の5点で測定した。後述する、ポリカーボネートの一軸延伸シート(PCシート)を用いた各実施例においては、方位角φnの0°基準は、用いたPCシートの主配向軸方向とした。また、PCシートを用いなかった比較例においては、方位角φnの0°基準は、積層体中の多層積層フィルムの主配向軸方向とした。
また、方位角φnにおいてフィルム面の法線に対して70°の角度で波長240nm~2600nmのS波の光を入射し、その反射率のうち最大値をRs70(φn)MAXと最小値Rs70(φn)MINを求め、その差
Rs70(φ)MAX-Rs70(φ)MIN
を算出した。
P波についても同様に、入射角度θ=20°、40°、70°の角度で波長400~700nmの範囲において1nm刻みでP波の光を入射し、その反射率を測定した。得られた反射率から入射角度20°、40°、70°における波長400nm~700nmの範囲におけるP波の平均反射率としてRp20(φn)、Rp40(φn)、Rp70(φn)を求めた。ここでの方位角φnはS波で測定した5点と同じ方位とし、それぞれの入射角における5点のφnの平均値をRp20、Rp40、Rp70とした。
【0123】
(5)位相差
王子計測機器(株)製 位相差測定装置(KOBRA-21ADH)を用い、入射角0°における波長590nmの位相差を求めた。
【0124】
(6)ガラス転移点温度、融点
樹脂ペレットを電子天秤で5mg計量し、アルミパッキンで挟み込みセイコーインスツルメント社(株)製ロボットDSC-RDC220示差走査熱量計を用いて、JIS-K-7122(2012年)に従い、25℃から300℃まで20℃/分で昇温して測定を行った。データ解析は同社製ディスクセッションSSC/5200を用いた。得られたDSCデータからガラス転移点温度(Tg)、融点(Tm)を求めた。
【0125】
(7)屈折率
アタゴ社製 アッベ屈折率計(NAR-4T)とNaD線ランプを用いて多層積層フィルムと樹脂ペレットの屈折率を測定した。多層積層フィルムは長手方向と幅方向それぞれの方向について面内屈折率と面直屈折率を測定した。樹脂ペレットの屈折率の測定は、70℃48時間、真空乾燥した樹脂ペレットを280℃で溶融後、プレス機を用いてプレスし、その後急冷することで、厚み500μmのシートを作成し、そのシートの屈折率を測定した。
【0126】
(8)IV(固有粘度)の測定方法
溶媒としてオルトクロロフェノールを用いて、温度100℃で20分溶解した後、温度25℃でオストワルド粘度計を用いて測定した溶液粘度から算出した。
【0127】
(9)視認性
積層体をLCDスマートフォンの前面に設置して、LCDスマートフォンの画面全面を緑色で表示し、入射角0°およびLCDスマートフォンの横方向(短辺方向)から入射角70°で画面を目視し、画面の視認性を評価した。なお、積層体中のPCシートの主配向軸方向がLCDスマートフォンの横方向に対して45°の方位となるように積層体を設置した。用いたLCDスマートフォンは画面の明るさに視野角依存性があり、入射角0°と比較して入射角70°の緑色表示は暗くなったが、十分視認できる明るさであった。
【0128】
(フィルムに用いた樹脂)
フィルムの用いた樹脂の詳細は下記のとおりである。
樹脂A:IV=0.67のポリエチレンテレフタレートの共重合体(イソフタル酸成分を酸成分全体に対して10mol%共重合したポリエチレンテレフタレート)、屈折率1.57、Tg75℃、Tm230℃。
樹脂B:IV=0.65のポリエチレンテレフタレート、屈折率1.58、Tg78℃、Tm254℃。
樹脂C:IV=0.67のポリエチレンテレフタレートの共重合体(2,6-ナフタレンジカルボン酸成分を酸成分全体に対して60mol%共重合したポリエチレンテレフタレート)に、テレフタル酸、ブチレン基、エチルヘキシル基を有する数平均分子量2000の芳香族エステルを樹脂全体に対して10質量%ブレンドしたポリエステル。屈折率1.62、Tg90℃、Tm無し。
樹脂D:IV=0.64のポリエチレンナフタレートの共重合体(2,6-ナフタレンジカルボン酸成分を酸成分全体に対して80mol%、イソフタル酸成分を酸成分全体に対して20mol%、分子量400のポリエチレングリコールをジオール成分全体に対して3mol%共重合したポリエチレンナフタレート)。屈折率1.64、Tg90℃、Tm216℃。
