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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20240220BHJP
   B60K 35/23 20240101ALI20240220BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/23
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020567718
(86)(22)【出願日】2020-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2020002502
(87)【国際公開番号】W WO2020153475
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2019010869
(32)【優先日】2019-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100195648
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 悠太
(74)【代理人】
【識別番号】100175019
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 健朗
(74)【代理人】
【識別番号】100104329
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 卓治
(72)【発明者】
【氏名】野口 健
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 雅博
(72)【発明者】
【氏名】船見 大輝
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/068017(WO,A1)
【文献】特開2010-208565(JP,A)
【文献】特開2016-224258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
B60K 35/23 - 35/235
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射鏡で反射した表示光を透光部材に向けて射出することで前記表示光が表す画像を虚像として表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、
前記反射鏡を回転駆動するためのモータと、
前記モータの動作を制御することで、前記反射鏡の回転駆動制御を行う駆動制御部と、
前記反射鏡の回転範囲内における初期設定位置を記憶する記憶部と、
前記反射鏡の回転範囲内における原点を検出する原点検出部と、
質量体を有し、前記モータの振動を抑制する質量ダンパと、を備え、
前記駆動制御部は、前記原点検出部によって前記原点が検出された後、第1駆動周波数で前記モータを駆動して前記反射鏡を前記初期設定位置に移動させ、
前記質量体の質量は、前記第1駆動周波数に対応する駆動音の低減量が最大となるように定められている
ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記原点は、前記虚像の表示が不能となる前記反射鏡の回転範囲内にあり、
前記初期設定位置は、前記虚像の表示が可能となる前記反射鏡の回転範囲内にある、
請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
操作部を備え、
前記駆動制御部は、前記初期設定位置に前記反射鏡を移動させた後、前記操作部からの入力に応じて前記第1駆動周波数よりも低い第2駆動周波数で前記モータを駆動して前記虚像の表示が可能となる前記反射鏡の回転範囲内で前記反射鏡の位置を移動させる、
請求項2に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヘッドアップディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のヘッドアップディスプレイ装置として、画像を表す表示光を透光部材(例えば、車両のフロントガラス)に向けて反射させる反射鏡(例えば、凹面鏡)を、モータの動力により回転駆動するものが、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-230157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のヘッドアップディスプレイ装置では、反射鏡を駆動するためのモータによる振動が外装ケースなどに伝搬して増幅し、モータの駆動音が耳障りに聞こえてしまう虞がある。
