(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】析出システムおよび析出方法
(51)【国際特許分類】
B01D 9/02 20060101AFI20240220BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20240220BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
B01D9/02 602B
B01D9/02 601B
B01D9/02 601F
B01D9/02 603E
B01D9/02 606
B01D9/02 610Z
B01D9/02 618A
B01D61/02
B01D61/58
B01D9/02 601C
B01D9/02 604
(21)【出願番号】P 2020534996
(86)(22)【出願日】2020-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2020001505
(87)【国際公開番号】W WO2020158457
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2019014379
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 大樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 要二
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-137758(JP,A)
【文献】特開2013-043860(JP,A)
【文献】特開平06-063362(JP,A)
【文献】特開2018-069198(JP,A)
【文献】特開2014-161826(JP,A)
【文献】特開2018-001110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 9/02
B01D 61/02
B01D 61/04
B01D 61/08
B01D 61/16
B01D 61/18
B01D 61/58
C02F 1/44
C07C 51/00
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の対象成分が水に溶解した対象溶液について、前記対象成分を析出させる、析出システムであって、
所定の圧力に昇圧された前記対象溶液から逆浸透膜を介して水を分離し、前記対象溶液を濃縮する、逆浸透モジュールと、
前記逆浸透モジュールにおいて濃縮された前記対象溶液を規定温度まで冷却し、前記対象成分を析出させる、析出装置と、
半透膜、並びに、前記半透膜で仕切られた第1室および第2室を有する半透膜モジュールを含み、前記析出装置において前記対象成分を析出させた後の前記対象溶液を前記第1室および前記第2室の各々に流し、かつ、前記第1室内の前記対象溶液の圧力が前記第2室内の前記対象溶液の圧力よりも高くなるように加圧することで、前記第1室内の前記対象溶液に含まれる水を前記半透膜を介して前記第2室内に移行させ、前記第1室内の前記対象溶液を濃縮すると共に、前記第2室内の前記対象溶液を希釈する、膜分離装置と、
前記膜分離装置において前記半透膜モジュールの前記第1室で濃縮された前記対象溶液を前記析出装置に返送するための第1返送手段と、
前記膜分離装置において前記半透膜モジュールの前記第2室で希釈された前記対象溶液を前記逆浸透モジュールに返送するための第2返送手段と、
を備え
、
前記析出装置で析出した前記対象成分を含む析出物に対して、前記対象溶液、前記逆浸透モジュールの第2室から排出される水、または、前記半透膜モジュールの前記第2室内で希釈された対象溶液の一部をリンス液として用いて、前記対象成分が溶解しない程度にリンスを実施した後、前記析出物を回収する、析出システム。
【請求項2】
前記析出装置において前記対象成分を析出させた後の前記対象溶液は、加熱された後に前記膜分離装置に供給される、請求項1に記載の析出システム。
【請求項3】
前記対象溶液は、前記対象成分以外の成分である濃縮成分を含み、
前記対象成分が析出すると共に、前記濃縮成分が濃縮される、請求項1または2に記載の析出システム。
【請求項4】
前記対象溶液中の前記濃縮成分の濃度が規定濃度以上になった場合に、前記対象溶液の一部を回収する、請求項3に記載の析出システム。
【請求項5】
前記リンスに使用された後の前記リンス液を前記逆浸透モジュールに返送するための第3返送手段を備える、請求項
1~4のいずれか1項に記載の析出システム。
【請求項6】
前記半透膜モジュールの前記半透膜が中空糸膜である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の析出システム。
【請求項7】
前記半透膜モジュールにおいて、前記中空糸膜の外側の空間が前記第1室であり、前記中空糸膜の内側の空間が前記第2室である、請求項
6に記載の析出システム。
【請求項8】
前記膜分離装置は、前記半透膜モジュールからなる複数の半透膜モジュールを含む多段式の膜分離装置であり、
前記複数の半透膜モジュールは、前記第1室の流れ方向に対して直列的に接続され、
前記複数の半透膜モジュールは、前記第1室の流れ方向の最も下流側に位置する前記半透膜モジュールである最終モジュールと、前記最終モジュール以外の前記半透膜モジュールである少なくとも1つの上流モジュールと、からなり、
前記対象溶液が前記上流モジュールの前記第1室を通過し、前記上流モジュールの前記第1室を通過した前記対象溶液の一部が前記最終モジュールの前記第1室を通過し、他の一部が前記最終モジュールの前記第2室を通過し、前記最終モジュールの前記第2室を通過した前記対象溶液が、前記上流モジュールの前記第2室を通過するように構成される、請求項1~
7のいずれか1項に記載の析出システム。
【請求項9】