樹脂E:IV=0.73のポリエチレンテレフタレートの共重合体(シクロヘキサンジメタノール成分をジオール成分全体に対して33mol%共重合したポリエチレンテレフタレート)、屈折率1.57、Tg80℃、Tm無し。
【0129】
(多層積層フィルムの作成)
(多層積層フィルム1)
A層を構成する熱可塑性樹脂として樹脂Aを、B層を構成する熱可塑性樹脂として樹脂Cを用いた。樹脂Aおよび樹脂Cを、それぞれ、押出機にて280℃で溶融させ、FSSタイプのリーフディスクフィルタを5枚介した後、ギアポンプにて吐出比(積層比)が樹脂A/樹脂C=1.3になるように計量しながら、入射角70°でP波の光を入射したときに波長範囲400nm~600nmの反射光が観察されるように設計した493層フィードブロック(A層が247層、B層が246層)にて交互に合流させた。次いで、直線状のリップを持つ金型(Tダイ)に供給し、シート状に成形した後、ワイヤーで8kVの静電電圧を印加しながら、表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化し、未延伸多層積層フィルムを得た。この未延伸フィルムを、95℃、延伸倍率3.6倍で縦延伸を行い、フィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施し、そのフィルム両面の処理面に(ガラス転移温度が18℃のポリエステル樹脂)/(ガラス転移温度が82℃のポリエステル樹脂)/(平均粒径100nmのシリカ粒子)からなる積層形成膜塗液を塗布した。その後、両端部をクリップで把持するテンターに導き110℃、延伸倍率3.7倍で横延伸した後、210℃で熱処理を施し、210℃で幅方向の弛緩率5%のリラックス熱処理を施し、100℃で冷却した後、厚み60μmの多層積層フィルム1を得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0130】
A層の屈折率は多層積層フィルムからの屈折率測定値であり、B層は多層積層フィルム内部に存在するため屈折率を測定できないが、樹脂Cは非晶性であるため樹脂ペレットの屈折率1.62と等しく、また等方性であると見なした。
【0131】
(多層積層フィルム2)
A層を構成する熱可塑性樹脂として樹脂Aを、B層を構成する熱可塑性樹脂として樹脂Cを用いた。樹脂Aおよび樹脂Cを、それぞれ、押出機にて280℃で溶融させ、FSSタイプのリーフディスクフィルタを5枚介した後、ギアポンプにて吐出比(積層比)が樹脂A/樹脂C=1.5になるように計量しながら、入射角70°でP波の光を入射したときに波長範囲400nm~700nmの反射光が観察されるように設計した801層フィードブロック(A層が401層、B層が400層)にて交互に合流させた。次いで、多層積層フィルム1と同様にして、未延伸多層積層フィルムを得た。この未延伸フィルムを、95℃、延伸倍率3.6倍で縦延伸を行い、フィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施し、そのフィルム両面の処理面に(ガラス転移温度が18℃のポリエステル樹脂)/(ガラス転移温度が82℃のポリエステル樹脂)/(平均粒径100nmのシリカ粒子)からなる積層形成膜塗液を塗布した。その後、両端部をクリップで把持するテンターに導き110℃、延伸倍率3.7倍で横延伸した後、210℃で熱処理を施し、210℃で幅方向の弛緩率5%のリラックス熱処理を施し、100℃で冷却した後、厚み105μmの多層積層フィルム2を得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0132】
A層の屈折率は多層積層フィルムからの屈折率測定値であり、B層は多層積層フィルム内部に存在するため屈折率を測定できないが、樹脂Cは非晶性であるため樹脂ペレットの屈折率1.62と等しく、また等方性であると見なした。
【0133】
(多層積層フィルム3)
