(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】バルブタイミング調整システムおよび電子制御装置
(51)【国際特許分類】
F01L 1/356 20060101AFI20240220BHJP
F02D 13/02 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
F01L1/356 E
F02D13/02 H
(21)【出願番号】P 2021125507
(22)【出願日】2021-07-30
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹中 健一郎
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-255499(JP,A)
【文献】特開2019-105167(JP,A)
【文献】特開2011-231713(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0335726(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/356
F02D 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(6)の駆動軸(7)から従動軸(8、9)にトルクが伝達されるトルク伝達系統に設けられ、前記従動軸の回転により開閉駆動される吸気バルブ(14)または排気バルブ(15)の開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整システムにおいて、
前記駆動軸と共に回転するハウジング(20)と、前記ハウジングの内側に形成される油圧室を進角油圧室(40)および遅角油圧室(41)に仕切り前記従動軸と共に回転するベーンロータ(30)とを有し、前記進角油圧室および前記遅角油圧室に供給される油圧により前記ハウジングと前記ベーンロータとの相対回転位相が制御されるバルブタイミング調整装置(1)と、
前記ベーンロータに設けられた収容穴(39)に往復移動可能に設けられるロックピン(50)と、前記ベーンロータと前記ハウジングとが所定の位相にあるときに前記ロックピンの先端が嵌合可能なように前記ハウジングに設けられた嵌合凹部(51)と、前記進角油圧室および前記遅角油圧室の少なくとも一方に連通し前記ロックピンが前記嵌合凹部から抜け出す方向に前記ロックピンに対して油圧を印加する解除油圧室(52)とを有する位相ロック機構(2)と、
前記進角油圧室および前記遅角油圧室にそれぞれ油路(37、38)を経由して連通する複数のポート(710、720)を有するスリーブ(70)と、前記スリーブの内側に往復移動可能に設けられて軸方向の位置の変化により複数の前記ポートの開口面積を調整可能なスプール(90)とを有し、前記進角油圧室および前記遅角油圧室への作動油の油圧および供給量を制御する油圧制御弁(3)と、
電流の印加量に応じて駆動して前記スプールに荷重を印加し、前記スプールの軸方向の位置を変化させることの可能な電磁駆動部(4)と、
前記電磁駆動部に印加する電流を制御する電子制御装置(5)と、を備え、
前記電子制御装置は、前記ロックピンの先端が前記嵌合凹部に嵌合した状態から前記ロックピンを前記嵌合凹部から抜け出させる際、前記電磁駆動部へ電流を所定の電流値で所定時間印加して前記スプールを初期位置から移動させる初動制御を実行した後、前記初動制御で印加した電流値よりも小さく且つ0より大きい電流値から次第に電流値を増加しつつ前記電磁駆動部へ電流を印加することで前記ロックピンを前記嵌合凹部から抜け出させる徐変制御を実行するように構成されて
おり、
さらに、前記電子制御装置は、作動油の粘度が所定の粘度閾値より高い場合、前記初動制御および前記徐変制御を実行し、
作動油の粘度が所定の粘度閾値より低い場合、前記初動制御を実行することなく、前記徐変制御を実行するように構成されている、バルブタイミング調整システム。
【請求項2】
内燃機関(6)の駆動軸(7)から従動軸(8、9)にトルクが伝達されるトルク伝達系統に設けられ、前記従動軸の回転により開閉駆動される吸気バルブ(14)または排気バルブ(15)の開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整システムにおいて、
前記駆動軸と共に回転するハウジング(20)と、前記ハウジングの内側に形成される油圧室を進角油圧室(40)および遅角油圧室(41)に仕切り前記従動軸と共に回転するベーンロータ(30)とを有し、前記進角油圧室および前記遅角油圧室に供給される油圧により前記ハウジングと前記ベーンロータとの相対回転位相が制御されるバルブタイミング調整装置(1)と、
前記ベーンロータに設けられた収容穴(39)に往復移動可能に設けられるロックピン(50)と、前記ベーンロータと前記ハウジングとが所定の位相にあるときに前記ロックピンの先端が嵌合可能なように前記ハウジングに設けられた嵌合凹部(51)と、前記進角油圧室および前記遅角油圧室の少なくとも一方に連通し前記ロックピンが前記嵌合凹部から抜け出す方向に前記ロックピンに対して油圧を印加する解除油圧室(52)とを有する位相ロック機構(2)と、
前記進角油圧室および前記遅角油圧室にそれぞれ油路(37、38)を経由して連通する複数のポート(710、720)を有するスリーブ(70)と、前記スリーブの内側に往復移動可能に設けられて軸方向の位置の変化により複数の前記ポートの開口面積を調整可能なスプール(90)とを有し、前記進角油圧室および前記遅角油圧室への作動油の油圧および供給量を制御する油圧制御弁(3)と、
電流の印加量に応じて駆動して前記スプールに荷重を印加し、前記スプールの軸方向の位置を変化させることの可能な電磁駆動部(4)と、
前記電磁駆動部に印加する電流を制御する電子制御装置(5)と、を備え、
前記電子制御装置は、前記ロックピンの先端が前記嵌合凹部に嵌合した状態から前記ロックピンを前記嵌合凹部から抜け出させる際、前記電磁駆動部へ電流を所定の電流値で所定時間印加して前記スプールを初期位置から移動させる初動制御を実行した後、前記初動制御で印加した電流値よりも小さく且つ0より大きい電流値から次第に電流値を増加しつつ前記電磁駆動部へ電流を印加することで前記ロックピンを前記嵌合凹部から抜け出させる徐変制御を実行するように構成されており、
さらに、前記電子制御装置は、作動油の温度が所定の温度閾値より低い場合、前記初動制御および前記徐変制御を実行し、
作動油の温度が所定の温度閾値より高い場合、前記初動制御を実行することなく、前記徐変制御を実行するように構成されている、バルブタイミング調整システム。
【請求項3】
内燃機関(6)の駆動軸(7)から従動軸(8、9)にトルクが伝達されるトルク伝達系統に設けられ、前記従動軸の回転により開閉駆動される吸気バルブ(14)または排気バルブ(15)の開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整システムにおいて、
前記駆動軸と共に回転するハウジング(20)と、前記ハウジングの内側に形成される油圧室を進角油圧室(40)および遅角油圧室(41)に仕切り前記従動軸と共に回転するベーンロータ(30)とを有し、前記進角油圧室および前記遅角油圧室に供給される油圧により前記ハウジングと前記ベーンロータとの相対回転位相が制御されるバルブタイミング調整装置(1)と、
前記ベーンロータに設けられた収容穴(39)に往復移動可能に設けられるロックピン(50)と、前記ベーンロータと前記ハウジングとが所定の位相にあるときに前記ロックピンの先端が嵌合可能なように前記ハウジングに設けられた嵌合凹部(51)と、前記進角油圧室および前記遅角油圧室の少なくとも一方に連通し前記ロックピンが前記嵌合凹部から抜け出す方向に前記ロックピンに対して油圧を印加する解除油圧室(52)とを有する位相ロック機構(2)と、
前記進角油圧室および前記遅角油圧室にそれぞれ油路(37、38)を経由して連通する複数のポート(710、720)を有するスリーブ(70)と、前記スリーブの内側に往復移動可能に設けられて軸方向の位置の変化により複数の前記ポートの開口面積を調整可能なスプール(90)とを有し、前記進角油圧室および前記遅角油圧室への作動油の油圧および供給量を制御する油圧制御弁(3)と、
電流の印加量に応じて駆動して前記スプールに荷重を印加し、前記スプールの軸方向の位置を変化させることの可能な電磁駆動部(4)と、
前記電磁駆動部に印加する電流を制御する電子制御装置(5)と、を備え、
前記電子制御装置は、前記ロックピンの先端が前記嵌合凹部に嵌合した状態から前記ロックピンを前記嵌合凹部から抜け出させる際、前記電磁駆動部へ電流を所定の電流値で所定時間印加して前記スプールを初期位置から移動させる初動制御を実行した後、前記初動制御で印加した電流値よりも小さく且つ0より大きい電流値から次第に電流値を増加しつつ前記電磁駆動部へ電流を印加することで前記ロックピンを前記嵌合凹部から抜け出させる徐変制御を実行するように構成されており、
前記ロックピンの先端と前記嵌合凹部とが嵌合する嵌合位相は、前記ハウジングに対して前記ベーンロータが最進角にある最進角位相、または、前記ハウジングに対して前記ベーンロータが最遅角にある最遅角位相である、バルブタイミング調整システム。
【請求項4】
前記位相ロック機構の有する前記解除油圧室は、前記進角油圧室および前記遅角油圧室のうち、前記ロックピンと前記嵌合凹部とが嵌合する嵌合位相から最も遠い反嵌合位相に向けて前記ベーンロータと前記ハウジングを相対回転させる際に油圧を高くする側の油圧室と油路(59)を介して連通しており、前記ベーンロータと前記ハウジングを嵌合位相に相対回転させる際に油圧を高くする側の油圧室と油路を介して連通していない構成である、請求項1
ないし3のいずれか1つに記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項5】
前記電子制御装置は、PWM制御により前記電磁駆動部に印加する電流を制御するものであり、
前記電磁駆動部は、前記電子制御装置によるPWM制御においてデューティ比が100%に近づくに従い、前記スプールを初期位置から最大移動位置に向けて移動させ、前記ロックピンと前記嵌合凹部とが嵌合する嵌合位相から最も遠い反嵌合位相に向けて前記ベーンロータと前記ハウジングを相対回転させる際に油圧を高くする側の油圧室への作動油の油圧および供給量を増やす構成であり、
前記電子制御装置が前記初動制御を実行する際の所定の電流値は、デューティ比100~95%の間の所定の値である、請求項1
ないし4のいずれか1つに記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項6】
前記電子制御装置による通電制御において、前記進角油圧室および前記遅角油圧室からの油圧の排出量が0または最小となる位置に前記スプールを移動させるように前記電磁駆動部を駆動する電流値を保持電流値と称するとき、
前記電子制御装置が前記徐変制御を開始する際の電流値は、前記保持電流値の範囲内の所定の電流値である、請求項1ないし
5のいずれか1つに記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項7】
前記電子制御装置による通電制御において、前記進角油圧室および前記遅角油圧室からの油圧の排出量が0または最小となる位置に前記スプールを移動させるように前記電磁駆動部を駆動する電流値を保持電流値と称するとき、
前記電子制御装置が前記徐変制御を開始する際の電流値は、前記保持電流値より小さく0より大きい範囲の所定の電流値である、請求項1ないし
5のいずれか1つに記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項8】
前記電子制御装置は、PWM制御により前記電磁駆動部に印加する電流を制御するものであり、
前記電磁駆動部は、前記電子制御装置によるPWM制御においてデューティ比が100%に近づくに従い、前記スプールを初期位置から最大移動位置に向けて移動させ、前記ロックピンと前記嵌合凹部とが嵌合する嵌合位相から最も遠い反嵌合位相に向けて前記ベーンロータと前記ハウジングを相対回転させる際に油圧を高くする側の油圧室への作動油の油圧および供給量を増やす構成であり、
前記電子制御装置が前記徐変制御を開始する際の電流値は、デューティ比が20~50%の間の所定の電流値である、請求項1ないし
