(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】水域コンクリート構造物およびケーソン
(51)【国際特許分類】
E02B 3/06 20060101AFI20240220BHJP
A01K 61/77 20170101ALI20240220BHJP
A01G 33/00 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
E02B3/06 301
A01K61/77
A01G33/00
(21)【出願番号】P 2021011907
(22)【出願日】2021-01-28
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【氏名又は名称】藤田 崇
(72)【発明者】
【氏名】北川 尚男
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-111911(JP,A)
【文献】特開2004-068379(JP,A)
【文献】特開昭63-049305(JP,A)
【文献】特開2004-057027(JP,A)
【文献】特開2001-140238(JP,A)
【文献】特開2000-129650(JP,A)
【文献】特開平10-110419(JP,A)
【文献】特開2017-088928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/06
A01K 61/77
A01G 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製フーチングを備える水域コンクリート構造物であって、
前記コンクリート製フーチングの上面にステンレス鋼板が設けられていて、前記ステンレス鋼板の少なくとも一部の部位は水面よりも下方に位置しており、
前記ステンレス鋼板の前記一部の部位のうちの少なくとも一部の上には、藻類や魚介類の定着のための部材を設置可能であ
り、
前記ステンレス鋼板は、前記コンクリート製フーチングの外周に近い側の端部が上方に突出していることを特徴とする水域コンクリート構造物。
【請求項2】
前記ステンレス鋼板は、外面の表面粗さがRzjisで0.8μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の水域コンクリート構造物。
【請求項3】
前記ステンレス鋼板は、外面の表面粗さがRzjisで30μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の水域コンクリート構造物。
【請求項4】
前記ステンレス鋼板は、孔食指数が35以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の水域コンクリート構造物。
【請求項5】
前記ステンレス鋼板は、ビッカース硬さが180以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の水域コンクリート構造物。
【請求項6】
前記ステンレス鋼板が設けられた前記上面は、水平面であることを特徴とする請求項1~
5のいずれかに記載の水域コンクリート構造物。
【請求項7】
前記コンクリート製フーチングは、先端に向かうほど、前記ステンレス鋼板が設けられた前記上面の高さ位置が階段状に低くなる部位を有することを特徴とする請求項
6に記載の水域コンクリート構造物。
【請求項8】
前記ステンレス鋼板は、前記コンクリート製フーチングの岸側の張り出し部に設けられていることを特徴とする請求項1~
7のいずれかに記載の水域コンクリート構造物。
【請求項9】
前記ステンレス鋼板の前記一部の部位のうちの前記少なくとも一部の上には、藻類や魚介類の定着のための部材が設置されており、設置された前記藻類や魚介類の定着のための部材は、鉄鋼スラグを含んで構成されていることを特徴とする請求項1~
8のいずれかに記載の水域コンクリート構造物。
【請求項10】
コンクリート製フーチングを備えるケーソンであって、
前記コンクリート製フーチングの上面にステンレス鋼板が設けられており、
前記ステンレス鋼板の少なくとも一部の上には、藻類や魚介類の定着のための部材を設置可能であ
り、
前記ステンレス鋼板は、前記コンクリート製フーチングの外周に近い側の端部が上方に突出していることを特徴とするケーソン。
【請求項11】
コンクリート製フーチングを備えるケーソンであって、
前記コンクリート製フーチングの上面にステンレス鋼板が設けられており、
前記ステンレス鋼板の少なくとも一部の上には、藻類や魚介類の定着のための部材を設置可能であ
り、
前記コンクリート製フーチングは、先端に向かうほど、前記ステンレス鋼板が設けられた前記上面の高さ位置が階段状に低くなる部位を有することを特徴とするケーソン。
【請求項12】