A層を構成する熱可塑性樹脂として樹脂Bを、B層を構成する熱可塑性樹脂として樹脂Dを用いた。樹脂Bおよび樹脂Dを、それぞれ、押出機にて280℃で溶融させ、FSSタイプのリーフディスクフィルタを5枚介した後、ギアポンプにて吐出比(積層比)が樹脂B/樹脂D=1.3になるように計量しながら、入射角70°でP波の光を入射したときに波長範囲400nm~600nmの反射光が観察されるように設計した493層フィードブロック(A層が247層、B層が246層)にて交互に合流させた。次いで、多層積層フィルム1と同様にして、未延伸多層積層フィルムを得た。この未延伸フィルムを、95℃、延伸倍率3.3倍で縦延伸を行い、フィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施し、そのフィルム両面の処理面に(ガラス転移温度が18℃のポリエステル樹脂)/(ガラス転移温度が82℃のポリエステル樹脂)/(平均粒径100nmのシリカ粒子)からなる積層形成膜塗液を塗布した。その後、両端部をクリップで把持するテンターに導き100℃、延伸倍率3.5倍で横延伸した後、230℃で熱処理を施し、230℃で幅方向の弛緩率5%のリラックス熱処理を施し、100℃で冷却した後、厚み60μmの多層積層フィルム3を得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0134】
A層の屈折率は多層積層フィルムからの屈折率測定値であり、B層は多層積層フィルム内部に存在するため屈折率を測定できないが、樹脂Dの融点は216℃であり230℃の熱処理によって結晶が融解し非晶性になっているため樹脂ペレットの屈折率1.64と等しく、また等方性であると見なした。
【0135】
(多層積層フィルム4)
A層を構成する熱可塑性樹脂として樹脂Bを、B層を構成する熱可塑性樹脂として樹脂Dを用いた。樹脂Bおよび樹脂Dを、それぞれ、押出機にて280℃で溶融させ、FSSタイプのリーフディスクフィルタを5枚介した後、ギアポンプにて吐出比(積層比)が樹脂B/樹脂D=1.5になるように計量しながら、入射角70°でP波の光を入射したときに波長範囲400nm~700nmの反射光が観察されるように設計した801層フィードブロック(A層が401層、B層が400層)にて交互に合流させた。次いで、多層積層フィルム1と同様にして、未延伸多層積層フィルムを得た。この未延伸フィルムを、95℃、延伸倍率3.3倍で縦延伸を行い、フィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施し、そのフィルム両面の処理面に(ガラス転移温度が18℃のポリエステル樹脂)/(ガラス転移温度が82℃のポリエステル樹脂)/(平均粒径100nmのシリカ粒子)からなる積層形成膜塗液を塗布した。その後、両端部をクリップで把持するテンターに導き100℃、延伸倍率3.5倍で横延伸した後、230℃で熱処理を施し、230℃で幅方向の弛緩率5%のリラックス熱処理を施し、100℃で冷却した後、厚み105μmの多層積層フィルム4を得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0136】
A層の屈折率は多層積層フィルムの屈折率測定値であり、B層は多層積層フィルム内部に存在するため屈折率を測定できないが、樹脂Dの融点は216℃であり230℃の熱処理によって結晶が融解し非晶性になっているため樹脂ペレットの屈折率1.64で等方性であると見なした。
【0137】
(複屈折層)
複屈折層として、厚み60μmのポリカーボネートの一軸延伸シート(PCシート)を用いた。入射角度0°、波長590nmにおける位相差は270nmであった。
【0138】
(実施例1)
多層積層フィルム1を2枚、PCシートを1枚、厚み25μmのアクリル系光学粘着剤を用いてラミネーターで貼り合わせて、次の構成の積層体を作成した。
多層積層フィルム1/粘着剤/PCシート(複屈折層)/粘着剤/多層積層フィルム1
得られた積層体の物性を表2、3に示す。
【0139】
(実施例2)
多層積層フィルム2を2枚、PCシートを1枚、厚み25μmのアクリル系光学粘着剤を用いてラミネーターで貼り合わせて、次の構成の積層体を作成した。
