(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】電動車両の電源システム
(51)【国際特許分類】
B60L 58/19 20190101AFI20240220BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20240220BHJP
B60L 58/22 20190101ALI20240220BHJP
B60L 58/27 20190101ALI20240220BHJP
H01M 10/615 20140101ALI20240220BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20240220BHJP
H01M 10/633 20140101ALI20240220BHJP
H01M 10/6571 20140101ALI20240220BHJP
H01M 10/44 20060101ALN20240220BHJP
H02J 7/00 20060101ALN20240220BHJP
【FI】
B60L58/19
B60L58/12
B60L58/22
B60L58/27
H01M10/615
H01M10/625
H01M10/633
H01M10/6571
H01M10/44 P
H02J7/00 P
(21)【出願番号】P 2021011363
(22)【出願日】2021-01-27
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富岡 沙絵子
(72)【発明者】
【氏名】大路 潔
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 敏貴
(72)【発明者】
【氏名】山本 嵩
(72)【発明者】
【氏名】梶本 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】吉原 久未
【審査官】杉田 恵一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-060838(JP,A)
【文献】特開2014-079049(JP,A)
【文献】特開2017-022817(JP,A)
【文献】特開2020-048399(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0109122(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 58/19
B60L 58/12
B60L 58/22
B60L 58/27
H01M 10/44
H01M 10/615
H01M 10/625
H01M 10/633
H01M 10/6571
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車両の電源システムであって、
複数の電池モジュールと、
前記電動車両の補機に供給するための、第1電圧の電力を出力する低電圧出力端子と、
前記電動車両の電動機に供給するための、前記第1電圧よりも高い第2電圧の電力を出力する高電圧出力端子と、
前記複数の電池モジュールと、前記低電圧出力端子および前記高電圧出力端子との接続状態を切り替えるものであり、前記複数の電池モジュールの中の1個または並列接続された2個以上の電池モジュールが前記低電圧出力端子を介して前記第1電圧の電力を供給し、かつ、前記複数の電池モジュールの中の直列接続された2個以上の電池モジュールから前記高電圧出力端子を介して前記第2電圧の電力を供給するように、前記接続状態を設定可能に構成された切替機構と、
前記低電圧出力端子から電力を受けて、前記複数の電池モジュールを加温する電気ヒータと、
前記切替機構および前記電気ヒータを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記電動車両の駆動を開始する場合において、前記複数の電池モジュールの中から、駆動機構の作動に用いる電池モジュールを1個または複数個選定し、
前記駆動機構が作動する前に、選定した電池モジュールのうちの1個のみが前記低電圧出力端子に接続されるよう前記切替機構を制御して、前記電気ヒータを作動させる
ことを特徴とする電動車両の電源システム。
【請求項2】
請求項1記載の電動車両の電源システムにおいて、
前記制御部は、駆動機構の作動に用いる電池モジュールを複数個、選定したとき、
前記低電圧出力端子に、選定した電池モジュールのうちの第1モジュールのみが接続されるよう前記切替機構を制御して、前記電気ヒータを作動させ、