5のいずれか1つに記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項9】
前記電子制御装置が前記徐変制御を開始する際の電流値は、200mA~500mAの間の所定の電流値である、請求項1ないし
5のいずれか1つに記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項10】
前記電子制御装置による通電制御において、前記進角油圧室および前記遅角油圧室からの油圧の排出量が0または最小となる位置に前記スプールを移動させるように前記電磁駆動部を駆動する電流値を保持電流値と称するとき、
前記電子制御装置が前記徐変制御を開始する際の電流値は、前記保持電流値の範囲内の所定の電流値、または、前記保持電流値より小さく0より大きい範囲の所定の電流値であり、
前記電子制御装置が前記徐変制御を終了する際の電流値は、前記保持電流値より大きい電流値である、請求項1ないし
5のいずれか1つに記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項11】
前記電子制御装置は、作動油の粘度が高くなるに従い、前記初動制御を実行する時間を長くするように構成されている、請求項1ないし10のいずれか1つに記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項12】
前記電子制御装置は、作動油の温度が低くなるに従い、前記初動制御を実行する時間を長くするように構成されている、請求項1ないし10のいずれか1つに記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項13】
前記電子制御装置は、前記初動制御を実行した後、前記ロックピンの先端が前記嵌合凹部から抜け出すまで前記徐変制御を繰り返し実行する、請求項1ないし1
2のいずれか1つに記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項14】
内燃機関(6)の駆動軸(7)から従動軸(8、9)にトルクが伝達されるトルク伝達系統に設けられ、前記従動軸の回転により開閉駆動される吸気バルブ(14)または排気バルブ(15)の開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整システムを駆動制御する電子制御装置において、
前記バルブタイミング調整システムは、
前記駆動軸と共に回転するハウジング(20)と、前記ハウジングの内側に形成される油圧室を進角油圧室(40)および遅角油圧室(41)に仕切り前記従動軸と共に回転するベーンロータ(30)とを有し、前記進角油圧室および前記遅角油圧室に供給される油圧により前記ハウジングと前記ベーンロータとの相対回転位相が制御されるバルブタイミング調整装置(1)と、
前記ベーンロータに設けられた収容穴(39)に往復移動可能に設けられるロックピン(50)と、前記ベーンロータと前記ハウジングとが所定の位相にあるときに前記ロックピンの先端が嵌合可能なように前記ハウジングに設けられた嵌合凹部(51)と、前記進角油圧室および前記遅角油圧室の少なくとも一方に連通し前記ロックピンが前記嵌合凹部から抜け出す方向に前記ロックピンに対して油圧を印加する解除油圧室(52)とを有する位相ロック機構(2)と、
前記進角油圧室および前記遅角油圧室にそれぞれ油路を経由して連通する複数のポート(710、720)を有するスリーブ(70)と、前記スリーブの内側に往復移動可能に設けられて軸方向の位置の変化により複数の前記ポートの開口面積を調整可能なスプール(90)とを有し、前記進角油圧室および前記遅角油圧室への作動油の油圧および供給量を制御する油圧制御弁(3)と、
電流の印加量に応じて駆動して前記スプールに荷重を印加し、前記スプールの軸方向の位置を変化させることの可能な電磁駆動部(4)と、を備えており、
前記電子制御装置は、
前記ロックピンの先端が前記嵌合凹部に嵌合した状態から前記ロックピンを前記嵌合凹部から抜け出させる際、前記電磁駆動部へ電流を所定の電流値で所定時間印加して前記スプールを初期位置から移動させる初動制御を実行した後、前記初動制御で印加した電流値よりも小さく且つ0より大きい電流値から次第に電流値を増加しつつ前記電磁駆動部へ電流を印加することで前記ロックピンを前記嵌合凹部から抜け出させる徐変制御を実行するように構成されて
おり、
さらに、作動油の粘度が所定の粘度閾値より高い場合、前記初動制御および前記徐変制御を実行し、
作動油の粘度が所定の粘度閾値より低い場合、前記初動制御を実行することなく、前記徐変制御を実行するように構成されている、電子制御装置。
【請求項15】
内燃機関(6)の駆動軸(7)から従動軸(8、9)にトルクが伝達されるトルク伝達系統に設けられ、前記従動軸の回転により開閉駆動される吸気バルブ(14)または排気バルブ(15)の開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整システムを駆動制御する電子制御装置において、
前記バルブタイミング調整システムは、
前記駆動軸と共に回転するハウジング(20)と、前記ハウジングの内側に形成される油圧室を進角油圧室(40)および遅角油圧室(41)に仕切り前記従動軸と共に回転するベーンロータ(30)とを有し、前記進角油圧室および前記遅角油圧室に供給される油圧により前記ハウジングと前記ベーンロータとの相対回転位相が制御されるバルブタイミング調整装置(1)と、
前記ベーンロータに設けられた収容穴(39)に往復移動可能に設けられるロックピン(50)と、前記ベーンロータと前記ハウジングとが所定の位相にあるときに前記ロックピンの先端が嵌合可能なように前記ハウジングに設けられた嵌合凹部(51)と、前記進角油圧室および前記遅角油圧室の少なくとも一方に連通し前記ロックピンが前記嵌合凹部から抜け出す方向に前記ロックピンに対して油圧を印加する解除油圧室(52)とを有する位相ロック機構(2)と、
前記進角油圧室および前記遅角油圧室にそれぞれ油路を経由して連通する複数のポート(710、720)を有するスリーブ(70)と、前記スリーブの内側に往復移動可能に設けられて軸方向の位置の変化により複数の前記ポートの開口面積を調整可能なスプール(90)とを有し、前記進角油圧室および前記遅角油圧室への作動油の油圧および供給量を制御する油圧制御弁(3)と、
電流の印加量に応じて駆動して前記スプールに荷重を印加し、前記スプールの軸方向の位置を変化させることの可能な電磁駆動部(4)と、を備えており、
前記電子制御装置は、
前記ロックピンの先端が前記嵌合凹部に嵌合した状態から前記ロックピンを前記嵌合凹部から抜け出させる際、前記電磁駆動部へ電流を所定の電流値で所定時間印加して前記スプールを初期位置から移動させる初動制御を実行した後、前記初動制御で印加した電流値よりも小さく且つ0より大きい電流値から次第に電流値を増加しつつ前記電磁駆動部へ電流を印加することで前記ロックピンを前記嵌合凹部から抜け出させる徐変制御を実行するように構成されており、
さらに、作動油の温度が所定の温度閾値より低い場合、前記初動制御および前記徐変制御を実行し、
作動油の温度が所定の温度閾値より高い場合、前記初動制御を実行することなく、前記徐変制御を実行するように構成されている、電子制御装置。
【請求項16】
内燃機関(6)の駆動軸(7)から従動軸(8、9)にトルクが伝達されるトルク伝達系統に設けられ、前記従動軸の回転により開閉駆動される吸気バルブ(14)または排気バルブ(15)の開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整システムを駆動制御する電子制御装置において、
前記バルブタイミング調整システムは、
前記駆動軸と共に回転するハウジング(20)と、前記ハウジングの内側に形成される油圧室を進角油圧室(40)および遅角油圧室(41)に仕切り前記従動軸と共に回転するベーンロータ(30)とを有し、前記進角油圧室および前記遅角油圧室に供給される油圧により前記ハウジングと前記ベーンロータとの相対回転位相が制御されるバルブタイミング調整装置(1)と、
前記ベーンロータに設けられた収容穴(39)に往復移動可能に設けられるロックピン(50)と、前記ベーンロータと前記ハウジングとが所定の位相にあるときに前記ロックピンの先端が嵌合可能なように前記ハウジングに設けられた嵌合凹部(51)と、前記進角油圧室および前記遅角油圧室の少なくとも一方に連通し前記ロックピンが前記嵌合凹部から抜け出す方向に前記ロックピンに対して油圧を印加する解除油圧室(52)とを有する位相ロック機構(2)と、
前記進角油圧室および前記遅角油圧室にそれぞれ油路を経由して連通する複数のポート(710、720)を有するスリーブ(70)と、前記スリーブの内側に往復移動可能に設けられて軸方向の位置の変化により複数の前記ポートの開口面積を調整可能なスプール(90)とを有し、前記進角油圧室および前記遅角油圧室への作動油の油圧および供給量を制御する油圧制御弁(3)と、
電流の印加量に応じて駆動して前記スプールに荷重を印加し、前記スプールの軸方向の位置を変化させることの可能な電磁駆動部(4)と、を備えており、
前記ロックピンの先端と前記嵌合凹部とが嵌合する嵌合位相は、前記ハウジングに対して前記ベーンロータが最進角にある最進角位相、または、前記ハウジングに対して前記ベーンロータが最遅角にある最遅角位相であり、
前記電子制御装置は、
前記ロックピンの先端が前記嵌合凹部に嵌合した状態から前記ロックピンを前記嵌合凹部から抜け出させる際、前記電磁駆動部へ電流を所定の電流値で所定時間印加して前記スプールを初期位置から移動させる初動制御を実行した後、前記初動制御で印加した電流値よりも小さく且つ0より大きい電流値から次第に電流値を増加しつつ前記電磁駆動部へ電流を印加することで前記ロックピンを前記嵌合凹部から抜け出させる徐変制御を実行するように構成されている電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブタイミング調整システム、および、そのバルブタイミング調整システムを駆動制御する電子制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の吸気バルブまたは排気バルブの開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整システムが知られている。
【0003】
特許文献1に記載のバルブタイミング調整システムは、バルブタイミング調整装置、位相ロック機構、流体圧制御装置および電子制御装置などを備えている。バルブタイミング調整装置は、内燃機関の駆動軸と共に回転するハウジングと、そのハウジングの内側に形成される油圧室を進角油圧室および遅角油圧室に仕切り、内燃機関の従動軸と共に回転するベーンロータとを有している。位相ロック機構は、ベーンロータの有する収容穴に往復移動可能に設けられたロックピンの先端が、ハウジングの有する嵌合凹部に嵌合することで、ベーンロータとハウジングとの相対回転をロックする構成である。流体圧制御装置は、スプールおよびスリーブを有する油圧制御弁と、そのスプールを軸方向に移動させる電磁駆動部とが一体に構成され、バルブタイミング調整装置の油圧室に油圧を供給するものである。
【0004】