前記ステンレス鋼板は、外面の表面粗さがRzjisで0.8μm以上であることを特徴とする請求項
10または11に記載のケーソン。
【請求項13】
前記ステンレス鋼板は、外面の表面粗さがRzjisで30μm以上であることを特徴とする請求項
10または11に記載のケーソン。
【請求項14】
前記ステンレス鋼板は、孔食指数が35以上であることを特徴とする請求項
10~13のいずれかに記載のケーソン。
【請求項15】
前記ステンレス鋼板は、ビッカース硬さが180以上であることを特徴とする請求項
10~14のいずれかに記載のケーソン。
【請求項16】
ハイブリッドケーソンであることを特徴とする請求項
10~15のいずれかに記載のケーソン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水域コンクリート構造物およびケーソンに関し、詳細には、コンクリート製フーチングを備える水域コンクリート構造物およびケーソンに関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策のためのCO2削減の取り組みが各方面で行われており、海洋生態系に蓄積される炭素(ブルーカーボン)が近年見直されてきている。
【0003】
ブルーカーボンによる炭素固定に寄与する技術として、砕石や鉄鋼スラグなどを浅瀬に設置し、藻場の形成を促す技術があり、特許文献1には、防波堤や護岸等の着底式の水中構築物のフーチング上に藻類の定着や魚介類の蝟集を計る藻類定着体兼魚介類蝟集体を設置し、かつ、その中に栗石やカキ殻等の藻類定着材を充填させた蛇篭を設置する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コンクリート製フーチング上に設置した栗石等が波の揺動によって動いて、コンクリート製フーチングを損傷させるおそれがあると本発明者は考えた。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、水域コンクリート構造物およびケーソンのコンクリート製フーチングの上方に藻類や魚介類の定着のための部材を設置しても、該コンクリート製フーチングに損傷が生じにくい水域コンクリート構造物およびケーソンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は前記課題を解決する発明であり、以下の水域コンクリート構造物およびケーソンである。
【0008】
即ち、本発明に係る水域コンクリート構造物は、コンクリート製フーチングを備える水域コンクリート構造物であって、前記コンクリート製フーチングの上面にステンレス鋼板が設けられていて、前記ステンレス鋼板の少なくとも一部の部位は水面よりも下方に位置しており、前記ステンレス鋼板の前記一部の部位のうちの少なくとも一部の上には、藻類や魚介類の定着のための部材を設置可能であることを特徴とする水域コンクリート構造物である。
【0009】
ここで、本願発明に係る水域コンクリート構造物に関し、上面や下方等の文言のように、位置や方向を観念する文言は、当該水域コンクリート構造物の現場における実際の配置状態を基準として、その意味内容を解釈するものとする。
【0010】
また、コンクリート製フーチングとは、コンクリートのみで構成されたフーチングだけでなく、コンクリートの内部に鉄筋や鉄骨等を備えるものも含む。本願の他の箇所の同様の記載も同様に解釈するものとする。
【0011】
また、「水面よりも下方」における水面は、水面の高さに変動がある場合には、最も高さが高くなるときの水面とする。本願の他の箇所の同様の記載も同様に解釈するものとする。
【0012】
また、「藻類や魚介類の定着のための部材」とは、藻類の定着のための部材、魚介類の定着のための部材、ならびに藻類および魚介類の定着のための部材のことである。本願の他の箇所の同様の記載も同様に解釈するものとする。
【0013】
前記ステンレス鋼板は、外面の表面粗さがRzjisで0.8μm以上であることが好ましく、外面の表面粗さがRzjisで30μm以上であることがより好ましい。
【0014】
ここで、前記ステンレス鋼板の「外面」とは、前記ステンレス鋼板が前記コンクリート製フーチングの上面に設けられた状態において、外側に向いた面のことである。本願の他の箇所の同様の記載も同様に解釈するものとする。
【0015】
前記ステンレス鋼板は、孔食指数が35以上であるようにしてもよい。
【0016】
ここで、本願において、孔食指数とは、ステンレス鋼中に含有されるCr、Mo、Nの含有量(質量%)を用いて計算される指数であり、孔食指数=Cr+3.3Mo+16Nの式(式中の各元素記号はその元素の含有量を表している)により計算される値(質量%表示の値)のことである。
【0017】
前記ステンレス鋼板は、ビッカース硬さが180以上であることが好ましい。
【0018】