前記電気ヒータを停止し、前記複数の電池モジュール同士が並列に接続されるよう前記切替機構を制御し、
前記低電圧出力端子に、選定した電池モジュールのうちの第2モジュールのみが接続されるよう前記切替機構を制御して、前記電気ヒータを作動させる
ことを特徴とする電動車両の電源システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の電動車両の電源システムにおいて、
前記電動車両は、駆動源として内燃機関を備え、前記駆動機構として前記内燃機関を始動させるためのスタータを備え、
前記制御部は、外気温に応じて、前記スタータの作動に用いる電池モジュールの個数を設定するものであり、かつ、外気温が低いほど、前記スタータの作動に用いる電池モジュールの個数を増やすよう、設定を行う
ことを特徴とする電動車両の電源システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の電動車両の電源システムにおいて、
前記制御部は、前記駆動機構の作動に用いる電池モジュールを複数個、選定したとき、
前記電気ヒータを作動させるとき、選定した電池モジュールの中から、前記低電圧出力端子に接続する電池モジュールとして、温度が高い電池モジュールを優先する
ことを特徴とする電動車両の電源システム。
【請求項5】
請求項1~3のうちいずれか1項記載の電動車両の電源システムにおいて、
前記制御部は、前記駆動機構の作動に用いる電池モジュールを複数個、選定したとき、
前記電気ヒータを作動させるとき、選定した電池モジュールの中から、前記低電圧出力端子に接続する電池モジュールとして、SOC(State Of Charge)が高い電池モジュールを優先する
ことを特徴とする電動車両の電源システム。
【請求項6】
請求項1~5のうちいずれか1項記載の電動車両の電源システムにおいて、
前記制御部は、
前記電動車両が駆動を開始した後に、
前記複数の電池モジュール同士が並列に接続されるよう前記切替機構を制御して、前記複数の電池モジュールのSOCを平準化する
ことを特徴とする電動車両の電源システム。
【請求項7】
請求項1~5のうちいずれか1項記載の電動車両の電源システムにおいて、
前記制御部は、
前記電気ヒータの作動後、前記電動車両が駆動を開始する前に、
前記複数の電池モジュール同士が並列に接続されるよう前記切替機構を制御して、前記複数の電池モジュールのSOCを平準化する
ことを特徴とする電動車両の電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、複数の電池モジュールを備える、電動車両の電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ハイブリッド自動車や電気自動車のように、電動機を動力源の一つとする電動車両が広く知られている。かかる電動車両には、電動機に電力を供給するための、複数の電池モジュール(バッテリ)を備える電源システムが搭載されている。そして、リチウムイオン電池等の電池モジュールは、低温時に充放電特性が低下してしまう、という問題がある。
【0003】
特許文献1では、バッテリの充電制御装置として、充電器と、バッテリを昇温するヒータと、バッテリに風を送るファンとを備えた構成を開示している。外部充電の開始に先立って、または、外部充電と並行して、バッテリをヒータで昇温する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したとおり、リチウムイオン電池等の電池モジュールは、低温時に充放電特性が低下してしまう。このため、電池モジュールを備える電源システムを例えばエンジンルーム内に設置する場合には、特許文献1に示すように、電池モジュールの加温手段として電気ヒータを設置することが好ましい。
【0006】
ところが、電動車両の駆動開始時において、電気ヒータを用いて電池モジュールの加温を行うと、電気ヒータによる熱が外気へ拡散してしまうため、所定温度に達するまでに時間を要してしまう。このため、特に冬季において、電動車両の駆動を速やかに開始することができない。例えば、電動車両が駆動源としてエンジンを備える場合には、冬季においてエンジン始動が不可となるシーンが発生してしまう。一方で、電源システムにさらなる加温手段を設けることは、コストや車両内スペースの面で好ましくない。
【0007】