電子制御装置は、流体圧制御装置の有する電磁駆動部に対し、制御指令値としてPWM制御による所定のデューティ比の電力を供給する制御を実行する。そして、この電子制御装置は、位相ロック機構を解除する際、最もロック解除され易い流体圧状態を実現するための解除指令値とは異なる第1所定値を開始値とし、時間経過と共に解除指令値を経由して第2所定値へ制御指令値を徐変させる制御を実行する。これにより、特許文献1には、バルブタイミング調整システムに使用される作動油の温度、粘度、または内燃機関の回転数などにより解除指令値に変動が生じた場合でも、第1所定値から第2所定値の間で解除指令値を通過させることで、位相ロック機構が解除される可能性を高めることが可能と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、発明者の検討により、上記特許文献1に記載のバルブタイミング調整システムでは、作動油が低温環境下で高粘度になる場合、または、作動油に高粘度油種が用いられる場合、次のような問題が生じることがわかった。すなわち、バルブタイミング調整システムに使用される作動油が高粘度になると、流体抵抗が大きくなることで、スプールが動き出しにくくなる。そのため、電子制御装置が流体圧制御装置に対して第1所定値で制御指令してから、油圧制御弁のスプールが動き出すのに時間がかかると、スプールが動き出さない状態のまま、制御指令値が解除指令値を通過してしまう。その後、スプールが動き出し始めると、スプールは、その時点での制御指令値に相当する作動位置に向かって一気に動くため、バルブタイミング調整装置に供給される油圧が急峻に立ち上がる。そのため、位相ロック機構が解除される前に、位相ロック機構の有するロックピンに対してベーンロータおよびハウジングから過大なトルクが作用し、ロックピンの先端が嵌合凹部の内壁に引っ掛かり、位相ロック機構が解除できなくなる恐れがある。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、位相ロック機構を短時間で確実に解除し、位相ロック状態から位相制御を実行する際の起動性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1~3に係る発明によるバルブタイミング調整システムは、内燃機関(6)の駆動軸(7)から従動軸(8、9)にトルクが伝達されるトルク伝達系統に設けられ、従動軸の回転により開閉駆動される吸気バルブ(14)または排気バルブ(15)の開閉タイミングを調整するものであり、バルブタイミング調整装置(1)、位相ロック機構(2)、油圧制御弁(3)、電磁駆動部(4)および電子制御装置(5)を備えている。
【0009】
バルブタイミング調整装置は、駆動軸と共に回転するハウジング(20)と、ハウジングの内側に形成される油圧室を進角油圧室(40)および遅角油圧室(41)に仕切り従動軸と共に回転するベーンロータ(30)とを有し、進角油圧室および遅角油圧室に供給される油圧によりハウジングとベーンロータとの相対回転位相が制御される構成である。
【0010】
位相ロック機構は、ベーンロータに設けられた収容穴(39)に往復移動可能に設けられるロックピン(50)と、ベーンロータとハウジングとが所定の位相にあるときにロックピンの先端が嵌合可能なようにハウジングに設けられた嵌合凹部(51)と、進角油圧室および遅角油圧室の少なくとも一方に連通しロックピンが嵌合凹部から抜け出す方向にロックピンに対して油圧を印加する解除油圧室(52)とを有する構成である。
【0011】
油圧制御弁は、進角油圧室および遅角油圧室にそれぞれ油路(37、38)を経由して連通する複数のポート(710、720)を有するスリーブ(70)と、スリーブの内側に往復移動可能に設けられて軸方向の位置の変化により複数のポートの開口面積を調整可能なスプール(90)とを有し、進角油圧室および遅角油圧室への作動油の油圧および供給量を制御するものである。
【0012】
電磁駆動部は、電流の印加量に応じて駆動してスプールに荷重を印加し、スプールの軸方向の位置を変化させることの可能な構成である。
【0013】
電子制御装置は、電磁駆動部に印加する電流を制御するものである。そして、電子制御装置は、ロックピンの先端が嵌合凹部に嵌合した状態からロックピンを嵌合凹部から抜け出させる際、電磁駆動部へ電流を所定の電流値で所定時間印加してスプールを初期位置から移動させる初動制御を実行した後、初動制御で印加した電流値よりも小さく且つ0より大きい電流値から次第に電流値を増加しつつ電磁駆動部へ電流を印加することでロックピンを嵌合凹部から抜け出させる徐変制御を実行するように構成されている。
さらに、請求項1に係る発明では、電子制御装置は、作動油の粘度が所定の粘度閾値より高い場合、初動制御および徐変制御を実行し、
作動油の粘度が所定の粘度閾値より低い場合、初動制御を実行することなく、徐変制御を実行するように構成されている。
また、請求項2に係る発明では、電子制御装置は、作動油の温度が所定の温度閾値より低い場合、初動制御および徐変制御を実行し、
作動油の温度が所定の温度閾値より高い場合、初動制御を実行することなく、徐変制御を実行するように構成されている。
また、請求項3に係る発明では、ロックピンの先端と嵌合凹部とが嵌合する嵌合位相は、ハウジングに対してベーンロータが最進角にある最進角位相、または、ハウジングに対してベーンロータが最遅角にある最遅角位相である。
【0014】
これによれば、初動制御により、電磁駆動部からスプールに大きな荷重を瞬間的に印加することで、作動油が高粘度であっても、スプールを初期位置から確実に動かし、スプールを摺動しやすい状態に変えることが可能である。そのため、初動制御に続く徐変制御により、電流印加量の増加に追従するようにスプールを徐々に移動させることができ、位相ロック機構を確実に解除できる。すなわち、初動制御を実行する際の「所定の電流値」は、作動油が高粘度であってもスプールを初期位置から移動できるものであればよい。
【0015】
さらに、徐変制御では、電流値を0から増加してゆくのではなく、電流値を0より大きい電流値から次第に増加してゆくことで、進角油圧室または遅角油圧室の一方に油圧が急峻に供給される領域、すなわち、位相ロック機構の解除に不要な領域が除かれる。そのため、ロックピンの先端が嵌合凹部の内壁に引っ掛かることを防ぐと共に、位相ロック機構の解除にかかる時間を短くできる。したがって、このバルブタイミング調整システムは、例えば作動油の粘度が高い場合であっても、バルブタイミング調整装置を位相ロック状態から短時間でロック解除して位相制御を行うことが可能となり、起動性を向上できる。
【0016】
なお、本明細書において、「0より大きい電流値」とは0mAより大きい電流値、または、デューティ比0%(例えば、電流値0mA~100mAの間の所定の値)より大きい電流値をいう。
【0017】
また、請求項14~16に係る発明は、バルブタイミング調整システムを駆動制御する電子制御装置に関する。バルブタイミング調整システムは、請求項1に記載したバルブタイミング調整装置(1)、位相ロック機構(2)、油圧制御弁(3)および電磁駆動部(4)を備えている。そして、電子制御装置は、ロックピンの先端が嵌合凹部に嵌合した状態からロックピンを嵌合凹部から抜け出させる際、電磁駆動部へ電流を所定の電流値で所定時間印加してスプールを初期位置から移動させる初動制御を実行した後、初動制御で印加した電流値よりも小さく且つ0より大きい電流値から次第に電流値を増加しつつ電磁駆動部へ電流を印加することでロックピンを嵌合凹部から抜け出させる徐変制御を実行するように構成されている。
さらに、請求項14に係る発明では、電子制御装置は、作動油の粘度が所定の粘度閾値より高い場合、初動制御および徐変制御を実行し、
作動油の粘度が所定の粘度閾値より低い場合、初動制御を実行することなく、徐変制御を実行するように構成されている。
また、請求項15に係る発明では、電子制御装置は、作動油の温度が所定の温度閾値より低い場合、初動制御および徐変制御を実行し、
作動油の温度が所定の温度閾値より高い場合、初動制御を実行することなく、徐変制御を実行するように構成されている。
また、請求項16に係る発明では、ロックピンの先端と嵌合凹部とが嵌合する嵌合位相は、ハウジングに対してベーンロータが最進角にある最進角位相、または、ハウジングに対してベーンロータが最遅角にある最遅角位相である。
【0018】
これにより、請求項14に係る発明も、請求項1に係る発明と同一の作用効果を奏することができる。請求項15に係る発明も、請求項2に係る発明と同一の作用効果を奏することができる。請求項16に係る発明も、請求項3に係る発明と同一の作用効果を奏することができる。なお、請求項14~16に係る発明に対し、請求項4~13に係る発明を適用することも可能である。
【0019】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1実施形態に係るバルブタイミング調整システムの概略構成を示す断面図である。
【
図2】第1実施形態に係るバルブタイミング調整システムが用いられる内燃機関の概略構成図である。
【
図3】
図1のIII―III線に沿った断面図である。
【
図4】バルブタイミング調整装置に設けられる位相ロック機構の断面図である。
【
図5】油圧制御弁においてスプールがゼロストロークの状態を示す断面図である。
【
図6】油圧制御弁の有するインナースリーブの断面図である。
【
図7】油圧制御弁においてスプールがフルストロークの状態を示す断面図である。
【
図8】油圧制御弁においてスプールが保持ストロークの状態を示す断面図である。
【
図9】油圧制御弁においてスプールが保持ストロークの状態を示す断面図である。
【
図10】油圧制御弁においてスプールのストロークまたは電流値と、各ポートの開口面積または作動油の供給/排出流量との関係を示すグラフである。
【
図11】第1実施形態において位相ロック解除時の通電制御を示すグラフである。
【
図12】第1比較例において位相ロック解除時の通電制御を示すグラフである。
【
図13A】第2比較例において位相ロック解除時の通電制御を示すグラフである。
【
図13B】第2比較例において位相ロック解除時の油圧の変化を示すグラフである。
【
図13C】第2比較例において位相ロック解除時のロックピンの動きを示すグラフである。
【
図14】第3比較例において位相ロック解除時の通電制御を示すグラフである。
【
図15】第2実施形態において位相ロック解除時の制御処理を説明するためのフローチャートである。
【
図16】第2実施形態において作動油の粘度が閾値より低い場合における位相ロック解除時の通電制御を示すグラフである。
【
図17】第3実施形態において位相ロック解除時の制御処理を説明するためのフローチャートである。
【
図18】第4実施形態において位相ロック解除時の通電制御を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0022】
(第1実施形態)
第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態のバルブタイミング調整システムは、車両に搭載され、内燃機関の吸気バルブまたは排気バルブの開閉タイミングを調整するシステムである。
【0023】
図1に示すように、バルブタイミング調整システムは、バルブタイミング調整装置1、位相ロック機構2、油圧制御弁3、電磁駆動部4および電子制御装置5などを備えている。まず、バルブタイミング調整システムが備える各構成について説明し、その後に、電子制御装置5が実行する通電制御について説明する。
【0024】
<バルブタイミング調整装置1の構成>
図2に示すように、バルブタイミング調整装置1は、内燃機関6の駆動軸としてのクランクシャフト7から2本の従動軸としてのカムシャフト8、9にトルクが伝達されるトルク伝達系統に設けられている。トルク伝達系統では、クランクシャフト7に固定されるギヤ10と、カムシャフト8、9にそれぞれ固定される2個のギヤ11、12にチェーン13が巻き掛けられ、クランクシャフト7から2本のカムシャフト8、9にトルクが伝達される。一方のカムシャフト8は吸気バルブ14を開閉駆動し、他方のカムシャフト9は排気バルブ15を開閉駆動する。
図2の矢印Rは、チェーン13等の回転方向を示している。なお、トルク伝達系統は、
図2に示したようなチェーン13を用いる構成に限らず、ベルトを用いる構成としてもよい。
【0025】
本実施形態では、吸気バルブ14を開閉駆動するカムシャフト8の端部に設けられ、吸気バルブ14の開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整装置1を例にして説明する。以下の説明では、便宜上、バルブタイミング調整装置1に対してカムシャフト8側を「後側」といい、その反対側を「前側」ということとする。
【0026】
図1および
図3に示すように、バルブタイミング調整装置1は、ハウジング20およびベーンロータ30などを備えている。バルブタイミング調整装置1には、位相ロック機構2および油圧制御弁3が設けられている。なお、
図3では、油圧制御弁3を省略している。
【0027】
本実施形態のバルブタイミング調整装置1が備えるハウジング20は、シューハウジング21とリヤプレート22とがボルト23により接続されて構成されている。シューハウジング21は、環状の周壁24と、その周壁24から径方向内側に延びる複数のシュー25と、フロントプレート26とが一体に形成されたものである。ハウジング20の内側には、複数のシュー25により仕切られた複数の油圧室が形成されている。また、フロントプレート26は、その中央部に油圧制御弁3を挿入するための穴27を有している。一方、リヤプレート22は、カムシャフト8を通すための穴28を有している。また、リヤプレート22の外周には、ギヤ11が設けられている。そのギヤ11に対して、