前記ステンレス鋼板は、前記コンクリート製フーチングの外周に近い側の端部が上方に突出しているように構成してもよい。
【0019】
前記ステンレス鋼板が設けられた前記上面は、水平面であるように構成してもよい。
【0020】
前記コンクリート製フーチングは、先端に向かうほど、前記ステンレス鋼板が設けられた前記上面の高さ位置が階段状に低くなる部位を有する、ように構成してもよい。
【0021】
ここで、「前記コンクリート製フーチング」の先端は、前記水域コンクリート構造物の主要構造部位である本体部から離れる方向の側の端部のことである。本願の他の箇所の同様の記載も同様に解釈するものとする。
【0022】
前記ステンレス鋼板は、前記コンクリート製フーチングの岸側の張り出し部に設けられているように構成してもよい。
【0023】
前記ステンレス鋼板の前記一部の部位のうちの前記少なくとも一部の上には、藻類や魚介類の定着のための部材が設置されており、設置された前記藻類や魚介類の定着のための部材は、鉄鋼スラグを含んで構成されているようにしてもよい。
【0024】
ここで、鉄鋼スラグとは、鉄鋼の製造過程において発生する副産物のことである。
【0025】
本発明に係るケーソンは、コンクリート製フーチングを備えるケーソンであって、前記コンクリート製フーチングの上面にステンレス鋼板が設けられており、前記ステンレス鋼板の少なくとも一部の上には、藻類や魚介類の定着のための部材を設置可能であることを特徴とするケーソンである。
【0026】
ここで、本願発明に係るケーソンに関し、上面や上方等の文言のように、位置や方向を観念する文言は、当該ケーソンが実際に現場に配置された状態を基準として、その意味内容を解釈するものとする。
【0027】
前記ステンレス鋼板は、外面の表面粗さがRzjisで0.8μm以上であることが好ましく、外面の表面粗さがRzjisで30μm以上であることがより好ましい。
【0028】
前記ステンレス鋼板は、孔食指数が35以上であるであるようにしてもよい。
【0029】
前記ステンレス鋼板は、ビッカース硬さが180以上であることが好ましい。
【0030】
前記ステンレス鋼板は、前記コンクリート製フーチングの外周に近い側の端部が上方に突出しているように構成してもよい。
【0031】
前記コンクリート製フーチングは、先端に向かうほど、前記ステンレス鋼板が設けられた前記上面の高さ位置が階段状に低くなる部位を有する、ように構成してもよい。
【0032】
ここで、「前記コンクリート製フーチング」の先端は、前記ケーソンの主要構造部位である本体部から離れる方向の側の端部のことである。本願の他の箇所の同様の記載も同様に解釈するものとする。
【0033】
前記ケーソンはハイブリッドケーソンであってもよい。
【0034】
ここで、ハイブリッドケーソンとは、主要構造部位である本体部に鋼コンクリート合成構造を用いたケーソンのことである。本願の他の箇所においても同様に解釈するものとする。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、水域コンクリート構造物およびケーソンのコンクリート製フーチングの上方に藻類や魚介類の定着のための部材を設置しても、該コンクリート製フーチングに損傷が生じにくい水域コンクリート構造物およびケーソンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る水域コンクリート構造物10を模式的に示す斜視図
【
図4】本発明の第2実施形態に係る水域コンクリート構造物30を模式的に示す斜視図
【
図5】本発明の第3実施形態に係る水域コンクリート構造物50を模式的に示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照して、本発明に係る水域コンクリート構造物の実施形態を詳細に説明する。ここでは、コンクリート製フーチングを備えるケーソンを用いた防波堤を水域コンクリート構造物として取り上げて説明するが、本発明の適用対象が防波堤に限定されるわけではなく、コンクリート製フーチングを備える水域コンクリート構造物であれば本発明を適用することができ、例えば、水域に設けられた橋脚等にも適用することができる。
【0038】
(1)第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る水域コンクリート構造物10を模式的に示す斜視図であり、
図2および
図3は、
図1のA-A線断面図である。
【0039】
本第1実施形態に係る水域コンクリート構造物10は、
図1に示すように、箱状の構造体で構成された防波堤であり、本体部12と、コンクリート製フーチング14と、ステンレス鋼板16と、上部コンクリート部材18と、を備えてなり、捨石マウンド100の上に配置されている。
【0040】