少なくとも1種の対象成分が水に溶解した対象溶液について、前記対象成分を析出させる、析出方法であって、
所定の圧力に昇圧された前記対象溶液から逆浸透膜を介して水を分離し、前記対象溶液を濃縮する、逆浸透工程と、
前記逆浸透工程において濃縮された前記対象溶液を規定温度まで冷却し、前記対象成分を析出させる、析出工程と、
半透膜、並びに、前記半透膜で仕切られた第1室および第2室を有する半透膜モジュールを用いて、前記析出工程において前記対象成分を析出させた後の前記対象溶液を前記第1室および前記第2室の各々に流し、かつ、前記第1室内の前記対象溶液の圧力が前記第2室内の前記対象溶液の圧力よりも高くなるように加圧することで、前記第1室内の前記対象溶液に含まれる水を前記半透膜を介して前記第2室内に移行させ、前記第1室内の前記対象溶液を濃縮すると共に、前記第2室内の前記対象溶液を希釈する、膜分離工程と、
前記膜分離工程において前記半透膜モジュールの前記第1室で濃縮された前記対象溶液を前記析出工程に返送する、第1返送工程と、
前記膜分離工程において前記半透膜モジュールの前記第2室で希釈された前記対象溶液を前記逆浸透工程に返送する、第2返送工程と、
を備え
、
前記析出工程で析出した前記対象成分を含む析出物に対して、前記対象溶液、前記逆浸透工程から排出される水、または、前記半透膜モジュールの前記第2室内で希釈された対象溶液の一部をリンス液として用いて、前記対象成分が溶解しない程度にリンスを実施した後、前記析出物を回収する、析出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、析出システムおよび析出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象溶液(被処理溶液)中の対象成分を析出させて回収する装置が知られている。例えば、対象溶液を冷却して対象成分の水への溶解度を低減させることで、飽和濃度を超える分の対象成分を析出(晶析)させることで、固体として回収するシステムが知られている。
【0003】
一方、対象溶液中の成分の濃縮装置としては、逆浸透(Reverse Osmosis:RO)法を用いたRO装置が知られている。例えば、半透膜であるRO膜で二室に仕切られたROモジュールに対して、半透膜(二室)の一方側へ対象成分の浸透圧以上の供給圧力で対象溶液を供給することにより、対象溶液中の水のみをRO膜を介して半透膜の他方側へ透過させることで、対象溶液中の対象成分を濃縮することができる。
【0004】
特許文献1(特開2013-43860号公報)には、RO装置によって濃縮された乳酸カルシウムを含む溶液を冷却することで、乳酸カルシウムを晶析(析出)させて除去する析出システムが開示されている。このシステムでは、晶析装置の上澄み液をさらにRO装置で濃縮し、濃縮された液を晶析装置へ返送することで、対象成分の析出効率を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ROのように、対象溶液が加圧される半透膜の一方側(高圧側)だけに浸透圧を有する対象溶液を供給する場合、半透膜の他方側は基本的に浸透圧を有さない水だけであるため、半透膜の両側間の浸透圧差が大きく、これにより生じる圧力に打ち勝つ高い圧力で対象溶液を加圧する必要がある。しかし、加圧の圧力は、半透膜(RO膜)の運転圧力(限界圧力)や使用するポンプの最大圧力によって制限される。したがって、ROでは、対象溶液の浸透圧がRO膜の運転圧力やポンプの最大圧力等を超えるような高濃度まで、対象溶液を濃縮することはできない。
【0007】
特許文献1に開示されるシステムでは、析出装置の上澄み液は飽和濃度溶液であり、比較的高濃度の溶液である場合も多い。その場合、RO装置による上澄み液の濃縮倍率は低く、RO装置で濃縮した上澄み液を析出装置に返送しても、返送された液からの対象成分の析出量は少なく、あまり析出効率を向上させることはできないと考えられる。特に、特許文献1に開示されるシステムでは、上澄み液の浸透圧がRO膜の運転圧力やポンプの最大圧力等を超える場合は、上澄み液をRO装置で濃縮することも原理的に不可能であると考えられる。
【0008】
したがって、本発明は、対象溶液中の対象成分の析出効率を向上させることのできる、析出システムおよび析出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 少なくとも1種の対象成分が水に溶解した対象溶液について、前記対象成分を析出させる、析出システムであって、
所定の圧力に昇圧された前記対象溶液から逆浸透膜を介して水を分離し、前記対象溶液を濃縮する、逆浸透モジュールと、
前記逆浸透モジュールにおいて濃縮された前記対象溶液を規定温度まで冷却し、前記対象成分を析出させる、析出装置と、
半透膜、並びに、前記半透膜で仕切られた第1室および第2室を有する半透膜モジュールを含み、前記析出装置において前記対象成分を析出させた後の前記対象溶液を前記第1室および前記第2室の各々に流し、かつ、前記第1室内の前記対象溶液の圧力が前記第2室内の前記対象溶液の圧力よりも高くなるように加圧することで、前記第1室内の前記対象溶液に含まれる水を前記半透膜を介して前記第2室内に移行させ、前記第1室内の前記対象溶液を濃縮すると共に、前記第2室内の前記対象溶液を希釈する、膜分離装置と、
前記膜分離装置において前記半透膜モジュールの前記第1室で濃縮された前記対象溶液を前記析出装置に返送するための第1返送手段と、
前記膜分離装置において前記半透膜モジュールの前記第2室で希釈された前記対象溶液を前記逆浸透モジュールに返送するための第2返送手段と、
を備える、析出システム。
【0010】
(2) 前記析出装置において前記対象成分を析出させた後の前記対象溶液は、加熱された後に前記膜分離装置に供給される、(1)に記載の析出システム。
【0011】
(3) 前記対象溶液は、前記対象成分以外の成分である濃縮成分を含み、
前記対象成分が析出すると共に、前記濃縮成分が濃縮される、(1)または(2)に記載の析出システム。