ここに開示された技術は、複数の電池モジュールを備える電源システムにおいて、コスト増等を招くことなく、電動車両の駆動の前に電池モジュールの加温を速やかに実行可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示された技術では、電動車両の電源システムは、複数の電池モジュールと、前記電動車両の補機に供給するための、第1電圧の電力を出力する低電圧出力端子と、前記電動車両の電動機に供給するための、前記第1電圧よりも高い第2電圧の電力を出力する高電圧出力端子と、前記複数の電池モジュールと、前記低電圧出力端子および前記高電圧出力端子との接続状態を切り替えるものであり、前記複数の電池モジュールの中の1個または並列接続された2個以上の電池モジュールが前記低電圧出力端子を介して前記第1電圧の電力を供給し、かつ、前記複数の電池モジュールの中の直列接続された2個以上の電池モジュールから前記高電圧出力端子を介して前記第2電圧の電力を供給するように、前記接続状態を設定可能に構成された切替機構と、前記低電圧出力端子から電力を受けて、前記複数の電池モジュールを加温する電気ヒータと、前記切替機構および前記電気ヒータを制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記電動車両の駆動を開始する場合において、前記複数の電池モジュールの中から、駆動機構の作動に用いる電池モジュールを1個または複数個選定し、前記駆動機構が作動する前に、選定した電池モジュールのうちの1個のみが前記低電圧出力端子に接続されるよう前記切替機構を制御して、前記電気ヒータを作動させる。
【0009】
この構成によると、電動車両の電源システムは、複数の電池モジュールを備える。そして、切替機構の制御によって、複数の電池モジュールの中の1個または並列接続された2個以上の電池モジュールが低電圧出力端子を介して第1電圧の電力を供給し、かつ、複数の電池モジュールの中の直列接続された2個以上の電池モジュールから高電圧出力端子を介して、第1電圧よりも高い第2電圧の電力を供給することができる。加えて、電源システムは、低電圧出力端子から電力を受けて、複数の電池モジュールを加温する電気ヒータを備える。電動車両の駆動を開始する場合において、複数の電池モジュールの中から、駆動機構の作動に用いる電池モジュールが1個または複数個選定され、駆動機構が作動する前に、選定した電池モジュールのうちの1個のみが電気ヒータを作動させる。これにより、電気ヒータを作動させる1個の電池モジュール自体の発熱によって、加温がより促進されることになり、電池モジュールの加温を速やかに実行することができる。したがって、例えば冬季であっても、電動車両の駆動を速やかに開始することができる。例えば、電動車両が駆動源としてエンジンを備える場合に、冬季においてエンジン始動が不可となるシーンを回避することが可能になる。
【0010】
また、前記電源システムにおいて、前記制御部は、駆動機構の作動に用いる電池モジュールを複数個、選定したとき、前記低電圧出力端子に、選定した電池モジュールのうちの第1モジュールのみが接続されるよう前記切替機構を制御して、前記電気ヒータを作動させ、前記電気ヒータを停止し、前記複数の電池モジュール同士が並列に接続されるよう前記切替機構を制御し、前記低電圧出力端子に、選定した電池モジュールのうちの第2モジュールのみが接続されるよう前記切替機構を制御して、前記電気ヒータを作動させる、としてもよい。
【0011】
これにより、第1モジュールによって電気ヒータを作動させた後に、電池モジュールのSOCを平準化させてから、次の第2モジュールによって電気ヒータを作動させることができる。
【0012】
また、前記電動車両は、駆動源として内燃機関を備え、前記駆動機構として前記内燃機関を始動させるためのスタータを備え、前記電源システムにおいて、前記制御部は、外気温に応じて、前記スタータの作動に用いる電池モジュールの個数を設定するものであり、かつ、外気温が低いほど、前記スタータの作動に用いる電池モジュールの個数を増やすよう、設定を行う、としてもよい。
【0013】
これにより、外気温が低いほど、スタータの作動に用いる電池モジュールの個数が増えるので、冬季においてエンジン始動が不可となるシーンを確実に回避することができる。
【0014】
また、前記電源システムにおいて、前記制御部は、前記駆動機構の作動に用いる電池モジュールを複数個、選定したとき、前記電気ヒータを作動させるとき、選定した電池モジュールの中から、前記低電圧出力端子に接続する電池モジュールとして、温度が高い電池モジュールを優先する、としてもよい。
【0015】
これにより、電池モジュールの加温動作に要する時間を、短縮することができる。
【0016】
また、前記電源システムにおいて、前記制御部は、前記駆動機構の作動に用いる電池モジュールを複数個、選定したとき、前記電気ヒータを作動させるとき、選定した電池モジュールの中から、前記低電圧出力端子に接続する電池モジュールとして、SOC(State Of Charge)が高い電池モジュールを優先する、としてもよい。