本体部12は、外面側にコンクリートが設けられ、内面側に鋼板(図示せず)が設けられた鋼コンクリート合成構造になっている。本体部12の下端部には、港内側および港外側に張り出したコンクリート製フーチング14が設けられており、本体部12およびコンクリート製フーチング14によりハイブリッドケーソン22が形成されている。そして、ハイブリッドケーソン22の上部は上部コンクリート部材18に覆われて蓋がされており、防波堤が構成されている。コンクリート製フーチング14は水中に位置している。
【0041】
コンクリート製フーチング14の内部には、本体部12に連結されているI形鋼14Aが、本体部12の港内側および港外側の壁体と直交する水平方向に配置されている(
図2および
図3参照)。また、I形鋼14Aの上下には、鉄筋14Bが縦横に水平方向に配置されている(
図2および
図3参照)。このため、コンクリート製フーチング14は鉄骨鉄筋コンクリート構造(SRC構造)になっており、大きな張り出しが可能であり、本第1実施形態に係る水域コンクリート構造物10では、コンクリート製フーチング14の港内側および港外側への張り出し長さが大きくなっている。なお、通常の場合、港内側は岸側(岸に向かう側)となる。
【0042】
コンクリート製フーチング14の上面にはステンレス鋼板16が設けられている。このため、コンクリート製フーチング14の上方に、藻類や魚介類の定着のための部材20(以下、藻類魚介類定着部材20と記す。)を設置しても、コンクリート製フーチング14に損傷が生じにくくなっている。水中のコンクリート製フーチング14の上面に設けられたステンレス鋼板16は、水面よりも下に位置している。
【0043】
ステンレス鋼板16の厚さは適宜に定めてよいが、薄すぎるとコンクリート製フーチング14の損傷を防ぐという効果が減じられ、また、厚すぎるとコスト面や加工性および運搬性で不利になるため、ステンレス鋼板16の厚さは、標準的には0.2mm以上60mm以下であり、好ましくは0.3mm以上40mm以下である。
【0044】
図2に示すように、ステンレス鋼板16をスタッド16Aでコンクリート製フーチング14に固定する場合は、ステンレス鋼板16の厚さが薄すぎるとスタッド16Aのステンレス鋼板16への溶接取り付けが困難になるため、ステンレス鋼板16の厚さは好ましくは4.5mm以上である。スタッド16Aの材質は炭素鋼でもよいが、好ましくはステンレス鋼であり、より好ましくはステンレス鋼板16と同じ材質のステンレス鋼である。スタッド16Aの標準的な形状は、径が6mm以上25mm以下であり、長さが40mm以上315mm以下である。
【0045】
一方、
図3に示すように、ステンレス鋼板16の端部を折り曲げ加工して、ステンレス鋼板16をコンクリート製フーチング14に固定する場合(この場合は、主にコンクリート製フーチング14のコンクリートとステンレス鋼板16との付着力で、ステンレス鋼板16がコンクリート製フーチング14に固定されることになる。)は、ステンレス鋼板16の端部を折り曲げ加工する観点から、ステンレス鋼板16の厚さは好ましくは9mm以下である。
【0046】
また、ステンレス鋼板16の外面の表面粗さは、上に載せた藻類魚介類定着部材20が水流によって移動して、ステンレス鋼板16の上から落下することを抑制する観点から、Rzjisで0.8μm以上であることが好ましく、8μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることが特に好ましい。
【0047】
ステンレス鋼板16の外面の表面粗さを大きくする加工方法は特には限定されず、例えば、ブラスト加工(研掃材の投射)、へアライン加工(ベルトサンダーによる研磨)、ダル仕上げ加工(はだを一様に粗くした冷間圧延ロールによる圧延によって、鋼板の表面を梨地状の光沢のない状態にする仕上げ加工)、およびエッチング加工(腐食液による溶解加工)等を用いることができる。
【0048】
例えば、粗いヘアライン仕上げやダル仕上げを行うことにより、ステンレス鋼板16の外面の表面粗さを、Rzjisで0.8μm以上8μm以下程度にすることができる。また、例えば、エッチング加工を行うことにより、ステンレス鋼板16の外面の表面粗さを、Rzjisで8μm以上30μm以下程度にすることができる。また、例えば、研掃材の選択によってはブラスト加工により、ステンレス鋼板16の外面の表面粗さを、Rzjisで30μm程度以上にすることができる。
【0049】
また、ステンレス鋼板16の外面の表面粗さを前記のようにすることに替えて、または、ステンレス鋼板16の外面の表面粗さを前記のようにするとともに、ステンレス鋼製の金網やエキスパンドメタルをステンレス鋼板16の外面に溶接等で取り付けることも、藻類魚介類定着部材20の落下抑制の観点から好ましい。
【0050】
また、ステンレス鋼板16の外面の表面粗さを前記のようにすることに替えて、または、ステンレス鋼板16の外面の表面粗さを前記のようにするとともに、ステンレス鋼板16にプレス加工によるエンボス加工を施すことも、藻類魚介類定着部材20の落下抑制の観点から好ましい。