【0012】
(4) 前記対象溶液中の前記濃縮成分の濃度が規定濃度以上になった場合に、前記対象溶液の一部を回収する、(3)に記載の析出システム。
【0013】
(5) 前記析出装置で析出した前記対象成分を含む析出物に対して、前記対象溶液、前記逆浸透モジュールの前記第2室から排出される水、または、前記半透膜モジュールの前記第2室内で希釈された対象溶液の一部をリンス液として用いて、前記対象成分が溶解しない程度にリンスを実施した後、前記析出物を回収する、(1)~(4)のいずれかに記載の析出システム。
【0014】
(6) 前記リンスに使用された後の前記リンス液を前記逆浸透モジュールに返送するための第3返送手段を備える、(5)に記載の析出システム。
【0015】
(7) 前記半透膜モジュールの前記半透膜が中空糸膜である、(1)~(6)のいずれかに記載の析出システム。
【0016】
(8) 前記半透膜モジュールにおいて、前記中空糸膜の外側の空間が前記第1室であり、前記中空糸膜の内側の空間が前記第2室である、(7)に記載の析出システム。
【0017】
(9) 前記膜分離装置は、前記半透膜モジュールからなる複数の半透膜モジュールを含む多段式の膜分離装置であり、
前記複数の半透膜モジュールは、前記第1室の流れ方向に対して直列的に接続され、
前記複数の半透膜モジュールは、前記第1室の流れ方向の最も下流側に位置する前記半透膜モジュールである最終モジュールと、前記最終モジュール以外の前記半透膜モジュールである少なくとも1つの上流モジュールと、からなり、
前記対象溶液が前記上流モジュールの前記第1室を通過し、前記上流モジュールの前記第1室を通過した前記対象溶液の一部が前記最終モジュールの前記第1室を通過し、他の一部が前記最終モジュールの前記第2室を通過し、前記最終モジュールの前記第2室を通過した前記対象溶液が、前記上流モジュールの前記第2室を通過するように構成される、(1)~(8)のいずれかに記載の析出システム。
【0018】
(10) 少なくとも1種の対象成分が水に溶解した対象溶液について、前記対象成分を析出させる、析出方法であって、
所定の圧力に昇圧された前記対象溶液から逆浸透膜を介して水を分離し、前記対象溶液を濃縮する、逆浸透工程と、
前記逆浸透工程において濃縮された前記対象溶液を規定温度まで冷却し、前記対象成分を析出させる、析出工程と、
半透膜、並びに、前記半透膜で仕切られた第1室および第2室を有する半透膜モジュールを用いて、前記析出工程において前記対象成分を析出させた後の前記対象溶液を前記第1室および前記第2室の各々に流し、かつ、前記第1室内の前記対象溶液の圧力が前記第2室内の前記対象溶液の圧力よりも高くなるように加圧することで、前記第1室内の前記対象溶液に含まれる水を前記半透膜を介して前記第2室内に移行させ、前記第1室内の前記対象溶液を濃縮すると共に、前記第2室内の前記対象溶液を希釈する、膜分離工程と、
前記膜分離工程において前記半透膜モジュールの前記第1室で濃縮された前記対象溶液を前記析出工程に返送する、第1返送工程と、
前記膜分離工程において前記半透膜モジュールの前記第2室で希釈された前記対象溶液を前記逆浸透工程に返送する、第2返送工程と、
を備える、析出方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、対象溶液中の対象成分の析出効率を向上させることのできる、析出システムおよび析出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態1の析出システムを示す模式図である。
【
図2】実施形態1の析出システムの変形例を示す模式図である。
【
図3】実施形態1における膜分離装置の一例を示す模式図である。
【
図4】実施形態1における膜分離装置の別の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、実際の寸法関係を表すものではない。
【0022】
<実施形態1>
図1は、実施形態1の析出システムを示す模式図である。
図1を参照して、本実施形態の析出システムは、少なくとも1種の対象成分が水に溶解した対象溶液について、対象成分を析出させる、析出システムである。析出システムは、逆浸透モジュール3と、析出装置2と、半透膜モジュール1を含む膜分離装置と、第1返送手段(第1返送流路)41と、第2返送手段(第2返送流路)42と、を備える。
【0023】
対象溶液は、逆浸透モジュール3(逆浸透工程)によって濃縮される。また、対象溶液は、析出装置2(析出工程)によって、対象溶液から対象成分が析出する。また、対象溶液は、半透膜モジュール1を含む膜分離装置(膜分離工程:BC)によって高濃度に濃縮される。膜分離装置において濃縮された対象溶液(BC濃縮液)は第1返送手段41により析出装置に返送される。膜分離装置において希釈された対象溶液(BC希釈液)は第2返送手段42により逆浸透モジュールに返送される。
【0024】
必要に応じて、これらの逆浸透工程、析出工程および膜分離工程の少なくとも1つの工程を繰り返してもよい。例えば、所望の量の対象成分が析出するまで、逆浸透工程、析出工程および膜分離工程の少なくとも1つの工程を繰り返してもよい。なお、逆浸透工程、析出工程および膜分離工程のうちの複数の工程を繰り返す場合、例えば、各工程を順に実施することを繰り返してもよく、一種の工程を連続的に繰り返した後に他の工程を連続的に繰り返してもよい。
【0025】
(対象溶液)
対象溶液は、少なくとも1種の対象成分が水に溶解した溶液である。対象成分は、対象溶液の規定温度まで冷却する(対象溶液の温度を低下させる)ことにより、析出させることが可能な成分である。対象成分は、好ましくは無機塩であり、より好ましくは金属塩である。
【0026】