【0005】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、反射鏡を駆動するためのモータの駆動音を抑制することができるヘッドアップディスプレイ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係るヘッドアップディスプレイ装置は、
反射鏡で反射した表示光を透光部材に向けて射出することで前記表示光が表す画像を虚像として表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、
前記反射鏡を回転駆動するためのモータと、
前記モータの動作を制御することで、前記反射鏡の回転駆動制御を行う駆動制御部と、
前記反射鏡の回転範囲内における初期設定位置を記憶する記憶部と、
前記反射鏡の回転範囲内における原点を検出する原点検出部と、
質量体を有し、前記モータの振動を抑制する質量ダンパと、を備え、
前記駆動制御部は、前記原点検出部によって前記原点が検出された後、第1駆動周波数で前記モータを駆動して前記反射鏡を前記初期設定位置に移動させ、
前記質量体の質量は、前記第1駆動周波数に対応する駆動音の低減量が最大となるように定められている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、反射鏡を駆動するためのモータの駆動音を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態に係るヘッドアップディスプレイ(HUD)装置の車両への搭載態様を示す図である。
図2】HUD装置の概略構成図である。
図3】反射鏡駆動装置の斜視図である。
図4】反射鏡駆動装置の分解斜視図である。
図5】凹面鏡とスライド部との位置関係を説明するための模式図である。
図6】モータの駆動音の低減効果を示すグラフの図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0010】
本実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置(HUD:Head-Up Display)装置10は、図1に示すように、例えば、車両1のダッシュボード2内に配設される。HUD装置10は、フロントガラス3に向けて表示光Lを射出する。フロントガラス3で反射した表示光Lは、ユーザ4(主に車両1の運転者)側へと向かい、ユーザ4に表示光Lが表す画像を虚像Vとして視認させる。虚像Vは、フロントガラス3を介して車両1の前方に表示される。これにより、ユーザ4は、虚像Vを前方風景と重畳させて観察することができる。虚像Vは、車両1に関する各種情報(以下、車両情報と言う。)を表示する。なお、車両情報は、車両1自体の情報のみならず、車両1の外部情報も含む。
【0011】
HUD装置10は、図2に示すように、表示器11と、平面鏡12と、凹面鏡13と、筐体14と、反射鏡駆動装置20と、操作部90と、を備える。
【0012】
表示器11は、画像を表示することで、その画像を表す表示光Lを平面鏡12に向けて発する。表示器11は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)と、LCDを背後から照明するバックライトとを含んで構成される。LCDは、例えば、TFT(Thin Film Transistor)型のものである。バックライトは、例えば、LED(Light Emitting Diode)や導光部材などにより構成されている。
【0013】
平面鏡12は、例えばコールドミラーからなり、表示器11が発した表示光Lの光軸に対して斜めになるように配置されている。平面鏡12は、表示器11からの表示光Lを凹面鏡13に向けて反射させる。平面鏡12は、図示しないホルダを介して筐体14に固定されている。
【0014】
凹面鏡13は、例えば、凹面を有するポリカーボネートからなる樹脂基板に反射層を蒸着形成して構成されている。凹面鏡13は、平面鏡12からの表示光Lを拡大しつつ、フロントガラス3に向けて反射させる。これにより、ユーザ4に視認される虚像Vは、表示器11に表示されている画像が拡大されたものとなる。
【0015】