【0051】
また、ステンレス鋼板16の外面の表面粗さを前記のようにすることに替えて、または、ステンレス鋼板16の外面の表面粗さを前記のようにするとともに、ステンレス鋼板16にパンチング加工(穴あけ加工)を施すことも、藻類魚介類定着部材20の落下抑制の観点から好ましい。ただし、穴の大きさや開口率を大きくしすぎると、コンクリート製フーチング14の損傷を抑える効果が小さくなるので、この点に留意する。
【0052】
また、ステンレス鋼板16は、藻類魚介類定着部材20の落下抑制の観点から、コンクリート製フーチング14の外周に近い側の端部が上方に突出するようにしておくことが好ましい。ステンレス鋼板16のコンクリート製フーチング14の外周に近い側の端部を上方に突出させる際には、折り曲げ加工や同等以上の孔食指数を持つステンレス鋼板を溶接で取り付けること等で行えばよい。
【0053】
ステンレス鋼板16は、耐食性の観点から、孔食指数が23以上であることが好ましく、このようなステンレス鋼としては、例えばSUS821L1、SUS323L、SUS329J1L、SUS329J3L等を挙げることができる。
【0054】
ステンレス鋼板16を、干潮時も海水中に没水している箇所に使用する場合は、孔食指数が35以上であることが好ましく、このようなステンレス鋼としては、例えばSUS329J4L、UNS S32205等を挙げることができる。
【0055】
ステンレス鋼板16を、干満帯(潮汐で海中への没水と大気露出が繰り返される範囲、すなわち干潮時の海表面(干潮位)と満潮時の海表面(満潮位)の間)に使用する場合は、孔食指数が40以上であることが好ましく、このようなステンレス鋼としては、例えばSUS327L1、UNS S32750、SUS312L、SUS836L、UNS S32050等を挙げることができる。
【0056】
ステンレス鋼板16は、炭素鋼よりも高い耐食性を有しているので、淡水中で用いる場合には、原則として電気防食を行うことは不要であり、また、海水中で用いる場合でも、適切な孔食指数を有するステンレス鋼を用いることにより、原則として電気防食を行うことは不要である。具体的には、干潮時も海水中に没水している箇所に使用する場合は、例えば孔食指数が35以上であるステンレス鋼を用い、干満帯に使用する場合は、例えば孔食指数が40以上であるステンレス鋼を用いることにより、原則として電気防食を行うことは不要になる。
【0057】
炭素鋼を用いている部材(コンクリート製フーチング14の張り出し部のI形鋼14Aや鉄筋14B等)や、ステンレス鋼を用いていても要求される孔食指数を満たしていない部材については、電気防食を行うことを適宜に採用してもよい。
【0058】
また、ステンレス鋼板16は、コンクリート製フーチング14の上方に藻類魚介類定着部材20を設置した場合においてコンクリート製フーチング14に損傷が生じることを抑制する役割を担っているので、耐摩耗性が優れていることも求められる。この観点から、ステンレス鋼板16は、ビッカース硬さが180以上であることが好ましく、210以上であることがより好ましい。
【0059】
藻類魚介類定着部材20は、鉄鋼スラグを含んで構成されていることが好ましい。鉄鋼スラグは、藻や植物プランクトンの育成に必要な鉄分を多く含むからである。なお、鉄鋼スラグとは、鉄鋼の製造過程において発生する副産物のことであり、高炉で鉄鉱石を溶融・還元する際に発生する高炉スラグと、鉄を精錬する製鋼段階で発生する製鋼スラグに大別される。製鋼スラグの方がより多くの鉄分を含むので、藻類魚介類定着部材20は、製鋼スラグを含んで構成されていることがより好ましい。
【0060】
本第1実施形態に係る水域コンクリート構造物10においては、
図1に示すように、コンクリート製フーチング14の港内側の張り出し部の上方のみに藻類魚介類定着部材20を設置したが、これは港外側には消波ブロックを設置することが多く、コンクリート製フーチング14の港外側の張り出し部の上方に藻類魚介類定着部材20を設置することは困難なことが多いからである。港外側に消波ブロックを設置しない場合には、コンクリート製フーチング14の港外側の張り出し部の上方に藻類魚介類定着部材20を設置してもよい。
【0061】
(2)第2実施形態
図4は、本発明の第2実施形態に係る水域コンクリート構造物30を模式的に示す斜視図である。第1実施形態に係る水域コンクリート構造物10における部材と同一の部材には同一の符号を用いて、説明は原則として省略する。
【0062】
第1実施形態に係る水域コンクリート構造物10のコンクリート製フーチング14の張り出し部の上面は、
図1に示すように、本体部12から離れるにしたがって高さ位置が低くなるように下方に傾斜しているのに対し、本第2実施形態に係る水域コンクリート構造物30のコンクリート製フーチング34の港内側の張り出し部の上面は、