具体的な対象成分としては、例えば、アジ化カリウム、アジ化リチウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸バリウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸リチウム、亜硫酸アンモニウム、安息香酸カリウム、塩化亜鉛、塩化アンモニウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化コバルト(II)、塩化水銀(II)、塩化ストロンチウム、塩化セシウム、塩化鉄(II)、塩化銅(II)、塩化ニッケル(II)、塩化ネオジム(III)、塩化バリウム、塩化マンガン(II)、塩化リチウム、塩化ルビジウム、塩素酸カドミウム、塩素酸カリウム、塩素酸銀、塩素酸コバルト(II)、塩素酸セシウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸ニッケル(II)、塩素酸マグネシウム、塩素酸バリウム、塩素酸リチウム、塩素酸ルビジウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カドミウム、過塩素酸銀、過塩素酸タリウム(I)、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸ニッケル(II)、過塩素酸リチウム、過マンガン酸カリウム、過ヨウ素酸ナトリウム、ギ酸カドミウム、ギ酸カリウム、ギ酸ストロンチウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸リチウム、ギ酸ルビジウム、クロム酸アンモニウム、クロム酸カリウム、クロム酸ナトリウム、クロム酸ルビジウム、五酸化ヒ素、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸鉛(II)、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸リチウム、臭化アンモニウム、臭化カルシウム、臭化カドミウム、臭化カリウム、臭化ストロンチウム、臭化鉄(II)、臭化銅(II)、臭化ナトリウム、臭化ニッケル(II)、臭化バリウム、臭化マグネシウム、臭化マンガン(II)、臭化リチウム、臭化ルビジウム、シュウ酸、シュウ酸カリウム、臭素酸ガドリニウム(III)、臭素酸カリウム、臭素酸サマリウム、臭素酸テルビウム、臭素酸ナトリウム、臭素酸ネオジム(III)、臭素酸プラセオジム(III)、臭素酸リチウム、酒石酸アンモニウム、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウム、硝酸イットリウム(III)、硝酸ウラニル、硝酸カリウム、硝酸カルシウム四水和物、硝酸銀、硝酸コバルト(II)、硝酸ストロンチウム、硝酸セシウム、硝酸タリウム(I)、硝酸銅(II)、硝酸ナトリウム、硝酸鉛(II)、硝酸バリウム、硝酸ベリリウム、硝酸マグネシウム、硝酸リチウム、硝酸ルビジウム、水酸化カリウム、水酸化タリウム(I)、水酸化ナトリウム、水酸化バリウム、スクロース、セレン酸アンモニウム、セレン酸カリウム、セレン酸銅(II)、セレン酸ナトリウム、セレン酸マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸カリウム、二クロム酸アンモニウム、二クロム酸カリウム、二クロム酸ナトリウム、フェリシアン化カリウム、フェロシアン化カリウム、フッ化カリウム、フッ化銀、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸銅(II)、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化ニッケル(II)、ヨウ化リチウム、ヨウ素酸カリウム、ヨウ素酸ナトリウム、硫化バリウム、硫酸亜鉛、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム十二水和物、硫酸アンモニウム、硫酸カリウム、硫酸コバルト(II)、硫酸セシウム、硫酸鉄(II)七水和物、硫酸銅(II)五水和物、硫酸ナトリウム、硫酸リチウム、硫酸マグネシウム、硫酸ルビジウム、リン酸カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、などが挙げられる。これらの対象成分は、10℃と40℃との溶解度差が5質量%以上である。
【0027】
対象成分は好ましくはカリウム塩またはナトリウム塩である。対象成分がカリウム塩である場合、カリウム塩は好ましくは硫酸カリウムである。対象成分がナトリウム塩である場合、ナトリウム塩は好ましくは硫酸ナトリウムである。
【0028】
なお、対象溶液は、上記対象成分以外の成分を含んでいてもよい。
【0029】
無機塩以外の対象成分としては、例えば、スクロース等の糖類、グルタミン酸ナトリウム等のアミノ酸等が挙げられる。
【0030】
(逆浸透モジュール)
逆浸透モジュール3は、所定の圧力に昇圧された対象溶液から逆浸透膜30を介して水を分離し、対象溶液を濃縮する装置である。逆浸透モジュール3としては、特に限定されず、種々公知の逆浸透モジュールを用いることができる。
【0031】
例えば、逆浸透モジュール3の第1室31には、初期の対象溶液と、第2返送手段42により返送される膜分離装置(半透膜モジュール1)において希釈された対象溶液(BC希釈液)と、の混合液が、所定の圧力に昇圧された状態で供給される。これにより、第1室11中の対象溶液中の水が半透膜を介して第2室12側へ透過する。なお、初期の対象液とは、BC希釈液との混合前の対象溶液である。
【0032】
なお、本実施形態の析出システムにおいて、ROモジュール3を用いずに膜分離装置による濃縮(BC)と析出装置による析出を繰り返すことにより、対象溶液から対象成分を析出させることも考えられる。しかし、この場合は、膜分離装置によって希釈される対象溶液(BC希釈液)を廃棄することになり、この分の対象溶液から対象成分や濃縮成分(実施形態2参照)を回収することができず、対象成分や濃縮成分の回収率がその分低下する。したがって、本実施形態の析出装置のように、逆浸透モジュール3を併用して、膜分離装置(半透膜モジュール1)において希釈された対象溶液(BC希釈液)を第2返送手段42により逆浸透モジュール3の第1室31に返送することにより、対象成分や濃縮成分の回収率を向上させることができる。