多層積層フィルム2/粘着剤/PCシート(複屈折を有する層)/粘着剤/多層積層フィルム2
得られた積層体の物性を表2、3に示す。
【0140】
(実施例3)
多層積層フィルム3を2枚、PCシートを1枚、厚み25μmのアクリル系光学粘着剤を用いてラミネーターで貼り合わせて、次の構成の積層体を作成した。
多層積層フィルム3/粘着剤/PCシート(複屈折を有する層)/粘着剤/多層積層フィルム3
得られた積層体の物性を表2、3に示す。
【0141】
(実施例4)
多層積層フィルム4を2枚、PCシートを1枚、厚み25μmのアクリル系光学粘着剤を用いてラミネーターで貼り合わせて、次の構成の積層体を作成した。
多層積層フィルム4/粘着剤/PCシート(複屈折を有する層)/粘着剤/多層積層フィルム4
得られた積層体の物性を表2、3に示す。
本実施例にて視認性を評価したところ、入射角0°においては、外光が僅かに写り込んでいたものの、積層体を設置しなかったときと比較して緑色表示の明るさはほとんど変わらなかった。また入射角70°においては、画面は非常に暗く緑色表示はほとんど視認できなかった。
【0142】
(実施例5)
実施例4で作成した積層体の両表面にAR層として、含フッ素アクリレート化合物(屈折率:1.37)を塗布した。得られた積層体の物性を表2、3に示す。垂直に入射する光の透過率が向上し、さらに斜め方向の反射率もほとんど低下していなかった。
本実施例にて視認性を評価したところ、入射角0°においては、積層体を設置しなかったときと比較して緑色表示の明るさはほとんど変わらず、外光の映り込みもほとんど無かった。また入射角70°においては、画面は非常に暗く緑色表示はほとんど視認できなかった。
【0143】
(比較例1)
多層積層フィルム4を2枚用いて、厚み25μmのアクリル系光学粘着剤を用いてラミネーターで貼り合わせて(多層積層フィルム4/粘着剤/多層積層フィルム4)積層体を作成した。貼り合わせる際には多層積層フィルムの主配向軸方向を揃えて貼り合わせた。得られた積層体の物性を表2~3に示す。
本比較例にて視認性を評価したところ、入射角0°においては、外光が僅かに写り込んでいたものの、積層体を設置しなかったときと比較して緑色表示の明るさはほとんど変わらなかった。一方、入射角70°においては、積層体を設置しなかったときと比較して、緑色表示は暗くなったが、それでも視認できる明るさであった。
【0144】
(比較例2)
比較例1で作成した積層体の両表面にAR層として含フッ素アクリレート化合物(屈折率:1.37)を塗布した。得られた積層体の物性を表2~3に示す。垂直に入射する光の透過率は向上したが、S波の反射率の低下により斜め方向の反射率が著しく低下した。
本比較例にて視認性を評価したところ、入射角0°においては、積層体を設置しなかったときと比較して緑色表示の明るさはほとんど変わらず、外光の映り込みがほとんど無かった。一方、入射角70°においては、積層体を設置しなかったときと比較して、緑色表示は暗くなったが、それでも視認できる明るさであった。
【0145】
【0146】
【0147】
【符号の説明】
【0148】
1:フィルムに入射したS波の反射率
2:フィルムに入射したP波の反射率
3:積層体またはフィルム
4:フィルム面内で任意に選択した方位角0°の方向
5:方位角0°を基準に右回り(時計回り)に回転させた方位角φ方向
6:方位角φ
7:本発明の積層体の一例
8a,8b:多層積層フィルム
9:複屈折層
10a:多層積層フィルムに入射するP波成分
10b:多層積層フィルム8aにより干渉反射されたP波成分
11a:多層積層フィルムに入射するS波成分
11b:多層積層フィルム8aを透過したS波成分
12a:S波11bが複屈折層9を通過することでP波成分に変換されて多層積層フィルム8bに入射するP波成分
12b:P波成分12aが多層積層フィルム8bにより干渉反射されたP波成分
13:透明接着層
14:偏光解消層
15a:S波11bが偏光解消層を通過した後多層積層フィルム8bも通過するS波成分
15b:S波11bが偏光解消層を通過することでP波成分に変換されて多層積層フィルム8bに入射するP波成分
15c:P波成分15bが多層積層フィルム8bにより干渉反射されたP波成分