図2に示したチェーン13が接続される。これにより、ハウジング20は、内燃機関6の駆動軸としてのクランクシャフト7と共に回転する。
【0028】
ベーンロータ30は、円筒状のロータ31、および、そのロータ31から径方向外側に延びる複数のベーン32が一体に形成されたものである。ベーンロータ30は、ハウジング20の内側に、ハウジング20に対して所定角度範囲で相対回転可能に設けられている。ベーンロータ30の軸方向の端部には、カムシャフト8が固定されている。ベーンロータ30とカムシャフト8とはノックピン33によって周方向の位置決めがされると共に、相対回転が規制されている。さらに、ベーンロータ30とカムシャフト8とは、油圧制御弁3が有するアウタースリーブ71により固定されている。具体的には、アウタースリーブ71は、ベーンロータ30の回転中心部において軸方向に貫通する中央穴34に挿入される。そして、アウタースリーブ71の外壁に設けられた雄ねじ72が、カムシャフト8に設けられた雌ねじ16に螺合し、アウタースリーブ71の外壁に設けられたフランジ73がベーンロータ30に当接する。これにより、ベーンロータ30とカムシャフト8とがアウタースリーブ71により固定され、ベーンロータ30は、内燃機関6の従動軸としてのカムシャフト8と共に回転する。
【0029】
ベーンロータ30のベーン32は、ハウジング20の内側に形成された油圧室を、進角油圧室40と遅角油圧室41とに仕切っている。ベーン32の径方向外側に設けられたシール部材35は、ハウジング20の周壁24に液密に摺接し、ロータ31の径方向外側に設けられたシール部材36は、ハウジング20のシュー25に液密に摺接している。これにより、進角油圧室40と遅角油圧室41との間の作動油の漏れが規制されている。
【0030】
進角油圧室40は、ベーンロータ30に設けられた進角油路37と連通している。進角油路37を経由して進角油圧室40に作動油が供給および排出される。遅角油圧室41は、ベーンロータ30に設けられた遅角油路38と連通している。遅角油路38を経由して遅角油圧室41に作動油が供給および排出される。
【0031】
進角油圧室40に供給される作動油の油圧が遅角油圧室41に供給される作動油の油圧より高くなると、ハウジング20に対してベーンロータ30は進角側に相対回転移動する。それと反対に、遅角油圧室41に供給される作動油の油圧が進角油圧室40に供給される作動油の油圧より高くなると、ハウジング20に対してベーンロータ30は遅角側に相対回転移動する。なお、一般に、進角とは、吸気バルブ14又は排気バルブ15の開閉タイミングを早めることをいい、遅角とは、吸気バルブ14又は排気バルブ15の開閉タイミングを遅らすことをいう。
図3の矢印Dは、ハウジング20に対するベーンロータ30の進角方向、遅角方向を示している。すなわち、バルブタイミング調整装置1は、進角油圧室40および遅角油圧室41に供給される作動油の油圧を調整することで、ハウジング20とベーンロータ30とを目標とする回転位相に制御し、吸気バルブ14の開閉タイミングを調整することが可能である。
【0032】
<位相ロック機構2の構成>
次に、位相ロック機構2の構成について説明する。
図1、
図3および
図4に示すように、本実施形態の位相ロック機構2は、ロックピン50、嵌合凹部51、解除油圧室52などを有している。
【0033】
ベーンロータ30のベーン32の1つには、ロックピン50を収容する収容穴39が設けられている。収容穴39の内側には、円筒状の筒部材53が圧入固定されている。ロックピン50は、その筒部材53の内側に、軸方向に往復移動可能に収容されている。
【0034】
ロックピン50は、有底円筒状に形成され、底部54および円筒部55を有している。ロックピン50の内側には、スプリング56が設けられている。スプリング56の一端は、ベーン32の収容穴39の内壁に設けられたスプリング受け57に係止され、スプリング56の他端は、ロックピン50の底部54の内壁に係止されている。スプリング56は、圧縮コイルスプリングであり、ロックピン50をリヤプレート22側に付勢している。
【0035】
一方、嵌合凹部51は、ハウジング20の有するリヤプレート22のうち油圧室側の面29から後側に凹むように設けられている。嵌合凹部51の内壁には、円筒状のリング部材58が圧入固定されている。ロックピン50の底部54側の端部は、そのリング部材58の径方向内側に嵌合可能である。本実施形態の嵌合凹部51は、ハウジング20に対してベーンロータ30が最遅角位置に位相制御されている状態におけるロックピン50の位置に対応する位置に設けられている。すなわち、本実施形態において、ロックピン50と嵌合凹部51とが嵌合する嵌合位相は、最遅角位相である。ロックピン50と嵌合凹部51とが嵌合することで、内燃機関6の始動を可能にすると共に、内燃機関6の始動時等の低油圧時に吸気バルブ14を駆動するカム機構から正逆方向に作用するカムトルクによりベーンロータ30とハウジング20とが搖動して打音が発生することを防ぐことができる。
【0036】
嵌合凹部51の内側においてロックピン50の底部54に面する空間は、解除油圧室52として機能する。解除油圧室52は、ロックピン50が嵌合凹部51から抜け出す方向にロックピン50に対して油圧を印加するための油圧室である。本実施形態の解除油圧室52は、油路59を経由して進角油圧室40のみに連通しており、遅角油圧室41には連通していない。すなわち、本実施形態の位相ロック機構2は、いわゆる「片圧ピン機構」が採用されている。そのため、本実施形態のロックピン50は、ハウジング20に対してベーンロータ30を最遅角位置に位相制御した状態で、進角油圧室40の油圧が後述するピン解除圧Paよりも小さくなると嵌合凹部51に嵌合する。なお、本実施形態において、解除油圧室52に連通する進角油圧室40は、嵌合位相から最も遠い反嵌合位相(本実施形態では、最進角位相)に向けてベーンロータ30とハウジング20を相対回転させる際に油圧を高くする側の油圧室である。
【0037】
ハウジング20に対してベーンロータ30を最遅角位相から進角側に位相制御する場合、ロックピン50を嵌合凹部51から抜け出させた後(すなわち、ロック解除した後)に、その位相制御を実行することになる。このとき、解除油圧室52に供給される油圧がロックピン50のうち軸方向の面に作用する力が、スプリング56がロックピン50を付勢する付勢力よりも大きくなると、ロックピン50は嵌合凹部51から抜け出すこと(すなわち、ロック解除)が可能となる。ここで、ロックピン50が嵌合凹部51から解除可能となる油圧(すなわち、ピン解除圧)をPa、ロックピン50のうち解除油圧室52を向く面をロックピン50の軸心に対して垂直な仮想平面に投影した面積をAa、スプリング56の付勢力をFsとすると、次の式1の関係を有する。
Pa=Fs/Aa ・・・(式1)
【0038】
すなわち、解除油圧室52に供給される油圧がピン解除圧Pa以上となり、さらに、進角油圧室40および遅角油圧室41からベーンロータ30に作用する力と、カムシャフト8からベーンロータ30に作用するカムトルクとのバランスが釣り合ったときに、ロックピン50は嵌合凹部51から抜け出す。そして、ロックピン50が嵌合凹部51から抜け出した状態(すなわち、位相ロック機構2が解除された状態)で、進角側への位相制御を行うことが可能となる。ただし、ロックピン50が嵌合凹部51から抜け出す前に、進角油圧室40に油圧が急峻に供給された場合、
図4の矢印Fに示したような力がベーンロータ30に作用することがある。その場合、
図4の星記号Cに示したように、ロックピン50の先端と嵌合凹部51の内壁(具体的には、リング部材58の内壁)とが引っ掛かると、位相ロック機構2が解除できなくなることが懸念される。この問題の解決手段については、後述の電子制御装置5による通電制御にて説明する。
【0039】
<油圧制御弁3の構成>
続いて、油圧制御弁3の構成について説明する。
図1に示すように、油圧制御弁3は、ベーンロータ30の回転中心部において軸方向に貫通する中央穴34に設けられている。油圧制御弁3は、オイルパン60から油圧ポンプ61によって汲み上げられた作動油を進角油圧室40および遅角油圧室41(以下、「両油圧室40、41」という))に供給し、その両油圧室40、41から排出される作動油をバルブタイミング調整装置1の外に排出する機能を有している。
【0040】
図1および
図5に示すように、油圧制御弁3は、アウタースリーブ71、インナースリーブ80、スプール90などを有している。なお、以下の説明では、アウタースリーブ71とインナースリーブ80とを纏めて「スリーブ70」と呼ぶことがある。
【0041】
上述したように、アウタースリーブ71は、ベーンロータ30とカムシャフト8を固定している。そのため、アウタースリーブ71とベーンロータ30とカムシャフト8とは相対回転しないように固定されている。
【0042】
アウタースリーブ71は、筒状に形成されており、前側から順に、外側遅角ポート74、外側進角ポート75を有している。また、アウタースリーブ71の前側の開口部には、円環状のストッパリング76が固定されている。一方、アウタースリーブ71の後側の開口77は、カムシャフト8に設けられた作動油室62に連通している。
【0043】
インナースリーブ80は、アウタースリーブ71の内側に固定されている。インナースリーブ80の径方向外側の外壁面と、アウタースリーブ71の径方向内側の内壁面とは当接している。インナースリーブ80の後側の端部は、アウタースリーブ71の後側の開口77の外周に設けられる外周部79に当接している。一方、インナースリーブ80の軸方向前側の端部は、ストッパリング76に当接している。これにより、インナースリーブ80とアウタースリーブ71との軸方向の位置ずれが防がれている。
【0044】
図5および
図6に示すように、インナースリーブ80は、カムシャフト8の作動油室62と連通する作動油供給室81を有している。また、インナースリーブ80は、スプール90を収容する収容室82を有している。作動油供給室81と収容室82とは、仕切壁83により仕切られている。
【0045】
図6に示すように、インナースリーブ80は、作動油供給室81に連通する連通孔84と、その連通孔84からインナースリーブ80の外壁を軸方向に延びる連通溝85と、その連通溝85からインナースリーブ80を径方向内側に貫通する貫通孔86を有している。貫通孔86は、収容室82側の領域に設けられている。
【0046】
また、インナースリーブ80は、収容室82側の領域において、前側から順に、内側遅角ポート87、内側進角ポート88を有している。内側遅角ポート87および内側進角ポート88と、連通溝85および貫通孔86とは、インナースリーブ80の周方向において異なる位置に設けられている。また、インナースリーブ80の軸方向において、内側遅角ポート87および内側進角ポート88の中間の位置に貫通孔86は設けられている。
【0047】
図5に示すように、内側遅角ポート87と外側遅角ポート74とは径方向に連通しており、内側進角ポート88と外側進角ポート75とは径方向に連通している。そのため、以下の説明では、外側遅角ポート74と内側遅角ポート87とを纏めて「遅角ポート710」と呼び、外側進角ポート75と内側進角ポート88とを纏めて「進角ポート720」と呼ぶ。遅角ポート710は、ベーンロータ30に設けられた遅角油路38と連通しており、進角ポート720は、ベーンロータ30に設けられた進角油路37と連通している。
【0048】
スプール90は、有底筒状に形成され、インナースリーブ80の収容室82に軸方向に往復移動可能に設けられている。スプール90の径方向外側の外壁面と、インナースリーブ80の径方向内側の内壁面とは摺接している。
【0049】
スプール90と仕切壁83との間に、スプリング91が設けられている。スプリング91の一端は、スプール90の内壁の一部に設けられた段差92に係止され、スプリング91の他端は仕切壁83に係止されている。スプリング91は、圧縮コイルスプリングであり、スプール90をストッパリング76側に付勢している。
図5では、スプール90の前側の端部93がストッパリング76に当接している状態を示している。これにより、スプール90の軸方向前側の位置が定められる。このスプール90の位置を、スプール90の初期位置またはゼロストロークと呼ぶ。