【0033】
(析出装置)
析出装置2は、逆浸透モジュール3において濃縮された対象溶液と後述するBC濃縮液との混合液を規定温度まで冷却し、対象成分を析出させる装置である。ここで、規定温度は、その温度において、対象成分が析出するように設定される。なお、必要に応じて、析出した対象成分は回収または除去してもよい。
【0034】
(膜分離装置)
膜分離装置は、半透膜10、並びに、半透膜10で仕切られた第1室11および第2室12を有する半透膜モジュール1を含む。
【0035】
膜分離装置は、析出装置2において対象成分を析出させた後の対象溶液(上澄み液)を第1室11および第2室12の各々に流し、かつ、第1室11内の対象溶液の圧力が第2室12内の対象溶液の圧力よりも高くなるように加圧することで、第1室11内の対象溶液に含まれる水を半透膜10を介して第2室12内に移行させ、第1室11内の対象溶液を濃縮すると共に、第2室12内の対象溶液を希釈することができる。これにより、対象溶液の浸透圧が半透膜の運転圧力やポンプの最大圧力等を超えるような高濃度まで、対象溶液を濃縮することができる。
【0036】
このような膜分離装置(膜分離工程:BC)は、RO法よりも必要なエネルギーが少ない膜分離方法(ブラインコンセントレーション)(以下、「BC」と略す場合がある)として、例えば、特開2018-65114号公報に開示されている。
【0037】
BCでは、半透膜の他方側(低圧側)にも対象溶液を流すことで、半透膜の両側間の浸透圧差を低減し、高圧側の対象溶液への加圧の圧力を低減することができる。このため、BCを用いることで、対象溶液の浸透圧が半透膜の運転圧力やポンプの最大圧力等を超えるような高濃度まで、対象溶液を濃縮することが可能となる。
【0038】
したがって、析出装置の上澄み液(飽和濃度溶液)が高濃度の溶液である場合(特に、上澄み液の浸透圧がRO膜の運転圧力やポンプの最大圧力等を超える場合)でも、上澄み液を高い濃縮倍率で濃縮することができ、高濃度のBC濃縮液を得ることができる。このBC濃縮液を析出装置に返送することにより、対象溶液から再び対象成分を析出させることができる。
【0039】
なお、BCでは、対象溶液を溶解成分が飽和濃度に達するまで濃縮すると、飽和濃度に達した成分の析出により半透膜の目詰まり等が発生してしまう。このため、BCでは、通常、対象溶液を最大で飽和濃度より若干低い濃度まで濃縮することが可能である。
【0040】
析出装置2において対象成分を析出させた後の対象溶液(上澄み液)は、加熱された後に膜分離装置(半透膜モジュール1)に供給されることが好ましい。析出装置2の上澄み液は飽和溶液であるため、そのままの温度では、膜分離装置で濃縮されることにより半透膜モジュール1に析出が生じてしまい、半透膜10の目詰まり等の問題が生じるからである。上澄み液を加熱して温度を上昇させることにより、対象成分の溶解度が増加するため、膜分離装置で濃縮されたときの析出を防止することができる。
【0041】
加熱するための加熱手段としては、例えば、電気ヒーター、熱交換式ヒーターなどが挙げられる。加熱効率を高めるために、BC濃縮液と熱交換器にて熱交換後、上記の加熱手段で加熱してもよい。
【0042】
(半透膜モジュール)
半透膜モジュール1において、半透膜10としては、例えば、逆浸透膜(RO膜:Reverse Osmosis Membrane)、正浸透膜(FO膜:Forward Osmosis Membrane)、ナノろ過膜(NF膜:Nanofiltration Membrane)、限外ろ過膜(UF膜:Ultrafiltration Membrane)と呼ばれる半透膜が挙げられる。半透膜は、好ましくは逆浸透膜、正浸透膜またはナノろ過膜であり、より好ましくは逆浸透膜または正浸透膜である。なお、半透膜として逆浸透膜または正浸透膜、ナノろ過膜を用いる場合、第1室11内の対象溶液の圧力は、好ましくは0.5~10.0MPaである。
【0043】
通常、RO膜およびFO膜の孔径は約2nm以下であり、UF膜の孔径は約2~100nmである。NF膜は、RO膜のうちイオンや塩類の阻止率が比較的低いものであり、通常、NF膜の孔径は約1~2nmである。半透膜としてRO膜またはFO膜、NF膜を用いる場合、RO膜またはFO膜、NF膜の塩除去率は好ましくは90%以上である。
【0044】
半透膜を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、セルロース系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアミド系樹脂などが挙げられる。半透膜は、セルロース系樹脂およびポリスルホン系樹脂の少なくともいずれかを含む材料から構成されることが好ましい。
【0045】
セルロース系樹脂は、好ましくは酢酸セルロース系樹脂である。酢酸セルロース系樹脂は、殺菌剤である塩素に対する耐性があり、微生物の増殖を抑制できる特徴を有している。酢酸セルロース系樹脂は、好ましくは酢酸セルロースであり、耐久性の点から、より好ましくは三酢酸セルロースである。
【0046】
ポリスルホン系樹脂は、好ましくはポリエーテルスルホン系樹脂である。ポリエーテルスルホン系樹脂は、好ましくはスルホン化ポリエーテルスルホンである。
【0047】
半透膜10の形状としては、特に限定されないが、例えば、平膜、スパイラル膜または中空糸膜が挙げられる。なお、
図1では、半透膜10として平膜を簡略化して描いているが、このような形状に限定されるものではなく、中空糸膜であることが好ましい。中空糸膜(中空糸型半透膜)は、スパイラル型半透膜などに比べて、膜厚が小さく、さらにモジュール当たりの膜面積を大きくすることができ、浸透効率を高めることができる点で有利である。この場合、半透膜モジュールは、複数の中空糸膜を含み、複数の中空糸膜の各々は両端に開口部を有することが好ましい。