【0017】
これにより、電池モジュールのSOCを平準化するのに要する時間を、短縮することができる。
【0018】
また、前記電源システムにおいて、前記制御部は、前記電動車両が駆動を開始した後に、前記複数の電池モジュール同士が並列に接続されるよう前記切替機構を制御して、前記複数の電池モジュールのSOCを平準化する、としてもよい。
【0019】
これにより、電動車両の早期走行開始と、電池モジュールのSOCの平準化とを両立させることができる。
【0020】
また、前記電源システムにおいて、前記制御部は、前記電気ヒータの作動後、前記電動車両が駆動を開始する前に、前記複数の電池モジュール同士が並列に接続されるよう前記切替機構を制御して、前記複数の電池モジュールのSOCを平準化する、としてもよい。
【0021】
これにより、電動機による電動車両の駆動の前に、電池モジュールのSOCの平準化を実行できる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、電動車両の駆動の前に電池モジュールの加温を速やかに実行することが可能になり、例えば冬季であっても、電動車両の駆動を速やかに開始することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】実施形態に係る電動車両の電源システムの回路構成例
【
図3】(a)~(d)は
図2の電源システムの動作例
【
図5】(a),(b)は実施形態における電池モジュールの加温方法
【
図6】(a)~(d)は
図5の加温方法を行う際の、
図2の電源システムにおける切替制御の例
【
図7】実施形態における電池モジュールの加温方法を実行した場合の、各電池モジュールの温度およびSOCの時間変化の例
【
図8】従来の電池モジュールの加温方法を実行した場合の、各電池モジュールの温度およびSOCの時間変化の例
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
図1は電動車両のシステム構成の例である。
図1に示す電動車両1は、駆動源として、エンジン(内燃機関)2と、モータ(電動機)3とを備える。エンジン2は、当該エンジン2を始動させるためのスタータ4を有する。なお、本開示において、電動車両のシステム構成は
図1に示したものに限られず、例えば、電動車両はエンジンを備えない電気自動車であってもよい。
【0026】
電動車両1は、複数の電池モジュールを備える電源システム20を備える。電源システム20は、電動車両1の主として補機5に供給するための、例えば12Vの電力を出力する低電圧出力端子21と、電動車両1の主としてモータ3に供給するための、例えば48Vの電力を出力する高電圧出力端子22とを備える。ただし、ここでの電圧値は一例であり、本開示において、電源システムの出力電圧は、12Vや48Vに限られるものではない。低電圧出力端子21から出力される電力は、補機5の他にも例えば、エンジン2のスタータ4に供給される。また、後述するように、電源システム20は、電池モジュールを加温する電気ヒータを備えており、低電圧出力端子21から出力される電力は、電気ヒータにも供給される。
【0027】
図2は実施形態に係る電動車両の電源システム20の構成例である。
図2の電源システム20は、4個の電池モジュール10(図では1~4の番号を付しており、以下、適宜、モジュール1~4と称する)を備える。各電池モジュール10は、電圧12Vの電力を出力するものとする。ただし、本開示において、電源システムが備える電池モジュール10の個数は4個に限られるものではなく、また、電池モジュール10の出力電圧は12Vに限られるものではない。
【0028】
図2の電源システム20は、低電圧出力端子21と、高電圧出力端子22と、接地端子23とを備える。また、各電池モジュール10には、その温度を測定する温度センサ(図示せず)が設けられている。
【0029】
図2の電源システム20における電源ラインには、合計16個のリレー30(図では1~16の丸数字を付しており、以下、適宜、リレー1~16と称する)が設けられている。各リレー30は、制御部15から送られる制御信号によって、オン(閉状態)とオフ(開状態)とが切り換え可能に構成されている。各リレーは、例えば、MOSFET等によって構成される。リレー30がオンのとき、その両端の電源ラインは接続状態になり、リレー30がオフのとき、その両端の電源ラインは非接続状態になる。電源ラインとリレー30によって、複数の電池モジュール10と、低電圧出力端子21および高電圧出力端子22との接続状態を切り替える、切替機構が構成されている。なお、本開示における電源システムの構成は、