【0050】
一方、
図7に示すように、後述する電磁駆動部4としてのソレノイドアクチュエータの押圧ピン46によりスプール90が前側から後側に押圧されると、スプリング91が圧縮され、スプール90のうち後側の端部94とインナースリーブ80の仕切壁83の外周に設けられた段差面89とが当接する。これにより、スプール90の軸方向後側の位置(すなわち、スプール90の最大移動位置)が定められる。このスプール90の位置を、スプール90の最大移動位置またはフルストロークと呼ぶ。
【0051】
スプール90の径方向外側の外壁には、前側から順に、作動油排出溝95、前側シール部96、作動油供給溝97、後側シール部98が設けられている。作動油排出溝95、前側シール部96、作動油供給溝97、後側シール部98は、いずれもスプール90の周方向に亘り連続して設けられている。作動油排出溝95には、板厚方向に貫通する孔99が設けられている。前側シール部96と後側シール部98は、いずれもインナースリーブ80の径方向内側の内壁面と液密に摺接している。また、作動油供給溝97は、スプール90がゼロストローク(すなわち、初期位置)からフルストローク(すなわち、最大移動位置)に移動する間において、インナースリーブ80の貫通孔86と常に連通する位置に設けられている。そのため、オイルパン60から油圧ポンプ61によって汲み上げられた作動油は、カムシャフト8の作動油室62→インナースリーブ80の作動油供給室81→連通孔84→連通溝85→貫通孔86→作動油供給溝97の順に供給される。このような構成において、油圧制御弁3は、スプール90の軸方向の位置を変えることで、作動油供給溝97と遅角ポート710または進角ポート720とを連通させ、両油圧室40、41に供給する作動油および油圧を制御することが可能である。
【0052】
次に、油圧制御弁3による両油圧室40、41への作動油の供給、および、両油圧室40、41からの作動油の排出について説明する。
【0053】
図5は、上述したように、スプール90がゼロストローク(すなわち、初期位置)にある状態を示している。この状態で、遅角ポート710が作動油供給溝97に開口する開口面積が最大となり、且つ、進角ポート720が収容室82に開口する面積が最大となる。このとき、矢印INに示すように、オイルパン60から汲み上げられる作動油は、作動油供給溝97→遅角ポート710→遅角油路38を流れ、遅角油圧室41に供給される。一方、矢印OUTに示すように、進角油圧室40の作動油は、進角油路37→進角ポート720→収容室82→作動油排出溝95の孔99→ストッパリング76の穴78を流れ、オイルパン60へ排出される。
【0054】
図7は、上述したように、スプール90がフルストローク(すなわち、最大移動位置)にある状態を示している。この状態で、進角ポート720が作動油供給溝97に開口する開口面積が最大となり、且つ、遅角ポート710が作動油排出溝95を介して収容室82に開口する面積が最大となる。このとき、矢印INに示すように、オイルパン60から汲み上げられる作動油は、作動油供給溝97→進角ポート720→進角油路37を流れ、進角油圧室40に供給される。一方、矢印OUTに示すように、遅角油圧室41の作動油は、遅角油路38→遅角ポート710→収容室82→ストッパリング76の穴78を流れ、オイルパン60へ排出される。
【0055】
図8および
図9は、スプール90がゼロストロークとフルストロークとの間において、両油圧室40、41のどちらからも作動油が排出されない状態を示している。この状態で、バルブタイミング調整装置1のハウジング20とベーンロータ30との相対回転位相を保持することが可能である。このときの油圧制御弁3のスプール90の位置を、保持ストロークと呼ぶ。
【0056】
具体的には、
図8は、進角ポート720の後側の端部と後側シール部98の後側の端部とが一致している状態を示している。この状態で、進角ポート720は後側シール部98により閉じられている。そのため、進角油圧室40から作動油は殆ど排出されない。一方、遅角ポート710と作動油供給溝97とは連通している。そのため、矢印INに示すように、作動油供給溝97から遅角ポート710および遅角油路38を通り、遅角油圧室41に比較的少量の作動油および油圧が供給される。
【0057】
また、
図9は、遅角ポート710の前側の端部と前側シール部96の前側の端部とが一致している状態を示している。この状態で、遅角ポート710は前側シール部96により閉じられている。そのため、遅角油圧室41からの作動油は殆ど排出されない。一方、進角ポート720と作動油供給溝97とは連通している。そのため、矢印INに示すように、作動油供給溝97から進角ポート720および進角油路37を通り、進角油圧室40に比較的少量の作動油および油圧が供給される。このように、
図8から
図9に示した保持ストロークの状態において、両油圧室40、41から作動油は殆ど排出されず、言い換えれば、作動油の排出量は0または最小となっている。
【0058】
<電磁駆動部4の構成>
続いて、
図1に示すように、電磁駆動部4は、油圧制御弁3とは別部材で構成されたソレノイドアクチュエータであり、油圧制御弁3の前側に設けられている。電磁駆動部4は、本体部45および押圧ピン46を有している。本体部45は、図示しないソレノイドカバーに取り付けられている。押圧ピン46は、本体部45から油圧制御弁3側に突出している。押圧ピン46の先端は、スプール90の前側の端部93に当接、および、離間することが可能である。電磁駆動部4は、本体部45へ印加される電流量が大きくなるに従い、押圧ピン46がスプール90をスプリング91の付勢力に抗して後側に押圧する押圧力が大きくなる。スプール90の位置は、押圧ピン46からスプール90に印加される荷重と、スプリング91の付勢力とのバランスにより定まる。したがって、電磁駆動部4は、本体部45への電流の印加量に応じて、押圧ピン46を軸方向に往復移動させることで、スプール90の軸方向の位置を変化させることが可能である。ただし、電子制御装置5から電磁駆動部4への電流の印加量に対するスプール90の軸方向の位置変化の応答速度(すなわち、追従性)は、作動油の粘度によって変化することがある。
【0059】
<電子制御装置5の構成>
電子制御装置5(以下、「ECU」という)は、プロセッサ、メモリーを含むマイクロコンピュータとその周辺回路を備えており、メモリーに記憶された制御プログラムに基づいて、出力側に接続される電磁駆動部4等への通電を制御する。なお、ECUは、Electronic Control Unitの略である。ECUのメモリーは、非遷移的実体的記憶媒体である。ECUは、内燃機関6の運転状況等に応じて、電磁駆動部4に印加する電流を制御することで、バルブタイミング調整装置1の位相制御を行う。具体的には、ECUは、PWM制御により電磁駆動部4に印加する電流を制御する。なお、PWMは、Pulse Width Modulationの略である。
【0060】
図10のグラフを参照しつつ、ECUがPWM制御によりデューティ比を調整して電磁駆動部4に印加する電流値と、油圧制御弁3から両油圧室40、41に供給および排出される作動油の流量との関係などについて説明する。なお、
図10のグラフは、基本的な状態を示したものであり、バルブタイミング調整システムの各構成部材の製造公差、車両搭載状態、内燃機関6の回転数または油温などにより変化することがある。
【0061】
図10のグラフの横軸は、ECUのPWM制御によるデューティ比(すなわち、電流値)と、それに追従して動作するスプール90のストローク量を示している。デューティ比が0%のとき、スプール90はゼロストロークとなる。デューティ比が100%のとき、スプール90はフルストロークとなる。
【0062】
一方、
図10のグラフの縦軸は、油圧制御弁3の有する進角ポート720の開口面積および遅角ポート710の開口面積と、その油圧制御弁3から両油圧室40、41に供給および排出される作動油の流量を示している。なお、進角ポート720の開口面積および遅角ポート710の開口面積と、そこから両油圧室40、41に供給および排出される作動油の流量とはほぼ比例関係にある。具体的には、進角ポート720の開口面積が0のとき、進角油圧室40に供給または排出される作動油の流量は0または最小であり、進角ポート720の開口面積が大きくなるに従い、進角油圧室40に供給または排出される作動油の流量も大きくなる。遅角ポート710の開口面積が0のとき、遅角油圧室41に供給または排出される作動油の流量は0または最小であり、遅角ポート710の開口面積が大きくなるに従い、遅角油圧室41に供給または排出される作動油の流量も大きくなる。
【0063】
図10の実線RSは、遅角ポート710から遅角油圧室41に供給される作動油の流量を示し、破線ADは、進角油圧室40から進角ポート720を経由して排出される作動油の流量を示している。一方、実線ASは、進角ポート720から進角油圧室40に供給される作動油の流量を示し、破線RDは、遅角油圧室41から遅角ポート710を経由して排出される作動油の流量を示している。
【0064】
図10のグラフにおいて、デューティ比が0%、それに追従するスプール90がゼロストロークのとき、遅角ポート710から遅角油圧室41に供給される作動油の流量が最大となり、進角油圧室40から進角ポート720を経由して排出される作動油の流量も最大となる。なお、この状態は、
図5に示したものに相当する。このとき、バルブタイミング調整装置1は、ハウジング20に対してベーンロータ30が遅角側に位相制御される。
【0065】
図10のグラフにおいて、デューティ比が100%、それに追従するスプール90がフルストロークのとき、進角ポート720から進角油圧室40に供給される作動油の流量が最大となり、遅角油圧室41から遅角ポート710を経由して排出される作動油の流量も最大となる。この状態は、
図7に示したものに相当する。このとき、バルブタイミング調整装置1は、ハウジング20に対してベーンロータ30が進角側に位相制御される。
【0066】
図10のグラフにおいて、デューティ比がP%~Q%、スプール90が保持ストロークの範囲にあるとき、両油圧室40、41からの作動油の排出量は0または最小となる。詳細には、デューティ比がP%に追従するスプール90の状態は、
図8に示したものに相当する。このとき、進角油圧室40から作動油は殆ど排出されず、遅角油圧室41に比較的少量の作動油および油圧が供給される。一方、デューティ比がQ%に追従するスプール90の状態は、
図9に示したものに相当する。このとき、遅角油圧室41から作動油は殆ど排出されず、進角油圧室40に比較的少量の作動油および油圧が供給される。以下の説明では、ECUがデューティ比をP%~Q%として、スプール90を保持ストロークとする際の電流値を「保持電流値」と呼ぶ。
【0067】
このようにして、ECUは、デューティ比を変えて電磁駆動部4に印加する電流を制御することで、両油圧室40、41に供給および排出される作動油の流量を調整し、バルブタイミング調整装置1の位相制御を行うことが可能である。また、ECUは、バルブタイミング調整装置1の位相制御を開始する際に、両油圧室40、41と解除油圧室52に供給および排出される作動油の流量を制御し、位相ロック機構2を解除する(具体的には、ロックピン50を嵌合凹部51から抜け出させる)ことが可能である。
【0068】
<位相ロック機構2の解除時にECUが実行する通電制御>
続いて、本実施形態のバルブタイミング調整システムにおいて、位相ロック機構2の解除時にECUが実行する通電制御について説明するが、その前に、位相ロック機構2の解除時における課題について説明しておく。
【0069】
位相ロック機構2に片圧ピン機構を採用したバルブタイミング調整システムでは、ベーンロータ30を最遅角位相から進角側に位相制御を行うシステム起動時において、位相ロック機構2を解除し、ベーンロータ30を目標位相に迅速に到達させることが求められる。しかしながら、バルブタイミング調整システムは、低温環境下にて作動油が高粘度になる場合、または、作動油に高粘度油種が用いられる場合、次のような問題が生じることがある。すなわち、作動油が高粘度になると、流体抵抗が大きくなることで、油圧制御弁3のスプール90が動きにくくなる。具体的には、