凹面鏡13は、ホルダ13aにより保持されている。ホルダ13aは、例えば合成樹脂材料からなり、軸部13bと、レバー部13cとを備える。軸部13bは、軸線AXが延びる方向(図2における紙面法線方向)が高さ方向となる略円柱状に形成されている。なお、軸部13bは、ホルダ13aに一対設けられているが、図2では一方の軸部13bのみ示している。軸部13bは、筐体14に設けられた軸受部(図示省略)に回転可能に支持される。これにより、ホルダ13aに保持された凹面鏡13は、筐体14に対し、軸線AXを中心として回転可能となっている。レバー部13cは、平板状をなし、反射鏡駆動装置20に向かって突出して形成されている。反射鏡駆動装置20は、レバー部13cをX軸方向に平行移動させることで、ホルダ13aに保持された凹面鏡13を、軸線AX周りに回転駆動する。反射鏡駆動装置20については、後に詳述する。
【0016】
筐体14は、表示器11、平面鏡12、凹面鏡13及び反射鏡駆動装置20の各々を、上述した機能を実現する適宜の位置に収容する。筐体14は、合成樹脂や金属により遮光性を有して箱状に形成されている。なお、筐体14は、複数の部材の組み合わせにより構成されていてもよい。筐体14には、フロントガラス3に向かって開口する射出口14aが設けられている。筐体14には、射出口14aを塞ぐ、透光性カバー15が取り付けられている。
【0017】
表示器11から発せられ、平面鏡12、凹面鏡13の順で反射した表示光Lは、射出口14aからHUD装置10の外部に射出され、フロントガラス3へと向かう。この表示光Lがフロントガラス3で反射することで、ユーザ4から見てフロントガラス3の前方に虚像Vが表示される。
【0018】
反射鏡駆動装置20は、図3及び図4に示すように、モータ30と、支持体40と、ガイドシャフトGと、スライド部50と、回路基板60と、を備える。また、反射鏡駆動装置20は、図2に模式的に示す、質量体70、制御部80及び記憶部81を備える。
【0019】
モータ30は、凹面鏡13を回転駆動するためのものであり、例えば、PM(Permanent Magnet)型のステッピングモータからなる。モータ30は、後述の駆動制御手段によってマイクロステップ駆動方式で駆動される。駆動されたモータ30は、図3に示す、X軸に沿って延びる回転軸31を回転させる。回転軸31の周面には、螺旋状のネジ溝が形成されている。
【0020】
支持体40は、主にモータ30を支持するものであり、例えば、金属によって一体に形成されている。支持体40は、筐体14の底部14b(図2参照)に対して固定される平板部40aと、X軸方向において互いに対向する第1壁部41及び第2壁部42と、を有する。支持体40は、ビス等の固定手段によって平板部40aが底部14bに固定される。なお、支持体40は、図示しない緩衝部材を介して底部14bに固定されていてもよい。第1壁部41は平板部40aの一端部から立設され、第2壁部42は平板部40aの他端部から立設されている。第1壁部41における第2壁部42と対向する面の裏面側には、モータ30が取り付けられている。モータ30は、ビス等の固定手段により第1壁部41に固定されている。モータ30から延びる回転軸31は、第1壁部41に設けられた挿通孔O1を通って、第2壁部42に設けられた軸受孔O2に回転可能に支持されている。また、支持体40は、質量体70を支持する。
【0021】
ガイドシャフトGは、スライド部50の移動方向を案内するものであり、回転軸31と同様にX軸方向に延びている。ガイドシャフトGは、一端が第1壁部41に支持され、他端が第2壁部42に支持されている。
【0022】
スライド部50は、基部51と、凹面鏡13のレバー部13cを挟み込む挟込部52とを有する。スライド部50は、例えば、ポリアセタール等の合成樹脂材料から一体に形成されている。
【0023】
基部51にはガイドシャフトGが挿入されるガイド孔51aが形成されている。また、基部51には回転軸31のネジ溝と噛み合うナット部(図示せず)が設けられており、当該ナット部は、回転軸31の回転に応じてスライド部50をX軸方向に移動させる。このような構成により、スライド部50は、回転軸31の回転に応じて、ガイドシャフトGに沿ってX軸方向にスライド可能となっている。
【0024】
挟込部52は、基部51上に設けられ、互いに対向する一対の壁部を有し、当該一対の壁部の間において、凹面鏡13のレバー部13cを挟み込む。図3に示すように、当該一対の壁部の一方には、他方に向かって突起する突起部52aが形成され、他方には板ばね52bが設けられている。挟込部52は、板ばね52bの弾性力でレバー部13cを突起部52aに向けて押しつけることにより、レバー部13cを点接触状態で挟み込んでいる。
【0025】
回路基板60は、各種回路が形成され、モータ30や、モータ30を駆動するための駆動回路や、スイッチ61が実装されたプリント回路板である。回路基板60は、図3に示すように、支持体40の第1壁部41の上部に固定されている。スイッチ61は、X軸方向においてスライド部50と対向する位置に設けられ、スライド部50が図3における左方向に移動していくとスライド部50に接触し、接触したことを示す検出信号を制御部80に供給する。制御部80は、当該検出信号を取得した際のスライド部50の位置を原点とし、凹面鏡13の駆動制御を行う。