図2に示すものに限られるものではない。
【0030】
図2の電源システム20では、各電池モジュール10の正極と低電圧出力端子21とを接続する電源ラインに、リレー1,3,5,7(複数の第1リレー)がそれぞれ設けられている。各電池モジュール10の負極と接地端子23とを接続する電源ラインに、リレー2,4,6,8(複数の第2リレー)がそれぞれ設けられている。複数の電池モジュール10を直列かつ環状に接続する環状電源ラインにおいて、電池モジュール10同士の間に、リレー9,10,11,12(複数の第3リレー)がそれぞれ設けられている。そして、各電池モジュール10の正極と高電圧出力端子22とを接続する電源ラインに、リレー13,14,15,16(複数の第4リレー)がそれぞれ設けられている。なお、リレー12の一端とモジュール1の負極とは接続されている(
図1では破線および黒太矢印で示している)が、以降の図では、図の煩雑さを避けるために、この破線は省略している。
【0031】
図2の電源システム20は、4個の電池モジュール10を直列接続して高電圧出力端子22から48V電力を出力することができ、かつ、この状態で、いずれかの電池モジュール10から低電圧出力端子21を介して12V電力を出力することができる。
【0032】
図3(a)~(d)は
図2の電源システムの動作例を示している。
図3(a)~(d)では、オンであるリレー10と、オフであるリレー10とを区別して図示している。また、12V電力を出力する電気の流れを破線PLで示し、48V電力を出力する電気の流れを破線PHで示している。以降の図についても同様である。
【0033】
図3(a)では、リレー1,2,9,10,11,16がオンであり、他のリレーはオフである。この状態では、高電圧出力端子22と接地端子23との間に、順に、モジュール4,3,2,1が直列に接続されている。そして、モジュール1が、低電圧出力端子21と接地端子23との間に接続されている。
図3(b)では、リレー3,4,10,11,12,13がオンであり、他のリレーはオフである。この状態では、高電圧出力端子22と接地端子23との間に、順に、モジュール1,4,3,2が直列に接続されている。そして、モジュール2が、低電圧出力端子21と接地端子23との間に接続されている。
【0034】
図3(c)では、リレー5,6,9,11,12,14がオンであり、他のリレーはオフである。この状態では、高電圧出力端子22と接地端子23との間に、順に、モジュール2,1,4,3が直列に接続されている。そして、モジュール3が、低電圧出力端子21と接地端子23との間に接続されている。
図3(d)では、リレー7,8,9,10,12,15がオンであり、他のリレーはオフである。この状態では、高電圧出力端子22と接地端子23との間に、順に、モジュール3,2,1,4が直列に接続されている。そして、モジュール4が、低電圧出力端子21と接地端子23との間に接続されている。
【0035】
図2の電源システム20を利用することによって、48V出力と12V出力を同時に行うことができる。加えて、12V出力を行う電池モジュール10を適宜切り換えることができる。これにより、例えば、各電池モジュール10のSOC(State Of Charge)のバランスを容易にとることができる。
【0036】
(電池モジュールの加温動作)
図4は従来の電池モジュールの加温方法を示す。
図4に示すように、従来は、4個の電池モジュール10を並列に接続し、低電圧出力端子21から12V電力を出力して電気ヒータ25に出力していた。この方法では、電気ヒータ25の熱が外気へ拡散するため、各電池モジュール10の内部温度が上昇するのに電力と時間を要していた。
【0037】
図5は本実施形態における電池モジュールの加温方法を示す。
図5に示すように、この方法では、まず、複数の電池モジュール10の中から、エンジン2のスタータ4の作動に用いる電池モジュール10を1個または複数個選定する。スタータ4は駆動機構の一例である。ここでは、
図5における右側の2個の電池モジュール10が選定されたとする。この場合に、スタータ4を作動させる前に、選定した電池モジュールのうちの1個のみが低電圧出力端子21に接続されるようリレー30を制御して、電気ヒータ25を作動させる。そして、電気ヒータ25の作動に利用する電池モジュール10を、選定した電池モジュールの中で順番に変えていく。
【0038】
図5の場合には、電池モジュール10から出力される電流Ibは、