図4に示すように、本体部12から離れるにしたがって階段状に高さ位置が低くなっており、コンクリート製フーチング34の港内側の張り出し部の上面は水平になっている。そして、その階段状のコンクリート製フーチング34の港内側の張り出し部の各上面にステンレス鋼板36が設けられている。ステンレス鋼板36はその大きさ(港内側に向かう方向の長さ)が小さくなっている以外は第1実施形態に係る水域コンクリート構造物10のステンレス鋼板16と同様であるので、大きさ以外の点については、「(1)第1実施形態」におけるステンレス鋼板16の説明をもって、本第2実施形態に係る水域コンクリート構造物30のステンレス鋼板36の説明に替えるものとする。
【0063】
本第2実施形態に係る水域コンクリート構造物30においては、本体部12と、本体部12の下端部に設けられたコンクリート製フーチング34とにより、ハイブリッドケーソン42が形成されている。コンクリート製フーチング34は、港内側への張り出し部については、先端に向かうほど(本体部12から離れるほど)階段状に厚さが薄くなっており、前述したように、先端に向かうほど(本体部12から離れるにしたがって)上面の高さ位置が低くなっている。
【0064】
また、本第2実施形態に係る水域コンクリート構造物30においては、前述したように、コンクリート製フーチング34の港内側への張り出し部は階段状になっており、その各上面は水平になっている。このため、コンクリート製フーチング34の港内側への張り出し部の上方に設置する藻類魚介類定着部材40はコンクリート製フーチング34の上方から落下しにくくなっている。
【0065】
なお、
図4において、コンクリート製フーチング34の港外側に張り出している部位の上方には藻類魚介類定着部材を設置していないため、港外側に張り出している部位の上面は、第1実施形態に係る水域コンクリート構造物10と同様に、本体部12から離れるにしたがって高さ位置が低くなるように下方に傾斜させている。
【0066】
(3)第3実施形態
図5は、本発明の第3実施形態に係る水域コンクリート構造物50を模式的に示す斜視図である。
【0067】
第1実施形態に係る水域コンクリート構造物10および第2実施形態に係る水域コンクリート構造物30はハイブリッドケーソンを用いた防波堤であり、コンクリート製フーチング14、34の港内側および港外側への張り出し長さが大きくなっていたが、本第3実施形態に係る水域コンクリート構造物50の本体部52は鉄筋コンクリート製であり、本体部52は港内側から港外側へと向かう方向の幅が大きくなっており、本体部52の下端部に設けられたコンクリート製フーチング54の港内側および港外側への張り出し長さが小さくなっている。本体部52およびコンクリート製フーチング54により鉄筋コンクリート製ケーソン62が形成されており、鉄筋コンクリート製ケーソン62の上部は上部コンクリート部材58に覆われて蓋がされており、防波堤が構成されている。
【0068】
本第3実施形態に係る水域コンクリート構造物50はコンクリート製フーチング54の港内側および港外側への張り出し長さが小さい防波堤であるが、第1および第2実施形態に係る水域コンクリート構造物10、30と同様に本発明の適用が可能であり、コンクリート製フーチング54の港内側の張り出し部の上面にはステンレス鋼板56が設けられている。このため、コンクリート製フーチング54の港内側の張り出し部の上方に、藻類魚介類定着部材60を設置しても、コンクリート製フーチング54に損傷が生じにくくなっている。
【0069】
また、本第3実施形態に係る水域コンクリート構造物50においては、コンクリート製フーチング54の張り出し部の上面は水平になっている。このため、コンクリート製フーチング54の上方に設置する藻類魚介類定着部材60はコンクリート製フーチング54の上方から落下しにくくなっている。
【0070】
ステンレス鋼板56はその大きさ(港内側に向かう方向の長さ)が小さくなっている点以外は第1実施形態に係る水域コンクリート構造物10のステンレス鋼板16と同様であるので、大きさ以外の点については、「(1)第1実施形態」におけるステンレス鋼板16の説明をもって、本第3実施形態に係る水域コンクリート構造物50のステンレス鋼板56の説明に替えるものとする。
【0071】
(4)補足
本発明は、用いるステンレス鋼板の孔食指数を適宜に調整することにより、淡水域、汽水域、海水域のいずれにおいても適用可能である。
【符号の説明】
【0072】
10、30、50…水域コンクリート構造物
12、52…本体部
14、34、54…コンクリート製フーチング
14A…I形鋼
14B…鉄筋
16、36、56…ステンレス鋼板
16A…スタッド
18、58…上部コンクリート部材
20、40、60…藻類魚介類定着部材
22、42…ハイブリッドケーソン
62…鉄筋コンクリート製ケーソン
100…捨石マウンド