【0026】
質量体70は、後述の質量ダンパDの一部として機能する構成であり、支持体40の任意の箇所に設けられている。質量体70は、例えば、真鍮などの金属材により形成された錘である。なお、質量体70の材質は、限定されないが、省スペースで質量ダンパDに必要な機能を確保すべく、比重の大きいものを選定することが好ましい。
【0027】
反射鏡駆動装置20において、質量体70と支持体40とは、図2に模式的に示す質量ダンパD(同調質量ダンパとも呼ばれる)として機能する。質量ダンパDは、吸振の対象物であるモータ30に、ばねとして機能する支持体40を介して補助的な質量体70を付加することで、共振現象を抑制する。このようにして、質量ダンパDは、モータ30の振動を抑制する。質量体70の質量は、後述のように、モータ30を駆動する際の駆動周波数に基づいて定められている。
【0028】
制御部80は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを有するマイクロコンピュータから構成され、反射鏡駆動装置20の動作を制御する。記憶部81は、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリであり、制御部80から制御されて後述する凹面鏡13の初期設定位置を記憶する。なお、初期設定位置は、制御部80のROMに記憶されていてもよい。例えば、制御部80と記憶部81は、筐体14の所定位置に設けられたプリント回路板(回路基板60とは異なる基板)に実装されている。この実施形態では、制御部80は、反射鏡駆動装置20の動作だけでなく、HUD装置10の全体動作を制御し、表示器11の表示動作も制御する。例えば、制御部80は、車両1の各部を制御するECU(Electronic Control Unit)などのシステムと通信を行い、車両情報を示す画像を表示器11に表示させる。
【0029】
また、制御部80は、回路基板60の駆動回路を介し、モータ30をマイクロステップ駆動方式で駆動することで、凹面鏡13の回転駆動を制御する。つまり、制御部80及び駆動回路は、凹面鏡13の回転駆動制御を行う駆動制御部として機能する。駆動回路は、モータ30の励磁コイルに接続されたトランジスタブリッジを有し、励磁コイルに流れる励磁電流の向きと大きさを調整可能に構成されている。駆動回路は、制御部80の制御により、モータ30の励磁コイルに流す電流を制御する。なお、駆動制御部をどのように構成するかは任意であり、1つの基板に実装されていてもよいし、複数の基板に実装された各部が協働することで実現されてもよい。
【0030】
また、制御部80は、スライド部50がスイッチ61に接触した地点を原点として制御部80のRAMに記憶し、RAMに記憶した原点を基準として、駆動中のモータ30の駆動ステップ数を数えることで凹面鏡13が現在どこに位置しているかを特定する。
【0031】
制御部80は、駆動回路を介してモータ30を駆動し、支持体40における第1壁部41と第2壁部42との間の範囲内でスライド部50をX軸方向に移動させることで、凹面鏡13の回転位置を制御する。また、制御部80は、操作部90からのユーザ4による入力操作に応じて、虚像Vの表示が可能となる凹面鏡13の回転範囲内で凹面鏡13の位置を調整することで、ユーザ4から見た虚像Vの上下方向における表示位置を調整する。そして、制御部80は、ユーザ4の操作により調整した凹面鏡13の位置を新たな初期設定位置とし、記憶部81に記憶されている初期設定位置を上書き(更新)する。
【0032】
操作部90は、ユーザ4による入力操作を受け付けるものであり、プッシュボタン、タッチパネル等の公知の入力装置から構成され、入力操作がなされたことに応じて操作内容を示す信号を制御部80に供給する。操作部90として、例えば、車両1に設けられたステアリングスイッチを用いることができる。
【0033】
ここで、凹面鏡13とスライド部50との位置関係について、図5を参照して説明する。図5は、凹面鏡13の回転位置とスライド部50のスライド位置との関係を模式的に示したものであり、実際には、凹面鏡13の回転中心となる軸線AXがX軸方向に移動しないことは言うまでもない。凹面鏡13で反射した表示光Lがフロントガラス3に到達せず、虚像Vの表示が不能となる凹面鏡13の回転範囲を非表示範囲R1とする。また、凹面鏡13で反射した表示光Lがフロントガラス3に到達し、虚像Vの表示が可能となる凹面鏡13の回転範囲を表示範囲R2とする。非表示範囲R1において、スライド部50がスイッチ61に接触した位置X1における凹面鏡13の回転位置を、第1の位置P1とする。また、表示範囲R2における凹面鏡13の初期設定位置(ユーザ4による調整で設定された位置)を、第2の位置P2とする。また、表示範囲R2内における最も非表示範囲R1に近い位置、つまり、虚像Vが非表示状態から表示状態に切り替わる場合の凹面鏡13の位置を、特定位置Psとする。こうした場合、スライド部50のスライド範囲において、スイッチ61に近い順で、位置X1、凹面鏡13を特定位置Psとするスライド部50の位置Xs、凹面鏡13を第2の位置P2とするスライド部50の位置X2となる。