図4に示す従来例において各電池モジュール10から出力される電流Iaの4倍になる(Ib=4×Ia)。このため、
図5の場合には、電池モジュール10の発熱量Qbは、
図4の場合における各電池モジュール10の発熱量Qaの16(4の2乗)倍になる。このため、電池モジュール10自体の発熱による加温が従来の方法よりも大きくなるので、スタータ4を作動させる電池モジュール10に関して、省電力で、速やかな加温が可能になる。したがって、例えば冬季において、エンジン2が始動不可となる可能性を抑制することができる。
【0039】
図6は
図5の加温方法を行う際の、
図2の電源システムにおける切替制御の例を示す。
図6(a)では、リレー1,2をオンにし、他のリレーをオフにすることによって、モジュール1のみを低電圧出力端子21に接続して、電気ヒータ25をオンにしている。これにより、電気ヒータ25による加温に加えて、モジュール1の内部で電流出力による大きな発熱が生じ、温度が上昇する。その後、
図6(b)に示すように、電気ヒータ25をオフにして、リレー1~8をオンにし、他のリレーをオフにする。これにより、モジュール1~4が並列に接続され、モジュール1~4同士の間で電流が生じ、SOCが平準化される。すなわち、
図5(a)の動作により大きく低下していたモジュール1のSOCが上昇する一方で、他のモジュール2~4のSOCが低下し、SOCが平準化される。このとき、モジュール1~4同士の間で流れる電流によって、各モジュール1~4の内部で発熱が生じる。
【0040】
次に、
図6(c)に示すように、リレー3,4をオンにし、他のリレーをオフにすることによって、モジュール2のみを低電圧出力端子21に接続して、電気ヒータ25をオンにする。これにより、電気ヒータ25による加温に加えて、モジュール2の内部で電流出力による大きな発熱が生じ、温度が上昇する。その後、
図6(d)に示すように、電気ヒータ25をオフにして、リレー1~8をオンにし、他のリレーをオフにする。これにより、モジュール1~4が並列に接続され、モジュール1~4同士の間で電流が生じ、SOCが平準化される。すなわち、
図6(c)の動作により大きく低下していたモジュール2のSOCが上昇する一方で、他のモジュール1,3,4のSOCが低下し、SOCが均衡化される。このとき、モジュール1~4同士の間で流れる電流によって、各モジュール1~4の内部で発熱が生じる。
【0041】
図7は実施形態における電池モジュールの加温方法を実行した場合の、各電池モジュールの温度およびSOCの時間変化の例を示す。また、
図8は従来の電池モジュールの加温方法を実行した場合の、各電池モジュールの温度およびSOCの時間変化の例を示す。
【0042】
図7に示すように、最初に、モジュール1を電気ヒータ25の電源として使用することによって、モジュール1の温度が大きく上昇する。そして、各モジュール1~4を並列に接続することによって、低下していたモジュール1のSOCが上昇し、他のモジュール2~4のSOCと均衡化される。次に、モジュール2を電気ヒータ25の電源として使用することによって、モジュール2の温度が大きく上昇する。そして、各モジュール1~4を並列に接続することによって、低下していたモジュール2のSOCが上昇し、他のモジュール1,3,4のSOCと均衡化される。さらに、モジュール3を電気ヒータ25の電源として使用すると、モジュール3の温度が大きく上昇する。そして、各モジュール1~4を並列に接続することによって、低下していたモジュール3のSOCが上昇し、他のモジュール1,2,4のSOCと均衡化される。
【0043】
一方、従来の方法では、
図8に示すように、各モジュール1~4の温度は徐々に上昇するため、所定の温度に達するのに時間を要している。このように、本実施形態によると、例えばスタータ4の作動に用いる電池モジュールについて、速やかに所定の温度に加温することができる。
【0044】
図9は本実施形態における電源システム20の制御の例を示すフローチャートである。この制御は、制御部15によって実行される。
図9のフローでは、まず、電源システム20の初期温度T0を検知する(S11)。そして、電動車両1の駆動方法、すなわち、エンジン2による駆動を行うか、モータ3による駆動を行うかを選択する(S12)。
【0045】
エンジン駆動を選択したときは、制御部15は、スタータ4の駆動に必要となる電池モジュール10の個数mを設定する(S13)。このとき、制御部15は、外気温に応じて、スタータ4の駆動に必要となる電池モジュール10の個数mを設定するものとする。すなわち、外気温が低いほど、個数mを大きく設定する。これにより、外気温が低いときでも、スタータ4を確実に駆動させることができる。制御部15は、スタータ4を駆動するとき、m個の電池モジュール10が並列に使用されるよう、切替機構を制御する(S14)。