【0048】
半透膜10が中空糸膜である場合、第1室11は中空糸膜の外側であり、第2室12は中空糸膜の内側であることが好ましい。中空糸膜の外側の溶液が加圧されることが好ましい。中空糸膜の内側(中空部)を流れる溶液を加圧しても、圧力損失が大きくなり加圧が十分に行われ難い場合があるほか、中空糸膜自体の構造が、外圧に対して構造を保持しやすく、高い内圧を付与すると膜が破裂することがあるからである。しかしながら、圧力損失が小さい、つまり大きな内径を持ち、内圧に対する耐圧が大きい中空糸膜を使用する場合は、第1室11を中空糸膜の内側としても、なんら問題はない。
【0049】
また、半透膜モジュール1の半透膜10と同様に、上述の逆浸透モジュール3の逆浸透膜30も中空糸膜であってよい。
【0050】
(第1返送手段、第2返送手段)
本実施形態の析出システムは、さらに第1返送手段と、第2返送手段と、を備える。
【0051】
第1返送手段は、膜分離装置において半透膜モジュールの第1室で濃縮された対象溶液(BC濃縮液)を析出装置に返送する(すなわち、BC濃縮液とROモジュール3で濃縮された対象溶液との混合液を析出装置2に供給する)ための手段(流路など)である。
【0052】
第2返送手段は、膜分離装置において半透膜モジュールの第2室で希釈された対象溶液(BC希釈液)をROモジュール3に返送する(すなわち、BC希釈液と初期の対象溶液との混合液をROモジュール3の第1室31に供給する)ための手段(流路など)である。
【0053】
本実施形態では、析出システムがBC濃縮液を析出装置2に返送する第1返送手段41を備えることにより、膜分離装置(半透膜モジュール1)と析出装置2とによる対象成分の濃縮と析出を繰り返すことができるため、対象溶液から所望の量の対象成分を析出させることができる。
【0054】
さらに、析出システムがBC希釈液をROモジュール3に返送する第2返送手段42を備えることにより、BC希釈液を排出せずにROモジュール3で濃縮して、析出装置2での析出に供することができるため、対象溶液中からの対象成分の析出効率(回収率)を高めることができる。
【0055】
(変形例)
図3は、実施形態1における膜分離装置の一例を示す模式図である。
図4は、実施形態1における膜分離装置の別の一例を示す模式図である。本変形例では、
図1に示されるような1つの半透膜モジュール1を用いた一段の膜分離装置の代わりに、
図3または
図4に示されるような複数の半透膜モジュール1を用いた多段の装置である点で、実施形態1とは異なる。それ以外の点は、実施形態1と同様である。
【0056】
図3および
図4を参照して、本変形例の一例において、膜分離装置は、上記の半透膜モジュールからなる複数の半透膜モジュール1A,1B,1Cを用いた多段の膜分離装置である。
【0057】
複数の半透膜モジュール1A,1B,1Cは、第1室1A1,1B1,1C1の流れ方向に対して直列的に接続され、
複数の半透膜モジュール1A,1B,1Cは、第1室1A1,1B1,1C1の流れ方向の最も下流側に位置する半透膜モジュールである最終モジュール1Cと、最終モジュール以外の半透膜モジュールである少なくとも1つの上流モジュール1A,1Bと、からなる。
【0058】
そして、
図3に示されるように、対象溶液が上流モジュール1A,1Bの第1室1A1,1B1を通過し、上流モジュール1Bの第1室1B1を通過した対象溶液51の一部が最終モジュール1Cの第1室1C1を通過し、他の一部が最終モジュール1Cの第2室1C2を通過し、最終モジュール1Cの第2室1C2を通過した対象溶液52が、上流モジュール1B,1Aの第2室1B2,1A2を通過するように構成されるか、または、
図4に示されるように、対象溶液が上流モジュール1A,1Bの第1室1A1,1B1を通過し、上流モジュール1Bの第1室1B1を通過した対象溶液51が最終モジュール1Cの第1室1C1を通過し、最終モジュール1Cの濃縮液の一部が最終モジュール1Cの第2室1C2を通過し、上流モジュール1B,1Aの第2室1B2,1A2を通過するように構成されることが好ましい。
【0059】
なお、多段の膜分離装置において、複数の半透膜モジュールを直列に接続して、第1室側と第2室側で同方向に対象溶液を流す場合、上流側の半透膜モジュールでは、半透膜の両側(第1室と第2室)の液の浸透圧差は小さいが、下流側の半透膜モジュールほど、半透膜の両側の液の浸透圧差が徐々に大きくなる。このため、この浸透圧に打ち勝つ圧力を第1室の対象溶液に加える必要がある。これに対して、
図3に示されるような多段の膜分離装置(本変形例)では、上流側と下流側の半透膜モジュールで半透膜の両側の液の浸透圧差が減少するため、第1室の対象溶液に加える必要な圧力を低減することができる利点がある。
【0060】
また、
図3に示されるような多段の膜分離装置においては、対象溶液から、最終モジュール1Cの第1室1C1から流出する最終的に高濃度に濃縮された対象溶液(BC濃縮液)と、最も上流側の上流モジュール1Aの第2室1A2から流出する最終的に希釈された対象溶液(BC希釈液)と、だけが得られる。したがって、対象溶液を膜分離装置により高濃度に濃縮する際に、濃度が異なる複数の希釈液が生成することが抑制される。これにより、簡便な膜分離装置(膜分離工程:BC)で対象溶液(析出装置の上澄み液)の濃縮を実施することができる。
【0061】
<実施形態2>
本実施形態の析出システムの基本的構成は、実施形態1と同様の
図1に示されるような析出システムである。
【0062】
本実施形態においては、対象溶液は、対象成分以外の成分として濃縮成分を含んでいる。濃縮成分とは、本実施形態の析出システム(析出方法)によって濃縮することのできる成分である。すなわち、本実施形態の析出システム(析出方法)によれば、対象溶液中の対象成分を析出させると共に、対象溶液中の別の成分である濃縮成分を濃縮することができる。
【0063】