【0034】
車両1のイグニッションがオンされ、HUD装置10に動作電力が供給されると、制御部80は、駆動回路を介してモータ30を駆動し、スライド部50をスイッチ61に接触させ、接触した地点を原点として記憶する。このようにして、制御部80は、原点を検出する原点検出部として機能する。制御部80は、原点を記憶した後、スライド部50を位置X1から位置X2に向けて移動させることで、凹面鏡13を非表示範囲R1の原点である位置P1から表示範囲R2内の初期設定位置として記憶されている位置P2へと回転移動させる。制御部80は、凹面鏡13を位置P2に位置させると、表示器11の動作を制御し、虚像Vの表示制御を行う。
【0035】
この実施形態では、制御部80は、凹面鏡13を位置P1(原点)から位置P2(初期設定位置)へ向けて回転させるにあたって、非表示範囲R1における凹面鏡13の回転速度を、表示範囲R2における凹面鏡13の回転速度よりも速く設定し、虚像Vが表示が開始されるまでの間を短縮する。具体的に、制御部80は、凹面鏡13を非表示範囲R1の位置P1(原点)から表示範囲R2内の位置P2(初期設定位置)まで移動させる際に、第1駆動周波数でモータ30を駆動する。また、制御部80は、凹面鏡13を位置P2(初期設定位置)に移動させた後、操作部90からの入力に応じて凹面鏡13の位置を表示範囲R2内で調整する際には、第1駆動周波数よりも低い第2駆動周波数でモータ30を駆動する。この際、制御部80は、非表示範囲R1における凹面鏡13の回転速度を実現すべく、モータ30を、第1駆動周波数として、2500pps(pulse per second)程度(例えば、2496pps)の駆動周波数で駆動する。そうすると、何の対策も施さない場合、当該駆動周波数に対応して、2.5kHz帯の駆動音が発生し、ユーザ4にとって耳障りに聞こえてしまう場合がある。
【0036】
そこで、この実施形態では、上記のように発生する駆動音を抑制するため、質量ダンパDにおける質量体70の質量を、モータ30の駆動周波数2500ppsに基づいて定めている。質量体70の質量は、例えば、線形ばね質量系における運動方程式を解くことで理論により求めることもできるが、駆動音がユーザ4の耳に届くまでには、反射鏡駆動装置20及びHUD装置10の構成や、HUD装置10の車両1への搭載態様などの複合的な要因が存在するため、実際には、実験か、理論と実験の組み合わせによって求める。同様の理由により、効果的に駆動音を抑制するための質量体70の支持体40への配設箇所も、実験か、理論と実験の組み合わせによって求めることが好ましい。
【0037】
図6に、質量ダンパDによるモータ30の駆動音の低減効果を示す。実線のグラフ5は、以上に説明した反射鏡駆動装置20において、2496ppsの駆動周波数に基づき、質量ダンパDの質量体70の質量を定めた場合における駆動音の測定結果である。一方、破線のグラフ6は、質量ダンパDを設けない反射鏡駆動装置の駆動音の測定結果である。図6を参照すると、質量ダンパDを設けると、設けない場合に比べて、2.5kHz帯の駆動音が大幅に低減されていることが分かる。
【0038】
(1)以上に説明したHUD装置10は、凹面鏡13(反射鏡の一例)で反射した表示光Lをフロントガラス3(透光部材の一例)に向けて射出することで表示光Lが表す画像を虚像Vとして表示する。HUD装置10は、凹面鏡13を回転駆動するためのモータ30と、制御部80の機能として実現される駆動制御部及び原点検出部と、記憶部81と、質量ダンパDとを備える。駆動制御部は、モータ30の動作を制御することで、凹面鏡13の回転駆動制御を行う。記憶部81は、凹面鏡13の回転範囲内における初期設定位置(位置P2)を記憶する。原点検出部は、凹面鏡13の回転範囲内における原点(位置P1)を検出する。質量ダンパDは、質量体70を有し、モータ30の振動を抑制する。
この構成により、前述の通り、反射鏡を駆動するためのモータ30の駆動音を抑制することができる。
【0039】
(2)具体的に、原点(位置P1)は、虚像Vの表示が不能となる凹面鏡13の回転範囲内(非表示範囲R1)にある。また、初期設定位置(位置P2)は、虚像Vの表示が可能となる凹面鏡13の回転範囲内(表示範囲R2)にある。