【0046】
モータ駆動を選択したときは、制御部15は、全て(n個)のモジュールを直列に使用するよう、切替機構を制御する(S15)。
【0047】
次に、目標温度Ttgと初期温度T0の差を算出し、これを必要昇温温度ΔTreqとして設定する(S16)。そして、エンジン駆動の場合は、選択したm個の電池モジュール10の中から1個の電池モジュール10を用いて、電気ヒータ25を作動させる。モータ駆動の場合は、全n個の電池モジュール10の中から1個の電池モジュール10を用いて、電気ヒータ25を作動させる(S17)。ここでは、例えば、温度が高い電池モジュール10を優先して用いるようにしてもよい。これにより、電池モジュール10の加温動作に要する時間を、短縮することができる。あるいは、SOCが大きい電池モジュール10を優先して用いるようにしてもよい。これにより、電池モジュールのSOCを平準化するのに要する時間を、短縮することができる。
【0048】
そして、電気ヒータ25を作動させている電池モジュール10の温度を検知し、その温度上昇ΔTが、エンジン駆動の場合はΔTreq/mを超えたか否か、モータ駆動の場合はΔTreq/nを超えたか否か、を判断する(S18)。超えたときは、残りの電池モジュール10があるか否かを判断し(S19)、あるときは、新たな電池モジュール10を用いて、電気ヒータ25を作動させる(S20)。
【0049】
一方、電気ヒータ25を作動させている電池モジュール10の温度上昇ΔTが、ΔTreq/mまたはΔTreq/nを超えていないときは、この電池モジュール10のSOCを検知する。そして、この電池モジュール10のSOCが、設定した下限値SOC0を下回っているか否か、を判断する(S21)。下回っていないときは、S18に戻る。なお、ここでの下限値SOC0は、例えば、電池モジュール10の仕様上のSOCの下限値よりも少し大きい値に設定すればよい。
【0050】
一方、電気ヒータ25を作動させている電池モジュール10のSOCが、設定した下限値SOC0を下回っているときは、電気ヒータ25を一旦、停止する(S22)。そして、全ての電池モジュール10を並列に接続して、SOCを平準化させる制御を行う(S23)。その後、S17に戻り、1個の電池モジュール10を用いて電気ヒータ25を作動させる。
【0051】
以上のような制御を行うことによって、エンジン駆動の場合は、選択したm個の電池モジュール10について、温度上昇ΔTがΔTreq/mを超えたとする。また、モータ駆動の場合は、全n個の電池モジュール10について、温度上昇ΔTがΔTreq/nを超えたとする(S19でNo)。その後、全ての電池モジュール10を並列に接続して、SOCを平準化させる制御を行う(S24)。そして、電動車両1の駆動を開始する。すなわち、スタータ4を始動させたり、モータ3の駆動を開始したりする(S25)。その後、例えばエンジン駆動の場合には、全ての電池モジュール10が所定温度になるまで、非使用の電池モジュール10を用いて電気ヒータ25の作動を継続する(S26)。
【0052】
電動車両1の駆動の前に、ステップS24を実行することによって、モータ3による電動車両1の駆動の前に、電池モジュール10のSOCの平準化を実行できる。また、エンジン駆動の場合には、エンジン始動後に、全ての電池モジュール10を並列に接続して、SOCを平準化する制御を行ってもかまわない。これにより、電動車両1の早期走行開始と、電池モジュール10のSOCの平準化とを両立させることができる。
【0053】
以上のように本実施形態によると、電動車両1の駆動を開始する場合において、複数の電池モジュール10の中から、駆動機構の作動に用いる電池モジュール10が1個または複数個選定され、駆動機構が作動する前に、選定した電池モジュールのうちの1個のみが電気ヒータ25を作動させる。これにより、電気ヒータ25を作動させる1個の電池モジュール10自体の発熱によって、加温がより促進されることになり、電池モジュール10の加温を速やかに実行することができる。したがって例えば、電動車両1が駆動源としてエンジン2を備える場合に、冬季においてエンジン始動が不可となるシーンを回避することが可能になる。
【0054】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0055】
1 電動車両
2 エンジン(内燃機関)
3 モータ
4 スタータ(駆動機構)
5 補機
10 電池モジュール
15 制御部
20 電源システム
21 低電圧出力端子
22 高電圧出力端子
25 電気ヒータ
30 リレー