本実施形態において、対象成分は、対象溶液を冷却することにより濃縮成分より先に析出する成分であることが好ましい。また、対象成分の溶解度は、濃縮成分より溶解度が小さいことが好ましい。
【0064】
本実施形態では対象溶液が対象成分に加えてさらに濃縮成分を含むため、規定温度は、その温度において、対象成分は析出し、かつ、濃縮成分が析出しないか、または、濃縮成分の析出量が対象成分の析出量より少ないように設定される。
【0065】
これにより、対象液中の対象成分の濃度が低下するため、濃縮成分を対象成分よりも高い濃縮倍率で濃縮することができる。すなわち、対象溶液において濃縮成分を選択的に濃縮することができる。
【0066】
本実施形態においては、対象溶液中の濃縮成分の濃度が規定濃度以上になった場合に、対象溶液の一部を回収することが好ましい。これにより、濃縮成分を高濃度で含む液を回収することができる。回収される対象溶液は、例えば、析出装置2において対象成分を析出させた後の対象溶液(上澄み液)であってもよく、膜分離装置において半透膜モジュール1の第1室11で濃縮された対象溶液(BC濃縮液)であってもよい。なお、対象成分を析出させた後の上澄み液の方が、BC濃縮液よりも濃縮成分の純度が高いため、回収される対象溶液は上澄み液であることが好ましい。
【0067】
また、
図2に示されるように、析出装置で析出した対象成分を含む析出物に対して、対象溶液、透過水(ROモジュール3の第2室32から排出される水)またはBC希釈液(半透膜モジュール1の第2室12内で希釈された対象溶液)の一部をリンス液として用いて、対象成分が溶解しない程度にリンスを実施した後、析出物を回収することが好ましい。この場合、リンスに使用された後のリンス液を逆浸透モジュールに返送するための第3返送手段(第3返送流路)43を備えることが好ましい。析出装置2で析出した析出物中には、濃縮成分を含む液が付着しており、濃縮成分はリンスによってリンス液に移行するので、濃縮成分を再回収でき、より濃縮成分の回収率を高めることができるからである。
【0068】
リンスの具体的な方法としては、例えば、析出物をリンス液に接触させた後に、析出物とリンス液とを分離する方法が挙げられる。析出物をリンス液に接触させる方法としては、例えば、析出物が収容された容器中にリンス液を加えて、リンス液中の析出物を撹拌する方法が挙げられる。析出物とリンス液とを分離する方法としては、静置、遠心分離等の固液分離法によって析出物とリンス液とを分離する方法が挙げられる。
【0069】
本実施形態では、析出システムが第1返送手段41を備えることにより、膜分離装置(半透膜モジュール1)と析出装置2とによる対象成分の濃縮と析出を繰り返すことができると共に、対象溶液中の濃縮成分を対象成分より高い濃縮倍率で濃縮することができ、濃縮成分を選択的に濃縮することができる。
【0070】
さらに、析出システムがBC希釈液をROモジュール3に返送する第2返送手段42を備えることにより、BC希釈液を排出せずにROモジュール3で濃縮して析出装置2に供することができるため、対象溶液中からの濃縮成分の回収率を高めることができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例における諸特性の測定方法は次のとおりである。
【0072】
〔1〕対象成分の回収率の測定
回収される析出物の乾燥重量を測定し、次式で対象成分の回収率(R)を算出した。
R(質量%)=(W2/W1)×100
ここで、W1は初期の対象溶液中の対象成分の乾燥重量(g)であり、W2は析出物中の対象成分の乾燥重量(g)である。
【0073】
〔2〕濃縮成分の濃縮倍率の測定
回収液(濃縮成分が規定濃度以上に濃縮された対象溶液)の対象成分の濃度を測定し、次式で対象成分の濃縮倍率(M)を算出した。
M(質量%)=(C2/C1)×100
ここで、C1は初期の対象溶液中の濃縮成分の濃度(質量%)であり、C2は回収液中の濃縮成分の濃度(質量%)である。
【0074】
〔3〕初期の対象溶液中の対象成分の乾燥重量(W1)の定量
対象溶液中の対象成分の濃度を測定し、液量(g)と対象成分の濃度(質量%)の積によりW1を算出した。
【0075】
〔4〕析出物中の対象成分の乾燥重量(W2)の定量
析出物を完全に溶解するまで水に溶解させた溶液を調製し、該溶液中の対象成分の濃度を測定し、該溶液の総量(g)と対象成分の濃度(質量%)の積によりW2を算出した。
【0076】
〔5〕液中の各成分濃度の定量
以下の方法でカチオン(カリウムイオン、リチウムイオン)およびアニオン(硫酸イオン)濃度を測定し、液中の各成分(硫酸カリウム、硫酸リチウム)の濃度として算出した。なお、本実施例では、一例とて、硫酸リチウムおよび硫酸カリウムを使用した。
カチオンの測定法: ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectro-metry)法
アニオンの測定法: イオンクロマトグラフ法
【0077】
(実施例1)
図1に示されるような析出システムを使用し、以下の操作条件にて対象成分(硫酸カリウム)の析出を実施した。なお、膜分離装置は、
図1に示されるような1つの半透膜モジュール1を有する一段の膜分離装置である。
【0078】
ROモジュール3へ供給する液の圧力: 5MPa
ROモジュール3へ供給する液の温度: 30℃
ROモジュール3の逆浸透膜30: 中空糸型逆浸透膜(材質:三酢酸セルロース)
析出装置2の設定温度: 10℃(本実施例での規定温度)
膜分離装置の半透膜モジュール1へ供給する液の圧力: 6.5MPa(第1室)
0.1MPa(第2室)
膜分離装置の半透膜モジュール1へ供給する液の温度: 40℃
膜分離装置の半透膜モジュール1の半透膜10: 中空糸型逆浸透膜(材質:三酢酸セルロース)(なお、膜分離装置の半透膜モジュールとしてROモジュールと同じモジュールを用いた。)
【0079】
本実施例では、対象成分として硫酸カリウムを8質量%含む水溶液を対象溶液として用いた。
【0080】