図5に示したように、最遅角位相制御時に位相ロック機構がロックした状態では、ECUの通電制御においてデューティ比が0%、スプール90はゼロストロークとなり、スプール90の前側の端部93がストッパリング76に当接している。その状態から、スプール90を後側に動かそうとすると、それと逆向きの力であるリンキング力がスプール90とストッパリング76に作用する。ここで、リンキング力とは、流体内で接触している物体が離れようとするとき、接触部の隙間の圧力が低下することで、物体の進行方向と逆方向に発生する力である。
【0070】
一般に、円形接触部のリンキング力Flは、作動油の粘性係数をμ、物体の移動速度をV、2つの物体間のクリアランスをh、物体の半径をR、2つの物体の接触面積をπR2とすると、次の式2により表される。
Fl=(3/2π)・(μV/h3)・(πR2)2 ・・・(式2)
【0071】
上記式2から、スプール90とストッパリング76との接触箇所に付着している作動油の粘性係数μが大きくなると、それに比例してリンキング力も増加することがわかる。そのため、作動油が高粘度になると、スプール90が動き出しにくくなる。さらに、作動油が高粘度になると、スプール90の径方向外側のシール部96、98とインナースリーブ80の径方向内側の内壁面との間の流体抵抗が大きくなることによっても、スプール90は動き出しにくくなる。これにより、バルブタイミング調整装置1の起動時間の遅れが増大してしまうといった課題がある。
【0072】
なお、バルブタイミング調整装置1の起動時間の遅れを改善するため、進角油圧室40の油圧を急峻に高めることも考えられる。すなわち、ECUの通電制御において、デューティ比を0から、ベーンロータ30を目標位相に到達させるための目標電流値に相当するデューティ比に瞬時に切り替え、そのデューティ比をベーンロータ30が目標位相に到達するまで維持する。これにより、進角油圧室40に作動油が供給され、その進角油圧室40から解除油圧室52にも作動油が供給されるので、ロックピン50が解除され、ベーンロータ30が目標位相に制御されるようにも思われる。しかし、そのようにすれば、
図4の矢印Fに示したように、ロックピン50が嵌合凹部51から抜け出す動作を始める前に進角油圧室40の油圧が急峻に増加することで、ベーンロータ30およびハウジング20からロックピン50に対して過大なトルクが作用する。そのため、ロックピン50の先端が嵌合凹部51の内壁に引っ掛かり、位相ロック機構2を解除できなくなってしまうことが懸念される。
【0073】
上記のような課題を解決すべく、本実施形態のバルブタイミング調整システムの備えるECUは、位相ロック機構2の解除時に、
図11に示す通電制御を実行するものである。ECUは、この通電制御により、所定のデューティ比による電流を電磁駆動部4に印加し、それにスプール90を追従させて動かすことで、バルブタイミング調整装置1の各油圧室に作動油および油圧を供給し、ロックピン50を嵌合凹部51から抜け出させる。
【0074】
図11のグラフにおいて、横軸は時間を示しており、縦軸は、ECUのPWM制御によるデューティ比および電流値を示している。
【0075】
図11の時刻T1で、ECUによる位相ロック機構2を解除するための通電制御が開始される。時刻T1から時刻T2の間、ECUは、電磁駆動部4へ電流を所定の電流値(例えば、デューティ比100%)で所定時間印加する初動制御を実行する。この初動制御により、作動油が高粘度であっても、スプール90を初期位置から確実に動かし、スプールを摺動しやすい状態に変えることが可能である。すなわち、通電制御の開始時にデューティ比を瞬間的に大きくすることで、スプール90とストッパリング76との接触箇所に発生するリンキング力や、インナースリーブ80の内壁とシール部96、98との間の流体抵抗に抗して、スプール90をストッパリング76から瞬時に引き離すことが可能である。なお、初動制御を実行する際の「所定の電流値」は、作動油が高粘度であってもスプール90を初期位置から移動できるものであればよく、例えば保持電流値よりも大きい電流値であり、好ましくはデューティ比100~95%、より好ましくはデューティ比100%である。また、初動制御の所定時間は、好ましくは50~100msである。
【0076】
続いて、時刻T2から時刻T3の間、ECUは、初動制御で印加した電流値よりも小さく且つ0より大きい電流値から、次第に電流値を増加する徐変制御を実行する。なお、本明細書において、「0より大きい電流値」とは0mAより大きい電流値、または、デューティ比0%(例えば、電流値0mA~100mAの間の所定の値)より大きい電流値をいう。この徐変制御により、ロックピン50を嵌合凹部51から抜け出させることが可能である。すなわち、油圧制御弁3から進角油圧室40への作動油の油圧および供給量を徐々に増やすことで、ベーンロータ30およびハウジング20からロックピン50に作用するトルクが過大になる前に、解除油圧室52の油圧を高めてロックピン50を嵌合凹部51から抜け出させることが可能である。これにより、ロックピン50の先端が嵌合凹部51の内壁に引っ掛かってロック解除不能となるといった不具合を防ぐことができる。なお、時刻T2から時刻T3における徐変制御の電流の傾きは、例えば、1A/sec程度が好ましい。
【0077】
時刻T2から時刻T3の徐変制御の途中でロックピン50は嵌合凹部51から抜け出す。具体的には、徐変制御の途中で解除油圧室52に供給される油圧がピン解除圧以上となり、さらに、進角油圧室40および遅角油圧室41からベーンロータ30に作用する力と、ベーンロータ30に作用するカムトルクとのバランスが釣り合ったときに、ロックピン50は嵌合凹部51から抜け出す。
【0078】
上述したように、時刻T2において、徐変制御を開始する際の電流値(以下、「徐変開始電流値」という)は、初動制御で印加した電流値よりも小さく、且つ、0より大きい電流値である。詳細には、徐変開始電流値は、保持電流値の範囲内の所定の電流値とされる。或いは、徐変開始電流値は、保持電流値より小さく、且つ、0より大きい範囲の所定の電流値とされる。具体的には、徐変開始電流値は、デューティ比が20~50%の間の所定の電流値が好ましい。また、デューティ比100%=1000mAと設定されている場合、徐変開始電流値は、200mA~500mAの間の所定の電流値が好ましい。
【0079】
徐変開始電流値を保持電流値の範囲内の所定の電流値とすることで、徐変制御が実行される際に、遅角油圧室41に油圧が急峻に供給される領域、すなわち位相ロック機構2の解除に不要な領域が除かれる。そのため、ロックピン50の先端が嵌合凹部51の内壁に引っ掛かることを防ぐと共に、位相ロック機構2の解除にかかる時間を短くできる。すなわち、バルブタイミング調整装置1の起動時間を短くできる。
【0080】
ところで、上述したように
図10を参照して説明した保持電流値は、バルブタイミング調整システムの各構成部材の製造公差、車両搭載状態、内燃機関6の回転数または油温などにより変動が生じることがある。それに対し、徐変開始電流値を保持電流値より小さく、且つ、0より大きい範囲の所定の電流値とすることで、保持電流値に変動が生じた場合でも、徐変制御中に保持電流値の範囲を必ず通過させることができる。これにより、保持電流値の変動に関わらず、位相ロック機構2を解除できる可能性を高めることができる。
【0081】
また、作動油の温度が高いときなど作動油が低粘度の場合、作動油が高粘度のときと比べて、初動制御を実行した際のスプール90の移動量が大きくなることがある。そのような場合であっても、徐変開始電流値を保持電流値より小さく、且つ、0より大きい範囲の所定の電流値とすることで、徐変制御の開始時にスプール90をゼロストローク側に大きく引き戻し、徐変制御中に保持電流値の範囲を必ず通過させることができる。これにより、作動油が高粘度状態から低粘度状態に亘り、位相ロック機構2を解除できる可能性を高めることができる。
【0082】
なお、時刻T3において、徐変制御を終了する際の電流値は、目標電流値とされている。なお、目標電流値は、ベーンロータ30を進角側に相対回転させ、ベーンロータ30を目標位相に到達させるための電流値であるので、保持電流値よりも大きい電流値である。したがって、徐変制御を終了する際の電流値を目標電流値とすることで、徐変制御中の制御電流値を保持電流値の範囲の上限値まで必ず通過させた後、目標電流値の印加によりベーンロータ30を目標位相に短時間で到達させることができる。なお、図示は省略するが、ECUは、ベーンロータ30が目標位相に到達した後、制御電流値を再び保持電流値とする。これにより、ベーンロータ30は目標位相で保持される。
【0083】
(第1~第3比較例)
ここで、上述した第1実施形態のバルブタイミング調整システムと比較するため、第1~第3比較例のバルブタイミング調整システムに関し、それぞれのECUが位相ロック機構2の解除時に実行する通電制御について説明する。なお、第1比較例は、本件の出願人が創作した制御方法であり従来技術ではない。また、第2比較例は、上述した特許文献1に記載のものと同一の制御方法である。第3比較例は、従来の一般的な制御方法である。
【0084】
(第1比較例)
第1比較例のECUは、位相ロック機構2の解除時に、
図12に示す通電制御を実行する。なお、
図12では、第1比較例のECUが実行する通電制御を実線で示し、第1実施形態で説明した通電制御を二点鎖線で示している。
【0085】
図12の時刻T1で、第1比較例のECUによる位相ロック機構2を解除するための通電制御が開始される。第1比較例のECUは、
図12の時刻T1から時刻T2の間、電磁駆動部4へ電流を所定の電流値(例えば、デューティ比100%)で所定時間印加する初動制御を実行する。続いて、時刻T2から時刻T4の間、ECUは、デューティ比0%(例えば、電流値0mA~100mAの間の所定の値)から次第に電流値を増加する徐変制御を実行する。
【0086】
すなわち、第1比較例のECUは、徐変開始電流値をデューティ比0%としている点が、第1実施形態の制御と異なっている。この場合、徐変制御が実行されている時間が、第1実施形態の制御に比べて長くなる。具体的には、
図12に両矢印Wで示した時刻T2~時刻T2aまでの時間が、第1実施形態で説明した制御方法と比べて長い時間、すなわち無駄な時間となっている。なお、時刻T2~時刻T2aまでの時間は、解除油圧室52に連通していない遅角油圧室41に油圧が急峻に供給される領域であり、言い換えれば、位相ロック機構2の解除に不要な領域である。したがって、第1比較例は、第1実施形態に比べて、位相ロック状態から位相制御を実行する際の起動時間が長くなり、起動性が悪化している。
【0087】
(第2比較例)
第2比較例のECUは、位相ロック機構2の解除時に、
図13A~
図13Cに示す通電制御を実行する。
図13Aは、ECUが電磁駆動部4へ印加する電流値を示している。
図13Bは、解除油圧室52に連通する進角油圧室40に供給される油圧を示している。
図13Cは、ロックピン50の動きを示している。
【0088】
図13A~
図13Cの時刻T11で、第2比較例のECUによる位相ロック機構2を解除するための通電制御が開始される。
図13Aに示すように、第2比較例のECUは、
図13Aの時刻T11から時刻T13の間、第1電流値から第2電流値に向けて電流値を次第に増加する徐変制御を実行する。なお、上述した特許文献1の記載では、第1電流値と第2電流値の間に「最もロック解除されやすい油圧状態を実現する電流値」が存在するものとされている。なお、第2比較例では、第1実施形態で説明した初動制御が行われていない。
【0089】
図13Bにおいて、破線P1は、作動油の温度が高いまたは油種粘度が低いなど、作動油の粘度が低いときに、解除油圧室52に連通する進角油圧室40に供給される油圧を示している。それに対し、
図13Bにおいて、実線P2は、作動油の温度が低いまたは油種粘度が高いなど、作動油の粘度が高いときに、解除油圧室52に連通する進角油圧室40に供給される油圧を示している。なお、一般に、作動油の粘度が低いときは、油圧制御弁3のスプール90が動き出しやすい状態となる。それに対し、作動油の粘度が高いときは、油圧制御弁3のスプール90が動き出しにくい状態となる。
【0090】
図13Bの破線P1に示すように、作動油の粘度が低いとき、時刻T11から進角油圧室40に供給される油圧が徐々に増加している。すなわち、作動油の粘度が低いときには、徐変制御の実行開始と共に、油圧制御弁3のスプール90が動作を開始し、それに伴って、進角油圧室40の油圧も徐々に増加する。
【0091】
それに対し、