この構成により、反射鏡を、非表示範囲R1内にある原点から、表示範囲R2内にある初期設定位置まで回転させる際のモータ30の駆動音を抑制することができる。
【0040】
(3)また、HUD装置10は、操作部90を備える。そして、駆動制御部は、初期設定位置に凹面鏡13を移動させた後、操作部90からの入力に応じて第1駆動周波数よりも低い第2駆動周波数でモータ30を駆動して虚像Vの表示が可能となる凹面鏡13の回転範囲(表示範囲内R2)内で反射鏡の位置を移動させる。
この構成により、ユーザ4の調整操作に応じた第2駆動周波数での駆動音よりも、顕著に発生する第1駆動周波数での駆動音を効果的に低減することができる。これにより、例えば、HUD装置10が起動して凹面鏡13を初期設定位置に移動させるまでの期間(つまり、車両1が未だ走行を開始しておらず、ロードノイズがなく、駆動音が気になると想定される期間)における駆動音を効果的に低減することができる。
【0041】
なお、本開示は以上の実施形態及び図面によって限定されるものではない。本開示の要旨を変更しない範囲で、適宜、変更(構成要素の削除も含む)を加えることが可能である。
【0042】
平面鏡12と凹面鏡13とを結ぶ表示光Lの光路において、平面鏡12以外の平面鏡を設けてもよい。また、平面鏡12の代わりに自由曲面鏡を設けてもよい。HUD装置10において、鏡を何枚用いるかや、どのように表示光Lの光路を折り返すかは、設計に応じて適宜変更可能である。
【0043】
以上では、反射鏡駆動装置20が凹面鏡13を回転移動させる例を説明したが、反射鏡駆動装置20は、平面鏡や自由曲面鏡(反射鏡の他の例)を回転移動させるものであってもよい。反射鏡駆動装置20は、モータ30の動力を利用して、反射鏡を回転駆動するものであれば、その構成は任意である。
【0044】
以上では、質量体70を支持体40に設ける例を示したが、モータ30や支持体40に弾性部材を介して取り付ける構成を採用することもできる。
【0045】
以上では、非表示範囲R1において凹面鏡13を回転駆動する際のモータ30の駆動周波数に基づいて質量体70の質量を定めたが、表示範囲R2において凹面鏡13を回転駆動する際のモータ30の駆動周波数に基づいて質量体70の質量を定めてもよい。また、駆動音のうち抑制したい周波数帯も任意であり、2.5kHz帯よりも高くても低くてもよい。例えば、ユーザ4が耳障りに感じる周波数帯としては、1kHz~5kHzの範囲内の任意の周波数帯が挙げられる。駆動音の2.5kHz帯を抑制する質量ダンパDの質量体70よりも、質量体を軽くすれば2.5kHz帯よりも高い任意の周波数帯を低減することができ、質量体を重くすれば、2.5kHz帯よりも低い任意の周波数帯を低減することができる。
【0046】
以上では、支持体40を筐体14の底部14bに固定する例を示したが、これに限られない。反射鏡を回転移動することができれば、反射鏡駆動装置20の支持体40を筐体14に対してどのように固定するかは任意である。
【0047】
また、表示器11は、LCDを用いたものに限られず、OLED(Organic Light-Emitting Diode)を用いたものを採用してもよい。また、表示器11は、例えば、DMD(Digital Micro mirror Device)やLCOS(Liquid Crystal On Silicon)などの反射型表示デバイスを用いたものであってもよい。
【0048】
また、表示光Lの投射対象である透光部材は、車両1のフロントガラス3に限定されず、板状のハーフミラー、ホログラム素子等により構成されるコンバイナであってもよい。
【0049】
また、HUD装置10が搭載される車両1の種類は限定されず、自動四輪車や、自動二輪車など様々な車両に適用可能である。また、HUD装置10は、航空機、船舶、スノーモービル等、車両1以外の乗り物に搭載されてもよい。
【0050】
以上の説明では、本開示の理解を容易にするために、公知の技術的事項の説明を適宜省略した。
【符号の説明】
【0051】
1…車両、2…ダッシュボード、3…フロントガラス、4…ユーザ
L…表示光、V…虚像
10…ヘッドアップディスプレイ(HUD)装置
11…表示器
12…平面鏡
13…凹面鏡(反射鏡の一例)
R1…非表示範囲、R2…表示範囲
P1…第1の位置、P2…第2の位置、Ps…特定位置
13a…ホルダ、13b…軸部、13c…レバー部、AX…軸線
14…筐体、14a…射出口、14b…底部
20…反射鏡駆動装置
30…モータ、31…回転軸
40…支持体、40a…平板部、41…第1壁部、42…第2壁部
G…ガイドシャフト
50…スライド部、51…基部、52…挟込部
60…回路基板、61…スイッチ
70…質量体、D…質量ダンパ
80…制御部、81…記憶部
90…操作部
図1
図2
図3
図4
図5
図6