まず、ROモジュール3の第1室31に、初期の対象溶液(流量:30g/min)と後述の膜分離装置の第2室12で希釈された対象溶液(BC希釈液)との混合液が、7MPaの圧力および50g/minの流量で供給され、濃縮された。次に、ROモジュール3で濃縮された対象溶液と後述の膜分離装置の半透膜モジュール1の第1室で濃縮された対象溶液(BC濃縮液)との混合液が、析出装置2に供給され、冷却された。この操作により対象溶液から硫酸カリウムが析出(晶析)し、固体の析出物が回収された。次に、析出装置2から上澄み液が移送され、40℃まで加熱された後に、膜分離装置の半透膜モジュール1の第1室11へ6.5MPaの圧力および48g/minの流量で供給されると共に、第2室12へ0.1MPaの圧力および8g/minの流量で供給された。
【0081】
なお、本実施例では、
図1に示されるとおり、半透膜モジュール1の第1室11から排出される濃縮された対象溶液(BC濃縮液)は、ROモジュールで濃縮された対象溶液と混合されて、析出装置2に供給される。また、半透膜モジュール1の第2室12から排出される希釈された対象溶液(BC希釈液)は、初期の対象溶液と混合されて、ROモジュール3の第1室31に供給される。
【0082】
上記の操作条件で一定時間運転させた後、各液の硫酸カリウム濃度を測定した。その結果、ROモジュール3の第2室32から排出される液(透過水)中の硫酸カリウムの濃度は0.1質量%以下であり、ROモジュールにより対象溶液から水分除去ができていた。また、析出装置2の上澄み液中の硫酸カリウムの濃度は8.5質量%であり、これは冷却温度(析出装置2の設定温度)10℃での硫酸カリウムの飽和濃度である。また、半透膜モジュール1の第1室11から排出されるBC濃縮液中の硫酸カリウムの濃度は13.5質量%であり、このような高濃度まで上澄み液を濃縮することができた。
【0083】
また、回収した析出物中の硫酸カリウムの乾燥重量を測定し、回収率を算出した結果、回収率は90質量%以上であり、高効率で硫酸カリウムを回収できた。このように、析出装置2の上澄み液を加温して硫酸カリウムの飽和溶解度を高めた後、上澄み液を膜分離装置(半透膜モジュール1)にて10℃での硫酸カリウムの飽和濃度より高い濃度に濃縮してから、析出装置2へ返送して冷却することで、BC濃縮液の濃度と10℃での硫酸カリウムの飽和溶度(8.5質量%)との差分を、硫酸カリウムの析出物として回収することができる。
【0084】
(実施例2)
本実施例では、対象成分として硫酸カリウムを8質量%含み、さらに濃縮成分として硫酸リチウムを1質量%含む水溶液を対象溶液として用いた。それ以外は実施例1の析出システムと同様のシステムを用いて、実施例1と同様の条件にして、対象成分(硫酸カリウム)の析出および濃縮成分(硫酸リチウム)の濃縮を実施した。
【0085】
一定時間運転させた後、析出装置2の上澄み液の一部(流量:19g/min)を回収液として回収した。
【0086】
さらに一定時間運転させた後、各液の硫酸カリウムおよび硫酸リチウムの濃度を測定した。その結果、ROモジュール3の第2室32から排出される液(透過水)中の硫酸カリウムの濃度および硫酸リチウムの濃度は共に0.1質量%以下であり、ROモジュールにより対象溶液から水分除去ができていた。
【0087】
また、硫酸カリウムの回収率(初期の対象溶液中に含まれる硫酸カリウムの総量に対する比率)は90質量%であり、高効率で硫酸カリウムを回収できた。また、半透膜モジュール1の第1室11から排出されるBC濃縮液中の硫酸カリウムの濃度は12質量%であるため、BC濃縮液と10℃での硫酸カリウムの飽和溶度(8.5質量%)との差分を、析出装置2において硫酸カリウムの析出物として回収することができる。
【0088】
また、回収液中の硫酸リチウムの濃度は7.1質量%であり、硫酸リチウムを7.1倍という高い濃縮倍率で濃縮することができた。
【0089】
(比較例1)
膜分離装置の半透膜モジュール1において、第2室12への上澄み液の供給を実施しなかった。それ以外の点は実施例1と同様にして、一定時間運転後、各液の硫酸カリウム濃度を測定した。その結果、析出物としての硫酸カリウムの回収率は5質量%以下であり、実施例1に比べて硫酸カリウムの回収率が低かった。
【0090】
これは、対象溶液の浸透圧が半透膜の運転圧力やポンプの最大圧力等より高かったために、第1室11中の対象溶液から水を半透膜を介して第2室12側へ透過させることができずに対象溶液が濃縮されず、膜分離装置から排出される対象溶液の濃度が、10℃での硫酸カリウムの飽和濃度(8.5質量%)以下であったため、膜分離装置から析出装置に返送される対象液については、析出物がほぼ生じなかったためであると考えられる。
【0091】
(比較例2)
膜分離装置の半透膜モジュール1において、第2室12への上澄み液の供給を実施しなかった。それ以外の点は実施例2と同様にして、一定時間運転後、各液の硫酸カリウムおよび硫酸リチウムの濃度を測定した。その結果、析出物としての硫酸カリウムの回収率は5質量%以下であり、実施例2に比べて硫酸カリウムの回収率が低かった。その理由は比較例1と同様であると考えられる。
【0092】
また、回収液中の硫酸リチウムの濃度は1.3質量%以下であり、硫酸リチウムの濃縮倍率は1.3倍以下であった。このように硫酸リチウムの濃縮倍率が実施例2よりも低かった理由は、硫酸カリウムと同様に膜分離装置での対象溶液の濃縮がほぼ生じなかったためであると考えられる。
【0093】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0094】
1 半透膜モジュール、1A,1B 上流モジュール(半透膜モジュール)、1C 最終モジュール(半透膜モジュール)、10,1A0,1B0,1C0 半透膜、11,1A1,1B1,1C1 第1室、12,1A2,1B2,1C2 第2室、2 析出装置、3 逆浸透(RO)モジュール、30 逆浸透(RO)膜、31 第1室、32 第2室、41 第1返送手段、42 第2返送手段、43 第3返送手段、51,52 対象溶液。