図13Bの実線P2に示すように、作動油の粘度が高いとき、時刻T11から所定時間遅れた時刻T12から進角油圧室40の油圧が急峻に増加している。すなわち、作動油の粘度が高いときは、油圧制御弁3のスプール90が動き出しにくいので、徐変制御の実行開始から所定時間遅れて油圧制御弁3のスプール90が動作を開始する。ここで、
図13Aに示したように、油圧制御弁3のスプール90が動作を開始する時刻T12では、徐変制御が開始された時刻T11の電流値(すなわち、第1電流値)よりも高い電流値Xとなっている。そのため、油圧制御弁3のスプール90は、動作を開始した後、その電流値Xに相当する位置に瞬時に移動するため、進角油圧室40の油圧は、時刻T12から急峻に増加する。
【0092】
図13Cにおいて、破線M1は、作動油の粘度が低いときのロックピン50の動きを示している。それに対し、
図13Cにおいて、実線M2は、作動油の粘度が高いときのロックピン50の動きを示している。
【0093】
図13Cの破線M1に示すように、作動油の粘度が低いとき、時刻T11から所定時間経過した時刻T11a以降、ロックピン50は嵌合凹部51から抜け出す。すなわち、ロックピン50は、進角油圧室40から解除油圧室52に供給される油圧がピン解除圧以上となり、さらに、進角油圧室40および遅角油圧室41からベーンロータ30に作用する力と、ベーンロータ30に作用するカムトルクとのバランスが釣り合ったときに、嵌合凹部51から抜け出す。
【0094】
それに対し、
図13Cの実線M2に示すように、作動油の粘度が高いとき、ロックピン50は解除不可となる。すなわち、時刻T12から進角油圧室40の油圧が急峻に増加するため、ロックピン50が嵌合凹部51から抜け出す前に、ベーンロータ30およびハウジング20からロックピン50に対して過大なトルクが作用する。そのため、ロックピン50の先端が嵌合凹部51の内壁に引っ掛かり、位相ロック機構2が解除できなくなる。したがって、第2比較例は、作動油の粘度が高いとき、ロックピン50が解除できなくなる恐れがある。
【0095】
(第3比較例)
第3比較例のECUは、位相ロック機構2の解除時に、
図14に示す通電制御を実行する。
図14の時刻T21で、第3比較例のECUによる位相ロック機構2を解除するための通電制御が開始される。第3比較例のECUは、時刻T21で、デューティ比を0から、ベーンロータ30を進角側に位相制御するための目標電流値に相当するデューティ比に瞬時に切り替え、それ以降、ベーンロータ30がその目標位相に到達するまでそのデューティ比を維持する。しかし、その場合、時刻T21から進角油圧室40の油圧が急峻に増加するため、ロックピン50が嵌合凹部51から抜け出す前に、ベーンロータ30およびハウジング20からロックピン50に対して過大なトルクが作用する。そのため、ロックピン50の先端が嵌合凹部51の内壁に引っ掛かり、位相ロック機構2が解除できなくなる。したがって、第3比較例も、ロックピン50が解除できなくなる恐れがある。
【0096】
<第1実施形態の作用効果>
上述した第1~第3比較例と比較して、第1実施形態のバルブタイミング調整システムは、次の作用効果を奏するものである。
【0097】
(1)第1実施形態では、ECUは、位相ロック機構2の解除時に、まず、電磁駆動部4へ電流を所定の電流値で所定時間印加してスプール90を初期位置(すなわち、ゼロストローク)から移動させる初動制御を実行する。その後、ECUは、初動制御で印加した電流値よりも小さく且つ0より大きい電流値から、次第に電流値を増加しつつ電磁駆動部4へ電流を印加することで、ロックピン50を嵌合凹部51から抜け出させる徐変制御を実行する。
【0098】
これによれば、初動制御により、電磁駆動部4からスプール90に大きな荷重を瞬間的に印加することで、作動油が高粘度であっても、スプール90を初期位置から確実に動かし、スプール90を摺動しやすい状態に変えることが可能である。そのため、初動制御に続く徐変制御により、電流印加量の増加に追従するようにスプール90を徐々に移動させることができ、位相ロック機構2を確実に解除できる。
【0099】
さらに、徐変制御では、電流値を0(すなわち、0mAまたはデューティ比0%)から増加してゆくのではなく、電流値を0より大きい電流値から次第に増加してゆくことで、遅角油圧室41に油圧が急峻に供給される領域、すなわち位相ロック機構2の解除に不要な領域が除かれる。そのため、ロックピン50の先端が嵌合凹部51の内壁に引っ掛かることを防ぐと共に、位相ロック機構2の解除にかかる時間を短くできる。したがって、このバルブタイミング調整システムは、例えば作動油の粘度が高い場合であっても、バルブタイミング調整装置1を位相ロック状態から短時間でロック解除して位相制御を行うことが可能となり、起動性を向上できる。
【0100】
(2)第1実施形態では、位相ロック機構2として、いわゆる片圧ピン機構が用いられる。すなわち、位相ロック機構2の有する解除油圧室52は、進角油圧室40と油路を介して連通しており、遅角油圧室41と油路を介して連通していない構成である。
これによれば、片圧ピン機構は、位相ロック機構2を解除する際に、進角油圧室40または遅角油圧室41の一方に油圧が急峻に供給されると、ロックピン50の先端が嵌合凹部51の内壁に引っ掛かる可能性が、両圧ピン機構よりも大きいという特性を有する。それに対し、本実施形態のバルブタイミング調整システムは、位相ロック機構2として片圧ピン機構を用いた場合でも、起動性を向上できる。
【0101】
なお、第1実施形態の変形例として、図示は省略するが、位相ロック機構2として両圧ピン機構を用いた場合でも、第1実施形態で説明した制御方法により、位相ロック状態からの位相制御を実行する際の起動性を向上できることは言うまでもない。
【0102】
(3)第1実施形態では、初動制御のデューティ比は、100~95%の間の所定の値である。これによれば、初動制御において、電磁駆動部4からスプール90に瞬間的に印加する荷重を大きくできる。そのため、作動油が高粘度であっても、スプール90をゼロストローク(すなわち、初期位置)から動かし、スプール90を摺動しやすい状態にすることができる。
【0103】
(4)第1実施形態では、徐変開始電流値は、保持電流値の範囲内の所定の電流値である。
これによれば、徐変制御を開始する際、遅角油圧室41に油圧が急峻に供給される領域、すなわち位相ロック機構2の解除に不要な領域が除かれる。そのため、ロックピン50の先端が嵌合凹部51の内壁に引っ掛かることを防ぐと共に、位相ロック機構2の解除にかかる時間を短くできる。
【0104】
(5)或いは、第1実施形態では、徐変開始電流値は、保持電流値より小さく0より大きい範囲の所定の電流値である。
これによれば、バルブタイミング調整システムの各構成部材の製造公差、車両搭載状態、内燃機関6の回転数または油温などにより保持電流値に変動が生じた場合でも、徐変制御中に保持電流値の範囲を必ず通過させることができる。これにより、保持電流値の変動に関わらず、位相ロック機構2を解除できる可能性を高めることができる。
【0105】
また、作動油の温度が高くなるなど作動油が低粘度の場合、作動油が高粘度のときと比べて、初動制御によるスプール90の移動量が大きくなることがある。そのような場合であっても、徐変開始電流値を保持電流値よりも小さい所定の電流値とすることで、徐変制御の開始時にスプール90をゼロストローク側に大きく引き戻し、徐変制御中に保持電流値の範囲を必ず通過させることができる。これにより、作動油が高粘度状態から低粘度状態に亘り、位相ロック機構2を解除できる可能性を高めることができる。
【0106】
(6)或いは、第1実施形態では、徐変開始電流値は、デューティ比が20~50%の間の所定の電流値である。
これによれば、従来、バルブタイミング調整システムは、各構成部材の製造公差、車両搭載状態、内燃機関6の回転数または油温などに応じて変動する保持電流値を学習する機能を備えていることがある。それに対し、本実施形態では、徐変制御を開始する際のデューティ比を予め定めておくことで、バルブタイミング調整システムが備える保持電流値の学習機能を用いることなく、徐変制御を実行できる。
なお、徐変開始電流値をデューティ比が20~50%の間の所定の電流値とすることで、一般的なバルブタイミング調整システムにおいて、徐変制御中に保持電流値の範囲を必ず通過させることができる。
【0107】
(7)或いは、第1実施形態では、徐変開始電流値は、200mA~500mAの間の所定の電流値である。
これによれば、従来、バルブタイミング調整システムは、各構成部材の製造公差、車両搭載状態、内燃機関6の回転数または油温などに応じて変動する保持電流値を学習する機能を備えていることがある。それに対し、本実施形態では、徐変開始電流値を予め定めておくことで、バルブタイミング調整システムが備える保持電流値の学習機能を用いることなく、徐変制御を実行できる。
なお、徐変開始電流値を200mA~500mAとすることで、一般的なバルブタイミング調整システムにおいて、徐変制御中に保持電流値の範囲を必ず通過させることができる。
【0108】
(8)或いは、第1実施形態では、徐変開始電流値は、保持電流値の範囲内の所定の電流値、または、保持電流値より小さく0より大きい範囲の所定の電流値である。これによれば、徐変開始電流値をそのように設定することで、ロックピン50の先端が嵌合凹部51の内壁に引っ掛かることを防ぐと共に、位相ロック機構2の解除にかかる時間を短くできる。
一方、徐変制御を終了する際の電流値は、保持電流値より大きい目標電流値である。これによれば、徐変制御中の制御電流値を保持電流値の範囲の上限値まで必ず通過させた後、目標電流値の印加によりベーンロータ30を目標位相に短時間で到達させることができる。
【0109】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1実施形態に対して、位相ロック機構2の解除時にECUが実行する通電制御を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0110】
第2実施形態のバルブタイミング調整システムの備えるECUは、位相ロック機構2の解除時に、通電制御の方法を作動油の粘度に応じて変更するものである。以下、
図15のフローチャートを参照しつつ、第2実施形態のECUが位相ロック機構2の解除時に実行する制御処理について説明する。
【0111】
図15のステップS10で、ECUは、作動油の粘度を検出する。作動油の粘度は、作動油の油種により検出してもよく、作動油の温度またはエンジン冷却水の温度などから推定してもよく、或いは、それらの組み合わせなどから検出してもよい。
【0112】
次に、ステップS11で、ECUは、作動油の粘度と、ECUに記憶された所定の粘度閾値とを比較する。所定の粘度閾値は、その粘度の作動油によりスプール90が初期状態(すなわち、ストローク0)から動き出し難く、初動制御を実行する必要があるか否かについて実験などにより予め設定され、ECUに記憶されているものである。ECUは、作動油の粘度が所定の粘度閾値より高いと判断した場合(すなわち、ステップS11の判定YES)、処理をステップS12に進める。
【0113】
ステップS12で、ECUは、位相ロック機構2の解除時において、初動制御と、それに続く徐変制御を実行する。このときの通電制御は、第1実施形態で
図11のグラフを参照して説明したものと実質的に同一である。
【0114】
なお、第2実施形態では、初動制御を実行する時間(すなわち、
図11に示す時刻T1から時刻T2までの時間)を、作動油の粘度に応じて変更してもよい。具体的には、ECUは、作動油の粘度が高くなるに従い、初動制御を実行する時間を長くする。なお、初動制御を実行する時間は、例えば50~300msの範囲内で設定される。これにより、初動制御の時間を必要以上に長くすること無く、且つ、スプール90を初期位置から確実に動かすことが可能となる。
【0115】
一方、上述したステップS11で、ECUは、作動油の粘度が所定の粘度閾値より低いと判断した場合(すなわち、ステップS11の判定NO)、処理をステップS13に進める。
【0116】
ステップS13で、ECUは、位相ロック機構2の解除時において、初動制御を実行することなく、徐変制御を実行する。このときの通電制御を、
図16のグラフに示す。
【0117】
図16の時刻T31にて、ECUによる位相ロック機構2を解除するための通電制御が開始される。時刻T31から時刻T32の間、ECUは、0より大きい所定の電流値(すなわち、徐変開始電流値)から次第に電流値を増加する徐変制御を実行する。なお、徐変開始電流値は、第1実施形態で説明したものと同一である。この徐変制御では、電流印加量の増加に追従してスプール90が移動するので、位相ロック機構2を解除できる。
【0118】
以上説明した第2実施形態のバルブタイミング調整システムは、次の作用効果を奏する。
(1)第2実施形態では、ECUは、作動油の粘度が所定の粘度閾値より高い場合、初動制御および徐変制御を実行し、作動油の粘度が所定の粘度閾値より低い場合、初動制御を実行することなく、徐変制御を実行する。
これによれば、作動油の粘度が低い場合には、スプール90はスリーブ70の内側で動き出しにくいといった状態にならず、電流印加量の増加に追従して動作するようになる。そのため、作動油の粘度が所定の粘度閾値より低い場合には、初動制御を実行せずに、徐変制御を実行することで、位相ロック機構2の解除にかかる時間を短くできる。
【0119】
(2)第2実施形態では、ECUは、作動油の粘度が高くなるに従い、初動制御を実行する時間を長くする。
これによれば、作動油の粘度によってスプール90やロックピン50の動き出しやすさが異なるので、作動油の粘度に応じて初動制御の時間を変えることで、位相ロック機構2の解除にかかる時間を必要以上に長くすること無く、且つ、位相ロック機構2を確実に解除できる。
【0120】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。第3実施形態も、第1実施形態等に対して、位相ロック機構2の解除時にECUが実行する通電制御を変更したものであり、その他については第1実施形態等と同様であるため、第1実施形態等と異なる部分についてのみ説明する。
【0121】
第3実施形態のバルブタイミング調整システムの備えるECUは、位相ロック機構2の解除時に、作動油の温度に応じて通電制御の方法を変更するものである。一般に、作動油の温度と作動油の粘度とは相関関係を有するからである。以下、
図17のフローチャートを参照しつつ、第3実施形態のECUが位相ロック機構2の解除時に実行する制御処理について説明する。
【0122】
図17のステップS20で、ECUは、作動油の温度を検出する。作動油の温度は、作動油の温度を直接測定してもよく、或いは、エンジン冷却水の温度から推定してもよい。
【0123】
次に、ステップS21で、ECUは、作動油の温度と、ECUに記憶された所定の温度閾値とを比較する。所定の温度閾値は、その温度の作動油によりスプール90が初期状態(すなわち、ストローク0)から動き出し難く、初動制御を実行する必要があるか否かについて実験などにより予め設定され、ECUに記憶されているものである。なお、所定の温度閾値として、10~20℃の範囲の所定の温度とすることが例示される。ECUは、作動油の温度が所定の温度閾値より低いと判断した場合(すなわち、ステップS21の判定YES)、処理をステップS22に進める。
【0124】
ステップS22で、ECUは、位相ロック機構2の解除時において、初動制御と、それに続く徐変制御を実行する。このときの通電制御は、第1実施形態で、
図11のグラフを参照して説明したものと実質的に同一である。
【0125】
なお、第3実施形態では、初動制御を実行する時間(すなわち、
図11に示す時刻T1から時刻T2までの時間)を、作動油の温度に応じて変更してもよい。具体的には、ECUは、作動油の温度が低くなるに従い、初動制御を実行する時間を長くする。なお、初動制御を実行する時間は、例えば50~300msの範囲内で設定される。これにより、初動制御の時間を必要以上に長くすること無く、且つ、スプール90を初期位置から確実に動かすことが可能となる。
【0126】
一方、上述したステップS21で、ECUは、作動油の温度が所定の温度閾値より高いと判断した場合(すなわち、ステップS21の判定NO)、処理をステップS23に進める。
【0127】
ステップS23で、ECUは、位相ロック機構2の解除時において、初動制御を実行することなく、徐変制御を実行する。このときの通電制御は、第2実施形態で、
図16のグラフを参照して説明したものと実質的に同一である。
【0128】
以上説明した第3実施形態のバルブタイミング調整システムは、次の作用効果を奏する。
(1)第3実施形態では、ECUは、作動油の温度が所定の温度閾値より低い場合、初動制御および徐変制御を実行し、作動油の温度が所定の温度閾値より高い場合、初動制御を実行することなく、徐変制御を実行する。
これによれば、作動油の温度が高い場合には、スプール90はスリーブ70の内側で動き出しにくいといった状態にならず、電流印加量の増加に追従して動作するようになる。そのため、作動油の温度が所定の温度閾値より高い場合には、初動制御を実行せずに、徐変制御を実行することで、位相ロック機構2の解除にかかる時間を短くできる。
【0129】
(2)第3実施形態では、ECUは、作動油の温度が低くなるに従い、初動制御を実行する時間を長くする。
これによれば、一般に作動油の温度によって作動油の粘度が変わり、その作動油の粘度によってスプール90やロックピン50の動き出しやすさが異なるものとなる。そのため、作動油の温度に応じて初動制御の時間を変えることで、位相ロック機構2の解除にかかる時間を必要以上に長くすること無く、且つ、位相ロック機構2を確実に解除できる。
【0130】
(第4実施形態)
第4実施形態について説明する。第4実施形態も、第1実施形態等に対して、位相ロック機構2の解除時にECUが実行する通電制御を変更したものであり、その他については第1実施形態等と同様であるため、第1実施形態等と異なる部分についてのみ説明する。
【0131】
図18のグラフを参照しつつ、第4実施形態のECUが位相ロック機構2の解除時に実行する通電制御について説明する。なお、
図18のグラフは、1回目と2回目の徐変制御ではロックピン50が解除されず、3回目の徐変制御でロックピン50が解除された場合の制御を例示したものである。
【0132】
図18の時刻T41にて、ECUによる位相ロック機構2を解除するための通電制御が開始される。時刻T41から時刻T42の間、ECUは、初動制御を実行する。
【0133】
続いて、時刻T42から時刻T43の間、ECUは、1回目の徐変制御を実行する。そして、ECUは、1回目の徐変制御の途中でロックピン50が解除されたか否かを判定する。この判定は、例えば、クランクシャフト7の回転角を検出するクランク角センサから入力される信号と、カムシャフト8の回転角を検出するカム角センサから入力される信号とを比較し、ハウジング20に対してベーンロータ30が相対回転を開始したか否かにより判定される。
【0134】
ECUは、1回目の徐変制御により、ロックピン50が解除されていないと判定した場合、時刻T43から時刻T44の間、2回目の徐変制御を実行する。そして、ECUは、2回目の徐変制御の途中でロックピン50が解除されたか否かを判定する。
【0135】
ECUは、2回目の徐変制御により、ロックピン50が解除されていないと判定した場合、時刻T44から時刻T45の間、3回目の徐変制御を実行する。そして、ECUは、3回目の徐変制御の途中でロックピン50が解除されたか否かを判定する。ECUは、3回目の徐変制御により、ロックピン50が解除されたことを判定した場合、ベーンロータ30を目標とする位相に回転させる。
【0136】
以上説明した第4実施形態では、ECUは、初動制御を実行した後、ロックピン50の先端が嵌合凹部51から抜け出すまで徐変制御を繰り返し実行する。これにより、位相ロック機構2を確実に解除でき、ベーンロータ30とハウジング20を所定の目標位相に確実に相対回転させることができる。
【0137】
なお、上記第4実施形態の説明では、
図18のグラフを参照しつつ、3回目の徐変制御でロックピン50が解除された場合の制御を説明したが、徐変制御を実行する回数は、それに限るものではない。ECUは、各回の徐変制御の途中でロックピン50が解除されたか否かを判定し、ロックピン50が解除されたことを判定した場合、その後の徐変制御を実行すること無く、ベーンロータ30を目標とする位相に回転させる制御に移行するものである。
【0138】
(他の実施形態)
(1)上記各実施形態では、バルブタイミング調整装置1は、吸気バルブ14を駆動するカムシャフト8の端部に設けられて吸気バルブ14の開閉タイミングを調整するものについて説明したが、これに限るものではない。バルブタイミング調整装置1は、排気バルブ15を駆動するカムシャフト9の端部に設けられて排気バルブ15の開閉タイミングを調整するものであってもよい。その場合、ロックピン50の先端と嵌合凹部51とが嵌合する嵌合位相は、ハウジング20に対してベーンロータ30が最進角にある最進角位相となる。位相ロック機構2に片圧ピン機構が用いられた場合、その解除油圧室52は、遅角油圧室41に油路を通じて連通する構成となる。さらに、油圧制御弁3は、デューティ比0%のゼロストローク(すなわち、初期位置)で進角油圧室40に作動油および油圧を供給すると共に、遅角油圧室41から作動油を排出する構成となる。また、デューティ比100%のフルストローク(すなわち、最大移動位置)で遅角油圧室41に油圧を供給すると共に、進角油圧室40から作動油を排出する構成となる。このように、バルブタイミング調整システムは、吸気バルブ14用または排気バルブ15用のどちらにも適用できる。
【0139】
(2)上記各実施形態では、油圧制御弁3は、バルブタイミング調整装置1の中央部に配置される構成としたが、これに限るものではない。油圧制御弁3は、バルブタイミング調整装置1とは別の位置に配置してもよい。
【0140】
(3)上記各実施形態では、油圧制御弁3と電磁駆動部4とを別部材として構成としたが、これに限るものではない。油圧制御弁3と電磁駆動部4とは一体に構成してもよい。
【0141】
(4)上記各実施形態では、内燃機関6のトルク伝達系統では、駆動軸に固定されるギヤ10と従動軸に固定されるギヤ11、12とに巻き掛けられるチェーン13により、駆動軸と従動軸とのトルク伝達を行うものについて説明したが、これに限るものではない。駆動軸に固定されるプーリーと従動軸に固定されるプーリーとに巻き掛けられるベルトにより、駆動軸と従動軸とのトルク伝達を行う構成としてもよい。
【0142】
(5)上記各実施形態では、位相ロック機構2に片圧ピン機構が採用されたものについて説明したが、これに限るものではない。位相ロック機構2は、ロックピン50の周囲に複数の解除油圧室が形成され、その一方の解除油圧室が油路を経由して進角油圧室40に連通し、他方の解除油圧室が油路を経由して遅角油圧室41に連通する、いわゆる両圧ピン機構を採用してもよい。
【0143】
(6)上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。例えば、上記第2実施形態と第3実施形態とを組み合わせてもよい。その場合、ECUは、作動油の油種粘度が所定の油種粘度閾値より高く、且つ、作動油の温度が所定の温度閾値より低い場合、初動制御および徐変制御を実行する。一方、ECUは、作動油の油種粘度が所定の油種粘度閾値より低く、または、作動油の温度が所定の温度閾値より高い場合、初動制御を実行することなく、徐変制御を実行する。
【0144】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0145】
また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。
【0146】
また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0147】
また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。
【0148】
本発明に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本発明に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本発明に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0149】
1:バルブタイミング調整装置、2:位相ロック機構、3:油圧制御弁、4:電磁駆動部、5:電子制御装置(ECU)、6:内燃機関、14:吸気バルブ、15:排気バルブ、20:ハウジング、30:ベーンロータ、39:収容穴、40:進角油圧室、41:遅角油圧室、50:ロックピン、51:嵌合凹部、52:解除油圧室、70:スリーブ、90:スプール